説明

熱交換器の製造方法

【課題】耐食性が向上した熱交換器を提供することである。
【解決手段】チューブ30を有したインタークーラ1の製造方法において、チューブ30にアウターフィン40を固定する前に、チューブ30を構成するプレート130の最外層にある犠牲層132の表面に樹脂を塗布するステップと、塗布された樹脂が硬化する前に、下面に凹部61及び凸部62が形成された板部材60の凸部62を樹脂に、凸部62がプレート130と接触しないようにプレート130及び板部材60間で一定のクリアランスを保持して押し付けるステップと、樹脂から板部材60を取り外すステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、一般的に、チューブとフィンとを有したものが知られている。特許文献1及び2には、熱交換器としてEGRクーラに関する技術が開示されている。このような熱交換器に用いられるチューブは、耐食性を向上させるべく、チューブの最外層に犠牲層を設けることが従来から知られている。例えば、Al−Mn径合金からなるチューブの芯材に、Al−Zn系合金から成る犠牲層を設けることにより、チューブの芯材の電位は、犠牲層に対して貴となり、その結果、チューブの耐食性は、犠牲層陽極効果によって向上する。
【0003】
【特許文献1】特開平11−24691号公報
【特許文献2】特開2003−184659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
耐食性を更に向上させるべく、チューブの犠牲層表面(チューブ表面)に、樹脂をコーティングすることが考えられる。しかしながら、樹脂に気泡が混入した状態のまま樹脂が硬化する恐れがある。この場合、気泡が混入した部分は空洞となり、この空洞部分周辺の樹脂が腐食すると、樹脂に孔があき、犠牲層の表面の一部分が露出する恐れがある。このような場合には、チューブの腐食が進行しやすくなり、熱交換器の耐食性が低下する。
【0005】
したがって本発明の目的は、耐食性が向上した熱交換器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、チューブを有した熱交換器の製造方法において、前記チューブにフィンを固定する前に、前記チューブを構成するプレートの最外層にある犠牲層の表面に樹脂を塗布するステップと、塗布された前記樹脂が硬化する前に、所定の面に凹凸部が形成された板部材の前記凸部を前記樹脂に、前記凸部が前記プレートと接触しないように前記プレート及び板部材間で一定のクリアランスを保持して押し付けるステップと、前記樹脂から前記板部材を取り外すステップとを含む、ことを特徴とする熱交換器の製造方法によって達成できる。
【0007】
この構成により、樹脂内の気泡を抜くことができ、プレート表面をコーティングすることができる。これにより、チューブの耐食性が向上するので、耐食性に優れた熱交換器を提供できる。
【0008】
上記構成において、前記塗布するステップは、前記板部材内に形成された樹脂供給通路を介して、前記プレート表面に前記樹脂を塗布する、構成を採用できる。
【0009】
上記構成において、前記樹脂が硬化する前に、前記板部材内に形成されたエア吸引通路を介して、前記凹部と前記樹脂との間の空間内の空気を吸引するステップを有した、構成を採用できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐食性が向上した熱交換器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面を用いて本発明の実施形態について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、インタークーラ1の正面図である。インタークーラ1は、過給機付きエンジンにおいて、過給の効果を引き出すために、圧縮した吸入空気を冷却するためのものである。インタークーラ1は、熱交換器の一種である。インタークーラ1は、タンク10a、10b、コア20などから構成される。タンク10a、10bには、それぞれ吸気入口11a、吸気出口11bが形成されている。図2は、コア20の構成を示した斜視図である。コア20は、扁平状のチューブ30と波状のアウターフィン40とが交互に積層されて構成されている。チューブ30内には、インナーフィン31が配設されている。アウターフィン40は、チューブ30にロウ付けにより接合されており、チューブ30内を流れる吸気と、チューブ30間を流れる冷却風との熱交換を促進するものである。チューブ30の両端側には、チューブ30の積層方向に延びたタンク10a、10bがそれぞれ設けられている。タンク10aは、吸気入口11aが過給機に接続され、過給機から圧送された吸気を各チューブ30へと分配する。タンク10bは、吸気出口11bがエンジンの吸気ポートに接続され、チューブ30から流出する吸気をエンジンの吸気ポートへと送り出す。
【0013】
図3は、アウターフィン40とチューブ30との接合状態を示した図である。チューブ30は、2枚のプレートから構成される。図3には、そのうちの一枚のプレート130を示している。アウターフィン40は、ロウ付けによってプレート130に接合されている。ロウ付けをするためのロウ材には、4000番系のアルミ材を採用する。
【0014】
