説明

無電解ニッケルめっき方法

【課題】無電解ニッケルめっき液から亜リン酸イオンを除去するとともに次亜リン酸イオンの補充を行なうことで無電解ニッケルめっき液を長寿命化することのできる経済的に有利な無電解ニッケルめっき方法を提供すること。
【解決手段】無電解ニッケルめっき液中に被めっき物を浸漬させて、前記被めっき物表面にニッケルめっき皮膜を施す無電解ニッケルめっき方法において、亜リン酸イオンが蓄積された前記無電解ニッケルめっき液をニッケルめっき槽から抜き出し、抜き出された前記無電解ニッケルめっき液を、アミン含有有機溶媒と次亜リン酸含有水溶液とを接触させて有機相中に次亜リン酸アミン錯体を形成させ相分離して得られる次亜リン酸アミン錯体含有有機相に接触させ、有機相中に亜リン酸イオンを亜リン酸アミン錯体として抽出するとともに水相中に次亜リン酸イオンを移行させた後、相分離して得られる水相を前記ニッケルめっき槽に戻すことを特徴とする無電解ニッケルめっき方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解ニッケルめっき方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無電解ニッケルめっき法は、複雑形状の部品に均一な厚さのニッケルめっき皮膜を施すことができるため、電子部品や精密機械部品などの分野で活用されている。
無電解ニッケルめっき液は、主として、ニッケルイオン源としての硫酸ニッケル、ニッケルイオン錯化剤、ニッケルイオン還元剤としての次亜リン酸ナトリウムなどを含有しており、金属ニッケルを析出させると、めっき液中のニッケルイオンおよび次亜リン酸イオンの濃度が減少するため、通常、硫酸ニッケルおよび次亜リン酸ナトリウムを補給しつつ連続して無電解ニッケルめっき処理が行われている。
【0003】
無電解ニッケルめっきを長期間連続して行うと、次亜リン酸イオンの酸化による亜リン酸イオンと、硫酸イオンとナトリウムイオンとの存在により生成する硫酸ナトリウムとがめっき液中に蓄積し、これがめっき速度の低下、異常析出および皮膜物性の劣化等を誘発する原因となる。このため、一定期間、例えば5ターン程度(建浴時の無電解ニッケルめっき液中に含まれるニッケル量に相当する金属ニッケルが析出するまでめっきを行うことを1ターンと呼ぶ)めっきを行うと、無電解ニッケルめっき液中に亜リン酸イオンが蓄積し、亜リン酸イオン濃度が1〜1.5モル/L程度にも達するため無電解ニッケルめっき浴の更新が必要となる。
しかしながら、5ターン程度の使用で無電解ニッケルめっき液を廃棄処分すると、廃液が多量に発生し、これが大きな環境問題となる。しかも、寿命に達した無電解ニッケルめっき液は、リン化合物、錯化剤等を多量に含む多成分系であるため廃液処理が非常に困難である。
【0004】
このような問題を解決する手段として、亜リン酸イオンが蓄積された無電解めっき浴に水溶性ニッケル塩を添加して亜リン酸ニッケルを生成、沈殿させ、これをめっき浴から分離するとともに、この分離された亜リン酸ニッケルに硫酸を添加して硫酸ニッケルと亜リン酸とにし、得られた硫酸ニッケルを回収する無電解めっき浴の処理方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。また、亜リン酸イオンが蓄積されためっき液をめっき槽から一部分取して、分取しためっき液に水酸化カルシウム等を添加し、生成沈殿した亜リン酸カルシウムを分離除去した後、当該めっき液をめっき槽に戻す無電解ニッケルめっき方法も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
上記以外にも、次亜リン酸塩を還元剤とする無電解めっき液の廃液のpHを調整した後、長鎖アルキルアミン系抽出剤を含む有機溶媒と接触させ、その後、有機相と水相とに分離し、再度、無電解めっき液の廃液からなる水相のpH値を調整し、長鎖アルキルアミン系抽出剤を含む有機溶媒と接触させる工程を繰り返す無電解めっき廃液の処理方法が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平10−183359号公報
【特許文献2】特開2002−241952号公報
