説明

焼成すると白色になる金属粘土付きの歯科用補綴物

【課題】 本発明は,セラミックスの審美性を損なわず,簡便に生体適合性にも優れた歯科用補綴物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明の第1の側面は,歯科用補綴物に関する。この歯科用補綴物は,歯科用補綴物本体1と,歯科用補綴物本体1のうち歯に面する面の少なくとも一部に発泡金属粘土2を有する。発泡金属粘土2は,金属色がうすく,例えば白色である。このため,例えば歯冠色の材質からなる歯科用補綴物の内部に発泡金属粘土2が存在しても,歯科用補綴物の審美性を損なわない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,焼成すると白色になる金属粘土付きの歯科用補綴物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
審美性を重視した補綴物の例は,歯冠色の材質を用いた補綴物である。そして,歯冠色の材質の例は,レジン及びセラミックスである。歯冠色の材質は,一般に,金属に比べて,強度や柔軟性に欠けるという問題がある。また,レジンは,吸水性に富み,口腔内で変色するという問題がある。一方,セラミックスは,エナメル質より硬度が高い。このため,セラミックス製の補綴物が補綴された状態で咬合を繰り返すと,対合歯が摩耗するといった問題もある。また、セラミックスは脆い材料なので、小さい力でも破壊することがある。
【0003】
そのため,金属で補強したレジン前装鋳造冠や陶材焼付鋳造冠(メタルボンドクラウン)が開発された。例えば,陶材焼付鋳造冠は,金属内冠にセラミックスを焼付け被覆した歯科補綴物である。
【0004】
陶材焼付鋳造冠は,金属内冠の色が,セラミックスを通して視認されないように,通常,金属外表面又は歯冠色クラウンの内面にオペークを塗布する。一方,内冠自体を高強度セラミックス(例えばジルコニア添加型セラミックス)で製造する技術も提唱されている(特許文献1)。その結果,内冠及び外冠ともにセラミックスで製造されたオールセラミッククラウンも存在する。また,裏打ちキャップにクラウンを焼成することなく接着材により接着する歯科用補綴物も提案されている(特許文献2)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−277059号公報
【特許文献2】特開2009−100869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,セラミックスの審美性を損なわず,簡便に生体適合性に優れた歯科用補綴物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面は,歯科用補綴物に関する。この歯科用補綴物は,歯科用補綴物本体1と,歯科用補綴物本体1のうち歯に面する面の少なくとも一部に金属粘土2を有する。
【0008】
金属粘土2は,焼成することにより白色になるものがよい。このため,例えば歯冠色の材質からなる歯科用補綴物の内部に金属粘土2が存在しても,歯科用補綴物の審美性を損なわない。また、破壊強度も低下しない。本明細書において白色は,厳密な白色でなくてもよく,歯科用補綴物本体1から金属色が視認されない色であればよい。
【0009】
歯科用補綴物本体1の例は,前装冠,クラウン,インレー,アンレー,ブリッジ及びインプラント上部構造体である。先に説明した通り,金属内冠を有するクラウンが知られているため,歯科用補綴物本体1の好ましい例は,クラウンである。この場合,金属内冠に替えて金属粘土2を焼成したものを用いることで,クラウンの審美性を維持できる。歯科用補綴物本体1の材質の例は,セラミックスである。また,本発明を,ブリッジを製造するために用いた場合,ブリッジの審美性を高められるほか,ブリッジの各支台歯の適合性を向上させることができる。
【0010】
金属粘土2は,焼成すると白色となるものが好ましい。金属粘土2の好ましい例は,銀100%粉末,パラジウム100%粉末及び合金(Pd,Au,Cu,Fe,etc)を含むものである。金属粘土2は,銀粉末又はパラジウム粉末を含むものでもよい。さらに,金属粘土2は,銀又はパラジウムを含む合金を含んでもよい。金属は,一般に酸化されやすい。しかしながら,金属粘土2は,長きにわたり,白色を維持できる。このため,本発明は,金属粘土2を歯科用補綴物本体1の内面に設けたので,オペークなどが不要となり,長期間審美性を維持でき、破壊強度も向上する。
