説明

無線障害訓練システム

【課題】マイクロ波無線伝送路の様々な障害への対応訓練を可能にする。
【解決手段】無線障害訓練システム1において、通信ケーブル4を通じて、マイクロ波無線装置(送信装置)2がマイクロ波を送信し、マイクロ波無線装置(受信装置)3がマイクロ波を受信する。送信装置2では送信中のマイクロ波の電波強度が表示され、受信装置3では受信中のマイクロ波の電波強度が表示される。可変増幅減衰器5は、通信ケーブル4の途中に接続され、障害訓練装置6から電波強度又は減衰量を受信し、その値に応じたマイクロ波を受信装置3が受信するように、送信装置2から受けたマイクロ波を増幅又は減衰し、受信装置3に送信する。障害訓練装置6は、コンソールに無線障害の要因になる部位の状態(例えば、アンテナの方向)を擬似的に表示し、その状態を手操作により変更可能とし、その状態に基づいて受信側の電波強度又は減衰量を特定し、可変増幅減衰器5に送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波無線伝搬路の障害に対応する訓練を行うための通信シミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
事業所の中には、マイクロ波の無線技術を利用した、主要通信回線が構築されているところがある。実際に数十年前から、各所に無線装置が設置され、その間をデータ通信可能にする無線伝搬路が設けられている。そのうち、無線装置は、機種の変更が繰り返し行われてきている。一方、無線伝搬路は、当初設置されてから変更されることが少なく、経年による劣化や自然等の外的要因により、アンテナ、導波管、電波伝搬路、反射板等で多数の障害が発生している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−70050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、マイクロ波の無線伝搬路の障害を究明し、復旧する必要があるが、豊富な知識と経験がなければ、障害の発生から復旧までには多大な時間がかかってしまう。また、無線伝搬路に関する工事は滅多に実施されないことから、その設計技術を継承することが難しい。さらに、通信障害への対応訓練に用いられる、従来の通信シミュレータは、コンソールを利用してフェージング(大気の屈折率の変化で無線電波レベルが変動する現象)を模擬的に発生させる機能を具備しているが、フェージング以外の様々な要因による電波障害を模擬し、それに対応する訓練が可能な仕様にはなっていない。
【0005】
なお、特許文献1には、コンピュータシミュレーションによって、中継器を含む所定範囲に数個の障害物を配置し、中継器から放射された電波が周囲に伝播するときの箇所ごとの電界強度を算出し、電界強度がしきい値より大きい箇所の領域を通信可能評価範囲として出力する方法が開示されているが、電波障害への対応訓練を行うためのものではない。
【0006】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、マイクロ波無線伝送路の様々な障害への対応訓練を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、無線障害訓練システムであって、マイクロ波を送信する送信装置と、マイクロ波を受信し、そのマイクロ波の受信強度を表示する受信装置と、オペレータが無線障害への対応を訓練するための障害訓練装置と、前記送信装置からマイクロ波を受信し、前記障害訓練装置から受けた指示値に従って当該マイクロ波を増幅又は減衰し、前記受信装置に送信する可変増幅減衰器と、を備え、前記障害訓練装置が、前記送信装置と前記受信装置との間の、前記マイクロ波の伝搬路において、無線障害の要因となる部位を模擬的に表示装置に表示する手段と、前記オペレータの操作に応じて、前記表示装置に表示された前記部位の状態を変更する手段と、前記部位の状態に基づいて、前記受信装置が表示する受信強度に関する指示値を決定する指示値決定手段と、前記決定した指示値を前記可変増幅減衰器に送信する手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、障害訓練装置は、表示装置(例えば、ディスプレイの画面)に、マイクロ波の伝搬路における部位を表示し、表示された部位の状態を手操作により変更可能とし、その部位の状態に基づく指示値を可変増幅減衰器に送信する。可変増幅減衰器は、その指示値に従って送信装置からのマイクロ波を増減し、受信装置は、その増減したマイクロ波を受信し、受信強度を表示する。
【0009】
これによれば、無線障害への対応を訓練するオペレータは、まず、受信装置で受信強度が正常でないこと、すなわち、無線障害が発生したことを認識すると、その障害を復旧すべく、障害訓練装置で障害要因の部位の状態を模擬的に変更する(正常な状態に戻す)ことができる。そして、再び受信装置を見て、実際に受信強度が正常になったか否かを確認することができる。
【0010】
以上によれば、オペレータは、実際の受信装置を用いることにより、障害の発生や復旧の状況を確認できるとともに、障害訓練装置を用いることにより、模擬的な復旧の操作ができるので、障害の要因が存在する現地に行くことなく、マイクロ波無線伝送路の様々な障害への対応訓練が可能になる。なお、本発明は、自然現象であるフェージングを対象とせず、人が復旧可能な障害を対象にする。
【0011】
また、本発明の上記無線障害訓練システムにおいて、前記送信装置は、送信するマイクロ波の送信強度を表示することとしてもよい。
【0012】
この構成によれば、オペレータは、受信装置で無線障害が発生したことを認識したときに、送信装置で送信強度が正常か否かを確認する。送信強度が正常であれば、無線伝送路に障害の要因があることを把握して、障害訓練装置で障害復旧の操作を行うことができる。送信強度が正常でなければ、送信装置を調査することになる。
【0013】
また、本発明の上記無線障害訓練システムにおいて、前記部位の状態は、前記受信装置に設置され、マイクロ波を直接受信するアンテナの方向であり、前記指示値決定手段は、前記アンテナの方向の垂直角度及び水平角度から前記指示値を決定することとしてもよい。
【0014】
