説明

熱アシスト記録用磁気ヘッド及び磁気記録装置

【課題】高い光利用効率でサブミクロンオーダにスポットサイズを縮小した光を磁気記録媒体に照射できる熱アシスト記録用磁気ヘッドを提供する。
【解決手段】磁気ヘッド内に、光源4から出射した光を磁気ヘッド内に導波させるスポットサイズコンバータ13を主磁極20に隣接した位置に設けた。スポットサイズコンバータ13は、導光路コア14に接してクラッド材25よりも小さな屈折率を有するカバー層15を形成し、その形状は光の進行方向に対して実質的に長方形な形状と磁気ヘッド底面に向かってテーパー状に幅の広がっていく形状を組み合わせた形とした。カバー層15が形成された導光路コア14は、1次以上の高次光導波モードを励起できるマルチモード薄膜型コアで上下から挟みこまれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱アシスト記録用磁気ヘッド及びそれを備える磁気記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録装置の情報記録密度は増大の一途を辿っており、1bitの磁気記録マークのサイズは微小になっていく一方である。これまで、磁気記録装置は、主として、記録用磁気ヘッドのサイズ微小化と磁気記録媒体の磁性粒子微小化によって、記録ビットサイズの微小化を図ってきた。しかしながら、磁気記録密度が1Tbit/inch2を越えた辺りから、磁気記録媒体に記録された磁化情報が、熱揺らぎの影響により、室温において短時間で消失することが懸念されている。これを防ぐには磁気記録媒体の保磁力を上げる必要があるが、磁気記録ヘッドから発生させることのできる磁界の大きさには限りがあるため、保磁力を上げすぎると媒体に記録ビットを形成することが不可能になる。これを解決するために、記録の瞬間、媒体を加熱し保磁力を低下させることで高保磁力媒体への記録を可能にする熱アシスト磁気記録法が近年注目されている。これまでに、熱アシスト磁気記録法としては、高パワー密度で微小な光スポットを媒体上に出射することで、記録領域のみを局所加熱し高記録密度を実現する方法が提案されている。
【0003】
微小光スポットを生成するには、レンズを用いるのが一般的だが、近年、磁気ヘッドと磁気記録媒体間の距離は10nm以下となっており、仮に、磁気ヘッドにレンズ等の光学素子を搭載することで重量が増えると、この重みで磁気記録ヘッドが磁気記録媒体に接触したり、ヘッドが浮上できなくなるといった問題が起こる。また、磁気記録装置内には複数の磁気記録媒体(ディスク)が積層され、磁気記録媒体同士の間隔は一般的には1mm以下となっているため、磁気ヘッド周囲に設置する全ての部品はこのサイズ1mmの高さ以下に収めなければならない。従って、レンズ等の光学素子を磁気ヘッドに搭載することは好ましくない。
【0004】
そこで、レンズ等を用いずに磁気記録媒体上に微小光スポットを生成する方法として、コアとクラッドから成る導光路を磁気ヘッド内に形成する方法があり、これはクラッドとの屈折率差Δnが大きな材料でサブミクロンオーダの幅と厚さを持つコアを形成することで実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−257753号公報
【特許文献2】特開平8−330673号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Japanese Journal of Applied Physics, Vol.45, No.2B, 2006, pp.1314-1320
【非特許文献2】Optics Letters, Vol.28, No.15, 2003, pp.1302-1304
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱アシスト磁気記録法を採用する磁気記録装置では、光源から出射され導光路に入射される光は、スポットサイズが数〜十数μmに広がっているため、サブミクロンオーダの幅と厚さを持つコアに光を直接入射した場合、光とのカップリングロスが大きくなってしまい、光利用効率が低下してしまう。これは、熱アシスト磁気記録を実現しようとした場合に、光源の出射光パワーを増加させることになり、磁気記録装置全体の消費電力増大や装置内の温度上昇を招く。特に温度上昇は、磁気記録装置の性能劣化に繋がる。
【0008】
よって、大きく広がったスポットサイズの光と効率良くカップリングし、光の損失無く小さな光スポットに変換できる導光路を磁気ヘッド内に形成する必要がある。光のスポットサイズを変換できる導光路(以降、スポットサイズコンバータという)として、非特許文献2では、高屈折率材料から成る数十nmサイズのコアを光の伝播方向に向けてテーパー状に太くした導光路(以降、テーパー型コアという)を用いることで、導光路に比較的大きなスポットサイズの光を結合させ、導光路中を伝播させながらスポットサイズをサブミクロンオーダに縮小している。
【0009】
図2は、テーパー型コアの代表例と、テーパー型コアを伝播する光の光強度プロファイル26の変化を模式的に表した図である。この図に示すように、テーパー状の導光路コア14に沿って光がコア幅の狭い上部からコア幅の広い下部に向けて伝播していくに従い、光のスポットサイズが縮小されていく。図3は、テーパー型コアによるスポットサイズ縮小の原理を説明する図である。図3の横軸はコアの断面積であり、縦軸はこのコアを伝播できる光のスポットサイズである。非特許文献2では、コアから光が大きく染み出しながら伝播する領域(図3中の染み出しモードと書かれた領域)を用いてスポットサイズ変換を実現している。例えば、テーパー型コア先端部(コア断面積小)が図3中のP1で、テーパー状にコアを太くしていくことでコア断面積が大きくなるため最終的に図3中のP2に到達し、スポットサイズが縮小される。特許文献1では、このテーパー型コアと矩形導波路を組み合わせた導光路を磁気ヘッド内に形成している。
【0010】
ただし、上記いずれのスポットサイズコンバータでも、光スポットサイズが数〜十数μmの光と効率良く結合するためには、テーパーの先端サイズを数十nm以下にしなければならず、加工精度やばらつきを考慮した場合、製品への適用に際して困難を伴う。図3を見ると分かるように、コアとクラッドの屈折率差Δnを小さくすれば、先端サイズを大きくすることが可能となるが、最終的に縮小できる光のスポットサイズは大きくなってしまう。よって、Δnの小さいテーパー型コアは、微小な光スポットを磁気記録媒体上に出射することを目的とする熱アシスト記録用磁気ヘッドには向いていない。特許文献2では、コアとクラッドの間に伝送定数低下強調層と呼ばれるクラッドより屈折率の低い材料を入れることで、Δnを小さくすることなくスポットサイズコンバータを実現している。ただし、特許文献2のスポットサイズコンバータは、スポットサイズを拡大することを目的としており、スポットサイズが拡大されている部分と上記スポットサイズが数〜十数μmに広がった光(波面が球面状の光)との結合は考慮されていない。
