説明

無線通信システム

【課題】周波数ホッピング方式を用いる広帯域無線通信システムにおいて、AGC処理を複雑にすることなく、かつスループットが低下することを防ぐ。
【解決手段】第1の無線通信装置は、複数の周波数帯域で構成された高周波無線信号を第2の無線通信装置から受信し、複数の周波数帯域の各々について、アンテナ部への入力から受信側RF部からの出力までの電力減衰量を予め測定して記憶した記憶手段を備え、第2の無線通信装置との接続動作を行う時に、記憶手段に記憶した電力減衰量を第2の無線通信装置に送信し、第2の無線通信装置は、第1の無線通信装置に送信するための信号を、第1の無線通信装置から送信された電力減衰量に基づいてアンテナ部からの送信電力を制御する送信電力制御手段を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数ホッピング方式を用いて無線通信を行う無線通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、近距離無線通信では、パソコンやAV機器間において、映像や音の高品質な通信や大量のデータのやりとりが実現できるとして、ワイヤレスUSBが注目されている。このワイヤレスUSBには、無線通信方式として、WiMedia Allianceが推進するUWB(Ultra Wideband)方式が採用されている。UWBは低消費電力でありながら、現在普及しているIEEE802.11a/b/gをはるかに上回る高速通信が可能であることから、オフィスでの効率化、生活の利便性向上のために、様々な機器に搭載されていくことが期待されている。
図6乃至8は、UWB方式における周波数帯域の使用方式を示す図である。
UWBでは図6のように、3.1〜10.6GHz帯域を、1バンド528MHz帯域で14バンドに分割し、低域のバンドからバンド#1、バンド#2と番号が付けられている。また、3バンドずつをグループ化して#1から#5までのチャネルと呼ぶ。さらにチャネル#1で通信を行う場合には、ホッピング・パターンによって、図7のように1つのバンドのみで通信を行ったり、図8のように3つのバンドを用いて通信を行ったりすることができる。ホッピング・パターンが3つのバンドを用いる時には、1バンド528MHz帯域のバンドを3つ用いるため、1584MHzと非常に広帯域を用いて通信を行うことになる。
このようにUWBは非常に広い周波数帯域を用いて通信を行う。しかし、アンテナやフィルタ、バラン、RFチップ(LNA(Low Noise Amplifier)やMixerなど)などの部品の周波数特性を広帯域にわたって平坦に設計することは非常に難しい。そのため通信に用いる帯域の周波数特性が平坦であることの方が珍しい。
【0003】
図9は、チャネル#1の周波数特性の一例を示す図である。バンド#2と比較して、バンド#1では2dB電力の減衰が少なく、逆にバンド#3では2.2dB多く電力が減衰する。このように平坦でない周波数特性を持つ帯域で周波数ホッピングを行う時には、AGC(Auto Gain Control)処理が常に問題となる。UWBではパケット同期信号として21シンボル与えられているが、この間にAGCだけでなくパケットの検出やシンボル位置同期の確立等を行わなければならない。
さらに1シンボルが312.5nsecと短いため、AGCに使用できる時間が非常に短い。そのため、3つのバンドそれぞれでAGC処理を行うことは、困難である。そこで一般的には、3つのバンドのシンボルを平均することでゲインを決定する。とは言え、3つのバンドの平均でAGC処理を行ってしまうと、図9のように周波数特性が平坦でない時に問題がおこる。
つまり図9において3つのバンドの平均でAGC処理を行い、ゲインを設定したとすると、バンド#2ではほぼ適切なゲイン設定ができエラーなく受信できるが、バンド#3ではより減衰されるため、受信した信号波形の振幅が小さくなる。UWBではその帯域幅の広さからADCのサンプリング周波数が高くなり、高分解能のADCを使用することは一般的に難しく、分解能の低いADCを用いることが多いため、振幅が小さくなるとすぐに、量子化誤差の影響を受け、エラーが起こりやすくなる。
バンド#1ではさらに深刻で信号波形が十分に減衰されないため、ADCで波形がクリップし、歪んでしまうため、よりエラーが起こりやすくなり、スループットが低下するという問題がおこる。
【0004】
かかる問題を解決するために、特許文献1に開示されている技術では、あらかじめ測定されたノイズレベルを用いて送信電力を制御している。この技術を用いることで、それぞれのバンドにおけるSNR(SN比)は一定となるが、送信電力がノイズによって異なるため、当然受信した信号波形の振幅がそれぞれのバンドで異なってしまう。
そのため、バンドごとにAGC処理を行うことが必須となるが、前述したとおり処理が困難なため、適切なゲインを設定できず、量子化誤差や歪みによってエラーが起こりやすくなり、スループットが低下するという問題があった。