この構成によれば、受信装置に設置されたアンテナの方向がずれたことにより、無線障害が発生した場合の対応訓練が可能になる。すなわち、オペレータは、障害訓練装置に模擬的に表示されたアンテナの方向を変更し、受信装置で受信強度を確認することにより、アンテナの方向を調整して無線障害を復旧する訓練を受けることができる。
【0015】
また、本発明の上記無線障害訓練システムにおいて、前記部位の状態は、前記送信装置に設置され、前記マイクロ波が通過する導波管の遮断状態であり、前記指示値決定手段は、前記導波管が遮断されても残っている、前記マイクロ波の通過断面の大きさから前記指示値を決定することとしてもよい。
【0016】
この構成によれば、送信装置に設置された導波管の通過断面が狭くなったことにより、無線障害が発生した場合の対応訓練が可能になる。すなわち、オペレータは、障害訓練装置に模擬的に表示された導波管の遮断状態を変更し、受信装置で受信強度を確認することにより、導波管を修理又は交換して無線障害を復旧する訓練を受けることができる。
【0017】
また、本発明の上記無線障害訓練システムにおいて、前記部位の状態は、前記伝搬路を遮断する障害物の状態であり、前記指示値決定手段は、前記障害物による前記伝搬路の遮断面積から前記指示値を決定することとしてもよい。
【0018】
この構成によれば、伝搬路が障害物により遮断されたことにより、無線障害が発生した場合の対応訓練が可能になる。すなわち、オペレータは、障害訓練装置に模擬的に表示された、伝搬路を遮断する障害物の状態を変更し、受信装置で受信強度を確認することにより、障害物を撤去して無線障害を復旧する訓練を受けることができる。
【0019】
また、本発明の上記無線障害訓練システムにおいて、前記部位の状態は、前記送信装置と、前記受信装置との間に設置され、前記マイクロ波を反射する反射板の着雪状態であり、前記指示値決定手段は、前記反射板における着雪の面積及び厚さから前記指示値を決定することとしてもよい。
【0020】
この構成によれば、反射板が着雪を受けたことにより、無線障害が発生した場合の対応訓練が可能になる。すなわち、オペレータは、障害訓練装置に模擬的に表示された反射板の着雪状態を変更し、受信装置で受信強度を確認することにより、反射板の着雪を除去して無線障害を復旧する訓練を受けることができる。
【0021】
その他、本願が開示する課題及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、マイクロ波無線伝送路の様々な障害への対応訓練が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】無線障害訓練システム1の構成を示す図である。
【図2】障害訓練装置6の初期画面のイメージを示す図である。
【図3】障害訓練装置6のハードウェア構成を示す図である。
【図4】第1の実施の形態において、障害訓練装置6の記憶部65に記憶されるデータの構成を示す図であり、(a)は電波強度データ65Aの構成を示し、(b)はアンテナ方向データ65Bの構成を示し、(c)は方向パターンデータ65Cの構成を示す。
【図5】第1の実施の形態における障害訓練装置6の処理を示すフローチャートである。
【図6】第1の実施の形態に関連する図であり、(a)は障害訓練装置6の画面に表示され、模擬的に方向を調整可能なアンテナを示し、(b)は受講者により手書きで描かれるアンテナ指向特性のグラフを示す。
【図7】第2の実施の形態において、障害訓練装置6の記憶部65に記憶されるデータの構成を示す図であり、導波管データ65Dの構成を示す。
【図8】第2の実施の形態における障害訓練装置6の処理を示すフローチャートである。
【図9】第2の実施の形態に関連する図であり、障害訓練装置6の画面に表示され、模擬的に遮断幅(遮断面積)を調整可能な導波管を示す。
【図10】第3の実施の形態において、障害訓練装置6の記憶部65に記憶されるデータの構成を示す図であり、(a)は伝搬路樹木データ65Eの構成を示し、(b)は伝搬路形状データ65Fの構成を示し、(c)は樹木パターンデータ65Gの構成を示す。
【図11】第3の実施の形態における障害訓練装置6の処理を示すフローチャートである。
【図12】第3の実施の形態に関連する図であり、(a)は障害訓練装置6の画面に表示される伝搬路と、同じ画面に表示され、模擬的に伐採可能な樹木とを示し、(b)は樹木による電波遮蔽断面の詳細を示す。
【図13】第4の実施の形態において、障害訓練装置6の記憶部65に記憶されるデータの構成を示す図であり、(a)は反射板データ65Hの構成を示し、(b)は着雪パターンデータ65Iの構成を示す。
【図14】第4の実施の形態における障害訓練装置6の処理を示すフローチャートである。
【図15】第4の実施の形態に関連する図であり、障害訓練装置6の画面に表示され、模擬的に着雪を撤去可能な反射板を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態を説明する。本発明の実施の形態に係る無線障害訓練システムでは、マイクロ波無線装置の送信側と、受信側との間に設けられた可変増幅減衰器が、障害訓練装置からの電波強度又は減衰量(指示値)に従ってマイクロ波を増幅又は減衰させる。そして、受信側のマイクロ波無線装置は、可変増幅減衰器からマイクロ波を受信し、その受信強度を表示する。障害訓練装置は、伝搬路上に存在する、フェージング以外の、無線障害の要因となる部位を模擬的に表示し、その部位の状態に基づいて電波強度又は減衰量を特定し、可変増幅減衰器に送信することにより、受信側における受信強度の増減を制御する。
【0025】
これによれば、訓練の指導者は、障害訓練装置を用いて、部位の異常状態を設定することにより、あたかもマイクロ波無線伝搬路に障害が発生したために受信強度が低下したかのように訓練の受講者に見せることができる。受講者は、受信側のマイクロ波無線装置により無線障害の発生及び復旧を確認し、障害訓練装置により原因究明及び復旧操作を訓練することができる。なお、送信側でマイクロ波の送信強度が表示されるようにし、受講者が送信強度を確認してもよい。
【0026】
≪システムの構成と概要≫
