説明

熱アシスト情報記録装置および熱アシスト情報記録方法

【課題】簡易な構成で、情報記録素子が生じた熱を効率良く該情報記録素子から放熱する熱アシスト情報記録装置を提供する。
【解決手段】熱アシスト情報記録装置1は、情報記録媒体9の記録部分を加熱することにより、情報を該記録部分に記録する情報記録ヘッド3と、情報記録ヘッド3を包含する気体充填用筐体2とを備え、気体充填用筐体2の内部にはヘリウムガス8が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報記録媒体の記録部分を加熱することにより、情報を該記録部分に記録する情報記録素子の放熱効率を向上させる熱アシスト情報記録装置および熱アシスト情報記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会の到来により、取り扱う情報量が膨大になり、記録装置の大容量化、高密度化が求められている。特に、ビット単価が安く、不揮発かつ大容量記録可能な磁気記録装置は大いに普及している記録装置の一つであり、高密度記録可能な磁気記録媒体の開発が強く要求されている。
【0003】
磁気記録媒体の高密度化のためには、磁気記録媒体内の個々の記録ビットのサイズを微細化する必要がある。しかしながら、記録ビットの体積を小さくすることによって、記録ビットの磁化の向きを一定に保つために必要な磁気異方性エネルギーKu・V(Ku:磁気異方性エネルギー密度、V:磁気粒子の体積)が減少し、時間とともに磁化がゆらいでしまう。これによって、磁気記録媒体に記録した情報が消えてしまうため、従来の磁気記録媒体では記録ビットの体積の減少には限界がある。
【0004】
すなわち、磁気記録媒体の高密度化を行うために、記録ビットの体積を減少させた場合、磁化情報を安定に保持するためには、Kuの大きな材料を用いて記録ビットの磁気的なエネルギーを上げる必要がある。しかしながら、磁気記録媒体中の保磁力HcはKuに比例するため、Kuが増大すると、Hcもまた増大する。そのため、Kuの大きな材料を用いた磁気記録媒体では、既存の磁気記録ヘッドを使用して、記録することができなくなるという問題が新たに生じる。そこで、この問題を解決するために、熱アシスト磁気記録方式が提案されている。
【0005】
熱アシスト磁気記録方式では、Kuが温度とともに減少することを利用することによって、一旦、磁気記録媒体中の記録部分を、レーザ光などを用いて局所的に加熱する。それによって、KuおよびHcを減少させ、既存の記録ヘッドによって磁気記録を行えるようにすることができ、高密度な情報の記録を行うことが可能となる。
【0006】
特許文献1には、上記熱アシスト磁気記録方式を用いた熱アシスト磁気記録装置の一例として、半導体レーザと磁界発生素子とが一体化した情報記録素子が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された熱アシスト磁気記録装置では、半導体レーザ内の活性層周辺からの発熱により、情報記録素子および該情報記録素子を浮上させるためのスライダー内部に熱が蓄積されてしまう。
【0008】
さらに、磁気記録媒体に情報を記録する際の該磁気記録媒体と該磁気記録媒体上を浮上する情報記録素子との距離は非常に微小であるために、該情報記録素子の温度が上昇すると、該磁気記録媒体の記録部分の温度分布に影響を与えてしまう。その結果、微小な記録ビットを形成できず、高密度記録を行うことができなくなってしまう。したがって、半導体レーザと磁界発生素子とが一体化した情報記録素子を用いるためには、情報記録素子への熱の蓄積を抑制する必要がある。
【0009】
上述したような情報記録素子への熱の蓄積を抑制する方法が特許文献2に開示されている。特許文献2には、光磁気ヘッドに熱が蓄積するのを抑制するために、スライダーのディスク対向面に良熱伝導性の放熱層を設ける構成が開示されている。
【0010】
また、特許文献3には、装置内部の温度上昇による構成部品の熱膨張に起因するトラックずれを抑制するために、密封型の磁気ディスク装置にヘリウムを密封する構成が開示されている。
【特許文献1】特開2004−303299号公報(公開日:平成16年10月28日)
【特許文献2】特開2000―276806号公報(公開日:平成12年10月6日)
