説明

焼却灰の水洗処理方法及びシステム

【課題】焼却灰の水洗時における凝集を抑制し、効率よく塩素を除去することができるとともに、酸供給過多によるスケールの発生を防止することができる焼却灰の水洗処理方法及びシステムを提供する。
【解決手段】焼却灰を複数回水洗処理して塩素を除去する焼却灰の水洗処理方法において、焼却灰20を第1洗浄装置2にて水洗処理して固液分離した後、該固液分離により分離された焼却灰を第2洗浄装置4にて水洗処理して固液分離するようにし、少なくとも前記第2洗浄装置4にて、焼却灰が投入された洗浄水に界面活性剤を供給した後、該洗浄水のpH値がpH10を超えてpH12以下となるように酸を供給してpH調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼却炉から排出された焼却灰を水洗処理して塩素を除去する技術に関し、特に、水洗時にpH調整を行うことにより効率的に塩素を除去し、再資源化原料に適した処理灰を得ることを可能とした焼却灰の水洗処理方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、都市ごみや下水汚泥等の一般廃棄物又は各種工場から排出される産業廃棄物は、減容化及び無害化のために焼却により処理されている。一般に、焼却炉から排出される焼却灰の処理方法としては、埋め立て処理、溶融スラグ化、建築資材への再資源化などが挙げられる。特に近年では、これらの灰をセメント原料、人工骨材、植栽用土、路床材、路盤材、焼成タイルなどの製品に加工して有効利用することが求められている。しかし、焼却灰を再資源化するに際して、焼却灰中には金属片等の異物が含有されているためこれを除去する必要がある。また、焼却灰には塩素が含まれているため、灰の用途に応じて、塩素濃度を基準値以下まで低減する必要がある。
【0003】
一般的な焼却灰の処理方法としては、金属片等の異物を除去した後、焼却灰を水洗することにより塩素を低減する方法が用いられている。しかしながら、大部分の塩素は水洗で除去可能であるが、高品質の再資源化原料として付加価値を与えるためには、単に水洗するのみでは塩素低減は不十分であった。そこで、水洗にて洗浄水のpHを酸性若しくは6〜10に調整したり、粉砕したり、或いは洗浄回数を複数回に増加することにより対応している。
【0004】
例えば、特許文献1(特許第3368372号公報)には、焼却灰を粉砕した後、複数回洗浄を行うようにした焼却灰のセメント原料化方法が開示されている。このとき、洗浄時の液pHが6〜10、好適にはpH8〜10となるようにし、これにより焼却灰の重金属の溶出を抑制しつつ塩素を溶解除去するようにしている。さらに、この方法では、複数回洗浄を行ううち第二次以降の洗浄で得られる分離水を第一次洗浄における洗浄水として循環利用し、排水発生量を低減するようにしている。
また、特許文献2(特許第3391371号公報)には、焼却灰中の塩素分を水洗または酸洗すると同時に、比重選別により比重の大きな金属類成分を除去するようにした焼却灰の塩素および金属類等の除去方法が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特許第3368372号公報
【特許文献2】特許第3391371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、焼却灰の塩素を除去する際には水洗処理が一般に広く利用されているが、焼却灰の粒子は水中で凝集する傾向がある。特許文献1に記載されるように、粉砕により粒子を小さくしても、粉砕された焼却灰が水中で凝集してしまうと表面積は増加しないため、塩素の除去効率は向上しない。また、複数回洗浄しても焼却灰が凝集してしまうため、水洗処理の効果には限界があった。
通常、焼却灰のpHは12程度である。特許文献1に記載されるようにpHを酸性や6〜10にすると重金属の溶出は抑制できるが、灰の凝集に関しては効果がなく、かえって凝集しやすくなると考えられる。また、pH12程度の焼却灰の洗浄水を酸性やpH6〜10にすることは、酸の消費量が増加し、コストが高くなるという問題もあった。さらにまた、塩素濃度が高い灰に関しては処理することが困難であった。