また、特許文献2に開示されている技術では、ホッピング周波数に応じた空間伝播損失特性に応じて送信電力を制御している。しかし、この技術では送信機の各バンドにおける周波数特性の補正やある程度の空間伝播損失は補正されるが、受信機の周波数特性が全く予測つかないために、やはり適切なゲインを設定できず、量子化誤差や歪みによってエラーが起こりやすくなり、スループットが低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2005−198094公報
【特許文献2】特開2005−269202公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はかかる課題に鑑み、周波数ホッピング方式を用いる広帯域無線通信システムにおいて、あらかじめ測定された無線通信装置の各バンドにおける電力減衰量により送信電力を制御し、各バンド間による周波数特性を平坦にすることで、AGC処理を複雑にすることなく、かつスループットが低下することを防ぐことができる無線通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、複数の周波数帯域を用いて、受信側の第1の無線通信装置と送信側の第2の無線通信装置との間でデータの送受信を行う周波数ホッピング方式を用いる無線通信システムであって、前記第1の無線通信装置は、複数の周波数帯域で構成された高周波無線信号を前記第2の無線通信装置から受信する受信側アンテナ部と、受信した前記高周波無線信号の周波数変換処理を行う受信側RF部と、複数の周波数帯域の各々について、前記受信側アンテナ部への入力から前記受信側RF部からの出力までの電力減衰量を予め測定して記憶した第1の記憶手段と、を備え、前記第2の無線通信装置との接続動作を行う時に、前記第1の記憶手段に記憶した前記電力減衰量を前記第2の無線通信装置に送信し、前記第2の無線通信装置は、前記第1の無線通信装置に送信するための信号を複数の周波数帯域で構成された高周波無線信号に変換処理を行う送信側RF部と、変換された前記高周波無線信号を前記第1の無線通信装置に送信する送信側アンテナ部と、前記第1の無線通信装置から送信された前記電力減衰量に基づいて前記送信側アンテナ部からの送信電力を制御する送信電力制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記第2の無線通信装置は、複数の周波数帯域の各々について、前記送信側RF部への入力から前記送信側アンテナ部からの出力までの電力減衰量を予め測定して記憶した第2の記憶手段を備え、前記送信電力制御手段は、前記第1の無線通信装置から送信された電力減衰量及び前記第2の記憶手段に記憶した前記電力減衰量に基づいて、前記送信側アンテナ部からの送信電力を制御する請求項1に記載の無線通信システムを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、前記接続動作においては、データの送受信とは異なる通信経路を用いる請求項1又は2に記載の無線通信システムを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、周波数ホッピング方式を用いる広帯域無線通信システムにおいて、あらかじめ測定された無線通信装置の各バンドにおける電力減衰量により送信電力を制御し、各バンド間による周波数特性を平坦にすることで、AGC処理を複雑にすることなく、かつスループットが低下するのを防ぐことができる無線通信システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態につき説明する。
図1は、本発明の無線通信装置を適用した典型的な通信システムの構成図である。
例えば、受信側としての第1の無線通信装置を内蔵したプリンタA、送信側としての第2の無線通信装置を内蔵したパソコン(Personal Computer)Bから構成されており、両者は、例えばワイヤレスUSBによって無線通信を行うものとする。
図2は、本発明の無線通信システムの詳細な構成例を示す図であり、(a)は第1の無線通信装置の構成を示す図、(b)は第2の無線通信装置の構成を示す図である。
なお、ここでは、本発明に関する機能部のみを示しており、受信や送信に関するその他の機能部については省略してある。
図2(a)において、第1の無線通信装置は、第2の無線通信装置と複数の周波数帯域で構成される高周波無線信号を送受信する受信用アンテナ1及び送信用アンテナ2、周波数変換処理を行ったRF信号を送信用アンテナ2に送信し、かつ受信用アンテナ1からのRF信号を受信して周波数変換処理を行うRF部(受信側RF部)3、RF部3からの信号をデジタル変換するADC(Analog Digital Converter)部4、変換された受信データを復調する復調部6と送信データを変調する変調部7からなるベースバンド部5、接続動作制御、また送信電力制御部9による送信電力制御を行うプロトコル制御部8、送信データをアナログ信号に変換するDAC(Digital Analog Converter)部10、ROM(第1の記憶装置)11によって構成される。
