説明

熱交換器、環境試験装置及び熱交換器の製造方法

【課題】防食被膜処理が施された伝熱管を有する熱交換器において、熱伝達効率の低下を抑制できるようにする。
【解決手段】熱交換器は、ヘアピン20及びUベント24を有する伝熱管と、ヘアピン20に外嵌される放熱フィン15と、第1被膜40及び第2被膜46を有する防食被膜48と、を備える。第1被膜40は、放熱フィン15が外嵌される部位を含めてヘアピン20の外周面に密着するように形成され、第2被膜46は、放熱フィン15において第1被膜40に接触する部位の周囲を覆うとともに第1被膜40に密着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器、環境試験装置及び熱交換器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されているように、伝熱管に耐食性被覆処理が施された熱交換器が知られている。この特許文献1に開示された熱交換器では、銅パイプからなる伝熱管に耐食性の被膜処理が施されており、この被膜材料としては、アルミ粉含有塗料(銀粉塗料)又はカーボン塗料が用いられている。この熱交換器において、伝熱管に放熱フィンを組み付けるには、多数の放熱フィンに、被膜処理が施された銅パイプを通し、この状態で銅パイプ内に拡管プラグを圧挿することにより銅パイプを拡管させる。これにより、銅パイプに放熱フィンを圧着接合することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−208494号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記特許文献1の熱交換器の製造方法では、被膜処理が施された銅パイプを拡管させることによって放熱フィンを接合させるようにしている。このため、使用時の温度変化によって伝熱管が膨張、収縮することにより、放熱フィンと伝熱管との間に隙間ができる虞があり、その場合、伝熱管と放熱フィンとの熱伝達効率が低下するという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、防食被膜処理が施された伝熱管を有する熱交換器において、熱伝達効率の低下を抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するため、本発明は、第1管材と、この第1管材に接合された第2管材とを有する伝熱管と、前記第1管材に外嵌される放熱フィンと、第1被膜及び第2被膜を有する防食被膜と、を備え、前記第1被膜は、前記放熱フィンが外嵌される部位を含めて前記第1管材の外周面に密着するように形成され、前記第2被膜は、前記放熱フィンにおいて前記第1被膜に接触する部位の周囲を覆うとともに前記第1被膜に密着している熱交換器である。
【0007】
本発明では、第2被膜が、放熱フィンにおいて第1被膜に接触する部位の周囲を覆っている。言い換えると、第1管材において放熱フィンが外嵌される部位が第2被膜によって覆われる。このため、第2被膜の存在する分だけ、伝熱管の第1管材と放熱フィンとの間の伝熱面積が増加する。しかも、第1被膜と第2被膜とが密着することにより、第1被膜と放熱フィンとの接合力が補強され、この結果、使用時の温度変化によって伝熱管が膨張、収縮したとしても、放熱フィンと伝熱管との間の熱伝達経路を確保することができる。したがって、経時変化によって熱伝達効率が低下することを抑制することができる。また、第1被膜と第2被膜との接着効果により、放熱フィンの接合強度を増大させることができる。また、第1管材と放熱フィンとの間の隙間に油分や薬液が残留すること防止することができる。また、第1被膜が形成された第1管材に放熱フィンを外嵌し、その上で第2被膜が形成されるので、管材の脱脂不良に起因するピンホールの発生を防止することができる。
【0008】
ここで、前記放熱フィンが外嵌されているところでの前記第1被膜の厚みは、その他の部位での前記第1被膜の厚みよりも薄くてもよい。この態様では、伝熱管の第1管材と放熱フィンとがより近づくため、熱伝達効率をより向上することができる。
【0009】