【特許文献3】特開昭62−71078号公報(公開日:昭和62年4月1日)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献2に開示された技術では、スライダーのディスク対向面やスライダーと磁気ヘッドとの界面に放熱層を形成する必要があり、製造工程が増加し、コストも高くなってしまう。さらに、特許文献2に開示された技術では、磁気コイルに発生した熱が放熱層からしか放出されないために、放熱効率が悪く、光磁気ヘッド内部に熱が蓄積されてしまう。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、簡易な構成で、情報記録素子が生じた熱を効率良く該情報記録素子から放熱する熱アシスト情報記録装置および熱アシスト情報記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の熱アシスト情報記録装置は、上記課題を解決するために、情報記録媒体の記録部分を加熱することにより、情報を該記録部分に記録する情報記録素子と、上記情報記録素子を包含する気体充填用筐体とを備え、上記気体充填用筐体の内部にはヘリウムガスが充填されていることを特徴としている。
【0014】
情報記録素子では、情報記録素子が情報記録媒体の記録部分を加熱するために生じた熱が、該情報記録素子の内部に蓄積されてしまう。情報記録素子の内部に熱が蓄積すると、該情報記録素子の温度が上昇し、情報記録媒体に情報を記録する際に、情報記録媒体の記録部分の温度分布に影響を与えてしまう。そのため、情報記録素子が発生した熱を、該情報記録素子内部に蓄積させずに、該情報記録素子外部に放出させる必要がある。
【0015】
そこで、本発明の熱アシスト情報記録装置では、気体充填用筐体の内部にヘリウムガスを充填している。ヘリウムガスの熱伝導率は、0.152[W/m/K]であり、一般の熱アシスト情報記録装置の筺体内に充填されている空気の熱伝導率0.0241[W/m/K]や、窒素の熱伝導率0.0259[W/m/K]と比較して非常に高い。
【0016】
そのため、本発明の熱アシスト情報記録装置では、気体充填用筐体にヘリウムガスを充填するという簡易な構成で、情報記録素子が発生した熱をヘリウムガスへと効率良く移動させることができる。その結果、情報記録素子が情報記録媒体に情報を記録する際に、該情報記録素子が発生した熱が該情報記録素子内部に蓄積されることを抑制し、該情報記録素子の温度上昇を抑制することができる。そのため、情報記録時の加熱による情報記録媒体中の温度分布を急峻にすることが可能となり、より微小な記録ビットを形成でき、高密度記録が可能となる。
【0017】
なお、本発明の熱アシスト情報記録装置により好適に情報を記録できる情報記録媒体は、記録部分を局所的に加熱することにより情報を記録する情報記録媒体、例えば、磁性材料のように記録部分の磁化方向を変化させることにより情報を記録するMOや、有機色素のように記録部分を化学的に状態変化させることにより情報を記録するCD−R、DVD−Rや、相変化記録材のように記録部分の結晶状態を変化させることにより情報を記録するCD−RW、DVD−RW等が挙げられる。
【0018】
また、特許文献3に開示された密閉型磁気ディスク装置は、磁気ディスクに情報を記録する装置に関するものであり、情報記録媒体の記録部分を局所的に加熱することにより情報を記録する本発明の熱アシスト情報記録装置とは異なる。
【0019】
また、本発明の熱アシスト情報記録装置では、上記情報記録素子は、上記情報記録媒体の回転により、該情報記録媒体上に浮上するスライダーに接続されていてもよい。
【0020】
スライダーは、情報記録媒体が高速回転することにより、情報記録媒体上を微小な間隙で浮上することが可能である。そのため、上記スライダーに情報記録素子を接続することにより、該情報記録素子を情報記録媒体上に微小な間隔で浮上させることができる。
【0021】
情報記録素子が情報記録媒体に接近すればするほど、該情報記録素子が発生した熱は該情報記録媒体の記録特性に影響を与える。したがって、情報記録素子をスライダーに接続することにより、情報記録媒体に対してより強い磁界を印加することが可能となり、情報の記録特性が向上する。
【0022】
また、本発明の熱アシスト情報記録装置では、上記情報記録素子の上記情報記録媒体と対向する面以外の面に、凹凸形状が形成されていてもよい。
【0023】
情報記録素子が発生した熱は、情報記録素子とヘリウムガスとが接する面積が大きければ大きいほど、情報記録素子からヘリウムガスへと移動する。そのため、より効率良く情報記録素子からヘリウムガスへと熱を伝播させるためには、情報記録素子の表面積を大きくすることが望ましい。
【0024】
しかしながら、本発明の熱アシスト情報記録装置では、記録情報を高密度化するために、情報記録媒体に情報を記録する際の情報記録素子と情報記録媒体との距離は10nm以下であることが好ましい。そのため、情報記録素子と情報記録媒体との距離を狭めるために、情報記録素子の情報記録媒体と対向する面の平均表面粗さを小さくする必要がある。