【0011】
非特許文献1では、Planer Solid Immersion Mirrorと呼ばれる光の伝播方向に向けて円弧状にコアの幅を狭めた導光路を用いているが、入射光の導光路への結合にグレーティングを用いているため、入射光の光軸ずれによる光伝播ロスが懸念される。
【0012】
本発明の目的は、小型・軽量な光学素子を磁気ヘッドに搭載した磁気記録装置において、磁気記録ヘッド中に形成されたスポットサイズコンバータによって、高い光利用効率でサブミクロンオーダにスポットサイズを縮小した光を磁気記録媒体に照射できる機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明では、磁気ヘッド上面に光源を設置し、磁気ヘッド内には、1次以上の高次光導波モードを励起できる複数枚のマルチモード薄膜型コアと、このマルチモード薄膜型コアより高屈折率な材料で形成された導光路コアと、クラッド材よりも低屈折率な材料で形成されたカバー層とから成るスポットサイズコンバータを形成した。ここで磁気ヘッド上面とは磁気ヘッドのABS(Air Bearing Surface)が形成される面と反対の面を言う。
【0014】
このスポットサイズコンバータは、高屈折率材料で形成された導光路コアに接するようにカバー層が形成されており、カバー層が形成された導光路コアがマルチモード薄膜型コアで上下から挟みこまれている。
【0015】
スポットサイズコンバータは、マルチモード薄膜型コアの厚さを、染み出しモードになる厚さ以下にすると共に、1次以上の高次光導波モードを励起できるようにマルチモード薄膜型コアの幅と屈折率が調整されている。このようにすることで、マルチモード薄膜型コアに結合・伝播できる光のスポットサイズを大きくできるため、結果的に、磁気ヘッド上面に設置された光源から出射された大きなスポットサイズの光と高効率に光結合し、磁気ヘッド底面方向へ光を伝播することができる。
【0016】
導光路コアは、実質的に長方形な形状(以下、長方形部という)とその先に磁気ヘッド底面に向かってテーパー状に幅の広がっていく形状(以下、テーパー部という)を組み合わせた形をしている。この長方形部のコア先端幅又は厚さもしくはその両方を染み出しモードになる幅もしくは厚さ以下にすると共に、導光路コアをカバー層で挟み込んだ。このように長方形部のコア先端部を調整することで、導光路コアとクラッドの屈折率差Δnを実効的に小さくできるため、先端部に結合・伝播できる光のスポットサイズを大きくすることができ、結果的に、マルチモード薄膜型コアを伝播して来た光と効率良く結合できる。
【0017】
ここで、光を効率良くスポットサイズコンバートするには、サイズコンバートされる光の波面が可能な限り平らである必要がある。上記スポットサイズコンバータでは、高屈折率材料で形成された導光路コアとクラッド材の間に導光路コア及びクラッド材よりも屈折率の低い材料で作られたカバー層が形成された長方形部に光を伝播させることで、波面を平らにすることができる。
【0018】
高屈折率材料で形成された導光路コアのテーパー部は、光のスポットサイズを縮小する役割を担っており、光がテーパー部を伝播していくと共にスポットサイズを縮小できるため、磁気ヘッド底面からナノメートルオーダーのスポットサイズの光を出射できる。また、テーパー部に結合する光は長方形部で波面が平らにならされているため、テーパー部で高い光利用効率で光のスポットサイズを縮小できる。
【0019】
また、スポットサイズコンバータの更なる光利用効率向上のために、マルチモード薄膜型コアと高屈折率材料で形成された導光路コアの距離を、マルチモード薄膜型コアに沿って伝播する光の厚さ方向のスポットサイズの半値幅の半分±40%の範囲に収まるようにすると良い。このように距離を調整することで、磁気ヘッド上面に設置された光源から出射された大きなスポットサイズの光とマルチモード薄膜型コアとの間の高効率な光結合を維持しつつ、マルチモード薄膜型コアを伝播した光を高効率に高屈折率材料で形成された導光路コアに結合させることができるため、スポットサイズコンバータの光利用効率向上が可能となる。
【0020】
また、スポットサイズコンバータの更なる光利用効率向上のために、マルチモード薄膜型コアの枚数は2枚以上6枚以下とすると共に、導光路コアから離れたマルチモード薄膜型コアほど、そのマルチモード薄膜型コアの幅又は厚み若くはその両方を小さくする又は屈折率を小さくした方が良い。このようにすることで、スポットサイズコンバータに入射光される光のスポットサイズがより大きな場合でも、それぞれのマルチモード薄膜型コアが入射光と結合できると共に、このマルチモード薄膜型コアに結合した光を効率良く導光路コアに結合させることができる。結果としてスポットサイズコンバータの光利用効率を向上できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によると、高い光利用効率でサブミクロンオーダにスポットサイズを縮小した光を磁気記録媒体に照射できる熱アシスト記録用磁気ヘッドが提供され、また、大容量、高記録密度の磁気記録装置を実現できる。
上記した以外の、課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明のスポットサイズコンバータを有する磁気ヘッド近傍の断面摸式図。
【図2】テーパー型コアを伝播する光強度プロファイルの変化を表した模式図。
【図3】テーパー型コアによるスポットサイズ縮小の原理を説明する図。
【図4】磁気記録装置の要部を示す概略図。
【図5】図4のA−A断面摸式図。
【図6A】図1のC−C断面摸式図。
【図6B】図1のD−D断面摸式図。
【図7】本発明のマルチモード薄膜型コアによって励起される光導波モードプロファイルのコア幅依存性の例を示す図。
【図8】マルチモード薄膜型コアの光結合効率とM1値との関係を示す図。
【図9】高屈折率コア幅をパラメータとして、カバー層の厚みと高屈折率コア先端に結合・伝播できる光のスポットサイズの関係を示す図。
【図10】カバー層の厚みとコア幅に対するスポットサイズコンバータの光利用効率の関係を示す図。
