説明

焼結体、焼結体を用いた切削工具、および焼結体の製造方法

【課題】高い耐摩耗性および高い耐欠損性を有する、酸窒化アルミニウムを含む焼結体を提供する。
【解決手段】焼結体は、酸窒化アルミニウムを含む硬質部と、第6族元素〜第10族元素から選択される少なくとも1種の金属からなる結合部と、を含み、焼結体における前記硬質部の含有量が40体積%以上90体積%以下である、焼結体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は焼結体、該焼結体を用いた切削工具、および焼結体の製造方法に関し、特に、酸窒化アルミニウムを含有する焼結体、該焼結体を用いた切削工具、および焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
切削加工などに用いられる切削工具には、炭化タングステン、アルミナ(Al23)、立方晶窒化ホウ素焼結体(cBN)、ダイヤモンド焼結体などの硬度の高い材料が、被削材の硬度に応じて選択されて使用されている。なかでも、アルミナは比較的安価であり、鉄系被削材に対する反応性が低いために、切削工具の材料として有用な材料とされている。
【0003】
また、近年、アルミナと類似した特性を有し、さらに、アルミナよりも高い硬度と低い熱膨張係数を有する、酸窒化アルミニウムの利用が検討されている。酸窒化アルミニウムは、たとえば、Al23275のような組成からなるスピネル型結晶構造を有しており、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとを用いて作製することができる。たとえば、米国特許第4241000号明細書(特許文献1)には、酸化アルミニウムと窒化アルミニウムとを、非酸化性雰囲気下において1800℃を超える温度で焼成させることによって、酸窒化アルミニウムを作製する方法が記載されている。
【0004】
ところで、炭化タングステン、アルミナ、酸窒化アルミニウムなどの上記材料は、高い硬度を有する一方で、靭性が低い傾向にあり、このため、上記材料を切削工具として使用した場合に、切削工具が破損し易い傾向があった。これに対応して、上記材料に添加材を加えて焼結体を作製することによって、焼結体に靭性を付加して、焼結体の耐欠損性を向上させるための種々の技術が開発されている。
【0005】
たとえば、特表2001−514326号公報(特許文献2)には、炭化タングステンと、コバルト(Co)を主成分とする結合材とからなるサーメットが開示されている。また、特表2007−533593号公報(特許文献3)には、酸窒化アルミニウム焼結体を炭化珪素ウィスカーで強化した、切削工具用のセラミックが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第4241000号明細書
【特許文献2】特表2001−514326号公報
【特許文献3】特表2007−533593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、酸窒化アルミニウム焼結体を炭化珪素ウィスカーで強化した場合、炭化珪素と鉄系被削材とが反応してしまうために、鉄系被削材を切削するための工具の材料に適さないという問題がある。すなわち、従来の技術では、酸窒化アルミニウムを含む焼結体であって、酸窒化アルミニウムの特性を生かしつつ、さらに切削工具の材料として優れた焼結体を提供することは実現されていない。
【0008】
上記事情を鑑み、本発明は、酸窒化アルミニウムを含む、切削工具の材料として優れた焼結体、該焼結体を用いた切削工具、および焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、酸窒化アルミニウムを含む焼結体に靭性を与えるのに適した結合材を見出すべく、まず、上記特許文献3に開示される結合材を酸窒化アルミニウムと混合して検討を行った。その結果、作製された焼結体に亀裂、剥離が発生する傾向にあることが分かった。そこで、本発明者らは、この理由について考察および検討を重ね、酸窒化アルミニウムの熱膨張係数と比較して、焼結体に多く存在するコバルトの熱膨張係数がたとえば2倍程度と大きいために、高温焼結時、および切削処理中における高温発生時に焼結体に亀裂が発生したり、粒子間での剥離が発生したりすることを知見した。
