焼結鉱の製造方法
【課題】希釈した気体燃料を供給することで、装入層全体の通気性を悪化させることなく、高強度の焼結鉱を高歩留で製造することのできる技術を提案する。
【解決手段】前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した調和平均径が1.31を超える擬似粒子を得る造粒工程と、形成された擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、当該パレット上に前記擬似粒子原料の装入層を形成する装入工程と、装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する点火工程と、気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈して希釈気体燃料とし、該希釈気体燃料及び空気を前記パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、上記希釈気体燃料を装入層内に吸引し、当該希釈気体燃料を焼結層内において燃焼させると同時に、装入層内に吸引した空気により、該装入層内の炭材を燃焼させることにより、焼結ケーキを生成させる気体燃料燃焼工程とを有する。
【解決手段】前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した調和平均径が1.31を超える擬似粒子を得る造粒工程と、形成された擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、当該パレット上に前記擬似粒子原料の装入層を形成する装入工程と、装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する点火工程と、気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈して希釈気体燃料とし、該希釈気体燃料及び空気を前記パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、上記希釈気体燃料を装入層内に吸引し、当該希釈気体燃料を焼結層内において燃焼させると同時に、装入層内に吸引した空気により、該装入層内の炭材を燃焼させることにより、焼結ケーキを生成させる気体燃料燃焼工程とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下方吸引のドワイトロイド式焼結機を用いて高炉用焼結鉱を製造する際に用いる焼結用原料の製造方法に関するものである。より詳しくは、焼結原料中の石灰石原料と凝結材を焼結原料の造粒時擬似粒子の外層となるように造粒した擬似粒子化原料を使用して被還元性を高める焼結鉱を高強度化することができる焼結鉱の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉用原料として用いられる焼結鉱は、一般的に次のような焼結原料の処理方法を経て製造されている。図1に示すように、まず、粒径が10mm以下の鉄鉱石101、また、造滓源となり焼結副原料と呼称される、珪石、蛇紋岩、またはニッケルスラグなどからなるSiO2含有原料102、および石灰石などのCaOを含有する石灰石系粉原料103、ならびに凝結材と呼称される粉コークスまたは無煙炭などの熱源となる凝結材である固体燃料系粉原料104をドラムミキサー105を用いて、これに適当量の水分を添加して混合、造粒して擬似粒子と呼ばれる造粒物を形成する。この造粒物からなる配合原料は、ドワイトロイド式焼結機のパレット上に適当な厚さ例えば500〜700mm、あるいは900mmに達する厚みになるように装入して表層部の固体燃料に着火し、着火後は下方に向けて空気を吸引しながら凝結材である固体燃料を燃焼させ、その燃焼熱によって配合した焼結原料を焼結させて焼結ケーキとする。この焼結ケーキは破砕、整粒され、一定の粒径以上の焼結鉱を得る。一方、それ未満の粒径を有するものは返鉱となり、焼結原料として再利用される。
【0003】
このように製造された成品焼結鉱の被還元性は、従来から指摘されているように、とくに高炉の操業を大きく左右する因子となる。通常、焼結鉱の被還元性はJISM8713で定義されており、ここでは、焼結鉱の被還元性をJIS−R1と記す。
図2(a)に示すように、焼結鉱の被還元性(JIS−R1)と高炉でのガス利用率(ηCO)との間には正の相関があり、また、図2(b)に示すように、高炉でのガス利用率(ηCO)と燃料比との間には負の相関がある。このため、焼結鉱の被還元性(JIS−R1)は、高炉でのガス利用率(ηCO)を介して燃料比と良好な負の相関があり、焼結鉱の被還元性を向上させると、高炉での燃料比は低下する。
【0004】
なお、ここで、ガス利用率(ηCO)及び燃料比は、下記の通り定義される。
ガス利用率(ηCO)=CO2 (%)/[CO(%)+CO2 (%)]
ここで、CO(%)、CO2 (%)は、いずれも高炉の炉頂ガス中の体積%である。
燃料比=(石灰+コークス)の使用量(kg)/銑鉄(1ton)
さらに、製造された成品焼結鉱の冷間強度も高炉での通気性を確保する上での重要な因子であり、各々の高炉では、冷間強度の下限基準を設けて、操業を行っている。従って、高炉にとって望ましい焼結鉱とは、被還元性に優れ、冷間強度が高いものであると言える。表1に焼結鉱を形成する主要鉱物組織であるカルシウムフェライト(CF):nCaO・Fe2 O3 、ヘマタイト(He):Fe2 O3 、カルシウムシリケート(CS):CaO・SiO2 、マグネタイト(Mg):Fe3 O4 の4つの被還元性、引張強度を示す。表1に示すように、被還元性の高いものはヘマタイト(He)であり、引張強度の高いものはカルシウムフェライト(CF)である。
【0005】
【表1】
【0006】
望ましい焼結鉱組織とは、図3(a)に示すように、塊表面に強度の高いカルシウムフェライト(CF)を、塊内部に向かっては被還元性の高いヘマタイト(He)を選択的に生成させたものであり、被還元性や強度が低いカルシウムシリケート(CS)は可能な限り生成させないようにすべきである。
しかし、従来は、前述したように鉄鉱石、SiO2含有原料、石灰石系粉原料、固体燃料系粉原料を同時に混合・造粒しているため、図3(b)に示すように、擬似粒子構造では粗粒の核鉱石の周囲に粉鉱石、石灰、コークスが混在しており、焼結により得られた焼結鉱構造ではヘマタイト(He)、カルシウムフェライト(CF)、カルシウムシリケート(CS)、マグネタイト(Mg)の4つの鉱物組織が混在することになる。
【0007】
そこで、本出願人は特許文献1にて、高炉用焼結鉱を製造する焼結用擬似粒子原料として、粗粒の鉄鉱石を核とする第一層を有し、その第一層の外表面を凝結材および石灰石副原料以外の粗粒の第一層より細かい細粒の鉄鉱石およびSiO2含有原料を付着させた第二層を有するとともに、さらに第三層目として凝結材料および石灰石副原料を付着させる焼結用擬似粒子を得ることが最適であることを見出した。この擬似粒子原料は、焼結過程でCaOとSiO2 の反応が遅れ、冷間強度の低いカルシウムシリケート(CS)の生成が抑制され、塊表面に強度の高いカルシウムフェライト(CF)が、塊内部に向かっては被還元性の高いヘマタイト(He)が選択的に生成され、微細気孔が多く、被還元性に優れ冷間強度の高い焼結鉱が安定して製造可能になるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開番号WO01/92588号公報
【特許文献2】特開2004−27245号公報
【特許文献3】特開2004−190045号公報
【特許文献4】特開2004−204332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4に開示された焼結用原料の製造方法にあっては、粗粒の鉄鉱石を核として、その外表面に粗粒より細粒の鉄鉱石およびSiO2含有原料を付着させた第二層を有する造粒粒子を得て、その後に添加する凝結材および石灰石副原料を外層部分とするいわゆる三層からなる擬似粒子原料を得るが、この擬似粒子原料を用いた焼結鉱製造において、焼結鉱強度向上に改善の余地があった。
従って、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、疑似粒子表面に石灰石副原料と凝結材(炭材)の外装を形成した疑似粒子を焼結原料として焼結を行う際に被還元性を維持したまま焼結鉱強度を向上させることができる焼結鉱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記諸問題を解決するため、本発明のうち請求項1に係る焼結鉱の製造方法は、焼結原料を構成する返鉱を含む鉄鉱石原料と造滓成分を構成する副原料と凝結材とを造粒して擬似粒子化し、当該擬似粒子化原料を焼結機に装入して焼結する際に、前記造滓成分を構成する副原料中の石灰石副原料および前記凝結材を分離して残りの焼結原料を造粒して、擬似粒子化処理を行い、その造粒過程の後半に前記分離した石灰石副原料と凝結材を添加して前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子を得る造粒工程と、前記外層を保有した擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、当該パレット上に前記外層を保有した擬似粒子原料の装入層を形成する装入工程と、装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する点火工程と、気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈して、燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とし、該希釈気体燃料及び空気の混合気体燃料を前記パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、上記希釈気体燃料を装入層内に吸引し、当該希釈気体燃料を焼結層内において燃焼させると同時に、装入層内に吸引した空気により、該装入層内の炭材を燃焼させることにより、焼結ケーキを生成させる気体燃料燃焼工程とを備え、前記造粒工程で形成する擬似粒子径を、前記気体燃料燃焼工程での前記混合気体燃料の通風量を確保してカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制可能な粒径に選定したことを特徴としている。
【0011】
また本発明のうち、請求項2に係る焼結鉱の製造方法は、請求項1記載の発明において、前記造粒工程で形成する擬似粒子径を、冷却速度を速くし且つ酸素富化状態となる粒径に選定したことを特徴としている。
また本発明のうち、請求項3に係る焼結鉱の製造方法は、請求項2記載の発明において、前記造粒工程で形成する擬似粒子径は、調和平均径が1.31mmを超える粒径に設定したことを特徴としている。
【0012】
さらに本発明のうち、請求項4に係る焼結鉱の製造方法は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の発明において、前記石灰石副原料と凝結材の外層は、両者を同時あるいは順次添加して形成される混合層であることを特徴としている。
また本発明のうち、請求項5に係る焼結鉱の製造方法は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の発明において、前記石灰石副原料と凝結材の外層は、最外層が凝結材であることを特徴としている。
さらにまた本発明のうち、請求項6に係る焼結鉱の製造方法は、請求項1乃至5の何れか1項の発明において、前記気体燃料燃焼工程は、前記擬似粒子径を調整して燃焼帯への酸素濃度を調整することにより前記焼結層内の高温域保持時間を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、擬似粒子では外層に凝結材と石灰石副原料が存在するため、まず、凝結材の表層の存在で、凝結材の効率燃焼(表層での燃焼)下で内層の粗流、細粒鉱石からなる内層部分をヘマタイト化、すなわち生鉱石状態で被還元性の優れた状態にでき、さらに外殻部分となる外層に位置する石灰石副原料により、焼結時カルシウムフェライトを生成するが、カルシウムシリケートへの移行も、その内側において、鉄鉱石原料中のSiO2と反応し、生成するカルシウムシリケートに反応上限られることになり、外殻にカルシウムフェライトが残存して引張り強度を維持して強度を保持している。そしてこの技術と、気体燃料燃焼工程で希釈気体燃料を使用し、希釈気体燃料の供給量および濃度の少なくとも一方を調整することにより焼結層内の高温域保持時間を調整する工程で前記内層部分の燃焼溶融域の高温域保持時間を確保する。このとき、造粒工程における疑似粒子径をカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制する径に選定することにより、疑似粒子原料装入層の通気性を確保して、冷却速度を増加させるとともに装入層内部の燃焼帯へ供給する酸素濃度を高めて、高品質の焼結鉱を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】焼結原料の混合、造粒の系統図である。
【図2】高炉における焼結鉱の被還元性とガス利用率との関係図及びガス利用率と燃料被との関係図である。
【図3】望ましい焼結鉱の組織構造を説明する図及び疑似粒子構造と焼結鉱の組織構造を説明する図である。
【図4】本発明に適用し得る焼結機を示す模式図である。
【図5】鍋実験の水準T1〜T4における擬似粒子の調和平均径、歩留、JPU、焼結時間の比較結果を示すグラフである。
【図6】本発明に係る気体燃料供給装置の構造例を説明する図である。
【図7】本発明に係る気体燃料供給装置の他の構造例を説明する図である。
【図8】焼結ケーキへの気体燃料供給位置の影響を調べる実験を説明する図である。
【図9】吹き消え現象が起こる噴出速度を調べる実験装置の写真である。
【図10】噴出口の開口径が1mmφにおける吹き消え現象調査結果を示す写真である。
【図11】ノズル圧とノズル流速との関係を示すグラフである。
【図12】長尺配管における圧損の影響を調べる実験装置の写真である。
【図13】本発明に係る気体燃料の吐出方法の例を説明する図である。
【図14】本発明に係る気体燃料の吐出方法の他の例を説明する図である。
【図15】本発明に係る気体燃料の吐出方法の他の例を説明する図である。
【図16】本発明に係る気体燃料の吐出方法の他の例を説明する図である。
【図17】気体燃料を水平方向に噴出させたときの気体燃料の希釈状況をシミュレートする条件を説明する図である。
【図18】LNGを開口径1mmφの噴出口から200m/sで水平方向に噴出したときの希釈状況をシミュレートした結果である。
【図19】LNGを開口径1mmφの噴出口から200m/sで水平方向に噴出したときの装入層に到達するまでおよび装入層内の希釈状況をシミュレートした結果である。
【図20】焼結機内における温度分布と歩留分布のグラフである。
【図21】コークス炉ガス拡散度測定装置を示す模式図である。
【図22】コークス炉ガス拡散度測定結果を示すグラフである。
【図23】下吹きガス拡散混合を解析するための配置図である。
【図24】下吹きガス拡散混合の解析結果を示す図(写真)である。
【図25】コークス炉ガスを開口径が10mmφの噴出口から3m/sで水平方向に噴出したときの希釈状況をシミュレートした結果である。
【図26】コークス炉ガスの鍋試験結果を説明する図である。
【図27】本発明に係る気体燃料供給プロセスを説明する図である。
【図28】Mガス吹き込みによる試験鍋内の燃焼溶融帯の変化を示す図(写真)である。
【図29】Mガス吹き込みを行った時の焼結操業条件、焼結鉱の特性に及ぼす影響を説明するグラフである。
【図30】高炉ガスの燃焼限界を求める方法を説明する図である。
【図31】メタンガスの燃焼下限濃度の温度依存性を示すグラフである。
【図32】大気中常温下における気体燃料の燃焼成分(燃焼ガス)濃度と温度との関係を説明する図である。
【図33】希釈気体燃料を吹き込み効果とガス種の関係を示す図である。
【図34】プロパンガスを吹き込んだ時のガス濃度とシャッター強度、歩留、焼結時間、生産との関係を示すグラフである。
【図35】焼結反応について説明する図である。
【図36】骸晶状二次ヘマタイトが生成する過程を説明する状態図である。
【図37】希釈プロパンガス吹込み時の燃焼帯の形態を観察した図(写真)である。
【図38】吹込み位置が燃焼状況に及ぼす影響を示す図(写真)である。
【図39】吹込み位置が燃焼状況に及ぼす影響を説明する図である。
【図40】焼結時における装入層内の温度分布を説明する模式図である。
【図41】石英ガラス製試験鍋を用いた焼結試験をサーモビュアで評価する方法を説明する図である。
【図42】サーモビュア測定温度と試験鍋層内実績温度との関係を示すグラフである。
【図43】石英ガラス製試験鍋を用いた焼結試験における燃焼状況を、従来焼結法と希釈ガス吹込を行う本発明法とでサーモビュアを用いて比較した図(写真)である。
【図44】石英ガラス製試験鍋内の温度分布を、従来焼結法と希釈ガス吹込を行う本発明法とで比較したグラフである。
【図45】粉コークスのみの場合と、粉コークスと希釈Cガス吹込みを併用した場合における燃焼状況を比較した説明図である。
【図46】投入熱量一定条件下において、希釈されたプロパンガスの吹込みによる、装入層内温度、排ガス温度、通過風量、排ガス組成の経時変化を示すグラフである。
【図47】希釈されたプロパンガス吹込み(0.5vol%)の時とコークス増量(10mass%)のみの時の、装入層内温度と、排ガス濃度の経時変化を示すグラフである。
【図48】各種吹込み条件下における焼結特性試験験結果を示すグラフである。
【図49】各種吹込み条件下における成品焼結鉱中の鉱物相の組成割合の変化を示すグラフである。
【図50】プロパンガスの吹き込み有無による、成品焼結鉱の見掛け比重の変化を示すグラフである。
【図51】プロパンガスの吹き込み有無による、水銀圧入式ポロシメーターによる0.5mm以下の気孔径分布の変化を示すグラフである。
【図52】コークスのみを使用した場合とコークスと希釈気体燃料を併用した場合の焼結挙動を示した模式図である。
【図53】希釈した気体燃料を吹き込んだ場合における焼結鉱の気孔分布の変化を示す模式図である。
【図54】冷間強度を維持できる限界コークス比を把握する実験結果を示すグラフである。
【図55】焼結実験装置を示す図である。
【図56】焼結実験の水準T1〜T4において生成した焼結鉱の生産率、還元粉化性、シャッター強度、被還元性の測定結果を示すグラフである。
【図57】被還元性及び還元粉化性の関係と、有効拡散係数及び科学反応速度定数の関係とを示すグラフである。
【図58】水準T1、T2及びT4の燃焼状態及び層内温度を示す説明図である。
【図59】水準T1〜T4における1200℃以上の保持時間及び層内最高到達温度を示すグラフである。
【図60】水準T2及び水準T4の燃焼状態及び1200℃以上の保持時間を示すグラフである。
【図61】水準T1〜T4の生産率及びシャッター強度の関係と燃焼速度及び歩留の関係を示す説明図である。
【図62】水準T1〜T4及びLNG+2段外装のカルシウムフェライト内へのFe固溶状態を示す図(写真)である。
【図63】2段外装の疑似粒子を形成する造粒方法の説明図である。
【図64】水準T1〜T4及びLNG+2段外装のカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶状態を示す図(写真)である。
【図65】水準T2、T4及びLNG+2段外装における冷却速度とカルシウムフェライト内へのFe及びアルミナの固溶量状態を示す図(写真)である。
【図66】酸素濃度とカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶状態を示す図(写真)である。
【図67】ノンストイキオメトリー効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願人が見出した、粗粒の鉄鉱石を核として、その外表面に粗粒より細粒の鉄鉱石およびSiO2含有原料を付着させた第二層を有する造粒粒子を得て、その後に添加する凝結材および石灰石副原料を外層部分とするいわゆる三層からなる擬似粒子原料を用いた焼結鉱製造においては、擬似粒子では凝結材が擬似粒子の外側に被覆されて外層に凝結材が存在するため、凝結材の効率燃焼(表層での燃焼)下で、焼結鉱内部に高被還元性のヘマタイトがより多く残留するため、被還元性が向上し、高炉における還元材比が低減できる利点があった。しかし、凝結材を擬似粒子の外側に被覆しているため、酸素との接触確率が高く(高効率燃焼)、燃焼速度が速くなるため、1200℃以上の保持時間が短くなり、上層部での強度が低下する懸念があった。また、近年、使用する焼結原料が劣質鉄鉱石原料、例えば脆弱原料である多孔質鉱石、あるいは高結晶水鉱石を多配合した際、前記内層部分の強度が石灰石を外すことにより融液不足となって強度低下が生じる恐れがあること、あるいはアルミナ分の混入などで焼結原料自体が脆弱になる状況下の焼結操業においては、1200℃以上の保持時間が短くなりも強度低下が生じる恐れがあることが見出された。
【0016】
そのため、本発明においては、原理的には問題のない凝結材および石灰石副原料を外層部分とする擬似粒子化原料の環境条件による強度変動を抑えるべく、気体燃料を燃焼させる焼結操業法と組み合わせ、本発明を完成させたものである。
本発明において、外層保有の擬似粒子原料とは、凝結材および石灰石副原料を外層部分とする擬似粒子であり、内質は、粗粒の鉄鉱石を核として、その外表面に粗粒より細粒の鉄鉱石およびSiO2含有原料を付着させた第二層を有する造粒粒子、あるいは内質核を難焼結原料から構成された複合層を有する造粒粒子、例えば難焼結原料であるマラマンバ鉱石の粗粒を核としその周囲を細粒マラマンバ鉱石としその外側部分を通常の焼結原料を被覆造粒した第三層を有する造粒粒子としたものなど組み合わせは自由であるが、最外層に凝結材および石灰石副原料の外層部を有する擬似粒子であれば適用可能である。
【0017】
さらに、前記造粒擬似粒子を用いて焼結鉱を製造する、本発明に係る焼結鉱の製造方法では、前記外層保有の擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、パレット上に前記外層保有の擬似粒子原料の装入層を形成する装入工程と、装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する点火工程と、気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈して燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とし、パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、前記希釈気体燃料及び空気を装入層内に吸引し、該希釈気体燃料を焼結層内において燃焼させると同時に、装入層内に吸引した空気により、当該装入層内の炭材を燃焼させることにより、焼結ケーキを生成させる気体燃料燃焼工程とを有する焼結鉱の製造方法である。
【0018】
前記装入工程は、循環移動するパレット上に前記外層保有の擬似粒子焼結原料を装入して、パレット上に焼結原料の装入層を形成する工程であり、前記点火工程は、装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する工程である。また、前記希釈気体燃料燃焼工程は、気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈し、燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とし、パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、上記希釈気体燃料および空気を装入層内に吸引し、該希釈気体燃料を装入層内において燃焼させるとともに、装入層内に吸引した空気により、該装入層内の炭材を燃焼させ、発生する燃焼熱によって、焼結原料を焼結し、焼結ケーキを生成させる工程であり、上記希釈気体燃料生成工程および燃焼工程を用いることが本発明における特徴である。
【0019】
ここで、造粒工程で形成する表面に石灰石原料および凝結材の外層を形成した装疑似粒子の径を気体燃料燃焼工程での混合気体燃料の通風量を確保してカルシウムフェライト内へのアルミナ雇用量を抑制可能な粒径に設定して焼結鉱の高品質化を図るものである。
図4は本発明の焼結機を示す概略構成図であって、焼結原料を構成する返鉱を含む鉄鉱石原料と造滓成分を構成する副原料と凝結材とを造粒して擬似粒子化する造粒装置1を有し、この造粒装置1で造粒した擬似粒子をサージホッパー5に貯留すると共に、整粒した塊鉱石を床敷ホッパー4に貯留しておく。
【0020】
ここで、造粒装置1では、擬似粒子化原料を焼結機に装入して焼結する際に、前述した造滓成分を構成する副原料中の石灰石副原料および前記凝結材を分離して残りの焼結原料を造粒して、擬似粒子化処理を行い、その造粒過程の後半(造粒処理完了10〜90秒前)に前記分離した石灰石副原料と凝結材を添加して前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した焼結原料としての擬似粒子を製造する。
【0021】
このとき、造粒工程の造粒処理完了30秒前に石灰石副原料と凝結材を添加して、両者を30秒造粒することにより、表面に石灰石原料と凝結材との外層を形成した最も大きな擬似粒子を得ることができる。すなわち、図5(a)に示すように、外装を行わない場合の擬似粒子の調和平均粒径は0.98〜0.99mmであるのに対して通常の外装を行う場合の調和平均径は1.31mmとなり、造粒処理完了30秒前に石灰石副原料と凝結材を添加して造粒を行った場合には通常の外装による調和平均粒径1.31mmを超える調和平均粒径1.33mmの粒径を得ることができる。
【0022】
このように、表面に石灰石原料と凝結材との外層を形成した擬似粒子の調和平均粒径を、1.31mmを超える値に選定することにより、後述する気体燃料燃焼工程での通気性を確保して、高温保持時間経過後の冷却速度を速くするとともに、燃焼帯へ供給する酸素濃度を高くしてカルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量を抑制することができ、焼結鉱を高品質化することができる。
【0023】
この造粒装置1としては、鉄鉱石、SiO2含有原料、石灰石系粉原料および凝結材としての固体燃料系粉原料からなる焼結原料を、ドラムミキサー2を用いて造粒するに際し、ドラムミキサー2の装入口から石灰石系粉原料(例えば粉石灰石)および固体燃料系粉原料(例えば粉コークス)を除く残りの焼結原料を装入して造粒するとともに、この焼結原料が前記ドラムミキサーの排出口に到達するまでの滞留時間が10〜90秒範囲となる下流側途中に設定した領域にベルトコンベヤ3で石灰石系粉原料および固定燃料系粉原料を添加し、排出口に至る間に石灰石原料と固体燃料系原料を焼結原料の外装部に付着・形成するようにした焼結用原料の製造方法を適用することができる。
【0024】
また、石灰石副原料と凝結材を分離した前記残りの焼結原料は、凝結材の混入が1.5mass%以下とされた焼結原料とされている。
なお、1つのドラムミキサー2を用いて造粒する場合に代えて、第1及び第2のドラムミキサーを適用し、第1のドラムミキサーに、石灰石系粉原料(例えば粉石灰石)および固体燃料系粉原料(例えば粉コークス)を除く残りの焼結原料を装入して造粒し、造粒した焼結原料に石灰石系粉原料(例えば粉石灰石)および固体燃料系粉原料(例えば粉コークス)を加えて第2のドラムミキサーに装入して造粒するようにしてもよい。
【0025】
そして、無端移動式の焼結機パレット8の移動に伴って、床敷ホッパー4から整粒した塊鉱石を切り出して焼結機パレット8のグレート上に床敷層を形成させ、この床敷層上にサージホッパー5からドラムフィーダー6と切り出しシュート7を介して、焼結原料としての疑似粒子が装入されて、焼結ベッドとも言われる400〜800mm程度の厚さ(高さ)の装入層9を形成する。
【0026】
そして、切り出しシュート7の下流側には、装入層9の上方に点火炉10が配設され、この点火炉10で、装入層9の表層中の炭材に点火する。この点火炉10には、製鉄所内のコークス炉で発生する所謂Cガスと称されるコークス炉ガスが供給されており、このコークス炉ガスを燃焼させることにより、装入層9の表層中の炭材に点火する。
この点火炉10の下流側には、この点火炉10の下流側に複数の気体燃料供給装置15が配設されている。これら気体燃料供給装置15は、点火炉10に近い下流側に配設された気体燃料を小口径の噴出口から吹き消え現象が起こる流速で噴出させる第1の気体燃料供給装置15Aと、この第1の気体燃料供給装置15Aの下流側にさらに配設された第2の気体燃料供給装置15Bとを備えている。
【0027】
上記第1の気体燃料供給装置15Aとしては、具体的には、図6に示したように、パレットの幅方向に沿って、複数の気体燃料供給パイプを配設し、そのパイプには、気体燃料を吐出するスリットあるいは開口を設けるかまたはノズルを配設した気体燃料供給手段を有するもの、あるいは、図7に示したように、パレットの進行方向に沿って、複数の気体燃料供給パイプを配設し、そのパイプには、気体燃料を吐出するスリットあるいは開口でなる噴出口を設けるかまたはノズルを配設した気体燃料供給手段を有するものであるが好ましい。
【0028】
また、上記第1の気体燃料供給装置15Aは、例えば、気体燃料供給パイプやノズル等に流量制御手段を設けることにより、パレット幅方向における気体燃料の供給量を制御することができることが好ましい。特に、パレット幅方向のサイドウォール近傍では、横風の影響を受けて、供給した気体燃料が機側方向に流されたり、機外に漏出したりして、気体燃料濃度が希薄になるおそれが高いので、そのサイドウォール近傍に気体燃料を多く供給できるようにしたものであることが好ましい。
【0029】
また、上記気体燃料供給装置は、気体燃料を、装入層の上方で、大気中に高速で吐出させ、それによって周囲の空気と短時間で混合し、その気体燃料の燃焼下限濃度以下の濃度に希釈し、その後、装入層中にその希釈気体燃料を導入する必要がある。
本発明において、上記のように装入層9の上方で気体燃料を大気中に高速で吐出し、その気体燃料を燃焼下限濃度以下に希釈するのは、以下の理由による。
【0030】
表2は、本発明で用いることができる代表的な気体燃料の燃焼下限濃度、供給濃度等を示したものである。焼結原料中に気体燃料を供給する時のガス濃度は、爆発や火災(着火)を防止するには、燃焼下限濃度より低いほど安全である。都市ガスは、Cガス(コークス炉ガス)と燃焼下限濃度が近似しているが、熱量がCガスよりも高いことから、供給濃度を低くできる。したがって、安全性を確保する観点からは、供給濃度を低くできる都市ガスの方がCガスよりも優位である。
【0031】
【表2】
【0032】
表3は、気体燃料中に含まれる燃焼成分(水素,CO,メタン)と、それら成分の燃焼下限・上限濃度、層流、乱流時の燃焼速度等を示したものである。焼結中に気体燃料供給装置から供給している気体燃料への着火を防止するには、逆火防止を図る必要があるが、そのためには、気体燃料を、少なくとも層流燃焼速度以上、好ましくは乱流燃焼速度以上の高速で吐出させれば良いと考えられる。例えば、メタンを主成分とする都市ガスの場合には、3.7m/sを超える速度で吐出させれば、逆火のおそれはないわけである。
【0033】
一方、水素ガスは、乱流燃焼速度がCOやメタンと比較して速いため、逆火を防止するには、その分、高速で吐出させる必要がある。つまり、表2に示した気体燃料の中では、水素を含まない都市ガスは、水素を59vol%含有するCガスと比較して、吐出速度を遅くすることができる。しかも、都市ガスは、COを含まないので、ガス中毒を起こすおそれもない。
【0034】
したがって、安全性を確保する観点からは、都市ガスは、本発明において使用する気体燃料として好ましい特性を有するものであると言える。メタンを主成分とする天然ガスも同様である。もちろん、Cガスも、気体燃料として使用することができるが、その場合には、ガス吐出速度を高める(速める)こと、および、CO対策を別途講ずることが必要となる。
【0035】
【表3】
【0036】