図1は、無線障害訓練システム1の構成を示す図である。無線障害訓練システム1は、マイクロ波無線装置2及び3、通信ケーブル4、可変増幅減衰器5及び障害訓練装置6を備える。マイクロ波無線装置2及び3は、本来は無線によりマイクロ波を送受信する装置であるが、ここでは通信ケーブル4を介して接続され、その通信ケーブル4を通じて、マイクロ波無線装置(送信装置)2がマイクロ波を送信し、マイクロ波無線装置(受信装置)3がマイクロ波を受信する。マイクロ波無線装置2では、その時に送信中のマイクロ波の電波強度(送信強度)が表示される。マイクロ波無線装置3では、その時に受信中のマイクロ波の電波強度(受信強度)が表示される。
【0027】
通信ケーブル4は、本来は無線により通信する、マイクロ波無線装置2及び3の間を有線で接続するもの(例えば、同軸ケーブル)であり、障害対応訓練のためにマイクロ波の電波強度や減衰量を制御しやすくする。
【0028】
可変増幅減衰器5は、通信ケーブル4の途中に接続されるとともに、障害訓練装置6と通信可能である。そして、障害訓練装置6から電波強度を受信し、その電波強度のマイクロ波をマイクロ波無線装置3が受信するように、送信側のマイクロ波無線装置2から受けた電波の強度を増減させる。あるいは、障害訓練装置6から減衰量を受信し、その減衰量に基づいて、送信側から受けた電波の強度を減少させて、受信側に伝送する。
【0029】
障害訓練装置6は、可変増幅減衰器5と通信可能なPC(Personal Computer)又はサーバであり、コンソール(表示部)から取得した各擬似障害の設定状況(シミュレーションの状態)に応じて、受信側の電波強度(最大値は、送信側の電波強度と同じ)又は減衰量を特定し、その電波強度又は減衰量を可変増幅減衰器5に送信する。
【0030】
図2は、障害訓練装置6の初期画面のイメージを示す図である。マイクロ波無線装置2及び3は、本来は無線伝搬路を介してマイクロ波を送受信する装置であるので、アンテナ、導波管、伝搬路及び反射板が模擬的に表示され、それぞれの障害・復旧のシミュレーション操作が選択可能になっている。
【0031】
なお、無線障害訓練システム1を用いた障害対応訓練の手順の流れは、訓練の指導者が障害訓練装置6を用いて擬似的な無線障害を発生させた後、以下に示すようになる(図1参照)。
(S1)訓練の受講者が、受信側のマイクロ波無線装置3で無線障害の発生を確認する。
(S2)受講者が、送信側のマイクロ波無線装置2の正常を確認する。
(S3)受講者が、障害訓練装置6を用いて原因の究明及び復旧の操作を実施する。
(S4)受講者が、障害訓練装置6及び受信側のマイクロ波無線装置3で障害の復旧を確認する。
【0032】
図3は、障害訓練装置6のハードウェア構成を示す図である。障害訓練装置6は、通信部61、表示部62、入力部63、処理部64及び記憶部65を備え、各部がバス66を介してデータを送受信可能なように構成される。通信部61は、通信線を介して可変増幅減衰器5とIP(Internet Protocol)通信等を行う部分であり、例えば、NIC(Network Interface Card)等によって実現される。表示部62は、処理部64からの指示によりデータを表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)等によって実現される。入力部63は、訓練の指導者又は受講者がデータ(例えば、擬似障害の設定データ)や指示を入力する部分であり、例えば、キーボードやマウス、タッチパネル等によって実現される。処理部64は、所定のメモリを介して各部間のデータの受け渡しを行うととともに、障害訓練装置6全体の制御を行うものであり、CPU(Central Processing Unit)が所定のメモリに格納されたプログラムを実行することによって実現される。記憶部65は、処理部64からデータを記憶したり、記憶したデータを読み出したりするものであり、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)等の不揮発性記憶装置によって実現される。
【0033】
以下、上記のハードウェア構成を用いた、無線障害訓練システム1の4つの実施の形態について説明する。
【0034】
≪第1の実施の形態≫
第1の実施の形態は、アンテナ障害に関するものであり、例えば、約50kmのアンテナ間距離に対して数cmの幅で行われる、アンテナの方向調整を模擬する。受講者は、障害訓練装置6の画面上で模擬的にマイクロ波無線装置3のパラボラアンテナを上下左右に振ることにより、最大の受信強度が得られる方向調整の方法を知り、併せてパラボラアンテナの指向特性を理解する。なお、指向特性とは、アンテナの方向に応じた電波の受信強度のことをいう。
【0035】
<データの構成>
図4は、第1の実施の形態において、障害訓練装置6の記憶部65に記憶されるデータの構成を示す図である。図4(a)は、電波強度データ65Aの構成を示す。電波強度データ65Aは、アンテナの指向特性を用いて計算された電波強度を示すデータであり、垂直角度65A1及び水平角度65A2を所定の数値範囲に分けて、垂直角度65A1の範囲及び水平角度65A2の範囲により特定される電波強度を設定した行列データ(表データ)である。垂直角度65A1は、アンテナの上下方向を規定するものであり、水平との角度差(仰角又は俯角)が設定される(以下、垂直角度について同様)。水平角度65A2は、アンテナの左右方向(方角)を規定するものであり、送信側のマイクロ波無線装置2への方向との角度差(水平角)が設定される(以下、水平角度について同様)。なお、垂直角度65A1が0°、水平角度65A2が0°のとき、すなわち、アンテナが、水平、かつ、送信側のマイクロ波無線装置2の方を向いているときに、最大の電波強度が得られる。
【0036】
図4(b)は、アンテナ方向データ65Bの構成を示す。アンテナ方向データ65Bは、現在擬似的に設定されているアンテナの方向を示すデータであり、垂直角度65B1及び水平角度65B2を含む。垂直角度65B1及び水平角度65B2は、障害訓練装置6の画面に表示されたアンテナの方向を動かすと、一旦確定した方向に応じて再設定される。
【0037】