【0010】
上記知見に基づいて鋭意検討を重ねた結果、本発明者らは、酸窒化アルミニウムを含む焼結体の特性を維持しつつ靭性を付加するためには、硬質部を構成する酸窒化アルミニウムの熱膨張係数と、結合部を構成する結合材の熱膨張係数との関係だけではなく、結合部の組成、および硬質部と結合部との体積比との関係も重要であることを見出した。そして、本発明者らは、さらに、鋭意検討を重ねることによって、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の第1の態様は、酸窒化アルミニウムを含む硬質部と、第6族元素〜第10族元素から選択される少なくとも1種の金属からなる結合部と、を含み、焼結体における硬質部の含有量が40体積%以上90体積%以下である、結合部の焼結体である。
【0012】
上記焼結体において、結合部は、クロム、鉄、コバルト、およびニッケルから選択される少なくとも1種の金属を含むことが好ましい。
【0013】
上記焼結体において、結合部は、金属間化合物からなることが好ましい。なお、本明細書において、金属間化合物は、クロム、鉄、コバルト、およびニッケルから選択される2種以上の金属によって構成される化合物である。
【0014】
上記焼結体において、結合部は、鉄を39質量%以上75質量%以下、コバルトを0質量%以上30質量%以下、ニッケルを18質量%以上45質量%以下含有する金属間化合物からなることが好ましい。
【0015】
上記焼結体において、結合部は、鉄を55質量%以上75質量%以下、ニッケルを25質量%以上45質量%以下含有する金属間化合物からなることが好ましい。
【0016】
上記焼結体において、結合部は、インバーまたはコバールからなることが好ましい。
上記焼結体において、結合部の熱膨張係数が1×10-6/℃以上8×10-6/℃以上であることが好ましい。
【0017】
また、本発明の第2の態様は、上記焼結体よりなる切削工具である。
また、本発明の第3の態様は、硬質部の原料粉末と結合部の原料粉末とを混合する工程と、混合された混合粉末を焼結する工程と、を含み、硬質部の原料粉末は、酸窒化アルミニウム粉末を含み、結合部の原料粉末は、第6族元素〜第10族元素から選択される1種の金属からなる金属粉末または2種以上の金属からなる金属間化合物粉末を含み、混合する工程において、硬質部の原料粉末と、結合部の原料粉末との混合比を4/6以上9/1以下とする、焼結体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い硬度と高い靭性を有する焼結体を提供することができ、もって、切削工具の材料として優れた焼結体を提供することができる。また、この焼結体よりなる切削工具は、長寿命を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】実施例11の焼結体の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1の焼結体の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<焼結体>
以下、本発明の焼結体の一実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本実施形態において、焼結体は、酸窒化アルミニウムを含む硬質部と、第6族元素〜第10族元素から選択される少なくとも1種の金属からなる結合部と、を含み、焼結体における硬質部の含有量が40体積%以上90体積%以下である。
【0022】
焼結体を構成する硬質部は、焼結体のうち、Al(8+x)/34-xx(但し、0.4≦x≦1)の組成で表される酸窒化アルミニウムからなる。
【0023】
硬質部において、酸窒化アルミニウムの粒子同士は結合していてもよいが、焼結体の靭性を向上させる観点からは、粒子同士が結合せずに、連続した結晶相中に粒子が分散して存在する構造であることが好ましい。焼結体における硬質部の含有量が90体積%以下の場合、酸窒化アルミニウムの粒子同士を結合を効果的に抑制することができ、70体積%以下の場合にさらに効果的に抑制することができる。また、焼結体における硬質部の含有量が40体積%以上の場合、硬質部による焼結体の硬度を十分に維持することができる。
