説明

焼結で使用したポリアミドのリサイクル度を上げる方法

【課題】、焼結プロセスでのポリアミドのリサイクル度を上げる方法。
【解決手段】ポリアミド中に少なくとも一種の酸を4000ppm入れ、酸を一般式HxPyOzの酸(ここで、x、yおよびzは1〜7の整数)、硼酸、これらの酸の塩、エステル、無水物およびこれらの混合物の中から選択する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照射(radiation)による溶融または焼結によって粉末を凝集させて物品物を一層づつ(layer-by-layer)製造する方法で粉末を複数回再循環することができるポリアミド粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
上記照射はレーザー光線(レーザー焼結)、赤外線照射、紫外線照射、その他任意の電磁放射線源によって行うことができる。この種のプロセスは特許文献1(米国特許第US6136948号明細書)、特許文献2(国際特許第WO9606881号公報)等に記載されている。「フリッタージュ(frittage)、焼結」という用語は照射の種類とは無関係に上記の全ての照射プロセスを含む。以下ではレーザー焼結(sintering)プロセスという用語を多く用いるが、このレーザー焼結プロセスは他のフリッタージュ方法にも有効である。
【0003】
焼結で一般に使われるポリアミド粉末のD50容積メディアン径は5〜200μmの範囲にある。
【0004】
焼結プロセスでは変形現象を避けるために第1加熱溶融温度Tf1と結晶化温度Tcとの差をできるだけ大きくし、また、製作された部品の幾何形状をできるだけ良くするために溶融エンタルピーΔHfができるだけ大きなポリアミドを使用することが勧められている。そうすることでポリアミド粉末を用いた時の加工ウインドウを大きくすることができ、焼結プロセスをより容易に実施できるようになる。こうした粉末を得る方法は特許文献3(フランス特許第FR2867190号公報)、特許文献4(フランス特許第FR2873380号公報)および特許文献5(フランス特許第FR293055号公報)記載されている。焼結で使われる粉末PAのTf1−Tcの差は30℃〜50℃の範囲である。
【0005】
レーザー焼結のような焼結プロセスでは照射光線通過時に粒子の溶融および粒子間(inter-grains)合着を十分に起こさせるのに多くのエネルギーを必要としないポリアミド粉末が使用される。すなわち、機械特性に優れ、できるだけ気孔の数が少ない物品を得るために、固体状態での粉末の分子量が十分に小さく、従って、溶液の固有粘度が2以下であるポリアミド粉末が使用される。
【0006】
粉末は、物品(3D物品)が許容範囲内の機械特性を有するようにするために、溶融時に粘度が再上昇し、物品の溶液粘度が1.5以上となり、分子量が充分大きくならなければならない。許容範囲内の機械特性とは、一般的なX/Y構造物すなわち焼結装置で主として2つの水平面内で「平ら」に製作される物品の場合、一般にモジュラスが1300 Mpa以上で、破断伸びが15%以上であることを意味する。
【0007】
一回の製作時(一般に一回のラン(run)(以下「運転」という)とよばれる)に使用される粉末は少なく、大部分の粉末は利用されない。すなわち、粉末の約85%にはレーザーが当たらない。従って、粉末を次の製作時(次回の運転時)に再利用できることが望ましい。この再循環を行うためには、ポリアミド粉末はその初期の性質、色、粘度、機械特性をできるだけ維持していなければならない。
【0008】
焼結装置のパラメータは各ポリアミド粉末に対して変える必要があるということは理解できよう。特に、連続運転する場合には、粉末をリサイクルする毎に照射出力を大きく増加させる必要がある。さらに、運転を繰り返す毎に得られる部品の機械特性は全体として大きく低下し、引張りモジューラスが次第に低下し、第2回目の運転後には閾値の1300MPa以下となり、第4回目の運転後には破断伸びが15%以下に低下する。
【0009】
焼結では、製作時に「周囲粉末」すなわち照射光線が当たらない粉末が結晶化温度Tcを何度も越え、分子質量が増加し、従ってポリアミドの粘度が増加する(「粘度の再上昇」とよばれる現象)。その結果、粉末が互いに合着し、連続運転はますます難しくなる。これらの問題は特許文献6(米国特許第US20060071359号明細書)の[0012]および[0013]に記載されている。
【0010】