【図11A】コアの両側面にカバー層を設けた例を示す図。
【図11B】コアの周囲にカバー層を設けた例を示す図。
【図12】コアの上層と下層に異なる幅のカバー層を形成した例を示す図。
【図13】図6と図12に示したスポットサイズコンバータにおけるカバー層の厚みと光利用効率の関係を示す図。
【図14A】コアのY方向側面の片面のみにカバー層を設けた例を示す図。
【図14B】コアのX方向側面の片面のみにカバー層を設けた例を示す図。
【図15】長方形部の長さと光利用効率の関係を、本発明のスポットサイズコンバータとカバー層の無いスポットサイズコンバータに対して示した図。
【図16】先端に近付くにつれ2次関数的に広くなっていくテーパー部の例を示す図。
【図17A】マルチモード薄膜型コア間距離が離れている場合に、2枚のマルチモード薄膜型コアを伝播する光の強度プロファイルの様子を示す概念図。
【図17B】マルチモード薄膜型コア間距離が近い場合に、2枚のマルチモード薄膜型コアを伝播する光の強度プロファイルの様子を示す概念図。
【図18A】マルチモード薄膜型コア間距離が離れている場合に、マルチモード薄膜型コア−テーパー部上部間の光結合の様子を示す概念図。
【図18B】マルチモード薄膜型コア間距離が近い場合に、マルチモード薄膜型コア−テーパー部上部間の光結合の様子を示す概念図。
【図19】2枚のマルチモード薄膜型コア16の間隔と光利用効率の関係を示す図。
【図20】2枚以上のマルチモード薄膜型コアを有するスポットサイズコンバータの例を示す図。
【図21】本発明のスポットサイズコンバータにおける、マルチモード薄膜型コアの枚数と光利用効率の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図4、図5、図1を用いて、本発明の高効率光集積機構を有した情報記録装置の実施例について説明する。図4は実施例である磁気記録装置の要部を示す概略図であり、筺体1の上蓋を外した状態を示している。図5は図4のA−A断面摸式図である。図1は本発明のスポットサイズコンバータを有する磁気ヘッド近傍の断面模式図であり、図5の領域B1−B2−B3−B4の拡大図である。
【0024】
図4に示すように、磁気記録媒体3は、モータによって回転駆動されるスピンドル2に固定されて回転する。磁気ヘッド5はサスペンション6に固定され、ボイスコイルモータ7で位置を動かされて、磁気記録媒体3の所望のトラックに位置決めされる。図1に示すように、磁気ヘッド底面17にはABS(Air Bearing Surface)を形成した。これにより、磁気記録媒体3の回転時に、磁気記録媒体3と磁気ヘッド底面17の間に負圧を生じさせ、磁気記録媒体3の上を浮上量10nm以下で磁気ヘッドを浮上させた。
【0025】
なお、図5に示すように、筺体1内には、スピンドル2に固定された少なくとも一つの磁気記録媒体3と、ボイスコイルモータ7に固定された少なくとも一つのサスペンション6を備えた。サスペンション6と上段の磁気記録媒体3との距離s1は、1mm以下である。それぞれのサスペンション6には、熱アシスト磁気記録時に必要となる光を出射する光源4と磁気ヘッド5が搭載されており、光源4は、サスペンション6と磁気ヘッド5の間に設置した。このように光源4を設置することで、磁気ヘッド5の浮上時に、光源4で発した熱を磁気ヘッド5を通して磁気記録媒体3側へ放熱することが可能となり、安定した光源の駆動が可能となる。
【0026】
更に、図1の磁気ヘッド周辺断面図に示すように、磁気ヘッド内部に、スポットサイズを縮小しながら光を伝播できるスポットサイズコンバータ13を形成した。なお、磁気ヘッドの長さL1は、180μmm又は230μmであり、磁気ヘッド母材24には、AlTiCを使用した。光源4は、サブマウント11に搭載された波長760±20nmもしくは波長830±20nmの光をシングルモードで発生する半導体レーザ10を使用した。半導体レーザ10はその活性層12が磁気ヘッド5の上面と実質的に垂直となるように設置することで、スポットサイズコンバータ13に光を入射できるようにした。
【0027】
なお、半導体レーザ10と磁気ヘッド5上面の間は、光の吸収が少なく屈折率が空気より高い(屈折率>1)材料で満たすと良い。このようにすることで、半導体レーザ10から出射した光のスポットサイズの広がりを抑えることができる。半導体レーザ10と磁気ヘッド5上面の間を満たす材料としては、一般的に光学部品の接着に用いられるUV硬化樹脂や、熱硬化性接着剤などを用いると良い。なぜなら、スポットサイズの広がりを抑えるだけでなく、サブマウント11と磁気ヘッドを接着するための接着剤として機能させることができるからである。
【0028】
光源4から出射された光(入射光9)はスポットサイズコンバータ13内を伝播し、スポットサイズを縮小されながら磁気ヘッド底面17まで導かれ、磁気記録媒体3に照射される。なお、スポットサイズコンバータ13の終端部分には、微小光スポットを生成できる近接場光発生素子18を形成しても良い。近接場光発生素子18としては、磁気ヘッド底面17から見た形状が三角形の金属の散乱体(Optics Letters, Vol. 31, No. 15, January 15, 2006, page 259)を用いると良い。なお、近接場光発生素子18の周辺に存在するバックグラウンド光が磁気記録媒体3に照射されないようにするために、近接場光発生素子18の周辺に遮光膜を形成しても良い。さらに、近接場光発生素子18としては、金属の散乱体の一部を遮光膜につなげたV字開口(特開2001−255254号公報)やC字開口(Optics Letters, Vol. 28, No. 15, August 1, 2003, page 1320)を用いても良い。
【0029】
記録時に必要となる磁界は、磁気ヘッド内部に形成した薄膜コイル19を用いて発生させ、発生した磁界を主磁極20によってスポットサイズコンバータ終端部分に導いた。なお、主磁極20とスポットサイズコンバータ13の距離は200nm以下となるようにした。薄膜コイル19の反対側には、閉磁路を形成するための補助磁極21を形成した。補助磁極21の横には、記録マークを再生するための磁気再生素子22としてGMR(Giant Magneto Resistive )素子又はTMR(Tunneling Magneto Resistive)素子を形成した。磁気再生素子22の周辺には、周りからの磁界を遮蔽するためのシールド23を形成した。
【0030】
