照明装置
【課題】非視覚的影響を効率的に低減する。
【解決手段】照明装置は、光源と、光源制御部と、推定部と、第1算出部と、第2算出部と、を備える。光源は、分光分布が異なる複数の発光体を含む。推定部は、光源からの照射光が照射される物体の分光反射率を推定する。第1算出部は、分光分布と分光反射率とに基づいて、視覚により知覚される物体の色の適切さを表す第1評価値を算出する。第2算出部は、分光分布に基づいて、照射光が視覚以外に与える影響の大きさを表す第2評価値を算出する。光源制御部は、第1評価値と第2評価値とが予め定められた拘束条件を満たす発光強度を決定し発光体の発光を制御する。
【解決手段】照明装置は、光源と、光源制御部と、推定部と、第1算出部と、第2算出部と、を備える。光源は、分光分布が異なる複数の発光体を含む。推定部は、光源からの照射光が照射される物体の分光反射率を推定する。第1算出部は、分光分布と分光反射率とに基づいて、視覚により知覚される物体の色の適切さを表す第1評価値を算出する。第2算出部は、分光分布に基づいて、照射光が視覚以外に与える影響の大きさを表す第2評価値を算出する。光源制御部は、第1評価値と第2評価値とが予め定められた拘束条件を満たす発光強度を決定し発光体の発光を制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
照明の光はヒトの網膜に入射した後、網膜視床下部路を介して視交叉上核と呼ばれる部位に作用することによって視覚的な影響以外にも生理的な影響を与えることが知られている。また、この効果は波長が460nm付近の短波長光を多く含む光で特に強いことも知られている。例えば、夜間に照明光を浴びることにより、メラトニンというホルモンの分泌が抑制され睡眠の質に影響を与える可能性が指摘されている。従って、特に夜間に使用する照明では、このような影響を低減することが求められている。
【0003】
上記のような影響を低減するには、照明の光に460nm付近の光を含ませないようにすることが考えられるが、照明にとって重要な機能である演色性の値を低下させてしまう。演色性とは、ある照明の下での物体の色の見えが、標準光源の下での物体の色の見えと比較してどの程度近いかで定義される指標である。演色性の測定法は、日本工業規格JIS Z8726で規定されている。
【0004】
演色性の評価法には、平均演色評価数および特殊演色評価数が存在する。平均演色評価数は、明るさおよび鮮やかさが中程度で色相がほぼ全色相におよぶ8色の色の見えを計算することによって求められる。また、特殊演色評価数は、平均演色評価数で用いる8色よりも、鮮やかな色や肌色を再現した色を加えた15色の色の見えを計算することによって求められる。これらの値は、照明光の分光分布の値から算出することができる。
【0005】
演色評価数の値を一定以上に保つという拘束条件の下で、メラトニン分泌抑制量の値を最小化するという最適化問題を解くことにより、演色性を一定以上に保った上で、照明の非視覚的影響を低減する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2008/069101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では、例えば460nm付近の光を反射しない物体を照らす場合であっても、演色評価数の値を一定以上に保つためには460nm付近の光を一定量以上含む必要があった。すなわち、物体の色の見えを保つために不必要な波長の光も含むことにより、非視覚的影響を効率的に低減することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の照明装置は、光源と、光源制御部と、推定部と、第1算出部と、第2算出部と、を備える。光源は、分光分布が異なる複数の発光体を含む。推定部は、光源からの照射光が照射される物体の分光反射率を推定する。第1算出部は、分光分布と分光反射率とに基づいて、視覚により知覚される物体の色の適切さを表す第1評価値を算出する。第2算出部は、分光分布に基づいて、照射光が視覚以外に与える影響の大きさを表す第2評価値を算出する。光源制御部は、第1評価値と第2評価値とが予め定められた拘束条件を満たす発光強度を決定し発光体の発光を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態にかかる照明装置のブロック図。
【図2】光源に含まれる発光体の配置例を示す図。
【図3】第1の実施形態の推定部のブロック図。
【図4】可変フィルタの構成例を示す図。
【図5】第1の実施形態における制御処理のフローチャート。
【図6】複数の色を含む照明光に照らされる物体の一例を示す図。
【図7】第2の実施形態にかかる照明装置のブロック図。
【図8】第2の実施形態の推定部のブロック図。
【図9】第3の実施形態にかかる照明装置のブロック図。
【図10】第3の実施形態の推定部のブロック図。
【図11】入力部の構成例を示す図。
【図12】入力部の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる照明装置の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態にかかる照明装置は、物体の色の見えを保つために不必要な波長の光を含ませないことにより、非視覚的影響をより効率的に低減する。
【0012】
図1は、第1の実施形態にかかる照明装置100の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、照明装置100は、光源1と、光源制御部2と、推定部3と、第1算出部4と、第2算出部5と、を備えている。
【0013】
光源1は発光強度が独立に制御可能であり、分光分布が異なる2種類以上の発光体を含む。この発光体は、典型的にはRGBの3原色に相当するLED(Light Emitting Diode)である。
【0014】
LEDは、形状が小型および軽量であるため、複数のLEDを1つの照明器具に組み込み、個々のLEDの発光強度を独立に制御することも比較的容易である。
【0015】
個々のLEDの分光分布をPi(λ)、それぞれのLEDの発光強度をaiとおけば、分光分布の異なるn種類のLEDを組み込んだ照明器具全体としての分光分布P(λ)は、以下の(数1)で表すことができる。
【数1】
【0016】
すなわち、光源1の分光分布は、n次元のベクトルA=(a1 a2 a3 ・・・ an)によって定まる関数の値であると考えることができる。
【0017】
演色評価数の値も、メラトニン分泌抑制量の値も、いずれも分光分布が分かれば算出することができる。従って、n次元ベクトルAの値が定まれば、これらを算出することが可能である。
【0018】
発光体は、3色以上であってもよいし、色温度の異なる白色LEDであってもよいし、これらの両方を含んでいてもよい。図2は、光源1に含まれる発光体の配置例を示す図である。光源1は、例えば、図2に示すように異なる種類のチップ型LED(発光体101〜103)が敷き詰められた構成とする。この場合、それぞれの発光体の光が混色されたものが光源1の発する光となる。発光体としては、LEDの他に蛍光管、白熱電球、および、ナトリウムランプなど、任意のものを用いることができる。また、発光体はこれらの組合せであってもよい。また、複数の発光体の光の混色のために、光源1が光拡散板などを更に備えるように構成してもよい。
【0019】
光源制御部2は、光源1を構成する各発光体の発光を制御する。典型的には、光源制御部2は、各発光体に流れる電流量を制御する。光源制御部2が発光体に印加する電圧を制御してもよい。また、制御する電流や電圧は直流であってもよいし交流であってもよい。また、制御の方法はPWM制御や位相制御など任意の形式であってよい。光源制御部2は、内部に光源1の各発光体の分光分布の値のテーブルを保持している。発光体の数がn種類であれば、このテーブルには、Pi(λ),(i=1,2,・・・,n)のそれぞれについて、可視光の領域で所定の刻み幅で値を記憶する。また、光源制御部2は、それぞれの発光体の発光強度をai(i=1,2,・・・,n)とした時に、光源1の発光強度P(λ)を、以下の(数2)に従い算出する機能を有する。
【数2】
【0020】