【特許文献3】特開2005−42183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2に開示される方法では、複数回の固液分離操作が必要であり、かつ回分式であるため効率が低いという問題がある。また、特許文献3に開示される方法では、pH調整のために添加された硫酸等の酸が、長鎖アルキルアミン系抽出剤に再度抽出されてしまい損失となったり、無電解めっき液中に残存して硫酸ナトリウム析出の原因となったりするという問題がある。さらに、pH調整の際に無電解めっき液が希釈されてしまうという問題もある。
【0007】
したがって、本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、無電解ニッケルめっき液から亜リン酸イオンを除去するとともに次亜リン酸イオンの補充を行なうことで無電解ニッケルめっき液を長寿命化することのできる経済的に有利な無電解ニッケルめっき方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究、開発を遂行した結果、上記のような課題を解決するためには、亜リン酸イオンが蓄積された無電解ニッケルめっき液をニッケルめっき槽から抜き出し、これと次亜リン酸アミン錯体含有有機相とを接触させた後、これを相分離して得られる水相をニッケルめっき槽に戻すことが有効であることに想到し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、無電解ニッケルめっき液中に被めっき物を浸漬させて、前記被めっき物表面にニッケルめっき皮膜を施す無電解ニッケルめっき方法において、亜リン酸イオンが蓄積された前記無電解ニッケルめっき液をニッケルめっき槽から抜き出し、抜き出された前記無電解ニッケルめっき液を、アミン含有有機溶媒と次亜リン酸含有水溶液とを接触させて有機相中に次亜リン酸アミン錯体を形成させ相分離して得られる次亜リン酸アミン錯体含有有機抽出剤と接触させ、有機相中に亜リン酸イオンを亜リン酸アミン錯体として抽出するとともに水相中に次亜リン酸イオンを移行させた後、これを相分離して得られる水相を前記ニッケルめっき槽に戻すことを特徴とする無電解ニッケルめっき方法である。
本発明の無電解ニッケルめっき方法では、亜リン酸イオンが抽出された前記有機相は、アルカリ水溶液との接触により亜リン酸イオンが除去された後、前記アミン含有有機溶媒の少なくとも一部として用いられることが好ましい。
また、本発明の無電解ニッケルめっき方法では、前記水相中の次亜リン酸イオン濃度が0.05〜2.5モル/Lになるように、無電解ニッケルめっき液と接触させる前記次亜リン酸アミン錯体含有有機相の量および/または前記次亜リン酸アミン錯体含有有機相中の次亜リン酸アミン錯体濃度を調整することも好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無電解ニッケルめっき液から亜リン酸イオンを除去するとともに次亜リン酸イオンの補充を行なうことで無電解ニッケルめっき液を長寿命化することのできる経済的に有利な無電解ニッケルめっき方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の無電解ニッケルめっき方法について詳細に説明する。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る無電解ニッケルめっき方法を適用する無電解ニッケルめっき装置の構成を説明するためのフロー図である。
この無電解ニッケルめっき装置は、無電解ニッケルめっき液が収容されるニッケルめっき槽1と、無電解ニッケルめっき液と次亜リン酸アミン錯体含有有機相とを接触させるための第一抽出装置2と、次亜リン酸アミン錯体含有有機相を得るための第二抽出装置3とを備えている。そしてニッケルめっき槽1は無電解ニッケルめっき液抜き出し配管4を介して第一抽出装置2に接続されており、第二抽出装置3は無電解ニッケルめっき液戻し配管5を介してニッケルめっき槽1に接続されており、また、第二抽出装置3は、次亜リン酸アミン錯体含有有機相供給配管6を介して第一抽出装置2に接続されている。
【0011】
