説明

熱交換部材

【課題】熱交換の効率を低下させないために機械的強度が高くない構造にされた場合であっても、熱応力による破損が生じにくい熱交換部材を提供する。
【解決手段】第一の流体の流路となる複数のセル5とセラミックスを主成分とする隔壁7とを有するハニカム構造として形成された集熱部6と、集熱部6の外周に設けられたセラミックスを主成分とする外周壁3を有して外周壁3によって第一の流体と集熱部6の外周側を流れる第二の流体とを隔てながら第一の流体と第二の流体との熱の受け渡しを介在する伝熱部と、中心部分にあるセル5と残余の外周部分にあるセル5とに区分しかつ隔壁7よりも厚いセラミックスを主成分とする中間壁8と、を備える熱交換部材1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に装着する熱交換部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器では、熱を伝導する熱交換部材によって、温度の高い流体と温度の低い流体との間で熱の受け渡しを行う。このような熱交換器では、非常に温度の高い流体を使用する場合や、水などの腐食を生じさせやすい流体を使用する場合があるので、セラミックス製の熱交換部材が好まれて使用されている(例えば、特許文献1)。セラミックス製の熱交換部材を使用すると、耐熱性や耐腐食性を高めることが可能になる。
【0003】
また、熱交換部材は、温度の高い流体からの熱を受けて膨張したり、あるいは温度の低い流体に熱を奪われて収縮したりすることがある。特に、熱交換部材では、これら2種の流体の温度差に起因して部分ごとで温度差が生じやすくなる。この温度差によって、熱交換部材の部分ごとに熱に起因した収縮や膨張の度合いが異なってしまい、その結果、熱交換部材中の特定の部分で局所的に大きな熱応力が生じてしまうことがある。このように熱交換部材中の特定の部分で局所的に大きな熱応力が生じてしまうと、この部分では熱応力に機械的強度が負けてしまって破損しやすくなる。このような熱応力によって引き起こされる問題への対処法としては、機械的強度が弱い箇所の厚みを増したり、あるいは補強する部材を設けたりすることにより、機械的強度を高めた構造にすることがなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−24997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、熱交換部材においては、機械的強度の弱い箇所の厚みを増したり、あるいは補強する材料を設けたりする場合、厚みを増した部分や補強する部材に熱を取られてしまうので、2つの流体間で熱が伝導する過程で熱の損失が生じやすくなり、その結果、熱交換の効率を低下させてしまう。とはいうものの、熱交換の効率を高めるために機械的強度が低い構造のままにしておくと、熱交換部材に破損が生じやすくなってしまう。
【0006】
上記の問題に鑑みて、本発明の目的は、熱交換の効率を低下させないために機械的強度が高くない構造にされた場合であっても、熱応力による破損が生じにくい熱交換部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するものである。具体的には、本発明は以下に示す熱交換部材である。
【0008】
[1] 一方の端部から他方の端部に貫通して第一の流体の流路となる複数のセルと、前記複数のセルを区画形成するセラミックスを主成分とする隔壁とを有するハニカム構造として形成された集熱部と、前記集熱部の外周に設けられたセラミックスを主成分とする外周壁を有し、前記外周壁によって前記第一の流体と前記集熱部の外周側を流れる第二の流体とを隔てながら、第一の流体と前記第二の流体との熱の受け渡しを介在する伝熱部と、前記複数のセルのうちの中心部分にある前記セルを囲んで前記中心部分にある前記セルと残余の外周部分にある前記セルとに区分し、かつ前記隔壁よりも厚いセラミックスを主成分とする中間壁と、を備える熱交換部材。
【0009】
[2] 前記第一の流体の流路方向に垂直な断面からみた場合において、前記外周壁と前記中間壁とに挟まれた部分に前記外周壁の内側の中心からの放射方向に略平行に形成された隔壁を有する前記[1]に記載の熱交換部材。
【0010】
[3] 前記第一の流体の流路方向に垂直な断面からみた場合において、前記外周壁および前記中間壁が円形であり、かつ前記外周壁および前記中間壁が同心円状に配置されている前記[1]または[2]に記載の熱交換部材。
