説明

焼結部品の製造方法と成形用金型

【課題】焼結部品の一端面に複数本の足とともに形成される寸法管理が必要な座面などの被管理面を精度良く成形できるようにしてその被管理面の全数寸法検査や寸法矯正のためのサイジングなどを不要となす。そのための製造方法と成形用金型を提供することを課題としている。
【解決手段】端面視で中央に穴22を有し、その穴22周りに配置されるn本(n≧2)の足を一端面に有し、さらに、各足間又は各足の根元近傍に寸法管理が必要な被管理面を有する粉末の成形体を成形し、その成形体を焼結して焼結部品を得る。このときの成形体の被管理面の成形を、成形面5が金型中心を頂点とする円錐面の一部で構成された下1パンチ3−1を用いて行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一端に複数本の足と寸法管理が要求される面を有する焼結部品の製造方法と成形用金型に関する。上記の焼結部品の具体例として、例えば、車両の変速機に用いられるプラネタリキャリアがある。以下の説明は、そのプラネタリキャリアを例に挙げて行う。
【背景技術】
【0002】
一般に、焼結部品は、部品の外周を成形するダイ、下端面を成形する下パンチ、上端面を成形する上パンチを備える成形金型で原料粉末を圧縮成形してまず成形体を作る。その後、成形体を焼結炉に導入して焼結し、さらに、焼結後の部品(焼結体)のサイジング、必要に応じて行う機械加工などの工程を経て製造される。
【0003】
その焼結部品のひとつに、首記のプラネタリキャリアがある。その焼結品のプラネタリキャリアは、図6〜図10に示すように、中央に穴22を有し、一端にn本(通常、n≧3)の足(ブリッジ)23とピニオン座面24が設けられた第1部材21と、中央に穴26を有する板状の第2部材25とで構成されている。第1部材21と第2部材25は独立しており、第1部材21の足23の先端が第2部材25の端面に鑞付けして接合される。その接合により、足23を介して第1部材21と第2部材25が接続一体化され、両者の間に、ピニオンを組み込む複数の窓27が作り出される。
【0004】
このプラネタリキャリア20の第1部材21は、足を設置した部位と足の無い部位の粉末の量が異なるため、下パンチを、下1パンチと下2パンチに分け、下1パンチで足の無い部位の端面を、下2パンチで足の端面をそれぞれ成形する方法が採られる。
【0005】
粉末量が異なる部位の成形密度を均一化するために下パンチを複数に分割して高低差のある端面を成形する技術は、例えば、下記特許文献1に記載されている。同文献が開示している焼結体の製造方法は、平板部の上面に凸部を形成した成形体の前記平板部の下面を外側に向けて下方に傾斜するテーパ状に形成する。そして、この成形体を、平板部の下面を上にして焼結することで下面の平坦度を高めるものである。この技術は、焼結に起因した部品の変形を計算に入れてその変形を相殺する傾きを成形体に付与する。
【0006】
【特許文献1】特開平5−93202号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したプラネタリキャリア20の窓27は、ピニオンが組み込まれるので、軸方向の窓幅寸法W(図7参照)と、窓幅を決める対向した窓面の平行度について規格値を満たす必要がある。その規格値については、足のある第1部材21側を基準にした寸法測定が求められていることから、ピニオン座面24について寸法管理を行い、このピニオン座面を基準面にして数箇所で窓幅寸法を測定し、さらに、窓面の平行度は、窓幅寸法の最大値と最小値の差を求めて良否を判定している。
【0008】
このプラネタリキャリア20は、ピニオン座面24の平坦度については規格を満たす精度が得られるが、第1部材のピニオン座面24の寸法精度が不十分になりやすい。例えば、第1部材のピニオン座面24は、図10に示す内径側iの高さHが外径側oの高さHに比べて低くなるか、逆に高くなる(基端側の端面f1に対して傾く)傾向が見られる。
【0009】
第1部材21は中央に穴22を有しており、また、一端面に複数本の足23を有している。このような構造の焼結部品は、従来技術で成形すると、成形体を成形用金型から取り出したときに各部の密度差、成形条件、成形時のスプリングバックなどの影響でピニオン座面の内径側と外径側の高さに差がつく傾向がある。この成形体を焼結すると、焼結工程で成形体を載せている金網などの影響が出てピニオン座面の寸法精度がさらに悪化し、そのために、窓幅寸法が内径側と外径側のどちらか一方で大きくなり、他方で小さくなる。これは、窓面の平行度が低下する原因となる。