プレート130の層構造について説明する。図4は、プレート130の層構造の説明図である。プレート130は、ロウ付けする前においては、図4(A)に示すように、芯材131、犠牲層132、樹脂層133の層構造からなる。芯材131は、Al(アルミニウム)系合金からなる。犠牲層132は、Al‐Zn(アルミニウム‐亜鉛)系合金からなる。樹脂層133は、エポキシなどの樹脂からなる。犠牲層132よりも外側に樹脂層133が形成されている理由は、犠牲層132をコーティングすることによりプレート130の更なる耐食性の向上を図ろうとするものである。尚、樹脂層133を形成する際の従来の問題点については、後述する。プレート130にアウターフィン40を接合する際には、図4(B)に示すように、樹脂層133の表面に溶解したロウ材を塗布してロウ材層134を形成して接合する。
【0015】
次に、プレート130の表面に樹脂層133を形成する際の従来の問題点について説明する。図5は、プレート130の表面に樹脂層133を形成する際の従来の問題点の説明図である。プレート130の最外層に樹脂層133を形成するには、芯材131、犠牲層132の2層からなるプレート130の表面(犠牲層132の表面)に、スプレー又はどぶ漬けによって、樹脂を塗布する。このような樹脂は、例えば、常温で液体となるエポキシ樹脂に、硬化剤を添加したものである。
【0016】
硬化剤をエポキシ樹脂に添加した後は、硬化剤を攪拌する必要があるが、この攪拌の過程で、樹脂内に気泡が発生する恐れがある。樹脂内に気泡が閉じ込められたまま樹脂が硬化すると、気泡部分は空洞となり、この空洞部分の周辺が腐食して、図5に示すように、孔133dが発生する恐れがある。また、犠牲層132の表面に汚れが付着した状態で、樹脂が塗布された場合にも、孔133dが発生する恐れがある。このように、樹脂層133に孔133dが生じると、その箇所から犠牲層132が腐食する恐れがある。
【0017】
図6は、本実施例に係る製造方法の説明図である。図6(A)に示すように、最外層に犠牲層132が形成されたプレート130に対して、図6(B)に示すように、犠牲層132の表面に樹脂を塗布して樹脂層133を成形する。次に、図6(C)に示すように、樹脂層133の表面を犠牲層132へと押し付けるように、板部材60を樹脂層133の表面に押し付ける。板部材60は、上面が平面であるのに対し、下面には、凹部61及び凸部62が複数形成されている。板部材60は、金属材料により形成されている。
【0018】
次に、樹脂層133の表面に板部材60が押し付けられた場合について説明する。図7(A)に示すように、樹脂層133内には、気泡133bが混入している。この状態で、図7(B)に示すように、樹脂層133の硬化前に、板部材60を樹脂層133へと押し付ける。詳細には、板部材60を樹脂層133の表面に押し付ける際には、凸部62が、プレート130(犠牲層132の表面)に接しないように、治具により板部材60及びプレート130間が一定のクリアランスを保持した状態で押し付けられる。これにより、凸部62が、樹脂層133を犠牲層132の表面へと押し付けることになる。このように凸部62が樹脂層133の表面を押し付けた状態で、所定期間放置すると、樹脂層133内に巻きこまれた気泡133bが凹部61側へと浮上し、凹部61と樹脂層133との間の空間内へ放出される。このように、樹脂層133内の気泡133bの外部への放出を促進することができる。これにより、硬化後の樹脂層133の耐久性及び耐食性が向上し、このプレート130を用いてチューブ30を製造することにより、インタークーラ1の耐久性を向上させることができる。また、凸部62が硬化前の樹脂層133を犠牲層132側へと押し付けることにより、樹脂層133と犠牲層132との接合の強度を強めることができる。
【0019】
尚、板部材60を樹脂層133に押し付けた状態で所定期間経過した後は、板部材60を樹脂層133から取り外す。その後、プレート130を放置することにより、樹脂層133は常温で硬化し、犠牲層132の表面をコーティングすることができる。図8は、本実施例に係る製造方法により製造されたプレート130の説明図である。図8に示すように、樹脂層133の表面は、板部材60の凹部61、凸部62に対応するように凹凸状に形成される。このように凹凸状に形成された樹脂層133の表面に、前述したロウ材が塗布されることになる。
【実施例2】
【0020】
次に、実施例2に係る製造方法について説明する。図9は、実施例2に係る製造方法に用いられる板部材60aの上面図である。板部材60aには、内部に樹脂供給通路63、吸引通路64が形成されている。樹脂供給通路63は、板部材60aの上面に開口した樹脂導入口631と、板部材60aの長手方向に略直線状に延びたメイン通路63aと、メイン通路63aからそれぞれ分岐し、板部材60aの下面、詳細には、凸部62に開口した樹脂排出口632とを含む。樹脂排出口632は、複数の凸部62でそれぞれ開口している。また、吸引通路64は、板部材60aの上面に開口した吸引出口641と、板部材60aの長手方向に略直線状に延びたメイン通路64aと、メイン通路64aからそれぞれ分岐し、板部材60aの下面、詳細には、凹部61に開口した吸引入口642とを含む。吸引入口642は、複数の凹部61でそれぞれ開口している。また、樹脂供給通路63と吸引通路64とは、互いに連通しないように構成されている。
【0021】
図10(A)は、樹脂供給通路63を説明するための断面図であり、図10(B)は、吸引通路64を説明するための断面図である。実施例2に係る熱交換器の製造方法においては、図10(A)に示すように、犠牲層132の表面と一定のクリアランスを保持した状態で、樹脂導入口631から犠牲層132の表面をコーティングするための樹脂を圧送する。樹脂導入口631から圧送された樹脂は、樹脂供給通路63を通過して、各樹脂排出口632から犠牲層132へと排出される。これにより、犠牲層132に樹脂が塗布される。尚、圧送ポンプを用いて樹脂を圧送する。
