説明

無電解めっき法で用いる触媒溶液及びその触媒溶液を用いた無電解めっき法並びにその無電解めっき法を用いて金属皮膜を形成した被めっき物

【課題】無電解めっきを行なう際の触媒溶液として、パラジウムなどの高価な金属を使用せず、且つ良好な触媒化作用を発揮するものを提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、無電解めっき法で金属皮膜を形成する際に前段の処理として行なう触媒化処理に用いる触媒溶液として、銅(I)イオンとスズ(I)イオンとを含む触媒溶液を採用する。この触媒溶液では、スズ(I)イオンが銅(I)イオンの吸着プロモーターとして機能し、触媒化処理が進行する。そして、スズ(I)イオンを常に含んでいる触媒溶液中では、銅は安定して銅(I)イオンの形態で存在することになり、安定した触媒化処理が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、無電解めっき法で用いる触媒溶液及びその触媒溶液を用いた無電解めっき法並びにその無電解めっき法を用いて金属皮膜を形成した被めっき物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は、小型化が著しい携帯電話、携帯音楽プレーヤーやPDAなどのモバイル用途の電子機器や家庭用ゲーム機器に対する高機能化や多機能化への要求の高まりが大きい。また、これら要求に応じるために、電子機器に搭載される半導体デバイスの高速化、高容量化も同時に進行している。そして、これら電子機器と半導体デバイスとの接続には多層プリント配線板が用いられており、上記背景から、多層プリント配線板には軽薄短小化の要求がなされている。
【0003】
そして、軽薄短小化の手段である、微細な銅配線を形成した多層プリント配線板を製造する技術では、ビルドアップ工法が注目されている。ビルドアップ工法では、基材である絶縁体シートの表面に銅配線を形成して基材層を積み重ね、層間をめっき銅で接続しつつ表面の銅配線を形成してゆくことが多い。このビルドアップ工法では、層間の接続や銅配線を形成するための基礎手段として無電解銅めっき法を用い、絶縁体シートの表面や必要に応じて形成された孔の内部表面に銅層を形成している。
【0004】
絶縁体の表面に銅層を形成する無電解銅めっき法では、まず、銅層を形成しようとする絶縁体の表面に、無電解銅めっき液からの銅の析出を促進するための触媒が付与される。この触媒付与の手法としては、スズ−パラジウムコロイドの水溶性懸濁液を用いる方法、パラジウムイオン−アミノ系錯化剤を用いる方法等が知られている。しかし、これらの手法を用いると、無電解銅めっき液で処理する際に不要部分に金属銅が析出してしまう異常析出の発生や、配線の間に触媒金属が残留することに起因する絶縁信頼性の低下など、プリント配線板として致命的な不良が発生することがある。従って、上記手法を用いた無電解銅めっき法は、工程管理が煩雑なものとなっている。また、採用する手法によっては高価な薬品を使用することになり、無電解銅めっき法を用いたプリント配線板の製造方法は、高コストの方法であると一般的に認識されている。
【0005】
そこで、特許文献1には、無電解めっき用触媒を付与するための触媒液として、銀塩及び銅塩から選ばれた少なくとも1種の金属塩、陰イオン界面活性剤、並びに還元剤を含有する水溶液を用いたプリント配線板の製造方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献1の製造方法は、主たる触媒として安価な銀塩及び銅塩を用いるため低コストであり、スズの除去工程やパラジウムの還元処理工程が不要で処理工程が簡略化でき、一般的なエッチング液に触媒金属が容易に溶解するので、絶縁信頼性の良好な配線板が得やすいこと等が開示されている。
【0007】
【特許文献1】特開平10−229280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