固体状態の粉末の分子量を制御または制限するための解決策は既にいくつか提案されている。
特許文献7(米国特許第US2004010239号明細書)では連鎖制限剤を添加し、ポリアミド12の重合時に過剰のカルボキシル基を用いることを提案している。
特許文献8(米国特許第US2004106691号明細書)では粉末ポリアミドに金属石鹸(0.5%)を加えることが提案されている。しかし、金属石鹸が特定の溶剤と接触した時に、粉末から得られた物品の金属塩誘導体が再増大する傾向がある。そのため、その使用は限定される。
上記の特許文献6(米国特許第US20060071359号明細書)の[0015]には上記2つの文献の溶液に対する課題が記載されている。
【0011】
レーザ焼結(LS)で得られる部品は破断伸びが不充分(10%以下)である。これは、部品を構成するポリアミドの粘度(質量)が再増加し、許容範囲内の機械特性を得るには不充分であるためである。
【0012】
特許文献6(米国特許第US20060071359号明細書)では、上記の問題を解決するために、鎖末端が二酸のポリアミドと鎖末端がジアミンであるポリアミドとの混合物が提案されている。この特許ではこのプロセスが理想の近いとされている。すなわち、固体状態の粉末(すなわちレーザーが当たっていない粉末)では鎖末端が二酸のポリアミドと鎖末端がジアミンのポリアミドポリアミとの間に反応が起きないので、初期粉末の分子質量の増加はない。従って、理論的には粉末は100%リサイクルできる。溶融状態の粉末(すなわち構造部品に製作された粉末)では二酸PAとジアミンPAとの混合物が反応し、分子質量が再上昇し、正しい機械特性が得られる。
【0013】
特許文献9(米国特許第US20090291308号明細書)には上記の制御された鎖末端が二酸のポリアミドと制御された鎖末端がジアミンのポリアミドポリアミの混合物のいくつかの欠点が記載されている。特に、この文献の[0006]には、焼結プロセスで通常使われている粉末とは異なる特性の特定の粉末を使用する必要があり、この粉末は上記プロセスの条件およびレーザー焼結で得られる製品の条件を満たさないということが記載されている。
【0014】
特許文献10(米国特許第US7229272号明細書)には粉末ポリアミドのリサイクル性を改善する他の解決策が記載されている。これは使用済み粉末を液体化して溶融処理して粉末を一旦流体にする方法に関するものである。しかし、この方法はリサイクルされる粉末の量が多量(80重量%以上)であるプロセスには十分な方法でなく、「オレンジ皮」のような表面欠損が観測される。すなわち、焼結で得られた物品の表面が粗くなる。これは上記特許文献9(米国特許第US20090291308号明細書)の[0005]で確認されている。
【0015】
上記特許文献9(米国特許第US20090291308号明細書)に記載の方法は、前回の運転で使用した粉末を次の運転で使用するためにリサイクルする前の粉末の処理方法である。この処理方法の基本はポリアミドを水または水蒸気を高温下(130〜150℃)に置いて加水分解(hydrolize)して分子質量をさげることにある。処理時間と温度を調節最終分子質量を制御する。この方法では連続した2回の運転の間に焼結装置の近くで粉末を水蒸気で処理し、乾燥する必要がある(請求項32〜36参照)。この方法は各運転の間に多くの中間段階を必要とし、経済性が悪い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】米国特許第US6136948号明細書
【特許文献2】国際特許第WO9606881号公報
【特許文献3】フランス特許第FR2867190号公報
【特許文献4】フランス特許第FR2873380号公報
【特許文献5】フランス特許第FR293055号公報
【特許文献6】米国特許第US20060071359号明細書
【特許文献7】米国特許第US2004010239号明細書
【特許文献8】米国特許第US2004106691号明細書
【特許文献9】米国特許第US20090291308号明細書
【特許文献10】米国特許第US7229272号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の目的は、焼結プロセスで何度もリサイクル可能すなわち少なくとも4回リサイクル可能で、機械特性が許容範囲内にある物品を作ることができ、実施が簡単な粉末を提供することにある。
【0018】
本発明者は、少なくとも一種の特定の酸をポリアミド中で4000ppm使用することで焼結プロセスのポリアミド粉末のリサイクル性を改善できるということを発見した。驚くことに、本発明方法を用いることで下記を同時に実現することができる:
(1)リサイクル可能にするために運転で使われなかった固体の粉末の分子質量の変化を遅くすることができ、
(2)得られた物品の機械特性が許容範囲内となり、運転中に再生が可能となるように、物品を構成する溶融した粉末の分子量の変化をブロックする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の対象は、焼結プロセスでのポリアミドのリサイクル度を向上させる方法であって、ポリアミド中に少なくとも一種の酸を少なくとも4000ppm、好ましくは4000〜10000ppm添加し、この酸を一般式HxPyOz(ここで、x、yおよびzは1〜7の整数)、硼酸、これらの酸の塩、エステルおよび無水物およびこれらの混合物の中から選択することを特徴とする方法にある。
上記の式HxPyOzでHは水素、Pは燐、Oは酸素であり、x、yおよびzは1〜7の範囲から選択される整数である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明と対照例での製作パラメータの変化の違いを示す図。
【図2】本発明と対照例での製作パラメータの変化の違いを示す図。
【図3】本発明粉末および対照粉末のレーザー出力の変化と粘度の変化を示す図。
【図4】本発明粉末および対照粉末のレーザー出力の変化と粘度の変化を示す図。
【図5】対照粉末PA11および本発明粉末PA11を用いて得られた部品の引張りモジュラスの変化を示す図。
【図6】対照粉末PA11および本発明粉末PA11を用いて得られた部品の破断伸びの変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
他の酸、特に燐をベースにしたもの以外の酸、硼酸およびオキシ酸はポリアミドに満足な物理−化学的特性を与えることができない。
【0022】
本発明方法で使用可能なポリアミドはホモポリアミドまたはコポリアミドにすることができる。また、ポリアミドと少なくとも一種の他のポリマーとの混合物にすることもできる。この場合、ポリアミドがマトリックスを形成し、他のポリマーが分散相を形成する。
【0023】
ポリアミドは粉末または顆粒のような分離した形であるのが好ましい。顆粒を粉砕処理して粉末を作ることもできる。
【0024】
「ポリアミド」とは下記の縮合生成物を意味する:
(1)一種または複数のアミノ酸、例えばアミノカルボン酸、アミノ-7-ヘプタン酸、アミノ-11-ウンデカン酸およびアミン-12-ドデカン酸、一種または複数のラクタム、例えばカプロラクタム、エナントラクタムおよびラウリルラクタム、
(2)一種または複数のジアミンの塩または混合物、例えば、ヘキサメチレンジアミン、デカンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミン、ビス-p−アミノシクロヘキシルメタンおよびトリメチルヘキサメチレンジアミンと、二酸、例えばイソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸およびドデカンジカルボン酸。
ポリアミド1の例としてはPA6、PA6.6、PA10.10、PA11およびPA12を挙げることができる。
【0025】
コポリアミドを使用することもできる。コポリアミドとしては少なくとも2つの異なるモノマーの縮合、例えば互いに異なる少なくとも2つのα、ω−アミノカルボン酸、互いに異なる2つのラクタム、炭素数が互いに異なるラクタムとα、ω−アミノカルボン酸との縮合で得られるものを挙げることができる。また、少なくとも一種のα、ω−アミノカルボン酸(またはラクタム)、少なくとも一種のジアミンおよび少なくとも一種のジカルボン酸の縮合で得られるコポリアミドも挙げられる。さらに、脂肪族ジアミンと脂肪族二酸およびそれとは異なる脂肪族二酸および上記とは異なる脂肪族ジアミンの中から選択れる少なく一種の他のモノマーとの縮合であられるコポリアミドも挙げられる。
【0026】
以下の説明で「モノマー」という用語は「反復単位」を意味する。この「反復単位」がジアミンと二酸との組合せの場合が特定される。一つのアミンと一つの二酸の組合せ、すなわち、モノマーに対応するジアミン.二酸の組合せ(当量)を考える。二酸またはジアミンはそれぞれ一つの構造単位だけであり、ポリマーを形成するには十分でない。
【0027】