【0007】
また、特許文献2に記載されるように、比重選別にて水洗または酸洗する方法では、比重選別にて大量の水を必要とするため酸の添加量が増大し、ランニングコストが嵩むとともに排水発生量が増大してしまうという問題があった。さらに、pH調整用に酸を多量に用いると灰中の塩素と反応し、スケールを発生して配管等に付着し、閉塞を引き起こす惧れがあった。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、焼却灰の水洗時における凝集を抑制し、効率よく塩素を除去することができるとともに、酸供給過多によるスケールの発生を防止することができる焼却灰の水洗処理方法及びシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、方法の発明として、
焼却灰を水洗処理して塩素を除去する焼却灰の水洗処理方法において、
前記焼却灰が投入された洗浄水に弱アルカリ性の界面活性剤を供給した後、該洗浄水のpH値がpH10を超えてpH12以下となるように酸を供給してpH調整することを特徴とする。
また、焼却灰を複数回水洗処理して塩素を除去する焼却灰の水洗処理方法において、
前記焼却灰を第1水洗処理工程にて水洗処理して固液分離した後、該固液分離により分離された焼却灰を第2水洗処理工程にて水洗処理して固液分離するようにし、
少なくとも前記第2水洗処理工程にて、前記焼却灰が投入された洗浄水に界面活性剤を供給した後、該洗浄水のpH値がpH10を超えてpH12以下となるように酸を供給してpH調整することを特徴とする。
【0009】
本発明はアルカリ条件下で焼却灰を水洗する方法であって、焼却灰水洗時における洗浄水のpHが、pH10を超えてpH12以下、好適にはpH10を超えてpH11以下となるように調整することにより、水洗時に焼却灰が凝集しにくくなり、塩素の除去効率を向上させることが可能である。また、洗浄水pHを、焼却灰のpHに近い上記範囲内に調整するようにしているため、従来の酸洗に比べて酸の消費量を低減することができ、ランニングコストを抑えることが可能である。
さらに本発明では、pH調整前に所定量の界面活性剤を供給しており、該界面活性剤の分散作用により、より一層焼却灰の凝集が抑制され、該界面活性剤の供給とpH調整を併用することによって塩素除去効率の大幅な向上が図れる。
尚、本発明では、第1水洗処理工程、第2水洗処理工程の夫々にて、同一の水洗処理を複数段階行う構成としてもよい。
【0010】
また、前記界面活性剤が、弱アルカリ性の界面活性剤であることが好ましい。一般に灰は水に溶かすと強いアルカリ性を示すため、これに弱アルカリ性の界面活性剤を供給することにより洗浄水がpH10を超えてpH12以下となりやすく、従ってpH調整用の酸の使用量を低減することができ、スケールの生成を抑制することが可能である。
【0011】
また、前記界面活性剤が、カチオン系界面活性剤以外の界面活性剤であることを特徴とする。カチオン系界面活性剤は、親水基部分が陽イオンに電離する。そのため、陰イオンであるClイオンが灰の近傍に集まりやすくなり、塩素の洗浄水への移動、抽出が悪くなるものと考えられる。従って、本発明のごとくカチオン系界面活性剤以外の界面活性剤を用いることによりClイオンが灰から分離しやすくなり、効率的に塩素を除去することが可能となる。
【0012】
また、システムの発明として、焼却灰を水洗処理して塩素を除去する洗浄手段と、該水洗した焼却灰を固液分離する固液分離手段とからなる水洗処理設備が直列に複数設けられた焼却灰の水洗処理システムにおいて、
前記水洗処理設備は、前記焼却灰を粗洗浄する第1水洗処理設備と、該第1水洗処理設備の固液分離手段から得られた焼却灰が供給され、水洗後の焼却灰の塩素含有量が基準値よりも低くなるように洗浄する第2水洗処理設備とを備えており、
少なくとも前記第2水洗処理設備は、前記洗浄手段が、界面活性剤を供給する界面活性剤供給手段と、酸を供給する酸供給手段と、洗浄手段内洗浄水のpH値を測定するpH計とを有し、前記界面活性剤が供給された洗浄水のpH値を前記pH計により測定し、該pH値がpH10を超えてpH12以下となるように酸供給手段にて酸供給量を調整することを特徴とする。