【0025】
そこで、本発明の熱アシスト情報記録装置では、情報記録素子の表面積を大きくするために、情報記録素子の情報記録媒体と対向する面以外の面に、凹凸形状を形成している。
【0026】
上記構成により、情報記録素子とヘリウムガスとが接する表面積が大きくなり、情報記録素子からヘリウムガスへと多くの熱が移動し、情報記録素子の内部の温度上昇を抑制することができる。
【0027】
また、本発明の熱アシスト情報記録装置では、上記情報記録媒体は、磁性材料から構成される磁気記録媒体であり、上記情報記録素子は、上記情報記録媒体の記録部分を加熱する局所的加熱手段と、該記録部分に磁界を印加する磁界発生素子とからなる構成であってもよい。
【0028】
本発明の熱アシスト情報記録装置により好適に情報を記録できる情報記録媒体は、上述したように、記録部分を局所的に加熱することにより情報を記録する種々の情報記録媒体が挙げられる。これらの情報記録媒体のうち、本発明の熱アシスト情報記録装置が磁性材料から構成される磁気記録媒体に情報を記録する場合には、情報記録素子は、上記情報記録媒体の記録部分を加熱する局所的加熱手段と、該記録部分に磁界を印加する磁界発生素子とから構成される。
【0029】
すなわち、本発明の熱アシスト情報記録装置は、上記局所加熱手段が情報記録媒体の記録部分を局所的に加熱することにより、該記録部分の磁気異方性エネルギー密度Kuおよび保磁力Hcを低下させ、上記磁界発生素子が該記録部分、すなわち、該情報記録媒体中の保磁力Hcが該磁界発生素子から発生する磁界以下になった部分に対して磁界を印加することにより、該記録部分に情報を記録する。
【0030】
本発明の熱アシスト情報記録装置では、気体充填用筐体にヘリウムガスを充填しているために、上記局所加熱手段によって加熱された情報記録媒体の温度分布が急峻となり、該情報記録媒体の保磁力Hcの分布も急峻となる。そのため、上記磁界発生素子が発生する磁界によって記録可能な領域もより微小な領域に制限される。したがって、本発明の熱アシスト情報記録装置では、より微小な記録ビットを形成でき、高密度記録が可能となる。
【0031】
また、本発明の熱アシスト情報記録装置では、上記情報記録媒体に記録された情報を再生する情報再生手段を備えていてもよい。
【0032】
上記構成により、本発明の熱アシスト情報記録装置は、情報記録媒体に対して情報を記録するだけでなく、再生することも可能となる。
【0033】
本発明の熱アシスト情報記録方法は、内部にヘリウムガスが充填された気体充填用筐体に包含された情報記録素子を用い、情報記録媒体の記録部分を加熱することにより、情報を該記録部分に記録することを特徴としている。
【0034】
上記方法により、簡易な構成で、情報記録素子が生じた熱を効率良く該情報記録素子から放熱することができる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の熱アシスト情報記録装置は、以上のように、情報記録媒体の記録部分を加熱することにより、情報を該記録部分に記録する情報記録素子と、上記情報記録素子を包含する気体充填用筐体とを備え、上記気体充填用筐体の内部にはヘリウムガスが充填されていることを特徴としている。
【0036】
上記構成により、本発明の熱アシスト情報記録装置は、気体充填用筐体にヘリウムガスを充填するという簡易な構成で、情報記録素子が発生した熱をヘリウムガスへと効率良く移動させることができる。その結果、情報記録素子が情報記録媒体に情報を記録する際に、該情報記録素子が発生した熱が該情報記録素子内部に蓄積されることを抑制し、該情報記録素子の温度上昇を抑制することができる。そのため、情報記録時の加熱による情報記録媒体中の温度分布を急峻にすることが可能となり、より微小な記録ビットを形成でき、高密度記録が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の熱アシスト情報記録装置は、情報記録媒体の記録部分を加熱することにより、情報を該記録部分に記録する情報記録素子と、該情報記録素子を包含する気体充填用筐体とを備えており、該気体充填用筐体の内部にヘリウムガスが充填されていることを特徴としている。
【0038】
上記熱アシスト情報記録装置は、記録部分を局所的に加熱することにより情報を記録する情報記録媒体、例えば、磁性材料のように記録部分の磁化方向を変化させることにより情報を記録するMOや、有機色素のように記録部分を化学的に状態変化させることにより情報を記録するCD−R、DVD−Rや、相変化記録材のように記録部分の結晶状態を変化させることにより情報を記録するCD−RW、DVD−RW等に情報を記録する際に好適に用いられる。
