説明

焼結成形品を製造するための混合物

高い圧粉体強度および圧粉密度を有する成形体を製造可能とし、他方で圧縮成形工具からの抜出し力も減少させる混合物を提供する課題を解決するために、本発明は、金属材料および/またはプラスチック材料と成形助剤とを含み、成形助剤が成形助剤総量に対して25〜60重量%のポリグリコールと成形助剤総量に対して40〜75重量%のモンタン蝋とを含む混合物を提案する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結成形品を製造するための混合物、この混合物を製造するための方法およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結成形品はさまざまに、特に自動車製造において、そこで特に成形品としてエンジンおよび変速機において利用されている。焼結成形品の製造時における1つの困難は、極力高い密度でこれを製造することにある。焼結可能な粉末から通常の粉末冶金法によって単ステップまたは多ステップで圧縮成形される一般に成形体と称される成形品は第2ステップにおいて保護雰囲気下で焼結され、強固で形状も正確な金属成形品が得られる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このようにして得られる焼結成形品の密度は第1圧縮成形ステップで達成される成形体密度、いわゆるグリーン密度(圧粉密度)に本質的に依存している。それゆえに、既に第1操作ステップにおいて極力高い密度を有する成形体を製造することは追求するに値する。しかし成形体を高密度で製造するための技術の現状で通常応用される高い圧縮成形圧力は圧縮成形工具自体の高い摩耗を帰結し、さらには圧縮成形金型内で仕上げられた成形体の抜出し滑り摩擦も高くする。そのためここでは比較的高い抜出し力を相応に高い摩耗で圧縮成形工具に加えねばならない。さらに、高い抜出し力は成形体の望ましくない局所的再圧縮と亀裂形成の危険をはらんでいる。そこで本発明の課題は、前記諸欠点を防止した混合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決するために、金属材料および/またはプラスチック材料と成形助剤とを含み、成形助剤が成形助剤総量に対して25〜60重量%のポリグリコールと成形助剤総量に対して40〜75重量%のモンタン蝋とを含む、焼結成形品を製造するための混合物が提案される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明の意味における焼結可能な成形品とは全て焼結性材料から製造された成形品のことであり、他方で複合品もそこに含まれ、このような複合品の本体は例えばアルミニウム含有または鉄含有混合物から製造しておくことができ、この本体にさらに結合される物体は他の材料、例えば焼結鋳鋼または中実鋳鋼、または中実アルミニウム鋳物から製造しておくことができる。その逆に複合品は例えば単に正面またはその表面に、例えばアルミニウム含有またはセラミック含有混合物からなる焼結層を有することもでき、他方で本体は例えば焼結または中実の鋼または鋳鉄からなる。その際、焼結成形品は熱中で矯正および/または硬化しておくことができる。
【0006】
本発明の意味における金属材料および/またはプラスチック材料は特に金属成分、セラミック成分および/またはプラスチック成分、例えばクロムニッケル鋼、青銅、ハステロイ(登録商標)、インコネル(登録商標)、金属酸化物、金属窒化物、金属ケイ化物または類似物等のニッケル系合金からなる粉末もしくは混合物、さらにはアルミニウム含有粉末もしくは混合物であり、混合物は、例えば白金または類似物等の高融点成分も含むことができる。使用される粉末およびその粒径はその都度の利用目的に依存している。好ましい鉄含有粉末は合金316L、304L、インコネル600、インコネル625、モネル(登録商標)、およびハステロイB、X、Cである。さらに、金属材料および/またはプラスチック材料は完全にまたは部分的に短繊維もしくは繊維製、主に直径約0.1〜2μm、長さ数μmから50mmまでの繊維製とすることができる。
【0007】
