説明

無線通信装置及び無線通信方法並びにコンピュータプログラム

【課題】受信信号のBER劣化を自動的に検出し、受信電界レベル落ち込みに対して、任意のマージンを持たせて、変調方式を迅速且つ適切に切り替えることができるようにすること。
【解決手段】受信信号D1に対して雑音発生部17で発生させたノイズを印加した信号を復調する復調処理部2(13)の出力である受信参照用データD5(参照用信号)と、受信信号D1に対してノイズを印加しないで復調処理する復調処理部1(12)の出力である受信データD2(復調信号)とを比較部14にて比較することで、受信信号のBER劣化を自動的に検出し、受信電界レベル落ち込みに対して、比較部14から、送信変調方式判定部15に対して、任意のマージンを持たせて変調方式を迅速かつ適切に切り替えるように指示する情報C1を送出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信装置及び無線通信方法並びにコンピュータプログラムに係り、特に、受信信号のBER劣化を自動的に検出し、受信電界レベル落ち込みに対して任意のマージンを持たせて変調方式を切り替える無線通信装置及び無線通信方法並びにコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信システムとして、2地点間を無線回線で接続し、データ伝送を行う無線通信システムは、広く用いられている。
このようなシステムの公知例として、例えば参考文献1では、回線品質に応じて変調方式を変化させて効率的にデータを伝送する無線通信システムとして、適応変調(Adaptive Modulation Radio:AMR)方式を採用した無線通信システムを開示している。
ここで、上記の適応変調とは、無線通信におけるスループットを向上させるための技術の1つとして公知の技術である。この適応変調では、変調方式毎に閾値(以下、品質閾値)が設けられており、無線基地局(無線通信装置)は、無線端末(無線通信相手)との無線通信における無線品質と、品質閾値との比較結果に応じて、変調方式を切り替える。
【0003】
例えば、無線品質が良好であるときには、1シンボル当たりに伝送可能なビット数である変調効率が高く、伝送誤りに対する耐性である誤り耐性が低い変調方式に切り替える。
この適応変調の技術により、BER(Bit Error Rate)を一定値以下にすることが求められるようなシステムでは、事前にBER特性と呼ばれる特性を測定し、この特性を基に変調方式の切り替え閾値を設定することでAMRを実現する。
しかしながら、この適応変調の手法では、伝送される信号に対して直接的にBER特性を観測することが、時間的な制約などから、非常に困難となる。
【0004】
このため、公知技術として、比較的容易に観測可能なCNR(Carrier to
Noise Power Ratio)や、受信信号点分布などの受信信号の品質を定量的に観測できる指標より、伝送中の信号のBERを推定し、BER推定値が閾値よりも劣化するような指標値で変調方式の切り替えを行う手法も考案されている。
上記の手法では、BERとCNRとの間の特性を事前に測定し、この特性を用いて、主信号に一定以下のBERを確保するための、変調方式切り替えの閾値を設定する。
しかし、この場合には、変調方式や符号化率、帯域幅などのBER特性に関わる項目で分類された、項目全てに対してBER特性を測定するための時間が膨大になるという課題がある。
【0005】
また、例えば特許文献2では、現在、受信している信号のBERを観測して、閾値と比較を行うことで変調方式の切り替えを行う技術を開示している。
このため、フェージング環境(例えば、受信電界レベルが100dB/secで現象するような環境)では、事前にBER特性を測定する必要が有る。
さらに、フェージング環境下では、変調方式の切り替え判定から、実際に変調方式が切り替わり、変調方式が切り替わった信号が受信されるまでの時間に、受信電界品質は劣化するものである。よって、この劣化量に対しても、任意のBERを確保するためには、受信電界品質に対してBER特性を観測し、実際の切り替わりまでに減衰する量を考慮して閾値設定を行う必要が有る。
【0006】
また、例えば特許文献3には、CNRがRSSI(受信信号の強度)の平均値であることを利用し、変動の早いRSSIを利用して任意の閾値で変調方式の切り替えを実現する技術を開示している。
しかし、このような変調方式の切り替えには、任意のBERにおけるRSSI値を事前に観測する必要が有る。
【0007】