次に、上記磁気記録装置を使用した記録再生方法について説明する。磁気記録媒体3を回転させた状態で、記録の瞬間、磁気ヘッド5中に設けた薄膜コイル19により磁界を発生すると同時に、半導体レーザ10を発光させ、磁気記録マークを磁気記録媒体3に形成した。半導体レーザ10が発光した瞬間、スポットサイズコンバータ13を伝播した光が磁気記録媒体3に照射されることで媒体が加熱されるため、熱アシスト磁気記録が実現される。ただし、熱アシスト磁気記録は、本質的に磁気記録媒体の温度によって決まるため、磁界を発生するタイミングと光源4を発光するタイミングは、必ずしも同時である必要は無い。例えば、光源4を発光させて磁気記録媒体3を温めた後に磁界を発生させても良い。また、連続的に光を磁気記録媒体3に出射し続け、記録したい情報を磁界パルスに変調した磁界を印加することで、磁気情報を磁気記録媒体3に記録することも可能である。更には、連続的に磁界を印加し続け、記録したい情報を光パルスに変調した光を出射することで、磁気情報を磁気記録媒体3に記録することも可能である。磁気記録マークの再生には、図1に示す磁気ヘッドに形成した磁気再生素子22を用いた。再生信号は、図4に示す信号処理用LSI8で処理した。
【0031】
次に、図1及び図6から図15を使って、磁気ヘッド内に形成したスポットサイズコンバータについて詳しく説明する。図1の断面模式図には、スポットサイズコンバータ13部分を含んだ磁気ヘッド周辺の様子が示されている。スポットサイズコンバータ13はクラッド材25で覆われている。スポットサイズコンバータ13は、光源4から出射された光(入射光9)と直接結合し、磁気ヘッド底面17まで光を伝播する役割と、磁気記録媒体3へ微小スポットサイズの光を照射する役割を持っているため、磁気ヘッド上面から磁気ヘッド底面17方向へと向かって伸びている。ここで磁気ヘッド底面17とは磁気ヘッドのABSが形成される面を言う。
【0032】
図6Aは図1のC−C断面模式図であり、図6Bは図1のD−D断面模式図である。スポットサイズコンバータ13は、図6Aに示すように、2枚のマルチモード薄膜型コア16と、導光路コア14と、カバー層15を有する。マルチモード薄膜型コア16と導光路コア14は、クラッド材25より高い屈折率の材料で作られており、カバー層15はクラッド材25よりも屈折率の低い材料で作られている。なお、マルチモード薄膜型コア16は、導光路コア14より屈折率の低い材料で作られている。導光路コア14とカバー層15はマルチモード薄膜型コア16で上下方向(Y方向)から挟まれており、導光路コア14はカバー層15で上下方向(Y方向)から挟み込まれている。
【0033】
また、スポットサイズコンバータ13のXZ平面上から見た形は、図6Bに示すように、2枚のマルチモード薄膜型コア16は実質的に長方形の形状をしており、導光路コア14は実質的に長方形である形状とその先に磁気ヘッド底面に向かってテーパー状に幅の広がっていく形状(台形)を組み合わせた形をしている。カバー層15のXZ平面から見た形状は、図の例では導光路コア14と実質的に同等の形状をしているが、図12に示すように、上下のカバー層の内一層が導光路コア14と実質的に同等の形状をしており、他方のカバー層15は実質的に長方形の形状であってもよい。なお、Z方向のスポットサイズコンバータ13の長さL2+L3は、磁気ヘッドの長さ(L1)と等しく、180μm又は230μmである。また、スポットサイズコンバータ13のマルチモード薄膜型コア16のZ方向の長さは、薄膜コイル19や主磁極20との干渉を避けるため、磁気ヘッド底面17に達していない方が良い。
【0034】
スポットサイズコンバータ13の2枚のマルチモード薄膜型コア16は、入射光9と高効率に光結合し磁気ヘッド底面方向へ光を伝播する役割を担っており、導光路コア14の長方形部は伝播する光の波面を平らにする役割を担っている。また、導光路コア14のテーパー部は光のスポットサイズを縮小する役割を担っている。また、カバー層15は、マルチモード薄膜型コア16を伝播した光を高効率に導光路コア14に結合させる役割を担っている。
【0035】
本実施例では、クラッド材25は屈折率1.57〜1.66のAl23とし、マルチモード薄膜型コア16は屈折率1.74のAl23−Si34とし、導光路コア14は屈折率2.13のTa25とし、カバー層15は屈折率1.45のSiO2とした。他のクラッド材やコア材を用いた場合でも、コア材とクラッド材の屈折率差Δnが同じであれば、導光路(スポットサイズコンバータは導光路の一種)の特性はほとんど変わらないため、例えば、マルチモード薄膜型コア16にAl23−Si34、導光路コア14にSi34(屈折率1.89〜2.10)、クラッド材25にSiO2−Si34を用いることも可能である。なお、Al23−Si34やSiO2−Si34は、スパッタリング法によりAl23又はSiO2とSi34を同時スパッタリングし、この時、Al23又はSiO2の成膜レートとSi34の成膜レートを制御することで、Al23−Si34の屈折率を1.57〜2.10の間で、SiO2−Si34の屈折率を1.45〜2.10の間で調整できる。
【0036】
また、本実施例では、スポットサイズコンバータ13終端部のコア終端幅w2を0.5μm又は0.6μmとし、コア終端厚t1を0.2μm又は0.3μmとした。上記したように、スポットサイズコンバータ13は磁気記録媒体へ微小スポットサイズの光を照射する役割を持っており、上記のようにコア終端幅w2とコア終端厚t1を調整することで、スポットサイズコンバータ13の終端からスポットサイズが約500nmの光を磁気記録媒体3に向けて出射できる。なお、近接場光発生素子18をスポットサイズコンバータ13終端部に形成する場合は、磁気ヘッド底面部での高屈折率コアの幅w2と厚さt1を近接場光発生素子のサイズ(幅と厚さ共に0.5μm以下)に合わせる必要があるため、幅w2と厚さt1を共に0.5μm以下とするのが良い。
【0037】
なお、図6Bに示すように、テーパー部コア終端部の下部を延長したような構造になっている理由は、次の通りである。磁気ヘッドのコア終端部付近には、主磁極20や補助磁極21や薄膜コイル19が存在するため、この付近でコアを染み出して伝播してくる光が存在する場合、主磁極20や補助磁極21や薄膜コイル19に光が吸収され、光透過効率が減少してしまうことが懸念される。よって、図6Bのような構造にすることで、主磁極20や補助磁極21や薄膜コイル19付近を伝播する光は最大限コア内に閉じ込められているため、光透過効率低下を抑えられる。
【0038】
