説明

焼入れ検査装置および焼入れ検査方法

【課題】基準コイルおよび測定コイルの二次コイルの差出力信号のピーク付近の大きさを簡易かつ確実に検出して、焼入れの良否判定を確実に行う。
【解決手段】一次コイル11と二次コイル12の間に、焼入れされた基準磁性体3を設置する基準コイル1と、一次コイル21と二次コイル22の間に焼入れされた検査磁性体4を設置する測定コイル2と、基準コイル1の二次コイル12から出力される基準出力信号1aと測定コイル2の二次コイル22から出力される測定出力信号2aの差出力信号61aを得る差動増幅回路61と、基準出力信号1aが零レベルを横切った時点でトリガーパルス信号64aを発する遅延回路64と、トリガーパルス信号64aが発せられた時点から基準出力信号5aの四半周期後の時点での差出力信号61aの大きさに基づいて検査磁性体4の焼入れの良否を判定する判定回路66とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼入れ検査装置および焼入れ検査方法に関し、特に、検査磁性体に渦電流を生じさせてその焼入れ度の良否を判定する焼入れ検査装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に磁性体の焼入れ度(硬度)と透磁率は反比例し、焼入れ度が大きくなるほど透磁率は小さくなって、磁性体に生じる渦電流は大きくなる。そこで、交流電源に接続された一次コイルとこれに対向して設けられた二次コイルの間に、焼入れされた磁性体を介在させると、当該磁性体の焼入れ度に応じて二次コイルに生じる電圧が変化し、当該電圧値から磁性体の焼き入れ度を検出することができる。この場合、焼入れ度による透磁率変化以外の変動要因を排除して、適正な焼入れが行われたか否かを確実に判定するために、以下の方法が考えられる。
【0003】
すなわち、図3に示すように、交流電源5からの励磁信号5aが入力する一次コイル11,21と、二次コイル12,22で構成される同一構造の基準コイル1と測定コイル2を用意し、予め焼入れ度を測定し適正な焼入れをなされたことが確認されている基準磁性体3を基準コイル1内に設置するとともに、測定コイル2内には検査対象となる焼入れ磁性体(検査磁性体)4を設置する。そして、基準コイル1と測定コイル2の各二次コイルからの基準出力信号1aと測定出力信号2aを差動増幅回路61に入力させて、差出力信号61aを得ることによって、適正な焼入れ度からのズレを判定する。なお、特許文献1には、渦電流によって焼入れ深さの測定を行う測定装置が開示されている。
【特許文献1】特開2006−337250
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、基準コイル1および測定コイル2からの各出力信号1a,2aは、励磁信号5aに対して電圧のみならずその位相も変化した交流電圧となっており、差出力信号61aも同じく位相が変化し交流的に変化するものとなっているから、適正な焼入れ度からのズレを確実に判定するためには差出力信号61aのピーク付近の電圧値を検出することが必要である。
【0005】
そこで、本発明はこのような要請に鑑みたもので、基準コイルおよび測定コイルの二次コイルの差出力信号のピーク付近の大きさを簡易かつ確実に検出して、焼入れの良否判定を確実に行うことができる焼入れ検査装置および焼入れ検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明の焼入れ検査装置では、交流電源(5)に接続されて励磁信号(5a)が印加される一次コイル(11)と当該一次コイル(11)に対向する二次コイル(12)を備えて、これら一次コイル(11)と二次コイル(12)の間に、焼入れされた基準磁性体(3)を設置する基準コイル(1)と、交流電源(5)に接続されて励磁信号(5a)が印加される一次コイル(21)と当該一次コイル(21)に対向する二次コイル(22)を備えて、これら一次コイル(21)と二次コイル(22)の間に焼入れされた検査磁性体(4)を設置する測定コイル(2)と、基準コイル(1)の二次コイル(12)から出力される基準出力信号(1a)と測定コイル(2)の二次コイル(22)から出力される測定出力信号(2a)の差出力信号(61a)を得る演算手段(61)と、基準出力信号(1a)が零レベルを横切った時点でタイミング信号(64a)を発するタイミング信号生成手段(62,63,64)と、タイミング信号(64a)が発せられた時点から基準出力信号(5a)の四半周期後の時点での差出力信号(61a)の大きさに基づいて検査磁性体(4)の焼入れの良否を判定する判定手段(65,66)とを具備している。ここで、タイミング信号生成手段は、スライサー回路、エッジ検出回路および遅延回路で構成することができる。また、判定手段は、サンプルホールド回路と判定回路で構成することができる。