表4は、気体燃料を供給する形式による得失を評価した結果を示したものである。表中、直上吹込み形式とは、都市ガスやCガス等の気体燃料を、高濃度のまま吐出して周囲の大気を巻き込ませることにより所定の濃度に希釈し、装入層中に吸引(導入)させる形式のことであり、予混合吹込み形式とは、あらかじめ大気と気体燃料とを混合して所定の濃度まで希釈したものを装入層上に供給し、装入層中に吸引(導入)させる、いわゆるプレミックス形式のことである。
直上吹込み形式では、上述した乱流燃焼速度以上の速度で気体燃料を吐出すれば、逆火防止は容易であるが、気体燃料を周囲の大気と混合し希釈させる際、濃度ムラが発生しやすいため、異常燃焼を起こす可能性が、予混合吹込み形式に比べて高い。しかし、設備コストを含めて総合的に評価した場合には、都市ガスの直上吹込みが最も優位である。
【0037】
【表4】
【0038】
また、本発明では、第1の気体燃料供給装置15Aにより、気体燃料を装入層9の上方で大気中に高速で吐出させ、それによって周囲の空気と短時間で混合させて、その気体燃料の燃焼下限濃度以下の濃度に希釈し、その後、装入層中にその希釈気体燃料を導入するが、その理由は以下による。
図8(a)に示したような内径300mmφ×高さ400mmの焼結鍋に焼結ケーキを充填し、その焼結ケーキの中央部の上から深さ90mmの位置にノズルを埋め込み、対空気で1vol%となるよう100%濃度のメタンガスを吹き込み、焼結ケーキ内の円周方向および深さ方向におけるメタンガス濃度を測定し、その結果を表5に示した。
【0039】
一方、図8(b)に示したように、同じノズルを用いて、焼結ケーキの上方350mmの位置からメタンガスを大気中に供給して上記と同じ濃度となるよう希釈した場合について、上記と同様にして焼結ケーキ内のメタンガス濃度の分布を測定し、その結果を表6に示した。
これらの結果から、メタンガスを焼結ケーキ中に直接導入した場合には、メタンガスの横方向への拡散が不十分であるのに対して、メタンガスを焼結ケーキ上方で希釈して供給した場合には、焼結ケーキ内のメタンガス濃度はほぼ均一化していることがわかる。以上の結果から、気体燃料は、焼結ケーキの上方で空気中に供給することにより、装入層9内に導入される前に、均一に希釈しておくことが好ましいことがわかる。
【0040】
【表5】
【0041】
【表6】
【0042】
次に、本発明においては、第1の気体燃料供給装置15Aの気体燃料供給パイプに設けられたスリットやノズル等の噴出口から気体燃料を噴出させる速度は、逆火を防止する観点から高速で吐出させる必要がある。すなわち、気体燃料は、装入層表層に吸引・導入される段階までに、希釈されて燃焼下限濃度以下となっている。
しかし、本発明の焼結操業においては、焼結パレット内に燃焼・溶融帯を形成するあるいは形成しつつある焼結層が存在し、常に火種を有する状態において、装入層の上方で、気体燃料の供給が行われる。
【0043】
従って、何らかの火種によって、気体燃料供給装置から供給された気体燃料に着火した場合、ノズル等から吐出させる気体燃料の流速が遅いと、逆火を起こして、気体燃料供給装置や気体燃料供給パイプ内で爆発・燃焼を起こすおそれがある。
そこで、気体燃料に着火しても、逆火しないようにするために、気体燃料の噴出速度は、その気体燃料が有する燃焼速度以上、より好ましくは、乱流燃焼速度以上の速度で吐出させるのが望ましいと考えられる。因みに、メタンガスの層流燃焼速度は、約0.4m/s、乱流燃焼速度は、約4m/sである。
【0044】
そこで、上記燃焼速度で実際に吹き消えが起こる条件を確認する実験を行った。
この実験では、図9に示したように25Aの配管に、開口径が1mmφ、2mmφおよび3mmφの噴出口を加工し、この配管にLNGガスを供給して上記噴出口からLNGガスを噴出させ、その噴出したLNGガスに点火源を用いて点火し、その後、上記点火源を引き離したときに吹き消えが起こる噴出速度を測定した。ここで、上記噴出速度は、LNGガスのヘッダー圧を変えることにより制御した。
【0045】
その結果、噴出口の開口径が1mmφでは、LNGガスのヘッダー圧を300mmH2O以上とし、気体燃料の噴出速度を70m/s以上としたときに、また、2mmφの開口径では、LNGガスのヘッダー圧を550mmH2O以上とし、気体燃料の噴出速度を130m/s以上としたときに吹き消えが起こることがわかった。一方、3mmφの開口径では、LNGガスのヘッダー圧を2000mmH2Oとして音速を超える速度で気体燃料を噴出させても、噴出口での気体燃料の燃焼は防止できたとしても、その下流の低速部で燃焼を起こす、いわゆる煽火が発生し、確実に吹き消すことはできなかった。参考として、開口径が1mmφのときの実験結果を図10に示した。
【0046】
上記のように、LNGガスあるいはLNGガスと同等の燃焼速度を有する燃料ガス(例えば、メタン、エタン、プロパンガス等)を用いる場合、吹き消しを起こさせて逆火を防止するには、少なくとも開口径は3mmφ未満とする必要があることがわかった。また、気体燃料の噴出速度は、単に燃焼速度以上としただけでは、噴出口での燃焼は防止できても、その下流で低速となった部分での燃焼(煽火)を防止することはできない。
【0047】
そこで、本発明では、斯かる煽火をも防止するために、吹き消え現象が起こる速度以上で噴出口から気体燃料を噴出させることとした。そして、この吹き消え現象を起こさせるためには、気体の噴出口を開口径3mmφ未満の大きさとして高速で気体燃料を噴出させる必要があり、例えば、開口径が1mmφ相当の場合は70m/s以上、開口径が1.5mmφ相当の場合は100m/s以上、開口径が2mmφの場合は130m/s以上の高速で噴出させることが好ましい。
【0048】
なお、本発明を実機に適用する場合の好ましい開口径は0.8〜1.5mmφの範囲である。0.8mmφ未満では、配管に穴加工することが難しくなり、また、ガス中に含まれる粉塵等によって閉塞を起こしやすくなるからである。一方、1.5mmφ超えでは、吹き消しを起こさせるためには比較的大きな噴出速度が必要となるため、安全性を確保するためには噴出速度は低い方が好ましいからである。
ところで、上記説明では、噴出口の形状を円とし、その直径で大きさを説明してきたが、開噴出口の形状は、同一の開口面積を有するものであれば特に円に限定されるものではなく、例えば、楕円形状のものや溝状(スリット)としたものでもよい。
【0049】
また、気体燃料の噴出速度は、開口径の他に、気体燃料の供給圧力によっても変化するため、上記吹き消えが起こる噴出速度を確保するには、開口を形成するノズル圧力とノズル流速(噴出速度)の関係に基づき制御を行えばよい。図11は、空気を噴出させる場合を例にとって、ノズル圧とノズル流速との関係を示したものであり、気体燃料のガス密度(ρ)を代入すれば、下記式;
ΔP=ρ・V2/(2・g)
ここで、ΔP:ノズル差圧(mmH2O)、ρ:30℃における気体燃料の密度(kg/m3)、V:ノズル流速(m/s)、g:重力加速度(m/s2)である。
を用いてノズル流速を求めることができる。
【0050】
また、LNGガスを開口径が1mmφの孔から噴出させる場合には300mmH2Oで70m/s、1.5mmφの孔から噴出させる場合には700mmH2Oで100m/sの速度で噴出させることが可能で、吹き消しを起こさせることができる。
また、気体燃料を吐出させる配管が長尺である場合、一般に、気体燃料の供給元に近いほど高速で噴出し、供給元から遠くなるほど噴出速度が遅くなることが予想される。そこで、図12の写真に示したように、開口径1mmφの噴出口をピッチ160mmで76個開け、先端を閉塞した長さ6mの長尺配管(25A)を用い、この配管の片側端から空気を元圧0.1〜1.00kg/cm2・Gの範囲で変化させて供給し、上記噴出口から空気を噴出させ、このときの配管長さ方向の圧力変化を測定した。
その実験の結果は表7に示したが、この実験条件(配管径、噴出口)の範囲内では、元圧と配管末端部の圧力にほとんど差はなく、したがって、各噴出口から均等にガスが噴出していることがわかった。
【0051】
【表7】
【0052】
ただし、上記実験範囲を外れる条件では、元圧と配管の末端部の圧力差が大きくなる可能性がある。そこで、そのような場合には、
(a)配管内の断面積を徐々に小さくしたテーパー状配管を用いる
(b)燃料供給元ヘッダーより遠ざかるほど、開口断面積を大きくする
(c)燃料供給元ヘッダーより遠ざかるほど、開口部やノズルのピッチを狭め、単位配管長さ当りの開口部ないしノズル断面積の和が大きくする、
のいずれか1つを適用するか、これらを組み合わせて適用することにより、均等に燃料を供給することができる。
【0053】
次に、上記気体燃料を、空気中に吐出させる方向については、種々の形態を採用することができ、例えば、図13のように、気体燃料を噴出口から装入層に向かって下方(鉛直下方)に吐出させることにより、その一部を装入層表面で反射させて希釈させる方法、図14のように、気体燃料を噴出口から装入層表面に平行(水平方向)に吐出させることにより装入層に導入されるまでの経路を長くし希釈を促進させる方法、あるいは、図15のように、気体燃料を噴出口から邪魔板(反射板)に向かって吐出し、反射させることにより希釈を促進する方法、図16のように、気体燃料供給パイプに設けられた気体燃料の噴出口の向きを、装入層表面に向かって±90度の範囲で多方向に分散させて希釈を促進する方法などを採用することができる。さらに、上記図16の変形態様として、気体燃料供給パイプの軸を中心に回転可能とし、吐出方向を揺動させる構造とすることもできる。
【0054】
なお、気体燃料を吹き消えが起こる噴出速度で供給する以上述べた手段を有する第1の気体燃料供給装置15Aとすれば、安全上十分な機能を有し、フードで囲った内部に、気体燃料供給装置15Aを配した図6,図7で示される設備、あるいは焼結原料を予め予熱して焼結を行うための保温炉、あるいは排ガス循環フードを利用した気体燃料を吹き消えが起こる噴出速度で供給する気体燃料供給装置15Aであってもかまわない。
【0055】
なお、上記気体燃料供給装置での気体燃料の吐出は、装入層表面の上方300mm以上の高さで行うことが好ましい。その理由は、以下の通りである。
図17に示したような、気体燃料の噴出方向が水平方向となるよう25Aの配管の両側面に開口径が1mmφの噴出口を112mmピッチで開けた気体供給配管を、焼結ベッド(装入層)の上の500mm位置に、400mmの間隔をもたせてパレット進行方向に平行に配列し、上記噴出口から200m/sの速度でLNGを大気中に噴出して周囲の空気と混合し、LNGを目標濃度0.8%に希釈させたときの均一化状況をシミュレーションした。なお、上記気体供給配管は、隣接する配管の噴出口が互いに56mmずつずれ、噴出した気体燃料が衝突しないように配列した。また、実焼結機を模して、焼結ベッドの上表面では、下方に0.9m/sの吸引速度で空気が吸引されているものとした。
【0056】
図18は、開口径が1mmφの噴出口から200m/sの速度で噴出されたLNGが、焼結ベッド上方で周囲の空気と混合して希釈されて行く様子を示したものである。この図18から、上記条件で噴出されたLNGの濃度は、噴出口から約100mm程度のところで、LNGの燃焼下限濃度である4.3%まで希釈されていること、したがって、それ以降であればLNGは理論上燃焼を起こすおそれがないことがわかる。
【0057】
また、図19は、開口径が1mmφの噴出口から200m/sの速度で噴出されたLNGが、焼結ベッド表面に到達するまでおよび焼結ベッド層内でどのように拡散し、希釈されていくかを示したものである。この図19から、上記噴出条件であれば、LNGは、焼結ベッド上200mm(噴出口下300mm)の位置では0.28〜1.14%に、また、焼結ベッド表面に達した段階では0.51〜1.14%にまで希釈されており、さらに、焼結ベッド層中層に至るまでに0.69〜0.87%に、さらに焼結ベッド下面に至るまでに0.75〜0.81%に希釈されていることがわかる。
【0058】
以上の結果から、LNGを、焼結ベッド(装入層)上方で高速で空気中に噴出させることにより、空気と十分に混合して均一に希釈されること、特に、噴出口の下300mmでは、おおむね均一に希釈されていることがわかった。そこで、第1の気体燃料供給装置15Aでは、この結果と、噴出した気体燃料の装入層表面における跳ね返りを考慮し、気体燃料の大気中への供給は、装入層表面の上方300mm以上の高さで行うこととする。
【0059】
本発明において、第1の気体燃料供給装置15Aによって装入層中に供給する気体燃料としては、高炉ガス(Bガス)、コークス炉ガス(Cガス)、高炉ガスとコークス炉ガスとの混合ガス(Mガス)、都市ガス、天然ガス(LNG)またはメタン、エタン、プロパン、ブタンガス、あるいはこれらの混合ガスのいずれかを用いることができる。本発明では、これらの気体燃料のいずれかを空気中に高速で吐出し、空気と混合させて希釈気体燃料とし、装入層中に供給(導入)する。
【0060】
上記希釈気体燃料は、その中に含まれる可燃性ガス(燃焼成分)の濃度を、大気中の常温における燃焼下限濃度の75%以下まで希釈した気体燃料であることが好ましく、より好ましくは燃焼下限濃度の60%以下、さらに好ましくは燃焼下限濃度の25%以下の濃度にまで希釈したものであるのが好ましい。燃焼下限濃度以下の75%以下に希釈した可燃性ガスを使用する理由は、下記の二つである。
(a)装入層上部への高濃度の可燃性ガスの供給は、時として、爆発的燃焼を招くおそれがあり、少なくとも常温では、火種があっても燃焼しない状態としておく必要がある。
(b)装入層中で完全に燃焼せず、未燃焼のままウインドボックスの下流にある電気集塵器等に到達したとしても、電気集塵器の放電によって燃焼するおそれがないことが必要である。
【0061】
さらに、希釈気体燃料の濃度は、その希釈気体燃料の燃焼による酸素の消費によって、焼結原料用に含まれる総燃料(固体燃料+気体燃料)の燃焼に必要な酸素の不足を招いて燃焼不足を起こさない程度に希釈されたものであることが必要である。ただし、希釈気体燃料の濃度は、燃焼下限濃度の2%以上であるのが好ましい。濃度が2%未満では、燃焼による発熱量が不足し、焼結鉱の強度向上と歩留まりの改善が得られないからである。
【0062】
また、本発明における焼結鉱の製造方法では、装入層中の炭材に点火した直後に、希釈された気体燃料を装入層中へ供給(導入)することも可能である。希釈気体燃料の供給が、吹き消えを生じる気体燃料の供給で行なえるため、逆火のおそれなく、装入層9の上層表面に焼結ケーキの層が形成されていれば、焼結が完了するまでの任意の位置で行うことができる。
【0063】
希釈気体燃料の供給を装入層表層に焼結ケーキ層が形成された後に行うことが好ましい他の理由は、焼結ケーキが生成していない状態で装入層の上部に希釈気体燃料の供給を行うと、該装入層上で燃焼のみを生じるからである。希釈気体燃料の供給は、焼結鉱の歩留りを向上させる必要がある部分に対して行う、即ち、焼結鉱の強度を上昇させたい部分で燃焼を起こすよう供給するのが好ましいことからである。
【0064】
また、点火後の装入層中に希釈気体燃料を供給し、装入層内の最高到達温度と高温域保持時間のいずれかまたは両方を制御するためには、燃焼・溶融帯の厚みが少なくとも15mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上となった状態において、希釈気体燃料の供給を行うことが好ましい。燃焼・溶融帯の厚みが15mm未満では、焼結層(焼結ケーキ)を通して吸引される空気と希釈気体燃料による冷却効果によって、気体燃料を燃焼させてもその効果が不十分となり、燃焼・溶融帯の厚みの拡大を図れない。
【0065】
一方、前記燃焼・溶融帯の厚みが15mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上となる段階で希釈気体燃料を供給すると、燃焼・溶融帯の厚みの拡大や高温域保持時間の延長を実現することができ、ひいては高強度の焼結鉱を得ることができるからである。なお、上記燃焼・溶融帯の厚みの確認は、後述するように、透明石英製窓付き竪型管状試験鍋を用いて行うことができる。この試験鍋を用いた焼結試験は、希釈気体燃料の供給位置を決定するのに有効な手段となる。
【0066】
また、希釈気体燃料の装入層への導入は、燃焼前線が表層下に下がり、燃焼・溶融帯が表層から50mm以上、好ましくは100mm以上、より好ましくは200mm以上下がった位置、すなわち、装入層の中・下層領域を対象として行うのが好ましい。つまり、希釈気体燃料は、装入層の表層に生成した焼結ケーキ領域(焼結層)を燃焼することなく通過し、燃焼前線が表層から50mm以上移動した段階で燃焼するように供給するのが好ましい。その理由は、燃焼前線が表層から50mm以上下がった位置であれば、焼結層を通して吸引される空気による冷却の悪影響が軽減され、燃焼・溶融帯の厚みの拡大を図ることができ、燃焼・溶融帯の厚みを有効に拡大することができるからである。なお、気体燃料は、上記のように吹き消え現象が起こる高速で噴出しているので、点火炉10での着火直後からの気体燃料供給でも、逆火を起こすおそれもなく実現できる。
【0067】
上記理由から、希釈気体燃料を生成する第1の気体燃料供給装置15Aは、焼結機の規模にもよって異なるが、例えば、気体燃料供給量が1000〜5000m3(標準)/hr、生産量が約1.5万t/日で、機長が90mの規模の焼結機では、点火炉10の出側直後から、または、下流側約5m以降の位置に配置するのが好ましい。
上述したように、本発明に係る焼結機では、希釈気体燃料の供給位置(装入層への導入位置)は、パレット移動方向における点火炉下流で、焼結ケーキが生成した後のいわゆる燃焼前線が表層下に進行した位置から焼結が完了するまでの間の1ヶ所以上の任意の位置で行うことが好ましい。このことは、燃焼前線が装入層の表層下に移った段階で気体燃料の導入を開始すること、したがって、気体燃料の燃焼が装入層の内部で起り、次第に下層へ移行することになるので、爆発のおそれがなく、安全な焼結操業が可能になることを意味している。
【0068】
また、本発明における焼結鉱の製造方法では、装入層中への希釈気体燃料の導入は、生成した焼結ケーキの再加熱を促進するものであることを意味している。即ち、この希釈気体燃料の供給は、もともと高温域保持時間が短いために熱不足となり、焼結鉱の冷間強度が低くなりやすい部分に対して、固体燃料に比べて反応性の高い気体燃料を供給することによって、不足している燃焼熱を補填し、燃焼・溶融帯の再生−拡大を図るという役割を担うものだからである。
【0069】
このため、上述したように、焼結原料として擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子を適用した場合に、擬似粒子では外層に凝結材と石灰石副原料が存在するため、まず、凝結材の表層の存在で、凝結材の効率燃焼(表層での燃焼)下で内層の粗流、細粒鉱石からなる内層部分をヘマタイト化、すなわち生鉱石状態で被還元性の優れた状態にでき、さらに外殻部分となる外層に位置する石灰石副原料により、焼結時カルシウムフェライトを生成するが、カルシウムシリケートへの移行も、その内側において、鉄鉱石原料中のSiO2と反応し、生成するカルシウムシリケートに反応上限られることになり、外殻にカルシウムフェライトが残存して引張り強度を維持して強度を保持している。
【0070】
そしてこの技術と、第1の気体燃料燃焼工程で希釈気体燃料を使用し、希釈気体燃料の供給量および濃度の少なくとも一方を調整することにより焼結層内の高温域保持時間を調整することで前記内層部分の燃焼溶融域の高温域保持時間が確保される結果、内外質強度の高い焼結鉱を得ることができる。しかも、第1の気体燃料燃焼工程では、吹き消え現象を生じるように気体燃料を高速で噴射するようにしているので、点火炉10の直後で装入層9の表面に燃焼・溶融帯が存在している状態から気体燃料の吹込みが可能となり、より確実に燃焼・溶融帯の高温域保持時間を長くすることができる。
【0071】
さらに、本発明における焼結鉱の製造方法では、装入層上部からの希釈気体燃料の供給は、装入層内に導入された希釈気体燃料を未燃焼のまま燃焼・溶融帯にまで到達させ、そこで燃焼させることによって、燃焼熱の補填を図るようにするのが好ましい。それは、希釈気体燃料の装入層中への供給(導入)は、装入層上部のみならず、厚み方向中央部の燃焼・溶融帯にまで波及させることがより効果的と考えられるからである。つまり、気体燃料の供給が、熱不足(高温域保持時間不足)になりやすい装入層の上層部で行われると、この部分に十分な燃焼熱が提供されるので、焼結ケーキの品質改善を図ることができる。
【0072】
さらに、希釈気体燃料の作用効果を中層部以下の帯域にまで及ぶようにすると、本来の炭材によって形成された燃焼・溶融帯の上に希釈気体燃料による燃焼・溶融帯を形成するのと等しいことになり、結果として燃焼・溶融帯の上下方向の拡幅につながり、最高到達温度を上げることなく、高温域保持時間の延長を図ることができるので、パレットの移動速度を落すことなく十分な焼結効果を得ることができる。その結果、装入層全体にわたって品質が改善(冷間強度の向上)されるので、成品焼結鉱の歩留り向上と生産性の向上を図ることができる。
【0073】
また、本発明は、前記希釈気体燃料の供給位置を、気体燃料供給の作用・効果を装入層中のどこに及ぼすかという観点から決定している。また、気体燃料の供給によって、装入層内における最高到達温度や高温域保持時間を、熱量一定基準の下で固体燃料の量に応じて制御している。従って、本発明において、希釈気体燃料を装入層中へ導入(供給)するに当っては、その供給位置を調整するだけでなく、燃焼・溶融帯自体の形態を制御し、燃焼・溶融帯における最高到達温度および高温域保持時間の少なくとも一方も制御するようにすることが好ましい。
【0074】
一般に、点火後の装入層内では、燃焼(火炎)前線が、パレットの移動に伴って次第に前方(下流側)かつ下方に拡大していくため、燃焼・溶融帯の位置は、図20(a)に示すように変化する。そして、図20(b)に示すように、焼結過程で受ける焼結層上層、中層、下層の熱履歴は大きく異なり、したがって、上層〜下層間では、高温域保持時間(約1200℃以上となる時間)も大きく異なる。その結果、パレット内の焼結鉱の位置別歩留まりは、図20(c)に示すような分布を示す。即ち、表層部(上層部)の歩留は低く、中層、下層部で高い歩留となる。そこで、本発明に従って、前記気体燃料を供給すると、燃焼・溶融帯の上下方向の厚みやパレット進行方向の幅が拡大し、これが成品焼結鉱の品質向上につながる。そして、高い歩留分布となる中層部や下層部は、さらに高温域保持時間を制御(延長)できるため、歩留がより向上する。
【0075】
上記のように、本発明では、気体燃料の供給(導入)位置を調整することにより、燃焼・溶融帯の形態、即ち、燃焼・溶融帯の高さ方向の厚さおよびパレット移動方向の幅の少なくとも一方を制御できると共に、最高到達温度や高温域保持時間を制御することができる。そして、これらの制御を通じて、常に十分な焼成を達成し、ひいては成品焼結鉱の冷間強度を高め、品質向上を実現することができる。
【0076】
また、本発明における装入層中への希釈気体燃料の供給(導入)は、成品焼結鉱全体の強度を制御するためであると言うこともできる。すなわち、本発明において、希釈気体燃料を供給するそもそもの目的は、焼結ケーキ(焼結鉱)の冷間強度を向上させることにあり、具体的には、気体燃料の供給位置制御や、焼結原料が燃焼・溶融帯に滞在する時間である高温域保持時間の制御、最高到達温度の制御を通じて、焼結鉱の冷間強度(シャッターインデックスSI)を75〜85%程度、好ましくは80%以上、より好ましく90%以上にすることである。なお、実機焼結機によって製造された焼結鉱の冷間強度(SI値)は、鍋試験で得られる値よりもさらに10〜15%高い値を示すのが一般的である。
【0077】
この強度レベルは、本発明によれば、前記希釈気体燃料の濃度、供給量、供給位置および供給範囲を、好ましくは焼結原料中の炭材量をも考慮した上で(投入熱量を一定にする条件下で)調整することによって、安価に達成することができる。焼結鉱の冷間強度の向上は、一方で、通気抵抗の増大と生産性の低下を招くことがあるが、本発明では、そうした問題を、最高到達温度や高温域保持時間を制御することによって解消することができる。
【0078】
したがって、本発明の焼結鉱の製造方法において、希釈気体燃料の装入層中への導入位置は、装入層中に生成した焼結ケーキから湿潤帯までの間の任意の帯域における焼結鉱の冷間強度をどのように制御するかという観点も考慮して決定される。そして、この観点から、本発明では、気体燃料供給装置の規模(大きさ)、数、位置(点火炉からの距離)、ガス濃度を、好ましくは焼結原料中の炭材量(固体燃料)に応じて調整することによって、燃焼・溶融帯の大きさ(上下方向の厚さおよびパレット移動方向の幅)だけでなく、高温到達温度、高温域保持時間をも制御し、もって、生成する焼結ケーキ(焼結鉱)の強度の向上を図っている。
【0079】
本発明の製造方法において、第1の気体燃料供給装置15Aにおける装入層9中に供給する気体燃料としては、先述したように、高炉ガス、コークス炉ガス、高炉・コークス炉混合ガス、都市ガス、天然ガスあるいはメタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス、またはこれらの混合ガスのいずれかを用いることができるが、上記気体燃料の中でも、CO含有量が50massppm以下のものを用いることが好ましい。それは、COガスは、人体に対して有害であり、装入層上に供給された気体燃料が全量装入層中に導入されないで、機外に漏洩した場合には、人災を起こす可能性があるからである。具体的には、都市ガス13Aやプロパンガスを用いることがより安全性だけでなく、コストの面からも好ましい。
【0080】
さらに、本発明の製造方法では、上記第1の気体燃料供給装置15Aに適用する気体燃料以外に、気体状態での着火温度が、焼結ベッド表層の温度より高い、アルコール類、エーテル類、石油類、その他の炭化水素系化合物類等の液体燃料を気化させたものを用いることもできる。本発明で用いることができる液体燃料とその特性について、表8に示した。斯かる液体燃料を気化させた気体燃料は、着火温度が、上述した気体燃料と比較して着火温度が高いため、焼結ベッド表層の温度より高い、装入層のより内部で燃焼するため、吹き込む位置での燃焼・溶融帯のすその温度の拡大に有効である。特に、着火温度が500℃近いものは、その効果が大きい。なお、液体燃料を気化した気体燃料を用いる場合には、気体供給配管は、気化した燃料が再液化しないよう、該液体燃料の沸点以上着火温度未満の温度に保持することが好ましい。
【0081】
【表8】
【0082】
なお、廃油等は、引火しやすい成分や着火温度の低い成分を含むことがあるので、本発明で用いるには好ましくない。着火温度や引火点の低い成分を含む廃油等の液体燃料を予め気化させて、焼結原料ベッド上に供給した場合には、原料ベッド中の燃焼帯近傍に到達する前の原料ベッド表層の上部空間ないしは原料ベッド表層近傍で燃焼してしまうため、本発明が意図する焼結原料ベッドの燃焼帯近傍で燃焼させて高温保持時間の延長を図るという効果を得ることができないためである。
【0083】
一方、第2の気体燃料供給装置15Bは、構成上は上述した第1の気体燃料供給装置15Aと同様の構成を有するが、上述した吹き消え現象を利用するものではなく、ランニングコストを考慮して、コークス炉ガス(Cガス)、高炉ガス(Bガス)およびコークス炉・高炉混合ガス(Mガス)のいずれかが適用される。このようなガスは、製鉄所内で生成されることから、他のLPG、都市ガス、プロパンガス等の気体燃料を使用する場合に比較的気体燃料調達比即ちランニングコストを大幅に低減することができる。
【0084】
しかしながら、コークス炉ガス(Cガス)、高炉ガス(Bガス)およびコークス炉・高炉混合ガス(Mガス)は、成分中にタール、スケール等の配管内に付着して配管を閉塞させる配管閉塞物質を含んでおり、前述した第1の気体燃料供給装置15Aのように吹き消え現象を利用するために噴出口の口径を3mmφ以下にした場合には、気体燃料供給パイプや噴出口にタールやスケールやその混合物による配管閉塞物質が付着して、気体燃料供給パイプや噴射口の清掃や点検を2〜3週間毎に行わなければならず、これら点検や清掃の間は焼結操業を停止させる必要があることから生産量が減少してしまう。
【0085】
このため、気体燃料供給パイプ及び噴出口の開口径は、6mm以上に設定することが好ましい。その理由は、上記のように、気体燃料への逆火を防止するためには、気体燃料の吐出速度を、燃焼速度を超える速度とすることが困難となるが、噴出口の開口径を6mm以上に設定することにより、気体燃料噴射ノズル23の清掃頻度を半年程度に延長することができ、開口径を10mm以上とする清掃頻度を10カ月以上に延長することができる。
【0086】
このように、気体燃料噴射ノズル23の開口径は大きければ大きい程タールやスケールの混合物でなる配管閉塞物質の付着を抑制することができるものであるが、配管径を大きくすると、噴出する気体燃料の噴射速度が低下し、吐出範囲も狭くなることから、開口径は15mm以下とすることが望ましい。
なお、気体燃料供給パイプ等の気体燃料供給系統を予熱する予熱機構を配置して、タールやスケール等の配管閉塞物質が気体燃料供給パイプや噴出口内で固化することを抑制するようにすれば、さらに清掃や点検周期を長くすることができる。
【0087】
また、第2の気体燃料供給装置15Bでの気体燃料の吐出は、装入層表面情報300mm以上の高さ、および吐出方向を略水平として行うことが好ましい。また、第2の気体燃料供給装置15Bで気体燃料としてCガスを使用するとき、焼結進行過程で表層にはすでに焼結が完了した焼結層が存在し、赤熱部分(気体燃料への引火部分)がない状態である。
この状態であるのもCガスが利用できる条件となっている。もちろん他気体燃料も使用可能であることはいうまでもない。
【0088】
また、図21は、コークス炉ガス(Cガス)を使用する際、焼結原料の装入層中でのCガス拡散度を測定する実験である。つまり、装入層中でコークス炉ガス濃度が偏る場合、燃焼ムラを生じ得られる焼結鉱品質が不均一となる問題を避けるためである。
図21は、焼結原料の充填層aの表面bの上方に気体燃料供給パイプcを配置し、気体燃料供給パイプcに設けた噴出口dによるコークス炉ガス供給を行った際の焼結原料の充填層a中のコークス炉ガス濃度を測定したコークス炉ガス拡散度測定装置である。
【0089】
焼結原料の充填層a下部から排気する形で焼結原料の充填層aの表面bの上方の空気を吸引する状態で、上記気体燃料供給パイプcの噴出口dから、コークス炉ガスを吐出させ、充填層a中の各箇所((1)〜(15))で採取したコークス炉ガス濃度を測定してコークス炉ガス拡散度を判定した。上記気体燃料供給パイプcの噴出口dは、充填層aの表面bに向かって吐出させたのが下吹き、充填層aの表面bの沿う方向に向かって吐出させたのが水平横吹きと称する。
【0090】
図22は、その結果であり、水平横吹きの際の充填層aの上層、中層、下層で検出されるCガス濃度を図22(a)に、下向きで吐出させた際のCガス濃度を図22(b)に示した。
コークス炉ガスは、CH4ガス同様、充填層a中を拡散し難く、下吹きよりも、水平横吹きの方がコークス炉ガス濃度は均一化されている。
【0091】
また、図23、図24は、下吹きガス拡散混合の解析結果であり、図23の条件(コークス炉ガス吹き込み、噴出口の口径10mm、下向き3m/sの吐出速度)での結果を図24に示す。図24において、垂直断面、水平断面ともにノズル間でガス拡散混合が不十分な領域が生じており、この濃度不均一なコークス炉ガスが焼結原料の装入層に供給されるため燃焼村の発生は避けがたいことが予想できる。
【0092】
図25は、ノズル口径、吐出速度は同一として、水平横吹きとして解析した結果である。水平横吹きのCガスは、焼結原料の装入層側に大気とともに吸引され、均一混合状態で供給されることがわかる。
鍋試験結果を、図26に示す。ガス吹込みを行わない焼結操業で得られる焼結鉱強度、歩留まり、生産性、焼結時間をベースとし比較したが、ベース、及び下向き気体供給に比べ、水平横吹きの供給形態が最も優れた結果となった。
【0093】
なお、水平横吹きとは、焼結原料の装入層と平行状態を指し、水平方向±30度の範囲において許容できる。このましくは水平方向±20度の範囲である。