尚、本発明では、前記第1水洗処理設備、前記第2水洗処理設備は、夫々又は何れかが複数設置される構成としてもよい。
【0013】
また、前記界面活性剤が、カチオン系界面活性剤以外の界面活性剤であることを特徴とする。さらに、前記界面活性剤が、弱アルカリ性の界面活性剤であることを特徴とする。
さらにまた、前記水洗処理設備のうち少なくとも前記第2水洗処理設備では、前記洗浄手段が焼却灰の破砕手段を備えており、前記焼却灰を破砕しながら洗浄する構成であることを特徴とする。
本発明では、水洗時に湿式ミル等により焼却灰を破砕することにより、灰の表面積が増加し、塩素分の抽出を促進することができる。このとき、破砕のみでは細かい粒子が水中で再凝集してしまう惧れがあるが、本発明では界面活性剤を供給しているため、灰の粒子を分散させることができ再凝集を防止することができる。また、洗浄手段に湿式ミルを用いた場合、内部の粉砕用ボール同士の摩擦が緩和されるため装置動力を低減することが可能である。
【発明の効果】
【0014】
以上記載のごとく本発明によれば、洗浄水をpH調整してpH10を超えてpH12以下、好適にはpH10を超えてpH11以下とすることにより、水洗時に焼却灰を凝集しにくくすることができ、塩素除去効率を向上させることが可能である。また、従来の水洗時におけるpH調整よりもpH値を高く設定しているため、酸添加量を低減することができランニングコストを低減可能である。
さらに、本発明では界面活性剤の供給とpH調整を併用することにより、より一層焼却灰の凝集を抑えることが可能となり、塩素除去効率の大幅な向上が図れる。さらにまた、弱アルカリ性の界面活性剤を用いることにより、pH調整用の酸の使用量を低減することができ、スケールの生成を抑制することが可能である。
【0015】
また、カチオン系界面活性剤以外の界面活性剤を用いることによりClイオンが灰から分離しやすくなり、効率的に塩素を除去することが可能となる。
さらにまた、焼却灰を破砕しながら界面活性剤存在下で水洗することにより、灰の表面積が増加し、破砕された粒子同士を再凝集させることなく塩素分の抽出を促進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
図1は本発明の実施例1に係る処理システムの全体構成図、図2は本発明の実施例2に係る処理システムの全体構成図、図3は本発明の実施例3に係る洗浄装置の構成図、図4は本発明の実施例4に係る処理システムの全体構成図、図5は本発明の実施例5に係る処理システムの全体構成図、図6は焼却灰のゼータ電位とpHの関係を示すグラフ、図7は水洗試験での洗浄条件に対する残存成分を示す表である。
【0017】
本実施形態に係る焼却灰水洗処理システムの主要構成は、焼却炉から排出された焼却灰を洗浄水により水洗して塩素を除去する洗浄装置と、該洗浄装置からの焼却灰含有水を固液分離する固液分離装置とからなる水洗処理設備を備えるとともに、該水洗処理設備の洗浄装置が、洗浄水を供給する洗浄水供給手段と、界面活性剤を供給する界面活性剤供給手段と、界面活性剤が供給された洗浄水のpH値をpH10を超えてpH12以下、好適にはpH10を超えてpH11以下に調整する酸供給手段と、を備えた構成となっている。
【0018】
また、前記水洗処理設備を複数設け、焼却灰を粗洗浄する第1水洗処理設備と、該第1水洗処理設備の固液分離手段から得られた焼却灰が供給され、水洗後の焼却灰の塩素含有量が基準値よりも低くなるように洗浄する第2水洗処理設備とを備えるようにし、少なくとも前記第2水洗処理設備の洗浄装置が、前記洗浄水供給手段と、界面活性剤供給手段と、酸供給手段とを備える構成とする。
尚、前記第1水洗処理設備と第2水洗処理設備は、夫々又は何れか一方が複数設置されてもよく、夫々の設置数は限定されない。また、第2水洗処理設備の後段側に、固液分離後の焼却灰を水洗し、灰の周囲に付着した塩素含有水を洗い流す後洗浄手段として、第3水洗処理設備を設置してもよい。
【0019】
上記した構成を有することにより、水洗時に焼却灰粒子の凝集を抑制し、該粒子と洗浄水との接触面積を大きくすることができるため、塩素除去効率を向上させることが可能となる。
