説明

熱伝導性ゴム組成物及び熱伝導性成形体

【課題】シリコーンゴムを用いずに、高い熱伝導性を有し、かつ、柔らかくて高い密着性を有する熱伝導性ゴム組成物および熱伝導性成形体を提供する。
【解決手段】極性ゴムを主成分とするベースゴム100質量部に対して、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種のフィラーを900質量部以上2000質量部以下含み、更にチタネート系カップリング剤またはシラン系カップリング剤を0.2〜2質量%含むことを特徴とする熱伝導性ゴム組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気部品などの冷却に主に用いられる熱伝導性ゴム組成物およびこれを成形してなる熱伝導性成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンピューター等に代表される各種電子・電気機器に搭載されている半導体素子等の冷却が必要な電気部品等(以下、被冷却部品と呼ぶ)の冷却の問題は、近年、重要課題として注目されている。このような被冷却部品の冷却方法として、被冷却部品が搭載される機器筺体にファンを取り付け、その機器筺体内の空気を冷却する方法や、被冷却部品に放熱体(ヒートシンク)を取り付けて冷却する方法等がある。
【0003】
被冷却部品にヒートシンクを取り付ける場合、通常、単に被冷却部品にヒートシンクを接触させるだけでは、両者の接触部分の熱抵抗が大き過ぎて十分な冷却が実現しにくい場合が多い。被冷却部品とヒートシンクとを半田接合等により接合すれば、これらを熱抵抗小さく接続することができる。しかしそれらの熱膨張率の相違等による熱的整合性の問題が生ずることが多い。具体的には、ヒートシンクとしては、通常、熱伝導性に優れるアルミニウム材等が好適に適用される場合が多いが、被冷却部品たとえば半導体素子はそれより大幅に熱膨張率が小さい場合が多い。従ってヒートシンクと被冷却部品との接合部で整合性が悪くなってしまう。その結果、熱膨張率の大きな相違による反りの発生や、接合部での剥離の発生等の問題が生じることになる。
【0004】
そこで、被冷却部品とヒートシンクとの間にゴムシート等の成形体を挟んで接触させる方法が有力視されている。たとえば、耐熱性が高くベース樹脂に多様な粘度のものがあり、柔軟性に優れるという点で、シリコーンゴムをベースとして、熱伝導性が高いフィラーである酸化アルミニウムや窒化ホウ素等を混合させたゴムシートの成形体を、被冷却部品とヒートシンクとの間に介在させる方法が提案されている。
【0005】
ここで、この成形体は、放熱性能発揮のためには被冷却部品とヒートシンクとの間に密着させて使用する必要があるが、シリコーンゴムを用いた場合、長期にわたり密着させて使用した後でもゴムシートはゴム弾性を有し、放熱性能の低下が少ないという優れた特徴がある。
【0006】
しかし、シリコーンゴムは、シロキサンの発生により電気的な接点部分の導電性を阻害する恐れがある。これに対して、シロキサンが発生しない熱伝導性ゴム組成物を用いた成形体が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−310984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、被冷却部品において冷却すべき部分の表面は、必ずしも平滑ではなく、表面の一部または全部に凹凸や段差が形成されている場合がある。または、被冷却部品を、該被冷却部品が実装される基板を介してヒートシンクに接触させる場合がある。これらの場合、被冷却部品や基板表面の凹凸や段差等のために、ゴムシートの密着性が低くなる。その結果、被冷却部品からヒートシンクまでの熱伝導性が低下して十分な放熱が行なわれなかったり、ゴムシートが被冷却部品や基板から剥離したりするおそれがあるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたものであって、シリコーンゴムを用いずに、高い熱伝導性を有し、かつ、柔らかくて高い密着性を有する熱伝導性ゴム組成物および熱伝導性成形体を提供することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行なったところ、アクリルゴムなどの極性ゴムをベースポリマーとし、所定量の熱伝導性フィラーを含有させ、更にチタネート系カップリング剤またはシラン系カップリング剤を配合することによって、高い熱伝導性を有し、かつ柔らかくて、硬度が適度に小さく、凹凸や段差のある面に対しても高い密着性を有する熱伝導性ゴム組成物が得られることを見出し、この知見に基づき本発明をなすに至った。