また、光源制御部2は、算出したP(λ)の値を、第1算出部4および第2算出部5に通知する機能を有する。さらに、光源制御部2は、第1算出部4および第2算出部5それぞれが算出した推定値(第1評価値および第2評価値)を受け取り、これらの推定値を目的変数とした最適化問題を解くことによりベクトルAを決定する機能を有する。
【0021】
推定部3は、光源1の照射光によって照らされる物体(図示せず)の分光反射率を推定する。図3は、第1の実施形態の推定部3の構成例を示すブロック図である。以下、推定部3の構成について説明する。推定部3は、撮像部301と、可変フィルタ302と、撮像制御部303と、画像処理部304と、を備えている。
【0022】
撮像部301は、CCDカメラやCMOSカメラなどの撮像素子である。撮像部301の分光感度S(λ)は既知である。撮像部301は、撮像制御部303からの通知に従い、可変フィルタ302と同期して可変フィルタ302を通して光源1の照射光によって照らされる物体を撮像する。撮像した画像は画像処理部304へ送られる。
【0023】
可変フィルタ302は、分光透過率が既知である複数のフィルタを切り替えることが可能なフィルタである。可変フィルタ302は、撮像制御部303からの通知に従い分光透過率を切り替える。図4は、可変フィルタ302の構成例を示す図である。可変フィルタ302の分光透過率は、例えば図4に示すように物理的に異なる複数のフィルタが回転および移動することによって切り替えられるように構成する。可変フィルタ302は、分光透過率を電気的に制御が可能な液晶チューナブルフィルタ等であってもよい。m種類の分光透過率が実現可能であるとして、それぞれの分光透過率をTj(λ),(j=1,2,・・・,m)とおく。
【0024】
撮像制御部303は、可変フィルタ302の分光透過率の切り替え、および、撮像部301による撮像を順次実行するように制御する。
【0025】
画像処理部304は、可変フィルタ302の分光透過率が異なる状態で、撮像部301によって撮像された複数の画像から、光源1の照射光によって照らされる物体の分光反射率を推定する。画像処理部304による分光反射率の推定方法は以下に示す通りである。
【0026】
物体の任意の部分の分光反射率をR(λ)、光源1の分光分布をP(λ)、撮像部301の分光感度をS(λ)、可変フィルタ302で切り替え可能なそれぞれの分光透過率をTj(λ),(j=1,2,・・・,m)とおく。なお、S(λ)およびTj(λ)の値は、例えば画像処理部304の中にテーブル(図示しない)として保持している。
【0027】
j種類目の分光透過率に切り替えられた可変フィルタ302を通して撮像された物体に対する撮像部301の出力値Vjは、以下の(数3)によって表される。
【数3】
【0028】
ここで、λ1およびλwは、それぞれ撮像部301の感度の存在する波長の下限、上限を表す。上記の積分を離散値で近似し、分解すると以下の(数4)の行列式が得られる。ここでΔλは離散化を行う際の量子化幅である。
【数4】
【0029】
(数4)の右辺左側の行列をFとおき、Fの疑似逆行列Gをwiener法等を用いて求めれば、以下の(数5)により物体の分光反射率R(λ)を求めることができる。
【数5】
【0030】
なお、これまでは撮像部301のチャンネル数が1チャンネル(モノクロ画像)である場合を示した。例えばRGBの3チャンネルの撮像部301を用いれば、(数4)の方程式の数を3倍にすることができるから、より精度の高い分光反射率の推定が可能となる。
【0031】
また、物体の分光反射率を推定する方法は上記に限られるものではなく、任意の他の技術に置き換えてもよい。
【0032】
第2算出部5は、光源制御部2から通知された光源1の分光分布P(λ)に基づき、照明の非視覚影響量Y1を推定する。推定された非視覚影響量Y1は光源制御部2へと通知される。
【0033】
非視覚影響量Y1(第2評価値)は、照射光が視覚以外に与える影響の大きさを表す。例えば、非視覚影響量Y1は、メラトニン分泌抑制アクションスペクトルと光源1の分光分布P(λ)との積の積分値である。錐体、かん体、および、メラノプシン含有神経節細胞の応答を考慮したメラトニン分泌抑制予測式の値を非視覚影響量Y1として用いてもよい。
【0034】
メラトニン分泌抑制アクションスペクトルと光源1の分光分布との積の積分値とは、光源1から放射される光エネルギーの分光分布をP(λ)、メラトニン分泌抑制スペクトルをM1(λ)とおいて、以下の(数6)により定義される。
【数6】
【0035】
また、錐体、かん体、および、メラノプシン含有神経節細胞の応答を考慮したメラトニン分泌抑制予測式の値は、以下のTの値(数7)により場合分けされ、T≧0のときは(数8)、T<0のときは(数9)により算出することができる。
【数7】
【数8】
【数9】
【0036】
ここで、定数k=0.31,α1=0.285,α2=0.2,α3=0.72,b1=0.01,b2=0.001,rodsat=6.5である。また、M2(λ)はメラノプシン含有神経節細胞の分光反応感度、V10(λ)はL錐体とM錐体の分光反応感度、V‘(λ)はかん体の分光反応感度、S(λ)はS錐体の分光反応感度である。
【0037】
第1算出部4は、光源1の分光分布と、物体の分光反射率とに基づいて、視覚により知覚される物体の色の適切さ(物体の色の見え)を表す出力値(第1評価値)を算出する。例えば、第1算出部4は、推定部3によって推定された、光源1の照射光によって照らされる物体の分光反射率の値R(λ)と、光源制御部2によって決定された光源1の分光分布の値P(λ)とに基づき、標準光源の下での物体の色の見えを推定する。推定の具体的方法は以下の通りである。
【0038】
まず、第1算出部4は、光源1の分光分布P(λ)による光色の相関色温度を求め、標準光源として用いる光源を決定する。第1算出部4は、P(λ)の相関色温度が5000K未満のときには完全放射体のP(λ)と等しい相関色温度の光を標準光源とする。また、第1算出部4は、5000K以上であったときはCIE昼光のP(λ)と等しい相関色温度の光を標準光源とする。以降、ここで求めた標準光源の分光分布の値をS(λ)とおく。なおこの値は例えばテーブルとして第1算出部4の中(図示しない)に記憶されている。
【0039】
XYZ表色系における光源1に対応する座標値(Xp,Yp,Zp)、および、標準光源に対応する座標値(Xs,Ys,Zs)を、以下の(数10)から(数17)により求める。
【数10】
【数11】
【数12】
ただし、
【数13】
【0040】
【数14】
【数15】
【数16】
ただし、
【数17】
【0041】
次に、CIE1960UCS色度図上における光源1に対応する座標値(up,vp)、および標準光源に対応する座標値(us,vs)を、それぞれ以下の(数18)から(数21)により求める。
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【0042】
また、物体色の三刺激値を、光源1の下での値(Xpr,Ypr,Zpr)および標準光源の下での値(Xsr,Ysr,Zsr)それぞれについて、以下の(数22)から(数29)により求める。
【数22】
【数23】
【数24】
ただし、
【数25】
【0043】
【数26】
【数27】
【数28】
ただし、
【数29】
【0044】
これらの値より、CIE1960UCS色度図上における光源1の下での座標値(upr,vpr)、および標準光源の下での座標値(usr,vsr)を、それぞれ以下の(数30)から(数33)により求める。
【数30】
【数31】
【数32】
【数33】
【0045】
続いて、以下の(数34)から(数37)に従い、色順応補正を行う。
【数34】
【数35】
【数36】
【数37】
【0046】
ここで、cs,cp,cpr,ds,dp,dprは、それぞれ以下の(数38)〜(数43)である。
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
【数42】
【数43】
【0047】
次に、CIE1964均等色空間での標準光源の下での座標(W*sr,U*sr,V*sr)および、光源1の下での座標(W*pr,U*pr,V*pr)をそれぞれ、以下の(数44)から(数49)で求める。
【数44】
【数45】
【数46】
【数47】
【数48】
【数49】
【0048】
以上の手順を得て、色度差ΔEは以下の(数50)により求まる。
【数50】
【0049】