また、前記第2被膜は、前記放熱フィンの外面を全て覆うように形成されていてもよい。この態様では、多数のフィンの全体に一括して第2被膜を塗装することができるので、熱交換器の製造コストを抑えることができる。また、放熱フィンの素材を耐食素材に限る必要がなくなるため、素材選択の自由度を向上することができる。
【0010】
また、前記第2被膜は、前記放熱フィンにおいて前記第1被膜に接触する部位の周囲に加え、前記放熱フィンの周縁部にも形成されていてもよい。この態様では、放熱フィンの成形時に切断面がむき出しになる放熱フィン周縁部を覆うように第2被膜が形成されるため、放熱フィンの腐食を効果的に防止することができる。
【0011】
また、前記第2被膜は、前記第2管材の外面にも形成されていてもよい。この態様では、第2管材についても耐食性を発揮させることができる。
【0012】
また、前記防食被膜は、カチオン電着塗装、ニッケル・フッ素樹脂の複合めっき又はフッ素樹脂コーティングによって形成された被膜であってもよい。この態様では、熱交換器の構造によらず、膜厚を一定の厚みにすることができる。また、VOC(揮発性物質)が発生しないため、環境試験装置に使用される場合であっても、試料に悪影響を与えないようにすることができる。
【0013】
本発明は、試験室と空調室とを備え、前記空調室には、前記熱交換器が設けられ、前記熱交換器で熱交換された空気が前記試験室に導入される環境試験装置である。
【0014】
本発明は、熱交換器の製造方法であって、伝熱管用の第1管材の外周面に密着するように防食用の第1被膜を設ける第1被覆工程と、前記第1被膜が設けられた前記第1管材に放熱フィンを外嵌するフィン取付工程と、前記放熱フィンが外嵌された前記第1管材に第2管材を接合して伝熱管を形成する伝熱管形成工程と、前記放熱フィンにおいて前記第1被膜に接触する部位の周囲を覆うとともに前記第1被膜に密着するように、防食用の第2被膜を設ける第2被覆工程と、前記第1被膜及び前記第2被膜を硬化させる焼付け工程と、が含まれている熱交換器の製造方法である。
【0015】
本発明による熱交換器の製造方法では、第1管材の外周面に防食用の第1被膜を設け、その後、第1管材に放熱フィンを外嵌するとともに、第1管材に第2管材を接合して伝熱管を形成する。そして、放熱フィンにおいて第1被膜に接触する部位の周囲を覆うように第2被膜を形成する。このため、第2被膜の存在する分だけ、伝熱管の第1管材と放熱フィンとの間の伝熱面積が増加する。これにより、経時変化によって熱伝達効率が低下することを抑制することができる熱交換器を得ることができる。
【0016】
前記フィン取付工程では、前記放熱フィンが外嵌されているところでの前記第1被膜の厚みが、その他の部位での前記第1被膜の厚みよりも薄くなるように前記放熱フィンを前記第1管材に外嵌するようにしてもよい。
【0017】
前記第2被覆工程では、前記放熱フィンの外面を全て覆うように前記第2被膜を形成するようにしてもよい。この態様では、多数のフィンの全体に一括して第2被膜を塗装することができるので、熱交換器の製造コストを抑えることができる。
【0018】
また、前記第2被覆工程では、前記放熱フィンにおいて前記第1被膜に接触する部位の周囲に加え、前記放熱フィンの周縁部にも前記第2被膜を形成するようにしてもよい。
【0019】
また、前記伝熱管形成工程では、U字状に曲げられた形状の前記第2管材を前記第1管材に接合し、前記第2被覆工程では、前記第2管材にも前記第2被覆を形成するようにしてもよい。この態様では、第2管材に第2被膜を形成する前に、第2管材は予めU字状に曲げ加工される。このため、第2管材の曲がり変形に伴って膜厚が薄くなることを回避することができる。
【0020】
また、前記第1被覆工程では、前記第1被膜をカチオン電着塗装により形成し、前記第2被覆工程では、前記第2被膜をカチオン電着塗装により形成し、前記製造方法には、前記フィン取付工程の前に前記第1被膜を半硬化した状態にする予備加熱工程が含まれていてもよい。この態様では、第1被膜及び第2被膜のいずれをもカチオン電着塗装によって形成するので、第1被膜及び第2被膜のむらを防止することができる。また、被膜は管材の地金の部分に、より形成され易いため、第2被覆工程において、第1被膜が形成されている部分と地金の部分に同じ厚みの第2被膜が形成されることを防止することができる。また、第2被覆工程の際には、第1被膜が半硬化した状態となっているため、第1被膜と第2被膜とを密着させ易くすることができる。また、フィン取付工程においては、第1被膜が半硬化した状態となっているため、放熱フィンの外嵌時に組み立て易く、また第1管材を拡管加工するとしても、被膜のひび割れを効果的に防止することができる。
