説明

無線LANセンシング装置、無線LANステーションおよびプログラム

【課題】無線LANステーションまたは無線LANアクセスポイントである無線LAN端末のチャネル占有率を測定し、CSMA/CAの動作を考慮した精度の高いスループットを推定する。
【解決手段】無線LAN(Local Area Network)ステーションまたは無線LANアクセスポイントである無線LAN端末のチャネル占有率を測定する無線LANセンシング装置であって、無線LAN端末からパケットを受信する無線LANモジュール102と、受信したパケットのヘッダ情報に基づいて、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出する占有率算出部103と、算出した時間占有率に基づいて、無線LAN端末毎に最大スループットを推定する最大スループット推定部105と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線LAN(Local Area Network)ステーションまたは無線LANアクセスポイントである無線LAN端末のチャネル占有率を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、無線環境に応じて無線システムを制御するとき、無線環境の情報を得る手段が必要とされてきた。無線情報のうちの一つにスループットがある。無線LANのようにCSMA/CA(Carrier Sense Multipul Access/Collision Avoidance)によって、複数の端末がチャネルを共有するシステムでは、CSMA/CAにより、各端末が利用可能な時間率が動的に変化するため、パケットを送出せずにスループットを推定するためには、CSMA/CAの動作を予測することが必要となる。従来は、CSMA/CAによる占有率の分け合いがすべての端末で同一であるとする方法や、チャネル占有率の余剰を、すべて新規に通信を開始する端末が使用できる、と仮定する方法などが採用されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−049588号公報
【特許文献2】特表2007−510358号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】石井健一、大澤智喜,”無線LANシステムのマルチセル環境におけるスループットの理論検討”、電子情報通信学会誌.B、通信1344697、2003-03-25、p.267-275
【非特許文献2】David Malone; Ken Duffy; Doug Leith; , "Modeling the 802.11 Distributed Coordination Function in Nonsaturated Heterogeneous Conditions," Networking, IEEE/ACM Transactions on , vol.15, no.1, pp.159-172, Feb. 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の技術を用いることによって、無線LANチャネル毎の時間軸で見たときのチャネルの使用率(チャネル占有率)を算出することが可能である。また、占有率の計算をチャネル単位ではなく、無線LAN端末毎に行なうことによって、端末毎の占有率を算出可能である。しかし、この値はある端末がどの程度の時間、チャネルを使用したかを表す値であり、スループット推定技術とは直結しない。また、CSMA/CAが複数端末のチャネル共有のために用いられている無線システムでは端末間が自律分散的に送信するパケットが衝突しないように制御を行なう。その結果、チャネル占有率の余剰と新規に通信を開始する端末が期待できるスループットとは直接関連していない。
【0006】
また、特許文献2では、アクセスポイント選択に関する技術が述べられているが、選択基準となる情報の送信が必要であり、既存の無線LANアクセスポイントをそのまま利用することができない。また、選択基準となる情報を利用した具体的なアクセスポイント選択プロセスについて述べられていない。
【0007】
また、非特許文献1および2においては、CSMA/CAを用いる無線システムのスループットが理論的に計算されている。非特許文献1においては、ある無線LANアクセスポイントに接続する端末のトータルスループットの導出が為されている。しかし、ある無線LAN端末が、新たに通信を開始する際に、期待できる最大スループットの推定に用いることができない。また、キャリア検出率やパケット衝突率といったパラメータは、スループット計算のために動的に無線品質が変動する実環境では求めることができないが、非特許文献1では、キャリア検出率やパケット衝突率といったパラメータを用いている。
【0008】