このように、第1の気体燃料供給装置15Aの下流側に隣接させて第2の気体燃料供給装置15Bを配置することにより、第1の気体燃料供給装置15Aを通過した焼結機パレット8の装入層では、燃焼・溶融帯が表面から60mm以上下がった位置となり、第2の気体燃料供給装置15Bで比較的低速でコークス炉ガスを気体燃料供給パイプの噴出口から噴射した場合でも、装入層の表面に火種がないので、希釈されたコークス炉ガスが装入層の上方で着火されて燃焼されることはなく、燃焼・溶融帯の拡幅に有効に利用される。しかも、コークス炉ガスは製鉄所内で生成されるので、ランニングコストを十分に低下させることができる。
【0094】
また、本発明の方法によって焼結鉱を製造するに当たっては、造滓成分を構成する副原料中の石灰石副原料および前記凝結材を分離して残りの焼結原料を造粒して、擬似粒子化処理を行い、その造粒過程の後半(造粒処理完了10〜90秒前)に前記分離した石灰石副原料と凝結材を添加して前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子を生成する造粒装置と、層を保有した擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、当該パレット上に前記外層を保有した擬似粒子の装入層を形成する原料供給装置と、上記装入層表面の炭材に点火する点火炉10と、上記装入層上辺の空気中に、気体燃料を噴出して燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とする気体燃料供給装置と、上記希釈気体燃料と空気とをパレット下で吸引して装入層内に導入するウインドボックスとを備える焼結機において、前記気体燃料供給装置は、前記点火炉10に近い下流側に配設された、気体燃料を気体燃料供給部の小口径の噴出口から吹き消え現象が起こる流速で噴出する第1の気体燃料供給装置15Aと、該第1の気体燃料供給装置15Aの下流側に配設された、気体燃料を気体燃料供給部の大口径の噴出口から前記吹き消え現象が起こる流速で噴出させる第2の気体燃料供給装置15Bとを少なくとも有することを特徴とする焼結機を用いる。
【0095】
本発明の焼結機における第1の気体燃料供給装置15Aおよび15Bは、焼結機の焼結機パレットの搬送方向に沿って、パレットの両サイドウォールを跨ぐように配設されるのが好ましい。すなわち、上記第1及び第2の気体燃料供給装置15Aおよび15Bは、パレットの両サイドウォールを跨ぐようにフードが配設され、その内部には気体燃料を供給する配管を、単数または複数本、好ましくは2〜15本、パレット進行方向に対して平行に、あるいは垂直に配列し、そのそれぞれの配管には、気体燃料を大気中に高速で供給するためのスリットや噴出穴あるいはノズルを複数取り付けたものにて構成されることが好ましい。
【0096】
前記第1および第2の気体燃料供給装置15Aおよび15Bは、点火炉10の下流側でかつ燃焼・溶融帯が装入層内を進行中の過程(状態)にある、パレット進行方向のいずれかの位置に1以上配設され、その位置において、希釈気体燃料の装入層中への供給が行われるのが好ましい。即ち、この装置は、点火炉の下流側で、燃焼前線が表層下に進行した以降の任意の位置に一ないし複数配設されるものであり、目標とする成品焼結鉱の冷間強度を調整する観点から、大きさ、位置、数が決められる。
【0097】
図27は、本発明に係る焼結機の一実施形態の一部を示したものであり、点火炉10のパレット移動方向下流側に当たる装入層の上辺に、高炉ガスやコークス炉ガスあるいはこれらの混合ガス(Mガス)等の気体燃料を大気中に吐出し、所望の濃度の希釈気体燃料とするための第1の気体燃料供給装置15Aを1基だけ配設した例を示したものである。その気体燃料供給装置15Aは、装入層の上方にフード15aが設置され、そのフードの内部には、パレット8の幅方向に沿って複数の気体燃料供給パイプ15bが配設されており、そのパイプには、気体燃料を高速で大気中に吐出するノズル15cを下向きにかつパレット幅方向に複数個配列させたものを、図示していないサイドウォールの上から装入層を覆うように配設したものである。この気体燃料供給装置15Aのフード15a内に供給された気体燃料は、フード15a内の周辺の空気と混合して希釈気体燃料となり、その後、パレット8下の図示されていないウインドボックスの吸引力を利用して、装入層表層に生成した焼結ケーキを経て、装入層の深部(下層)にまで導入される。なお、この第1の気体燃料供給装置15Aは、特に、パレット両側端(図20(c)の歩留り60%の領域)の歩留り向上を図りたいときは、パレットの両サイドウォール近傍に気体燃料を多く供給できるよう、前記ノズル15cを重点的に配置することが好ましい。
【0098】
この第1の気体燃料供給装置15Aから供給する気体燃料としては、例えば、高炉ガス(Bガス)、コークス炉ガス(Cガス)、高炉ガスとコークス炉ガスとの混合ガス(Mガス)、都市ガス、天然ガス(LNG)またはメタン、エタン、プロパン、ブタンガス、あるいはこれらの混合ガスなどが用いられる。これらの気体燃料は、点火炉10とは別途に独立した配管系の下で供給してもよく、また、点火炉用燃料配管と同じ種類として、点火炉10へのガス供給管(図示せず)の延長上に接続するように構成してもよい。
【0099】
下記の表9は、第1の気体燃料供給装置15Aで使用する各種気体燃料の燃焼下限濃度と、その気体燃料を装入層へ導入する際の上限濃度(燃焼下限濃度の75%、60%、25%)を示したものである。例えば、プロパンガスは、燃焼下限濃度は2.2vol%であるから、プロパンガスの希釈気体燃料の濃度上限は、75%の場合は1.7vol%、60%の場合は1.3vol%、25%の場合は0.6vol%ということになる。一方、希釈気体燃料の下限濃度、即ち、気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は、プロパンガスの場合は0.05vol%である。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。
【0100】
好ましい範囲(1): 2.2vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(2): 1.7vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(3): 1.3vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(4): 0.6vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(4): 0.6vol%〜0.05vol%
【0101】
また、Cガスは、燃焼下限濃度は5.0vol%であるから、Cガスの希釈気体燃料の濃度上限は、75%の場合は3.8vol%、60%の場合は3.0vol%、25%の場合は1.3vol%ということになる。一方、Cガスの場合、気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は0.24vol%である。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。
好ましい範囲(1): 5.0vol%〜0.24vol%
好ましい範囲(2): 3.8vol%〜0.24vol%
好ましい範囲(3): 3.0vol%〜0.24vol%
好ましい範囲(4): 1.3vol%〜0.24vol%
【0102】
また、LNGガスは燃焼下限濃度が4.8vol%であるから、LNGの希釈気体燃料の濃度上限は、75%の場合は3.6vol%、60%の場合は2.9vol%、25%の場合は1.2vol%ということになる。一方、LNGガスの気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は0.1vol%である。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。
好ましい範囲(1): 4.8vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(2): 3.6vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(3): 2.9vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(4): 1.2vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(4): 1.2vol%〜0.1vol%
【0103】
また、高炉ガスは、燃焼下限濃度は40.0vol%であるから、高炉ガスの希釈気体燃料の濃度上限は、75%の場合は30.0vol%、60%の場合は24.0vol%、25%の場合は10.0vol%ということになる。一方、高炉ガスの気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は0.24vol%である。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。
好ましい範囲(1): 40.0vol%〜1.25vol%
好ましい範囲(2): 30.0vol%〜1.25vol%
好ましい範囲(3): 24.0vol%〜1.25vol%
好ましい範囲(4): 10.0vol%〜1.25vol%
【0104】
【表9】
【0105】
次に、表10は、Cガス、LNG、Bガス中に燃焼成分として含まれる水素、CO、メタン、エタン、プロパンの含有量と発熱量を示したものである。
【0106】
【表10】
【0107】
次に、本発明に係る焼結鉱の製造方法を開発する契機となった実験について説明する。
この実験は、図28に示す実験装置、即ち、透明石英製窓付き竪型管状の試験鍋(150mmφ×400mmH)を用い、使用する気体燃料として、高炉ガス・コークス炉ガスの混合ガス(Mガス)を用い、出願人会社の焼結工場で使用しているのと同じ焼結原料、即ち、表11に示す焼結原料を使って、下方吸引圧力11.8kPa一定の条件で焼結鍋試験を行った例である。ここで、前記Mガスの燃焼成分の濃度は、空気で希釈して、0.5vol〜15vol%の範囲内で変動させた。なお、この実験に用いたMガスの燃焼下限濃度は12vol%である。
【0108】
【表11】
【0109】
図28は、また、前記試験鍋の透明石英窓から燃焼溶融帯をビデオ観察した様子、とくに燃焼前線の移動に伴う燃焼帯の下降状況を示している。この図28からわかるように、試験鍋内の原料堆積層中に、燃焼下限濃度(12vol%)を超える15vol%のMガスを含む気体燃料を吹き込んだ場合、気体燃料は装入層表面ですぐに燃焼を開始し、装入層の下層にまでは届かず吹込みの効果が得られなかった。これに対して、本発明に従い、前記気体燃料の燃焼下限濃度(12vol%)の75%以下である3vol%まで空気で希釈した気体燃料を用いた場合、原料堆積層表面で燃焼することがなく、装入層内深く、即ち、燃焼・溶融帯相当域まで到達し、燃焼した。その結果、空気のみで焼結したときの、燃焼帯(燃焼・溶融帯とも呼ぶ)の厚みは70mmであったのに対し、Mガスを希釈して吹き込んだ場合には、燃焼帯の厚み幅を150mm、即ち2倍以上に拡大させることができた。この燃焼帯の厚みの拡大は、高温域保持時間の延長が達成されることも意味する。
【0110】
しかも、この試験鍋による実験においては、実機焼結機におけるパレットの移動に伴う燃焼前線の進行速度に相当する燃焼帯の降下速度(この逆数が焼結時間である)は、希釈気体燃料の供給によって速くなり、しかも、コークスを増量したときや高温空気を吹き込んだときと同じように、燃焼帯の上下方向の厚み幅を拡大させることができた。このように、焼結原料の装入層中に、適切な濃度に希釈された気体燃料を吹き込んだ場合、従来のような固体燃料や液体燃料、希釈しない可燃性ガスを使う場合と比較すると、燃焼帯幅の拡大効果が著しくなり、しかも、コークスを増量したときのような燃焼前線の降下速度の低下を招くことがなく、大気焼結の場合とほとんど変わらない速度で焼結が進むことがわかった。
【0111】
図29(a)〜(d)は、上記焼結鍋試験結果をまとめたものである。この結果によれば、本発明に従って原料装入層中に適切に希釈されたMガスを吹き込んだ場合、焼結時間はほとんど変化しないにも拘らず、歩留が向上し(図29(a))、焼結生産性も増加している(図29(b))。しかも、高炉の操業成績に大きく影響する冷間強度の管理指標であるシャッター強度(SI)は10%以上(図29(c))、還元粉化特性(RDI)は8%も改善されている(図29(d))。
【0112】
本発明では、第1の気体燃料供給装置15Aにおいて装入層中に導入する前記気体燃料として、希釈された可燃性ガスを用いるが、以下に、その希釈の程度について説明する。表12は、高炉ガス、コークス炉ガスおよび両者の混合ガス(Mガス)、プロパン、メタン、天然ガスの燃焼下限濃度および燃焼上限濃度を示している。このような燃焼限界をもつガスが、例えば、装入層内で燃焼せずに排風機に向かうと、途中の電気集塵機などで爆発や燃焼を起こす危険が生じる。そこで、発明者らは、試行錯誤の結果、上記危険がない濃度、即ち、燃焼下限濃度以下に希釈した気体燃料を装入層中に導入することとし、さらに、安全性をより高めるべく、その燃焼下限濃度の75%以下の濃度の希釈気体燃料を用いた実験を数多く行った結果、何の問題も生じないことが確認できた。
【0113】
例えば、表12に示すとおり、大気中かつ常温において、高炉ガスが燃焼する濃度範囲は、燃焼下限が40vol%で、燃焼上限は71vol%である。即ち、40vol%未満では燃焼せず、また、71vol%を超えると、高炉ガス濃度が濃くなりすぎて、この場合もまた燃焼しない状態となることを意味している。以下に、この数値の根拠について図面に基づき説明する。
【0114】
【表12】
【0115】
図30は、第2の気体燃料供給装置15Bにも使用できる高炉ガスの燃焼限界を求める方法の一例を説明するものである。
図中の高炉ガスに含まれる燃焼成分(可燃性ガス)とその他の成分(イナート:不活性ガス)の割合については、H2とCO2およびCOとN2との組み合わせで検討すると以下のとおりである。
【0116】
(1)「H2とCO2」部分の組み合わせについての、(イナートガス)/(可燃性ガス)の比は、20.0/3.5=5.7である。
そこで、この燃焼限界図の(イナートガス)/(可燃性ガス)の比を示す横軸の、5.7の軸と交差するH2+CO2曲線の交わる部分(燃焼限界)を求めると、下限は32vol%、上限は64vol%となる。即ち、H2+CO2の燃焼限界の下限濃度は32vol%、上限濃度は64vol%となる。
【0117】
(2)一方、残りの燃焼成分である「COとN2」の組み合わせの場合における、(イナートガス)/(可燃性ガス)の比は、53.5/23.0=2.3であるから、同様にして、同図から横軸2.3と、CO+N2の曲線と交わる点から下限:44vol%、上限:74vol%が求まる。従って、この場合の燃焼限界の下限濃度は44vol%、上限濃度は74vol%である。
(3)さらに、両燃焼成分を含む高炉ガスの燃焼下限濃度は、図30中左方最下段の式で求めることができる。また、同式で前記(1)、(2)の上限値をあてはめれば燃焼上限濃度が求まる。このようにして高炉ガスの燃焼下限濃度ならびに燃焼上限濃度を求めることができる。
【0118】
また、本発明において、気体燃料の燃焼下限に着目したもう一つの理由は、燃焼限界には温度依存性がある点である。燃料便覧(社団法人燃料協会編)では、温度の影響として、温度が高いときには、熱の逸散速度が遅くなるので、熱の発生、逸散両速度曲線の交わりは深くなって、爆発範囲(燃焼範囲)は左右に広がってくる、と説明している。すなわち、燃焼限界は、上述のようにして求められるものの、該燃焼限界には温度依存性があって、メタンガスの燃焼範囲の温度による影響として、燃料便覧(社団法人燃料協会編)では、表13に記載の例が示されている。これを燃焼下限濃度の温度依存性として作図すると、おおよそ図31に示すようになる。図中●印は、表6に記載されたメタンガスの例である。
【0119】
【表13】
【0120】
また、図32は、大気中常温下における気体燃料の燃焼成分(燃焼ガス)濃度と温度との関係を示すものである。燃焼限界は、上述のようにして求められるものの、該燃焼限界には温度依存性があって、その温度依存傾向を例示すると、常温での燃焼下限値(図中では燃焼ガス濃度に相当)がおおよそ40vol%であっても、200℃領域では26〜27vol%と変化し、1000℃領域では数%、1200℃領域では1vol%未満でも燃焼する。
【0121】
これから、装入層に供給する気体燃料の濃度(燃焼成分の含有量)は、常温の燃焼下限よりもさらに低い濃度とするのがより安全であり、また、その希釈ガスの濃度を適正範囲に調整してやることにより、気体燃料の装入層内の厚み方向における燃焼位置を自由に制御することができることがわかった。
そして、気体燃料の燃焼範囲には、このように温度依存性があり、例えば、燃焼範囲は雰囲気温度が高くなればなるほど広がり、焼結機の燃焼・溶融帯近傍の温度場ではよく燃焼するものの、焼結機の下流側にある電気集塵機内の200℃程度の温度場では、本発明の好適実施例で示すような気体燃料の濃度では燃焼しないこともわかった。
【0122】
ところで、焼結鉱を製造するに当たって、焼結原料の装入層中に供給された希釈気体燃料は、パレット下のウインドボックスによって吸引されて、該装入層中の固体燃料(粉コークス)の燃焼により形成された燃焼・溶融帯の高温域で燃焼する。従って希釈気体燃料の供給は、装入層への投入熱量を一定にするという条件下において、前記希釈気体燃料の濃度や供給量などを制御すれば、焼結原料中の粉コークス量を調整(減少)することができる。また、希釈気体燃料の濃度調整は、この気体燃料の燃焼を装入層中の予定した位置(濃度領域)で起こるように制御することを意味している。
【0123】
この意味において、従来技術における装入層中の燃焼・溶融帯は、固体燃料(粉コークス)のみが燃焼する帯域であるが、本発明における燃焼・溶融帯は、その粉コークスの燃焼に加えてさらに気体燃料も並行して燃焼する帯域であるということができる。従って、本発明において、その希釈気体燃料の濃度や供給量、その他の供給条件は、燃料の一部として粉コークスがあることを前提として、これとの関係において好適に変化させると、最高到達温度および/または高温域保持時間の望ましい制御が可能となり、焼結ケーキの強度向上をもたらすことになる。
【0124】
さらに本発明方法において、希釈された気体燃料を用いるもう一つの理由は、上述した焼結・溶融帯の形態制御を通じて焼結ケーキの強度、歩留りを制御するためである。それは、この焼結ケーキを高温帯域(燃焼・溶融帯域)にどれくらいの時間保持するか、また、どれくらいの温度にまで到達させるかという制御を行う上で、この希釈気体燃料の役割が有効に機能するからである。言い換えると、前記希釈気体燃料の使用は、焼結原料の高温域保持時間が長くかつ最高到達温度が適度に高くなるように制御することを意味している。
【0125】
そして、このような制御は、焼結原料中の固体燃料量(粉コークス量)に対して、燃焼雰囲気中で支燃性ガス(空気または酸素)が過不足を起さないように希釈調整された気体燃料を用いることを意味している。この点、従来技術では、焼結原料中の固体燃料の量と無関係に、しかも可燃性ガスを濃度調整することなしに吹き込むため、固体燃料や可燃性ガスの量に見合う量の支燃性ガス(酸素)が供給されずに燃焼不良を起こしたり、逆に部分的に過燃焼を起こしたりして、強度のバラツキを招いていたのである。これに対して、本発明では、気体燃料を希釈しかつ濃度調整をすることで、このような問題点を回避しているのである。
【0126】
次に、気体燃料の種類による影響について示す。
図33は、数種類の気体燃料を燃焼下限濃度以下に希釈した希釈気体燃料を使用した本発明焼結法と、気体燃料の吹き込みを行わない従来焼結法とを比較した実験結果を示すものである。なお、希釈気体燃料の吹き込みを行わない従来焼結例では、粉コークスの添加量を5mass%とし、一方、粉コークス0.8mass%相当の希釈気体燃料を吹き込む本発明例では、総熱量を一定とするため、粉コークスの添加量を4.2mass%とした。図33からわかるように、希釈気体燃料を使用した場合は、いずれの例においても、シャッター強度、成品歩留、生産性の向上が認められた。このように、希釈気体燃料の使用例において、シャッター強度、成品歩留等が向上した理由は、燃焼・溶融帯の拡大と、それによる高温域保持時間の延長によるものと考えられる。
【0127】
図34は、気体燃料として、プロパンガスを用いた場合の希釈濃度の影響を示す図であり、希釈気体燃料の濃度と、シャッター強度(a)、歩留(b)、焼結時間(c)、生産率(d)との関係を示したものである。この図からわかるように、プロパンガスを希釈気体燃料として使用する場合は、0.05vol%の添加でシャッター強度の向上効果が認められ、歩留りもほぼ同様の傾向を示す。
【0128】
さらに、向上効果が明確となるのはプロパンガス濃度が0.1vol%からであり、より明確に向上効果が認められるのは0.2vol%からである。この結果を、Cガスを気体燃料として用いる場合に換算すると、0.24vol%の添加で効果が認められはじめ、効果が明確となるのは0.5vol%以上、より明確となるのは1.0vol%以上ということになる。したがって、プロパンガスの希釈濃度は、少なくとも0.05vol%以上、好ましくは0.1vol%以上、より好ましくは0.2vol%以上、また、Cガスの希釈濃度は、少なくとも0.24vol%以上、好ましくは0.5vol%以上、より好ましくは1.0vol%以上である。なお、上限は、それぞれの気体燃料の燃焼下限濃度の75%である。ちなみに、プロパンガスの場合、0.4vol%の添加でほぼ効果は飽和しており、この時のガス濃度は、燃焼下限濃度の25%に相当する。
【0129】
次に、本発明方法に従って、焼結原料中の炭材量を考慮し、前記気体燃料の供給を行って製造した焼結鉱の冷間強度と還元粉化特性(RDI)について説明する。「鉱物工学」(今井秀喜、武内寿久禰,藤木良規編、1976、175、朝倉書店)によると、焼結反応は、図35の模式図のようにまとめられる。また、表14に、焼結過程で生成する各種鉱物の引張強度(冷間強度)と被還元性の値を示す。図35から明らかなように、焼結過程では、1200℃で融液が生成し始め、焼結鉱の構成鉱物の中で最も高強度であり、被還元性も比較的高いカルシウムフェライトが生成する。さらに昇温が進んで約1380℃を超えると、冷間強度と被還元性とが最も低い非晶質珪酸塩(カルシウムシリケート)と、還元粉化しやすい二次ヘマタイトとに分解する。したがって、焼結鉱の冷間強度の向上とRDIの改善を図るには、カルシウムフェライトを分解させずに、これを安定的に生成させ続けられるかどうかが重要な課題となる。
【0130】
【表14】
【0131】
また、上記刊行物「鉱物工学」によると、焼結鉱の還元粉化の起点となる二次ヘマタイトの析出挙動について、図36により説明している。その説明によれば、鉱物合成試験の結果では、還元粉化の起点となる骸晶状二次ヘマタイトは、Mag.ss+Liq.域まで昇温し、冷却したのちに析出するため、状態図上では、(1)の経路でなく、(2)の経路を介して焼結鉱を製造することで、還元粉化性を抑制できるとしている。したがって、低RDIと高強度とを兼備する焼結鉱を製造するには、1200℃(カルシウムフェライトの固相線温度)と約1380℃(転移温度)の範囲内に、如何にして長時間保持したヒートパターンを装入層内において実現するかが重要となる。よって、添加する炭材量を気体燃料の供給により調整し、装入層内の最高到達温度を1200℃超え1380℃未満の範囲に制御することが重要であり、好ましくは1200〜1350℃の範囲とするのが望ましいことがわかる。
【0132】
次に、発明者らは、燃焼帯の上下方向の厚さ(幅)と希釈燃料ガスとの関係を知るために、先述した透明石英製窓付き竪形管状試験鍋を用い、焼結機クーラーの排ガスで0.5vol%と2.5vol%の濃度に希釈したプロパンガスを、この鍋の上方から焼結原料の装入層中に吹き込む実験を行った。この実験で使用した焼結原料は、出願人会社で使用している一般的なものであり、吸引圧力は1200mmH2O一定とした。なお、0.5vol%のプロパンガスの吹き込みは、投入熱量に換算すると、粉コークス1mass%の配合量にほぼ相当する。
【0133】
図37は、この実験におけるプロパンガス吹込み時の燃焼帯の形態変化を示す写真である。この図に示すように、燃焼下限濃度(理論値、対空気)に近い2.5vol%に希釈したプロパンガスでは、吹込み直後に原料装入層上で燃焼してしまうため、気体燃料が装入層内に入っていかず、気体燃料供給効果が得られなかった。これに対して、プロパンガスの希釈濃度が0.5vol%濃度のものを供給した場合には、装入層上部で燃焼することなく、装入層内まで入っていき、しかも装入層内で速い速度で燃焼した。その結果、大気条件で焼結したときの燃焼帯の上下方向幅(厚さ)は約70mmであったのに対し、希釈プロパンガスを吹込んだ時の燃焼帯の幅は150mmと、2倍以上に拡大した。これは、高温域保持時間が延長されたことに相当する。
【0134】
これから、燃焼帯の厚みの拡大効果は、プロパンガスの燃焼下限濃度の1/5の濃度である0.5vol%でも発現することがわかる。逆に、本発明にかかる気体燃料吹込み技術では、希釈された気体燃料でないと、装入層内における燃焼制御が困難であることもわかる。
さらに、この実験においては、燃焼帯の降下速度(この逆数が高温域保持時間)への影響についても検討した。その結果、単にコークスを増量した場合や高温の空気を吹き込んだ場合には、降下速度が大きく低下して、生産性が低下するが、希釈した気体燃料を供給した場合には、固体燃料を増量した例と比較して燃焼速度を速くすることができるため、燃焼帯の降下速度は大気焼結の場合とほとんど差異が認められなかった。
【0135】
次に、発明者らは、希釈気体燃料の装入層中への供給位置の影響について調査するため、コークス炉ガス(Cガス)を2%に希釈した希釈気体燃料の吹込み位置を、装入層表面から100〜200mmの位置、200〜300mmの位置、300〜400mmの位置と変化させて焼結鍋実験を行い、その結果を図38に示した。
【0136】
ここで、図38の横軸における吹込み位置100〜200mmとは、図中で明るく(白く)示されている燃焼・溶融帯が装入層表面から100mm位置に移動した時から、試験鍋上方より希釈気体燃料の供給を開始し、その燃焼・溶融帯が200mmの位置に到達するまでの間、希釈気体燃料を吹き込んで燃焼させた例であり、その場合の燃焼・溶融帯(図中、燃焼・溶融帯は、明るく(白く)示されている)の進行状況を観察した結果を縦軸に示している。同様に、吹込み位置200〜300mmとは、燃焼・溶融帯が装入層表面から200mm位置に達した段階から300mmに到達するまでの間、希釈気体燃料を供給して燃焼させた例、そして吹込み位置300〜400mmとは、燃焼・溶融帯が装入層表面から300mm位置に達した段階から400mmに到達するまでの間、希釈気体燃料を供給して燃焼させた例を示したものである。また、比較として、希釈気体燃料の吹込みを行わない従来法の場合についても、燃焼・溶融帯の進行状況を調査した。なお、試験鍋の燃焼用空気の供給は、通常の焼結操業と同様に上方から下方に流れるので、気体燃料添加時は、この燃焼用空気に気体燃料が所定濃度になるように添加され、供給される。
【0137】
図38からわかるように、燃焼・溶融帯が装入層表面から100〜200mmの領域で希釈気体燃料を供給した場合には、従来法に比べ燃焼・溶融帯の厚さがわずかに大きくなる程度にとどまっている。これに対して、燃焼・溶融帯が200〜300mmの領域で希釈気体燃料を供給した場合には、従来法に比べて燃焼・溶融帯の厚みが明らかに拡大していることがわかる。また、300〜400mmの領域で供給した場合も、従来法に比べて明確に燃焼・溶融帯の厚みが拡大している。
【0138】
以上のことから、希釈気体燃料の吹込みは、燃焼・溶融帯の位置が装入層表面から200mm以下の領域となる部分に対して行われることが好ましいことがわかる。そして、装入層表面から200mm未満の領域については、気体燃料を供給しなくても、200mm以下の領域において気体燃料を供給することにより、この領域における焼結鉱のシャッター強度を大幅に向上できることから、成品焼結鉱の歩留りを全体として向上させることができる。また、気体燃料の供給位置を限定することによって、コスト低減を図ることもできる。
【0139】
図39は、装入層表面から200mmまでの上層部と、200mm以下の中、下層部の燃焼状況を模式的に示したものである。この図に示した矢印Aは、焼結の進行方向(燃料方向)を示し、図39(a)は上層部(<200mmまで)における粉コークスと気体燃料の燃焼位置を示している。この場合、粉コークスの燃料により形成される燃焼帯が装入層の上部では元々狭く、この粉コークスの燃焼帯と、この燃焼帯域で燃焼する気体燃料の燃焼点とが互いに接近しているため、同図の右側に記載したような温度パターンとなる。なお、この温度分布図においては、粉コークス(固体燃料)の燃焼域をハッチング部分で、その上方で燃焼する気体燃料の温度域を非ハッチング部分で示している。この図からわかるように、装入層上部では、コークスと気体燃料との燃焼が同時期に起こるため(両者が互いに接近して燃焼する)、図中のT1、T2で示す間の高温域保持時間(約1200℃相当)が図示のように狭いものになる。すなわち、ハッチング部分で示すコークス燃焼域がわずかに拡大する程度の温度分布となる。このことは、装入層中への前記気体燃料の供給は、燃焼・溶融帯の厚みが15mm以上になってから行うのが好ましいように、元々の高温域保持時間が狭い時には、気体燃料の吹込み効果が低いことを示している。
【0140】
一方、図39(b)は、中層、下層部分に気体燃料を供給した場合である。中層、下層域では燃焼帯が上層から下方へ移行するのに伴って装入層内の温度が上昇することから、燃焼帯の幅が拡大しており、希釈気体燃料は、図39(a)の場合よりも粉コークスの燃焼位置から離れた位置で燃焼するようになる。その結果、図38(b)の右側に示すような温度分布となる。即ち、気体燃料の燃焼点は、ハッチングして示す固体燃料(コークス)燃焼点より離れているため、合成された温度分布曲線はすそ野の広い温度分布になる。従って、T3、T4で示される固体燃料と気体燃料の燃焼に基づく高温域保持時間が延長されるので、得られる焼結鉱のシャッター強度が向上するのである。
【0141】
なお、図39(b)のケースにおいて、高温域保持時間を制御する(延長する)ための気体燃料の着火温度は、400℃〜800℃であることが好ましく、より好ましくは500〜700℃である。この理由は、着火温度を400℃未満にすると、高温域の拡大につながらず、単に低温域分布を拡大するに止まるだけであり、一方、800℃を超えると固体燃料の燃焼による高温域保持時間と接近しすぎて、最高到達温度の上昇を招くだけで、高温域保持時間の延長効果が小さくなるためである。
【0142】
次に、希釈気体燃料を供給して装入層中の最高到達温度(層内温度)を制御する方法の一例を説明する。図40は、焼結時における装入層内の温度分布を模式的に示すものであり、従来焼結法に相当する固体燃料(粉コークス)を5mass%添加したときの温度分布を基準として、Cガスを希釈して吹き込み、その分、コークス量を減らした本発明に係る焼結法を説明するものである。図中、曲線aは、コークスを5mass%添加して焼結した従来焼結法の層内温度と時間との関係を示したものである。一般に、高温域保持時間を延長するには、粉コークスの使用量を増加させることが行われている。しかし、例えば、粉コークスを10mass%添加した場合には、破線bで示したように、コークスの増量により高温域保持時間は(0−A)から(0´−B)に拡大するものの、最高到達温度も約1300℃から約1370℃〜1380℃まで上昇するため、低RDIかつ高強度の焼結鉱を得ることはできなくなる。
【0143】
この点、本発明法に従う焼結操業方法(曲線c)では、粉コークスの使用量を4.2mass%に抑える一方で、希釈Cガスを吹込むため、最高到達温度を1270℃に抑えることができると同時に、高温域保持時間は(0−C)に拡大するため、従来法では実現できなかった低RDIかつ高強度の焼結鉱を製造するという当初の目的を十分に果すことができる。
【0144】
次に、焼結層内において、気体燃料がどこで燃焼しているのか、即ち、燃焼ポイントがどこかを調査する目的で、直径300mmφの石英ガラス製試験鍋を用いてラボ焼結試験を行い、図41に示したように、サーモビュア(Thermo Viewer)と熱電対、ビデオからなる測温装置を用いて試験鍋の全面温度解析を行った。サーモビュアで測定される温度と実際に熱電対で測定される層内温度とは、図42に示すように強い相関があるので、サーモビュアで測定させる温度を補正して温度解析を実施した。