【0011】
前述した目的を達成するために、以下の発明を提供する。
(1)極性ゴムを主成分とするベースゴム100質量部に対して、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種のフィラーを900質量部以上2000質量部以下含み、更にチタネート系カップリング剤またはシラン系カップリング剤を0.2〜2質量%含むことを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
(2)前記極性ゴムが、アクリルゴムまたはニトリルゴムであることを特徴とする(1)に記載の熱伝導性ゴム組成物。
(3)前記ベースゴムが、熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする(1)または(2)に記載の熱伝導性ゴム組成物。
(4)さらに、前記ベースゴム100質量部に対して、オイル30〜100質量部を含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の熱伝導性ゴム組成物。
(5)前記オイルがポリエーテルエステル系オイルまたはパラフィン系オイルであって、前記ベースゴム100質量部に対して、前記ポリエーテルエステル系オイル30〜70質量部を含むことを特徴とする(4)に記載の熱伝導性ゴム組成物。
(6)(1)〜(5)のいずれかに記載の熱伝導性ゴム組成物を成形してなることを特徴とする熱伝導性成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、シリコーンゴムを用いずに、高い熱伝導性を有し、かつ、柔らかくて高い密着性を有する熱伝導性ゴム組成物および熱伝導性成形体を実現できるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係る熱伝導性ゴム組成物および熱伝導性成形体の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0014】
本実施の形態に係る熱伝導性ゴム組成物は、極性ゴムを主成分とするベースゴム100質量部に対して、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種のフィラーを900質量部以上2000質量部以下、チタネート系カップリング剤またはシラン系カップリング剤を0.2〜2.0質量%配合し、これらを混練して生成したものである。このように、ベースゴムに対して、所定量の熱伝導性フィラーと所定量のカップリング剤を含有させることによって、高い熱伝導性を発揮でき、硬度が適度に小さく適度な柔らかさを有するものとなる。以下、この熱伝導性ゴム組成物を構成する各成分について説明する。
【0015】
<ベースゴム>
ベースゴムは、極性ゴムを主成分とする。極性ゴムとは非極性であるオレフィン系ゴムより極性の高いゴムを指す。極性ゴムとしては、例えば、アクリルゴム、ニトリルゴムが挙げられる。これらは1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組合せで用いることができる。また、主成分とするとは、ベースゴムのうち、50質量%以上が前記極性ゴムであることを意味し、より好ましくは、70質量%以上が前記極性ゴムである。
【0016】
<アクリルゴム>
アクリルゴムは、単量体成分としてのアクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸アルキルと、各種官能基を有する単量体とを少量共重合させて得られるゴム弾性体であり、高い耐熱性を有する。具体的には、アクリルゴムとして、Nipol(登録商標) AR(商品名、日本ゼオン製)、JSR AR(商品名、JSR製)、トアアクロン(登録商標) AR(商品名、トウペ製)等を使用することができる。また、共重合させる単量体としては、2−クロルエチルビニルエーテル、メチルビニルケトン、アクリル酸、アクリロニトリル、ブタジエン等を適宜使用することができる。
【0017】
また、単量体成分としてはアクリル酸メチルを使用するのが好ましく、その場合には、エチレンとの2元共重合体や、これにさらにカルボキシル基を側鎖に有する不飽和炭化水素をモノマーとして共重合させた3元共重合体を特に好適に使用することができる。具体的には、2元共重合体の場合にはベイマック(登録商標)DやベイマックDLSを、3元共重合体の場合にはベイマックG、ベイマックHG、ベイマックLS、ベイマックGLS(商品名、いずれも三井・デュポンポリケミカル製)等のアクリルゴムを使用することができる。
