説明

焼結スパッタリングターゲット材およびその製造方法

【課題】低ガスであり、かつ、結晶粒の微細化が図られ、安定供給可能な焼結スパッタリングターゲット材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】Mn,B,BiまたはGeの単体金属と、X,Yを含む合金または焼結体(X:Mn,B,Bi,Co,NiおよびFeのうちのいずれか1種。Y:Ag,Al,As,B,Bi,Co,Cr,Cu,Dy,Hf,Ga,Ge,Fe,In,Mg,Mn,Mo,La,Nb,Ni,Pr,Sb,Si,Sn,Sr,Ta,Tb,Te,Ti,Rh,Zn,Zr,VおよびWのうちのいずれか1種以上の金属または合金。)とをそれぞれ溶融し、粉砕法または高速急冷法により粉末を作製する工程、脱ガス・混合し、成形・焼結させる工程、切削・研磨加工を施す工程とを経て、平均粒径0.1〜300μmの結晶粒を50%以上含み、含有ガス量600ppm以下のターゲット材を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種金属または合金による薄膜形成に用いられる焼結スパッタリングターゲット材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スピントロニクス分野では、ハーフメタルが注目されており、世界的に研究が盛んに行われている。ハーフメタルは、磁気抵抗素子やスピンフィルタ等のデバイスへの応用が期待されている材料である。
【0003】
ハーフメタルを用いるデバイスは、一般に、室温以上の環境下で使用される。そのため、用いられる材料は、室温以上のキュリー温度を有していることが必要とされる。
ハーフメタル材料には、ホイスラー合金、酸化物系(Fe34,La0.7Sr0.3MnO3等)、閃亜鉛鉱型(CrAs等)等がある。これらの中でも、キュリー温度が室温以上であるホイスラー合金は、実用的なハーフメタル材料として有望視されている。
【0004】
上記のような材料は、デバイスでは薄膜として用いられ、一般に、スパッタリング等のPVD法により薄膜形成が行われる。スパッタリングによる薄膜形成においては、含有ガスが少なく、微細な結晶粒を有するような、高品質のスパッタリングターゲットが求められている。
従来、このようなスパッタリングターゲットは、一般に、含有ガスが比較的少ない低ガス品が得られやすい、いわゆる真空溶解法により製造されていた(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、スパッタリングターゲットの製造方法としては、真空溶解法以外に、粉末材料を加圧焼成する等のいわゆる焼結法がある(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2006−165125号公報
【特許文献2】特開2005−330570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ホイスラー合金を始めとする比較的脆い材料である焼結スパッタリングターゲット材は、真空溶解法では、鋳込み冷却中に割れてしまい、インゴットを製造することが困難であった。
また、ターゲット結晶粒の微細化のために、通常、インゴットには、鍛造や圧延加工が施されるが、上記のような脆い材料では、これらの加工中に割れてしまい、ターゲットを得ることが困難であった。
【0007】
さらに、真空溶解法でインゴットを製造することができた場合であっても、ターゲット加工工程、ボンディング工程あるいはまたスパッタリングによる成膜時においても、割れを生じやすいという課題を有していた。
そのため、真空溶解法は、脆い材料からなるターゲットの大型化および量産化には不向きであった。
【0008】
また、上記特許文献2に記載されているような焼結法では、粉末原料および工程の特性上、ターゲット中の酸素等のガスの含有量を抑制することは困難であった。
【0009】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、低ガスであり、かつ、結晶粒の微細化が図られ、安定供給可能な焼結スパッタリングターゲット材およびその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る焼結スパッタリングターゲット材は、Mn,B,BiまたはGeの金属粉と、X,Yを含む合金粉または焼結金属(ここで、Xは、Mn,B,Bi,Co,NiおよびFeのうちのいずれか1種であり、Yは、Ag,Al,As,B,Bi,Co,Cr,Cu,Dy,Hf,Ga,Ge,Fe,In,Mg,Mn,Mo,La,Nb,Ni,Pr,Sb,Si,Sn,Sr,Ta,Tb,Te,Ti,Rh,Zn,Zr,VおよびWのうちのいずれか1種以上の金属または合金である。)とから形成され、平均粒径0.1〜300μmの結晶粒を50%以上含み、含有ガス量が600ppm以下であることを特徴とする。