例えばラクタムでは置換されていても良い主環に1〜12個の炭素原子を有するものが挙げられる。例としてはβ、β-ジメチルプロピロラクタム、α、αジメチルプロピロラクタム、アミロラクタム、カプロラクタム、カプリルラクタムおよびラウリルラクタムがある。
【0028】
α、ω−アミノカルボン酸の例としてはアミノウンデカン酸およびアミノドデカン酸が挙げられる。ジカルボン酸の例としてはアジピン酸、セバシン酸、イソフタル酸、ブタンジカルボン酸、1,4 シクロヘキシルジカルボン酸、テレフタル酸、スルホイソフタル酸のナトリウム塩またはリチウム塩、脂肪酸ダイマー(このダイマー化脂肪酸のダイマー含量は少なくとも98%で、好ましくは水素化されている)および酸ドデカンジカルボン酸HOOC-(CH2)10-COOHが挙げられる。
【0029】
ジアミンは原子数が6〜12個の脂肪族ジアミンにすることができ、芳香族および/または環式飽和ジアミンでもよい。例としてはヘキサメチレンジアミン、ピペラジン、テトラメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、1,5−ジアミノヘキサン、2,2,4-トリメチレン-1,6-ジアミノ−ヘキサン、ポリオールジアミン、イソホロンジアミン(IPD)、メチルペンタメチレンジアミン(MPDM)、ビス(アミノシクロヘキシル)メタン(BACM)、ビス(3-メチル-4−アミノシクロヘキシル)メタン(BMACM)が挙げられる。
【0030】
コポリアミドの例としてはカプロラクタムとラウリルラクタムのコポリマー(PA 6/12)、カプロラクタム、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6/6.6)、カプロラクタム、ラウリルラクタム、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6/12/6.6)、カプロラクタム、ラウリルドラクタム、アミノ-11-ウンデカン酸、アゼライン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6/6.9/11/12)、カプロラクタム、ラウリルラクタム、アミノ-11-ウンデカン酸、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6/6.6/11/12)、ラウリルラクタム、アゼライン酸およびヘキサメチレンジアミンのコポリマー(PA 6.9/12)、アミノ-11-ウンデカン酸、テレフタル酸およびデカメチレンジアミンのコポリマー(PA11/10.T)が挙げられる。
【0031】
ポリアミドの混合物が使用でき、その例としては脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドとの混合物および脂肪族ポリアミドと脂環式ポリアミドとの混合物がある。
【0032】
例としては欧州特許第EP1227131号公報に記載の下記から成る透明な組成物が挙げられる(合計で100重量%):
(1)5〜40%の下記の縮合物を主とするアモルファスポリアミド(B):
− シクロ脂肪族ジアミンおよび脂肪族ジアミンの中から選択される少なくとも一つのジアミンと、シクロ脂肪族二酸および脂肪族二酸の中から選択される少なくとも一つの二酸(これらジアミンまたは二酸の少なくとも一つはシクロ脂肪族である)、または
− シクロ脂肪族α、ω−アミノカルボン酸、または
− これらの二つの組合せ、
− 必要な場合にはさらに、α、ω−アミノカルボン酸または対応するラクタム、脂肪族二酸および脂肪族ジアミンの中から)の選択れる少なくとも一つのモノマー、
(2)0〜40%のポリアミドブロックとポリエーテルブロックを有すコポリマーおよびコポリアミドの中から選択れる可撓性ポリアミド(C)、
(3)0〜20%の(A)および(B)の相溶化剤(D)、
(4)0〜40%の可撓性か異質剤(M)、
ただし、(C)+(D)+(M)は0〜50%の間にあり、
(6)全体を100%にする量の半結晶性ポリアミド(A)。
【0033】
さらに、欧州特許第EP1227131号公報に記載の下記から成る透明な組成物を挙げることもできる(合計で100重量%):
(1)5〜40%の、少なくとも一つの脂環式でもよいジアミンと少なくとも一つの芳香族二酸と(必要に応じてさらに、α、ω−アミノカルボン酸、脂肪族二酸、脂肪族ジアミンの中から選択されるモノマーと)の縮合で得られる非晶室ポリアミド(B)、
(2)0〜40%の、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックとを有するコポリマーおよびコポリアミドの中から選択れる可撓性ポリアミド(C)、