上記実施例のスポットサイズコンバータ13において、入射光9と高効率に光結合し磁気ヘッド底面方向へ光を伝播する役割を担っているマルチモード薄膜型コア16について詳しく説明する。図6Aに示すマルチモード薄膜型コア16の厚さt0を、前記で述べた染み出しモードになる厚さ以下にすると共に、このマルチモード薄膜型コア16が1次以上の光伝播モードを励起できるように調整した。このようにスポットサイズコンバータ13のマルチモード薄膜型コア16を調整することで、マルチモード薄膜型コア16に結合・伝播できる光のスポットサイズを大きくできるため、結果的に図1に示すスポットサイズの大きな入射光9と高効率に光結合し、磁気ヘッド底面方向へ光を伝播することができる。
【0039】
なお、染み出しモードとなり得る程度の厚さTtは、導光路内の0次モードの定在波条件式を変形して、近似的に下式により表される。
【0040】
【数1】

【0041】
また、染み出しモードとなる厚み以下の場合において、1次以上の光伝播モードを励起できる導光路は、近似的に下記の式によって表されるM1が0.1以上の場合である。
【0042】
【数2】

【0043】
ここで、1枚のマルチモード薄膜型コア16に結合・伝播できる光のスポット強度プロファイル(光伝播モードプロファイル)をBeam Propagation Method(BPM)法を用いて計算した結果を図7に示す。なお、この計算では、マルチモード薄膜型コア16の厚さt0は上記Ttより充分薄い0.2μmとし、光の波長を830±20nmとし、w0=2.0μm,4.0μm,6.0μmの場合それぞれにおいて、1次モードまでの光伝播モードプロファイルを計算した。
【0044】
図7から、いずれの光導波モードにおいても、厚み方向(Y軸方向)のスポット強度プロファイルサイズがコアの厚みよりも充分大きくなっていることがわかる。また、図7から、上記式(3)のM1が0.1以上であるw0が4.0μmと6.0μmの場合には、1次以上の光導波モードが励起されており、1次光導波モードのスポット強度プロファイルサイズは0次光導波モードのスポット強度プロファイルサイズより大きいことが分かる。よって、マルチモード薄膜型コア16は、コアの厚みt0をTt以下にすると共に、1次以上の光伝播モードを励起できるようにM1が0.1以上となるようにコアの幅w0、厚みt0、屈折率をそれぞれ調整すれば、マルチモード薄膜型コア16に結合・伝播できる光のスポットサイズを大きくできる。
【0045】
更にここで、図1に示すスポットサイズの大きな入射光9と上記マルチモード薄膜型コア16との光結合効率を計算した結果を図8に示す。図8の横軸はマルチモード薄膜型コアのM1を示し、縦軸は入射光9とマルチモード薄膜型コア16との光結合効率を示している。なお、この図では、光結合効率が最大となる効率を1.0として規格化してある。この図から、M1が0.15以下で結合効率が急激に下がり、一方、M1が2.5以上でも結合効率が急激に下がっていくことがわかる。よって、マルチモード薄膜型コア16は、このコアのM1が0.15以上0.25以下になるように、コアの幅w0と厚みt0と屈折率n0を調整すると良い。なお、本実施例では、クラッド材25の屈折率n2が1.58のとき、マルチモード薄膜型コア16のコア材の屈折率n0を1.66、コア厚t0を0.3μm、コア幅w0を6.0μmとし、また、クラッド材25の屈折率n2が1.63のとき、マルチモード薄膜型コア16のコア材の屈折率n0を1.72、コア厚t0を0.25μm、コア幅w0を6.0μmとした。
【0046】
上記実施例のスポットサイズコンバータ13において、長方形部とテーパー部から成る導光路コア14と、クラッド材25よりも低い屈折率材料から成るカバー層15について詳しく説明する。
【0047】
上記実施例では、図6A、図6Bに示すスポットサイズコンバータ13上部の導光路コア14の先端幅w1又は厚さt1もしくはその両方を、述べた染み出しモードになるサイズ(Ww)にすると共に、この導光路コア14をカバー層15で挟み込んだ。このようにスポットサイズコンバータ13上部の導光路コア14を調整することで、導光路コア14とクラッド25の屈折率差Δnを実効的に小さくできるため、導光路コア14に結合・伝播できる光のスポットサイズを大きくすることができ、結果的に、マルチモード薄膜型コア16を伝播してきた光と効率良く結合できる。
【0048】
なお、染み出しモードとなり得る程度の幅もしくは厚さ(Ww)は、導光路内の0次モードの定在波条件式を変形して、近似的に下記の式により表される。
【0049】
【数3】

【0050】
ここで、スポットサイズコンバータ13の導光路コア14先端部に結合・伝播できる光のスポットサイズをBPM法により計算した結果を図9に示す。図9の横軸はカバー層の厚さt2/2を示し、縦軸はコア先端部に結合・伝播できる光のスポットサイズを示している。なお、この計算では、導光路コア14の幅w1と厚さt1は同じ寸法とし、光の波長を760±20nmとし、偏光は円偏光を想定し、w1=0.15μm,0.20μm,0.30μmの場合をそれぞれ計算した。
【0051】
図9から、w1=0.30μm以外は、カバー層を付けることでスポットサイズが大きくなっていくことが分かる。w1=0.30μmでスポットサイズが大きくならないのは、その幅w1と厚みt1が染み出しモードとなり得る程度の幅もしくは厚みTtより大きいため、光が導光路コア14内に充分閉じ込められてしまっているからである。本実施例における染み出しモードとなり得る程度の幅Ttは、290nm程度である。
【0052】
よって、本実施例ではコア幅w1又はコア厚t1もしくはその両方を290nm以下とした。なお、光の波長が830±20nmであった場合は、上記Wwを算出する式から、コア幅w1又はコア厚t1もしくはその両方を310nm以下とした。
なお、図6Aに示すカバー層15の厚みt2は、下記の式で表される値Tc程度になるよう調整すると良い。
【0053】
【数4】

【0054】
t2がTcの厚みとなったとき、コアとクラッドの屈折率差Δnを実効的に0にすることができ、スポットサイズコンバータ13先端部に結合・伝播できる光のスポットサイズを最も大きくすることができるため、結果的にマルチモード薄膜型コア16を伝播してきた光と効率良く結合できる。
【0055】
