説明

無電解めっき方法およびそれ用のセンシタイジング液

【課題】微小サイズパターンの微細加工にも高再現性をもって対応できる無電解めっき方法、とくに、開封後時間が経過したセンシタイジング液であっても所定のめっきを効率よく施すことが可能な無電解めっき方法、およびそれに用いる無電解めっき用センシタイジング液を提供する。
【解決手段】被めっき体を、吸着物質を含有するセンシタイジング水溶液に浸漬するとともに、吸着物質により形成された吸着サイトに吸着される触媒を含有するアクチベーティング液に浸漬した後、めっき液に浸漬する無電解めっき方法において、センシタイジング水溶液に、前記吸着物質の該水溶液中における酸化を抑制し、コロイド化およびコロイド化物質の該水溶液中への分散を抑制し、かつ水に難溶性である、吸着物質酸化・コロイド化抑制物質、とくにチモールまたはその異性体を添加することを特徴とする無電解めっき方法、およびそれに用いる無電解めっき用センシタイジング液。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき方法およびそれ用のセンシタイジング液に関し、とくに、開封後の時間が経過したセンシタイジング液であっても、めっきのための前処理を良好に行うことができるようにした無電解めっき方法、および無電解めっき用センシタイジング液に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解金属めっきは、電気めっきと異なり外部電源を必要としないため、金属基板のみならずガラス平板,プラスチックなどへのめっきが可能であり、装飾、電磁遮蔽、プリント基板及び大規模集積回路等の配線技術などに応用される最も重要な金属コーティング技術の一つである。無電解めっきの特徴は、被めっき体表面を触媒化することにより、同種金属、異種金属以外の不導体材料(例として、ガラス,セラミックス、プラスティックなど)に応用可能であることである。触媒化の手法として、塩化スズ、塩化パラジウムの2つの水溶液による表面処理(センシタイジング〔感受性化〕、アクチベーティング〔触媒化〕)が広く使用されており、センシタイジングによりまず、被めっき部表面の酸素原子などにスズ(Sn)が吸着してパラジウム(Pd)の吸着サイトを形成し、アクチベーティングにより、Snの吸着サイトに高い触媒能を有するパラジウム(Pd)が吸着して、被めっき体表面の触媒化が行われる。
【0003】
また、百マイクロメートルから十マイクロメートルオーダーの直径を持つ光ファイバーの一端を先細り状に微細加工したものを被めっき体とし、かつ、めっき抑制物質(例として、鉛イオン、ビスマスイオン、溶存酸素など)を微量含む無電解ニッケルめっき液を用いて、Niめっきした場合に、堆積速度が被めっき体の形状、サイズによって大きく変化する顕著なサイズ依存性が生じる。具体的な例としては、先細りファイバーに無電解ニッケルめっきを行うと、ファイバーの断面直径200nm以下の部分にのみめっき膜が析出せず、200nm以上の部分はすべてめっきされるという現象である。より一般的な例である、ppmオーダーあるいはそれ以上の鉛イオンが添加されている市販の無電解Niめっき液でガラスブロック立方体をめっきした場合に、そのエッジ部のみめっきが生じないという古くから知られた現象も、ほとんどがこれに類するもので、被めっき部の線幅はサブミリメートルからミリメートルオーダーが典型的である。
【0004】
このサイズ依存無電解めっきを利用すれば、先細りファイバーの先端以外を選択的に金属遮光膜で覆い、開口構造をめっき工程において自動形成することができる。形成された微小開口は、とくに直径がサブマイクロメートルからナノメートルオーダーの微小開口は、回折限界を超えるナノメートルオーダーの光学的分解能を持つ走査型近接場光学顕微鏡のプローブ(探針素子)として応用することができる。本発明者らはこれまでに、開口型プローブを量産する製造方法として、まず、クラッド直径125μmの石英ガラス製ファイバーを先端径がナノメートルオーダー(10nm以下)になるまで先鋭化し、次に、その表面を触媒化した後、最後にサイズ依存無電解金属めっきを行う技術を提案している(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
