説明

熱ショックタンパク質産生促進剤

【課題】熱や太陽光線、化学物質、重金属、タバコの煙、排気ガスなどのストレスから皮膚を防御し、皮膚状態を改善し、皮膚の水分代謝を調節する効果を有することができる熱ショックタンパク質産生促進剤を提供する。
【解決手段】ビフィズス菌エキス、乳たん白、エンドウエキス、ヒマワリエキス、リンゴエキス、スイカズラエキスから選択される1種又は2種以上を有効成分とする熱ショックタンパク質産生促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱ショックタンパク質産生促進剤に関する。さらに詳しくは、ビフィズス菌エキス、乳たん白、エンドウエキス、ヒマワリエキス、リンゴエキス、スイカズラエキスから選択される1種又は2種以上を有効成分とする熱ショックタンパク質産生促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、人体の最外層に位置する組織であり、常に熱や太陽光線、化学物質、重金属、タバコの煙、排気ガスなどのストレスの影響を直接受けている。かかるストレスの影響を人体の内部に及ばないように防御しているのが、角質層である。しかし、顔の皮膚は他の部分の皮膚より角質層が薄く約10層しかなく、種々のストレスの影響を受けやすいことが知られている。
【0003】
細胞は、熱や太陽光線、化学物質、重金属、タバコの煙、排気ガスなどの強いストレスにさらされると、それに対抗するために熱ショックタンパク質を産生し、ストレスによるダメージから組織を防御するシステムを有している。熱ショックタンパク質は、細胞及び生体が熱刺激のみならず、太陽光線、化学物質、重金属、タバコの煙、排気ガスなどのストレスに応答して産生する特殊なタンパク質である。熱ショックタンパク質の合成が増加すると、皮膚において、熱や太陽光線、化学物質、重金属、タバコの煙、排気ガスなどのストレスに対する抵抗性が向上することが知られている。しかし、加齢とともに熱ショックタンパク質の合成能力は減少する。そこで、熱ショックタンパク質を皮膚外用剤に配合することにより、皮膚の老化を防止する試みがなされている。(特許文献1、2)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−331602号公報
【特許文献2】特表2004−520338号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、熱ショックタンパク質を皮膚外用剤に配合しても、その効果は対症療法的なものでしかなく、根本的に皮膚組織をストレスから防御できるシステムを確立する必要があった。
【0006】
そこで本発明においては、熱や太陽光線、化学物質、重金属、タバコの煙、排気ガスなどのストレスから皮膚を防御し、皮膚状態を改善し、皮膚の水分代謝を調節する効果を有することができる熱ショックタンパク質促進産生剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる実情において、鋭意研究を重ねた結果、熱ショックタンパク質産生促進剤を用いることにより、熱や太陽光線、化学物質、重金属、タバコの煙、排気ガスなどのストレスから皮膚を防御するシステムを細胞から発揮させることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ビフィズス菌エキス、乳たん白、エンドウエキス、ヒマワリエキス、リンゴエキス、スイカズラエキスから選択される1種又は2種以上を有効成分とする熱ショックタンパク質産生促進剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、熱ショックタンパク質産生促進剤を用いることにより、熱や太陽光線、化学物質、重金属、タバコの煙、排気ガスなどのストレスから皮膚を防御するシステムを細胞から発揮させる効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明で使用するビフィズス菌エキスは、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)に属する微生物の培養液から得られるエキスである。ビフィドバクテリウム属に属する微生物としては、ビフィドバクテリウム ロンガム(B. longum)、ビフィドバクテリウム ブレ−ベ(B. breve)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(B. bifidum)、ビフィドバクテリウム インファンティス(B. infantis)、ビフィドバクテリウム アドレッセンティス(B. adolescentis)等が挙げられる。
【0011】
