説明

熱伝達係数算出方法

【課題】CAEによる2物体の温度変化の解析精度を向上させるべく、各物体間の純粋な熱伝熱係数を算出する熱伝達係数算出方法を提供する。
【解決手段】2物体1、2のそれぞれの内部の温度分布を略均一にした後、2物体1、2を接触させると共に該2物体1、2の全周を断熱材3で覆った際の各物体1、2の内少なくとも一方の物体の温度実測値と、CAEによる前記一方の物体の温度解析値とにより各物体1、2間の純粋な熱伝熱係数を算出することができ、該熱伝達係数を採用することで、CAEによる2物体1、2の温度変化の解析精度を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CAE(Computer Aided Engineering)により2物体間の熱伝達係数を算出する熱伝達係数算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の、CAEにより2物体間の熱伝達係数を算出する熱伝達係数算出方法を説明する。
まず、2物体を所定温度に到達するまで加熱炉等で加熱し、各物体のそれぞれの内部の温度分布が略均一になるまで放置する。
次に、各物体を接触させて各物体のそれぞれの温度変化を実測する。
次に、CAEにより2物体をモデル化して、各物体のそれぞれの温度変化の実測値と、CAEによる各物体のそれぞれの温度変化の解析値とが略一致するように、各物体と外部環境との間の熱伝達に係るパラメータを考慮した上で、各物体間の熱伝達係数を算出する。
【0003】
しかしながら、上述した従来の熱伝達係数算出方法では、2物体間の接触面からの相互の熱伝達以外の各物体と外部環境との間の熱伝達を考慮しているために、各物体間の熱伝達係数以外のパラメータが非常に多く計算が煩雑になり、熱伝達係数を算出する際の時間が増大していた。
しかも、上述した従来の熱伝達係数算出方法において算出された熱伝達係数は、各物体間の純粋な熱伝達係数ではないために、CAEにより各物体の温度変化を解析する際、各物体の周りの外部環境が相違してしまうと、当該熱伝達係数を適用することができず、解析上不都合を生じることがあった。
このように、CAEによる各物体の温度変化の解析精度を向上させる際には、まず、基本パラメータとなる各物体間の純粋な熱伝達係数を算出する必要があった。
【0004】
なお、2物体間の熱伝達係数の算出に係る従来技術として特許文献1には、実験測定部においては、モデル構造物が温度上昇させられてその内部温度と表面温度とがサンプリングされ、そして数値計算部においては、実験測定部に対する有限要素モデルが設定され且つモデル構造物の各表面に対して近似した熱伝達係数が設定されてモデル構造物の各節点の温度が各サンプリング毎に算出され、当該実験値と当該算出値とが比較されて、その偏差を縮小すべく前記設定した熱伝達係数が逐次補正演算される熱伝達係数算出装置が開示されている。
【特許文献1】特開平10−48166号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来の熱伝達係数算出方法では、熱伝達係数を算出する際、2物体間の接触面からの相互の熱伝達以外の各物体と外部環境との間の熱伝達を考慮しているために、熱伝達係数以外のパラメータが非常に多く計算が煩雑になり、熱伝達係数を算出する際の時間が増大していた。しかも、従来の熱伝達係数算出方法では、各物体間の純粋な熱伝達係数を算出していなかった。
【0006】
また、特許文献1の熱伝達係数算出装置の発明では、構造物本体と空気との間の熱伝達係数を逐次補正演算しているが、この熱伝達算出装置では、空気を取り巻く環境の因子が入ってくるため、構造物本体と空気との間の純粋な熱伝達係数を算出することはできない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、CAEによる2物体の温度変化の解析精度を向上させるべく、各物体間の純粋な熱伝達係数を算出する熱伝達係数算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の熱伝達係数算出方法は、2物体のそれぞれの内部の温度分布を略均一にした後、該2物体を接触させると共に該2物体の全周を断熱状態とした際の各物体の内少なくとも一方の物体の温度実測値と、CAEによる前記一方の物体の温度解析値とにより各物体間の熱伝達係数を算出することを特徴としている。
これにより、各物体間の純粋な熱伝達係数を算出することができる。
なお、本発明の熱伝達係数算出方法の各種態様およびそれらの作用については、以下の発明の態様の項において詳しく説明する。
【0009】
(発明の態様)
以下に、本願において特許請求が可能と認識されている発明(以下、「請求可能発明」という場合がある。)の態様をいくつか例示し、それらについて説明する。なお、各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付して、必要に応じて他の項を引用する形式で記載する。これは、あくまでも請求可能発明の理解を容易にするためであり、請求可能発明を構成する構成要素の組み合わせを、以下の各項に記載されたものに限定する趣旨ではない。つまり、請求可能発明は、各項に付随する記載、実施の形態等を参酌して解釈されるべきであり、その解釈に従う限りにおいて、各項の態様にさらに他の構成要件を付加した態様も、また、各項の態様から構成要件を削除した態様も、請求可能発明の一態様となり得るのである。なお、以下の各項において、(1)項及び(2)項が、請求項1及び2の各々に相当する。