【0024】
焼結体中の酸窒化アルミニウムの含有量は、その製造に使用した各原料の量、および製造条件から導くことができ、また、たとえば、SEM−EDX(走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光)法を用いて確認することができる。
【0025】
焼結体を構成する結合部は、周期表の第6族元素〜第10族元素から選択される少なくとも1種の金属からなる。焼結体における結合部の含有量は、10体積%以上60体積%以下である。結合部の含有量を10体積%以上とすることにより、焼結体に十分な靭性を付加することができ、60体積%以下とすることにより、硬質部による硬度を維持することができるとともに、硬質部の熱膨張係数と結合部の熱膨張係数との差に起因する亀裂の発生、粒子間での剥離などを抑制することができる。また、焼結体における結合部の含有量を30体積%以下とすることにより、上記亀裂の発生、粒子間での剥離などをより効果的に抑制することができる。なお、焼結体における結合部の含有量は、硬質部と同様の方法により算出することができる。
【0026】
上記結合部は、クロム、鉄、コバルト、およびニッケルから選択される1種の金属からなることが好ましい。あるいは、結合部は、クロム、鉄、コバルト、およびニッケルから選択される2種以上の金属からなる金属間化合物であることが好ましい。このような結合部を有する焼結体は、さらに、耐摩耗性、耐欠損性に優れ、もって、この焼結体からなる工具は、長寿命を有することができる。
【0027】
さらに、上記金属間化合物は、鉄を39質量%以上75質量%以下、コバルトを0質量%以上30質量%以下、ニッケルを18質量%以上45質量%以下含有することが好ましい。より具体的には、金属間化合物は、鉄およびニッケルからなり、鉄を55質量%以上75質量%以下、ニッケルを25質量%以上45質量%以下含有する、あるいは、鉄、ニッケル、およびコバルトからなり、鉄を39質量%以上54質量%以下、ニッケルを18質量%以上32質量%以下、およびコバルトを17質量%以上30質量%以下含有することが好ましい。この場合、焼結体をさらに長寿命化させることができる。この理由の1つとして、以下のことが考えられる。
【0028】
すなわち、上記組成を有する結合部の熱膨張率と、硬質部を構成する酸窒化アルミニウムの熱膨張率(たとえば、5×10-6/℃)との差が小さい。このために、硬質部の熱膨張係数と結合部の熱膨張係数との差に起因する亀裂の発生、粒子間での剥離などをより効果的に抑制することができ、これにより、焼結体の耐摩耗性、耐熱性などがさらに向上するものと考えられる。特に、本発明者は、結合部の熱膨張係数が8×10-6/℃未満である場合に、焼結体の上記特性を向上させることができ、3×10-6/℃以上7×10-6/℃以下である場合に、上記特性をさらに向上させることができることを知見している。
【0029】
また、金属間化合物は、インバーまたはコバールであることが好ましい。インバーとは、鉄およびニッケルからなり、鉄を64質量%、ニッケルを36質量%含有する金属間化合物である。コバールとは、鉄、ニッケルおよびコバルトからなり、鉄を54質量%、ニッケルを29質量%、コバルトを17質量%含有する金属間化合物である。金属間化合物としてインバーまたはコバールを用いる場合、これらの熱膨張係数が酸窒化アルミニウムの熱膨張係数と近似しているため、熱病長係数差に起因する亀裂の発生、粒子間での剥離などを効果的に抑制することができる。したがって、結果的に、焼結体の耐摩耗性、耐熱性などを向上させることができると考えられる。
【0030】
また、本実施形態において、硬質部を構成する酸窒化アルミニウムは、窒化アルミニウム粒子および酸化アルミニウム粒子を原料としている。このため、焼結体には、酸窒化アルミニウムの他、これらの原料由来の窒化アルミニウムまたは酸化アルミニウムが、不可避不純物として残存している場合がある。焼結体に窒化アルミニウムが含まれることにより、焼結体を切削工具として用いた際の被削材とのすべりを向上させることができ、これにより、切削工具の逃げ面、およびすくい面の耐摩耗性を向上させることができる。