【0039】
なお、上記熱アシスト情報記録装置が好適に用いられる情報記録媒体としては、上述した情報記録媒体に限定されず、加熱されることにより情報記録媒体の記録部分の状態が変化し、該記録部分に記録された情報が再生可能な情報記録媒体であればかまわない。
【0040】
以下の説明においては、本発明の熱アシスト情報記録装置の一実施形態として、上述した情報記録媒体のうち、磁性材料から構成された情報記録媒体に対して情報を記録する場合の構成について図1〜図5を参照して説明する。
【0041】
まず、本実施形態に係る熱アシスト情報記録装置1の構成について、図1を参照して説明する。図1は、本実施形態の熱アシスト情報記録装置1の概略構成を示す断面図である。
【0042】
熱アシスト情報記録装置1は、図1に示すように、気体充填用筐体2と、情報記録ヘッド3と、情報記録ヘッド駆動部4と、サスペンション5と、情報記録媒体駆動部6と、記録信号処理系7とを備えている。また、熱アシスト情報記録装置1は、気体充填用筐体2の内部にヘリウムガス8が充填されており、情報記録媒体駆動部6には情報記録時に情報記録媒体9が取り付けられる。
【0043】
気体充填用筐体2は、熱アシスト情報記録装置1の記録信号処理系7以外の各構成要素を内部に収める容器であり、その内部にはヘリウムガス8が充填されている。
【0044】
情報記録ヘッド3は、図2に示すように、情報記録素子10と、スライダー11とを備えており、図3に示すように、情報記録媒体9上に微小な間隔で浮上するとともに、情報記録媒体9の記録部分に情報を記録するものである。情報記録ヘッド3の構成について図2および図3を参照して具体的に説明する。図2は、情報記録ヘッド3の概略構成を示す斜視図である。図3は、情報記録ヘッド3と情報記録媒体9との配置を示す斜視図である。
【0045】
情報記録素子10は、熱アシスト磁気記録方式により情報記録媒体9に対して情報の記録を行うものであり、情報記録媒体9に対して磁界を印加する図示しない磁界発生素子と、情報記録媒体9を局所的に加熱する局所加熱手段12とが一体化して構成されている。すなわち、情報記録素子10は、局所加熱手段12が情報記録媒体9の記録部分を局所的に加熱するとともに、上記磁界発生素子が該記録部分に対して磁界を印加することにより、該記録部分に情報を記録するものである。
【0046】
局所加熱手段12としては、半導体レーザが好適に用いられる。局所加熱手段12として半導体レーザを用いた場合、半導体レーザから情報記録媒体9にレーザ光が照射され、情報記録媒体9が加熱される。本実施形態では、局所加熱手段12として、波長が635nmのAlGaAs系半導体レーザを用いており、情報記録媒体9加熱時は、消費電力が30mW、半導体レーザ内部の温度が135℃である。
【0047】
上記AlGaAs系半導体レーザは、一般に知られている構造であり、一般に知られている製造方法によって製造することができる。以下に、上記AlGaAs系半導体レーザの構成について説明する。
【0048】
上記AlGaAs系半導体レーザは、n型GaAs基板上に、n型AlGaAsクラッド層と、GaAsからなる活性層と、p型AlGaAsクラッド層とがこの順に積層されている。そして、上記p型AlGaAsクラッド層の一部には、エッチングが施され、ストライプ状のリッジ構造が形成されている。また、上記p型AlGaAsクラッド層のリッジ構造上部には、p型GaAsからなるキャップ層が形成され、リッジ構造以外の領域には、SiOブロック層が形成される。上記キャップ層および上記SiOブロック層の上部には、p型GaAsからなるコンタクト層と、Zn/Auからなるp型電極層とがこの順に積層されている。また、上記n型GaAs基板上のn型AlGaAsクラッド層が形成された面とは反対側の面にGe/Auが形成され、これをn型電極としている。
【0049】
なお、本実施形態では、局所加熱手段12として半導体レーザを用いているが、本発明はこれに限られない。つまり、局所加熱手段12は、情報記録媒体9を局所的に加熱可能な構成であればよく、例えば、針の先端の尖ったプローブを加熱し、針の先端を情報記録媒体9に近づけることによって加熱を行う局所加熱プローブであってもよい。
【0050】