【0022】
樹脂が犠牲層132の表面全体へといきわたり、凸部62が樹脂によって埋まり、凹部61内へと樹脂が流れ出す程度になると、圧送ポンプを停止して樹脂の圧送を停止する。このように、樹脂は、板部材60a内に形成された樹脂供給通路63を介して、プレート130の表面に塗布される。
【0023】
次に、その状態から、吸引出口641に吸引ポンプを接続して、吸引ポンプを作動させる。これにより、吸引入口642を介して、凹部61内の空気が吸引される。これにより、気泡133bが凹部61内へと放出された際の、樹脂層133と凹部61とに囲まれた空間内の圧力の増大を防ぐことができる。これにより、更に気泡133bの放出を促進することができる。また、吸引することにより、樹脂層133と凹部61とに囲まれた空間内の気圧が低下するので、気泡133bの樹脂層133からの放出を促進できる。尚、所定期間吸引を行った後、樹脂層133から板部材60aを取り外す。
【0024】
以上本発明の好ましい実施形態について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0025】
上記熱交換器の製造方法は、インタークーラ以外であってもよく、例えば、ラジエータや、EGRクーラであってもよい。
【0026】
上記実施例においては、プレート130の一方側の面にのみ、樹脂層を形成したが、プレート130の両面にこのような処理を施してもよい。
【0027】
尚、以上の説明に関して更に以下の付記を開示する。
(付記1)
熱交換器のチューブを製造するために用いられ、前記チューブを構成すると共に最外層に犠牲層を有した前記プレートの表面に樹脂を塗布した後に、前記樹脂を前記表面に押し付けるための板部材であって、
所定の面に形成された凹凸部と、
前記所定の面に一端が開口し、前記樹脂を前記表面に供給するための樹脂供給通路とを備えた、ことを特徴とする板部材。
(付記2)
熱交換器のチューブを製造するために用いられ、前記チューブを構成すると共に最外層に犠牲層を有した前記プレートの表面に樹脂を塗布した後に、前記樹脂を前記表面に押し付けるための板部材であって、
所定の面に形成された凹凸部と、
前記凹部に一端が開口し、前記凹部と前記樹脂との間の空間内の空気を吸引するためのエア吸引通路とを備えた、ことを特徴とする板部材。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】インタークーラの正面図である。
【図2】コアの構成を示した斜視図である。
【図3】アウターフィンとチューブとの接合状態を示した図である。
【図4】プレートの層構造の説明図である。
【図5】プレートの表面に樹脂層を形成する際の従来の問題点の説明図である。
【図6】本実施例に係る製造方法の説明図である。
【図7】樹脂層の表面に押し板が押し付けられた場合の説明図である。
【図8】本実施例に係る製造方法により製造されたプレートの説明図である。
【図9】実施例2に係る製造方法に用いられる押し板の上面図である。
【図10】樹脂供給通路及び吸引通路を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0029】
1 インタークーラ
10a、10b タンク
11a 吸気入口
11b 吸気出口
20 コア
30 チューブ
31 インナーフィン
40 アウターフィン
60、60a 板部材
61 凹部
62 凸部
63 樹脂供給通路
63a、63b メイン通路
64 吸引通路
130 プレート
131 芯材
132 犠牲層
133 樹脂層
133b 気泡
133d 孔
134 ロウ材層
631 樹脂導入口
632 樹脂排出口
641 吸引出口
642 吸引入口



【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブを有した熱交換器の製造方法において、
前記チューブにフィンを固定する前に、前記チューブを構成するプレートの最外層にある犠牲層の表面に樹脂を塗布するステップと、
塗布された前記樹脂が硬化する前に、所定の面に凹凸部が形成された板部材の前記凸部を前記樹脂に、前記凸部が前記プレートと接触しないように前記プレート及び板部材間で一定のクリアランスを保持して押し付けるステップと、
前記樹脂から前記板部材を取り外すステップとを含む、ことを特徴とする熱交換器の製造方法。
【請求項2】
前記塗布するステップは、前記板部材内に形成された樹脂供給通路を介して、前記プレート表面に前記樹脂を塗布する、請求項1に記載の熱交換器の製造方法。
【請求項3】
前記樹脂が硬化する前に、前記板部材内に形成されたエア吸引通路を介して、前記凹部と前記樹脂との間の空間内の空気を吸引するステップを有した、ことを特徴とする請求項1に記載の熱交換器の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−180432(P2009−180432A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20007(P2008−20007)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】