確かに、特許文献1の実施例で得られているプリント配線板は、触媒金属の残留やめっき金属である銅の異常析出もなく、絶縁抵抗値も良好なものである。この時、特許文献1の実施例で用いた触媒液に触媒1及び触媒2がある。これらには塩化パラジウムが含まれている。即ち、当該実施例の触媒付与工程では、イオン化傾向の違いから、まずパラジウムが触媒液から析出して基材表面に吸着し、このパラジウムを触媒として銀又は銅が析出したものと考えられる。この様に、無電解めっき用の触媒液は、パラジウムを含むのが一般的である。しかし、前記パラジウムを含む触媒液は、安定した触媒付与が可能かどうかについての疑問がある。即ち、パラジウムの添加が必須であれば、触媒としてのパラジウムの配線間への残留にもバラツキがあり、絶縁抵抗値を低下させる可能性も排除し得ない。しかも、パラジウム自体は高価な貴金属であるため、プリント配線板の製造コストの上昇が避けられない。
【0009】
従って、無電解めっきを行なう際の触媒溶液として、パラジウムなどの高価な金属を使用せず、且つ良好な触媒化作用を発揮するものが求められていたのである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、無電解めっき法で用いる触媒溶液及びその触媒溶液を用いた無電解めっき法並びにその無電解めっき法を用いて金属皮膜を形成した被めっき物に想到したのである。
【0011】
本件発明に係る触媒溶液: 本件発明に係る触媒溶液は、無電解めっき法で金属皮膜を形成する際に前段の処理として行なう触媒化処理に用いる触媒溶液であり、銅(I)イオンとスズ(I)イオンとを含むことを特徴としている。
【0012】
本件発明に係る触媒溶液は、銅(I)イオンの供給源として塩化第二銅(CuCl)を用い、スズ(I)イオンの供給源として塩化第一スズ(SnCl)を用い、且つ塩化第二銅(CuCl)と塩化第一スズ(SnCl)との重量比[(SnCl)/(CuCl)]の値が1〜1000であることも好ましい。
【0013】
本件発明に係る触媒溶液は、銅濃度が塩化第二銅(CuCl)として0.5g/L〜300g/Lであることも好ましい。
【0014】
本件発明に係る無電解めっき法: 本件発明に係る無電解めっき法は、前記触媒溶液を用いて被めっき物の表面に金属皮膜を形成する無電解めっき法であって、以下の工程A〜工程Dを含むことを特徴としている。
【0015】
工程A:被めっき物の表面をコンディショニング剤を用いて前処理し、前処理済被めっき物を得る工程。
工程B:前記前処理済被めっき物を前記触媒溶液を用いて触媒化処理し、触媒化処理済被めっき物を得る工程。
工程C:前記触媒化処理済被めっき物を活性化処理し、活性化済被めっき物を得る工程。
工程D:前記活性化済被めっき物を無電解めっき液と接触させて無電解めっきを施し、金属皮膜を形成した被めっき物を得る工程。
【0016】
本件発明に係る無電解めっき法においては、前記工程Aで用いるコンディショニング剤は、アニオン系界面活性剤を0.01g/L〜10g/L含むものを用いることも好ましい。
【0017】
本件発明に係る無電解めっき法においては、前記工程Bで用いる触媒溶液は、液温を10℃〜80℃とし、前処理済被めっき物を0.1分間〜120分間接触処理することも好ましい。
【0018】
本件発明に係る無電解めっき法においては、前記工程Cの活性化処理は、DMAB、水素化ホウ素、ホルムアルデヒド、EDTA、ヒドラジン、ビピリジンから選択される1種以上を用いて前記触媒化処理済被めっき物を接触処理することも好ましい。
【0019】
本件発明に係る金属皮膜を形成した被めっき物: 本件発明に係る金属皮膜を形成した被めっき物は、前記無電解めっき法を用いて金属皮膜を形成した被めっき物である。
【発明の効果】
【0020】
本件発明に係る触媒溶液は、無電解めっきを行なう際に良好な触媒化作用を発揮するものである。即ち、この触媒溶液を無電解めっきを行なう際の触媒化処理に用いると、パラジウムなどの高価な金属を用いる必要がない。従って、当該触媒溶液を無電解めっき工程で用いれば、微細化する配線板等の製造工程において、配線間に残留するパラジウムなどの難溶性金属残渣による絶縁特性への影響を排除できると同時に、触媒化処理のコストダウンができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本件発明に係る触媒溶液の形態: 本件発明に係る触媒溶液は、無電解めっき法で金属皮膜を形成する際に前段の処理として行なう触媒化処理に用いる触媒溶液であり、銅(I)イオンとスズ(I)イオンとを含んでいる。銅(I)イオンは、1価の銅イオンであり、スズ(I)イオンは、2価のスズイオンである。前記触媒溶液の組成は、パラジウムとスズを用いた触媒コロイド溶液において、パラジウムを銅で置き換えた構成とも言える。ところが、特許文献1から明らかなように、パラジウム、還元剤と界面活性剤とを含む触媒液構成の、パラジウムの全量を銀又は銅に置き換えた触媒溶液を用いて触媒化処理する技術は確立されていない。即ち、上記触媒溶液中の銅を、いかにして被めっき物の表面に吸着させるかが、パラジウムを含む触媒溶液と同様の効果を発揮させるための要件なのである。