また、非特許文献2においても、無線LAN端末のパケット送信が特定の分布に従うことがわかっていることが前提であるなど、実環境上では得ることができない情報をもとに理論計算が為されているため、実環境においてスループットを推定する技術として利用することができない。
【0009】
このように、従来の技術では、時間変動する無線環境に応じて、新規に通信を開始する端末に関して、無線LANアクセスポイント毎に、最大スループット推定を行なうことができないという課題がある。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、無線LANステーションまたは無線LANアクセスポイントである無線LAN端末のチャネル占有率を測定し、CSMA/CAの動作を考慮した精度の高いスループットを推定することができる無線LANセンシング装置、無線LANステーションおよびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の無線LANセンシング装置は、無線LAN(Local Area Network)ステーションまたは無線LANアクセスポイントである無線LAN端末のチャネル占有率を測定する無線LANセンシング装置であって、前記無線LAN端末からパケットを受信する無線LANモジュールと、前記受信したパケットのヘッダ情報に基づいて、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出する占有率算出部と、前記算出した時間占有率に基づいて、前記無線LAN端末毎に最大スループットを推定する最大スループット推定部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
このように、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出し、算出した時間占有率に基づいて、無線LAN端末毎に最大スループットを推定するので、パケット送信を行なうことなく、CSMA/CAの動作を考慮した精度の高いスループットを推定することが可能となる。
【0013】
(2)また、本発明の無線LANセンシング装置は、無線LAN以外の無線システムの信号を受信する無線モジュールと、前記推定した無線LAN端末毎の最大スループットの最大値と前記無線LAN以外の無線システムの期待スループットとを比較する推定スループット比較部と、前記比較の結果に応じて、前記無線LANモジュールまたは前記無線LAN以外の無線システムの無線モジュールのいずれか一方を選択する使用モジュール制御部と、をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
この構成により、マルチモード端末に適用し、無線LANモジュールまたは無線LAN以外の無線システムの無線モジュールのいずれか一方を選択することが可能となる。
【0015】
(3)また、本発明の無線LANセンシング装置において、前記最大スループット推定部は、通信可能な無線LAN端末数の増加に伴って、推定する最大スループットの値を減少させることを特徴とする。
【0016】
このように、通信可能な無線LAN端末数の増加に伴って、推定する最大スループットの値を減少させるので、スループットの推定を正確に行なうことが可能となる。
【0017】
(4)また、本発明の無線LANセンシング装置において、前記最大スループット推定部は、αを、0<α≦1とし、ThroughputMAXを、1組の無線LAN端末のみがチャネルを占有した時に得られるスループットとし、チャネル占有率を、前記1組の無線LAN端末がチャネルを占有する占有率の総和としたときに、前記最大スループットを、α×ThroughputMAX×(1−チャネル占有率)を用いて推定することを特徴とする。
【0018】
この構成により、計算量の増加を防止し、処理速度の向上を図ることが可能となる。
【0019】
(5)また、本発明の無線LANセンシング装置は、前記無線LANパケットのみに基づいて推定した最大スループットの値と、実際にパケットを送信することで測定したスループットの値とを比較し、前記無線LAN以外の無線システムから送信された信号に基づく干渉を検出することを特徴とする。
【0020】
この構成により、無線LANモジュールのみを利用した非無線LAN検知が可能となる。
【0021】
(6)また、本発明の無線LANステーションは、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の無線LANセンシング装置を備えた無線LANステーションであって、通信可能な無線LANアクセスポイント毎に最大スループットを推定し、推定した最大スループットが最も高い無線LANアクセスポイントに接続することを特徴とする。
【0022】
この構成により、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出し、算出した時間占有率に基づいて、無線LAN端末毎に最大スループットを推定するので、パケット送信を行なうことなく、CSMA/CAの動作を考慮した精度の高いスループットを推定することが可能となる。
