説明

熱交換器

【課題】
積層型熱交換器の伝熱性能を改善し、交換熱量と熱媒の循環に要する動力を所与として熱交換器の体積を最小化する伝熱フィンとその配列形態を見出す。
【解決手段】
伝熱フィンの幾何学パラメータと伝熱流動特性パラメータから成る伝熱性能指標χをもとにプレート上に形成された角に丸みを有する菱型フィンの仕様とその配列形態を最適化し、単位体積当たりの交換熱量が従来のプレートフィンより革新的に大きい積層型熱交換器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICパッケージ、ボイラーやラジエータなどの伝熱促進機器に関係する熱交換器に関するものであり、特に平板プレートを積層した型の熱交換器の伝熱流動特性の向上に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用の熱システムの小型化のために、熱交換器のコンパクト化が模索されている。なかでも、プレートフィン型熱交換器は、単位体積あたりの交換熱量が大のほか、材料と加工の選択により高い耐圧性、耐熱性を有することから、あらゆる規模の熱システムに広範に採用されつつある。
【0003】
図11、12に示すように、熱媒が通る流体通路溝2が片側に形成された複数の金属プレート1を、第一の熱媒が流れるプレート1aと第二の熱媒が流れるプレート1bに分別し、それらをプレート1の積層方向に流れの向きが略対向するように交互に配置し積層したのち、適正な雰囲気温度下で接合された積層型熱交換器4において、伝熱性能を損なうことなく熱媒の圧損損失を抑制する特殊な形状のフィン201が加工されたプレート1を有することを特徴とする熱交換器(特許文献1)が知られている。
【0004】
また、フィンの配列形態を検討する場合に、配列交差角に着目した熱交換器(特許文献2)が提案されている。しかし、これらを含めた従来の熱交換器の伝熱面の開発はかならずしもシステマティックに行われていなかった。
【0005】
例えば、文献1は渦の発生を抑制するフィン形状により圧力損失を低減しているが、コンパクト化に係る他の要因である伝熱係数やコンパクトネス(単位体積当たりの伝熱面積)との関連に注意が払われていない。また、フィン形状が複雑で加工に手間とコストがかかる。
【0006】
逆に、文献2はカルマン渦の発生条件に着目して流れに擾乱を加えて伝熱促進を期待するものであるが、一方で流れの擾乱は圧力損失の増加要因でもあることに注意が払われていないので、総合的にコンパクト化に寄与するかどうかは不明である。
【0007】
一般に熱交換器のサイズ等は、当該熱交換器を含むシステムから要請される1)交換熱量2)熱媒を駆動する動力を所与として熱交換器の容積あるいは重量の最小化(コンパクト化)を設計目標にする。しかし、従来は具体的な仕様を所与としてなされるのが通例で、理論的な検討は不十分であった。すなわち、伝熱面を構成する幾何学的パラメータ、伝熱流動の無次元パラメータなど熱交換器の容積の決定因子を包括的に含む指標が不明なために、新たな伝熱面の開発は試行錯誤的なものにならざるをえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−125767
【0009】
【特許文献2】特開1999−23177
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
著者の知見によれば、熱交換器の容積はプレート熱交換器の場合、伝熱性能指標

に依存し、

が大きいほど容積が小さい。ここで、a:熱交換器の単位体積当たりの伝熱面積、

:流路の空隙率、

:水力等価直径、

:無次元伝熱係数、

:圧力損失係数である。
そこで本発明は、上記した伝熱性能指標

が大の伝熱フィンの形状とその配列形態を見出し、高性能な熱交換器を提供することを目的とする。

【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、菱形フィン202の四個の角部8のうち、熱媒の平均流れの方向3にある二つの角部の少なくともひとつと流れに直交する方向に存在する二つの角部が丸みを有する伝熱フィン群が熱媒の平均的な流れの方向3に略千鳥状に配置されて伝熱面を構成する複数枚のプレート1を積層し相互に接合したことを特徴とする積層型熱交換器4。
【0012】
請求項2に記載の発明は、菱形フィン202の四個の角部が丸みを有する伝熱フィン群が熱媒の平均的な流れの方向3に略千鳥状に配置されて伝熱面を構成する複数枚のプレート1を積層し相互に接合したことを特徴とする積層型熱交換器4。
【0013】
請求項3に記載の発明は、角を丸く加工した菱形フィン203の熱媒の流れ方向3にある頂点を結ぶ線分の長さS,
9aと加工前の菱形フィン202の対角線の長さS0, 9bとの比R22が0.8<R<0.95の範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層型熱交換器4。
【0014】
請求項4に記載の発明は、角を丸く加工した菱形フィン203の高さH6と加工前のフィンの幅S014との比Tが0.5<T≦1の範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3に記載の積層型熱交換器4。
【0015】
請求項5に記載の発明は、角が丸い菱形フィン203の配列形態が、熱媒の平均的な流れの方向3に対して正負の方向に傾きを持つ平行線群をプレート面上に一定間隔H0、14で引き、該線群で挟まれる帯状の領域をひとつ置きに一定の深さで掘り込んだ後に形成されるフィン202の千鳥配列に略一致することを特徴とする請求項1または2に記載の積層型熱交換器4。
【発明の効果】
【0016】
請求項1または請求項2に記載の発明によれば、フィンの角をまるめることにより生じるコアンダ効果が、角を丸めない場合の角の背後に形成される流れの剥離18を防止し、その結果有効伝熱面積が増加し圧力損失が低減する。
【0017】
請求項3に記載の発明によれば、角部の曲率を指定された範囲内に選ぶことより伝熱性能指標χが最大値近傍の値をとり、熱交換器がもっともコンパクトになる。
【0018】
請求項4に記載の発明によれば、単位体積当たりの伝熱面積aの増大により交換熱量が増す効果が顕著になりコンパクト化に寄与する。
【0019】
請求項5に記載の発明によれば、主流が菱形フィン202の辺に平行な斜流を形成でき、圧力損失がさらに低減し熱交換器のコンパクト化に寄与する。