【0022】
そこで、前記触媒溶液は、スズ(I)イオンを含み、銅を銅(I)イオンの形態で含んでいる。これにより、スズ(I)イオンが銅(I)イオンの吸着プロモーターとして機能し、触媒化処理が進行する。そして、スズ(I)イオンを常に含んでいる触媒溶液中では、銅は銅(I)イオンの形態で存在することができ、安定した触媒化処理が可能になる。この触媒溶液は長期間放置しておくと、触媒溶液中に銅(II)イオンが形成され無色透明であった溶液に青みを帯びた色調が観察されることがある。この状態の触媒溶液で触媒化処理を行なうと、後の工程である活性化処理工程で均一な還元が行なわれにくくなるが、触媒溶液中の銅(II)イオンの存在を好ましくないとするものではない。活性化処理により形成される銅触媒核の分布が、実用上支障のないレベルで均一であればよいのである。しかし、触媒溶液が青みを帯びた場合は、更に塩化第一スズ(SnCl)を加えたり、アスコルビン酸などを添加して無色透明の状態にし、被めっき物表面への銅触媒核の形成を均一にしておくことがより好ましい。
【0023】
本件発明に係る触媒溶液においては、銅(I)イオンの供給源として塩化第二銅(CuCl)を用い、スズ(I)イオンの供給源として塩化第一スズ(SnCl)を用い、且つ塩化第一スズ(SnCl)と塩化第二銅(CuCl)との重量比[(SnCl)/(CuCl)]の値を1〜1000とする。塩化第二銅(CuCl)を用い、銅(II)イオンを溶液中でスズ(I)イオンで還元して銅(I)イオンとするのである。そして、銅(I)イオンの供給源として塩化第二銅(CuCl)を用いるのは、塩化第一銅(CuCl)を用いる場合に比べ、化合物の組成が安定したものを得やすいからである。
【0024】
そして、塩化第一スズ(SnCl)と塩化第二銅(CuCl)との重量比[(SnCl)/(CuCl)]の値であるが、この値が1を下回ると、スズ(I)イオンの還元力が塩化第二銅(CuCl)に対して大きく不足する。すると、触媒溶液中の銅(II)イオンが多くなり、前述のように、銅触媒核の形成が不均一になる傾向が明らかとなるため好ましくない。また、塩化第一スズ(SnCl)と塩化第二銅(CuCl)との重量比[(SnCl)/(CuCl)]の値が1000を超えても、触媒化処理の均一性は向上せず、薬品の使用量が多くなるだけである。従って、触媒化処理の均一性と薬品使用量とのバランスを考えると、塩化第一スズ(SnCl)と塩化第二銅(CuCl)との重量比[(SnCl)/(CuCl)]の値の範囲は、2〜100とすることがより好ましい。
【0025】
本件発明に係る触媒溶液においては、前記触媒溶液の銅濃度は塩化第二銅(CuCl)として0.5g/L〜300g/Lとする。塩化第二銅(CuCl)としての濃度が0.5g/Lを下回ると、触媒化処理後の被めっき材表面に銅の吸着は観察されても吸着層として形成されず、触媒化の効果が十分に得られない。また、塩化第二銅(CuCl)としての濃度が300g/Lを超えても銅の吸着層の均一性などに改善は認められない。更に、濃度の増大は、触媒溶液の粘度の増大として現れる。触媒溶液の粘度が増大すると、被めっき物表面における拡散二重層が厚くなるため、拡散二重層の厚さのムラに起因して触媒化処理が不均一になりやすい。従って、前記触媒溶液を安定した状態で用いるには、銅濃度を塩化第二銅(CuCl)として5g/L〜20g/Lとすることがより好ましい。
【0026】
上述のように、前記触媒溶液は塩化物の水溶液であり、上記溶液組成とすれば塩素イオン濃度は0.4g/L以上となる。また、触媒溶液を調製する際の水溶液を、薬品の溶解が容易になるように予め塩酸酸性にしてあれば、塩素イオン濃度は更に上昇する。この塩素イオンは銅や界面活性剤に吸着しやすい性質を有している。塩素イオンは前処理済被めっき材表面に吸着し、前処理済被めっき剤表面への銅の吸着を補助しているのである。従って、前記塩素イオンの吸着を安定化させるためには、前記塩酸の他に塩化ナトリウムなどを用いて、触媒溶液中のトータル塩素イオン濃度を20g/L〜80g/Lとすることが好ましい。
