説明

焦点位置調整装置、及びレーザ加工装置

【課題】ビーム径に制限を生じさせることが無い焦点位置調整装置及びレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】外部から入射されたレーザ光45のビーム径を拡大して集光レンズ34に入射する凹レンズ64を有し、前記凹レンズ64の光軸に沿って前記凹レンズ64を直動させ、前記凹レンズ64と前記集光レンズ34との距離を可変し前記レーザ光45の焦点位置を調整する焦点位置調整装置31であって、前記凹レンズ64をレンズホルダ65に保持し、前記レンズホルダ65を、ベース体50に設けた直動機構51の可動片62に設けると共に、前記レンズホルダ65を前記凹レンズ64と略同程度の厚みに形成し、前記ベース体50から突出させた状態で前記可動片62に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光線の焦点位置を調整する焦点位置調整装置、及び、この焦点位置調整装置を備えたレーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、部品や製品等の加工対象物をレーザ光により走査して、この加工対象物の表面に印字やマーキング等の加工を行うレーザ加工装置が知られている。また、光硬化樹脂にレーザ光を照射して光硬化造形法により三次元形状の物体を造形する光造形装置が知られている。これらのレーザ加工装置、及び、光造形装置においては、加工対象物或いは光硬化樹脂をレーザ光で走査するための走査手段として、互いに直交するX軸、Y軸の2軸方向にレーザ光を偏向可能にするスキャナ装置(例えばガルバノスキャナ装置)が用いられている。
【0003】
さらに、加工対象物或いは光硬化樹脂におけるレーザ光の照射スポット径を調整することで、所定の加工精度や加工深度を維持するようにしたレーザ加工装置や光造形装置も知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
照射スポット径の調整は、加工対象物とレーザ光の焦点位置とのZ軸方向の距離を調整することで行われる。
このような焦点位置調整装置としては、例えば特許文献2に示されているように、レーザ光のビーム径を拡大して(デフォーカスして)、外部に設けられた集光レンズたる対物レンズに入射する、焦点位置及びビーム径調整用のレンズを円筒状のボビンに収納し、このボビンの両端にボイルコイルモータを配設し、これらのボイスコイルモータによって円筒状のボビンと共にレンズを直動することで、加工対象物に対してレーザ光の焦点位置を調整可能に構成したものが知られている。
【特許文献1】特開2007−61856号公報
【特許文献2】特開2006−154126号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の焦点位置調整装置においては、ボビン内のレンズによって拡径したレーザ光が出射側のボイスコイルモータから出射する前に、ボビンやボイスコイルモータの内周面に当たってしまうという問題が生じる。この結果、レーザ光の最大ビーム径が実質的に制限され、焦点位置の調整範囲も制約を受けてしまう。また、集光レンズでの開口数を高めることでレーザ光の照射位置での解像度が高められるものの、上記のように最大ビーム径が制限されると、開口数にも制限が生じ、加工精度に制約が生じる恐れがある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、ビーム径に制限を生じさせることが無い焦点位置調整装置及びレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、ベース体に設けられ、可動片を往復動する直動機構と、前記可動片に一体に設けられ、光線が入射するレンズを保持するレンズホルダとを備え、前記レンズホルダは、前記レンズを前記ベース体から突出した位置に保持し、前記レンズを通過した光線を遮蔽しない厚みに形成されていることを特徴とする焦点位置調整装置を提供する。
【0007】
また本発明は、本発明に係る上記焦点位置調整装置において、前記可動片に、前記往復動に伴う共振を防止する共振防止部材を設けたことを特徴とする。
【0008】
また本発明は、本発明に係る上記焦点位置調整装置において、前記レンズホルダに、前記レンズを冷却する冷却機構を設けたことを特徴とする。
【0009】
また本発明は、本発明に係る上記焦点位置調整装置において、前記直動機構は、前記可動片の往復動を案内する直動ガイドレールを備え、前記直動機構に、前記可動片と前記直動ガイドレールの摺動箇所に潤滑油を導入する導入孔を設けたことを特徴とする。