(3)0〜20%の(A)および(B)の相溶化剤(D)、
ただし、(C)+(D)は2〜50%の間にあり、(B)+(C)+(D)は30%以下であり、
(4)全体を100%にする半結晶性ポリアミド(A)。
【0034】
ポリアミドの一部をポリアミブロックドとポリエーテルブロッとを有するコポリマーに代える、すなわち少なくとも一種の上記ポリアミドとポリアミブロックドとポリエーテルブロックとを有する少なくとも一種のコポリマーとの混合物を使用しても本発明を逸脱するものではない。
【0035】
ポリアミブロックドとポリエーテルブロックとを有するコポリマーは反応性末端を有するポリアミドとの反応性末端を有するポリエーテ、特に下記の共重縮合で得られる:
(1) ジアミン末端を有するポリアミド鎖とジカルボン酸末端を有するポリオキシアルキレン鎖、
(2) ジカルボン酸末端を有するポリアミド鎖とポリエーテルジオールとよばれる脂肪族α、ω−ジヒドロキルポリオキシアルキレン単位のシアノエチル化および水素化で得られるジアミンの末端を有するポリオキシアルキレン鎖、
(3)ジカルボン酸末端を有するポリアミドポリ鎖と、この特定のケースの、ポリエーテルジオール。この場合の生成物がポリエーテルエステルアミドである。このコポリマーを使用するのが有利である。
【0036】
ジカルボン酸末端を有するポリアミド鎖は例えば連鎖制限剤のジカルボン酸の存在下でのα、ω−アミノカルボン酸、ラクタムまたは二酸とジアミンとの縮合で得られる。ポリエーテルは例えばポリテトラメチレングリコール(PTMG)にすることができる。これはポリテトラヒドロフラン(PTHF)ともよばれる。
【0037】
ポリアミドの数平均分子量は300〜15000 g/モル、好ましくは600〜5000 g/モルである。ポリエーテルの数平均分子量は100〜6000 g/モル、好ましくは200か3000 g/モルである。
【0038】
また、ポリアミブロックドとポリエーテルブロックとを有するポリマーはランダムに分布した単位を含むことができる。このポリマーはポリエーテルとポリアミブロックドの前駆体との同時反応で製造できる。例えば、少量の水の存在下でのポリエーテルジオールと、ラクタム(またはα、ω−アミノカルボン酸)と、連鎖制限剤の二酸とから製造できる。主としてポリエーテルブロックと、長さが大きく変化するポリアミブロックドとを有し、ポリマー鎖に沿ってランダムに分布した任意に反応した各種反応物を含むポリマーが得られる。
【0039】
ポリエーテルジオールブロックはそのまま使用するか、カルボン酸末端を有するポリアミブロックドと共重縮合するか、アミノ化してポリエーテルジアミンに変え、カルボン酸末端を有するポリアミブロックドと縮合させる。また、ポリアミド前駆体および連鎖制限剤と混合してランダムに分布した単位を含むポリアミブロックドとポリエーテルブロックとを有するポリマーにすることもできる。
【0040】
ポリアミドの量に対するポリアミブロックドとポリエーテルブロックとを有するコポリマーの量の比は重量で1/99〜15/85の間にするのが有利である。
【0041】
ポリアミドと少な一種の他のポリマーとの混合物はポリアミドのマトリックスと他のポリマーからなる分散相とから成る混合物の形をしている。他のポリマー例としてはポリオレフィン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、エラストマが挙げられる。少なく一種の他のポリマーとの混合物でもよい上記ポリアミドは充填材、顔料、酸化防止剤、紫外線防止剤を含むことができる。
【0042】
本発明方法はPA11、PA12、6〜12の炭素原子を有する脂肪族ジアミンと9〜12の炭素原子を有する脂肪族二酸との縮合で得られる脂肪族ポリアミドおよび90%以上がPA11であるか、90%以上がPA12であるコポリアミド11/12の中から選択されるポリアミドに対して特に有用である。
【0043】
6〜12の炭素原子を有する脂肪族ジアミンと9〜12の炭素原子を有する脂肪族二酸との縮合で得られる脂肪族ポリアミドの例としては、ヘキサメチレンジアミンと1,12-ドデカン二酸との縮合で得られるPA6.12、C9ジアミンと1,12-ドデカン二酸との縮合で得られるPA9.12、C10ジアミンと1,10-デカン二酸との縮合で得られるPA10.10、C10ジアミンと1,12-ドデカン二酸との縮合で得られるPA10.12を挙げることができる。
【0044】