本発明の意味におけるモンタン蝋は、第三紀植物の樹脂、蝋および脂肪から生じた褐炭の瀝青である。これは、長鎖蝋アルコールを有するいわゆるモンタン酸(脂肪酸)のエステル、特にC20〜C36脂肪酸エステル、好ましくはC24〜C34脂肪酸エステルである。前記成分の他に、モンタン蝋は他の遊離脂肪酸および遊離蝋アルコール、モンタン樹脂、ケトン、およびアスファルト状材料を含むことができる。モンタン蝋はふつうさまざまな脂肪酸エステルの混合物である。好ましいモンタン蝋は酸価[mg KOH/g]が5〜30、さらに好ましくは10〜25の範囲内、および/または鹸化価[mg KOH/g]が100〜200、さらに好ましくは120〜160の範囲内である。100℃における粘度[mPas]は主に10〜40、さらに好ましくは15〜35の範囲内である。
【0008】
意外なことに、定義された成形助剤を焼結性材料に添加することによって金属冶金圧縮成形法で製造できる成形体は一方で著しく高い値の圧粉体強度および圧粉密度を特に使用される圧縮成形工具の室温時に有し、さらに成形体を圧縮成形工具から取り出すときかなり小さな抜出し力で可能となることが判明した。これにより一方で使用される圧縮成形工具の摩耗がかなり減少し、他方で製造される成形体の亀裂形成または局所的再圧縮の危険が減少している。さらに、本発明に係る混合物で達成可能な圧粉密度は特に工具の室温時に高まっており、最終加工され焼結された成形品の圧粉密度付近である。
【0009】
本発明に係る混合物はさらに他の成分、特に潤滑剤を、混合物総量に対して好ましくは0.2〜5重量%の量、含有することができる。その際潤滑剤として使用できるのは一方で自己潤滑剤、例えばMoS2、WS2、BN、N、nS、そしてコークス、分極黒鉛等の黒鉛および/または別の炭素改質物等である。主に1〜3重量%の潤滑剤が焼結性混合物に添加される。前記潤滑剤の投入によって、焼結性混合物から製造される成形品に自己潤滑性を付与することができる。
【0010】
本発明に係る混合物はさらにその他の滑剤またはアエロジル(登録商標)を含むことができる。本発明に係る混合物は揺動回転型混合機等の通常の装置を使って個々の成分を混合することによって熱間(熱間混合)でも室温(冷間混合)でも製造することができ、熱間混合が好ましい。
【0011】
それぞれ成形助剤総量に対して30〜55重量%、さらに好ましくは32〜53重量%のポリグリコールと45〜70重量%のモンタン蝋とを含む混合物が好ましい。
【0012】
本発明に係る混合物の成形助剤に含まれるポリグリコールは有利にはポリエチレングリコールを含む。本発明の意味においてポリエチレングリコールとは分子量の異なるポリエチレングリコールの混合物も含まれる。その際特別有利には、モル質量が約100〜20000g/mol、好ましくは100〜7000g/mol、さらに好ましくは100〜6500g/mol、なお一層好ましくは3000〜6000g/molの範囲内のポリエチレングリコールが使用される。前記ポリエチレングリコールの大きな利点は、それらが一般に40〜100℃の範囲内の比較的低い軟化点を有し、そのため金属冶金法で使用される圧縮成形金型に冷材料を充填することが可能であり、そのため瘤形成等が防止される事実にある。圧縮成形過程時に工具が温まると、選択されたポリエチレングリコールは投入されるモンタン蝋と一緒に潤滑を可能とし、製造される成形体の比較的高い圧粉密度が、そして圧粉体強度も達成される。
【0013】
本発明に係る混合物の成形助剤に含まれたモンタン蝋は有利にはC24‐C34脂肪酸をベースとする脂肪酸エステルを含む。
【0014】
本発明はさらに、本発明に係る混合物を製造するための方法であって、
第1ステップでは成形助剤に含まれるポリグリコールとモンタン蝋が一緒に溶解され、
第2ステップでは第1ステップにより製造された成形助剤が金属材料および/またはプラスチック材料に添加されるものに関する。
【0015】
好ましくはさらに、本発明に係る方法の第1ステップ後、得られて、冷却された熱溶物が粉砕または噴霧される。意外なことに、本発明に係る方法では製造された成形体は技術の現状により公知の成形助剤で通常達成可能な圧粉体強度よりもかなり高い圧粉体強度を得ることが判明した。
【0016】
選択的に使用される方法では、
第1ステップでは成形助剤に含まれるポリグリコールとモンタン蝋が一緒に混合され、
第2ステップでは第1ステップにより製造される成形助剤が金属材料および/またはプラスチック材料に添加される。
【0017】
この選択的方法によって金属冶金圧縮成形過程後に得られる成形体も、技術の現状により公知の通常の成形助剤で得られるものよりも上の圧粉体強度を有する。さらに本発明は、焼結成形品を製造することへの本発明に係る混合物の使用に関する。さらに本発明は、請求項1〜4記載の成形助剤に関する。
【0018】