【0021】
また、前記第1被覆工程では、前記第1被膜をカチオン電着塗装により形成し、前記第2被覆工程では、前記第2被膜をカチオン電着塗装により形成し、前記焼付け工程には、前記第1被膜を硬化させる第1硬化工程と、前記第2被膜を硬化させる第2硬化工程とが含まれており、前記第1硬化工程は前記フィン取付工程の前に行われ、前記第2硬化工程は前記第2被覆工程の後に行われるようにしてもよい。この態様では、第1被膜が第1硬化工程において硬化する一方、第2被膜が第2硬化工程において硬化する。そして、第1被膜及び第2被膜のいずれもカチオン電着塗装によって形成するので、第1被膜及び第2被膜のむらを防止することができる。また、被膜は管材の地金の部分に、より形成され易いため、第2被覆工程において、第1被膜が形成されている部分と地金の部分に同じ厚みの第2被膜が形成されることを防止することができる。また、フィン取付工程においては、第1被膜が既に硬化しているが、この構成においても、放熱フィンを取り付けるべく第1管材を拡管加工する場合において、被膜の弾力性により第1被膜のひび割れを防止することができる。
【0022】
また、前記第1被覆工程及び前記第2被覆工程では、前記第1被膜及び前記第2被膜をニッケル・フッ素樹脂の複合めっき又はフッ素樹脂コーティングによって形成するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、防食被膜処理が施された伝熱管を有する熱交換器において、熱伝達効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る熱交換器の斜視図である。
【図2】前記熱交換器に設けられ、表面に第1被膜を有するヘアピンの断面図である。
【図3】前記ヘアピンが放熱フィンに挿通された状態を示す断面図である。
【図4】前記ヘアピンが拡管された状態を示す断面図である。
【図5】図4の一部拡大図である。
【図6】前記ヘアピンにUベントが接続された状態を示す断面図である。
【図7】伝熱管及び放熱フィンに第2被膜が形成された状態を示す断面図である。
【図8】図7のA部を拡大した図である。
【図9】前記熱交換器が設けられる環境試験装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係る熱交換器10の斜視図であり、同図に示すように、この熱交換器10は、伝熱管12と放熱フィン15とを有する、いわゆるフィン・アンド・チューブ式の熱交換器である。
【0027】
伝熱管12は、第1管材であるヘアピン20(図2参照)と、第2管材であるUベント24と、を有する。ヘアピン20及びUベント24は、何れもU字状に曲げられた銅管である。Uベント24の一方の端部にヘアピン20の一方の端部を接合する一方、Uベント24の他方の端部に別のヘアピン20の端部を接合している。複数のヘアピン20,20,・・及びUベント24,24,・・を順次繋げていくことにより、蛇行した形状の1本の伝熱管12が形成される。図例では、この伝熱管12が2本設けられた熱交換器10を示しているが、この構成に限られるものではない。
【0028】
放熱フィン15は、アルミニウム製又はアルミニウム合金製の平板によって構成されており、この平板に穴あけ加工及びバーリング加工を施すことにより、図3に示すように、放熱フィン15には、多数の貫通孔15aが形成されるとともに、貫通孔15aの周囲が一方向に曲がった状態のフランジ部26が形成されている。そして、フランジ部26が同じ方向に突出するように多数の放熱フィン15が所定の間隔をおいて放熱フィン15の厚み方向に並べられ、この状態で各放熱フィン15の貫通孔15aにそれぞれヘアピン20の直線部20aが挿通されている。