【0011】
[4] 前記隔壁の厚さt、前記外周壁の内径D、および前記外周壁の外径Dが以下の式(1)〜(3)を満たす前記[1]〜[3]のいずれかに記載の熱交換部材。
式(1):30mm<D<60mm
式(2):1.0mm≦D−D≦8.0mm
式(3):0.02×(D−D)≦t≦0.6mm
【0012】
[5] 前記中心部分にある前記セルは、前記中間壁の内側を一の方向に沿って横切る隔壁と前記一の方向に直交する方向に沿って横切る隔壁とにより区画形成されている前記[1]〜[4]のいずれかに記載の熱交換部材。
【発明の効果】
【0013】
本発明の熱交換部材は、熱交換部材に生じる最大熱応力が小さくなっているので、熱交換の効率を低下させないために機械的強度が高くない構造にされた場合であっても、破損が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の熱交換部材の一実施形態の斜視図である。
【図2】図1に示した熱交換部材を一方の端部の側からみた正面図である。
【図3】本発明の熱交換部材の別の実施形態の端部の拡大図である。
【図4】本発明の熱交換部材のさらに別の実施形態の端部の正面図である。
【図5】図1の熱交換部材を装着した熱交換器の模式図である。
【図6】図5中のA−A’断面の図である。
【図7】図5中のB−B’断面の図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいては、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0016】
1.熱交換部材:
本発明の熱交換部材は、一方の端部から他方の端部に貫通して第一の流体の流路となる複数のセルとこれらの複数のセルを区画形成するセラミックスを主成分とする隔壁とを有するハニカム構造として形成された集熱部と、集熱部の外周に設けられたセラミックスを主成分とする外周壁を有して外周壁によって第一の流体と集熱部の外周側を流れる第二の流体とを隔てながら第一の流体と第二の流体との熱の受け渡しを介在する伝熱部と、複数のセルのうちの中心部分にあるセルを囲んで中心部分にあるセルと残余の外周部分にあるセルとに区分しかつ隔壁よりも厚いセラミックスを主成分とする中間壁とを備えている。
【0017】
本発明の熱交換部材においては、隔壁、外周壁、および中間壁がセラミックスを主成分とすることにより、隔壁、外周壁、および中間壁の熱伝導率が高まり、その結果として、隔壁、外周壁、中間壁のそれぞれにおいては部分ごとでの温度差が生じにくくなっている。そのため、本発明の熱交換部材では、隔壁や外周壁や中間壁に生じる熱応力が小さくなり、その結果として、ひびや割れが生じにくい。本明細書にいうセラミックスを主成分とするとは、セラミックスを50質量%以上含むことをいう。
【0018】
また、本発明の熱交換部材においては、熱伝導率をより高める観点からは、隔壁、外周壁または中間壁がSiCを主成分とするセラミックスからなることが好ましく、さらに隔壁、外周壁、および中間壁のいずれもがSiCを主成分とするセラミックスからなることがより好ましい。本明細書にいうSiCを主成分とするとは、SiCを50質量%以上含むことをいう。
【0019】
また、本発明においては、隔壁、外周壁、または中間壁を、金属Siを含浸させたSiCを主成分とするセラミックスから形成することもできる。SiCを主成分とするセラミックスにおいては、金属Siを含浸させる量が多くなるにつれて熱伝導率を高めることができる。ここで、隔壁、外周壁、または中間壁については、SiCを主成分とするセラミックス100質量部に金属Siを30質量部以上含浸させて形成した場合に、熱伝導率100W/mK以上にすることができる。
【0020】
また、本発明の熱交換部材では、外周壁の内部にある集熱部を流れる第一の流体と、外周壁の外側を流れる第二の流体との間で熱の受け渡しが行われる。このとき、第一の流体と第二の流体との温度差によって集熱部では外周部分と中心部分との間で温度差が生じ、その結果として集熱部は中心から外周側に向かう方向に沿って応力が生じやすい。本発明の熱交換部材では、集熱部において中間壁が複数のセルのうちの中心部分にあるセルを囲むことにより中心部分にあるセルと残余の外周部分にあるセルとに区分し、かつ中間壁が隔壁よりも厚いことにより、熱交換部材に生じる最大熱応力を低減している。このように中間壁の働きにより最大熱応力を低くしているので、本発明の熱交換部材は使用時に熱応力を原因とする破損が生じにくい。
