説明

熱アシスト記録媒体用ガラス基板

【課題】熱アシスト記録媒体用ガラス基板の割れを防止するとともに、記録層の成膜時にガラス成分が記録層に与える化学的影響を抑制する。
【解決手段】熱アシスト記録媒体用のガラス基板1Gは、略円形の外周を有する表主表面14および裏主表面15と、表主表面14および裏主表面15の外周に隣接し、表面粗さが2.5nm以下、かつ、最大表面粗さが150nm以下の自由曲面からなる外周端面12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱アシスト記録媒体用ガラス基板に関し、特に、ハードディスク(HDD)等の情報記録媒体用の基板であって、熱アシスト記録媒体用の基板として適するガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク(HDD)等の情報記録媒体用の基板としては、アルミニウム合金が用いられていた。しかしながら、アルミニウム合金は、変形しやすく、また研磨後の基板表面の平滑性が十分ではない等の問題を有していたため、現在ではガラス基板が広く使用されている(たとえば、下記の特許文献1〜4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−169184号公報
【特許文献2】特開2007−161552号公報
【特許文献3】国際公開第2009/028570号パンフレット
【特許文献4】特開2003−63851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、上記のような情報記録媒体においては、その情報記録量の増大に伴って記録密度を超高密度状態とすることが求められている。記録手段としては磁性方式が採用されているため、記録密度を高密度化すると記録の保持力が弱くなり、所謂「熱揺らぎ」として知られるように、記録中に発生する熱の影響により記録が消失してしまうという問題があった。
【0005】
このような問題を解決する手段として、熱アシスト記録という方式の情報記録手段が注目されている。この熱アシスト記録は、レーザで記録媒体用の基板を加熱しながら情報記録を行なうことにより、上記のような問題を解決しようとするものである。このような熱アシスト記録方式の記録媒体は、基板としてガラス基板が用いられ、そのガラス基板上に複数の層からなる磁性記録層(以下単に「記録層」という。)を形成した構成を有するが、該記録層を緻密化させることを目的としてその形成時(成膜時)に550℃程度の極めて高い温度が適用されるという特殊性を有している。
【0006】
このため、その成膜時においてガラス基板の割れを防止することに特に注意する必要がある。その中でも、ガラス基板の外周は、工具により把持される部分であるため、割れに対しては特段の注意が必要である。
【0007】
また、上記とは異なる観点では、上記高温の成膜時において、基板のガラス成分が記録層に化学的な影響を与えることを防止する必要がある。
【0008】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、熱アシスト記録媒体用ガラス基板の割れを防止するとともに、記録層の成膜時にガラス成分が記録層に与える化学的影響を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、熱アシスト記録媒体に用いられるものである。
【0010】
1つの局面では、上記ガラス基板は、略円形の外周を有する主面と、主面の外周に隣接し、表面粗さが2.5nm以下、かつ、最大表面粗さが150nm以下の自由曲面からなる外周端面とを備える。
【0011】
他の局面では、上記ガラス基板は、略円形の外周を有する主面と、主面の外周に隣接し、表面粗さが2.5nm以下、かつ、最大表面粗さが150nm以下の面取り部を含む外周端面とを備える。
【0012】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板において、主面は、略円形の内周をさらに有し、ガラス基板は、主面の内周に隣接し、外周端面とは異なる形状を有する内周端面をさらに備え、内周端面の表面粗さは2.5nm以下、かつ、最大表面粗さは150nm以下である。
【0013】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板において、主面は、略円径の内周をさらに有し、主面の外周は第1の径を有し、主面の内周は第2の径を有し、第2の径に対する第1の径の比は、2.0よりも大きく65.0よりも小さい。
【0014】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、
酸化物基準の質量%表示で、
SiO2:58〜68%
Al23:0〜5%
23:0〜2%
(ただしSiO2+Al23+B23=58〜68%)
Na2O:1〜6%
2O:7〜15%
(ただしNa2O+K2O=8〜21%)
MgO:2〜7%
CaO:7〜15%
BaO:0〜5%
SrO:0〜5%
ZnO:0〜5%
(ただしMgO+CaO+BaO+SrO+ZnO=9〜22%)
ZrO2:6〜12%
となる組成を有し、かつLi2Oを含まない。
【0015】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、TiO2を含まない。
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、酸化物基準の質量%表示で、
23:0〜5%
La23:0〜5%
Gd23:0〜5%
CeO2:0〜2%
TiO2:0〜5%
HfO2:0〜2%
Nb25:0〜5%
Ta25:0〜5%
Sb23:0〜2%
となる任意成分を含む。
【0016】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、ガラス転移点が600℃以上である。
【0017】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、25〜100℃での熱膨張係数αが50×10-7〜90×10-7/℃である。
【0018】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、その表面の一部または全部が化学強化され、かつ圧縮応力が1.5〜10kg/mm2である。