【0011】
金属粘土2は,焼結により収縮する。また,金属粘土2は,金属粘土を焼成した後にセラミックスとの接着性が弱まる場合がある。一方,金属粘土2として,発泡金属粘土を用いた場合は,熱収縮量が小さく適合性が向上し,さらにセラミックスとの接着性が高まる。発泡金属粘土2の例は,銀粉末と過酸化水素水の混合物である。
【0012】
本発明の第2の側面は,歯科用補綴物の製造方法に関する。この方法は,歯科用補綴物本体1のうち歯に面する面の少なくとも一部に金属粘土2を有するものを用意し,これを焼成する焼成工程を含む。金属粘土2の例は,焼成すると白色となる発泡金属粘土である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば,セラミックスの審美性を損なわず,簡便に生体適合性にも優れた歯科用補綴物及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は,本発明の歯科用補綴物を説明するための概念図である。図1(a)は,クラウンの外観図を示す。図1(b)は,本発明のクラウンの断面概念図である。
【図2】図2は,発泡液(過酸化水素水)の濃度が発泡金属粘土(銀系)の収縮率,発泡率,曲げ強度,に与える影響をグラフにしたものである。
【図3】焼成した発泡金属粘土(銀系)の表面性状を発泡液(過酸化水素水)の濃度ごとに示した図である。
【図4】図4は,3点曲げ試験の概念図である。
【図5】図5は,3点曲げ試験による結果をグラフにしたものである。図5(a)は荷重とたわみの関係を示す。図5(b)は,弾性エネルギーの割合を示す。
【図6】図6は,3点曲げ試験後の試料の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下,本発明を実施するための形態について,詳細に説明する。図1は,本発明の歯科用補綴物を説明するための概念図である。図1に示されるように,本発明の歯科用補綴物3は,歯科用補綴物本体1と,歯科用補綴物本体1のうち歯に面する面の少なくとも一部に存在する金属粘土2とを有する。図1(a)は,クラウンの外観図を示す。図1(a)中,符号4は,クラウンの歯根面に存在する穴(歯頚部)を示す。図1(a)に示されるように,クラウンの内部は歯を収容するための空間が存在する。図1(b)に示されるように,クラウンの内部には,金属粘土2が充填されている。図中符号5は支台歯である。また図中符号6は,任意要素である遁路を示す。遁路は,金属粘土の排出路である。遁路を設けることで,余剰な金属粘土が効果的に排出されるので,支台歯5と歯科用補綴物本体1との接着性や密着性が高まる。
【0016】
歯科用補綴物本体1の例は,前装冠,クラウン,ブリッジ及びインプラント上部構造体である。先に説明した通り,金属内冠を有するクラウンが知られているため,歯科用補綴物本体1の好ましい例は,クラウンである。この場合,金属内冠に替えて発泡金属粘土2を焼成したものを用いることで,クラウンの審美性を維持できる。なお,患者の歯にかぶせてあった歯科用補綴物本体1を補修のために取り出したものをそのまま用いてもよい。また,患者の歯にかぶせてあった歯科用補綴物本体1に適宜切削処理等の処理を加えたものを用いてもよい。
【0017】
歯科用補綴物本体1の別の好ましい例は,ブリッジである。ワンピースキャストによりブリッジを製造した場合,例えば鋳造収縮に起因する様々な歪みを生ずる。よって,ブリッジの土台となる両端の支台歯に同時に適切にフィットするように,製造することは困難である。一方,ブリッジをパーツごとに製造して組み立てた場合,操作に時間が多くかかりすぎる。本発明をブリッジに用いた場合,ブリッジのパーツを1つ1つ成型精度よく製造できるため,支台歯への適合性のみならず,複数のパーツを組み合わせた際の適合性も精度よく調整できる。このため,本発明によれば,ブリッジの審美性を高められる。また,本発明を,ブリッジを製造するために用いた場合,ブリッジの審美性を高められるほか,ブリッジのパーツを組み合わせた際の形状が予想通りにしやすいため,成型精度を向上させることができ、良い修復物となる。
【0018】
歯科用補綴物本体1は,歯冠色の材質からなるものが好ましい。歯冠色の材質の例は,レジン及びセラミックスである。セラミックスの例は,アルミナ,イットリウム安定化ジルコニア又はジルコニアを含むセラミックスである。