【0023】
(7)また、本発明の無線LANステーションは、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の無線LANセンシング装置を備えた無線LANステーションであって、通信可能な無線LANアクセスポイント毎に最大スループットを推定し、所望のスループットが得られる無線LANアクセスポイントを発見した段階で、最大スループットの推定を中止し、前記発見した無線LANアクセスポイントに接続することを特徴とする。
【0024】
この構成により、必要最低限の計算量でスループットの推定を行なうことが可能となる。
【0025】
(8)また、本発明の無線LANステーションは、無線LANアクセスポイントと通信を行なう無線LANステーションであって、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の無線LANセンシング装置が推定した無線LANアクセスポイント毎の最大スループットを取得し、取得した最大スループットが最も高い無線LANアクセスポイントに接続することを特徴とする。
【0026】
この構成により、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出し、算出した時間占有率に基づいて、無線LAN端末毎に最大スループットを推定するので、パケット送信を行なうことなく、CSMA/CAの動作を考慮した精度の高いスループットを推定することが可能となる。
【0027】
(9)また、本発明のプログラムは、無線LAN(Local Area Network)ステーションまたは無線LANアクセスポイントである無線LAN端末のチャネル占有率を測定する無線LANセンシング装置のプログラムであって、前記無線LAN端末からパケットを受信する処理と、前記受信したパケットのヘッダ情報に基づいて、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出する処理と、前記算出した時間占有率に基づいて、前記無線LAN端末毎に最大スループットを推定する処理と、の一連の処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【0028】
この構成により、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出し、算出した時間占有率に基づいて、無線LAN端末毎に最大スループットを推定するので、パケット送信を行なうことなく、CSMA/CAの動作を考慮した精度の高いスループットを推定することが可能となる。
【0029】
(10)また、本発明のプログラムは、無線LAN以外の無線システムで信号を受信する処理と、前記推定した無線LAN端末毎の最大スループットの最大値と前記無線LAN以外の無線システムの期待スループットとを比較する処理と、前記比較の結果に応じて、無線LANモジュールまたは無線LAN以外の無線システムの無線モジュールのいずれか一方を選択する処理と、をさらに含むことを特徴とする。
【0030】
この構成により、マルチモード端末に適用し、無線LANモジュールまたは無線LAN以外の無線システムの無線モジュールのいずれか一方を選択することが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出し、算出した時間占有率に基づいて、無線LAN端末毎に最大スループットを推定するので、パケット送信を行なうことなく、CSMA/CAの動作を考慮した精度の高いスループットを推定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】無線LANセンシング装置としての占有率センシング端末の概略構成を示すブロック図である。
【図2】占有率センシング端末の動作を示すシーケンスチャートである。
【図3】無線LANセンシング装置としてのマルチモードタイプの占有率センシング端末の概略構成を示すブロック図である。
【図4】マルチモードタイプの占有率センシング端末の動作を示すシーケンスチャートである。
【図5】占有率センシング端末の動作を示すフローチャートである。
【図6】チャネルを共有する端末台数の増加に伴いトータルスループットが低下することを示す実験結果を示す図である。
【図7】実験で得たスループットと、本実施形態に係る占有率センシング端末が用いる推定スループット計算フローにより推定したスループットを比較した結果を示す図である。
【図8】実験環境の模式図を示す図である。
【図9】実施例1に係るシステム構成を示す図である。