【0019】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、その表面粗さRaが0.15nm以下である。
【0020】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、ヤング率をE、比重をρとする場合、比弾性率E/ρが29以上であり、ビッカース硬度Hvが550〜650であり、アルカリ溶出量Aが2.5インチディスクあたり200ppb以下であり、かつ破壊靭性値Kcが0.80MPa/m1/2以上である。
【0021】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、熱伝導率が1.0〜1.8W/m・kである。
【0022】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、表面抵抗が10×1013〜500×1013Ω/□である。
【0023】
1つの実施態様では、上記熱アシスト記録媒体用ガラス基板は、液相温度が1350℃以下であり、液相温度における粘性が0.5〜10ポアズである。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、熱アシスト記録媒体用ガラス基板の割れを防止することができる。さらに、記録層の成膜時にガラス成分が記録層に与える化学的影響を抑制することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】熱アシスト磁気記録装置の概略構成を示す平面図である。
【図2】熱アシスト磁気記録装置の概略構成を示す側面図である。
【図3】磁気ディスクに含まれるガラス基板を示す図である。
【図4】ガラス基板上に記録層を形成した磁気ディスクを示す図である。
【図5】記録層の変形例を示す断面図である。
【図6】本発明の1つの実施の形態に係るガラス基板を含むハードディスク用基板の製造方法を説明するフローチャートである。
【図7】本発明の1つの実施の形態に係るガラス基板の製造工程におけるプレス工程を示す図(その1)である。
【図8】本発明の1つの実施の形態に係るガラス基板の製造工程におけるプレス工程を示す図(その2)である。
【図9】本発明の1つの実施の形態に係るガラス基板の外周端面の形状を示す図(その1)である。
【図10】本発明の1つの実施の形態に係るガラス基板の外周端面の形状を示す図(その2)である。
【図11】本発明の1つの実施の形態に係るガラス基板の外周端面の形状を示す図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0027】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。
【0028】
<熱アシスト磁気記録装置>
図1および図2を参照して、熱アシスト磁気記録装置2の概略構成の一例について説明する。なお、図1は、熱アシスト磁気記録装置2の概略構成を示す平面図、図2は、熱アシスト磁気記録装置2の概略構成を示す側面図である。
【0029】
図1に示すように、熱アシスト磁気記録装置2は、矢印DR1方向に回転駆動される記録媒体である熱アシスト磁気記録用の磁気ディスク1に対して、磁気記録ヘッド2Dが対向配置されている。
【0030】
磁気記録ヘッド2Dは、サスペンション2Cの先端部に搭載されている。サスペンション2Cは、支軸2Aを支点として矢印DR2方向(トラッキング方向)に回動可能に設けられている。支軸2Aには、トラッキング用アクチュエータ2Bが取り付けられている。
【0031】
図2に示すように、磁気ディスク1を挟んで、磁気記録ヘッド2Dが対向する側には、レーザ光LBが照射される。磁気ディスク1上に記録する部分をレーザ光LBで瞬間的に加熱し、磁気ヘッド15で磁気ディスク1にデータを記録する。
【0032】
磁気ディスク1に形成された記録層の磁気粒子は、その温度が上昇すると保持力が低くなる。レーザ光LBで記録層を加熱することで、常温では高い保持力を有する記録層でも、通常の磁気記録ヘッド2Dでの記録が可能となり、超高密度記録の実現を可能とする。
【0033】
<ガラス基板>
本実施の形態のガラス基板は、円盤状の形状を有することが好ましく、これにより熱アシスト記録媒体用の基板として適したものとなる。なお、円盤状の形状とする場合、その大きさは特に限定されず、たとえば3.5インチ、2.5インチ、1.8インチ、あるいはそれ以下の小径ディスクとすることもでき、またその厚みは2mm、1mm、0.63mm、あるいはそれ以下といった薄型とすることもできる。
【0034】
<熱アシスト記録媒体>
次に、図3および図4を参照して、磁気ディスク1の構成について説明する。なお、図3は、磁気ディスク1に用いられるガラス基板1Gを示す斜視図、図4は、磁気ディスク1を示す斜視図である。
【0035】
図3に示すように、磁気ディスク1に用いられるガラス基板1Gは、中心に孔5が形成された環状の円板形状を呈している。ガラス基板1Gは、外周端面12、内周端面13、表主表面14、および裏主表面15を有している。
【0036】
図4に示すように、磁気ディスク1は、上記したガラス基板1Gの表主表面14上に記録層23が形成されている。図示では、表主表面14上にのみ記録層23が形成されているが、裏主表面14上に記録層23を設けることも可能である。
【0037】
図5に、他の磁気ディスク1Aの構成の一例を示す。図5は、他の磁気ディスク1Aの部分拡大断面図である。この磁気ディスク1Aは、ガラス基板1Gの上に複数層を有する記録層20が形成されている。
【0038】
記録層20は、ガラス基板1Gの表主表面14上に直接形成されるAlN等からなるシード(凹凸制御)層21、シード(凹凸制御)層21の上に形成される厚さ約60nmの下地層22、下地層22の上に形成される厚さ約30nmの記録層23、記録層23の上に形成される厚さ約10nmの保護層24、および、保護層24の上に形成される厚さ約0.8nmの潤滑層25を含んでいる。
【0039】
なお、上記磁気ディスク1Aの構成はあくまでも一例であり、磁気ディスク1Aに要求される性能に応じて、ガラス基板1Gの大きさ、記録層20の構成は適宜変更される。
【0040】
ところで、熱アシスト記録媒体においては、記録層20(磁性膜)を緻密化させる必要があることから、その形成温度は550℃程度の高温となる。すなわち、そのような高温におけるスパッタリングおよびアニーリングにより、5〜100nm程度の磁性膜が形成される。
