照明装置用偏光フィルターおよび照明装置
【課題】 水平面(たとえば路面)および垂直面(たとえば壁面)での反射を抑えて、視認性を高めることができる照明装置用偏光フィルターを提供すること。
【解決手段】 法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能を有する偏光素子を少なくとも用いたことを特徴とする照明装置用偏光フィルター。
【解決手段】 法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能を有する偏光素子を少なくとも用いたことを特徴とする照明装置用偏光フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置用偏光フィルターに関する。本発明の照明装置用偏光フィルターは光源と組み合わせて各種照明装置に適用できる。たとえば、自動車(ヘッドライト、フォグランプ等)、二輪車、自転車等の車輌用の照明装置、交通信号器等の信号用の照明装置、その他にショーケースに入った服飾、宝石、アクセサリー等の展示品を斜め方向から照射する照明装置等として好適に適用できる。これらのなかでも車輌用の照明装置として有用である。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌は夜間に走行する際にはヘッドライト等を点灯して路面、壁面やガードレールを照らす。ヘッドライト等から照射された光線のなかで路面等に対し浅い角度で入射した光線は反射する。当該反射光は対向車の運転手への眩惑原因となる。特に雨天時には路面、壁面等が濡れており反射率が高まるため、対向車の運転手の視認性を低下させている。また、ガラス貼りの外層を有する建築物等も表面反射が大きくなる。
【0003】
路面を照射する方向の光線の反射を抑える方法としては、前記光線に表面反射しない偏光特性を付与する方法がある。これによって対向車側への正反射成分を低減することができる。これは入射角によって反射光の振動方向による反射率が異なることによる。
【0004】
例えば、水面に入射し反射される光線は、水面の法線方向に対する入射角度が約53度の時に入射面に垂直に振動する直線偏光(S偏光)となる。この時のS偏光は約7.7%の反射率を有しており、これが水面下の対象の視認性を著しく低下させている。したがって、S偏光と直交方向の軸を持つP偏光が当該角度で入射すると反射率が0%となる。かかる反射は、路面、壁面であっても同様の現象は程度の差こそあれ存在している。
【0005】
そこで、自動車用ヘッドライトに偏光特性を付与して、視認性の向上や対向車への悪影響を低減することは古くから提案されてきた。たとえば、ヘッドライト等に直線偏光を透過する偏光板をフィルターとして配置することが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、フロントガラスには前記偏光板を透過する直線偏光と直交する直線偏光を透過するように偏光板を配置している。しかし、前記特許文献1では、対向車も同様の偏光板を配置する必要があること、または対向車の運転手が偏光サングラスをかける等の二次的な手間が必要であった。さらには、一般的に用いられる偏光フィルターは、吸収型偏光板であるため、吸収損失による照度の低下やランプハウスの発熱などの問題があった。また、P偏光(直線偏光)を照射する装置も提案されている(特許文献2)。しかし、単純に直線偏光を照射するのみでは、路面の正反射は低減できるものの、ガラス張りの店舗や濡れた壁面などの側方の垂直面からの正反射を抑制できず、むしろ上昇させてしまう。
【0006】
【特許文献1】特開2002−36876号公報
【特許文献2】特開平10−255536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水平面(たとえば路面)および垂直面(たとえば壁面)での反射を抑えて、視認性を高めることができる照明装置用偏光フィルターを提供することを目的とする。
【0008】
また本発明は、前記照明装置用偏光フィルターを用いた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記照明装置用偏光フィルターにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能を有する偏光素子を少なくとも用いたことを特徴とする照明装置用偏光フィルター、に関する。
【0011】
上記照明装置用偏光フィルターに用いる偏光素子としては、法線方向に対する入射角度が30°以上の斜め方向の入射光に対して直線偏光を透過する機能を有する偏光素子が好適に用いられる。
【0012】
上記照明装置用偏光フィルター用いる偏光素子としては、入射光を偏光分離して出射する、偏光分離特性を有するコレステリック液晶層により形成されている反射偏光子を好適に用いることができる。
【0013】
一般的にコレステリック液晶を用いた反射偏光子はコレステリック液晶のねじれピッチに起因する選択反射特性によって円偏光を分離する。コレステリック液晶は、一方の円偏光を反射し、もう一方を透過する。斜め入射光に関しては米国特許第5731886号明細書、米国特許第6630974号明細書等に示されるように楕円偏光化することが知られている。本発明では、コレステリック液晶層のピッチ変化と厚みを注意深く制御することにより、入射角の増大に応じて直線偏光化が進み、特に入射角30°以上の領域において直線偏光性が高くなることが見出し、かかるコレステリック液晶を用いた反射偏光子を照明装置用偏光フィルターとして用いている。またコレステリック液晶はピッチ変化と厚みを制御することで、偏光の軸方向を制御することができる。コレステリック液晶層のピッチ変化と厚みを注意深く制御すると入射角30°以上の領域において直線偏光特性を高め、かつ偏光軸方向を任意に制御することが可能である。斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能は、正面方向より30°以上の角度で有するのが好適である。なお、本発明において、直線偏光とは、楕円偏光の歪み率が0.2以下の場合をいう。直線偏光化の点からは、歪み率が0.1以下であるのが好ましい。また円偏光とは、楕円偏光の歪み率が0.7以上となった場合という。円偏光の点からは、歪み率が0.9以上であるのが好ましい。
【0014】
上記反射偏光子では、得られる直線偏光の軸方向は入射角方向に関わらず、光線の偏光軸方向を入射面に対して一定(たとえばP偏光)に設定することができる(後述の図1、図2参照)。これにより、上下斜め方向の入射光は、平面(たとえば路面等)に対してP偏光を、左右斜め方向の入射光は、垂直面(たとえば壁面等)に対してP偏光を出射することができる。
【0015】
図8、9に、光源Lと偏光フィルターFを組み合わせた照明装置Sから出射される偏光の概念図を示す。偏光フィルターFに正面方向から入射する自然光(r)は、円偏光(r2)として透過する。一方、偏光フィルターFに斜め方向から入射する自然光(r)は、直線偏光(r1:P偏光)として透過する。直線偏光(r1:P偏光)は、上下斜め方向では路面の平面に対して、左右斜め方向では垂直面に対し同じ方向の直線偏光である。下斜め方向の直線偏光(r1:P偏光)は路面(W)に対しては、殆ど反射していない。他の方向においても同様に殆ど反射しない。偏光フィルターFとしては、反射偏光子が好適に用いられ、偏光フィルターFを透過しなかった偏光は、偏光フィルターFで反射されて、たとえば、反射鏡(R)を設けることにより、再利用可能である。
【0016】
上記本発明の照明装置用偏光フィルターにおいては表面反射の低減が目的であるのでS偏光を出射しない(P偏光を出射する)タイプの偏光素子が好適に選択される。このような偏光素子の場合、水平面(路面方向)に対してP偏光を出射するとともに、側方の垂直面(壁面)に対してもP偏光を出射する特性を有する。従ってガラス壁面等においても、路面とともに、表面反射を発生させにくい特性を同時に発揮できる。
【0017】
前記反射偏光子としては、法線方向の入射光に対する出射光は、歪み率が0.5以上であり、法線方向から60°以上傾けて入射した入射光に対する出射光は、歪み率が0.2以下であり、入射角度が大きくなるに従って出射光の直線偏光成分が増大するものがあげられる。
【0018】
上記反射偏光子は、法線方向の入射光に対する出射光は、歪み率が0.5以上であり、垂直入射光またはその垂直入射に近い入射角度では円偏光が出射する。前記法線方向の入射光に対する出射光の歪み率は大きいほど円偏光の割合が多くなるため、0.7以上、さらには0.9以上であるのが好ましい。一方、法線方向から60°以上傾けて入射した入射光に対する出射光は、歪み率が0.2以下であり、深い入射角度では直線偏光が出射する。法線方向から60°以上傾けて入射した入射光に対する出射光の歪み率は小さいほど直線偏光の割合が多くなるため、0.1以下であるのが好ましい。
【0019】
かかる反射偏光子は、法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては、入射角度が大きくなるに従って、出射光の直線偏光成分が増大する特徴を有する。
【0020】
前記反射偏光子としては、入射角度が大きくなるに従って増大する出射光の直線偏光成分は、反射偏光子面の法線方向に対し実質的に直交方向に直線偏光の偏光軸を有するものを例示できる。図1(A)は、光学面(x軸−y軸平面)である反射偏光子(A1)を透過した出射光(e)は、入射光(i)の入射角度の違いによって偏光成分が異なることを示す概念図である。図1(B)は、出射光(e)をz軸方向から観た場合の概念図である。なお、図3に示す通り、(i)直線偏光、(ii)自然光、(iii)円偏光、(iv)楕円偏光である。
【0021】
出射光(e1):反射偏光子(A1)に対するz軸方向(法線方向)の入射光(i1)に対する出射光であり、円偏光である。
【0022】
出射光(e2)、(e4):反射偏光子(A1)に斜め入射した入射光(i2)、(i4)に対する出射光であり、楕円偏光である。出射光(e2)は、z軸とy軸を含む面上に存在し、当該面に対して直交する軸を有する楕円偏光である。出射光(e4)は、z軸とx軸を含む面上に存在し、当該面に対して直交する軸を有する楕円偏光である。
【0023】
出射光(e3)、(e5):反射偏光子(A1)に大きな角度で斜め入射した入射光(i3)、(i5)に対する出射光であり、直線偏光である。出射光(e3)は、z軸とy軸を含む面上に存在し、当該面に対して直交する軸を有する直線偏光である。出射光(e5)は、z軸とx軸を含む面上に存在し、当該面に対して直交する軸を有する直線偏光である。このように直線偏光である出射光(e3)、(e5)は、その偏光軸が、z軸に対し実質的に直交方向、すなわち光学面(x軸−y軸平面)に平行方向になっている。
【0024】
また、前記偏光素子としては、入射角度が大きくなるに従って増大する出射光の直線偏光成分は、偏光素子面の法線方向に対し実質的に平行方向に直線偏光の偏光軸を有するものを例示できる。図2(A)は、光学面(x軸−y軸平面)である反射偏光子(A2)を透過した出射光(e)は、入射光(i)の入射角度の違いによって偏光成分が異なることを示す概念図である。図2(B)は、出射光(e)をz軸方向から観た場合の概念図である。
【0025】
出射光(e41):反射偏光子(A2)に対するz軸方向(法線方向)の入射光(i41)に対する出射光であり、円偏光である。
【0026】
出射光(e42)、(e44):反射偏光子(A2)に斜め入射した入射光(i42)、(i44)に対する出射光であり、楕円偏光である。出射光(e42)は、z軸とy軸を含む面上に存在し、当該面に対して平行な軸を有する楕円偏光である。出射光(e44)は、z軸とx軸を含む面上に存在し、当該面に対して平行な軸を有する楕円偏光である。
【0027】
出射光(e43)、(e45):反射偏光子(A2)に大きな角度で斜め入射した入射光(i43)、(i45)に対する出射光であり、直線偏光である。出射光(e43)は、z軸とy軸を含む面上に存在し、当該面に対して平行な軸を有する直線偏光である。出射光(e45)は、z軸とx軸を含む面上に存在し、当該面に対して平行な軸を有する直線偏光である。このように直線偏光である出射光(e43)、(e45)は、その偏光軸が、z軸に対し実質的に平行方向、すなわち光学面(x軸−y軸平面)に直交方向になっている。