【0027】
本件発明に係る無電解めっき法の形態: 本件発明に係る無電解めっき法は、前記触媒溶液を用いて被めっき物の表面に金属皮膜を形成する無電解めっき法であって、以下の工程A〜工程Dを含んでいる。そして、各工程間では必要に応じて適宜水洗などの工程を設けるが、浸漬やシャワーリングなどの一般的な手法が適用できるので、詳細な説明は省略する。以下、各工程毎に説明を加える。
【0028】
まず、工程Aについて説明する。工程Aは、被めっき物の表面をコンディショニング剤を用いて前処理し、前処理済被めっき物を得る工程である。前処理を行なうにあたっては、出発材料である被めっき材の表面に付着した汚れなどがあれば、事前にアルカリ脱脂処理などを実施して清浄化しておくことが推奨される。この前処理工程で用いるコンディショニング剤には、市販のコンディショニング剤等を採用できる。そして、前処理工程では、被めっき物と市販のコンディショニング剤等とを接触させることで、前処理済被めっき物を得る。具体的な操作としては、被めっき物をコンディショニング剤等の溶液に浸漬する方法、コンディショニング剤等の溶液を被めっき物にシャワーリングしたりスプレーする方法などを採用でき、操作条件や場所等を勘案して最適な方法を選択すればよい。
【0029】
そして、前記工程Aで用いるコンディショニング剤は、アニオン系界面活性剤を0.01g/L〜10g/L含むものを用いることも好ましい。前述のように、前処理には市販のコンディショニング剤を用いることができ、これらのコンディショニング剤は界面活性剤を含んでいる。これら市販のコンディショニング剤では、カチオン系、ノニオン系そしてアニオン系に大別される3種類の界面活性剤が、その品番に応じて使い分けられている。これらの界面活性剤が被めっき物表面に吸着し、界面活性剤への塩素イオンの吸着のし易さと相まって、後の触媒化処理に影響を与えるのである。本件発明に係る触媒溶液を用いると、いずれの界面活性剤を前処理に用いても、触媒化処理を施せば銅は前処理済被めっき物に吸着するが、アニオン系界面活性剤を用いると均一な被膜を得やすいため好ましい。
【0030】
前記コンディショニング剤に含まれるアニオン系界面活性剤の濃度であるが、0.01g/Lを下回ると被めっき物表面への界面活性剤の吸着が不均一になり、結果として触媒化処理が不均一になるため好ましくない。また、アニオン系界面活性剤の濃度が10g/Lを超えても被めっき物表面への界面活性剤の吸着の均一性は改善されず、後の水洗工程などを経て薬品類を無駄に廃棄することになる。従って、アニオン系界面活性剤の濃度範囲は、0.1g/L〜1g/Lとすれば、安定して前処理済被めっき材が得られるためより好ましい。
【0031】
次に、工程Bについて説明する。工程Bは、前記前処理済被めっき物を触媒溶液を用いて処理し、触媒化処理済被めっき物を得る工程である。この工程で、上記前処理済被めっき物を前記触媒溶液と接触させることにより、被めっき物の表面に均一な銅の吸着層を形成した、触媒化処理済被めっき物を得ることができる。
【0032】
そして、前記触媒溶液は、液温を10℃〜80℃とし、前処理済被めっき物を0.1分間〜120分間接触処理するのである。ここでの接触処理も前処理と同様の操作であり、具体的な手法としては、被めっき物を触媒溶液に浸漬する方法、触媒溶液を被めっき物にシャワーリングしたりスプレーする方法などを採用でき、操作条件や場所等を勘案して最適な方法を選択すればよい。安定した液温で、長めの接触時間を設定する場合には、浸漬処理が処理対象面内のバラツキを小さくできるため好ましい。
【0033】
このとき、液温が10℃を下回ると、金属塩濃度の高い触媒溶液では、金属塩が触媒溶液から晶析しやすい傾向になり、好ましくない。更に、触媒化処理の反応速度が低下し、均一性に問題が発生する傾向もあって好ましくない。また、触媒溶液の液温が80℃を超えると安定した温度維持が困難になり、温度ムラが顕著になると、被めっき物表面における反応速度にバラツキが生じて、触媒化の均一性に問題が発生する傾向があり好ましくない。従って、前記触媒溶液の液温を20℃〜30℃とした浸漬処理がより好ましい。
【0034】