【0041】
磁性膜に用いる磁性材料としては、特に限定はされないが高い保持力を得るためにTb−Fe−Co系膜、Fe−Ni−Pt系膜またはFe−Pt系膜を用いることが好ましい。
【0042】
なお、磁気ヘッドの滑りをよくするために磁性膜の表面に潤滑剤を薄く(1nm程度)コーティングすることもできる。潤滑剤としては、たとえば液体潤滑剤であるパーフロロポリエーテル(PFPE)をフレオン系などの溶媒で希釈したものが挙げられる。
【0043】
さらに必要により、磁性膜に対して下地層や保護層を設けることもできる。下地層は磁性膜の種類に応じて選択される。下地層の材料としては、たとえば、Cr、Mo、Ta、Ti、W、V、B、Al、Niなどの非磁性金属から選ばれる少なくとも一種以上の材料が挙げられる。また、下地層は単層とは限らず、同一または異種の層を積層した複数層構造としてもよい。たとえば、Cr/Cr、Cr/CrMo、Cr/CrV、NiAl/Cr、NiAl/CrMo、NiAl/CrV等の多層下地層としてもよい。
【0044】
また、磁性膜の摩耗や腐食を防止する保護層としては、たとえば、Cr層、Cr合金層、カーボン層、水素化カーボン層、ジルコニア層、シリカ層などが挙げられる。これらの保護層は、下地層、磁性膜などとともにインライン型スパッタ装置で連続して形成できる。また、これらの保護層は、単層としてもよく、あるいは、同一または異種の層からなる多層構成としてもよい。なお、上記保護層上に、または上記保護層に替えて、他の保護層を形成してもよい。たとえば、上記保護層に替えて、Cr層の上にテトラアルコキシランをアルコール系の溶媒で希釈した中に、コロイダルシリカ微粒子を分散して塗布し、さらに焼成して酸化ケイ素(SiO2)層を形成してもよい。
【0045】
上記の下地層は、3〜10nm程度の厚みとすることができ、保護層は、3〜10nm程度の厚みとすることができる。
【0046】
<熱アシスト記録媒体の製造方法>
次に、図6のフローチャートおよび図7、図8を用いて、本実施の形態に係るガラス基板を含むハードディスク用基板(磁気ディスク1,1A)の製造方法を説明する。
【0047】
まず、ステップ10(以下、「S10」と略す。ステップ20以降も同様。)の「ガラス溶融工程」において、基板を構成するガラス素材を溶融する。次に、S20の「プレス成形工程」において、溶融ガラス1G0を下型200上に流し込み(図7参照)、上型100によってプレス成形してガラス基板1Gを成形する(図8参照)。S30の「粗研磨工程」において、プレス成形されたガラス基板の表面が研磨加工され、ガラス基板の平坦度などが予備調整される。さらに、S40の「精密研磨工程」において、ガラス基板に研磨加工が再度施され、平坦度などが微調整される。次に、S50の「洗浄工程」において、ガラス基板は洗浄される。以上の工程により、ハードディスク用基板に適用可能なガラス基板が得られる。
【0048】
さらに、S60の「成膜工程」において、上記のガラス基板上に、記録層となる膜が形成される。最後に、S70の「後熱処理工程」において、記録層が形成されたガラス基板に熱処理が施されることにより、ハードディスク用の基板が完成する。
【0049】
<ガラス基板の外周端面の形状>
ガラス基板1Gは、略円形の外周を有する主面10Aと、主面10Aの外周に隣接する外周端面10Bとを有する。
【0050】
図9に示す例では、外周端面12は、自由曲面とされている。ここでいう「自由曲面」とは、図8に示すプレス加工が施された状態のままの曲面であって、その後に加工が施されていないものを意味する。
【0051】
図10に示す例では、外周端面12における表主表面14および裏主表面15に隣接する部分に、曲面状の面取り部12Aが形成されている。
【0052】
図11に示す例では、外周端面12における表主表面14および裏主表面15に隣接する部分に、平面状の面取り部12Bが形成されている。なお、面取りの角度(α)は、10度以上80度以下であることが好ましい。
【0053】
図9の例において、自由曲面の表面粗さ(Ra)は2.5nm以下であり、最大表面粗さ(Rz)は150nm以下である。
【0054】
図10、図11の例において、面取り部12A,12Bの表面粗さ(Ra)は2.5nm以下であり、最大表面粗さ(Rz)は150nm以下である。
【0055】
なお、上記「表面粗さ(Ra)」は、JIS B0601−2001に基づく「算術平均粗さ」であり、「最大表面粗さ(Rz)」は、JIS B0601−2001に基づく「最大高さ」である。
【0056】
<ガラス基板の内周端面の形状>
上述のとおり、ガラス基板1は、内周端面13を有する。内周端面12についても、外周端面12と同様に、表主表面14および裏主表面15に隣接する部分に面取り部を有するように構成され、その面取り部の表面粗さ(Ra)は2.5nm以下であり、最大表面粗さ(Rz)は150nm以下である。
【0057】
内周端面13の形状は、外周端面12と異なっていてもよい。すなわち、内周端面13は面取り形状を有し、外周端面12は自由曲面であってもよい。
【0058】
<外周径と内周径との比>
1つの例として、ガラス基板1Gの内周の径に対する外周の径の比は、2.0よりも大きく65.0よりも小さい。このようにすることで、比較的広い面積を記録面(記録層を形成する面)として利用することが可能である。
【0059】
<外周端面の形状による作用効果>
上記のように、外周端面12の表面粗さ(Ra)を2.5nm以下に設定し、最大表面粗さ(Rz)を150nm以下に設定することにより、ガラス基板1Gをキャッチングする時に、基板の割れを発生を抑制することが可能である。
【0060】
さらに、本発明者は、上記のように、外周端面12の表面粗さ(Ra)を2.5nm以下に設定し、最大表面粗さ(Rz)を150nm以下に設定することにより、成膜時に550℃程度の高温が適用されても、ガラス基板1G中のガラス成分(特にアルカリ成分)が表主表面14および裏主表面15上に拡散しにくくなるという知見を得た。
【0061】
他方、後述のとおり、本発明者の研究により、成膜時に適用される高温により記録層が劣化するのは、ガラス成分が記録層に拡散することに起因しているとの知見も得られた。
【0062】
本実施の形態は、外周端面12の形状を上記のとおりとすることで、上述の「割れ防止」効果に加えて、ガラス成分が表主表面14および裏主表面15上に拡散することを抑制し、その結果、成膜時に適用される高温により記録層が劣化することを抑制するという効果も示す。