【図10】複数の無線システムに対応するマルチモード端末を含むシステムの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、無線LANセンシング装置としての占有率センシング端末の概略構成を示すブロック図である。この占有率センシング端末100は、周辺の無線LANパケットをキャプチャし、占有率を計算する無線LAN端末のことを意味する。無線LANアンテナ101を有しており、無線LANモジュール102が無線LANの制御を行なう。占有率算出部103は、無線LANモジュール102でキャプチャしたデータから、無線LANチャネル毎の時間占有率を計算する。占有率情報蓄積部104は、占有率算出部103で計算した、端末毎の占有率の値を格納する。また、降順でソートをし、その結果のリストを保持する。最大スループット推定部105は、占有率情報蓄積部104を参照し、後述する処理を実行して、占有率センシング端末100が、無線LANアクセスポイント毎に、その無線LANアクセスポイントを用いて通信を開始した際に期待されるスループットの最大値を求める。
【0034】
図2は、占有率センシング端末の動作を示すシーケンスチャートである。無線LANモジュール102は、無線LANアンテナ101で受信した無線信号から、無線LANパケット情報を取得し、占有率算出部103へ出力する(ステップS1)。占有率算出部103は、無線LANモジュール102から入力された無線LANパケット情報に基づいて、無線LANチャネル毎の時間占有率を計算し、計算した時間占有率を占有率情報蓄積部104に格納する(ステップS2)。最大スループット推定部105は、占有率情報蓄積部104に対して、占有率情報を要求する(ステップS3)。占有率情報蓄積部104は、格納している占有率情報を最大スループット推定部105に出力する(ステップS4)。最大スループット推定部105は、占有率情報に基づいて、占有率情報に基づいて、無線LANの推定スループットを推定し、接続対象とすべき無線LANアクセスポイントを出力する(ステップS5)。
【0035】
図3は、無線LANセンシング装置としてのマルチモードタイプの占有率センシング端末の概略構成を示すブロック図である。図1と同じ構成要素には同じ番号を付して、重複する説明を省略する。図3に示す占有率センシング端末300は、最大スループット推定を無線LANアクセスポイントに対して行なって得られた情報と、異なる無線システムについて得られているスループットの情報とを比較することによって、最も高いスループットが期待できる無線システムを用いて通信を行なう。ここでは、異なる無線システムとして、セルラシステムを例にとって説明する。
【0036】
セルラアンテナ301を介して、セルラモジュール302がセルラシステムの制御を行なう。推定スループット比較部303は、周辺の無線LANアクセスポイント毎に計算される期待スループットの最高値と、セルラ網の期待スループットとを比較し、その比較結果を使用モジュール制御部304に通知する。使用モジュール制御部304は、推定スループット比較部303から通知された情報に基づいて、使用する無線システムを無線LANもしくはセルラシステムのいずれかに切り替え、パケットのルーティングを行なう。
【0037】
図4は、マルチモードタイプの占有率センシング端末の動作を示すシーケンスチャートである。無線LANモジュール102は、無線LANアンテナ101で受信した無線信号から、無線LANパケット情報を取得し、占有率算出部103へ出力する(ステップS10)。占有率算出部103は、無線LANモジュール102から入力された無線LANパケット情報に基づいて、無線LANチャネル毎の時間占有率を計算し、計算した時間占有率を占有率情報蓄積部104に格納する(ステップS11)。最大スループット推定部105は、占有率情報蓄積部104に対して、占有率情報を要求する(ステップS12)。占有率情報蓄積部104は、格納している占有率情報を最大スループット推定部105に出力する(ステップS13)。最大スループット推定部105は、占有率情報に基づいて、無線LANの推定スループットを推定し、推定結果を推定スループット比較部303へ出力する(ステップS14)。
【0038】
一方、セルラモジュール302は、セルラシステムにおける推定スループットを、推定スループット比較部303に出力する(ステップS15)。推定スループット比較部303は、周辺の無線LANアクセスポイント毎に計算される期待スループットの最高値と、セルラ網の期待スループットとを比較し、その比較結果を使用モジュール制御部304に出力する(ステップS16)。使用モジュール制御部304は、推定スループット比較部303から通知された情報に基づいて、使用する無線システムを無線LANもしくはセルラシステムのいずれかに切り替え、パケットのルーティングを行なう。
【0039】
次に、占有率センシング端末の動作の概念を説明する。占有率センシング端末は、スループット推定時に、以下のように動作する。占有率センシング端末は、最大スループットを推定するために、周辺の端末が送受信する無線LANパケットをキャプチャする。キャプチャしたパケットのヘッダ情報から、無線LAN端末毎に占有率を計算する。ここで、無線LAN端末には、無線LANアクセスポイント、および無線LANステーション(子機)の両方を含む。計算された端末毎の占有率の値は、占有率データベースに保存する。