ファイバープローブ以外にも、マイクロメートル、ナノメートルオーダーの微細加工が施された半導体やガラスの基板に、アレイ状や任意の微細加工パターンの部分的、選択的な金属コーティングを行い、光学素子、電子素子として応用する試みが行われている。この場合、基板上に有機や無機のレジストを塗布し、電子線や紫外線などの光ビームによるリソグラフィー技術によって、マイクロメートルからナノメートルオーダーのサイズであり、部分的、選択的に基板が露出したパターンが形成される。この基板面が露出した微細加工パターンの部分のみ金属めっきし、基板上にレジストパターンに応じた金属パターンを形成するために有効な一つの手法例として、
(1)センシタイジングによるレジストパターン基板へのスズ吸着
(2)アクチベーティングによるPd触媒核付与
(3)レジスト剥離
(4)無電解めっき液による金属パターン形成
を行うことが挙げられる。
【0006】
ところが、無電解めっきに基づく微細加工においては、次のような問題点がある。
電気銅めっきとメカノケミカル研磨に基づくダマシン法は、銅配線パターンの集積回路の作製法として、1990年代末より研究開発が活発化し、現状実用化段階にさしかかっているが、無電解めっきの微細加工基板への応用については、ミクロンオーダーやそれ以上のパターンがほとんどであり、それ以下のサイズへの応用は極めて限定的であった。サブマイクロメートル、ナノメートル領域の無電解めっきが行われてこなかった原因は、めっき前に行う塩化スズ、塩化パラジウムの2つの水溶液による前処理としての表面処理(センシタイジング、アクチベーティング)、すなわち、半導体、ガラス基板などにパラジウム系触媒核を付与する触媒化プロセスの再現性が低いことにもっとも大きな原因がある。
【0007】
近接場光学顕微鏡用ファイバープローブに関して、この問題の具体例を挙げると、
(1)センシタイジング液としてのスズ塩の試薬瓶開封後1、2週間程度で、ファイバー先端付近のめっきに異常が生じ、開封1ヶ月後には25μmの小径部分にもめっきされない例(後述の図1参照)が生じること、
(2)試薬瓶開封直後のスズ塩を用いた例でも、水溶後経過時間20〜30分程度で先端部でのめっき異常が生じること、
などが挙げられる。すなわち、マイクロメートル、ナノメートル領域のめっきがセンシタイジングに用いられるスズ塩の試薬瓶開封後エージング時間および水溶液の時間的劣化に大きく影響されるということであるが、特にスズ塩水溶後の劣化速度を抑制し、溶液を時間オーダーあるいはそれ以上の時間をもって安定化しない限り、生産管理によって歩留まりを維持することは非常に困難である。スライドガラスの平坦面などマクロ領域のめっきにおいては、めっき可能なエージング時間はそれぞれ年オーダー、時間オーダーとされているが(例えば、非特許文献1)、これは微細加工のない平板基板上にめっきが生じるか否かを判断基準とし、スズ塩の開封後のエージング時間などを考慮していない場合の寿命である。
【特許文献1】特開平10−82792号公報
【特許文献2】特開2004−84013号公報
【非特許文献1】岡本尚樹、八重真治、山岸憲史、三俣宣明、福室直樹、渡辺徹、松田均, 「無電解めっきの活性化前処理に用いられるセンシタイジング液の経時変化」, 表面技術, Vol. 55, No. 4, pp. 281-285 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、微小サイズパターンの微細加工にも高再現性をもって対応できる無電解めっき方法を提供することにあり、とくにめっき前処理としてのセンシタイジングに工夫を加えることにより、開封後時間が経過したセンシタイジング液であっても所定のめっきを効率よく施すことが可能な無電解めっき方法、およびそれに用いる無電解めっき用センシタイジング液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る無電解めっき方法は、被めっき体を、該被めっき体の表面への吸着物質を含有するセンシタイジング水溶液に浸漬するとともに、前記吸着物質により形成された吸着サイトに吸着される触媒を含有するアクチベーティング液に浸漬した後、めっき液に浸漬する無電解めっき方法において、前記センシタイジング水溶液に、前記吸着物質の該水溶液中における酸化を抑制し、コロイド化およびコロイド化物質の該水溶液中への分散を抑制し、かつ水に難溶性である、吸着物質酸化・コロイド化抑制物質を添加することを特徴とする方法からなる。
【0010】
すなわち、水に難溶性であることによって、例えばイオン化状態のセンシタイジング水溶液中の吸着物質との直接反応を抑えてとくに酸化を抑制し、一方で、コロイド化を抑制するようにすることにより、開封後時間が経過したセンシタイジング水溶液であっても、含有されている吸着物質により、触媒のための吸着サイトをより確実に形成できるようにしたものである。これによって、形成された吸着サイトにより確実にアクチベーティング液の触媒が吸着され、その触媒を介してその部分に所望の無電解めっきが施されることになる。