【0007】
本第1発明において、差出力信号は励磁信号に対し位相が変化した状態でその大きさが周期的に変化するものとなっている。ここにおいて、基準信号出力が零レベルを横切った時点から当該基準信号出力の四半周期後の時点での差出力信号の大きさは、そのピーク付近の大きさになっているから、これに基づいて検査磁性体の焼入れの良否の判定を確実に行うことができる
【0008】
本第2発明の焼入れ検査方法では、交流電源に接続されて励磁信号が印加される一次コイルと当該一次コイルに対向する二次コイルとで基準コイルを構成して、これら一次コイルと二次コイルの間に焼入れされた基準磁性体を設置し、上記交流電源に接続されて励磁信号が印加される一次コイルと当該一次コイルに対向する二次コイルとで測定コイルを構成して、これら一次コイルと二次コイルの間に焼入れされた検査磁性体を設置し、基準コイルの二次コイルから出力される基準出力信号と測定コイルの二次コイルから出力される測定出力信号の差に応じた差出力信号を得るとともに、基準出力信号が零レベルを横切った時点を検出して、当該時点から基準出力信号の四半周期後の時点での差出力信号の大きさに基づいて検査磁性体の焼入れの良否を判定する。このような本第2発明においても、本第1発明と同様の作用効果を得ることができる。
【0009】
なお、上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の焼入れ検査装置および焼入れ検査方法によれば、基準コイルおよび測定コイルの二次コイルの差出力信号のピーク付近の大きさを簡易かつ確実に検出して、焼入れの良否判定を確実に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1には焼入れ検査装置のブロック構成図を示す。図1において、基準コイル1は円筒状の一次コイル11と二次コイル12で構成され、これらコイル11,12の筒内に、予め焼入れ度を測定し適正な焼入れをなされたことが確認されている基準磁性体3が設置されている。測定コイル2は、巻き数、径、長さを上記コイル11,12と同一にした円筒状の一次コイル21と二次コイル22で構成され、これらコイル21,22の筒内には、基準磁性体3と同材の、検査対象となる焼入れされた磁性体(検査磁性体)4が設置されている。基準コイル1と測定コイル2の各一次コイル11,21には共通の交流電源5から励磁信号5a(図2(1))が印加されている。励磁信号5aの周波数は磁性体3,4の材質によって適宜変更するが、鉄の場合は100Hz〜1KHzの間とする。
【0012】
基準コイル1および測定コイル2の各二次コイル12,22からはそれぞれ、筒内に設置した基準磁性体3あるいは検査磁性体4の焼入れ度に応じた電圧値を有する基準出力信号1a(図2(2))と測定出力信号2a(図2(3))が出力される。これら出力信号1a,2aは、磁性体3,4の焼入れ度に応じて振幅が変化すると同時に、その位相も変化している。すなわち例えば図2に示すように、出力信号1a,2aはいずれも励磁信号5aに対し、振幅が変化するとともに、略同一のθ程度の位相遅れを生じている。
【0013】
上記基準出力信号1aと測定出力信号2aは差動増幅回路61(図1)に入力しており、両出力信号1a,2aの差出力信号61a(図2(7))が差動増幅回路61から出力される。この差出力信号61aは、適正な焼入れ度で焼入れされた基準磁性体3に対する、検査磁性体4の焼入れ度のズレを示している。したがって、差出力信号61aの振幅の大きさから検査磁性体3の焼入れ度の良否を判定することができる。ところが、この差出力信号61aは図2に示すように上記位相遅れθを有しつつその大きさ(電圧)が周期的に変化する正弦波となっている。このため、焼入れ度の良否を確実に判定するには、差出力信号61aのピークSp付近の電圧値を検出する必要がある。そこで、本実施形態では以下の構成によってこれを実現している。
【0014】