このΔEの値は、撮像部301により撮像された画像のそれぞれの画素について求まる。従って、それぞれの画素の値をΔEhw(h=1,2,・・・,H)(w=1,2,・・・,W)とおいて、画像全体での色度差の合計を、2つの照明下での色の見えの遠さとする。
【0050】
【数51】
なお、上記(数51)では、画像の全領域に渡って値を合計しているが、特定の領域の値のみを考慮するようにしてもよい。
【0051】
色の見えの近さについては、上記ΔEsumの値が大きくなるほど値が小さくなる任意の関数Y2=F(ΔEsum)により定義できる。この色の見えの近さの値Y2が、第1算出部4の出力値(第1評価値)となる。
【0052】
以上はCIE1964均等色空間における標準光源の下での色の見えと照明装置100の光源1の下での色の見えの近さを算出する方法である。この方法は、例えばL*a*b*色空間のような他の色空間における色度差を求める方法に置き換えることもできるし、CIEDE2000のような色度差式を代わりに用いることも可能である。
【0053】
次に、このように構成された第1の実施形態にかかる照明装置100による制御処理について図5を用いて説明する。図5は、第1の実施形態における制御処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0054】
推定部3は、照明によって照らされる物体の分光反射率を推定する(ステップS101)。推定した結果は、第1算出部4へ通知される。
【0055】
光源制御部2は、予め定められた最適化の条件に基づき、光源1の発光強度を定める値であるベクトルA=(a1 a2 a3 ・・・ an)を最適化する(ステップS102)。この際、光源制御部2は、仮のベクトルAに対応するP(λ)の値を第2算出部5および第1算出部4へ通知する。第2算出部5および第1算出部4は、仮のベクトルAの値に対応するそれぞれの推定値Y1およびY2の値を返す。ここでは、最適化の条件として、Y2を一定値以上に保った上でY1を最小化する条件を用いる。これは、数学的には一般的な拘束条件付きの最適化問題である。勾配法や焼きなまし法のような一般的な最適化法を用いて上記の条件を満たすベクトルAの値を求めることができる。
【0056】
光源制御部2は、決定されたベクトルAの値に基づき、光源1の各発光体が発光するように制御する(ステップS103)。
【0057】
以上の処理により、例えば青色(特に波長460nm付近)の光をほとんど反射しない物体を照らす場合であれば、Y2の値を大きく保とうとする場合であっても、光源1は青色の光を含まなくてよい。一方で、従来のように演色評価数の値を大きく保とうとする場合であれば、光源1は青色の光を含む必要がある。従って、Y2の値を大きく保とうとする本実施形態の方が、演色評価数の値を保とうとする従来の方法と比較して、Y1の値をより小さくすることができる。すなわち、本実施形態によれば、照明によって照らされる物体の色の見えを損なうことなく、照明による非視覚的な影響をより効率的に軽減することができる。
【0058】
なお、ステップS102で用いる拘束条件は、Y2を一定値以上に保った上でY1を最小化する、という条件に限られるものではない。例えば、非視覚的な影響を軽減することを優先するのであれば、Y1の値を一定値以下に保った上でY2を最大化するという条件でもよい。また、覚醒水準を高めたい場合などであれば、Y2を一定値以上に保った上でY1を最大化するという条件でもよい。
【0059】
(第1の実施形態の変形例)
図6は、複数の色を含む照明光に照らされる物体の一例を示す図である。図6に示すように、分光反射率がRA(λ)である背景601に、分光反射率がRB(λ)である文字602が書かれている物体を考える。このとき、背景601の領域と文字602の領域とで知覚される色の色度差が十分大きければ、仮に標準光源の下で知覚される色とのズレが大きかったとしても文字602を読むことは可能である。
【0060】
すなわち、既述の最適化問題を解きベクトルAを求める際に用いるY2の値を、複数の分光反射率の異なる領域の色度差に置き換えてもよい。このために、本変形例では、第1算出部4の行う処理内容は以下に置き換わる。
【0061】
まず、推定部3によって推定された、それぞれの画素についての分光反射率の値R(λ)に対してクラスター分析を行う。これにより、分光反射率の値R(λ)は、それぞれの領域に属するクラスターに分類される。第1の領域および第2の領域のクラスターの代表値(例えばセントロイド)に相当する分光反射率の値を、それぞれR1(λ)およびR2(λ)とおく。
【0062】
光源1の下でのCIE1964均等色空間での座標は、既述の方法と同様に算出することが可能である。第1の領域の座標を(W*pr1,U*pr1,V*pr1)、第2の領域の座標を(W*pr2,U*pr2,V*pr2)とおく。
【0063】
第1の領域と第2の領域の色度差ΔE12は、以下の(数52)により求めることができる。この値を第1算出部4の出力値Y2とすることができる。
【数52】
【0064】
なお、本変形例でもCIE1964均等色空間での色度差の代わりに、例えばL*a*b*色空間のような他の色空間における色度差を求める方法に置き換えることもできるし、CIEDE2000のような色度差式を代わりに用いることも可能である。
【0065】
また、上記は分光反射率の異なる領域が2つの場合についての処理であるが、領域が3つ以上の場合であっても同様の処理が可能である。この場合、それぞれの領域の組合せについて色度差を算出し、その平均値や最小値を第1算出部4の出力値とすればよい。
【0066】
例えば、白色光源の下では黒色に見える背景(すべての波長の光をほぼ反射しない)に、白色光源の下では白色に見える文字(概ね赤色、緑色、青色の波長を反射する)が書かれていた場合であれば、仮に光源1は青色の光を含まなかったとしても、文字の領域は赤色と緑色の波長の光を反射するため、黒色からは十分遠い黄色に見える。従って、非視覚的な影響の大きい青色の光を含まずに、Y2の値を大きく保つことができる。すなわち、本変形例によれば、より効率的に非視覚的な影響を低減することが可能となる。
【0067】
なお、上記では背景の色と文字の色での例の説明をしたが、背景と文字以外であっても異なる色を見分けたい場合(例えば不良品検査など)でも同様に利用可能である。
【0068】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態にかかる照明装置100−2の構成の一例を示すブロック図である。図7に示すように、照明装置100−2は、光源1と、光源制御部2−2と、推定部3−2と、第1算出部4と、第2算出部5と、を備えている。
【0069】
第2の実施形態では、光源制御部2−2および推定部3−2の機能が第1の実施形態と異なっている。その他の構成および機能は、第1の実施形態にかかる照明装置100のブロック図である図1と同様であるので、同一符号を付し、ここでの説明は省略する。
【0070】
光源制御部2−2は、第1の実施形態の光源制御部2の機能に加えて、推定部3−2からの入力に従い、光源1の分光分布を制御する機能を持つ。
【0071】
推定部3−2は、光源1の照射光によって照らされる物体の分光反射率を推定する機能を有するとともに、光源制御部2−2に対して、分光分布を変化させるように通知する機能をさらに備える。図8は、第2の実施形態の推定部3−2の構成例を示すブロック図である。推定部3−2は、撮像部301と、撮像制御部303−2と、画像処理部304−2と、を備えている。なお、第2の実施形態の推定部3−2は、第1の実施形態とは異なり可変フィルタ302は有さない。
【0072】
撮像制御部303−2は、光源制御部2−2へ対して光源1の分光分布の切り替え要求と、撮像部301による撮像を順次実行するように要求する。光源制御部2−2は、この要求に従い、異なるm種類の分光分布となるように光源1を制御する。
【0073】
画像処理部304−2は、光源1の分光分布が異なる状態で、撮像部301によって撮像された複数の画像から、光源1の照射光によって照らされる物体の分光反射率を推定する。本実施形態の画像処理部304−2による分光反射率の推定方法は以下に示す通りである。
【0074】
物体の任意の部分の分光反射率をR(λ)、光源1によることなるm種類の分光分布をそれぞれPj(λ),(j=1,2,・・・,m)、撮像部301の分光感度をS(λ)とおく。
【0075】
j種類目の分光分布の光源1の下で撮像された物体に対する撮像部301の出力値Vjは、以下の(数53)によって表される。