【0011】
より具体的な態様として、とくに上記吸着物質がスズ塩を含有し、上記吸着物質酸化・コロイド化抑制物質が芳香族系化合物からなる態様が挙げられる。
【0012】
この場合、上記芳香族系化合物としては例えばフェノール系精油成分を用いることができる。芳香族系化合物としてフェノール系精油成分を用いる場合、前記水に難溶性の特性としては、例えば、水に0.1%以下しか溶解しない特性であることが好ましい。このようなフェノール系精油成分の具体的な例として、チモールまたはその異性体を挙げることができる。チモールの異性体としては、例えばカルバクロールを用いることができる。このようなフェノール系精油成分はハーブなどに含有される殺菌防腐剤であり、特段の取扱いを必要としない、めっきへの使用に極めて好適なものである。
【0013】
あるいは、上記芳香族系化合物として、フェノキシエタノールを含むフェノール系化合物を用いることも可能である。
【0014】
また、上記吸着物質がスズ塩を含有するものの場合、上記センシタイジング水溶液に、さらにスズ析出促進物質を添加することが好ましい。センシタイジング水溶液が酸性の場合、スズ析出促進物質としては例えばフタル酸塩が好ましく、センシタイジング水溶液がアルカリ性の場合、スズ析出促進物質としては例えばベンザルコニウムクロライドが好ましい。
【0015】
さらに、上記センシタイジング水溶液に酸またはアルカリを添加して液を透明化することもできる。
【0016】
また、本発明に係る無電解めっき方法においては、めっき液に対しても工夫を加えることが可能である。例えば、上記めっき液に微量のトリス緩衝剤を添加することができる。また、上記めっき液に塩化アンモニウムを添加することができる。微量のトリス緩衝剤はサイズ依存性を表出させるためのめっき液への添加剤であり、かつ排出規制物質である現状の鉛の代替剤として使用できるものである。さらに、塩化アンモニウムの添加は、前述の特許文献1に記載されているような、先端に向かって徐々に膜厚が減少するプローブ形状を、高い再現性をもって形成することに大きな効果がある。ちなみに、この塩化アンモニウム添加による効果とは、アンモニウム存在下での塩素イオンの効果であって、例えば硫酸アンモニウムを添加したような場合には見られない効果である。
【0017】
上記のような本発明に係る無電解めっき方法は、とくにめっき領域がマイクロメートルからナノメートルオーダーの微細な場合に好適なものであり、例えば、上記被めっき体が、先鋭化ファイバーを有する光プローブからなる場合の無電解めっきに好適なものである。
【0018】
本発明は、上記のような方法により無電解めっきされためっき体についても提供するものである。
【0019】
なお、本発明に係る無電解めっき方法においては、アクチベーティング液についてはとくに限定しないが、前述の如く、スズ塩を含有するセンシタイジング水溶液を用いる場合には、スズの吸着部位に吸着され高い触媒能を発揮するパラジウム(Pd)を含有するアクチベーティング液、例えば、塩化パラジウム含有するアクチベーティング液を用いることが好ましい。
【0020】
本発明に係る無電解めっき用センシタイジング液は、被めっき体を浸漬することにより、無電解めっきに用いる触媒を該被めっき体の表面に吸着させるための吸着サイトを該被めっき体の表面に形成する、該被めっき体への吸着物質を含有するセンシタイジング水溶液であって、前記吸着物質の該水溶液中における酸化を抑制し、コロイド化およびコロイド化物質の該水溶液中への分散を抑制し、かつ水に難溶性である、吸着物質酸化・コロイド化抑制物質が添加されていることを特徴とするものからなる。
【0021】
この無電解めっき用センシタイジング液においては、上記吸着物質がスズ塩を含有し、上記吸着物質酸化・コロイド化抑制物質が芳香族系化合物からなるものとすることができる。
【0022】
上記芳香族系化合物としては、フェノール系精油成分からなるものを用いることができ、フェノール系精油成分としては、例えばチモールまたはその異性体を挙げることができる。チモールの異性体としては、例えばカルバクロールを挙げることができる。
【0023】
あるいは、上記芳香族系化合物として、フェノキシエタノールを含むフェノール系化合物を用いることも可能である。
【0024】