培養に使用する培地は、基本的にはビフィズス菌が増殖可能である限り特に制限されず、
一般的に炭素源、窒素源、微量栄養素、無機塩類、水等より構成される合成培地が使用される。この培地成分に各種ビフィズス菌増殖因子が含まれていてもよい。炭素源としてはブドウ糖、ガラクト−ス、乳糖、蔗糖等が、窒素源としてはタンパク分解物、ペプトン、酵母エキス、肉エキス等が、微量栄養素としてはB群ビタミン類、システイン、シスチン等の含硫アミノ酸等が、無機塩類としてはリン酸ナトリウム、塩化ナトリウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0012】
ビフィズス菌エキスは、培養液そのもの又は遠心分離、濾過等によって菌体を除いた培養液を使用してよいが、濃縮物又は濃縮乾燥物を使用してもよい。
【0013】
本発明で使用する乳たん白は、特に限定されない。例えば、脱脂乳をそのまま、若しくは脱脂粉乳を分画、加水分解等の処理を行ったのち、必要に応じて脱臭、脱色などの精製処理を行ったものを用いることができる。得られた乳たん白はそのまま、若しくは濃縮、乾燥させたものを用いるとよい。
【0014】
本発明で使用するエンドウエキスは、マメ科(Leguminosae)エンドウ属(Pisum L.)の植物から得られるエキスであればよい。エンドウ属植物としては、シロエンドウ(Pisum sativum L.)、エンドウ;アカエンドウ(Pisum sativum L. Subsp. arvense(L.)Poir.)、サヤエンドウ(Pisum sativum L.Subsp.sativum)等が知られている。抽出には、これら植物の葉、花、種子、茎、実、根等の各部及び全草を用いることができるが、本発明においては有効性の点から、種子を用いることが好ましい。
【0015】
本発明で使用するヒマワリエキスは、キク科(Compositae)ヒマワリ属(Helianthus L.)の植物から得られるヒマワリエキスであればよい。ヒマワリ属植物としては、ヒマワリ(Helianthus annuus L.)、ヒメヒマワリ(Helianthus debilis Nutt.)、イヌキクイモ;チョロギイモ(Helianthus strumosus L.)、キクイモ(Helianthus tuberosus L.)、コヒマワリ(Helianthus decapetalus L.)、シロタエヒマワリ(Helianthus argophyllus)、ヤナギバヒマワリ(Helianthus salicifolius)等が知られている。抽出には、これら植物の花、種子、茎、葉、根を用いることができるが、本発明においては有効性の点から、種子からヒマワリ油を搾油した残渣であるヒマワリ油粕を用いることが好ましい。
【0016】
本発明で使用するリンゴエキスは、バラ科(Rosaceae)リンゴ属(Malus Mill.)の植物から得られるエキスであればよい。リンゴ属植物としては、セイヨウリンゴ(Malus pumila Miller var. domestica Schneider)、ワリンゴ(Malus pumila Miller var. dulcissima Koidz.)等が知られている。本発明においては有効性の点から、果皮を含む果実を用いることが好ましい。
【0017】
本発明で使用するスイカズラエキスは、スイカズラ科(Caprifoliaceae)スイカズラ属(Lonicera L.)の植物から得られるエキスであればよい。スイカズラ属植物としては、スイカズラ(Lonicera japonica Thunb.)、ウグイスカグラ;ウグイスノキ(Lonicera gracilipes Miq. var. glabra Miq.)、ハナヒョウタンボク(Lonicera maackii (Rupr.) Maxim.)、ヒョウタンボク;キンギンボク(Lonicera morrowii A. Gray)、ニオイニンドウ(Lonicera periclymenum L.)、ツキヌキニンドウ(Lonicera sempervirens L.)、クロミノウグイスカグラ;クロミノウグイス、クロウグイス(Lonicera caerulea subsp. edulis (Turcz.) Hulten var. emphyllocalyx (Maxim.) Nakai)、アラゲヒョウタンボク;オオバヒョウタンボク(Lonicera strophiophora Franch.)、ヤマウグイスカグラ(Lonicera gracilipes Miq. var. gracilipes)、ミヤマウグイスカグラ(Lonicera gracilipes Miq. var. glandulosa Maxim.)、コウグイスカグラ(Lonicera ramosissima Franch. et Sav. ex Maxim.)