【数53】
【0076】
上記の積分を離散値で近似し、分解すると以下の(数54)の行列式が得られる。
【数54】
【0077】
(数54)の右辺左側の行列をFとおき、Fの疑似逆行列Gをwiener法等を用いて求めれば、以下の(数55)により物体の分光反射率R(λ)を求めることができる。
【数55】
【0078】
また、第1の実施形態と同様に、RGBの3チャンネルの撮像部301を用いれば、(数54)の方程式の数を3倍にすることができるから、より精度の高い分光反射率の推定が可能となる。
【0079】
このように、第2の実施形態にかかる照明装置では、可変フィルタを有さない構成であっても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、第1の実施形態と同様に可変フィルタを更に備える構成も可能である。この場合、可変フィルタの種類をm1、光源1による異なる分光分布の種類をm2とすれば、(数54)の方程式の数を最大m1×m2個とすることが可能である。したがって、より精度良く物体の分光反射率を推定することが可能となる。
【0080】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、ユーザからの手動入力に基づき、照明装置によって照らされる物体の分光反射率を推定する。図9は、第3の実施形態にかかる照明装置100−3の構成の一例を示すブロック図である。図9に示すように、照明装置100−3は、光源1と、光源制御部2と、推定部3−3と、第1算出部4と、第2算出部5と、を備えている。
【0081】
図10は、第3の実施形態の推定部3−3の構成例を示すブロック図である。推定部3−3は、入力部305と、入力処理部306と、分光反射率データベース307と、を備えている。
【0082】
入力部305は、例えばタッチパネルディスプレイで構成される。図11は、入力部305の構成例を示す図である。図11に示すように、ユーザは、入力部305を用いることにより、照明によって照らされる物体(例えば書籍)で使用されている色を選択する。入力部305で選択された情報は、入力処理部306へ通知される。なお、入力部305がタッチパネルディスプレイの代わりに物理的なボタン等によって構成されていてもよい。
【0083】
入力処理部306は、入力部305から通知された情報を元に、分光反射率データベース307の内容を参照することにより、分光反射率を推定する。推定した結果は、第1算出部4へ通知される。
【0084】
分光反射率データベース307は、それぞれの色について例えば典型的な(平均的な)用紙やインクの分光反射率の値を記憶する記憶部である。分光反射率データベース307は、HDD(Hard Disk Drive)、光ディスク、メモリカード、RAM(Random Access Memory)などの一般的に利用されているあらゆる記憶媒体により構成することができる。
【0085】
分光反射率データベース307は、入力処理部306からの問い合わせに応じて、それぞれの色に対応する分光反射率P(λ)の値を入力処理部306へ伝える。なお、分光反射率データベース307は、例えばWeb等の外部のネットワーク上に存在していてもよい。この場合、入力処理部306は上記ネットワークに接続する機能を有する。
【0086】
以上の構成により、第3の実施形態の推定部3−3は、物体の分光反射率を推定することができる。第3の実施形態によれば、推定部3−3に、高コストであるカメラ(撮像部)や可変フィルタを備えることなく、第1の実施形態や第2の実施形態と同様の機能を実現することができる。
【0087】
(第3の実施形態の変形例)
本変形例では、ユーザは照明によって照らされる物体の色を直接指定するのではなく、照明によって照らされる物体の名称を指定する。
【0088】
図12は、本変形例の入力部305の構成例を示す図である。本変形例では、例えば図12に示すように、ユーザは、照明によって照らされる物体の固有名称または一般名称を選択することができる。なお、図12に示すように特定の出版物を指定する形式以外を用いてもよい。例えば「新聞」「写真週刊誌」「文庫本」といった粒度で指定できるように構成してもよい。また、選択できる物体は、上記のような出版物以外のものであってもよい。
【0089】
分光反射率データベース307は、入力部305で指定されたそれぞれの物体で使用されている用紙やインクのそれぞれの色について、分光反射率の値を記憶している。分光反射率データベース307は、入力処理部306からの問い合わせに応じて、使用されているそれぞれの色に対応する分光反射率P(λ)の値を入力処理部306へ伝える。なお、分光反射率データベース307は、例えばWeb等の外部のネットワーク上に存在していてもよい。また、分光反射率データベース307は、新しい雑誌が創刊された場合や、使用される紙やインクの種類が変更された場合に、その都度内容を更新できるように構成してもよい。
【0090】
本変形例によれば、ユーザは照明によって照らされる物体の色を指定する手間を省くことができる。また実際の物体の分光反射率の値を用いることができるため、より精度のよい分光反射率の値を基に、光源の分光分布を最適化することが可能となる。
【0091】
以上説明したとおり、第1から第3の実施形態によれば、光源の照射光により照らされる実際の物体の分光反射率を考慮して当該物体の色の見えを評価し、物体の色の見えを保つために不必要な波長の光を含ませないことができる。これにより、非視覚的影響をより効率的に低減することができる。
【0092】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
1 光源
2、2−2 光源制御部
3、3−2、3−3 推定部
4 第1算出部
5 第2算出部
100 照明装置
101 発光体
301 撮像部
302 可変フィルタ
303 撮像制御部
304 画像処理部
305 入力部
306 入力処理部
307 分光反射率データベース
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
照明の光はヒトの網膜に入射した後、網膜視床下部路を介して視交叉上核と呼ばれる部位に作用することによって視覚的な影響以外にも生理的な影響を与えることが知られている。また、この効果は波長が460nm付近の短波長光を多く含む光で特に強いことも知られている。例えば、夜間に照明光を浴びることにより、メラトニンというホルモンの分泌が抑制され睡眠の質に影響を与える可能性が指摘されている。従って、特に夜間に使用する照明では、このような影響を低減することが求められている。
【0003】
上記のような影響を低減するには、照明の光に460nm付近の光を含ませないようにすることが考えられるが、照明にとって重要な機能である演色性の値を低下させてしまう。演色性とは、ある照明の下での物体の色の見えが、標準光源の下での物体の色の見えと比較してどの程度近いかで定義される指標である。演色性の測定法は、日本工業規格JIS Z8726で規定されている。
【0004】
演色性の評価法には、平均演色評価数および特殊演色評価数が存在する。平均演色評価数は、明るさおよび鮮やかさが中程度で色相がほぼ全色相におよぶ8色の色の見えを計算することによって求められる。また、特殊演色評価数は、平均演色評価数で用いる8色よりも、鮮やかな色や肌色を再現した色を加えた15色の色の見えを計算することによって求められる。これらの値は、照明光の分光分布の値から算出することができる。
【0005】
演色評価数の値を一定以上に保つという拘束条件の下で、メラトニン分泌抑制量の値を最小化するという最適化問題を解くことにより、演色性を一定以上に保った上で、照明の非視覚的影響を低減する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO2008/069101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術では、例えば460nm付近の光を反射しない物体を照らす場合であっても、演色評価数の値を一定以上に保つためには460nm付近の光を一定量以上含む必要があった。すなわち、物体の色の見えを保つために不必要な波長の光も含むことにより、非視覚的影響を効率的に低減することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の照明装置は、光源と、光源制御部と、推定部と、第1算出部と、第2算出部と、を備える。光源は、分光分布が異なる複数の発光体を含む。推定部は、光源からの照射光が照射される物体の分光反射率を推定する。第1算出部は、分光分布と分光反射率とに基づいて、視覚により知覚される物体の色の適切さを表す第1評価値を算出する。第2算出部は、分光分布に基づいて、照射光が視覚以外に与える影響の大きさを表す第2評価値を算出する。光源制御部は、第1評価値と第2評価値とが予め定められた拘束条件を満たす発光強度を決定し発光体の発光を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態にかかる照明装置のブロック図。