本発明によれば、上記のような比較的脆い材料で構成され、均一な微細結晶粒からなる低ガス焼結品の複合金属系ターゲット材が提供される。
【0011】
本発明によれば、真空溶解法による製造では割れやすい、X,Yの各含有量が0.1〜50atm%であるターゲット材も好適に提供される。
【0012】
また、前記X,Yを含む合金粉または焼結金属に、さらに、SiまたはGeのいずれか1種以上が0.1〜35.0atm%、あるいはまた、Au,Ag,Pt,Pd,Rh,Ir,RuおよびOsの貴金属元素のうちのいずれか1種以上が0.1〜10atm%含まれているターゲット材も好適に提供される。
【0013】
ホイスラー合金においては、前記Xは、特に、Co,NiまたはFeがよく用いられる。
【0014】
また、本発明に係る焼結スパッタリングターゲット材の製造方法は、Mn,B,BiまたはGeの単体金属と、X,Yを含む合金または焼結体(ここで、Xは、Mn,B,Bi,Co,NiおよびFeのうちのいずれか1種であり、Yは、Ag,Al,As,B,Bi,Co,Cr,Cu,Dy,Hf,Ga,Ge,Fe,In,Mg,Mn,Mo,La,Nb,Ni,Pr,Sb,Si,Sn,Sr,Ta,Tb,Te,Ti,Rh,Zn,Zr,VおよびWのうちのいずれか1種以上の金属または合金である。)とをそれぞれ溶融し、粉砕法または高速急冷法により、前記単体金属の純金属粉と、X,Yを含む合金粉末を作製する工程と、前記単体金属の純金属粉およびX,Yを含む合金粉末を脱ガスおよび混合し、成形して焼結させる工程と、得られた焼結体に切削および研磨加工を施す工程とを備えていることを特徴とする。
このような製造方法によれば、上記のような本発明に係るターゲット材を好適に得ることができる。
【0015】
前記成形工程においては、200〜2000℃で加熱しながら加圧成形することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上述したとおり、本発明に係る焼結スパッタリングターゲット材は、低ガス品であり、かつ、結晶粒が微細である。
また、本発明に係る製造方法によれば、上記のような脆い材料であっても、結晶粒の微細化およびガス不純物の低減化が図られた高品質の焼結スパッタリングターゲットを安定的に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係る焼結スパッタリングターゲット材の構成材料は、Mn,B,BiまたはGeの金属粉と、X,Yを含む合金粉または焼結金属である。
そして、前記ターゲット材は、平均粒径0.1〜300μmの結晶粒を50%以上含み、含有ガス量が600ppm以下であることを特徴とするものである。
このように、本発明に係るターゲット材は、上記のような比較的脆い材料で構成され、含まれる結晶粒が上記範囲内のほぼ均一な粒径を有している低ガス焼結品である。
【0018】
ここで、前記X−Yを含む合金粉または焼結金属におけるXは、Mn,B,Bi,Co,NiおよびFeのうちのいずれか1種である。これらの中でも、Co,NiまたはFeは、ホイスラー合金によく用いられるものである。
【0019】
また、Yは、Ag,Al,As,B,Bi,Co,Cr,Cu,Dy,Hf,Ga,Ge,Fe,In,Mg,Mn,Mo,La,Nb,Ni,Pr,Sb,Si,Sn,Sr,Ta,Tb,Te,Ti,Rh,Zn,Zr,VおよびWのうちのいずれか1種以上の金属または合金である。すなわち、Yは、上記に列挙した金属単体に限らず、これらの金属2種以上を含むものであってもよい。
【0020】
前記ターゲット材の中でも、特に、真空溶解法による製造では割れやすい、X,Yの各含有量が0.1〜40atm%の範囲内の組成のものであっても、本発明によれば、均一な微細結晶粒からなる低ガス品をより安定的に提供することができる。
【0021】
また、前記X,Yを含む合金粉または焼結金属には、さらに、SiまたはGeのいずれか1種以上が0.1〜35.0atm%、あるいはまた、Au,Ag,Pt,Pd,Rh,Ir,RuおよびOsの貴金属元素のうちのいずれか1種以上が0.1〜10atm%含まれていてもよい。
