説明

焼き色の少ない白色焼成パン類または着色焼成パン類

【課題】白色焼成パン類、および色素の色を鮮やかに発色させた着色焼成パン類の提供。
【解決手段】ブドウ糖およびトレハロースを必須成分として添加した製パン原材料より、窯の温度を200℃で焼成したとき焼成前の生地の明度に対する焼成後のパンのクラスト部の明度の低下率が10%以下となるパン生地を調製し、当該生地を通常のパンと同様の焼成条件にて焼成し、焼き色の着かない白いパン類に焼き上げたパン類。中種法を採用の場合、ブドウ糖1〜3重量部、トレハロース1〜4重量部を添加する。ストレート法を採用の場合、ブドウ糖0.2〜0.5重量部、トレハロース1〜5重量部を添加する。冷凍生地法を採用の場合、ブドウ糖0.1〜0.3重量部、トレハロース1〜5重量部を配合し、かつマルトース資化能力が高い冷凍生地専用イーストを使用する。上記製パン原材料に食品色素を添加して焼き上げた色素の色を鮮やかに発色したパン類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼き色の少ない白色焼成パン類または着色焼成パン類に関する。
【背景技術】
【0002】
メイラード反応は、タンパク質などのアミノ基と還元糖などのカルボニル基との間の非酵素的相互作用(反応)であり、アミノ-カルボニル反応とも呼ばれる。食品の褐変反応の主要な反応で、褐色の着色物質の生成を伴うため、この反応を好ましくないとする食品も多く存在する一方で、褐変化や二次反応で生じる香気成分(カラメル香など)が好まれる食品、例えばパン、菓子、味噌、醤油、味醂などもある。パン類では、原材料に利用される加熱着色性の糖類やイースト発酵中に小麦澱粉より発生するマルトースが関与して、焼成の過程でメイラード反応を起すことで、パンの外皮(クラスト)の着色(褐色化)やカラメル香などの好ましい香りの発生などの役割を担っている。そのため、パン類におけるメイラード反応は、パンのおいしさを形作る重要な要素となっている。
【0003】
一方で、クラストの着色を抑えたパンに関する検討も行われており、例えば、クラストの着色と硬さを抑えることで、クラスト部を除去せずにそのままサンドイッチに適したパンを提供する方法、具体的には、発酵性糖類を対小麦粉で2重量%以上3重量%以下と高糖化還元糖類を対小麦粉で1重量%以上5重量%以下を配合し、温度一定のオーブンで170℃以上190℃以下の温度で焼成する方法(特許文献1)が考案されている。
また、パン生地に配合する糖類の量を最終醗酵が終わるまでに資化される程度とし、かつ、醗酵により資化されることのない糖アルコールを使用したサンドイッチ用パンの製造方法(特許文献2)、パン生地に配合する砂糖の量をイーストの醗酵に必要な必要量相当にとどめ且つ所定の甘味を出すための強甘味成分(ステビオサイドなど)をパン生地に配合するパンの製造方法(特許文献3)、1〜6%の醗酵性糖類および非醗酵性糖類(1%〜10%の糖アルコールおよび/またはステビア甘味料)を添加した白色系パン生地の製造方法(特許文献4)、小麦粉100重量部に対し糖アルコール2〜30重量部および乳蛋白質0.02〜0.5重量部を添加する白色パンの製法(特許文献5)、
スクラロース、アセスルファムカリウム、ソーマチンおよびアリテームなどから選ばれる少なくとも1種を含み、焼成を140〜210℃で行うことを特徴とする焼き色が薄く調製されたパン(特許文献6、特許文献7)、も開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8-107753号公報
【特許文献2】特開平2-117340号公報
【特許文献3】特開昭62-166829号公報
【特許文献4】特開2001-45962号公報
【特許文献5】特開2003-102366号公報
【特許文献6】特開2002-199840号公報
【特許文献7】特開2002-233299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の方法では、クラストをクラムと比べて違和感のない硬さにまで柔らかく仕上げることを目的としており、サンドイッチ用食パン類のように、クラスト部をわざわざ除去して食するパン類の場合には利点となるが、通常のパン類ではクラストが柔らかくなり過ぎ、しわが発生するなどの理由で適さなかった。
また、糖アルコールのようなイースト非資化性(非醗酵性)の糖や甘味料などの配合により、焼成時に焼き色を増加させる糖の量を極力減らす方法は、生地の滑らかさ(伸展性)に欠け、食感は硬く、風味も劣るといった問題が生じ、糖アルコールを利用した場合の風味改善に乳蛋白質を利用する方法も満足のいくものではなかった。
【0006】