【0063】
<ガラス基板の組成>
本実施の形態のガラス基板は、酸化物基準の質量%表示で、
SiO2:58〜68%
Al23:0〜5%
23:0〜2%
(ただしSiO2+Al23+B23=58〜68%)
Na2O:1〜6%
2O:7〜15%
(ただしNa2O+K2O=8〜21%)
MgO:2〜7%
CaO:7〜15%
BaO:0〜5%
SrO:0〜5%
ZnO:0〜5%
(ただしMgO+CaO+BaO+SrO+ZnO=9〜22%)
ZrO2:6〜12%
となる組成を有し、かつLi2Oを含まない、ことを特徴とする。なお、本実施の形態においては、ガラス組成に関し特に断らない限り「%」表示は「質量%」を示すものとする。また、便宜上、上記組成中、SiO2、Al23、B23を「骨格成分」といい、Na2O、K2Oを「アルカリ成分」といい、MgO、CaO、BaO、SrO、ZnOを「2価金属成分」といい、ZrO2を「ジルコニウム成分」というものとする。
【0064】
本実施の形態のガラス基板は、上記の通り、Li2Oを含まないことを特徴とする。従来のガラス基板は、その溶融温度を低下させることを目的として上記アルカリ成分とともにLi2Oを含んでいた。本発明者の研究によれば、熱アシスト記録媒体用の基板となるガラス基板において、成膜時に適用される高温により記録層が劣化するのは、溶融温度を低下させる目的で添加される成分がガラス基板から記録層中に拡散(侵食)することに起因しているとの知見が得られ、中でもLi2Oが最も大きく影響していることが明らかとなった。本実施の形態は、この研究結果に基づき、Li2Oを含まないことを特徴とするものである。しかも、本実施の形態のガラス基板は、Li2Oを含まないことから、Li2Oに起因して生成する炭酸リチウムの発生を防止することができるという利点をも有している。この炭酸リチウムは、ガラス基板の表面に突起状に形成されることが多いため、磁気ヘッドを破損する原因となっていたが、本実施の形態のガラス基板は、この点をも解決したものである。また、Li2Oは、ガラス基板のガラス転移点(Tg)を低くする作用を有するが、本実施の形態のガラス基板においては、Li2Oを含まないことからガラス転移点を高くすることができ、耐熱性にも優れるという効果を示す。
【0065】
さらに、本実施の形態のガラス基板は、骨格成分となるAl23が従来のガラス基板中の含有量に比し極めて少量であるか、あるいはそもそも含まれないという特徴を有する。このAl23は、ガラス基板の硬度を高めるという作用を有するものであるが、Al23を多量に含有すると硬度が高くなりすぎることから表面研磨加工により表面粗さRaを小さくすることが困難となり、以ってガラス基板の表面平滑性を悪化させることになる。したがって、本実施の形態のガラス基板は、Al23の含有量を上記の範囲とすることにより、ガラス基板の表面平滑性を極めて向上させたものである。これにより、熱アシスト記録のようにガラス基板と磁気ヘッドの距離が極めて近接する場合においても磁気ヘッドを破損することが抑制できるという極めて優れた効果を示す。
【0066】
このように、本実施の形態のガラス基板は、上記の構成中、特にLi2Oを含まないこと、およびAl23の含有量を所定範囲としたことにより、記録層の劣化を防止するとともに表面平滑性を飛躍的に向上させ、以って情報のエラー発生率を低下させるとともに磁気ヘッドの破損を抑制することができるという優れた効果を有する。
【0067】
また、本実施の形態のガラス基板は、成分にフッ素、塩素などのハロゲンおよびSO3などの有害ガス成分や、また砒素、鉛などの有害成分を含んでいないため環境対応ガラスである。以下、本実施の形態のガラス基板の各成分についてさらに詳述する。
【0068】
<骨格成分>
本実施の形態のガラス基板は、骨格成分としてSiO2を58〜68%、Al23を0〜5%、B23を0〜2%有し、かつSiO2とAl23とB23との合計量が58〜68%であることを要する。なお、本実施の形態において「SiO2+Al23+B23=58〜68%」との表記は、SiO2とAl23とB23との合計量が58〜68%であることを示す(以下、同様の表記において同意とする)。
【0069】
まず、SiO2はガラスの骨格(マトリックス)を形成する成分である。その含有量が58%未満では、ガラスの構造が不安定となり化学的耐久性が劣化するとともに、溶融時の粘性特性が悪くなり成形性に支障を来す。一方含有量が68%を超えると、溶融性が悪くなり生産性が低下するとともに、十分な剛性が得られなくなる。そこで含有量を58〜68%の範囲とした。より好ましい範囲は59〜67%であり、さらに好ましい範囲は59〜66%である。
【0070】
また、Al23もガラスの骨格を形成する成分であり、ガラスの耐久性向上や強度および表面硬度の向上に資するものである。しかし、それゆえガラス基板を表面研磨加工して表面粗さRaを小さくする場合において、それを困難にする傾向を示す。このため、その含有量を5%以下にする必要があり、好ましくは3%以下である。また、Al23を含まない組成とすることも可能である。上記において、Al23の含有量0〜5%における0%とは、Al23を含まない態様を含み得ることを意味する。なお、本実施の形態のガラス組成における「0%」の表記は、これと同意であり、その成分を含まない態様を含み得ることを意味する。
【0071】
また、B23は溶融性を改善し生産性を向上させるとともに、ガラスの骨格中に入りガラス構造を安定化させ、化学的耐久性を向上させる効果を奏する。しかしながら、B23は溶融時に揮発しやすく、ガラス成分比率が不安定になりやすい。また、強度を低下させるため硬度が低くなり、ガラス基板に傷が入りやすくなるとともに、破壊靭性値が小さくなり、基板が破損しやすい傾向を示す。このため、B23の含有量は、2%以下にする必要があり、好ましくは1.8%以下である。また、B23を含まない組成とすることもできる。
【0072】
そして、SiO2とAl23とB23との合計量が58〜68%であることを要する。これは、ガラスの構造を安定化させるためである。この合計量が58%未満では、ガラス構造が不安定化し、また68%を超えると、溶融時の粘性特性が悪化し生産性が低下する。より好ましい合計量は59〜67%の範囲であり、さらに好ましい範囲は60〜66%である。
【0073】
<アルカリ成分>