【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態である熱交換器に用いられる伝熱フィンの鳥瞰図
【図2】菱型フィン配列の平面図
【図3】角部を丸く加工した菱型フィン周りの熱媒のフローパターン
【図4】図4従来型のS字フィンと等価な水力径の変形菱型フィンの仕様の比較
【図5】角が丸い各種のフィン形状
【図6】各種菱型フィンの圧力損失係数のレイノルズ数依存性
【図7】各種菱型フィンの伝熱性能指標Xの比較
【図8】各種フィンの伝熱性能指標Xの棒グラフ
【図9】軸長比と伝熱性能指標の関係
【図10】フィン高さが伝熱性能指標に及ぼす影響
【図11】従来のプレートフィン型熱交換器の構成と典型的な伝熱フィンの形状
【図12】積層型熱交換器の流路直交断面
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下本発明を適用した具体的な実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0022】
本実施の形態では、図1に示すようにプレート1の片方の面に複数の伝熱フィン203が規則的に配置され、伝熱フィンの間に介在する空隙部が流体通路溝2を構成し熱媒が平均的に矢印の方向3に流れている。本実施例の熱交換器は、このようなプレート1の複数枚を、熱媒の流れが対向するように交互に積層して拡散接合されており、そのひとつ置きの平板プレートに形成された同一向きの流体通路溝2に流通する第一の熱媒10aと、それと対向する向きに流れる第二の熱媒10bとの間で熱交換するように構成されている。
【0023】
前記伝熱フィン203は菱形形状の頂点が丸みを有するように加工されていて、複数の伝熱フィンの平面配置は図2に示す菱形フィン202の重心位置10に重なるように設計されている。この菱形フィン群の形成は、熱交換器の軸方向に対して角度θ/2と-θ/2で等間隔H0に引かれた複数の平行線で囲まれた領域をひとつ置きに一定の深さで削り取る加工方法で得られる。楔角12がθの菱形フィンを千鳥配列したものになり、伝熱フィンの幅と幅方向に相隣る伝熱フィンの間隔14は共にH0となる。また、伝熱面を単位セル11の集合体とみなすことができ、図2に示すように長方形セル11の場合、軸方向長さ15はlax,幅方向長さ16はltr となる。このようなフィン配列では、主流の方向が熱交換器の軸方向に対して角度θ/2または-θ/2をとりえて、圧力損失の低下が期待され、さらにはフリップフロップ流れが誘起されることで非定常熱伝熱効果による伝熱係数の増加を期待できる。
【0024】
図3はこのようにして形成された伝熱面を熱媒が流れる場合の2種の伝熱フィン周りの二次元流速分布を示す。ひとつは角が鋭い菱形フィン、他は四つの角が丸みを有する菱形フィンである。丸みの程度の尺度である軸長比R、22はこの場合0.86である。乱流場では角が鋭い伝熱フィン202の幅方向の角の後縁に循環渦18(B-B矢視)が形成されているのに対し、角が丸い伝熱フィン203ではコアンダ効果により流れの付着が生じる結果循環渦が形成されない(A-A矢視)。
【0025】
図4は、水力等価直径が1.067mmの場合を例にとり、四つの角が丸く高さがフィン幅H0、13に等しいフィンXdf_fと従来のS字フィン201(以後SLフィンと称す)のセル構成パラメータの比較を示す。ここで、伝熱面積

は実伝熱面積すなわち、固体壁の接液部の全面積、水力等価直径

はフィンの空隙部体積

を用いて

で定義する。
図5は菱形から変形した各種フィンを示し、図6はこれらの圧力損失係数を示す。これより、圧力損失係数の値は、完全菱形フィンXds,202の値25がもっとも大きく、フィンの角を丸めたフィンXdf_f(軸長比R=0.86)の値26がもっとも小さい。このように、角の処理の有無は、伝熱流動特性に本質的な影響があることがわかる。循環渦18の抑制・制御が圧力損失係数の低下に寄与している。
【0026】
図7は、伝熱性能指標