上記吸着物質がスズ塩を含有するものからなる場合、本発明に係る無電解めっき用センシタイジング液には、さらにスズ析出促進物質が添加されていてもよい。センシタイジング水溶液が酸性の場合、スズ析出促進物質としては例えばフタル酸塩が好ましく、センシタイジング水溶液がアルカリ性の場合、スズ析出促進物質としては例えばベンザルコニウムクロライドが好ましい。
【0025】
さらに、上記センシタイジング水溶液は酸またはアルカリの添加により透明化されていてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る無電解めっき方法によれば、センシタイジング水溶液に吸着物質酸化・コロイド化抑制物質を添加することにより、開封後時間が経過したセンシタイジング水溶液に対しても、微小サイズパターンの微細加工等に高再現性をもって対応できる無電解めっきが可能になり、工業的に高い生産性をもって無電解めっきを実施することが可能になる。したがって、この新しい無電解めっき用センシタイジング液により、再現性のある無電解めっきの対象範囲を、サブミクロン、ナノメートルの領域に拡大できる。また、本発明により、このような優れた無電解めっきのためのセンシタイジング液自体も提供され、汎用的に展開することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下に、本発明を、実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例】
【0028】
実施例1(チモールを含む二塩化スズ塩溶液によるセンシタイジング)
被めっき試料(被めっき体)として、めっきの結果が目視および光学顕微鏡、電子顕微鏡観察により明瞭に確認できる先細り光ファイバーを用いた。体積比がそれぞれ[40%フッ化アンモニウム]:〔50%フッ化水素酸〕:〔水〕=1.7:1:1と10:1:1の2つの緩衝HF溶液に、直径125ミクロンの二重クラッドファイバー(放電精密加工による市販品)を室温にてそれぞれ40分と60分間浸漬して先細りファイバーを作製し、0.04%チモールと1重量%のフタル酸水素カリウムを含むセンシタイジング水溶液、塩化パラジウムを含むアクチベーティング液にそれぞれ3分間づつ浸漬し、表1に示す無電解ニッケルめっき液に10分間浸漬した(表1に無電解ニッケルめっき液組成を示す)。ここで用いたセンシタイジング水溶液、アクチベーティング液、無電解ニッケルめっき液については以下に詳細に記す。
【0029】
〔センシタイジング水溶液〕
試薬瓶開封後一年経過した二塩化スズ塩SnCl2・2H2Oの0.1gを10mLの水に溶かし、これに、0.04%チモール、1重量%フタル酸水素カリウム溶液を含むpH4の水溶液を90mL加えて、1g/L の二塩化スズを含むセンシタイジング水溶液を100mLを調製した。ここで、液が白濁している場合は、硫酸あるいは塩酸などの酸をさらに加えて液を透明化する。この液には少量の不溶性沈殿物が生じるので、センシタイジング水溶液としては上澄み液か、濾過したものを用いるのが望ましい。典型的な浸漬時間は3分から10分間程度である。溶液は酸性でpHは3から4程度である
【0030】
〔アクチベーティング液〕
10g/Lの塩酸酸性PdCl2水溶液を作成し、これを水で希釈して5mg/LのPdCl2水溶液を調製する。溶液のpH4.5程度となり、典型的な浸漬時間は数秒から数分間である。
【0031】
【表1】

【0032】
ここで示したセンシタイジング、アクチベーティング、無電解ニッケルめっきを、先細り状ファイバーに適用した結果として、ファイバーの断面直径100μm、25μmに加え、直径10nmの先細りの先端まで均一にNiめっきされたことを電子顕微鏡で確認できた。ファイバーの断面直径25μm部分、直径10nmの先細りのコア先端を有する先細り状ファイバーに均一にNiめっきされた例を図1に示す(めっき体10)。同じ二塩化スズ塩のみを水に溶かした1g/Lの塩化スズ溶液をセンシタイジング水溶液として、ニッケルめっきを行った場合は、ファイバー断面直径100μmの部分は大部分がめっきされたものの、直径25μmの部分および先細り部分はほとんどめっきされなかった。この場合の例を図2に示す。図2(a)、(b)に示すように、Niめっきされた部分2(膜厚100nm以下)に対し、Niめっきされていないファイバーガラス露出部分1が大きな割合を占めている。この結果は、チモールとフタル酸塩を添加した効果により、センシタイジングにおけるスズの吸着力が二塩化スズ試薬瓶開封時レベルまで回復したことを意味する。