【0010】
なお、ピニオン座面の傾きの方向がどちらになるかは成形条件などに左右されるが、同一仕様の製品についての傾きの方向は一致している。
【0011】
このように、ピニオン座面の傾きが窓幅寸法と窓面の平行度に影響を及ぼすことから、品質保証のために、完成した第1部材について全数検査を実施している。また、焼結後にサイジングを行ってピニオン座面の傾きを矯正する方法も一部で行なわれている。
しかしながら、量産品の全数検査や全品について行うサイジングは、多大の手間と時間を費やして好ましくない。
【0012】
前掲の特許文献1が開示している方法は、焼結に起因した部品の変形を計算に入れてその変形を相殺する傾きを成形体に付与するが、例に挙げているプラネタリキャリアの第1部材のピニオン座面などは焼結による変形が小さく、この方法での傾き補正は期待できない。
【0013】
この発明は、焼結部品の一端面に複数本の足とともに形成される寸法管理が必要な座面などの被管理面を精度良く成形できるようにしてその被管理面の全数寸法検査や寸法矯正のためのサイジングなどを不要となすことを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の問題を解決するため、この発明においては、寸法管理が必要な座面などの面の傾きを小さく抑えることができる焼結部品の製造方法と成形用金型を提供する。
【0015】
この発明の製造方法は、端面視で中央に穴を有し、その穴の周りに配置されるn本(n≧2)の足を一端面に有し、さらに、各足間又は各足の根元近傍に寸法管理が必要な被管理面を有する成形体を金型で成形し、その成形体を焼結して焼結部品を得る方法であって、前記成形体の被管理面が特定の方向に傾くように成形を行う。このときの傾きの方向を、成形時に発生する被管理面の傾きの方向と正反対にし、傾き量は、従来法で成形時に発生する被管理面の傾きを考慮した値とする。ここでいう被管理面の傾きを考慮した値とは、必ずしも成形体に形成される被管理面の傾きが完全にゼロになることを意味するものではない。成形面の傾きによる補正効果で、被管理面の傾きが許容範囲内に収まればそれでよい。
【0016】
また、この発明の成形用金型については、端面視で中央に穴を有し、その穴の周りに配置されるn本(n≧2)の足を一端面に有し、さらに、各足間又は各足の根元近傍に寸法管理が必要な被管理面を有する焼結部品の成形用金型(原料粉末を成形する金型)を対象にして、前記被管理面を成形する成形面が、金型中心を頂点とする円錐面の一部で構成されたものにする。
【0017】
この成形用金型は、部品の被管理面を成形する成形面が下パンチに形成され、その成形面の部品内径側成形部が部品外径側成形部よりもパンチ先端から後退した位置にある(高さが低くなっている)ものと、成形面の部品外径側成形部が部品内径側成形部よりもパンチ先端から後退した位置にあるものが考えられる。前者は、前掲のプラネタリキャリアの第1部材の場合、ピニオン座面の外径側の高さが内径側の高さに比べて高くなるときに採用し、後者は、ピニオン座面の内径側の高さが外径側の高さに比べて高くなるときに採用する。
【0018】
なお、図6で説明したプラネタリキャリアの第1部材やこれと類似の部材を成形するときに用いる金型は、部品の被管理面を成形する下1パンチと、部品の足の先端を成形する下2パンチとで下パンチを構成してこれらの下パンチの成形部を周方向に交互に配置することになる。この場合、下1パンチを、筒部の上端の周方向等分位置に起立したn本の柱を有し、その柱が前記筒部と一体に形成され、その柱の先端に前記成形面が設けられた構造にすると好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明では、一端面に足を有する成形体の成形を、各足間や足の根元に形成される被管理面が特定の方向に傾くように行う。このような成形を行うことで、圧縮後のスプリングバックなどに起因して発生する被管理面の傾きを補正して成形体に形成される被管理面の傾きを許容範囲内に収めることができる。
【0020】
プラネタリキャリアのピニオン座面などは焼結による変形は小さく、そのような面(被管理面)については成形体の段階で寸法精度を十分に高める必要がある。この発明の方法によればその要求が満たされる。