【0028】
前記反射偏光子は、反射帯域巾が200nm以上であることが好ましい。従来はコレステリック液晶層は入射角に関わらず円偏光を透過/反射するとされていた。図4を参照。実際これまで単一ピッチの狭帯域コレステリック液晶層(a1)では入射光の入射角度に関わりなく出射光は円偏光であった。本発明は広帯域選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層は、前述のような入射光の入射角度が大きい場合に直線偏光を透過する現象を見出したものである。すなわち、本現象は特定波長のみに選択反射機能を有する単一ピッチコレステリック液晶層では得られず、広帯域化されたピッチ長が変化するコレステリック液晶層にのみ得られている。
【0029】
なお、過去には竹添(Jpn.J.Appl.Phys.,22,1080(1983))により、複屈折が大きなコレステリック液晶層を数十μmにまで厚く配向させた場合(a2)には、入射角が大きな入射光は全反射し、透過が得られない現象の報告はされている。図5を参照。しかし、当該文献には入射角が大きな入射光が直線偏光化されることは記載されていない。
【0030】
上記現象を有する反射偏光子(A)は、たとえば、異なる中心波長を有するコレステリック液晶層を積層することにより、可視光全域を覆う選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層とすることにより得ることができる。図6を参照。図6はR(赤色波長領域)、G(緑色波長領域)、B(青色波長領域)の三層を積層した場合である。またコレステリック液晶層の捻れピッチ長が厚み方向で変化することで広帯域化したものを用いることができる。図7を参照。このように、上記現象を有する偏光素子は、図6のように複数の異なる選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層の積層品であってもよく、図7のように厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層のいずれも使用することができ、両者とも同様な効果が得られる。
【0031】
上記現象が起こる理由は定かではないが、単純に液晶層界面でのブリュースター角による偏光分離ならば単一ピッチのコレステリック液晶層でも特定波長に対しては直線偏光が生じるはずである。また、コレステリック液晶層の積層品と厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層とで差がないことから積層界面による反射効果で無いことも明らかである。従って、上記現象は、コレステリック液晶層を透過した時に分離された円偏光に対して、異なる波長帯域のコレステリック液晶層が位相差を付与し直線偏光化したものと考えられる。
【0032】
上記現象を有効に機能せしめるには、十分に広い選択反射帯域幅が必要であり、望ましくは200nm以上、より望ましくは300nm以上、さらに望ましくは400nm以上ある。可視光域をカバーするためには具体的には400〜600nmの範囲をカバーすることが必要となる。なお、入射角に応じて選択反射波長は短波長側にシフトすることから、可視光域を入射角に関わらずカバーするには、広げられた選択反射波長帯は長波長側に延ばして置くことが望ましいが、これに限定するものではない。
【0033】
また本発明は、光源および前記照明装置用偏光フィルターを有することを特徴とする照明装置、に関する。前記照明装置は、照明装置用偏光フィルターが、光源から得られた斜め方向に入射する光を、P偏光(直線偏光)として出射するように配置するのが好ましい。かかる照明装置は、各種用途で使用できるが、車輌用の照明装置として好適に用いられる。
【0034】
光源から、偏光フィルターに斜め方向に透過する光線の偏光軸方向を入射面に対してP偏光とすれば、路面、壁面等に対する反射光線を低下させることができる。P偏光を透過するには、照明装置用偏光フィルターとして、図2に示される反射偏光子が好適である。これは単に対向車への眩惑要因を低減するだけではなく、光源装置の利用効率の向上にもつながる。すなわち、S偏光の場合には正反射して対向車側に到達するが、P偏光は照射面そのものでの散乱光を増えるため、光源側の照射効率を高めて視認性を向上することができる。本発明によれば、入射光線が水面下にまで到達して散乱光となるため、照射面が濡れている場合などでは、照射側の視認性は、むしろ良くなる。
【0035】
また本発明の照明装置では、偏光フィルターとして、コレステリック液晶を用いた反射偏光子を用いているため、偏光フィルターを透過しなかった光成分は反射されて光源側に戻り、反射鏡によって正面方向に戻されリサイクルされる。このため本発明の照明装置は、偏光フィルターとして吸収型偏光子を用いていた従来のものに比べて、光利用効率が高く、発熱も少ない特徴を有する。
【0036】
なお、本発明の照明装置を用いた車輌の場合、対向車側には偏光サングラスや偏光バイザー等の偏光材料を使用することは必ずしも必要ではない。ただし、図9に示すように、本発明の照明装置における偏光フィルター(偏光素子)は、正面方向に円偏光を透過する。そのため、対向車側において、前記偏光フィルターを透過した円偏光を吸収する方向の偏光サングラス等を用いると、対向車の運転手はさらに防眩機能を向上することができる。吸収型円偏光板を対向車側が用いると、ヘッドランプの正面方向の極めて明るい光線を効率よくカットできる。しかも円偏光では軸方向が存在しないので、路面が排水等のためにカマボコ状曲面等になっている場合でも遮蔽効率の低下は生じない。従来の直線偏光を利用した防眩装置では得られない高い効果が得られる。このような円偏光材料を用いた偏光サングラスを用いた場合でも光源側の偏光の乱れた散乱光を視認可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の偏光フィルターは、法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能を有する偏光素子が用いられる。
【0038】
かかる偏光素子としては、前述の通り、反射帯域巾が200nm以上のコレステリック液晶層により形成した反射偏光子が好適である。当該コレステリック液晶層は、複数の異なる選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層を積層体により形成することができる。また厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層を使用することができる。なお、出射光を図1の反射偏光子(A1)または図2の反射偏光子(A2)に示すように制御(斜め出射光の偏光軸の方向を制御)するには、コレステリック液晶層を適宜に選択して行なう。
【0039】
(コレステリック液晶層を積層体)
反射偏光子が、複数の異なる選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層の積層体である場合、各コレステリック液晶層は、積層体の反射帯域巾が200nm以上となるように、適宜に複数のコレステリック液晶層を選択して積層する。
【0040】
コレステリック液晶層には、適宜なものを用いてよく、特に限定はない。例えば、高温でコレステリック液晶性を示す液晶ポリマー、または液晶モノマーと必要に応じてのカイラル剤および配向助剤を電子線や紫外線などの電離放射線照射や熱により重合せしめた重合性液晶、またはそれらの混合物などがあげられる。液晶性はリオトロピックでもサーモトロピック性のどちらでもよいが、制御の簡便性およびモノドメインの形成しやすさの観点よりサーモトロピック性の液晶であることが望ましい。
【0041】
コレステリック液晶層の形成は、従来の配向処理に準じた方法で行うことができる。例えば、トリアセチルセルロースやアモルファスポリオレフィンなどの複屈折位相差が可及的に小さな支持基材上に、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等の膜を形成してレーヨン布等でラビング処理した配向膜、またはSiOの斜方蒸着層、またはポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどの延伸基材表面性状を配向膜として利用した基材、または上記基材表面をラビング布やベンガラに代表される微細な研磨剤で処理し、表面に微細な配向規制力を有する微細凹凸を形成した基材、または上記基材フィルム上にアゾベンゼン化合物など光照射により液晶規制力を発生する配向膜を形成した基材、等からなる適当な配向膜上に、液晶ポリマーを展開してガラス転移温度以上、等方相転移温度未満に加熱し、液晶ポリマー分子がプラナー配向した状態でガラス転移温度未満に冷却してガラス状態とし、当該配向が固定化された固化層を形成する方法などがあげられる。また配向状態が形成された段階で紫外線やイオンビーム等のエネルギー照射で構造を固定してもよい。
【0042】
液晶ポリマーの製膜は、例えば液晶ポリマーの溶媒による溶液をスピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等で薄層展開し、さらに、それを必要に応じ乾燥処理する方法などにより行うことができる。前記の溶媒としては例えば塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタンのような塩素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン系溶媒;トルエンのような芳香族溶媒;シクロヘプタンのような環状アルカン;またはN−メチルピロリドンやテトラヒドロフラン等を適宜に用いることができる。
【0043】
また液晶ポリマーの加熱溶融物、好ましくは等方相を呈する状態の加熱溶融物を前記に準じ展開し、必要に応じその溶融温度を維持しつつ更に薄層に展開して固化させる方法などを採用することができる。当該方法は、溶媒を使用しない方法であり、従って作業環境の衛生性等が良好な方法によっても液晶ポリマーを展開させることができる。
【0044】
なお液晶ポリマー等の展開に際しては、薄型化等を目的に必要に応じて配向膜を介したコレステリック液晶層の重畳方式なども採ることができる。こうして得られるコレステリック液晶層は、成膜時に用いる支持基材/配向基材から剥離して他の光学材料に転写して、または剥離することなく用いることができる。
【0045】
コレステリック液晶層の積層方法は、個別に作製した複数のコレステリック液晶層を接着材や粘着材にて貼り合わせる方法、溶媒などで表面を膨潤・溶解せしめた上で圧着する方法、熱や超音波などを加えつつ圧着方法があげられる。また、コレステリック液晶層を作製した後、当層上に別の選択反射中心波長を有するコレステリック液晶層を重ね塗りする等の手法を用いることができる。
【0046】
(可視光波長域を覆うコレステリック液晶層の作製方法)
可視光波長域を覆うコレステリック液晶層の作製方法としては、前記同様の液晶モノマーを含有する組成物を用いて、下記方法により当該組成物を電子線や紫外線などの電離放射線照射する方法があげられる。たとえば、厚み方向で紫外線透過率の差による重合速度の差を利用する方法(特開2000−95883号公報)、溶媒にて抽出を行い厚み方向に濃度差を形成する方法(特許第3062150号明細書)、一回目の重合後に温度を変えて二回目の重合を行う方法(米国特許第6057008号明細書)等があげられる。
【0047】
また、重合性メソゲン化合物(a)および重合性カイラル剤(b)を含む液晶混合物を配向基材に塗布する工程、および前記液晶混合物に酸素を含む気体と接触している状態で基材側から紫外線照射を行い重合硬化する工程を施し、酸素重合阻害による厚み方向での重合速度差を、基材側からの紫外線照射にて増大する方法(特開2000−139953号公報)等が好適に用いられる。
【0048】