、コゴメヒョウタンボク(Lonicera linderifolia Maxim. var. konoi (Makino) Okuyama)、イボタヒョウタンボク(Lonicera demissa Rehder)、チシマヒョウタンボク(Lonicera chamissoi Bunge)、ウスバヒョウタンボク(Lonicera cerasina Maxim.)、オニヒョウタンボク(Lonicera vidalii Franch. et Sav.)、オオヒョウタンボク(Lonicera tschonoskii Maxim.)、ニッコウヒョウタンボク(Lonicera mochidzukiana Makino)、エゾヒョウタンボク(Lonicera alpigena L. subsp. glehni (F. Schmidt)H. Hara)、キダチニンドウ;トウニンドウ、チョウセンニンドウ(Lonicera hypoglauca Miq.)、ハマニンドウ(Lonicera affinis Hook. et Arn.)、ニオイニンドウ(Lonicera periclymenum)、ロニケラ・エトルスカ(Lonicera etrusca)、ネムロブシダマ(Lonicera chrysantha var. crassipes)、ハヤザキヒョウタンボク(Lonicera praeflorens var. japonica)、ベニバナヒョウタンボク(Lonicera maximowiczii var. sachalinensis)、スルガヒョウタンボク(Lonicera alpigena ssp. glehnii var. viridissima)、ロニケラ・アルピゲナ(Lonicera alpigena ssp. alpigena)、ケヨノミ(Lonicera caerulea ssp. edulis)、マルバヨノミ(Lonicera caerulea ssp. edulis var. venulosa)、クロミノウグイスカグラ(Lonicera caerulea ssp. edulis var. emphyllocalyx)、ヨーロッパヨノミ(Lonicera caerulea ssp. caerulea)等が知られている。本発明に用いられる原料となる植物は、スイカズラ属植物であれば特に限定されないが、入手が比較的容易なことや有効性などの理由から、スイカズラ(Lonicera japonica Thunb.)を用いることが好ましい。抽出には、これら植物の花、葉、茎、枝、果実等の各部位を用いることができるが、本発明においては有効性の点から、花を用いるとよい。
【0018】
本発明において、用いる植物エキスを抽出する場合、生のまま用いてもよいが、抽出効率を考えると、細切、乾燥、粉砕等の処理を行った後抽出を行うことが好ましい。抽出は、抽出溶媒に浸漬するか、超臨界流体や亜臨界流体を用いた抽出方法でも行うことができる。抽出効率を上げるため、攪拌や抽出溶媒中でホモジナイズしてもよい。抽出温度としては、5℃程度から抽出溶媒の沸点以下の温度とするのが適切である。抽出時間は抽出溶媒の種類や抽出温度によっても異なるが、1時間〜14日間程度とするのが適切である。
【0019】
抽出溶媒としては、水の他、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等の低級アルコール、1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール、エチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル類、酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類、アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類などの極性有機溶媒を用いることができ、これらより1種又は2種以上を選択して用いる。また、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等を用いてもよい。さらに、水や二酸化炭素、エチレン、プロピレン、エタノール、メタノール、アンモニアなどの1種又は2種以上の超臨界流体や亜臨界流体を用いてもよい。これらの抽出溶媒の中でも本発明の効果の点から、水及び1,3−ブチレングリコールから選択される1種又は2種を用いることが好ましい。
【0020】
上記溶媒による上記植物エキスは、そのままでも使用することができるが、濃縮、乾固した物を水や極性溶媒に再度溶解して使用することもでき、これらの生理作用を損なわない範囲で脱色、脱臭、脱塩等の精製処理やカラムクロマトグラフィー等による分画処理を行った後に用いてもよい。また保存のため、精製処理の後凍結乾燥し、用事に溶媒に溶解して用いることもできる。