【0029】
複数(図例では2本)の伝熱管12,12の端部は、ヘッダ28に接続されており、このヘッダ28は、流れてきた熱媒体を各伝熱管12に分配し、また、各伝熱管12を流れてきた熱媒体を合流させるようになっている。ヘッダ28は、外部の配管(図示省略)に接続される。
【0030】
ここで、本実施形態に係る熱交換器10の製造方法について説明する。
【0031】
図2に示すように、ヘアピン20は、湾曲した湾曲部20bを中央部に有しており、この湾曲部20bの一端部から直線部20aが延びるとともに、湾曲部20bの他端部からも直線部20aが延びている。これら2つの直線部20a,20aは互いに平行となっている。このヘアピン20には、外周面に密着するように防食用の第1被膜40が設けられる。この第1被膜40は、両直線部20a,20aの端部の除いたヘアピン20の全体に亘って形成される。なお、第1被膜40が形成されない端部は、Uベント24を接合するための部位である。
【0032】
ヘアピン20に第1被膜40を形成する第1被覆工程では、例えばカチオン電着塗装によってヘアピン20の所定部位の外周面に塗膜を形成する。すなわち、銅管をU字状に曲げてヘアピン20とした上で、外周面に塗膜を形成する。
【0033】
カチオン電着塗装では、電着槽(図示省略)内に貯溜された水溶性の電着塗料中に陽極電極(図示省略)を配置するとともに、この電着塗料中にヘアピン20(被塗装物)を浸漬し、この状態で、陽極電極とヘアピン20との間に直流電流が印加される。これにより、ヘアピン20の外表面に塗膜(第1被膜40)が形成される。
【0034】
そして、ヘアピン20を電着槽から取り出すとともに加熱し、ヘアピン20外周面上の塗膜(第1被膜40)を半硬化させる(予備加熱工程)。この予備加熱工程では、第1被膜40が表面に形成されたヘアピン20を約40〜70℃の雰囲気下に曝すことにより、第1被膜40を半硬化させる。この半硬化した状態とは、具体的には、指で触ると指紋が付かない程度に固まった軟質の状態、又は塗料が自重で垂れない程度の軟質の状態である。第1被膜40は、例えば20μm程度の厚みに形成されている。ヘアピン20は、第1被膜40を形成する前に予め所定の形状に曲げられているので、第1被膜40を形成してから曲げ加工する必要はない。なお、塗料は、アクリル樹脂系塗料、エポキシ樹脂系塗料、フッ素樹脂系塗料の何れであってもよい。
【0035】
次に、ヘアピン20に放熱フィン15を外嵌する(フィン取付工程)。このフィン取付工程には、放熱フィン15の貫通孔15aにヘアピン20を挿通する挿通工程と、放熱フィン15の貫通孔15aに挿通されたヘアピン20の直線部20aを拡げて放熱フィン15に接合させる接合工程とが含まれる。
【0036】
挿通工程は、図3に示すように、多数の放熱フィン15,15,・・を所定間隔をおいて配置し、これらの放熱フィン15,15,・・の貫通孔15a,15a,・・に、第1被膜40を有するヘアピン20を順次挿通する。この段階では、ヘアピン20の直線部20aの外径が貫通孔15aの内径よりも小さくなっているので、放熱フィン15における貫通孔15aの内周面と、ヘアピン20の直線部20a上の第1被膜40の外面との間に隙間が形成されている。したがって、ヘアピン20を貫通孔15aに挿通する際に、第1被膜40が傷付けられることを防止できる。
【0037】
接合工程では、図4に示すように、ヘアピン20の直線部20aを拡げて放熱フィン15に接合する。直線部20aを拡げるために、拡管用部材43が用いられる。この拡管用部材43をヘアピン20内に挿入することにより、直線部20aが押し拡げられて外径が大きくなる。これにより、直線部20aが第1被膜40を介して放熱フィン15のフランジ部26の内周面に当接し、ヘアピン20と放熱フィン15とが第1被膜40を挟んだ状態で接合される。このとき、図5に示すように、フランジ部26に接触したところでは、第1被膜40が押しつぶされて、第1被膜40の厚みがその他の部位での第1被膜40の厚みよりも薄くなる。フランジ部26によって第1被膜40が押しつぶされる厚みは5μm程度である。このように、第1被膜40は、放熱フィン15が外嵌される部位を含めてヘアピン20の直線部20aの外周面に密着するように形成されている。