ここで、スポットサイズコンバータ13の光利用効率のカバー層厚みt2依存性をBPM法で計算した結果を、図10に示す。図10の横軸はカバー層の厚さt2/2を示し、縦軸はスポットサイズコンバータの光利用効率(入射光パワー/スポットサイズコンバータからの出射光パワー)を示している。なお、この計算では、スポットサイズコンバータへの入射光は、波長が830±20nm、偏光がY方向の直線偏光、スポットサイズが5μmとし、図6A、図6Bに示すスポットサイズコンバータ13の導光路コア14の厚さt1は0.2μm、L2の長さを0μmとし(よって、L3=180μm)、w1=0.06μm,0.09μm,0.12μm,0.15μmの場合をそれぞれ計算した。
【0056】
図10から、いずれのコア幅w1においても、カバー層厚t2が式(6)で表されるTcの±30%程度の範囲内の厚さで光利用効率を最大にできることが分かる。よって、カバー層厚t2は上記式(6)で表されるTcの±30%程度の範囲内の厚さにするのが良い。なお、本実施例では、コア幅w1を0.06μmでカバー層の厚さt2/2を60nm(このときTc/2=76nm)、コア幅w1を0.09μmでカバー層の厚さt2/2を100nm(このときTc/2=113nm)、コア幅w1を0.12μmでカバー層の厚さt2/2を168nm(このときTc/2=151nm)、又はコア幅w1を0.15μmでカバー層の厚さt2/2を210nm(このときTc/2=189nm)とした。
【0057】
なお、カバー層15は、図11Aに示すように導光路コア14の両側を挟みこむように形成しても、図11Bに示すように導光路コア14の上下と両側を共に挟みこむように形成しても、同様の効果を得ることができる。図11A、図11Bのような場合のカバー層の厚みもしくは幅は、図6Aの構成で決定したカバー層の断面積と同等にすることで、最適な値を決定することができる。例えば、図6A、図6Bにおいて、テーパー部先端幅がw1で最適カバー層の膜厚がt2のとき、このカバー層の断面積はw1×t2となる。このw1×t2と図11A、図11Bのカバー層断面積(図11Aの場合はwa×t1、図11Bの場合は(wb+w1)×tb+t1×wb)が同等になるようにカバー層の厚みもしくは幅を調整するとよい。
【0058】
また、カバー層15は、図14A、図14Bに示すように、導光路コア14の両側を挟みこまず、片側のみに形成しても同様の効果を得ることができる。この場合のカバー層の厚みもしくは幅も上記の通り、図6A、図6Bの構成で決定したカバー層の断面積と同等にすることで、最適な値を決定することができる。
【0059】
なお、図11A、図11Bに示すカバー層の厚みもしくは幅は、上層と下層又は左側と右側でそれぞれ異なっていてもよい。例えば図12に示すように、導光路コア14の上層と下層に異なる幅のカバー層を形成してもよい。
【0060】
ここで、図13は、上層のカバー層の幅がテーパー部先端幅w1と実質的に同等で、下層のカバー層の幅wrがテーパー部先端幅w1の10倍以上の場合における、光利用効率のカバー層厚み依存性(t2/2)を計算した結果である。なお、この計算では、スポットサイズコンバータへの入射光は、波長が830±20nm、偏光がY方向の直線偏光、スポットサイズは5μmとし、図12に示すスポットサイズコンバータの導光路コア14の厚さt1は0.3μm、L2の長さを0μm(よって、L3=180μm)とし、w1=0.10の場合を計算した。なお、比較のために、図6A、図6Bに示したスポットサイズコンバータの光利用効率のカバー層厚み依存性も同時に計算した。
【0061】
図13から、図12に示した構成例の場合、図6A、図6Bに示した構成例と比較してカバー層の厚みt2/2が1/4程度で同等の光利用効率を達成できることが分かる。よって、図12の構成例(一方のカバー層の幅wrがテーパー部先端幅w1の10倍以上の場合)には、図6A、図6Bの構成例で得られるカバー層の最適な厚みの1/4程度にするのがよい。なお、図12に示すカバー層の厚みは、上層と下層でそれぞれ異なっていてもよい。
【0062】
上記実施例では、図6Bに示すように、XZ平面上から見て実質的に長方形な形状(長方形部)を、テーパー部の上部に形成した。このような長方形部に結合し伝播した光は、テーパー部に到達する間にその光の波面が平らにならされるため、テーパー部でスポットサイズが縮小されるときに発生するロスを抑えることができる。
【0063】
ここで、スポットサイズコンバータ13の光利用効率の長方形部長さL2依存性を、BPM法を用いて計算した結果を図15に示す。図15の横軸は長方形部の長さL2を示し、縦軸はスポットサイズコンバータの光利用効率を示している。なお、この計算では、スポットサイズコンバータへの入射光は、スポットサイズコンバータ先端部で光の波面が球面になるように、スポットサイズが3μm程度の光を空気中(屈折率1の媒体中)で距離10〜20μm自由伝播させた光をスポットサイズコンバータに入射した。波長は830±20nm、偏光はY方向の直線偏光である。また、コア幅w1を0.06μmでカバー層の厚さt2/2を60nm(このときTc/2=76nm)、コア幅w1を0.09μmでカバー層の厚さt2/2を100nm(このとき、Tc/2=113nm)、コア幅w1を0.12μmでカバー層の厚さt2/2を168nm(このときTc/2=151nm)、又はコア幅w1を0.15μmでカバー層の厚さt2/2を210nm(このときTc/2=189nm)とした。
【0064】
なお、比較のためにカバー層の無いコアのみのスポットサイズコンバータの場合も計算した。このカバー層の無いスポットサイズコンバータの幅w1は、L2=0μmの光利用効率が上記カバー層有りのスポットサイズコンバータのL2=0μmのときの効率と同等になるように、0.06μmとした。
【0065】
図15から、長方形部の長さL2が60μm程度で光利用効率が最大になっており、長方形部が無い場合に比べ約1.6倍の効率になっていることが分かる。L2が60μmを越えると効率が下がってしまうのは、L2を長くしたことで、スポットサイズを縮小する役割を担うテーパー部の長さL3が短くなってしまうことによるスポットサイズコンバージョンロスの増大が原因である。よって、磁気ヘッドの長さに制限が無い場合は、L2は60μm以上にするのが良い。また、カバー層の無いコアのみのスポットサイズコンバータでは長方形部の長さL2を長くしても効率は上がらず逆に低下していることが分かる。このことから、長方形部の波面を平らにならす効果は、カバー層がないと機能しないことが分かる。以上のことから、本実施例では長方形部の長さL2は60μmとした。
【0066】
なお、上記テーパー部の形状は、台形だけでなく、スポットサイズコンバータ終端部に近づくに従い、2次関数的に幅が広くなっていく図16のような形状であっても良い。さらに、このテーパー部は、コアの厚さが、図6Bや図16のように、光入射側に向けて薄くなっていくテーパー形状であっても同様の効果を得ることができる。この場合、コアの厚さはY軸方向とした。