【0145】
図43は、焼結している最中における試験鍋の断面温度を測定した結果を示したもので、左側に示した例は、粉コークスのみで焼結する従来焼結法の場合であり、右側に示した例は、希薄濃度の都市ガス(LNG)を吹き込んだ場合である。図43の結果から、左側の粉コークスのみで焼結する従来焼結法の場合、1200℃以上の温度領域(薄い黄色の領域)が少ないにも関わらず、最高温度が1400℃を超える温度領域(白色の領域)が多く存在している。一方、右側の希薄濃度の都市ガスを吹き込んだ場合においては、燃焼帯の下端では粉コークスが燃焼しているが、その上部ではLNGが燃焼しており、粉コークスの燃焼している位置(燃焼帯下端)とLNGが燃焼している位置(溶融帯上部)の間は、若干温度が低くなっている領域が存在している。この若干温度が低くなっている領域の温度が1200℃以上となるようにLNGを燃焼させることにより、最高温度は粉コークス使用量を抑えて低くなるものの、1200℃以上の温度領域が広範囲に分布するようになり、その結果、高温域保持時間が延長されるのである。
【0146】
上記サーモビュアの結果を基に、焼結時の温度履歴をまとめて示したのが図44である。粉コークスのみで焼結した場合と比較して、LNGを吹き込むことで、最高温度が1400℃、好ましくは1380℃を超えることなく、1200℃以上の温度領域を約2倍に増加することができている。また、観察される2つのピークからなる温度パターンは、最初のピーク(原料層の上層側のピーク)がコークス燃焼帯上部で吹き込んだLNGの燃焼によるもので、2つ目のピーク(原料層の下層側のピーク)がコークスの燃焼によるもので、それらの燃焼による温度変化が組み合わされて生じたもの推察される。すなわち、コークス(炭材)燃焼と吹き込まれた都市ガスの燃焼が異なる位置で複合して起こることにより、コークス燃焼による最高到達温度が制御され(2つ目のピーク)、引き続くLNGの燃焼(1つ目のピーク)により、この両領域を結ぶ間は1200℃以上に保たれ、焼結鉱を生成するのに有効な燃焼・溶融帯を形成する1200℃以上の高温保持領域が大きく拡大し、その結果、燃焼・溶融帯の高温域保持時間が連続して延長されて、成品焼結鉱の強度が大幅に向上できたものと考えられる。
【0147】
要するに、従来焼結法は、高温域保持時間か最高温度制御のいずれか一方に着目した操業方法であった。これに対して、本発明法は、粉コークス使用量の調整(例えば、4.2mass%に抑制)の下で、最高到達温度を(1200〜1380℃)に調整する一方、希釈気体燃料の吹込みにより、高温域保持時間を調整する操業方法である。なお、図40の曲線dは、固体燃料使用量を単に4.2mass%に下げた例を示すものであり、最高到達温度も低く、高温域保持時間も短いため、高品質の焼結鉱は得られない。
【0148】
図45は、従来焼結法として、粉コークスを5mass%添加した例、および本発明の適合例として、粉コークス添加量を4.2mass%として濃度2.0vol%に希釈したCガス吹込みを併用した例における燃焼状況を示したものである。この図45のサーモビアからわかるように、従来法では、1400℃を超える燃焼状況が発生している。一方、粉コークスの使用量を4.2mass%にとどめ、濃度2vol%のCガス吹込みを行った本発明の場合、1400℃を超える領域はなくなり、最高到達温度は1380℃以下に抑えられていると同時に、高温域保持時間の延長が実現できていることがわかる。
【0149】
図46は、投入熱量一定の条件下において、希釈したプロパンガス吹込みによる、装入層内温度(a)、排ガス温度(b)、通過風量(c)、排ガス組成(d)の経時変化を示すものである。なお、装入層内温度は、上記試験鍋において、装入層表面下400mm(装入層厚:600mm)の位置に装入した熱電対で測定した値であり、また、試験鍋の円周方向では、中心部と壁から5mm位置の2箇所で測定した。これらの図から、希釈したプロパンガスを吹き込むことで、焼結原料が1200℃以上に加熱されて溶融している時間(高温域保持時間)は2倍以上に増加しているが、最高到達温度は上昇していないことが確認された。また、希釈気体燃料として、プロパンガスを吹き込むことで、排ガス中の酸素濃度が低下しており、酸素が効率的に燃焼反応に使われていることが推測された。
【0150】
また、図47は、0.5vol%に希釈したプロパンガスを吹き込んだ時と、コークスを10mass%に増量した時における、装入層内温度(a)、(a’)と、排ガス濃度(b)、(b’)の経時変化を対比して示したものである。これらの図より、粉コークスの使用量を倍増させた場合における1200℃以上の高温域保持時間は、濃度0.5vol%に希釈したプロパンガス吹込みを行った場合とほぼ同等であるが、最高到達温度が1380℃を大きく超えている。また、粉コークスの量を増加させることで、排ガス中のCO2濃度が20vol%から25vol%に大きく上昇し、さらにCO濃度も増加しており、粉コークスが燃焼に寄与する割合が低下していることが確認された。
【0151】
次に、表15に示す条件で焼結実験を行い、操業状況や焼結鉱の品質に及ぼす粉コークス比、プロパン濃度および空気温度の影響を調査した。試験No.1は、焼結原料中のコークスを5mass%配合した現状ベース条件、試験No.2は、粉コークスを1mass%低下させて4mass%とし、その代わりに0.5vol%のプロパンガスを吹き込んだ投入熱量一定条件、試験No.3は、粉コークスを10mass%配合した条件、試験No.4は、保熱炉(特開昭60−155626号公報)の効果を検証する目的で、450℃の高温ガスを吹き込む条件である。
【0152】
【表15】
【0153】
図48は、上記試験条件の変化による各種特性への影響をまとめたものである。この図48から明らかなように、希釈されたプロパンガス吹込みにより焼結時間が若干延長するものの、歩留やシャッター強度(SI)、生産率がともに改善されるとともに、還元粉化性(RDI)や被還元性(RI)も大きく改善されており、希釈気体燃料の吹込みを適正に行うことにより、生産率や歩留の改善の他、焼結鉱の高品質化が可能になることが確認された。
【0154】
これに対し、粉コークスを10mass%まで増加させただけの場合(No.3)は、焼結時間が延長するだけでなく、最高到達温度が必要以上に上昇するため、却って低強度の非晶質珪酸塩が多く生成して、シャッター強度と歩留が大きく低下した。また、450℃の高温ガスを吹き込む場合(No.4)では、シャッター強度と歩留の改善効果が小さく、これまでの商業設備における結果とほぼ同レベルでしかない。
【0155】
以上の説明からわかるように、希釈された気体燃料を用いる場合、このガスが装入層内で燃焼して、装入層内の燃焼帯の拡大をもたらすとともに、焼結原料中のコークスによる燃焼熱と、希釈されたプロパンガスの燃焼熱との相乗的な作用により、広い燃焼帯が形成される。その結果、最高燃到達温度が過剰に上ることなく、高温域保持時間を延長することができる。
【0156】
次に、発明者らは、希釈気体燃料の吹き込みによる、成品焼結鉱の被還元性、冷間強度等への影響について、従来法(5mass%、10mass%コークス、熱風吹込み)と対比して調査した。測定した項目は、成品焼結鉱中の鉱物組成割合(冷間強度と被還元性に影響)、見掛け比重(冷間強度に影響)、0.5mm以下の気孔径分布(被還元性に影響)である。
【0157】
図49は、成品焼結鉱中の鉱物相の組成割合を、粉末X線回折法によって調査した結果を示したものである。この図から、投入熱量一定(コークス4mass%+プロパン0.5vol%)として固体燃料と希釈プロパンガスを併用した場合には、カルシウムフェライトが安定して生成していることがわかる。そして、このことが、被還元性の向上と冷間強度の増加をもたらしているものと考えられる。
【0158】
図50は、プロパンガスの吹き込み有無による、成品焼結鉱の見掛け比重の変化を、また、図51は、プロパンガスの吹き込み有無による、水銀圧入式ポロシメーターによる0.5mm以下の気孔径分布の変化を測定した結果を示すものである。図50より、希釈されたプロパンガスの吹込みにより、見掛け比重が大きくなっていることがわかる。これは、プロパンガス吹込みにより、造粒粒子の外側からも加熱される結果、融液の流動が促進されて、0.5mm以上の気孔率が低下するためと考えられ、その結果、冷間強度が向上する。また、図51より、投入熱量一定として希釈プロパンガスを吹き込むことにより、0.5mm以下の気孔径の割合が増加していることがわかる。これは、焼結原料としての擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子中の熱源が減少することで、被還元性に影響を及ぼす鉱石由来の500μm以下の微細気孔が残留しやすくなったためであり、その結果、高被還元性焼結鉱の製造が可能となる。
【0159】
図52は、焼結燃料として、コークスのみを使用した場合(a)とコークスと希釈気体燃料を併用した場合(b)の焼結挙動を模式図に比較して示したものである。この図に示すように、従来のコークスのみを使用する焼結では、粉コークス燃焼によって擬似粒子内部から加熱していたが、本発明のように、コークス+気体燃料の併用方法では、気体燃料の燃焼により擬似粒子外部からも加熱されるため、鉱石内の微細気孔が残留しやすくなり、RDIが低い割に、還元率(RI)を高くすることができる。
【0160】
図53は、希釈した気体燃料を吹き込むことによる焼結鉱中の気孔分布の変化を模式的に示したものである。この図53に示すとおり、焼結鉱の生産性を向上するには、歩留と冷間強度に影響を及ぼす0.5〜5mm径の気孔の合体を促進してその数を減少させること、および、通気性に影響を及ぼす5mm径以上の気孔の割合を増加させることが有効である。また、焼結鉱の被還元性の向上には、主に鉄鉱石中に存在する0.5mm以下の微細気孔を多く残留させた気孔構造とすることが望ましい。この点、本発明によれば、希釈した気体燃料吹込みにより、理想的な焼結鉱の気孔構造に近づけることが可能であると考えられる。
【0161】
図54は、所望の冷間強度を維持するための限界コークス比を把握する試験の結果を示すものである。ここで、上記限界コークス比とは、シャッター強度(SI)が、希釈されたプロパンガス不使用の場合に得られる最大値(73%)と同等となるコークス添加量と定義する。この図に示すように、希釈された0.5vol%のプロパンガス吹込みにより、現状と同じ冷間強度(シャッター強度73%)を得ることができるコークス比は、図54(a)に示すように、5mass%から3mass%に低減(約20kg/t)している。また、図54(b)、(c)に示すように、74%の歩留りおよび1.86t/hr・m2の生産率を得るためのコークス比は、それぞれ5mass%から3.5mass%に低下していることがわかる。
【0162】
以上説明したところから明らかなように、本発明は、パレット8の進行に伴って、燃焼・溶融帯が装入層の表層から下層へ移る間に、含有する炭材量に応じて適切に希釈された気体燃料を、適所を選んで供給することにより、装入層内の燃焼・溶融帯の機能を拡大するような作用を生じさせることができ、焼結鉱の品質改善、生産性の向上を図ることができる。
【0163】
ところで、本発明においては、上述した気体燃料の供給による焼結鉱の品質改善、生産性の向上に加えて、前述したように、外装技術によって、パレット8に供給する擬似粒子の粒径が焼結鉱を形成するカルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量を抑制するように通常の外装時の調和平均径より大きい調和平均径に選定されている。
このため、前述した気体燃料の供給のみによる場合に比較してより高い品質の焼結鉱を得ることができる。
すなわち、実験装置として、図55に示す円筒状の鉄鍋50内に床敷層51を形成し、この床敷層51の上方に、表16に示す原料配合で、表17に示す4種類の水準T1〜T4で焼結鉱を生成する実験を行った。
【0164】
【表16】
【0165】
【表17】
【0166】
ここで、水準T1は、基本となる水準であり、表16で示す焼結原料を全て造粒装置1に入れて造粒して調和平均径が0.98mmの擬似粒子を形成し、この擬似粒子を使用して上述した気体燃料の供給を行うことなく焼結処理したものである。
【0167】
また、水準T2は、水準T1と同様の調和平均径が0.98の擬似粒子を使用して、点火終了後30〜430秒の間で気体燃料としてLNGを吹込んで焼結処理したものである。
さらに、水準T3は、造粒開始時に石灰石原料及び凝結材を除く焼結原料で造粒を開始し、その後造粒完了の10秒〜90秒前に石灰石原料及び凝結材を同時に又は順次投入して造粒することにより、表面に石灰石原料及び凝結材を外層した調和平均径が1.31mmとなる通常の石灰・コークス外装法によって生成した擬似粒子を使用して、気体燃料吹込みを行うことなく焼結処理したものである。
【0168】
さらに、水準T4は本発明によるもので、造粒開始時に石灰石原料及び凝結材を除く焼結原料で造粒を開始し、その後造粒完了の約30秒前に石灰石原料及び凝結材を同時に又は順次投入して造粒することにより、表面に石灰石原料及び凝結材を外層した調和平均径が1.31mmを超える1.33mmとした擬似粒子を使用して、気体燃料としてLNGを点火終了後30〜430秒の間で吹込んで焼結処理したものである。
【0169】
そして、各水準T1〜T4の実験結果を図5の(b)〜(d)に示す。
すなわち、歩留については、図5(b)に示すように、水準T1が69.9%、水準T2が72.6%、水準T3が70.9であり、本発明による水準T4では最大の74.0%となっている。
また、JPUについては、図5(c)に示すように、水準T1が15.9、水準T2が17.5、水準T3が18.5であり、本発明による水準T4では最大の19.7となっている。
【0170】
さらに、焼結時間については、図5(d)に示すように、水準T1が21.2分、水準T2が21.3分、水準T3が20.2分であり、本発明による水準T4では最小の19.8分となっている。
この図5(b)〜(d)の実験結果から、本発明による水準T4では、水準T3の外装法による擬似粒子の外大による焼結時間短縮効果と、水準T2のLNG吹込みによる歩留り向上効果の双方を兼ね備えていることが確認された。
【0171】
そして、水準T1〜T4で生成された焼結鉱の品質を表す生産率、還元粉化性(RDI)、シャッター強度及び被還元性(RI)について比較したところ、図56(a)〜(d)に示すようになった。
すなわち、生産率〔t/h・m2〕については、図56(a)に示すように、水準T1が1.40、水準T2が1.47、水準T3が1.49であり、本発明による水準T4では、1.60となっている。この結果によると、水準T1に対する生産率の増加量は水準T2が0.07、水準T3が0.09であり、本発明による水準T4では、水準T2及T3の増加量を加算した値0.16より大きな増加量0.20となっており、単に水準T2及びT3を加えた場合より大きな効果を得ることができた。
【0172】
還元粉化性(RDI)については、図56(b)に示すように、水準T1が34.3%、水準T2が36.2%、水準T3が30.2%であり、本発明による水準T4が31.7%となっている。ここで、還元粉化性(RDI)は小さい値の方が好ましく、本発明による水準T4が通常外装法による水準T3より大きい値となっているが、これは、LNG吹込みによる水準T2が基準となる水準T1に対して還元粉化性(RDI)が高くなっており、外装法とLNG吹込みとを行う本発明では、LNG吹込みのみによる還元粉化性(RDI)の悪化を大きく抑制して良好な還元粉化性を得ることができる。
【0173】
シャッター強度については、図56(c)に示すように、水準T1では75.1%、水準T2では77.9%、水準t3では78.3%であるのに対し、本発明による水準t4では、最大値となる79.3%となっている。そして、基準となる水準T1に対するシャッター強度の増加量は、水準T2が2.8%、水準T3が3.2%であるが、本発明による水準t4では最大の4.2%の増加量を得ることができた。
【0174】
同様に、被還元性(RI)についても、図56(d)に示すように、水準T1が60.6%、水準T2が66.8%、水準T3が68.8%となり、本発明による水準T4では最高値の71.5となっている。
この図56からか明らかなように、本発明による水準T4では、生産率、シャッター強度及び被還元性(RI)について最高値を得ることができ、還元粉化性(RDI)については水準T3よりは劣るがLNG吹込みのみによる水準T2の欠陥を補うことができており、全体として高品質の焼結鉱を生産することができた。
【0175】
そして、各水準T1〜T4についての焼結鉱の品質評価は、被還元性(RI)と還元粉化性(RDI)との関係は、図57(a)に示すように、本発明による水準T4では、外装法のみによる水準T3の破線図示の操業線より右下側となる操業船となり、高被還元性で且つ低還元粉化性の焼結鉱製造が可能であることが実証された。
また、図57(b)に示す微細気孔の残留を表す有効拡散係数De、×10−4〔m2/s〕とシリケート生成の抑制を表す化学反応速度定数Kc、×10−2〔m/s〕との関係から本発明による水準T4では、実線図示の等RI線(計算値)が右上の最良の状態にあり、右側に示すJIS−RIについても72%近くと最大となっており、これら有効拡散係数De及び化学反応速度定数Kcが被還元性(RI)の向上に大きく寄与している。
【0176】
さらに、前述した図28の実験容器を使用して燃焼実験結果を図58に示す。この図58では、水準T1、水準T2及び本発明による水準T4における点火後360秒後の燃焼状態、点火後720秒後の燃焼状態及び上層(100mm)、中層(200mm)、下層(300mm)の層内温度が示されている。この図58から明らかなように、水準T1では、図58(a)に示すように、点火後360秒及び720秒の燃焼帯の幅が狭く、上層、中層及び下層の1200℃以上の保持時間も短くなっているとともに中層及び下層では最高到達温度が1400℃を超える燃焼状態となっている。これに対して、LNGの吹込みを行う水準T2では、図58(b)に示すように、前述したと同様に、点火後360秒及び720秒の燃焼帯の幅が広くなり、上層、中層及び下層の1200℃以上の保持時間が長くなり、且つ最高到達温度が1400℃未満に抑制されている。さらに、本発明による水準T4では、点火後360秒及び720秒で水準T2と同様に燃焼帯の幅を広げることができ、最も必要とする上層1200℃以上の保持時間を水準T3よりも長くすることができ、最高到達温度も1400℃未満に抑制することができ、良好な燃焼状態を得ることができることが実証された。
【0177】
この図58では水準3についての実験結果を表示していないが、水準T1〜T4の上層(100mm)、中層(200mm)及び下層(300mm)の層内温度の測定結果を図に示す。図59(a)は1200℃以上の保持時間〔s〕を示し、水準T1に比較して、水準T2の各層の保持時間が増加しており、本発明による水準T4でも上層及び下層で水準T2より保持時間が増加し、中層では水準T2より下回るが水準T1に比較しては保持時間が増加している。これに対して、外装法のみの水準T3では、1200℃以上の保持時間が上層、中層及び下層の全てで水準T1より低下している。
【0178】
図59(b)は層内最高到達温度〔℃〕を示し、水準T1及びT3では、中層及び下層で1400℃を超えており、水準T2及び本発明による水準T4では、最高到達温度を1400℃未満に抑制されており、カルシウムシリケートの生成を抑制している。
このように、本発明による水準T4の1200℃以上の保持時間の増加及び中・下層内の最高到達温度の低下は、外装法による擬似粒子の粒子径が大きくなり、通気性の向上に伴い雰囲気酸素濃度が上昇して酸素富化状態となり、コークスとLNGの燃焼位置が開いたことによるものと推察することができる。
【0179】
この酸素富化状態によるLNG吹込み効果の向上は、前述したLNGのみを吹込む水準2では、図60(a)に示すように、気体燃料(LNG)の燃焼層と固体燃料(粉コークス)の燃焼層とが比較的近く、1200℃以上の保持時間が比較的短くなる。
これに対して、本発明による水準T4では、擬似粒子の径が大きくなって通気性を確保することができることから、酸素富化状態となって、燃焼速度が向上し、燃焼ポイントは低温側にシフトする。これによって、固体燃料(粉コークス)の燃焼ポイントは層下方にシフトし、KEL燃料(LNG)の燃焼ポイントは層上方にシフトすることになり、結果的に1200℃以上の保持時間が水準T2より長くなり、冷間強度の向上効果がより大きくなる。
【0180】
このため、本発明による水準T4では、図61(a)に示すように、生産率とシャッター強度との関係が、生産率を高めなかがらシャッター強度を向上させることができる。これに対して、基準となる水準T1では生産率及びシャッター強度がともに低く、水準T2及び水準T3では水準T1よりは生産率及びシャッター強度を改善することができるが、本発明による水準T4には及ばないことになる。
【0181】
さらに、燃焼速度(FFS)〔mm/min〕と歩留〔%〕との関係は、図61(b)に示すようになり、本発明による水準T4では実線図示の等生産率線が1.60となって、燃焼速度(FFS)が大きく且つ歩留りが大きい状態となる。これに対して、水準T1では、等生産率線が1.40となり、燃焼速度及び歩留我ともに低い状態となり、水準T2では等生産率線が1.45で少し上昇するが、燃焼速度は遅く、歩留はやや高い状態となる。さらに、外装法のみによる水準T3では等生産率線が1.50と高くなるが、燃焼速度が速くなる一方歩留りは水準T2より低くなる。
【0182】
そして、前述した図55の鍋実験によって生成した水準T1〜T4の焼結鉱を切断して粉末X線回折試験を行った結果を図62に示す。
この図62によると、基準となる水準T1ではカルシウムフェライ内に固溶するFeの量に対してLNGのみを吹き込む水準T2ではカルシウムフェライト内に固溶するFeの量が低下するが、本発明による水準T4のように外装法とLNGの吹込みとを併用する場合には、水準T1と略変わらないカルシウムフェライト内に固溶するFeの量を確保することができる。なお、図62で一番右側のLNG+2段外装とすることにより、カルシウムフェライト内に固溶するFeの量をより多く確保することができる。
【0183】
ここで、2段外装とは、図63に示すように、石灰石系粉原料及び固体燃料系粉原料(例えば粉コークス)以外の焼結原料をコンクリミキサー61で例えば180秒混合し、混合した焼結原料を7.6%の添加水を加えてドラムミキサー62に投入する。このドラムミキサ62の造粒時間は例えば360秒に設定され、造粒完了時点から例えば120秒前に石灰石系粉原料を投入し、次いで例えば90秒遅れた時点すなわち造粒完了時点から例えば30秒前の時点で固体燃料系粉原料としての粉コークスを投入して造粒することにより、最外層が凝結材としての粉コークスとなる擬似粒子を形成することである。この疑似粒子の粒径は1.31mmを超える粒径に調整される。そして、形成した2段外装擬似粒子を前述した図55に示す鉄鍋50に装入して0.4%のLNGを吹き込むことにより、焼結鉱を生成する。生成した焼結鉱を切断して粉末X線回折試験を行った結果が図62である。なお、2段外装する場合の石灰石系粉原料の投入時点は造粒完了時点から120秒前に限定されるものではなく、固体燃料系粉原料の投入時点よりも前に投入するようにすればよく、形成される擬似粒子の調和平均径が1.31mmを超える粒径となればよいものである。
【0184】
また、図64は、カルシウムフェライト内へのアルミナ固溶状態を示す粉末X線回折試験結果を示す写真であって、基準となる水準T1に比較してLNGのみを吹き込む水準T2では、全体に白っぽくなって、カルシウムフェライト内へのアルミナが固溶する量が増加する場合があるが、本発明となる外装法とLNGの吹込みとを併用する水準T4の場合には、白っぽさが抑制されて、水準T1に近い状態となり、カルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量を抑制することができる。この場合もLNG+2段外装状態とすると、カルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量をより抑制することができる。
ここで、カルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量が増加すると、カルシウムフェライト溶液の粘度が2〜3倍に増加し、カルシウムフェライトが結合材として作用するため、気孔形成が促進されず、通気性が低下して焼結鉱の品質に影響を与えることになる。
【0185】
しかしながら、本発明では、造粒装置1で、調和平均径の大きい擬似粒子を形成し、この擬似粒子をパレット8上に装入して装入層9を形成し、この装入層9の炭材に点火炉10で点火した後に液体燃料供給装置15A及び15Bで希釈鋭気体燃料を空気とともに混合した混合気体燃料を装入層9の上方から吹き込むので、擬似粒子の粒径が大きいことにより、通気性を確保することができるため、装入層9内の流速が上昇し、冷却速度(対流伝熱)が大きくすることができる。このため、図65に示すように、本発明となる外装法とLNGの吹込みとを併用する水準T4とするかさらに同様に本発明となるLNG+2段外装とすることにより、カルシウムフェライト内へのFeの固溶量を増加させるとともに、カルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量を低下させることができ、これによって前述したように成品となる焼結鉱の歩留り、シャッター強度、焼結時間等の品質を大幅に向上させることができる。
【0186】
また、擬似粒子の粒径が大きくなることにより、装入層9内の流速が上昇し、単位時間内に系に供給される風量(酸素物質量)が増加して酸素富化状態となる。このとき、内部に存在する炭材の量に変化はないことから酸素濃度の低下が抑制され、前述した図60(b)に示したように、1200℃以上の保持時間を長くして良好な品質の焼結鉱を高生産率で生産することができる。
【0187】
ここで、酸素(O2)量とカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量との関係は、図66に示すように、酸素濃度を10.4〔vol%〕から20.8〔vol%〕及び25.8〔vol%〕に増加させると、酸素濃度が増加するに従ってカルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量が減少していることが確認された。
この酸素富化状態とすることによるカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量の抑制効果は、ノンストイキオメトリー効果に起因するものと考えられる。
【0188】
このノンストイキオメトリー効果は、図67に示すように、酸素濃度が増加すると金属参加物表面の陽イオンが酸素イオンと結合し、カチオン空孔を生じる。Fe及びAlはともに空孔拡散気孔であるが、AlイオンはAlO33+の形で存在するためカチオン空孔を容易に拡散できない。したがって、酸素濃度が大きくなることで、Alイオンよりも拡散速度の大きいFeイオンがカルシウムフェライト中に多く固溶し、相対的にAlイオン濃度が薄くなったものと考えられる。
【0189】
このように、上記実施形態によると、カルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制するように調和平均径の大きい擬似粒子を造粒装置1で造粒し、この擬似粒子をパレット8上に装入して、装入層9を形成し、この装入層9の炭材に点火炉10で点火した後に、気体燃料供給装置15A,15Bで希釈気体燃料と空気との混合気体燃料を装入層9上に吹き込むことにより、1200℃以上の保持時間を長くしながら最高到達温度を1400℃未満に維持し、さらにカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制することにより、高品質の焼結鉱を高生産率で生産することができる。
【0190】
本発明に係る焼結鉱の製造方法を、日産2万トン規模のDL型焼結機に適用した。使用したDL焼結機の機長は、点火炉から排鉱部までが90mであり、この焼結機の点火炉の後方約30mの位置には、装入層上方500mmの高さに、長さ(パレット進行方向)15mの気体燃料供給パイプをパレット進行方向に沿って平行に9本配設し、そのパイプのそれぞれには、下方に向けて気体燃料を噴出するノズルを100mm間隔で149個取り付けた(合計1341個)構造の第1の気体燃料供給装置15Aを設置し、そのノズルから気体燃料として都市ガスを、高速で大気中に吐出させて、都市ガス濃度が0.8vol%の希釈気体燃料として装入層上に供給した。なお、装入層の全厚を600mm(但し、上層400mmには粉コークスを4.2mass%含有する焼結原料)積層し、上記気体燃料の供給位置は、燃焼・溶融帯が200〜300mmの位置に存在するときに相当する。上記のようにして供給した希釈気体燃料は、焼結機パレット下方のウインドボックスの吸引負圧制御により、装入層中に吸引・導入され、焼結層を通して上記位置に存在する燃焼・溶融帯で燃焼される。
【0191】
また、第1の気体燃料供給装置15Aの下流側に隣接させて第2の気体燃料供給装置15Bを複数例えば3台直列に設置し、そのノズルからコークス炉ガス(Cガス)を配管閉塞物質の付着を抑制することができる口径6mm以上好ましくは10mm以上で大気中に吐出させてコークス炉ガス濃度が0.8vol%の希釈気体燃料として装入層上に供給した。上記気体燃料の供給位置は、燃焼・溶融帯が500〜600mmの位置に存在するときに相当する。この場合には燃焼・溶融帯が深く装入層の表面には火種が全くないことから流速の遅いコークス炉ガス(Cガス)を噴射しても希釈気体燃料が装入層上で着火することはない。この上記のようにして供給した希釈気体燃料は、焼結機パレット下方のウインドボックスの吸引負圧制御により、装入層中に吸引・導入され、焼結層を通して上記位置に存在する燃焼・溶融帯で燃焼される。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明の技術は、製鉄用、とくに高炉用原料として使われる焼結鉱の製造技術として有用であるが、その他の鉱石塊成化技術としても利用することができる。
【符号の説明】
【0193】
1 造粒装置
2 ドラムミキサー
4 床敷きホッパー
5 サージホッパー
6 ドラムフィーダー
7 切り出しシュート
8 パレット
9 装入層
10 点火炉
11 ウインドボックス
15A 第1の気体燃料供給装置
15B 第2の気体燃料供給装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、下方吸引のドワイトロイド式焼結機を用いて高炉用焼結鉱を製造する際に用いる焼結用原料の製造方法に関するものである。より詳しくは、焼結原料中の石灰石原料と凝結材を焼結原料の造粒時擬似粒子の外層となるように造粒した擬似粒子化原料を使用して被還元性を高める焼結鉱を高強度化することができる焼結鉱の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高炉用原料として用いられる焼結鉱は、一般的に次のような焼結原料の処理方法を経て製造されている。図1に示すように、まず、粒径が10mm以下の鉄鉱石101、また、造滓源となり焼結副原料と呼称される、珪石、蛇紋岩、またはニッケルスラグなどからなるSiO2含有原料102、および石灰石などのCaOを含有する石灰石系粉原料103、ならびに凝結材と呼称される粉コークスまたは無煙炭などの熱源となる凝結材である固体燃料系粉原料104をドラムミキサー105を用いて、これに適当量の水分を添加して混合、造粒して擬似粒子と呼ばれる造粒物を形成する。この造粒物からなる配合原料は、ドワイトロイド式焼結機のパレット上に適当な厚さ例えば500〜700mm、あるいは900mmに達する厚みになるように装入して表層部の固体燃料に着火し、着火後は下方に向けて空気を吸引しながら凝結材である固体燃料を燃焼させ、その燃焼熱によって配合した焼結原料を焼結させて焼結ケーキとする。この焼結ケーキは破砕、整粒され、一定の粒径以上の焼結鉱を得る。一方、それ未満の粒径を有するものは返鉱となり、焼結原料として再利用される。
【0003】