図4(c)は、方向パターンデータ65Cの構成を示す。方向パターンデータ65Cは、アンテナが最大受信強度の方向からずれたパターン(方向パターン)を示すデータであり、パターン番号65C1、垂直角度65C2及び水平角度65C3を含む、方向パターン個数分のレコードからなる。パターン番号65C1は、方向パターンに固有の番号であり、障害訓練装置6の画面に表示され、指導者に選択される。垂直角度65C2及び水平角度65C3は、パターン番号65C1に対応する、アンテナの垂直角度及び水平角度である。なお、選択されたパターン番号65C1の垂直角度65C2及び水平角度65C3が、アンテナ方向データ65Bとして記憶部65に設定される。また、送信側アンテナの方向が基準として固定され、それに対して受信側アンテナが上下左右にずれた方向パターン(例えば、数十通り)が用意される。
【0038】
<システムの処理>
図5は、アンテナ障害の訓練手順に応じた、障害訓練装置6の処理を示すフローチャートである。本処理は、障害訓練装置6において、主として処理部64が、アンテナの方向を表示部62に表示し、訓練の指導者や受講者の操作に応じたデータを入力部63により取得し、記憶部65のデータを参照、更新しながら、アンテナの方向に応じた電波強度を特定し、通信部61及び表示部62により出力するものである。なお、電波強度データ65A及び方向パターンデータ65Cは、予め記憶部65に記憶されているものとする。
【0039】
まず、障害訓練装置6は、アンテナ方向データ65Bの垂直角度65B1及び水平角度65B2を0°に初期設定し、電波強度データ65Aを参照して、その方向に対応する電波強度を特定し、その電波強度を可変増幅減衰器5に送信する(S501)。このとき、可変増幅減衰器5は、障害訓練装置6から電波強度を受信し、受信側のマイクロ波無線装置3の受信強度がその電波強度になるように、電波の強度を調整する(以下、同様)。マイクロ波無線装置3では、最大電波強度が表示されるので、問題はなく、受講者は電波強度の監視を続ける。
【0040】
訓練の指導者が画面上で方向パターンを選択すると、障害訓練装置6は、選択されたパターン番号を取得し、方向パターンデータ65Cを参照して、該当するパターン番号65C1の垂直角度65C2及び水平角度65C3を特定し、アンテナ方向データ65Bに設定するとともに、電波強度データ65Aを参照して、その方向に対応する電波強度を特定し、その電波強度を可変増幅減衰器5に送信する(S502)。このとき、マイクロ波無線装置3では、最大強度より低下した電波強度が表示されるので、受講者は、送信側のマイクロ波無線装置2の正常を確認した後、電波障害の発生を認識し、障害訓練装置6の設置箇所に行く。障害訓練装置6の画面には、図6(a)に示すようなアンテナが3次元に表示され、手操作により模擬的にアンテナの方向を上下及び左右に調整可能になっている。
【0041】
受講者が画面上の操作でアンテナを動かすと、障害訓練装置6は、その向きに応じた垂直角度及び水平角度を表示部62のグラフィック処理装置から取得し、アンテナ方向データ65Bに設定するとともに、電波強度データ65Aを参照して、その方向に対応する電波強度を特定し、その電波強度を可変増幅減衰器5に送信する(S503)。そして、その電波強度(レベル)を画面上に表示する(S504)。障害訓練装置6の画面上でアンテナの方向が元に戻る(垂直角度及び水平角度ともに0°になる)と、電波強度が回復し、最大強度が表示される。
【0042】
受講者は、障害訓練装置6の画面に表示された電波強度を見て、図6(b)に示すようなアンテナ指向特性(アンテナの方向と、受信強度との関係)のグラフを手書きで描く。そして、画面上で最大強度が得られたことが分かったときには、受信側のマイクロ波無線装置3の設置箇所に行き、実際の電波強度が最大になっていることを確認する。以上によれば、アンテナの手調整及びグラフの手書きを繰り返すことにより、アンテナ方向の調整方法を知り、併せてパラボラアンテナの指向特性を理解することができる。
【0043】
≪第2の実施の形態≫
第2の実施の形態は、送信側の導波管障害に関するものである。受講者は、障害訓練装置6の画面上で模擬的に導波管の遮断面と、通過面との境界線を上下に動かして遮断面積(遮断幅)を調整することにより、導波管の遮断周波数を知り、必要な導波管径を選定する。
【0044】
導波管は、ある周波数より大きい(ある波長より小さい)電波でなければ、伝送することができない。図9に示すような断面がa×bの方形導波管では、電波は、波長λが2×a(2a)より短い場合には、水平面を反射しながら伝送していくが、波長λが長くなって2aに近付くにつれて、一定区間の反射の数が多くなり、λ=2aになると水平面を反射するだけで前方に進まなくなる。この時のλを遮断波長λc=2aとする。このとき、電波の速度をvとすれば、fc=v/λc=v/2aが遮断周波数(最低周波数)となる。
【0045】
<データの構成>
図7は、第2の実施の形態において、障害訓練装置6の記憶部65に記憶されるデータの構成を示す図であり、導波管データ65Dの構成を示す。導波管データ65Dは、導波管の形状及び遮断に関するデータであり、電波速度65D1、導波管縦長65D2、導波管横長65D3、電波周波数65D4、遮断幅65D5、遮断波長65D6及び遮断周波数65D7を含む。
【0046】
電波速度65D1は、マイクロ波の伝搬速度vである。導波管縦長65D2は、導波管内側の矩形断面の、縦の長さであり、図9におけるaに相当する。導波管横長65D3は、導波管内側の矩形断面の、横の長さであり、図9におけるbに相当する。電波速度65D1、導波管縦長65D2及び導波管横長65D3は、固定値であり、予め設定される。
【0047】
電波周波数65D4は、マイクロ波の周波数fである。遮断幅65D5は、導波管を遮断する幅の大きさであり、ここでは、図9に示すように、上方から外部側圧により押し潰された際の遮断幅wを想定している。なお、外部側圧は、垂直方向に限らず、水平方向にもありうる。電波周波数65D4及び遮断幅65D5は、画面上から設定可能な可変値である。
【0048】
遮断波長65D6は、マイクロ波の通過断面の縦長(大きさ)により遮断されるマイクロ波の波長λcであり、λc=2(a−w)により算出され、設定される。遮断周波数65D7は、そのときの周波数fcであり、fc=v/{2(a−w)}により算出され、設定される。マイクロ波は、波長がλc(遮断波長65D6)より短いとき、すなわち、周波数がfc(遮断周波数65D7)より高いときに導波管を通過する。
【0049】