【0019】
金属粘土2は,粘土状の性質を有する金属含有物体である。すなわち,金属粘土2は,手で加工できる程度の柔らかさを有する粘土のような物体である。焼成体の色の例は白色である。このため,例えば歯冠色の材質からなる歯科用補綴物の内部に金属粘土2が存在しても,歯科用補綴物の審美性を損なわない。金属粘土2は,焼成すると白色となるものが好ましい。金属粘土2は,焼結により収縮する。また,セラミックスとの接着性が弱い場合がある。一方,金属粘土2として,発泡金属粘土を用いた場合は,熱収縮量が小さく,さらにセラミックスとの接着性が高まる。
【0020】
すなわち,金属粘土2は,発泡したものでもよい。金属粉末とその金属粉末を触媒として,又はその金属粉末と反応して気体を生ずるものであって,焼成すると白色になるものを発泡金属粘土2とすることができる。発泡金属粘土2は,金属色が薄い焼成体を得ることができるものが好ましい。焼成した発泡金属粘土2は,セラミックス表面と強固に結着し,剥離することが無い。このため,発泡金属粘土2を用いることで,きわめて安定した歯科用補綴物3を形成できる。なお,歯科用補綴物本体1と発泡金属粘土2の固着性を高めるため,歯科用補綴物本体1の内部を粗面加工することは本発明の好ましい態様である。歯科用補綴物本体1の内部を粗面加工する方法の例は,サンドブラスト法である。この場合,歯科用補綴物本体1の内部に砂を吹きかけることで,歯科用補綴物本体1の内部が粗面する。すると,歯科用補綴物本体1の内部に微小な凹凸が無数に形成される。そして,その無数の凹凸に発泡金属粘土2が入り込み,焼成される。すると,無数のくさびが,歯科用補綴物本体1と焼成された発泡金属粘土2との間で形成されるため,歯科用補綴物本体1と焼成された発泡金属粘土2との結合力が極めて強固になる。歯科用補綴物本体1の内部を粗面加工する方法の上記とは別の例は,粗面化剤を用いるものである。セラミックス用の粗面化剤は既に知られているので,歯科用補綴物本体1の内部に粗面化剤を投入することで,歯科用補綴物本体1の内部に微小な凹凸を形成できる。
【0021】
発泡銀粘土は,例えば銀を含む金属粉末と,酸又はアルカリとの混合物でもよい。発泡金属粘土2の例は,銀粉末と過酸化水素水の混合物である。この混合物は,発泡銀粘土である。過酸化水素水が銀を触媒として反応する際に水及び酸素が生成する。この酸素が,発泡銀粘土の発泡状態を生成するものと考えられる。そして,発生した水と酸素による発泡とが,金属粉末を粘土状にすると考えられる。発泡銀粘土は,例えば,銀粉末1gに対して30%過酸化水素水を600〜800μリットル混合することで得ることができる。銀粉末の量及び過酸化水素水の濃度及び量は適宜調整すればよい。銀粉末に含まれる銀の平均粒径は,例えば0.5以上2μm以下である。
【0022】
発泡金属粘土2は,粘土状の物性となるため,金属粉末のほかに,有機バインダーやアルコールを含んでも良い。有機バインダーの例は,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,ポリエチレングリコール,デキストラン,プルラン,及びキサンタンガムである。一価アルコールの例は,メタノール,エタノール,プロピルアルコール,ブチルアルコール,及びペンチルアルコールである。一価アルコールの中では,生体親和性を考慮すると,エタノールが好ましい。多価アルコールの例は,グリセリン,ジグリセリン,イソプレングリコール,及び1−3ブチレングリコールである。多価アルコールの中ではグリセリンが好ましい。
【0023】
また,金属粘土2は,硫化を防止するための触媒が含まれていることが好ましい。すなわち,銀は硫化して黒色の硫化銀を形成する。このため,金属粘土に銀が含まれている場合,口腔内の硫黄成分と化学反応を起こし,硫化銀を精製することも想定される。すると,本発明に基づいて歯科用補綴物を補綴した場合,経年変化により,硫化銀が生成し,発泡銀粘土が次第に黒くなることも想定される。すると,硫化銀由来の黒色が歯科用補綴物本体1を透けて視認されうる。このような事態を防止するため,金属粘土2は,硫化を防止するための触媒を有することが好ましい。
【0024】
