説明

熱中症予防具

【課題】熱中症予防具としての見栄え、装着感を損なうことなく、夏場の暑い環境下でも、頭部温度が35℃以下に長時間維持される熱中症予防具を提供する。
【解決手段】蓄熱材を内包するマイクロカプセル組成物を担持せしめることを特徴とする熱中症予防具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱中症予防具に関するものであり、特に、熱中症予防具を使用することにより、頭部温度の急激な上昇を抑制し、夏場の炎天下でのスポーツや各種作業における熱中症を予防するものである。
【背景技術】
【0002】
夏場、炎天下での長時間わたるにスポーツや各種作業は体温の上昇を招き、特に頭部の温度上昇は熱中症の原因ともなる。このため夏場になると熱中症により倒れるものが毎年後を絶たない状況であり、予防策が以前から要望されている。
【0003】
これに対して、頭部を冷却するために、保水材又は冷却材を帽子にとりつけた帽子が提案されている(例えば、特許文献1,2)。保水材を帽子にとりつけた提案においては水の気化熱による冷却を行うものであるが、湿度の高い場所での冷却効果は低く、また水が身体に付着するといった不快感があった。また湿った帽子が土などで汚れやすいといった問題があった。一方冷却材を帽子にとりつけた提案においては、冷却材の温度が短時間で上昇してしまい、野外での長時間の使用には適さないといった問題があった。
【0004】
また、帽子に冷却装置を備えた帽子が提案されている(例えば特許文献3,4)。いずれの提案も帽子に冷却ファンや液化ガスボンベを設けるために大掛かりなものとなり、また装着感や見栄えを損なうという問題があった。
【特許文献1】特開2000−73220号公報
【特許文献2】特開平11−269714号公報
【特許文献3】特開平8−27610号公報
【特許文献4】特開2005−120495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は熱中症予防具としての見栄え、装着感を損なうことなく、夏場の暑い環境下でも、頭部温度が35℃以下に長時間維持される熱中症予防具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、蓄熱材を内包するマイクロカプセルを担持せしめた熱中症予防具である。該熱中症予防具の裏面に該マイクロカプセルを担持せしめるか、また、マイクロカプセルが固形物であると好ましい。該マイクロカプセルを含浸または塗工されたシートを熱中症予防具の内部に取り付けるとさらに好ましい。さらに、該蓄熱材の融点が約0〜40℃の範囲であると好ましい。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱中症予防具はマイクロカプセルを使用することで、熱中症予防具としての見栄え、装着感を損なうことなく、夏場の暑い環境下でも頭部温度は35℃以上には上がりにくく、それ以下の温度を長時間維持し得るためしばらく冷涼感が持続し、長時間作業における熱中症の予防が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の熱中症予防具としては、予防効果が得られる限りその形態に拘らない。長尺の帯状の形態でも構わないし、さらに、小さな区切りを有する連結した袋状にした形態でも構わない。その使用は、鉢巻きのように頭部に巻いて使用しても構わない。スカーフやネクタイのように首の回りに巻いて使用すると、動脈の近い部分で使用するとより効果的に利用できる。更に好ましい形態としては、キャップ、ハット、バイザーなどの帽子類として使用すると良い。
【0009】
本発明で用いられる蓄熱材を内包するマイクロカプセルを製造する方法としては、複合エマルジョン法によるカプセル化法(特開昭62−1452号公報)、蓄熱材粒子の表面に熱可塑性樹脂を噴霧する方法(同62−45680号公報)、蓄熱材粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(同62−149334号公報)、蓄熱材粒子の表面でモノマーを重合させ被覆する方法(同62−225241号公報)、界面重縮合反応によるポリアミド皮膜マイクロカプセルの製法(特開平2−258052号公報)等に記載されている方法を用いることができる。
【0010】
本発明のマイクロカプセルの膜材は特に限定されないが、界面重合法、インサイチュー法等の手法で得られる、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン、アミノプラスト樹脂、またゼラチンとカルボキシメチルセルロース若しくはアラビアゴムとのコアセルベーション法を利用した合成あるいは天然の樹脂が用いられる。
【0011】
本発明で用いられる蓄熱材の融点は0〜40℃の範囲が好ましく、特に人体の皮膚温度付近の25〜37℃付近に設定されることが特に好ましく、具体的には、炭素数が約16〜25までのノルマルパラフィン、セチルアルコール、ステアリルアルコールなどのアルコール化合物、ステアリン酸等のカルボン酸化合物、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸ミリスチル等のエステル化合物等が挙げられるが、特に融解熱量が80kJ/kg以上の脂肪族炭化水素化合物、エステル化合物が特に好ましい蓄熱材として挙げられる。
【0012】
マイクロカプセルの粒子径の設定は、乳化剤の種類、界面活性剤の濃度、乳化時の乳化液の温度、乳化比(水相と油相の体積比率)、乳化機、分散機等の微粒化装置の種類や運転条件(攪拌回転数、時間等)を変更することにより所望の値に設定することができるが、糸に撚り合わせた場合に破壊が少ないように1〜10μmの範囲に設定することが好ましい。本発明の粒子径は、ベックマンコールター社製コールターカウンター、マルチサイザーを用いて測定した体積平均粒子径を示す。