【0010】
(1)2物体のそれぞれの内部の温度分布を略均一にした後、該2物体を接触させると共に該2物体の全周を断熱状態とした際の各物体の内少なくとも一方の物体の温度実測値と、CAEによる前記一方の物体の温度解析値とにより各物体間の熱伝達係数を算出することを特徴とする熱伝達係数算出方法。
従って、(1)項の熱伝達係数算出方法では、2物体のそれぞれの内部の温度分布を略均一にした後、2物体が接触され2物体の全周が断熱された状態で、各物体間の熱伝達係数が算出されるので、各物体単体での熱の移動が略無くなり、各物体間の接触面からの相互の熱伝達以外の各物体と外部環境との間の熱伝達が抑制されるために、各物体間の純粋な熱伝達係数を算出することができる。
【0011】
(2)2物体を所定温度まで加熱した後、各物体のそれぞれの周りを断熱状態として放置し、2物体のそれぞれの内部の温度分布を略均一にする放置ステップと、2物体を接触させると共に該2物体の全周を断熱状態として、各物体の内少なくとも一方の物体の温度変化を実測する実測ステップと、前記一方の物体の温度変化の実測値と、CAEによる前記一方の物体の温度変化の解析値とにより各物体間の熱伝達係数を算出する算出ステップと、を備えたことを特徴とする(1)項に記載の熱伝達係数算出方法。
従って、(2)項の熱伝達係数算出方法では、放置ステップでは、2物体のそれぞれの内部の温度分布が略均一になるまで、各物体のそれぞれの周りを断熱状態として放置され、実測ステップでは、2物体を接触させると共に2物体の全周を断熱状態、すなわち、各物体間の接触面からの相互の熱伝達以外の各物体と外部環境との間の熱伝達が抑制された状態として一方の物体の温度変化を実測し、算出ステップでは、一方の物体の温度変化の実測値と、CAEによる一方の物体の温度変化の解析値とを比較することにより、各物体間の純粋な熱伝達係数が算出される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、CAEによる2物体の温度変化の解析精度を向上させるべく、各物体間の純粋な熱伝達係数を算出する熱伝達係数算出方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図1〜図4に基いて詳細に説明する。
本発明の実施の形態に係る熱伝達係数算出方法を具現化するためには、図1及び図2に示すように、2物体1、2のそれぞれの周りを断熱状態にすべく、各物体1、2のそれぞれの周りを覆う断熱材3及び2物体1、2が接触した状態で該2物体1、2の全周を断熱状態にすべく、2物体1、2の全周を覆う断熱材3が採用される。
なお、断熱材3は、硬質ウレタンフォームやポリスチレンフォーム等のプラスチック系断熱材、セルロースファイバー等の自然系断熱材またはグラスウール等の鉱物系断熱材等が使用されるが、断熱性能を考慮した上で適宜選択される。
【0014】
本発明の実施の形態に係る熱伝達係数算出方法を、図1〜図4に基いて詳細に説明する。
まず、2物体1、2を所定温度まで加熱炉等で加熱し、その後、図1に示すように、各物体1、2のそれぞれの周りを断熱状態にすべく、各物体1、2のそれぞれの周りを断熱材3で覆い、各物体1、2のそれぞれの内部の温度分布が略均一になるまで放置しておく(放置ステップ)。
【0015】
次に、図2に示すように、2物体1、2を一平面で接触させると共に、2物体1、2の全周を断熱状態にすべく、2物体1、2の全周を断熱材3で覆う。続いて、各物体1、2それぞれの任意の部位の温度変化を温度センサー(図示略)により実測する(実測ステップ)。その測定結果が図4に示されており、図4(a)の点線が、一方の物体1の温度変化の実測値であり、図4(b)の点線が、他方の物体2の温度変化の実測値である。
次に、CAEにより各物体1、2をモデル化し、図2に示すように、各物体1、2を一平面で接触させた状態における各物体1、2のそれぞれの温度変化を解析する。この時まず最初に採用される熱伝達係数は、各種文献や論文等で開示された標準のものを適用する。その解析結果が図3に示されており、図3(a)が、一方の物体1の温度変化の解析値であり、図3(b)が、他方の物体2の温度変化の解析値である。
【0016】
次に、図4に示すように、各物体1、2のそれぞれの温度変化の実測値と、CAEによる各物体1、2のそれぞれの温度変化の解析値とを比較し、CAEによる各物体1、2のぞれぞれの温度変化の解析値が、各物体1、2のそれぞれの温度変化の実測値に略一致するように、CAEに適用される熱伝達係数の数値を変化させる。なお、図4(a)の点線は、上述したように、一方の物体1の温度変化の実測値であり、図4(b)の点線は、他方の物体2の温度変化の実測値であり、図4(a)の実線は、一方の物体1の温度変化の解析値であり、図4(b)の実線は、他方の物体2の温度変化の解析値である。