【0038】
次に、図6に示すように、第1被膜40の形成されていないヘアピン20の端部にUベント24を接続して伝熱管12を形成する(伝熱管形成工程)。この工程では、ヘアピン20の端部にUベント24の端部を嵌め、両者の接合部を溶接することにより、ヘアピン20とUベント24とを接続する。この接続時には、ヘアピン20の端部のうち、第1被膜40が形成されていない部分が一部露出していてもよい。
【0039】
そして、図7に示すように、伝熱管12及び放熱フィン15に第2被膜46を形成する(第2被覆工程)。この工程では、例えばカチオン電着塗装によって塗膜(第2被膜46)を形成する。本実施形態では、伝熱管12及び放熱フィン15を電着槽(図示省略)内の電着塗料中に浸漬するため、第1被膜40及び第2被膜46によって放熱フィン15及びUベント24の外面が全て覆われるように、第2被膜46が形成される。
【0040】
第2被膜46もカチオン電着塗装によって形成する場合には、第2被膜46は、主として第1被膜40の形成されていない部位や伝熱管形成工程で損傷した部位に形成される。また、例えば放熱フィン15の外面については、第1被膜40と接触している部位の周囲にも第2被膜46が形成される。そして、第2被膜46は、放熱フィン15のフランジ部26において第1被膜40から離間した部位(先端部)と第1被膜40との間の間隙を埋めるように形成されて第1被膜40と密着する。その周辺(例えばフランジ部26の先端部周辺)では、第2被膜46が盛り上がり、そこでの第2被膜46の厚みは、図8にも示すように、他の部位での厚みよりも厚くなる。これにより、第2被膜46は、放熱フィン15において第1被膜40に接触する部位の周囲を覆うように第1被膜40に密着する形態となる。このとき、第1被膜40及び第2被膜46は、直線部20aの外周面において周方向の全体に亘って同様の形態となっている。そして、第1被膜40が半乾き状態にあるため、第2被膜46は第1被膜40に密着しやすい。なお、第2被覆工程では、Uベント24が既に曲げられた状態となっているため、第2被膜46を形成した後に、Uベント24を曲げ加工をする必要がない。このため、後加工において第2被膜46の厚みが薄くなるということはない。
【0041】
そして、第1被膜40及び第2被膜46を硬化させる焼付け処理を行う(焼付け工程)。この焼付け工程では、伝熱管12に放熱フィン15が組み付けられた組付け体を約80〜300℃の雰囲気下に曝すことにより、第1被膜40及び第2被膜46を硬化させる。これにより、伝熱管12及び放熱フィン15に、第1被膜40と第2被膜46とを有する防食被膜48が形成された状態とする。そして、ヘッダ28を接続することにより、熱交換器10が完成する。
【0042】
本実施形態の熱交換器10は、例えば図9に示すように、環境試験装置50の中で使用することができる。この環境試験装置50は、試料を収納可能な試験室52と、この試験室52内の空気の温度及び湿度を調整するための空調室54と、を備え、例えば恒温恒湿槽として構成されている。空調室54には、加湿器56と、本実施形態の熱交換器10と、加熱器58と、送風機60とが配設されている。この熱交換器10は、空気を冷却する冷却器として用いられる。なお、加熱器58を、本実施形態の熱交換器10によって構成してもよい。
【0043】
なお、環境試験装置50は、前記の一槽式に限られるものではなく、熱衝撃試験装置等の三槽式の環境試験装置50としてもよく、また、前記恒温恒湿槽に代えて、恒温槽として構成してもよい。
【0044】
以上説明したように、本実施形態の熱交換器10では、第2被膜46が、放熱フィン15において第1被膜40に接触する部位の周囲を覆っている。言い換えると、ヘアピン20において放熱フィン15が外嵌される部位が第2被膜46によって覆われる。このため、第2被膜46の存在する分だけ、伝熱管12の第1管材と放熱フィン15との間の伝熱面積が増加する。しかも、第1被膜40と第2被膜46とが密着することにより、第1被膜40と放熱フィン15との接合力が補強され、この結果、使用時の温度変化によって伝熱管12が膨張、収縮したとしても、放熱フィン15と伝熱管12との間の熱伝達経路を確保することができる。したがって、経時変化によって熱伝達効率が低下することを抑制することができる。また、第1被膜40と第2被膜46との接着効果により、放熱フィン15の接合強度を増大させることができる。また、ヘアピン20と放熱フィン15との間の隙間に油分や薬液が残留すること防止することができる。また、第1被膜40が形成されたヘアピン20に放熱フィン15を外嵌し、その上で第2被膜46が形成されるので、管材の脱脂不良に起因するピンホールの発生を防止することができる。