【0031】
また、焼結体に酸化アルミニウムが含まれることにより、焼結体の耐熱性を向上させることができ、これにより、焼結体を切削工具として用いた際の寿命を延ばすことができる。これは、たとえば、高速切削時に切削工具の刃先などが高温になった場合であっても、焼結体に含まれる酸化アルミニウムのさらなる酸化が起こらないために、結果的に、焼結体の酸化が抑制されるためである。
【0032】
ただし、窒化アルミニウムおよび/または酸化アルミニウムの残存量が多すぎる場合には、相対的に酸窒化アルミニウムの含有量が低下することになり、酸窒化アルミニウムの優位な特性を発揮し難くなるために好ましくない。したがって、焼結体に残存する酸化アルミニウムの含有量は20体積%以下、窒化アルミニウムの含有量は10体積%以下であることが好ましい。なお、酸化アルミニウムおよび窒化アルミニウムの含有量は、たとえば、SEM−EDX法によって算出することができる。
【0033】
以上のように、本実施形態に係る焼結体によれば、高い硬度を有する酸窒化アルミニウムに対し、高い靭性を有する結合部が強固に結合しているため、高い硬度と高い靭性を有することができ、もって、高い耐摩耗性および高い耐欠損性を有することができる。また、当該焼結体からなる切削工具は、長寿命を有することができる。なお、焼結体をそのまま切削工具としてもよく、焼結体を所望の形状に仕上げ加工したものを切削工具としてもよい。
【0034】
<焼結体の製造方法>
以下、本発明の焼結体の製造方法の一実施形態について詳細に説明する。なお、本実施形態では、超高圧プレス法によって焼結体を作製している。
【0035】
(硬質部の原料粉末を準備する工程)
まず、硬質部の原料粉末となる酸窒化アルミニウム粉末を準備する。酸窒化アルミニウム粉末は、たとえば、酸化アルミニウム粉末と窒化アルミニウム粉末とを混合、焼成することによって作製することができる。
【0036】
具体的には、まず、酸化アルミニウム粉末と、窒化アルミニウム粉末とのモル比(Al23/AlN)が0.5以上3以下となるように各粉末を混合する。各粉末の混合方式には乾式と湿式の何れの方式を用いてもよく、湿式の混合方式を用いた場合には、混合物の乾燥に際し、自然乾燥やスプレードライヤなどの乾燥方法を用いることが好ましい。なお、酸化アルミニウムは、α−アルミナ、γ−アルミナ、およびθ−アルミナのいずれの構造であってもよい。
【0037】
次に、この混合物を窒素雰囲気下で焼成することによって、Al(8+x)/34-xx(但し、0.4≦x≦1)の組成で表される酸窒化アルミニウム粉末が作製される。焼成温度は、未反応の粒子が残存するのを抑制する観点から、1600℃以上であることが好ましく、焼成後に生成される粉末の粒径が過剰に大きくなるのを抑制する観点から、2000℃以下であることが好ましい。
【0038】
なお、焼成により生成された粉末には、未反応の酸化アルミニウム粉末および/または窒化アルミニウム粉末が不可避不純物として残存している場合がある。ただし、上記モル比の範囲内の原料粉末を用いた焼成であれば、酸化アルミニウム粉末の残存量は、焼成された粉末中の20質量%以下となり、窒化アルミニウム粉末の残存量は、焼成された粉末中の10体積%以下となるため、焼成された粉末を硬質部の原料として用いることができる。
【0039】
(結合部の原料粉末を準備する工程)
結合部の原料粉末を準備する。結合部の原料粉末は、周期表の第6族元素〜第10族元素から選択される少なくとも1種の金属の粉末であり、好ましくは、クロム、鉄、コバルト、およびニッケルから選択される少なくとも1種の金属粉末からなる。結合部の原料は、なかでも、クロム、鉄、コバルト、およびニッケルから選択される2種以上の金属からなる金属間化合物粉末であることが好ましい。
【0040】
