照明装置
【課題】白色光の色温度を調整することができ、従来よりも小型化が可能とする。
【解決手段】
少なくとも反射電極2と発光層22と透明電極10とが積層された積層構造を備える。積層構造には、さらに、反射電極2と発光層22との間に、発光層22から透明電極10に向けて出射される光と発光層22から反射電極2に向けて出射され反射電極2により反射される光との光路差を調整する光路差調整層21が介挿されている。光路差調整層21の厚みが、透明電極10を透過して出てくる白色光の色温度が所望の色温度になるように調整されている。
【解決手段】
少なくとも反射電極2と発光層22と透明電極10とが積層された積層構造を備える。積層構造には、さらに、反射電極2と発光層22との間に、発光層22から透明電極10に向けて出射される光と発光層22から反射電極2に向けて出射され反射電極2により反射される光との光路差を調整する光路差調整層21が介挿されている。光路差調整層21の厚みが、透明電極10を透過して出てくる白色光の色温度が所望の色温度になるように調整されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescence)素子を用いた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、面光源である有機EL素子を用いた照明装置の研究開発が進められている。照明分野では、明るさが同じでも、昼光色、昼白色、電球色のように色温度が異なる複数種類の製品がラインアップされるのが一般的である。有機EL素子を用いた照明装置においても、同様にそのような製品ラインアップが要求される。そこで、有機EL素子から出射される白色光の色温度を調整する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、陽極と発光層と陰極の積層体が赤、緑、青の3種類用意され、これらの積層体がガラス基板を挟んでさらに積層された有機EL素子において、各積層体の電極間に個別の電圧を印加する技術が開示されている。これによれば、各積層体の出射光が混合されるので白色光を得ることができ、それぞれ個別に電圧が調整されるので白色光の色温度を調整することができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−317296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術は、原理的に白色光を出射する発光層には適用できず、赤、緑、青の3種類の発光層それぞれに陽極および陰極を設けなければならない。そのため、有機EL素子の薄型化、ひいては照明装置の小型化が困難という問題がある。
そこで、本発明は、白色光の色温度を調整することができ、従来よりも小型化が可能な照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る照明装置は、少なくとも反射電極と発光層と透明電極とが積層された積層構造を備える照明装置であって、前記積層構造には、さらに、前記反射電極と前記発光層との間に、前記発光層から前記透明電極に向けて出射される光と前記発光層から前記反射電極に向けて出射され前記反射電極により反射される光との光路差を調整する光路差調整層が介挿されており、前記光路差調整層の厚みが、前記透明電極を透過して出てくる白色光の色温度が所望の色温度になるように調整されている。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によれば、透明電極を透過して出てくる光の色温度を光路差調整層の厚みを調整することにより調整しているので、赤、緑、青の3種類の発光層に個別に電圧を印加する必要もなく、従来よりも小型化を図ることができる。
また、前記光路差調整層は、材料が異なる複数の層からなり、そのうちのひとつの層の厚みのみが調整されていることとしてもよい。これによれば、色温度が異なる複数種類の製品を製造する場合に、ひとつの層の厚みのみを変更するだけでよく、製造コストを低減することができる。
【0008】
また、前記厚みが調整されている層の材料が酸化インジウムスズであることとしてもよい。酸化インジウムスズの厚みの制御は比較的容易なので、精度良く所望の色温度に調整することができる。
また、前記発光層は、発光色が異なる複数の層からなり、発光色の波長が短い層ほど前記光路差調整層寄りに配されていることとしてもよい。これにより、条件によっては、どの発光色も干渉で強め合うようにすることができ、光取り出し効率を高めることができる。
【0009】
また、前記発光層は、発光色が異なる材料が分散された単一の層からなることとしてもよい。これにより、1回の成膜だけで発光層を形成することができる。
また、前記発光層は、複数の領域に区画された単一の層からなり、各領域は発光色の異なる複数の材料の中から選択されたひとつの材料からなることとしてもよい。
また、前記発光層は、青色光を発光する材料からなり、さらに、前記透明電極を挟んで前記発光層とは反対側に、青色光を吸収して黄色光を発する波長変換層を備えることとしてもよい。これにより、青色光のみを考慮して光路差調整層の厚みを調整することができるので設計を容易にすることができる。
【0010】
また、前記透明電極の内部または表面に金属パターンが形成されていることとしてもよい。これにより、電流密度の面内分布を均一化することができ、その結果、輝度ムラを抑制することができる。また、電気伝導率が高まるので大電流を供給することができ、その結果、輝度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る照明装置の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図3】光路差調整層の厚みの調整により色温度を調整する原理を説明するための図であり、(a)は本実施形態の有機EL素子のサンプルA,B,Cの断面の模式図であり、(b)はサンプルA,B,Cの出射光のスペクトルを示す図である。
【図4】光路差調整層の厚みを変化させたときの出射光の色温度のシミュレーション結果を示す図であり、(a)はシミュレーションに用いた有機EL素子の構成を示し、(b)はそのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。
【図5】光路差調整層の厚みを変化させたときの平均演色評価数のシミュレーション結果を示す図である。(a)は、赤、緑の厚みは固定して青の厚みだけを変化させたときのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。