【0010】
また本発明は、本発明に係る上記焦点位置調整装置において、前記可動片は、前記レンズホルダが取付けられる可動プレートを備え、前記可動プレートには、該可動プレートの重心位置に前記レンズホルダが取付けられると共に、前記レンズホルダを挟んだ両側に開口又は凹みが設けられていることを特徴とする。
【0011】
また上記目的を達成するために、本発明は、加工条件に応じて光線の照射スポット径を可変させながら加工対象物に前記光線を照射するレーザ加工装置において、上記本発明に係る焦点位置調整装置と、この焦点位置調整装置に入力する光線を出力するレーザ装置と、前記照射スポット径に基づいて、前記焦点位置調整装置が備える可動片の移動量を規定する駆動信号を生成する制御回路とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、レンズホルダが、ベース体から突出した位置にレンズを保持するため、該レンズの径がベース体の寸法に制限される事がなく、これに加え、このレンズホルダがレンズを通過した光線を遮蔽しない厚みに形成されているため、特にレンズが光線を拡径する場合でも、この光線がレンズホルダに遮蔽される事が無いから、ビーム径を大きくして高い精度の加工が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、この実施形態では、レーザ加工装置に本発明を適用した場合を説明するが、光硬化造形法により三次元造形を行う光造形装置にも本発明を適用可能である。
【0014】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係るレーザ加工装置1の構成を示す図である。また、図2は、図1に示すモータ41Aにスキャナミラー40Aを取り付けた状態を拡大して示す図である。
【0015】
レーザ加工装置1は、レーザ発振器2と、スキャナ光学装置3と、レーザ発振器2から放射された光線たるレーザ光45をスキャナ光学装置3に導く1対のミラー4A、4Bとを備えており、これらが板状の石定盤5に載置・固定されている。
レーザ発振器2は、レーザ媒質に応じた波長のレーザ光45を発振するものであり、図示せぬレーザ共振器を内蔵する直方体形状の発振器本体20を備え、この発振器本体20の先端部20Aにはレーザ出射口21が形成されている。
なお、レーザ発振器2としては、固体レーザ発振器、液体レーザ発振器、気体レーザ発振器、ファイバレーザ、半導体レーザ発振器、或いは、自由電子レーザ発振器などが用いられる。
【0016】
発振器本体20の底面には、先端部20A側及び後端部20B側のそれぞれに、石定盤5にねじ止め固定されたXYZ軸ステージ22が設けられている。石定盤5は、平面精度が非常に高いため、各XYZ軸ステージ22を調整することで、レーザ発振器2の光軸の微調整が可能となる。さらに、石定盤5は、熱伝導率が非常に小さいため、レーザ発振器2の発熱が他の光学要素に伝導し熱的影響を及ぼすことが抑制される。
【0017】
スキャナ光学装置3は、光学要素として、レーザ発振器2から出力されたレーザ光45の強度を変調するAOM(音響光学変調素子)30と、レーザ光45のZ軸上での焦点位置を調整する焦点位置調整装置31と、レーザ光45をX軸、Y軸の2軸に偏向して加工対象物に照射するスキャナヘッド32とを備え、これらの光学要素が、ミラー4Bとの光軸を合わせるための直線状に延びた高さ調整用のステージ33に載置されている。
この高さ調整用のステージ33には、焦点位置調整装置31及びスキャナヘッド32の間に固定配置され、焦点位置調整装置31から出力された光を集光する集光レンズ34と、AOM30に入射するレーザ光45を整形する光学素子としての2組のレンズ35A、35Bとが取り付けられている。
【0018】
スキャナヘッド32は、底面が開口した箱型の筐体42を備えており、この筐体42の上部及び側部には、モータ41A、41Bが設けられている。
モータ41Aの回転軸47(駆動軸)は、図1における左右方向に延在しており、その先端には、レーザ光45を偏向するスキャナミラー40Aが取り付けられている。このスキャナミラー40Aは、モータ41Aの回転軸47をR方向(図2参照)へ適宜回動させることにより、ミラーの角度を変えられるようになっている。
一方、モータ41Bの駆動軸は、図1における上下方向に延在しており、その先端には、スキャナミラー40Aの偏向方向に対して所定の角度となる方向にレーザ光45を偏向するスキャナミラー40Bが取り付けられている。このスキャナミラー40Bは、モータ41Bの駆動軸を回動させることにより、ミラーの角度を変えられるようになっている。
