説明

熱アシスト磁気記録装置

【課題】グラニュラー媒体を用いた熱アシスト磁気記録装置において、最適磁界強度で飽和記録する。
【解決手段】飽和記録するための最適磁界強度を560×103 A/m以上とし、情報記録用媒体の記録トラック幅を10-9 mで割って無次元化した値をX、ヘッド磁界を印加するための磁極から、情報記録用媒体の厚さ方向中心に印加される磁界をY (単位はA/m)とする時、記録トラック幅が60 nm以下の条件において、最適磁界強度Yが以下の式(1)(2)を満たすようにする。
Y≧(X2-119×X+4135)×1000 …(1)
Y≦(X2-119×X+const)×1000 …(2)
ここで、ヘッド位置におけるヘッド・媒体間の相対速度(周速)vが20 m/sec未満のとき、const=-0.8×v2+ 33.7 ×v + 4250、周速vが20 m/sec以上のとき、const=4600である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高記録密度の情報記録装置に関し、特に、記録媒体に光を照射する近接場光プローブと磁気記録再生用ヘッドを備えた熱アシスト磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の情報化社会を支える情報記憶システムの1つとしてコンピュータ等に装着されている磁気ディスク装置は、高記録密度化と高速化及び小型化が急速に進んでいる。磁気ディスク装置の高記録密度化を実現するためには、磁気ディスクと磁気ヘッドの距離を狭めること、磁気記録媒体の磁性膜を構成する結晶粒径を微細化すること、磁気記録媒体の保磁力(異方性磁界)を増大させること、信号処理方法の高速化等が必要である。
【0003】
磁気記録媒体において、結晶粒径を微細化することはノイズを低減することにつながるが、一方、粒子が熱的に不安定になるという問題が生じる。熱揺らぎの指標であるKuV/kT (Ku:異方性定数、V:粒子の体積、k:ボルツマン定数、T:温度)は、それが大きいほど熱安定性が高いことを示している。結晶粒径を微細化するとともに熱安定性を確保するためには、異方性定数を大きくしなければならない。しかし、異方性定数の増加、即ち、異方性磁界(保磁力)の増加は、記録に必要なヘッド磁界強度の増加を意味する。記録用ヘッドに使われる磁極材料の制限及び、磁気ディスクと磁気ヘッドの距離を狭めることの制限から、今後、高記録密度化に伴い異方性磁界を増大させることは困難と考えられる。
【0004】
以上述べた問題を解決するために、光記録技術と磁気記録技術を結合したハイブリッド記録技術が提案され、注目を浴びている。例えば、雑誌Jpn. J. Appl. Phys. Vol.38(1999) pp.1839-1840に記載された記録再生ヘッドは、記録磁界が発生する部分に光を発生させる機構を付加したものである。記録時には、磁界印加とともに光を照射することにより、加熱による媒体異方性磁界強度(保磁力)の低減効果を利用して記録を行う。即ち、媒体を加熱することにより、従来の磁気ヘッドでは記録磁界が不足して記録が困難であった超高記録密度用の高い異方性磁界を有する媒体において、その異方性磁界が下がり、記録が容易に行える。このような記録方法を熱アシスト磁気記録方式と呼ぶ。
【0005】
熱アシスト磁気記録装置は、基本的には従来の垂直磁気記録装置の延長と考えられている。記録用磁気ヘッドは、単磁極型磁気ヘッドを用い、再生は、従来の磁気記録で用いられているMR(磁気抵抗効果型)ヘッドを用いる。ただし、磁気ヘッドの最適形状の検討、及び磁気ヘッドと発熱機構を融合する技術の検討は、熱アシスト磁気記録の重要な課題となっている。熱の発生手段は、磁気ディスク装置の高記録密度化のために、微小な加熱領域を速やかに加熱・冷却することが必要である。従って、光記録で用いられているレーザ光をレンズにより絞りこむ方法では限界が生じる。これを解決する方法として、金属表面プラズモンで近接場光を発生させる方法が提案され、研究が行われている(特開2003-45004号公報等)。
【0006】
熱アシスト磁気記録方式に近い記録方式に光磁気記録方式がある。光磁気記録方式では、レーザ光の照射による媒体の温度上昇に基づく磁性の変化を利用して、磁気記録を行っている。記録方法には幾つか種類がある。1つは、TbFe,GdTbFe等を用いた媒体をキュリー温度まで加熱して記録する方式である。これは、自発磁化がキュリー温度付近で急激に減少し、キュリー点以上では常磁性となるため、このとき、逆方向の磁界を与えておくと、冷却過程で磁化が反転することによりマークが記録される方法である。もう1つは、GdFeO,GdCoを材料とした媒体において、補償温度以上に加熱して記録する方式である。これは、フェリ磁性体の2つの副格子磁化の温度依存性がある温度で打ち消しあって巨視的な磁化が0になるとき(これを補償温度という)、保磁力が最も高くなるため、補償温度が室温にあるような材料について、補償温度以上に加熱することにより、保磁力が小さくなり外部磁界の方向に磁化が向けられることを利用している。媒体は、希土類と遷移金属のアモルファス合金薄膜である。記録マークは、円筒状の磁区が形成されることによって決まる。そして、磁区の形成は媒体に働く磁気的なエネルギー(外部磁場のエネルギー、磁壁エネルギー等)のバランスで決まる。アモルファス合金薄膜は粒界が存在しないため、従来磁気ディスク用に用いられているCoCr系グラニュラー媒体に比べ、ノイズレベルが低いというメリットをもつ。しかし、磁区の形成における、磁気的なエネルギーの制御、特に磁壁エネルギーによる磁壁移動の制御や磁壁厚さの制御は難しい。従って、記録密度が高くなるに従い、光のスポットよりも広がる記録マークや、逆に消失する記録マークが現れるため、アモルファス合金薄膜は高記録密度化には不向きであると考えられる。