【0045】
本実施形態では、ヘアピン20において、放熱フィン15が外嵌されているところでの第1被膜40の厚みがその他の部での厚みよりも薄くなっているので、伝熱管12のヘアピン20と放熱フィン15とがより近づくため、熱伝達効率をより向上することができる。
【0046】
また本実施形態では、第2被膜46が放熱フィン15の外面を全て覆うように形成されているので、多数のフィン15の全体に一括して第2被膜46を塗装することができる。このため、熱交換器10の製造コストを抑えることができる。また、放熱フィン15の素材を耐食素材に限る必要がなくなるため、素材選択の自由度を向上することができる。
【0047】
また本実施形態では、第2被膜46がUベント24の外面にも形成されているので、Uベント24についても耐食性を発揮させることができる。
【0048】
また本実施形態では、焼付け前の第2被膜46を、放熱フィン15において第1被膜40に接触する部位の周囲を覆うように形成する。そして、第1被膜40及び第2被膜46の焼付け処理をする。このため、第1被膜40と第2被膜46とを密着させ易くすることができる。また、経時変化によって熱伝達効率が低下することを抑制することができる熱交換器10を得ることができる。
【0049】
また本実施形態では、伝熱管形成工程において、U字状に曲げられた形状のUベント24をヘアピン20に接合する。すなわち、Uベント24に第2被膜46を形成する前に、Uベント24は予めU字状に曲げ加工されているので、第2被膜46の形成後にUベント24の曲げ加工をする必要がない。このため、Uベント24の曲がり変形に伴って膜厚が薄くなることを回避することができる。
【0050】
また本実施形態では、第1被膜40及び第2被膜46のいずれをもカチオン電着塗装によって形成するので、第1被膜40及び第2被膜46のむらを防止することができる。また、被膜は管材の地金の部分に、より形成され易いため、第2被覆工程において、第1被膜40が形成されている部分と地金の部分に同じ厚みの第2被膜46が形成されることを防止することができる。また、第2被覆工程の際には、第1被膜40が半硬化した状態となっているため、第1被膜40と第2被膜46とを密着させ易くすることができる。また、フィン取付工程においては、第1被膜40が半硬化した状態となっているため、放熱フィン15の外嵌時にヘアピン20を拡管加工するとしても、被膜のひび割れを効果的に防止することができる。
【0051】
なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。例えば、放熱フィン15がヘアピン20と部分的に接触する部位を有する構成としてもよい。
【0052】
また、前記実施形態では、第2被膜46が放熱フィン15の全体を覆うように形成される構成としたが、この構成に限られるものではない。第2被膜46は、例えば、放熱フィン15が第1被膜40と接触する部位の周囲以外に、放熱フィン15の周縁部のみに形成するようにしてもよい。この構成では、放熱フィン15の成形時に切断面がむき出しになる放熱フィン15周縁部(平板の周縁部)を覆うように第2被膜46が形成されるため、放熱フィン15の腐食を効果的に防止することができる。
【0053】
また、放熱フィン15が耐食素材によって形成される場合には、放熱フィン15の第2被膜46は、第1被膜40との接触部の周囲のみに形成するようにしてもよい。この場合において、接合されたUベント24にも第2被膜46を形成すればよい。そうすれば、Uベント24においても耐食性を発揮させることができる。
【0054】