本実施の形態のガラス基板は、アルカリ成分としてNa2Oを1〜6%、K2Oを7〜15%有し、かつNa2OとK2Oとの合計量が8〜21%であることを要する。
【0074】
Na2Oは、ガラスの溶融温度を低下させる作用を有し、線膨張係数を増大させる効果を奏する。その含有量が1%未満では十分に溶融温度を低下させることができず、6%を超えると、その溶出量が増大し記録層に悪影響を及ぼす。より好ましい含有量は、1〜5%であり、さらに好ましくは1.1〜4.8%である。
【0075】
2Oは、上記Na2Oと同様の作用効果を有し、その含有量が7%未満では十分に溶融温度を低下させることができず、15%を超えると、その溶出量が増大し記録層に悪影響を及ぼす。より好ましい含有量は、7〜14%であり、さらに好ましくは7.2〜13%である。
【0076】
また、Na2OとK2Oとの合計量は8〜21%であることを要する。その含有量が8%未満では十分に溶融温度を低下させることができず、21%を超えると、その溶出量が増大し記録層に悪影響を及ぼす。より好ましい含有量は、8〜19%であり、さらに好ましくは8.2〜18%である。
【0077】
<2価金属成分>
本実施の形態のガラス基板は、2価金属成分として、MgOを2〜7%、CaOを7〜15%、BaOを0〜5%、SrOを0〜5%、ZnOを0〜5%有し、かつMgOとCaOとBaOとSrOとZnOとの合計量が9〜22%であることを要する。
【0078】
MgOは、剛性を上げるとともに溶融性を改善する効果を奏する。その含有量が2%未満では剛性の向上および溶融性の改善に対し十分な効果が奏されない。他方、含有量が7%を超えるとガラス構造が不安定となり、溶融生産性が低下するとともに化学的耐久性が低下する。より好ましい範囲は2〜6%であり、さらに好ましくは2.2〜5.8%である。
【0079】
CaOは、熱膨張係数および剛性を上げるとともに溶融性を改善する効果を奏する。その含有量が7%未満では熱膨張係数と剛性の向上および溶融性の改善に対し十分な効果が奏されない。他方、含有量が15%を超えると、ガラス構造が不安定となり溶融生産性が低下するとともに化学的耐久性が低下する。より好ましい範囲は7〜14%であり、さらに好ましくは7.2〜13.2%である。
【0080】
BaO、SrO、ZnOは、それぞれ主として溶融性を向上させる作用を奏するが、多量に含有するとガラス構造を不安定化させる。このため、その含有量は各々5%以下とすることを要し、より好ましくは各々4%以下である。これらを含まない組成とすることも可能である。
【0081】
そして、MgOとCaOとBaOとSrOとZnOとの合計量が9〜22%であることを要する。この合計量が9%未満では剛性を上げると共に溶融性を改善する効果が不十分となり、他方22%を超えるとガラス構造が不安定となり溶融生産性が低下するとともに化学的耐久性が低下するからである。より好ましい合計量は9〜20%である。
【0082】
<ジルコニウム成分>
本実施の形態のガラス基板は、ジルコニウム成分としてZrO2を6〜12%含有する。ZrO2は、ガラスの構造を強固にし剛性を向上させるとともに化学的耐久性を向上させる効果を奏する。その含有量が6%未満では剛性の向上および化学的耐久性の向上に対し十分な効果が奏されない。他方、含有量が12%を超えると溶融性が低下し生産性を向上させることができない。より好ましい範囲は6〜11%であり、さらに好ましくは6.2〜10.1%である。
【0083】
<好適な組成>
本実施の形態のガラス基板は、上記で説明したとおり、酸化物基準の質量%表示で、
SiO2:59〜67%
Al23:0〜3%
23:0〜2%
(ただしSiO2+Al23+B23=59〜67%)
Na2O:1〜5%
2O:7〜14%
(ただしNa2O+K2O=8〜19%)
MgO:2〜6%
CaO:7〜14%
BaO:0〜5%
SrO:0〜5%
ZnO:0〜5%
(ただしMgO+CaO+BaO+SrO+ZnO=9〜20%)
ZrO2:6〜11%
となる組成を有し、かつLi2Oを含まない組成とすることがより好ましく、本発明の好適な実施態様とすることができる。
【0084】
<任意成分>
本実施の形態のガラス基板は、酸化物基準の質量%表示で、
23:0〜5%
La23:0〜5%
Gd23:0〜5%
CeO2:0〜2%
TiO2:0〜5%
HfO2:0〜2%
Nb25:0〜5%
Ta25:0〜5%
Sb23:0〜2%
となる任意成分を含むことができる。これらの任意成分は、主としてガラスの構造を堅固にし剛性を向上させる効果を奏する。これらの任意成分は、各単独であるいは2種以上のものを使用できるが、2種以上のものを使用する場合は、特に限定はされないがその合計量を5.4%以下とすることが好ましい。5.4%を超えると、表面硬度が上昇し、表面粗さRaを小さくすることが困難になるという不都合や、ガラス溶融時における液相温度の上昇を招くという不都合を生じる場合があるからである。なお、CeO2およびSb23は、ガラス溶融時において脱泡または消泡の効果を奏するため、上記の含有量の範囲内で含有することが好ましい。
【0085】
なお、本実施の形態のガラス基板は、TiO2を含まないことが好ましい。TiO2は、一般にはガラス強度または硬度を向上させる作用を有するが、それゆえ研磨加工により表面粗さRaを低くすることが困難となり、その結果としてガラス基板の表面平滑性を害する傾向を示すためである。
【0086】
<物性>
本実施の形態のガラス基板は、以下のような所定のガラス物性を有していることが好ましい。
【0087】
<ガラス転移点>
本実施の形態のガラス基板は、ガラス転移点(Tg)が600℃以上であることが好ましい。熱アシスト記録媒体用の基板では、その記録層(たとえばFe−Pt系記録膜)の成膜プロセスにおいて、膜の緻密化のために550℃程度の高温処理(アニーリング)が必要とされ、その際に基板形状が変化しないことを要するためである。このため、ガラス転移点は、より好ましくは610℃以上、さらに好ましくは620℃以上である。一方、その上限は特に限定されないが、ガラス溶融・形成における量産性、特に金型の高寿命化という観点から、710℃以下とすることが好ましい。
【0088】
<熱膨張係数>