スライダー11は、情報記録素子10と情報記録媒体9との距離を制御するものであり、情報記録素子10が接続されている。スライダー11の情報記録媒体9と対向する面には、情報記録素子10の浮上高さを調節するためのABS(Air Bearing Surface)と呼ばれる凹凸形状が形成されている。スライダー11にABSが設けられていることにより、情報記録媒体9が高速回転している時、情報記録素子10は情報記録媒体9上を微小な間隙で浮上することが可能となる。
【0051】
本実施形態では、スライダー11として、材質がアルチック(AlTiC)から構成されたフェムトスライダーを用いている。なお、アルチック(AlTiC)とは、アルミニウム(Al)と、チタン(Ti)と、炭素(C)とを原料とする焼結体である。スライダー11の形状は、図2に示すように、直方体であり、高さaが0.23[mm]×奥行きbが0.85[mm]×幅cが0.77[mm]である。なお、高さa、奥行きb、幅cとは、それぞれ図2に示す情報記録ヘッド3のZ軸方向、X軸方向、Y軸方向におけるスライダー11の長さを指す。
【0052】
なお、本実施形態では、スライダー11としてアルチック(AlTiC)から構成されたフェムトスライダーを用いているが、本発明はこれに限られない。つまり、スライダー11は、情報記録素子10を情報記録媒体9上に浮上させることが可能な構成であればよく、上述した材料および形状に限定されるものではない。
【0053】
情報記録ヘッド駆動部4は、記録信号処理系7から受信した記録信号に応じて情報記録ヘッド3を移動させるものであり、サスペンション5を介してスライダー11と接続されるとともに、記録信号処理系7とも接続されている。情報記録ヘッド駆動部4は、上記記録信号に応じて情報記録ヘッド3を移動させることにより、情報記録ヘッド3を該記録信号に対応した情報記録媒体9の位置に移動させることが可能となる。その結果、情報記録素子10は、上記記録信号に対応した情報記録媒体9の位置により強い磁界を印加することが可能となり、記録特性を向上させることができる。
【0054】
情報記録媒体駆動部6は、情報記録媒体9を駆動、すなわち高速回転させるものであり、情報を記録する際に情報記録媒体9を装着可能な構成である。
【0055】
記録信号処理系7は、情報記録素子10が情報記録媒体9に情報を記録する際に、情報記録媒体9への記録情報および該記録情報を記録する情報記録媒体9の位置情報を含む記録信号を生成するものであり、熱アシスト情報記録装置1内であって気体充填用筐体2の外部に設けられており、情報記録ヘッド駆動部4と接続されている。気体充填用筐体2は、記録信号処理系7と情報記録ヘッド駆動部4との接続により、内部に充填されたヘリウムガス8が外部に漏出しないように密閉されている。
【0056】
情報記録媒体9は、磁性材料によって構成されており、記録部分の磁化方向を変化させることにより情報を記録するものである。本実施形態では、情報記録媒体9の記録層の材料として、アモルファス材料であり、熱安定性に優れた垂直磁気記録媒体であるTbFeCo合金薄膜を用いている。
【0057】
なお、情報記録媒体9の記録層の材料としては、上述した材料に限定されず、DyFeCo、TbDyFeCo等の希土類金属−遷移金属合金薄膜、PtとMn、Fe、Co、Ni等の少なくとも一種以上の遷移金属とによって構成される合金薄膜、Pt/CoやPd/Co等の磁気多層膜、CoCrやCoCrPt−SiO等のグラニュラー磁気薄膜等が好適に用いられる。さらに、情報記録媒体9の記録層としては、上述した材料以外であっても、磁界を印加することにより情報の記録を行い、記録情報が安定に保持できるものであればよい。
【0058】
次に、本実施形態の熱アシスト情報記録装置1において、気体充填用筐体2の内部にヘリウムガス8を充填することによる情報記録素子10の放熱効果の向上について説明する。
【0059】
情報記録素子10では、局所加熱手段12が情報記録媒体9の記録部分を加熱するために生じた熱が、情報記録素子10の内部に蓄積されてしまう。情報記録素子10の内部に熱が蓄積すると、情報記録素子10の温度が上昇し、情報記録媒体9に情報を記録する際に、情報記録媒体9の記録部分の温度分布に影響を与えてしまう。そのため、情報記録素子10が発生した熱を、情報記録素子10内部に蓄積させずに、情報記録素子10外部に放出させる必要がある。
【0060】
そこで、本実施形態の熱アシスト情報記録装置1では、気体充填用筐体2の内部にヘリウムガス8を充填している。ヘリウムガス8の熱伝導率は、0.152[W/m/K]であり、一般の熱アシスト情報記録装置の筺体内に充填されている空気の熱伝導率0.0241[W/m/K]や、窒素の熱伝導率0.0259[W/m/K]と比較して非常に高い。
【0061】