そこで、本発明は、通常のロールパンを焼成する温度(代表的には200℃)で焼き上げた場合でも焼き色が着かない〔焼成前の生地と焼成後のパン(クラスト部)とで明度の低下率が10%以内である〕白色焼成パン類を提供することを目的とする。
【0007】
さらに通常はロールパンのようなパン類においてパン製造時に色素を添加しても、パンの表面(クラスト)には焼き色が着いてしまうので添加した色素の色を鮮やかに表現できなかったが、本発明は、焼き色がつかないことを特徴とする上記の技術を用いて、添加した色素の色をパンに対し鮮やかに発色させた着色焼成パン類を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ブドウ糖およびトレハロースを必須成分として添加した製パン原材料より、窯の温度を200℃で焼成したとき焼成前の明度に対する焼成後のパンのクラスト部の明度の低下率が10%以下となるパン生地を調製し、当該生地を通常のパンと同様の焼成条件で焼成し、焼き色の着かない白いパン類に焼き上げたことを特徴とするパン類を要旨とする。
【0009】
上記製パン原材料より、上記パン生地を調製する方法として、中種法を採用する場合には、本捏時において、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖1〜3重量部、トレハロース1〜4重量部を添加することを特徴とする生地を調製し、当該生地を通常のパンと同様の焼成条件で焼成し、焼き色の着かない白いパン類に焼き上げたことを特徴とするパン類を要旨とする。
【0010】
上記製パン原材料より、上記パン生地を調製する方法として、ストレート法を採用する場合には、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖0.2〜0.5重量部、トレハロース1〜5重量部を添加し、必要に応じて、マルトース0.4〜0.8重量部を添加することを特徴とする生地を調製し、当該生地を通常のパンと同様の焼成条件で焼成し、焼き色の着かない白いパン類に焼き上げたことを特徴とするパン類を要旨とする。
【0011】
上記製パン原材料より、上記パン生地を調製する方法として、冷凍生地法を採用する場合には、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖0.1〜0.3重量部、トレハロース1〜5重量部を配合し、かつマルトース資化能力が高い冷凍生地専用イーストを使用することを特徴する生地を調製し、当該生地を通常のパンと同様の焼成条件で焼成し、焼き色の着かない白いパン類に焼き上げたことを特徴とするパン類を要旨とする。
【0012】
また本発明は、上記製パン原材料に食品色素を添加して色素の色を鮮やかに発色したパン類に焼き上げたことを特徴としている。その場合、本発明は、ブドウ糖およびトレハロースを必須成分とする製パン原材料より、窯の温度を200℃で焼成したとき焼成前の生地の明度に対する焼成後のパンのクラスト部の明度の低下率が10%以下となるパン生地を調製し、さらに製パン原材料に食品色素を添加し、当該生地を通常のパンと同じ焼成条件にて焼成し色素の色を鮮やかに発色したパン類に焼き上げたことを特徴とするパン類を要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
通常のロールパンを焼成する代表的な温度である200℃で焼き上げた焼き色が着かない〔焼成前の生地と焼成後のパン(クラスト部)とで明度の低下率が10%以内である〕白色焼成パン類を提供することができる。
(1)パン類の代表的な焼成温度である200℃で焼成しても焼き色の増加がほとんど見られない〔焼成前の生地の明度に対する焼成後のパン(クラスト部)の明度の低下率が10%以下となる〕ことから、連続的に生産するときにわざわざ窯の温度を下げる必要がなくなるため、課題であった時間とエネルギーのロスといった生産性低下の要因を排除することができる。また、高い温度で焼くことが可能であるため、パン類の内相(クラム)は火抜けが良く、くちゃつきの少ないふんわりとした食感のパンが製造できるといった利点も期待できる。さらには、パン類の表面にしわが少なく、ボリューム感があるといった効果も期待できる。
(2)従来製法で課題となっていた生地の伸展性の悪さと製品の硬さを改善する。
【0014】
添加した色素の色を鮮やかに表現した着色パン類を提供することができる。
本発明の白色焼成パン類の技術を用いてパン類を焼成する際に、色価50の食品色素の場合で、小麦粉100重量部当たり0.1〜0.5重量部に当たる量を添加することで色素の色を鮮やかに表現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、クラストの着色の主要因である焼成中のメイラード反応を生じさせないように、糖とイーストの配合割合により発酵状態を制御する方法を見出したことに基づく。