【図6】第1の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図7】第2の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図8】第3の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図9】第4の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図であり、(a)は断面図であり、(b)は上面図である。
【図10】第5の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図11】金属パターンの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態を、図面を参照して詳細に説明する。
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る照明装置の外観を示す斜視図である。
照明装置100は、絶縁基板101上に発光部102と給電端子103とが配置されたものである。発光部102は、有機EL素子で構成されており、正極および負極の給電端子103を通じて電力供給を受ける。
【0013】
図2は、本発明の実施形態に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
照明装置100は、絶縁基板1、反射電極2、光路差調整層21、発光層22、電子注入層9、透明電極10および封止層11がこの順に積層された積層構造を備える。光路差調整層21は、具体的には、透明導電層3、ホール注入層4およびホール輸送層5から構成される。発光層22は、具体的には、青色発光層6、緑色発光層7および赤色発光層8から構成される。
【0014】
以下、各層の詳細について説明する。
<絶縁基板>
絶縁基板1は、図1の絶縁基板101に相当するものであり、有機EL素子の支持基板としての機能を果たす。絶縁基板1は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料で形成されている。
<反射電極>
反射電極2は、図1の正極の給電端子103に電気的に接続されており、有機EL素子の正極として機能すると共に、発光層22から反射電極2に向けて出射された光を反射する機能を有する。反射機能は、反射電極2の構成材料により発揮されるものでもよいし、反射電極2の表面部分に反射コーティングを施すことにより発揮されるものでもよい。反射電極2は、例えば、Ag(銀)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)等で形成されている。
【0015】
<光路差調整層>
光路差調整層21は、発光層22から透明電極10に向けて出射された光(以下、「直接光」という)と発光層22から反射電極2に向けて出射され反射電極2で反射された光(以下、「反射光」という)との光路差を調整するものである。光路差調整層21の厚みは、有機EL素子の出射光の色温度が所望の色温度になるように調整されている。すなわち、昼光色の製品の場合には、昼光色の色温度になるように光路差調整層21の厚みが調整されている。昼白色、電球色の場合も同様にそれぞれの色温度になるように光路差調整層21の厚みが調整されている。詳細については後述する。
<<透明導電層>>
透明導電層3は、反射電極2とホール注入層4との間に介在してこれらの接合性を良好にすると共に、製造過程において反射電極2の形成直後に反射電極2が自然酸化するのを防止する保護層として機能する。透明導電層3は、発光層22で発生した光に対して十分な透光性を有する導電性材料により形成されればよく、例えば、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide: ITO)や酸化インジウム亜鉛(Indium Zinc Oxide: IZO)などが好ましい。室温で成膜しても良好な導電性を得ることができるからである。
<<ホール注入層>>
ホール注入層4は、ホールを発光層22に注入する機能を有する。例えば、酸化タングステン(WOx)、酸化モリブデン(MoOx)、酸化モリブデンタングステン(MoxWyOz)などの遷移金属の酸化物で形成される。遷移金属の酸化物で形成することで、電圧−電流密度特性を向上させ、また、電流密度を高めて発光強度を高めることができる。なお、これ以外に、従来から知られているPEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料を用いてもよい。
<<ホール輸送層>>
ホール輸送層の具体例としては、特開平5−163488号に記載のトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、ブタジエン化合物、ポリスチレン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンジン誘導体などを使用することができるが、特に好ましくは、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物である。
【0016】
<発光層>
発光層22は、赤、緑、青の3種類の材料から構成されている。発光層22は、例えば、特開平5−163488号公報に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属鎖体、2−ビピリジン化合物の金属鎖体、シッフ塩とIII族金属との鎖体、オキシン金属鎖体、希土類鎖体等の蛍光物質で形成されることが好ましい。
<電子注入層>
電子注入層9は、透明電極10から発光層22へ電子を注入する機能を有し、例えば、バリウム、フタロシアニン、フッ化リチウム、あるいはこれらの組み合わせで形成されることが好ましい。
<透明電極>
透明電極10は、図1の負極の給電端子103に電気的に接続されており、有機EL素子の負極として機能する。透明電極10は、発光層22で発生した光に対して十分な透光性を有する導電性材料により形成されればよく、例えば、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide: ITO)や酸化インジウム亜鉛(Indium Zinc Oxide: IZO)などが好ましい。
<封止層>
封止層11は、絶縁基板1との間に挟まれた各層(反射電極2、光路差調整層21、発光層22、電子注入層9、透明電極10)が水分や空気に晒されることを防止する機能を有する。封止層11は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)や樹脂等により形成される。
(原理およびシミュレーション)