このように製造された成品焼結鉱の被還元性は、従来から指摘されているように、とくに高炉の操業を大きく左右する因子となる。通常、焼結鉱の被還元性はJISM8713で定義されており、ここでは、焼結鉱の被還元性をJIS−R1と記す。
図2(a)に示すように、焼結鉱の被還元性(JIS−R1)と高炉でのガス利用率(ηCO)との間には正の相関があり、また、図2(b)に示すように、高炉でのガス利用率(ηCO)と燃料比との間には負の相関がある。このため、焼結鉱の被還元性(JIS−R1)は、高炉でのガス利用率(ηCO)を介して燃料比と良好な負の相関があり、焼結鉱の被還元性を向上させると、高炉での燃料比は低下する。
【0004】
なお、ここで、ガス利用率(ηCO)及び燃料比は、下記の通り定義される。
ガス利用率(ηCO)=CO2 (%)/[CO(%)+CO2 (%)]
ここで、CO(%)、CO2 (%)は、いずれも高炉の炉頂ガス中の体積%である。
燃料比=(石灰+コークス)の使用量(kg)/銑鉄(1ton)
さらに、製造された成品焼結鉱の冷間強度も高炉での通気性を確保する上での重要な因子であり、各々の高炉では、冷間強度の下限基準を設けて、操業を行っている。従って、高炉にとって望ましい焼結鉱とは、被還元性に優れ、冷間強度が高いものであると言える。表1に焼結鉱を形成する主要鉱物組織であるカルシウムフェライト(CF):nCaO・Fe2 O3 、ヘマタイト(He):Fe2 O3 、カルシウムシリケート(CS):CaO・SiO2 、マグネタイト(Mg):Fe3 O4 の4つの被還元性、引張強度を示す。表1に示すように、被還元性の高いものはヘマタイト(He)であり、引張強度の高いものはカルシウムフェライト(CF)である。
【0005】
【表1】
【0006】
望ましい焼結鉱組織とは、図3(a)に示すように、塊表面に強度の高いカルシウムフェライト(CF)を、塊内部に向かっては被還元性の高いヘマタイト(He)を選択的に生成させたものであり、被還元性や強度が低いカルシウムシリケート(CS)は可能な限り生成させないようにすべきである。
しかし、従来は、前述したように鉄鉱石、SiO2含有原料、石灰石系粉原料、固体燃料系粉原料を同時に混合・造粒しているため、図3(b)に示すように、擬似粒子構造では粗粒の核鉱石の周囲に粉鉱石、石灰、コークスが混在しており、焼結により得られた焼結鉱構造ではヘマタイト(He)、カルシウムフェライト(CF)、カルシウムシリケート(CS)、マグネタイト(Mg)の4つの鉱物組織が混在することになる。
【0007】
そこで、本出願人は特許文献1にて、高炉用焼結鉱を製造する焼結用擬似粒子原料として、粗粒の鉄鉱石を核とする第一層を有し、その第一層の外表面を凝結材および石灰石副原料以外の粗粒の第一層より細かい細粒の鉄鉱石およびSiO2含有原料を付着させた第二層を有するとともに、さらに第三層目として凝結材料および石灰石副原料を付着させる焼結用擬似粒子を得ることが最適であることを見出した。この擬似粒子原料は、焼結過程でCaOとSiO2 の反応が遅れ、冷間強度の低いカルシウムシリケート(CS)の生成が抑制され、塊表面に強度の高いカルシウムフェライト(CF)が、塊内部に向かっては被還元性の高いヘマタイト(He)が選択的に生成され、微細気孔が多く、被還元性に優れ冷間強度の高い焼結鉱が安定して製造可能になるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開番号WO01/92588号公報
【特許文献2】特開2004−27245号公報
【特許文献3】特開2004−190045号公報
【特許文献4】特開2004−204332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4に開示された焼結用原料の製造方法にあっては、粗粒の鉄鉱石を核として、その外表面に粗粒より細粒の鉄鉱石およびSiO2含有原料を付着させた第二層を有する造粒粒子を得て、その後に添加する凝結材および石灰石副原料を外層部分とするいわゆる三層からなる擬似粒子原料を得るが、この擬似粒子原料を用いた焼結鉱製造において、焼結鉱強度向上に改善の余地があった。
従って、本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、疑似粒子表面に石灰石副原料と凝結材(炭材)の外装を形成した疑似粒子を焼結原料として焼結を行う際に被還元性を維持したまま焼結鉱強度を向上させることができる焼結鉱の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記諸問題を解決するため、本発明のうち請求項1に係る焼結鉱の製造方法は、焼結原料を構成する返鉱を含む鉄鉱石原料と造滓成分を構成する副原料と凝結材とを造粒して擬似粒子化し、当該擬似粒子化原料を焼結機に装入して焼結する際に、前記造滓成分を構成する副原料中の石灰石副原料および前記凝結材を分離して残りの焼結原料を造粒して、擬似粒子化処理を行い、その造粒過程の後半に前記分離した石灰石副原料と凝結材を添加して前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子を得る造粒工程と、前記外層を保有した擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、当該パレット上に前記外層を保有した擬似粒子原料の装入層を形成する装入工程と、装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する点火工程と、気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈して、燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とし、該希釈気体燃料及び空気の混合気体燃料を前記パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、上記希釈気体燃料を装入層内に吸引し、当該希釈気体燃料を焼結層内において燃焼させると同時に、装入層内に吸引した空気により、該装入層内の炭材を燃焼させることにより、焼結ケーキを生成させる気体燃料燃焼工程とを備え、前記造粒工程で形成する擬似粒子径を、前記気体燃料燃焼工程での前記混合気体燃料の通風量を確保してカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制可能な粒径に選定したことを特徴としている。
【0011】
また本発明のうち、請求項2に係る焼結鉱の製造方法は、請求項1記載の発明において、前記造粒工程で形成する擬似粒子径を、冷却速度を速くし且つ酸素富化状態となる粒径に選定したことを特徴としている。
また本発明のうち、請求項3に係る焼結鉱の製造方法は、請求項2記載の発明において、前記造粒工程で形成する擬似粒子径は、調和平均径が1.31mmを超える粒径に設定したことを特徴としている。
【0012】
さらに本発明のうち、請求項4に係る焼結鉱の製造方法は、請求項1乃至3の何れか1項に記載の発明において、前記石灰石副原料と凝結材の外層は、両者を同時あるいは順次添加して形成される混合層であることを特徴としている。
また本発明のうち、請求項5に係る焼結鉱の製造方法は、請求項1乃至4の何れか1項に記載の発明において、前記石灰石副原料と凝結材の外層は、最外層が凝結材であることを特徴としている。
さらにまた本発明のうち、請求項6に係る焼結鉱の製造方法は、請求項1乃至5の何れか1項の発明において、前記気体燃料燃焼工程は、前記擬似粒子径を調整して燃焼帯への酸素濃度を調整することにより前記焼結層内の高温域保持時間を調整することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、擬似粒子では外層に凝結材と石灰石副原料が存在するため、まず、凝結材の表層の存在で、凝結材の効率燃焼(表層での燃焼)下で内層の粗流、細粒鉱石からなる内層部分をヘマタイト化、すなわち生鉱石状態で被還元性の優れた状態にでき、さらに外殻部分となる外層に位置する石灰石副原料により、焼結時カルシウムフェライトを生成するが、カルシウムシリケートへの移行も、その内側において、鉄鉱石原料中のSiO2と反応し、生成するカルシウムシリケートに反応上限られることになり、外殻にカルシウムフェライトが残存して引張り強度を維持して強度を保持している。そしてこの技術と、気体燃料燃焼工程で希釈気体燃料を使用し、希釈気体燃料の供給量および濃度の少なくとも一方を調整することにより焼結層内の高温域保持時間を調整する工程で前記内層部分の燃焼溶融域の高温域保持時間を確保する。このとき、造粒工程における疑似粒子径をカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制する径に選定することにより、疑似粒子原料装入層の通気性を確保して、冷却速度を増加させるとともに装入層内部の燃焼帯へ供給する酸素濃度を高めて、高品質の焼結鉱を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】焼結原料の混合、造粒の系統図である。
【図2】高炉における焼結鉱の被還元性とガス利用率との関係図及びガス利用率と燃料被との関係図である。
【図3】望ましい焼結鉱の組織構造を説明する図及び疑似粒子構造と焼結鉱の組織構造を説明する図である。
【図4】本発明に適用し得る焼結機を示す模式図である。
【図5】鍋実験の水準T1〜T4における擬似粒子の調和平均径、歩留、JPU、焼結時間の比較結果を示すグラフである。
【図6】本発明に係る気体燃料供給装置の構造例を説明する図である。
【図7】本発明に係る気体燃料供給装置の他の構造例を説明する図である。
【図8】焼結ケーキへの気体燃料供給位置の影響を調べる実験を説明する図である。
【図9】吹き消え現象が起こる噴出速度を調べる実験装置の写真である。
【図10】噴出口の開口径が1mmφにおける吹き消え現象調査結果を示す写真である。
【図11】ノズル圧とノズル流速との関係を示すグラフである。
【図12】長尺配管における圧損の影響を調べる実験装置の写真である。
【図13】本発明に係る気体燃料の吐出方法の例を説明する図である。
【図14】本発明に係る気体燃料の吐出方法の他の例を説明する図である。
【図15】本発明に係る気体燃料の吐出方法の他の例を説明する図である。
【図16】本発明に係る気体燃料の吐出方法の他の例を説明する図である。
【図17】気体燃料を水平方向に噴出させたときの気体燃料の希釈状況をシミュレートする条件を説明する図である。
【図18】LNGを開口径1mmφの噴出口から200m/sで水平方向に噴出したときの希釈状況をシミュレートした結果である。
【図19】LNGを開口径1mmφの噴出口から200m/sで水平方向に噴出したときの装入層に到達するまでおよび装入層内の希釈状況をシミュレートした結果である。
【図20】焼結機内における温度分布と歩留分布のグラフである。
【図21】コークス炉ガス拡散度測定装置を示す模式図である。
【図22】コークス炉ガス拡散度測定結果を示すグラフである。
【図23】下吹きガス拡散混合を解析するための配置図である。
【図24】下吹きガス拡散混合の解析結果を示す図(写真)である。
【図25】コークス炉ガスを開口径が10mmφの噴出口から3m/sで水平方向に噴出したときの希釈状況をシミュレートした結果である。
【図26】コークス炉ガスの鍋試験結果を説明する図である。
【図27】本発明に係る気体燃料供給プロセスを説明する図である。
【図28】Mガス吹き込みによる試験鍋内の燃焼溶融帯の変化を示す図(写真)である。
【図29】Mガス吹き込みを行った時の焼結操業条件、焼結鉱の特性に及ぼす影響を説明するグラフである。
【図30】高炉ガスの燃焼限界を求める方法を説明する図である。
【図31】メタンガスの燃焼下限濃度の温度依存性を示すグラフである。
【図32】大気中常温下における気体燃料の燃焼成分(燃焼ガス)濃度と温度との関係を説明する図である。
【図33】希釈気体燃料を吹き込み効果とガス種の関係を示す図である。
【図34】プロパンガスを吹き込んだ時のガス濃度とシャッター強度、歩留、焼結時間、生産との関係を示すグラフである。
【図35】焼結反応について説明する図である。
【図36】骸晶状二次ヘマタイトが生成する過程を説明する状態図である。
【図37】希釈プロパンガス吹込み時の燃焼帯の形態を観察した図(写真)である。
【図38】吹込み位置が燃焼状況に及ぼす影響を示す図(写真)である。
【図39】吹込み位置が燃焼状況に及ぼす影響を説明する図である。
【図40】焼結時における装入層内の温度分布を説明する模式図である。
【図41】石英ガラス製試験鍋を用いた焼結試験をサーモビュアで評価する方法を説明する図である。
【図42】サーモビュア測定温度と試験鍋層内実績温度との関係を示すグラフである。
【図43】石英ガラス製試験鍋を用いた焼結試験における燃焼状況を、従来焼結法と希釈ガス吹込を行う本発明法とでサーモビュアを用いて比較した図(写真)である。
【図44】石英ガラス製試験鍋内の温度分布を、従来焼結法と希釈ガス吹込を行う本発明法とで比較したグラフである。
【図45】粉コークスのみの場合と、粉コークスと希釈Cガス吹込みを併用した場合における燃焼状況を比較した説明図である。
【図46】投入熱量一定条件下において、希釈されたプロパンガスの吹込みによる、装入層内温度、排ガス温度、通過風量、排ガス組成の経時変化を示すグラフである。
【図47】希釈されたプロパンガス吹込み(0.5vol%)の時とコークス増量(10mass%)のみの時の、装入層内温度と、排ガス濃度の経時変化を示すグラフである。
【図48】各種吹込み条件下における焼結特性試験験結果を示すグラフである。
【図49】各種吹込み条件下における成品焼結鉱中の鉱物相の組成割合の変化を示すグラフである。
【図50】プロパンガスの吹き込み有無による、成品焼結鉱の見掛け比重の変化を示すグラフである。
【図51】プロパンガスの吹き込み有無による、水銀圧入式ポロシメーターによる0.5mm以下の気孔径分布の変化を示すグラフである。
【図52】コークスのみを使用した場合とコークスと希釈気体燃料を併用した場合の焼結挙動を示した模式図である。
【図53】希釈した気体燃料を吹き込んだ場合における焼結鉱の気孔分布の変化を示す模式図である。
【図54】冷間強度を維持できる限界コークス比を把握する実験結果を示すグラフである。
【図55】焼結実験装置を示す図である。
【図56】焼結実験の水準T1〜T4において生成した焼結鉱の生産率、還元粉化性、シャッター強度、被還元性の測定結果を示すグラフである。
【図57】被還元性及び還元粉化性の関係と、有効拡散係数及び科学反応速度定数の関係とを示すグラフである。
【図58】水準T1、T2及びT4の燃焼状態及び層内温度を示す説明図である。
【図59】水準T1〜T4における1200℃以上の保持時間及び層内最高到達温度を示すグラフである。
【図60】水準T2及び水準T4の燃焼状態及び1200℃以上の保持時間を示すグラフである。
【図61】水準T1〜T4の生産率及びシャッター強度の関係と燃焼速度及び歩留の関係を示す説明図である。
【図62】水準T1〜T4及びLNG+2段外装のカルシウムフェライト内へのFe固溶状態を示す図(写真)である。
【図63】2段外装の疑似粒子を形成する造粒方法の説明図である。
【図64】水準T1〜T4及びLNG+2段外装のカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶状態を示す図(写真)である。
【図65】水準T2、T4及びLNG+2段外装における冷却速度とカルシウムフェライト内へのFe及びアルミナの固溶量状態を示す図(写真)である。
【図66】酸素濃度とカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶状態を示す図(写真)である。
【図67】ノンストイキオメトリー効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本出願人が見出した、粗粒の鉄鉱石を核として、その外表面に粗粒より細粒の鉄鉱石およびSiO2含有原料を付着させた第二層を有する造粒粒子を得て、その後に添加する凝結材および石灰石副原料を外層部分とするいわゆる三層からなる擬似粒子原料を用いた焼結鉱製造においては、擬似粒子では凝結材が擬似粒子の外側に被覆されて外層に凝結材が存在するため、凝結材の効率燃焼(表層での燃焼)下で、焼結鉱内部に高被還元性のヘマタイトがより多く残留するため、被還元性が向上し、高炉における還元材比が低減できる利点があった。しかし、凝結材を擬似粒子の外側に被覆しているため、酸素との接触確率が高く(高効率燃焼)、燃焼速度が速くなるため、1200℃以上の保持時間が短くなり、上層部での強度が低下する懸念があった。また、近年、使用する焼結原料が劣質鉄鉱石原料、例えば脆弱原料である多孔質鉱石、あるいは高結晶水鉱石を多配合した際、前記内層部分の強度が石灰石を外すことにより融液不足となって強度低下が生じる恐れがあること、あるいはアルミナ分の混入などで焼結原料自体が脆弱になる状況下の焼結操業においては、1200℃以上の保持時間が短くなりも強度低下が生じる恐れがあることが見出された。
【0016】
そのため、本発明においては、原理的には問題のない凝結材および石灰石副原料を外層部分とする擬似粒子化原料の環境条件による強度変動を抑えるべく、気体燃料を燃焼させる焼結操業法と組み合わせ、本発明を完成させたものである。
本発明において、外層保有の擬似粒子原料とは、凝結材および石灰石副原料を外層部分とする擬似粒子であり、内質は、粗粒の鉄鉱石を核として、その外表面に粗粒より細粒の鉄鉱石およびSiO2含有原料を付着させた第二層を有する造粒粒子、あるいは内質核を難焼結原料から構成された複合層を有する造粒粒子、例えば難焼結原料であるマラマンバ鉱石の粗粒を核としその周囲を細粒マラマンバ鉱石としその外側部分を通常の焼結原料を被覆造粒した第三層を有する造粒粒子としたものなど組み合わせは自由であるが、最外層に凝結材および石灰石副原料の外層部を有する擬似粒子であれば適用可能である。
【0017】
さらに、前記造粒擬似粒子を用いて焼結鉱を製造する、本発明に係る焼結鉱の製造方法では、前記外層保有の擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、パレット上に前記外層保有の擬似粒子原料の装入層を形成する装入工程と、装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する点火工程と、気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈して燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とし、パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、前記希釈気体燃料及び空気を装入層内に吸引し、該希釈気体燃料を焼結層内において燃焼させると同時に、装入層内に吸引した空気により、当該装入層内の炭材を燃焼させることにより、焼結ケーキを生成させる気体燃料燃焼工程とを有する焼結鉱の製造方法である。
【0018】
前記装入工程は、循環移動するパレット上に前記外層保有の擬似粒子焼結原料を装入して、パレット上に焼結原料の装入層を形成する工程であり、前記点火工程は、装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する工程である。また、前記希釈気体燃料燃焼工程は、気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈し、燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とし、パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、上記希釈気体燃料および空気を装入層内に吸引し、該希釈気体燃料を装入層内において燃焼させるとともに、装入層内に吸引した空気により、該装入層内の炭材を燃焼させ、発生する燃焼熱によって、焼結原料を焼結し、焼結ケーキを生成させる工程であり、上記希釈気体燃料生成工程および燃焼工程を用いることが本発明における特徴である。
【0019】
ここで、造粒工程で形成する表面に石灰石原料および凝結材の外層を形成した装疑似粒子の径を気体燃料燃焼工程での混合気体燃料の通風量を確保してカルシウムフェライト内へのアルミナ雇用量を抑制可能な粒径に設定して焼結鉱の高品質化を図るものである。
図4は本発明の焼結機を示す概略構成図であって、焼結原料を構成する返鉱を含む鉄鉱石原料と造滓成分を構成する副原料と凝結材とを造粒して擬似粒子化する造粒装置1を有し、この造粒装置1で造粒した擬似粒子をサージホッパー5に貯留すると共に、整粒した塊鉱石を床敷ホッパー4に貯留しておく。
【0020】
ここで、造粒装置1では、擬似粒子化原料を焼結機に装入して焼結する際に、前述した造滓成分を構成する副原料中の石灰石副原料および前記凝結材を分離して残りの焼結原料を造粒して、擬似粒子化処理を行い、その造粒過程の後半(造粒処理完了10〜90秒前)に前記分離した石灰石副原料と凝結材を添加して前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した焼結原料としての擬似粒子を製造する。
【0021】
このとき、造粒工程の造粒処理完了30秒前に石灰石副原料と凝結材を添加して、両者を30秒造粒することにより、表面に石灰石原料と凝結材との外層を形成した最も大きな擬似粒子を得ることができる。すなわち、図5(a)に示すように、外装を行わない場合の擬似粒子の調和平均粒径は0.98〜0.99mmであるのに対して通常の外装を行う場合の調和平均径は1.31mmとなり、造粒処理完了30秒前に石灰石副原料と凝結材を添加して造粒を行った場合には通常の外装による調和平均粒径1.31mmを超える調和平均粒径1.33mmの粒径を得ることができる。
【0022】
このように、表面に石灰石原料と凝結材との外層を形成した擬似粒子の調和平均粒径を、1.31mmを超える値に選定することにより、後述する気体燃料燃焼工程での通気性を確保して、高温保持時間経過後の冷却速度を速くするとともに、燃焼帯へ供給する酸素濃度を高くしてカルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量を抑制することができ、焼結鉱を高品質化することができる。
【0023】
この造粒装置1としては、鉄鉱石、SiO2含有原料、石灰石系粉原料および凝結材としての固体燃料系粉原料からなる焼結原料を、ドラムミキサー2を用いて造粒するに際し、ドラムミキサー2の装入口から石灰石系粉原料(例えば粉石灰石)および固体燃料系粉原料(例えば粉コークス)を除く残りの焼結原料を装入して造粒するとともに、この焼結原料が前記ドラムミキサーの排出口に到達するまでの滞留時間が10〜90秒範囲となる下流側途中に設定した領域にベルトコンベヤ3で石灰石系粉原料および固定燃料系粉原料を添加し、排出口に至る間に石灰石原料と固体燃料系原料を焼結原料の外装部に付着・形成するようにした焼結用原料の製造方法を適用することができる。
【0024】
また、石灰石副原料と凝結材を分離した前記残りの焼結原料は、凝結材の混入が1.5mass%以下とされた焼結原料とされている。
なお、1つのドラムミキサー2を用いて造粒する場合に代えて、第1及び第2のドラムミキサーを適用し、第1のドラムミキサーに、石灰石系粉原料(例えば粉石灰石)および固体燃料系粉原料(例えば粉コークス)を除く残りの焼結原料を装入して造粒し、造粒した焼結原料に石灰石系粉原料(例えば粉石灰石)および固体燃料系粉原料(例えば粉コークス)を加えて第2のドラムミキサーに装入して造粒するようにしてもよい。
【0025】
そして、無端移動式の焼結機パレット8の移動に伴って、床敷ホッパー4から整粒した塊鉱石を切り出して焼結機パレット8のグレート上に床敷層を形成させ、この床敷層上にサージホッパー5からドラムフィーダー6と切り出しシュート7を介して、焼結原料としての疑似粒子が装入されて、焼結ベッドとも言われる400〜800mm程度の厚さ(高さ)の装入層9を形成する。
【0026】
そして、切り出しシュート7の下流側には、装入層9の上方に点火炉10が配設され、この点火炉10で、装入層9の表層中の炭材に点火する。この点火炉10には、製鉄所内のコークス炉で発生する所謂Cガスと称されるコークス炉ガスが供給されており、このコークス炉ガスを燃焼させることにより、装入層9の表層中の炭材に点火する。
この点火炉10の下流側には、この点火炉10の下流側に複数の気体燃料供給装置15が配設されている。これら気体燃料供給装置15は、点火炉10に近い下流側に配設された気体燃料を小口径の噴出口から吹き消え現象が起こる流速で噴出させる第1の気体燃料供給装置15Aと、この第1の気体燃料供給装置15Aの下流側にさらに配設された第2の気体燃料供給装置15Bとを備えている。
【0027】
上記第1の気体燃料供給装置15Aとしては、具体的には、図6に示したように、パレットの幅方向に沿って、複数の気体燃料供給パイプを配設し、そのパイプには、気体燃料を吐出するスリットあるいは開口を設けるかまたはノズルを配設した気体燃料供給手段を有するもの、あるいは、図7に示したように、パレットの進行方向に沿って、複数の気体燃料供給パイプを配設し、そのパイプには、気体燃料を吐出するスリットあるいは開口でなる噴出口を設けるかまたはノズルを配設した気体燃料供給手段を有するものであるが好ましい。
【0028】
また、上記第1の気体燃料供給装置15Aは、例えば、気体燃料供給パイプやノズル等に流量制御手段を設けることにより、パレット幅方向における気体燃料の供給量を制御することができることが好ましい。特に、パレット幅方向のサイドウォール近傍では、横風の影響を受けて、供給した気体燃料が機側方向に流されたり、機外に漏出したりして、気体燃料濃度が希薄になるおそれが高いので、そのサイドウォール近傍に気体燃料を多く供給できるようにしたものであることが好ましい。
【0029】
また、上記気体燃料供給装置は、気体燃料を、装入層の上方で、大気中に高速で吐出させ、それによって周囲の空気と短時間で混合し、その気体燃料の燃焼下限濃度以下の濃度に希釈し、その後、装入層中にその希釈気体燃料を導入する必要がある。
本発明において、上記のように装入層9の上方で気体燃料を大気中に高速で吐出し、その気体燃料を燃焼下限濃度以下に希釈するのは、以下の理由による。
【0030】
表2は、本発明で用いることができる代表的な気体燃料の燃焼下限濃度、供給濃度等を示したものである。焼結原料中に気体燃料を供給する時のガス濃度は、爆発や火災(着火)を防止するには、燃焼下限濃度より低いほど安全である。都市ガスは、Cガス(コークス炉ガス)と燃焼下限濃度が近似しているが、熱量がCガスよりも高いことから、供給濃度を低くできる。したがって、安全性を確保する観点からは、供給濃度を低くできる都市ガスの方がCガスよりも優位である。
【0031】
【表2】
【0032】
表3は、気体燃料中に含まれる燃焼成分(水素,CO,メタン)と、それら成分の燃焼下限・上限濃度、層流、乱流時の燃焼速度等を示したものである。焼結中に気体燃料供給装置から供給している気体燃料への着火を防止するには、逆火防止を図る必要があるが、そのためには、気体燃料を、少なくとも層流燃焼速度以上、好ましくは乱流燃焼速度以上の高速で吐出させれば良いと考えられる。例えば、メタンを主成分とする都市ガスの場合には、3.7m/sを超える速度で吐出させれば、逆火のおそれはないわけである。
【0033】
一方、水素ガスは、乱流燃焼速度がCOやメタンと比較して速いため、逆火を防止するには、その分、高速で吐出させる必要がある。つまり、表2に示した気体燃料の中では、水素を含まない都市ガスは、水素を59vol%含有するCガスと比較して、吐出速度を遅くすることができる。しかも、都市ガスは、COを含まないので、ガス中毒を起こすおそれもない。
【0034】
したがって、安全性を確保する観点からは、都市ガスは、本発明において使用する気体燃料として好ましい特性を有するものであると言える。メタンを主成分とする天然ガスも同様である。もちろん、Cガスも、気体燃料として使用することができるが、その場合には、ガス吐出速度を高める(速める)こと、および、CO対策を別途講ずることが必要となる。
【0035】
【表3】
【0036】
表4は、気体燃料を供給する形式による得失を評価した結果を示したものである。表中、直上吹込み形式とは、都市ガスやCガス等の気体燃料を、高濃度のまま吐出して周囲の大気を巻き込ませることにより所定の濃度に希釈し、装入層中に吸引(導入)させる形式のことであり、予混合吹込み形式とは、あらかじめ大気と気体燃料とを混合して所定の濃度まで希釈したものを装入層上に供給し、装入層中に吸引(導入)させる、いわゆるプレミックス形式のことである。
直上吹込み形式では、上述した乱流燃焼速度以上の速度で気体燃料を吐出すれば、逆火防止は容易であるが、気体燃料を周囲の大気と混合し希釈させる際、濃度ムラが発生しやすいため、異常燃焼を起こす可能性が、予混合吹込み形式に比べて高い。しかし、設備コストを含めて総合的に評価した場合には、都市ガスの直上吹込みが最も優位である。
【0037】
【表4】
【0038】
また、本発明では、第1の気体燃料供給装置15Aにより、気体燃料を装入層9の上方で大気中に高速で吐出させ、それによって周囲の空気と短時間で混合させて、その気体燃料の燃焼下限濃度以下の濃度に希釈し、その後、装入層中にその希釈気体燃料を導入するが、その理由は以下による。
図8(a)に示したような内径300mmφ×高さ400mmの焼結鍋に焼結ケーキを充填し、その焼結ケーキの中央部の上から深さ90mmの位置にノズルを埋め込み、対空気で1vol%となるよう100%濃度のメタンガスを吹き込み、焼結ケーキ内の円周方向および深さ方向におけるメタンガス濃度を測定し、その結果を表5に示した。
【0039】
一方、図8(b)に示したように、同じノズルを用いて、焼結ケーキの上方350mmの位置からメタンガスを大気中に供給して上記と同じ濃度となるよう希釈した場合について、上記と同様にして焼結ケーキ内のメタンガス濃度の分布を測定し、その結果を表6に示した。
これらの結果から、メタンガスを焼結ケーキ中に直接導入した場合には、メタンガスの横方向への拡散が不十分であるのに対して、メタンガスを焼結ケーキ上方で希釈して供給した場合には、焼結ケーキ内のメタンガス濃度はほぼ均一化していることがわかる。以上の結果から、気体燃料は、焼結ケーキの上方で空気中に供給することにより、装入層9内に導入される前に、均一に希釈しておくことが好ましいことがわかる。
【0040】
【表5】
【0041】
【表6】
【0042】
次に、本発明においては、第1の気体燃料供給装置15Aの気体燃料供給パイプに設けられたスリットやノズル等の噴出口から気体燃料を噴出させる速度は、逆火を防止する観点から高速で吐出させる必要がある。すなわち、気体燃料は、装入層表層に吸引・導入される段階までに、希釈されて燃焼下限濃度以下となっている。
しかし、本発明の焼結操業においては、焼結パレット内に燃焼・溶融帯を形成するあるいは形成しつつある焼結層が存在し、常に火種を有する状態において、装入層の上方で、気体燃料の供給が行われる。
【0043】
従って、何らかの火種によって、気体燃料供給装置から供給された気体燃料に着火した場合、ノズル等から吐出させる気体燃料の流速が遅いと、逆火を起こして、気体燃料供給装置や気体燃料供給パイプ内で爆発・燃焼を起こすおそれがある。
そこで、気体燃料に着火しても、逆火しないようにするために、気体燃料の噴出速度は、その気体燃料が有する燃焼速度以上、より好ましくは、乱流燃焼速度以上の速度で吐出させるのが望ましいと考えられる。因みに、メタンガスの層流燃焼速度は、約0.4m/s、乱流燃焼速度は、約4m/sである。
【0044】
そこで、上記燃焼速度で実際に吹き消えが起こる条件を確認する実験を行った。
この実験では、図9に示したように25Aの配管に、開口径が1mmφ、2mmφおよび3mmφの噴出口を加工し、この配管にLNGガスを供給して上記噴出口からLNGガスを噴出させ、その噴出したLNGガスに点火源を用いて点火し、その後、上記点火源を引き離したときに吹き消えが起こる噴出速度を測定した。ここで、上記噴出速度は、LNGガスのヘッダー圧を変えることにより制御した。
【0045】