これにより、通常のパンと同様の焼成条件にて、焼き色の白いパン類、または色素の色を鮮やかに発色したパン類に焼き上げたことを特徴とするパン類を製造することが可能となった。
通常、生地の発酵中に小麦澱粉より発生するマルトースは、イーストに資化され難く、焼成時の焼き色増加の一因となっている。本発明においては、イーストが発酵中に生地より生じたマルトースの資化能を高める条件、すなわち、生地の発酵がスムーズに進行し、しかもパン生地の発酵途中で小麦澱粉より生じるマルトースの資化を阻害することなく、焼成前の段階で焼き色の増加(メイラード反応)を促す糖をほぼ資化し尽くすことで焼き色の発生を抑えることができるパンの製造方法を代表的な製パン法である中種法、ストレート法、冷凍生地法において明らかにし、これにより、高温で焼成しても焼き色がつかず、食感、外観にも優れたパンを製造することが可能となった。
本発明の製法では、従来技術のように加熱着色性のない甘味料や糖アルコールなどを添加する白色パン類の製法に比べて、イーストの発酵を阻害しないうえに、焼成前の段階までイーストのガス発生を維持でき、十分な発酵風味が得られるため特別な風味付けを行う必要がないなどの優れた特徴を有する。
【0016】
本発明においては、製パン原材料として、ブドウ糖およびトレハロースを必須成分とすることを特徴としている。またさらには、イーストのマルトース資化の誘導期間をコントロールすることを特徴としている。
【0017】
ブドウ糖は、発酵の初期段階でのイーストの活動を活発化させるのに必要であり、採用する製法により必要となる添加量を調整する。必要量より少ない場合は、発酵が不十分となり、ボリュームがでない。必要量より多い場合は、焼き色の増加の原因となるブドウ糖や、発酵過程で生成するマルトースが多量に残留するため明度が低下する。
【0018】
トレハロースは、生地の発酵中に小麦澱粉より発生するマルトースの資化を阻害せずに、継続的に発酵を進行させ、加熱着色性の糖質をイーストがほぼ資化し尽くすことを助ける効果がある。またトレハロースもイーストに資化されることで、従来の白色パン類で問題となっていたボリュームやソフトさといったパンの基本品質を向上させることができると考えられる。トレハロースの添加量は採用する製法によりその必要量は異なる。必要量より少ない場合は発酵がスムーズに進行しないため、生地の発酵中に小麦澱粉より発生するマルトースが残存し、焼き色が増加する。また必要量より多くなると、マルトースの資化を阻害する現象を生じ、焼成前の段階までにマルトースを資化しきれないために、焼き色が発生してしまうほか、生地がダレるため作業性が悪化したり、食感がくちゃつくなどの問題を生じる。
トレハロースについては、トレハロースの添加により酵母発酵を行う期間を顕著に短縮せしめる作用(特開平7-322810号公報)が知られているが、発酵時間そのものを短縮する効果であり、また、ソフトな焼き色が得られる効果(特開2002-345392号公報)が知られているが、トレハロース自体が加熱褐変しない性質を利用して焼き色をソフトに仕上げる効果であり、何れもパン生地の発酵途中で小麦澱粉より生じるマルトースの資化を阻害することなく、さらには焼成前の段階までイーストのガス発生を維持させるという本発明の効果について示唆するものではない。さらに、マルトースを添加することでより安定的にコントロールできる場合がある。
【0019】
本発明の対象となるパン類とは、白色または色素により発色させたパンをいい、形状は特に限定されない。代表的な形状としては、円筒(ロール)形状、扁球状、球状、卵形、円板状、棒状、ひも状、リング状、三日月状、長方形、正方形、双子パン型、編みパン型、王冠型、バラの花型、バターロール型、山型、角型、ワンローフ型、バンズ型、などの一般的な形状のほか、動植物や人工物を模った形状などの特殊な細工を施した形状などが例示される。
【0020】
白色焼成パン類の基本原材料は、小麦粉、イースト、塩、水などであり、ブドウ糖およびトレハロース、場合によってはマルトースを添加量を変えて添加して、窯の温度を通常のパン類の代表的な焼成温度で焼成し、焼成前の生地の明度に対する焼成後のパン(クラスト部)の明度の低下率が10%以下となるパン生地の製パン原材料を選択する。選択する基準は、焼成後のパンの明度(白さ)が高い、パンの比容積が小さくない、食感がよい(くちゃつかないなど)などを挙げることができる。
ここで、明度を規定するための焼成条件は、通常の一般的なパンと同じ条件であればよく、様々な温度、時間の条件を検討する必要はない。窯の温度は190℃〜210℃で、焼成時間5〜40分の範囲が例示される。窯の特性、焼成するパンの基本原材料、大きさ、形状にあわせて一般的に選択される条件である。例えば、生地50gをロールパン成型した場合では、窯の温度200℃のときに、焼成時間は8分が標準である。