90%以上がPA11であるか、90%以上がPA12であるコポリアミド11/12は、11-アミノウンデカ酸とラウリルラクタム(またはC12のα、ω−アミノカルボン酸)との縮合で得られる。
【0045】
ポリアミドの混合物を使用しても本発明を逸脱するものではない。
【0046】
本発明方法で使用する酸は次亜リン酸H3PO2、亜リン酸H3PO3、リン酸H3PO4、ピロリン酸(ジホスフィン酸ともよばれる)H427、金属のリン酸塩、金属亜リン酸塩、金属のホスフィン酸塩、燐酸および亜燐酸のエステルおよび無水物およびこれらの混合物の中から選択するのが好ましい。これらの酸はポリアミドの縮重合の反応触媒としても使用されるが、その量は常に3000ppm以下である。
【0047】
上記の少なくとも一つの酸は次亜リン酸H3PO2とリン酸H3PO4を10/90〜90/10の重量比で含む混合物から成るのが好ましい。
【0048】
本発明組成物は容積メディアン径(D50)が5〜200の範囲にある粉末の形であるのが好ましい。
【0049】
本発明方法では、上記定義の酸を下記のような方法すなわち酸の水性分散液中でポリアミドを含浸する。ポリアミド合成時、特に合成の開始時または終了時に酸を添加する。コンパウンディング、ポリアミドから粉末を製造するプロセスの任意段階での混合添加、特に、酸を含む溶剤中のへのポリアミドの溶解-沈殿、例えば溶剤中への分散または溶解によって入れることができる。
【0050】
本発明の好ましい実施例では、酸の水性分散液中へのポリアミドの含浸によって酸が加えられる。それによって粉末の融点Tfおよび溶融エンタルピーが同時に増加する。それと同時に下記特許文献11に記載のような水処理段階時に本発明の酸の量および種類を加えることで、リサイクル度が増加する。
【特許文献11】欧州特許第EP1413595号公報
【0051】
酸はポリアミドの水処理時に加えるのが好ましい。この場合、ポリアミドの結晶化温度Tcの近傍で、上記の増加を実現するのに充分な時間の間、ポリアミドを固体状態で酸を含んだ水または水蒸気と接触させ、その後、ポリアミドから水(または水蒸気)を分離してポリアミドを乾燥させる。
【0052】
本発明方法は下記段階を有するのが好ましい:
A.酸を0.1〜5%含む水溶液または水蒸気とポリアミドとを混合し、粉末/溶液の重量比を5〜75%、好ましくは15〜50%とし、
B.得られた混合物をTc−20℃からTc+10℃の範囲の温度に放置し、この段階は2〜100時間、好ましくは2〜30時間とし、
C.必要に応じて、外界温度すなわち10〜50℃の範囲の温度まで混合物を冷却し、
D.水または水蒸気からポリアミドを分離して乾燥し、回収する。
【0053】
段階Aの水溶液を40〜90℃の温度に加熱して酸水溶液のポリアミド中への分散および含浸を加速するのが好ましい。
【0054】
本発明方法で使用する出発材料のポリアミドは粒状または粉末の形をしているのが好ましく、そのD50が10〜150μm、好ましくは30〜80μmである粉末であるのが好ましい。本発明方法でポリアミド・ペレットを用いる場合にはプロセスの終わりに粉砕してD50が10〜150μmの粉末にすることができる。
【0055】
本発明はさらに他の対象は、上記定義の酸を4000〜10000ppmの量で含むことを特徴とする本発明方法で得られるポリアミドにある。このポリアミドは分離した形、例えば顆粒または粉末の形、好ましくはD50が10〜150μmの粉末の形をしている。
【0056】
本発明のさらに他の対象は、上記定義のPAを含む組成を有する粉末または上記方法で得られるポリアミド粉末を照射を用いた合着または焼結プロセスによって凝集させる、物品の製造方法にある。当該業界で任意の公知の焼結装置、例えばEOS、3D System, Aspect, Trump Precision Machinery社から市販の装置を使うことができる。特に、EOS社の装置EOSINT P360またはFormiga P100を挙げることができる。
【0057】
本発明はさらに他の対象は、電磁放射を使用して粉末を合着させ製作した3D物品にある。この物品はプロトタイプ(原型)およびモデル、特に自動車、船舶、航空機、航空宇宙、医学(人工器官、聴覚器官、細胞構造等)、織物材料、衣類、モード装飾、デザイン、電子機器、電話、家具、情報機器、照明の分野の中から選択できる。
【0058】
本発明の粉末焼結で製作される部品は溶液固有粘度が1.5以上で、粉末を複数回リサイクルした後(少なくとも四回のリサイクル後)でも、モジュラスが1300 MPa以上で、破断伸びが15%以上であるのが有利である。