そして、CAEによる各物体1、2のそれぞれの温度変化の解析値と、各物体1、2のぞれぞれの温度変化の実測値とが略一致する熱伝達係数を算出する(算出ステップ)。
【0017】
なお、本熱伝達係数算出方法にて算出された各物体1、2間の純粋な熱伝達係数は、CAEにより各物体1、2の接触状態における各物体1、2の温度変化を解析する際の基本パラメータとして使用される。
【0018】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係る熱伝達係数算出方法では、2物体1、2のそれぞれの内部の温度分布が略均一になるまで、各物体1、2のそれぞれの周りを断熱材3で覆った状態で放置し、その後、2物体1、2を接触させて2物体1、2の全周を断熱材3で覆った状態で、各物体1、2間の熱伝達係数を算出するので、各物体1、2単体での熱の移動が略無くなり、各物体1、2間の接触面からの相互の熱伝達以外の各物体1、2と外部環境との間の熱伝達が抑制され、各物体1、2間の接触面からの相互の熱伝達以外の熱伝達に係るパラメータを考慮する必要がないために、CAEによる計算が複雑にならず、熱伝達係数を算出する時間も短縮される。
【0019】
しかも、本発明の実施の形態に係る熱伝達係数算出方法では、各物体1、2間の熱伝達係数を算出する際には、各物体1、2単体での熱の移動が略無く、各物体1、2と外部環境との間の熱伝達が抑制されているので、各物体1、2間の純粋な熱伝達係数を算出することができ、この熱伝達係数を適用することで、CAEによる各物体1、2の温度変化の解析精度を向上させることができる。
【0020】
また、本発明の実施の形態に係る熱伝達係数算出方法は、例えば、金型と冷却媒体との間の純粋な熱伝達係数を算出する際に採用され、該熱伝達係数を基本パラメータとして適用することができ、CAEによる金型の温度変化の解析精度を向上させることができる。
【0021】
なお、本発明の実施の形態に係る熱伝達係数算出方法では、各物体1、2のそれぞれの温度変化の実測値と、CAEによる各物体1、2のそれぞれの温度変化の解析値とを比較して、各物体1、2間の純粋な熱伝達係数を算出しており、最も好ましい形態であるが、必ずしも各物体1、2の両者の温度変化を比較する必要はなく、各物体1、2の内いずれか一方の物体に対して、実測値と解析値とを比較することで熱伝達係数を算出してもよい。
【0022】
本発明の実施の形態に係る熱伝達係数算出方法では、算出される熱伝達係数の精度は、断熱材3の断熱性能に依存されるために、断熱性能を十分加味した上で断熱材3を適宜選択して、熱伝達係数を算出する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明の実施の形態に係る熱伝達係数算出方法で、2物体それぞれの周りを断熱材で覆った状態の模式図である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態に係る熱伝達係数算出方法で、2物体を接触させ該2物体の全周を断熱材で覆った状態の模式図である。
【図3】図3は、各物体のそれぞれの温度変化の解析値を示し、(a)は一方の物体の解析値を示した図で、(b)は他方の物体の解析値を示した図である。
【図4】図4は、各物体のそれぞれの温度変化の実測値と、CAEによる各物体のそれぞれの温度変化の解析値とを比較した図で、(a)は一方の物体において比較した図で、(b)は他方の物体において比較した図である。
【符号の説明】
【0024】
1、2 物体,3 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2物体のそれぞれの内部の温度分布を略均一にした後、該2物体を接触させると共に該2物体の全周を断熱状態とした際の各物体の内少なくとも一方の物体の温度実測値と、CAEによる前記一方の物体の温度解析値とにより各物体間の熱伝達係数を算出することを特徴とする熱伝達係数算出方法。
【請求項2】
2物体を所定温度まで加熱した後、各物体のそれぞれの周りを断熱状態として放置し、2物体のそれぞれの内部の温度分布を略均一にする放置ステップと、
2物体を接触させると共に該2物体の全周を断熱状態として、各物体の内少なくとも一方の物体の温度変化を実測する実測ステップと、
前記一方の物体の温度変化の実測値と、CAEによる前記一方の物体の温度変化の解析値とにより各物体間の熱伝達係数を算出する算出ステップと、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の熱伝達係数算出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−264776(P2009−264776A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111296(P2008−111296)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】