次に、光路差調整層21の詳細について説明する。
【0017】
図3は、光路差調整層の厚みの調整により色温度を調整する原理を説明するための図であり、(a)は本実施形態の有機EL素子のサンプルA,B,Cの断面の模式図であり、(b)はサンプルA,B,Cの出射光のスペクトルを示す図である。
図3(a)に示すように、サンプルA,B,Cの光路差調整層の厚みはそれぞれta,tb,tcである(ta<tb<tc)。本実施形態の有機EL素子では直接光と反射光とが干渉を生じる構造を有している。そのため、有機ELの出射光のスペクトルは、干渉の影響を受けて、発光層の発光スペクトルから変形したものとなる。干渉の影響は、光路差調整層の材料が同じ(すなわち屈折率が同じ)であれば、その厚みにより決まる。サンプルA,B,Cでは、光路差調整層の厚みがそれぞれ異なるので、発光スペクトルに対して与える干渉の影響がそれぞれ異なることになる。その結果が、図3(b)に示されている。図3(b)に示すように、サンプルA,B,Cの出射光のスペクトルのピーク波長は、それぞれλa,λb,λcである。出射光のスペクトルのピーク波長が異なると出射光の色温度が異なる。従って、光路差調整層の厚みを調整することにより、有機EL素子の出射光の色温度を調整することができる。
【0018】
図4は、光路差調整層の厚みを変化させたときの出射光の色温度のシミュレーション結果を示す図であり、(a)はシミュレーションに用いた有機EL素子の構成を示し、(b)はそのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。
シミュレーションでは、図4(a)に示すように、赤、緑、青の3種類の発光層が並設された構成としている。また、透明導電層3には、酸化インジウムスズ(ITO)を用いている。この有機EL素子において、青色発光層6に対応する透明導電層の厚みを変化させた場合における出射光の色温度を算出した。
【0019】
図4(b)のデータD11,D12,D13,D14は、それぞれ透明導電層の厚みが60[nm],70[nm]、80[nm]、90[nm]のときの出射光の色温度である。色温度は、3000[K]程度から2500[K]程度の範囲内で変化している。これらから、光路差調整層の厚みを調整することにより、有機EL素子の出射光の色温度を調整できることがわかる。なお、D11,D12,D13,D14はそれぞれ平均演色評価数Raが85である。
【0020】
また、D21,D22,D23,D24,D25,D26は、青色発光層6に対応する透明導電層の厚みを変化させると共に、赤、緑の調合比を変化させたときの出射光の色温度である。このように、透明導電層の厚みを変化させても、赤、緑に調合比を適宜調整することにより、出射光の色温度を同一にすることもできる。
また、D31は、青色発光層6に対応する透明導電層の厚みがD21と同じで、赤、緑の調合比を異ならせたときの出射光の色温度である。このように、各色の調合比を調整することにより、10000[K]程度から1900[K]程度までの範囲で出射光の色温度を調整することができる。なお、D21,D31の調合比はそれぞれ以下の通りである。
【0021】
D21 赤:80[%],緑:17[%],青:3[%]
D31 赤:20[%],緑:17[%],青:63[%]
各色の調合比は、例えば、各色の発光層の厚み、密度、材料などを変えることにより調整可能である。
上記のシミュレーションでは、図4(a)に示すように、赤、緑、青の3種類の発光層が並設された構成であるが、図2に示すような積層構造であっても同じ傾向が見られると推察される。
【0022】
発明者らは、光路差調整層の厚みを変化させたときの平均演色評価数Raの変化についてもシミュレーションしてみた。
図5は、光路差調整層の厚みを変化させたときの平均演色評価数のシミュレーション結果を示す図である。(a)は、赤、緑の厚みは固定して青の厚みだけを変化させたときのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。(b)は、緑、青の厚みは固定して赤の厚みだけを変化させたときのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。なお、シミュレーションに用いた有機EL素子の構造は、図4(a)のものである。
【0023】
これによれば、透明導電層の厚みを調整することにより、平均演色評価数Raの調整もできることがわかる。特に、青の厚みを変化させると、平均演色評価数Raの変化が大きいことがわかる。
以上より、光路差調整層の厚みを調整することにより、出射光の色温度を調整できることが分かった。また、各色の調合比を変化させることにより、出射光の色温度を調整できることが分かった。従って、光路差調整層の厚みを調整することにより、出射光の色温度を調整できることが明らかとなった。昼光色、昼白色、電球色と複数種類の製品を製造する際には、製品の種類毎に光路差調整層の厚みを調整し、補助的に、各色の調合比を調整すればよい。
【0024】
なお、光路差調整層の厚みの調整は、透明導電層、ホール注入層、ホール輸送層のうちの少なくとも一層の厚みを調整すればよいが、複数層の厚みを調整するよりも、一層だけの厚みを調整するほうが製造上容易である。特に、透明導電層に酸化インジウムスズを用いている場合には、透明導電層の膜厚を調整するのが好ましい。これは、酸化インジウムスズの厚みの制御は5[nm]程度の高い精度で行うことができるので、精度良く所望の色温度に調整することができるからである。もちろん、複数層の厚みを調整することとしても構わない。
【0025】
また、シミュレーションは便宜上、図4(a)の構造で実施しているが、図2の積層構造であっても同じ傾向が見られると推察される。図2の積層構造では、発光層22において発光色の波長が短い層ほど光路差調整層寄りに配されている。これは、次の理由による。赤、緑、青の順で光の波長が短くなるので、各色の発光層と反射電極との最適な距離も赤、緑、青の順で短くなる場合があると考えられる。そのため、条件によっては、発光色の波長が短い層ほど光路差調整層寄りに配することで、いずれの色の発光層も反射電極との距離が最適とすることができる。
(変形例)
以下、本実施形態の変形例について説明する。
【0026】
図6は、第1の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。この例では、発光層22が白色発光層12の単層構造になっている。白色発光層12は、例えば、各色の発光材料を分散させることなどにより形成することができる。単層構造とすることにより、1回の成膜だけで発光層を形成することができ、製造工数を削減することができる。