【0013】
本発明に係るマイクロカプセルは、通常水等の分散媒に縣濁した分散液として得られるため、そのままフィルム状の包材の中に充填したものを熱中症予防具内部に配してもよいし、またマイクロカプセル分散液を、水を除去、乾燥することにより、粉体、顆粒状、ペレット状等に固形物で成形したものを充填して熱中症予防具内部に配してもかまわない。
【0014】
またマイクロカプセルを粉体、顆粒状、ペレット状等の固形物に成形して造粒物としたものを布帛に充填したものを熱中症予防具内部に配しても本発明は達成される。
【0015】
またマイクロカプセルが塗工又は含浸された蓄熱性を有するシートを用いて熱中症予防具に加工したり、熱中症予防具の裏面に貼り付けたりすることでも本発明は達成される。
【0016】
マイクロカプセルを乾燥固形化する方法としては、マイクロカプセル分散液をスプレードライ法、フリーズドライ法、ドラムドライ法等が挙げられ、通常0.1〜100mmのマイクロカプセル固形物に成形される。形状は、粉末、顆粒状、球状、楕円状、箱形、棒状等なるべく熱交換し易い形状が好ましい。
【0017】
マイクロカプセル分散液または乾燥固形物を充填して用いる場合、その包材は蓄熱と放熱の性能を阻害しないように極力薄く、熱伝導性に優れ、しかも高強度の素材が好ましい。具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエステル等の合成樹脂素材の他、金属フィルムやフィルムに金属蒸着処理した素材も使用できる。
【0018】
マイクロカプセルの造粒物は、マイクロカプセルスラリーをドラムドライヤー、スプレードライヤー、フリーズドライヤー、フィルタープレス、遠心分離等の各種粉体化装置、脱水装置で流動性をなくした後、押し出し造粒機、転動造粒機等、流動乾燥装置等の各種造粒装置を用いて固形化処理される。更に整粒機、粉砕器などを用いて球状、円柱状、立方体、直方体、卵型、星形などの形状に加工することが可能であるが好ましくは球状に近い形態が感触として最も優れる形態である。
【0019】
粉体化または造粒化の際に必要であれば各種バインダー、防黴剤、防虫剤、難燃化のための薬剤をこの工程で添加しても良い。更に、劣化防止剤、酸化防止剤、可塑剤、粘着付与剤、滑剤、着色剤、硬化剤、発泡剤、合成繊維、合成樹脂類、断熱材、VOC除去材、活性炭、吸放湿剤、香気成分などを添加可能である。
【0020】
本発明で用いられる布帛とは造粒物を充填して固定化するための包材であるがより通気性があることにより放熱性に優れるため本発明の効果は一層助長される。布帛の具体例としては、綿、麻(亜麻、ラミー)、絹、羊毛などの繊維、再生繊維としてのレーヨン、キュプラ、半合成繊維としてのアセテート、トリアセテート、プロミックス、合成繊維としてのナイロン、アクリル、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール系などの繊維を用いて得られた布帛が用いられる。
【0021】
マイクロカプセルの塗工又は含浸の工程で用いられる支持体としては、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維、再生繊維としてのレーヨン、キュプラ、半合成繊維としてのアセテート、トリアセテート、プロミックス、合成繊維としてのナイロン、アクリル、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、フェノール系などの繊維などの編物、織物、不織布等の布帛、これら布帛の縫製物などを挙げることができる。必要であれば表面を樹脂や撥水剤で覆ったり熱処理しても良い。これらのシートの厚みは特に限定はされないが、織物に加工し更に被服材料まで加工した場合に剛直感がなく着心地の良い感触が得られるためになるべく薄く、しかもしなやかな素材を用いることが好ましい。
【0022】
これらのシートにマイクロカプセルを塗工又は含浸する装置としては、エアーナイフコーター、ブレードナイフコーター、カーテンコーターなどのコーターを用いてシートの片面又は両面に塗工したり、ディップコーター、ロールコーター等の含浸が可能なコーターを用いて支持体全体に含浸しても良い。乾燥は熱風乾燥、高周波乾燥などの加熱手段が用いられ、マイクロカプセルや支持体に劣化を与えない程度の温度で乾燥される。これらの装置を用いてマイクロカプセルを水系又は溶剤系で塗工または含浸されるが、マイクロカプセルを粉体化した後、固形状態でシートに添着させることも可能である。
【0023】
支持体に塗工又は含浸されるマイクロカプセルの固形重量は、支持体の厚みにも影響されるが、1〜100g/m2、好ましくは5〜50g/m2の範囲で塗工又は含浸される。この範囲以下であると蓄熱性能に乏しく、この範囲以上であると加工しにくくなったり、装着感が損なわれたりすることがあるため好ましくない。
【0024】