さらに、例えば特許文献4には、特許文献1と同様に、適応変調方式を採用した無線通信システムを開示している。より具体的には、複数の通信チャネルの内、干渉源(例えば無線基地局1Bおよび無線端末2B)からの干渉レベルが干渉レベル閾値よりも小さい通信チャネルを無線通信相手(例えば無線端末2A)に割り当て、適応変調を用いた無線通信を前記無線通信相手と実行する無線通信装置(例えば無線基地局1A)であって、前記干渉レベル閾値が変化したか否かを判定し、前記干渉レベル閾値の変化に応じて、前記適応変調に用いられる品質閾値を変更する品質閾値変更部と、前記無線通信における無線品質と前記品質閾値との比較結果に応じて、前記無線通信に適用する変調方式を切り替える変調方式切り替え部とを備え、前記変調方式切り替え部は、前記無線品質が前記品質閾値を下回った場合に、前記変調方式よりも誤り耐性が高い変調方式に切り替え、前記品質閾値変更部は、前記干渉レベル閾値が上昇した場合に、前記干渉レベル閾値が上昇する前よりも前記品質閾値を高くすることを要旨とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−056499号公報
【特許文献2】特開2004−048637号公報
【特許文献3】特許第4216678号公報
【特許文献4】特開2010−130189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上記背景技術で述べた公知の無線通信装置にあっては、例えば、前述の特許文献1に記載の技術の場合、前述のとおり、AMRの変調方式切り替えにCNRのような、受信電界品質を定量的に表現できる指標と、BERとの相関関係を事前に観測し、特定のBERを満たすような指標を閾値として、変調方式の切り替えを行っている。
但し、この参考文献1に代表されるようなAMRを採用する無線伝送装置では、変調方式、帯域幅、符号化率等、BER特性に影響を与える全ての項目の組み合わせについて、事前にBER特性を測定し、変調方式切り替えの為の閾値を設定する必要が有る。
しかしながら、前述のBERの測定には、測定結果の信頼性を確保するために、十分な時間で観測する必要があり、特に伝送速度の低い伝送装置においては、このBERの観測に膨大な時間を要するという問題点が有った。
【0010】
上記の問題点を解消するための前述の公知の手法では、比較的容易に観測可能な、CNRや、受信信号点分布などの受信信号の品質を定量的に観測できる指標より、伝送中の信号のBERを推定し、BER推定値が閾値よりも劣化するような指標値で変調方式の切り替えを行っている。この手法では、BERとCNRとの間の特性を事前に測定し、この特性を用いて、主信号に一定以下のBERを確保するための、変調方式切り替えの閾値を設定するものであるが、この場合、前述のとおり、変調方式や符号化率、帯域幅などのBER特性に関わる項目で分類された、項目全てに対してBER特性を測定するための時間が膨大になるという問題点が有る。
【0011】
また、例えば、前述の特許文献2に記載の技術の場合、前述のとおり、現在、受信している信号のBERを観測して、閾値と比較を行うことで変調方式の切り替えを行うものである。
但し、この参考文献2に代表されるような無線伝送装置では、フェージング環境下(例えば、受信電界レベルが100dB/secで現象するような環境下)では、事前にBER特性を測定する必要が有る。
これに対し、本発明では、フェージング環境下であっても、事前に特性を測定することなく、変調方式を切り替える機能を提供している。
【0012】
なお、フェージング環境下では、変調方式の切り替え判定から、実際に変調方式が切り替わり、変調方式が切り替わった信号が受信されるまでの時間に、受信電界品質は劣化するので、このような劣化における劣化量に対しても、任意のBERを確保するためには、受信電界品質に対してBER特性を観測し、実際の切り替わりまでに減衰する量を考慮して閾値設定を行う必要が有る。
これに対し、本発明では、雑音印加信号に対して、変調方式の切り替わりまでに減衰する減推量分に相当する分量の雑音を印加することで、変調方式切り替え後のBERを事前の評価無しで確保することを可能にしている。
【0013】
また、例えば、前述の特許文献3に記載の技術の場合、前述のとおり、CNRがRSSIの平均値であることを利用し、変動の早いRSSIを利用して任意の閾値で変調方式の切り替えを実現しているが、この変調方式の切り替えには、任意のBERにおけるRSSI値を事前に観測する必要が有るという問題点が有る。