【0018】
また、アクリルゴムとしては、JIS K 6300に規定されるムーニー粘度(ML1+4(100℃))が50以下の低粘度のものが好ましい。
【0019】
<ニトリルゴム>
ニトリルゴムは、アクリロニトリルと炭素数4〜8の共役ジエンとの共重合体であり、共役ジエンはブタジエンが好ましい。具体的には、クライナック(商品名、ランクセス製)などを使用することができる。
【0020】
<熱可塑性エラストマー>
ベースゴムに、熱可塑性エラストマーを添加することもできる。熱可塑性エラストマーは、ビニル芳香族化合物をその構成成分の主体とした少なくとも2個の重合体ブロックAと、共役ジエン化合物をその構成成分の主体とした少なくとも1個の重合体ブロックBとからなるブロック共重合体又はこれを水素添加して得られるもの、あるいはこれらの混合物である。
上記熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系熱可塑性エラストマーが挙げられ、具体例としては、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレンブロックコポリマー)、SIS(スチレン・イソプレン・スチレンブロックコポリマー)、SEBS(水素化SBS)、SEPS(水素化SIS)、SEEPS(スチレン・エチレン・エチレンプロピレン・スチレンブロックコポリマー)等を挙げることができる。
【0021】
なお、この熱可塑性エラストマーは、アクリルゴムとの重量配合比を、70:30以下とすることで、この熱伝導性ゴム組成物の硬度が適度に小さく適度な柔らかさを発揮することができる。
【0022】
<熱伝導性フィラー>
本発明にかかる熱伝導性ゴム組成物は、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種のフィラーを含む。
【0023】
本実施の形態においては、酸化アルミニウムとしては、従来から製造されている電融アルミナ、焼成アルミナおよび焼結アルミナが使用できる。酸化アルミニウムの粒径としては、より充填しやすい粘度とするためには0.1μm以上が好ましく、ベースゴムとの親和性をより良好にするためには、100μm以下が好ましい。これらの範囲において、粒径の異なるものを混合して用いることができる。また、酸化マグネシウムとしては、好ましくは疎水化された酸化マグネシウム粉末が使用できる。疎水化された酸化マグネシウム粉末であれば、吸湿性が低いため、高温高湿下においてもボロボロになりにくい。具体的には、たとえば特開平6−171928号公報に記載された高耐水和性、高流動性酸化マグネシウム粉末が好適に適用できる。
【0024】
また、窒化ホウ素については通常市販されている0.1〜100μmの粒径のものが使用できる。窒化ホウ素についても、これらの範囲において、粒径の異なるものを混合して用いることができる。なお、窒化ホウ素は熱伝導性が高いが、配合量が多いとコンパウンドが硬くなる場合があるので、他の熱伝導フィラーとブレンドして用いるのがより好ましい。また、窒化アルミニウムについても窒化ホウ素とほぼ同様の方法で使用する。また、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムは酸化アルミニウムより熱伝導率は低いものの、ほぼ同様の使い方ができ、さらに難燃性を付与することができるので好ましい。
【0025】
なお、これらの熱伝導性フィラーの配合量は、十分な熱伝導性を付与し、かつ適度な硬度および柔らかさにして密着性を高めるとともに良好な成形性を確保するために、ベースゴム100質量部に対して900質量部以上2000質量部以下である。また、特に好ましくは950〜1800質量部である。
【0026】
<カップリング剤>
カップリング剤はポリマーとフィラーの結合を強くする働きをするものであるが、本チタネート系カップリング剤またはシラン系カップリング剤は極性樹脂とフィラー高充填の系において、少量配合する事でコンパウンドの硬さを大きく低下させる事が出来ることを発見した。ベースゴムに対してフィラーを添加し、さらに必要に応じてオイルを加えた後のゴム組成物に対して、これらカップリング剤を0.2〜2.0質量%加えることが好ましい。0.2質量%未満では、硬度の低下の十分な効果がなく、2質量%を超えると、ロールでの加工性が悪化する。
【0027】
このようなカップリング剤は、通常は、ベースゴムに対するフィラーの分散性を高め、ゴム組成物の曲げ強度を強くすることなどに使用されるが、本願のように、コンパウンドの硬度を低下させる効果については、知られていなかった。また、カップリング剤は、通常はベースゴムに対して相溶性の悪いフィラーを添加する際に用いられるが、本願のフィラーとベースゴムの組み合わせでは、相溶性が高いため、通常はカップリング剤を用いない。