【0021】
この発明の成形用金型は、被管理面を成形する成形面を、金型中心を頂点とする円錐面の一部で構成しており、一端に足を備えた成形体に形成される被管理面(この面が足の内径側に設置される部品も考えられる)を、許容範囲を超える傾きが存在しない面に成形することができる。また、被管理面用の各成形面を、金型中心を頂点とする円錐面の一部で構成することで、金型の被管理面の成形部を金型中心と同心の円上に配置して被管理面の成形面を高精度に加工することができる。特に、上記で好ましいと述べた下1パンチは、筒部と一体の柱を設けてその柱に被管理面の成形面を設けているので、その成形面の精度を確実に高めることができる。
これに加え、成形面の各部が三次元的に変位した構造となることで金型の被管理面成形部の強度が向上する効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面の図1〜図5に基づいて、この発明の焼結部品の製造方法と成形用金型の実施の形態を説明する。図1に、成形用金型の具体例を示す。図示の成形用金型は、図
6に示したプラネタリキャリア20の第1部材21を成形する金型であって、成形穴1aを有するダイ1、上パンチ2、下パンチ3及びコアロッド4によって構成されている。下パンチ3は、下1パンチ3−1と下2パンチ3−2の2者を組み合わせたものが用いられている。
【0023】
ダイ1は、成形穴1aの内面で第1部材21の外径面(足23の外側面を含む)を成形する。また、上パンチ2は第1部材21の端面f1を、下1パンチ3−1は各足23間の端面f2を、下2パンチ3−2は各足23の先端を、コアロッド4は穴22の内径面をそれぞれ成形する。
【0024】
図7に示した第1部材21の端面f2は、プラネタリキャリアの一部の窓面となる面であり、この端面f2に、寸法管理の必要なピニオン座面24(被管理面)が含まれている。端面f2の成形は、図1、図2に示した下1パンチ3−1の先端の成形面5によってなされ、その成形面5の中に、ピニオン座面24を成形する座面成形部5aが含まれている。図示の成形用金型は、少なくともその座面成形部5aが金型の中心の軸と直交する面に対して傾きをもつ。
【0025】
例示の金型は、被管理面(図のそれはピニオン座面24)の成形部5aも含めて成形面5の全域を、金型中心(ダイの成形穴1aの中心)を頂点とする円錐面の一部で構成している。成形面5を構成する円錐面は、頂点が下側にある倒立した円錐の面を利用しており、そのために、下1パンチ3−1の先端の成形面5は、図4に示す部品内径側成形部5iが部品外径側成形部5oよりもパンチ先端から後退している(高さが低い)。
【0026】
なお、例示の成形用金型は、図2に示すように、下1パンチ3−1を、筒部3aの上端の周方向等分位置に起立したn本(図はn=4)の柱3bを有し、その柱3bが筒部3aに一体に形成され、その柱3bの先端に成形面5を備えるものにしており、筒部3aと同軸上で回転する研磨工具や研削工具を使用して4つの成形面5を高精度に加工することができる。
【0027】
下2パンチ3−2は、先端の成形面6が軸心と直角な傾きの無い面になっている。この下2パンチ3−2も、図2に示すように、下1パンチ3−1の柱3b間に入り込ませる部分の下部外周をフランジ7等で連結して全体を一体化すると、取り扱い性や保持安定性などが良くなって好ましいが、図2の成形面6を設ける部分を残して全体を4分割し、各分割体を下1パンチ3−1の柱3b間に配置する構造も考えられる。
【0028】
以上の如く構成したこの発明の成形用金型を使用して得られる成形体は、一端の足間に形成される被管理面を含んだ端面が基端側の端面に対して傾きの制限された面(傾きが許容範囲内に収まった面)になる。従って、その成形体を焼結して得られる焼結部品は被管理面の寸法精度が向上し、その被管理面の全数寸法検査や寸法矯正のためのサイジングなどが不要になって生産性の向上やコスト低減に結びつく。
【0029】
なお、上述したように、金型の成形面5を円錐面の一部で構成する場合には、成形面5の部品内径側成形部5iと部品外径側成形部5oの高低差ΔH(図4参照)を、成形体の被管理面に生じる高低差よりも小さく設定するのがよい。例えば、直径が140mm程度のプラネタリキャリアの第1部材に、部品内径側成形部5iと部品外径側成形部5oの間に(その間の距離=25mm)0.05〜0.06mmの高低差が生じるものがあるが、このときに上記の高低差ΔHを被管理面の高低差に合わせた値にすると、成形面5が3次元的に変位した面であるので被管理面の平坦度の低下が無視できなくなる。