本実施の形態のガラス基板は、25〜100℃での熱膨張係数αが50×10-7〜90×10-7/℃であることが好ましい。熱膨張係数αをこの範囲と規定することにより、上記のような記録層の成膜時の加熱または冷却過程で生ずる熱応力を小さくすることができ、ガラス基板または記録層が割れにくくなるとともに記録層の剥離を抑制することができる。熱膨張係数αのより好ましい範囲は、51×10-7〜86×10-7/℃である。熱膨張係数αが50×10-7/℃未満では、ガラス基板と記録層が剥離する現象を示す場合が有り、90×10-7/℃を超えると、成膜時においてガラス基板が割れる現象を示す場合がある。
【0089】
<化学強化および圧縮応力>
本実施の形態のガラス基板は、その表面の一部または全部が化学強化され、かつ圧縮応力が1.5〜10kg/mm2であることが好ましい。ここで、化学強化とは、ガラス基板に含まれるナトリウムイオンやカリウムイオンなどの1価の金属イオンを、これらに対してイオン半径がより大きな1価の金属イオンに置き換える処理をいう。この処理は、ガラス基板を200〜400℃においてイオン半径がより大きな1価の金属イオンを含む処理液に浸漬することにより実行することができる。この化学強化処理により、ガラス基板の機械的強度向上という効果が奏される。
【0090】
また、圧縮応力は、上記の範囲とすることが好ましく、より好ましくは1.6〜9.1kg/mm2である。圧縮応力が1.5kg/mm2より小さい(ただし絶対値基準)とガラス基板の強度を保つことができない場合があり、一方、圧縮応力が10kg/mm2より大きくなる(ただし絶対値基準)と、ガラス基板の平面度が悪化するとともに成膜プロセスにおける高温処理時にガラス基板の反りの原因となる。
【0091】
<表面粗さRa>
本実施の形態のガラス基板は、その表面粗さRaが0.15nm以下であることが好ましい。熱アシスト記録の場合、磁気ヘッドとガラス基板との距離が従来より接近するため、表面粗さRaを小さくすることにより磁気ヘッドの破損を防止することができる。この観点から、該表面粗さRaは0.13nm以下とすることがより好ましく、0.12nm以下とすることがさらに好ましい。また、該表面粗さRaは小さくなればなるほど好ましいため、あえて下限値を規定する必要はない。
【0092】
<比弾性率、ビッカース硬度、アルカリ溶出量、破壊靭性値>
本実施の形態のガラス基板は、ヤング率をE、比重をρとする場合、比弾性率E/ρが29以上であり、ビッカース硬度Hvが550〜650であり、アルカリ溶出量Aが2.5インチディスクあたり200ppb以下であり、かつ破壊靭性値Kcが0.80MPa/m1/2以上であることが好ましい。
【0093】
比弾性率E/ρが29未満では、フラッタリング特性が悪化する。このため比弾性率E/ρは、29.6以上がより好ましく、29.9以上がさらに好ましい。また、上限は特に限定されないが、ヤング率が高いガラス組成は低Ra化(表面粗さの低減)が困難になる可能性があるという観点から35.1以下とすることが好適である。
【0094】
ビッカース硬度Hvが550未満の場合、ガラス基板表面に傷が入りやすく、また650を超えると、硬くなりすぎることから加工効率が低下し経済的に不利となる。この観点から、ビッカース硬度Hvは、より好ましくは555〜645、さらに好ましくは560〜640である。
【0095】
アルカリ溶出量Aが2.5インチディスクあたり200ppbを超えると、アルカリ成分が記録層に対して悪影響を及ぼすことが顕著になる。このため、アルカリ溶出量Aは、より好ましくは70ppb以下、さらに好ましくは45ppb以下である。また、該アルカリ溶出量Aは小さくなればなるほど好ましいため、あえて下限値を規定する必要はない。
【0096】
破壊靭性値Kcが0.80MPa/m1/2未満の場合、ガラス基板の加工中に割れてしまったり、耐衝撃性が悪化する傾向を示す。このため、破壊靭性値Kcは0.81MPa/m1/2以上とすることがより好ましく、0.84MPa/m1/2以上とすることがさらに好ましい。また、上限は特に限定されないが、ガラスの研磨加工効率という観点から1.20MPa/m1/2以下とすることが好適である。
【0097】
<熱伝導率>
本実施の形態のガラス基板は、熱伝導率が1.0〜1.8W/(m・k)(単に「W/m・k」と記す)であることが好ましい。熱伝導率が1.0W/m・k未満であると、ガラス基板の高温処理時に熱が伝わりにくく不都合を生じる場合がある。また1.8W/m・kを超えると、記録層の特性に悪影響を及ぼす場合がある。このため、熱伝導率のより好ましい範囲は1.1〜1.8W/m・kであり、さらに好ましくは1.1〜1.6W/m・kである。
【0098】
<表面抵抗>
本実施の形態のガラス基板は、表面抵抗が10×1013〜500×1013Ω/□であることが好ましい。表面抵抗が10×1013Ω/□未満の場合、アルカリ成分が記録層へ拡散しやすくなり、記録層に悪影響を及ぼす場合がある。また500×1013Ω/□を超えると、記録層をスパッタリングにより形成する場合にチャージアップの原因となり、記録層が不均一になる場合がある。このため、表面抵抗のより好ましい範囲は15×1013〜480×1013Ω/□であり、さらに好ましくは200×1013〜400×1013Ω/□である。
【0099】
<液相温度および粘性>
本実施の形態のガラス基板は、液相温度が1350℃以下であり、液相温度における粘性が0.5〜10ポアズであることが好ましい。液相温度が1350℃を超えると、ガラス基板の製造が困難となる場合がある。このため、液相温度は1340℃以下とすることが好ましく、1300℃以下とすることがより好ましい。一方、液相温度の下限値は特に限定されないが、ガラスを安定化させる成分を適当量含有している、あるいは化学的耐久性がある程度保たれているという観点から1050℃以上とすることが好ましい。
【0100】
また、液相温度における粘性が0.5ポアズ未満であると、ガラス基板を成形する際に適度なガラス滴とすることが困難となりガラス基板の成形に支障をきたす場合がある。また、10ポアズを超えると、ガラス基板を成形する際にガラスが適度に流動せず、これまたガラス基板の成形に支障をきたす場合がある。このため、液相温度における粘性は、好ましくは0.6〜9.8ポアズであり、より好ましくは1.0〜9.0ポアズである。
【実施例】
【0101】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0102】
<実施例1〜25および比較例1〜10>