硫化を防止するための触媒は,例えば,金属粘土2に0.05〜1質量%含まれるパラジウム(Pd)粉末である。触媒の量は,例えば,0.05以上0.1質量%以下である。Pd粉末の大きさは,例えば,0.5以上2μm以下である。銀粉末及びPd粉末のほかに有機バインダーを含んでいてもよい。また,硫化を防止するための触媒のPdとは別の例は,Cu,Ge,In及びNd粉末である。これらは,Pd粉末とともに用いても良い。これらの粉末の粒径は,例えば,0.5以上2μm以下である。
【0025】
また,金属粘土2が硫化する事態を防止するためには,保護層を形成しても良い。この保護層は,例えば,発泡金属粘土2と歯とが接触する表面に形成すればよい。そのような保護層を組成するための液は,銀粉末に加えて,金粉末を,例えば,20〜50質量%含み,さらに,有機系バインダー,アルコール及びパラフィンを含むものである。
【0026】
本発明の第2の側面は,歯科用補綴物の製造方法に関する。
【0027】
以下に,歯科用補綴物の製造方法の例を説明する。この歯科用補綴物の製造方法は,あらかじめ,患者の歯を削り,支台歯5を形成しておく。そして,歯科用補綴物本体1として,支台歯5に適合し,隣接歯の形状や色に適合するものを選択する。または,歯科用補綴物本体1を,支台歯5に適合し,隣接歯の形状や色に適合するように調整する。患者の歯にもとともかぶせものがあった場合はそのかぶせものを歯科用補綴物本体1として用いてもよい。患者ごとにカスタマイズしたオーダーメイドの歯科用補綴物本体1は,例えば,CAD/CAMを用いて容易に製造できる。歯科用補綴物本体1のうち歯に面する面(たとえば内面)の少なくとも一部に金属粘土2(発泡金属粘土2)を充填する。あらかじめ複数の歯科用補綴物本体1を用意しておき,対象となる歯に応じた歯科用補綴物本体1を選択してもよい。そして,選択した歯科用補綴物本体1を調整し,その調整した歯科用補綴物本体1に金属粘土2を充填してもよい。歯科用補綴物本体1が空隙を有する場合,空隙全体に金属粘土2を充填してもよい。また,歯科用補綴物本体1の内面に金属粘土2の層を形成してもよい。
【0028】
そして,金属粘土2が充填された歯科用補綴物本体1を,支台歯5に装着する。その後,歯科用補綴物本体1からあふれた金属粘土2を取り除く。そして,歯科用補綴物本体1を歯から取り外す。すると,金属粘土2は,歯科用補綴物本体1と接合するとともに,歯の形状を反映した形状を有することとなる。このようにして,本発明の歯科用補綴物の製造方法の前準備が終わる。
【0029】
その後,歯科用補綴物本体1を焼成する。この歯科用補綴物本体1は,たとえば内面に歯(支台歯)の形状を反映した金属粘土2を有する。焼成は,例えば,650℃〜850℃にて5分〜1時間行えばよい。特に金属粘土2が触媒を含む場合,比較的高温で焼成を行った方が,硫化が起こらなかった。このため,焼成は,例えば,750℃〜850℃で焼成する。そして,焼成時間は,例えば,20分〜30分である。その後徐冷して,歯科用補綴物3を得ることができる。
【0030】
次に,模型を用いた歯科用補綴物の製造方法を説明する。この歯科用補綴物の製造方法は,まず,歯科用補綴物本体1のうち歯に面する面の少なくとも一部に金属粘土2(発泡金属粘土2)を充填する。あらかじめ複数の歯科用補綴物本体1を用意しておき,対象となる歯に応じた歯科用補綴物本体1を選択してもよい。そして,選択した歯科用補綴物本体1を調整し,その調整した歯科用補綴物本体1に金属粘土2を充填してもよい。歯科用補綴物本体1が空隙を有する場合,空隙全体に金属粘土2を充填してもよい。また,歯科用補綴物本体1の内面に金属粘土2の層を形成してもよい。
【0031】
そして,金属粘土2が充填された歯科用補綴物本体1を,歯の模型に装着する。歯の模型を製造する方法自体は公知であるから,歯の模型は公知の方法を用いて製造すればよい。歯の模型は,たとえば,印象材を用いて患者から陰型をとり,陰型に石膏又は埋没材を流し込んで固めることで製造できる。歯の模型の対象となる歯は,既に歯科用補綴物本体1を補綴するために削った後の歯(支台歯5)であってもよい。また,歯科用補綴物本体1は,患者に適用するために適宜切削処理を行ってもよい。
【0032】
その後,歯科用補綴物本体1からあふれた金属粘土2を取り除く。そして,歯科用補綴物本体1を歯の模型から取り外す。すると,金属粘土2は,歯科用補綴物本体1と接合するとともに,歯の形状を反映した形状を有することとなる。
【0033】