【0028】
<チタネート系カップリング剤>
本発明で使用されるチタネート系カップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル・アミノエチル)チタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等を用いることができる。
【0029】
<シラン系カップリング剤>
本発明で使用されるシラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリアセトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシラン、メチルトリエトキシラン、ヘキサメチルジシラザン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、N−〔β−(N−ビニルベンザルアミノ)エチル〕−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・塩酸塩等を挙げることができる。
【0030】
<オイル>
なお、上記の実施の形態に係る熱伝導性ゴム組成物に対して、柔らかさを向上させるために軟化剤を配合してもよい。軟化剤としては、ベースゴムに対して相溶性に優れたオイルが適用できる。たとえば、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリエーテルエステル系、トリメリット酸系オイルからなる群から選ばれた少なくとも1種からなる軟化剤Aと、パラフィン系オイルからなる軟化剤Bとを配合したオイルである。
【0031】
ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリエーテルエステル系、トリメリット酸系オイルはアクリルゴムやニトリルゴムとの相溶性に優れ、かつ耐熱性にも優れているので、熱伝導性用途のアクリルゴムやニトリルゴムには好適である。
【0032】
また、パラフィン系オイルとしては、流動パラフィン、パラフィン系プロセスオイル、またはこれらの混合オイルを用いることができる。パラフィン系オイルは、前記エラストマーとの相溶性が良好であり、かつ当該熱伝導性ゴム組成物を適度に軟質化して、成形加工時に組成物がロールや抜き型などに粘着することを防止するために好適な成分である。また、パラフィン系オイルを使用する場合には、その粘度比重定数(VGC)が0.849以下、好ましくは0.819以下のものを使用するのが良い。このようなVGCのパラフィン系オイルであれば、前記エラストマーとの相溶性が十分であるため、組成物がロールや抜き型などに粘着して加工性が低下することが防止されるとともに、時間の経過とともに表面にブリードしてくるおそれもない。
【0033】
これらの軟化剤の配合量は、ベースゴム100質量部に対し、オイルは30〜100質量部とすることが好ましい。さらに好ましくは、ベースゴム100質量部に対してポリエーテルエステル系オイルが30〜70質量部である。
【0034】
(本発明の効果)
以上のように、本実施の形態に係る熱伝導性ゴム組成物は、高い熱伝導性を発揮できるので放熱性が高くなり、その上硬度が適度に小さく適度な柔らかさを有するので、凹凸や段差のある面に対しても高い密着性を有し、さらには良好な成形性をも確保できるものとなる。
【0035】
(その他の実施の形態)
つぎに、本発明のその他の実施の形態としての熱伝導性成形体について説明する。本実施の形態に係る熱伝導性成形体は、上記実施の形態に係る熱伝導性ゴム組成物、またはこれに上記軟化剤を配合したものを、常法により所望の形状に成形して作製したものである。本実施の形態に係る熱伝導性成形体の形状は、シート状の他にテープ状、ブロック状、型成形品などであるが、その用途に応じて適宜選択され、特に限定はされない。また、本発明のさらに他の実施の形態に係る熱伝導性成形体としては、上記実施の形態に係る熱伝導性ゴム組成物を金属シートの両面に被覆した成形体(シートなど)や、この熱伝導性ゴム組成物の少なくとも片面に粘着剤を塗布したものでもよい。上記した熱伝導性成形体のうちシート状にしたものは、熱伝導性シートとして、被冷却部品とヒートシンクとの間に介在させるものとして好適である。
【実施例】
【0036】