これらのスキャナミラー40A、40Bは、筐体42の内部に配置されており、筐体42の側面には、その内部にレーザ光45を導くための図示せぬ導入口が形成されている。
【0019】
また、筐体42が配置された部分の高さ調整用のステージ33には、上記スキャナミラー40A、40Bにて偏向された光を出射する出射口43が設けられている。これにより、スキャナヘッド32、集光レンズ34及びこの出射口43によって、レーザ発振器2から出力されたレーザ光45を偏向する偏向モジュールが構成されている。この偏向モジュールによって偏向されたレーザ光45は、出射口43を通過して加工対象物が載置されるワーキングエリア46へと向けられる。
【0020】
焦点位置調整装置31は、レーザ光45をスキャナヘッド32で偏向し加工対象物をレーザ光45で走査する際に、加工対象物の走査面におけるレーザ光45の照射スポット径を可変するために、レーザ光45の焦点位置を調整するものであり、具体的な構成については後詳述する。
AOM30は、上記の通り、レーザ発振器2から出力された連続発振レーザ光、或いは、パルスレーザ光の強度変調を行うものである。
【0021】
また図1に示すように、レーザ加工装置1は、上記AOM30、焦点位置調整装置31及びスキャナヘッド32を制御するコントロールユニット6を有している。
コントロールユニット6は、加工対象物の走査面におけるレーザ加工深度等の加工度合いを一定に維持すべく、スキャナヘッド32のモータ41A、41Bの駆動量によって規定されるレーザ光45の走査速度に応じて、走査面でのレーザ光45の強度又は密度を調整するための制御を行う。
【0022】
具体的には、コントロールユニット6は、レーザ光45の走査速度が速い場合、単位面積あたりのエネルギー低下を防止するために、レーザ光45の強度もしくはレーザ光45の密度を高め、これとは逆に、走査速度が遅い場合、単位面積あたりのエネルギー上昇を抑制するために、レーザ光45の強度もしくはレーザ光45の密度を低める制御を行うことで、レーザ光45の走査時の単位面積あたりのエネルギーを略一定に維持する制御を行う。なお、上記レーザ光45の密度は、パルスレーザ光の単位時間当たりのパルス数により定義され、当該レーザ光密度を可変することで、単位面積当たりのレーザ光45のエネルギーを可変することができる。
【0023】
また、スキャナヘッド32のモータ41A、41Bには、スキャナミラー40A、40Bの回転量に応じたパルス数のデジタルパルス信号SA、SBをコントロールユニット6に出力するエンコーダ44A及び44Bが設けられている。
上記コントロールユニット6は、各デジタルパルス信号SA、SBをカウントし、このカウント値に基づいて、スキャナミラー40A、40Bの回転量を特定し、現在のレーザ光照射位置のXY座標値を特定する。
このときコントロールユニット6は、レーザ光照射位置の目標値と現在のXY座標値との偏差を打ち消すように、モータ41A、41Bのそれぞれに出力してネガティブフィードバック制御を実行する。すなわち、コントロールユニット6においては、デジタルパルス信号SA、SBを出力するエンコーダ44A、44B、及び、コントロールユニット6により、フルデジタルのクローズドループ制御系が構成されており、各モータ41A、41Bの駆動が高精度に補償される。これにより、高精度なモータ制御、すなわち、加工対象物の加工面における高精度な照射位置制御が実現される。
【0024】
そして、このようなレーザ加工装置1は、例えば、リモートレーザ溶接、ワーキングディスタンスが比較的長い光造形システム、高い描画精度が要求される描画システム(単なる製造年月日などの文字を認識するために描画されるものを除く)などに使用することができる。
【0025】
次いで、上記焦点位置調整装置31について詳述する。
図3は焦点位置調整装置31の構成を示す図であり、図3(A)は焦点位置調整装置31の平面図、図3(B)は図3(A)のA−A矢視断面図である。また、図4は焦点位置調整装置31の構成を模式的に示す斜視図であり、図5は図3(A)のB−B矢視断面図である。なお、焦点位置調整装置31の構成の把握を容易とするために、図4及び図5では一部の構成の図示を省略している。
【0026】
これらの図に示すように、焦点位置調整装置31は、箱形のベース体50と、このベース体50に設けられた直動機構51と、この直動機構51の駆動量を検出する検出部52(図4及び図5には図示せず)とを有している。
ベース体50は、厚みのあるアルミニウム製部材に、直線状に延びる断面略矩形の凹溝部60を設けて構成され、この凹溝部60に、上記直動機構51が収められている。