最後に本発明は、本発明に係る混合物から製造され、使用される圧縮成形工具の室温と600MPaの圧力とにおいてISO 3995‐1985による圧粉体強度が7.55N/mm2よりも大きい成形体に関する。本発明に係る成形体は有利にはさらに、800MPaと使用される圧縮成形工具の室温とにおいてISO 3927/1985による圧粉密度が少なくとも7.14g/cm3である。
【実施例】
【0019】
本発明のこうした利点およびその他の利点が以下の実施例を基に述べられる。
【0020】
混合物が製造されたのはHoeganaes Corporation社、米国、の焼結可能な金属粉末Ancorsteel 85 HPからであったが、これは混合物総量に対してそれぞれ0.65重量%の炭素と0.6重量%の下記成形助剤とを有するものである:
a)Licowax C、Clariant GmbH社、フランクフルト・アム・マイン。これはビスステアロイルエチレンジアミン(アミド蝋)である;
b)Acrawax C、Lonza AG、バーゼル、スイス。これはN、N’‐エチレンビスステアルアミド(アミド蝋)である;
c)Kenolube P11、Hoganas AB、Hoganas、スウェーデン。これは22.5重量%のステアリン酸亜鉛と77.5重量%のアミド蝋との混合物である;
d)ポリグリコール6000 PF、Clariant GmbH、フランクフルト・アム・マイン。これはモル質量約6000g/molのポリエチレングリコールである;
e)Licowax E、Clariant GmbH、フランクフルト・アム・マイン。これは酸価[mg KOH/g]が15〜20の範囲内、鹸化価が130〜160の範囲内であるC24‐C34脂肪酸のエステルからなるモンタン蝋である;
f)成形助剤総量に対してそれぞれ67重量%のLicowax Cと33重量%のポリグリコール6000 PFとの混合物。この混合物はモンタン蝋とポリエチレングリコールとを一緒に溶解し、熱溶物を固化し、場合によっては次に(例えば液体窒素で)冷却し、引き続きそれを粉砕して粉末とすることによって製造されたものである;
g)50重量%のLicowax Cと50重量%のポリグリコール6000 PFとの混合物。この混合物はモンタン蝋とポリエチレングリコールとを一緒に溶解し、熱溶物を固化し、場合によっては次に(例えば液体窒素で)冷却し、引き続きそれを粉砕して粉末とすることによって製造されたものである;
h)67重量%のLicowax Cと33重量%のポリグリコール6000 PFとの混合物。この混合物は事前に溶解することなく通常の揺動回転型混合機内で混合されたものである;
i)成形助剤総量に対してそれぞれ50重量%のLicowax Cと50重量%のポリグリコール6000 PFとの混合物であり、この混合物は事前に溶解することなく通常の揺動回転型混合機内で混合された。f)、g)による混合物粉砕の代わりに、熱溶物は噴霧することもできる。
【0021】
添加される成形助剤の割合は、本発明に係る混合物の総量に対して一般に約0.1〜5重量%、好ましくは0.3〜3重量%、さらに好ましくは0.5〜1.5重量%の範囲内とすることができる。
【0022】
前記混合物が通常の圧縮成形工具に注入され、異なる圧力(400、600、800MPa)において圧縮成形され、直径14.3mm、長さ12cmの円筒体とされた。このようにして得られる成形体の物理的性質が表1と表2に示してあり、表1の値は工具温度20℃(室温)とし、表2の値は工具温度70℃としている。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
表1と表2に示した値は各3つの測定から形成した平均値である。表1と表2に挙げた物理的性質は、見掛け密度についてはISO規格3923‐1979に従って、流動時間についてはISO 4490‐1978に従って、圧縮性についてはISO 3927‐1985に従って、圧粉体強度についてはISO 3995‐1985に従って算定された。表1と表2から読み取ることができるように、混合物f)〜i)から製造された成形体は圧粉体強度についてだけでなく圧粉密度についても高い値を有する。これらは技術の現状から公知の成形助剤を有する混合物a)、b)、c)による混合物を著しく凌駕しているが、成形助剤としてポリエチレングリコール(混合物d))のみかまたはモンタン蝋(混合物e))のみのいずれかを有するだけの混合物をも凌駕している。
【0026】
さらに、混合物a)〜i)から得られる成形体について圧縮成形工具からの抜出し力が求められた。これが以下で表3と表4に示してある。表3は圧縮成形工具の室温(20℃)、表4は圧縮成形工具の温度70℃において求めた抜出し力を示す。