【0021】
一般に、熱交換部材に生じる熱応力の大きさは、熱交換部材の部分ごとで異なっている。本明細書にいう最大熱応力とは、熱交換部材において部分ごとに生じた熱応力のうちの最大値となった熱応力のことをいう。
【0022】
また、熱交換部材では、最大熱応力を生じる部分の機械的強度が最大熱応力よりも小さくなると、この部分で破損が生じてくる。本発明の熱交換部材は、上述したように最大熱応力を低くできるので、従来の熱交換部材と比べて破損が生じにくくなる。よって、本発明の熱交換部材においては、機械的強度を低くした構造にすることにより熱交換効率を高めた場合でも、熱応力による破損を生じにくくすることができる。例えば、隔壁を薄くすると、隔壁を速やかに熱したり冷ましたりできるので熱交換の効率を高めることができる一方で、隔壁の機械的強度が低下するために破損しやすくなってしまう。本発明の熱交換部材においては、最大熱応力を低く抑えているので、熱交換効率を高めるために隔壁を薄くした場合でも従来の熱交換部材と比べて破損しにくくなる。
【0023】
また、角部があるセルに流体を流すと、角部の近傍ではセル内を流れる流体(本発明では第一の流体がこれに相当する)の流れが滞りがちになる。そのため、セルに角部がある場合には、セル内を流れる流体(第一の流体)と隔壁との接触する機会が少なくなるので、熱交換の効率が低下してしまう傾向がある。このような傾向を踏まえると、一般に、熱交換の効率を高める観点からは、セルは角部の数が少ないことが望まれ、特に、セルの断面形状が四角形であることがより望まれる。その一方で、セルの断面形状が四角形の場合には、セル断面の四角形で対角方向にかかる応力に対して機械的強度が弱くなってしまう。このように対角方向にかかる応力に対して機械的強度が弱くなるという問題から、従来の熱交換部材では、熱交換の効率を高めるためにセルの断面形状として四角形を適用しようにも、熱応力によって破損しやすくなるために、四角形のセルの断面形状を適用できない場合が多い。本発明の熱交換部材では、中間壁によって最大熱応力を抑えることができるので、従来技術ではセルの断面形状として四角形を適用できなかった場合でも、セルの断面形状として四角形を適用して熱交換の効率を高めることが可能になる。
【0024】
さらに、セルの断面形状として四角形を適用する場合には、セルの断面形状が平行四辺形(例えば、正方形、長方形、菱形)となるように隔壁で区画されていることが好ましく、特に、外周壁に囲まれた内部が方眼紙のます目のように隔壁によって区画されることにより、セルの断面形状が平行四辺形になっていることがより好ましい。このようにすると、集熱部の第一の流体の流路方向に垂直な全断面積における第一の流体が流れる部分の面積の割合(いわゆる開口率)を高めることができる。こうして開口率を高めた場合には、中間壁の内側を流れる第一の流体の流量を増やすことができ、その結果として、熱交換の効率をより高めることがきる。さらに、この形態では、外周壁に囲まれた内部が方眼紙のます目のように隔壁によって区画されることにより、セルの断面形状が正方形または長方形になっていることが最も好ましい。このようにセルの断面形状が正方形または長方形の場合には、セルの角のいずれもが鋭角にならず、第一の流体の流れが滞りにくくなるので、熱交換の効率をより一層高めることが可能になる。
【0025】
また、本発明の熱交換部材は、第一の流体の流路方向(第一の流体が流れる方向)に垂直な断面からみた場合において、外周壁と中間壁とに挟まれた部分に外周壁の内側の中心からの放射方向に略平行に形成された隔壁を有することが好ましい。この形態にすることにより、集熱部の外周部分(外周壁と中間壁に挟まれた部分)においては熱応力を広く分散させ、外周部分において局所的に大きな熱応力が生じることを低減できる。その結果として、集熱部の外周部分の各箇所では一様に熱応力が小さくなり、特に、集熱部の外周部分で最大熱応力が生じる場合には、この最大熱応力を下げることができる。さらに、この形態においては、第一の流体の流路方向に垂直な断面からみた場合において、外周部分にあるセルの全てが、外周壁の内側の中心からの放射方向に略平行に形成された隔壁によって少なくとも区画されていることがより好ましい。この形態にすることにより、集熱部の外周部分(外周壁と中間壁に挟まれた部分)においは熱応力をより広く分散させることができ、その結果として、集熱部の外周部分の各箇所では一様に熱応力がより一層小さくなり、特に、集熱部の外周部分で最大熱応力が生じる場合には、この最大熱応力をより一層下げることができる。