【0067】
上記実施例のスポットサイズコンバータ13における2枚のマルチモード薄膜型コア16の配置について詳しく説明する。上記実施例では、マルチモード薄膜型コア16と導光路コア14との距離(Y方向)を調整することで、スポットサイズコンバータ13の光利用効率を向上できる。その原理を図17A、図17Bと図18A、図18Bを使って説明する。
【0068】
図17A及び図17Bは、YZ面から見た2枚の薄膜型コアのみの断面図であり、2枚の同一形状のマルチモード薄膜型コア16を伝播する光の強度プロファイル(光スポット)の様子を説明する模式図である。光が2枚のマルチモード薄膜型コア16に入射された時、図に示す光スポット27がそれぞれのマルチモード薄膜型コア16に沿って伝播する。図17Bに示すようにコア同士の間隔d1+d2が近い場合には、光スポット27同士が重なり一つの光スポットとほぼ同じ強度分布を持つことになるため、2枚のマルチモード薄膜型コア16と入射光との結合効率は、1枚のマルチモード薄膜型コアとほぼ同じになる。しかし、図17Aに示すように間隔d1+d2が大きく、両者の距離が十分に離れると、2枚のマルチモード薄膜型コアそれぞれに光が伝播するのと同等になるため、結合効率は間隔d1+d2が小さい場合と比べ約2倍にすることができる。
【0069】
しかし、間隔d1+d2が大きくなるに従い、2枚のマルチモード薄膜型コア16を伝播した光と導光路コア14との光結合効率は低下してしまう。なぜなら、2枚のマルチモード薄膜型コア16を伝播する光と導光路コア14周辺部を伝播する光の強度プロファイルのミスマッチが大きくなってしまうからである。
【0070】
図18A及び図18Bは、YZ面から見たスポットサイズコンバータ13の断面図であり、マルチモード薄膜型コア16を伝播する光と導光路コア14上部を伝播する光の強度プロファイル(光スポット28)の様子を模式的に表した図である。図18Bのようにコア同士の間隔d1+d2が小さい場合には、2枚のマルチモード薄膜型コア16を伝播する光27と導光路コア14上部を伝播する光28の強度プロファイルが近いため、光は高効率に導光路コア14に結合していく。一方、図18Aに示すようにコア同士の間隔d1+d2が大きい場合には、強度プロファイルの差異が大きいため、結合効率は低下してしまうことになる。
【0071】
そこで、最大光利用効率を得るために、BPM法を用いて、2枚のマルチモード薄膜型コア16の間隔d1+d2と光利用効率の関係を計算した。図19が計算結果であり、縦軸の光利用効率は、間隔d1+d2が0μmの場合における利用効率を1として規格化した。間隔d1+d2が0.6〜1.4μm程度で光利用効率を最大にできることがわかった。なお、このときのマルチモード薄膜型コアに沿って伝播する0次モードの光のY方向のスポットサイズの半値幅は、1.0μm程度である。
【0072】
従って、最大光利用効率の得られるd1+d2は、ちょうど薄膜型コア16に沿って伝播する0次モードの光のY方向のスポットサイズの半値幅の値±40%であることが分かる。よって、導光路コア14の中心からマルチモード薄膜型コア16までの距離d1(=d2)は、マルチモード薄膜型コア16に沿って伝播する光のY方向のスポットサイズの半値幅の半分の値±40%に収まるようにするのがよい。従って、本実施例では、間隔d1+d2を0.6μm又は0.9μm又は1.3μmとした。なお、薄膜型コア周辺を伝播する光のY方向のスポットサイズの半値幅は、マルチモード薄膜型コアの幅・厚さとΔnが分かっていれば、BPM法を使って導出することができる。
【0073】
上記実施例では、2枚のマルチモード薄膜型コア16を実質的に同一な物としたが、それぞれの薄膜型コアの幅・厚さとΔnは異なっていても良い。その場合は、d1とd2をそれぞれのマルチモード薄膜型コアに沿って伝播する0次モードの光のY方向のスポットサイズの半値幅半分の値±40%に収まるようにすれば良い。
【0074】
上記実施例では、マルチモード薄膜型コアを2層としたが、図20に示すように、3層以上であっても良い。このようにすることで、入射光9のスポットサイズがより大きな場合でも、この外側の薄膜型コア29が入射光と結合できるため、結果としてスポットサイズコンバータ13の光利用効率を向上できる。なお、導光路コア14の中心から外側の薄膜型コア29までの距離d1’(=d2’)は、導光路コア14の中心からマルチモード薄膜型コア16までの距離d1(=d2)の場合と同様に、外側の薄膜型コア29に沿って伝播する0次モードの光のY方向のスポットサイズの半値幅の値±40%以内にすると良い。また、外側の薄膜型コア29の幅又は厚み若くはその両方が、内側のマルチモード薄膜型コア16以下とした方が良い。また、外側の薄膜型コアの屈折率を内側のマルチモード薄膜型コア16以下とした方が良い。薄膜型コアは幅又は厚み若くはその両方を小さくする、又は屈折率を小さくすると、この薄膜型コアが形成する導光路の実効的な屈折率を小さくすることができる。光は基本的性質として、高屈折率側に進行しようとするため、この実効的な屈折率の低い外側の薄膜型コア29に結合した光は、実効的な屈折率が外側の薄膜型コア29より高い内側のマルチモード薄膜型コア16や導光路コア14に結合し易くなり、結果としてポットサイズコンバータ13の光利用効率を向上できる。ここで、スポットサイズコンバータ光利用効率の薄膜型コア枚数依存性を、BPM法を用いて計算した結果を図21に示す。光利用効率は、マルチモード薄膜型コアが2枚のときの効率で規格化している。このときの外側の薄膜型コアの幅又は厚みは、内側のマルチモード薄膜型コアの幅又は厚み以下となるようにし、導光路コア14の中心から外側の薄膜型コアまでの距離は、この外側の薄膜型コアに沿って伝播する0次モードの光のY方向のスポットサイズの半値幅の値±40%以内とした。図21から、薄膜型コアの枚数が、7枚以上では光利用効率向上が逆に減少していくことが分かる。よって、薄膜型コアの枚数は6枚以下とするのが良い。
【0075】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
1 筺体
2 スピンドル
3 磁気記録媒体
4 光源
5 磁気ヘッド
6 サスペンション
7 ボイスコイルモータ
8 信号処理用LSI
9 入射光
10 半導体レーザ
11 サブマウント
12 活性層
13 スポットサイズコンバータ
14 導光路コア
15 カバー層