実際の焼成条件は、事前に検討を行って選択した焼成条件に対して、温度条件は±5%以内、時間条件は±3分以内で、望ましくは、同条件で行うのがよい。
【0021】
生地の明度は、色調を表す指標であり、「反射率」とも呼ばれて、L値と表現されることもある。白は明度100%であり、黒は明度0%である。分光式色差計を用いることにより容易に測定することができる。実施例では、分光式色差計SZ-Σ90(日本電色工業(株)製)で測定した。該色差計で測定すると、実施例1〜3の各試験区・対照区における焼成前のパン生地の明度(L値)は、86.1%であった。
【0022】
代表的な製法(1)製パン法として中種法を採用する場合、(2)製パン法をストレート法とし、必要に応じてマルトースを添加する方法を採用する場合、(3)製パン法を冷凍生地法とし、マルトース資化能力が高い冷凍生地専用イーストを使用する方法を採用する場合についてさらに具体的に説明する。
【0023】
ここで、マルトース資化能力が高いイーストとは、以下のファーモグラフを用いた炭酸ガス発生量の測定による生地1g当たりの炭酸ガス発生量が1.5ml以上であるイーストをいう。冷凍生地専用イーストとは、冷凍耐性を有し、専ら冷凍生地に使用されるイーストのことをいう。
[炭酸ガス発生量の測定方法]
下記配合の原材料を捏上温度27〜28℃になるように捏ね上げた生地を1試験区のサンプル量が20g程度になるように分割し、ファーモグラフII(アトー(株)製)を用いて、30℃で60分間に発生した炭酸ガスの量を測定する。本発明においては、30℃60分間の生地1g当たりの炭酸ガス発生量が1.5ml以上であるイーストをマルトース資化能力が高いイーストという。
[生地配合]
強力粉 100g
食塩 2g
水 45g
イースト 2g
[市販イーストの評価]
上記測定方法に従い、市販イーストのマルトース資化能力の評価を行った結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
製パン法として中種法を採用する場合は、本捏時において、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖1〜3重量部、トレハロース1〜4重量部を添加するのがよい。
またブドウ糖およびトレハロース以外のイースト発酵性の糖類、例えば、ショ糖、マルトースなどから選ばれる1種または2種以上の糖類を使用する場合は、該糖類とブドウ糖との合計量が3重量部を超えない範囲で併用することが可能である。
中種法では、中種発酵の工程を経ることで、イーストのマルトース資化の誘導期間を十分に確保できるため、マルトースの添加やマルトース資化能力が高いイーストの選択は必要に応じて行えばよい。
中種法におけるイーストの添加量は、通常の中種法に準じた量で行えばよいが、より好ましい条件として、小麦粉100重量部あたり2〜4重量部が例示され、中種を製造する際に全量を中種に添加する方法のほかに、イーストを中種と本捏に分割して添加することもできるが、その場合、中種に大部分を添加するのが良い。また、中種法としてより好ましくは無糖中種法を採用するのが望ましい。
これにより調製された生地を通常のパンと同様の焼成条件で焼成することで、焼き色の着かない白色焼成パン類を製造することができる。
【0026】
製パン法としてストレート法を採用する場合は、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖0.2〜0.5重量部、トレハロース1〜5重量部を添加し、必要に応じてマルトース0.4〜0.8重量部(より好ましくは0.4〜0.6重量部)を添加するのがよい。
一次発酵条件およびホイロ条件は、通常のストレート法に準じて行えばよい。また、マルトースを添加することで、イーストのマルトース資化の誘導期間を早めることができ、一次発酵およびホイロの時間を特別に長く取る必要がなくなるのでより好ましい。マルトースを添加した場合の一次発酵条件およびホイロ条件のより好ましい条件として、一次発酵条件は26〜29℃で50〜90分、ホイロ条件は35〜39℃で55〜70分が例示される。
ストレート法におけるイーストの添加量は、通常のストレート法に準じた量で行えばよいが、より好ましい条件として、小麦粉100重量部あたり4〜5重量部が例示される。また必要に応じてマルトース資化能力が高いイーストを選択しても良い。
これにより調製された生地を通常のパンと同様の焼成条件で焼成することで、焼き色の着かない白色焼成パン類を製造することができる。
【0027】