なお送信電力制御部9はプロトコル制御部8だけでなくベースバンド部5にあっても良い。またアンテナ1、2は、送受信で共用しても良い。
【0010】
図2(b)において、第2の無線通信装置は、第1の無線通信装置と複数の周波数で構成される高周波無線信号を送受信する受信用アンテナ21及び送信用アンテナ22、周波数変換処理を行ったRF信号を送信用アンテナ22に送信し、かつ受信用アンテナ21からのRF信号を受信して周波数変換処理を行うRF部(受信側RF部)23、RF部23からの信号をデジタル変換するADC(Analog Digital Converter)部24、変換された受信データを復調する復調部26と送信データを変調する変調部27からなるベースバンド部25、接続動作制御、また送信電力制御部29による送信電力制御を行うプロトコル制御部28、送信データをアナログ信号に変換するDAC(Digital Analog Converter)部30によって構成される。
送信電力制御部29はプロトコル制御部28だけでなくベースバンド部25にあっても良い。またアンテナ21、22は、送受信で共用しても良い。
製造テスト時など通信を行う前に、信号発生機といった計測装置を用い、図2のRXチェーン部(アンテナ入力からRF部出力まで)における周波数帯域ごと(バンドごと)の電力減衰量を測定しておく。このとき単一トーン信号を用いて測定しても、UWB信号を用いて測定しても良い。測定した電力減衰量はROM11に記憶させておく。
図3は、各チャネルにおいて最も低域のバンドを基準とした時の電力減衰量を表で示した図である。
3つのバンドを用いた通信では、1つのバンドのみを用いた通信よりも10LOG10(3)dB送信電力を大きく送信できることから、基準値よりも10LOG10(3)dB以上送信電力が大きくならないようにリミッタをかけても良い。また、ROMに記憶させる電力減衰量は、図3のように相対値であっても、絶対値であってもかまわない。
【0011】
図4は、本発明の無線通信システムにおける接続手順の一部を示した図である。
図4に示すように、第1の無線通信装置(プリンタA)と第2の無線通信装置(パソコンB)間でUSB無線通信を行う場合、識別、認証、許可の接続動作を行ったあとで暗号化のされたデータ通信が行われるが、識別、認証の後に、第1の無線通信装置で測定され、ROM11に記憶されていたRXチェーン部における電力減衰量を第2の無線通信装置に伝送している。
その後、第2の無線通信装置では、接続動作中に受信した第1の無線通信装置における電力減衰量により、各バンドにおける送信電力を制御しながら、データの送信を行う。例えば、図3の電力減衰量を用いてチャネル#1で送信を行う場合、バンド#2はバンド#1よりも2dB電力が減衰されるので、バンド#2を送信する時にはバンド#1よりも2dB送信電力を大きくする。
このように、あらかじめ測定された電力減衰量を用いて送信電力を制御することで、受信機で生じる周波数特性のバンド間の違いを補正し、周波数特性を平坦にすることができる。また、一般的には接続性確保のため最低のデータ・レートで送信される接続動作中に電力減衰量を送信機に送るため、各バンド間の周波数特性の違いによる影響を最小限に抑えることができ、かつデータ送信中にスループットが低下することを防ぐことができる。
なお、図4の例において、電力減衰量は、識別、認証後に伝送されているが、もちろん接続動作のどの手順で伝送しても良い。また、電力減衰量の送信は特に手順として持たなくても、認証や許可のフレームの最後に付加してもかまわない。この接続手順は一般的には接続性確保のため最低のデータ・レートで行われる。そのため各バンド間の周波数の違いによる影響に強く、エラーが起こりにくい。
【0012】
次に、本発明の無線通信システムの別の実施形態を説明する。
図5は本実施形態における第2の無線通信装置の構成例を示す図である。
図5に示すように、第2の無線通信装置は、図2(a)の構成に加えて、ROM(第2の記憶装置)31を備えている。
製造テスト時など通信を行う前に、信号発生機といった計測装置を用い、図5におけるTXチェーン部(RF部入力からアンテナ出力まで)の電力減衰量を測定しておき、第1の無線通信装置におけるRXチェーン部の電力減衰量と同様にROM41に記憶させておく。図4のように接続動作中に受信した第1の無線通信装置における電力減衰量に加えて、さらにROM41に記憶させてあった第2の無線通信装置のTXチェーンにおける電力減衰量に基づいて、送信電力制御部29により各バンドにおける送信電力を制御しながら、データの送信を行う。