【図2】光源に含まれる発光体の配置例を示す図。
【図3】第1の実施形態の推定部のブロック図。
【図4】可変フィルタの構成例を示す図。
【図5】第1の実施形態における制御処理のフローチャート。
【図6】複数の色を含む照明光に照らされる物体の一例を示す図。
【図7】第2の実施形態にかかる照明装置のブロック図。
【図8】第2の実施形態の推定部のブロック図。
【図9】第3の実施形態にかかる照明装置のブロック図。
【図10】第3の実施形態の推定部のブロック図。
【図11】入力部の構成例を示す図。
【図12】入力部の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる照明装置の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
第1の実施形態にかかる照明装置は、物体の色の見えを保つために不必要な波長の光を含ませないことにより、非視覚的影響をより効率的に低減する。
【0012】
図1は、第1の実施形態にかかる照明装置100の構成の一例を示すブロック図である。図1に示すように、照明装置100は、光源1と、光源制御部2と、推定部3と、第1算出部4と、第2算出部5と、を備えている。
【0013】
光源1は発光強度が独立に制御可能であり、分光分布が異なる2種類以上の発光体を含む。この発光体は、典型的にはRGBの3原色に相当するLED(Light Emitting Diode)である。
【0014】
LEDは、形状が小型および軽量であるため、複数のLEDを1つの照明器具に組み込み、個々のLEDの発光強度を独立に制御することも比較的容易である。
【0015】
個々のLEDの分光分布をPi(λ)、それぞれのLEDの発光強度をaiとおけば、分光分布の異なるn種類のLEDを組み込んだ照明器具全体としての分光分布P(λ)は、以下の(数1)で表すことができる。
【数1】
【0016】
すなわち、光源1の分光分布は、n次元のベクトルA=(a1 a2 a3 ・・・ an)によって定まる関数の値であると考えることができる。
【0017】
演色評価数の値も、メラトニン分泌抑制量の値も、いずれも分光分布が分かれば算出することができる。従って、n次元ベクトルAの値が定まれば、これらを算出することが可能である。
【0018】
発光体は、3色以上であってもよいし、色温度の異なる白色LEDであってもよいし、これらの両方を含んでいてもよい。図2は、光源1に含まれる発光体の配置例を示す図である。光源1は、例えば、図2に示すように異なる種類のチップ型LED(発光体101〜103)が敷き詰められた構成とする。この場合、それぞれの発光体の光が混色されたものが光源1の発する光となる。発光体としては、LEDの他に蛍光管、白熱電球、および、ナトリウムランプなど、任意のものを用いることができる。また、発光体はこれらの組合せであってもよい。また、複数の発光体の光の混色のために、光源1が光拡散板などを更に備えるように構成してもよい。
【0019】
光源制御部2は、光源1を構成する各発光体の発光を制御する。典型的には、光源制御部2は、各発光体に流れる電流量を制御する。光源制御部2が発光体に印加する電圧を制御してもよい。また、制御する電流や電圧は直流であってもよいし交流であってもよい。また、制御の方法はPWM制御や位相制御など任意の形式であってよい。光源制御部2は、内部に光源1の各発光体の分光分布の値のテーブルを保持している。発光体の数がn種類であれば、このテーブルには、Pi(λ),(i=1,2,・・・,n)のそれぞれについて、可視光の領域で所定の刻み幅で値を記憶する。また、光源制御部2は、それぞれの発光体の発光強度をai(i=1,2,・・・,n)とした時に、光源1の発光強度P(λ)を、以下の(数2)に従い算出する機能を有する。
【数2】
【0020】
また、光源制御部2は、算出したP(λ)の値を、第1算出部4および第2算出部5に通知する機能を有する。さらに、光源制御部2は、第1算出部4および第2算出部5それぞれが算出した推定値(第1評価値および第2評価値)を受け取り、これらの推定値を目的変数とした最適化問題を解くことによりベクトルAを決定する機能を有する。
【0021】
推定部3は、光源1の照射光によって照らされる物体(図示せず)の分光反射率を推定する。図3は、第1の実施形態の推定部3の構成例を示すブロック図である。以下、推定部3の構成について説明する。推定部3は、撮像部301と、可変フィルタ302と、撮像制御部303と、画像処理部304と、を備えている。
【0022】
撮像部301は、CCDカメラやCMOSカメラなどの撮像素子である。撮像部301の分光感度S(λ)は既知である。撮像部301は、撮像制御部303からの通知に従い、可変フィルタ302と同期して可変フィルタ302を通して光源1の照射光によって照らされる物体を撮像する。撮像した画像は画像処理部304へ送られる。
【0023】
可変フィルタ302は、分光透過率が既知である複数のフィルタを切り替えることが可能なフィルタである。可変フィルタ302は、撮像制御部303からの通知に従い分光透過率を切り替える。図4は、可変フィルタ302の構成例を示す図である。可変フィルタ302の分光透過率は、例えば図4に示すように物理的に異なる複数のフィルタが回転および移動することによって切り替えられるように構成する。可変フィルタ302は、分光透過率を電気的に制御が可能な液晶チューナブルフィルタ等であってもよい。m種類の分光透過率が実現可能であるとして、それぞれの分光透過率をTj(λ),(j=1,2,・・・,m)とおく。
【0024】
撮像制御部303は、可変フィルタ302の分光透過率の切り替え、および、撮像部301による撮像を順次実行するように制御する。
【0025】
画像処理部304は、可変フィルタ302の分光透過率が異なる状態で、撮像部301によって撮像された複数の画像から、光源1の照射光によって照らされる物体の分光反射率を推定する。画像処理部304による分光反射率の推定方法は以下に示す通りである。
【0026】
物体の任意の部分の分光反射率をR(λ)、光源1の分光分布をP(λ)、撮像部301の分光感度をS(λ)、可変フィルタ302で切り替え可能なそれぞれの分光透過率をTj(λ),(j=1,2,・・・,m)とおく。なお、S(λ)およびTj(λ)の値は、例えば画像処理部304の中にテーブル(図示しない)として保持している。
【0027】
j種類目の分光透過率に切り替えられた可変フィルタ302を通して撮像された物体に対する撮像部301の出力値Vjは、以下の(数3)によって表される。
【数3】
【0028】
ここで、λ1およびλwは、それぞれ撮像部301の感度の存在する波長の下限、上限を表す。上記の積分を離散値で近似し、分解すると以下の(数4)の行列式が得られる。ここでΔλは離散化を行う際の量子化幅である。
【数4】
【0029】
(数4)の右辺左側の行列をFとおき、Fの疑似逆行列Gをwiener法等を用いて求めれば、以下の(数5)により物体の分光反射率R(λ)を求めることができる。
【数5】
【0030】
なお、これまでは撮像部301のチャンネル数が1チャンネル(モノクロ画像)である場合を示した。例えばRGBの3チャンネルの撮像部301を用いれば、(数4)の方程式の数を3倍にすることができるから、より精度の高い分光反射率の推定が可能となる。
【0031】
また、物体の分光反射率を推定する方法は上記に限られるものではなく、任意の他の技術に置き換えてもよい。
【0032】
第2算出部5は、光源制御部2から通知された光源1の分光分布P(λ)に基づき、照明の非視覚影響量Y1を推定する。推定された非視覚影響量Y1は光源制御部2へと通知される。