【0021】
本発明で使用される原料の抽出物を有効成分とする熱ショックタンパク質産生促進剤は、優れたヒト真皮線維芽細胞における熱ショックタンパク質産生促進効果を有し、老化症状の防止改善に優れた効果を発揮する。
【0022】
本発明の熱ショックタンパク質産生促進剤は、ビフィズス菌エキス、乳たん白、エンドウエキス、ヒマワリエキス、リンゴエキス、スイカズラエキスから選択される1種または2種以上を、そのまま用いてもよいが、その形態およびその他成分の配合の有無等については、何ら制限されない。形態については、液状、ペースト状、ゲル状、固体状、粉末状等の任意の形態を、その用途等に応じて選択でき、その形態とするために必要な各種賦形剤、結合剤、溶剤、その他の一般的な添加剤(酸化防止剤、着色剤、分散剤等)を適宜用いることができる。
【実施例】
【0023】
以下にビフィズス菌エキス、乳たん白、エンドウエキス、ヒマワリエキス、リンゴエキス、スイカズラエキスの製造例、作用を評価するための試験について詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれによってなんら限定されるものではない。
【0024】
[ビフィズス菌エキス]
ビフィズス菌を37℃で48時間嫌気培養し(最終菌数約10億/mL)、この培養物を日局生理食塩液で洗浄し、遠心分離した後、0℃に冷却しつつ、超音波(20KHz)で溶菌させて不活性化する。それに日局清製水を加えて溶かし、ろ過し、沈殿物を除去しビフィズス菌エキスを得た。
[乳たん白水溶液]
脱脂粉乳を水に溶解し、限外ろ過法によりタンパク質を分画、採取した。タンパク質濃度が1質量%となるよう調製し、乳たん白水溶液を得た。
[エンドウエキス]
脱脂したエンドウ種子粉末を10質量倍量の硫酸水溶液(pH5.5)を用い、室温にて24時間抽出した。得られた抽出液をろ過して不溶物を取り除き、減圧濃縮後、凍結乾燥を行ってエンドウエキスを得た。
[ヒマワリ油粕エキス]
ヒマワリ(Helianthus annuus L.)種子から油を搾油した油粕500gを、乾燥,粉砕し、精製水1000ml中にて20℃で20日間浸漬して抽出し、ヒマワリ油粕エキスを得た。
[リンゴエキス]
リンゴ果実粉末を10質量倍量の50質量%1,3−ブチレングリコール溶液を用い、室温にて24時間抽出した。得られた抽出液をろ過して不溶物を取り除き、減圧濃縮後、凍結乾燥を行って、リンゴエキスを得た。
[スイカズラエキス]
スイカズラ花乾燥物を10質量倍量の50質量%エタノール水溶液を加え、室温で7日間抽出した。得られた抽出液をろ過して不溶物を取り除き、減圧濃縮後、凍結乾燥を行って、スイカズラエキスを得た。
【0025】
<ヒト真皮線維芽細胞における熱ショックタンパク質70(HSP70)測定>
正常ヒト真皮線維芽細胞を1ウェル当り2.0×10個となるように96ウェルブラッククリアボトムプレートに播種した。播種培地には5質量%のウシ胎児血清(FBS)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)を用いた。24時間後、0.5質量%FBS添加DMEM培地にて任意の濃度に調整したサンプル培養液に交換し、さらに24時間培養した。HSP70の定量にはCell−Based ELISAを使用した。各ウェルに1次抗体(rabbit anti−total HSP)、2次抗体(HRP−conjugated Anti−rabbit IgG)を添加しHSP70を特異的に結合し、蛍光基質を添加し蛍光測定によりHSP70を定量した。評価結果を試料無添加のコントロールにおけるHSP70産生量を100とした相対値にて表に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
【表4】

【0030】
【表5】

【0031】
【表6】

【0032】
表より明らかなように、試料を添加した場合には、優れた熱ショックタンパク質産生促進効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビフィズス菌エキス、乳たん白、エンドウエキス、ヒマワリエキス、リンゴエキス、スイカズラエキスから選択される1種又は2種以上を有効成分とする熱ショックタンパク質産生促進剤。

【公開番号】特開2010−1258(P2010−1258A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162275(P2008−162275)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000135324)株式会社ノエビア (258)
【Fターム(参考)】