情報記録素子10から、情報記録素子10が接する物質へ移動する熱量、すなわち、情報記録素子10の該物質と接する面における単位時間当たりの熱量の変化ΔQ[J]は、以下の式で表される。
ΔQ=k(grandT)・S・t
なお、上記式において、kは情報記録素子10が接する物質の熱伝導率[W/m/K]を、Tは絶対温度[K]を、Sは上記物質と接する情報記録素子10表面の表面積[m]を、tは温度変化に要した時間[s]を示す。
【0062】
上記式により、情報記録素子10から、情報記録素子10が接する物質へと移動する熱量は、該物質の熱伝導率および情報記録素子10と該物質とが接する面積に比例することが分かる。すなわち、情報記録素子10が接する物質の熱伝導率が高ければ高いほど、または、情報記録素子10と該物質とが接する面積が大きければ大きいほど、情報記録素子10から該物質へと多くの熱が移動し、情報記録素子10の内部の温度上昇を抑制することができる。
【0063】
したがって、気体充填用筐体2に充填されたヘリウムガス8の熱伝導率は、上述したように、空気の約6.3倍、窒素ガスの約5.9倍であり、非常に高い値であるために、情報記録素子10の局所加熱手段12が発生した熱は、情報記録素子10からヘリウムガス8へと非常に効率良く移動し、情報記録素子10内部の温度上昇を抑制することができる。
【0064】
このように、本実施形態の熱アシスト情報記録装置1では、気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填するという簡易な構成で、情報記録素子10の局所加熱手段12が発生した熱をヘリウムガス8へと効率良く移動させることができる。その結果、情報記録素子10が情報記録媒体9に情報を記録する際に、局所加熱手段12が発生した熱が情報記録素子10内部に蓄積されることを抑制し、情報記録素子10の温度上昇を抑制することができる。そのため、情報記録時の加熱による情報記録媒体9中の温度分布を急峻にすることが可能となり、情報記録媒体9の保磁力Hcの分布も急峻となり、情報記録素子10の上記磁界発生素子が発生する磁界によって記録可能な領域もより微小な領域に制限される。したがって、熱アシスト情報記録装置1は、より微小な記録ビットを形成でき、高密度記録が可能となる。
【0065】
次に、熱アシスト情報記録装置1の気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填した場合における情報記録素子10の温度分布を、熱伝導シミュレーションにより計算し、その結果について図4を参照して説明する。なお、上記熱伝導シミュレーションは、熱回路網法を用いて計算を行っている。上記熱回路網法では、物質や空間をメッシュ状のいくつかの部分に区切り、メッシュの節目間に熱抵抗を設置し、全体を熱回路として計算を行う。計算方法としては、熱エネルギーが保存されることを考慮して、上記熱回路のキルヒホッフの方程式を解くことにより、熱平衡状態を算出する。この計算において、上記熱回路における電気抵抗が熱伝導率を用いて算出した熱抵抗に、電位差がメッシュの節目間の温度差に相当する。
【0066】
上記熱伝導シミュレーションは、図2に示す情報記録ヘッド3において、情報記録素子10の情報記録媒体9と対向する面の中心を原点Aとした場合、x軸方向、すなわち、スライダー11の長手方向に平行な方向の情報記録素子10表面における温度分布を計算する。上記熱伝導シミュレーションでは、局所加熱手段12である半導体レーザの活性層周辺からの発熱により暖められた原点Aの温度を409Kとし、この温度をピークとして情報記録素子10表面における温度分布を計算した。なお、情報記録素子10の温度の初期値、すなわち、情報記録素子10が局所加熱手段12によって加熱される前の温度を298K(室温)とした。
【0067】
図4は、X軸方向における原点Aからの距離と、情報記録素子10の情報記録媒体9と対向している面における温度との関係を示すグラフである。なお、図中において、縦軸が情報記録素子10の情報記録媒体9と対向している面における温度[K]を、横軸がX軸方向における原点Aからの距離[nm]を示す。また、図4において、破線は気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填した場合の情報記録素子10表面の温度分布であり、実線は気体充填用筐体2に空気を充填した場合の情報記録素子10表面の温度分布を示している。
【0068】