前記実施形態では、第1被覆工程において、第1被膜40を半硬化状態としたが、これに限られるものではない。例えば、焼付け工程には、第1被膜40を硬化させる第1硬化工程と、第2被膜46を硬化させる第2硬化工程とが含まれており、第1硬化工程がフィン取付工程の前に行われる一方で、第2硬化工程が第2被覆工程の後に行われるようにしてもよい。この場合には、第1被膜40が形成されて、電着槽から取り出されたヘアピン20を約80〜300℃の雰囲気下に配置することにより、第1被膜40を完全に硬化させるようにすればよい。そして、このヘアピン20に放熱フィン15を取り付ければよい。また、第2硬化工程では、第1被膜40及び第2被膜46が形成された組付け体を約80〜300℃の雰囲気下に配置させることにより、第2被膜46を硬化させる。この製造方法では、第1被膜40及び第2被膜46のいずれをもカチオン電着塗装によって形成するので、第1被膜40及び第2被膜46のむらを防止することができる。また、被膜は管材の地金の部分に、より形成され易いため、第2被覆工程において、第1被膜40が形成されている部分と地金の部分に同じ厚みの第2被膜46が形成されることを防止することができ、全体として均一な厚みの防食被膜を得ることができる。また、フィン取付工程においては、第1被膜40が既に硬化しているが、この構成においても、放熱フィン15を取り付けるべくヘアピン20を拡管加工する場合に、第1被膜40のひび割れを防止することができる。
【0055】
前記実施形態では、ヘアピン20に第1被膜40を形成した後、予備加熱(予備加熱工程)又は加熱(第1硬化工程)を行うようにしたが、これに限られるものではない。すなわち、ヘアピン20に第1被膜40のための塗料を塗装した後、予備加熱や加熱を行わずに、放熱フィン15を組み付け、その後、第2被膜46を形成して焼付けを行うようにしてもよい。
【0056】
前記実施形態では、放熱フィン15及びUベント24には第1被膜40を形成しない構成について説明したが、これに限られるものではなく、例えば、放熱フィン15及びUベント24の少なくとも一方に第1被膜40を形成してもよい。この場合、ヘアピン20の端部(第1被膜40が形成されていない部位)及び溶接部には第2被膜46のみが形成されることとなる。
【0057】
前記実施形態では、第1被膜40及び第2被膜46をカチオン電着塗装によって形成する方法について説明したが、第1被膜40及び第2被膜46をニッケル・フッ素樹脂の複合めっき又はフッ素樹脂コーティングによって形成するようにしてもよい。ニッケル・フッ素樹脂の複合めっきは、ニッケル(Ni)を主体として最大38%のフッ素樹脂を含有するとともに多層共重合体構造を有する塗膜を表面に形成するコーティング処理である。このコーティング処理も、電着によるコーティングである。一方、フッ素樹脂コーティングは、静電粉体塗料を吹き付ける方法(静電吸着法)や、めっきによる方法を利用できる。
【符号の説明】
【0058】
10 熱交換器
12 伝熱管
15 放熱フィン
15a 貫通孔
20 ヘアピン
20a 直線部
20b 湾曲部
24 Uベント
26 フランジ部
28 ヘッダ
40 第1被膜
46 第2被膜
48 防食被膜
50 環境試験装置
52 試験室
54 空調室
56 加湿器
58 加熱器
60 送風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1管材と、この第1管材に接合された第2管材とを有する伝熱管と、
前記第1管材に外嵌される放熱フィンと、
第1被膜及び第2被膜を有する防食被膜と、を備え、
前記第1被膜は、前記放熱フィンが外嵌される部位を含めて前記第1管材の外周面に密着するように形成され、
前記第2被膜は、前記放熱フィンにおいて前記第1被膜に接触する部位の周囲を覆うとともに前記第1被膜に密着している熱交換器。
【請求項2】