つぎに、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。アクリルゴム(日本ゼオン製、商品名Nipol AR54)と熱可塑性エラストマー(クラレ製、商品名セプトン(登録商標)4055。以下、TPEと略記する)、ニトリルゴム(ランクセス製、商品名クライナック(登録商標)3345)との配合比が異なるベースゴム100質量部に対して、熱伝導フィラーとして、形状が球状であり平均粒径が35μmである酸化アルミニウムA(マイクロン製、商品名AH35−2)、平均粒径が50μmである酸化アルミニウムB(日本軽金属製、商品名A14)、窒化ホウ素(昭和電工製 商品名ショービーエヌ UHP−1)、窒化アルミニウム(東洋アルミニウム製 商品名トーヤルナイトUM)、および形状が不定形であり平均粒径が8μmである水酸化アルミニウム(日本軽金属製、商品名日軽金B−103)から少なくとも1種を所定の質量部だけ配合し、チタネート系カップリング剤(味の素ファインテクノ製プレンアクトKR
TTS)またはシラン系カップリング剤(日本ユニカー製A-172)を所定の質量部、さらに軟化剤として、ポリエーテルエステル系オイルであるオイルA(ADEKA製、商品名アデカサイザー(登録商標)RS700)、パラフィン系オイルであるオイルB(出光興産製、商品名ダイアナ(登録商標)プロセスPW380)を所定の質量部だけ配合して、これらを混練して熱伝導性ゴム組成物を作製した。さらにこの熱伝導性ゴム組成物を押出機で厚さ6mmのシート状に押し出し熱伝導性成形体とした(実施例、比較例)。
【0037】
<ロール加工性>
ロール加工性は、コンパウンドをロールに投入し、板取りする際の作業性により評価した。○は、ロールを回転させながら板取りが問題なくできたことを意味し、△は、ロールを止めないと板取りが出来ない状態を意味し、×はロールから剥がれず板取りが出来なかった状態を意味する
【0038】
<熱伝導率>
熱伝導率はJIS R2616に規定する熱線法に準拠し、京都電子工業製の迅速熱伝導率計により、各実施例、比較例に係る熱伝導性成形体を2枚重ねとして厚さ12mmの状態で測定した。なお、熱伝導率としては、各種電子・電気機器に搭載されている半導体素子等の冷却用としての実用性能面からは、1.5W/mK以上が好ましい。
【0039】
<硬度>
また、硬度はJIS K7312に準拠し高分子計器製のアスカーC型硬度計を用いて0秒値及び15秒値を測定した。熱伝導性シートは放熱性能発揮のためには被冷却部品とヒートシンクとの間に密着させて使用する必要があるため軟らかいものが好ましく、硬度として実用性能面からは、15秒値で60以下が好ましい。
【0040】
<硬度の低下率>
カップリング剤添加による硬度低下効果として、15秒値で、同一配合比較例のものと比較し、5%以上低下したものを効果有とした。同一配合とはオイルとカップリング剤以外の配合を同一とし、比較例はこれにオイルを配合し、実施例はカップリング剤とオイルを配合したもので、カップリング剤とオイルの合計量は同一配合比較例のオイル量と同一である。なお、各実施例、比較例の番号は関連させている。
【0041】
以下、実施例、比較例に係る熱伝導性成形体の組成(質量部)と特性とを表1〜4に示す。なお、表において、質量部が零のものは、「−」、または「0」と表記している。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
表1、3、4に示すように、実施例は、いずれも、本発明に規定する質量部を満たす組成としているので、ロール加工性を満たす上に、熱伝導率が1.5W/mK以上であり、硬度(15秒値)が60以下であり、高い熱伝導性を有し、かつ硬度が適度に小さく適度な柔らかさを有するゴム組成物となっている。また、いずれの実施例も、水酸化アルミニウムの配合により難燃性が良好になっており、好適である。
【0047】
実施例1は、比較例1の組成に対し、チタネート系カップリング剤を0.5質量%含むようにした組成である。なお、各実施例では、チタネート系カップリング剤を添加する分、軟化剤のオイルの量を減少させている。実施例1は、比較例1に比べて、硬度(15秒値)が3減少しており、硬度の低下率も5.6%である。
【0048】
実施例2−1〜2−4は、比較例2−1の組成に対し、チタネート系カップリング剤を所定量加えた組成である。各実施例では、チタネート系カップリング剤の添加量が0.25質量%〜2.0質量%であり、何れも好適である。また、添加量が増えても熱伝導率が変化しないが、添加量が増えるほど硬度が低下している。一方で、チタネート系カップリング剤を3.0質量%加えた比較例2−2は、ロール加工性が悪かった。さらに、チタネート系カップリング剤に代えてシラン系カップリング剤を用いた実施例2−5においても硬度の低下が観察された。ただし、カップリング剤の量が同じである実施例2−2に比べると、硬度の低下量が小さいため、チタネート系カップリング剤よりシラン系カップリング剤のほうが硬度の低下効果は小さいものと思われる。