【0033】
非視覚影響量Y1(第2評価値)は、照射光が視覚以外に与える影響の大きさを表す。例えば、非視覚影響量Y1は、メラトニン分泌抑制アクションスペクトルと光源1の分光分布P(λ)との積の積分値である。錐体、かん体、および、メラノプシン含有神経節細胞の応答を考慮したメラトニン分泌抑制予測式の値を非視覚影響量Y1として用いてもよい。
【0034】
メラトニン分泌抑制アクションスペクトルと光源1の分光分布との積の積分値とは、光源1から放射される光エネルギーの分光分布をP(λ)、メラトニン分泌抑制スペクトルをM1(λ)とおいて、以下の(数6)により定義される。
【数6】
【0035】
また、錐体、かん体、および、メラノプシン含有神経節細胞の応答を考慮したメラトニン分泌抑制予測式の値は、以下のTの値(数7)により場合分けされ、T≧0のときは(数8)、T<0のときは(数9)により算出することができる。
【数7】
【数8】
【数9】
【0036】
ここで、定数k=0.31,α1=0.285,α2=0.2,α3=0.72,b1=0.01,b2=0.001,rodsat=6.5である。また、M2(λ)はメラノプシン含有神経節細胞の分光反応感度、V10(λ)はL錐体とM錐体の分光反応感度、V‘(λ)はかん体の分光反応感度、S(λ)はS錐体の分光反応感度である。
【0037】
第1算出部4は、光源1の分光分布と、物体の分光反射率とに基づいて、視覚により知覚される物体の色の適切さ(物体の色の見え)を表す出力値(第1評価値)を算出する。例えば、第1算出部4は、推定部3によって推定された、光源1の照射光によって照らされる物体の分光反射率の値R(λ)と、光源制御部2によって決定された光源1の分光分布の値P(λ)とに基づき、標準光源の下での物体の色の見えを推定する。推定の具体的方法は以下の通りである。
【0038】
まず、第1算出部4は、光源1の分光分布P(λ)による光色の相関色温度を求め、標準光源として用いる光源を決定する。第1算出部4は、P(λ)の相関色温度が5000K未満のときには完全放射体のP(λ)と等しい相関色温度の光を標準光源とする。また、第1算出部4は、5000K以上であったときはCIE昼光のP(λ)と等しい相関色温度の光を標準光源とする。以降、ここで求めた標準光源の分光分布の値をS(λ)とおく。なおこの値は例えばテーブルとして第1算出部4の中(図示しない)に記憶されている。
【0039】
XYZ表色系における光源1に対応する座標値(Xp,Yp,Zp)、および、標準光源に対応する座標値(Xs,Ys,Zs)を、以下の(数10)から(数17)により求める。
【数10】
【数11】
【数12】
ただし、
【数13】
【0040】
【数14】
【数15】
【数16】
ただし、
【数17】
【0041】
次に、CIE1960UCS色度図上における光源1に対応する座標値(up,vp)、および標準光源に対応する座標値(us,vs)を、それぞれ以下の(数18)から(数21)により求める。
【数18】
【数19】
【数20】
【数21】
【0042】
また、物体色の三刺激値を、光源1の下での値(Xpr,Ypr,Zpr)および標準光源の下での値(Xsr,Ysr,Zsr)それぞれについて、以下の(数22)から(数29)により求める。
【数22】
【数23】
【数24】
ただし、
【数25】
【0043】
【数26】
【数27】
【数28】
ただし、
【数29】
【0044】
これらの値より、CIE1960UCS色度図上における光源1の下での座標値(upr,vpr)、および標準光源の下での座標値(usr,vsr)を、それぞれ以下の(数30)から(数33)により求める。
【数30】
【数31】
【数32】
【数33】
【0045】
続いて、以下の(数34)から(数37)に従い、色順応補正を行う。
【数34】
【数35】
【数36】
【数37】
【0046】
ここで、cs,cp,cpr,ds,dp,dprは、それぞれ以下の(数38)〜(数43)である。
【数38】
【数39】
【数40】
【数41】
【数42】
【数43】
【0047】
次に、CIE1964均等色空間での標準光源の下での座標(W*sr,U*sr,V*sr)および、光源1の下での座標(W*pr,U*pr,V*pr)をそれぞれ、以下の(数44)から(数49)で求める。
【数44】
【数45】
【数46】
【数47】
【数48】
【数49】
【0048】
以上の手順を得て、色度差ΔEは以下の(数50)により求まる。
【数50】
【0049】
このΔEの値は、撮像部301により撮像された画像のそれぞれの画素について求まる。従って、それぞれの画素の値をΔEhw(h=1,2,・・・,H)(w=1,2,・・・,W)とおいて、画像全体での色度差の合計を、2つの照明下での色の見えの遠さとする。
【0050】
【数51】
なお、上記(数51)では、画像の全領域に渡って値を合計しているが、特定の領域の値のみを考慮するようにしてもよい。
【0051】
色の見えの近さについては、上記ΔEsumの値が大きくなるほど値が小さくなる任意の関数Y2=F(ΔEsum)により定義できる。この色の見えの近さの値Y2が、第1算出部4の出力値(第1評価値)となる。
【0052】
以上はCIE1964均等色空間における標準光源の下での色の見えと照明装置100の光源1の下での色の見えの近さを算出する方法である。この方法は、例えばL*a*b*色空間のような他の色空間における色度差を求める方法に置き換えることもできるし、CIEDE2000のような色度差式を代わりに用いることも可能である。
【0053】
次に、このように構成された第1の実施形態にかかる照明装置100による制御処理について図5を用いて説明する。図5は、第1の実施形態における制御処理の全体の流れを示すフローチャートである。
【0054】
推定部3は、照明によって照らされる物体の分光反射率を推定する(ステップS101)。推定した結果は、第1算出部4へ通知される。
【0055】
光源制御部2は、予め定められた最適化の条件に基づき、光源1の発光強度を定める値であるベクトルA=(a1 a2 a3 ・・・ an)を最適化する(ステップS102)。この際、光源制御部2は、仮のベクトルAに対応するP(λ)の値を第2算出部5および第1算出部4へ通知する。第2算出部5および第1算出部4は、仮のベクトルAの値に対応するそれぞれの推定値Y1およびY2の値を返す。ここでは、最適化の条件として、Y2を一定値以上に保った上でY1を最小化する条件を用いる。これは、数学的には一般的な拘束条件付きの最適化問題である。勾配法や焼きなまし法のような一般的な最適化法を用いて上記の条件を満たすベクトルAの値を求めることができる。
【0056】
光源制御部2は、決定されたベクトルAの値に基づき、光源1の各発光体が発光するように制御する(ステップS103)。
【0057】
以上の処理により、例えば青色(特に波長460nm付近)の光をほとんど反射しない物体を照らす場合であれば、Y2の値を大きく保とうとする場合であっても、光源1は青色の光を含まなくてよい。一方で、従来のように演色評価数の値を大きく保とうとする場合であれば、光源1は青色の光を含む必要がある。従って、Y2の値を大きく保とうとする本実施形態の方が、演色評価数の値を保とうとする従来の方法と比較して、Y1の値をより小さくすることができる。すなわち、本実施形態によれば、照明によって照らされる物体の色の見えを損なうことなく、照明による非視覚的な影響をより効率的に軽減することができる。
【0058】
なお、ステップS102で用いる拘束条件は、Y2を一定値以上に保った上でY1を最小化する、という条件に限られるものではない。例えば、非視覚的な影響を軽減することを優先するのであれば、Y1の値を一定値以下に保った上でY2を最大化するという条件でもよい。また、覚醒水準を高めたい場合などであれば、Y2を一定値以上に保った上でY1を最大化するという条件でもよい。
【0059】
(第1の実施形態の変形例)
図6は、複数の色を含む照明光に照らされる物体の一例を示す図である。図6に示すように、分光反射率がRA(λ)である背景601に、分光反射率がRB(λ)である文字602が書かれている物体を考える。このとき、背景601の領域と文字602の領域とで知覚される色の色度差が十分大きければ、仮に標準光源の下で知覚される色とのズレが大きかったとしても文字602を読むことは可能である。
【0060】