その後,歯科用補綴物本体1を焼成する。焼成は,例えば,650℃〜850℃にて5分〜1時間行えばよい。特に金属粘土2が触媒を含む場合,比較的高温で焼成を行った方が,硫化が起こらなかった。このため,焼成は,例えば,750℃〜850℃で焼成する。そして,焼成時間は,例えば,20分〜30分である。その後徐冷して,歯科用補綴物3を得ることができる。
【0034】
このようにして製造された歯科用補綴物3は,歯科用補綴物本体1の審美性を損なわない。また,発泡金属粘土2の焼成体が比較的弾力性を有しているため,得られた歯科用補綴物3は生体適合性にも優れたものである。
【実施例1】
【0035】
(発泡金属粘土の作製および物性値の測定)
発泡金属粘土の例として銀粉末を用いた発泡銀粘土を以下の方法で作製した。銀粉末に水または表1に示す各濃度の過酸化水素水を所定の割合で加えて混合し,この混合物を幅5mm×厚さ3.5mm×長さ35mmの枠に充填し,枠から取り外した後700℃で30分焼成,その後徐冷することにより完成させた。これらは公知の器材を用いて行うことができる。
【0036】
以下の計算方法に基づき,過酸化水素水の各濃度での線収縮率,体積収縮率,密度,発泡率,曲げ強度,弾性係数を計算し,表1に示した。曲げ強度,弾性係数は後述する3点曲げ試験の結果によるものである。
・線収縮率(%)=((焼成前の寸法―焼成後の寸法)/焼成前の寸法)×100
・体積収縮率(%)=((焼成前の体積―焼成後の体積)/焼成前の体積)×100
・密度(g/cm)=焼成後の重量/焼成後の体積
・発泡(空気含有)率(%)=((銀の密度(10.5)−発泡銀の焼成後の密度)/銀の密度(10.5))×100
・曲げ強度=(3×最大荷重×支点間距離)/(2×試料の幅×試料の高さ
・弾性係数=(最大荷重×支点間距離)/(4×試料の幅×試料の高さ×たわみ量)
【0037】
【表1】

【0038】
上記表及び図2に,各過酸化水素水濃度と発泡率,収縮率,曲げ強度の関係を示す。過酸化水素水の濃度が0から3%までは過酸化水素水の濃度に依存して発泡率は高くなり,発泡率が高くなるほど収縮率も曲げ強度も低くなることがわかる。しかし,過酸化水素水濃度が20%又は30%になると濃度依存性はなくなり発泡率は低下した。つまり発泡率はオキシドールと同等の濃度である3%で最も高くなり,それより高濃度では発泡は進むが大きな空泡がなくなっていき発泡率は低くなっていった。
そのため,発泡率が減少する一方で収縮率,曲げ強度の上昇がみられた。結果として,30%の過酸化水素水で低い収縮率を得ながら無発泡時と遜色のない曲げ強度を得ることができた。また,上記の表から,過酸化水素水を全く加えないものに比べ,過酸化水素水を加えることで体積収縮率が著しく軽減することが分かる。また,過酸化水素水の濃度が3%を超えると,収縮率が低いにもかかわらず,高い曲げ強度を発揮できることが分かった。このため,焼結発泡金属粘土の強度を高める観点からは,過酸化水素水の濃度が3%以上35%以下が好ましく,10%以上35%以下が好ましく,20%以上35%以下がさらに好ましく,20%以上30%以下が特に好ましいといえる。これは,過酸化水素水が比較的高濃度の場合,過酸化水素水を金属粘土と混合すると,直ちに激しく発泡するため,発泡金属粘土を使用する際には,微小な気泡のみが粘土内に残留することによるものと考えられる。そして,過酸化水素水の濃度が低い場合,金属粘土と過酸化水素水との反応が長期間にわたり続くため,発泡金属粘土を使用する際にも,比較的大きい気泡が粘土内に残留し,これにより焼結物の強度が弱まるものと考えられる。勿論,上記の範囲以外であっても良好な発泡金属粘土を得ることはできる。
【0039】
図3に,各濃度における発泡銀粘土表面の拡大写真(×20)を示す。(a)から(d)を見ると,過酸化水素水濃度が低いほどなった発泡そのものが起こりにくく,過酸化水素水濃度3%のとき(d)に最も大きな空泡が見られた。過酸化水素水濃度の高い(e)、(f)では大きな空泡がなくなった。
【実施例2】
【0040】
歯科用補綴物本体の材料として用いられるアルミナを例にとり,3点曲げ強さ試験(国際規格ISO527−2:1993、JIS−K7162: 1994)によって発泡銀粘土を裏打ちした場合の曲げ強度を測定した。材料は,幅3mm×厚さ0.5mmのアルミナ板(99.6%) (アイザック社) ,アルミナ板に1.0mm厚の無発泡銀を裏打ちした試験片(以下,「アルミナ+無発泡銀」とする)または1.0mm厚の発泡銀を裏打ちした試験片(以下,「アルミナ+発泡銀」とする)を用意した。