その結果、噴出口の開口径が1mmφでは、LNGガスのヘッダー圧を300mmH2O以上とし、気体燃料の噴出速度を70m/s以上としたときに、また、2mmφの開口径では、LNGガスのヘッダー圧を550mmH2O以上とし、気体燃料の噴出速度を130m/s以上としたときに吹き消えが起こることがわかった。一方、3mmφの開口径では、LNGガスのヘッダー圧を2000mmH2Oとして音速を超える速度で気体燃料を噴出させても、噴出口での気体燃料の燃焼は防止できたとしても、その下流の低速部で燃焼を起こす、いわゆる煽火が発生し、確実に吹き消すことはできなかった。参考として、開口径が1mmφのときの実験結果を図10に示した。
【0046】
上記のように、LNGガスあるいはLNGガスと同等の燃焼速度を有する燃料ガス(例えば、メタン、エタン、プロパンガス等)を用いる場合、吹き消しを起こさせて逆火を防止するには、少なくとも開口径は3mmφ未満とする必要があることがわかった。また、気体燃料の噴出速度は、単に燃焼速度以上としただけでは、噴出口での燃焼は防止できても、その下流で低速となった部分での燃焼(煽火)を防止することはできない。
【0047】
そこで、本発明では、斯かる煽火をも防止するために、吹き消え現象が起こる速度以上で噴出口から気体燃料を噴出させることとした。そして、この吹き消え現象を起こさせるためには、気体の噴出口を開口径3mmφ未満の大きさとして高速で気体燃料を噴出させる必要があり、例えば、開口径が1mmφ相当の場合は70m/s以上、開口径が1.5mmφ相当の場合は100m/s以上、開口径が2mmφの場合は130m/s以上の高速で噴出させることが好ましい。
【0048】
なお、本発明を実機に適用する場合の好ましい開口径は0.8〜1.5mmφの範囲である。0.8mmφ未満では、配管に穴加工することが難しくなり、また、ガス中に含まれる粉塵等によって閉塞を起こしやすくなるからである。一方、1.5mmφ超えでは、吹き消しを起こさせるためには比較的大きな噴出速度が必要となるため、安全性を確保するためには噴出速度は低い方が好ましいからである。
ところで、上記説明では、噴出口の形状を円とし、その直径で大きさを説明してきたが、開噴出口の形状は、同一の開口面積を有するものであれば特に円に限定されるものではなく、例えば、楕円形状のものや溝状(スリット)としたものでもよい。
【0049】
また、気体燃料の噴出速度は、開口径の他に、気体燃料の供給圧力によっても変化するため、上記吹き消えが起こる噴出速度を確保するには、開口を形成するノズル圧力とノズル流速(噴出速度)の関係に基づき制御を行えばよい。図11は、空気を噴出させる場合を例にとって、ノズル圧とノズル流速との関係を示したものであり、気体燃料のガス密度(ρ)を代入すれば、下記式;
ΔP=ρ・V2/(2・g)
ここで、ΔP:ノズル差圧(mmH2O)、ρ:30℃における気体燃料の密度(kg/m3)、V:ノズル流速(m/s)、g:重力加速度(m/s2)である。
を用いてノズル流速を求めることができる。
【0050】
また、LNGガスを開口径が1mmφの孔から噴出させる場合には300mmH2Oで70m/s、1.5mmφの孔から噴出させる場合には700mmH2Oで100m/sの速度で噴出させることが可能で、吹き消しを起こさせることができる。
また、気体燃料を吐出させる配管が長尺である場合、一般に、気体燃料の供給元に近いほど高速で噴出し、供給元から遠くなるほど噴出速度が遅くなることが予想される。そこで、図12の写真に示したように、開口径1mmφの噴出口をピッチ160mmで76個開け、先端を閉塞した長さ6mの長尺配管(25A)を用い、この配管の片側端から空気を元圧0.1〜1.00kg/cm2・Gの範囲で変化させて供給し、上記噴出口から空気を噴出させ、このときの配管長さ方向の圧力変化を測定した。
その実験の結果は表7に示したが、この実験条件(配管径、噴出口)の範囲内では、元圧と配管末端部の圧力にほとんど差はなく、したがって、各噴出口から均等にガスが噴出していることがわかった。
【0051】
【表7】
【0052】
ただし、上記実験範囲を外れる条件では、元圧と配管の末端部の圧力差が大きくなる可能性がある。そこで、そのような場合には、
(a)配管内の断面積を徐々に小さくしたテーパー状配管を用いる
(b)燃料供給元ヘッダーより遠ざかるほど、開口断面積を大きくする
(c)燃料供給元ヘッダーより遠ざかるほど、開口部やノズルのピッチを狭め、単位配管長さ当りの開口部ないしノズル断面積の和が大きくする、
のいずれか1つを適用するか、これらを組み合わせて適用することにより、均等に燃料を供給することができる。
【0053】
次に、上記気体燃料を、空気中に吐出させる方向については、種々の形態を採用することができ、例えば、図13のように、気体燃料を噴出口から装入層に向かって下方(鉛直下方)に吐出させることにより、その一部を装入層表面で反射させて希釈させる方法、図14のように、気体燃料を噴出口から装入層表面に平行(水平方向)に吐出させることにより装入層に導入されるまでの経路を長くし希釈を促進させる方法、あるいは、図15のように、気体燃料を噴出口から邪魔板(反射板)に向かって吐出し、反射させることにより希釈を促進する方法、図16のように、気体燃料供給パイプに設けられた気体燃料の噴出口の向きを、装入層表面に向かって±90度の範囲で多方向に分散させて希釈を促進する方法などを採用することができる。さらに、上記図16の変形態様として、気体燃料供給パイプの軸を中心に回転可能とし、吐出方向を揺動させる構造とすることもできる。
【0054】
なお、気体燃料を吹き消えが起こる噴出速度で供給する以上述べた手段を有する第1の気体燃料供給装置15Aとすれば、安全上十分な機能を有し、フードで囲った内部に、気体燃料供給装置15Aを配した図6,図7で示される設備、あるいは焼結原料を予め予熱して焼結を行うための保温炉、あるいは排ガス循環フードを利用した気体燃料を吹き消えが起こる噴出速度で供給する気体燃料供給装置15Aであってもかまわない。
【0055】
なお、上記気体燃料供給装置での気体燃料の吐出は、装入層表面の上方300mm以上の高さで行うことが好ましい。その理由は、以下の通りである。
図17に示したような、気体燃料の噴出方向が水平方向となるよう25Aの配管の両側面に開口径が1mmφの噴出口を112mmピッチで開けた気体供給配管を、焼結ベッド(装入層)の上の500mm位置に、400mmの間隔をもたせてパレット進行方向に平行に配列し、上記噴出口から200m/sの速度でLNGを大気中に噴出して周囲の空気と混合し、LNGを目標濃度0.8%に希釈させたときの均一化状況をシミュレーションした。なお、上記気体供給配管は、隣接する配管の噴出口が互いに56mmずつずれ、噴出した気体燃料が衝突しないように配列した。また、実焼結機を模して、焼結ベッドの上表面では、下方に0.9m/sの吸引速度で空気が吸引されているものとした。
【0056】
図18は、開口径が1mmφの噴出口から200m/sの速度で噴出されたLNGが、焼結ベッド上方で周囲の空気と混合して希釈されて行く様子を示したものである。この図18から、上記条件で噴出されたLNGの濃度は、噴出口から約100mm程度のところで、LNGの燃焼下限濃度である4.3%まで希釈されていること、したがって、それ以降であればLNGは理論上燃焼を起こすおそれがないことがわかる。
【0057】
また、図19は、開口径が1mmφの噴出口から200m/sの速度で噴出されたLNGが、焼結ベッド表面に到達するまでおよび焼結ベッド層内でどのように拡散し、希釈されていくかを示したものである。この図19から、上記噴出条件であれば、LNGは、焼結ベッド上200mm(噴出口下300mm)の位置では0.28〜1.14%に、また、焼結ベッド表面に達した段階では0.51〜1.14%にまで希釈されており、さらに、焼結ベッド層中層に至るまでに0.69〜0.87%に、さらに焼結ベッド下面に至るまでに0.75〜0.81%に希釈されていることがわかる。
【0058】
以上の結果から、LNGを、焼結ベッド(装入層)上方で高速で空気中に噴出させることにより、空気と十分に混合して均一に希釈されること、特に、噴出口の下300mmでは、おおむね均一に希釈されていることがわかった。そこで、第1の気体燃料供給装置15Aでは、この結果と、噴出した気体燃料の装入層表面における跳ね返りを考慮し、気体燃料の大気中への供給は、装入層表面の上方300mm以上の高さで行うこととする。
【0059】
本発明において、第1の気体燃料供給装置15Aによって装入層中に供給する気体燃料としては、高炉ガス(Bガス)、コークス炉ガス(Cガス)、高炉ガスとコークス炉ガスとの混合ガス(Mガス)、都市ガス、天然ガス(LNG)またはメタン、エタン、プロパン、ブタンガス、あるいはこれらの混合ガスのいずれかを用いることができる。本発明では、これらの気体燃料のいずれかを空気中に高速で吐出し、空気と混合させて希釈気体燃料とし、装入層中に供給(導入)する。
【0060】
上記希釈気体燃料は、その中に含まれる可燃性ガス(燃焼成分)の濃度を、大気中の常温における燃焼下限濃度の75%以下まで希釈した気体燃料であることが好ましく、より好ましくは燃焼下限濃度の60%以下、さらに好ましくは燃焼下限濃度の25%以下の濃度にまで希釈したものであるのが好ましい。燃焼下限濃度以下の75%以下に希釈した可燃性ガスを使用する理由は、下記の二つである。
(a)装入層上部への高濃度の可燃性ガスの供給は、時として、爆発的燃焼を招くおそれがあり、少なくとも常温では、火種があっても燃焼しない状態としておく必要がある。
(b)装入層中で完全に燃焼せず、未燃焼のままウインドボックスの下流にある電気集塵器等に到達したとしても、電気集塵器の放電によって燃焼するおそれがないことが必要である。
【0061】
さらに、希釈気体燃料の濃度は、その希釈気体燃料の燃焼による酸素の消費によって、焼結原料用に含まれる総燃料(固体燃料+気体燃料)の燃焼に必要な酸素の不足を招いて燃焼不足を起こさない程度に希釈されたものであることが必要である。ただし、希釈気体燃料の濃度は、燃焼下限濃度の2%以上であるのが好ましい。濃度が2%未満では、燃焼による発熱量が不足し、焼結鉱の強度向上と歩留まりの改善が得られないからである。
【0062】
また、本発明における焼結鉱の製造方法では、装入層中の炭材に点火した直後に、希釈された気体燃料を装入層中へ供給(導入)することも可能である。希釈気体燃料の供給が、吹き消えを生じる気体燃料の供給で行なえるため、逆火のおそれなく、装入層9の上層表面に焼結ケーキの層が形成されていれば、焼結が完了するまでの任意の位置で行うことができる。
【0063】
希釈気体燃料の供給を装入層表層に焼結ケーキ層が形成された後に行うことが好ましい他の理由は、焼結ケーキが生成していない状態で装入層の上部に希釈気体燃料の供給を行うと、該装入層上で燃焼のみを生じるからである。希釈気体燃料の供給は、焼結鉱の歩留りを向上させる必要がある部分に対して行う、即ち、焼結鉱の強度を上昇させたい部分で燃焼を起こすよう供給するのが好ましいことからである。
【0064】
また、点火後の装入層中に希釈気体燃料を供給し、装入層内の最高到達温度と高温域保持時間のいずれかまたは両方を制御するためには、燃焼・溶融帯の厚みが少なくとも15mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上となった状態において、希釈気体燃料の供給を行うことが好ましい。燃焼・溶融帯の厚みが15mm未満では、焼結層(焼結ケーキ)を通して吸引される空気と希釈気体燃料による冷却効果によって、気体燃料を燃焼させてもその効果が不十分となり、燃焼・溶融帯の厚みの拡大を図れない。
【0065】
一方、前記燃焼・溶融帯の厚みが15mm以上、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上となる段階で希釈気体燃料を供給すると、燃焼・溶融帯の厚みの拡大や高温域保持時間の延長を実現することができ、ひいては高強度の焼結鉱を得ることができるからである。なお、上記燃焼・溶融帯の厚みの確認は、後述するように、透明石英製窓付き竪型管状試験鍋を用いて行うことができる。この試験鍋を用いた焼結試験は、希釈気体燃料の供給位置を決定するのに有効な手段となる。
【0066】
また、希釈気体燃料の装入層への導入は、燃焼前線が表層下に下がり、燃焼・溶融帯が表層から50mm以上、好ましくは100mm以上、より好ましくは200mm以上下がった位置、すなわち、装入層の中・下層領域を対象として行うのが好ましい。つまり、希釈気体燃料は、装入層の表層に生成した焼結ケーキ領域(焼結層)を燃焼することなく通過し、燃焼前線が表層から50mm以上移動した段階で燃焼するように供給するのが好ましい。その理由は、燃焼前線が表層から50mm以上下がった位置であれば、焼結層を通して吸引される空気による冷却の悪影響が軽減され、燃焼・溶融帯の厚みの拡大を図ることができ、燃焼・溶融帯の厚みを有効に拡大することができるからである。なお、気体燃料は、上記のように吹き消え現象が起こる高速で噴出しているので、点火炉10での着火直後からの気体燃料供給でも、逆火を起こすおそれもなく実現できる。
【0067】
上記理由から、希釈気体燃料を生成する第1の気体燃料供給装置15Aは、焼結機の規模にもよって異なるが、例えば、気体燃料供給量が1000〜5000m3(標準)/hr、生産量が約1.5万t/日で、機長が90mの規模の焼結機では、点火炉10の出側直後から、または、下流側約5m以降の位置に配置するのが好ましい。
上述したように、本発明に係る焼結機では、希釈気体燃料の供給位置(装入層への導入位置)は、パレット移動方向における点火炉下流で、焼結ケーキが生成した後のいわゆる燃焼前線が表層下に進行した位置から焼結が完了するまでの間の1ヶ所以上の任意の位置で行うことが好ましい。このことは、燃焼前線が装入層の表層下に移った段階で気体燃料の導入を開始すること、したがって、気体燃料の燃焼が装入層の内部で起り、次第に下層へ移行することになるので、爆発のおそれがなく、安全な焼結操業が可能になることを意味している。
【0068】
また、本発明における焼結鉱の製造方法では、装入層中への希釈気体燃料の導入は、生成した焼結ケーキの再加熱を促進するものであることを意味している。即ち、この希釈気体燃料の供給は、もともと高温域保持時間が短いために熱不足となり、焼結鉱の冷間強度が低くなりやすい部分に対して、固体燃料に比べて反応性の高い気体燃料を供給することによって、不足している燃焼熱を補填し、燃焼・溶融帯の再生−拡大を図るという役割を担うものだからである。
【0069】
このため、上述したように、焼結原料として擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子を適用した場合に、擬似粒子では外層に凝結材と石灰石副原料が存在するため、まず、凝結材の表層の存在で、凝結材の効率燃焼(表層での燃焼)下で内層の粗流、細粒鉱石からなる内層部分をヘマタイト化、すなわち生鉱石状態で被還元性の優れた状態にでき、さらに外殻部分となる外層に位置する石灰石副原料により、焼結時カルシウムフェライトを生成するが、カルシウムシリケートへの移行も、その内側において、鉄鉱石原料中のSiO2と反応し、生成するカルシウムシリケートに反応上限られることになり、外殻にカルシウムフェライトが残存して引張り強度を維持して強度を保持している。
【0070】
そしてこの技術と、第1の気体燃料燃焼工程で希釈気体燃料を使用し、希釈気体燃料の供給量および濃度の少なくとも一方を調整することにより焼結層内の高温域保持時間を調整することで前記内層部分の燃焼溶融域の高温域保持時間が確保される結果、内外質強度の高い焼結鉱を得ることができる。しかも、第1の気体燃料燃焼工程では、吹き消え現象を生じるように気体燃料を高速で噴射するようにしているので、点火炉10の直後で装入層9の表面に燃焼・溶融帯が存在している状態から気体燃料の吹込みが可能となり、より確実に燃焼・溶融帯の高温域保持時間を長くすることができる。
【0071】
さらに、本発明における焼結鉱の製造方法では、装入層上部からの希釈気体燃料の供給は、装入層内に導入された希釈気体燃料を未燃焼のまま燃焼・溶融帯にまで到達させ、そこで燃焼させることによって、燃焼熱の補填を図るようにするのが好ましい。それは、希釈気体燃料の装入層中への供給(導入)は、装入層上部のみならず、厚み方向中央部の燃焼・溶融帯にまで波及させることがより効果的と考えられるからである。つまり、気体燃料の供給が、熱不足(高温域保持時間不足)になりやすい装入層の上層部で行われると、この部分に十分な燃焼熱が提供されるので、焼結ケーキの品質改善を図ることができる。
【0072】
さらに、希釈気体燃料の作用効果を中層部以下の帯域にまで及ぶようにすると、本来の炭材によって形成された燃焼・溶融帯の上に希釈気体燃料による燃焼・溶融帯を形成するのと等しいことになり、結果として燃焼・溶融帯の上下方向の拡幅につながり、最高到達温度を上げることなく、高温域保持時間の延長を図ることができるので、パレットの移動速度を落すことなく十分な焼結効果を得ることができる。その結果、装入層全体にわたって品質が改善(冷間強度の向上)されるので、成品焼結鉱の歩留り向上と生産性の向上を図ることができる。
【0073】
また、本発明は、前記希釈気体燃料の供給位置を、気体燃料供給の作用・効果を装入層中のどこに及ぼすかという観点から決定している。また、気体燃料の供給によって、装入層内における最高到達温度や高温域保持時間を、熱量一定基準の下で固体燃料の量に応じて制御している。従って、本発明において、希釈気体燃料を装入層中へ導入(供給)するに当っては、その供給位置を調整するだけでなく、燃焼・溶融帯自体の形態を制御し、燃焼・溶融帯における最高到達温度および高温域保持時間の少なくとも一方も制御するようにすることが好ましい。
【0074】
一般に、点火後の装入層内では、燃焼(火炎)前線が、パレットの移動に伴って次第に前方(下流側)かつ下方に拡大していくため、燃焼・溶融帯の位置は、図20(a)に示すように変化する。そして、図20(b)に示すように、焼結過程で受ける焼結層上層、中層、下層の熱履歴は大きく異なり、したがって、上層〜下層間では、高温域保持時間(約1200℃以上となる時間)も大きく異なる。その結果、パレット内の焼結鉱の位置別歩留まりは、図20(c)に示すような分布を示す。即ち、表層部(上層部)の歩留は低く、中層、下層部で高い歩留となる。そこで、本発明に従って、前記気体燃料を供給すると、燃焼・溶融帯の上下方向の厚みやパレット進行方向の幅が拡大し、これが成品焼結鉱の品質向上につながる。そして、高い歩留分布となる中層部や下層部は、さらに高温域保持時間を制御(延長)できるため、歩留がより向上する。
【0075】
上記のように、本発明では、気体燃料の供給(導入)位置を調整することにより、燃焼・溶融帯の形態、即ち、燃焼・溶融帯の高さ方向の厚さおよびパレット移動方向の幅の少なくとも一方を制御できると共に、最高到達温度や高温域保持時間を制御することができる。そして、これらの制御を通じて、常に十分な焼成を達成し、ひいては成品焼結鉱の冷間強度を高め、品質向上を実現することができる。
【0076】
また、本発明における装入層中への希釈気体燃料の供給(導入)は、成品焼結鉱全体の強度を制御するためであると言うこともできる。すなわち、本発明において、希釈気体燃料を供給するそもそもの目的は、焼結ケーキ(焼結鉱)の冷間強度を向上させることにあり、具体的には、気体燃料の供給位置制御や、焼結原料が燃焼・溶融帯に滞在する時間である高温域保持時間の制御、最高到達温度の制御を通じて、焼結鉱の冷間強度(シャッターインデックスSI)を75〜85%程度、好ましくは80%以上、より好ましく90%以上にすることである。なお、実機焼結機によって製造された焼結鉱の冷間強度(SI値)は、鍋試験で得られる値よりもさらに10〜15%高い値を示すのが一般的である。
【0077】
この強度レベルは、本発明によれば、前記希釈気体燃料の濃度、供給量、供給位置および供給範囲を、好ましくは焼結原料中の炭材量をも考慮した上で(投入熱量を一定にする条件下で)調整することによって、安価に達成することができる。焼結鉱の冷間強度の向上は、一方で、通気抵抗の増大と生産性の低下を招くことがあるが、本発明では、そうした問題を、最高到達温度や高温域保持時間を制御することによって解消することができる。
【0078】
したがって、本発明の焼結鉱の製造方法において、希釈気体燃料の装入層中への導入位置は、装入層中に生成した焼結ケーキから湿潤帯までの間の任意の帯域における焼結鉱の冷間強度をどのように制御するかという観点も考慮して決定される。そして、この観点から、本発明では、気体燃料供給装置の規模(大きさ)、数、位置(点火炉からの距離)、ガス濃度を、好ましくは焼結原料中の炭材量(固体燃料)に応じて調整することによって、燃焼・溶融帯の大きさ(上下方向の厚さおよびパレット移動方向の幅)だけでなく、高温到達温度、高温域保持時間をも制御し、もって、生成する焼結ケーキ(焼結鉱)の強度の向上を図っている。
【0079】
本発明の製造方法において、第1の気体燃料供給装置15Aにおける装入層9中に供給する気体燃料としては、先述したように、高炉ガス、コークス炉ガス、高炉・コークス炉混合ガス、都市ガス、天然ガスあるいはメタンガス、エタンガス、プロパンガス、ブタンガス、またはこれらの混合ガスのいずれかを用いることができるが、上記気体燃料の中でも、CO含有量が50massppm以下のものを用いることが好ましい。それは、COガスは、人体に対して有害であり、装入層上に供給された気体燃料が全量装入層中に導入されないで、機外に漏洩した場合には、人災を起こす可能性があるからである。具体的には、都市ガス13Aやプロパンガスを用いることがより安全性だけでなく、コストの面からも好ましい。
【0080】
さらに、本発明の製造方法では、上記第1の気体燃料供給装置15Aに適用する気体燃料以外に、気体状態での着火温度が、焼結ベッド表層の温度より高い、アルコール類、エーテル類、石油類、その他の炭化水素系化合物類等の液体燃料を気化させたものを用いることもできる。本発明で用いることができる液体燃料とその特性について、表8に示した。斯かる液体燃料を気化させた気体燃料は、着火温度が、上述した気体燃料と比較して着火温度が高いため、焼結ベッド表層の温度より高い、装入層のより内部で燃焼するため、吹き込む位置での燃焼・溶融帯のすその温度の拡大に有効である。特に、着火温度が500℃近いものは、その効果が大きい。なお、液体燃料を気化した気体燃料を用いる場合には、気体供給配管は、気化した燃料が再液化しないよう、該液体燃料の沸点以上着火温度未満の温度に保持することが好ましい。
【0081】
【表8】
【0082】
なお、廃油等は、引火しやすい成分や着火温度の低い成分を含むことがあるので、本発明で用いるには好ましくない。着火温度や引火点の低い成分を含む廃油等の液体燃料を予め気化させて、焼結原料ベッド上に供給した場合には、原料ベッド中の燃焼帯近傍に到達する前の原料ベッド表層の上部空間ないしは原料ベッド表層近傍で燃焼してしまうため、本発明が意図する焼結原料ベッドの燃焼帯近傍で燃焼させて高温保持時間の延長を図るという効果を得ることができないためである。
【0083】
一方、第2の気体燃料供給装置15Bは、構成上は上述した第1の気体燃料供給装置15Aと同様の構成を有するが、上述した吹き消え現象を利用するものではなく、ランニングコストを考慮して、コークス炉ガス(Cガス)、高炉ガス(Bガス)およびコークス炉・高炉混合ガス(Mガス)のいずれかが適用される。このようなガスは、製鉄所内で生成されることから、他のLPG、都市ガス、プロパンガス等の気体燃料を使用する場合に比較的気体燃料調達比即ちランニングコストを大幅に低減することができる。
【0084】
しかしながら、コークス炉ガス(Cガス)、高炉ガス(Bガス)およびコークス炉・高炉混合ガス(Mガス)は、成分中にタール、スケール等の配管内に付着して配管を閉塞させる配管閉塞物質を含んでおり、前述した第1の気体燃料供給装置15Aのように吹き消え現象を利用するために噴出口の口径を3mmφ以下にした場合には、気体燃料供給パイプや噴出口にタールやスケールやその混合物による配管閉塞物質が付着して、気体燃料供給パイプや噴射口の清掃や点検を2〜3週間毎に行わなければならず、これら点検や清掃の間は焼結操業を停止させる必要があることから生産量が減少してしまう。
【0085】
このため、気体燃料供給パイプ及び噴出口の開口径は、6mm以上に設定することが好ましい。その理由は、上記のように、気体燃料への逆火を防止するためには、気体燃料の吐出速度を、燃焼速度を超える速度とすることが困難となるが、噴出口の開口径を6mm以上に設定することにより、気体燃料噴射ノズル23の清掃頻度を半年程度に延長することができ、開口径を10mm以上とする清掃頻度を10カ月以上に延長することができる。
【0086】
このように、気体燃料噴射ノズル23の開口径は大きければ大きい程タールやスケールの混合物でなる配管閉塞物質の付着を抑制することができるものであるが、配管径を大きくすると、噴出する気体燃料の噴射速度が低下し、吐出範囲も狭くなることから、開口径は15mm以下とすることが望ましい。
なお、気体燃料供給パイプ等の気体燃料供給系統を予熱する予熱機構を配置して、タールやスケール等の配管閉塞物質が気体燃料供給パイプや噴出口内で固化することを抑制するようにすれば、さらに清掃や点検周期を長くすることができる。
【0087】
また、第2の気体燃料供給装置15Bでの気体燃料の吐出は、装入層表面情報300mm以上の高さ、および吐出方向を略水平として行うことが好ましい。また、第2の気体燃料供給装置15Bで気体燃料としてCガスを使用するとき、焼結進行過程で表層にはすでに焼結が完了した焼結層が存在し、赤熱部分(気体燃料への引火部分)がない状態である。
この状態であるのもCガスが利用できる条件となっている。もちろん他気体燃料も使用可能であることはいうまでもない。
【0088】
また、図21は、コークス炉ガス(Cガス)を使用する際、焼結原料の装入層中でのCガス拡散度を測定する実験である。つまり、装入層中でコークス炉ガス濃度が偏る場合、燃焼ムラを生じ得られる焼結鉱品質が不均一となる問題を避けるためである。
図21は、焼結原料の充填層aの表面bの上方に気体燃料供給パイプcを配置し、気体燃料供給パイプcに設けた噴出口dによるコークス炉ガス供給を行った際の焼結原料の充填層a中のコークス炉ガス濃度を測定したコークス炉ガス拡散度測定装置である。
【0089】
焼結原料の充填層a下部から排気する形で焼結原料の充填層aの表面bの上方の空気を吸引する状態で、上記気体燃料供給パイプcの噴出口dから、コークス炉ガスを吐出させ、充填層a中の各箇所((1)〜(15))で採取したコークス炉ガス濃度を測定してコークス炉ガス拡散度を判定した。上記気体燃料供給パイプcの噴出口dは、充填層aの表面bに向かって吐出させたのが下吹き、充填層aの表面bの沿う方向に向かって吐出させたのが水平横吹きと称する。
【0090】
図22は、その結果であり、水平横吹きの際の充填層aの上層、中層、下層で検出されるCガス濃度を図22(a)に、下向きで吐出させた際のCガス濃度を図22(b)に示した。
コークス炉ガスは、CH4ガス同様、充填層a中を拡散し難く、下吹きよりも、水平横吹きの方がコークス炉ガス濃度は均一化されている。
【0091】
また、図23、図24は、下吹きガス拡散混合の解析結果であり、図23の条件(コークス炉ガス吹き込み、噴出口の口径10mm、下向き3m/sの吐出速度)での結果を図24に示す。図24において、垂直断面、水平断面ともにノズル間でガス拡散混合が不十分な領域が生じており、この濃度不均一なコークス炉ガスが焼結原料の装入層に供給されるため燃焼村の発生は避けがたいことが予想できる。
【0092】
図25は、ノズル口径、吐出速度は同一として、水平横吹きとして解析した結果である。水平横吹きのCガスは、焼結原料の装入層側に大気とともに吸引され、均一混合状態で供給されることがわかる。
鍋試験結果を、図26に示す。ガス吹込みを行わない焼結操業で得られる焼結鉱強度、歩留まり、生産性、焼結時間をベースとし比較したが、ベース、及び下向き気体供給に比べ、水平横吹きの供給形態が最も優れた結果となった。
【0093】
なお、水平横吹きとは、焼結原料の装入層と平行状態を指し、水平方向±30度の範囲において許容できる。このましくは水平方向±20度の範囲である。
このように、第1の気体燃料供給装置15Aの下流側に隣接させて第2の気体燃料供給装置15Bを配置することにより、第1の気体燃料供給装置15Aを通過した焼結機パレット8の装入層では、燃焼・溶融帯が表面から60mm以上下がった位置となり、第2の気体燃料供給装置15Bで比較的低速でコークス炉ガスを気体燃料供給パイプの噴出口から噴射した場合でも、装入層の表面に火種がないので、希釈されたコークス炉ガスが装入層の上方で着火されて燃焼されることはなく、燃焼・溶融帯の拡幅に有効に利用される。しかも、コークス炉ガスは製鉄所内で生成されるので、ランニングコストを十分に低下させることができる。
【0094】
また、本発明の方法によって焼結鉱を製造するに当たっては、造滓成分を構成する副原料中の石灰石副原料および前記凝結材を分離して残りの焼結原料を造粒して、擬似粒子化処理を行い、その造粒過程の後半(造粒処理完了10〜90秒前)に前記分離した石灰石副原料と凝結材を添加して前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子を生成する造粒装置と、層を保有した擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、当該パレット上に前記外層を保有した擬似粒子の装入層を形成する原料供給装置と、上記装入層表面の炭材に点火する点火炉10と、上記装入層上辺の空気中に、気体燃料を噴出して燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とする気体燃料供給装置と、上記希釈気体燃料と空気とをパレット下で吸引して装入層内に導入するウインドボックスとを備える焼結機において、前記気体燃料供給装置は、前記点火炉10に近い下流側に配設された、気体燃料を気体燃料供給部の小口径の噴出口から吹き消え現象が起こる流速で噴出する第1の気体燃料供給装置15Aと、該第1の気体燃料供給装置15Aの下流側に配設された、気体燃料を気体燃料供給部の大口径の噴出口から前記吹き消え現象が起こる流速で噴出させる第2の気体燃料供給装置15Bとを少なくとも有することを特徴とする焼結機を用いる。
【0095】
本発明の焼結機における第1の気体燃料供給装置15Aおよび15Bは、焼結機の焼結機パレットの搬送方向に沿って、パレットの両サイドウォールを跨ぐように配設されるのが好ましい。すなわち、上記第1及び第2の気体燃料供給装置15Aおよび15Bは、パレットの両サイドウォールを跨ぐようにフードが配設され、その内部には気体燃料を供給する配管を、単数または複数本、好ましくは2〜15本、パレット進行方向に対して平行に、あるいは垂直に配列し、そのそれぞれの配管には、気体燃料を大気中に高速で供給するためのスリットや噴出穴あるいはノズルを複数取り付けたものにて構成されることが好ましい。
【0096】
前記第1および第2の気体燃料供給装置15Aおよび15Bは、点火炉10の下流側でかつ燃焼・溶融帯が装入層内を進行中の過程(状態)にある、パレット進行方向のいずれかの位置に1以上配設され、その位置において、希釈気体燃料の装入層中への供給が行われるのが好ましい。即ち、この装置は、点火炉の下流側で、燃焼前線が表層下に進行した以降の任意の位置に一ないし複数配設されるものであり、目標とする成品焼結鉱の冷間強度を調整する観点から、大きさ、位置、数が決められる。
【0097】
図27は、本発明に係る焼結機の一実施形態の一部を示したものであり、点火炉10のパレット移動方向下流側に当たる装入層の上辺に、高炉ガスやコークス炉ガスあるいはこれらの混合ガス(Mガス)等の気体燃料を大気中に吐出し、所望の濃度の希釈気体燃料とするための第1の気体燃料供給装置15Aを1基だけ配設した例を示したものである。その気体燃料供給装置15Aは、装入層の上方にフード15aが設置され、そのフードの内部には、パレット8の幅方向に沿って複数の気体燃料供給パイプ15bが配設されており、そのパイプには、気体燃料を高速で大気中に吐出するノズル15cを下向きにかつパレット幅方向に複数個配列させたものを、図示していないサイドウォールの上から装入層を覆うように配設したものである。この気体燃料供給装置15Aのフード15a内に供給された気体燃料は、フード15a内の周辺の空気と混合して希釈気体燃料となり、その後、パレット8下の図示されていないウインドボックスの吸引力を利用して、装入層表層に生成した焼結ケーキを経て、装入層の深部(下層)にまで導入される。なお、この第1の気体燃料供給装置15Aは、特に、パレット両側端(図20(c)の歩留り60%の領域)の歩留り向上を図りたいときは、パレットの両サイドウォール近傍に気体燃料を多く供給できるよう、前記ノズル15cを重点的に配置することが好ましい。