【0059】
下記実施例では下記測定法を用いた:
(1)「容積メディアン(中央)直径」とよばれるD50は正確に測定した粒子の個体群を2つに分ける粒子寸法値に対応する。このD50はISO規格9276-パート1〜6:「 Representation of data obtained by granulometric analysis」に従って測定される。本明細書ではレーザー粒子測定装置(Sympatec Helos)を使用し、粉末の粒径分布はソフトウェア(Fraunhofer)を使用して得た。それからD50を求めた。
(2) 溶液固有粘度は(特にポリアミド、粉末または焼結で製作した部品)はUbbelohde粘度計を用いて、20℃で、メタクレゾール溶液の全重量に対して0.5重量%の溶液で測定した。
【0060】
(3) 機械特性、特に引張りモジュラスおよび破断伸びはISO規格527-2:93-1BAに従って測定した。
(4) ポリアミドの熱的特徴の分析はISO規格 11357-3「Plastics - Differential Scanning Calorimetry (DSC) Share 3: Determination of temperature and enthalpy of melting and crystallization」に従ってDSCによって行った。本発明で特に重要な温度は第1回加熱時の融点(TF1)、結晶化温度(Tc)および溶融エンタルピーである。
【実施例】
【0061】
レーザー焼結装置(Formiga P100)での製作
対照PA11粉末はD50=50μmのポリアミド11粉末で、特許文献11(欧州特許第EP1413595号公報)に記載の方法で水で処理したものである。この粉末に含まれる酸は4000ppm未満である。
【0062】
本発明のPA11粉末はD50=50μmのポリアミド11粉末で、本発明方法に従って処理したものである。ここでは対照PA11粉末と同じ条件下で処理したが、処理水中の酸の量は本発明に従って対照PA11粉末の場合より多い。この場合、PA11粉末に含まれる酸の量は本発明に従って4000ppm以上である。酸はFebexの名称で市販のH3PO4である。
【0063】
一連の4回の製作(運転1〜4)では、初期粉末(運転0)を100%リサイクルして使用し、各運転1〜4で下記を測定した:
【0064】
(1)製作パラメータ(粉末を溶融するのに必要なレーザー出力)、
− 外部レーザー出力(部品の外側輪郭に対応)
− 内部レーザー出力(部品の内部に対応)
(2)粉末および部品のそれぞれの粘度
(3)X/Y構成の部品の機械特性
− モジュラス
− 破断伸び
【0065】
(A)製作パラメータ
対照粉末の場合には、運転する度に製作パラメータを修正する必要、すなわち、レーザー出力を増加させる必要があった([表1])。これに対して、本発明粉末の場合にはそれが必要なかった([表2])。この違いは[図1][図2]のグラフと[表3]に明確に表されている。
【0066】
【表1】

【0067】
【表2】

【0068】
【表3】

【0069】
(B)粉末および部品の粘度の変化
本発明による固体状態の粉末(「環境(environnante)粉末」)の粘度は運転を繰り返しても安定であり、対照粉末の粘度以下である。さらに、本発明粉末は常に対照粉末とは違って、常にほぼ2以下である。
【0070】
【表4】

【0071】
本発明粉末で得られる部品の粘度は、第1回製作(運転1)で1.5以上になるが、機械特性は許容範囲内にある(cfポイントC)。
【0072】
この変化は[表4]にまとめて示し、また、[図3][図4]のグラフに示す。
【0073】
(C) 機械特性の変化
[表5]は対照粉末PA11および本発明粉末PA11を用いて得られた部品の引張りモジュラスおよび破断伸びの変化を示す。
【0074】
【表5】

【0075】
これらの変化も[図5][図6]のグラフに示してある。
引張りモジュラスの変化:第4回目の運転後でも、本発明粉末PA11から製作した部品のモジュラスは1300Mpa以上のままである。これに対して、対照粉末PA11から製作した部品のモジュラスは第2回目の運転時に1300Mpa以下となり、機械特性が許容範囲外となった。
【0076】
破断伸びの変化:本発明粉末PA11から製作した部品の破断伸びは安定したままで、常に20%以上である。これに対して、対照粉末PA11から製作した部品の破断伸びは大きく減少し、第4回目の運転で15%以下に低下し、従って、機械特性が許容範囲外となる。