製パン法として冷凍生地法を採用する場合は、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖0.1〜0.3重量部、トレハロース1〜5重量部を配合し、かつマルトース資化能力が高い冷凍生地専用イーストを使用するのがよい。
冷凍生地法における代表的な製法としては、ノータイムストレート法、中種法、液種法、発酵種法、低温発酵法などが挙げられ、本発明においてもこれらの冷凍生地の製法を適用できるが、より好ましくはノータイムストレート法(一次発酵を0〜30分とする方法)を採用するとよい。
マルトース資化能力が高い冷凍生地専用イーストを使用することで、イーストのマルトース資化の誘導期間を著しく短縮することができるため、特に冷凍生地の製法としてノータイムストレート法を採用した場合において効果が高い。冷凍生地専用イーストであってもマルトース資化能力の低いイーストでは、特に冷凍生地の製法としてノータイムストレート法を採用した場合において、ホイロ工程での発酵が十分に進行しないため、パンとしての品質を確保できないなどの問題を生じてしまう。また冷凍耐性を有しないイーストでは、冷凍保管中にイーストがダメージを受けるため、冷凍生地法には適さない。
冷凍生地法におけるイーストの添加量は、通常の冷凍生地法に準じた量で行えばよいが、ノータイムストレート法を採用した場合の好ましい条件として、小麦粉100重量部あたり5〜6重量部が例示される。
また冷凍生地法では、糖アルコールを添加するのが好ましく、その添加量としては、ソルビトールの場合で小麦粉100重量部あたり1.5〜3重量部(より好ましくは1.5〜2重量部)が例示される。糖アルコールの併用効果については、そのメカニズムは不明瞭ではあるが、冷凍耐性が向上する効果が示唆されることを確認している。
冷凍生地の種類には、生地玉冷凍生地、成型冷凍生地、ホイロ後冷凍生地などがあるが、本発明においては、何れの冷凍生地にも適用可能であるが、より好ましくは成型冷凍生地である。
冷凍生地の解凍以降の工程、すなわち、成型冷凍生地の場合で解凍・ホイロ・焼成の工程は、特に制限なく、通常実施されている方法が適用できる。例えば、解凍方法としては、一定の温度条件下で解凍を行う方法や温度帯を段階的に変えて実施する多段階の解凍方法などが挙げられ、温度や時間の条件は特に制限されないが、適切な解凍を行うことが必要であり、より好ましくは解凍終了時の生地中心部の温度が10℃以上であることが望ましい。またホイロ条件は生地に合わせた適切な温度・時間を設定すればよく、特に制限されないが、好ましい条件として、35〜40℃で55〜70分が例示される。
これにより調製された生地を通常のパンと同様の焼成条件で焼成することで、焼き色の着かない白色焼成パン類を製造することができる。
冷凍生地法においては、生地の冷凍保管による冷凍障害により、焼成後のパンの外観の悪化や容積の低下という問題が生じるため、冷凍生地用の各種改良剤が利用されるが、冷凍生地用改良剤の多くは各種の酵素製剤を含むため、焼成時の焼き色増加の一因となるリスクが高く、白色焼成パン類を冷凍生地法で製造することは困難であった。
しかしながら、本発明の白色焼成パン類においては、冷凍生地用の各種改良剤を使用しなくても2ヶ月以上の冷凍耐性を有するため、十分に商品価値を有している。
【0028】
以上のパンの製造法において、各種の食品色素を添加し、色素の色を鮮やかに発色したパン類を製造できる。食品色素の色を鮮やかに表現するために色価50の食品色素の場合で小麦粉100重量部当たり0.1〜0.5重量部に当たる量を生地調製時に添加する様態が好ましい様態として例示される。色価50の色素で0.1〜0.5重量部とは、それを標準にして色価が50より大きい場合は0.1〜0.5重量部より少ない量を、50より小さい場合は0.1〜0.5重量部より多い量を添加することをいい、次式の換算式により適切な添加量範囲を求めることができる:(色価Cの食品色素の添加量(重量部))=31×(色価C)-0.86×(換算基準)。ここで換算基準とは、色価50の食品色素における添加量基準を示し、目的とする着色の程度に応じて小麦粉100重量部当たり0.1〜0.5重量部の範囲で任意に設定することができる。
【0029】
[色価の定義]
試料約0.5gを精密に量り、0.1mol/L塩酸を加えて100mlとし、その10mlを採り0.1mol/L塩酸を加えて50mlとする。これを試験溶液として0.1mol/L塩酸を対照とし、液層の長さ10mmで波長495nm付近の最大吸収波長における試験溶液の吸光度Aを測定し、次式により求める:色価=A×50/試料の採取量(g)。
【0030】
