説明

焼結鉱積山への水の浸透抑制方法

【課題】原料ヤードにおける焼結鉱の積山へ水が浸透するのを抑制し、かつ長期間にわたってその効果が維持される方法を提供する。
【解決手段】質量MIN(kg)の無機物粒子と質量MWA(kg)の水と質量MCE(kg)の早強セメントとがMWA/(MCE+MIN)=80/20〜50/50を満足するように混合して得た無機混合物を積山の上表面に積層して無機混合物層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鉄原料の焼結鉱を屋外で保管する際に、雨水や夜露等の水分が焼結鉱の積山に浸透するのを抑制する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄原料である焼結鉱は、鉄鉱石を副原料(たとえば石灰石,炭材等)とともに焼成して焼結ケーキとし、その焼結ケーキを破砕して所定の粒度に整粒したものである。製造された焼結鉱は、屋外の保管場所(いわゆる原料ヤード)に貯蔵され、適宜必要量を高炉へ搬出される。
原料ヤードに焼結鉱を保管するにあたって、焼結鉱は積山と呼ばれる山状に堆積して貯蔵される。焼結鉱が原料ヤードに貯蔵される期間は通常1ケ月程度であり、その貯蔵期間中に水(たとえば雨水,夜露等)が積山に浸透する。その結果、原料ヤードから搬出される焼結鉱には、水が1〜10質量%含まれる。このように水を含む焼結鉱を高炉に装入すると、水を蒸発させる気化熱が必要となり、焼結鉱の加熱溶融に消費するべき熱エネルギーを浪費することになる。
【0003】
そこで原料ヤードにて、積山に水が浸透するのを抑制する技術が検討されている。たとえば特許文献1には、積山にセメントを散布し、さらに樹脂水溶液を散布する技術が開示されている。また特許文献2には、粒度1mm以下のCaOを含む製鋼スラグを散布し、さらに高分子造膜剤水溶液を散布する技術が開示されている。しかし、これらの技術は、樹脂層を最も外側に形成するので、時間の経過とともに樹脂が劣化して水の浸透を抑制する効果が損なわれる。
【特許文献1】特開昭58-63606号公報
【特許文献2】特開昭60-200920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、原料ヤードにおける焼結鉱の積山へ水が浸透するのを抑制し、かつ長期間にわたってその効果が維持される方法を提供することを目的とし、ひいては高炉操業のエネルギー効率を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、屋外に貯蔵される焼結鉱の積山へ水が浸透するのを抑制する焼結鉱積山への水の浸透抑制方法において、質量MIN(kg)の無機物粒子と質量MWA(kg)の水と質量MCE(kg)の早強セメントとを下記の(1)式を満足するように混合して得た無機混合物を積山の上表面に積層して無機混合物層を形成する焼結鉱積山への水の浸透抑制方法である。
WA/(MCE+MIN)=80/20〜50/50 ・・・(1)
IN:無機物粒子の質量(kg)
WA:水の質量(kg)
CE:早強セメントの質量(kg)
【0006】
本発明の焼結鉱積山への水の浸透抑制方法においては、無機物粒子が、返鉱,酸化鉄,砂,砂利および鉄粉の中から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。また、質量MINと質量MCEが下記の(2)式を満足することが好ましい。
CE/MIN=98/2〜70/30 ・・・(2)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、原料ヤードにおける焼結鉱の積山へ水が浸透するのを抑制し、かつ長期間にわたってその効果を維持できる。その結果、高炉操業のエネルギー効率を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
まず、本発明で使用する早強セメントについて説明する。
早強セメントは、普通セメントに比べてケイ酸三カルシウムの配合量が多く、かつ比表面積が大きいセメントであり、短時間で硬化する。早強セメントの性状についてはJIS規格R5210で規定されており、主な特性は強熱減量が3.0%以下,酸化マグネシウム含有量が5.0質量%以下,三酸化硫黄含有量が3.5質量%以下,塩化物イオン含有量が0.02質量%以下,比表面積が3300cm2/g以上である。
【0009】
本発明で使用する早強セメントは、ケイ酸三カルシウム64質量%程度,比表面積が4520cm2/g程度が好ましい。なお、普通セメントはケイ酸三カルシウム54質量%程度,比表面積が3000cm2/g程度である。