【0007】
一方、現在、垂直磁気記録媒体として用いられているCoCr系媒体は微小な結晶粒子で構成された媒体であり、個々の粒子は非磁性層のSiOの層で囲まれており、粒子間の交換相互作用はかなり小さいことが知られている。このように個々の粒子が非磁性層で囲まれている媒体を一般的に、グラニュラー媒体という。グラニュラー媒体は、粒子間の交換相互作用がかなり小さいため、個々の粒子の磁化は独立に磁化反転する。グラニュラー媒体を熱アシスト磁気記録方式に適用した場合、記録マーク(記録ビット)の大きさは、磁界の大きさ、熱のスポットサイズ、磁気特性等で制御し易いため、均一な所望のものが得られる。即ち、グラニュラー媒体は、高記録密度化を実現するために適した構造であり、熱アシスト磁気記録用媒体の有力な候補である。
【0008】
熱アシスト磁気記録は、上記したように、媒体を加熱することにより、媒体の異方性磁界強度(保磁力)を低減して記録を容易にすることを特徴とする。即ち、媒体の異方性磁界強度は温度依存性を持ち、媒体の温度が高温になるほど異方性磁界強度は低くなる(J. Appl. Phs. 91, (2002) pp.6595-6600)。一方、媒体を飽和記録するために必要なヘッド磁界強度は、磁気記録層の厚さ方向中心で媒体の異方性磁界強度以上の強さであることが知られている(Jpn. J. Appl. Phys. Vol.43 (2004) pp.6052-6055)。即ち、異方性磁界強度と同じ強度のヘッド磁界を媒体に印加することにより、磁化は完全に反転して飽和記録される。例えば、異方性磁界が1000×103 A/mの媒体には1000×103 A/mのヘッド磁界強度を印加することにより、飽和記録できる。従って、媒体に光を照射することにより、異方性磁界を低減できれば、それに比例して、飽和記録するために必要なヘッド磁界強度を低減できる可能性がある。例えば、異方性磁界を200×103 A/mまで低減できれば、ヘッド磁界強度は200×103 A/mで十分であることが容易に予想できる。実際に、熱アシスト磁気記録方式に近い光磁気記録方式では、室温で1600×103 A/m程度の異方性磁界をもつ媒体を、キュリー点程度まで温度を上げることにより、80×103 A/m以下の磁界強度で記録を行っていることから、熱アシスト磁気記録方式でも低磁界で記録できることが期待される(日本応用磁気学会、第128回研究会資料、(2003) pp.39-50)。更に、J. Phys.:Condens. Matter 17 (2005) R315-332によれば、熱アシスト磁気記録の計算機シミュレーションにおいて、異方性磁界Hk = 860× 103 A/mの媒体に、スポットサイズが150×200 nmの光を照射して、240×103 A/mの低ヘッド磁界強度で印加して約100 Gbpsiの記録密度で記録を行った結果がある。このシミュレーションは、熱アシスト磁気記録の想定記録密度に対して、スポットサイズが非常に大きく、記録密度、Hkともに低すぎるが、Hkに比べてかなり低磁界で記録が行えることが示されている。
【0009】
一方、MORIS 2006 WORKSHOPのTechnical digestのTuA-02では、熱アシスト磁気記録におけるヘッド磁界強度とサイドトラック消去の関係が報告された。解析方法は、磁化反転の速度を考慮しない、静的な挙動の解析である。キュリー点近傍において磁化を所望のヘッド磁界強度の方向に反転させるために必要な静磁気エネルギー(2μ0HMsV:μ0は真空の透磁率、Hは印加磁界、Msは飽和磁束密度、Vは粒子の体積) と熱的な揺らぎのエネルギーkT (kはボルツマン定数、Tは絶対温度)の比が4より大きく、磁化が反転して記録磁化が熱的に安定になるためのエネルギー(異方性磁気エネルギー:KuV×(1-H/Hk):Kuは異方性定数) と熱的な揺らぎのエネルギーkTの比が3より大きいという条件から、磁界強度と磁化反転の関係を求めた。この報告では、磁化が95 %以上反転するためには、480 ×103 A/m以上の磁界強度が必要という結果が示された。
【0010】
【特許文献1】特開2003-45004号公報
【非特許文献1】Jpn. J. Appl. Phys. Vol.38(1999) pp.1839-1840
【非特許文献2】J. Appl. Phs. 91, (2002) pp.6595-6600
【非特許文献3】Jpn. J. Appl. Phys. Vol.43 (2004) pp.6052-6055
【非特許文献4】日本応用磁気学会、第128回研究会資料、(2003) pp.39-50
【非特許文献5】J. Phys.:Condens. Matter 17 (2005) R315-332
【非特許文献6】MORIS 2006 WORKSHOP, Technical digest, TuA-02
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、磁化反転の速度を考慮した動的な挙動解析である、マイクロマグネティクス手法を用いた計算手法によれば、例えば、異方性磁気エネルギーが8×105J/m3、Vが 305 nm3、Hkが 3200×103A/m、キュリー点が650 Kの媒体に、周速が60 m/s、トラック幅が30 nmで記録した場合、磁化が反転して記録磁化が熱的に安定になる時の温度は約450 K、異方性磁界強度は約2400×103A/m、Kuは6×105 J/m3、飽和記録に必要な磁界強度は2000×103A/m程度である。この結果から記録時の異方性磁気エネルギーと熱的な揺らぎのエネルギーkTの比を求めると1以下でありMORIS 2006 WORKSHOPのTechnical digestのTuA-02における静的解析の条件(3より大きい)とは異なる。このことから、静的解析では飽和記録に必要な磁界強度を正確に求めることはできないと考えられる。