図4に示すように、情報記録素子10の情報記録媒体9と対向している面における温度分布は、気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填した場合と、空気を充填した場合とを比較すると、ヘリウムガス8を充填した場合の方が急峻になっていることが分かる。すなわち、情報記録素子10の情報記録媒体9と対向している面における温度は、気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填した場合の方が、発熱源である局所加熱手段12から離れるほど、急峻に低下している。
【0069】
次に、図4に示した熱伝導シミュレーション結果を用いて、情報記録時における情報記録媒体9の温度分布を計算した結果について図5を参照して説明する。
【0070】
情報記録時における情報記録媒体9の表面付近の雰囲気温度は、図4に示した熱伝導シミュレーション結果である情報記録素子10表面の温度分布とほぼ一致していると考えられる。そこで、局所加熱手段12である半導体レーザから情報記録媒体9に入射したレーザ光のレーザスポット径を0.5[μm]、レーザスポット中心の温度を453[K]、レーザ光における情報記録媒体9表面の温度分布をガウス分布とし、該ガウス分布に情報記録素子10表面の温度分布を加え、情報記録媒体9表面での温度分布を計算する。
【0071】
図5は、レーザスポット中心からの距離rと、図3に示す情報記録媒体9のX軸方向の温度との関係を示すグラフである。なお、図中において、破線は気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填した場合における情報記録媒体9表面の温度分布を、実線は気体充填用筐体2に空気を充填した場合における情報記録媒体9表面の温度分布を示す。
【0072】
図5に示すように、情報記録媒体9表面における温度分布は、気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填した場合と、空気を充填した場合とを比較すると、ヘリウムガス8を充填した場合のほうが急峻になっていることが分かる。すなわち、情報記録媒体9表面の温度は、気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填した場合の方が、レーザスポット中心から離れるほど、急峻に低下している。
【0073】
ここで、情報記録素子10の上記磁界発生素子が発生する磁界によって情報記録媒体9に情報を記録することが可能となる記録温度を430K以上とした場合、430K以上の温度を有するレーザスポット中心からの距離rは、気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填したときは約90nmであり、気体充填用筐体2に空気を充填したときは約110nmである。
【0074】
したがって、情報記録媒体9に情報を記録する際には、気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填した場合と、空気を充填した場合とでは、上記磁界発生素子が発生する磁界によって記録可能な領域が約20nmも異なることが分かる。そのため、気体充填用筐体2にヘリウムガス8を充填することにより、空気を充填する場合と比較して、上記磁界発生素子が発生する磁界によって記録可能な領域がより微小な領域に制限されるために、より微小な記録ビットを形成でき、高密度記録が可能となる。
【0075】
なお、本実施形態の熱アシスト情報記録装置1では、情報記録素子10の情報記録媒体9と対向する面以外の面に、凹凸形状が形成されていることが好ましい。特に、上記凹凸形状は、平均表面粗さが1.0nm以上であることが好ましい。
【0076】
上述したように、情報記録素子10の局所加熱手段12が発生した熱は、情報記録素子10とヘリウムガス8とが接する面積が大きければ大きいほど、情報記録素子10からヘリウムガス8へと移動する。そのため、より効率良く情報記録素子10からヘリウムガス8へと熱を伝播させるためには、情報記録素子10の表面積を大きくすることが望ましい。
【0077】
そこで、情報記録素子10の表面積を大きくするために、情報記録素子10の情報記録媒体9と対向する面以外の面に、凹凸形状を形成することにより、情報記録素子10とヘリウムガス8とが接する表面積が大きくなり、情報記録素子10からヘリウムガス8へと多くの熱が移動し、情報記録素子10の内部の温度上昇を抑制することができる。なお、平均表面粗さとは、JIS B 0601−2001の表面粗さの定義であり、微細な凹凸の振幅に関する中心線平均粗さである。
【0078】