よって、この特許文献3に記載の技術は、本発明とは手段及び効果共に異なるものである。即ち、本発明では、雑音印加信号と印加しない信号とを、同様の処理で復調した上で両者を比較することで、事前評価無しに変調方式を切り替えている。
【0014】
さらに、例えば、前述の特許文献4に記載の技術の場合、前述の特許文献1の問題点と同様の問題点を有する。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、受信信号に対して意図的にノイズを印加した参照用信号と、ノイズを印加しない受信信号を復調処理して成る復調信号とを比較することを可能にして、受信信号のBER劣化を自動的に検出し、受信電界レベル落ち込みに対して、任意のマージンを持たせて、変調方式を迅速かつ適切に切り替えることができる無線通信装置及び無線通信方法並びにコンピュータプログラムを提供することを目的としている。
本発明の他の目的は、前述の比較に基づいて変調方式を切り替えることで、任意の受信電界レベルの悪化に対して、事前評価無しに、適切なBERで、変調方式を切り替えることができる無線通信装置及び無線通信方法並びにコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明に係る無線通信装置は、
送信データを変調して伝播路に送出する変調処理手段と、
ノイズ信号を生成する雑音発生手段と、
アンテナで受信した受信信号を復調処理して受信データを得る第1の復調処理手段と、
前記受信信号に対して前記ノイズ信号を印加した信号を復調処理して参照用信号を生成する第2の復調処理手段と、
前記受信データと前記参照用信号とを比較し、両者間の所定のデータ長の範囲におけるビット単位のハミング距離を計量してエラーカウント数を得ると共に、前記エラーカウント数を前記所定のデータ長を構成するビットの全個数で除した商として与えられるBER(Bit Error Rate)を算出し、さらに、前記BERが所定の閾値よりも大きい場合は、BER特性を改善し得る変調方式への切り替えを指示する信号を出力する比較手段と、
前記変調方式の切下げを指示する信号を受けて、BER特性を改善し得る変調方法を判定して決定すると共に、該変調方法を示す情報を前記変調処理手段に送出する送信変調方式判定手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る無線通信方法は、
送信データを変調して伝播路に送出する変調処理ステップと、
ノイズ信号を生成する雑音発生ステップと、
アンテナで受信した受信信号を復調処理して受信データを得る第1の復調処理ステップと、
前記受信信号に対して前記ノイズ信号を印加した信号を復調処理して参照用信号を生成する第2の復調処理ステップと、
前記受信データと前記参照用信号とを比較し、両者間の所定のデータ長の範囲におけるビット単位のハミング距離を計量してエラーカウント数を得ると共に、前記エラーカウント数を前記所定のデータ長を構成するビットの全個数で除した商として与えられるBER(Bit Error Rate)を算出し、さらに、前記BERが所定の閾値よりも大きい場合は、BER特性を改善し得る変調方式への切り替えを指示する信号を出力する比較ステップと、
前記変調方式の切下げを指示する信号を受けて、BER特性を改善し得る変調方法を判定して決定すると共に、該変調方法を示す情報を前記変調処理手段に送出する送信変調方式判定ステップと、
を有することを特徴とする。
【0018】
さらに、本発明に係るコンピュータプログラムは、
送信データを変調して伝播路に送出する変調処理手段と、ノイズ信号を生成する雑音発生手段と、アンテナで受信した受信信号を復調処理して受信データを得る第1の復調処理手段と、前記受信信号に対して前記ノイズ信号を印加した信号を復調処理して参照用信号を生成する第2の復調処理手段と、を備えた無線受信装置を制御するためのコンピュータプログラムであって、
前記受信データと前記参照用信号とを比較し、両者間の所定のデータ長の範囲におけるビット単位のハミング距離を計量してエラーカウント数を得るステップと、
前記エラーカウント数を前記所定のデータ長を構成するビットの全個数で除した商として与えられるBER(Bit Error Rate)を算出するステップと、