【0098】
この第1の気体燃料供給装置15Aから供給する気体燃料としては、例えば、高炉ガス(Bガス)、コークス炉ガス(Cガス)、高炉ガスとコークス炉ガスとの混合ガス(Mガス)、都市ガス、天然ガス(LNG)またはメタン、エタン、プロパン、ブタンガス、あるいはこれらの混合ガスなどが用いられる。これらの気体燃料は、点火炉10とは別途に独立した配管系の下で供給してもよく、また、点火炉用燃料配管と同じ種類として、点火炉10へのガス供給管(図示せず)の延長上に接続するように構成してもよい。
【0099】
下記の表9は、第1の気体燃料供給装置15Aで使用する各種気体燃料の燃焼下限濃度と、その気体燃料を装入層へ導入する際の上限濃度(燃焼下限濃度の75%、60%、25%)を示したものである。例えば、プロパンガスは、燃焼下限濃度は2.2vol%であるから、プロパンガスの希釈気体燃料の濃度上限は、75%の場合は1.7vol%、60%の場合は1.3vol%、25%の場合は0.6vol%ということになる。一方、希釈気体燃料の下限濃度、即ち、気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は、プロパンガスの場合は0.05vol%である。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。
【0100】
好ましい範囲(1): 2.2vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(2): 1.7vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(3): 1.3vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(4): 0.6vol%〜0.05vol%
好ましい範囲(4): 0.6vol%〜0.05vol%
【0101】
また、Cガスは、燃焼下限濃度は5.0vol%であるから、Cガスの希釈気体燃料の濃度上限は、75%の場合は3.8vol%、60%の場合は3.0vol%、25%の場合は1.3vol%ということになる。一方、Cガスの場合、気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は0.24vol%である。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。
好ましい範囲(1): 5.0vol%〜0.24vol%
好ましい範囲(2): 3.8vol%〜0.24vol%
好ましい範囲(3): 3.0vol%〜0.24vol%
好ましい範囲(4): 1.3vol%〜0.24vol%
【0102】
また、LNGガスは燃焼下限濃度が4.8vol%であるから、LNGの希釈気体燃料の濃度上限は、75%の場合は3.6vol%、60%の場合は2.9vol%、25%の場合は1.2vol%ということになる。一方、LNGガスの気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は0.1vol%である。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。
好ましい範囲(1): 4.8vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(2): 3.6vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(3): 2.9vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(4): 1.2vol%〜0.1vol%
好ましい範囲(4): 1.2vol%〜0.1vol%
【0103】
また、高炉ガスは、燃焼下限濃度は40.0vol%であるから、高炉ガスの希釈気体燃料の濃度上限は、75%の場合は30.0vol%、60%の場合は24.0vol%、25%の場合は10.0vol%ということになる。一方、高炉ガスの気体燃料供給の効果が顕れる下限濃度は0.24vol%である。したがって、好ましい範囲は以下のようになる。
好ましい範囲(1): 40.0vol%〜1.25vol%
好ましい範囲(2): 30.0vol%〜1.25vol%
好ましい範囲(3): 24.0vol%〜1.25vol%
好ましい範囲(4): 10.0vol%〜1.25vol%
【0104】
【表9】
【0105】
次に、表10は、Cガス、LNG、Bガス中に燃焼成分として含まれる水素、CO、メタン、エタン、プロパンの含有量と発熱量を示したものである。
【0106】
【表10】
【0107】
次に、本発明に係る焼結鉱の製造方法を開発する契機となった実験について説明する。
この実験は、図28に示す実験装置、即ち、透明石英製窓付き竪型管状の試験鍋(150mmφ×400mmH)を用い、使用する気体燃料として、高炉ガス・コークス炉ガスの混合ガス(Mガス)を用い、出願人会社の焼結工場で使用しているのと同じ焼結原料、即ち、表11に示す焼結原料を使って、下方吸引圧力11.8kPa一定の条件で焼結鍋試験を行った例である。ここで、前記Mガスの燃焼成分の濃度は、空気で希釈して、0.5vol〜15vol%の範囲内で変動させた。なお、この実験に用いたMガスの燃焼下限濃度は12vol%である。
【0108】
【表11】
【0109】
図28は、また、前記試験鍋の透明石英窓から燃焼溶融帯をビデオ観察した様子、とくに燃焼前線の移動に伴う燃焼帯の下降状況を示している。この図28からわかるように、試験鍋内の原料堆積層中に、燃焼下限濃度(12vol%)を超える15vol%のMガスを含む気体燃料を吹き込んだ場合、気体燃料は装入層表面ですぐに燃焼を開始し、装入層の下層にまでは届かず吹込みの効果が得られなかった。これに対して、本発明に従い、前記気体燃料の燃焼下限濃度(12vol%)の75%以下である3vol%まで空気で希釈した気体燃料を用いた場合、原料堆積層表面で燃焼することがなく、装入層内深く、即ち、燃焼・溶融帯相当域まで到達し、燃焼した。その結果、空気のみで焼結したときの、燃焼帯(燃焼・溶融帯とも呼ぶ)の厚みは70mmであったのに対し、Mガスを希釈して吹き込んだ場合には、燃焼帯の厚み幅を150mm、即ち2倍以上に拡大させることができた。この燃焼帯の厚みの拡大は、高温域保持時間の延長が達成されることも意味する。
【0110】
しかも、この試験鍋による実験においては、実機焼結機におけるパレットの移動に伴う燃焼前線の進行速度に相当する燃焼帯の降下速度(この逆数が焼結時間である)は、希釈気体燃料の供給によって速くなり、しかも、コークスを増量したときや高温空気を吹き込んだときと同じように、燃焼帯の上下方向の厚み幅を拡大させることができた。このように、焼結原料の装入層中に、適切な濃度に希釈された気体燃料を吹き込んだ場合、従来のような固体燃料や液体燃料、希釈しない可燃性ガスを使う場合と比較すると、燃焼帯幅の拡大効果が著しくなり、しかも、コークスを増量したときのような燃焼前線の降下速度の低下を招くことがなく、大気焼結の場合とほとんど変わらない速度で焼結が進むことがわかった。
【0111】
図29(a)〜(d)は、上記焼結鍋試験結果をまとめたものである。この結果によれば、本発明に従って原料装入層中に適切に希釈されたMガスを吹き込んだ場合、焼結時間はほとんど変化しないにも拘らず、歩留が向上し(図29(a))、焼結生産性も増加している(図29(b))。しかも、高炉の操業成績に大きく影響する冷間強度の管理指標であるシャッター強度(SI)は10%以上(図29(c))、還元粉化特性(RDI)は8%も改善されている(図29(d))。
【0112】
本発明では、第1の気体燃料供給装置15Aにおいて装入層中に導入する前記気体燃料として、希釈された可燃性ガスを用いるが、以下に、その希釈の程度について説明する。表12は、高炉ガス、コークス炉ガスおよび両者の混合ガス(Mガス)、プロパン、メタン、天然ガスの燃焼下限濃度および燃焼上限濃度を示している。このような燃焼限界をもつガスが、例えば、装入層内で燃焼せずに排風機に向かうと、途中の電気集塵機などで爆発や燃焼を起こす危険が生じる。そこで、発明者らは、試行錯誤の結果、上記危険がない濃度、即ち、燃焼下限濃度以下に希釈した気体燃料を装入層中に導入することとし、さらに、安全性をより高めるべく、その燃焼下限濃度の75%以下の濃度の希釈気体燃料を用いた実験を数多く行った結果、何の問題も生じないことが確認できた。
【0113】
例えば、表12に示すとおり、大気中かつ常温において、高炉ガスが燃焼する濃度範囲は、燃焼下限が40vol%で、燃焼上限は71vol%である。即ち、40vol%未満では燃焼せず、また、71vol%を超えると、高炉ガス濃度が濃くなりすぎて、この場合もまた燃焼しない状態となることを意味している。以下に、この数値の根拠について図面に基づき説明する。
【0114】
【表12】
【0115】
図30は、第2の気体燃料供給装置15Bにも使用できる高炉ガスの燃焼限界を求める方法の一例を説明するものである。
図中の高炉ガスに含まれる燃焼成分(可燃性ガス)とその他の成分(イナート:不活性ガス)の割合については、H2とCO2およびCOとN2との組み合わせで検討すると以下のとおりである。
【0116】
(1)「H2とCO2」部分の組み合わせについての、(イナートガス)/(可燃性ガス)の比は、20.0/3.5=5.7である。
そこで、この燃焼限界図の(イナートガス)/(可燃性ガス)の比を示す横軸の、5.7の軸と交差するH2+CO2曲線の交わる部分(燃焼限界)を求めると、下限は32vol%、上限は64vol%となる。即ち、H2+CO2の燃焼限界の下限濃度は32vol%、上限濃度は64vol%となる。
【0117】
(2)一方、残りの燃焼成分である「COとN2」の組み合わせの場合における、(イナートガス)/(可燃性ガス)の比は、53.5/23.0=2.3であるから、同様にして、同図から横軸2.3と、CO+N2の曲線と交わる点から下限:44vol%、上限:74vol%が求まる。従って、この場合の燃焼限界の下限濃度は44vol%、上限濃度は74vol%である。
(3)さらに、両燃焼成分を含む高炉ガスの燃焼下限濃度は、図30中左方最下段の式で求めることができる。また、同式で前記(1)、(2)の上限値をあてはめれば燃焼上限濃度が求まる。このようにして高炉ガスの燃焼下限濃度ならびに燃焼上限濃度を求めることができる。
【0118】
また、本発明において、気体燃料の燃焼下限に着目したもう一つの理由は、燃焼限界には温度依存性がある点である。燃料便覧(社団法人燃料協会編)では、温度の影響として、温度が高いときには、熱の逸散速度が遅くなるので、熱の発生、逸散両速度曲線の交わりは深くなって、爆発範囲(燃焼範囲)は左右に広がってくる、と説明している。すなわち、燃焼限界は、上述のようにして求められるものの、該燃焼限界には温度依存性があって、メタンガスの燃焼範囲の温度による影響として、燃料便覧(社団法人燃料協会編)では、表13に記載の例が示されている。これを燃焼下限濃度の温度依存性として作図すると、おおよそ図31に示すようになる。図中●印は、表6に記載されたメタンガスの例である。
【0119】
【表13】
【0120】
また、図32は、大気中常温下における気体燃料の燃焼成分(燃焼ガス)濃度と温度との関係を示すものである。燃焼限界は、上述のようにして求められるものの、該燃焼限界には温度依存性があって、その温度依存傾向を例示すると、常温での燃焼下限値(図中では燃焼ガス濃度に相当)がおおよそ40vol%であっても、200℃領域では26〜27vol%と変化し、1000℃領域では数%、1200℃領域では1vol%未満でも燃焼する。
【0121】
これから、装入層に供給する気体燃料の濃度(燃焼成分の含有量)は、常温の燃焼下限よりもさらに低い濃度とするのがより安全であり、また、その希釈ガスの濃度を適正範囲に調整してやることにより、気体燃料の装入層内の厚み方向における燃焼位置を自由に制御することができることがわかった。
そして、気体燃料の燃焼範囲には、このように温度依存性があり、例えば、燃焼範囲は雰囲気温度が高くなればなるほど広がり、焼結機の燃焼・溶融帯近傍の温度場ではよく燃焼するものの、焼結機の下流側にある電気集塵機内の200℃程度の温度場では、本発明の好適実施例で示すような気体燃料の濃度では燃焼しないこともわかった。
【0122】
ところで、焼結鉱を製造するに当たって、焼結原料の装入層中に供給された希釈気体燃料は、パレット下のウインドボックスによって吸引されて、該装入層中の固体燃料(粉コークス)の燃焼により形成された燃焼・溶融帯の高温域で燃焼する。従って希釈気体燃料の供給は、装入層への投入熱量を一定にするという条件下において、前記希釈気体燃料の濃度や供給量などを制御すれば、焼結原料中の粉コークス量を調整(減少)することができる。また、希釈気体燃料の濃度調整は、この気体燃料の燃焼を装入層中の予定した位置(濃度領域)で起こるように制御することを意味している。
【0123】
この意味において、従来技術における装入層中の燃焼・溶融帯は、固体燃料(粉コークス)のみが燃焼する帯域であるが、本発明における燃焼・溶融帯は、その粉コークスの燃焼に加えてさらに気体燃料も並行して燃焼する帯域であるということができる。従って、本発明において、その希釈気体燃料の濃度や供給量、その他の供給条件は、燃料の一部として粉コークスがあることを前提として、これとの関係において好適に変化させると、最高到達温度および/または高温域保持時間の望ましい制御が可能となり、焼結ケーキの強度向上をもたらすことになる。
【0124】
さらに本発明方法において、希釈された気体燃料を用いるもう一つの理由は、上述した焼結・溶融帯の形態制御を通じて焼結ケーキの強度、歩留りを制御するためである。それは、この焼結ケーキを高温帯域(燃焼・溶融帯域)にどれくらいの時間保持するか、また、どれくらいの温度にまで到達させるかという制御を行う上で、この希釈気体燃料の役割が有効に機能するからである。言い換えると、前記希釈気体燃料の使用は、焼結原料の高温域保持時間が長くかつ最高到達温度が適度に高くなるように制御することを意味している。
【0125】
そして、このような制御は、焼結原料中の固体燃料量(粉コークス量)に対して、燃焼雰囲気中で支燃性ガス(空気または酸素)が過不足を起さないように希釈調整された気体燃料を用いることを意味している。この点、従来技術では、焼結原料中の固体燃料の量と無関係に、しかも可燃性ガスを濃度調整することなしに吹き込むため、固体燃料や可燃性ガスの量に見合う量の支燃性ガス(酸素)が供給されずに燃焼不良を起こしたり、逆に部分的に過燃焼を起こしたりして、強度のバラツキを招いていたのである。これに対して、本発明では、気体燃料を希釈しかつ濃度調整をすることで、このような問題点を回避しているのである。
【0126】
次に、気体燃料の種類による影響について示す。
図33は、数種類の気体燃料を燃焼下限濃度以下に希釈した希釈気体燃料を使用した本発明焼結法と、気体燃料の吹き込みを行わない従来焼結法とを比較した実験結果を示すものである。なお、希釈気体燃料の吹き込みを行わない従来焼結例では、粉コークスの添加量を5mass%とし、一方、粉コークス0.8mass%相当の希釈気体燃料を吹き込む本発明例では、総熱量を一定とするため、粉コークスの添加量を4.2mass%とした。図33からわかるように、希釈気体燃料を使用した場合は、いずれの例においても、シャッター強度、成品歩留、生産性の向上が認められた。このように、希釈気体燃料の使用例において、シャッター強度、成品歩留等が向上した理由は、燃焼・溶融帯の拡大と、それによる高温域保持時間の延長によるものと考えられる。
【0127】
図34は、気体燃料として、プロパンガスを用いた場合の希釈濃度の影響を示す図であり、希釈気体燃料の濃度と、シャッター強度(a)、歩留(b)、焼結時間(c)、生産率(d)との関係を示したものである。この図からわかるように、プロパンガスを希釈気体燃料として使用する場合は、0.05vol%の添加でシャッター強度の向上効果が認められ、歩留りもほぼ同様の傾向を示す。
【0128】
さらに、向上効果が明確となるのはプロパンガス濃度が0.1vol%からであり、より明確に向上効果が認められるのは0.2vol%からである。この結果を、Cガスを気体燃料として用いる場合に換算すると、0.24vol%の添加で効果が認められはじめ、効果が明確となるのは0.5vol%以上、より明確となるのは1.0vol%以上ということになる。したがって、プロパンガスの希釈濃度は、少なくとも0.05vol%以上、好ましくは0.1vol%以上、より好ましくは0.2vol%以上、また、Cガスの希釈濃度は、少なくとも0.24vol%以上、好ましくは0.5vol%以上、より好ましくは1.0vol%以上である。なお、上限は、それぞれの気体燃料の燃焼下限濃度の75%である。ちなみに、プロパンガスの場合、0.4vol%の添加でほぼ効果は飽和しており、この時のガス濃度は、燃焼下限濃度の25%に相当する。
【0129】
次に、本発明方法に従って、焼結原料中の炭材量を考慮し、前記気体燃料の供給を行って製造した焼結鉱の冷間強度と還元粉化特性(RDI)について説明する。「鉱物工学」(今井秀喜、武内寿久禰,藤木良規編、1976、175、朝倉書店)によると、焼結反応は、図35の模式図のようにまとめられる。また、表14に、焼結過程で生成する各種鉱物の引張強度(冷間強度)と被還元性の値を示す。図35から明らかなように、焼結過程では、1200℃で融液が生成し始め、焼結鉱の構成鉱物の中で最も高強度であり、被還元性も比較的高いカルシウムフェライトが生成する。さらに昇温が進んで約1380℃を超えると、冷間強度と被還元性とが最も低い非晶質珪酸塩(カルシウムシリケート)と、還元粉化しやすい二次ヘマタイトとに分解する。したがって、焼結鉱の冷間強度の向上とRDIの改善を図るには、カルシウムフェライトを分解させずに、これを安定的に生成させ続けられるかどうかが重要な課題となる。
【0130】
【表14】
【0131】
また、上記刊行物「鉱物工学」によると、焼結鉱の還元粉化の起点となる二次ヘマタイトの析出挙動について、図36により説明している。その説明によれば、鉱物合成試験の結果では、還元粉化の起点となる骸晶状二次ヘマタイトは、Mag.ss+Liq.域まで昇温し、冷却したのちに析出するため、状態図上では、(1)の経路でなく、(2)の経路を介して焼結鉱を製造することで、還元粉化性を抑制できるとしている。したがって、低RDIと高強度とを兼備する焼結鉱を製造するには、1200℃(カルシウムフェライトの固相線温度)と約1380℃(転移温度)の範囲内に、如何にして長時間保持したヒートパターンを装入層内において実現するかが重要となる。よって、添加する炭材量を気体燃料の供給により調整し、装入層内の最高到達温度を1200℃超え1380℃未満の範囲に制御することが重要であり、好ましくは1200〜1350℃の範囲とするのが望ましいことがわかる。
【0132】
次に、発明者らは、燃焼帯の上下方向の厚さ(幅)と希釈燃料ガスとの関係を知るために、先述した透明石英製窓付き竪形管状試験鍋を用い、焼結機クーラーの排ガスで0.5vol%と2.5vol%の濃度に希釈したプロパンガスを、この鍋の上方から焼結原料の装入層中に吹き込む実験を行った。この実験で使用した焼結原料は、出願人会社で使用している一般的なものであり、吸引圧力は1200mmH2O一定とした。なお、0.5vol%のプロパンガスの吹き込みは、投入熱量に換算すると、粉コークス1mass%の配合量にほぼ相当する。
【0133】
図37は、この実験におけるプロパンガス吹込み時の燃焼帯の形態変化を示す写真である。この図に示すように、燃焼下限濃度(理論値、対空気)に近い2.5vol%に希釈したプロパンガスでは、吹込み直後に原料装入層上で燃焼してしまうため、気体燃料が装入層内に入っていかず、気体燃料供給効果が得られなかった。これに対して、プロパンガスの希釈濃度が0.5vol%濃度のものを供給した場合には、装入層上部で燃焼することなく、装入層内まで入っていき、しかも装入層内で速い速度で燃焼した。その結果、大気条件で焼結したときの燃焼帯の上下方向幅(厚さ)は約70mmであったのに対し、希釈プロパンガスを吹込んだ時の燃焼帯の幅は150mmと、2倍以上に拡大した。これは、高温域保持時間が延長されたことに相当する。
【0134】
これから、燃焼帯の厚みの拡大効果は、プロパンガスの燃焼下限濃度の1/5の濃度である0.5vol%でも発現することがわかる。逆に、本発明にかかる気体燃料吹込み技術では、希釈された気体燃料でないと、装入層内における燃焼制御が困難であることもわかる。
さらに、この実験においては、燃焼帯の降下速度(この逆数が高温域保持時間)への影響についても検討した。その結果、単にコークスを増量した場合や高温の空気を吹き込んだ場合には、降下速度が大きく低下して、生産性が低下するが、希釈した気体燃料を供給した場合には、固体燃料を増量した例と比較して燃焼速度を速くすることができるため、燃焼帯の降下速度は大気焼結の場合とほとんど差異が認められなかった。
【0135】
次に、発明者らは、希釈気体燃料の装入層中への供給位置の影響について調査するため、コークス炉ガス(Cガス)を2%に希釈した希釈気体燃料の吹込み位置を、装入層表面から100〜200mmの位置、200〜300mmの位置、300〜400mmの位置と変化させて焼結鍋実験を行い、その結果を図38に示した。
【0136】
ここで、図38の横軸における吹込み位置100〜200mmとは、図中で明るく(白く)示されている燃焼・溶融帯が装入層表面から100mm位置に移動した時から、試験鍋上方より希釈気体燃料の供給を開始し、その燃焼・溶融帯が200mmの位置に到達するまでの間、希釈気体燃料を吹き込んで燃焼させた例であり、その場合の燃焼・溶融帯(図中、燃焼・溶融帯は、明るく(白く)示されている)の進行状況を観察した結果を縦軸に示している。同様に、吹込み位置200〜300mmとは、燃焼・溶融帯が装入層表面から200mm位置に達した段階から300mmに到達するまでの間、希釈気体燃料を供給して燃焼させた例、そして吹込み位置300〜400mmとは、燃焼・溶融帯が装入層表面から300mm位置に達した段階から400mmに到達するまでの間、希釈気体燃料を供給して燃焼させた例を示したものである。また、比較として、希釈気体燃料の吹込みを行わない従来法の場合についても、燃焼・溶融帯の進行状況を調査した。なお、試験鍋の燃焼用空気の供給は、通常の焼結操業と同様に上方から下方に流れるので、気体燃料添加時は、この燃焼用空気に気体燃料が所定濃度になるように添加され、供給される。
【0137】
図38からわかるように、燃焼・溶融帯が装入層表面から100〜200mmの領域で希釈気体燃料を供給した場合には、従来法に比べ燃焼・溶融帯の厚さがわずかに大きくなる程度にとどまっている。これに対して、燃焼・溶融帯が200〜300mmの領域で希釈気体燃料を供給した場合には、従来法に比べて燃焼・溶融帯の厚みが明らかに拡大していることがわかる。また、300〜400mmの領域で供給した場合も、従来法に比べて明確に燃焼・溶融帯の厚みが拡大している。
【0138】
以上のことから、希釈気体燃料の吹込みは、燃焼・溶融帯の位置が装入層表面から200mm以下の領域となる部分に対して行われることが好ましいことがわかる。そして、装入層表面から200mm未満の領域については、気体燃料を供給しなくても、200mm以下の領域において気体燃料を供給することにより、この領域における焼結鉱のシャッター強度を大幅に向上できることから、成品焼結鉱の歩留りを全体として向上させることができる。また、気体燃料の供給位置を限定することによって、コスト低減を図ることもできる。
【0139】
図39は、装入層表面から200mmまでの上層部と、200mm以下の中、下層部の燃焼状況を模式的に示したものである。この図に示した矢印Aは、焼結の進行方向(燃料方向)を示し、図39(a)は上層部(<200mmまで)における粉コークスと気体燃料の燃焼位置を示している。この場合、粉コークスの燃料により形成される燃焼帯が装入層の上部では元々狭く、この粉コークスの燃焼帯と、この燃焼帯域で燃焼する気体燃料の燃焼点とが互いに接近しているため、同図の右側に記載したような温度パターンとなる。なお、この温度分布図においては、粉コークス(固体燃料)の燃焼域をハッチング部分で、その上方で燃焼する気体燃料の温度域を非ハッチング部分で示している。この図からわかるように、装入層上部では、コークスと気体燃料との燃焼が同時期に起こるため(両者が互いに接近して燃焼する)、図中のT1、T2で示す間の高温域保持時間(約1200℃相当)が図示のように狭いものになる。すなわち、ハッチング部分で示すコークス燃焼域がわずかに拡大する程度の温度分布となる。このことは、装入層中への前記気体燃料の供給は、燃焼・溶融帯の厚みが15mm以上になってから行うのが好ましいように、元々の高温域保持時間が狭い時には、気体燃料の吹込み効果が低いことを示している。
【0140】
一方、図39(b)は、中層、下層部分に気体燃料を供給した場合である。中層、下層域では燃焼帯が上層から下方へ移行するのに伴って装入層内の温度が上昇することから、燃焼帯の幅が拡大しており、希釈気体燃料は、図39(a)の場合よりも粉コークスの燃焼位置から離れた位置で燃焼するようになる。その結果、図38(b)の右側に示すような温度分布となる。即ち、気体燃料の燃焼点は、ハッチングして示す固体燃料(コークス)燃焼点より離れているため、合成された温度分布曲線はすそ野の広い温度分布になる。従って、T3、T4で示される固体燃料と気体燃料の燃焼に基づく高温域保持時間が延長されるので、得られる焼結鉱のシャッター強度が向上するのである。
【0141】
なお、図39(b)のケースにおいて、高温域保持時間を制御する(延長する)ための気体燃料の着火温度は、400℃〜800℃であることが好ましく、より好ましくは500〜700℃である。この理由は、着火温度を400℃未満にすると、高温域の拡大につながらず、単に低温域分布を拡大するに止まるだけであり、一方、800℃を超えると固体燃料の燃焼による高温域保持時間と接近しすぎて、最高到達温度の上昇を招くだけで、高温域保持時間の延長効果が小さくなるためである。
【0142】
次に、希釈気体燃料を供給して装入層中の最高到達温度(層内温度)を制御する方法の一例を説明する。図40は、焼結時における装入層内の温度分布を模式的に示すものであり、従来焼結法に相当する固体燃料(粉コークス)を5mass%添加したときの温度分布を基準として、Cガスを希釈して吹き込み、その分、コークス量を減らした本発明に係る焼結法を説明するものである。図中、曲線aは、コークスを5mass%添加して焼結した従来焼結法の層内温度と時間との関係を示したものである。一般に、高温域保持時間を延長するには、粉コークスの使用量を増加させることが行われている。しかし、例えば、粉コークスを10mass%添加した場合には、破線bで示したように、コークスの増量により高温域保持時間は(0−A)から(0´−B)に拡大するものの、最高到達温度も約1300℃から約1370℃〜1380℃まで上昇するため、低RDIかつ高強度の焼結鉱を得ることはできなくなる。
【0143】
この点、本発明法に従う焼結操業方法(曲線c)では、粉コークスの使用量を4.2mass%に抑える一方で、希釈Cガスを吹込むため、最高到達温度を1270℃に抑えることができると同時に、高温域保持時間は(0−C)に拡大するため、従来法では実現できなかった低RDIかつ高強度の焼結鉱を製造するという当初の目的を十分に果すことができる。
【0144】
次に、焼結層内において、気体燃料がどこで燃焼しているのか、即ち、燃焼ポイントがどこかを調査する目的で、直径300mmφの石英ガラス製試験鍋を用いてラボ焼結試験を行い、図41に示したように、サーモビュア(Thermo Viewer)と熱電対、ビデオからなる測温装置を用いて試験鍋の全面温度解析を行った。サーモビュアで測定される温度と実際に熱電対で測定される層内温度とは、図42に示すように強い相関があるので、サーモビュアで測定させる温度を補正して温度解析を実施した。
【0145】
図43は、焼結している最中における試験鍋の断面温度を測定した結果を示したもので、左側に示した例は、粉コークスのみで焼結する従来焼結法の場合であり、右側に示した例は、希薄濃度の都市ガス(LNG)を吹き込んだ場合である。図43の結果から、左側の粉コークスのみで焼結する従来焼結法の場合、1200℃以上の温度領域(薄い黄色の領域)が少ないにも関わらず、最高温度が1400℃を超える温度領域(白色の領域)が多く存在している。一方、右側の希薄濃度の都市ガスを吹き込んだ場合においては、燃焼帯の下端では粉コークスが燃焼しているが、その上部ではLNGが燃焼しており、粉コークスの燃焼している位置(燃焼帯下端)とLNGが燃焼している位置(溶融帯上部)の間は、若干温度が低くなっている領域が存在している。この若干温度が低くなっている領域の温度が1200℃以上となるようにLNGを燃焼させることにより、最高温度は粉コークス使用量を抑えて低くなるものの、1200℃以上の温度領域が広範囲に分布するようになり、その結果、高温域保持時間が延長されるのである。
【0146】
上記サーモビュアの結果を基に、焼結時の温度履歴をまとめて示したのが図44である。粉コークスのみで焼結した場合と比較して、LNGを吹き込むことで、最高温度が1400℃、好ましくは1380℃を超えることなく、1200℃以上の温度領域を約2倍に増加することができている。また、観察される2つのピークからなる温度パターンは、最初のピーク(原料層の上層側のピーク)がコークス燃焼帯上部で吹き込んだLNGの燃焼によるもので、2つ目のピーク(原料層の下層側のピーク)がコークスの燃焼によるもので、それらの燃焼による温度変化が組み合わされて生じたもの推察される。すなわち、コークス(炭材)燃焼と吹き込まれた都市ガスの燃焼が異なる位置で複合して起こることにより、コークス燃焼による最高到達温度が制御され(2つ目のピーク)、引き続くLNGの燃焼(1つ目のピーク)により、この両領域を結ぶ間は1200℃以上に保たれ、焼結鉱を生成するのに有効な燃焼・溶融帯を形成する1200℃以上の高温保持領域が大きく拡大し、その結果、燃焼・溶融帯の高温域保持時間が連続して延長されて、成品焼結鉱の強度が大幅に向上できたものと考えられる。
【0147】
要するに、従来焼結法は、高温域保持時間か最高温度制御のいずれか一方に着目した操業方法であった。これに対して、本発明法は、粉コークス使用量の調整(例えば、4.2mass%に抑制)の下で、最高到達温度を(1200〜1380℃)に調整する一方、希釈気体燃料の吹込みにより、高温域保持時間を調整する操業方法である。なお、図40の曲線dは、固体燃料使用量を単に4.2mass%に下げた例を示すものであり、最高到達温度も低く、高温域保持時間も短いため、高品質の焼結鉱は得られない。
【0148】
図45は、従来焼結法として、粉コークスを5mass%添加した例、および本発明の適合例として、粉コークス添加量を4.2mass%として濃度2.0vol%に希釈したCガス吹込みを併用した例における燃焼状況を示したものである。この図45のサーモビアからわかるように、従来法では、1400℃を超える燃焼状況が発生している。一方、粉コークスの使用量を4.2mass%にとどめ、濃度2vol%のCガス吹込みを行った本発明の場合、1400℃を超える領域はなくなり、最高到達温度は1380℃以下に抑えられていると同時に、高温域保持時間の延長が実現できていることがわかる。
【0149】
図46は、投入熱量一定の条件下において、希釈したプロパンガス吹込みによる、装入層内温度(a)、排ガス温度(b)、通過風量(c)、排ガス組成(d)の経時変化を示すものである。なお、装入層内温度は、上記試験鍋において、装入層表面下400mm(装入層厚:600mm)の位置に装入した熱電対で測定した値であり、また、試験鍋の円周方向では、中心部と壁から5mm位置の2箇所で測定した。これらの図から、希釈したプロパンガスを吹き込むことで、焼結原料が1200℃以上に加熱されて溶融している時間(高温域保持時間)は2倍以上に増加しているが、最高到達温度は上昇していないことが確認された。また、希釈気体燃料として、プロパンガスを吹き込むことで、排ガス中の酸素濃度が低下しており、酸素が効率的に燃焼反応に使われていることが推測された。
【0150】