直動機構51は、可動片62と、この可動片62を直線的に往復移動する駆動部63とを有し、さらに、レーザ光45をデフォーカスしてビーム径を拡径し、光軸一致に設けられた上記集光レンズ34(図1参照)に入射する凹レンズ64を保持するレンズホルダ65が可動片62に取り付け固定されている。
【0027】
可動片62の直動方向Xは凹レンズ64の光軸と一致し、上記可動片62の直動に伴って凹レンズ64と上記集光レンズ34との間の距離が可変される。これにより、焦点位置調整装置31から集光レンズ34に入射するレーザ光45のビーム径、すなわち、集光レンズ34へのレーザ光45の入射角が可変されて、集光レンズ34からレーザ光45の焦点位置までの距離が変更されるため、加工対象物に対する焦点位置が調整されることとなる。
【0028】
直動機構51の駆動部63は、図5に示すように、互いに対向配置され、直動方向Xに延びる一対の板状永久磁石67、68と、板状永久磁石67、68ごとに接合して設けられる板状の継鉄(ヨーク)69、70とを有し、これら一対の板状永久磁石67、68が形成する磁界中に、可動片62に一体的に設けたボイスコイル体72を配置して構成されている。
ボイスコイル体72は、図6に示すように、複数のボイスコイル73が直動方向Xに沿って並設されて構成されており、前掲図3(B)に示すように、一対の板状永久磁石67、68を挟んだ両側に延在するように可動片62に設けられた一対の支持脚74に一体的に取り付けられている。
【0029】
また上記一対の板状永久磁石67、68のそれぞれは、図5及び図6に示すように、磁極が一定ピッチPで交互に配列されており、さらに、対向する板状永久磁石67、68の間で各磁極が反対極性になるように配列されている。
すなわち、駆動部63は、ボイスコイル型のリニアモータとして構成されており、上記コントロールユニット6から送出された駆動信号によってボイスコイル体72に電流が流れることで、ボイスコイル体72には、一対の板状永久磁石67、68間を直動方向に沿ってスライド移動させる力が加わることとなる。
【0030】
ベース体50の上面には、板状永久磁石67、68を挟んだ両側に、2本の直動ガイドレール81、82が設けられ、これら直動ガイドレール81、82に遊嵌するガイド溝83、84が可動片62の裏面側に形成されている。そして、上記駆動部63の駆動によって、ボイスコイル体72にスライド移動方向の力が加わることで、可動片62が直動ガイドレール81、82及びガイド溝83、84によって案内されて直動することとなる。
また、ベース体50には、可動片62の直動範囲の両端部に位置する箇所に、緩衝材86有した規制凸部85が配設され、これら規制凸部85によって直動範囲の両端部で可動片62が速やかに停止される。
【0031】
上記駆動部63によって直動される可動片62は、図3(A)及び図4に示すように、ベース体50上を移動する略矩形の板状の可動プレート80を有し、この可動プレート80の上面には、可動プレート80の重心位置に上記レンズホルダ65が載置され、また、可動プレート80の下側に上記駆動部63が配設される。
可動プレート80には、直動方向Xに平行な一方の縁部に、L字状に立ち上がった側壁87が形成されている。この側壁87の外側面には、直動方向Xに直線状に延び、可動片62と一体的に移動するリニアスケール89(図4には図示せず)が設けられ、また、ベース体50には、リニアスケール89と対向して、当該リニアスケール89の移動を検出する例えば光学式又は磁気式の検出ユニット90が配置されており、これらリニアスケール89及び検出ユニット90によって上記検出部52が構成されている。検出ユニット90及びリニアスケール89の対向箇所は、覆い板91によって覆われており、検出ノイズの低減が図られている。
【0032】
検出ユニット90の検出信号は、上記コントロールユニット6に入力される。コントロールユニット6は、加工対象物に形成すべき照射スポット径に基づいて、凹レンズ64を可動片62と共に所定距離だけ直動させレーザ光45の焦点位置を調整する制御を行っており、上記検出ユニット90からの検出信号に基づいて、可動片62の移動量(位置)を特定し、フィードバック制御を行っている。このとき、上記のように、駆動部63がリニアモータとして構成されているため、高精度で、かつ、高速な位置制御が実現可能となる。
【0033】
ここで、凹レンズ64を透過したレーザ光45は、集光レンズ34に向けて拡径しながら進むこととなる。本実施形態では、上述の通り、凹レンズ64を保持するレンズホルダ65は、可動プレート80の上面に、ベース体50の上面から上方に突出させた状態で設け、可動プレート80の下側に、ベース体50に収容するように駆動部63を設けているため、この駆動部63が凹レンズ64と集光レンズ34との間に介在することが無く、当該駆動部63によってレーザ光45が遮蔽される心配は無い。