【0030】
このケースで上記の高低差ΔHを0.03mmに設定して成形を行い、得られた成形体について評価を行った結果、被管理面の平坦度を極端に悪化させずに被管理面の傾きを許容範囲内に収めることができた。なお、金型の成形面5に、上記の高低差ΔHを生じさせる傾斜が付されているかどうかは、光明丹を用いて面当たりの状況を調べる方法で確認することができる。傾斜の無い成形面は全域で当たりが見られるのに対し、成形面の部品内径側成形部の位置を部品外径側成形部の位置よりも高くした金型は、成形面の左右と内径側に光明丹の付着(当たりの痕跡)が見られ、外径側は、当たりの痕跡が無かった。
【0031】
成形体に形成される被管理面の内径側高さが外径側高さに比べて高くなるときには、図5に示すように、成形面5の部品内径側成形部5iを部品外径側成形部5oよりもパンチ先端側に突出させる(高さを高くする)。この場合も、成形面5は金型中心を頂点とする円錐面の一部で構成するのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】この発明の成形用金型の一例の概要を示す断面図
【図2】下1、下2パンチの一例を示す斜視図
【図3】図2の下1パンチの拡大平面図
【図4】図3のA−A線に沿った下1パンチの要部の拡大断面図
【図5】図4とは成形面の傾きの方向を逆にした下1パンチの要部の拡大断面図
【図6】プラネタリキャリアの一例の概要を示す斜視図
【図7】図6のB−B線に沿った断面図
【図8】図7のC−C線に沿った断面図
【図9】図8のD−D線に沿った断面図
【図10】(a):図6のプラネタリキャリアの第1部材を示す断面図、(b):第1部材に設けられたピニオン座面の拡大平面図、(c)ピニオン座面の傾きを誇張して示す断面図
【符号の説明】
【0033】
1 ダイ
1a 成形穴
2 上パンチ
3 下パンチ
−1 下1パンチ
−2 下2パンチ
3a 筒部
3b 柱
4 コアロッド
5 成形面
5a 被管理面の成形部
5i 部品内径側成形部
5o 部品外径側成形部
6 成形面
7 フランジ
20 プラネタリキャリア
21 第1部材
22 穴
23 足
24 ピニオン座面
25 第2部材
26 穴
27 窓
f1、f2 端面
ΔH 成形面の部品内径側成形部と部品外径側成形部の高低差
W 窓幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面視で中央に穴(22)を有し、その穴(22)の周りに配置されるn本(n≧2)の足(23)に被管理面を有する成形体を金型で成形し、その後、その成形体を焼結する焼結部品の製造方法であって、前記成形体の被管理面が特定の方向に傾くように成形を行うことを特徴とする焼結部品の製造方法。
【請求項2】
端面視で中央に穴(22)を有し、その穴(22)の周りに配置されるn本(n≧2)の足(23)間に、被管理面を有する焼結部品の成形用金型であって、前記被管理面を成形する成形面(5)が、金型中心を頂点とする円錐面の一部で構成された焼結部品の成形用金型。
【請求項3】
前記成形面(5)が下パンチ(3)に形成され、その成形面(5)の部品内径側成形部(5i)が部品外径側成形部(5o)よりもパンチ先端側から後退した位置にある請求項2に記載の焼結部品の成形用金型。
【請求項4】
前記成形面(5)が下パンチ(3)に形成され、その成形面(5)の部品外径側成形部(5o)が部品内径側成形部(5i)よりもパンチ先端から後退した位置にある請求項2に記載の焼結部品の成形用金型。
【請求項5】
前記下パンチ(3)が、下1パンチ(3−1)と下2パンチ(3−2)とで構成され、下1パンチ(3−1)は、筒部(3a)の上端の周方向等分位置に起立したn本の柱(3b)を有し、その柱(3b)が前記筒部(3a)に一体に形成され、その柱(3b)の先端に前記成形面(5)が設けられた請求項3又は4に記載の焼結部品の成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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