センシタイジング水溶液にチモールを加えず、フタル酸水素カリウムのみを、添加した場合では、一部の例において回復効果が見られたものの、多くの場合は酸を加えたときに急速にフタル酸が沈殿するため、溶液の安定性が低く単体での効果は確実でない。また、センシタイジング水溶液にチモールと酸のみを加えた場合は、Ni膜が剥がれにくくなるなど密着力の向上に寄与したものの、フタル酸水素カリウムを含む場合に比べて、回復効果は低かった。すなわち、回復効果の主体は、チモールであり、フタル酸水素カリウムはチモール存在下で安定化され徐々にフタル酸化して沈殿する過程で、スズの析出を促進すると共に、水溶液の濁りの原因たるスズ老廃物(水酸基や酸素基を含むスズの複合化合物およびそのコロイド化したもの)を吸着沈殿させる媒体となることで、スズの吸着力を維持することに貢献している。また、試薬瓶開封後2年超経過した二塩化スズ溶液について、フタル酸塩とチモールによる回復効果について調べたところ、酸を入れる前の白濁が1年経過ものに比べて濃くなっており、二塩化スズ塩濃度1g/Lのいくつかの例で、回復困難な場合が生じた。この場合、回復効果に最適な二塩化スズ塩濃度を調査すると10g/Lであった。
【0033】
<チモールの代替について>
チモール(2−イソプロピル−5−メチルフェノール、C10H14O)はハーブティの一つであるタイムに含まれ、精油から抽出される成分であり、水に微溶のフェノール系の殺菌剤である。センシタイジングにおけるチモールの代替剤として重要なことは以下の点である。
・スズ系複合化合物(水酸基、酸素基を含むもの)の酸化、コロイド化の防止に効果のある殺菌性を有すること、
・スズイオンと急速な酸化還元反応を生じないため、水に微溶あるいは難溶であり、不溶、易用でないこと
・フタル酸イオンがフタル酸化を抑制する効果をもつこと。
市販の殺菌防腐剤などを調査した結果、有効な代替剤としては、チモールの異性体(C10H14O)であるカルバクロール(5−イソプロピル−2−メチルフェノール)などの芳香族系、フェノール系の精油成分が挙げられる。フェノールは水に溶解し、かつスズイオンと反応するため、フェノールをセンシタイジング液に添加するとスズの吸着力は失われる。クレゾール石けん液も反応を生じ、20%グルコン酸クロルヘキシジン溶液、40%塩酸アルキルジアミノエチルグリシンなどをそれぞれ希釈してフタル酸水素カリウムを含むセンシタイジング液に加えたが、フタル酸の沈殿を生じ、酸を加えても沈殿が溶解しなかった。これらの実験ではそれぞれそれらの濃度が数%程度になるように調製された。フェノキシエタノールはめっきされた例もあったが、再現性は低かった。ただし、条件によってはフェノキシエタノールも使用可能と考えられる。また、チモールの誘導体であり、pH指示薬として有名なチモールブルーは一部が溶解するため、スズの吸着力が低下した。
【0034】
<二塩化スズの代替について>
次に、二塩化スズ水溶液以外のスズ塩溶液である四塩化スズ水溶液およびスズ酸ナトリウムについて調査した。フタル酸水素カリウムおよびチモールを含む1〜10g/Lの四塩化スズ水溶液およびスズ酸ナトリウムで、回復効果が見られたが、四塩化スズに関しては、いくつかの例で回復しないことがあり、二塩化スズに比べると、再現性に問題がある。また、スズ酸ナトリウムでは効果があり、平板ガラス基板におけるニッケルめっき膜密着性は向上し、また、ファイバーのめっきも問題なく行えた。チモール等を入れない場合、二塩化スズ、四塩化スズともに、試薬瓶開封時から1週間程度で、吸着力が失われたもので、実験に使用したものは1年以上経過したものである。また、四塩化スズの場合は通常、酸を加えなくても、液が透明であるためチモール下でのフタル酸水素カリウムの効果は低い。また、スズ酸ナトリウムの場合は、その水溶液はアルカリ性であるためフタル酸水素カリウムの効果はほとんどない。特に、センシタイジングとしてスズ酸ナトリウム溶液を用いる場合、チモール固体片をその溶液に投入するだけで、明白な回復効果が生じ、まためっき膜の密着性向上にも寄与する。
【0035】
<フタル酸塩の代替について>