端末ごとの占有率データを、占有率の値で降順にソートする。
【0040】
端末ごとの占有率データを用いて図5に示すフローチャートを実行することによって周辺アクセスポイント毎に、期待できるスループットを推定する。Nは新規端末が通信を開始する以前に通信を行なった端末の台数である。ThroughputMAXの値は、ある無線環境において、無線LANアクセスポイントと無線LANステーションが1組あるとしたとき、周辺にチャネルを共有する端末が存在せず、1組の端末がチャネルを占有したときに得られるスループットを意味する。具体的な値については、無線LANアクセスポイントと、無線LANステーションとの間の距離、および、無線LANで用いられる通信規格に依存して決まる。
【0041】
αは、チャネルを共有する端末台数に依存して決まる値であり、0<α≦1である。端末台数の増加に伴って、CSMA/CAのバックオフ時間の最大値の増加や、パケット衝突によりデータパケットの再送が増加するなどによって、あるチャネルでのトータルスループットが低下することがあるため、αを推定スループット算出式に導入することによってこの影響を考慮する。
(1)端末台数とαの対応関係をテーブルデータとする。
(2)端末台数をパラメータとするαの値を定める関数を用いる。
【0042】
図5は、占有率センシング端末の動作を示すフローチャートである。まず、パラメータKを0とする(ステップS50)。次に、無線LAN端末毎にチャネル占有率を測定する(ステップS51)。次に、無線LAN端末とその占有率を降順でソートする(ステップS52)。次に、1から無線LAN端末毎の占有率の総和を減算し(ステップS53)、K=Nであるかどうかを判断する(ステップS54)。ステップS54において、K=Nである場合は、ステップS60へ遷移する。一方、ステップS54において、K=Nでない場合は、Kに1を加算して(ステップS55)、占有率の総和を計算する(ステップS56)。次に、ステップS57の数式を満たすかどうかを判断し、満たさない場合は、ステップS58へ遷移して、推定スループットを算出し、終了する。一方、ステップS57の数式を満たす場合は、ステップS59の数式を満たすかどうかを判断する(ステップS59)。ステップS59の数式を満たさない場合は、ステップS54へ遷移する。一方、ステップS59の数式を満たす場合は、ステップS60に遷移して、推定スループットを算出し、終了する。
【0043】
図6は、チャネルを共有する端末台数の増加に伴いトータルスループットが低下することを示す実験結果を示す図である。この実験は、無線LANアクセスポイント、無線LANステーションそれぞれ1台の組が、2組/4組/8組あるときで行なっている。CSMA/CAは、同じチャネルを利用する端末間で動作する。よって同じチャネルを使う無線LANアクセスポイントが複数あったときに、期待されるスループットに影響を与える2種類のデータのうちの1つである、端末毎の占有率の値のリストは、同じチャネルであるために各AP(アクセスポイント)で等しいリストを持つことになる。よって、各無線LANアクセスポイントに対して図5のフローチャートに従うスループット推定を行なったとき、各無線LANアクセスポイントにおいて得られる推定スループットの値は、α×ThroughputMAXに依存して決まる。無線LANステーションは、最も高いスループットが期待されるアクセスポイント、もしくは無線システムを選択し、通信を開始する。
【0044】
図7は、実験で得たスループットと、本実施形態に係る占有率センシング端末が用いる推定スループット計算フローにより推定したスループットを比較した結果を示す図である。図8は、このときの実験環境の模式図を示す図である。まず、無線LANアクセスポイントと無線LAN端末(ステーション)との4台が通信を行なう。このとき、それぞれの端末の占有率を変化させ、8通りのパターンを用意した。それぞれのパターンにおいて、4台の通信の状況から推定スループットを計算し、その値と、実際にスループット推定端末が通信を行なったときのスループットの値とを比較したものである。図8に示すように、本実施形態における占有率センシング端末が推定した推定値は、実測値に近い数値を採ることが認められる。
【実施例1】
【0045】
図9は、実施例1に係るシステム構成を示す図である。図9では、複数の無線LANアクセスポイントから期待スループットが最も高いアクセスポイントを選択する様子を示している。占有率センシング端末は、自らが利用可能な無線LANアクセスポイント毎に、期待スループットを推定し、最も高いスループットが期待できる無線LANアクセスポイントに接続し通信を開始する。スループットの推定は、無線LANステーションが行なっても、無線LANステーション以外の無線LANアクセスポイントや推定スループット計算専用の端末が行なっても良い。無線LANステーションスループットの推定を行なう場合には、スループット推定は、無線LANステーション内部の処理で完結する。無線LANアクセスポイントでスループットの推定を行なう場合には、無線LANアクセスポイントに、無線LANステーションは、