特開2000−139953号公報に記載の方法に関しては、下記方法により、さらに広帯域の反射波長帯域を有するコレステリック液晶層を得ることができる。
【0049】
たとえば、前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、20℃以上の温度下に、20〜200mW/cm2の紫外線照射強度で、0.2〜5秒間、配向基材側から紫外線照射する工程(1)、次いで、液晶層が、酸素を含む気体と接触している状態で、70〜120℃で、2秒間以上、加熱する工程(2)、次いで、液晶層が、酸素を含む気体と接触している状態で、20℃以上の温度下に、工程(1)よりも低い紫外線照射強度で、10秒間以上、配向基材側から紫外線照射する工程(3)、次いで、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(4)により行なう方法があげられる(特願2003−93963号)。
【0050】
また前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、20℃以上の温度下に、1〜200mW/cm2の紫外線照射強度、0.2〜30秒間の範囲内の紫外線照射を、回数が増える毎に、紫外線照射強度を低く、かつ紫外線照射時間を長くしながら、3回以上、配向基材側から紫外線照射する工程(1)、次いで、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(2)により行なう方法があげられる(特願2003−94307号)。
【0051】
また前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、20℃以上の温度下に、20〜200mW/cm2の紫外線照射強度で、0.2〜5秒間、配向基材側から紫外線照射する工程(1)、次いで、液晶層が酸素を含む気体と接触している状態で、工程(1)よりも高く、かつ60℃以上の到達温度になるまでは、昇温速度2℃/秒以上で、工程(1)よりも低い紫外線照射強度で、10秒間以上、配向基材側から紫外線照射する工程(2)、次いで、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(3)により行なう方法があげられる(特願2003−94605号)。
【0052】
さらには下記方法を利用することができる。下記方法では広帯域の反射波長帯域を有し、耐熱性の良好なコレステリック液晶層が得られる。たとえば、重合性メソゲン化合物(a)、重合性カイラル剤(b)および光重合開始剤(c)を含む液晶混合物を、二枚の基材間で、紫外線重合する方法があげられる(特願2003−4346号、特願2003−4101号)。また、前記液晶混合物に、さらに重合性紫外線吸収剤(d)を加えてものを二枚の基材間で、紫外線重合する方法があげられる(特願2003−4298号)。また、重合性メソゲン化合物(a)、重合性カイラル剤(b)および光重合開始剤(c)を含む液晶混合物を、配向基材上に塗布し、不活性ガス雰囲気下で、紫外線重合する方法があげられる(特願2003−4406号)。
【0053】
また、前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、70℃以上の温度下に、10〜200mW/cm2の紫外線照射強度で、0.1〜5秒間、紫外線照射する工程(1)、次いで、液晶層が酸素を含む気体と接触している状態で、70℃以上で、0.1〜5秒間、熱処理する工程(2)を有し、前記工程(1)および工程(2)の後に、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(3)により行うことができる。前記工程(1)および工程(2)は複数回繰り返した後に、紫外線照射する工程(3)を行うことが好ましい(特願2004−71158号)。
【0054】
また、前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、70℃以上の温度下に、10〜200mW/cm2の紫外線照射強度で、0.01〜5秒間、紫外線照射する工程(1)、次いで、液晶層が酸素を含む気体と接触している状態で、70℃以上で、5秒間を超える時間、熱処理する工程(2)を有し、前記工程(1)および工程(2)の後に、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(3)により行なうことができる。前記工程(1)および工程(2)は複数回繰り返した後に、紫外線照射する工程(3)を行うことが好ましい(特願2004−168666号)。
【0055】
なお、偏光素子(A2)の製法としては、前記特願2003−93963号に記載の方法が好ましい。
【0056】
以下にコレステリック液晶層を形成する重合性メソゲン化合物(a)、重合性カイラル剤(b)等を説明するが、これら材料は厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層および積層体にするコレステリック液晶層のいずれにも用いることができる。
【0057】
重合性メソゲン化合物(a)は、重合性官能基を少なくとも1つ有し、これに環状単位等からなるメソゲン基を有するものが好適に用いられる。重合性官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、ビニルエーテル基等があげられるが、これらのなかでもアクリロイル基、メタクリロイル基が好適である。また重合性官能基を2つ以上有するものを用いることにより架橋構造を導入して耐久性を向上させることもできる。メソゲン基となる前記環状単位としては、たとえば、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、フェニルシクロヘキサン系、アゾキシベンゼン系、アゾメチン系、アゾベンゼン系、フェニルピリミジン系、ジフェニルアセチレン系、ジフェニルベンゾエート系、ビシクロへキサン系、シクロヘキシルベンゼン系、ターフェニル系等があげられる。なお、これら環状単位の末端は、たとえば、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。前記メソゲン基は屈曲性を付与するスペーサ部を介して結合していてもよい。スペーサ部としては、ポリメチレン鎖、ポリオキシメチレン鎖等があげられる。スペーサ部を形成する構造単位の繰り返し数は、メソゲン部の化学構造により適宜に決定されるがポリメチレン鎖の繰り返し単位は0〜20、好ましくは2〜12、ポリオキシメチレン鎖の繰り返し単位は0〜10、好ましくは1〜3である。
【0058】
重合性メソゲン化合物(a)のモル吸光係数は、0.1〜500dm3mol-1cm-1@365nmであり、10〜30000dm3mol-1cm-1@334nmであり、かつ1000〜100000dm3mol-1m-1@314nmであることが好ましい。前記モル吸光係数を有するものは紫外線吸収能を有する。モル吸光係数は、0.1〜50dm3mol-1cm-1@365nmであり、50〜10000dm3mol-1cm-1@334nmであり、10000〜50000dm3mol-1cm-1@314nmがより好適である。モル吸光係数は、0.1〜10dm3mol-1cm-1@365nmであり、1000〜4000dm3mol-1cm-1@334nmであり、30000〜40000dm3mol-1cm-1@314nmであるのがより好ましい。モル吸光係数が0.1dm3mol-1cm-1@365nm、10dm3mol-1cm-1@334nm、1000dm3mol-1cm-1@314nmより小さいと十分な重合速度差がつかずに広帯域化し難い。一方、500dm3mol-1cm-1@365nm、30000dm3mol-1cm-1@334nm、100000dm3mol-1cm-1@314nmより大きいと重合が完全に進行せずに硬化が終了しない場合がある。なお、モル吸光係数は、各材料の分光光度スペクトルを測定し、得られた365nm、334nm、314nmの吸光度から測定した値である。
【0059】
重合性官能基を1つ有する重合性メソゲン化合物(a)は、たとえば、下記化1の一般式:
【0060】
【化1】
(式中、R1〜R12は同一でも異なっていてもよく、−F、−H、−CH3、−C2H5または−OCH3を示し、R13は−Hまたは−CH3を示し、X1は一般式(2):
−(CH2CH2O)a−(CH2)b−(O)c−、を示し、X2は−CNまたは−Fを示す。但し、一般式(2)中のaは0〜3の整数、bは0〜12の整数、cは0または1であり、かつa=1〜3のときはb=0、c=0であり、a=0のときはb=1〜12、c=0〜1である。)で表される化合物があげられる。
【0061】
かかる重合性メソゲン化合物(a)の具体例としては、メルク社製:E7、ワッカーケミカル社製:LC‐Silicon−CC3767、BASF社製:LC242、高砂香料工業社製:L42等があげられる。
【0062】
また、重合性カイラル剤(b)としては、たとえば、MerckKGaA社製:S101、R811、CB15、BASF社製:LC756があげられる。
【0063】
上記重合性カイラル剤(b)の配合量は、重合性メソゲン化合物(a)と重合性カイラル剤(b)の合計100重量部に対して、1〜20重量部程度が好ましく、3〜7重量部がより好適である。重合性メソゲン化合物(a)と重合性カイラル剤(b)の割合により螺旋ねじり力(HTP)が制御される。前記割合を前記範囲内とすることで、得られるコレステリック液晶フィルムの反射スペクトルが長波長域をカバーできるように反射帯域を選択することができる。
【0064】
また液晶混合物には、通常、光重合開始剤(c)を含む。光重合開始剤(c)としては各種のものを特に制限なく使用できる。例えば、チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア184、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア651、イルガキュア784、イルガキュア814、Darocure173、Darocure4205、BASF社:TPO(商品名ルシリンTPO(LucirinTPO)等があげられる。光重合開始剤の配合量は、重合性メソゲン化合物(a)と重合性カイラル剤(b)の合計100重量部に対して、0.01〜10重量部程度が好ましく、0.05〜5重量部がより好適である。
【0065】
重合性紫外線吸収剤(d)は、重合性官能基を少なくとも1つ有し、かつ紫外線吸収機能を有する化合物を特に制限なく使用することができる。かかる重合性紫外線吸収剤(d)の具体例としては、たとえば、大塚化学社製のRUVA−93、BASF社製のUVA935LH等があげられる。重合性紫外線吸収剤(d)の配合量は、重合性メソゲン化合物(a)と重合性カイラル剤(b)の合計100重量部に対して、0.01〜10重量部程度が好ましく、2〜5重量部がより好適である。
【0066】
前記混合物には、得られるコレステリック液晶フィルムの帯域幅を広げるために、紫外線吸収剤を混入して厚み方向での紫外線露光強度差を大きくすることができる。また、モル吸光係数の大きな光反応開始剤を用いることで同様の効果を得ることもできる。
【0067】
前記混合物は溶液として用いることができる。溶液を調製する際に用いられる溶媒としては、通常、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキベンゼンなどの芳香族炭化水素類、その他、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、tert−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレンブリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ブチロニトリル、二硫化炭素、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどを用いることができる。使用する溶媒としては、特に制限されないが、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等が好ましい。溶液の濃度は、サーモトロピック液晶性化合物の溶解性や最終的に目的とするコレステリック液晶フィルムの膜厚に依存するため一概には言えないが、通常3〜50重量%程度とするのが好ましい。