フタル酸塩の代替としては、水に易溶でスズの析出を促進するものである。二塩化スズ水溶液の場合には、容易にスズ系コロイドを吸着して不溶塩として沈殿し、かつ、チモールあるいはその代替剤の存在下で、スズイオンと直接反応しないことが重要である。スズの析出を促進させる代替剤としては、微量のベンザルコニウムクロライドが効果的であった。スズ系コロイドとの反応性は乏しいため、二塩化スズ水溶液への添加は溶液をむしろ不安定にするが、スズ酸ナトリウム水溶液または、二塩化スズおよび四塩化スズに水酸化ナトリウムを加えてアルカリ性で透明にしたものには、回復効果において非常に効果があった。特に、開封後2年超経過したスズ酸ナトリウムを用いた例では、ガラス平板へのめっきにおいても、スズ酸ナトリウムの劣化の効果が顕著であり、チモールのみでは回復できなかったが、10mg/Lのベンザルコニウムクロライドをチモール飽和のセンシタイジング液に溶解させることにより、ガラス板にNiめっきを行うことに成功した。表2は種々のセンシタイジング液と小径部へのめっきの良不良(○が良、×が不良、△は条件によっては使用可能)についてまとめたものである。
【0036】
【表2】

【0037】
実施例2(無電解めっき液のための添加剤である鉛の代替としてのトリス(TRIS)緩衝剤を用いたもの)
近接場光学プローブを無電解めっきで作製する場合、ファイバー先端に向かってめっき膜厚が減少する構造が望まれ、無電解ニッケルめっきに鉛イオンのようなめっき抑制添加剤を微量添加する必要があった。しかし、鉛イオンは排出規制物質であり、代替であるビスマスイオンなども同様に有害な重金属である。また、めっき液中での溶存酸素の存在は還元剤である次亜リン酸イオンを徐々に亜リン酸イオンに酸化させる欠点を持つため、代替剤としては不十分である。代替剤として、生化学分野で中性領域の緩衝剤として用いられるTRIS(2-Amino-2-hydroxymethyl-1,3-propanediol、またはTris(hydroxymethyl)aminomethane)を提案する。実施例1と同様に、先細り光ファイバーを被めっき試料として用いた。めっき液は表1のニッケルめっき液に、150μmol/LのTRISを加えて、58.5℃で10分間めっきしたところ、ファイバー先端がニッケルめっき膜から突出し、開口径200nmのNiコートプローブを得ることに成功した。ここで、めっき直前には、アルゴンガスのバブリングによりめっき液中の溶存酸素濃度をゼロにした。しかし、開口部周辺のめっき膜形状にはばらつきがあり、プローブを側面から見ると、めっき膜がガラス突起周辺が陥没し、その周辺にて盛り上がるカルデラ噴火口のような形状のめっき膜が形成されたりする。このばらつきを抑制し、先端に向かってニッケル膜厚が単調現象する構造のプローブを作製するためには、ニッケルめっき液に2mol/L程度の塩化アンモニウムを添加することが効果的であった。実際に、表1のめっき液に2mol/Lの塩化アンモニウムを添加し、0.04ppmの鉛イオンあるいは150μmol/LのTRISを添加して65℃で無電解ニッケルめっきを行うことにより、開口径200nmのプローブが得られた。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明に係る無電解めっき方法およびそれ用のセンシタイジング液は、とくに微小サイズパターンの微細加工に高再現性をもって対応することが要求される無電解めっきに好適なものであり、中でも、近接場光学プローブの無電解めっきに好適なものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るセンシタイジングを適用して無電解めっきを施した光ファイバーの先端部を電子顕微鏡で観察した図である。
【図2】従来のセンシタイジングによる無電解めっきを施した光ファイバーの先端部を電子顕微鏡で観察した図である。
【符号の説明】
【0040】
1 Niめっきされていないファイバーガラス露出部分
2 Niめっきされた部分
10 めっき体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被めっき体を、該被めっき体の表面への吸着物質を含有するセンシタイジング水溶液に浸漬するとともに、前記吸着物質により形成された吸着サイトに吸着される触媒を含有するアクチベーティング液に浸漬した後、めっき液に浸漬する無電解めっき方法において、前記センシタイジング水溶液に、前記吸着物質の該水溶液中における酸化を抑制し、コロイド化およびコロイド化物質の該水溶液中への分散を抑制し、かつ水に難溶性である、吸着物質酸化・コロイド化抑制物質を添加することを特徴とする無電解めっき方法。
【請求項2】
前記吸着物質がスズ塩を含有し、前記吸着物質酸化・コロイド化抑制物質が芳香族系化合物からなる、請求項1に記載の無電解めっき方法。
【請求項3】
前記芳香族系化合物がフェノール系精油成分からなる、請求項2に記載の無電解めっき方法。