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
表3と表4から明確に読み取ることができるように、混合物f)〜i)から製造される成形体の抜出し力は混合物a)〜e)から製造される成形体に比べて著しく低下している。抜出し力がここでは約25%低い。これにより、使用される圧縮成形工具がかなり弱く負荷され、その摩耗が減少し、そのため寿命が長くなる。さらに、このようにして得られる圧粉体は局所的再圧縮または亀裂を殆ど有しない。
【0030】
単一混合物における公知混合物の周知の2つの欠点を減らす混合物が本発明によって提供される。つまり一方で本発明に係る混合物によって、これから得られる成形体の高い圧粉体強度とやはりその高い圧粉密度を達成することが可能であり、他方で圧縮成形工具からの抜出し力をかなり減らすことができ、これによりその寿命が長くなる。本発明に係る混合物から製造される成形体は優れた品質を有する。亀裂形成の減少と局所的再圧縮箇所形成の減少とによって、質的に同じで価値の高い成形体生産が確保されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結成形品を製造するための混合物であって、金属材料および/またはプラスチック材料と成形助剤とを含み、成形助剤が成形助剤総量に対して25〜60重量%のポリグリコールと成形助剤総量に対して40〜75重量%のモンタン蝋とを含む混合物。
【請求項2】
ポリグリコールがポリエチレングリコールを含むことを特徴とする、請求項1に記載の混合物。
【請求項3】
成形助剤が、モル質量100〜20000g/mol、好ましくは100〜7000g/molのポリエチレングリコールを含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の混合物。
【請求項4】
モンタン蝋がC24‐C34脂肪酸エステルを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の混合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の混合物を製造するための方法であって、
第1ステップでは成形助剤に含まれるポリグリコールとモンタン蝋が一緒に溶解され、
第2ステップでは第1ステップにより製造された成形助剤が金属材料および/またはプラスチック材料に添加される方法。
【請求項6】
第1ステップ後、得られて、形成されたポリグリコールとモンタン蝋とからなる熱溶物が粉砕または噴霧されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法であって、
第1ステップでは成形助剤に含まれるポリグリコールとモンタン蝋が一緒に混合され、
第2ステップでは第1ステップにより製造された成形助剤が金属材料および/またはプラスチック材料に添加される方法。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の混合物の焼結成形品を製造するための使用。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の成形助剤。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の混合物から製造される成形体において、当該成形体が、圧縮成形工具の室温と600MPaの圧力とにおいてISO 3995‐1985により7.55N/mm2よりも大きい圧粉体強度を有することを特徴とする成形体。
【請求項11】
800MPaと圧縮成形工具の室温とにおいてISO 3927‐1985により少なくとも7.14g/cm3の圧粉密度を有することを特徴とする、請求項9に記載の成形体。

【公表番号】特表2006−500446(P2006−500446A)
【公表日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−538861(P2004−538861)
【出願日】平成15年9月3日(2003.9.3)
【国際出願番号】PCT/EP2003/009737
【国際公開番号】WO2004/029157
【国際公開日】平成16年4月8日(2004.4.8)
【出願人】(502320574)ジーケイエヌ ジンテル メタルズ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (3)
【Fターム(参考)】