【0068】
なお、厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層を作製する場合にも、前記例示の配向基材を用いることができる。配向方法も同様の方法を採用できる。
【0069】
本発明の反射偏光子が有する現象を有効に機能させるには、コレステリック液晶層は十分に厚いことが好ましい。一般的に単一ピッチ長のコレステリック液晶層の場合、厚みは数ピッチ(選択反射中心波長の2〜3倍)程度有れば十分な選択反射を得ることができる。選択反射中心波長が400〜600nmの範囲であればコレステリック液晶の屈折率を考慮すれば、厚み1〜1.5μm程度あれば偏光素子として機能する。上記反射偏光子に用いるコレステリック液晶層は広帯域に反射帯域を有することから、厚み2μm以上であるのが好ましい。望ましくは4μm以上、より望ましくは6μm以上ある。
【0070】
上記コレステリック液晶層により形成された反射偏光子(偏光素子)は、配向基材とともに、または配向基材から剥離して用いることができる。
【0071】
本発明の照明装置用偏光フィルターは、光源と組み合わせて、各種照明装置に適用できる。光源は特に制限されず、各種用途において用いられているものを任意に選択できる。前記の通り光源装置には、反射鏡を組み合わせるのが好ましい。
【0072】
照明装置において、前記偏光フィルターは、既存の照明装置にそのまま適用することができる。たとえば、フロントガラス等の部材に貼り合わせて用いることができる。また前記偏光フィルターは、他の透明性支持基材に積層して、照明装置を形成するレンズ等として用いることができる。透光性支持基材としては、ガラスや透光性樹脂があげられる。前記偏光素子の透光性支持基材への積層は、粘着剤、接着剤等により貼り合わせにより行なうことができる。本発明の照明装置は、光源および前記偏光フィルターを有するが、照明装置を形成する他の構成要素は、各種用途において照明装置の構成部材として用いられているもの任意に選択して用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例をあげて、具体的に説明する。なお、反射帯域巾は、コレステリック液晶層(偏光素子)の反射スペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製、瞬間マルチ測光システム MCPD−2000)にて測定し、最大反射率の半分の反射率を有する反射帯域とした。また、各例において用いた紫外線露光機には、ウシオ電機製のUVC321AM1を用いた。
【0074】
実施例で得られた偏光素子について下記方法により歪み率を測定した。
【0075】
(歪み率):偏光素子の歪み率を評価するために、サンプルの透過スペクトルを瞬間マルチ測光計(大塚電子株式会社製 MCPD―2000)により測定した。自然光を投光させ、サンプルを投光に対して垂直に設置(正面からの出射光を測定)した場合と、垂直方向から60°サンプルを傾けて設置(60°出射光の測定)した場合のそれぞれについて、それらを透過した光の状態を、出射側に配置した偏光板で、偏光板を10°づつ回した時の透過スペクトルを測定した。偏光板は、シグマ光器製グラムトムソンプリズム偏光子を用いた(消光比0.00001以下)。歪み率は下記の計算式から求めた。歪み率=最小透過率/最大透過率。
【0076】
実施例1
(偏光素子の作製)
1官能性メソゲン化合物(高砂香料工業社製,L42)96.2重量部および2官能性カイラル剤(BASF社製LC756)3.8重量部および溶媒(シクロペンタノン)233重量分を調整配合した溶液に、その固形分に対し、光重合開始剤(チバスペシャルティケミカルズ社製,イルガキュア369)を3重量%添加した塗工液(固形分含有量30重量%)を調製した。当該塗工液を、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(配向基材)上にワイヤーバーを用いて乾燥後の厚みで8μmとなるように塗設し、溶媒を100℃で2分間乾燥させた。得られた膜に、配向基材側から40℃の空気雰囲気下で紫外線照射を100mW/cm2で、0.6秒間行った。次いで、配向基材側から90℃の空気雰囲気下で紫外線照射を6mW/cm2で、20秒間行った。その後、50℃の窒素雰囲気下で液晶層側から紫外線照射を60mW/cm2で、30秒間行い、選択反射帯域が550〜1100nmのコレステリック液晶層(偏光素子)を得た。
【0077】
このようにして得られたコレステリック液晶層は法線方向は円偏光を透過するが、入射角30°程度で直線偏光近似光線が得られた。法線方向では歪み率0.90、入射角30°の方向では歪み率0.55、入射角60°の方向では歪み率0.01、であった。直線偏光の偏光軸は、図1に示すように、法線を軸として対象であった。
【0078】
(照明装置)
得られた偏光素子を、図8、9に示すように偏光フィルターFとして用い、光源L(ヘッドランプ)の前面に配置した照明装置Sを作製した。偏光フィルターFに、正面方向から入射した光線は、円偏光が出射し、正面より30°以上の大きな出射角で入射した光線は直線偏光が出射した。前記上下斜め方向の入射光は水平面に対してP偏光(直線偏光)が出射しているため雨天時の路面の正反射光線が減少し、対向車の運転手は眩惑感の低下を認めた。また左右斜め方向の入射光は垂直面に対してP偏光が出射しているため、側方のガードレールの正反射光線が減少し、対向車の運転手は眩惑感の低下を認めた。また偏光フィルターFは、反射偏光子であるため、リサイクル効果が働き、出射光量は50%までは低下せず、75%程度を維持できた。
【0079】
実施例2
(偏光素子の作製)
1官能性メソゲン化合物(高砂香料工業社製,L42)95.1重量部および2官能性カイラル剤(BASF社製LC756)4.9重量部および溶媒(シクロペンタノン)233重量分を調整配合した溶液に、その固形分に対し、光重合開始剤(チバスペシャルティケミカルズ社製,イルガキュア369)を5重量%添加した塗工液(固形分含有量30重量%)を調製した。当該塗工液を、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(配向基材)上にワイヤーバーを用いて乾燥後の厚みで10μmとなるように塗設し、溶媒を100℃で2分間乾燥させた。得られた膜に、工程(1)として、配向基材側から100℃の空気雰囲気下で紫外線照射を139mW/cm2で、0.1秒間行った。次いで、工程(2)として、100℃の空気雰囲気下で120秒間熱処理を行った。さらに、工程(1)、工程(2)を繰り返し行なった。その後、工程(3)として、50℃の窒素雰囲気下で液晶層側から紫外線照射を60mW/cm2で、30秒間行い、選択反射帯域が430〜1010nmのコレステリック液晶層(偏光素子)を得た。
【0080】
このようにして得られたコレステリック液晶層は法線方向は円偏光を透過するが、入射角30°程度で直線偏光近似光線が得られた。法線方向では歪み率0.96、入射角30°の方向では歪み率0.40、入射角60°の方向では歪み率0.04、であった。直線偏光の偏光軸は、図1に示すように、法線を軸として対象であった。
【0081】
(照明装置)
得られた偏光素子を、偏光フィルターFとして用い、実施例1の照明装置Sを作製した。実施例1と同様、雨天時の路面、側方のガードレールの正反射光線が減少し、対向車の運転手は、眩惑感の低下を認めた。また出射光量は75%程度を維持できた。
【0082】
また図9に示すように、対向車の運転手は、前記偏光素子が出射する円偏光と逆回転の吸収型円偏光板を用いた偏光サングラスGを装備して、本発明の照明装置Sの光源L(ヘッドランプ)を視認した。この組合せでは、ヘッドランプの最強力な正面光線を効果的にカットすることができた。また、首を傾けたり、車輌が傾斜するなどしても遮蔽効果に差は無かった。また、光源からの斜め出射光線は眩惑を感じるほどの明るさではないが、サングラスによってカットされず、視認できた。対向車の存在確認の支障には成らない程度の視認は得ることができ、眩惑を防止することが同時に可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1(A)】本発明の偏光素子(反射偏光子)を透過した出射光の偏光軸方向を示す概念図である。
【図1(B)】図1(A)を偏光素子(反射偏光子)の法線方向から観た場合の出射光の偏光軸方向を示す概念図である。
【図2(A)】本発明の偏光素子(反射偏光子)を透過した出射光の偏光軸方向を示す概念図である。
【図2(B)】図2(A)を偏光素子(反射偏光子)の法線方向から観た場合の出射光の偏光軸方向を示す概念図である。
【図3】偏光成分を説明する概念図である。
【図4】従来のコレステリック液晶層による偏光分離を示す概念図である。
【図5】従来のコレステリック液晶層による偏光分離を示す概念図である。
【図6】本発明の偏光素子(コレステリック液晶層)による偏光分離を示す概念図である。
【図7】本発明の偏光素子(コレステリック液晶層)による偏光分離を示す概念図である。
【図8】本発明の照明装置による出射光線を示す概念図の一例である。
【図9】本発明の照明装置による出射光線を、対向者が偏光サングラスを介して視認する概念図の一例である。
【符号の説明】
【0084】
A 偏光素子(反射偏光子)
i 入射光
e 出射光
r 自然光
r1 直線偏光(P偏光)
r2 円偏光
L 光源
F 偏光フィルター
S 照明装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置用偏光フィルターに関する。本発明の照明装置用偏光フィルターは光源と組み合わせて各種照明装置に適用できる。たとえば、自動車(ヘッドライト、フォグランプ等)、二輪車、自転車等の車輌用の照明装置、交通信号器等の信号用の照明装置、その他にショーケースに入った服飾、宝石、アクセサリー等の展示品を斜め方向から照射する照明装置等として好適に適用できる。これらのなかでも車輌用の照明装置として有用である。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車輌は夜間に走行する際にはヘッドライト等を点灯して路面、壁面やガードレールを照らす。ヘッドライト等から照射された光線のなかで路面等に対し浅い角度で入射した光線は反射する。当該反射光は対向車の運転手への眩惑原因となる。特に雨天時には路面、壁面等が濡れており反射率が高まるため、対向車の運転手の視認性を低下させている。また、ガラス貼りの外層を有する建築物等も表面反射が大きくなる。
【0003】
路面を照射する方向の光線の反射を抑える方法としては、前記光線に表面反射しない偏光特性を付与する方法がある。これによって対向車側への正反射成分を低減することができる。これは入射角によって反射光の振動方向による反射率が異なることによる。
【0004】
例えば、水面に入射し反射される光線は、水面の法線方向に対する入射角度が約53度の時に入射面に垂直に振動する直線偏光(S偏光)となる。この時のS偏光は約7.7%の反射率を有しており、これが水面下の対象の視認性を著しく低下させている。したがって、S偏光と直交方向の軸を持つP偏光が当該角度で入射すると反射率が0%となる。かかる反射は、路面、壁面であっても同様の現象は程度の差こそあれ存在している。
【0005】
そこで、自動車用ヘッドライトに偏光特性を付与して、視認性の向上や対向車への悪影響を低減することは古くから提案されてきた。たとえば、ヘッドライト等に直線偏光を透過する偏光板をフィルターとして配置することが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、フロントガラスには前記偏光板を透過する直線偏光と直交する直線偏光を透過するように偏光板を配置している。しかし、前記特許文献1では、対向車も同様の偏光板を配置する必要があること、または対向車の運転手が偏光サングラスをかける等の二次的な手間が必要であった。さらには、一般的に用いられる偏光フィルターは、吸収型偏光板であるため、吸収損失による照度の低下やランプハウスの発熱などの問題があった。また、P偏光(直線偏光)を照射する装置も提案されている(特許文献2)。しかし、単純に直線偏光を照射するのみでは、路面の正反射は低減できるものの、ガラス張りの店舗や濡れた壁面などの側方の垂直面からの正反射を抑制できず、むしろ上昇させてしまう。