このように構成された無電解ニッケルめっき装置による無電解ニッケルめっき方法について説明する。本発明の無電解ニッケルめっき方法では、図1に示されるように、まず、被めっき物7を無電解ニッケルめっき液中に浸漬して被めっき物7の表面にニッケルめっき皮膜を施すものである。無電解ニッケルめっきを長期間連続して行うと、無電解ニッケルめっき液中に亜リン酸イオンが徐々に蓄積する。この亜リン酸イオンが蓄積された無電解ニッケルめっき液をニッケルめっき槽1から無電解ニッケルめっき液抜き出し配管4を介して抜き出し、この抜き出された無電解ニッケルめっき液と、抽出剤である次亜リン酸アミン錯体含有有機相とを第一抽出装置2において接触させる。このように、第一抽出装置2において無電解ニッケルめっき液と次亜リン酸アミン錯体含有有機相とを十分に接触させることで、有機相中に亜リン酸イオンが亜リン酸アミン錯体として抽出されるとともに、水相中に次亜リン酸イオンが移行(逆抽出)される。ここでの抽出操作に用いる第一抽出装置2については、無電解ニッケルめっき液と次亜リン酸アミン錯体含有有機相とを十分に接触させることが可能で、水相と有機相とを分離するための相分離手段を備えたものであればよい。また、第一抽出装置2は、無電解ニッケルめっき液と次亜リン酸アミン錯体含有有機相とを十分に混合するための撹拌装置(図示せず)を備えたものであることが好ましい。ここでの抽出時の処理温度については、特に限定されるものではないが、通常、室温で行えばよい。また、抽出操作の時間については、亜リン酸アミン錯体の形成効率等を考慮して適切な抽出時間を決定すればよい。
【0012】
次いで、上記した抽出処理で得られた混合溶液は、次亜リン酸イオンを含む水相と、亜リン酸アミン錯体を含む有機相とに相分離される。ここで得られた次亜リン酸イオンを含む水相を無電解ニッケルめっき液としてニッケルめっき槽1に無電解ニッケルめっき液戻し配管5を介して戻すことで、亜リン酸イオンの除去と同時に次亜リン酸イオンの補充が可能となる。この時、ニッケルめっき槽1に戻される水相が、次亜リン酸イオンを好ましくは0.05〜2.5モル/L含むように、無電解ニッケルめっき液と接触させる次亜リン酸アミン錯体含有有機相の量および/またはその有機相中の次亜リン酸アミン錯体濃度を調整することが望ましい。なお、図1中、実線の矢印は有機相の移動を表しており、点線の矢印は水相の移動を表している。
【0013】
本発明で使用される上記した抽出剤は、図1に示されるように、第二抽出装置3において、アミン含有有機溶媒と次亜リン酸含有水溶液とを接触させて、有機相中に次亜リン酸アミン錯体を形成させた(酸処理)後、すなわち有機相中に次亜リン酸が抽出された後、これを相分離して得られる次亜リン酸アミン錯体含有有機相である。この次亜リン酸アミン錯体含有有機相は、第二抽出装置3から次亜リン酸アミン錯体含有有機相供給配管6を介して第一抽出装置2に供給される。ここでの抽出操作に用いる第二抽出装置3については、上記した無電解ニッケルめっき液と次亜リン酸アミン錯体含有有機相とを接触させる場合と同様に、アミン含有有機溶媒と次亜リン酸含有水溶液とを十分に接触させることが可能で、水相と有機相とを分離するための相分離手段を備えたものであればよい。ここでの抽出時の処理温度については、特に限定されるものではないが、通常、室温で行えばよい。また、抽出操作の時間については、次亜リン酸アミン錯体の形成効率等を考慮して適切な抽出時間を決定すればよい。
【0014】
また、本発明で使用する上記アミン含有有機溶媒は、下記一般式:
【0015】
【化1】

(式中、R、R及びRはそれぞれ、同一であっても異なってもよく、水素原子または直鎖状もしくは分岐鎖状の炭素数1〜24、好ましくは8〜12のアルキル基である。但し、R、RおよびRのうちの少なくとも一個はアルキル基であって、R、RおよびRの合計炭素数は16以上である。)で表されるアミンを含むものであれば特に限定されるものではない。
【0016】