遮断幅wが小さくなるように調整することにより、遮断周波数fcが低くなる。遮断周波数fcが電波周波数fより低くなれば(すなわち、電波周波数fが遮断周波数fcより高くなれば)、導波管を通じてマイクロ波が伝送可能になる。
【0050】
<システムの処理>
図8は、導波管障害の訓練手順に応じた、障害訓練装置6の処理を示すフローチャートである。本処理は、障害訓練装置6において、主として処理部64が、導波管の遮断状態を表示部62に表示し、訓練の指導者や受講者の操作に応じたデータを入力部63により取得し、記憶部65のデータを参照、更新しながら、導波管の遮断状態に応じた電波強度を特定し、通信部61及び表示部62により出力するものである。なお、導波管データ65Dの電波速度65D1、導波管縦長65D2及び導波管横長65D3は、予め記憶部65に設定されているものとする。
【0051】
まず、障害訓練装置6は、遮断幅をゼロに初期設定し、遮断波長及び遮断周波数を計算し、設定するとともに、遮断周波数より所定値だけ高い電波周波数を設定し、所定の電波強度を可変増幅減衰器5に送信する(S801)。このとき、可変増幅減衰器5は、障害訓練装置6から電波強度を受信し、受信側のマイクロ波無線装置3の受信強度がその電波強度になるように、電波の強度を調整する(以下、同様)。マイクロ波無線装置3では、所定の電波強度が表示されるので、問題はなく、受講者は電波強度の監視を続ける。
【0052】
訓練の指導者が画面上で遮断幅を指定し、その遮断幅に応じた遮断周波数より低い電波周波数を指定すると、障害訓練装置6は、指定内容により遮断幅65D5及び電波周波数65D4を設定し、遮断波長65D6及び遮断周波数65D7を計算し、設定するとともに、電波周波数65D4と、遮断周波数65D7との大小関係に応じて、電波強度を特定し、可変増幅減衰器5に送信する(S802)。詳細には、電波周波数65D4が遮断周波数65D7より高ければ、所定の電波強度を送信する。電波周波数65D4が遮断周波数65D7以下であれば、ゼロの電波強度を送信する。
【0053】
このとき、マイクロ波無線装置3でゼロの電波強度が表示された際に、受講者は、送信側のマイクロ波無線装置2の正常を確認した後、電波障害の発生を認識し、障害訓練装置6の設置箇所に行く。障害訓練装置6の画面には、図9に示すような導波管が表示され、手操作により模擬的に遮断幅(遮断面積)を調整可能になっている。
【0054】
受講者は、画面上の操作で遮断幅を変更すると、障害訓練装置6は、変更後の遮断幅65D5を設定するとともに、遮断波長65D6及び遮断周波数65D7を計算し、設定するとともに、電波周波数65D4と、遮断周波数65D7との大小関係に応じて、電波強度を特定し、可変増幅減衰器5に送信する(S803)。詳細は、S802と同様である。そして、その電波強度(レベル)を画面に表示する(S804)。
【0055】
受講者は、画面上で遮断幅を変更しながら、所定の電波強度が表示されるのを確認する。すなわち、導波管の通過面積を徐々に元に戻しながら、どのくらいで電波強度が回復するかを見る。そして、画面上で所定の電波強度が得られたことが分かったときには、受信側のマイクロ波無線装置3の設置箇所に行き、実際に所定の電波強度になっていることを確認する。
【0056】
これによれば、受講者は、導波管の遮断面積による遮断周波数の存在を知り、実際の電波周波数に対して必要な導波管径を認識することができる。特に、障害訓練装置6の画面上で導波管障害がなぜ起きたかを示す原理を学ぶとともに、導波管の遮断面積(逆に言えば、通過面積)を調整することにより、ある周波数のマイクロ波が通過し、所定の電波強度が得られたときに、なぜ通過したかを考えることができる。これは、導波管に関する障害への対応だけでなく、導波管を設計する際にも役に立つ。
【0057】
≪第3の実施の形態≫
第3の実施の形態は、伝搬路障害に関するものである。アンテナ間において送受信されるマイクロ波は広がっていき、回転楕円体状の伝搬路空間(フレネルゾーン)ができる。フレネルゾーンの中でも、第1フレネルゾーンは、電波エネルギーが送信装置から受信装置に最短距離で到達する場合と、別ルートで到達する場合との経路差が、マイクロ波の波長の1/2以内である経路からなる空間であり、ここでいう伝搬路空間は、第1フレネルゾーンのことを指す。その伝搬路空間を樹木等の障害物(フェージングを除く)が遮ると、マイクロ波の減衰が発生し、受信強度が小さくなる。
【0058】
受講者は、障害訓練装置6の画面上で模擬的に表示された電波伝搬路及び擬似的な樹木により、電波伝搬路の必要性を認識し、樹木による伝搬路空間への影響が分かるので、必要な対応を行う。必要に応じて、伝搬路空間に関する計算を行うこととしてもよい。
【0059】
<データの構成>
図10は、第3の実施の形態において、障害訓練装置6の記憶部65に記憶されるデータの構成を示す図である。図10(a)は、伝搬路樹木データ65Eの構成を示す。伝搬路樹木データ65Eは、伝搬路及びそれを遮蔽する樹木に関するデータであり、伝搬路高さ65E1、樹木角度65E2、樹木位置65E3、樹木高さ65E4、遮蔽面積65E5及び遮蔽減衰量65E6を含む。伝搬路高さ65E1は、マイクロ波無線装置2及び3の間における無線伝搬路の中心の高さであり、図12(a)に示す高さh0が設定される。樹木角度65E2は、樹木の形状を特定するパラメータであり、頂点から広がる樹木の角度を示し、図12(a)に示す角度θ(例えば、90°)が設定される。伝搬路高さ65E1及び樹木角度65E2は、固定値であり、予め設定される。
【0060】
樹木位置65E3は、樹木の位置を特定するものであり、送信側のマイクロ波無線装置2からの距離を示し、図12(a)に示す距離L1が設定される。樹木高さ65E4は、樹木の高さであり、図12(a)に示す高さh1が設定される。樹木位置65E3及び樹木高さ65E4は、画面上から設定可能な可変値である。
【0061】
遮蔽面積65E5は、樹木によって遮蔽される伝搬路の断面積であり、図12(a)のL1位置の断面に示すハッチングされた部分の面積が設定される。遮蔽減衰量65E6は、樹木の遮蔽によりマイクロ波が減衰する割合を示し、伝搬路の断面積に対する遮蔽面積の割合(相対比)をデシベル[db]に換算した値である。
【0062】