このような多種の複合金属系ターゲット材であっても、本発明によれば、均一な微細結晶粒からなる低ガス品を提供することができる。
【0022】
上記のような本発明に係る焼結スパッタリングターゲット材は、前記構成材料の金属粉と、X,Yを含む合金粉または焼結金属をそれぞれ溶融し、粉砕または高速急冷法により、粉末を作製する工程と、前記粉末を脱ガスおよび混合し、成形して焼結させる工程と、切削および研磨加工する工程とを経ることにより得られる。
このような工程を経て作製されたターゲット材は、異方性が少なく、金属間化合物の異常結晶粒の成長もないため、製造過程における加工性に優れ、また、スパッタリングの際の割れや変形も抑制される。
【0023】
以下、各工程について順次説明する。
前記粉末作製工程においては、各金属原料を所望の組成となるように秤量混合し、高周波誘導加熱溶解炉、アーク溶解炉等により溶解し、インゴットを作製して粉砕する粉砕法、または、アトマイズ法、遠心急冷法、冷却ロール法等の高速急冷法等により、微粉末化する。
これらの方法の中でも、焼結性が良好な扁平状または突起状の粉末を容易に得られることから、粉砕法が好ましい。
前記粉末作製工程においては、本発明の目的とする低ガス品ターゲット材を得るために、N2,Ar,He等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0024】
上記のようにして得られた粉末は、脱気装置にて、高真空中またはAr+H2ガス中で、回転させながら加熱し、脱ガスを行う。
脱ガスされた粉末は、グローブボックス内にて、Ar等の不活性ガス中で枠型に充填し、真空ホットプレスや熱間等方加圧装置(HIP)にて、成形して焼結を行う。
前記成形工程においては、用いられる金属材料に応じて、200〜2000℃の範囲で、各金属の融点の最低温度未満の温度で、加圧成形することが好ましい。
【0025】
得られた焼結体は、水分およびガスの混入を防止するため、乾式の機械加工にて、所望の形状に切削および研磨加工が施される。さらに、乾式クリーニングされ、真空処理炉にて加熱処理が施され、ターゲット材が得られる。このターゲット材は、水分の混入を防止し、かつ、低ガス品の状態を保持するため、乾燥剤を入れたアルミラミネートフィルムで真空密封された状態で、製品として取り扱われる。
上記製造方法によれば、直径10インチを超える比較的大型品であっても、安定的な製造が可能である。
【0026】
なお、本発明に係るターゲット材が、バッキングプレートが冷却媒体に直接接触する、いわゆる一体型構造のスパッタリングターゲットとして用いられる場合には、冷却媒体と接触する部分に耐食性皮膜を施して使用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
Co,MnおよびSiの原料粉末を、Mn含有量が29atm%、Si含有量が25atm%となるように秤量し、真空溶解炉にて溶解鋳造し、インゴットを作製した。
次に、作製したインゴットをスタンプミルにて粉砕した。その際、ガスの吸着防止のため、Arガスを流しながら粉砕を行った。
得られた粉末は、不活性ガス中で加熱しながら、脱気装置にて脱気し、真空ホットプレスにて焼結を行った。
得られた焼結体は、乾式の機械加工を行い、所定形状とした後、真空炉にて真空加熱を行い、スパッタリングターゲット材を作製した。
このターゲット材の各製造工程において測定した酸素量を表1に示す。
【0028】
[比較例1,2]
実施例1と同様の組成(Co−Mn−Si)にて、真空溶解法により作製したターゲット材(比較例1)、また、従来の焼結法により作製したターゲット材(比較例2)についての各製造工程における酸素量も、併せて表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示したように、実施例1に係るターゲット材は、従来の焼結品(比較例2)に比べて、含有酸素量を600ppm以下に低減化を図ることができることが認められた。
【0031】
[実施例2]
Co,MnおよびGeの原料粉末を、Mn含有量が27atm%、Ge含有量が29atm%となるように秤量し、真空溶解炉にて溶解鋳造し、インゴットを作製した。
以下、実施例1と同様にして、スパッタリングターゲット材を作製した。
各製造工程における酸素量を表2に示す。
【0032】
[比較例3]
実施例1と同様の組成(Co−Mn−Ge)にて、従来の焼結法により作製したターゲット材(比較例3)についての各製造工程における酸素量も、併せて表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