このようなアミンは、一級、二級および三級のいずれでもよく、具体的には、一級アミンとしてローム・アンド・ハース(Rohm and Hass)社製のPrimene(登録商標)JM−T(一般式NHRで表され、Rは炭素数16〜22の分岐アルキル基である)、二級アミンとしてジ−n−オクチルアミンおよびジ(2−エチルヘキシル)アミン、ならびに三級アミンとしてトリ−n−オクチルアミンおよびトリス(2−エチルヘキシル)アミンが挙げられる。これらの中でも水への溶解度が小さく、立体障害がなく抽出効率が高いという理由からトリ−n−オクチルアミンが好ましい。
【0017】
上記アミンを溶解させるための有機溶媒としては、水溶液である無電解ニッケルめっき液に殆ど溶解しないものであればよく、更に、第3相が生じ難いものが好ましい。このような有機溶媒としては、例えば、ケロシン等の石油系溶媒、酢酸ブチル、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素系溶媒、ドデシルアルコール等の高級アルコール系溶媒等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。これらの有機溶媒は、次亜リン酸含有水溶液との分離性を向上させる目的で、二種以上を適宜混合して用いてもよい。また、有機相の2相分離を防止する目的で、高級アルコール、高級フェノール等の改質剤をアミン含有有機溶媒に添加してもよい。このような改質剤の具体例としては、2−エチルヘキシルアルコール、トリデシルアルコール、ノニルフェノール等が挙げられる。改質剤の好ましい添加量は、アミン含有有機溶媒に対して2vol%〜20vol%である。
【0018】
アミン含有有機溶媒中のアミン濃度は、特に限定されるものではないが、有機相中に形成される次亜リン酸錯体の濃度を考慮して、通常、0.2〜2.5モル/Lとすることが好ましい。アミン濃度が0.2モル/L未満では、第二抽出装置3において抽出する次亜リン酸量が不十分となる上に、第一抽出装置2において無電解ニッケルめっき液からの亜リン酸イオン抽出率が不足し、また、アミン濃度が2.5モル/Lを超えると、有機相の粘性が高くなったり、有機相が2相に分離したりする運転上の問題が起こる。このように亜リン酸イオンの抽出量を確保しつつ円滑に連続運転を行うことを考慮すると、アミン濃度は0.5〜2.0モル/Lとすることが更に好ましい。
【0019】
本発明で使用する上記次亜リン酸含有水溶液は、次亜リン酸を含むものであればよく、次亜リン酸以外の無電解ニッケルめっき液に含まれる酸、例えば、硫酸、乳酸等を併用してもよい。次亜リン酸含有水溶液中の次亜リン酸濃度は、特に限定されるものではないが、有機相中に形成される次亜リン酸錯体の濃度を考慮して、通常、0.2モル/L以上とすることが好ましい。次亜リン酸濃度が0.2モル/L未満では、十分な濃度の次亜リン酸錯体が得られず、無電解ニッケルめっき液からの亜リン酸イオン抽出率が不足する。
【0020】
本発明における無電解ニッケルめっき液は、還元剤として次亜リン酸イオンを含むものであれば従来公知のものを制限なく使用することができる。このような無電解ニッケルめっき液の具体例は、ニッケルイオン濃度が0.1〜0.2モル/L、還元剤としての次亜リン酸イオン濃度が0.1〜0.3モル/L、乳酸、クエン酸等のニッケルの錯化剤が0.02〜0.4モル/L、pHが4〜7の範囲にあるものである。
【0021】
本発明の無電解ニッケルめっき方法は上記無電解ニッケルめっき液を用いて、上記した亜リン酸イオンの除去と同時に次亜リン酸イオンの補充を行ないながら、無電解ニッケルめっき浴中に被めっき物7を浸漬してめっきを行うものであり、具体的には、好ましくは浴温60〜95℃、更に好ましくは84〜93℃において、必要によってめっき液を撹拌したり、被めっき物7を揺動することにより、被めっき物7の表面に均一にめっき皮膜を形成することができる。この場合、めっき液の撹拌または被めっき物7の揺動方法としては、従来公知の撹拌、揺動方法を採用することができる。
【0022】
また、本発明で使用する被めっき物7に制限はなく、無電解ニッケルめっき可能なものであればいずれの材質でも使用することができ、例えば、金属、表面が導電化されたプラスチックやセラミック等が挙げられる。また、ニッケルめっき皮膜の膜厚は、めっき製品の使用目的等により適宜選定されるが、通常、2〜25μm程度であり、皮膜の析出速度は、通常、10〜23μm/hr程度である。
【0023】
実施の形態2.