一般に、粒子の凝集は、粒子表面の電荷であるゼータ電位の影響を受ける。焼却灰においては、粒子表面はプラスかマイナスのどちらか一方に帯電しているため、ゼータ電位の絶対値を大きくすることにより粒子同士が反撥しやすくなり、凝集しにくくなるものと考えられる。焼却灰において、このゼータ電位はpHに依存しており、pHを適正に調整することによりゼータ電位の絶対値を高くし、凝集を最小限に抑えることが可能となる。
【0020】
図6は、焼却灰のゼータ電位とpHの関係を示すグラフである。同グラフには、灰1と灰2の異なる焼却灰にて、洗浄水のpHと、そのときのゼータ電位とを夫々測定した結果が示してある。このときの測定条件は、固液比=1/20、水温20℃である。
グラフからも明らかなように、何れの焼却灰においてもほぼ同様の曲線が得られる。このグラフによれば、pH10を超えてpH12以下のとき、好適にはpH10を超えてpH11以下のときにゼータ電位の絶対値が大きくなることがわかる。このとき、焼却灰のpHとほぼ同程度のpH12以上にpH調整することは、アルカリ剤を添加してアルカリ性を強くすることとなり、再利用する際に取り扱いが困難となるため上限値をpH12とする。また、pH10以下は、酸の添加量が増大してランニングコストが嵩むため、下限値をpH10を超えた値とする。
【0021】
従って本実施形態によれば、焼却灰水洗時の洗浄水のpHを、焼却灰のゼータ電位の絶対値が大きくなるpH10を超えてpH12以下、好適にはpH10を超えてpH11以下に調整することにより、水洗時に焼却灰が凝集しにくくなり、塩素の除去効率を向上させることが可能である。さらに本実施形態では、凝集を防止する手段として界面活性剤を併用することにより、確実に焼却灰の凝集を防止し、効率的に塩素を除去することが可能となる。
また、洗浄水pHを、焼却灰のpHに近い上記範囲内に調整するようにしているため、酸の消費量を低減することができ、ランニングコストを抑えることが可能である。
【実施例1】
【0022】
図1を参照して、本実施例1の焼却灰水洗処理システムの具体的構成につき説明する。
本実施例1のシステムは、焼却炉から排出された焼却灰20が投入される比重差分離装置1と、該比重差分離装置1にて金属片等の異物が除去された焼却灰が、粉砕されずに供給される水洗処理設備と、を備える。
前記比重差分離装置1は、分離液を介して、比重の大きい金属片や大径焼却灰等の異物と、比重の小さい焼却灰とを分離する周知の装置である。
前記水洗処理設備は、洗浄装置と固液分離装置の組み合わせからなり、この水洗処理設備が複数直列に配設された構成を有する。本実施例では一例として、第1水洗処理設備(第1洗浄装置2、第1固液分離装置3)と第2水洗処理設備(第2洗浄装置4、第2固液分離装置5)が直列に配設された構成を有し、前記第1洗浄装置2では焼却灰を粗洗浄することにより塩素濃度を大幅に低下させ、前記第2洗浄装置4では焼却灰を仕上げ洗浄することにより塩素濃度を基準値以下となるまで洗浄するようになっている。前記洗浄装置には、例えば洗浄水が貯留され、供給された焼却灰を該洗浄水により水洗する洗浄槽が好適に用いられるが、洗浄水により焼却灰を水洗する装置であれば何れの構成であってもよい。
【0023】
前記第1洗浄装置2は、洗浄水である水21の供給手段を備えている。水21はバルブ10によりその供給量が調整される。該第1洗浄装置2内には、比重差分離装置1にて異物が除去された焼却灰が粉砕されることなく供給され、水21にて焼却灰を水洗した後第1固液分離装置3に供給され、該第1固液分離装置3にて焼却灰23と排水24とに固液分離される。
前記第2洗浄装置4は、洗浄水である水25の供給手段を備えており、水25はバルブ15によりその供給量が調整される。さらに、該第2洗浄装置4は、界面活性剤を供給する界面活性剤供給手段として界面活性剤タンク7と、硫酸を供給する硫酸供給手段として硫酸タンク6及びバルブ16と、焼却灰が供給された洗浄水のpH値を測定するpH計16とを備えている。尚、本実施例ではpH調整に用いる酸として硫酸を例に挙げて示したが、これに限定されるものではなく他の酸であってもよい。また、前記pH計16は、第2洗浄装置4内に設置されてもよいし、該第2洗浄装置4の出口側配管に設置されてもよい。