【0026】
また、本発明の熱交換部材は、第一の流体の流路方向に垂直な断面からみた場合において、外周壁および中間壁が円形であり、かつ外周壁および中間壁が同心円状に配置されていることが好ましい。この形態にすることにより、集熱部の外周部分(外周壁と中間壁に挟まれた部分)にあるセルの配置については方向に特異性がなくなるので、外周部分では応力を広く分散させて外周部分で局所的に大きな応力が生じることを低減することができ、その結果として、集熱部の外周部分の各箇所では一様に熱応力が小さくなり、集熱部の外周部分で最大熱応力が生じる場合には、この最大熱応力を下げることができる。
【0027】
また、本発明の熱交換部材は、隔壁の厚さt、外周壁の内径D、および外周壁の外径Dが以下の式(1)〜(3)を満たすことが好ましい[下記式(1)〜(3)中の隔壁の厚さt、外周壁の内径D、および外周壁の外径Dについては図2を参照]。外周壁の内径Dおよび外径Dが1.0mm≦D−D≦8.0mmの関係を満たす場合には、外周壁の剛性が高くなる。その結果、第一の流体と第二の流体との間の温度差によって外周壁に熱応力を生じた場合にも、外周壁にはひびや割れが生じにくい。また、上記した(1)〜(3)の関係を満たす場合には、隔壁にひびや割れが生じにくくなり、また、セル内を流れる第一の流体の圧力損失を低く抑えることができる。
式(1):30mm<D<60mm
式(2):1.0mm≦D−D≦8.0mm
式(3):0.02×(D−D)≦t≦0.6mm
【0028】
本発明の熱交換部材では、中心部分にあるセルは、中間壁の内側を一の方向に沿って横切る隔壁と前記一の方向に直交する方向に沿って横切る隔壁とにより区画形成されていることが好ましい。この形態における中間壁の内側では、セルが方眼紙のます目のように区画形成されているので、第一の流体の流路方向に垂直な断面からみた場合において、中間壁の内側部分の断面における第一の流体が流れる部分の面積の割合(いわゆる開口率)を高めることができる。特に、薄い隔壁によって方眼紙のます目のように区画した場合には、上述した第一の流体が流れる部分の面積の割合(開口率)をより高めることができる。このようにして開口率を高めた場合には、中間壁の内側を流れる第一の流体の流量を増やすことができ、その結果として、熱交換の効率を高めることがきる。また、この形態では、中間壁の内側が方眼紙のます目のように規則的に区画され、セルの断面形状が四角形になる。その結果、先に述べたように、セルの断面形状が四角形であることにより、セルの断面形状が五角以上の多角形のときと比べて第一の流体の流れが滞りがちになる箇所が少なくので、セル内を流れる第一の流体と隔壁との接触が促され、その結果、第一の流体と隔壁との間での熱の受け渡しが促進される。すなわち、中間壁の内側が隔壁によって方眼紙のます目のように規則的に区画されることにより、熱交換の効率が高まる。
【0029】
以下、本発明の熱交換部材の実施形態を参照しつつ、その内容を詳しく説明する。
【0030】
図1は、本発明の熱交換部材の一実施形態の斜視図である。本熱交換部材1では、隔壁7が円筒状の外周壁3の内部を格子状に区画している。そして、この隔壁7による区画から、複数のセル5が形成され、これらのセル5は一方の端部9aから他方の端部9bまで貫通している。また、隔壁7は外周壁3に繋がっているので、隔壁7と外周壁3との間で熱が伝導する。
【0031】
図2は、図1に示した熱交換部材1の一方の端部9aの正面図である。この正面図では、本熱交換部材1における隔壁7の厚さt、外周壁3の内径D、外周壁3の外径Dを表している。図示されるように、本熱交換部材1では、円筒状の外周壁3の内側に円筒状の中間壁8が配置されており、軸10に垂直な断面からみた場合、外周壁3と中間壁8が同心円状に配置されている。そして、中間壁8の内部では、均一な厚さの隔壁7が直交した二方向に沿って形成されており、セル5(中心部分のセル35)が方眼紙のます目のように区画形成されている。本熱交換部材1では、中心部分のセル35の断面形状が四角形であるので、上述したように熱交換の効率が高くなっている。
【0032】