支持体に塗工又は含浸する際には必要であればマイクロカプセルとともに適当なバインダーが添加される。使用されるバインダーの具体例としては、結着能及び皮膜形成能を有する従来より公知の天然高分子物質、天然高分子変性品(半合成品)、及び合成品を用いることができる。バインダーに用いる天然高分子物質としては、でんぷん類、ゼラチン、カゼイン等、半合成品としては、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、可溶化でんぷんの様な酸分解でんぷん、また、合成品としては、ポリビニルアルコール、アクリル酸エステル、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体の親水性高分子や、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、スチレンブタジエン共重合体、カルボキシ変性スチレンブタジエン共重合体、アクリロニトリルブタジエン共重合体、アクリル酸メチルブタジエン共重合体、及びエチレン酢酸ビニル共重合体等のラテックス類等が挙げられるがポリウレタン樹脂が比較的柔らかく且つ臭いがなく接着性も強いので特に好ましい。
【0025】
かくして得られた蓄熱材を内包するマイクロカプセルを熱中症予防具に担持せしめた熱中症予防具は、夏場の暑い環境下でも35℃以上にはあがりにくく、それ以下の温度を長時間維持しているため極めて快適性に優れた熱中症予防具となる。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例を示す。実施例中の部数百分率は、質量基準である。
【0027】
(マイクロカプセルスラリー液の作製)
メラミン粉末12質量部に37%ホルムアルデヒド水溶液15.4質量部と水40質量部を加え、pHを8に調整した後、約70℃まで加熱してメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得た。pHを4.5に調整した10%スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100質量部中に蓄熱材として、オクタデカン(C18)10%、ノナデカン(C19)80%、エイコサン(C20)8%の混合物、及びその他の化合物2%からなる蓄熱材混合物(融点30℃、融解熱量150kJ/kg)70質量部を激しく撹拌しながら添加し、粒子径が3.0μmになるまで乳化を行なった。得られた乳化液に、上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液全量を添加し、70℃で2時間撹拌を施した後、pHを9まで上げて水を添加して乾燥固形分濃度40%の蓄熱材マイクロカプセル分散液を得た。
【0028】
実施例1
上記で作製したマイクロカプセル分散液20gを10cm四方のポリエチレン製の袋に充填し、漏れ出さないように密封しマイクロカプセル充填物を得、ポリエステル繊維から成る帽子内側を二重にしたものの間に挟み込み実施例1の帽子を得た。
【0029】
実施例2
上記で作製したマイクロカプセル分散液を、スプレードライヤーで乾燥を行い、直径約0.2mmの粉体粒子を得た。この粉体をポリエステル繊維からなる布帛の内側に400g/m2の充填量になるようにキルティング加工を行なったものを帽子に加工して実施例2の帽子を得た。
【0030】
実施例3
上記で作製したマイクロカプセル分散液をフィルタープレスで水分20%以下まで脱水した後、押出式造粒機を用いて、平均径が短径1mm、長径2mmのペレット状に加工して蓄熱材造粒物を得た。この造粒物700gを綿製の布袋に充填したものをポリエステル繊維から成る帽子内壁に張り合わせ実施例3の帽子を得た。
【0031】
実施例4
2m3の分散タンクに予め水を1m3投入し、木材パルプ(NBKP:カナダ標準濾水度480ml)、マニラ麻、及び上記マイクロカプセル分散液を各々の固形比率が35:35:30になるように混合し、分散濃度1.0%で30分間分散した後、市販のカチオン系歩留向上剤を添加し、円網抄紙機で乾燥質量で25g/m2のウェブを抄造し、表面温度130℃のシリンダードライヤーで乾燥してシートを作製した。作製したシートをポリエステル繊維から成る帽子内壁に張り付けて実施例4の帽子を得た。
【0032】
(比較例1)
実施例2で用いたポリエステル繊維からなる布帛を加工して比較例1の帽子を得た。
【0033】
(比較例2)
マイクロカプセル分散液を混合しない以外は実施例4と同様にして比較例2の帽子を得た。
【0034】
実施例1〜4と比較例1,2の帽子を各々、25℃の雰囲気下に8時間放置して蓄冷しておき、その後40℃雰囲気下に放置して、各々帽子天井部内壁の温度を計測したところ、実施例1〜4の帽子は何れも2時間経過しても天井部内壁温度は30℃付近を維持し、4時間経過しても34℃を超えることはなかった。これに対し比較例1,2の帽子は30分経過後には天井部内壁温度が32℃を超え、4時間後には34℃に至り、冷感の持続性は実施例1〜4に比べ劣る結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱材を内包するマイクロカプセルを担持せしめた熱中症予防具。
【請求項2】
該熱中症予防具の裏面に該マイクロカプセルを担持せしめたことを特徴とする請求項1記載の熱中症予防具。
【請求項3】
該マイクロカプセルが固形物であることを特徴とする請求項1または2記載の熱中症予防具。
【請求項4】
該マイクロカプセルを含浸または塗工されたシートを熱中症予防具の内部に取り付けたことを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の熱中症予防具。
【請求項5】
該蓄熱材の融点が約0〜40℃の範囲であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の熱中症予防具。

【公開番号】特開2007−31885(P2007−31885A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217740(P2005−217740)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】