そして、接触時間であるが、接触時間が0.1分間を下回ると、触媒溶液の液温が低い条件では、被めっき物表面に均一な銅の吸着層が形成されない傾向が現れるため好ましくない。また、接触時間が120分間を超えても銅の吸着量の増加や均一性の改善は見られず、スズも吸着してしまう傾向が現れるため好ましくない。従って、安定して均一な銅の吸着層を形成するためには、接触時間を5分間〜15分間とすることがより好ましい。
【0035】
更に、工程Cについて説明する。工程Cは、前記触媒化処理済被めっき物を活性化処理し、活性化済被めっき物を得る工程である。この活性化処理では、触媒化処理済被めっき物の表面に吸着した銅の還元処理を完結し、被めっき物の表面に銅触媒の核を形成する。活性化処理によって、形成された銅触媒の核のほとんどが金属の形態を取ることにより、被めっき物との密着が強固になる。
【0036】
そして、活性化処理では、DMAB、水素化ホウ素、ホルムアルデヒド、、EDTA、ヒドラジン、ビピリジンから選択される1種以上を用い、前記触媒化処理済被めっき物を接触処理する。この活性化処理はパラジウムを触媒に用いた場合と同様の還元処理ではある。しかし、パラジウムに対して有効な還元処理条件の全てが有効に機能するものではない。例えば、ホルムアルデヒドを用いる場合には、パラジウムを対象とした場合の活性化処理に適した条件では還元効果が見られないため、2段還元処理などの工夫が必要となる。一般的な手法での活性化処理が可能である観点からは、水素化ホウ素、DMBA及びヒドラジンを用いることが好ましい。なお、上記に還元剤として示した化合物は、効果が確認されたものを例示しているに過ぎず、その他の化合物については、処理条件を工夫した上で使用の可否を都度確認すればよい。
【0037】
上記に述べた工程Cで活性化処理液と触媒化処理済被めっき物とを接触させる具体的な手法は、前述同様触媒化処理済被めっき物を活性化処理液に浸漬する方法、活性化処理液を触媒化処理済被めっき物にシャワーリングしたりスプレーする方法などを採用でき、操作条件や場所等を勘案して最適な方法を選択すればよい。
【0038】
最後に、工程Dを説明する。工程Dは、前記活性化済被めっき物を無電解めっき液と接触させて無電解めっきを施し、金属皮膜を形成した被めっき物を得る工程である。この工程では、活性化済被めっき物を市販の無電解めっき液と接触させることにより、活性化済被めっき物の表面に金属皮膜を形成するのである。形成する金属皮膜の種類に特に限定はないが、触媒金属に銅を採用していることから、銅皮膜を形成することが好ましい。無電解銅めっきは、自己触媒型で銅層が形成されてゆくため、銅皮膜を安定して形成できる。よって、パターンめっき法でプリント配線板を作成する際に下地の金属層を形成するために用いる場合などに最適である。
【0039】
本件発明に係る金属皮膜を形成した被めっき物の形態: 本件発明に係る金属皮膜を形成した被めっき物は、前記無電解めっき法を用いて金属皮膜を形成した被めっき物である。例えば、表面が平滑なプラスチック材に銅皮膜を好ましい範囲で形成した材料を用いれば、銅層とプラスチック材との界面が平滑でありながら密着性に優れ、高周波信号処理が可能な微細配線を有するプリント配線板の製造が容易になる。また、活性化済被めっき物に無電解ニッケルめっき法を用いてニッケル皮膜を形成した被めっき物や、無電解銅めっき層を形成した被めっき物の上に、更にニッケル層やクロム層を電気めっき法で形成した被めっき物は、装飾用途等に好適に用いることができる。
【実施例1】
【0040】
実施例1では一般的なプリント配線板製造工程への適合性を評価した。
【0041】
<評価用基板の作成>
無電解めっきを施す絶縁体には、一般的にプリント配線板として使用されているFR−4基板を使用した。具体的には、市販されている35μm両面銅張積層板の両面に張り合わされている電解銅箔を硝酸で全溶解して、評価用基板を作成した。この基板表面の粗さを数点測定したところ、Rzjisで3μm〜5μmであった。
【0042】
<前処理>
前処理では、水酸化ナトリウム濃度50g/Lに調製した水溶液を用いて試験基板の脱脂処理を施した。脱脂処理した試験基板は、液切りを行なった状態で25℃の市販のコンディショニング剤(CC−231:Rohm and Haas Co., Ltd.製)に3分間浸漬した。前処理を施した基板は、流水洗浄とイオン交換水を用いた浸漬洗浄を行ない、室内で放置して風乾し、前処理済試験基板を得た。
【0043】
<触媒溶液の調製>