特に好ましい金属間化合物粉末は、鉄を39質量%以上75質量%以下、コバルトを0質量%以上30質量%以下、ニッケルを18質量%以上45質量%以下含有する金属間化合物粉末であることが好ましい。より具体的には、金属間化合物粉末は、鉄およびニッケルからなり、鉄を55質量%以上75質量%以下、ニッケルを25質量%以上45質量%以下含有する、あるいは、鉄、ニッケル、およびコバルトからなり、鉄を39質量%以上54質量%以下、ニッケルを18質量%以上32質量%以下、およびコバルトを17質量%以上30質量%以下含有することが好ましい。金属間化合物粉末は、たとえば、以下の方法によって作製することができる。
【0041】
すなわち、まず、所望の金属間化合物の組成比となるように、各金属粒子を混合する。たとえば、鉄が64質量%、ニッケルが36質量%の金属間化合物粉末を作製する場合には、鉄粒子とニッケル粒子との質量混合比が64:36となるように、各金属粒子を混合する。そして、この混合物を不活性ガス雰囲気下、好ましくはアルゴン雰囲気下で焼成することによって、所望の組成の金属間化合物の粉末を作製することができる。なお、焼成方法として、酸窒化アルミニウム粉末と同様の加熱炉を用いた焼成を行なってもよく、焼成合成法を用いてもよい。
【0042】
(各粉末を粉砕する工程)
上記工程後に、後述する各粉末を混合する工程を行なうが、その前に、各粉末を粉砕する工程を行ってもよい。
【0043】
より具体的には、酸窒化アルミニウム粉末(硬質部の原料粉末)は、その粒径が0.005μm以上5μm以下、より好ましくは0.01μm以上1μm以下となるように、結合部の原料と混合する前に、乳鉢、ビーズミル、遊星ボールミルなどを用いて粉砕しておくことが好ましい。酸窒化アルミニウム粉末の粒径を予め小さくしておくことにより、焼結性を向上させることができ、もって、高硬度、高靭性の焼結体を得ることができる。
【0044】
また、同様の理由により、金属粉末または金属間化合物粉末(結合部の原料粉末)についても、その粒径が0.005μm以上5μm以下、より好ましくは0.01μm以上1μm以下となるように、結合部の原料と混合する前に、粉砕しておくことが好ましい。なお、本明細書において、粒径とは、「平均粒子径」を意味し、BET比表面積法、光散乱法などにより算出することができる。
【0045】
(各粉末を混合する工程)
次に、硬質部の原料粉末と結合部の原料粉末とを、乳鉢やボールミルなどを用いて混合する。各粉末の混合方式には乾式と湿式の何れの方式を用いてもよい。
【0046】
本工程において、作製される焼結体における硬質部の含有量を40体積%以上90体積%以下、より好ましくは70体積%以下とするために、各粉末の混合割合(硬質部の原料粉末の体積/結合部の原料粉末の体積)が40/60以上90/10以下、より好ましくは70/30以下となるように混合する。
【0047】
(焼結する工程)
次に、硬質部の原料粉末および結合部の原料粉末からなる混合粉末をプレスして成形体を形成する。そして、該成形体を40MPa以上20GPa以下、1100℃2500℃以下で焼結する。また、焼結体中における空隙(ポア)の残存量を顕著に低減させて密度を向上させる観点から、1GPa以上8GPa以下、1200℃以上1900℃以下で焼結することがより好ましい。焼結方法としては、CIP(冷間静水圧処理)法、加圧ガス中での焼成法、ホットプレス法、HIP(熱間静水圧処理)法などの各種方法を用いることができるが、焼結体の緻密性を向上させる観点から、本実施形態のように、超高圧プレス法を用いることが好ましい。
【0048】
以上の工程により、高い硬度を有する酸窒化アルミニウムに対し、高い靭性を有する結合部が強固に結合した焼結体を作製することができる。この焼結体は、高い耐磨耗性および高い耐欠損性を有するため、当該焼結体からなる切削工具は、長寿命を有することができる。なお、焼結体をそのまま切削工具としてもよく、焼結体を所望の形状に仕上げ加工したものを切削工具としてもよい。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明を実施例を用いて詳細に説明するが、これらの実施例は例示的なものであり、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0050】
(実施例1〜12)