[実施例3]
Co,MnおよびGeの原料粉末を、Mn含有量が22atm%、Ge含有量が32atm%となるように秤量し、それ以外については、実施例2と同様にして、スパッタリングターゲット材を作製した。
【0035】
[実施例4]
Co,ZnおよびNbの原料粉末を、Mn含有量が5atm%、Nb含有量が8atm%となるように秤量し、それ以外については、実施例2と同様にして、スパッタリングターゲット材を作製した。
得られたターゲット材表面の結晶粒を観察した顕微鏡写真を図1に示す。
【0036】
[比較例4]
実施例4と同様の組成(Co−Zn−Nb)にて、真空溶解法によりスパッタリングターゲット材を作製した。
得られたターゲット材表面の結晶粒を観察した顕微鏡写真を図2に示す。
【0037】
図1,2に示した顕微鏡写真から、従来の真空溶解法(比較例4)により得られたターゲット材の方が、結晶粒が大きく、実施例4においては、結晶粒が微細化していることが認められた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施例4に係るターゲット材表面の顕微鏡写真(250倍)である。
【図2】比較例4に係るターゲット材表面の顕微鏡写真(250倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mn,B,BiまたはGeの金属粉と、X,Yを含む合金粉または焼結金属(ここで、Xは、Mn,B,Bi,Co,NiおよびFeのうちのいずれか1種であり、Yは、Ag,Al,As,B,Bi,Co,Cr,Cu,Dy,Hf,Ga,Ge,Fe,In,Mg,Mn,Mo,La,Nb,Ni,Pr,Sb,Si,Sn,Sr,Ta,Tb,Te,Ti,Rh,Zn,Zr,VおよびWのうちのいずれか1種以上の金属または合金である。)とから形成され、平均粒径0.1〜300μmの結晶粒を50%以上含み、含有ガス量が600ppm以下であることを特徴とする焼結スパッタリングターゲット材。
【請求項2】
前記X,Yの各含有量が0.1〜50atm%であることを特徴とする請求項1記載の焼結スパッタリングターゲット材。
【請求項3】
前記X,Yを含む合金粉または焼結金属に、さらに、SiまたはGeのいずれか1種以上が0.1〜35.0atm%が含まれていることを特徴とする請求項1または2記載の焼結スパッタリングターゲット材。
【請求項4】
前記X,Yを含む合金粉または焼結金属に、さらに、Au,Ag,Pt,Pd,Rh,Ir,RuおよびOsの貴金属元素のうちのいずれか1種以上が0.1〜10atm%含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の焼結スパッタリングターゲット材。
【請求項5】
前記Xが、Co,NiまたはFeであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の焼結スパッタリングターゲット材。
【請求項6】
Mn,B,BiまたはGeの単体金属と、X,Yを含む合金または焼結体(ここで、Xは、Mn,B,Bi,Co,NiおよびFeのうちのいずれか1種であり、Yは、Ag,Al,As,B,Bi,Co,Cr,Cu,Dy,Hf,Ga,Ge,Fe,In,Mg,Mn,Mo,La,Nb,Ni,Pr,Sb,Si,Sn,Sr,Ta,Tb,Te,Ti,Rh,Zn,Zr,VおよびWのうちのいずれか1種以上の金属または合金である。)とをそれぞれ溶融し、粉砕法または高速急冷法により、前記単体金属の純金属粉と、X,Yを含む合金粉末を作製する工程と、前記単体金属の純金属粉およびX,Yを含む合金粉末を脱ガスおよび混合し、成形して焼結させる工程と、得られた焼結体に切削および研磨加工を施す工程とを備えていることを特徴とする焼結スパッタリングターゲット材の製造方法。
【請求項7】
前記成形工程においては、200〜2000℃で加熱しながら加圧成形することを特徴とする請求項6記載の焼結スパッタリングターゲット材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−74127(P2009−74127A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−243300(P2007−243300)
【出願日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(000143411)株式会社高純度化学研究所 (18)
【Fターム(参考)】