【0006】
【特許文献1】特開2002−36876号公報
【特許文献2】特開平10−255536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、水平面(たとえば路面)および垂直面(たとえば壁面)での反射を抑えて、視認性を高めることができる照明装置用偏光フィルターを提供することを目的とする。
【0008】
また本発明は、前記照明装置用偏光フィルターを用いた照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、下記照明装置用偏光フィルターにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能を有する偏光素子を少なくとも用いたことを特徴とする照明装置用偏光フィルター、に関する。
【0011】
上記照明装置用偏光フィルターに用いる偏光素子としては、法線方向に対する入射角度が30°以上の斜め方向の入射光に対して直線偏光を透過する機能を有する偏光素子が好適に用いられる。
【0012】
上記照明装置用偏光フィルター用いる偏光素子としては、入射光を偏光分離して出射する、偏光分離特性を有するコレステリック液晶層により形成されている反射偏光子を好適に用いることができる。
【0013】
一般的にコレステリック液晶を用いた反射偏光子はコレステリック液晶のねじれピッチに起因する選択反射特性によって円偏光を分離する。コレステリック液晶は、一方の円偏光を反射し、もう一方を透過する。斜め入射光に関しては米国特許第5731886号明細書、米国特許第6630974号明細書等に示されるように楕円偏光化することが知られている。本発明では、コレステリック液晶層のピッチ変化と厚みを注意深く制御することにより、入射角の増大に応じて直線偏光化が進み、特に入射角30°以上の領域において直線偏光性が高くなることが見出し、かかるコレステリック液晶を用いた反射偏光子を照明装置用偏光フィルターとして用いている。またコレステリック液晶はピッチ変化と厚みを制御することで、偏光の軸方向を制御することができる。コレステリック液晶層のピッチ変化と厚みを注意深く制御すると入射角30°以上の領域において直線偏光特性を高め、かつ偏光軸方向を任意に制御することが可能である。斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能は、正面方向より30°以上の角度で有するのが好適である。なお、本発明において、直線偏光とは、楕円偏光の歪み率が0.2以下の場合をいう。直線偏光化の点からは、歪み率が0.1以下であるのが好ましい。また円偏光とは、楕円偏光の歪み率が0.7以上となった場合という。円偏光の点からは、歪み率が0.9以上であるのが好ましい。
【0014】
上記反射偏光子では、得られる直線偏光の軸方向は入射角方向に関わらず、光線の偏光軸方向を入射面に対して一定(たとえばP偏光)に設定することができる(後述の図1、図2参照)。これにより、上下斜め方向の入射光は、平面(たとえば路面等)に対してP偏光を、左右斜め方向の入射光は、垂直面(たとえば壁面等)に対してP偏光を出射することができる。
【0015】
図8、9に、光源Lと偏光フィルターFを組み合わせた照明装置Sから出射される偏光の概念図を示す。偏光フィルターFに正面方向から入射する自然光(r)は、円偏光(r2)として透過する。一方、偏光フィルターFに斜め方向から入射する自然光(r)は、直線偏光(r1:P偏光)として透過する。直線偏光(r1:P偏光)は、上下斜め方向では路面の平面に対して、左右斜め方向では垂直面に対し同じ方向の直線偏光である。下斜め方向の直線偏光(r1:P偏光)は路面(W)に対しては、殆ど反射していない。他の方向においても同様に殆ど反射しない。偏光フィルターFとしては、反射偏光子が好適に用いられ、偏光フィルターFを透過しなかった偏光は、偏光フィルターFで反射されて、たとえば、反射鏡(R)を設けることにより、再利用可能である。
【0016】
上記本発明の照明装置用偏光フィルターにおいては表面反射の低減が目的であるのでS偏光を出射しない(P偏光を出射する)タイプの偏光素子が好適に選択される。このような偏光素子の場合、水平面(路面方向)に対してP偏光を出射するとともに、側方の垂直面(壁面)に対してもP偏光を出射する特性を有する。従ってガラス壁面等においても、路面とともに、表面反射を発生させにくい特性を同時に発揮できる。
【0017】
前記反射偏光子としては、法線方向の入射光に対する出射光は、歪み率が0.5以上であり、法線方向から60°以上傾けて入射した入射光に対する出射光は、歪み率が0.2以下であり、入射角度が大きくなるに従って出射光の直線偏光成分が増大するものがあげられる。
【0018】
上記反射偏光子は、法線方向の入射光に対する出射光は、歪み率が0.5以上であり、垂直入射光またはその垂直入射に近い入射角度では円偏光が出射する。前記法線方向の入射光に対する出射光の歪み率は大きいほど円偏光の割合が多くなるため、0.7以上、さらには0.9以上であるのが好ましい。一方、法線方向から60°以上傾けて入射した入射光に対する出射光は、歪み率が0.2以下であり、深い入射角度では直線偏光が出射する。法線方向から60°以上傾けて入射した入射光に対する出射光の歪み率は小さいほど直線偏光の割合が多くなるため、0.1以下であるのが好ましい。
【0019】
かかる反射偏光子は、法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては、入射角度が大きくなるに従って、出射光の直線偏光成分が増大する特徴を有する。
【0020】
前記反射偏光子としては、入射角度が大きくなるに従って増大する出射光の直線偏光成分は、反射偏光子面の法線方向に対し実質的に直交方向に直線偏光の偏光軸を有するものを例示できる。図1(A)は、光学面(x軸−y軸平面)である反射偏光子(A1)を透過した出射光(e)は、入射光(i)の入射角度の違いによって偏光成分が異なることを示す概念図である。図1(B)は、出射光(e)をz軸方向から観た場合の概念図である。なお、図3に示す通り、(i)直線偏光、(ii)自然光、(iii)円偏光、(iv)楕円偏光である。
【0021】
出射光(e1):反射偏光子(A1)に対するz軸方向(法線方向)の入射光(i1)に対する出射光であり、円偏光である。
【0022】
出射光(e2)、(e4):反射偏光子(A1)に斜め入射した入射光(i2)、(i4)に対する出射光であり、楕円偏光である。出射光(e2)は、z軸とy軸を含む面上に存在し、当該面に対して直交する軸を有する楕円偏光である。出射光(e4)は、z軸とx軸を含む面上に存在し、当該面に対して直交する軸を有する楕円偏光である。
【0023】
出射光(e3)、(e5):反射偏光子(A1)に大きな角度で斜め入射した入射光(i3)、(i5)に対する出射光であり、直線偏光である。出射光(e3)は、z軸とy軸を含む面上に存在し、当該面に対して直交する軸を有する直線偏光である。出射光(e5)は、z軸とx軸を含む面上に存在し、当該面に対して直交する軸を有する直線偏光である。このように直線偏光である出射光(e3)、(e5)は、その偏光軸が、z軸に対し実質的に直交方向、すなわち光学面(x軸−y軸平面)に平行方向になっている。
【0024】
また、前記偏光素子としては、入射角度が大きくなるに従って増大する出射光の直線偏光成分は、偏光素子面の法線方向に対し実質的に平行方向に直線偏光の偏光軸を有するものを例示できる。図2(A)は、光学面(x軸−y軸平面)である反射偏光子(A2)を透過した出射光(e)は、入射光(i)の入射角度の違いによって偏光成分が異なることを示す概念図である。図2(B)は、出射光(e)をz軸方向から観た場合の概念図である。
【0025】
出射光(e41):反射偏光子(A2)に対するz軸方向(法線方向)の入射光(i41)に対する出射光であり、円偏光である。
【0026】
出射光(e42)、(e44):反射偏光子(A2)に斜め入射した入射光(i42)、(i44)に対する出射光であり、楕円偏光である。出射光(e42)は、z軸とy軸を含む面上に存在し、当該面に対して平行な軸を有する楕円偏光である。出射光(e44)は、z軸とx軸を含む面上に存在し、当該面に対して平行な軸を有する楕円偏光である。
【0027】
出射光(e43)、(e45):反射偏光子(A2)に大きな角度で斜め入射した入射光(i43)、(i45)に対する出射光であり、直線偏光である。出射光(e43)は、z軸とy軸を含む面上に存在し、当該面に対して平行な軸を有する直線偏光である。出射光(e45)は、z軸とx軸を含む面上に存在し、当該面に対して平行な軸を有する直線偏光である。このように直線偏光である出射光(e43)、(e45)は、その偏光軸が、z軸に対し実質的に平行方向、すなわち光学面(x軸−y軸平面)に直交方向になっている。
【0028】
前記反射偏光子は、反射帯域巾が200nm以上であることが好ましい。従来はコレステリック液晶層は入射角に関わらず円偏光を透過/反射するとされていた。図4を参照。実際これまで単一ピッチの狭帯域コレステリック液晶層(a1)では入射光の入射角度に関わりなく出射光は円偏光であった。本発明は広帯域選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層は、前述のような入射光の入射角度が大きい場合に直線偏光を透過する現象を見出したものである。すなわち、本現象は特定波長のみに選択反射機能を有する単一ピッチコレステリック液晶層では得られず、広帯域化されたピッチ長が変化するコレステリック液晶層にのみ得られている。
【0029】
なお、過去には竹添(Jpn.J.Appl.Phys.,22,1080(1983))により、複屈折が大きなコレステリック液晶層を数十μmにまで厚く配向させた場合(a2)には、入射角が大きな入射光は全反射し、透過が得られない現象の報告はされている。図5を参照。しかし、当該文献には入射角が大きな入射光が直線偏光化されることは記載されていない。
【0030】
上記現象を有する反射偏光子(A)は、たとえば、異なる中心波長を有するコレステリック液晶層を積層することにより、可視光全域を覆う選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層とすることにより得ることができる。図6を参照。図6はR(赤色波長領域)、G(緑色波長領域)、B(青色波長領域)の三層を積層した場合である。またコレステリック液晶層の捻れピッチ長が厚み方向で変化することで広帯域化したものを用いることができる。図7を参照。このように、上記現象を有する偏光素子は、図6のように複数の異なる選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層の積層品であってもよく、図7のように厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層のいずれも使用することができ、両者とも同様な効果が得られる。
【0031】
上記現象が起こる理由は定かではないが、単純に液晶層界面でのブリュースター角による偏光分離ならば単一ピッチのコレステリック液晶層でも特定波長に対しては直線偏光が生じるはずである。また、コレステリック液晶層の積層品と厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層とで差がないことから積層界面による反射効果で無いことも明らかである。従って、上記現象は、コレステリック液晶層を透過した時に分離された円偏光に対して、異なる波長帯域のコレステリック液晶層が位相差を付与し直線偏光化したものと考えられる。