イオン交換水を用い、以下に記す薬品配合で触媒溶液を調製した。この触媒溶液の塩化第一スズ(SnCl)と塩化第二銅(CuCl)との重量比[(SnCl)/(CuCl)]の値は5とした。得られた溶液の色調は、無色透明であった。
CuCl 10g/L
SnCl 50g/L
濃塩酸 40mL/L
NaCl 180g/L
【0044】
<触媒化処理>
上記前処理にて得られた前処理済試験基板を、25℃の前記触媒溶液に10分間浸漬し、触媒化処理を行なった。この時の液攪拌は、比較的緩やかなものとした。触媒化処理された表面は均一であり、銅の付着量は2.33mg/dmであった。触媒化処理後の表面観察写真を図1に示す。
【0045】
<活性化処理>
上記にて得られた触媒化処理済試験基板を、25℃の活性化処理液に3分間浸漬し、活性化処理を施した。この時用いた活性化処理液は、DMABをイオン交換水に溶解して濃度を3g/Lとし、pHを12.5に調整した水溶液(活性化処理液1)、水素化ホウ素をイオン交換水に溶解して濃度を2g/Lとし、pHを9.5に調整した水溶液(活性化処理液2)、ヒドラジンをイオン交換水に溶解して濃度を1.6g/Lとし、pHを12.5に調整した水溶液(活性化処理液3)の3種類である。活性化処理後の試験基板表面は、活性化処理液1及び活性化処理液2を用いた場合が優れていた。活性化処理液3を用いた場合には、活性化処理により還元された銅触媒核の減少は見られたが、実用上は支障がない程度であった。結果を表1に纏めて示す。
【0046】
【表1】

【0047】
<無電解銅めっき>
上記にて得られた活性化処理済試験基板を、液温を60℃とした無電解銅めっき液に浸漬し、エア攪拌を実施しながら0.5μm厚さの銅層を形成した。用いた無電解銅めっき液の組成を以下に記す。下記において、PEG−1000は平均分子量1000のポリエチレングリコールである。
CuSO 0.03mol/L
EDTA 0.24mol/L
2,2’−ビピリジン 0.01g/L
PEG−1000 0.1g/L
ホルムアルデヒド 0.20mol/L
pH 12.5
0.5μm厚さの銅層を形成した試験基板の外観は、均一であった。表面観察写真を図2に示す。
【0048】
<電気銅めっき>
上記銅層を形成した試験基板の、銅層の密着性などを評価するために、電気銅めっきを行ない、銅層厚さを30μmにした。電気銅めっきは、めっき後の表面が平滑で光沢を有するように、以下に記す浴組成を用い、液温を25℃とし、エア攪拌しながら陰極電流密度2.5A/dmで実施した。下記において、PEG−4000は平均分子量4000のポリエチレングリコール、SPSはビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド、JGBはヤヌスグリーンである。
CuSO 0.8mol/L
SO 0.5mol/L
Cl 1.4×10−3mol/L
PEG−4000 0.01g/L
SPS 0.01g/L
JGB 0.01g/L
【0049】
<銅皮膜の密着性>
上記にて得られた、表面に30μm厚さの銅皮膜を有する試験基材の銅皮膜の密着性は、JIS C 5012に従い測定した。具体的には、銅皮膜に10mm幅の直線回路を形成し、インストロン型万能試験機(SV−950:(株)MKSハピネス製)を用い、前記10mmの回路端部をチャックに挟み込み、50mm/分の早さで基板面に対して90°で引き上げ、引き剥がし強さを測定した。測定の結果、引き剥がし強さは1.02kgf/cmであり、実用上十分な値であった。
【0050】
<エッチング残>
上記にて得られた、表面に30μm厚さの銅皮膜を有する試験基材に、一般的なプリント配線板製造工程と同様、ドライフィルムを用いて100μmピッチの直線配線を形成するためのエッチングレジストを形成した。これを塩化第二銅エッチング液でエッチング加工し、図3に示す配線を得た。この配線間の基板表面をEDXで分析したところ、金属元素は検出されなかった。
【実施例2】
【0051】