【0034】
さらに、レンズホルダ65の凹レンズ64を保持する部分においては、図5に示すように、凹レンズ64の光軸に沿った厚みWが、当該凹レンズ64の厚みと同程度、或いは、若干厚い程度に形成され、かかるレンズホルダ65がベース体50から突出した状態で可動プレート80と共に直動する。これにより、凹レンズ64を透過することで拡径するレーザ光45がレンズホルダ65によって遮蔽され難くなり、レーザ光45のビーム径を従来よりも大きく拡径することができる。
【0035】
上記可動プレート80には、レンズホルダ65を挟んで直動方向Xに沿った両側に、それぞれ同形に開口してなる軽量化用の開口部92が形成されており、これにより、可動片62の高速駆動を可能にし、レーザ加工速度の向上が図られている。
このとき、可動プレート80及び支持脚74を含む上記可動片62は、レンズホルダ65を通り直動方向Xに対して垂直な軸線(図3(A)中、A−A線に相当)を対称軸として軸対称形状に形成されている。
これにより、可動片62においては、レンズホルダ65を中心として直動方向Xの重量バランスが維持され、高精度、かつ、高速な駆動を実現可能にし、さらに、直動に伴うレンズホルダ65の光軸のずれが抑制されるため、高速、かつ、高精度なレーザ加工が実現可能になる。
【0036】
ここで、コントロールユニット6は、加工開始時、或いは、1ラインの走査の開始時には、レーザ光45の照射位置をワーキングエリア46の所定の位置から走査開始位置まで移動し、その走査開始位置での照射スポット径が所定値となるように、焦点位置調整装置31の可動片62みを駆動して焦点位置を調整し、また、レーザ光45で走査している間は、走査位置によらず照射スポット径が所定値、或いは、走査位置でのレーザ光45のエネルギーが略一定となる照射スポット径となるように、スキャナヘッド32のX軸、Y軸のモータ41A、41Bの駆動(すなわち、レーザ光の照射位置)と同期して焦点位置調整装置31の可動片62を駆動する。
【0037】
レーザ加工装置1は、走査開始時に、レーザ光45のワーキングエリア46での焦点位置を調整する際に、焦点位置調整装置31の1ステップあたりの駆動量をレーザ走査による加工時よりも大きくして(いわゆる、粗動動作)させて、精度よりも高速性を優先して焦点位置調整が行われ、次いで、次いで、加工時には、1ステップあたりの駆動量を小さくしてレーザ走査を行う(微動動作)。上記のように、可動片62を高精度、かつ、高速に駆動可能な構成を有しているため、この微動動作を高精度、かつ、高速に行うことが可能となり、これにより、生産性の高い、高品位な加工が可能になる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、レンズホルダ65をベース体50から突出させた状態で可動片62に設けて直動する構成としため、レンズホルダ65の寸法が制限される事が無いから、加工に必要なレンズ(本実施形態では凹レンズ64)の径に合わせてレンズホルダ65を構成することができる。
これに加え、レンズホルダ65の凹レンズ64を保持する部分の厚みWが、当該凹レンズ64の厚みと同程度(若干厚い又は薄いものも当然含む)に形成され、凹レンズ64を通過した光線を遮蔽しない厚みに形成されているため、レーザ光45のビーム径を従来よりも大きく拡径することができるから、当該焦点位置調整装置31の次段に、開口数のより大きな集光レンズ34を配置し、分解能が高く高精細なレーザ加工が実現できる。
【0039】
また本実施形態によれば、可動片62の可動プレート80の面内に軽量化用の開口部92を設けたため、可動片62の高速駆動が可能になる。なお、軽量化用の開口部92に代えて凹部によって軽量化を図る構成としても良い。
【0040】
また本実施形態によれば、上記可動片62を、レンズホルダ65を通り直動方向Xに対して垂直な軸線(図3(A)中、A−A線に相当)を対称軸として軸対称形状に形成し、この可動片62の重心位置にレンズホルダ65を配置したため、レンズホルダ65を中心として直動方向Xの重量バランスが維持され、高速に可動片62を駆動しても、直動に伴うレンズホルダ65の光軸のずれが抑制され、高速、かつ、高精度なレーザ加工が実現される。
【0041】
さらに、本実施形態によれば、上記焦点位置調整装置31及び集光レンズ34を同一のステージ33に取り付けてスキャナ光学装置3を構成しているため、焦点位置調整装置31及び集光レンズ34の光軸のずれが防止される。
【0042】
[第2実施形態]