図7は、第2の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。この例では、発光層22が単層構造であり、複数の領域に区画され、各領域が青色発光材料、緑色発光材料、赤色発光材料の何れかで形成されている。
【0027】
図8は、第3の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。この例では、発光層22が単層構造であり、青色発光層6のみから形成されている。そして、透明電極10の上面に、青色光を吸収して黄色光を発光する波長変換層13が設けられており、その上面に封止層11が形成されている。この場合、発光層22からは青色光が出射されるが、波長変換層13で一部黄色光に変換され、残りの青色光との混色により白色光を得ることができる。波長変換層13は、例えば、(1)黄色蛍光体、(2)緑色蛍光体と赤色蛍光体との混合、(3)黄緑色蛍光体と黄橙色蛍光体との混合、などが挙げられる。各色の蛍光体材料は、公知のものを利用することができる。また、蛍光材料ではなく、燐光材料を利用することとしてもよい。
【0028】
この構成によれば、青色光のみを考慮して光路差調整層の厚みを調整することができるので、設計を容易にすることができる。
図9は、第4の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図であり、(a)は断面図であり、(b)は上面図である。この例では、透明電極10の上面に金属パターン14が形成されている。透明電極10は、透光性を重視して酸化インジウムスズなどが採用されるが、電気伝導性については優れているとはいえない。そのため、発光層の面内の電流密度の分布は、透明電極10の面内において負極の給電端子103との接続箇所付近が最も高く、そこから離れるに従って低くなる。この分布の差が極端に大きいと、面内の輝度ムラが大きく、また、発光層の劣化も進みやすい。そこで、透明電極10の上面に金属パターンを形成することにより、面内の電流密度の分布を均一化することができ、その結果、輝度ムラの抑制や発光層の劣化の抑制をすることができる。また、実質的に陰極の電気伝導率が高まるので、大電流を供給することができ、輝度を高めることができる。
【0029】
図10は、第5の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。この例では、透明電極10の内部に金属パターン14が形成されている。このようにしても、第4の変形例と同様の効果を得ることができる。
なお、第4および第5の変形例における配線パターンは、例えば、図11(a)から(f)に示すようにしてもよい。図11(a)は枠状、(b)は枠状と放射状との組合せ、(c)は枠状と円形との組合せ、(d)は枠状と複数の円形との組合せ、(e)は枠状とネットワーク状との組合せ、(f)は枠状とメッシュ状との組合せである。
【0030】
なお、実施形態では、光が封止層を通過して出射されるトップエミッション型で説明しているが、これに限らず、光が絶縁基板1を通過して出射されるボトムエミッション型でも適用可能である。その場合には、陰極が反射電極となり、陽極が透明電極となる。
なお、実施形態では、光路差調整層の厚みを調整することにより光路長を調整しているが、これに限らず、光路差調整層の屈折率を調整することにより光路長を調整することとしても構わない。屈折率の調整は、例えば、光路差調整層の材料を異ならせる、あるいは、光路差調整層の材料は同じでも組成比を異ならせるなどにより実施可能である。
【0031】
なお、実施形態では、発光層と反射電極との間に透明導電層、ホール注入層およびホール輸送層の3層が存在するので、これらが光路差調整層となっている。ところが、仕様によっては、発光層と反射電極との間にこれらのうちの1層あるいは2層しか存在しない場合もある。その場合には、発光層と反射電極との間に存在する1層あるいは2層が光路差調整層となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、一般照明等に利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 絶縁基板
2 反射電極
3 透明導電層
4 ホール注入層
5 ホール輸送層
6 青色発光層
7 緑色発光層
8 赤色発光層
9 電子注入層
10 透明電極
11 封止層
12 白色発光層
13 波長変換層
14 金属パターン
21 光路差調整層
22 発光層
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminescence)素子を用いた照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、面光源である有機EL素子を用いた照明装置の研究開発が進められている。照明分野では、明るさが同じでも、昼光色、昼白色、電球色のように色温度が異なる複数種類の製品がラインアップされるのが一般的である。有機EL素子を用いた照明装置においても、同様にそのような製品ラインアップが要求される。そこで、有機EL素子から出射される白色光の色温度を調整する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、陽極と発光層と陰極の積層体が赤、緑、青の3種類用意され、これらの積層体がガラス基板を挟んでさらに積層された有機EL素子において、各積層体の電極間に個別の電圧を印加する技術が開示されている。これによれば、各積層体の出射光が混合されるので白色光を得ることができ、それぞれ個別に電圧が調整されるので白色光の色温度を調整することができる旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−317296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術は、原理的に白色光を出射する発光層には適用できず、赤、緑、青の3種類の発光層それぞれに陽極および陰極を設けなければならない。そのため、有機EL素子の薄型化、ひいては照明装置の小型化が困難という問題がある。
そこで、本発明は、白色光の色温度を調整することができ、従来よりも小型化が可能な照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る照明装置は、少なくとも反射電極と発光層と透明電極とが積層された積層構造を備える照明装置であって、前記積層構造には、さらに、前記反射電極と前記発光層との間に、前記発光層から前記透明電極に向けて出射される光と前記発光層から前記反射電極に向けて出射され前記反射電極により反射される光との光路差を調整する光路差調整層が介挿されており、前記光路差調整層の厚みが、前記透明電極を透過して出てくる白色光の色温度が所望の色温度になるように調整されている。