また、本発明の白色焼成パン類および着色焼成パン類では、生地の伸展性の改善などの製パン工程の作業性改善、パンの柔らかさなどの食感向上や風味付与などのパンの品質向上などの目的で、通常のパン類に使用される副材料、例えば乳化剤、多糖類、酵素類、アスコルビン酸などの製パン改良剤、香料、乳製品、各種抽出物などの各種材料を焼成後の焼き色(白色焼成パン類においては明度、着色焼成パン類においては発色の鮮やかさ)に影響を及ぼさない範囲で適宜使用することができる。
【0031】
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されない。
【実施例1】
【0032】
以下の配合、工程で示す中種法(無糖中種法)によりパン生地を調製し、ロールパンを製造した。尚、本捏原材料の糖類は表2に示す配合を用いた。
〔配合〕
中種(重量部) 小麦粉 70
イースト 3
(レッドイースト:(株)カネカ製)
イーストフード 0.1
(Cフード:オリエンタル酵母工業(株)製)
水 40
本捏(重量部) 小麦粉 30
ショートニング 8
乳化剤 0.6
(エマルジーMM-100:理研ビタミン(株)製)
食塩 1.6
水 20
表2記載の糖類
〔工程〕
中種:ミキシング 低速3分中速1分
捏上温度 26℃
発酵時間 2.5時間
発酵条件 27℃、75%湿度
本捏:ミキシング 低速2分中速4分↓(ショートニング)低速2分中速5分
捏上温度 27℃
フロアタイム 20分
分割 50g
ベンチタイム 20分
成型 ロール型(円柱状、長さ16cm、直径3.2cm)
ホイロ(最終発酵)時間 60分
ホイロ(最終発酵)条件 28℃、85%湿度
焼成温度 200℃
焼成時間 8分
【0033】
分光式色差計(SZ-Σ90:日本電色工業(株)製)を用い、焼成前のパン生地の明度(L値86.1%)と各試験区の焼成後のパン表面(クラスト部)の明度を測定し、焼成後のパン底面(天板に接した面)の焼き色を目視で観察した。またパン生地製造時の生地の伸展性を評価した。
総合評価は、上記の評価に加え、パン生地製造時の生地の発酵状態、焼成後のロールパンの比容積、パンの食感を総合して以下の基準により、白色焼成パン類としての品質を評価した。また特にコメントを要する評価内容があるものについては、総合評価の欄に特記した。結果を表2に示す。
総合評価
◎ 極めて良好
○ 良好
△ やや不良
× 不良
【0034】
【表2】





【0035】
本捏時に小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖1〜3重量部、およびトレハロース1〜4重量部添加すること(試験区1〜4、8、9)により、焼成による焼き色がつかず、焼成前の生地との明度の差が非常に少ない白色焼成パンが得られた。またブドウ糖およびトレハロース以外のイースト発酵性の糖類1種または2種以上をブドウ糖と併用して3重量部を超えない範囲で使用することも可能であった(試験区5〜7)。
また対照区1〜16の結果より以下のことが分かる。
(1)トレハロースを添加しないとブドウ糖を組み合わせる際に焼き色の発生を抑制できない(対照区1〜4)。また、生地の伸展性に悪影響を生じることがある(対照区2)。
(2)糖類の添加をトレハロースのみとした場合は、焼き色の発生は抑制できるが、生地の伸展性が悪くなり、パンのボリュームも小さくなる(対照区5)。
(3)ブドウ糖およびトレハロース以外のイースト発酵性の糖類1種または2種以上を使用する場合に、ブドウ糖を含まない組合せとすると、焼き色の発生を十分に抑制することが難しい(対照区6および7)。
(4)トレハロースの添加量が小麦粉100重量部に対して4重量部より多くなると、焼き色の発生を十分に抑制できなくなる(対照区8)。
(5)ブドウ糖の添加量が小麦粉100重量部に対して3重量部より多くなると、焼き色が著しく強くなる(対照区9)。
(6)ブドウ糖およびトレハロース以外のイースト発酵性の糖類1種または2種以上をブドウ糖と併用して使用する場合に、小麦粉100重量部に対して該糖類の合計量が3重量部より多くなると、焼き色が著しく強くなる(対照区9)。
(6)糖類を添加しない場合は、生地の伸展性が悪く、パンのボリュームも著しく小さい(対照区11)。
(7)従来技術を採用した場合は、焼き色を抑える効果はあるが、比容積は小さく、食感はくちゃついて劣るほか、一部では生地の伸展性も悪くなってしまいパンの品質としては満足できるものではない(対照区12〜16)。
【実施例2】
【0036】
以下の配合、工程によるストレート法によりパン生地を調製し、ロールパンを製造した。尚、原材料のイーストおよび糖類は表3に示す配合を用いた。
〔配合〕
(重量部) 小麦粉 100
イースト 表3記載の量
(レッドイースト:(株)カネカ製)
イーストフード 0.1
(Cフード:オリエンタル酵母工業(株)製)
乳化剤 0.6
(エマルジーMM-100:理研ビタミン(株)製)