図7は、本実施形態に係る焦点位置調整装置131の構成を示す図であり、図7(A)は焦点位置調整装置131の平面図、図7(B)は図7(A)のC−C矢視断面図である。また、図8は焦点位置調整装置131の構成を模式的に示す斜視図であり、図9は図7(B)のD−D矢視断面図である。
なお、これらの図において、第1実施形態で説明した焦点位置調整装置31と同様な部分については同一の符号を付し、その説明を省略する。また、これらの図では、直動機構51の可動プレート80の位置を検出するための検出部52の記載を省略している。
【0043】
これらの図に示すように、本実施形態の焦点位置調整装置131は、大きなレーザ出力を要する例えばレーザ溶接などの加工を行うレーザ加工装置に用いて好適に構成されたものであり、光学系の破損を防止すべく径を大きくしたレーザ光45を通過可能な径のレンズ164を嵌め込み可能な寸法のレンズホルダ165を備えている。
このような高エネルギーのレーザ光45がレンズ164を通した場合、レンズ164が発熱し、何ら対策を施さなければ熱損傷が生じることがある。
そこで、レンズホルダ165を、例えばアルミニウム(アルミニウム合金を含む)等の高熱伝導性の素材から形成すると共に、このレンズホルダ165に、図7(B)に示すように、レンズ164を冷却する冷却機構1100を設けている。
【0044】
冷却機構1100は、水冷によってレンズホルダ165を冷却して、当該レンズホルダ165が保持するレンズ164を冷却するものであり、レンズ164が嵌め込まれる嵌込開口165Aを囲むように形成された正面視U字状の冷却水路1101と、この冷却水路1101の各端部に設けられた注水口1103及び排水口1105とを備えている。注水口1103及び排水口1105は、レンズホルダ165の上部に設けられ、それぞれには、ビニール製のチューブを螺旋状に形成した伸縮性に優れる冷却水配管(図示せず)が接続されている。これら冷却水路1101、注水口1103及び排水口1105は、正面からみてレンズ164の光軸(中心軸)を中心に左右対称形状に形成され、左右の重量がバランスされている。
レーザ加工時には、冷却機構1100を冷却水が循環することで、レンズホルダ165を介してレンズ164が冷却される。
【0045】
図9に示すように、レンズ164の縁部164Aは、ある程度の幅Tを有するように切り(削り)落とされており、このレンズ164の縁部164Aがレンズホルダ165の嵌込開口165Aに嵌め込まれ、その前面側が環状の抑え部材1130によって抑えられる。
上記のようにレンズ164の縁部164Aの幅Tを大きくすることで、レンズホルダ165との間の接触面積が増え、レンズ164の冷却効率が高められている。また、レンズホルダ165には、レンズ164の裏面167に係合する段付部166が形成されており、この段付部166とレンズ164との接触箇所からも熱伝導可能にすることで、冷却効率がさらに高められる。
【0046】
ここで、レンズホルダ165のサイズや重量、直動機構51の直動時の周波数(往復動の周期)によっては、直動機構51の可動片62に共振が生じて雑音が生じることがある。
そこで、本実施形態では、可動片62に、共振防止部材1110、1112を設けている。
共振防止部材1110、1112は、それぞれ所定の重さを有した円柱状の部材であり、直動ガイドレール82の長手方向と略平行な姿勢で可動片62に取付けられており、可動片62の駆動時の共振発生が抑制されている。
【0047】
また、上記共振防止部材1110、1112は、可動片62に対して着脱自在に構成されており、共振の特性に応じて共振防止部材1110、1112を交換し、調整できるようになっている。
これら共振防止部材1110、1112は、可動片62(可動プレート80)の角部に設ける事が良く、どの角部に設ける構成とするかは、共振が防止できる構成であれば、本実施形態のように、直動ガイドレール82側の2つの角部だけに設ける構成であっても、直動ガイドレール81側の角部も合わせて4つ角全部に設ける構成であっても、また、4つ角のうちのいずれか数個の角部だけに設ける構成であっても良い。
【0048】
また、可動片62をガイドする直動ガイドレール81は、その大部分が可動プレート80によって覆われた構成とされているが、この可動プレート80には、図7及び図8に示すように、直動ガイドレール81に対応した箇所に、潤滑油を導入するための導入孔1120が形成されている。
これにより、直動ガイドレール81と可動プレート80との摺動箇所への潤滑油の導入を容易とし、メンテナンス性を高めることができる。
【0049】
このように本実施形態によれば、レンズホルダ165に、レンズ164を冷却するための冷却機構1100を設けたため、レーザ光45を通したときの発熱による熱損傷を防止することが可能となり、高いレーザ出力を要するレーザ加工装置に好適な焦点位置調整装置131が実現される。