【0024】
前記第2洗浄装置4には、前記第1固液分離装置3にて分離された焼却灰23が供給され、これに水25が供給されるとともに、界面活性剤タンク7から所定量の界面活性剤が供給され、さらに硫酸タンク6から硫酸が供給される。このとき、装置内洗浄水のpHをpH計18により逐次監視し、洗浄水のpH値がpH10を超えてpH12以下、好適にはpH10を超えてpH11以下となるように硫酸タンク6からの硫酸供給量をバルブ16により制御し、pH調整を行う。
【0025】
本実施例において、前記界面活性剤は弱アルカリ性の界面活性剤であることが好ましい。一般に灰は水に溶かすと強いアルカリ性を示すため、ここに弱アルカリ性の界面活性剤を供給することにより、洗浄水が上記pH調整範囲内となりやすく、従ってpH調整用の酸の使用量を低減することができ、スケールの生成を抑制することが可能となる。
また、本実施例では、前記界面活性剤がカチオン系界面活性剤以外の界面活性剤であることが好ましい。カチオン系界面活性剤は、親水基部分が陽イオンに電離するため、陰イオンであるClイオンが灰の近傍に集まりやすくなり、塩素の洗浄水への移動、抽出が悪くなるものと考えられる。従って、本実施例のごとくカチオン系界面活性剤以外の界面活性剤を用いることによりClイオンが灰から分離しやすくなり、効率的に塩素を除去することが可能となる。カチオン系界面活性剤以外の界面活性剤としては、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤、両性界面活性剤、或いはこれらの組み合わせからなる界面活性剤が挙げられる。
【0026】
そして、焼却灰は第2洗浄装置4にて水洗された後、第2固液分離装置5に供給され、該第2固液分離装置5にて処理灰27と排水28とに固液分離される。
本実施例によれば、焼却灰水洗時の洗浄水に界面活性剤を供給するとともに、洗浄水pHを上記したpH値に調整することにより、水洗時に焼却灰が凝集しにくくなり、効率的に塩素を除去することが可能となる。
また、洗浄水pHを、焼却灰のpHに近い上記範囲内に調整するようにしているため、酸の消費量を低減することができ、ランニングコストを抑えることが可能である。さらに本実施例1では、粗洗浄を行う第1洗浄装置2においては界面活性剤の供給、pH調整を行わず、仕上げ洗浄を行う第2洗浄装置4でのみ界面活性剤の供給、pH調整を行う構成としているため、酸及び界面活性剤の消費量を大幅に削減し、ランニングコストをより一層低減することが可能となる。尚、第1洗浄装置2は粗洗浄を行う装置であるため、界面活性剤の供給、pH調整を行わなくても一定の塩素除去率を得られるものである。
【0027】
ここで、本実施例における塩素除去効率を評価するために、実際に焼却炉から得られた焼却灰を用いて水洗試験を行い、処理灰の成分を測定した。図7は水洗試験での洗浄条件に対する残存成分を示す表である。
試験に用いる焼却灰には、都市ごみを焼却処理して得られた灰を用いた。図7に示すように、水洗処理を行う前の原灰の塩素含有量は、0.7717重量%である。
表中、比較例1はpH10に調整した洗浄水で焼却灰を洗浄した場合、比較例2はpH3に調整した洗浄水で焼却灰を酸洗した場合、比較例3は界面活性剤を投入しpH調整していない洗浄水で焼却灰を洗浄した場合における夫々の処理灰の成分を示している。
表中、実施例1は、界面活性剤の供給とpH調整(pH10)を併せて行い水洗した場合における処理灰の成分を示している。
尚、実施例1及び比較例3にて使用した界面活性剤の種類は、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムとアルキルエーテル硫酸エステルナトリウムの混合物(何れもアニオン系界面活性剤)であり、添加量は焼却灰の重量に対して0.2重量%とした。
【0028】
比較例1では、水洗後の塩素含有量が0.1587重量%となっており、塩素除去効率は高いと考えられるが、酸添加のみでpH10まで調整するようにしているため、酸添加量が多くなりスケールが発生する惧れがある。
