説明

無電池電源回路

【課題】 より遠い位置からの微弱電波による入力でも小型携帯機器を駆動可能な無電池電源回路を提供する。
【解決手段】 入力端子の一方のノードnGNDと出力端子の一方のノードnVDDとの間に整流素子としてゲート端子とドレイン端子とが接続(短絡)された電界効果トランジスタTが同方向に直列接続されている。そして、隣接する整流素子間のノードn1,n3,…のそれぞれと入力端子の一方のノードnGNDとの間に、コンデンサC+が接続される一方、隣接する整流素子間のノードn2,n4,…のそれぞれと入力端子の他方のノードnVinとの間にコンデンサC−が接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグ、補聴器、腕時計等の小型携帯機器の電源として使用可能な無電池電源回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から自身に電池等の電源を保持することなく、周囲の電磁波等の微小電力を用いてICタグ(RFIDタグ等)、補聴器、腕時計等の小型携帯機器を駆動させるための無電池電源回路が公知である(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
このような無電池電源回路は、整流素子およびコンデンサを多段的に備え、電磁波等を受信するアンテナから入力される微小な電磁波電力(交流)を受信し、当該小型携帯機器を駆動可能とする電圧(直流)まで昇圧する。このため、無電池電源回路としては、これまで昇圧回路として公知のシェンケル回路やコッククロフト−ウォルトン回路を流用している。通常これらの回路の整流素子としては、PN接合ダイオードが広く用いられている。
【0004】
しかし、PN接合ダイオードを用いた場合、入力される信号の振幅は少なくとも200mV程度必要である。というのも、PN接合ダイオードにおいては、順方向バイアスによる整流効果を得るためには、PN接合の拡散電位以上の電圧が必要となるからである。一方、実用性を考慮して10mくらい離れた場所から発信した電波(例えば、商用無認可発信源等からの電波)をICタグ等に設けられたアンテナで受信すると仮定すると、無電池電源回路に入力される入力信号振幅は10mV程度である。したがって、従来のPN接合を用いた昇圧回路を用いた無電池電源回路は、電波発生源が当該小型携帯機器に非常に近い場所にある場合にしか駆動せず、実用的でないという問題があった。
【0005】
これを解決するために、非特許文献2に記載のように、整流素子としてショットキーバリアダイオード(SBD)を適用したものがある。これにより、PN接合ダイオードより立ち上がり電圧を低減させ100mV程度の入力電圧で駆動させることができる。
【非特許文献1】ウドーカーサウス、IEEE会員およびマーティンフィッシャー(Udo Karthaus,Member,IEEE,and Martin Fischer)「16.7μWの最小RF入力における完全に統合された受動的UHF RFIDトランスポンダーIC(Fully Integrated Passive UHF RFID Transponder IC With 16.7-μW Minimum RF Input Power)」(米国)IEEE固体回路ジャーナル(IEEE JOURNAL OF SOLID-STATE CIRCUITS) VOL.38,NO.10,OCTOBER 2003,P1602-1608
【非特許文献2】深尾嘉広、村上昌之、今田晴彦、辻浩輔、青木浩二、安井清、平山悟「RFIDシステムの開発」日立超LSI技報,第6巻,pp.13-19,2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、このような従来の回路では、以下のように、依然として解決できない問題があった。まず、非特許文献2のように整流素子としてSBDを用いた場合には、100mV程度の立ち上がり電圧をより低電圧(上記の10mV程度)にしようとすると逆方向電流も上昇(マイナス側に)してしまうこととなり、整流効果が得られなくなってしまう(昇圧回路として使用できない)問題があった。また、より大きな装置に用いるためにはより高い出力電圧が求められるが、上記のような従来の回路では、効率がよくないという問題もあった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題点を解決するべくなされたもので、より遠い位置からの微弱電波による入力でもより大きな小型携帯機器を駆動可能な無電池電源回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る無電池電源回路は、入力端子の一方のノードと出力端子の一方のノードとの間に同方向に直列接続された複数の整流素子と、隣接する整流素子間のノードのそれぞれに一端が接続された複数のコンデンサとを有し、前記コンデンサの他端は、それぞれ前記入力端子の一方のノードまたは入力端子の他方のノードに、一連の前記隣接する整流素子間のノードの順に交互に接続される無電池電源回路であって、前記整流素子としてゲート端子とドレイン端子とを接続するとともに、ソース端子と基板端子とを接続した電界効果トランジスタを適用するものである。