すなわち、既述の最適化問題を解きベクトルAを求める際に用いるY2の値を、複数の分光反射率の異なる領域の色度差に置き換えてもよい。このために、本変形例では、第1算出部4の行う処理内容は以下に置き換わる。
【0061】
まず、推定部3によって推定された、それぞれの画素についての分光反射率の値R(λ)に対してクラスター分析を行う。これにより、分光反射率の値R(λ)は、それぞれの領域に属するクラスターに分類される。第1の領域および第2の領域のクラスターの代表値(例えばセントロイド)に相当する分光反射率の値を、それぞれR1(λ)およびR2(λ)とおく。
【0062】
光源1の下でのCIE1964均等色空間での座標は、既述の方法と同様に算出することが可能である。第1の領域の座標を(W*pr1,U*pr1,V*pr1)、第2の領域の座標を(W*pr2,U*pr2,V*pr2)とおく。
【0063】
第1の領域と第2の領域の色度差ΔE12は、以下の(数52)により求めることができる。この値を第1算出部4の出力値Y2とすることができる。
【数52】
【0064】
なお、本変形例でもCIE1964均等色空間での色度差の代わりに、例えばL*a*b*色空間のような他の色空間における色度差を求める方法に置き換えることもできるし、CIEDE2000のような色度差式を代わりに用いることも可能である。
【0065】
また、上記は分光反射率の異なる領域が2つの場合についての処理であるが、領域が3つ以上の場合であっても同様の処理が可能である。この場合、それぞれの領域の組合せについて色度差を算出し、その平均値や最小値を第1算出部4の出力値とすればよい。
【0066】
例えば、白色光源の下では黒色に見える背景(すべての波長の光をほぼ反射しない)に、白色光源の下では白色に見える文字(概ね赤色、緑色、青色の波長を反射する)が書かれていた場合であれば、仮に光源1は青色の光を含まなかったとしても、文字の領域は赤色と緑色の波長の光を反射するため、黒色からは十分遠い黄色に見える。従って、非視覚的な影響の大きい青色の光を含まずに、Y2の値を大きく保つことができる。すなわち、本変形例によれば、より効率的に非視覚的な影響を低減することが可能となる。
【0067】
なお、上記では背景の色と文字の色での例の説明をしたが、背景と文字以外であっても異なる色を見分けたい場合(例えば不良品検査など)でも同様に利用可能である。
【0068】
(第2の実施形態)
図7は、第2の実施形態にかかる照明装置100−2の構成の一例を示すブロック図である。図7に示すように、照明装置100−2は、光源1と、光源制御部2−2と、推定部3−2と、第1算出部4と、第2算出部5と、を備えている。
【0069】
第2の実施形態では、光源制御部2−2および推定部3−2の機能が第1の実施形態と異なっている。その他の構成および機能は、第1の実施形態にかかる照明装置100のブロック図である図1と同様であるので、同一符号を付し、ここでの説明は省略する。
【0070】
光源制御部2−2は、第1の実施形態の光源制御部2の機能に加えて、推定部3−2からの入力に従い、光源1の分光分布を制御する機能を持つ。
【0071】
推定部3−2は、光源1の照射光によって照らされる物体の分光反射率を推定する機能を有するとともに、光源制御部2−2に対して、分光分布を変化させるように通知する機能をさらに備える。図8は、第2の実施形態の推定部3−2の構成例を示すブロック図である。推定部3−2は、撮像部301と、撮像制御部303−2と、画像処理部304−2と、を備えている。なお、第2の実施形態の推定部3−2は、第1の実施形態とは異なり可変フィルタ302は有さない。
【0072】
撮像制御部303−2は、光源制御部2−2へ対して光源1の分光分布の切り替え要求と、撮像部301による撮像を順次実行するように要求する。光源制御部2−2は、この要求に従い、異なるm種類の分光分布となるように光源1を制御する。
【0073】
画像処理部304−2は、光源1の分光分布が異なる状態で、撮像部301によって撮像された複数の画像から、光源1の照射光によって照らされる物体の分光反射率を推定する。本実施形態の画像処理部304−2による分光反射率の推定方法は以下に示す通りである。
【0074】
物体の任意の部分の分光反射率をR(λ)、光源1によることなるm種類の分光分布をそれぞれPj(λ),(j=1,2,・・・,m)、撮像部301の分光感度をS(λ)とおく。
【0075】
j種類目の分光分布の光源1の下で撮像された物体に対する撮像部301の出力値Vjは、以下の(数53)によって表される。
【数53】
【0076】
上記の積分を離散値で近似し、分解すると以下の(数54)の行列式が得られる。
【数54】
【0077】
(数54)の右辺左側の行列をFとおき、Fの疑似逆行列Gをwiener法等を用いて求めれば、以下の(数55)により物体の分光反射率R(λ)を求めることができる。
【数55】
【0078】
また、第1の実施形態と同様に、RGBの3チャンネルの撮像部301を用いれば、(数54)の方程式の数を3倍にすることができるから、より精度の高い分光反射率の推定が可能となる。
【0079】
このように、第2の実施形態にかかる照明装置では、可変フィルタを有さない構成であっても第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、第1の実施形態と同様に可変フィルタを更に備える構成も可能である。この場合、可変フィルタの種類をm1、光源1による異なる分光分布の種類をm2とすれば、(数54)の方程式の数を最大m1×m2個とすることが可能である。したがって、より精度良く物体の分光反射率を推定することが可能となる。
【0080】
(第3の実施形態)
第3の実施形態では、ユーザからの手動入力に基づき、照明装置によって照らされる物体の分光反射率を推定する。図9は、第3の実施形態にかかる照明装置100−3の構成の一例を示すブロック図である。図9に示すように、照明装置100−3は、光源1と、光源制御部2と、推定部3−3と、第1算出部4と、第2算出部5と、を備えている。
【0081】
図10は、第3の実施形態の推定部3−3の構成例を示すブロック図である。推定部3−3は、入力部305と、入力処理部306と、分光反射率データベース307と、を備えている。
【0082】
入力部305は、例えばタッチパネルディスプレイで構成される。図11は、入力部305の構成例を示す図である。図11に示すように、ユーザは、入力部305を用いることにより、照明によって照らされる物体(例えば書籍)で使用されている色を選択する。入力部305で選択された情報は、入力処理部306へ通知される。なお、入力部305がタッチパネルディスプレイの代わりに物理的なボタン等によって構成されていてもよい。
【0083】
入力処理部306は、入力部305から通知された情報を元に、分光反射率データベース307の内容を参照することにより、分光反射率を推定する。推定した結果は、第1算出部4へ通知される。
【0084】
分光反射率データベース307は、それぞれの色について例えば典型的な(平均的な)用紙やインクの分光反射率の値を記憶する記憶部である。分光反射率データベース307は、HDD(Hard Disk Drive)、光ディスク、メモリカード、RAM(Random Access Memory)などの一般的に利用されているあらゆる記憶媒体により構成することができる。
【0085】
分光反射率データベース307は、入力処理部306からの問い合わせに応じて、それぞれの色に対応する分光反射率P(λ)の値を入力処理部306へ伝える。なお、分光反射率データベース307は、例えばWeb等の外部のネットワーク上に存在していてもよい。この場合、入力処理部306は上記ネットワークに接続する機能を有する。
【0086】
以上の構成により、第3の実施形態の推定部3−3は、物体の分光反射率を推定することができる。第3の実施形態によれば、推定部3−3に、高コストであるカメラ(撮像部)や可変フィルタを備えることなく、第1の実施形態や第2の実施形態と同様の機能を実現することができる。
【0087】
(第3の実施形態の変形例)
本変形例では、ユーザは照明によって照らされる物体の色を直接指定するのではなく、照明によって照らされる物体の名称を指定する。
【0088】