図2は、本発明の実施形態2に係る無電解ニッケルめっき方法を適用する無電解ニッケルめっき装置の構成を説明するためのフロー図である。
図2において、本実施の形態に係る無電解ニッケルめっき方法に用いる無電解ニッケルめっき装置では、第一抽出装置2が亜リン酸アミン錯体含有有機相供給配管9を介して第三抽出装置8に接続されており、第三抽出装置8がアミン含有有機溶媒供給配管10を介して第二抽出装置3に接続されている。その他の構成については実施の形態1に係る無電解ニッケルめっき方法で用いた無電解ニッケルめっき装置と同じ構成であるので、本実施の形態では、図1と同一部分には同一符号を付してその説明を省略する。
【0024】
次に、上記のように構成された無電解ニッケルめっき装置による無電解ニッケルめっき方法について説明する。本実施の形態は、第一抽出装置2において有機相中に亜リン酸イオンを亜リン酸アミン錯体として抽出するとともに、水相中に次亜リン酸イオンを逆抽出するまでは実施の形態1と同じであるのでその説明を省略する。
本実施の形態では、第一抽出装置2において亜リン酸イオンが亜リン酸アミン錯体として抽出された有機相(亜リン酸アミン錯体含有有機相)を、亜リン酸アミン錯体含有有機相供給配管9を介して第三抽出装置8に供給し、この亜リン酸アミン錯体含有有機相を、逆抽出剤である水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強アルカリを含むアルカリ水溶液と接触させることによって、有機相中に含まれる亜リン酸イオンをアルカリ水溶液に逆抽出する。亜リン酸イオンを除去して得られた有機相には次亜リン酸アミン錯体含有有機相を調製する際に用いたアミンが含まれているため、これをアミン含有有機溶媒供給配管10を介して第二抽出装置3に供給することで、アミン含有有機溶媒の一部として再利用することができる。アルカリ水溶液としては、操作性の面から、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。アルカリ水溶液中の強アルカリ濃度については特に限定されるものではないが、十分な逆抽出率を得るためには、3モル/L程度とすることが好ましい。なお、図2中、実線の矢印は有機相の移動を表しており、点線の矢印は水相の移動を表している。
【実施例】
【0025】
本発明の無電解ニッケルめっき方法の有効性を以下の実験例1〜7により確認したので、その内容を具体的に説明する。実験例1〜6は、本発明の無電解ニッケルめっき方法における抽出および逆抽出操作に関するものであり、実験例7は、本発明の無電解ニッケルめっき方法における無電解ニッケルめっき操作に関するものである。
【0026】
実験例1〜6において用いた模擬無電解ニッケルめっき液(以下、模擬液と略記する)の組成は、硫酸ナトリウム50g/L(0.35M)、硫酸ニッケル12g/L(0.078M)、次亜リン酸二水素ナトリウム21g/L(0.24M)、亜リン酸水素二ナトリウム88g/L(0.70M)、乳酸27g/L(0.30M)および硫酸20g/L(0.20M)であり、pHは4.8であった。また、抽出、逆抽出操作はすべて室温(22〜27℃)において行った。さらに、亜リン酸イオンおよび次亜リン酸イオンはヨウ素逆滴定、乳酸イオンはキャピラリー電気泳動、硫酸イオンはICP発光分光法によりイオウ濃度を測定することにより、それぞれ定量した。
【0027】
〔実験例1〕
各種のアミンを次亜リン酸によって酸処理し、無電解ニッケルめっき模擬液と混合し、模擬液中の各種成分の抽出率を調べた。
ここで用いたアミンは、第一級アミンとしてローム・アンド・ハース(Rohm and Haas)社製Primene(登録商標)JM−T(一般式NHRで表され、ここでRは炭素数16〜22の分岐アルキル基であり、アミノ基が第三級炭素原子と結合している)、第二級アミンとしてジ−n−オクチルアミン(以下、DNOAと略記する)およびジ(2−エチルヘキシル)アミン(以下、DIOAと略記する)および第三級アミンとしてトリ−n−オクチルアミン(以下、TNOAと略記する)である。Primene(登録商標)JM−Tについては50vol%、その他については2Mとなるように、希釈剤として酢酸ブチルを用いて溶解してアミン含有有機溶媒を調製した。