前記BERが所定の閾値よりも大きい場合は、BER特性を改善し得る変調方式への切り替えを指示する信号を出力するステップと、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の無線通信装置によれば、AMRを採用したことで受信電界レベルの任意の落ち込みが発生する状況下であっても特定のBERを満たしたい場合には、事前にBER特性を測定することなく、迅速かつ適切な変調方式の切り替えが可能となる効果が有る。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る無線通信装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】図1の受信データD2と、受信参照用データD5との特定の変調方式におけるCNR対BER特性をイメージとして示すグラフ図である。
【図3】本発明の実施形態に係る無線通信装置の比較部14の動作手順を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の無線通信装置は、受信信号に対して、意図的にノイズを印加した参照用信号と、ノイズを印加しない受信信号を復調処理して成る復調信号(データ)とを比較することで、受信信号のBER劣化を自動的に検出し、受信電界レベルの落ち込みに対して、任意のマージンを持たせて、変調方式を迅速かつ適切に切り替えるものである。
また、このような切り替え判定方法に従って、変調方式を切り替えることで、任意の受信電界レベルの悪化に対して、事前評価無しに、適切なBERで、変調方式を切り替えることを可能にしている。
【0022】
以下、本発明の無線通信装置及び無線通信方法並びにコンピュータプログラムの実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る無線通信装置の全体構成を示す構成図である。
同図において、本実施形態の無線通信装置は、アンテナ部11と、復調処理部1(12)と、復調処理部2(13)と、比較部14と、送信変調方式判定部15と、変調処理部16と、雑音発生部17と、を備えて構成される。
以下、本実施形態の無線通信装置が有する各構成要素について説明する。
アンテナ部11は、伝播路から受信信号D1を受信し、該受信信号を復調処理部1(12)及び復調処理部2(13)と、雑音発生部17に出力し、また、変調処理部16からの送信信号D4を伝播路へと送出する。
復調処理部1(12)と復調処理部2(13)とは同一の機能を有し、いずれも入力信号からデジタルデータを抽出して外部に出力する。
【0023】
復調処理部1(12)からの復調データは、受信データD2として、比較部14及び装置外部へ出力される。
復調処理部2(13)からは、アンテナ11から受信される受信信号D1に対して、後述の雑音発生部17からの雑音を印加した信号に復調処理が行われ、その結果を受信参照用データD5として比較部14へ出力する。
本発明では、上記の各復調処理部の具体的な方法までは規定しないが、本発明で必要な復調処理部の機能としては、受信信号D1に対しての周波数変換や、受信シンボルからの復調処理、通信路符号語に対する復号化等の一般的な機能が含まれる。
【0024】
比較部14では、復調処理部1(12)からの受信データD2と、復調処理部2(13)からの受信参照用データD5とを比較し、それぞれのビットデータに差分が有る場合は、エラーカウンタ(図示は省略)をカウントアップする。
特定の期間に渡ってそれぞれのビットデータを比較し、前記カウントアップを行い、カウントアップ終了後に、該観測期間中で比較された全ビット数で、エラーカウント数を除算し、BERを算出する。
【0025】
なお、前述の、「特定の期間に渡ってそれぞれのビットデータを比較し、前記カウントアップを行う」ということの、より詳細な意味は、受信データD2と受信参照用データD5との両者について、所定のブロック長を有する1ブロックのデータ長の範囲でビット単位のハミング距離を算出するということである。よって、前記のエラーカウント数は、このハミング距離を示す値となる。
このようにして算出されたBERが、予めシステムとして設定されている閾値よりも大きくなった場合には、送信変調方式判定部15に対して、変調方式切下げ情報C1を送出する。
【0026】
送信変調方式判定部15では、この変調方式切下げ情報C1に従い、現在使用中の変調方式より、BER特性を改善し得る変調方式への切り替え、若しくはBER特性を改善し得る符号語を判定して決定し、この変調方式または符号語を送信変調方式情報C2として、変調処理部16へ送出する。
変調処理部16では、送信データD3を、送信変調方式情報C2に従って変調し、送信信号D4をアンテナ部11へ送出する。
なお、変調処理部16は、復調処理部12と同様に、符号化、変調、周波数変換等の一連の処理を行い、入力されるデジタルデータから、伝播路へ送出する信号を生成する。