実施例2ではプリント配線板のブラインドビアホールやスルーホールの内壁への無電解めっき性を評価した。ブラインドビアホールへのめっき性は、厚さ1.6mmの18μm両面銅張積層板(FR−4)の両面に厚さが50μmのビルドアップ樹脂(ABF−SH−9K:味の素株式会社製)を張り合わせ、このビルドアップ樹脂に炭酸ガスレーザーを用いて開口径30μm及び60μmのブラインドビアホールを形成した試験基板を用いて評価した。また、一般的なアスペクト比のスルーホールへのめっき性は、上記厚さ1.6mmの18μm両面銅張積層板(FR−4)の両面に厚さが50μmのビルドアップ樹脂BR(ABF−SH−9K:味の素株式会社製)を張り合わせたものを用い、メカニカルドリルで直径0.25mmのスルーホールを形成した試験基板を用いて評価した。更に、高アスペクト比を有するスルーホールへの着き廻り性を見るために、板厚6.0mmの4層銅張積層板を作成し、メカニカルドリルで直径0.25mmのスルーホールを形成し、アスペクト比を24とした。上記試験基板には、無電解銅めっき試験前、定法によりデスミア処理などを施した。
【0052】
<スルーホール、ブラインドビアホールめっき>
上記にて形成したスルーホール及びブラインドビアホールへの無電解銅めっきでは、実施例1と同様の液及び処理条件を採用した。従って、繰り返しとなる説明は省略する。異なる試験条件を採用した工程は、処理中に液を攪拌する工程で液攪拌の代わりに試験基板を揺動したことである。また、電解銅めっき工程では陰極電流密度を1A/dmとした。試験の結果、ブラインドビアホール内、スルーホール内ともに良好な銅皮膜が形成された。無電解銅めっき後と電解銅めっき後の断面観察写真を、開口径30μmのブラインドビアホールについて図4に、開口径60μmのブラインドビアホールについて図5に、一般的なアスペクト比のスルーホールについて図6に示す。高アスペクト比のスルーホールへの無電解銅めっき層の形成状態を図7示す。上記の全てにおいて、無電解銅めっき後の内壁面には、均一な厚さで形成された銅皮膜の存在が確認できる。
【実施例3】
【0053】
実施例3では、紫外線照射により表面改質したエポキシ樹脂表面、及び、表面改質していないエポキシ樹脂表面への無電解銅めっきを実施した。表面改質には、主波長253.7nmの高出力低圧水銀灯(UVE−200J:セン特殊光源(株)製)を用い、水銀灯と試片距離を30mmに設定し、エポキシ樹脂表面における紫外線強度9.0〜10.0mW/cmで30分間照射した。この時の試片表面における紫外線強度は、紫外線強度測定器(C6080−02:浜松フォトニクス(株)製)を用いて測定した。改質処理前後の表面粗さにはほとんど変化がなく、改質後の表面粗さはRzjisで0.7μmであった。
【0054】
<無電解銅めっき>
上記表面改質したエポキシ樹脂表面への無電解銅めっきでは、実施例1と同様の液及び処理条件を採用した。従って、繰り返しとなる説明は省略する。試験の結果、均一な銅皮膜が形成された。表面観察写真を図8に示す。この銅皮膜に対して、密着性をクロスカットテープテストで評価した結果、剥離した部分はなく、密着性も良好なものであった。表面改質していない同一材質に対して無電解銅めっきを施したものは、無電解銅めっき処理直後の銅層にふくれが観察されており、クロスカットをしていない状態でのテープテストでも剥離が発生した。表面観察写真を図9に示す。
【比較例】
【0055】
比較例では、塩化第一スズ(SnCl)と塩化第二銅(CuCl)との重量比[(SnCl)/(CuCl)]の値が0.5となるように、以下に記す薬品配合で触媒溶液を調製した。上記にて調製した触媒溶液は、青みがかかった透明な溶液であった。
CuCl 10g/L
SnCl 5g/L
濃塩酸 40mL/L
NaCl 180g/L
【0056】
<無電解銅めっき>
比較例では、上記にて調製した触媒溶液を用いた以外は、実施例1と同様の液及び処理条件を採用した。従って、繰り返しとなる説明は省略する。試験の結果、試験基板面に均一な銅皮膜の形成はできなかった。表面観察写真を図10に示す。従って、この銅皮膜に対しては詳細な評価は実施しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本件発明に係る触媒溶液は、無電解めっきを行なう際に良好な触媒化作用を発揮するものである。即ち、この触媒溶液を無電解めっきを行なう際の触媒化処理に用いると、パラジウムなどの高価な金属を用いる必要がない。また、高アスペクト比のスルーホール内の触媒化処理も可能である。従って、当該触媒溶液を無電解めっき工程で用いれば、微細化する配線板等の製造工程において、配線間に残留するパラジウムなどの難溶性金属残渣による絶縁特性への影響を排除できると同時に、触媒化処理のコストダウンができる。そして、活性化済被めっき物に直接無電解ニッケルめっきを施したり、無電解銅めっき層を形成した被めっき物の上に更にニッケル層やクロム層を電気めっき法で形成した被めっき物は、装飾用途等にも好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1における触媒化処理後の表面観察写真である。