また、図47は、0.5vol%に希釈したプロパンガスを吹き込んだ時と、コークスを10mass%に増量した時における、装入層内温度(a)、(a’)と、排ガス濃度(b)、(b’)の経時変化を対比して示したものである。これらの図より、粉コークスの使用量を倍増させた場合における1200℃以上の高温域保持時間は、濃度0.5vol%に希釈したプロパンガス吹込みを行った場合とほぼ同等であるが、最高到達温度が1380℃を大きく超えている。また、粉コークスの量を増加させることで、排ガス中のCO2濃度が20vol%から25vol%に大きく上昇し、さらにCO濃度も増加しており、粉コークスが燃焼に寄与する割合が低下していることが確認された。
【0151】
次に、表15に示す条件で焼結実験を行い、操業状況や焼結鉱の品質に及ぼす粉コークス比、プロパン濃度および空気温度の影響を調査した。試験No.1は、焼結原料中のコークスを5mass%配合した現状ベース条件、試験No.2は、粉コークスを1mass%低下させて4mass%とし、その代わりに0.5vol%のプロパンガスを吹き込んだ投入熱量一定条件、試験No.3は、粉コークスを10mass%配合した条件、試験No.4は、保熱炉(特開昭60−155626号公報)の効果を検証する目的で、450℃の高温ガスを吹き込む条件である。
【0152】
【表15】
【0153】
図48は、上記試験条件の変化による各種特性への影響をまとめたものである。この図48から明らかなように、希釈されたプロパンガス吹込みにより焼結時間が若干延長するものの、歩留やシャッター強度(SI)、生産率がともに改善されるとともに、還元粉化性(RDI)や被還元性(RI)も大きく改善されており、希釈気体燃料の吹込みを適正に行うことにより、生産率や歩留の改善の他、焼結鉱の高品質化が可能になることが確認された。
【0154】
これに対し、粉コークスを10mass%まで増加させただけの場合(No.3)は、焼結時間が延長するだけでなく、最高到達温度が必要以上に上昇するため、却って低強度の非晶質珪酸塩が多く生成して、シャッター強度と歩留が大きく低下した。また、450℃の高温ガスを吹き込む場合(No.4)では、シャッター強度と歩留の改善効果が小さく、これまでの商業設備における結果とほぼ同レベルでしかない。
【0155】
以上の説明からわかるように、希釈された気体燃料を用いる場合、このガスが装入層内で燃焼して、装入層内の燃焼帯の拡大をもたらすとともに、焼結原料中のコークスによる燃焼熱と、希釈されたプロパンガスの燃焼熱との相乗的な作用により、広い燃焼帯が形成される。その結果、最高燃到達温度が過剰に上ることなく、高温域保持時間を延長することができる。
【0156】
次に、発明者らは、希釈気体燃料の吹き込みによる、成品焼結鉱の被還元性、冷間強度等への影響について、従来法(5mass%、10mass%コークス、熱風吹込み)と対比して調査した。測定した項目は、成品焼結鉱中の鉱物組成割合(冷間強度と被還元性に影響)、見掛け比重(冷間強度に影響)、0.5mm以下の気孔径分布(被還元性に影響)である。
【0157】
図49は、成品焼結鉱中の鉱物相の組成割合を、粉末X線回折法によって調査した結果を示したものである。この図から、投入熱量一定(コークス4mass%+プロパン0.5vol%)として固体燃料と希釈プロパンガスを併用した場合には、カルシウムフェライトが安定して生成していることがわかる。そして、このことが、被還元性の向上と冷間強度の増加をもたらしているものと考えられる。
【0158】
図50は、プロパンガスの吹き込み有無による、成品焼結鉱の見掛け比重の変化を、また、図51は、プロパンガスの吹き込み有無による、水銀圧入式ポロシメーターによる0.5mm以下の気孔径分布の変化を測定した結果を示すものである。図50より、希釈されたプロパンガスの吹込みにより、見掛け比重が大きくなっていることがわかる。これは、プロパンガス吹込みにより、造粒粒子の外側からも加熱される結果、融液の流動が促進されて、0.5mm以上の気孔率が低下するためと考えられ、その結果、冷間強度が向上する。また、図51より、投入熱量一定として希釈プロパンガスを吹き込むことにより、0.5mm以下の気孔径の割合が増加していることがわかる。これは、焼結原料としての擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子中の熱源が減少することで、被還元性に影響を及ぼす鉱石由来の500μm以下の微細気孔が残留しやすくなったためであり、その結果、高被還元性焼結鉱の製造が可能となる。
【0159】
図52は、焼結燃料として、コークスのみを使用した場合(a)とコークスと希釈気体燃料を併用した場合(b)の焼結挙動を模式図に比較して示したものである。この図に示すように、従来のコークスのみを使用する焼結では、粉コークス燃焼によって擬似粒子内部から加熱していたが、本発明のように、コークス+気体燃料の併用方法では、気体燃料の燃焼により擬似粒子外部からも加熱されるため、鉱石内の微細気孔が残留しやすくなり、RDIが低い割に、還元率(RI)を高くすることができる。
【0160】
図53は、希釈した気体燃料を吹き込むことによる焼結鉱中の気孔分布の変化を模式的に示したものである。この図53に示すとおり、焼結鉱の生産性を向上するには、歩留と冷間強度に影響を及ぼす0.5〜5mm径の気孔の合体を促進してその数を減少させること、および、通気性に影響を及ぼす5mm径以上の気孔の割合を増加させることが有効である。また、焼結鉱の被還元性の向上には、主に鉄鉱石中に存在する0.5mm以下の微細気孔を多く残留させた気孔構造とすることが望ましい。この点、本発明によれば、希釈した気体燃料吹込みにより、理想的な焼結鉱の気孔構造に近づけることが可能であると考えられる。
【0161】
図54は、所望の冷間強度を維持するための限界コークス比を把握する試験の結果を示すものである。ここで、上記限界コークス比とは、シャッター強度(SI)が、希釈されたプロパンガス不使用の場合に得られる最大値(73%)と同等となるコークス添加量と定義する。この図に示すように、希釈された0.5vol%のプロパンガス吹込みにより、現状と同じ冷間強度(シャッター強度73%)を得ることができるコークス比は、図54(a)に示すように、5mass%から3mass%に低減(約20kg/t)している。また、図54(b)、(c)に示すように、74%の歩留りおよび1.86t/hr・m2の生産率を得るためのコークス比は、それぞれ5mass%から3.5mass%に低下していることがわかる。
【0162】
以上説明したところから明らかなように、本発明は、パレット8の進行に伴って、燃焼・溶融帯が装入層の表層から下層へ移る間に、含有する炭材量に応じて適切に希釈された気体燃料を、適所を選んで供給することにより、装入層内の燃焼・溶融帯の機能を拡大するような作用を生じさせることができ、焼結鉱の品質改善、生産性の向上を図ることができる。
【0163】
ところで、本発明においては、上述した気体燃料の供給による焼結鉱の品質改善、生産性の向上に加えて、前述したように、外装技術によって、パレット8に供給する擬似粒子の粒径が焼結鉱を形成するカルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量を抑制するように通常の外装時の調和平均径より大きい調和平均径に選定されている。
このため、前述した気体燃料の供給のみによる場合に比較してより高い品質の焼結鉱を得ることができる。
すなわち、実験装置として、図55に示す円筒状の鉄鍋50内に床敷層51を形成し、この床敷層51の上方に、表16に示す原料配合で、表17に示す4種類の水準T1〜T4で焼結鉱を生成する実験を行った。
【0164】
【表16】
【0165】
【表17】
【0166】
ここで、水準T1は、基本となる水準であり、表16で示す焼結原料を全て造粒装置1に入れて造粒して調和平均径が0.98mmの擬似粒子を形成し、この擬似粒子を使用して上述した気体燃料の供給を行うことなく焼結処理したものである。
【0167】
また、水準T2は、水準T1と同様の調和平均径が0.98の擬似粒子を使用して、点火終了後30〜430秒の間で気体燃料としてLNGを吹込んで焼結処理したものである。
さらに、水準T3は、造粒開始時に石灰石原料及び凝結材を除く焼結原料で造粒を開始し、その後造粒完了の10秒〜90秒前に石灰石原料及び凝結材を同時に又は順次投入して造粒することにより、表面に石灰石原料及び凝結材を外層した調和平均径が1.31mmとなる通常の石灰・コークス外装法によって生成した擬似粒子を使用して、気体燃料吹込みを行うことなく焼結処理したものである。
【0168】
さらに、水準T4は本発明によるもので、造粒開始時に石灰石原料及び凝結材を除く焼結原料で造粒を開始し、その後造粒完了の約30秒前に石灰石原料及び凝結材を同時に又は順次投入して造粒することにより、表面に石灰石原料及び凝結材を外層した調和平均径が1.31mmを超える1.33mmとした擬似粒子を使用して、気体燃料としてLNGを点火終了後30〜430秒の間で吹込んで焼結処理したものである。
【0169】
そして、各水準T1〜T4の実験結果を図5の(b)〜(d)に示す。
すなわち、歩留については、図5(b)に示すように、水準T1が69.9%、水準T2が72.6%、水準T3が70.9であり、本発明による水準T4では最大の74.0%となっている。
また、JPUについては、図5(c)に示すように、水準T1が15.9、水準T2が17.5、水準T3が18.5であり、本発明による水準T4では最大の19.7となっている。
【0170】
さらに、焼結時間については、図5(d)に示すように、水準T1が21.2分、水準T2が21.3分、水準T3が20.2分であり、本発明による水準T4では最小の19.8分となっている。
この図5(b)〜(d)の実験結果から、本発明による水準T4では、水準T3の外装法による擬似粒子の外大による焼結時間短縮効果と、水準T2のLNG吹込みによる歩留り向上効果の双方を兼ね備えていることが確認された。
【0171】
そして、水準T1〜T4で生成された焼結鉱の品質を表す生産率、還元粉化性(RDI)、シャッター強度及び被還元性(RI)について比較したところ、図56(a)〜(d)に示すようになった。
すなわち、生産率〔t/h・m2〕については、図56(a)に示すように、水準T1が1.40、水準T2が1.47、水準T3が1.49であり、本発明による水準T4では、1.60となっている。この結果によると、水準T1に対する生産率の増加量は水準T2が0.07、水準T3が0.09であり、本発明による水準T4では、水準T2及T3の増加量を加算した値0.16より大きな増加量0.20となっており、単に水準T2及びT3を加えた場合より大きな効果を得ることができた。
【0172】
還元粉化性(RDI)については、図56(b)に示すように、水準T1が34.3%、水準T2が36.2%、水準T3が30.2%であり、本発明による水準T4が31.7%となっている。ここで、還元粉化性(RDI)は小さい値の方が好ましく、本発明による水準T4が通常外装法による水準T3より大きい値となっているが、これは、LNG吹込みによる水準T2が基準となる水準T1に対して還元粉化性(RDI)が高くなっており、外装法とLNG吹込みとを行う本発明では、LNG吹込みのみによる還元粉化性(RDI)の悪化を大きく抑制して良好な還元粉化性を得ることができる。
【0173】
シャッター強度については、図56(c)に示すように、水準T1では75.1%、水準T2では77.9%、水準t3では78.3%であるのに対し、本発明による水準t4では、最大値となる79.3%となっている。そして、基準となる水準T1に対するシャッター強度の増加量は、水準T2が2.8%、水準T3が3.2%であるが、本発明による水準t4では最大の4.2%の増加量を得ることができた。
【0174】
同様に、被還元性(RI)についても、図56(d)に示すように、水準T1が60.6%、水準T2が66.8%、水準T3が68.8%となり、本発明による水準T4では最高値の71.5となっている。
この図56からか明らかなように、本発明による水準T4では、生産率、シャッター強度及び被還元性(RI)について最高値を得ることができ、還元粉化性(RDI)については水準T3よりは劣るがLNG吹込みのみによる水準T2の欠陥を補うことができており、全体として高品質の焼結鉱を生産することができた。
【0175】
そして、各水準T1〜T4についての焼結鉱の品質評価は、被還元性(RI)と還元粉化性(RDI)との関係は、図57(a)に示すように、本発明による水準T4では、外装法のみによる水準T3の破線図示の操業線より右下側となる操業船となり、高被還元性で且つ低還元粉化性の焼結鉱製造が可能であることが実証された。
また、図57(b)に示す微細気孔の残留を表す有効拡散係数De、×10−4〔m2/s〕とシリケート生成の抑制を表す化学反応速度定数Kc、×10−2〔m/s〕との関係から本発明による水準T4では、実線図示の等RI線(計算値)が右上の最良の状態にあり、右側に示すJIS−RIについても72%近くと最大となっており、これら有効拡散係数De及び化学反応速度定数Kcが被還元性(RI)の向上に大きく寄与している。
【0176】
さらに、前述した図28の実験容器を使用して燃焼実験結果を図58に示す。この図58では、水準T1、水準T2及び本発明による水準T4における点火後360秒後の燃焼状態、点火後720秒後の燃焼状態及び上層(100mm)、中層(200mm)、下層(300mm)の層内温度が示されている。この図58から明らかなように、水準T1では、図58(a)に示すように、点火後360秒及び720秒の燃焼帯の幅が狭く、上層、中層及び下層の1200℃以上の保持時間も短くなっているとともに中層及び下層では最高到達温度が1400℃を超える燃焼状態となっている。これに対して、LNGの吹込みを行う水準T2では、図58(b)に示すように、前述したと同様に、点火後360秒及び720秒の燃焼帯の幅が広くなり、上層、中層及び下層の1200℃以上の保持時間が長くなり、且つ最高到達温度が1400℃未満に抑制されている。さらに、本発明による水準T4では、点火後360秒及び720秒で水準T2と同様に燃焼帯の幅を広げることができ、最も必要とする上層1200℃以上の保持時間を水準T3よりも長くすることができ、最高到達温度も1400℃未満に抑制することができ、良好な燃焼状態を得ることができることが実証された。
【0177】
この図58では水準3についての実験結果を表示していないが、水準T1〜T4の上層(100mm)、中層(200mm)及び下層(300mm)の層内温度の測定結果を図に示す。図59(a)は1200℃以上の保持時間〔s〕を示し、水準T1に比較して、水準T2の各層の保持時間が増加しており、本発明による水準T4でも上層及び下層で水準T2より保持時間が増加し、中層では水準T2より下回るが水準T1に比較しては保持時間が増加している。これに対して、外装法のみの水準T3では、1200℃以上の保持時間が上層、中層及び下層の全てで水準T1より低下している。
【0178】
図59(b)は層内最高到達温度〔℃〕を示し、水準T1及びT3では、中層及び下層で1400℃を超えており、水準T2及び本発明による水準T4では、最高到達温度を1400℃未満に抑制されており、カルシウムシリケートの生成を抑制している。
このように、本発明による水準T4の1200℃以上の保持時間の増加及び中・下層内の最高到達温度の低下は、外装法による擬似粒子の粒子径が大きくなり、通気性の向上に伴い雰囲気酸素濃度が上昇して酸素富化状態となり、コークスとLNGの燃焼位置が開いたことによるものと推察することができる。
【0179】
この酸素富化状態によるLNG吹込み効果の向上は、前述したLNGのみを吹込む水準2では、図60(a)に示すように、気体燃料(LNG)の燃焼層と固体燃料(粉コークス)の燃焼層とが比較的近く、1200℃以上の保持時間が比較的短くなる。
これに対して、本発明による水準T4では、擬似粒子の径が大きくなって通気性を確保することができることから、酸素富化状態となって、燃焼速度が向上し、燃焼ポイントは低温側にシフトする。これによって、固体燃料(粉コークス)の燃焼ポイントは層下方にシフトし、KEL燃料(LNG)の燃焼ポイントは層上方にシフトすることになり、結果的に1200℃以上の保持時間が水準T2より長くなり、冷間強度の向上効果がより大きくなる。
【0180】
このため、本発明による水準T4では、図61(a)に示すように、生産率とシャッター強度との関係が、生産率を高めなかがらシャッター強度を向上させることができる。これに対して、基準となる水準T1では生産率及びシャッター強度がともに低く、水準T2及び水準T3では水準T1よりは生産率及びシャッター強度を改善することができるが、本発明による水準T4には及ばないことになる。
【0181】
さらに、燃焼速度(FFS)〔mm/min〕と歩留〔%〕との関係は、図61(b)に示すようになり、本発明による水準T4では実線図示の等生産率線が1.60となって、燃焼速度(FFS)が大きく且つ歩留りが大きい状態となる。これに対して、水準T1では、等生産率線が1.40となり、燃焼速度及び歩留我ともに低い状態となり、水準T2では等生産率線が1.45で少し上昇するが、燃焼速度は遅く、歩留はやや高い状態となる。さらに、外装法のみによる水準T3では等生産率線が1.50と高くなるが、燃焼速度が速くなる一方歩留りは水準T2より低くなる。
【0182】
そして、前述した図55の鍋実験によって生成した水準T1〜T4の焼結鉱を切断して粉末X線回折試験を行った結果を図62に示す。
この図62によると、基準となる水準T1ではカルシウムフェライ内に固溶するFeの量に対してLNGのみを吹き込む水準T2ではカルシウムフェライト内に固溶するFeの量が低下するが、本発明による水準T4のように外装法とLNGの吹込みとを併用する場合には、水準T1と略変わらないカルシウムフェライト内に固溶するFeの量を確保することができる。なお、図62で一番右側のLNG+2段外装とすることにより、カルシウムフェライト内に固溶するFeの量をより多く確保することができる。
【0183】
ここで、2段外装とは、図63に示すように、石灰石系粉原料及び固体燃料系粉原料(例えば粉コークス)以外の焼結原料をコンクリミキサー61で例えば180秒混合し、混合した焼結原料を7.6%の添加水を加えてドラムミキサー62に投入する。このドラムミキサ62の造粒時間は例えば360秒に設定され、造粒完了時点から例えば120秒前に石灰石系粉原料を投入し、次いで例えば90秒遅れた時点すなわち造粒完了時点から例えば30秒前の時点で固体燃料系粉原料としての粉コークスを投入して造粒することにより、最外層が凝結材としての粉コークスとなる擬似粒子を形成することである。この疑似粒子の粒径は1.31mmを超える粒径に調整される。そして、形成した2段外装擬似粒子を前述した図55に示す鉄鍋50に装入して0.4%のLNGを吹き込むことにより、焼結鉱を生成する。生成した焼結鉱を切断して粉末X線回折試験を行った結果が図62である。なお、2段外装する場合の石灰石系粉原料の投入時点は造粒完了時点から120秒前に限定されるものではなく、固体燃料系粉原料の投入時点よりも前に投入するようにすればよく、形成される擬似粒子の調和平均径が1.31mmを超える粒径となればよいものである。
【0184】
また、図64は、カルシウムフェライト内へのアルミナ固溶状態を示す粉末X線回折試験結果を示す写真であって、基準となる水準T1に比較してLNGのみを吹き込む水準T2では、全体に白っぽくなって、カルシウムフェライト内へのアルミナが固溶する量が増加する場合があるが、本発明となる外装法とLNGの吹込みとを併用する水準T4の場合には、白っぽさが抑制されて、水準T1に近い状態となり、カルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量を抑制することができる。この場合もLNG+2段外装状態とすると、カルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量をより抑制することができる。
ここで、カルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量が増加すると、カルシウムフェライト溶液の粘度が2〜3倍に増加し、カルシウムフェライトが結合材として作用するため、気孔形成が促進されず、通気性が低下して焼結鉱の品質に影響を与えることになる。
【0185】
しかしながら、本発明では、造粒装置1で、調和平均径の大きい擬似粒子を形成し、この擬似粒子をパレット8上に装入して装入層9を形成し、この装入層9の炭材に点火炉10で点火した後に液体燃料供給装置15A及び15Bで希釈鋭気体燃料を空気とともに混合した混合気体燃料を装入層9の上方から吹き込むので、擬似粒子の粒径が大きいことにより、通気性を確保することができるため、装入層9内の流速が上昇し、冷却速度(対流伝熱)が大きくすることができる。このため、図65に示すように、本発明となる外装法とLNGの吹込みとを併用する水準T4とするかさらに同様に本発明となるLNG+2段外装とすることにより、カルシウムフェライト内へのFeの固溶量を増加させるとともに、カルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量を低下させることができ、これによって前述したように成品となる焼結鉱の歩留り、シャッター強度、焼結時間等の品質を大幅に向上させることができる。
【0186】
また、擬似粒子の粒径が大きくなることにより、装入層9内の流速が上昇し、単位時間内に系に供給される風量(酸素物質量)が増加して酸素富化状態となる。このとき、内部に存在する炭材の量に変化はないことから酸素濃度の低下が抑制され、前述した図60(b)に示したように、1200℃以上の保持時間を長くして良好な品質の焼結鉱を高生産率で生産することができる。
【0187】
ここで、酸素(O2)量とカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量との関係は、図66に示すように、酸素濃度を10.4〔vol%〕から20.8〔vol%〕及び25.8〔vol%〕に増加させると、酸素濃度が増加するに従ってカルシウムフェライト内へのアルミナの固溶量が減少していることが確認された。
この酸素富化状態とすることによるカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量の抑制効果は、ノンストイキオメトリー効果に起因するものと考えられる。
【0188】
このノンストイキオメトリー効果は、図67に示すように、酸素濃度が増加すると金属参加物表面の陽イオンが酸素イオンと結合し、カチオン空孔を生じる。Fe及びAlはともに空孔拡散気孔であるが、AlイオンはAlO33+の形で存在するためカチオン空孔を容易に拡散できない。したがって、酸素濃度が大きくなることで、Alイオンよりも拡散速度の大きいFeイオンがカルシウムフェライト中に多く固溶し、相対的にAlイオン濃度が薄くなったものと考えられる。
【0189】
このように、上記実施形態によると、カルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制するように調和平均径の大きい擬似粒子を造粒装置1で造粒し、この擬似粒子をパレット8上に装入して、装入層9を形成し、この装入層9の炭材に点火炉10で点火した後に、気体燃料供給装置15A,15Bで希釈気体燃料と空気との混合気体燃料を装入層9上に吹き込むことにより、1200℃以上の保持時間を長くしながら最高到達温度を1400℃未満に維持し、さらにカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制することにより、高品質の焼結鉱を高生産率で生産することができる。
【0190】
本発明に係る焼結鉱の製造方法を、日産2万トン規模のDL型焼結機に適用した。使用したDL焼結機の機長は、点火炉から排鉱部までが90mであり、この焼結機の点火炉の後方約30mの位置には、装入層上方500mmの高さに、長さ(パレット進行方向)15mの気体燃料供給パイプをパレット進行方向に沿って平行に9本配設し、そのパイプのそれぞれには、下方に向けて気体燃料を噴出するノズルを100mm間隔で149個取り付けた(合計1341個)構造の第1の気体燃料供給装置15Aを設置し、そのノズルから気体燃料として都市ガスを、高速で大気中に吐出させて、都市ガス濃度が0.8vol%の希釈気体燃料として装入層上に供給した。なお、装入層の全厚を600mm(但し、上層400mmには粉コークスを4.2mass%含有する焼結原料)積層し、上記気体燃料の供給位置は、燃焼・溶融帯が200〜300mmの位置に存在するときに相当する。上記のようにして供給した希釈気体燃料は、焼結機パレット下方のウインドボックスの吸引負圧制御により、装入層中に吸引・導入され、焼結層を通して上記位置に存在する燃焼・溶融帯で燃焼される。
【0191】
また、第1の気体燃料供給装置15Aの下流側に隣接させて第2の気体燃料供給装置15Bを複数例えば3台直列に設置し、そのノズルからコークス炉ガス(Cガス)を配管閉塞物質の付着を抑制することができる口径6mm以上好ましくは10mm以上で大気中に吐出させてコークス炉ガス濃度が0.8vol%の希釈気体燃料として装入層上に供給した。上記気体燃料の供給位置は、燃焼・溶融帯が500〜600mmの位置に存在するときに相当する。この場合には燃焼・溶融帯が深く装入層の表面には火種が全くないことから流速の遅いコークス炉ガス(Cガス)を噴射しても希釈気体燃料が装入層上で着火することはない。この上記のようにして供給した希釈気体燃料は、焼結機パレット下方のウインドボックスの吸引負圧制御により、装入層中に吸引・導入され、焼結層を通して上記位置に存在する燃焼・溶融帯で燃焼される。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明の技術は、製鉄用、とくに高炉用原料として使われる焼結鉱の製造技術として有用であるが、その他の鉱石塊成化技術としても利用することができる。
【符号の説明】
【0193】
1 造粒装置
2 ドラムミキサー
4 床敷きホッパー
5 サージホッパー
6 ドラムフィーダー
7 切り出しシュート
8 パレット
9 装入層
10 点火炉
11 ウインドボックス
15A 第1の気体燃料供給装置
15B 第2の気体燃料供給装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結原料を構成する返鉱を含む鉄鉱石原料と造滓成分を構成する副原料と凝結材とを造粒して擬似粒子化し、当該擬似粒子化原料を焼結機に装入して焼結する際に、
前記造滓成分を構成する副原料中の石灰石副原料および前記凝結材を分離して残りの焼結原料を造粒して、擬似粒子化処理を行い、その造粒過程の後半に前記分離した石灰石副原料と凝結材を添加して前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子を得る造粒工程と、
前記外層を保有した擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、当該パレット上に前記外層を保有した擬似粒子原料の装入層を形成する装入工程と、
装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する点火工程と、
気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈して、燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とし、該希釈気体燃料及び空気の混合気体燃料を前記パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、上記希釈気体燃料を装入層内に吸引し、当該希釈気体燃料を焼結層内において燃焼させると同時に、装入層内に吸引した空気により、該装入層内の炭材を燃焼させることにより、焼結ケーキを生成させる気体燃料燃焼工程とを備え、
前記造粒工程で形成する擬似粒子径を、前記気体燃料燃焼工程での前記混合気体燃料の通風量を確保してカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制可能な粒径に選定したことを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記造粒工程で形成する擬似粒子径を、冷却速度を速くし且つ酸素富化状態となる粒径に選定したことを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記造粒工程で形成する擬似粒子径は、調和平均径が1.31mmを超える粒径に設定したことを特徴とする請求項2に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記石灰石副原料と凝結材の外層は、両者を同時あるいは順次添加して形成される混合層であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
前記石灰石副原料と凝結材の外層は、最外層が凝結材であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項6】
前記気体燃料燃焼工程は、前記擬似粒子径を調整して燃焼帯への酸素濃度を調整することにより前記焼結層内の高温域保持時間を調整することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項1】
焼結原料を構成する返鉱を含む鉄鉱石原料と造滓成分を構成する副原料と凝結材とを造粒して擬似粒子化し、当該擬似粒子化原料を焼結機に装入して焼結する際に、
前記造滓成分を構成する副原料中の石灰石副原料および前記凝結材を分離して残りの焼結原料を造粒して、擬似粒子化処理を行い、その造粒過程の後半に前記分離した石灰石副原料と凝結材を添加して前記擬似粒子表面に石灰石副原料と凝結材の外層を形成した擬似粒子を得る造粒工程と、
前記外層を保有した擬似粒子原料を、循環移動するパレット上に装入して、当該パレット上に前記外層を保有した擬似粒子原料の装入層を形成する装入工程と、
装入層表面の炭材に点火炉を使って点火する点火工程と、
気体燃料を装入層上方の空気中に供給して希釈して、燃焼下限濃度以下の希釈気体燃料とし、該希釈気体燃料及び空気の混合気体燃料を前記パレット下に配置されたウインドボックスの吸引力により、上記希釈気体燃料を装入層内に吸引し、当該希釈気体燃料を焼結層内において燃焼させると同時に、装入層内に吸引した空気により、該装入層内の炭材を燃焼させることにより、焼結ケーキを生成させる気体燃料燃焼工程とを備え、
前記造粒工程で形成する擬似粒子径を、前記気体燃料燃焼工程での前記混合気体燃料の通風量を確保してカルシウムフェライト内へのアルミナ固溶量を抑制可能な粒径に選定したことを特徴とする焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
前記造粒工程で形成する擬似粒子径を、冷却速度を速くし且つ酸素富化状態となる粒径に選定したことを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記造粒工程で形成する擬似粒子径は、調和平均径が1.31mmを超える粒径に設定したことを特徴とする請求項2に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記石灰石副原料と凝結材の外層は、両者を同時あるいは順次添加して形成される混合層であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
前記石灰石副原料と凝結材の外層は、最外層が凝結材であることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【請求項6】
前記気体燃料燃焼工程は、前記擬似粒子径を調整して燃焼帯への酸素濃度を調整することにより前記焼結層内の高温域保持時間を調整することを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の焼結鉱の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【公開番号】特開2011−252207(P2011−252207A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127319(P2010−127319)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】
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