また、本実施形態の熱アシスト情報記録装置1では、記録情報を高密度化するために、情報記録媒体9に情報を記録する際の情報記録素子10と情報記録媒体9との距離を10nm以下とすることが好ましい。情報記録素子10と情報記録媒体9との距離を10nm以下とすることにより、記録情報が微小、かつ、微弱であったとしても、情報記録媒体9中への記録が可能となる。このように、情報記録素子10と情報記録媒体9との距離を狭めるために、情報記録素子10の情報記録媒体9と対向する面の平均表面粗さは、できるだけ小さくする必要があり、1.0nm以下であることが好ましい。
【0079】
また、本実施形態の熱アシスト情報記録装置1は、情報記録媒体9に記録された情報を再生する情報再生素子および再生信号処理系を備えていてもかまわない。なお、この場合、情報記録媒体9に記録された情報の再生には、局所加熱手段12を用いてもよい。
【0080】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、記録部分を局所的に加熱することにより情報を記録する情報記録媒体、例えば、磁性材料のように記録部分の磁化方向を変化させることにより情報を記録するMOや、有機色素のように記録部分を化学的に状態変化させることにより情報を記録するCD−R、DVD−Rや、相変化記録材のように記録部分の結晶状態を変化させることにより情報を記録するCD−RW、DVD−RW等に情報を記録する際に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明に係る熱アシスト情報記録装置の一実施形態の概略構成を示す断面図である。
【図2】上記熱アシスト情報記録装置における情報記録ヘッドの概略構成を示す斜視図である。
【図3】情報記録ヘッドと情報記録媒体との配置を示す斜視図である。
【図4】X軸方向における原点Aからの距離rと、情報記録素子の情報記録媒体と対向している面における温度との関係を示すグラフである。
【図5】レーザスポット中心からの距離rと、図3に示す情報記録媒体のX軸方向の温度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0083】
1 熱アシスト情報記録装置
2 気体充填用筐体
3 情報記録ヘッド
4 情報記録素子駆動部
5 サスペンション
6 情報記録媒体駆動部
7 記録信号処理系
8 ヘリウムガス
9 情報記録媒体
10 情報記録素子
11 スライダー
12 局所加熱手段
a スライダーの高さ
b スライダーの奥行き
c スライダーの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報記録媒体の記録部分を加熱することにより、情報を該記録部分に記録する情報記録素子と、
前記情報記録素子を包含する気体充填用筐体とを備え、
前記気体充填用筐体の内部にはヘリウムガスが充填されていることを特徴とする熱アシスト情報記録装置。
【請求項2】
前記情報記録素子は、前記情報記録媒体の回転により、該情報記録媒体上に浮上するスライダーに接続されていることを特徴とする請求項1に記載の熱アシスト情報記録装置。
【請求項3】
前記情報記録素子の前記情報記録媒体と対向する面以外の面に、凹凸形状が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱アシスト情報記録装置。
【請求項4】
前記情報記録媒体は、磁性材料から構成される磁気記録媒体であり、
前記情報記録素子は、前記情報記録媒体の記録部分を加熱する局所的加熱手段と、該記録部分に磁界を印加する磁界発生素子とからなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱アシスト情報記録装置。
【請求項5】
前記情報記録媒体に記録された情報を再生する情報再生手段を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱アシスト情報記録装置。
【請求項6】
内部にヘリウムガスが充填された気体充填用筐体に包含された情報記録素子を用い、情報記録媒体の記録部分を加熱することにより、情報を該記録部分に記録することを特徴とする熱アシスト情報記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−43338(P2009−43338A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−207249(P2007−207249)
【出願日】平成19年8月8日(2007.8.8)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】