【図2】実施例1で得られた無電解銅めっき後の表面観察写真である。
【図3】実施例1で得られた100μmピッチの配線板である。
【図4】実施例2において開口径30μmのブラインドビアホールに無電解銅めっきを施した状態と電解銅めっきまでを施した状態とを示す断面写真である。
【図5】実施例2において開口径60μmのブラインドビアホールに無電解銅めっきを施した状態と電解銅めっきまでを施した状態とを示す断面写真である。
【図6】実施例2においてスルーホールに無電解銅めっきを施した状態と電解銅めっきまでを施した状態とを示す断面写真である。
【図7】実施例2において高アスペクト比のスルーホールに無電解銅めっきを施した状態を示す断面写真である。
【図8】実施例3において表面改質したエポキシ樹脂表面へ無電解銅めっきを施した状態の表面観察写真である。
【図9】実施例3において表面改質していないエポキシ樹脂表面へ施した無電解銅めっきの剥離状態の写真である。
【図10】比較例1で得られた無電解銅めっき皮膜の表面観察写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解めっき法で金属皮膜を形成する際に前段の処理として行なう触媒化処理に用いる触媒溶液において、
銅(I)イオンとスズ(I)イオンとを含むことを特徴とする触媒溶液。
【請求項2】
銅(I)イオンの供給源として塩化第二銅(CuCl)を用い、スズ(I)イオンの供給源として塩化第一スズ(SnCl)を用い、且つ塩化第二銅(CuCl)と塩化第一スズ(SnCl)との重量比[(SnCl)/(CuCl)]の値が1〜1000である請求項1に記載の触媒溶液。
【請求項3】
銅濃度が塩化第二銅(CuCl)として0.5g/L〜300g/Lである請求項1又は請求項2に記載の無電解めっき用の触媒溶液。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の触媒溶液を用いて被めっき物の表面に金属皮膜を形成する無電解めっき法であって、
以下の工程A〜工程Dを含むことを特徴とする無電解めっき法。
工程A:被めっき物の表面をコンディショニング剤を用いて前処理し、前処理済被めっき物を得る工程。
工程B:前記前処理済被めっき物を前記触媒溶液を用いて触媒化処理し、触媒化処理済被めっき物を得る工程。
工程C:前記触媒化処理済被めっき物を活性化処理し、活性化済被めっき物を得る工程。
工程D:前記活性化済被めっき物を無電解めっき液と接触させて無電解めっきを施し、金属皮膜を形成した被めっき物を得る工程。
【請求項5】
前記工程Aで用いるコンディショニング剤は、アニオン系界面活性剤を0.01g/L〜10g/L含むものを用いる請求項4に記載の無電解めっき法。
【請求項6】
前記工程Bで用いる触媒溶液は、液温を10℃〜80℃とし、前処理済被めっき物を0.1分間〜120分間接触処理する請求項4又は請求項5に記載の無電解めっき法。
【請求項7】
前記工程Cの活性化処理は、ジメチルアミンボラン(以下、「DMAB」と称する。)、水素化ホウ素、ホルムアルデヒド、エチレンジアミン4酢酸(以下、「EDTA」と称する。)、ヒドラジン、ビピリジンから選択される1種以上を用いて触媒化処理済被めっき物を接触処理する請求項4〜請求項6のいずれかに記載の無電解めっき法。
【請求項8】
請求項4〜請求項7のいずれかに記載の無電解めっき法を用いて金属皮膜を形成した被めっき物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−214706(P2008−214706A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55411(P2007−55411)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(502273096)株式会社関東学院大学表面工学研究所 (52)
【出願人】(000157049)関東化成工業株式会社 (12)
【Fターム(参考)】