【0032】
上記現象を有効に機能せしめるには、十分に広い選択反射帯域幅が必要であり、望ましくは200nm以上、より望ましくは300nm以上、さらに望ましくは400nm以上ある。可視光域をカバーするためには具体的には400〜600nmの範囲をカバーすることが必要となる。なお、入射角に応じて選択反射波長は短波長側にシフトすることから、可視光域を入射角に関わらずカバーするには、広げられた選択反射波長帯は長波長側に延ばして置くことが望ましいが、これに限定するものではない。
【0033】
また本発明は、光源および前記照明装置用偏光フィルターを有することを特徴とする照明装置、に関する。前記照明装置は、照明装置用偏光フィルターが、光源から得られた斜め方向に入射する光を、P偏光(直線偏光)として出射するように配置するのが好ましい。かかる照明装置は、各種用途で使用できるが、車輌用の照明装置として好適に用いられる。
【0034】
光源から、偏光フィルターに斜め方向に透過する光線の偏光軸方向を入射面に対してP偏光とすれば、路面、壁面等に対する反射光線を低下させることができる。P偏光を透過するには、照明装置用偏光フィルターとして、図2に示される反射偏光子が好適である。これは単に対向車への眩惑要因を低減するだけではなく、光源装置の利用効率の向上にもつながる。すなわち、S偏光の場合には正反射して対向車側に到達するが、P偏光は照射面そのものでの散乱光を増えるため、光源側の照射効率を高めて視認性を向上することができる。本発明によれば、入射光線が水面下にまで到達して散乱光となるため、照射面が濡れている場合などでは、照射側の視認性は、むしろ良くなる。
【0035】
また本発明の照明装置では、偏光フィルターとして、コレステリック液晶を用いた反射偏光子を用いているため、偏光フィルターを透過しなかった光成分は反射されて光源側に戻り、反射鏡によって正面方向に戻されリサイクルされる。このため本発明の照明装置は、偏光フィルターとして吸収型偏光子を用いていた従来のものに比べて、光利用効率が高く、発熱も少ない特徴を有する。
【0036】
なお、本発明の照明装置を用いた車輌の場合、対向車側には偏光サングラスや偏光バイザー等の偏光材料を使用することは必ずしも必要ではない。ただし、図9に示すように、本発明の照明装置における偏光フィルター(偏光素子)は、正面方向に円偏光を透過する。そのため、対向車側において、前記偏光フィルターを透過した円偏光を吸収する方向の偏光サングラス等を用いると、対向車の運転手はさらに防眩機能を向上することができる。吸収型円偏光板を対向車側が用いると、ヘッドランプの正面方向の極めて明るい光線を効率よくカットできる。しかも円偏光では軸方向が存在しないので、路面が排水等のためにカマボコ状曲面等になっている場合でも遮蔽効率の低下は生じない。従来の直線偏光を利用した防眩装置では得られない高い効果が得られる。このような円偏光材料を用いた偏光サングラスを用いた場合でも光源側の偏光の乱れた散乱光を視認可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の偏光フィルターは、法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能を有する偏光素子が用いられる。
【0038】
かかる偏光素子としては、前述の通り、反射帯域巾が200nm以上のコレステリック液晶層により形成した反射偏光子が好適である。当該コレステリック液晶層は、複数の異なる選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層を積層体により形成することができる。また厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層を使用することができる。なお、出射光を図1の反射偏光子(A1)または図2の反射偏光子(A2)に示すように制御(斜め出射光の偏光軸の方向を制御)するには、コレステリック液晶層を適宜に選択して行なう。
【0039】
(コレステリック液晶層を積層体)
反射偏光子が、複数の異なる選択反射波長帯域を有するコレステリック液晶層の積層体である場合、各コレステリック液晶層は、積層体の反射帯域巾が200nm以上となるように、適宜に複数のコレステリック液晶層を選択して積層する。
【0040】
コレステリック液晶層には、適宜なものを用いてよく、特に限定はない。例えば、高温でコレステリック液晶性を示す液晶ポリマー、または液晶モノマーと必要に応じてのカイラル剤および配向助剤を電子線や紫外線などの電離放射線照射や熱により重合せしめた重合性液晶、またはそれらの混合物などがあげられる。液晶性はリオトロピックでもサーモトロピック性のどちらでもよいが、制御の簡便性およびモノドメインの形成しやすさの観点よりサーモトロピック性の液晶であることが望ましい。
【0041】
コレステリック液晶層の形成は、従来の配向処理に準じた方法で行うことができる。例えば、トリアセチルセルロースやアモルファスポリオレフィンなどの複屈折位相差が可及的に小さな支持基材上に、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等の膜を形成してレーヨン布等でラビング処理した配向膜、またはSiOの斜方蒸着層、またはポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートなどの延伸基材表面性状を配向膜として利用した基材、または上記基材表面をラビング布やベンガラに代表される微細な研磨剤で処理し、表面に微細な配向規制力を有する微細凹凸を形成した基材、または上記基材フィルム上にアゾベンゼン化合物など光照射により液晶規制力を発生する配向膜を形成した基材、等からなる適当な配向膜上に、液晶ポリマーを展開してガラス転移温度以上、等方相転移温度未満に加熱し、液晶ポリマー分子がプラナー配向した状態でガラス転移温度未満に冷却してガラス状態とし、当該配向が固定化された固化層を形成する方法などがあげられる。また配向状態が形成された段階で紫外線やイオンビーム等のエネルギー照射で構造を固定してもよい。
【0042】
液晶ポリマーの製膜は、例えば液晶ポリマーの溶媒による溶液をスピンコート法、ロールコート法、フローコート法、プリント法、ディップコート法、流延成膜法、バーコート法、グラビア印刷法等で薄層展開し、さらに、それを必要に応じ乾燥処理する方法などにより行うことができる。前記の溶媒としては例えば塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエタンのような塩素系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンのようなケトン系溶媒;トルエンのような芳香族溶媒;シクロヘプタンのような環状アルカン;またはN−メチルピロリドンやテトラヒドロフラン等を適宜に用いることができる。
【0043】
また液晶ポリマーの加熱溶融物、好ましくは等方相を呈する状態の加熱溶融物を前記に準じ展開し、必要に応じその溶融温度を維持しつつ更に薄層に展開して固化させる方法などを採用することができる。当該方法は、溶媒を使用しない方法であり、従って作業環境の衛生性等が良好な方法によっても液晶ポリマーを展開させることができる。
【0044】
なお液晶ポリマー等の展開に際しては、薄型化等を目的に必要に応じて配向膜を介したコレステリック液晶層の重畳方式なども採ることができる。こうして得られるコレステリック液晶層は、成膜時に用いる支持基材/配向基材から剥離して他の光学材料に転写して、または剥離することなく用いることができる。
【0045】
コレステリック液晶層の積層方法は、個別に作製した複数のコレステリック液晶層を接着材や粘着材にて貼り合わせる方法、溶媒などで表面を膨潤・溶解せしめた上で圧着する方法、熱や超音波などを加えつつ圧着方法があげられる。また、コレステリック液晶層を作製した後、当層上に別の選択反射中心波長を有するコレステリック液晶層を重ね塗りする等の手法を用いることができる。
【0046】
(可視光波長域を覆うコレステリック液晶層の作製方法)
可視光波長域を覆うコレステリック液晶層の作製方法としては、前記同様の液晶モノマーを含有する組成物を用いて、下記方法により当該組成物を電子線や紫外線などの電離放射線照射する方法があげられる。たとえば、厚み方向で紫外線透過率の差による重合速度の差を利用する方法(特開2000−95883号公報)、溶媒にて抽出を行い厚み方向に濃度差を形成する方法(特許第3062150号明細書)、一回目の重合後に温度を変えて二回目の重合を行う方法(米国特許第6057008号明細書)等があげられる。
【0047】
また、重合性メソゲン化合物(a)および重合性カイラル剤(b)を含む液晶混合物を配向基材に塗布する工程、および前記液晶混合物に酸素を含む気体と接触している状態で基材側から紫外線照射を行い重合硬化する工程を施し、酸素重合阻害による厚み方向での重合速度差を、基材側からの紫外線照射にて増大する方法(特開2000−139953号公報)等が好適に用いられる。
【0048】
特開2000−139953号公報に記載の方法に関しては、下記方法により、さらに広帯域の反射波長帯域を有するコレステリック液晶層を得ることができる。
【0049】
たとえば、前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、20℃以上の温度下に、20〜200mW/cm2の紫外線照射強度で、0.2〜5秒間、配向基材側から紫外線照射する工程(1)、次いで、液晶層が、酸素を含む気体と接触している状態で、70〜120℃で、2秒間以上、加熱する工程(2)、次いで、液晶層が、酸素を含む気体と接触している状態で、20℃以上の温度下に、工程(1)よりも低い紫外線照射強度で、10秒間以上、配向基材側から紫外線照射する工程(3)、次いで、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(4)により行なう方法があげられる(特願2003−93963号)。
【0050】
また前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、20℃以上の温度下に、1〜200mW/cm2の紫外線照射強度、0.2〜30秒間の範囲内の紫外線照射を、回数が増える毎に、紫外線照射強度を低く、かつ紫外線照射時間を長くしながら、3回以上、配向基材側から紫外線照射する工程(1)、次いで、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(2)により行なう方法があげられる(特願2003−94307号)。
【0051】
また前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、20℃以上の温度下に、20〜200mW/cm2の紫外線照射強度で、0.2〜5秒間、配向基材側から紫外線照射する工程(1)、次いで、液晶層が酸素を含む気体と接触している状態で、工程(1)よりも高く、かつ60℃以上の到達温度になるまでは、昇温速度2℃/秒以上で、工程(1)よりも低い紫外線照射強度で、10秒間以上、配向基材側から紫外線照射する工程(2)、次いで、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(3)により行なう方法があげられる(特願2003−94605号)。
【0052】
さらには下記方法を利用することができる。下記方法では広帯域の反射波長帯域を有し、耐熱性の良好なコレステリック液晶層が得られる。たとえば、重合性メソゲン化合物(a)、重合性カイラル剤(b)および光重合開始剤(c)を含む液晶混合物を、二枚の基材間で、紫外線重合する方法があげられる(特願2003−4346号、特願2003−4101号)。また、前記液晶混合物に、さらに重合性紫外線吸収剤(d)を加えてものを二枚の基材間で、紫外線重合する方法があげられる(特願2003−4298号)。また、重合性メソゲン化合物(a)、重合性カイラル剤(b)および光重合開始剤(c)を含む液晶混合物を、配向基材上に塗布し、不活性ガス雰囲気下で、紫外線重合する方法があげられる(特願2003−4406号)。