(1)利用可能な無線LANアクセスポイントとの距離に関する情報を、推定スループット計算を実行する端末に通知すること、
(2)推定スループット計算を行なう端末から結果を受信すること、が必要となる。また、無線LANステーションが、端末毎の占有率のリストのみを受け取りそのほかの処理を内部で行なう実装でもよい。
【実施例2】
【0046】
図10は、複数の無線システムに対応するマルチモード端末を含むシステムの構成を示す図である。マルチモード端末は、無線LANモジュールおよびセルラシステムのモジュールの両方を備え、どちらの無線システムも利用できる。セルラシステムの期待スループットの値は、セルラモジュールから得られるものとする。無線LANのアクセスポイント毎にスループットを推定し、その最大値とセルラシステムの期待スループットを比較する。マルチモード端末は、より高いスループットを期待することができる無線システムを選択し、通信を開始する。実施例2は、実施例1と同時に実行してもよい。
【実施例3】
【0047】
図5に示したスループット推定のフローでは、無線LAN端末毎の占有率を基準にしたリストのソーティングなど、計算量が大きい処理が必要になる。そこでチャネル毎の占有率(同じチャネルを共有する端末毎の占有率の総和)からそれぞれの無線LANアクセスポイントに対して、スループットを以下の式で推定し計算量の削減を図る。
(推定スループット)= α×ThroughputMAX×(1 - チャネル占有率)
【0048】
チャネル占有率は、スループット推定の対象となっている無線LANアクセスポイントが使用するチャネルにおける、端末毎の占有率の総和を意味する。チャネル占有率の値が小さいときには、CSMA/CAによる端末間でのチャネル共有が生じる機会が少ないことから、この方式は、特にチャネル占有率が小さいときに有効であると言える。
【実施例4】
【0049】
無線LANステーションが、接続先の無線LANアクセスポイントを探索するプロセスにおいて、所望のスループットの値を無線LANステーションが持ち、無線LANアクセスポイント探索時に所望のスループットを満たす無線LANアクセスポイントが見つかった段階でそのアクセスポイントに接続することにより、無線LANアクセスポイント探索にかかる時間を短縮する。複数ある無線LANアクセスポイントからどの順に期待できるスループットを推定する手順を実行するかについては、例えば、アクセスポイントを1台の子機で占有した場合に期待できるスループットが大きい、無線LANアクセスポイントから送信する信号の強度が高いものから順に推定スループット計算を実行する、ということが考えられる。
【実施例5】
【0050】
無線LANパケットのみから推定される最大スループットを、実際にパケット送信を開始して測定した、実スループットとの間で比較することにより、非無線LAN端末による干渉の有無を検知することが可能となる。無線LANパケットのみから推定されるスループットよりも、実スループットが低い場合、非無線LAN端末が送受信する信号の干渉が発生していると考えることができる。その結果、無線LANモジュールのみを利用した非無線LAN検知が可能となる。
【実施例6】
【0051】
本発明のスループット推定手法は、無線LAN以外の無線方式であっても、CSMA/CAを使用して、複数の端末がチャネルを共有する無線方式であり、かつ、端末毎のチャネル占有率を算出する手法が存在すれば、それと組み合わせることにより、異なる無線システムにも適用可能である。
【0052】
以上説明したように、本実施形態によれば、実環境において、パケット送信を行なうことなく、周辺環境で送受信する無線LANパケットをキャプチャすることのみにより、CSMA/CA動作を考慮した、精度の高い、期待スループットを推定することが可能になる。それにより、無線LAN端末は、高いスループットが期待できるアクセスポイント、もしくは、無線方式を選択することが可能となる。
【符号の説明】
【0053】
100 占有率センシング端末
101 無線LANアンテナ
102 無線LANモジュール
103 占有率算出部
104 占有率情報蓄積部
105 最大スループット推定部
300 占有率センシング端末
301 セルラアンテナ
302 セルラモジュール
303 推定スループット比較部
304 使用モジュール制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線LAN(Local Area Network)ステーションまたは無線LANアクセスポイントである無線LAN端末のチャネル占有率を測定する無線LANセンシング装置であって、
前記無線LAN端末からパケットを受信する無線LANモジュールと、