すなわち、図1に示すように、差動増幅回路61の後段にはサンプルホールド回路65が設けてあり、これに差出力信号61aが入力している。一方、上記基準出力信号1aはスライサー回路62にも入力し、スライサー回路62は基準出力信号1aの電圧が零を超えてから再び零へ戻るまでの間「H」レベルとなる矩形波信号62a(図2(4))を出力する。矩形波信号62aはエッジ検出回路63に入力し、エッジ検出回路63は上記矩形波信号62aの立ち上がりに同期したパルス信号63a(図2(5))を出力する。パルス信号63aは遅延回路64に入力し、遅延回路64ではパルス信号64aを、基準出力信号1aの位相のπ/2に相当する時間だけ遅延させてタイミング信号たるトリガパルス信号64a(図2(6))として出力する。トリガパルス信号64aは上記サンプルホールド回路65に入力し、この入力タイミングで差出力信号61aのピークSp付近の電圧値がサンプルされて、比較出力信号65a(図2(8))としてホールドされ、後段の判定回路66へ出力される。
【0015】
判定回路66では、比較出力信号65aを所定の閾値TH1,TH2と比較して、上記信号65aの電圧値が閾値TH1,TH2の間にあれば「焼入れ良」と判定し、閾値TH1,TH2を超えた場合には「焼入れ不良」と判定する。比較出力信号が図2の実線で示すように正となる場合は、検査磁性体4の焼入れ度が基準磁性体3の焼入れ度よりも小さい場合である。本実施形態では比較出力信号65aは閾値TH1,TH2の間にあるから、判定は「焼入れ良」となる。検査磁性体4の焼入れ度が基準磁性体3の焼入れ度よりも大きい場合には、差出力信号61aおよび比較出力信号65aは図2の破線で示すようになる。なお、上記実施形態において、61〜66の各回路をコンピュータのソフトウエアで実現することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態を示す、焼入れ検査装置のブロック構成図である。
【図2】焼入れ検査装置の各回路の信号タイムチャートである。
【図3】従来装置のブロック構成図である。
【符号の説明】
【0017】
1…基準コイル、11…一次コイル、12…二次コイル、2…測定コイル、21…一次コイル、22…二次コイル、3…基準磁性体、4…検査磁性体、5…交流電源、61…差動増幅回路(演算手段)、62…スライサー回路(タイミング信号生成手段)、63…エッジ検出回路(タイミング信号生成手段)、64…遅延回路(タイミング信号生成手段)、65…サンプルホールド回路(判定手段)、66…判定回路(判定手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源に接続されて励磁信号が印加される一次コイルと当該一次コイルに対向する二次コイルを備えて、これら一次コイルと二次コイルの間に、焼入れされた基準磁性体を設置する基準コイルと、前記交流電源に接続されて励磁信号が印加される一次コイルと当該一次コイルに対向する二次コイルを備えて、これら一次コイルと二次コイルの間に焼入れされた検査磁性体を設置する測定コイルと、前記基準コイルの二次コイルから出力される基準出力信号と前記測定コイルの二次コイルから出力される測定出力信号の差出力信号を得る演算手段と、前記基準出力信号が零レベルを横切った時点でタイミング信号を発するタイミング信号生成手段と、前記タイミング信号が発せられた時点から前記基準出力信号の四半周期後の時点での前期差出力信号の大きさに基づいて前記検査磁性体の焼入れの良否を判定する判定手段とを具備する焼入れ検査装置。
【請求項2】
交流電源に接続されて励磁信号が印加される一次コイルと当該一次コイルに対向する二次コイルとで基準コイルを構成して、これら一次コイルと二次コイルの間に焼入れされた基準磁性体を設置し、前記交流電源に接続されて励磁信号が印加される一次コイルと当該一次コイルに対向する二次コイルとで測定コイルを構成して、これら一次コイルと二次コイルの間に焼入れされた検査磁性体を設置し、前記基準コイルの二次コイルから出力される基準出力信号と前記測定コイルの二次コイルから出力される測定出力信号の差に応じた差出力信号を得るとともに、前記基準出力信号が零レベルを横切った時点を検出して、当該時点から前記基準出力信号の四半周期後の時点での前記差出力信号の大きさに基づいて前記検査磁性体の焼入れの良否を判定することを特徴とする焼入れ検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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