表1〜4のガラス組成となるように、所定量の原料粉末を白金るつぼに秤量して入れ、混合したのち、電気炉中で1550℃で溶解した。原料が充分に溶解したのち、白金製の撹拌羽をガラス融液に挿入し、1時間撹拌した。その後、撹拌羽を取り出し、30分間静置したのち、治具に融液を流しこむことによってガラスブロックを得た。その後、各ガラスのガラス転移点付近までガラスブロックを2時間保持した後、徐冷して歪取りを行なった。得られたガラスブロックを厚み約1.5mmの2.5インチの円盤形状にスライスし、内周、外周を同心円としてカッターを用いて切り出した。そして、両面を粗研磨および研磨を行なうとともに、300℃の硝酸カリウム(50wt%)と硝酸ナトリウム(50wt%)の混合溶液に15分浸漬させることにより化学強化を行ない、その後洗浄を行なうことにより実施例および比較例のガラス基板を作製した。作製したガラス基板について下記物性評価を行なった。その結果を表5〜表8に示す。
【0103】
<外周端面表面粗さRa>
AFM(原子間力顕微鏡、商品名:D3100システム、デジタルインスツルメント社製)を用いて、測定領域を10μm×10μmの視野で、測定点数は1サンプル当たり5個観察することにより、外周端面表面粗さを測定した。
【0104】
<外周端面最大粗さRz>
AFM(原子間力顕微鏡、商品名:D3100システム、デジタルインスツルメント社製)を用いて、測定領域を10μm×10μmの視野で、測定点数は1サンプル当たり5個観察することにより、外周端面最大粗さを測定した。
【0105】
<ガラス転移点(Tg)>
示差熱測定装置(商品名:EXSTAR6000、セイコーインストルメンツ社製)を用いて、室温〜900℃の温度範囲を10℃/minの昇温速度で、粉末状に調整したガラス試料を加熱し測定することにより、ガラス転移点を測定した。
【0106】
<熱膨張係数α>
示差膨張測定装置(商品名:EXSTAR6000、セイコーインストルメンツ社製)を用いて、荷重:5g、温度範囲:25〜100℃、昇温速度:5℃/minの条件で測定することにより、熱膨張係数αを測定した。なお、表5〜8中、「α×10-7」とは、各記載の数値に10-7を乗じた数値が測定値であることを示す。
【0107】
<圧縮応力>
ハビネ補償板法を用いて、圧縮層の位相差を測定することにより、圧縮応力を測定した。
【0108】
<表面粗さRa>
研磨材として酸化セリウムを用いるとともに研磨パッドとして硬質ウレタンを用いて、サンプル表面を1時間研磨した。次に研磨後のサンプルをウエット状態のまま純水で超音波洗浄した。そしてサンプル表面をAFM(原子間力顕微鏡、商品名:D3100システム、デジタルインスツルメント社製)を用いて観察し研磨工程後の表面粗さRaを測定した。測定領域は10μm×10μmの視野で、測定点数は1サンプル当たり5個とした。
【0109】
<比弾性率E/ρ>
JIS R 1602ファインセラミックスの弾性試験方法の動的弾性率試験方法に準じて、ヤング率Eを測定した。一方、アルキメデス法により、比重ρを測定した。そして、これらの測定値から、比弾性率E/ρを算出した。
【0110】
<ビッカース硬度Hv>
ビッカース硬度試験機(商品名:HM−112、アカシ社製)を用い荷重100g、負荷時間15secの条件下にて、ビッカース硬度Hvを測定した。
【0111】
<アルカリ溶出量A>
ガラス基板(2.5インチディスク)の表面を酸化セリウムで研磨して、Ra値が2nm以下の平滑面とした後その表面を洗浄し、80℃の逆浸透膜水50ml中に24時間浸漬した後、ICP発光分光分析装置(商品名:SPS7800、セイコーインストルメンツ社製)により溶出液を分析することにより、アルカリ溶出量Aを算出した。
【0112】
<破壊靭性値kc>
JIS R 1607 ファインセラミックスの破壊靭性試験法を用いて、ビッカース硬度、圧痕のクラック長を測定することにより、破壊靭性値Kcを測定した。
【0113】
<熱伝導率>
レーザーフレッシュ法を用いて、測定試料の片面にパルスレーザーを照射し、裏面の温度変化を測定することにより、熱伝導率を測定した。
【0114】
<表面抵抗>
3端子法を用いて、金を蒸着した測定試料の表裏面に電圧を印加し漏れ電流を測定することにより、表面抵抗を測定した。なお、表5〜8中、「×1013」とは、各記載の数値に1013を乗じた数値が測定値であることを示す。
【0115】
<液相温度TL>
測定試料を電気炉を用いて、1550℃で2時間溶融保持後、1300℃で10時間保持し、その後急冷した後、ガラスの表面および内部に失透物の発生の有無を観察し、失透物が観察されなかった温度を液相温度TLとした。
【0116】
<TLにおける粘性>
撹拌式粘性測定機(商品名:TVB-20H型粘度計、アドバンテスト社製)を用いて、溶融したガラスの粘性を測定し、液相温度TLにおける粘性(logη)を測定した。
【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
【表3】

【0120】
【表4】

【0121】
【表5】

【0122】
【表6】

【0123】
【表7】

【0124】
【表8】

【0125】
上記において、アルカリ溶出量Aはガラス基板から拡散されるアルカリ金属の量に相当すると考えられ、該数値が大きくなるほど、記録層を劣化する傾向(すなわち記録情報のエラー発生率が高まる傾向)が高まる。表5〜8より明らかなように、実施例1〜25は、Li2Oを含む比較例1、4〜6に比し、アルカリ溶出量が飛躍的に低下しており、記録層の劣化が防止されていることが分かる。
【0126】
また、主表面の表面粗さRaが小さいものほど、磁気ヘッドの破損は防止される。表5〜8より明らかなように、実施例1〜25は、Al23を上記実施の形態の数値を超えて含有する比較例1〜3、7、8に比し、主表面の表面粗さRaが小さくなっており、磁気ヘッドの破損が防止されていることが分かる。
【0127】
同様に、外周端面の表面粗さRaおよび外周端面の最大表面粗さRzが小さいものほど、ガラス基板外周面の割れは防止される。表5〜8より明らかなように、実施例1〜25は、Al23を上記実施の形態の数値を超えて含有する比較例1〜3、7、8に比し、外周端面の表面粗さRaおよび外周端面の最大表面粗さRzが小さくなっており、ガラス基板外周面の割れが防止されていることが分かる。
【0128】
また、破壊靭性値Kcは、該数値が大きくなるほど、ガラス基板の強度が高くなることを示す。表5〜8より明らかなように、実施例1〜25は、B23を上記実施の形態の数値を超えて含有する比較例9、10に比し、破壊靭性値Kcが大きくなっており、ガラス基板の強度が強化されていることが分かる。