【0041】
図4のように,試験片を支点間距離20mmの2支点上に置き,支点間の1点に荷重を加えて試験片が折れるまでの加えた荷重と試験片のたわみを測定した。図5(a)に加えた荷重とたわみの関係を示す。アルミナのみでは最大荷重12N程度で試験片が破壊されたが,アルミナ+無発泡銀では最大荷重が14N程度に上昇し,アルミナ+発泡銀ではさらに17N程度まで上昇した。また,アルミナでは0.15mm程度しかたわみがなかったが,アルミナ+無発泡銀では0.2mm程度に,アルミナ+発泡銀では0.32mm程度にまで上昇した。
【0042】
図5(b)に3点曲げ試験の結果から求めたアルミナに対する各試験片の弾性エネルギーの割合を示す。アルミナを100%とすると,アルミナ+無発泡銀では約170%,アルミナ+発泡銀では約340%となり,アルミナと比較して弾性エネルギーの増加が見られた。
【0043】
図6に3点曲げ試験後のアルミナ+無発泡銀とアルミナ+発泡銀の破断した箇所の断面図を示す。銀の収縮率が大きいためアルミナ+無発泡銀では焼成後から一部に剥離が認められ、3点曲げ試験を行うとさらに多くの部分で剥離と脱落が認められた。一方で,発泡銀をアルミナ板上で焼成したものでは焼成後も曲げ試験後も全域において脱落は認められなかった。
【実施例3】
【0044】
標準白色板と銀,白色銀系金属との色差を色彩色差計で測定し,L表色系(JIS
Z8729)に基づいて比較した。色差は数1によって求めた。
【数1】

色差ΔEの評価はNBS単位 (米国標準局)により以下のように規定されている。
0−0.5 Trace (かすかに感じられる)
0.5−1.5 Slight (わずかに感じられる)
1.5−3.0 Noticeable (かなり感じられる)
3.0−6.0 Appreciable (目立って感じられる)
6.0−12.0 Much (大きい)
12.0以上 Very much (非常に大きい)
【0045】
【表2】

【0046】
表2により,標準白色板と銀の色差はNBS単位の“very much”であるところ,白色銀系金属の色差は”noticeable“である。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は,歯科用機器の産業において利用されうる。
【符号の説明】
【0048】
1 歯科用補綴物本体
2 発泡金属粘土
3 歯科用補綴物
4 歯頚部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯科用補綴物本体(1)と,
前記歯科用補綴物本体(1)のうち歯に面する面の少なくとも一部に金属粘土(2)を有する,
歯科用補綴物。
【請求項2】
前記歯科用補綴物本体(1)は,クラウンである,請求項1に記載の歯科用補綴物。
【請求項3】
前記歯科用補綴物本体(1)は,ブリッジである,請求項1に記載の歯科用補綴物。
【請求項4】
前記歯科用補綴物本体(1)は,セラミックス製である,請求項1に記載の歯科用補綴物。
【請求項5】
前記金属粘土(2)は,焼成すると白色となる金属である,請求項1に記載の歯科用補綴物。
【請求項6】
前記金属粘土(2)は,発泡金属粘土である,請求項1に記載の歯科用補綴物。
【請求項7】
前記金属粘土(2)は,銀粉末と過酸化水素水の混合物である,請求項1に記載の歯科用補綴物。
【請求項8】
前記金属粘土(2)は,銀粉末及びパラジウム粉末を含む,請求項1に記載の歯科用補綴物。
【請求項9】
歯に面する面の少なくとも一部に金属粘土(2)を有する歯科用補綴物本体(1)を焼成する焼成工程を含む,歯科用補綴物の製造方法。
【請求項10】
前記金属粘土(2)は,焼成すると白色となる金属粘土である,請求項9に記載の歯科用補綴物の製造方法。
【請求項11】
前記金属粘土(2)は,発泡金属粘土である,請求項9に記載の歯科用補綴物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−36136(P2012−36136A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−179085(P2010−179085)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(509121488)
【出願人】(501145136)
【Fターム(参考)】