説明

熱処理工程の生産管理方法

【課題】熱処理後の製品特性に規格範囲があり、該規格範囲を満足させるべく熱処理温度を調整する必要がある、金属製品の熱処理に際して、容易に熱処理温度を適正温度に調整することを可能とする。
【解決手段】熱処理温度を設定するにあたり、過去に熱処理を施した製品ごとの熱処理情報を、コンピュータを含む情報処理システム(3,4,5,6)を利用して検索し、処理対象の製品と同一もしくは仕様が最も近い製品の熱処理温度を初期設定値としてサンプルに熱処理を施し、サンプルの製品特性が規格範囲を満足すれば、製品に対して熱処理を施し、満足しない場合には、前記熱処理温度を調整し、サンプルに対する前記熱処理および測定を再度行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボンディングワイヤなどの金属製品を対象とした熱処理工程の生産管理方法に関し、特に、熱処理後の製品特性に規格範囲があり、該規格範囲を満足させるべく熱処理温度を調整する必要がある熱処理工程の生産管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱処理は、金属製品の諸特性を得るために、広く一般的に行われる処理である。たとえば、ボンディングワイヤの製造においては、伸線後のワイヤの機械的特性を改善するために、伸線後のワイヤに熱処理により焼鈍する工程が設けられている(特許文献1参照)。このような熱処理には、製品に応じて種々の製造条件が設けられているが、このうち温度と時間は製造条件として不可欠なものである。
【0003】
熱処理工程は、温度と時間の製造条件の設定方法の相違により、(1)熱処理を行うための温度と時間の両方の基準値が予め定められており、これらの基準値に従って熱処理を開始するものと、(2)温度と時間の基準値が決められていない代わりに、製品特性に規格範囲があり、温度と時間の一方もしくは両方の条件を調整することにより、熱処理後の製品特性が規格範囲に入ることを確認するものの2つの製造態様に大別される。
【0004】
上述した2つの製造態様のうち、前者の製造態様が一般的ではあるが、後者の製造態様を採用する場合もある。かかる調整工程においては、時間の条件を一定として、温度の条件を調整することが多い。たとえば、ボンディングワイヤの製造においては、熱処理後の製品特性として、組成、線径、機械的特性値、特に常温での伸び率が挙げられ、これらについて規格範囲が設定されている。その製造工程において、該規格範囲を満足させるべく、熱処理温度を調整し、熱処理後に計測器を用いて製品の特性値を測定し、製品が該規格範囲を満足していることを確認している(特許文献2参照)。ボンディングワイヤの製造においては、熱処理温度1℃につき伸び率が最大0.5%程度変化することもあり、適正温度の幅が狭く、規格範囲を満足させるためには、熱処理温度の厳密な管理が必要とされる。また、その熱処理工程では、複数の装置から選択された1つの熱処理装置を用いて熱処理を行うことが一般的であり、ヒータ部の劣化などのために、使用する装置によって適正温度にずれを生じる場合がある。このような事情から、ボンディングワイヤのような金属製品の熱処理では、製品特性に規格範囲を設け、熱処理条件を調整しつつ、熱処理後の製品特性が規格範囲を満足するようにする後者の製造態様が採用されている。
【0005】
後者の製造態様では、通常、サンプル熱処理工程を設け、この工程において、任意に設定された熱処理温度で、製品の一部であるサンプルに熱処理を施し、サンプルの製品特性を測定して、測定値が規格範囲を満足するか否かを判定する。規格範囲内の場合には、製品熱処理工程(量産工程)に入り、サンプル熱処理工程で設定した温度で製品の熱処理を開始する。一方、測定値が規格範囲を満足していない場合には、規格範囲からの乖離程度に応じて熱処理温度を再設定し、熱処理後のサンプルの製品特性が規格範囲を満足するまで、サンプルに対する熱処理温度の設定、熱処理、および製品特性の測定という調整工程が繰り返されることになる。
【0006】
以上のような後者の製造態様においては、製品特性の規格範囲を満足する熱処理の適正温度を見つけるまでの調整工程における作業時間中は、熱処理装置は製品の熱処理のためには稼動していないことになる。このため、調整工程に要する時間を短縮することが、装置稼動率および生産性を向上させるにあたり重要な要素となる。
【0007】
従来、調整工程の時間の長短に大きな影響を与えるサンプル熱処理時の温度設定は、作業者の記憶や勘を頼りに行われている。言い換えれば、作業者は、処理対象である製品と同一もしくは同様の製品を過去に熱処理した際の記憶や経験にのみ基づいて、サンプル熱処理時の温度設定を行っている。このような場合でも、温度条件の異なる製造品種数が少ない場合には、かかる調整工程の時間の短縮化に対する困難性の度合いは小さい。しかしながら、温度条件の異なる製造品種が相当数ある場合には、調整の段取りは、作業者の経験や技量に依存する部分が大きく、非熟練者が行うと、調整工程に要する時間が長時間に及んでしまう場合がある。特に、ボンディングワイヤは、組成、線径、機械的特性などに応じて、近年数百にもおよぶ製造品種が存在しており、さらに製品特性に対する要求の高度化により、新規の製造品種も日々増加しているのが現状であり、作業者の記憶と経験に依存するだけでは、熱処理温度の調整に要する時間の効率化を図ることは困難である。