【0012】
そこで、動的な挙動解析であるマイクロマグネティクス手法を用いて、将来の高記録密度(400 Gbpsi以上)をターゲットに、飽和記録に必要な記録磁界強度の検討を行った。例えば、室温で3200×103 A/mの異方性磁界強度を持つ媒体を、キュリー点(650 K)近傍の温度になるまで十分加熱して、異方性磁界強度をほぼ0まで低減し、熱アシスト磁気記録を行った。熱の温度分布はガウシアンと仮定してその半値幅を50 nmにした。記録密度は1000 kfciとした。図4に、再生出力とノイズの比SNR(SNR = 20×log(再生出力/ノイズ);ただし、再生出力は0からピーク値までの高さ)のヘッド磁界強度依存性を示す。更に、図5に、SNRがほぼ一定になる時の最小ヘッド磁界強度(720×103 A/m)における記録磁化プロファイルとヘッド側から見た媒体粒子の磁化反転の様子を模式的に示した。媒体粒子の磁化反転の模式図は、白丸が媒体の垂直プラス方向に磁化された粒子、黒丸が垂直マイナス方向に磁化された粒子を表す。なお、媒体の初期状態は垂直マイナス方向に磁化されていると仮定して、記録トラックの外側は黒丸で示した。記録磁化プロファイルの値は、再生トラック幅を30 nm(記録トラック幅は50 nm)と仮定して、記録残留磁化値をトラック幅方向で平均して求めた。縦軸は記録残留磁化を飽和磁化で規格化した値、横軸は媒体走行方向の位置である。これより、記録残留磁化はほぼ飽和磁化Msに達している。一方、ヘッド磁界強度が720×103A/m以下では、飽和記録されていないことを確認した。即ち、今、飽和記録できる最小のヘッド磁界強度を最適ヘッド磁界強度と呼ぶと、この計算条件における最適ヘッド磁界強度は720×103A/mであることが明らかになった。この結果から、グラニュラー媒体では、異方性磁界強度を熱によって0まで低減しても、720×103 A/mのヘッド磁界強度が必要であり、光磁気記録方式や、J. Phys.:Condens. Matter 17 (2005) R315-332に示されたように、1000A/m以下の低磁界強度で飽和記録できないことがわかった。
【0013】
以上のことから、グラニュラー媒体を用いた熱アシスト磁気記録装置において飽和記録するための最適磁界強度の検討が重要な課題である。これは、次の理由による。光磁気記録方式で用いられるようなアモルファス合金薄膜を記録するために必要な低磁界強度では飽和記録できない。更に、スポットサイズが非常に大きく、記録密度、Hkともに低い場合の最適磁界強度はかなり低いという報告がされているが、高記録密度の最適磁界強度は報告されていない。また、480×103 A/m以上の磁界を印加することにより95 %以上の磁化反転が期待できるという報告もあるが、これは、磁化反転の速度を考慮しない静的な手法による解析結果である。実際にはヘッドと媒体は相対的な運動をしているため、周速を考慮しない静的な解析結果は実際の挙動を反映しない。以上より、グラニュラー媒体を用いた高記録密度用熱アシスト磁気記録装置において、飽和記録するための最適磁界強度を動的な挙動解析を用いて求める必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
グラニュラー媒体を用いた熱アシスト磁気記録装置において、媒体膜厚中心でかつ記録トラック端(記録トラック幅の幅方向の端)に印加される磁界強度は560×103 A/m以上とする。磁界強度は記録領域近傍で一様であってもよい。また、情報記録用媒体の記録トラック幅を10-9 mで割って無次元化した値をX、ヘッド磁界を印加するための磁極から、情報記録用媒体の厚さ方向中心に印加される磁界をY (単位はA/m)とする時、記録トラック幅が60 nm以下の条件において、最適磁界強度Yは以下の式を満たすようにする。
Y≧(X2-119×X+4135)×1000 …(1)
【0015】
更に、式(1)と同時に以下の式(2)も満たすようにする。
Y≦(X2-119×X+const)×1000 …(2)
ここで、ヘッド位置におけるヘッド・媒体間の相対速度(周速)vが20 m/sec未満のとき、const=-0.8×v2+ 33.7 ×v + 4250、周速vが20 m/sec以上のとき、const=4600である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、光を照射させながらヘッド磁界によってグラニュラー磁気記録媒体に磁化情報を記録する熱アシスト磁気記録装置において、飽和記録できて、高い再生出力とノイズの比が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図2は、本発明による磁気記録装置の構造を示す模式図である。磁気記録装置のドライブ内には通常一枚ないし数枚の磁気ディスク15が実装されている。磁気ディスク15は矢印10の方向に回転駆動される。拡大図(a)に示すように、キャリッジ13の先端に固定された磁気ヘッドスライダー11後端にある磁気ヘッド12は、ボイスコイルモータ14によって所望のトラックにアクセスし、磁気ディスク(媒体)15上で情報の記録再生を行っている。拡大図(b)は、磁気ヘッド12について、記録を行う記録ヘッド19と再生を行う再生ヘッド16の構成を媒体対向面から見た概略図である。記録ヘッド19は垂直磁気記録用の単磁極型記録ヘッドであり、単磁極型記録ヘッド19から漏れ出る磁界によって媒体15に磁気記録が行われる。再生ヘッド16は、下部磁気シールド17と上部磁気シールド20の間に配置される磁気抵抗効果素子からなる再生素子18を備え、再生素子18内に媒体15からの漏れ磁束が流入することで、再生出力が得られる。