【0053】
また、前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、70℃以上の温度下に、10〜200mW/cm2の紫外線照射強度で、0.1〜5秒間、紫外線照射する工程(1)、次いで、液晶層が酸素を含む気体と接触している状態で、70℃以上で、0.1〜5秒間、熱処理する工程(2)を有し、前記工程(1)および工程(2)の後に、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(3)により行うことができる。前記工程(1)および工程(2)は複数回繰り返した後に、紫外線照射する工程(3)を行うことが好ましい(特願2004−71158号)。
【0054】
また、前記紫外線重合工程を、前記液晶混合物が酸素を含む気体と接触している状態で、70℃以上の温度下に、10〜200mW/cm2の紫外線照射強度で、0.01〜5秒間、紫外線照射する工程(1)、次いで、液晶層が酸素を含む気体と接触している状態で、70℃以上で、5秒間を超える時間、熱処理する工程(2)を有し、前記工程(1)および工程(2)の後に、酸素不存在下で、紫外線照射する工程(3)により行なうことができる。前記工程(1)および工程(2)は複数回繰り返した後に、紫外線照射する工程(3)を行うことが好ましい(特願2004−168666号)。
【0055】
なお、偏光素子(A2)の製法としては、前記特願2003−93963号に記載の方法が好ましい。
【0056】
以下にコレステリック液晶層を形成する重合性メソゲン化合物(a)、重合性カイラル剤(b)等を説明するが、これら材料は厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層および積層体にするコレステリック液晶層のいずれにも用いることができる。
【0057】
重合性メソゲン化合物(a)は、重合性官能基を少なくとも1つ有し、これに環状単位等からなるメソゲン基を有するものが好適に用いられる。重合性官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、エポキシ基、ビニルエーテル基等があげられるが、これらのなかでもアクリロイル基、メタクリロイル基が好適である。また重合性官能基を2つ以上有するものを用いることにより架橋構造を導入して耐久性を向上させることもできる。メソゲン基となる前記環状単位としては、たとえば、ビフェニル系、フェニルベンゾエート系、フェニルシクロヘキサン系、アゾキシベンゼン系、アゾメチン系、アゾベンゼン系、フェニルピリミジン系、ジフェニルアセチレン系、ジフェニルベンゾエート系、ビシクロへキサン系、シクロヘキシルベンゼン系、ターフェニル系等があげられる。なお、これら環状単位の末端は、たとえば、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。前記メソゲン基は屈曲性を付与するスペーサ部を介して結合していてもよい。スペーサ部としては、ポリメチレン鎖、ポリオキシメチレン鎖等があげられる。スペーサ部を形成する構造単位の繰り返し数は、メソゲン部の化学構造により適宜に決定されるがポリメチレン鎖の繰り返し単位は0〜20、好ましくは2〜12、ポリオキシメチレン鎖の繰り返し単位は0〜10、好ましくは1〜3である。
【0058】
重合性メソゲン化合物(a)のモル吸光係数は、0.1〜500dm3mol-1cm-1@365nmであり、10〜30000dm3mol-1cm-1@334nmであり、かつ1000〜100000dm3mol-1m-1@314nmであることが好ましい。前記モル吸光係数を有するものは紫外線吸収能を有する。モル吸光係数は、0.1〜50dm3mol-1cm-1@365nmであり、50〜10000dm3mol-1cm-1@334nmであり、10000〜50000dm3mol-1cm-1@314nmがより好適である。モル吸光係数は、0.1〜10dm3mol-1cm-1@365nmであり、1000〜4000dm3mol-1cm-1@334nmであり、30000〜40000dm3mol-1cm-1@314nmであるのがより好ましい。モル吸光係数が0.1dm3mol-1cm-1@365nm、10dm3mol-1cm-1@334nm、1000dm3mol-1cm-1@314nmより小さいと十分な重合速度差がつかずに広帯域化し難い。一方、500dm3mol-1cm-1@365nm、30000dm3mol-1cm-1@334nm、100000dm3mol-1cm-1@314nmより大きいと重合が完全に進行せずに硬化が終了しない場合がある。なお、モル吸光係数は、各材料の分光光度スペクトルを測定し、得られた365nm、334nm、314nmの吸光度から測定した値である。
【0059】
重合性官能基を1つ有する重合性メソゲン化合物(a)は、たとえば、下記化1の一般式:
【0060】
【化1】
(式中、R1〜R12は同一でも異なっていてもよく、−F、−H、−CH3、−C2H5または−OCH3を示し、R13は−Hまたは−CH3を示し、X1は一般式(2):
−(CH2CH2O)a−(CH2)b−(O)c−、を示し、X2は−CNまたは−Fを示す。但し、一般式(2)中のaは0〜3の整数、bは0〜12の整数、cは0または1であり、かつa=1〜3のときはb=0、c=0であり、a=0のときはb=1〜12、c=0〜1である。)で表される化合物があげられる。
【0061】
かかる重合性メソゲン化合物(a)の具体例としては、メルク社製:E7、ワッカーケミカル社製:LC‐Silicon−CC3767、BASF社製:LC242、高砂香料工業社製:L42等があげられる。
【0062】
また、重合性カイラル剤(b)としては、たとえば、MerckKGaA社製:S101、R811、CB15、BASF社製:LC756があげられる。
【0063】
上記重合性カイラル剤(b)の配合量は、重合性メソゲン化合物(a)と重合性カイラル剤(b)の合計100重量部に対して、1〜20重量部程度が好ましく、3〜7重量部がより好適である。重合性メソゲン化合物(a)と重合性カイラル剤(b)の割合により螺旋ねじり力(HTP)が制御される。前記割合を前記範囲内とすることで、得られるコレステリック液晶フィルムの反射スペクトルが長波長域をカバーできるように反射帯域を選択することができる。
【0064】
また液晶混合物には、通常、光重合開始剤(c)を含む。光重合開始剤(c)としては各種のものを特に制限なく使用できる。例えば、チバスペシャルティケミカルズ社製のイルガキュア184、イルガキュア907、イルガキュア369、イルガキュア651、イルガキュア784、イルガキュア814、Darocure173、Darocure4205、BASF社:TPO(商品名ルシリンTPO(LucirinTPO)等があげられる。光重合開始剤の配合量は、重合性メソゲン化合物(a)と重合性カイラル剤(b)の合計100重量部に対して、0.01〜10重量部程度が好ましく、0.05〜5重量部がより好適である。
【0065】
重合性紫外線吸収剤(d)は、重合性官能基を少なくとも1つ有し、かつ紫外線吸収機能を有する化合物を特に制限なく使用することができる。かかる重合性紫外線吸収剤(d)の具体例としては、たとえば、大塚化学社製のRUVA−93、BASF社製のUVA935LH等があげられる。重合性紫外線吸収剤(d)の配合量は、重合性メソゲン化合物(a)と重合性カイラル剤(b)の合計100重量部に対して、0.01〜10重量部程度が好ましく、2〜5重量部がより好適である。
【0066】
前記混合物には、得られるコレステリック液晶フィルムの帯域幅を広げるために、紫外線吸収剤を混入して厚み方向での紫外線露光強度差を大きくすることができる。また、モル吸光係数の大きな光反応開始剤を用いることで同様の効果を得ることもできる。
【0067】
前記混合物は溶液として用いることができる。溶液を調製する際に用いられる溶媒としては、通常、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、フェノール、パラクロロフェノールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキベンゼンなどの芳香族炭化水素類、その他、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、tert−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレンブリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、ピリジン、トリエチルアミン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ブチロニトリル、二硫化炭素、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどを用いることができる。使用する溶媒としては、特に制限されないが、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等が好ましい。溶液の濃度は、サーモトロピック液晶性化合物の溶解性や最終的に目的とするコレステリック液晶フィルムの膜厚に依存するため一概には言えないが、通常3〜50重量%程度とするのが好ましい。
【0068】
なお、厚み方向でピッチ長が連続変化するコレステリック液晶層を作製する場合にも、前記例示の配向基材を用いることができる。配向方法も同様の方法を採用できる。
【0069】
本発明の反射偏光子が有する現象を有効に機能させるには、コレステリック液晶層は十分に厚いことが好ましい。一般的に単一ピッチ長のコレステリック液晶層の場合、厚みは数ピッチ(選択反射中心波長の2〜3倍)程度有れば十分な選択反射を得ることができる。選択反射中心波長が400〜600nmの範囲であればコレステリック液晶の屈折率を考慮すれば、厚み1〜1.5μm程度あれば偏光素子として機能する。上記反射偏光子に用いるコレステリック液晶層は広帯域に反射帯域を有することから、厚み2μm以上であるのが好ましい。望ましくは4μm以上、より望ましくは6μm以上ある。
【0070】
上記コレステリック液晶層により形成された反射偏光子(偏光素子)は、配向基材とともに、または配向基材から剥離して用いることができる。
【0071】
本発明の照明装置用偏光フィルターは、光源と組み合わせて、各種照明装置に適用できる。光源は特に制限されず、各種用途において用いられているものを任意に選択できる。前記の通り光源装置には、反射鏡を組み合わせるのが好ましい。
【0072】
照明装置において、前記偏光フィルターは、既存の照明装置にそのまま適用することができる。たとえば、フロントガラス等の部材に貼り合わせて用いることができる。また前記偏光フィルターは、他の透明性支持基材に積層して、照明装置を形成するレンズ等として用いることができる。透光性支持基材としては、ガラスや透光性樹脂があげられる。前記偏光素子の透光性支持基材への積層は、粘着剤、接着剤等により貼り合わせにより行なうことができる。本発明の照明装置は、光源および前記偏光フィルターを有するが、照明装置を形成する他の構成要素は、各種用途において照明装置の構成部材として用いられているもの任意に選択して用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明を実施例をあげて、具体的に説明する。なお、反射帯域巾は、コレステリック液晶層(偏光素子)の反射スペクトルを分光光度計(大塚電子株式会社製、瞬間マルチ測光システム MCPD−2000)にて測定し、最大反射率の半分の反射率を有する反射帯域とした。また、各例において用いた紫外線露光機には、ウシオ電機製のUVC321AM1を用いた。
【0074】
実施例で得られた偏光素子について下記方法により歪み率を測定した。
【0075】