前記受信したパケットのヘッダ情報に基づいて、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出する占有率算出部と、
前記算出した時間占有率に基づいて、前記無線LAN端末毎に最大スループットを推定する最大スループット推定部と、を備えることを特徴とする無線LANセンシング装置。
【請求項2】
無線LAN以外の無線システムの信号を受信する無線モジュールと、
前記推定した無線LAN端末毎の最大スループットの最大値と前記無線LAN以外の無線システムの期待スループットとを比較する推定スループット比較部と、
前記比較の結果に応じて、前記無線LANモジュールまたは前記無線LAN以外の無線システムの無線モジュールのいずれか一方を選択する使用モジュール制御部と、をさらに備えることを特徴とする請求項1記載の無線LANセンシング装置。
【請求項3】
前記最大スループット推定部は、通信可能な無線LAN端末数の増加に伴って、推定する最大スループットの値を減少させることを特徴とする請求項1または請求項2記載の無線LANセンシング装置。
【請求項4】
前記最大スループット推定部は、
αを、0<α≦1とし、
ThroughputMAXを、1組の無線LAN端末のみがチャネルを占有した時に得られるスループットとし、
チャネル占有率を、前記1組の無線LAN端末がチャネルを占有する占有率の総和としたときに、
前記最大スループットを、
α×ThroughputMAX×(1−チャネル占有率)
を用いて推定することを特徴とする請求項1または請求項2記載の無線LANセンシング装置。
【請求項5】
前記無線LANパケットのみに基づいて推定した最大スループットの値と、実際にパケットを送信することで測定したスループットの値とを比較し、前記無線LAN以外の無線システムから送信された信号に基づく干渉を検出することを特徴とする請求項1または請求項2記載の無線LANセンシング装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の無線LANセンシング装置を備えた無線LANステーションであって、
通信可能な無線LANアクセスポイント毎に最大スループットを推定し、推定した最大スループットが最も高い無線LANアクセスポイントに接続することを特徴とする無線LANステーション。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の無線LANセンシング装置を備えた無線LANステーションであって、
通信可能な無線LANアクセスポイント毎に最大スループットを推定し、所望のスループットが得られる無線LANアクセスポイントを発見した段階で、最大スループットの推定を中止し、前記発見した無線LANアクセスポイントに接続することを特徴とする無線LANステーション。
【請求項8】
無線LANアクセスポイントと通信を行なう無線LANステーションであって、
請求項1から請求項5のいずれかに記載の無線LANセンシング装置が推定した無線LANアクセスポイント毎の最大スループットを取得し、取得した最大スループットが最も高い無線LANアクセスポイントに接続することを特徴とする無線LANステーション。
【請求項9】
無線LAN(Local Area Network)ステーションまたは無線LANアクセスポイントである無線LAN端末のチャネル占有率を測定する無線LANセンシング装置のプログラムであって、
前記無線LAN端末からパケットを受信する処理と、
前記受信したパケットのヘッダ情報に基づいて、無線LAN端末毎にチャネルの時間占有率を算出する処理と、
前記算出した時間占有率に基づいて、前記無線LAN端末毎に最大スループットを推定する処理と、の一連の処理をコンピュータに実行させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
無線LAN以外の無線システムで信号を受信する処理と、
前記推定した無線LAN端末毎の最大スループットの最大値と前記無線LAN以外の無線システムの期待スループットとを比較する処理と、
前記比較の結果に応じて、無線LANモジュールまたは無線LAN以外の無線システムの無線モジュールのいずれか一方を選択する処理と、をさらに含むことを特徴とする請求項9記載のプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−78083(P2013−78083A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218276(P2011−218276)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、総務省、「電波資源拡大のための研究開発(異種無線システム動的利用による信頼性向上技術の研究開発)」
【出願人】(599108264)株式会社KDDI研究所 (233)
【Fターム(参考)】