【発明の効果】
【0007】
上記構成によれば、透明電極を透過して出てくる光の色温度を光路差調整層の厚みを調整することにより調整しているので、赤、緑、青の3種類の発光層に個別に電圧を印加する必要もなく、従来よりも小型化を図ることができる。
また、前記光路差調整層は、材料が異なる複数の層からなり、そのうちのひとつの層の厚みのみが調整されていることとしてもよい。これによれば、色温度が異なる複数種類の製品を製造する場合に、ひとつの層の厚みのみを変更するだけでよく、製造コストを低減することができる。
【0008】
また、前記厚みが調整されている層の材料が酸化インジウムスズであることとしてもよい。酸化インジウムスズの厚みの制御は比較的容易なので、精度良く所望の色温度に調整することができる。
また、前記発光層は、発光色が異なる複数の層からなり、発光色の波長が短い層ほど前記光路差調整層寄りに配されていることとしてもよい。これにより、条件によっては、どの発光色も干渉で強め合うようにすることができ、光取り出し効率を高めることができる。
【0009】
また、前記発光層は、発光色が異なる材料が分散された単一の層からなることとしてもよい。これにより、1回の成膜だけで発光層を形成することができる。
また、前記発光層は、複数の領域に区画された単一の層からなり、各領域は発光色の異なる複数の材料の中から選択されたひとつの材料からなることとしてもよい。
また、前記発光層は、青色光を発光する材料からなり、さらに、前記透明電極を挟んで前記発光層とは反対側に、青色光を吸収して黄色光を発する波長変換層を備えることとしてもよい。これにより、青色光のみを考慮して光路差調整層の厚みを調整することができるので設計を容易にすることができる。
【0010】
また、前記透明電極の内部または表面に金属パターンが形成されていることとしてもよい。これにより、電流密度の面内分布を均一化することができ、その結果、輝度ムラを抑制することができる。また、電気伝導率が高まるので大電流を供給することができ、その結果、輝度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る照明装置の外観を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図3】光路差調整層の厚みの調整により色温度を調整する原理を説明するための図であり、(a)は本実施形態の有機EL素子のサンプルA,B,Cの断面の模式図であり、(b)はサンプルA,B,Cの出射光のスペクトルを示す図である。
【図4】光路差調整層の厚みを変化させたときの出射光の色温度のシミュレーション結果を示す図であり、(a)はシミュレーションに用いた有機EL素子の構成を示し、(b)はそのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。
【図5】光路差調整層の厚みを変化させたときの平均演色評価数のシミュレーション結果を示す図である。(a)は、赤、緑の厚みは固定して青の厚みだけを変化させたときのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。
【図6】第1の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図7】第2の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図8】第3の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図9】第4の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図であり、(a)は断面図であり、(b)は上面図である。
【図10】第5の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
【図11】金属パターンの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態を、図面を参照して詳細に説明する。
(構成)
図1は、本発明の実施形態に係る照明装置の外観を示す斜視図である。
照明装置100は、絶縁基板101上に発光部102と給電端子103とが配置されたものである。発光部102は、有機EL素子で構成されており、正極および負極の給電端子103を通じて電力供給を受ける。
【0013】
図2は、本発明の実施形態に係る照明装置の一部の断面を示す図である。
照明装置100は、絶縁基板1、反射電極2、光路差調整層21、発光層22、電子注入層9、透明電極10および封止層11がこの順に積層された積層構造を備える。光路差調整層21は、具体的には、透明導電層3、ホール注入層4およびホール輸送層5から構成される。発光層22は、具体的には、青色発光層6、緑色発光層7および赤色発光層8から構成される。
【0014】
以下、各層の詳細について説明する。
<絶縁基板>
絶縁基板1は、図1の絶縁基板101に相当するものであり、有機EL素子の支持基板としての機能を果たす。絶縁基板1は、例えば、無アルカリガラス、ソーダガラス、無蛍光ガラス、燐酸系ガラス、硼酸系ガラス、石英、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン、ポリエステル、シリコーン系樹脂、又はアルミナ等の絶縁性材料で形成されている。
<反射電極>
反射電極2は、図1の正極の給電端子103に電気的に接続されており、有機EL素子の正極として機能すると共に、発光層22から反射電極2に向けて出射された光を反射する機能を有する。反射機能は、反射電極2の構成材料により発揮されるものでもよいし、反射電極2の表面部分に反射コーティングを施すことにより発揮されるものでもよい。反射電極2は、例えば、Ag(銀)、APC(銀、パラジウム、銅の合金)、ARA(銀、ルビジウム、金の合金)、MoCr(モリブデンとクロムの合金)、NiCr(ニッケルとクロムの合金)等で形成されている。
【0015】
<光路差調整層>
光路差調整層21は、発光層22から透明電極10に向けて出射された光(以下、「直接光」という)と発光層22から反射電極2に向けて出射され反射電極2で反射された光(以下、「反射光」という)との光路差を調整するものである。光路差調整層21の厚みは、有機EL素子の出射光の色温度が所望の色温度になるように調整されている。すなわち、昼光色の製品の場合には、昼光色の色温度になるように光路差調整層21の厚みが調整されている。昼白色、電球色の場合も同様にそれぞれの色温度になるように光路差調整層21の厚みが調整されている。詳細については後述する。
<<透明導電層>>