(歪み率):偏光素子の歪み率を評価するために、サンプルの透過スペクトルを瞬間マルチ測光計(大塚電子株式会社製 MCPD―2000)により測定した。自然光を投光させ、サンプルを投光に対して垂直に設置(正面からの出射光を測定)した場合と、垂直方向から60°サンプルを傾けて設置(60°出射光の測定)した場合のそれぞれについて、それらを透過した光の状態を、出射側に配置した偏光板で、偏光板を10°づつ回した時の透過スペクトルを測定した。偏光板は、シグマ光器製グラムトムソンプリズム偏光子を用いた(消光比0.00001以下)。歪み率は下記の計算式から求めた。歪み率=最小透過率/最大透過率。
【0076】
実施例1
(偏光素子の作製)
1官能性メソゲン化合物(高砂香料工業社製,L42)96.2重量部および2官能性カイラル剤(BASF社製LC756)3.8重量部および溶媒(シクロペンタノン)233重量分を調整配合した溶液に、その固形分に対し、光重合開始剤(チバスペシャルティケミカルズ社製,イルガキュア369)を3重量%添加した塗工液(固形分含有量30重量%)を調製した。当該塗工液を、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(配向基材)上にワイヤーバーを用いて乾燥後の厚みで8μmとなるように塗設し、溶媒を100℃で2分間乾燥させた。得られた膜に、配向基材側から40℃の空気雰囲気下で紫外線照射を100mW/cm2で、0.6秒間行った。次いで、配向基材側から90℃の空気雰囲気下で紫外線照射を6mW/cm2で、20秒間行った。その後、50℃の窒素雰囲気下で液晶層側から紫外線照射を60mW/cm2で、30秒間行い、選択反射帯域が550〜1100nmのコレステリック液晶層(偏光素子)を得た。
【0077】
このようにして得られたコレステリック液晶層は法線方向は円偏光を透過するが、入射角30°程度で直線偏光近似光線が得られた。法線方向では歪み率0.90、入射角30°の方向では歪み率0.55、入射角60°の方向では歪み率0.01、であった。直線偏光の偏光軸は、図1に示すように、法線を軸として対象であった。
【0078】
(照明装置)
得られた偏光素子を、図8、9に示すように偏光フィルターFとして用い、光源L(ヘッドランプ)の前面に配置した照明装置Sを作製した。偏光フィルターFに、正面方向から入射した光線は、円偏光が出射し、正面より30°以上の大きな出射角で入射した光線は直線偏光が出射した。前記上下斜め方向の入射光は水平面に対してP偏光(直線偏光)が出射しているため雨天時の路面の正反射光線が減少し、対向車の運転手は眩惑感の低下を認めた。また左右斜め方向の入射光は垂直面に対してP偏光が出射しているため、側方のガードレールの正反射光線が減少し、対向車の運転手は眩惑感の低下を認めた。また偏光フィルターFは、反射偏光子であるため、リサイクル効果が働き、出射光量は50%までは低下せず、75%程度を維持できた。
【0079】
実施例2
(偏光素子の作製)
1官能性メソゲン化合物(高砂香料工業社製,L42)95.1重量部および2官能性カイラル剤(BASF社製LC756)4.9重量部および溶媒(シクロペンタノン)233重量分を調整配合した溶液に、その固形分に対し、光重合開始剤(チバスペシャルティケミカルズ社製,イルガキュア369)を5重量%添加した塗工液(固形分含有量30重量%)を調製した。当該塗工液を、延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(配向基材)上にワイヤーバーを用いて乾燥後の厚みで10μmとなるように塗設し、溶媒を100℃で2分間乾燥させた。得られた膜に、工程(1)として、配向基材側から100℃の空気雰囲気下で紫外線照射を139mW/cm2で、0.1秒間行った。次いで、工程(2)として、100℃の空気雰囲気下で120秒間熱処理を行った。さらに、工程(1)、工程(2)を繰り返し行なった。その後、工程(3)として、50℃の窒素雰囲気下で液晶層側から紫外線照射を60mW/cm2で、30秒間行い、選択反射帯域が430〜1010nmのコレステリック液晶層(偏光素子)を得た。
【0080】
このようにして得られたコレステリック液晶層は法線方向は円偏光を透過するが、入射角30°程度で直線偏光近似光線が得られた。法線方向では歪み率0.96、入射角30°の方向では歪み率0.40、入射角60°の方向では歪み率0.04、であった。直線偏光の偏光軸は、図1に示すように、法線を軸として対象であった。
【0081】
(照明装置)
得られた偏光素子を、偏光フィルターFとして用い、実施例1の照明装置Sを作製した。実施例1と同様、雨天時の路面、側方のガードレールの正反射光線が減少し、対向車の運転手は、眩惑感の低下を認めた。また出射光量は75%程度を維持できた。
【0082】
また図9に示すように、対向車の運転手は、前記偏光素子が出射する円偏光と逆回転の吸収型円偏光板を用いた偏光サングラスGを装備して、本発明の照明装置Sの光源L(ヘッドランプ)を視認した。この組合せでは、ヘッドランプの最強力な正面光線を効果的にカットすることができた。また、首を傾けたり、車輌が傾斜するなどしても遮蔽効果に差は無かった。また、光源からの斜め出射光線は眩惑を感じるほどの明るさではないが、サングラスによってカットされず、視認できた。対向車の存在確認の支障には成らない程度の視認は得ることができ、眩惑を防止することが同時に可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1(A)】本発明の偏光素子(反射偏光子)を透過した出射光の偏光軸方向を示す概念図である。
【図1(B)】図1(A)を偏光素子(反射偏光子)の法線方向から観た場合の出射光の偏光軸方向を示す概念図である。
【図2(A)】本発明の偏光素子(反射偏光子)を透過した出射光の偏光軸方向を示す概念図である。
【図2(B)】図2(A)を偏光素子(反射偏光子)の法線方向から観た場合の出射光の偏光軸方向を示す概念図である。
【図3】偏光成分を説明する概念図である。
【図4】従来のコレステリック液晶層による偏光分離を示す概念図である。
【図5】従来のコレステリック液晶層による偏光分離を示す概念図である。
【図6】本発明の偏光素子(コレステリック液晶層)による偏光分離を示す概念図である。
【図7】本発明の偏光素子(コレステリック液晶層)による偏光分離を示す概念図である。
【図8】本発明の照明装置による出射光線を示す概念図の一例である。
【図9】本発明の照明装置による出射光線を、対向者が偏光サングラスを介して視認する概念図の一例である。
【符号の説明】
【0084】
A 偏光素子(反射偏光子)
i 入射光
e 出射光
r 自然光
r1 直線偏光(P偏光)
r2 円偏光
L 光源
F 偏光フィルター
S 照明装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能を有する偏光素子を少なくとも用いたことを特徴とする照明装置用偏光フィルター。
【請求項2】
法線方向に対する入射角度が30°以上の斜め方向の入射光に対して直線偏光を透過する機能を有する偏光素子を少なくとも用いたことを特徴とする請求項1記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項3】
偏光素子は、入射光を偏光分離して出射する、偏光分離特性を有するコレステリック液晶層により形成されている反射偏光子であることを特徴とする請求項1または2記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項4】
反射偏光子は、法線方向の入射光に対する出射光は、歪み率が0.5以上であり、
法線方向から60°以上傾けて入射した入射光に対する出射光は、歪み率が0.2以下であり、
入射角度が大きくなるに従って出射光の直線偏光成分が増大することを特徴とする請求項3記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項5】
反射偏光子は、入射角度が大きくなるに従って増大する出射光の直線偏光成分が、偏光素子面の法線方向に対し実質的に直交方向に直線偏光の偏光軸を有することを特徴とする請求項4記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項6】
反射偏光子は、入射角度が大きくなるに従って増大する出射光の直線偏光成分が、偏光素子面の法線方向に対し実質的に平行方向に直線偏光の偏光軸を有することを特徴とする請求項4記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項7】
反射偏光子は、反射帯域巾が200nm以上であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項8】
光源および請求項1〜7のいずれかに記載の照明装置用偏光フィルターを有することを特徴とする照明装置。
【請求項9】
照明装置用偏光フィルターは、光源から得られた斜め方向に入射する光を、P偏光(直線偏光)として出射することを特徴とする請求項8記載の照明装置。
【請求項10】
車輌に用いることを特徴とする請求項8または9記載の照明装置。
【請求項1】
法線方向の入射光に対しては円偏光を透過する機能を有し、斜め方向の入射光に対しては直線偏光を透過する機能を有する偏光素子を少なくとも用いたことを特徴とする照明装置用偏光フィルター。
【請求項2】
法線方向に対する入射角度が30°以上の斜め方向の入射光に対して直線偏光を透過する機能を有する偏光素子を少なくとも用いたことを特徴とする請求項1記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項3】
偏光素子は、入射光を偏光分離して出射する、偏光分離特性を有するコレステリック液晶層により形成されている反射偏光子であることを特徴とする請求項1または2記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項4】
反射偏光子は、法線方向の入射光に対する出射光は、歪み率が0.5以上であり、
法線方向から60°以上傾けて入射した入射光に対する出射光は、歪み率が0.2以下であり、
入射角度が大きくなるに従って出射光の直線偏光成分が増大することを特徴とする請求項3記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項5】
反射偏光子は、入射角度が大きくなるに従って増大する出射光の直線偏光成分が、偏光素子面の法線方向に対し実質的に直交方向に直線偏光の偏光軸を有することを特徴とする請求項4記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項6】
反射偏光子は、入射角度が大きくなるに従って増大する出射光の直線偏光成分が、偏光素子面の法線方向に対し実質的に平行方向に直線偏光の偏光軸を有することを特徴とする請求項4記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項7】
反射偏光子は、反射帯域巾が200nm以上であることを特徴とする請求項3〜6のいずれかに記載の照明装置用偏光フィルター。
【請求項8】
光源および請求項1〜7のいずれかに記載の照明装置用偏光フィルターを有することを特徴とする照明装置。
【請求項9】
照明装置用偏光フィルターは、光源から得られた斜め方向に入射する光を、P偏光(直線偏光)として出射することを特徴とする請求項8記載の照明装置。
【請求項10】
車輌に用いることを特徴とする請求項8または9記載の照明装置。
【図1(A)】
【図1(B)】
【図2(A)】
【図2(B)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1(B)】
【図2(A)】
【図2(B)】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2006−17841(P2006−17841A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−193296(P2004−193296)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】
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