同様に、比較例2ではpH3まで酸添加によりpH調整しているため、多量の酸を添加する必要があり、スケールが発生しやすくランニングコストも高くなる。また、水洗後の塩素含有量が0.3658重量%となっており、塩素除去効率も低い。
比較例3では、水洗後の塩素含有量が0.1984重量%となっており、塩素除去効率は比較的高い値を示しているが、pH調整をしていないため塩素含有量をこれ以下に低減することはできない。
【0029】
これらの比較例に対して、本実施例は水洗後の塩素含有量が0.1544重量%と最も低くなり、極めて高い塩素除去効率が得られることがわかる。さらに、弱アルカリ性の界面活性剤を供給しているためpH10に調整する際に酸添加量が少なくてすみ、スケールの発生を防止することが可能となる。
従って上記試験結果より、本実施例の構成を備えることで焼却灰中の塩素を高効率で除去可能であるとともに、スケールの発生を防止できることが明らかとなった。
【0030】
また、本実施例1では、排水発生量を低減するために以下の構成を備えることが好ましい。
第1固液分離装置3にて分離された排水24を系外へ排出する排出ラインと、該排水24を第1洗浄装置2に返送する循環ラインとを備え、排出ライン上にはバルブ12が設置されている。また、排水24の電導度を測定する電導度計14を備え、該電導度計14の測定値に基づいてバルブ12を制御し、洗浄装置2への循環量を制御する。即ち、水洗初期は排水24を循環して洗浄に用い、排水24中の不純物濃度、好適には塩素濃度が所定濃度以上となったらバルブ12を開放して系外へ排水22を排出するようにしている。例えば、排水24中の塩分濃度が4000mg/L以上となったら系外へ排出する。
排水24を系外に排出したときは、水21のバルブ10を制御して、新たに水21を補給する。
【0031】
同様に、第2水洗処理設備においても、第2固液分離装置5にて分離された排水28を系外へ排出する排出ラインと、該排水28を第2洗浄装置4に返送する循環ラインとを備え、排出ライン上にはバルブ17が設置されている。また、排水28の電導度を測定する電導度計19を備えており、該電導度計19の測定値に基づいてバルブ17を制御し、洗浄装置4への循環量を制御するようになっている。即ち、水洗初期は排水28を循環して洗浄に用い、排水28中の不純物濃度が高くなったら系外へ排水26を排出する。例えば、排水24中の塩分濃度が400mg/L以上となったら排出する。
排水28を系外に排出したときは、水25のバルブ15を制御して、新たに水25を補給する。
このように、直列に複数段配置された水洗処理設備にて、個々に排水を循環使用する構成とすることにより、排水発生量を低減することが可能である。
【実施例2】
【0032】
図2を参照して、本実施例2に係る水洗処理システムの具体的構成につき説明する。尚、以下の実施例2及び実施例5において、上記した実施例1と同様の構成については、その詳細な説明を省略する。
本実施例2の処理システムは実施例1の構成に加えて、第1洗浄装置2が、界面活性剤を供給する界面活性剤供給手段と、硫酸を供給する硫酸供給手段と、焼却灰が供給された洗浄水のpH値を測定するpH計13とを備えた構成としている。これらの具体的な構成は、実施例1に記載した第2洗浄装置2が具備する手段と同様である。
【0033】
前記第1洗浄装置2には、比重差分離装置1にて異物が除去された焼却灰が粉砕されることなく供給され、これに水21が供給されるとともに、界面活性剤タンク7から所定量の界面活性剤が供給され、さらに硫酸タンク6から硫酸が供給される。このとき、装置内洗浄水のpHをpH計13により逐次監視し、洗浄水のpH値が、pH10を超えてpH12以下、好適にはpH10を超えてpH11以下となるように硫酸タンク6からの硫酸供給量をバルブ11により制御し、pH調整を行う。
本実施例2によれば、第1水洗処理設備においても界面活性剤の供給とpH調整を行うようにしているため、該第1水洗処理設備の粗洗浄にて塩素含有量を大幅に低減することが可能となり、第2水洗処理設備の排水の汚れを抑えることができるため、該排水を好適に循環利用でき排水発生量を低減可能である。
【実施例3】
【0034】
本実施例3として、上記した実施例1及び実施例2、さらに後述する実施例3及び実施例4に適用できる洗浄装置の構成を図3に示す。