前記放熱フィンが外嵌されているところでの前記第1被膜の厚みは、その他の部位での前記第1被膜の厚みよりも薄い請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記第2被膜は、前記放熱フィンの外面を全て覆うように形成されている請求項1又は2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記第2被膜は、前記放熱フィンにおいて前記第1被膜に接触する部位の周囲に加え、前記放熱フィンの周縁部にも形成されている請求項1又は2に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記第2被膜は、前記第2管材の外面にも形成されている請求項1から4の何れか1項に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記防食被膜は、カチオン電着塗装、ニッケル・フッ素樹脂の複合めっき又はフッ素樹脂コーティングによって形成された被膜である請求項1から5の何れか1項に記載の熱交換器。
【請求項7】
試験室と空調室とを備え、
前記空調室には、請求項1から6の何れか1項に記載の熱交換器が設けられ、
前記熱交換器で熱交換された空気が前記試験室に導入される環境試験装置。
【請求項8】
熱交換器の製造方法であって、
伝熱管用の第1管材の外周面に密着するように防食用の第1被膜を設ける第1被覆工程と、
前記第1被膜が設けられた前記第1管材に放熱フィンを外嵌するフィン取付工程と、
前記放熱フィンが外嵌された前記第1管材に第2管材を接合して伝熱管を形成する伝熱管形成工程と、
前記放熱フィンにおいて前記第1被膜に接触する部位の周囲を覆うとともに前記第1被膜に密着するように、防食用の第2被膜を設ける第2被覆工程と、
前記第1被膜及び前記第2被膜を硬化させる焼付け工程と、が含まれている熱交換器の製造方法。
【請求項9】
前記フィン取付工程では、前記放熱フィンが外嵌されているところでの前記第1被膜の厚みが、その他の部位での前記第1被膜の厚みよりも薄くなるように前記放熱フィンを前記第1管材に外嵌する請求項8に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項10】
前記第2被覆工程では、前記放熱フィンの外面を全て覆うように第2被膜を形成する請求項8又は9に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項11】
前記第2被覆工程では、前記放熱フィンにおいて前記第1被膜に接触する部位の周囲に加え、前記放熱フィンの周縁部にも前記第2被膜を形成する8又は9に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項12】
前記伝熱管形成工程では、U字状に曲げられた形状の前記第2管材を前記第1管材に接合し、
前記第2被覆工程では、前記第2管材にも前記第2被覆を形成する請求項8から11の何れか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項13】
前記第1被覆工程では、前記第1被膜をカチオン電着塗装により形成し、
前記第2被覆工程では、前記第2被膜をカチオン電着塗装により形成し、
前記フィン取付工程の前に前記第1被膜を半硬化した状態にする予備加熱工程が含まれている請求項8から12の何れか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項14】
前記第1被覆工程では、前記第1被膜をカチオン電着塗装により形成し、
前記第2被覆工程では、前記第2被膜をカチオン電着塗装により形成し、
前記焼付け工程には、前記第1被膜を硬化させる第1硬化工程と、前記第2被膜を硬化させる第2硬化工程とが含まれており、
前記第1硬化工程は前記フィン取付工程の前に行われ、前記第2硬化工程は前記第2被覆工程の後に行われる請求項8から12の何れか1項に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項15】
前記第1被覆工程及び前記第2被覆工程では、前記第1被膜及び前記第2被膜をニッケル・フッ素樹脂の複合めっき又はフッ素樹脂コーティングによって形成する請求項8から12の何れか1項に記載の熱交換器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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