次に、本発明で使用する無機物粒子について説明する。
無機物粒子は、返鉱,酸化鉄,砂,砂利,鉄粉等の粉状の粒子であり、その粒径は特に限定しない。これらの粒子を単体で使用しても良いし、あるいは2種以上を混合して使用しても良い。ただし、無機物粒子の平均粒径が0.02mm未満では、早強セメントが硬化する際に、ひび割れが発生し易くなり、被覆層の防水効果が低下する場合がある。一方、50mmを超えると、無機粒子と早強セメントとの間に隙間が発生し易くなり、この場合も被覆層の防水効果が低下する場合がある。したがって、無機物粒子の平均粒径は0.02〜50mmの範囲内が好ましい。
【0010】
このような早強セメントと無機物粒子に水を加えて混合して無機混合物とする。その際、早強セメントの質量(kg)をMCEとし、無機物粒子の質量(kg)をMINとし、水の質量(kg)をMWAとすると、そのMCE,MIN,MWAが下記の(1)式を満足するように配合する必要がある。
WA/(MCE+MIN)=80/20〜50/50 ・・・(1)
WA/(MCE+MIN)値が上記の(1)式の上限値(80/20=4)を超えると、水を過剰に配合したことを意味しており、無機混合物中の早強セメントと水が分離する。一方、MWA/(MCE+MIN)値が上記の(1)式の下限値(50/50=1)未満では、無機混合物の粘度が上昇し、後述する無機混合物層の形成が困難になる。
【0011】
さらに、早強セメントの質量MCEと無機物粒子の質量MINが下記の(2)式を満足するように配合することが好ましい。
CE/MIN=98/2〜70/30 ・・・(2)
CE/MIN値がこの範囲内であれば、無機混合物の粘度が適正に維持され、後述する無機混合物層を容易に形成できるばかりでなく、無機混合物層に亀裂が生じ難くなる。
【0012】
次に、本発明で無機物粒子として使用する返鉱について説明する。
鉄鉱石と副原料を焼成して得た焼結ケーキを破砕した焼結鉱は、その粒度が広い範囲にわたって分布している。製鉄原料として高炉に装入する焼結鉱の適正な粒径は、一般に5〜50mmと言われている。そこで焼結ケーキを破砕した後、焼結鉱を篩分けし、粒径50mm以上の焼結鉱は再度破砕して製鉄原料として使用する。
【0013】
一方、粒径5mm以下の焼結鉱を高炉に装入すると、高炉内の通気性に悪影響を及ぼす。そこで粒径5mm以下の焼結鉱は、鉄鉱石や副原料とともに再度焼成して、焼結ケーキとする。このように焼結設備に返送される焼結鉱を返鉱と称する。
ただし本発明では、平均粒径が0.2mm以下の返鉱を使用することが好ましい。その理由は、平均粒径が0.2mmを超えると、無機混合物の粘度が上昇し、被覆層を形成することが困難になる場合がある。なお、返鉱は焼結設備に返送される焼結鉱の名称であり、本発明では、その名称とは異なる用途に使用するが、本質的に同じものであるから従来と同様に返鉱と記す。
【0014】
早強セメントと無機物粒子と水とを混合する手段は、特に限定せず、攪拌式ミキサー,ニーダー式混練機,タンブラー式ミキサー等の従来から知られている機器を使用する。
このようにして得られた無機混合物を原料ヤードにおける焼結鉱の積山の上表面に積層した後、さらに乾燥して、無機混合物層を形成する。ここで、積山の上表面とは積山の露出面を指し、その全面に無機混合物層を形成しても良いし、あるいは一部に無機混合物層を形成しても良い。ただし、積山の露出面の一部に混合物層を形成する場合は、積山の上部に無機混合物層を形成することが好ましい。
【0015】
無機混合物層の厚みは、特に限定しないが、5mm以上が好ましい。その理由は、返鉱層の厚みが5mm未満では、水の浸透を抑制できないからである。より好ましくは10mm以上であり、15mm以上が一層好ましい。一方、返鉱層の厚みが50mmを超えると、高炉に装入される返鉱の量が増加し、高炉内の通気性に悪影響を及ぼす。したがって、返鉱層の厚みは50mm以下が好ましい。
【0016】
本発明では焼結鉱からなる積山の上表面に無機混合物層を形成する。したがって焼結鉱を原料ヤードから搬出する際には、無機混合物層の破片が焼結鉱に混入する。そこで、焼結鉱を高炉に装入するに先立って篩分けを行ない、所定の粒度範囲から外れる無機混合物層の破片を除去することが好ましい。このようにすれば無機混合物層の破片(ただし焼結鉱と同等の粒度を有する破片)が高炉に装入されるが、高炉の操業に悪影響は生じない。ただし、その他の要因で高炉の操業が不安定な場合は、無機混合物層の破片を除去して焼結鉱のみを装入することが好ましい。
【実施例】
【0017】
図1に示すように、鋼製パイプ1(外径90mm,内径72mm,長さ150mm)を垂直に固定し、下側の開口面にメッシュ2(ポリエステル製,目開き1mm)を装着して、水の浸透実験を行なった。その浸透実験について説明する。