16 マルチモード薄膜型コア
17 磁気ヘッド底面
18 近接場光発生素子
19 薄膜コイル
20 主磁極
21 補助磁極
22 磁気再生素子
23 シールド
24 磁気ヘッド母材
25 クラッド材
26 光強度プロファイル
27 マルチモード薄膜コアを伝播する光スポット
28 コアを伝播する光スポット
29 外側の薄膜型コア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録磁界を発生する主磁極と、
補助磁極と、
磁気再生素子と、
前記磁気再生素子の周辺に形成されたシールドと、
光源からの光を浮上面側の前記主磁極に隣接した位置に微小な光スポットとして導く導光路コアとクラッドからなるスポットサイズコンバータとを有する熱アシスト記録用磁気ヘッドにおいて、
前記スポットサイズコンバータは、前記光源からの光を磁気ヘッド内に導波させるマルチモード薄膜型コアを有し、
前記導光路コアの外縁部に前記クラッドより屈折率が低いカバー層が形成されていることを特徴とする熱アシスト記録用磁気ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の熱アシスト記録用磁気ヘッドにおいて、
前記マルチモード薄膜型コアは、厚みが染み出しモード以下の値であり、1次以上の光導波モードを励起できるように幅と屈折率が調整されていることを特徴とする熱アシスト記録用磁気ヘッド。
【請求項3】
請求項1記載の熱アシスト記録用磁気ヘッドにおいて、
前記カバー層が形成された前記導光路コアが一対の前記マルチモード薄膜型コアによって挟みこまれていることを特徴とする熱アシスト記録用磁気ヘッド。
【請求項4】
請求項1記載の熱アシスト記録用磁気ヘッドにおいて、
前記導光路コアの幅又は厚みもしくはその両方が染み出しモード以下の値であることを特徴とする熱アシスト記録用磁気ヘッド。
【請求項5】
請求項1記載の熱アシスト記録用磁気ヘッドにおいて、
前記導光路コアは、幅及び厚みが光の進行方向に対して実質的に変化しない部分と、幅及び厚みの少なくとも一方が光の進行方向に対してテーパー状に大きくなっていく部分とを有することを特徴とする熱アシスト記録用磁気ヘッド。
【請求項6】
請求項1記載の熱アシスト記録用磁気ヘッドにおいて、
前記マルチモード薄膜型コアを複数枚有し、
隣接するマルチモード薄膜型コア間の距離が、各マルチモード薄膜型コアを導波する0次光導波モードの光スポットサイズの半値幅の半分の値のマイナス40%からプラス40%の間にあることを特徴とする熱アシスト記録用磁気ヘッド。
【請求項7】
請求項1記載の熱アシスト記録用磁気ヘッドにおいて、
前記磁気ヘッドの浮上面側に、近接場光発生素子を有することを特徴とする熱アシスト記録用磁気ヘッド。
【請求項8】
磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を駆動する媒体駆動部と、記録素子と再生素子を有する磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体上に位置決めする磁気ヘッド駆動部とを有する磁気記録装置において、
前記磁気ヘッドは、記録磁界を発生する主磁極と、補助磁極と、磁気再生素子と、前記磁気再生素子の周辺に形成されたシールドと、光源からの光を浮上面側の前記主磁極に隣接した位置に微小な光スポットとして導く導光路コアとクラッドからなるスポットサイズコンバータとを有し、
前記スポットサイズコンバータは、前記光源からの光を磁気ヘッド内に導波させるマルチモード薄膜型コアを有し、前記導光路コアの外縁部に前記クラッドより屈折率が低いカバー層が形成されていることを特徴とする磁気記録装置。
【請求項9】
請求項8記載の磁気記録装置において、
前記マルチモード薄膜型コアは、厚みが染み出しモード以下の値であり、1次以上の光導波モードを励起できるように幅と屈折率が調整されていることを特徴とする磁気記録装置。
【請求項10】
請求項8記載の磁気記録装置において、
前記カバー層が形成された前記導光路コアが一対の前記マルチモード薄膜型コアによって挟みこまれていることを特徴とする磁気記録装置。
【請求項11】
請求項8記載の磁気記録装置において、
前記導光路コアの幅又は厚みもしくはその両方が染み出しモード以下の値であることを特徴とする磁気記録装置。
【請求項12】
請求項8記載の磁気記録装置において、
前記導光路コアは、幅及び厚みが光の進行方向に対して実質的に変化しない部分と、幅及び厚みの少なくとも一方が光の進行方向に対してテーパー状に大きくなっていく部分とを有することを特徴とする磁気記録装置。
【請求項13】
請求項8記載の磁気記録装置において、
前記マルチモード薄膜型コアを複数枚有し、
隣接するマルチモード薄膜型コア間の距離が、各マルチモード薄膜型コアを導波する0次光導波モードの光スポットサイズの半値幅の半分の値のマイナス40%からプラス40%の間にあることを特徴とする磁気記録装置。
【請求項14】
請求項8記載の磁気記録装置において、
前記磁気ヘッドの浮上面側に、近接場光発生素子を有することを特徴とする磁気記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A】
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【図11B】
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【図12】
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【図13】
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【図14A】
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【図14B】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−8409(P2013−8409A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139424(P2011−139424)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、超高密度ナノビット磁気記録技術の開発(グリーンITプロジェクト) 委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】