説明

無菌充填装置用過酸化水素水

【課題】噴霧ノズル、蒸発機に付着残存し、ノズルなどの細い配管部を閉塞させることなく、無菌飲料用容器充填装置の安定した運転が可能で且つ安全な無菌充填装置用過酸化水素水を提供する。
【解決手段】 無菌充填装置に導入される、加熱蒸発させて使用する過酸化水素水であって、当該過酸化水素水中に添加する安定剤が、ピロリン酸ナトリウム及びオルトリン酸からなり、その全添加量が40ppm以下とすることを特徴とする無菌充填装置用過酸化水素水。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酸化水素水を加熱蒸発させた後、無菌飲料用容器充填装置に導入する方法において、当該過酸化水素水中に添加する安定剤、不純物を極力低減し、添加成分を制限することを特徴とする無菌充填装置用過酸化水素水に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、飲料などの内容物を無菌充填する装置の発達は、PETボトルの普及と相まって、無菌充填に使用する殺菌剤も取り扱いに優れたものが求められるようになってきた。殺菌剤として、過酸化水素水を使用する場合、過酸化水素水を蒸発機で沸点以上に加熱気化し、空気と共に過酸化水素の気体を噴霧して容器を殺菌する方法が知られている(特許文献1参照)。しかしながら、過酸化水素水に添加されている安定剤の一部が、噴霧ノズル、蒸発機に付着残存し、細い配管部を閉塞させ、無菌飲料用容器充填装置の安定した運転を阻害するなどの問題がある。
【0003】
過酸化水素水に添加する安定剤量は、過酸化水素水に含有する分解成分量に応じて添加量を決める必要がある。例えば、分解成分含有量が、0.01ppb以下レベルの半導体グレード過酸化水素水においては、安定剤を全く添加しなくても過酸化水素水の安定性は維持され、且つ加熱蒸発させた後の残渣物はほとんど残存しないレベルの0.5ppm以下となる。
【0004】
このような半導体グレード過酸化水素水を使用することにより、噴霧ノズル、蒸発機に付着残存し、細い配管部を閉塞させ、無菌飲料用容器充填装置の安定した運転を阻害する問題は解決されることとなるが、半導体グレード過酸化水素水は、出荷、輸送、受入設備などの高級材質の使用、取り扱いの管理などのコストを必要とする。
【特許文献1】特開平11−47242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術における上記したような課題を解決し、無菌飲料用容器充填装置の安定した運転が可能で且つ安全な無菌充填装置用過酸化水素水を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、過酸化水素水の安定剤添加量、安定剤成分と蒸発残分、含有不純物、安定性などについて鋭意研究を重ねた結果、安定剤成分を食品添加物の指定添加物の無機リン酸塩とし、特定の安定剤添加量を40ppm以下の添加量で過水分解性不純物を5ppb以下とすれば、噴霧ノズル、蒸発機に付着残存し、ノズルなどの細い配管部を閉塞させることなく、無菌飲料用容器充填装置の安定した運転が可能な無菌充填装置用過酸化水素水を提供しうることを見出し本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、無菌充填装置に導入される、加熱蒸発させて使用する過酸化水素水であって、当該過酸化水素水中に添加する安定剤が、ピロリン酸ナトリウム及びオルトリン酸からなり、その全添加量が40ppm以下とすることを特徴とする無菌充填装置用過酸化水素水に関するものであり、さらに、該過酸化水素水を加熱蒸発させ、過酸化水素蒸気を用いる無菌充填装置の殺菌方法に関するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、過酸化水素水に添加されている安定剤の一部が、噴霧ノズル、蒸発機に付着残存し、ノズルなどの細い配管部を閉塞させることなく、無菌飲料用容器充填装置の安定した運転が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明では、半導体グレードではない過酸化水素水を使用することができる。この場合、厚生労働省より安全性、有効性が確認されている食品添加物の指定添加物として登録されている食品添加グレードを用いることが好ましい。そして、含有する分解成分量に応じて、安定剤添加量を設定する事により、無菌飲料用容器充填装置に使用する殺菌剤用過酸化水素水を設計することが必要となる。
【0010】
過酸化水素水の分解成分としては、重金属類が知られているが、工業的に製造する過酸化水素水に含有する分解成分としては、Fe、Cr、Ni、Pdにほぼ限定される。本発明者らは、Ni、Pdを0.1ppb以下とし、Fe、Cr濃度を5ppb以下とした過酸化水素水を使用する。
【0011】
過酸化水素水の安定剤としては、厚生労働省より安全性、有効性が確認されている食品添加物の指定添加物として登録されているピロリン酸ソーダ、及びオルトリン酸であり、その他の安定剤は認められていない。
【0012】
安定剤添加量としては、出来るだけ少ない方が好ましいが、汎用の過酸化水素水に含有する過酸化水素分解成分と細い配管部の閉塞を考慮し、40ppm以下が好ましい。40ppmを超えると無菌充填室に噴霧する噴霧ノズルが、殺菌剤の過酸化水素水に含有する安定剤による閉塞が頻発し、付着物の除去作業が増加することになり、無菌飲料用容器充填装置の安定した運転に支障を来すことになる。
【0013】
本発明の過酸化水素水を加熱蒸発させる装置は、特に制限はなく公知の装置を用いることができる。
【実施例】
【0014】
次に、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
【0015】
実施例1〜5、比較例1〜2
所定の過酸化水素水を用い、過酸化水素濃度35重量%に調整した。安定剤の所定量を添加し、Fe、Cr濃度、JIS安定度、蒸発残分濃度の測定を行った。Fe、Cr濃度の測定には、原子吸光装置を用いた。JIS安定度、蒸発残分濃度の測定は、JIS K−1463に規定された方法で行った。
【0016】
【表1】

PDTP:プロパンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無菌充填装置に導入される、加熱蒸発させて使用する過酸化水素水であって、当該過酸化水素水中に添加する安定剤が、ピロリン酸ナトリウム及びオルトリン酸からなり、その全添加量が40ppm以下とすることを特徴とする無菌充填装置用過酸化水素水。
【請求項2】
過酸化水素水中の過酸化水素分解成分である不純物量が5ppb以下であることを特徴とする請求項1記載の過酸化水素水。
【請求項3】
請求項1記載の過酸化水素水を加熱蒸発させ、過酸化水素蒸気を用いる無菌充填装置の殺菌方法。

【公開番号】特開2006−240969(P2006−240969A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62828(P2005−62828)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】