まず、早強セメント5と無機物粒子4に水を加えて3分間混合し、無機混合物とした。発明例1では無機物粒子4は返鉱(平均粒径=0.2mm)を使用した。早強セメント5の質量MCE(kg),無機物粒子4の質量MIN(kg),水の質量MWA(kg)から算出されるMWA/(MCE+MIN)値とMCE/MIN値は表1に示す通りである。
【0018】
次に、原料ヤードにおける焼結鉱の積山を想定して、鋼製パイプ1の底部に焼結鉱3(平均粒径10mm)を厚み60mmとなるように充填した。さらに積山の上表面に形成される無機混合物層を想定して、焼結鉱3の上面に無機混合物を厚み5mmとなるように充填した。
発明例2〜6では、表1に示すように、無機物粒子の種類とMWA/(MCE+MIN)値とMCE/MIN値を変えて、発明例1と同様に鋼製パイプに充填した。
【0019】
なお、焼結鉱3と無機物粒子4の平均粒径の測定は、メッシュ径の異なる数種類の篩で篩って各篩の篩上の重量割合を算出することで求めた。
発明例1〜6の鋼製パイプ1を1日放置して無機混合物を乾燥させた後、上側の開口面から100cm3の水6を注入した。このようにして注入された水7が下方に浸透していき、メッシュ2から全て流下するまでの所要時間(以下、透水時間という)を測定した。その結果は表1に示す通りである。
【0020】
一方、比較例として、本発明の範囲を外れる例について鋼製パイプを用いて水の浸透実験を行なった。すなわち、表1に示す比較例1は普通セメントを使用した例,比較例2は無機混合物を使用しない例,比較例3,4,6はMWA/(MCE+MIN)値が本発明の範囲を外れる例,比較例5は無機物粒子を使用しない例である。
比較例1〜6の鋼製パイプの上側の開口面から100cm3の水7を注入して、その透水時間を測定した。その結果は表1に示す通りである。なお比較例では、無機混合物や無機混合物層に種々の問題が生じた。比較例3では、無機混合物中の早強セメントと水が分離した。比較例4,6では、無機混合物の粘度が高いので焼結鉱3の上面に充填するのが困難であった。比較例5では、無機混合物を乾燥させて形成した無機混合物層に割れが発生した。
【0021】
【表1】

【0022】
表1から明らかなように、発明例では透水時間が38000〜45000秒であったのに対して、比較例では12〜350秒であった。したがって本発明によれば、水100cm3の透水時間が大幅に延長される(水の浸透が抑制される)ことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】水の浸透実験に用いた装置の例を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0024】
1 鋼製パイプ
2 メッシュ
3 焼結鉱
4 無機物粒子
5 早強セメント
6 水
A 積山
B 無機混合物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外に貯蔵される焼結鉱の積山へ水が浸透するのを抑制する焼結鉱積山への水の浸透抑制方法において、質量MIN(kg)の無機物粒子と質量MWA(kg)の水と質量MCE(kg)の早強セメントとを下記の(1)式を満足するように混合して得た無機混合物を前記積山の上表面に積層して無機混合物層を形成することを特徴とする焼結鉱積山への水の浸透抑制方法。
WA/(MCE+MIN)=80/20〜50/50 ・・・(1)
IN:無機物粒子の質量(kg)
WA:水の質量(kg)
CE:早強セメントの質量(kg)
【請求項2】
前記無機物粒子が、返鉱、酸化鉄、砂、砂利および鉄粉の中から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の焼結鉱積山への水の浸透抑制方法。
【請求項3】
前記質量MINと前記質量MCEが下記の(2)式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の焼結鉱積山への水の浸透抑制方法。
CE/MIN=98/2〜70/30 ・・・(2)

【図1】
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【公開番号】特開2007−297667(P2007−297667A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125817(P2006−125817)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】