この洗浄装置は横置型の湿式ミル4Aであり、第2洗浄装置に適用することが好ましい。該湿式ミル4Aは、横置き円筒形のケーシングと、該ケーシング内に収容された複数の粉砕用ボールと、該ケーシングの一端側に設けられた被処理水入口と、他端側に設けられた処理水出口と、を備えている。また、湿式ミル4Aの入口側の配管には、洗浄水である水25を供給する水供給手段(バルブ15を含む)と、界面活性剤供給手段と、硫酸供給手段と、が設けられている。また、出口側配管にはpH計18が設けられている。
【0035】
本実施例3では、第1固液分離装置にて分離した焼却灰に、バルブ15を介して水25を供給するとともに界面活性剤タンク7から界面活性剤を供給し、被処理水入口から前記湿式ミル4A内に供給する。さらに、前記pH計18により計測されたpH値に基づいて、処理水がpH10を超えてpH12以下、好適にはpH10を越えて11以下となるように硫酸タンク6から硫酸を供給する。
そして、湿式ミル4を回転させて粉砕用ボールにより焼却灰を粉砕しながら洗浄する。洗浄後は、処理水出口から排出し、固液分離装置5にて処理灰27と排水28に分離する。
排水28は、第1実施例と同様に、電導度計19に基づいて可能な限り循環利用することが好ましい。
【0036】
本実施例3によれば、水洗時に湿式ミル等により焼却灰を破砕することにより、灰の表面積が増加し、塩素分の抽出を促進することができる。このとき、破砕のみでは細かい粒子が水中で再凝集してしまう惧れがあるが、本実施例では界面活性剤を供給しているため、灰の粒子を分散させることができ再凝集を防止することができる。また、内部の粉砕用ボール同士の摩擦が緩和されるため湿式ミルの装置動力を低減することが可能である。
【実施例4】
【0037】
図4を参照して、本実施例4に係る水洗処理システムの具体的構成につき説明する。本実施例4の処理システムは、洗浄装置からの排水を有効利用する構成を備えたシステムであり、上記した実施例1及び実施例2に適用することができる。
ここでは一例として、実施例2の構成に加えて、第2固液分離装置5にて分離された排水28中の不純物が所定濃度を超えた場合に、これを排水タンク8に一旦貯留し、第1洗浄装置2に供給する構成としている。
第2洗浄装置4では、洗浄水を排出する際に基準となる不純物濃度が前段側よりも低く設定されているため、系外へ排出される排水26は第1洗浄装置2にて十分使用できるものである。従って、第2洗浄装置4にて使用不可となった排水26を第1洗浄装置2にて使用することにより、より一層排水発生量を低減することが可能となる。
【実施例5】
【0038】
図5を参照して、本実施例5に係る水洗処理システムの具体的構成につき説明する。本実施例5の処理システムは、処理灰の塩素含有量を確実に基準値以下まで低減する構成を備えたシステムであり、上記した実施例1、実施例2及び実施例4に適用することができる。
ここでは一例として、実施例2の構成に加えて、該システムの出口側、即ち第2固液分離装置5の処理灰出口にCl分析装置32を設けた構成としている。Cl分析装置32としては、蛍光X線分析計、LIBS(分光分析計)等が好適に用いられる。
これは、処理灰27の塩素濃度を測定し、予め設定された基準の塩素濃度以上である場合には洗浄処理が不足しているものとし、該処理灰27を第1洗浄装置2に返送するようになっている。このとき、処理灰27の基準塩素濃度以上であっても、それ程塩素濃度が高くない場合には、第2洗浄装置4に返送するようにしてもよい。
本実施例によれば、処理灰27の塩素濃度を管理することにより、高品質の再資源化原料を提供することができる。また、従来は対応が困難であった高濃度塩素含有焼却灰についても対応が可能となる。
【0039】
また、システム入口側に、焼却灰20の塩素濃度を測定するCl分析装置31を設けるようにしてもよい。
Cl分析装置31により焼却灰20の塩素濃度を測定し、該測定された塩素濃度に基づいて第1洗浄装置2及び/又は第2洗浄装置4での滞留時間或いは水洗回数の調整、または界面活性剤の供給、pH調整の有無を決定する。このように、供給される焼却灰20の成分により洗浄度合い、洗浄方法を調整することにより、適正な運転管理を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施例1に係る処理システムの全体構成図である。