【0018】
図3は、本発明による記録ヘッドと媒体の構成例を示す断面図である。記録媒体15は、結晶化ガラス基板27上に形成された磁気記録層26を備える。ここで、図に示してはいないが、ガラス基板と磁気記録層の間には磁気記録層の配向を制御する下地層等を設けることが好ましい。また、結晶化ガラス基板と磁気記録層の間には軟磁性層を設けてもよい。軟磁性層の必要性は、飽和記録に必要な磁界強度と軟磁性層を設けない時のヘッド磁界強度との関係で決まる。磁気記録層26は、膜面垂直方向に磁化容易軸を有するグラニュラー垂直磁化膜である。グラニュラー垂直磁化膜は、酸化物等の非磁性マトリクス中に磁性微粒子を析出させた構造で、磁性粒子間が非磁性物質の介在によりほぼ磁気的に絶縁されている。個々の粒子の粒径は10nm以下であり、最小の磁化単位となっている。例えば、SiO 非磁性マトリクス中にCoCrPt、CoPt等の磁性粒子を分散析出させてもよい。磁性粒子は、CoPt 、SmCo等、磁気異方性エネルギーの高い合金でもよい。また、Co/Pd等の多層膜人工格子膜、更に、熱アシスト磁気記録用に提案されているFePt等を用いてもよい。非磁性マトリクスとしては、他にアルミナなどの酸化物でもよい。
【0019】
記録ヘッド19は、例えば、図に示すように、パーマロイ、CoNiFe等の軟磁性材料からなる単磁極28と、螺旋状に形成されたコイル(導体パターン)21から構成されている。コイルの両終端は外部に引き出されて磁気ヘッド駆動回路に接続されている。駆動電流によりコイルに電流が流れ、単磁極28が磁化され、単磁極28の先端部分近傍の磁気記録層26に記録磁界が印加される。単磁極の大きさは、例えば数百nmから1μm程度である。これは、磁気記録層の厚さ方向中心29でかつ記録トラック端30において所望のヘッド磁界強度を得るための設計値となる。記録トラック端のヘッド磁界強度を考えるのは、所望の記録トラック幅を得るためには記録トラック端で磁化が反転するか否かが重要となるからである。また、記録ヘッドは所望の磁界強度を出すために補助磁極を設けても良い。また、記録ヘッド19の近傍には光照射用の光散乱体22を有する(記録ヘッドのトレーリング側、もしくはリーディング側、もしくは記録ヘッドの真下にあってもよい)。図3は、記録ヘッドの真下に光散乱体がある一例である。また、光散乱体22にレーザ光24を照射するための平面レーザ23及びホログラム・レンズ25を備える。レーザ光は記録ヘッドに対して、媒体の対向面から照射してもよく、また、磁気ヘッド側から照射してもよい。図3は記録ヘッドに対して、媒体の対向面から照射した場合を示した。記録媒体15に対する情報の記録時には、記録磁界発生と同時に光源である平面レーザ23からレーザ光24が放射される。このレーザ光はホログラム・レンズ25によって収束され、金属散乱体22に照射される。金属散乱体22は、コヒーレントなレーザ光24の照射を受けると、内部の自由電子がレーザ光24の電場によって一様に振動させられ、結果としてプラズモンが励起され、金属散乱体22の先端部分に強い近接場光が発生される。こうして、磁気記録層26は、記録時に近接場光によって加熱されると同時に記録ヘッド19によって記録磁界が印加されるので、記録すべき情報に対応した所望の記録磁化遷移が磁気記録層26に形成される。これらの記録再生ヘッドは、薄膜形成プロセスとリソグラフィ・プロセスによって作製することができる。
【0020】
磁気記録層26に記録された情報の再生は、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子、又はTMR(トンネル磁気抵抗効果)素子等の磁束検出手段を搭載した再生ヘッドを用いて、磁気記録層からの漏洩磁束を検出することにより磁気的に情報の再生を行う。あるいは、記録媒体のKerr効果及びFaraday効果を利用した光学的磁束検出手段を搭載した再生ヘッドを用いて光学的に再生してもよい。
【0021】
以下に、本発明の効果について、マイクロマグネティクスを用いた計算機シミュレーション手段によって計算、検討した結果を示す。
【0022】
初めに、計算手法を示す。記録磁化の計算は、以下に示すLandau-Lifshitz-Gilbert方程式に、熱エネルギーによる磁界h(t)を加えたLangevin方程式を用いた(J.Appl.Phys.75(2),15 Jan.1994)。
【0023】
【数1】

【0024】
ここで、M は粒子の磁化、tは時間、Heff は実効磁界、γはジャイロ磁気定数、αはGilbertのダンピング定数(消衰定数)、Msは飽和磁化、h(t)は熱揺らぎによる実効的な磁界、kはボルツマン定数、Tは温度、Vは粒子の体積、δ(τ)はDiracのデルタ関数、τは時間ステップである。δijはKronecker deltaで、i,jは磁界の成分(x,y,z)である。<>は時間平均である。
【0025】
式(4)、(5)より、各粒子に印加されるh(t)の大きさは、平均が0、(4)式の右辺の係数(2kTα/γVMs)を分散とするガウス分布に従うとし、その方向はランダムなベクトルであるとした。また、(4)式より、δ(τ)は、時間ステップの逆数とし、時間刻みごとに、粒子に加わる熱揺らぎによる実効磁界の大きさが変化するとした。
【0026】