まず、アミン含有有機溶媒15mLと、2Mの次亜リン酸含有水溶液15mLを分液ロートにて10分間激しく振とう混合し(酸処理)、静置・分相後、水相を採取し、次亜リン酸濃度を定量することにより、次亜リン酸の抽出率を求めた。次に、得られた有機相(次亜リン酸アミン錯体含有有機相)が入った分液ロートに模擬液15mLを入れ、10分間激しく振とう混合し、静置・分相後、水相を採取し、亜リン酸、乳酸、硫酸の各イオン濃度を定量し、各成分の抽出率を求めた。また次亜リン酸イオン濃度の定量とpH測定も行った。
実験結果を表1に示す。次亜リン酸含有水溶液からの抽出では88%以上の次亜リン酸抽出率が得られ、模擬液からの抽出では30%以上の亜リン酸イオン抽出率および0.6M以上の次亜リン酸イオン濃度増加が認められた。また14%以上の硫酸イオン抽出率も得られた。硫酸イオンの蓄積は硫酸ナトリウムの析出を招くので、亜リン酸イオンだけでなく硫酸イオンも抽出することができるのは望ましい結果である。
【0028】
【表1】

【0029】
〔実験例2〕
希釈剤が各種成分の抽出性に及ぼす影響を調べるために、抽出剤として2MのDIOA、希釈剤としてトルエン、ヘプタンおよびシェル化学社製シェルゾール(登録商標)D70(アルカン約50%、ナフテン約50%の工業溶剤)を用いて、実験例1と同様の実験を行った。その結果を、実験例1で示した酢酸ブチルを希釈剤として用いたときの結果とともに表2に示す。どの希釈剤を用いても、各種成分の抽出特性に顕著な差は認められなかった。ただし、酢酸ブチル以外の希釈剤では、次亜リン酸処理後に有機相が2相分離した。この分離した2相は模擬液と混合後は1相に戻るが、工業的な観点からはこのような有機相の2相分離は連続操作を難しくするため望ましくない。しかしこの点は高級アルコールや高級フェノールを有機相に改質剤として添加することにより、次に示す実験例3のように解決することができる。
【0030】
【表2】

【0031】
〔実験例3〕
実験例2で示したように、希釈剤によっては、次亜リン酸を抽出後、有機相が2相に分離する場合がある。このような2相分離は、有機相に少量の高級アルコールや高級フェノールを改質剤として添加することにより防止することができることが多い。そこで、ここではヘプタンにより希釈した2MのDIOAに2−エチルヘキシルアルコール(以下、EHAと略記)を改質剤として加えて実験例1および2と同様の実験を行った。その結果を表3に示す。これよりEHA濃度2vol%以上で次亜リン酸抽出後の有機相の2相分離がなくなることが分かった。また各種成分の抽出性は、EHA濃度を増やしても大きな変化がないことも分かった。
【0032】
【表3】

【0033】
〔実験例4〕
酸処理に用いる次亜リン酸含有水溶液中の次亜リン酸濃度が、模擬液からの各成分の抽出特性に及ぼす影響を調べるために、酢酸ブチルに溶解させた0.5〜2.0MのDIOA、0〜8Mの次亜リン酸溶液および模擬液を用いて実験例1と同様の操作を行った。
表4はその結果である。酸処理時の次亜リン酸濃度を増やすと、酸処理後の有機相中の次亜リン酸濃度も増加する。それに伴い、模擬液からの抽出において、亜リン酸イオン抽出率は、酸処理に用いる次亜リン酸含有水溶液中の次亜リン酸濃度が低いときには単調増加するが、その後一定値となった。また次亜リン酸イオン濃度の増加量および硫酸イオン抽出率は、酸処理に用いる次亜リン酸含有水溶液中の次亜リン酸濃度の増加にともない単調に増加する。ニッケルイオン抽出率も単調増加するが、DIOAが1M以下では抽出率は5%以下と僅かであった。
このように、酸処理に用いる次亜リン酸含有水溶液中の次亜リン酸濃度およびアミン濃度を変化させることにより、各種成分の抽出率および次亜リン酸濃度の増加を調節できることが分かった。
なお、酸処理に用いる次亜リン酸含有水溶液中の次亜リン酸濃度がゼロのときは、酸処理を行わないことに相当するが、このとき、模擬液からの亜リン酸イオンや硫酸イオンの抽出率は僅かであり、ほとんど抽出が起こらない。このことから、亜リン酸の抽出に先立って酸処理を行うことが有効であることが確認された。
【0034】
【表4】

【0035】
〔実験例5〕