図10(b)は、伝搬路形状データ65Fの構成を示す。伝搬路形状データ65Fは、マイクロ波無線装置2及び3の間の位置における、伝搬路断面の半径及び面積を示すデータであり、位置65F1、半径65F2及び断面積65F3を含む、レコードからなる。位置65F1は、伝搬路断面の位置であり、送信側のマイクロ波無線装置2からの距離であり、例えば、5mごとの離散値が設定される。半径65F2は、位置65F1における伝搬路断面の半径であり、伝搬路空間が回転楕円体状であることから、位置65F1ごとに計算された半径rが設定される。断面積65F3は、位置65F1において伝搬路空間を輪切りにしたときの断面の面積であり、半径rから計算された面積S(=πr)が設定される。
【0063】
図10(c)は、樹木パターンデータ65Gの構成を示す。樹木パターンデータ65Gは、伝搬路を遮蔽する樹木の位置及び高さのデータであり、パターン番号65G1、位置65G2及び高さ65G3を含む、樹木パターン個数分のレコードからなる。パターン番号65G1は、樹木パターンに固有の番号であり、障害訓練装置6の画面に表示され、指導者に選択される。位置65G2及び高さ65G3は、パターン番号65G1に対応する、樹木の位置及び高さである。なお、選択されたパターン番号65G1の位置65G2及び高さ65G3が、樹木位置65E3及び樹木高さ65E4として記憶部65に設定される。また、位置65G2は、位置65F1と同様に、例えば、5mごとの離散値が設定される。
【0064】
<システムの処理>
図11は、伝搬路障害の訓練手順に応じた、障害訓練装置6の処理を示すフローチャートである。本処理は、障害訓練装置6において、主として処理部64が、無線伝搬路の状況を表示部62に表示し、訓練の指導者や受講者の操作に応じたデータを入力部63により取得し、記憶部65のデータを参照、更新しながら、無線伝搬路が樹木により遮断された面積に応じた減衰量を特定し、通信部61及び表示部62により出力するものである。なお、伝搬路形状データ65F及び樹木パターンデータ65Gは、予め記憶部65に設定されているものとする。
【0065】
まず、障害訓練装置6は、伝搬路樹木データ65Eを樹木なしに(例えば、樹木高さ65E4をゼロに)初期設定し、遮蔽面積65E5をゼロに設定し、遮蔽減衰量65E6を1倍に設定し、可変増幅減衰器5に送信する(S1101)。なお、遮蔽減衰量は、相対比をデシベル[db]に換算した値である。このとき、可変増幅減衰器5は、障害訓練装置6から遮蔽減衰量を受信し、その遮蔽減衰量により電波が減衰するように、電波の強度を調整する(以下、同様)。遮蔽減衰量が1倍のため、マイクロ波無線装置3では、送信側のマイクロ波無線装置2と同じ電波強度が表示されるので、問題はなく、受講者は電波強度の監視を続ける。
【0066】
訓練の指導者が画面上で樹木パターンを選択すると、障害訓練装置6は、取得したパターン番号65G1に対応する位置65G2及び高さ65G3を特定し、樹木位置65E3及び樹木高さ65E4として記憶するとともに、遮蔽面積65E5及び遮蔽減衰量65E6を計算、設定し、遮蔽減衰量を可変増幅減衰器5に送信する(S1102)。
【0067】
詳細には、遮蔽面積65E5は、伝搬路高さ65E1、樹木角度65E2、樹木高さ65E4及び半径65F2により計算される。図12(b)に示すように、伝搬路高さをh0とし、樹木角度をθとし、樹木高さをh1とし、半径をrとすると、樹木の頂点と、伝搬路空間の最下点との差gは、次の式1により算出される。

g=h1−(h0−r) ・・・式1

これにより、遮蔽面積Scは、伝搬路空間の中心による扇形の面積から2つの三角形の面積を差し引くことにより正確に計算してもよいし、例えば、差gを半径とし、θを中心角とする扇形の面積で近似してもよい。そして、断面積65F3に対する遮蔽面積65E5の比を計算し、遮蔽減衰量65E6とする。
【0068】
このとき、マイクロ波無線装置3で減衰した電波強度が表示されるので、受講者は、送信側のマイクロ波無線装置2の正常を確認した後、電波障害の発生を認識し、障害訓練装置6の設置箇所に行く。障害訓練装置6の画面には、図12(a)に示すような伝搬路が表示され、手操作により模擬的に樹木を伐採可能になっている。
【0069】
受講者は、樹木の伐採を最低限にするために、画面上の操作で少し伐採すると、障害訓練装置6は、表示部62のグラフィック処理装置から、低くなった樹木高さを取得し、樹木高さ65E4として記憶するとともに、遮蔽面積65E5及び遮蔽減衰量65E6を計算、設定し、遮蔽減衰量を可変増幅減衰器5に送信する(S1103)。詳細は、S1102と同様である。そして、その遮蔽減衰量を画面に表示する(S1104)。このとき、マイクロ波無線装置3における電波の受信強度を表示してもよい。
【0070】
受講者は、画面上で樹木を少しずつ伐採すると、表示される遮蔽減衰量が徐々に1倍に近付くのを確認する。そして、画面上で遮蔽減衰量が1倍になったことが分かったときには、受信側のマイクロ波無線装置3の設置箇所に行き、実際に最大の電波強度が得られていることを確認する。また、伝搬路空間があって、一つの樹木位置により受信レベル低下が起きることを知ることにより、伝搬路空間全体を理解することができる。そして、必要に応じて、他の地点における伝搬路の断面積を計算することとしてもよい。これによれば、電波伝搬路の必要性を認識し、樹木による伝搬路空間(第1フレネルゾーン)への影響が分かるので、必要な対応訓練を行うことができる。
【0071】
≪第4の実施の形態≫
第4の実施の形態は、反射板障害に関するものである。反射板は、山等の地形によりマイクロ波無線装置2と3のアンテナ同士が通信できないときに、マイクロ波を反射させるために設置され、例えば、10m×10mの面積を持つものがある。1つの反射板が設置されると、2つのフレネルゾーンが形成される。すなわち、送信側のマイクロ波無線装置2と、反射板との間の伝搬路空間、及び、反射板と、受信側のマイクロ波無線装置3との間の伝搬路空間である。
【0072】
受講者は、障害訓練装置6の画面上で模擬的に表示された反射板の着雪により、反射板利得に関係する、着雪による減衰量を計算し、画面上の操作で着雪を撤去することにより、障害復旧の対応を行う。
【0073】
<データの構成>