雑音発生部17は、受信信号D1のCNRを測定し、受信信号のCNR値が任意の値分だけ小さくなるような雑音N1を発生させると共に、該雑音N1を復調処理部2(13)へ入力される受信信号に印加する。
【0027】
以下、本発明の実施形態に係る無線通信装置の動作を説明する。
図1に示す無線通信装置は、対向局にも同一構成の装置を配備し通信を行うが、その構成は同一であるため、記載を省略する。
また、図1に示す無線通信装置は、TDD(Time Division Duplex)を想定したAMRを用いる伝送装置であるが、FDD(Frequency Division Duplex)、OFDM(Orthgonal Frequency Division Multiplexing)などの場合については、AMRの実現方法がTDDの場合と異なる。
しかしながら、本発明で採用するAMRの切り替え判定方法は、各多重化方式においても同一の原理であるため、これら伝送装置への適用も可能である。
【0028】
前述のとおり、図1において、アンテナ部11からの受信信号D1は、復調処理部1(12)にて復調処理され、受信データD2として比較部14と、装置外部へ出力される。
また、復調処理部2(13)への入力信号は、雑音発生部11で発生された雑音が受信信号D1に印加されたものとなる。この雑音は、受信信号D1のCNRを、任意の値だけ劣化させるような雑音である。
復調処理部2(13)では、この受信信号D1のCNRに上記の雑音が印加された信号に対して、復調処理部1(11)と同様の復調処理を施し、受信参照用データD5として比較部14へ出力する。
【0029】
図2は、図1の受信データD2と、受信参照用データD5との特定の変調方式におけるCNR対BER特性をイメージとして示すグラフ図である。
同図において、縦軸をBER値とし、横軸をCNR値とする。
この縦軸のBER値と、横軸のCNR値は、共に、対数表現の両対数グラフ上にとった値であり、横軸のCNR値は、雑音発生部17でノイズが印加される前のCNR値(即ち、受信信号D1のCNR値)を示す。
図2に示すグラフ図は、横軸方向では、横軸の値が大きくなるほど(即ち、右側にプロットするほど)受信CNR値が高くなる状態を示し、縦軸方向では、値が小さくなるほど(即ち、下方向へプロットするほど)BER値が小さくなること(即ち、受信データが送信データに対して、誤り難くなること)を示している。
【0030】
また、図2のグラフ図に示す主信号BER(S1)は、図1に示す受信データD2のBER特性を示し、参照用信号BER(S2)は、図1に示す受信参照用データD5のBER特性を示している。
図2の切り下がり後主信号BER(S3)は、受信データD2が後述の方法により、変調方式を低多値側へ切り替えられた際のBER特性を示したものである。
図2にも示すように、受信データD2のBER特性(図2に示す主信号BER:S1)に対して、受信参照用データD5のBER特性(図2に示す参照用信号BER:S2)は、雑音発生部17によるノイズ印加分だけ劣化する。
このため、図2のグラフ上で参照用信号BER(S2)は、主信号BER(S1)を、雑音発生部17でのCNR劣化分だけ右方向へシフトした特性となり、受信参照用データD5の方が、受信データD2と比較して、同一CNR値で誤り易くなることを示す。
図1に示す比較部14は、受信データD2と、受信参照用データD5とを、ビット単位で比較する。
【0031】
図3は、本発明の実施形態に係る無線通信装置の比較部14の動作手順を示すフローチャート図である。
同図において、符号Step1〜7は、処理ステップを示す。
本発明に係るコンピュータプログラムは、このStep1〜7の処理ステップを実行する。
以下、図1,2を参照しながら、図3に示すフローチャートを使用して、本実施形態に係る無線通信装置の比較部14の動作手順を説明する。
(Step1)
Step1では、比較部14が、受信データD2と受信参照用データD5とのビットデータを比較し、前記両者の受信データ間に差分が有る場合はStep2に進み、前記両者の受信データ間に差分が無い場合はStep3に移る。
【0032】
(Step2)
Step2では、比較部14が、前記両者の受信データ間に差分が有る場合として、エラーカウンタをカウントアップする。
なお、このビットデータの比較は、所定の一定ビット数を有するデータを1ブロックのデータとし、比較部14は、この1ブロック中の全ビットデータについて比較を行う。
(Step3)