図12は、本変形例の入力部305の構成例を示す図である。本変形例では、例えば図12に示すように、ユーザは、照明によって照らされる物体の固有名称または一般名称を選択することができる。なお、図12に示すように特定の出版物を指定する形式以外を用いてもよい。例えば「新聞」「写真週刊誌」「文庫本」といった粒度で指定できるように構成してもよい。また、選択できる物体は、上記のような出版物以外のものであってもよい。
【0089】
分光反射率データベース307は、入力部305で指定されたそれぞれの物体で使用されている用紙やインクのそれぞれの色について、分光反射率の値を記憶している。分光反射率データベース307は、入力処理部306からの問い合わせに応じて、使用されているそれぞれの色に対応する分光反射率P(λ)の値を入力処理部306へ伝える。なお、分光反射率データベース307は、例えばWeb等の外部のネットワーク上に存在していてもよい。また、分光反射率データベース307は、新しい雑誌が創刊された場合や、使用される紙やインクの種類が変更された場合に、その都度内容を更新できるように構成してもよい。
【0090】
本変形例によれば、ユーザは照明によって照らされる物体の色を指定する手間を省くことができる。また実際の物体の分光反射率の値を用いることができるため、より精度のよい分光反射率の値を基に、光源の分光分布を最適化することが可能となる。
【0091】
以上説明したとおり、第1から第3の実施形態によれば、光源の照射光により照らされる実際の物体の分光反射率を考慮して当該物体の色の見えを評価し、物体の色の見えを保つために不必要な波長の光を含ませないことができる。これにより、非視覚的影響をより効率的に低減することができる。
【0092】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0093】
1 光源
2、2−2 光源制御部
3、3−2、3−3 推定部
4 第1算出部
5 第2算出部
100 照明装置
101 発光体
301 撮像部
302 可変フィルタ
303 撮像制御部
304 画像処理部
305 入力部
306 入力処理部
307 分光反射率データベース
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光分布が異なる複数の発光体を含む光源と、
前記発光体それぞれの発光強度を決定し、前記発光強度となるように前記発光体の発光を制御する光源制御部と、
前記光源からの照射光が照射される物体の分光反射率を推定する推定部と、
前記分光分布と前記分光反射率とに基づいて、視覚により知覚される前記物体の色の適切さを表す第1評価値を算出する第1算出部と、
前記分光分布に基づいて、前記照射光が視覚以外に与える影響の大きさを表す第2評価値を算出する第2算出部と、を備え、
前記光源制御部は、前記第1評価値と前記第2評価値とが予め定められた拘束条件を満たす前記発光強度を決定すること、
を特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記第1評価値は、前記物体に含まれる複数の領域間の見えの差の大きさであること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記拘束条件は、前記第1評価値を予め定められた固定値以上に保ちながら前記第2評価値を小さくする条件、または、前記第1評価値を前記固定値以上に保ちながら前記第2評価値を大きくする条件であること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項4】
前記第2評価値は、前記光源の分光分布とメラトニン分泌抑制アクションスペクトルとの積の積分値、または、錐体、かん体、および、メラノプシン含有神経節細胞それぞれの応答に基づくメラトニン分泌抑制予測式の値であること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項5】
前記推定部は、
前記物体の画像を撮像する撮像部と、
前記画像と前記光源の分光分布とに基づいて前記分光反射率を推定する画像処理部と、を備えること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項6】
前記撮像部は、分光透過率を切り替え可能な可変フィルタを介して前記物体の画像を撮像し、
前記画像処理部は、異なる前記分光透過率に切り替えられた前記可変フィルタを介して撮像された複数の前記画像と前記光源の分光分布とに基づいて前記分光反射率を推定すること、
を特徴とする請求項5に記載の照明装置。
【請求項7】
前記画像処理部は、前記光源の分光分布が異なる状態で撮像された複数の前記画像と前記光源の分光分布とに基づいて前記分光反射率を推定すること、
を特徴とする請求項5に記載の照明装置。
【請求項8】
前記推定部は、
前記分光反射率に応じた値を表す入力値を受付け、前記入力値に応じた前記分光反射率を推定する入力処理部を備えること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項1】
分光分布が異なる複数の発光体を含む光源と、
前記発光体それぞれの発光強度を決定し、前記発光強度となるように前記発光体の発光を制御する光源制御部と、
前記光源からの照射光が照射される物体の分光反射率を推定する推定部と、
前記分光分布と前記分光反射率とに基づいて、視覚により知覚される前記物体の色の適切さを表す第1評価値を算出する第1算出部と、
前記分光分布に基づいて、前記照射光が視覚以外に与える影響の大きさを表す第2評価値を算出する第2算出部と、を備え、
前記光源制御部は、前記第1評価値と前記第2評価値とが予め定められた拘束条件を満たす前記発光強度を決定すること、
を特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記第1評価値は、前記物体に含まれる複数の領域間の見えの差の大きさであること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項3】
前記拘束条件は、前記第1評価値を予め定められた固定値以上に保ちながら前記第2評価値を小さくする条件、または、前記第1評価値を前記固定値以上に保ちながら前記第2評価値を大きくする条件であること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項4】
前記第2評価値は、前記光源の分光分布とメラトニン分泌抑制アクションスペクトルとの積の積分値、または、錐体、かん体、および、メラノプシン含有神経節細胞それぞれの応答に基づくメラトニン分泌抑制予測式の値であること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項5】
前記推定部は、
前記物体の画像を撮像する撮像部と、
前記画像と前記光源の分光分布とに基づいて前記分光反射率を推定する画像処理部と、を備えること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【請求項6】
前記撮像部は、分光透過率を切り替え可能な可変フィルタを介して前記物体の画像を撮像し、
前記画像処理部は、異なる前記分光透過率に切り替えられた前記可変フィルタを介して撮像された複数の前記画像と前記光源の分光分布とに基づいて前記分光反射率を推定すること、
を特徴とする請求項5に記載の照明装置。
【請求項7】
前記画像処理部は、前記光源の分光分布が異なる状態で撮像された複数の前記画像と前記光源の分光分布とに基づいて前記分光反射率を推定すること、
を特徴とする請求項5に記載の照明装置。
【請求項8】
前記推定部は、
前記分光反射率に応じた値を表す入力値を受付け、前記入力値に応じた前記分光反射率を推定する入力処理部を備えること、
を特徴とする請求項1に記載の照明装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−41719(P2013−41719A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176983(P2011−176983)
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月12日(2011.8.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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