粒径が0.1μmの酸化アルミニウム(γ−アルミナ)粉末と、粒径が1μmの窒化アルミニウム粉末とのモル比(Al23/AlN)が9/5となるように乳鉢に添加し、さらに、分散溶媒としてのエタノールを乳鉢に添加して、両粉末を均一に混合させた。これをバット内に広げて静置し、混合粉末を乾燥させた。そして、乾燥させた混合粉末を窒化ホウ素製の容器に入れ、当該容器を加熱炉に入れて窒素雰囲気下において、0.1MPa、1800℃の条件下で120分間焼成させた。
【0051】
上記焼成によって作製された酸窒化アルミニウムの組成をXRD法により分析したところ、強度比で酸窒化アルミニウムが97%、窒化アルミニウムが3%、および酸化アルミニウムが0%(熱膨張率:5×10-6/℃)であることが分かった。また、作製された酸窒化アルミニウム粉末は、部分的に粒成長している粒子が存在していたため、乳鉢を用いて、その粒径が1μm以下となるように粉砕した。なお、酸窒化アルミニウム粉末の各粒径は光散乱法により測定した。
【0052】
次に、結合部の原料となる金属粉末および金属間化合物粉末を準備した。各実施例において準備した金属粉末および金属間化合物粉末の種類、組成、およびその熱膨張率(1/℃)は、表1に示す通りである。また、各実施例において準備された金属粉末および金属間化合物粉末の粒径は、それぞれ1〜3μmであった。
【0053】
次に、準備した酸窒化アルミニウム粉末と、準備した金属粉末または金属間化合物粉末との混合割合(硬質部の原料粉末の体積/結合部の原料粉末の体積)が70:30となるように、ボールミルを用いて各粉末を均一に混合させた。そして、調製された混合物をタンタル製のカプセルに充填し、プレス機を用いて焼結処理することによって、焼結体を作製した。
【0054】
なお、上記の焼結処理に関し、実施例1、3〜12において、真空雰囲気下で、5GPa、1700℃の条件下で20分間行なわれ、実施例2において、真空雰囲気下で5GPa、1700℃の条件下で60分間行なわれた。
【0055】
(実施例13および14)
実施例13および14においては、酸窒化アルミニウム粉末と、金属間化合物粉末との混合割合が、それぞれ、40:60および90:10となるように各粉末を均一に混合させた以外は、実施例7と同様の方法により、焼結体を作製した。
【0056】
(比較例1)
結合部の原料粉末として、バナジウム(V)粉末を用い、酸窒化アルミニウムの粉末と、金属粉末(バナジウム粉末)との混合割合が30:70となるように各粉末を均一に混合させた以外は、実施例1と同様の方法により、焼結体を作製した。
【0057】
(比較例2)
結合部の原料として、鉄およびニッケルからなり、鉄を80質量%、ニッケルを20質量%含有する金属間化合物粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、焼結体を作成した。
【0058】
(比較例3)
結合部の原料粉末として、鉄およびニッケルからなり、鉄を30質量%、ニッケルを70質量%含有する金属間化合物粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、焼結体を作成した。
【0059】
(比較例4)
結合部の原料粉末として、鉄、ニッケルおよびコバルトからなり、鉄を33質量%、ニッケルを17質量%、コバルトを50質量%含有する金属間化合物粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法により、焼結体を作成した。
【0060】
(比較例5および6)
酸窒化アルミニウムの粉末と、金属間化合物粉末との混合割合が、それぞれ、20:80および95:5となるように各粉末を均一に混合させた以外は、実施例7と同様の方法により、焼結体を作製した。
【0061】
(特性評価)
各焼結体における酸窒化アルミニウムの含有量(体積%)は、SEMおよび蛍光X線分析により算出した。そして、実施例1〜14および比較例1〜6の焼結体を、レーザにより切断して仕上げ加工し、先端ノーズR0.8mmの切削工具を作製した。そして、以下の条件で、各切削工具について、鋼(S45C)の切削試験を行い、1km切削後の各切削工具の逃げ面の磨耗量を観察した。
切削速度:400m/min.