また、本熱交換部材1においては、中間壁8と外周壁3に挟まれた部分で隔壁7が軸10からの放射方向に沿って形成されており、セル5(外周部分のセル37)が軸10を中心とする周方向に沿って区切られている。そのため、本熱交換部材1は、外周部分のセル37の配置については方向に特異性がなくなるので、外周部分(中間壁8と外周壁3に挟まれた部分)では熱応力を広く分散させることができ、この外周部分で局所的に大きな熱応力が生じることを低減することができる。その結果として、集熱部の外周部分の各箇所では一様に熱応力が小さくなり、集熱部の外周部分で最大熱応力が生じる場合には、この最大熱応力を下げることができる。
【0033】
図3は、本発明の別の実施形態の熱交換部材の端部の拡大図である。本熱交換部材1は、外周部分のセル37が内側と外側とに2列に並び、さらに、内側の列の外周部分のセル37と外側の列の外周部分のセル37とが軸10を中心とした周方向で半セル分ずれている。言い換えると、内側の列の外周部分のセル37および外側の列の外周部分のセル37はともに軸10からの放射方向に沿って形成された隔壁7によって区画されているが、内側の列の外周部分のセル37を区画する放射方向に沿って形成された隔壁7と、外側の列の外周部分のセル37を区画する放射方向に沿って形成された隔壁7とが同一平面上にはなくずれている。上記のように外周部分のセル37を配置しても、外周部分(中間壁8と外周壁3に挟まれた部分)では熱応力を広く分散させて、この外周部分で局所的に大きな熱応力が生じることを低減することができる。
【0034】
図4は、本発明のまた別の実施形態の熱交換部材の端部の正面図である。本熱交換部材1では、中心部分のセル35が、中間壁8の内側を一の方向に沿って横切る隔壁7と前記一の方向に直交する方向に沿って横切る隔壁7とにより区画形成されている。また、外周部分のセル37も、中間壁8と外周壁3とに挟まれた部分を一の方向に沿って横切る隔壁7と一の方向に直交する方向に沿って横切る隔壁7とにより区画形成されている。本熱交換部材1では、中心部分のセル35と外周部分のセル37とをともにセルの断面形状が四角形であることにより、熱交換の効率を高めている。
【0035】
2.熱交換器:
ここでは本発明の熱交換部材を装着した熱交換器について説明する。図5は、図1に示した熱交換部材を装着した熱交換器の模式図を示す。図5に示されるように、本熱交換器21は、熱交換部材1がケーシング11内に装着されている。熱交換部材1の端部9aと端部9bは、ケーシング11を構成する壁19に開けた穴にはめ込まれ、管23a,23bに接続している。図6は、図5中のA−A’断面である。図示されるように、第一の流体は、管23aを流れていくと、続いて熱交換部材1の内部(外周壁3の筒の中、いわゆるセル5内)を通り抜け、さらに管23bへと流れていく。
【0036】
また、図5に示されるように、ケーシング11には、第二の流体をケーシング内に流入させる第二の流体の入口13、および第二の流体をケーシング11内から排出する第二の流体の出口15が設けられている。
【0037】
図7は、図5中のB−B’の断面図である。図示されるように、第二の流体は、入口13からケーシング内に流入すると、熱交換部材1の外周壁3の外周面4と接触しながら流れて、最終的に出口15から排出される。
【0038】
例えば、第一の流体の温度が第二の流体の温度よりも高い場合であれば、熱は、第一の流体から隔壁7や中間壁8や外周壁3に伝わり、最終的に外周壁3から第二の流体へと渡される。このとき、第一の流体の熱は2つの態様によって外周壁3に伝わる。まず、第一の流体が外周壁3の内側面と接触して流れる場合(例えばセル5aを流れる第一の流体の場合)には、第一の流体の熱が直接外周壁3に伝わる。また、第一の流体が外周壁3と接触せずに流れる場合(例えばセル5bやセル5cを流れる第一の流体の場合)には、第一の流体の熱が隔壁7や中間壁8を介して外周壁3に伝わる。
【0039】
また、本熱交換器21では、図7中の破線の枠αで示した隔壁7(すなわち、セル5bとセル5cとを区画する隔壁7)に穴や亀裂が生じた場合、セル5bおよびセル5cを流れる第一の流体同士が混じり合うだけであるため、致命的な故障にはならない。そのため、隔壁7については、隔壁7の強度を低下させてでも、隔壁7と第一の流体とを盛んに衝突させることが可能な形状(例えば、隔壁7がねじれているなど)を採用することができる。特に、本熱交換器21では、熱交換部材1が中間壁8の働きによって隔壁7に破損を生じにくいので、熱が隔壁7を伝わっていくときに、熱の伝導が隔壁7の破損によって分断されてしまうことが起こりにくい。