【0077】
最後に、本発明方法では粉末のリサイクル度を上げることができ(上記実施例では少なくとも4回リサイクルでき)、上記実施例に示すように、第1回目の焼結製作で使用する粉末ポリアミドの酸の量および種類をコントロールすることで、許容範囲内の機械特性を有する物品を各焼結で再生可能な状態で得ることができる。本発明が提供する粉末は、各製作時の溶融粉末および非溶融粉末によって受ける分子量の変化が粉末中で第1回目の製作で起こるように予め簡単に制御される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結プロセスでのポリアミドのリサイクル度を向上させる方法であって、ポリアミド中に少なくとも一種の酸を少なくとも4000ppm添加し、この酸を一般式HxPyOz(ここで、x、yおよびzは1〜7の整数)、硼酸、これらの酸の塩、エステルおよび無水物およびこれらの混合物の中から選択することを特徴とする方法。
【請求項2】
上記の少なくとも一種の酸を次亜リン酸H3PO2、亜リン酸H3PO3、リン酸H3PO4、ピロリン酸H427、金属リン酸塩、金属亜リン酸塩、金属ホスフィン酸塩、燐酸および亜リン酸のエステルおよび無水物およびこれらの混合物の中から選択する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記の少なくとも一種の酸が次亜リン酸H3PO2とリン酸H3PO4との混合物(混合比は重量で10/90〜90/10)から成る請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
酸の水性分散液中でのポリアミドの含浸、ポリアミド合成時の酸の添加、特に合成の開始時または終わりでの添加、コンパウンディングによる混合添加、ポリアミドから粉末を製造するプロセスの任意段階での添加、特に酸を含む溶剤中へのポリアミドの溶解-沈殿による添加から成る群の中の少なくとも一つの方法で上記の酸の添加する請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
結晶化温度Tc近傍の温度で、増加に必要な十分な時間の間、固体状態のポリアミドを酸を含む水または水蒸気と接触させるポリアミドの水処理時で酸を加え、その後、ポリアミドを水または水蒸気から分離し、ポリアミドを乾燥させる請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
下記の段階(1)〜(3)を含む請求項5に記載の方法:
(1)酸を0.1〜5%含む水溶液または水蒸気とポリアミドとを混合し、粉末/溶液の重量比を5〜75%とし、
(2)得られた混合物をTc−20℃からTc+10℃の範囲の温度に放置し、
(3)水または水蒸気からポリアミドを分離して乾燥し、回収する。
【請求項7】
ポリアミドをPA11、PA12、PA10.10、炭素原子数が6〜12の脂肪族ジアミンと炭素原子数が9〜12の脂肪族二酸との縮合で得られる脂肪族ポリアミドおよび単位11が90%以上であるか単位12が90%以上であるコポリアミド11/12の中から選択する請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
ポリアミドが粒状または粉末の形をしており、好ましくはD50容積メディアン径が10〜150μmの範囲にある粉末の形をしている請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜3に定義の4000〜10000ppmの酸を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法で得られることを特徴とするポリアミド粉末。
【請求項10】
請求項9に記載のポリアミド粉末を使用する焼結プロセス。
【請求項11】
請求項9に記載の粉末を電磁照射線を用いて溶着して得られる物品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−251148(P2012−251148A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−125315(P2012−125315)
【出願日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【出願人】(505005522)アルケマ フランス (335)
【Fターム(参考)】