食塩 1.5
水 55
ショートニング 8
表3記載の糖類
〔工程〕
ミキシング 低速2分中速4分↓(ショートニング)低速2分中速4分
捏上温度 27℃
一次発酵 60分
分割 60g
ベンチタイム 20分
成型 ロール型(円柱状、長さ16cm、直径3.2cm)
ホイロ(最終発酵)時間 60分
ホイロ(最終発酵)条件 38℃、85%湿度
焼成温度 200℃
焼成時間 8分
【0037】
分光式色差計(SZ-Σ90:日本電色工業(株)製)を用い、焼成前のパン生地の明度(L値86.1%)と各試験区の焼成後のパン表面(クラスト部)の明度を測定し、焼成後のパン底面(天板に接した面)の焼き色を目視で観察した。またパン生地製造時の生地の伸展性を評価した。
総合評価は、上記の評価に加え、パン生地製造時の生地の発酵状態、焼成後のロールパンの比容積、パンの食感を総合して以下の基準により、白色焼成パン類としての品質を評価した。また特にコメントを要する評価内容があるものについては、総合評価の欄に特記した。結果を表3に示す。
総合評価

極めて良好、○ 良好、△ やや不良、× 不良
【0038】
【表3】



【0039】
ブドウ糖およびトレハロースを添加すること(試験区10)、またブドウ糖およびトレハロースに加えて、マルトース0.4〜0.8重量部(小麦粉100重量部に対して)を添加すること(試験区11〜19)により、焼成による焼き色がつかず、焼成前の生地との明度の差が非常に少ない白色焼成パンが得られた。ブドウ糖およびトレハロースの最適添加量は、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖0.2〜0.5重量部、トレハロース1〜5重量部であると考えられる。
また対照区17〜21の結果より以下のことが分かる。
(1)ブドウ糖を添加しない場合は、生地の伸展性が悪くなり、パンの比容積も小さくなる(対照区17)。
(2)ブドウ糖の添加量が小麦粉100重量部に対して0.5重量部より多くなると、焼き色が強くなる(対照区18)。
(3)マルトースの添加量が小麦粉100重量部に対して0.8重量部より多くなると、焼き色が強くなる(対照区19)。
(4)トレハロースを添加しないと、生地の伸展性が悪くなり、比容積も小さくなる(対照区20)。
(5)従来技術を採用した場合は、著しい焼き色が着くほか、比容積も小さくなり、パンの品質としては満足できるものではなく(対照区21)、従来技術は製法にストレート法を採用した場合には焼き色を抑制する効果が無いことが分かる。
【実施例3】
【0040】
以下の配合、工程による冷凍生地法(ノータイムストレート法)によりパン生地を調製し、ロールパン成型冷凍生地を製造し、−30℃で2ヶ月間保管した。解凍・ホイロ工程をとった後、焼成し、ロールパンを製造した。尚、原材料のイーストおよび糖類は表4に示す配合を用いた。
〔配合〕
(重量部) 小麦粉 100
イースト 表4記載の量
(表4記載のイースト)
イーストフード 0.1
(Cフード:オリエンタル酵母工業(株)製)
乳化剤 0.6
(エマルジーMM-100:理研ビタミン(株)製)
食塩 1.5
水 56
ショートニング 8
表4記載の糖類

〔工程〕
ミキシング 低速2分中速8分↓(ショートニング)低速2分中速6分
捏上温度 20℃
一次発酵 0〜60分(表4記載の時間条件)、22℃
分割 50g
ベンチタイム 15分
成型 ロール型(円柱状、長さ16cm、直径3.2cm)
凍結 −40℃ 40分
冷凍保管 −30℃、2ヶ月間
解凍条件(ドウコン使用) −5℃、10hr→3℃、3hr→20℃、1.5hr→ホイロへ
ホイロ(最終発酵)時間 55〜70分(表4記載の時間条件)
ホイロ(最終発酵)条件 35〜40℃(表4記載の温度条件)、85%湿度
焼成温度 200℃
焼成時間 8分
【0041】
分光式色差計(SZ-Σ90:日本電色工業(株)製)を用い、焼成前のパン生地の明度(L値86.1%)と各試験区の焼成後のパン表面(クラスト部)の明度を測定し、焼成後のパン底面(天板に接した面)の焼き色を目視で観察した。またパン生地製造時の生地の作業性を評価した。
2ヶ月保管後の冷凍耐性の評価を焼成後のロールパンの比容積、外観観察(梨肌の発生有無など)を基に以下の基準により評価した。
総合評価は、上記の評価に加え、焼成後のロールパンの比容積、パンの食感、冷凍耐性を総合して以下の基準により、白色焼成パン類としての品質を評価した。また特にコメントを要する評価内容があるものについては、総合評価の欄に特記した。結果を表4に示す。
冷凍耐性の評価
◎ 比容積・外観共に極めて良好 ○ 比容積・外観共に良好
△ やや不良(比容積小さいまたは外観悪い) × 不良(比容積小さく、外観も悪い)
総合評価
◎ 極めて良好 ○ 良好 △ やや不良 × 不良