【0040】
本熱交換器21では、隔壁7は、セル5を区画形成する役割の他に、梁として外周壁3を補強する役割も担っている。そのため、外周壁3は穴や亀裂を生じにくくなっている。この結果、本熱交換器21では、外周壁3の破損を原因して第一の流体と第二の流体とが混じり合ってしまうような致命的な故障を生じにくい。
【0041】
3.熱交換部材の製造方法:
次に、本発明の熱交換部材を製造するための方法について、その一実施形態を説明する。まず、セラミック成形原料を押出して、所望のハニカム構造の成形体を作製する。この成形体では、筒形状の外周壁と、外周壁の内部に隔壁により仕切られて一方の端面から他方の端面まで軸方向に貫通する複数のセルが区画形成され、さらに内部には中間壁が作られている。続いて、この成形体を乾燥し、焼成することによって、ハニカム構造の熱交換部材を作製することができる。
【0042】
例えば、Si含浸SiC複合材料を主成分とするハニカム構造の熱交換部材を製造する場合には、まず、所定量のC粉末、SiC粉末、バインダー、水または有機溶媒を混練し、成形して所望形状の成形体を作製し、次いで、この成形体を、金属Si雰囲気下、減圧の不活性ガス又は真空中に置いて、成形体中に金属Siを含浸させるとよい。
【0043】
また、上述した方法とは別の方法としては、まず、筒型の外周壁と断面形状が四角形のセルを有するハニカム構造の成形体(第一の成形体)と、上述した成形体(第一の成形体)を内部にちょうど収まるように中心部がくり抜かれたハニカム構造の成形体(第二の成形体)とを別々に成形する。続いて、第一の成形体を第二の成形体の内部に収めた状態にしておいて、金属Si雰囲気下、減圧の不活性ガス又は真空中に置くことにより、金属Siを含浸させ、それと同時に2つの成形体を一体化させることもできる。この方法によれば、第一の成形体の外周壁が、最終的には熱交換部材の中間壁になる。
【0044】
なお、主成分としてSi、またはSiC等を採用した場合も、成形原料を坏土化し、この坏土を成形工程において押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を成形することができる。これを乾燥、焼成することにより、ハニカム構造の熱交換部材を製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1,2)
長さ100mmの円筒状で、内部が厚さ0.38mmの隔壁によって区画したハニカム構造の熱交換部材を製造した。さらに具体的に述べると、全長100mm、ハニカム構造部の径が40mm、その外に厚さ0.6mmの円筒形状の外周壁があり、外周壁に囲まれた内部に全長100mm、外径33.5mm、厚さが実施例1では0.5mm、実施例2では0.8mmの円筒形状の中間壁を配した。そして、長さ方向に垂直な断面からみた場合に、外周壁と中間壁とを軸を中心に同心円状に配し、中間壁の内側を同一間隔で方眼紙のます目状に隔壁によって区画した。中間壁の内側はセル密度28セル/cm(180cpsi)にした。また、外周壁と中間壁とに挟まれた部分には、一列のセルを配した。これらのセルは、軸からの放射方向に沿って形成された隔壁によって区画されている。また、外周壁、中間壁、および隔壁は、多孔質のSiC構造体にSiを含浸させた材質のものからなり、この材質についてはヤング率が331GPa、熱膨張係数が4.1×10−6/℃であった。実施例1,2の熱交換部材については、外周壁の内径D、外周壁の外径D、隔壁厚さtなどを表1に示す。
【0047】
(比較例1〜3)
全長100mm、ハニカム構造部の径40mm、厚さが比較例1では0.6mm、比較例2では1.0mm、比較例3では1.5mmの円筒形状の外周壁の内部を、厚さ0.38mmの隔壁によって区画したハニカム構造の熱交換部材を製造した。これらの熱交換部材では、長さ方向に垂直な断面からみた場合に、外周壁の内側を同一間隔で方眼紙のます目状に隔壁によって区画されている。外周壁の内側はセル密度28セル/cm(180cpsi)にした。また、外周壁、中間壁、および隔壁は、多孔質のSiC構造体にSiを含浸させた材質のものからなり、この材質についてはヤング率が331GPa、熱膨張係数が4.1×10−6/℃であった。比較例1〜3の熱交換部材については、外周壁の内径D、外周壁の外径D、隔壁厚さtなどを表1に示す。