記録計算には、媒体の異方性エネルギーKuおよび飽和磁化Msが、温度の上昇とともに減少する効果を取り入れた。図6は、光照射による熱分布について、熱分布中心を通る直線上の、上昇温度プロファイルの一例を示す図である。熱分布はガウス分布を仮定した。図は、熱分布の半値幅を50 nm、最大上昇温度Tmaxを350 K、400 K、500 Kとした例である。図7は、ヘッド磁界強度と熱の最大上昇温度の時間変化を示した図である。ヘッド磁界強度は最大値で規格化した値を示した。光は連続照射した場合を仮定し、熱の最大上昇温度の時間変化はないとした。ヘッド磁界は一様な磁界強度が媒体に印加されるとし、記録パターンに合わせて反転するとした。図は、線記録密度が1000 kfciで、連続磁化反転する場合の例である。
【0027】
図8は、異方性磁界強度Hk(Hk=2×Ku/Ms) の温度依存性の一例である。ここで、図中の値は、異方性磁界強度の温度依存性の最大傾斜値(dHk/dT)max(単位はA/(m・K))である。(dHk/dT)max = -11×103 A/(m・K)はCoCr系媒体の一例である。(dHk/dT)max = -14×103 A/(m・K)はFePt媒体の一例である。このように、異方性磁界強度の最大傾斜値は媒体の材料によって異なる。また、材料組成によっても異なる。キュリー温度は650 Kとした。用いた媒体の常温における磁気特性は以下である。平均の異方性磁界<Hk>は 3200×103A/m、分散は0〜15 %とした。ここで、Hkの分散はHkがガウス分布しているとして、その標準偏差をσHkとした時、σHk/<Hk>(百分率で表す)を分散と定義した。Ms は2.0 T以下(以下の図13から図15の計算では、0.5 Tを用いた)とした。また、媒体の磁性粒子の平均粒径<D>は3 nm〜8 nm(以下の図13から図15の計算では、4.2 nmを用いた)とし、粒径分散は0〜25 %とした。ここで、粒径の分散は粒径が対数正規分布しているとして、その標準偏差をσDとした時、σD /<D>(百分率で表す)を分散と定義した。粒径分散が25 %というのは従来の垂直媒体と同程度の分散値である。また、粒間の交換相互作用はほとんどないとして、粒間の交換定数は0とした。膜厚は20 nmとした。線記録密度は1000 kfciとした。再生出力は記録特性のみを評価するために、スペーシングを0と仮定して、媒体の磁化をトラック幅方向に積分した磁化プロファイルをフーリエ変換して求めた。
【0028】
計算結果を示す。図4は、上記したように、記録トラック幅50 nm、熱の最大上昇温度が350 Kの時のSNRの磁界強度依存性である。磁界強度は磁気記録層の厚さ方向中心でかつ記録トラック端の値である。なお、ヘッド磁界分布は一様分布であるため、記録の中心においても記録トラック端においても同じ磁界強度が得られる。これより、最適磁界強度は720×103 A/mである。この結果は、上記したように、予想に反する結果となった。即ち、記録時の最高上昇温度はキュリー温度なので、図8より、Hkが0付近まで低減された時、磁化は反転して記録が行われる。磁化反転がStoner-Wholfarth型の一斉磁化反転のモデルに従った場合は、Hk 程度の磁界を印加すれば磁化が反転するし、もし粒子に欠陥があった場合、もしくは、粒子内に磁化反転核が存在して非一斉磁化反転のために反転が加速された場合には、Hk以下の印加磁界で十分に飽和記録が達成できると考えられる。従って、キュリー温度付近まで温度を高くした場合、光磁気記録方式で使われている程度の80×103A/m以下で十分だと考えられる。しかし、記録時の最適磁界強度は、常温のHkに比べれば1/5程度になったものの、光磁気記録方式と比較すると高磁界強度が必要であることがわかった。この理由について、次のような計算機実験を行った。
【0029】
図9は、Hk = 80×103 A/mの一個の粒子に一様磁界Hhを印加して磁化をプラスからマイナスに反転させた時の磁化と時間の関係を計算した結果である。温度は記録時の温度と同じ650 Kとした。これより、Hkと同じHh(80×103 A/m)を印加した場合、磁化が半分反転するのに1.2 nsec程度要し、それ以降は熱で揺らぐため、磁化反転に時間がかかることがわかった。図には示していないが、磁化反転には10 nsec程度必要である。これは、ヘッド位置におけるヘッド・媒体間の相対速度(周速)が2.5 m/sec程度に相当する。一方、Hhを高くすれば、磁化が半分反転する時間は早まり、その後の磁化反転も熱に影響されにくく磁化反転に要する時間が短くなる。図4の計算は、周速が16 m/sec、記録密度が1000kfciであることから、1つの記録ビットを書くのに約1.5 nsecかかる。従って、1.5 nsec以内で磁化反転するのに必要な磁界を求めると、図9に示すように、約875×103 A/mとなった。即ち、ヘッド・媒体間相対運動がほとんどない静的な記録であるならば、低磁界でも飽和記録可能であるが、通常の磁気記録における速度では、高磁界強度が必要であると考えられる。次に、Hk = 720×103 A/mの一個の粒子に一様磁界を印加して、図9と同様に磁化の時間変化を調べた結果、周速が16 m/sec、記録密度が1000 kfciの場合、1つの記録ビットを書くのに必要な磁界を求めると図10に示すように756×103 A/mとなった。
【0030】
図11は、Hkが720×103 A/m(図11(a))と80×103 A/m(図11(b))の場合について、Hkと同じ磁界を印加した場合に磁化が反転していく様子について、横軸を磁化のトラック走行方向成分、縦軸を膜厚方向成分としてプロットした図である。図において、四角のマークとマークの間隔は20 psであり、Hkが720×103 A/mの粒子がほぼ反転し終わる1.6 nsまでプロットした。これより、Hkが720×103 A/mの粒子でほぼ磁化反転を完了していても、Hkが80×103 A/mの粒子はまだ磁化反転の途中であることがわかった。これは、異方性エネルギーが小さすぎるため、磁化を反転させる力が弱すぎて、磁化反転が容易に進まないためであると考えられる。以上の結果が、図4において、最適磁界強度が低減できない理由である。