【請求項4】
前記フェノール系精油成分がチモールまたはその異性体からなる、請求項3に記載の無電解めっき方法。
【請求項5】
前記チモールの異性体がカルバクロールからなる、請求項4に記載の無電解めっき方法。
【請求項6】
前記芳香族系化合物がフェノキシエタノールを含むフェノール系化合物からなる、請求項2に記載の無電解めっき方法。
【請求項7】
前記センシタイジング水溶液に、さらにスズ析出促進物質を添加する、請求項2〜6のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【請求項8】
前記スズ析出促進物質がフタル酸塩からなる、請求項7に記載の無電解めっき方法。
【請求項9】
前記スズ析出促進物質がベンザルコニウムクロライドからなる、請求項7に記載の無電解めっき方法。
【請求項10】
前記センシタイジング水溶液に酸またはアルカリを添加して液を透明化する、請求項1〜9のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【請求項11】
前記めっき液にトリス緩衝剤を添加する、請求項1〜10のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【請求項12】
前記めっき液に塩化アンモニウムを添加する、請求項1〜11のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【請求項13】
前記被めっき体が、先鋭化ファイバーを有する光プローブからなる、請求項1〜12のいずれかに記載の無電解めっき方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法により無電解めっきされためっき体。
【請求項15】
被めっき体を浸漬することにより、無電解めっきに用いる触媒を該被めっき体の表面に吸着させるための吸着サイトを該被めっき体の表面に形成する、該被めっき体への吸着物質を含有するセンシタイジング水溶液であって、前記吸着物質の該水溶液中における酸化を抑制し、コロイド化およびコロイド化物質の該水溶液中への分散を抑制し、かつ水に難溶性である、吸着物質酸化・コロイド化抑制物質が添加されていることを特徴とする無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項16】
前記吸着物質がスズ塩を含有し、前記吸着物質酸化・コロイド化抑制物質が芳香族系化合物からなる、請求項15に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項17】
前記芳香族系化合物がフェノール系精油成分からなる、請求項16に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項18】
前記フェノール系精油成分がチモールまたはその異性体からなる、請求項17に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項19】
前記チモールの異性体がカルバクロールからなる、請求項18に記載の無電解めっき方用センシタイジング液。
【請求項20】
前記芳香族系化合物がフェノキシエタノールを含むフェノール系化合物からなる、請求項16に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項21】
さらにスズ析出促進物質が添加されている、請求項16〜20のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項22】
前記スズ析出促進物質がフタル酸塩からなる、請求項21に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項23】
前記スズ析出促進物質がベンザルコニウムクロライドからなる、請求項21に記載の無電解めっき用センシタイジング液。
【請求項24】
酸またはアルカリの添加により透明化されている、請求項15〜23のいずれかに記載の無電解めっき用センシタイジング液。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−63646(P2007−63646A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253641(P2005−253641)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】