亜リン酸イオン抽出後のめっき液中の次亜リン酸イオン濃度が所定値になるように酸処理に用いる次亜リン酸含有水溶液中の次亜リン酸濃度を設定した場合、めっき液からの抽出時における亜リン酸イオン抽出率が十分高くならない場合が考えられる。このような場合、酸処理時に用いる酸として、次亜リン酸単独ではなく、例えば次亜リン酸と硫酸との混酸を使用することによって酸処理後の有機相の陰イオン交換能力をより高めてから亜リン酸イオン抽出工程に送る方法がある。そこで、次亜リン酸濃度を0.5M一定とし硫酸濃度を0〜0.75Mまで変化させた次亜リン酸含有水溶液を用いて、酢酸ブチルに溶解させた0.5MのDIOAの酸処理を行った後、亜リン酸イオン抽出を行い、表5に示す結果を得た。酸処理に用いる次亜リン酸含有水溶液中の硫酸濃度を増加させることにより、亜リン酸イオンの抽出率は12%から54%まで増加しており、酸処理に用いる次亜リン酸含有水溶液中の次亜リン酸および硫酸濃度を適切に制御することにより、所望の亜リン酸イオン抽出率およびめっき液中次亜リン酸濃度を得ることが可能であることが分かる。
【0036】
【表5】

【0037】
〔実験例6〕
めっき液から抽出された亜リン酸、乳酸、硫酸、ニッケルの各イオンおよび有機相中に残留する次亜リン酸を有機相から除去し、アミンを再生させることができるかどうかを調べるために、模擬液と混合した後の有機相(亜リン酸アミン錯体含有有機相)を2〜4Mの水酸化ナトリウム溶液と混合し、上記各種成分の逆抽出率を調べた。
まず、酢酸ブチルに溶解させた2MのDIOA15mLと2Mの次亜リン酸含有水溶液15mLとを10分間激しく振とう混合し(酸処理)、静置・分相後、水相を取り除いた。次いで、得られた有機相(次亜リン酸アミン錯体含有有機相)と模擬液を等体積で10分間激しく振とう混合し、静置・分相後、水相を採取して各種成分を定量することにより有機相中の各種成分の濃度を求めたところ、亜リン酸イオン0.27M、次亜リン酸イオン0.95M、乳酸イオン0.15M、硫酸イオン69mM、ニッケルイオン6mMとなった。
このようにして得られた有機相(亜リン酸アミン錯体含有有機相)と所定濃度の水酸化ナトリウム溶液を等体積にて10分間激しく振とう混合し、静置・分相後、水相を採取し、各種成分を定量し、それら成分の逆抽出率を求めた。
得られた結果を表6に示す。亜リン酸、次亜リン酸の逆抽出率は水酸化ナトリウム濃度2M以上で100%であった。乳酸の逆抽出率は、水酸化ナトリウム濃度3M以上で100%であった。硫酸の逆抽出率は水酸化ナトリウム濃度の増加にともない僅かに増大するが4Mの水酸化ナトリウムでも78%であり、完全な逆抽出は難しいが、再使用するうえでの支障はないことが確認された。ニッケルについては、見掛け上の逆抽出率は21%以下と低い値に留まっているが、水酸化ナトリウム濃度3M以上では、水相に微量の緑色沈殿が見られたことおよびこのときのpHが13以上であることより、大部分は水酸化ニッケルとして晶析剥離されているものと考えられる。
【0038】
【表6】

【0039】
〔実験例7〕
酢酸ブチルで希釈された2MのDIONと2Mの次亜リン酸含有水溶液とを等体積にて10分間激しく振とう混合し、静置後、相分離して次亜リン酸アミン錯体含有有機相を得た。この次亜リン酸アミン錯体含有有機相と老化ニッケルめっき液(SK−100、日本カニゼン株式会社製、3.5ターン使用したもの)とを等体積にて10分間激しく振とう混合し、静置後、相分離して処理済老化ニッケルめっき液(水相)Aを得た。また、2MのDIONの代わりに2MのTNOAを用いる以外は上記処理済老化ニッケルめっき液Aを得るのと同様にして、処理済老化ニッケルめっき液Bを得た。老化ニッケルめっき液、処理済老化ニッケルめっき液Aおよび処理済老化ニッケルめっき液B中に含まれる次亜リン酸イオンおよび亜リン酸イオン濃度を表7に示した。表7から分かるように、DIONおよびTNOAいずれのアミン含有有機溶媒を用いて老化ニッケルめっき液を酸処理した場合にも、次亜リン酸イオンは増加するが、亜リン酸イオンは30%除去されている。
【0040】
【表7】

【0041】