【0050】
また本実施形態によれば、直動機構51の可動片62に、往復動に伴う共振を防止する共振防止部材1110、1112を設ける構成としたため、可動片62の駆動時の雑音を防止することができる。
また本実施形態によれば、可動片62と直動ガイドレール81の摺動箇所に潤滑油を導入する導入孔1120を設けているため、この摺動箇所への潤滑油の導入を容易とし、メンテナンス性を高めることができる。
【0051】
なお、上述した各実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形および応用が可能である。
例えば、上述した実施形態において、レンズホルダ65を可動片62の可動プレート80に対してネジ止め固定する構成とし、レンズホルダ65ごと凹レンズ64を交換自在に構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す図である。
【図2】スキャナヘッドの主要構成を示す概要図である。
【図3】焦点位置調整装置の構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)はA−A矢視断面図である。
【図4】焦点位置調整装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【図5】図3(A)のB−B矢視断面図である。
【図6】ボイスコイル体の構成を説明するための図である。
【図7】第2実施形態に係る焦点位置調整装置の構成を示す図であり、(A)は平面図、(B)はC−C矢視断面図である。
【図8】焦点位置調整装置の構成を模式的に示す斜視図である。
【図9】図7(B)のD−D矢視断面図である。
【符号の説明】
【0053】
1 レーザ加工装置
3 スキャナ光学装置
6 コントロールユニット
30 AOM
31、131 焦点位置調整装置
32 スキャナヘッド
34 集光レンズ
45 レーザ光
46 ワーキングエリア
50 ベース体
51 直動機構
62 可動片
63 駆動部
64、164 レンズ
65、165 レンズホルダ
80 可動プレート
92 開口部
1100 冷却機構
1101 冷却水路
1103 注水口
1105 排水口
1110 共振防止部材
1120 導入孔
X 直動方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース体に設けられ、可動片を往復動する直動機構と、
前記可動片に一体に設けられ、光線が入射するレンズを保持するレンズホルダとを備え、
前記レンズホルダは、前記レンズを前記ベース体から突出した位置に保持し、前記レンズを通過した光線を遮蔽しない厚みに形成されていることを特徴とする焦点位置調整装置。
【請求項2】
前記可動片に、前記往復動に伴う共振を防止する共振防止部材を設けたことを特徴とする請求項1に記載の焦点位置調整装置。
【請求項3】
前記レンズホルダに、前記レンズを冷却する冷却機構を設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の焦点位置調整装置。
【請求項4】
前記直動機構は、前記可動片の往復動を案内する直動ガイドレールを備え、
前記直動機構に、前記可動片と前記直動ガイドレールの摺動箇所に潤滑油を導入する導入孔を設けたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の焦点位置調整装置。
【請求項5】
加工条件に応じて光線の照射スポット径を可変させながら加工対象物に前記光線を照射するレーザ加工装置において、
請求項1乃至4のいずれかに記載の焦点位置調整装置と、
前記焦点位置調整装置に入力する光線を出力するレーザ装置と、
前記照射スポット径に基づいて、前記焦点位置調整装置が備える可動片の移動量を規定する駆動信号を生成する制御回路と
を具備することを特徴とするレーザ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−291811(P2009−291811A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147551(P2008−147551)
【出願日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(391064429)シーメット株式会社 (38)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】