【0009】
上記構成に係る無電池電源回路によれば、入力端子の一方のノードと出力端子の一方のノードとの間に整流素子としてゲート端子とドレイン端子とが接続(短絡)された電界効果トランジスタが同方向に直列接続されている。そして、隣接する整流素子間のノードには、入力端子の一方のノードに接続されるコンデンサと、入力端子の他方のノードに接続されるコンデンサとが交互に接続される。これにより、入力された電力に基づいて、電流が整流素子により整流されるとともに、入力端子の一方のノードに接続されたコンデンサと他方のノードに接続されたコンデンサとのコンデンサ容量の比により小型携帯機器を駆動可能な電圧まで昇圧する。
【0010】
ここで、電界効果トランジスタは、ゲート端子およびドレイン端子が接続された端子とソース端子および基板端子が接続された端子との二端子素子として構成することで、ダイオードのような整流特性を獲得する。しかも、微小電圧領域において電界効果トランジスタを流れる電流は指数関数的な振る舞いを見せるため、立ち上がり電圧を低電圧側にシフトさせても整流効果を維持するばかりか逆方向電流が指数関数的に減ることとなり、微小電圧領域において整流効果を高めることができる。
【0011】
したがって、このような特性の整流素子を用いることにより、立ち上がり電圧を10mV程度の低電圧にしても整流効果を高く維持し、昇圧効率をより高くすることができる。以上より、より遠い位置からの微弱電波による入力でもより大きな小型携帯機器を効率よく駆動させることができる。
【0012】
好ましくは、前記電界効果トランジスタは、基板中に絶縁層が設けられるように構成される。
【0013】
この場合、電界効果トランジスタの基板中に絶縁層が設けられることにより、ドレインおよびソースが絶縁層に接している。ここで、絶縁層のないFETにおいて出力信号振幅がある程度以上(0.5V程度以上)となる場合、ドレイン端子に正電圧と同じ強さの負電圧が印加されるため、ドレインから基板方向にPN接合における順方向電流が流れてしまう場合がある。このような電流が流れると有効な整流効果が望めず、本来の電圧昇圧効果が達成できない場合がある。したがって、電界効果トランジスタの基板中に絶縁層を設けることにより、ドレインから基板方向に向けての順方向電流を阻止することができ、本来の電圧昇圧効果をより確実に達成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る無電池電源回路によれば、立ち上がり電圧を10mV程度の低電圧にしても整流効果を高く維持し、昇圧効率をより高くすることができる。したがって、より遠い位置からの微弱電波による入力でもより大きな小型携帯機器を効率よく駆動させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明を実施するための最良の形態について説明する。図1は本発明の一実施形態に係る無電池電源回路の回路図である。
【0016】
本発明に係る無電池電源回路は、入力端子の一方のノードnGNDと出力端子の一方のノードnVDDとの間に同方向に直列接続された複数の整流素子と、隣接する整流素子間のノードn1,n2,n3,…のそれぞれに一端が接続された複数のコンデンサCとを有し、前記コンデンサCの他端は、それぞれ前記入力端子の一方のノードnGNDまたは入力端子の他方のノードnVinに、一連の前記隣接する整流素子間のノードn1,n2,n3,…の順に交互に接続される無電池電源回路である。そして、前記整流素子としてゲート端子gとドレイン端子dとを接続するとともにソース端子sと基板端子subとを接続した電界効果トランジスタTを適用するものである。本実施形態においては、図1において6つの電界効果トランジスタTを用いた3段の無電池電源回路を例示しているが、本発明はこれに限られるものではなく、入力電力および出力電圧(機器の駆動に必要な電圧)等によって種々構成可能である。
【0017】
上記構成に係る無電池電源回路によれば、入力端子の一方のノードnGNDと出力端子の一方のノードnVDDとの間に整流素子としてゲート端子とドレイン端子とが接続(短絡)された電界効果トランジスタTが同方向に直列接続されている。そして、隣接する整流素子間のノードn1,n3,…のそれぞれと入力端子の一方のノードnGNDとの間に、コンデンサC+が接続される一方、隣接する整流素子間のノードn2,n4,…のそれぞれと入力端子の他方のノードnVinとの間にコンデンサC−が接続される。これにより、入力された電力(入力電圧Vin)に基づいて、電流が電界効果トランジスタTにより整流されるとともに、入力端子の一方のノードnGNDに接続されたコンデンサC+と他方のノードnVinに接続されたコンデンサC−とのコンデンサ容量の比により小型携帯機器を駆動可能な電圧VDDまで昇圧する。