次に、老化ニッケルめっき液、処理済老化ニッケルめっき液Aおよび処理済老化ニッケルめっき液Bを表8に示すようなめっき液組成で混合してめっき液を調製し、このめっき液を用い、浴温90℃、浴比10、めっき時間10分のめっき条件で圧延鋼板(JIS G3141)にニッケルめっきを施した。表8にめっき析出速度、皮膜成分および皮膜光沢の評価結果を合わせて示す。
<めっき析出速度>
蛍光X線膜厚計を用いて測定した。
<皮膜成分>
蛍光X線分析装置によりP%を測定した。
<皮膜光沢の評価>
ニッケルめっき皮膜が施された圧延鋼板の表面を目視で観察し、下記の判定基準で評価した。
良好:光沢のある皮膜
不可:白っぽく光沢のない皮膜
【0042】
【表8】

【0043】
表8から分かるように、処理済老化ニッケルめっき液AおよびBのいずれかを一部または全てに用いためっき液No.2〜6は、老化ニッケルめっき液(めっき液No.1)と比較して、めっき析出速度が向上している。一般的にめっき析出速度は、老化してめっき液中の亜リン酸イオン濃度が増加することにより低下するが、処理済老化ニッケルめっき液AおよびBを一部または全てに用いることによりめっき液が再生されている。また、めっき液No.2〜6を用いた場合のめっき皮膜の特性(光沢・成分)も、めっき液No.1と変わらない。
以上のことから、亜リン酸イオンが蓄積された老化めっき液を次亜リン酸アミン錯体含有有機相と接触させた後、これを相分離して得られる水相をニッケルめっき槽に戻すことで、無電解ニッケルめっき液の長寿命化が可能であることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施の形態1に係る無電解ニッケルめっき方法を適用する無電解ニッケルめっき装置の構成を説明するためのフロー図である。
【図2】本発明の実施の形態2に係る無電解ニッケルめっき方法を適用する無電解ニッケルめっき装置の構成を説明するためのフロー図である。
【符号の説明】
【0045】
1 ニッケルめっき槽、2 第一抽出装置、3 第二抽出装置、4 無電解ニッケルめっき液抜き出し配管、5 無電解ニッケルめっき液戻し配管、6 次亜リン酸アミン錯体含有有機相供給配管、7 被めっき物、8 第三抽出装置、9 亜リン酸アミン錯体含有有機相供給配管、10 アミン含有有機溶媒供給配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無電解ニッケルめっき液中に被めっき物を浸漬させて、前記被めっき物表面にニッケルめっき皮膜を施す無電解ニッケルめっき方法において、
亜リン酸イオンが蓄積された前記無電解ニッケルめっき液をニッケルめっき槽から抜き出し、抜き出された前記無電解ニッケルめっき液を、アミン含有有機溶媒と次亜リン酸含有水溶液とを接触させて有機相中に次亜リン酸アミン錯体を形成させ相分離して得られる次亜リン酸アミン錯体含有有機相に接触させ、有機相中に亜リン酸イオンを亜リン酸アミン錯体として抽出するとともに水相中に次亜リン酸イオンを移行させた後、これを相分離して得られる水相を前記ニッケルめっき槽に戻すことを特徴とする無電解ニッケルめっき方法。
【請求項2】
亜リン酸イオンが抽出された前記有機相は、アルカリ水溶液との接触により亜リン酸イオンが除去された後、前記アミン含有有機溶媒の少なくとも一部として用いられることを特徴とする請求項1に記載の無電解ニッケルめっき方法。
【請求項3】
前記水相中の次亜リン酸イオン濃度が0.05〜2.5モル/Lになるように、無電解ニッケルめっき液と接触させる前記次亜リン酸アミン錯体含有有機相の量および/または前記次亜リン酸アミン錯体含有有機相中の次亜リン酸アミン錯体濃度を調整することを特徴とする請求項1または2に記載の無電解ニッケルめっき方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−254805(P2007−254805A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79599(P2006−79599)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(391028339)日本カニゼン株式会社 (17)
【Fターム(参考)】