図13は、第4の実施の形態において、障害訓練装置6の記憶部65に記憶されるデータの構成を示す図である。図13(a)は、反射板データ65Hの構成を示す。反射板データ65Hは、反射板及びその着雪に関するデータであり、反射板面積65H1、反射板利得65H2、着雪減衰係数65H3、着雪面積65H4、着雪厚さ65H5及び反射板減衰量65H6を含む。反射板面積65H1は、反射板の面積であり、図15に示す反射板全体の面積が設定される。反射板利得65H2は、着雪のない反射板が増幅する電波の利得である。反射板は、電波の反射とともに、電波の増幅も行う。着雪減衰係数65H3は、反射板の着雪が電波を吸収することによる減衰を規定する係数である。なお、反射板面積65H1、反射板利得65H2及び着雪減衰係数65H3は、予め設定される固定値である。
【0074】
着雪面積65H4は、反射板における着雪の面積である。着雪厚さ65H5は、反射板における着雪の厚さである。なお、着雪面積65H4及び着雪厚さ65H5は、画面上から設定可能な可変値である。
【0075】
反射板減衰量65H6は、反射板による電波の減衰量であり、着雪のない部分による電波利得と、着雪のある部分による着雪減衰量とに基づいて算出され、減衰率(相対比)をデシベル[db]に換算した値が設定される。電波利得は、反射板利得G×着雪のない部分の面積(S−Ss)/反射板面積Sにより計算される。着雪減衰量は、着雪減衰係数α×着雪面積Ss×着雪厚さTsにより計算される。
【0076】
図13(b)は、着雪パターンデータ65Iの構成を示す。着雪パターンデータ65Iは、反射板における着雪の面積及び厚さのデータであり、パターン番号65I1、面積65I2及び厚さ65I3を含む、着雪パターン個数分のレコードからなる。パターン番号65I1は、着雪パターンに固有の番号であり、障害訓練装置6の画面に表示され、指導者に選択される。面積65I2及び厚さ65I3は、パターン番号65I1に対応する、着雪の面積及び厚さである。なお、選択されたパターン番号65I1の面積65I2及び厚さ65I3が、着雪面積65H4及び着雪厚さ65H5として記憶部65に設定される。
【0077】
<システムの処理>
図14は、反射板障害の訓練手順に応じた、障害訓練装置6の処理を示すフローチャートである。本処理は、障害訓練装置6において、主として処理部64が、反射板への着雪状況を表示部62に表示し、訓練の指導者や受講者の操作に応じたデータを入力部63により取得し、記憶部65のデータを参照、更新しながら、反射板への着雪状況に応じた減衰量を特定し、通信部61及び表示部62により出力するものである。なお、着雪パターンデータ65Iは、予め記憶部65に記憶されているものとする。
【0078】
まず、障害訓練装置6は、反射板データ65Hを着雪なしに(着雪面積65H4にゼロを)初期設定し、反射板減衰量65H6に反射板利得65H2を設定し、その反射減衰量を可変増幅減衰器5に送信する(S1401)。なお、減衰量は、相対比をデシベル[db]に換算した値である。このとき、可変増幅減衰器5は、障害訓練装置6から反射板減衰量を受信し、その反射板減衰量により電波が減衰するように、電波の強度を調整する(以下、同様)。反射板減衰量が反射板利得になっているため、マイクロ波無線装置3では、送信側のマイクロ波無線装置2と同じか、それ以上の電波強度が表示されるので、問題はなく、受講者は電波強度の監視を続ける。
【0079】
訓練の指導者が画面上で着雪パターンを選択すると、障害訓練装置6は、取得したパターン番号65I1に対応する面積65I2及び厚さ65I3を特定し、着雪面積65H4及び着雪厚さ65H5として記憶するとともに、反射板減衰量65H6を計算、設定し、反射板減衰量を可変増幅減衰器5に送信する(S1402)。
【0080】
このとき、マイクロ波無線装置3で減衰した電波強度が表示されるので、受講者は、送信側のマイクロ波無線装置2の正常を確認した後、電波障害の発生を認識し、障害訓練装置6の設置箇所に行く。障害訓練装置6の画面には、図15に示すような反射板が表示され、手操作により模擬的に着雪を撤去可能になっている。
【0081】
受講者は、画面上の操作で着雪を撤去すると、障害訓練装置6は、狭くなった着雪面積を取得し、着雪面積65H4として記憶するとともに、反射板減衰量65H6を計算、設定し、反射板減衰量を可変増幅減衰器5に送信する(S1403)。詳細は、S1402と同様である。そして、その反射板減衰量を画面上に表示する(S1404)。このとき、マイクロ波無線装置3における電波の受信強度を表示してもよい。
【0082】
受講者は、画面上で着雪を少しずつ撤去すると、表示される反射板減衰量が徐々に1倍に近付くのを確認する。そして、画面上で反射板減衰量が反射板利得と同じになったことが分かったときには、受信側のマイクロ波無線装置3の設置箇所に行き、実際に最大の電波強度が得られていることを確認する。これによれば、反射板の面積のうち、どれくらいの着雪を撤去すれば障害復旧できるかを学ぶことができる。必要に応じて、反射板による利得及び着雪による減衰量に基づいて、反射板全体の減衰量を計算することにしてもよい。
【0083】
なお、上記実施の形態では、図3に示す障害訓練装置6内の各部を機能させるために、処理部64で実行されるプログラムをコンピュータにより読み取り可能な記録媒体に記録し、その記録したプログラムをコンピュータに読み込ませ、実行させることにより、本発明の実施の形態に係る障害訓練装置6及び無線障害訓練システム1が実現されるものとする。この場合、プログラムをインターネット等のネットワーク経由でコンピュータに提供してもよいし、プログラムが書き込まれた半導体チップ等をコンピュータに組み込んでもよい。
【0084】
以上説明した本発明の実施の形態によれば、実際に発生するおそれがあり、人が復旧させることが可能な無線障害を模擬することにより、マイクロ波無線伝送路の様々な障害への対応訓練を実施することができる。
【0085】
詳細には、第1の実施の形態で説明したように、マイクロ波を受信するアンテナの方向がずれて発生する無線障害に対する対応訓練を実施できる。次に、第2の実施の形態で説明したように、マイクロ波を送信する側の導波管が遮断されて発生する無線障害に対する対応訓練を実施できる。そして、第3の実施の形態で説明したように、マイクロ波の伝搬路空間が樹木に遮断されて発生する無線障害に対する対応訓練を実施できる。さらに、第4の実施の形態で説明したように、マイクロ波の反射板が着雪を受けて発生する無線障害に対する対応訓練を実施できる。