【0018】
ここで、電界効果トランジスタTの整流特性について説明する。図2は図1に用いられる電界効果トランジスタの概念図である。また、図3は図2の電界効果トランジスタの電圧−電流特性を示す図である。図3(b)は図3(a)の微小電圧領域を拡大し、電流を対数的に表したものである。なお、本実施形態においては、nチャネルMOSFETを例示するが、本発明はこれに限られず、pチャネル、nチャネルのいずれか一方を用いて構成すればよいが、組み合わせて構成することも可能である。また、上記MOSFETを構成する材料は特に限定されることはないが、シリコン(Si)を基板材料として用いることがコストおよび安定性の面で好ましい。
【0019】
図2に示すように、本実施形態で採用される電界効果トランジスタTは、ゲート端子gおよびドレイン端子dが接続されている(同電位Vd=Vgとなる)。一方、ソース端子sおよび基板端子subが接続されている。このような電界効果トランジスタT単体の電圧−電流特性は、図3(a)に示すようにゲート端子とドレイン端子とが接続されることにより整流特性を獲得する。したがって、ダイオードのような整流素子として用いることができる。しかも、図3(a)に比較例として示すPN接合ダイオードに比べて十分に低い微小電圧領域に立ち上がり電圧Vthを設定することができる。なお、立ち上がり電圧Vthは、チャネル長、チャネル幅、および基板の不純物濃度等の各パラメータのいずれかまたはすべてを変化させることにより適宜設定可能である。
【0020】
さらに、微小電圧領域においては、図3(b)に対数的に示すように、電流は指数関数的な振る舞いを見せるため、100mV以下の微小電圧領域において、立ち上がり電圧Vthを低電圧側にシフト(各パラメータを変化させてVthを100mV以下、好ましくは50mV以下、より好ましくは10mV以下にシフト)させても、PN接合ダイオードやショットキーバリアダイオード(SBD)とは異なり、整流効果を維持するばかりか逆方向電流が指数関数的に減ることとなるため、微小電圧領域において整流効果を高めることができる。
【0021】
ここで、整流効果の指標として、昇圧効率ηを以下のように定義する。
η=IF/(IF+|IR|)×100[%](IF:順方向電流、IR:逆方向電流))
【0022】
つまり、逆方向電流IRが少なくなればなるほど昇圧効率ηは高くなることを示す指標である。上記のようなMOSFETを用いた場合、昇圧効率は、90〜95%以上を得ることができる(例えば、チャネル長1.0μm、チャネル幅20.6μmにおいて入力電圧100mVに対し、IF=7.2×10-9A、IR=−2.6×10-10Aよって、η=96.6%が得られる)。一方、SBDを用いた場合には、入力電圧100mVにおいて昇圧効率ηは、せいぜい50%を超えるか否かである。よって、SBDでは50mV前後の微小電圧領域における整流効果が期待できない。
【0023】
したがって、このことからも整流素子として電界効果トランジスタTを用いることにより、立ち上がり電圧Vthを10mV程度の低電圧にしても整流効果を高く維持し、昇圧効率を高くすることができる。このように、微弱な電力の電磁波を高効率にエネルギー変換できるため、無電池電源回路以降の本体回路(駆動回路)の規模を拡大することができ、より広範な分野の小型携帯機器を駆動させることができる。また、消費電力のそれほど必要ない小型携帯機器にあっては、空間伝播中の電磁波(携帯電話通信等に用いられる)を吸収することにより小型携帯機器を駆動させることができる。
【0024】
図4は無電池電源回路において入力信号に対して得られる出力電圧を示す比較図である。図4(a)は整流素子としてMOSFETを用いたとき(本発明)を示し、図4(b)は整流素子としてPN接合ダイオードを用いたとき(比較例)を示す。なお、立ち上がり電圧Vth=0V、入力信号振幅は10mVとした。また、本例においては便宜上5段の回路で比較を行った。なお、図4(b)の比較例についても5段における電圧を表している。
【0025】
このとき、図4(a)に示すように、電界効果トランジスタTを用いることにより、10mVの入力信号振幅に対して、5段で80mV近い電圧が得られた。一方、図4(b)に示すように、PN接合ダイオードを用いた場合には、段数を増やしても10mVの入力信号振幅に対してほとんど昇圧効果が得られない結果となった。
【0026】
以上より、整流素子として電界効果トランジスタTを用いることにより、微弱な入力信号振幅であっても昇圧することができるため、より遠い位置からの微弱電波による入力でも小型携帯機器を効率よく駆動させることができる。
【0027】
ここで、図1に用いる電界効果トランジスタTとしてSOI−MOSFETを用いることも可能である。図5は図1に用いられる電界効果トランジスタの他の例についての概念図である。