【図2】本発明の実施例2に係る処理システムの全体構成図である。
【図3】本発明の実施例3に係る洗浄装置の構成図である。
【図4】本発明の実施例4に係る処理システムの全体構成図である。
【図5】本発明の実施例5に係る処理システムの全体構成図である。
【図6】焼却灰のゼータ電位とpHの関係を示すグラフである。
【図7】水洗試験での洗浄条件に対する残存成分を示す表である。
【符号の説明】
【0041】
1 比重差分離装置
2 第1洗浄装置
3 第1固液分離装置
4 第2洗浄装置
5 第2固液分離装置
6 硫酸タンク
7 界面活性剤タンク
8 排水タンク
13、18 pH計
14、19 電導度計
31、32 Cl分析装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼却灰を水洗処理して塩素を除去する焼却灰の水洗処理方法において、
前記焼却灰が投入された洗浄水に弱アルカリ性の界面活性剤を供給した後、該洗浄水のpH値がpH10を超えてpH12以下となるように酸を供給してpH調整することを特徴とする焼却灰の水洗処理方法。
【請求項2】
焼却灰を複数回水洗処理して塩素を除去する焼却灰の水洗処理方法において、
前記焼却灰を第1水洗処理工程にて水洗処理して固液分離した後、該固液分離により分離された焼却灰を第2水洗処理工程にて水洗処理して固液分離するようにし、
少なくとも前記第2水洗処理工程にて、前記焼却灰が投入された洗浄水に界面活性剤を供給した後、該洗浄水のpH値がpH10を超えてpH12以下となるように酸を供給してpH調整することを特徴とする焼却灰の水洗処理方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、弱アルカリ性の界面活性剤であることを特徴とする請求項2記載の焼却灰の水洗処理方法。
【請求項4】
前記界面活性剤が、カチオン系界面活性剤以外の界面活性剤であることを特徴とする請求項1若しくは2記載の焼却灰の水洗処理方法。
【請求項5】
焼却灰を水洗処理して塩素を除去する洗浄手段と、該水洗した焼却灰を固液分離する固液分離手段とからなる水洗処理設備が直列に複数設けられた焼却灰の水洗処理システムにおいて、
前記水洗処理設備は、前記焼却灰を粗洗浄する第1水洗処理設備と、該第1水洗処理設備の固液分離手段から得られた焼却灰が供給され、水洗後の焼却灰の塩素含有量が基準値よりも低くなるように洗浄する第2水洗処理設備とを備えており、
少なくとも前記第2水洗処理設備は、前記洗浄手段が、界面活性剤を供給する界面活性剤供給手段と、酸を供給する酸供給手段と、洗浄手段内洗浄水のpH値を測定するpH計とを有し、前記界面活性剤が供給された洗浄水のpH値を前記pH計により測定し、該pH値がpH10を超えてpH12以下となるように酸供給手段にて酸供給量を調整することを特徴とする焼却灰の水洗処理システム。
【請求項6】
前記界面活性剤が、弱アルカリ性の界面活性剤であることを特徴とする請求項5記載の焼却灰の水洗処理システム。
【請求項7】
前記界面活性剤が、カチオン系界面活性剤以外の界面活性剤であることを特徴とする請求項5記載の焼却灰の水洗処理システム。
【請求項8】
前記水洗処理設備のうち少なくとも前記第2水洗処理設備では、前記洗浄手段が焼却灰の破砕手段を備えており、前記焼却灰を破砕しながら洗浄する構成であることを特徴とする請求項5記載の焼却灰の水洗処理システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−90172(P2009−90172A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261183(P2007−261183)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(501370370)三菱重工環境エンジニアリング株式会社 (175)
【Fターム(参考)】