【0048】
実施例1,2および比較例1〜3の熱交換部材を電気炉を使用して加熱した後、大気中、25℃に静置した。このときに、熱交換部材に生じた熱応力を算出した。最大熱応力を表1に示す。
【0049】
実施例2の熱交換部材は、実施例1の熱交換部材よりも中間壁が厚い。実施例1と実施例2との比較から、中間壁を厚くすると最大熱応力が低下することが判明した。また、実施例1および実施例2のいずれも、外周壁の厚さと中間壁の厚さの和が比較例1〜3の外周壁の厚さよりも小さい。にもかかわらず、実施例1および実施例2に生じた最大熱応力は、比較例1〜3に生じた最大熱応力のいずれよりも小さいことが判明した。
【0050】
【表1】

【0051】
(実施例3,4)
長さ100mmの円筒状で、内部が厚さ0.30mmの隔壁によって区画したハニカム構造の熱交換部材を製造した。さらに具体的に述べると、全長100mm、内径40mm、厚さが実施例3では1.0mm、実施例4では1.5mmの円筒形状の外周壁に囲まれた内部に、全長100mm、外径33.5mm、厚さ0.8mmの円筒形状の中間壁を配した。そして、長さ方向に垂直な断面からみた場合に、外周壁と中間壁とを軸を中心に同心円状に配し、中間壁の内側を同一間隔で方眼紙のます目状に隔壁によって区画した。中間壁の内側はセル密度23セル/cm(150cpsi)にした。また、外周壁と中間壁とに挟まれた部分には、軸から半径方向で一列のセルを配した。これらのセルは、軸からの放射方向に沿って形成された隔壁によって区画されている。また、外周壁、中間壁、および隔壁は、多孔質のSiC構造体にSiを含浸させた材質のものからなり、この材質についてはヤング率が331GPa、熱膨張係数が4.1×10−6/℃であった。実施例3,4の熱交換部材については、外周壁の内径D、外周壁の外径D、隔壁厚さtなどを表2に示す。
【0052】
(比較例4〜6)
全長100mm、内径40mm、厚さが比較例4では1.0mm、比較例5では1.5mm、比較例6では2.0mmの円筒形状の外周壁の内部を、厚さ0.30mmの隔壁によって区画したハニカム構造の熱交換部材を製造した。これらの熱交換部材では、長さ方向に垂直な断面からみた場合に、外周壁の内側を同一間隔で方眼紙のます目状に隔壁よって区画した。外周壁の内側はセル密度23セル/cm(150cpsi)にした。また、外周壁、中間壁、および隔壁は、多孔質のSiC構造体にSiを含浸させた材質のものからなり、この材質についてはヤング率が331GPa、熱膨張係数が4.1×10−6/℃であった。比較例4〜6の熱交換部材については、外周壁の内径D、外周壁の外径D、隔壁厚さtなどを表2に示す。
【0053】
実施例3,4および比較例4〜6のそれぞれの熱交換部材をケーシング内に収容することにより、図5に示したものと同じ形の熱交換器を作製した。熱交換部材の内部(セル)に400℃のガスを10g/sにて流し、また、熱交換部材の外周に40℃の水を10L/minにて流して、熱交換部材に生じた熱応力を算出した。最大熱応力を表2に示す。
【0054】
実施例4の熱交換部材は、実施例3の熱交換部材よりも外周壁が厚い。実施例3と実施例4との比較から、外周壁を厚くすると最大熱応力が低下することが判明した。また、実施例3および実施例4のいずれも、外周壁の厚さと中間壁の厚さとの和が比較例4〜6の外周壁の厚さよりも小さい。にもかかわらず、実施例3および実施例4に生じた最大熱応力は、比較例4〜6に生じた最大熱応力のいずれよりも小さいことが判明した。
【0055】
【表2】

【0056】
(実施例5〜8)
長さ100mmの円筒状で、内部が厚さ0.38mmの隔壁によって区画したハニカム構造の熱交換部材を製造した。さらに具体的に述べると、全長100mm、内径40mm、厚さ1.5mmの円筒形状の外周壁の内部に、全長100mm、外径33.5mm、厚さ0.8mmの円筒形状の中間壁を配した。そして、これらの熱交換部材では、長さ方向に垂直な断面からみた場合に、外周壁と中間壁とを軸を中心に同心円状に配し、中間壁の内側を同一間隔で方眼紙のます目状に隔壁によって区画されている。中間壁の内側はセル密度28セル/cm(180cpsi)にした。また、外周壁と中間壁とに挟まれた部分には、軸から半径方向で、実施例5では1列、実施例6,7では2列、実施例8では3列のセル(外周部分のセル)を配した。