【0028】
この場合、シリコン基板中に絶縁層Iとしてシリコン酸化膜(SiO2)が設けられたSOI−MOSFETが用いられる。
【0029】
出力信号振幅が所定値(約0.6V)以上の値となると、チャネル以外の基板領域を通じてリーク電流が生じる場合がある。すなわち、図1のような回路においては、ドレイン端子dに正電圧と同じ大きさの負電圧が印加されるため、この負電圧により、ドレイン端子から基板方向にリーク電流(PN接合による順方向電流)が流れてしまう場合がある。リーク電流は、整流効果を低減させ、消費電流を増大させてしまうため好ましくない。したがって、基板中に絶縁層を設けることによって、リーク電流の発生を防止することができ、整流効果の低減および消費電流の増大を抑制することができる。なお、SOI−MOSFETにおいては、基板材料としてシリコン基板以外および酸化膜としてシリコン酸化膜以外を適用することも可能である。
【0030】
以上の2つの実施形態を用いて本発明の内容を説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更、改良が含まれ得る。
【0031】
例えば、上記実施形態においては、すべての整流素子について電界効果トランジスタTを適用する旨記載しているが、上述の通り、本発明は微小電圧領域における課題を解決するものであるから、当該微小電圧領域が想定される最初の数段についてのみ電界効果トランジスタTを適用する一方で、それ以降の段については一般的なPN接合ダイオードやSBDを適用することとしてもよい。また、電界効果トランジスタTとしてSOI−MOSFETを適用する場合も同様に、出力信号振幅が0.6V以下の段では、SOI−MOSFETを適用し、それ以降の数段(微小電圧領域)はMOSFETを適用し、さらにそれ以上の段においてはPN接合ダイオードまたはSBDを適用することが可能である。このように、後の段においては入力信号振幅がすでに昇圧されている関係上、上記課題のような問題は起こり難いので、PN接合ダイオード等を適用することにより、よりコストの低い無電池電源回路を実現することができる。
【0032】
また、上記実施形態においては、図1に示すように、シェンケル(Schenkel)回路タイプの回路構成に基づいて説明したが、公知のコッククロフト−ウォルトン(Cockcroft-Walton)回路タイプにも同様に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の無電池電源回路は、より遠い位置からの微弱電波(例えば、周囲にある携帯電話の電磁波等)による入力でも小型携帯機器を効率よく駆動させることができるため、腕時計等の小型形態機器だけに限らず、物流、商品管理分野においてはICタグ、医療分野においては、補聴器、医療用端末(例えば、心臓ペースメーカの異常信号送信および患者の体温・血圧・心拍情報等の情報交換)等、様々な分野において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態に係る無電池電源回路の回路図である。
【図2】図1に用いられる電界効果トランジスタの概念図である。
【図3】図2の電界効果トランジスタの電圧−電流特性を示す図である。
【図4】無電池電源回路において入力信号に対して得られる出力電圧を示す比較図である。
【図5】図1に用いられる電界効果トランジスタの他の例についての概念図である。
【符号の説明】
【0035】
n1,n2,n3,…,nVin,nGND,nVDD ノード
T 電界効果トランジスタ
C+,C− コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子の一方のノードと出力端子の一方のノードとの間に同方向に直列接続された複数の整流素子と、隣接する整流素子間のノードのそれぞれに一端が接続された複数のコンデンサとを有し、前記コンデンサの他端は、それぞれ前記入力端子の一方のノードまたは入力端子の他方のノードに、一連の前記隣接する整流素子間のノードの順に交互に接続される無電池電源回路であって、
前記整流素子としてゲート端子とドレイン端子とを接続するとともにソース端子と基板端子とを接続した電界効果トランジスタを適用することを特徴とする無電池電源回路。
【請求項2】
前記電界効果トランジスタは、基板中に絶縁層が設けられたことを特徴とする請求項1記載の無電池電源回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−262657(P2006−262657A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−78831(P2005−78831)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【Fターム(参考)】