Step3では、比較部14は、前記の比較されるビットデータが、前記1ブロック中の前記所定のビット数について行われたか否かを検証し、前記の比較されるビットデータが、前記1ブロック中の前記所定のビット数について行われた場合はStep4に進み、また、前記の比較されたビットデータが、前記1ブロック中の前記所定のビット数に満たない場合には、Step1に戻って比較を継続する。
【0033】
(Step4)
Step4では、比較部14は、前記所定の1ブロック中の前記所定の全ビットの比較が完了した時点で、エラーカウント数を、前記所定の1ブロック中の全ビット数で除算し、BER値を算出する。
(Step5)
Step5では、比較部14は、算出したBER値を予めシステムで定められている閾値と比較し、算出したBER値が前記閾値より大きい場合はStep6に進み、算出したBER値が前記閾値より大きくない場合はStep7に移る。
【0034】
(Step6)
Step6では、比較部14は、算出したBER値が前記閾値より大きい場合として、送信変調方式判定部15へ、変調方式切下げ情報C1を送出し、その後、Step7に移る。
(Step7)
Step7では、比較部14は、エラーカウンタを0クリアし、その後、Step7に戻って、再度、前記ブロック単位でのBER値の演算を開始する。
【0035】
ところで、比較部14でカウントされるエラー数は、受信データD2と受信参照用データD5との差分であるため、受信データD2、受信参照用データD5のいずれかのみが誤った場合にカウントされることになる。
このため、比較部14で観測されるBERは、厳密には受信参照用データD5自体のBERとは異なるものであるが、受信参照用信号にノイズが印加されている構成から、受信参照用データD5の誤り率は受信データD2の誤り率と比較して、非常に大きいものとなる。
よって、比較部14においては、受信データD2のBERは無視することができて、比較部14で算出されるBERは、受信参照用データD5自体のBERとして考えることができる。
送信変調方式判定部15では、Step6での変調方式切り下げ情報C1に従って、送信側の変調方式または符号化の強さを切り替えるような判定がなされる。
【0036】
より具体的には、例えば、変調多値数を小さくする情報や、または、符号語を強くする情報などの(一般にはBER特性を現在使用中の方式よりも改善し得るような方式を示す情報)を、送信変調方式情報C2として変調処理部16へ送出する判定がなされる。
変調処理部16では、この送信変調方式情報C2に従って、送信変調方式を切り替え、送信データD3を送信信号D4に変換してアンテナ部11へ送出する。
以下、具体例として、AMR(適応変調)によって、無線通信装置間で、受信データのBERが10^−3以下となることを保証する場合についての動作を説明するが、この場合、比較部14の前記閾値として、BER=10−3を設定するものとする。
【0037】
無線回線劣化により、受信CNR値が、図2に示す初期受信CNR値(P2)から、切り下がり、発動CNR値(P1)まで小さくなったとすると、比較部14は受信参照用データD5がBER=10−3相当であると判断し、変調方式切下げ情報C1を送信変調方式判定部15へ出力する。
送信変調方式判定部(15)では、変調方式切下げ情報(C1)に従って、現在使用中の変調方式よりもBER特性が改善するような変調方式を判断かつ決定し、これを送信変調方式情報C2として変調処理部16へ出力する。
【0038】
変調処理部16では、送信変調方式情報C2に従って、変調方式または、符号化率を切り替えた上で、送信信号D4を生成し、該信号をアンテナ部11へ送出する。
この変調方式の切り替えにより、対向局における、受信データD2のBER特性は、図2に示す主信号BER(S1)から、切り下がり後主信号BER(S3)の特性に切り替わる。
【0039】
以下、図2で示すBER特性曲線を用いて、変調方式が切り替わったことによる受信参照用データD5と、受信データD2とのBER特性の変化を説明する。
受信参照用データD5のBER(即ち参照用信号BER(S2))は、切り下がり発動CNR値P1においてBER=10−3であるが、主信号BER(S1)の方は切り下がり発動CNR値(P1)においてBER=10−3よりも小さい。
この場合、比較部14は、参照用信号BER(S2)が10−3相当であると判断し、送信変調方式判定部15を介して変調処理部16の変調方式を切り替えさせる。
この切り替えにより、受信データD2のBERは、主信号BER(S1)から、切り下がり後主信号BER(S3)へと切り替る。
【0040】