これらのセルは、軸からの放射方向に沿って形成された隔壁によって区画した。また、実施例6,8では、外周壁から中間壁までを軸からの放射方向に沿って横切るように隔壁を設けた(表3では「正方配置」と表記)。一方、実施例7では、軸からの放射方向に沿って形成された隔壁を内側の列と外側の列とでずらし、内側の列のセルと外側の列のセルとが軸10を中心とした周方向で半セル分ずれるようにした(表3では「千鳥配置」と表記)。また、外周壁、中間壁、および隔壁は、多孔質のSiC構造体にSiを含浸させた材質のものからなり、この材質についてはヤング率が331GPa、熱膨張係数が4.1×10−6/℃であった。実施例5〜8の熱交換部材については、外周壁の内径D、外周壁の外径D、隔壁厚さtなどを表3に示す。
【0057】
実施例5〜8のそれぞれの熱交換部材をケーシング内に収容することにより、図5に示したものと同じ形の熱交換器を作製した。熱交換部材の内部(セル)に400℃のガスを10g/sにて流し、また、熱交換部材の外周に40℃の水を10L/minにて流して、熱交換部材に生じた熱応力を算出した。最大熱応力を表3に示す。
【0058】
外周部分のセルを軸からの放射方向に沿って形成した隔壁によって区画した場合、外周部分のセルが軸からの半径方向で1〜3列のいずれで配置されても、あるいは外周部分のセルが2列以上かつ千鳥配置であっても、最大熱応力はほとんど同じであることが判明した。
【0059】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、熱交換器に装着する熱交換部材として利用できる。
【符号の説明】
【0061】
1:熱交換部材、3:外周壁、4:外周面、5,5a〜5c:セル、6:集熱部、7:隔壁、8:中間壁、9,9a,9b:端部、10:軸、11:ケーシング、13:(第二の流体の)入口、15:(第二の流体の)出口、17:(第二の流体の)流路、19:壁、21:熱交換器、23a,23b:管、35:中心部分のセル、37:外周部分のセル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端部から他方の端部に貫通して第一の流体の流路となる複数のセルと、前記複数のセルを区画形成するセラミックスを主成分とする隔壁とを有するハニカム構造として形成された集熱部と、
前記集熱部の外周に設けられたセラミックスを主成分とする外周壁を有し、前記外周壁によって前記第一の流体と前記集熱部の外周側を流れる第二の流体とを隔てながら、第一の流体と前記第二の流体との熱の受け渡しを介在する伝熱部と、
前記複数のセルのうちの中心部分にある前記セルを囲んで前記中心部分にある前記セルと残余の外周部分にある前記セルとに区分し、かつ前記隔壁よりも厚いセラミックスを主成分とする中間壁と、を備える熱交換部材。
【請求項2】
前記第一の流体の流路方向に垂直な断面からみた場合において、前記外周壁と前記中間壁とに挟まれた部分に前記外周壁の内側の中心からの放射方向に略平行に形成された隔壁を有する請求項1に記載の熱交換部材。
【請求項3】
前記第一の流体の流路方向に垂直な断面からみた場合において、前記外周壁および前記中間壁が円形であり、かつ前記外周壁および前記中間壁が同心円状に配置されている請求項1または2に記載の熱交換部材。
【請求項4】
前記隔壁の厚さt、前記外周壁の内径D、および前記外周壁の外径Dが以下の式(1)〜(3)を満たす請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱交換部材。
式(1):30mm<D<60mm
式(2):1.0mm≦D−D≦8.0mm
式(3):0.02×(D−D)≦t≦0.6mm
【請求項5】
前記中心部分にある前記セルは、前記中間壁の内側を一の方向に沿って横切る隔壁と前記一の方向に直交する方向に沿って横切る隔壁とにより区画形成されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱交換部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−189229(P2012−189229A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50497(P2011−50497)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】