【0129】
以上要するに、本発明のガラス基板が、情報のエラー発生率を低下させ、かつ磁気ヘッドの破損を抑制することができるという優れた効果を有していることは明らかである。
【0130】
なお、比較例1、比較例2、比較例3は、それぞれ特許文献1、特許文献2、特許文献3の追試に相当する。
【0131】
以上、本発明の実施の形態および実施例について説明したが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0132】
1 磁気ディスク、1G ガラス基板、1G0 溶融ガラス、2 熱アシスト磁気記録装置、2A 支軸、2B トラッキング用アクチュエータ、2C サスペンション、2D 磁気記録ヘッド、5 孔、12 外周端面、12A,12B 面取り部、13 内周端面、14 表主表面、15 裏主表面、100 上型、200 下型。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱アシスト記録媒体に用いるガラス基板であって、
略円形の外周を有する主面と、
前記主面の外周に隣接し、表面粗さが2.5nm以下、かつ、最大表面粗さが150nm以下の自由曲面からなる外周端面とを備えた、熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項2】
熱アシスト記録媒体に用いるガラス基板であって、
略円形の外周を有する主面と、
前記主面の外周に隣接し、表面粗さが2.5nm以下、かつ、最大表面粗さが150nm以下の面取り部を含む外周端面とを備えた、熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項3】
前記主面は、略円形の内周をさらに有し、
前記ガラス基板は、前記主面の内周に隣接し、前記外周端面とは異なる形状を有する内周端面をさらに備え、
前記内周端面の表面粗さは2.5nm以下、かつ、最大表面粗さは150nm以下である、請求項1または請求項2に記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項4】
前記主面は、略円径の内周をさらに有し、
前記主面の外周は第1の径を有し、前記主面の内周は第2の径を有し、
前記第2の径に対する前記第1の径の比は、2.0よりも大きく65.0よりも小さい、請求項1または請求項2に記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項5】
酸化物基準の質量%表示で、
SiO2:58〜68%
Al23:0〜5%
23:0〜2%
(ただしSiO2+Al23+B23=58〜68%)
Na2O:1〜6%
2O:7〜15%
(ただしNa2O+K2O=8〜21%)
MgO:2〜7%
CaO:7〜15%
BaO:0〜5%
SrO:0〜5%
ZnO:0〜5%
(ただしMgO+CaO+BaO+SrO+ZnO=9〜22%)
ZrO2:6〜12%
となる組成を有し、かつLi2Oを含まない、請求項1〜4のいずれかに記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項6】
前記ガラス基板は、TiO2を含まない、請求項5に記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項7】
前記ガラス基板は、酸化物基準の質量%表示で、
23:0〜5%
La23:0〜5%
Gd23:0〜5%
CeO2:0〜2%
TiO2:0〜5%
HfO2:0〜2%
Nb25:0〜5%
Ta25:0〜5%
Sb23:0〜2%
となる任意成分を含む、請求項5に記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項8】
前記ガラス基板は、ガラス転移点が600℃以上である、請求項1〜7のいずれかに記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項9】
前記ガラス基板は、25〜100℃での熱膨張係数αが50×10-7〜90×10-7/℃である、請求項1〜8のいずれかに記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項10】
前記ガラス基板は、その表面の一部または全部が化学強化され、かつ圧縮応力が1.5〜10kg/mm2である、請求項1〜9のいずれかに記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項11】
前記ガラス基板は、その表面粗さRaが0.15nm以下である、請求項1〜10のいずれかに記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項12】
前記ガラス基板は、ヤング率をE、比重をρとする場合、比弾性率E/ρが29以上であり、ビッカース硬度Hvが550〜650であり、アルカリ溶出量Aが2.5インチディスクあたり200ppb以下であり、かつ破壊靭性値Kcが0.80MPa/m1/2以上である、請求項1〜11のいずれかに記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項13】
前記ガラス基板は、熱伝導率が1.0〜1.8W/m・kである、請求項1〜12のいずれかに記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項14】
前記ガラス基板は、表面抵抗が10×1013〜500×1013Ω/□である、請求項1〜13のいずれかに記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。
【請求項15】
前記ガラス基板は、液相温度が1350℃以下であり、液相温度における粘性が0.5〜10ポアズである、請求項1〜14のいずれかに記載の熱アシスト記録媒体用ガラス基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−253575(P2011−253575A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124501(P2010−124501)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】