主信号BER(S1)と、切り下がり後主信号BER(S3)との、いずれのBER特性も、変調方式が切り替わる切り下がり発動CNR値(P1)においては、BER=10−3よりも小さいため、受信電界の劣化に対して、主信号BER=10−3以下で変調方式を切り替えることができる。
ところで、通常、このような変調方式の切り替えには、切り替え処理遅延や送受信間での伝播遅延により、一定時間の遅延が発生するため、変調方式の切り替えを判断した状態から、実際に変調方式が切り替わった信号が受信されるまでには、一定の時間が必要となる。
【0041】
仮に、200dB/secの受信電界レベルの落ち込みが発生する環境で、変調方式の切り替え時間に10msを要する場合、変調方式の判定から、切り替えまでに受信電界レベルは2dB減衰することとなる。
そこで、本発明では、受信電界レベル変動に対して、雑音発生部17でのノイズ(雑音)の印加レベルを、アンテナ11での受信CNR値に対して−2dBを加算するように設定することで、切り替え時間中に発生する伝送品質劣化を保障するのである。
このノイズの印加レベルを、(アンテナ11での受信CNR値−2dB)としたことで、図2に示す参照用信号BER(S2)特性は、主信号BER(S1)を2dB分右方向へシフトした特性となる。
【0042】
雑音発生部17で発生させたノイズの印加により、受信参照用データD5は、受信データD2と比較して、2dB大きいCNR値でもってBER=10−3に達し、切り下がり発動CNR値P1となる。
比較部14では、受信参照用データD5のBER=10−3を判断し、変調方式の切り下げを実施する。
比較部14の判定から、変調処理部で変調方式が切り替わり、対向側受信局で、変調方式が切り替わった信号を受信するまでの間に、2dBの受信電界レベルの劣化は生じるが、この2dBの無線伝送品質劣化により、受信データD2は、ようやくBER=10−3に到達し、変調方式切り替えCNR値P3を達成する。
【0043】
受信データD2のBERが10−3となった時点で、対向側受信局の変調方式は切り下がり、BER特性は切り下がり後主信号BER(S3)特性へと切り替わるため、受信データD2のBERが10−3以下となることを確保することができる。
本発明の実施形態に係る無線通信装置によれば、AMRを採用したことで受信電界レベルの任意の落ち込みが発生する状況下にあっても特定のBERを満たしたい場合には、比較部14におけるBERの閾値と、雑音発生部17によるCNR劣化量とを設定することで、比較部14からの変調方式切下げ情報C1に従って、変調方式を切り替えるため、事前にBER特性を測定することなく、迅速かつ適切な変調方式の切り替えが可能となる効果が有る。
【0044】
なお、本発明に係る無線通信装置の各構成要素の処理の少なくとも一部をコンピュータ制御により実行するものとし、かつ、上記処理を、図3のフローチャートで示した手順によりコンピュータに実行せしめるプログラムは、半導体メモリを始め、CD−ROMや磁気テープなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して配付してもよい。そして、少なくともマイクロコンピュータ、パーソナルコンピュータ、汎用コンピュータを範疇に含むコンピュータが、上記の記録媒体から上記プログラムを読み出して、実行するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0045】
11 アンテナ部
12 復調処理部1
13 復調処理部2
14 比較部
15 送信変調方式判定部
16 変調処理部
17 雑音発生部
C1,C2 情報
D1〜D5 信号
N1 雑音(ノイズ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信データを変調して伝播路に送出する変調処理手段と、
ノイズ信号を生成する雑音発生手段と、
アンテナで受信した受信信号を復調処理して受信データを得る第1の復調処理手段と、
前記受信信号に対して前記ノイズ信号を印加した信号を復調処理して参照用信号を生成する第2の復調処理手段と、
前記受信データと前記参照用信号とを比較し、両者間の所定のデータ長の範囲におけるビット単位のハミング距離を計量してエラーカウント数を得ると共に、前記エラーカウント数を前記所定のデータ長を構成するビットの全個数で除した商として与えられるBER(Bit Error Rate)を算出し、さらに、前記BERが所定の閾値よりも大きい場合は、BER特性を改善し得る変調方式への切り替えを指示する信号を出力する比較手段と、