透明導電層3は、反射電極2とホール注入層4との間に介在してこれらの接合性を良好にすると共に、製造過程において反射電極2の形成直後に反射電極2が自然酸化するのを防止する保護層として機能する。透明導電層3は、発光層22で発生した光に対して十分な透光性を有する導電性材料により形成されればよく、例えば、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide: ITO)や酸化インジウム亜鉛(Indium Zinc Oxide: IZO)などが好ましい。室温で成膜しても良好な導電性を得ることができるからである。
<<ホール注入層>>
ホール注入層4は、ホールを発光層22に注入する機能を有する。例えば、酸化タングステン(WOx)、酸化モリブデン(MoOx)、酸化モリブデンタングステン(MoxWyOz)などの遷移金属の酸化物で形成される。遷移金属の酸化物で形成することで、電圧−電流密度特性を向上させ、また、電流密度を高めて発光強度を高めることができる。なお、これ以外に、従来から知られているPEDOT(ポリチオフェンとポリスチレンスルホン酸との混合物)などの導電性ポリマー材料を用いてもよい。
<<ホール輸送層>>
ホール輸送層の具体例としては、特開平5−163488号に記載のトリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物、ブタジエン化合物、ポリスチレン誘導体、ヒドラゾン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、テトラフェニルベンジン誘導体などを使用することができるが、特に好ましくは、ポリフィリン化合物、芳香族第三級アミン化合物及びスチリルアミン化合物である。
【0016】
<発光層>
発光層22は、赤、緑、青の3種類の材料から構成されている。発光層22は、例えば、特開平5−163488号公報に記載のオキシノイド化合物、ペリレン化合物、クマリン化合物、アザクマリン化合物、オキサゾール化合物、オキサジアゾール化合物、ペリノン化合物、ピロロピロール化合物、ナフタレン化合物、アントラセン化合物、フルオレン化合物、フルオランテン化合物、テトラセン化合物、ピレン化合物、コロネン化合物、キノロン化合物及びアザキノロン化合物、ピラゾリン誘導体及びピラゾロン誘導体、ローダミン化合物、クリセン化合物、フェナントレン化合物、シクロペンタジエン化合物、スチルベン化合物、ジフェニルキノン化合物、スチリル化合物、ブタジエン化合物、ジシアノメチレンピラン化合物、ジシアノメチレンチオピラン化合物、フルオレセイン化合物、ピリリウム化合物、チアピリリウム化合物、セレナピリリウム化合物、テルロピリリウム化合物、芳香族アルダジエン化合物、オリゴフェニレン化合物、チオキサンテン化合物、アンスラセン化合物、シアニン化合物、アクリジン化合物、8−ヒドロキシキノリン化合物の金属鎖体、2−ビピリジン化合物の金属鎖体、シッフ塩とIII族金属との鎖体、オキシン金属鎖体、希土類鎖体等の蛍光物質で形成されることが好ましい。
<電子注入層>
電子注入層9は、透明電極10から発光層22へ電子を注入する機能を有し、例えば、バリウム、フタロシアニン、フッ化リチウム、あるいはこれらの組み合わせで形成されることが好ましい。
<透明電極>
透明電極10は、図1の負極の給電端子103に電気的に接続されており、有機EL素子の負極として機能する。透明電極10は、発光層22で発生した光に対して十分な透光性を有する導電性材料により形成されればよく、例えば、酸化インジウムスズ(Indium Tin Oxide: ITO)や酸化インジウム亜鉛(Indium Zinc Oxide: IZO)などが好ましい。
<封止層>
封止層11は、絶縁基板1との間に挟まれた各層(反射電極2、光路差調整層21、発光層22、電子注入層9、透明電極10)が水分や空気に晒されることを防止する機能を有する。封止層11は、例えば、窒化シリコン(SiN)、酸窒化シリコン(SiON)や樹脂等により形成される。
(原理およびシミュレーション)
次に、光路差調整層21の詳細について説明する。
【0017】
図3は、光路差調整層の厚みの調整により色温度を調整する原理を説明するための図であり、(a)は本実施形態の有機EL素子のサンプルA,B,Cの断面の模式図であり、(b)はサンプルA,B,Cの出射光のスペクトルを示す図である。
図3(a)に示すように、サンプルA,B,Cの光路差調整層の厚みはそれぞれta,tb,tcである(ta<tb<tc)。本実施形態の有機EL素子では直接光と反射光とが干渉を生じる構造を有している。そのため、有機ELの出射光のスペクトルは、干渉の影響を受けて、発光層の発光スペクトルから変形したものとなる。干渉の影響は、光路差調整層の材料が同じ(すなわち屈折率が同じ)であれば、その厚みにより決まる。サンプルA,B,Cでは、光路差調整層の厚みがそれぞれ異なるので、発光スペクトルに対して与える干渉の影響がそれぞれ異なることになる。その結果が、図3(b)に示されている。図3(b)に示すように、サンプルA,B,Cの出射光のスペクトルのピーク波長は、それぞれλa,λb,λcである。出射光のスペクトルのピーク波長が異なると出射光の色温度が異なる。従って、光路差調整層の厚みを調整することにより、有機EL素子の出射光の色温度を調整することができる。
【0018】
図4は、光路差調整層の厚みを変化させたときの出射光の色温度のシミュレーション結果を示す図であり、(a)はシミュレーションに用いた有機EL素子の構成を示し、(b)はそのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。
シミュレーションでは、図4(a)に示すように、赤、緑、青の3種類の発光層が並設された構成としている。また、透明導電層3には、酸化インジウムスズ(ITO)を用いている。この有機EL素子において、青色発光層6に対応する透明導電層の厚みを変化させた場合における出射光の色温度を算出した。
【0019】
図4(b)のデータD11,D12,D13,D14は、それぞれ透明導電層の厚みが60[nm],70[nm]、80[nm]、90[nm]のときの出射光の色温度である。色温度は、3000[K]程度から2500[K]程度の範囲内で変化している。これらから、光路差調整層の厚みを調整することにより、有機EL素子の出射光の色温度を調整できることがわかる。なお、D11,D12,D13,D14はそれぞれ平均演色評価数Raが85である。
【0020】
また、D21,D22,D23,D24,D25,D26は、青色発光層6に対応する透明導電層の厚みを変化させると共に、赤、緑の調合比を変化させたときの出射光の色温度である。このように、透明導電層の厚みを変化させても、赤、緑に調合比を適宜調整することにより、出射光の色温度を同一にすることもできる。