【0042】
【表4】






【0043】
ブドウ糖およびトレハロースを添加すること(試験区20〜40)により、焼成による焼き色がつかず、焼成前の生地との明度の差が非常に少ない白色焼成パンが得られた。特に、冷凍生地用改良剤を使用しなくとも、2ヶ月の冷凍耐性を有することが分かる。
ブドウ糖およびトレハロースの最適添加量は、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖0.1〜0.3重量部、トレハロース1〜5重量部であると考えられる。またソルビトールを使用する場合は、小麦粉100重量部に対してソルビトール1.5〜3重量部が好適な量であると考えられる。
また対照区22〜28の結果より以下のことが分かる。
(1)ブドウ糖を添加しない場合は、冷凍耐性が悪く、容積が小さめになり、食感もくちゃつく(対照区22)。
(2)ブドウ糖の添加量が小麦粉100重量部に対して0.3重量部より多くなると、焼き色が強くなり、特にパン底面の焼き色が強くなる(対照区23)。
(3)トレハロースを添加しないと冷凍耐性に問題を生じる(対照区24)。
(4)冷凍生地法においては、マルトース資化能力の低いイーストを使用すると、パンとしての品質自体に問題を生じることが分かる(対照区25、26)。
(5)従来技術を採用した場合は、強い焼き色を生じるだけでなく、パンとしての最低限の品質さえも得られないこと(対照区27、28)から、従来技術は冷凍生地法には適用できないことが分かる。
【実施例4】
【0044】
実施例1の試験区2と対照区3の製法において、本捏時に色素を添加して着色焼成パン(ロールパン)を製造した。色素の種類と、小麦粉100重量部あたりの添加量を表5に示した。着色焼成パンについて、焼成前の生地と焼成後のパン表面(クラスト部)の明度低下率と、色の発色状態を評価した。結果を表5に示す。なお、表中の換算基準とは、各試験区の食品色素の添加量を算出する基準に用いた色価50の色素における添加量基準を示す。
【0045】
【表5】

備考)
コチニール色素:SRレッドK-6 三栄源エフ・エフ・アイ製
ベニバナ・クチナシ色素:抹茶ベース 横山香料製
クチナシ色素:サンイエローNo.3 三栄源エフ・エフ・アイ製
【0046】
試験区2に色素を添加したパンでは、焼成前の生地と焼成後のパン表面(クラスト部)の明度低下率は10%以内であり、少量の色素添加で鮮やかに発色できることが分かった。一方、対照区3に色素を添加したパンでは、明度低下率は10%を超え、色合いはくすみがあり発色性が悪かった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
焼き色の少ない白色焼成パン類はその白さを生かして、あるいは焼き色がつかない特色を生かして添加した色素の色をパンに対して鮮やかに発色させて、多種類のパン類のデザインが可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブドウ糖およびトレハロースを必須成分として添加した製パン原材料より、窯の温度を200℃で焼成したとき焼成前の生地の明度に対する焼成後のパンのクラスト部の明度の低下率が10%以下となるパン生地を調製し、当該生地を通常のパンと同様の焼成条件にて焼成し、焼き色の着かない白いパン類に焼き上げたことを特徴とするパン類。
【請求項2】
上記製パン原材料より、上記パン生地を調製する方法として、中種法を採用し、本捏時において、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖1〜3重量部、トレハロース1〜4重量部を添加することを特徴とする請求項1のパン類。
【請求項3】
上記製パン原材料より、上記パン生地を調製する方法として、ストレート法を採用し、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖0.2〜0.5重量部、トレハロース1〜5重量部を添加することを特徴とする請求項1のパン類。
【請求項4】
さらに、小麦粉100重量部に対して、マルトース0.4〜0.8重量部を添加することを特徴とする請求項3のパン類。
【請求項5】
上記製パン原材料より、上記パン生地を調製する方法として、冷凍生地法を採用し、小麦粉100重量部に対して、ブドウ糖0.1〜0.3重量部、トレハロース1〜5重量部を配合し、かつマルトース資化能力が高い冷凍生地専用イーストを使用することを特徴とする請求項1のパン類。
【請求項6】
上記製パン原材料に食品色素を添加して色素の色を鮮やかに発色したパン類に焼き上げたことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかのパン類。