前記変調方式の切下げを指示する信号を受けて、BER特性を改善し得る変調方法を判定して決定すると共に、該変調方法を示す情報を前記変調処理手段に送出する送信変調方式判定手段と、
を備えたことを特徴とする無線通信装置。
【請求項2】
前記送信変調方式判定手段は、前記BER特性を改善し得る変調方法として、BER特性を改善できる変調方式、若しくはBER特性を改善し得る符号語を判定して決定することを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項3】
前記雑音発生手段は、前記受信信号のCNR(Carrier to Noise Power Ratio)を測定すると共に、該受信信号のCNR値が小さくなるような雑音を発生させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の無線通信装置。
【請求項4】
前記比較手段は、前記BERが所定の閾値よりも大きくない場合は、前記変調方式の切下げを指示する前記信号を出力しないことを特徴とする請求項1記載の無線通信装置。
【請求項5】
送信データを変調して伝播路に送出する変調処理ステップと、
ノイズ信号を生成する雑音発生ステップと、
アンテナで受信した受信信号を復調処理して受信データを得る第1の復調処理ステップと、
前記受信信号に対して前記ノイズ信号を印加した信号を復調処理して参照用信号を生成する第2の復調処理ステップと、
前記受信データと前記参照用信号とを比較し、両者間の所定のデータ長の範囲におけるビット単位のハミング距離を計量してエラーカウント数を得ると共に、前記エラーカウント数を前記所定のデータ長を構成するビットの全個数で除した商として与えられるBER(Bit Error Rate)を算出し、さらに、前記BERが所定の閾値よりも大きい場合は、BER特性を改善し得る変調方式への切り替えを指示する信号を出力する比較ステップと、
前記変調方式の切下げを指示する信号を受けて、BER特性を改善し得る変調方法を判定して決定すると共に、該変調方法を示す情報を前記変調処理手段に送出する送信変調方式判定ステップと、
を有することを特徴とする無線通信方法。
【請求項6】
前記送信変調方式判定ステップは、前記BER特性を改善し得る変調方法として、BER特性を改善できる変調方式、若しくはBER特性を改善し得る符号語を判定して決定することを特徴とする請求項5記載の無線通信方法。
【請求項7】
前記雑音発生ステップは、前記受信信号のCNR(Carrier to Noise Power Ratio)を測定すると共に、該受信信号のCNR値が小さくなるような雑音を発生させることを特徴とする請求項5または請求項6記載の無線通信方法。
【請求項8】
前記比較ステップは、前記BERが所定の閾値よりも大きくない場合は、前記変調方式の切下げを指示する前記信号を出力しないことを特徴とする請求項5記載の無線通信方法。
【請求項9】
送信データを変調して伝播路に送出する変調処理手段と、ノイズ信号を生成する雑音発生手段と、アンテナで受信した受信信号を復調処理して受信データを得る第1の復調処理手段と、前記受信信号に対して前記ノイズ信号を印加した信号を復調処理して参照用信号を生成する第2の復調処理手段と、を備えた無線受信装置を制御するためのコンピュータプログラムであって、
前記受信データと前記参照用信号とを比較し、両者間の所定のデータ長の範囲におけるビット単位のハミング距離を計量してエラーカウント数を得るステップと、
前記エラーカウント数を前記所定のデータ長を構成するビットの全個数で除した商として与えられるBER(Bit Error Rate)を算出するステップと、
前記BERが所定の閾値よりも大きい場合は、BER特性を改善し得る変調方式への切り替えを指示する信号を出力するステップと、
を有することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項10】
前記BERが所定の閾値よりも大きくない場合は、前記変調方式の切下げを指示する前記信号を出力しないことを特徴とする請求項9記載のコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−38746(P2013−38746A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175739(P2011−175739)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】