また、D31は、青色発光層6に対応する透明導電層の厚みがD21と同じで、赤、緑の調合比を異ならせたときの出射光の色温度である。このように、各色の調合比を調整することにより、10000[K]程度から1900[K]程度までの範囲で出射光の色温度を調整することができる。なお、D21,D31の調合比はそれぞれ以下の通りである。
【0021】
D21 赤:80[%],緑:17[%],青:3[%]
D31 赤:20[%],緑:17[%],青:63[%]
各色の調合比は、例えば、各色の発光層の厚み、密度、材料などを変えることにより調整可能である。
上記のシミュレーションでは、図4(a)に示すように、赤、緑、青の3種類の発光層が並設された構成であるが、図2に示すような積層構造であっても同じ傾向が見られると推察される。
【0022】
発明者らは、光路差調整層の厚みを変化させたときの平均演色評価数Raの変化についてもシミュレーションしてみた。
図5は、光路差調整層の厚みを変化させたときの平均演色評価数のシミュレーション結果を示す図である。(a)は、赤、緑の厚みは固定して青の厚みだけを変化させたときのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。(b)は、緑、青の厚みは固定して赤の厚みだけを変化させたときのシミュレーション結果をグラフにプロットしたものである。なお、シミュレーションに用いた有機EL素子の構造は、図4(a)のものである。
【0023】
これによれば、透明導電層の厚みを調整することにより、平均演色評価数Raの調整もできることがわかる。特に、青の厚みを変化させると、平均演色評価数Raの変化が大きいことがわかる。
以上より、光路差調整層の厚みを調整することにより、出射光の色温度を調整できることが分かった。また、各色の調合比を変化させることにより、出射光の色温度を調整できることが分かった。従って、光路差調整層の厚みを調整することにより、出射光の色温度を調整できることが明らかとなった。昼光色、昼白色、電球色と複数種類の製品を製造する際には、製品の種類毎に光路差調整層の厚みを調整し、補助的に、各色の調合比を調整すればよい。
【0024】
なお、光路差調整層の厚みの調整は、透明導電層、ホール注入層、ホール輸送層のうちの少なくとも一層の厚みを調整すればよいが、複数層の厚みを調整するよりも、一層だけの厚みを調整するほうが製造上容易である。特に、透明導電層に酸化インジウムスズを用いている場合には、透明導電層の膜厚を調整するのが好ましい。これは、酸化インジウムスズの厚みの制御は5[nm]程度の高い精度で行うことができるので、精度良く所望の色温度に調整することができるからである。もちろん、複数層の厚みを調整することとしても構わない。
【0025】
また、シミュレーションは便宜上、図4(a)の構造で実施しているが、図2の積層構造であっても同じ傾向が見られると推察される。図2の積層構造では、発光層22において発光色の波長が短い層ほど光路差調整層寄りに配されている。これは、次の理由による。赤、緑、青の順で光の波長が短くなるので、各色の発光層と反射電極との最適な距離も赤、緑、青の順で短くなる場合があると考えられる。そのため、条件によっては、発光色の波長が短い層ほど光路差調整層寄りに配することで、いずれの色の発光層も反射電極との距離が最適とすることができる。
(変形例)
以下、本実施形態の変形例について説明する。
【0026】
図6は、第1の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。この例では、発光層22が白色発光層12の単層構造になっている。白色発光層12は、例えば、各色の発光材料を分散させることなどにより形成することができる。単層構造とすることにより、1回の成膜だけで発光層を形成することができ、製造工数を削減することができる。
図7は、第2の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。この例では、発光層22が単層構造であり、複数の領域に区画され、各領域が青色発光材料、緑色発光材料、赤色発光材料の何れかで形成されている。
【0027】
図8は、第3の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。この例では、発光層22が単層構造であり、青色発光層6のみから形成されている。そして、透明電極10の上面に、青色光を吸収して黄色光を発光する波長変換層13が設けられており、その上面に封止層11が形成されている。この場合、発光層22からは青色光が出射されるが、波長変換層13で一部黄色光に変換され、残りの青色光との混色により白色光を得ることができる。波長変換層13は、例えば、(1)黄色蛍光体、(2)緑色蛍光体と赤色蛍光体との混合、(3)黄緑色蛍光体と黄橙色蛍光体との混合、などが挙げられる。各色の蛍光体材料は、公知のものを利用することができる。また、蛍光材料ではなく、燐光材料を利用することとしてもよい。
【0028】
この構成によれば、青色光のみを考慮して光路差調整層の厚みを調整することができるので、設計を容易にすることができる。
図9は、第4の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図であり、(a)は断面図であり、(b)は上面図である。この例では、透明電極10の上面に金属パターン14が形成されている。透明電極10は、透光性を重視して酸化インジウムスズなどが採用されるが、電気伝導性については優れているとはいえない。そのため、発光層の面内の電流密度の分布は、透明電極10の面内において負極の給電端子103との接続箇所付近が最も高く、そこから離れるに従って低くなる。この分布の差が極端に大きいと、面内の輝度ムラが大きく、また、発光層の劣化も進みやすい。そこで、透明電極10の上面に金属パターンを形成することにより、面内の電流密度の分布を均一化することができ、その結果、輝度ムラの抑制や発光層の劣化の抑制をすることができる。また、実質的に陰極の電気伝導率が高まるので、大電流を供給することができ、輝度を高めることができる。
【0029】
図10は、第5の変形例に係る照明装置の一部の断面を示す図である。この例では、透明電極10の内部に金属パターン14が形成されている。このようにしても、第4の変形例と同様の効果を得ることができる。
なお、第4および第5の変形例における配線パターンは、例えば、図11(a)から(f)に示すようにしてもよい。図11(a)は枠状、(b)は枠状と放射状との組合せ、(c)は枠状と円形との組合せ、(d)は枠状と複数の円形との組合せ、(e)は枠状とネットワーク状との組合せ、(f)は枠状とメッシュ状との組合せである。