【0031】
図12は、1つの粒子が反転するために必要な磁界を、Hkを変えて計算した結果である。磁化反転に要する時間は、現在使われている磁気ディスク装置の周速、約5 m/secから60 m/secの間の速さと、記録密度1000 kfciから算出した。これより、反転に必要な磁界は少なくとも560×103 A/mであることがわかった。
【0032】
図12から一個の粒子が反転するために必要な最低磁界は560×103 A/mであることがわかったが、次に、実際に記録を行い、飽和記録するためのヘッド磁界強度の条件を調べた。
【0033】
図13は、最適磁界強度の熱の最大上昇温度依存性を示す図である。熱の最大上昇温度は250 Kから500 Kとした(記録温度がキュリー温度-100 Kから+150 Kになる温度)。熱の最大上昇温度の最高値は、媒体が熱によって組成や特性が変化しないための限界値によって決まる。粒径分散、異方性エネルギー分散は0とした。また、異方性磁界の温度特性の最大傾斜は-14×103 A/(m・K)とした。記録トラック幅は熱アシスト磁気記録が記録密度400 Gbpsi以上について適用できると考え、60 nm以下の記録トラック幅について計算を行った。トラック幅が60 nm以上については後で詳しく述べる。周速は60 m/secについて行った(20〜60 m/secまで同じ結果が得られた)。
【0034】
図において、下の曲線は記録トラック幅が60 nmの場合、上の曲線は30 nmの場合である。トラック幅が30から60 nmの間の最適磁界強度はこの2本の曲線の間にある。これより、最適磁界強度は少なくとも720×103 A/m以上(記録トラック幅 60 nm、Tmax= 350 K)必要であることがわかった。即ち、本条件においては、1個の粒子反転に必要な磁界強度よりも大きい最適磁界強度が必要である。また、最大2000×103 A/m(記録トラック幅 30 nm、Tmax= 250 K)あれば十分であることもわかった。この結果とヘッド磁界強度の限界値(2000×103 A/m)から、熱の最大上昇温度の最低値は250 Kであることもわかった。図において、下の曲線より低い磁界では、磁化の変調度が悪く、上の曲線より高い磁界では、ノイズが大きい。
【0035】
図14は、最適磁界強度について異方性磁界強度の温度特性を変えて検討した結果である。異方性磁界強度の温度特性の最大傾斜(dHk/dT)maxは-10×103A/(m・K)から-25×103A/(m・K)とした。図では、傾きは絶対値で示してある。図にはトラック幅が30 nm(図14(a))と60 nm(図14(b))の場合について示した。また、熱の最大上昇温度Tmaxは250 Kから500 Kまで変えて計算を行ったが、Tmaxが250 Kから300 Kの間では(dHk/dT)maxの増加とともにHkが十分に下がりきらないため、飽和記録されない。従って、図からTmaxが250 Kと350 Kの間の結果は除いた。ここで、粒径分散と異方性分散は0とした。図より、記録トラック幅が30 nmの時(a)図は、(dHk/dT)maxの増加とともに最適磁界強度は増加している。ただし、(dHk/dT)maxが-10〜−15×103A/(m・K)以下ではほぼ同じ値である。最適磁界強度の最小値は1430×103 A/m、最大値は2000×103 A/mであった。トラック幅が60 nmの時(b)図は、(dHk/dT)maxの増加に対して最適磁界強度の変化は小さい。最適磁界強度の最小値は720×103 A/m、最大値は1000×103 A/mであった。ここで、最適磁界強度の下限を表す曲線の温度が350 Kで、上限が500 Kである理由は、図13より、記録トラック幅が60 nmの時の最小最適磁界強度の温度が350 Kで最大値が500 Kだからである。従って、各記録トラック幅において、斜線で示した範囲が最適磁界強度である。更に、図13と図14から、全ての記録トラック幅において、最適磁界強度は720×103 A/mから2000×103 A/mの間にあることがわかった。
【0036】
図15は、最適磁界強度の粒径分散依存性である。記録トラック幅が30 nmの場合(図15(a))と記録トラック幅が60 nmの場合(図15(b))をプロットした。ここで、(dHk/dT)maxは-14 ×103A/(m・K)とした。これより、記録トラック幅が30 nmの場合は、最適磁界強度の最小値は1400×103 A/m、最大値は1900×103 A/mであった。記録トラック幅が60 nmの場合は、最適磁界強度の最小値は560×103 A/m、最大値は1050×103 A/mであることがわかった。各記録トラック幅において、斜線で示した範囲が最適磁界強度である。更に、図13から図15までをまとめると、全ての記録トラック幅において、最適磁界強度は560×103 A/mから2000×103 A/m間にあることがわかった。
【0037】