【0049】
実施例3は、比較例3に対してチタネート系カップリング剤を0.5質量%添加した組成である。ベースゴムに熱可塑性エラストマー(TPE)を加えても、ロール加工性及び熱伝導率が良い。
【0050】
実施例4はフィラーを大量に添加した比較例4に、チタネート系カップリング剤を0.5質量%添加した組成である。実施例4においてもカップリング剤を添加することにより硬度の低下が観察された。
【0051】
比較例5−1と5−2は、いずれも極性ゴムを含まず、熱可塑性エラストマーのみを使用している。比較例5−2は、チタネート系カップリング剤を添加したにもかかわらず、比較例5−1と硬度が同じであり、熱可塑性エラストマーのみをベースゴムとする場合、硬度の低下がないことが分かる。
【0052】
比較例6−2、実施例6−1〜6−3は、ニトリルゴムを用いた比較例6−1にチタネート系カップリング剤を添加した組成である。比較例6−2では、チタネート系カップリング剤を、組成物全体の0.1質量%加えても、硬度はほとんど低下しなかった。一方、チタネート系カップリング剤を0.5〜2質量%加えた実施例6−1〜6−3においては、比較例6−1に比べて硬度の低下率が5%以上であり、チタネート系カップリング剤を添加することで硬度が低下した。
【0053】
比較例7と実施例7、比較例8と実施例8を比較して分かるとおり、フィラーとして窒化ホウ素や窒化アルミニウムを用いても、チタネート系カップリング剤を添加することで硬度が低下した。
【0054】
なお、前述の実施例においては、フィラーとして酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムの両方を用いたが、フィラーとして、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムを単独またはこれらを組み合わせて使用しても、硬度が低下する本発明の効果が同様に得られると思料する。つまり、本発明において、ベースゴムに極性ゴムが含まれることと、所定量のフィラーが含まれることと、所定量のカップリング剤が含まれることにより、ゴム組成物の硬度が低下することを見出したため、添加するフィラーの種類は特に問わない。上述の列挙したフィラーは、主に、ゴム組成物の熱伝導性を確保するため、熱伝導性の高いフィラーを列挙したものである。
【0055】
以上、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇において、各種の変更例または修正例に想到しえることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性ゴムを主成分とするベースゴム100質量部に対して、
酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムからなる群から選ばれた少なくとも1種のフィラーを900質量部以上2000質量部以下含み、
更にチタネート系カップリング剤またはシラン系カップリング剤を0.2〜2質量%含むことを特徴とする熱伝導性ゴム組成物。
【請求項2】
前記極性ゴムが、アクリルゴムまたはニトリルゴムであることを特徴とする請求項1に記載の熱伝導性ゴム組成物。
【請求項3】
前記ベースゴムが、熱可塑性エラストマーを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の熱伝導性ゴム組成物。
【請求項4】
さらに、前記ベースゴム100質量部に対して、オイル30〜100質量部を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱伝導性ゴム組成物。
【請求項5】
前記オイルがポリエーテルエステル系オイルまたはパラフィン系オイルであって、
前記ベースゴム100質量部に対して、前記ポリエーテルエステル系オイル30〜70質量部を含むことを特徴とする請求項4に記載の熱伝導性ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱伝導性ゴム組成物を成形してなることを特徴とする熱伝導性成形体。

【公開番号】特開2012−211250(P2012−211250A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77326(P2011−77326)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】