このように、第1の無線通信装置(受信側)で生じる周波数特性のバンド間の違いに加え、第2の無線通信装置(送信側)で生じる周波数特性のバンド間の違いも補正することで、周波数特性を平坦にすることができるため、よりスループットが低下することを防ぐことができる。
【0013】
ところで、ワイヤレスUSBでは、接続を確立するためには、コネクション・コンテキスト(CC)と呼ばれる情報をホストとデバイスで共有しなければならない。そのため接続するためには、CCをあらかじめホストからデバイスに転送する必要がある。この転送方式のうち、最もセキュリティが高い方式は、CCの転送をUWB無線通信を用いず、USBケーブルなどを用いて行う。すなわち図4の手順の前に行うCC転送の時に、第1の無線通信装置で測定され、ROM11に記憶されていたRXチェーン部における電力減衰量を第2の無線通信装置にUSBケーブルで送信する。その後の接続動作やデータ送信は、前述したように電力減衰量により各バンドにおける送信電力を制御しながら行う。
このように、接続動作にケーブルといった、通常のデータ送信と異なる通信経路を用いることで、接続動作中に各バンド間の周波数特性の違いによるエラーが起こることを防ぐことができ、接続動作中に送信した電力減衰量により、データ送信中もスループットが低下することを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の無線通装置を適用した典型的な通信システムの構成図。
【図2】本発明の無線通信システムの詳細な構成例を示す図。
【図3】各チャネルにおいて最も低域のバンドを基準とした時の電力減衰量を表で示した図。
【図4】本発明の無線通信システムにおける接続手順の一部を示した図。
【図5】本実施形態における第2の無線通信装置の構成例を示す図。
【図6】UWBにおける周波数帯域の使用方式(その1)を示す図。
【図7】UWBにおける周波数帯域の使用方式(その2)を示す図。
【図8】UWBにおける周波数帯域の使用方式(その3)を示す図
【図9】チャネル#1の周波数特性の一例を示す図。
【符号の説明】
【0015】
1、21 受信用アンテナ部、22 送信用アンテナ、3、23 RF部、4、23 ADC部、5、25 ベースバンド部、6、26 復調部、7、27変調部、8、28 プロトコル制御部、9、29 送信電力制御部、10、30 DAC部、31 ROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の周波数帯域を用いて、受信側の第1の無線通信装置と送信側の第2の無線通信装置との間でデータの送受信を行う周波数ホッピング方式を用いる無線通信システムであって、
前記第1の無線通信装置は、
複数の周波数帯域で構成された高周波無線信号を前記第2の無線通信装置から受信する受信側アンテナ部と、
受信した前記高周波無線信号の周波数変換処理を行う受信側RF部と、
複数の周波数帯域の各々について、前記受信側アンテナ部への入力から、前記受信側RF部からの出力までの電力減衰量を予め測定して記憶した第1の記憶手段と、を備え、
前記第2の無線通信装置との接続動作を行う時に、前記第1の記憶手段に記憶した前記電力減衰量を前記第2の無線通信装置に送信し、
前記第2の無線通信装置は、
前記第1の無線通信装置に送信するための信号を複数の周波数帯域で構成された高周波無線信号に変換処理を行う送信側RF部と、
変換された前記高周波無線信号を前記第1の無線通信装置に送信する送信側アンテナ部と、
前記第1の無線通信装置から送信された前記電力減衰量に基づいて前記送信側アンテナ部からの送信電力を制御する送信電力制御手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信システム。
【請求項2】
前記第2の無線通信装置は、
複数の周波数帯域の各々について、前記送信側RF部への入力から前記送信側アンテナ部からの出力までの電力減衰量を予め測定して記憶した第2の記憶手段を備え、
前記送信電力制御手段は、前記第1の無線通信装置から送信された電力減衰量及び前記第2の記憶手段に記憶した前記電力減衰量に基づいて、前記送信側アンテナ部からの送信電力を制御することを特徴とする請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記接続動作においては、データの送受信とは異なる通信経路を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載の無線通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−303156(P2009−303156A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−158247(P2008−158247)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】