更に、異方性分散、平均粒径、飽和磁化を変えて、図13から図15までの結果とあわせた結果を図1に示す。図1は、最適磁界強度の記録トラック幅依存性を示す図である。図において、上の曲線は最適磁界強度の最大値、下の曲線は最適磁界強度の最小値である。下の曲線より低い磁界では、磁化の変調度が悪く、上の曲線より高い磁界では、ノイズが大きい。従って、最適磁界強度は曲線の間の値となる。この図より、トラック幅が60 nm以上では、最適磁界強度は変わらないが、60 nm以下になると急激に最適磁界強度が高くなることがわかった。これは、狭トラック幅で書くには、光のスポットサイズを小さくしなければならないが、その場合、粒子を反転させるエネルギー(粒子に印加される実効的な磁界強度と磁界の印加時間の積分)が光のスポットサイズが大きい場合よりも低減してしまうからである。従って、媒体粒子の磁化が反転するためのスイッチングエネルギーを確保するために、トラック幅低減にともない磁界強度を増大させる必要があると考えられる。図より、高記録密度を実現するには、線記録密度を高くするとともにトラック幅を狭くする必要があるため、トラック幅が60 nm以下における最適磁界強度を明らかにすることが特に重要と考えられる。トラック幅が60 nm以下の最適磁界強度は、図の斜線で示した範囲の中にある。最適磁界強度は少なくとも560×103 A/m以上必要であることがわかった。この結果は、図12で示した、粒子一個の磁化反転に必要な磁界強度の最小値と一致する。
【0038】
また、図16に、図1と同様の計算を周速が5 m/secの場合と10 m/secの場合について行った結果を示す。図より、最適磁界強度は、トラック幅が60 nm以上では一定であるが、60 nm以下では、560×103 A/m以上必要であることがわかった。また、トラック幅が一定ならば、周速を変えても、最適磁界強度の最小値は変わらないが、最大値は、周速が低減すると小さくなることがわかった。最適磁界強度の最大値が低周速ほど小さくなる理由は、粒子を反転させるエネルギーが、磁界の印加時間に比例するため、周速を低減するほどエネルギーが増加するためと考えられる。最適磁界強度の最小値が周速により変わらないのは、それぞれの記録トラック幅(熱のスポットサイズ)で決まるエネルギーの最大値に限界があるためと考えられる。
【0039】
図17は、図1及び図16について、多項式近似をした結果を示す図である。記録トラック幅を10-9 mで割って無次元化した値をX、媒体に印加される磁界強度をY (単位はA/m)とする時、記録トラック幅が60 nm以下において、最適磁界強度の最小値は以下の式で与えられる。
Y=(X2-119×X+4135)×1000 …(6)
【0040】
図において、曲線で示したのはLLGで計算した最適磁界強度の最小値であり、×印で示したのが上記多項式近似で計算した結果である。多項式近似において、最適磁界強度の最小値は、560×103 A/mである。従って、飽和記録するための最適磁界強度の条件は以下の式となる。
Y≧(X2-119×X+4135)×1000 …(7)
【0041】
また、最適磁界強度の最大値は以下の式で与えられる。
Y=(X2-119×X+const)×1000 …(8)
【0042】
ここで、constは周速に依存する値であり、図18にconstと周速の関係を示した。これより周速が5 m/secの時には4400、周速が60 m/secの時には4600となる。従って、周速が5 m/sec以上60 m/sec以下の時、constは4400以上4600以下の値となる。従って、飽和記録するための最適磁界強度の条件は以下の式となる。
Y≦(X2-119×X+const)×1000 …(9)
ここで、図18からconstは、次式で表される。
const=-0.8×v2+ 33.7 ×v + 4250(周速vが20 m/sec未満のとき)
=4600 (周速vが20 m/sec以上のとき)
【0043】
従って、式(7),(9)を同時に満たす範囲が、飽和記録するために最も好適な範囲である。
【0044】
図19は、信号処理回路の模式図である。情報の記録時においては、記録すべきユーザ・データ600が外部機器とのインタフェース回路601を介してシステム・コントローラ602に送り込まれ、必要に応じてエラー検出、訂正情報等の付加後、符号器603に伝えられる。符号器603はユーザ・データ600に対して例えば(1,7)変調後、NRZI変換を施し、記録媒体(図示せず)上の記録磁化の配列を反映した信号を生成する。記録波形発生回路604はこの信号を参照し、記録バイアス磁界の制御信号およびレーザ発光強度の制御信号を発生する。磁気コイル駆動回路605はシステム・コントローラ602からの指示を受け、記録バイアス磁界の制御信号に従って記録ヘッド607の記録コイル(図示せず)を駆動し、金属散乱体(図示せず)によって強い近接場光が発生される部分に記録バイアス磁界を発生する。またレーザ駆動回路606もシステム・コントローラ602からの指示を受け、レーザ発光強度の制御信号に従って記録エネルギー源である半導体レーザ(図示せず)を駆動する。
【0045】
情報の再生時においては、記録膜(図示せず)表面を記録ヘッド607のGMR素子(図示せず)によって走査し、記録磁化の配列を反映した信号を検出する。記録磁化の配列を反映したGMR素子の出力信号は増幅器608によって必要なレベルまで増幅された後に、復号器609に入力される。復号器609は符号器603の逆変換を施すことにより記録されていたデータを復元し、復元結果をシステム・コントローラ602に伝える。システム・コントローラ602は、必要に応じてエラー検出、訂正等の処理を行い、インタフェース回路601を介して再生されたユーザ・データ600を外部機器に送り出す。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明による最適磁界強度の記録トラック幅依存性を示す図(周速=60 m/sec)。
【図2】本発明による熱アシスト磁気記録装置の構造を示す模式図。
【図3】本発明による記録ヘッドと媒体の構成例を示す断面図。