【0086】
以上によれば、無線障害の要因や仕組みを究明し、障害の発生から復旧までの対応を迅速かつ的確にできるように訓練することができ、障害対応能力の向上を図ることができる。さらに、マイクロ波無線伝搬路の設計に必要な設計技術を身に付け、継承することができる。
【0087】
≪その他の実施の形態≫
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。例えば、以下のような実施の形態が考えられる。
【0088】
(1)上記実施の形態では、アンテナ障害等、4つの障害の対応訓練を個別に行うように記載したが、総合的な障害対応訓練を行うようにしてもよい。例えば、マイクロ波無線装置3の受信レベルが下がって、受講者が原因究明及び障害復旧を行う際に、アンテナの方向を調整することにより、受信レベルが改善してピークになったとしても、正常時のレベルに回復しない場合には、導波管や、伝搬路空間の樹木、反射板の状態を確認する等、別の対応を行う訓練も可能である。
【0089】
そのとき、障害訓練装置6は、複数の障害要因に応じた電波強度又は減衰量を特定し、可変増幅減衰器5に送信する。例えば、遮蔽減衰量65E6及び反射板減衰量65H6の合計[db単位]を可変増幅減衰器5に送信する。
【0090】
(2)上記実施の形態では、図4(a)の電波強度データ65Aに示すように、垂直角度及び水平角度の範囲(例えば、1〜5°等)に応じて電波強度を設定したが、垂直角度及び水平角度の1度ごとに電波強度を計算し、設定することにより、アンテナの方向に応じた電波強度の精度を上げるようにしてもよい。
【0091】
(3)上記実施の形態では、図10(a)の伝搬路樹木データ65Eに示すように、伝搬路を遮る樹木の形状を樹木角度65E2で特定したが、角度に限定されることはなく、例えば、樹木を円柱と仮定し、伝搬路を遮る樹木の形状を横幅(円柱の直径)で特定してもよい。また、樹木は、1本として説明したが、複数設定可能としてもよい。さらに、人が撤去できる物であれば、樹木以外の障害物であってもよい。
【0092】
(4)上記実施の形態では、受講者は、障害訓練装置6による障害復旧操作を行う前に、マイクロ波無線装置のうち、受信装置3及び送信装置2の確認を行ったが、送信装置2の正常を前提として、受信装置3の確認だけを行うようにしてもよい。そのとき、送信装置2における送信状態の表示は不要になる。
【0093】
一方、上記実施の形態では、受講者は、障害復旧操作の後、復旧確認を障害訓練装置6及び受信装置3で行うように説明したが、受信装置3だけで行うようにしてもよい。そのとき、障害訓練装置6における電波強度や減衰量の表示は不要になる。
【符号の説明】
【0094】
1 無線障害訓練システム
2 マイクロ波無線装置(送信装置)
3 マイクロ波無線装置(受信装置)
4 通信ケーブル
5 可変増幅減衰器
6 障害訓練装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を送信する送信装置と、
マイクロ波を受信し、そのマイクロ波の受信強度を表示する受信装置と、
オペレータが無線障害への対応を訓練するための障害訓練装置と、
前記送信装置からマイクロ波を受信し、前記障害訓練装置から受けた指示値に従って当該マイクロ波を増幅又は減衰し、前記受信装置に送信する可変増幅減衰器と、
を備え、
前記障害訓練装置は、
前記送信装置と前記受信装置との間の、前記マイクロ波の伝搬路において、無線障害の要因となる部位を模擬的に表示装置に表示する手段と、
前記オペレータの操作に応じて、前記表示装置に表示された前記部位の状態を変更する手段と、
前記部位の状態に基づいて、前記受信装置が表示する受信強度に関する指示値を決定する指示値決定手段と、
前記決定した指示値を前記可変増幅減衰器に送信する手段と、
を備える
ことを特徴とする無線障害訓練システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線障害訓練システムであって、
前記送信装置は、送信するマイクロ波の送信強度を表示する
ことを特徴とする無線障害訓練システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の無線障害訓練システムであって、
前記部位の状態は、前記受信装置に設置され、マイクロ波を直接受信するアンテナの方向であり、
前記指示値決定手段は、前記アンテナの方向の垂直角度及び水平角度から前記指示値を決定する
ことを特徴とする無線障害訓練システム。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の無線障害訓練システムであって、
前記部位の状態は、前記送信装置に設置され、前記マイクロ波が通過する導波管の遮断状態であり、
前記指示値決定手段は、前記導波管が遮断されても残っている、前記マイクロ波の通過断面の大きさから前記指示値を決定する
ことを特徴とする無線障害訓練システム。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の無線障害訓練システムであって、
前記部位の状態は、前記伝搬路を遮断する障害物の状態であり、
前記指示値決定手段は、前記障害物による前記伝搬路の遮断面積から前記指示値を決定する
ことを特徴とする無線障害訓練システム。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の無線障害訓練システムであって、
前記部位の状態は、前記送信装置と、前記受信装置との間に設置され、前記マイクロ波を反射する反射板の着雪状態であり、
前記指示値決定手段は、前記反射板における着雪の面積及び厚さから前記指示値を決定する
ことを特徴とする無線障害訓練システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−5042(P2013−5042A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131429(P2011−131429)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】