【0030】
なお、実施形態では、光が封止層を通過して出射されるトップエミッション型で説明しているが、これに限らず、光が絶縁基板1を通過して出射されるボトムエミッション型でも適用可能である。その場合には、陰極が反射電極となり、陽極が透明電極となる。
なお、実施形態では、光路差調整層の厚みを調整することにより光路長を調整しているが、これに限らず、光路差調整層の屈折率を調整することにより光路長を調整することとしても構わない。屈折率の調整は、例えば、光路差調整層の材料を異ならせる、あるいは、光路差調整層の材料は同じでも組成比を異ならせるなどにより実施可能である。
【0031】
なお、実施形態では、発光層と反射電極との間に透明導電層、ホール注入層およびホール輸送層の3層が存在するので、これらが光路差調整層となっている。ところが、仕様によっては、発光層と反射電極との間にこれらのうちの1層あるいは2層しか存在しない場合もある。その場合には、発光層と反射電極との間に存在する1層あるいは2層が光路差調整層となる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、一般照明等に利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1 絶縁基板
2 反射電極
3 透明導電層
4 ホール注入層
5 ホール輸送層
6 青色発光層
7 緑色発光層
8 赤色発光層
9 電子注入層
10 透明電極
11 封止層
12 白色発光層
13 波長変換層
14 金属パターン
21 光路差調整層
22 発光層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも反射電極と発光層と透明電極とが積層された積層構造を備える照明装置であって、
前記積層構造には、さらに、前記反射電極と前記発光層との間に、前記発光層から前記透明電極に向けて出射される光と前記発光層から前記反射電極に向けて出射され前記反射電極により反射される光との光路差を調整する光路差調整層が介挿されており、
前記光路差調整層の厚みが、前記透明電極を透過して出てくる白色光の色温度が所望の色温度になるように調整されていること
を特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記光路差調整層は、材料が異なる複数の層からなり、そのうちのひとつの層の厚みのみが調整されていることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記厚みが調整されている層の材料が酸化インジウムスズであることを特徴とする請求項2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記発光層は、発光色が異なる複数の層からなり、発光色の波長が短い層ほど前記光路差調整層寄りに配されていることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項5】
前記発光層は、発光色が異なる材料が分散された単一の層からなることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項6】
前記発光層は、複数の領域に区画された単一の層からなり、各領域は発光色の異なる複数の材料の中から選択されたひとつの材料からなることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項7】
前記発光層は、青色光を発光する材料からなり、
さらに、前記透明電極を挟んで前記発光層とは反対側に、青色光を吸収して黄色光を発する波長変換層を備えることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項8】
前記透明電極の内部または表面に金属パターンが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項1】
少なくとも反射電極と発光層と透明電極とが積層された積層構造を備える照明装置であって、
前記積層構造には、さらに、前記反射電極と前記発光層との間に、前記発光層から前記透明電極に向けて出射される光と前記発光層から前記反射電極に向けて出射され前記反射電極により反射される光との光路差を調整する光路差調整層が介挿されており、
前記光路差調整層の厚みが、前記透明電極を透過して出てくる白色光の色温度が所望の色温度になるように調整されていること
を特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記光路差調整層は、材料が異なる複数の層からなり、そのうちのひとつの層の厚みのみが調整されていることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記厚みが調整されている層の材料が酸化インジウムスズであることを特徴とする請求項2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記発光層は、発光色が異なる複数の層からなり、発光色の波長が短い層ほど前記光路差調整層寄りに配されていることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項5】
前記発光層は、発光色が異なる材料が分散された単一の層からなることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項6】
前記発光層は、複数の領域に区画された単一の層からなり、各領域は発光色の異なる複数の材料の中から選択されたひとつの材料からなることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項7】
前記発光層は、青色光を発光する材料からなり、
さらに、前記透明電極を挟んで前記発光層とは反対側に、青色光を吸収して黄色光を発する波長変換層を備えることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項8】
前記透明電極の内部または表面に金属パターンが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−34872(P2011−34872A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181496(P2009−181496)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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