【図4】SNRの磁界強度依存性の一例を示す図。
【図5】記録残留磁化の媒体走行方向のプロファイルの一例と媒体粒子の磁化反転の様子を示す模式図。
【図6】光照射による上昇温度プロファイルの一例を示す図。
【図7】ヘッド磁界強度と熱の上昇温度の時間経過の一例を示す図。
【図8】異方性磁界強度の温度特性の一例を示す図。
【図9】Hk = 80×103 A/mの磁性粒子一個が磁化反転する過程を磁化ベクトルの膜厚方向成分と時間の関係で示した図。
【図10】Hk = 720×103 A/mの粒子一個が磁化反転する過程を磁化ベクトルの膜厚方向成分と時間の関係で示した図。
【図11】粒子一個が磁化反転する過程を磁化ベクトルの膜厚方向成分と媒体走行方向成分で示した図であり、(a)は Hk = 720×103A/m, Hh = 720×103A/mの場合の図、(b)は Hk = 80×103A/m, Hh = 80×103A/mの場合の図。
【図12】粒子一個が磁化反転するのに必要な磁界強度と粒子の異方性磁界強度の関係を示す図。
【図13】本発明による最適磁界強度の熱の最大上昇温度依存性を示す図。
【図14】本発明による最適磁界強度のdHk/dT依存性を示す図であり、(a)は記録トラック幅= 30 nmの場合の図、(b)は記録トラック幅= 60 nmの場合の図。
【図15】本発明による最適磁界強度の粒径分散依存性を示す図であり、(a)は記録トラック幅 = 30 nmの場合の図、(b)は記録トラック幅 = 60 nmの場合の図。
【図16】本発明による最適磁界強度の記録トラック幅依存性を示す図であり、(a)はv = 5 m/secの場合の図、(b)はv = 10 m/secの場合の図。
【図17】本発明による最適磁界強度の記録トラック幅依存性のグラフを多項式で近似した図であり、(a)はv = 5 m/secの場合の図、(b)はv = 60 m/secの場合の図。
【図18】本発明による最適磁界強度のトラック幅依存性の近似式におけるconstと周速の関係を示す図。
【図19】信号処理回路の模式図。
【符号の説明】
【0047】
10…磁気ディスクの回転方向
11…磁気ヘッドスライダー
12…磁気ヘッド
13…キャリッジ
14…ボイスコイルモータ
15…磁気ディスク
16…再生ヘッド
17…下部磁気シールド
18…再生素子
19…記録ヘッド
20…上部磁気シールド
21…コイル
22…光散乱体
23…平面レーザ
24…レーザ光
25…ホログラム・レンズ
26…磁気記録層
27…ガラス基板
28…単磁極
29…厚さ方向中心
30…記録トラック端
31…記録磁化パターン
600…ユーザ・データ
601…インタフェース回路
602…システム・コントローラ
603…符号器
604…記録波形発生回路
605…記録コイル駆動回路
606…レーザ駆動回路
607…磁気ヘッド(記録・再生)
608…増幅器
609…復号器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と前記基板上に形成された垂直磁気記録層とを有し、前記垂直磁気記録層は非磁性マトリクス中に磁性粒子を析出させた構造を有する情報記録媒体と、
前記情報記録媒体に記録磁界を印加する磁極と、前記情報記録媒体の所定の領域を加熱する素子とを有する熱アシスト磁気記録ヘッドと、
再生素子を有する再生ヘッドとを備え、
前記情報記録媒体に印加される磁界が、前記垂直磁気記録層の厚さ方向中心で、560 kA/m以上であることを特徴とする熱アシスト磁気記録装置。
【請求項2】
請求項1記載の熱アシスト磁気記録装置において、前記情報記録媒体に印加される磁界が、前記情報記録媒体の記録領域近傍において一様な磁界であることを特徴とする熱アシスト磁気記録装置。
【請求項3】
請求項1記載の熱アシスト磁気記録装置において、前記情報記録媒体の記録トラック幅を10-9 mで割って無次元化した値をX、前記磁極から前記情報記録媒体の厚さ方向中心に印加される磁界をY (単位はA/m)とする時、前記記録トラック幅が60 nm以下において、以下の式を満たすことを特徴とする熱アシスト磁気記録装置。
Y≧(X2-119×X+4135)×1000
【請求項4】
請求項3記載の熱アシスト磁気記録装置において、前記熱アシスト磁気記録ヘッド位置におけるヘッド・媒体間の相対速度をvとするとき以下の式
Y≦(X2-119×X+const)×1000
(ただし、vが20 m/sec未満のとき、const=-0.8×v2+ 33.7 ×v + 4250、vが20 m/sec以上のとき、const=4600)
を満たすことを特徴とする熱アシスト磁気記録装置。
【請求項5】
請求項3記載の熱アシスト磁気記録装置において、前記熱アシスト磁気記録ヘッド位置におけるヘッド・媒体間の相対速度vは5 m/sec以上であることを特徴とする熱アシスト磁気記録装置。
【請求項6】
請求項1記載の熱アシスト磁気記録装置において、前記情報記録媒の記録トラック端に印加される磁界が、前記垂直磁気記録層の厚さ方向中心で、560 kA/m以上であることを特徴とする熱アシスト磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−52863(P2008−52863A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−230267(P2006−230267)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省、大容量光ストレージ技術の開発事業 委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】