とその構成因子a:熱交換器の単位体積当たりの伝熱面積、

:流路の空隙率、

:水力等価直径、

:無次元伝熱係数、

:圧力損失係数の値のフィン比較を示す。

を評価したレイノルズ数は7000である。完全菱形フィン202、Xds(以後Xフィンと称する)では、圧力損失係数の増大が無次元伝熱係数Nuの値の増加を上回るために、熱交換性能指標

が水力等価直径が等しいSLフィン201と比して14%低下し好ましくない。しかし、角を丸めた変形XフィンXdf_fでは逆に+15%、角が丸くさらにフィン高さ6を低くした変形XフィンXdf_sでは+86%の向上があり大幅な改善効果がある。
【0027】
図8は、各種フィンの

の比較を棒グラフで示す。角が鋭いXフィン202の値を用いて規格化してある。完全な菱型フィン202は従来フィン201よりもコンパクト性に劣るが、角を丸めて圧力損失を低減すると従来フィン201よりもコンパクトになる。図9は伝熱フィンの軸長比22、R=S/S0をパラメータにして

をプロットしたものである。これより、Rに最適値があることが分かる。従来のフィンの性能を越える範囲は0.8<R<0.95である。
【実施例2】
【0028】
図10は変形Xフィンの高さ6の影響を示す。フィン高さHが低くなると主として単位体積当たりの伝熱面積aの増加により、

は単調増加する。一方、底板の厚さは流体圧力により生じる応力がプレート材料の許容応力以下になるように決定され、フィンの高さとは無関係に定まるものである。この結果、H小で所要体積の増加が顕在化しaが低下する。この影響を破線で示す。したがって、フィン高さHについても最適値が存在し、その範囲はフィン高さの比T=H/H0を用いて、0.5<T≦1である。
【0029】
実施例1では平板プレート上の伝熱フィンを例示したが、プレートが曲面を形成してもよいし、折りたたみの構造であってもよい。曲面の構成の一例として高温熱媒と低温熱媒が流れる2種のプレートを重ね合わせたあとらせん状に巻き上げた構成の熱交換器であってもよい。このような構成は熱媒の圧力が低くプレートの底板7が薄い場合に有効である。さらに、楔角θの

に及ぼす影響について検討する。

において

はθによらず一定、また

が不変の場合



である。この項で

はθへの依存性が小さいがaは、θの単調増加関数である。これらの結果、例えば実施例1に示したθ=60度の総合的な伝熱性能指標は、θ=30度の約1.5倍になる。
【符号の説明】
【0030】
1 プレート
1a 第一の熱媒が流れるプレート
1b 第二の熱媒が流れるプレート
2
流体通路溝
2a 第一の熱媒の流体通路溝
2b 第二の熱媒の流体通路溝
201
従来の伝熱フィン
202
完全菱型フィン
203
角が丸い変形菱型フィン
3
熱媒の平均的な流れの方向
4
積層型熱交換器
5
熱媒プレナム
6
フィンの高さ
7
プレートの底板
8
菱型フィンの角部
9a 角の丸い菱型フィンの軸長
9b 完全菱型フィンの軸長
10 菱型フィンの重心
11 伝熱フィン配列の単位セル
12
菱型フィンの楔角
13
菱型フィンの幅
14
平行線の間隔
15
セルの軸長
16
セルの幅
17
丸い角の後流
18
循環渦
19
WEフィン
20
EWフィン
21
EEフィン
22
軸長比R
23
フィン高さの比T
24
上板
25
完全菱型フィンXdsの圧力損失係数
26
角の丸い菱型フィンXdf_fの圧力損失係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
菱形のフィンが有する四個の角部のうち、熱媒の平均流れの方向にある二つの角部の少なくともひとつの角部と流れに直交する方向に位置する二つの角部が丸みを有する伝熱フィン群が熱媒の平均的な流れの方向に略千鳥状に配置されて伝熱面を構成する複数枚のプレートを積層し相互に接合したことを特徴とする積層型熱交換器。
【請求項2】
菱形のフィンが有する四個の角部が丸みを有する伝熱フィン群が熱媒の平均的な流れの方向に略千鳥状に配置されて伝熱面を構成する複数枚のプレートを積層し相互に接合したことを特徴とする積層型熱交換器。
【請求項3】
角を丸く加工した菱形フィンの熱媒の流れ方向にある頂点を結ぶ線分の長さと加工前の菱形フィンの対角線の長さとの比Rが0.8<R<0.95の範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層型熱交換器。
【請求項4】
角を丸く加工した菱形フィンの高さと加工前の菱型フィンの幅との比Tが0.5<T≦1の範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2または請求項3に記載の積層型熱交換器。
【請求項5】
角が丸い菱形フィンの配列形態が、前記伝熱フィンが、熱媒の平均的な流れの方向に対して正負の方向に傾きを持つ平行線群をプレート面上に一定間隔で引き、該線群で挟まれる帯状の領域をひとつ置きに切削した後に形成されるフィンの千鳥配列に略一致することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層型熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−257015(P2011−257015A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129180(P2010−129180)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(708001048)
【Fターム(参考)】