切込み量:0.2mm
送り量:0.1mm/rev
切削油:なし
各結果を表1および表2に示す。また、比較例7および8として、超硬合金工具(組成:WC/Co=50体積%/50体積%)およびセラミック工具(組成:Al23/Y23=95体積%/5体積%)を用いて、上記と同様の切削試験を行い、各工具の逃げ面の磨耗量を観察した。その結果を表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
表1および表2を参照し、実施例1〜14および比較例1、5、6〜8を比較すると、コバルト、ニッケル、鉄、クロムの少なくとも1種からなる結合部を含み、焼結体における酸窒化アルミニウムの含有量を40体積%以上90体積%以下とすることにより、逃げ面の磨耗量の少ない切削工具となることが分かった。逃げ面の磨耗量が少ないことにより、切削工具を構成する焼結体が高い硬度と高い靭性を有し、また、高い耐熱性、耐欠損性を有していることが分かる。
【0065】
また、実施例1〜14および比較例2〜4とを比較すると、結合部中の各金属の含有量を調製することによって、さらに、高い耐熱性と高い耐欠損性とを有する切削工具となることがわかった。なお、SEM−EDXにより、焼結の前後で金属組成の変化はないこともわかった。
【0066】
また、実施例11および比較例1の各焼結体において、各表面を研磨し、該研磨面をSEMを用いて観察した結果を図1および図2に示す。
【0067】
図1を参照し、実施例11の焼結体は、図中白く見える部分の結合部と、図中黒く見える部分の硬質部とが強固に結合しており、また、剥離や亀裂も生じていないことが観察された。一方、図2を参照し、比較例1の焼結体は、図中白く見える結合部と、図中黒く見える硬質部との間に亀裂やポアが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明による焼結体は、切削工具に広く利用することができ、長距離に亘って、被削材の表面に平滑な切削表面を形成することができる。特に、硬度の高い被削材、耐熱合金からなる被削材、鉄系材料を含む被削材を切削するための切削工具に好適に利用することができる。
【0069】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸窒化アルミニウムを含む硬質部と、
第6族元素〜第10族元素から選択される少なくとも1種の金属からなる結合部と、を含み、
焼結体における前記硬質部の含有量が40体積%以上90体積%以下である、焼結体。
【請求項2】
前記結合部は、クロム、鉄、コバルト、およびニッケルから選択される少なくとも1種の金属を含む、請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記結合部は、金属間化合物からなる、請求項1または2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記結合部は、鉄を39質量%以上75質量%以下、コバルトを0質量%以上30質量%以下、ニッケルを18質量%以上45質量%以下含有する金属間化合物からなる、請求項1から3のいずれかに記載の焼結体。
【請求項5】
前記結合部は、鉄を55質量%以上75質量%以下、ニッケルを25質量%以上45質量%以下含有する金属間化合物からなる、請求項1から4のいずれかに記載の焼結体。
【請求項6】
前記結合部は、インバーまたはコバールからなる、請求項1から5のいずれかに記載の焼結体。
【請求項7】
前記結合部の熱膨張係数が1×10-6/℃以上8×10-6/℃以上である、請求項1から6のいずれかに記載の焼結体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の焼結体よりなる切削工具。
【請求項9】
硬質部の原料粉末と結合部の原料粉末とを混合する工程と、
前記混合された混合粉末を焼結する工程と、を含み、
前記硬質部の原料粉末は、酸窒化アルミニウム粉末を含み、
前記結合部の原料粉末は、第6族元素〜第10族元素から選択される1種の金属からなる金属粉末または2種以上の金属からなる金属間化合物粉末を含み、
前記混合する工程において、前記硬質部の原料粉末と、前記結合部の原料粉末との混合比を4/6以上9/1以下とする、焼結体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−60312(P2013−60312A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197954(P2011−197954)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】