【0008】
このように、熱処理後の製品特性に規格範囲があり、該規格範囲を満足させるべく熱処理温度を調整する必要がある熱処理工程において、その温度の調整に要する時間を短縮することは、装置稼働率および生産性を向上させる上で極めて重要である。また、調整工程の段取りは、製造品種数および作業者の熟練度に左右されるが、これらの要因にできる限り影響されずに、熱処理温度を調整できる生産管理の仕組みが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−55748号公報
【特許文献2】特開2006−11890号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、熱処理後の製品特性に規格範囲があり、該規格範囲を満足させるべく熱処理温度を調整する必要がある熱処理工程に関して、製造品種数が多い場合でも、作業者の熟練度に影響されることなく、容易に熱処理温度を適正温度に調整することを可能とする、生産管理の仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の熱処理工程の生産管理方法は、金属製品を対象とし、熱処理後の製品特性に規格範囲があり、該規格範囲を満足させるべく熱処理温度を調整する必要がある熱処理工程の生産管理方法に関する。
【0012】
本発明は、熱処理温度を設定するにあたり、情報処理システムを利用して、過去に行った熱処理に関する製品ごとの熱処理情報を検索し、処理対象の製品と同一製品もしくは仕様が最も近い製品の熱処理温度を初期設定値とし、該熱処理温度にてサンプルに熱処理を施し、該熱処理後のサンプルに関して所定の製品特性を測定し、測定値が所定の規格範囲を満足する場合には、該製品の熱処理を開始し、満足しない場合には、該測定値の前記規格範囲からの乖離程度に応じて熱処理温度を調整し、前記熱処理および測定の工程を再度行うことを特徴とする。
【0013】
具体的には、本発明の生産管理方法を実施するにあたっては、
製品に対して熱処理を施すための熱処理装置と、
該製品の所定の製品特性を測定するための測定装置と、
少なくとも該製品の製品情報および該熱処理装置の装置情報を入力するための入力装置と、
少なくとも過去に行った熱処理に関する製品ごとの熱処理情報と熱処理装置ごとの装置情報を含む履歴情報を記憶した記憶装置と、
少なくとも前記製品情報および前記熱処理情報を表示するための表示装置と、
これら装置との間で信号を送受信して演算処理を行う制御装置と、
を備える生産管理システムを用いる。
【0014】
そして、本発明の生産管理方法は、
(1)該入力装置を用いて、処理対象の製品に関する製品情報と使用する熱処理装置に関する装置情報を入力し、前記製品情報と前記熱処理装置情報とのうち、少なくとも該製品情報に基づいて、前記記憶装置内から過去に行った熱処理に関する製品ごとの熱処理情報を検索し、処理対象の製品と同一製品もしくは仕様が最も近い製品の熱処理情報を出力または前記表示装置に表示させ、
(2)該出力または表示された熱処理情報に基づいて、前記熱処理装置の熱処理温度の設定を行い、
(3)該製品のサンプルに対して熱処理を行い、前記測定装置を用いて熱処理後のサンプルの製品特性を測定し、該サンプルの製品特性の測定値が、規格範囲を満足するか否かを判定し、
(4)該測定値が規格範囲を満足している場合には、該製品に対して熱処理を行い、該測定値が規格範囲を満足していない場合には、測定値の規格範囲からの乖離程度に応じて熱処理温度を再設定し、前記サンプルの熱処理および測定の工程を再度行う、
ことを特徴とする。
【0015】
前記製品に対して熱処理を行う工程の後、さらに、前記測定装置を用いて該熱処理後の製品の製品特性を測定し、該熱処理後の製品の製品特性の測定値を含む製品情報、該製品の熱処理情報、該熱処理に用いた熱処理装置の装置情報を、前記記憶装置に記憶および蓄積することが好ましい。
【0016】
前記製品情報には、少なくとも該製品の品種記号、組成、寸法が含まれ、前記製品ごとの熱処理情報の検索に際して、該製品情報のうち、前記品種記号を用いて検索を行い、前記記憶装置の蓄積データに該品種記号と一致するものがある場合には、その熱処理情報を抽出し、一致しない場合には、前記組成により検索を行い、該組成と一致するもの、もしくは、該組成と最も近い組成を有するものを検索し、さらにその中から、前記寸法と一致するもの、もしくは、該寸法と最も近い寸法を有するものの熱処理情報を抽出することが好ましい。
【0017】
前記製品ごとの熱処理情報の検索に際して、前記製品情報と前記熱処理装置情報との両方を検索キーとして用い、前記使用される熱処理装置に関する前記製品ごとの熱処理情報の検索を優先して行うことが好ましい。
【0018】
前記入力装置は、バーコードあるいは2次元コード読取装置を有し、少なくとも前記処理対象の製品に関する製品情報の入力を該読取装置により行うことが好ましい。
【0019】
前記測定装置と前記記憶装置とを前記制御装置を介して接続し、前記測定装置により測定された測定値を、自動的に前記記憶装置に記憶および蓄積させることが好ましい。
【0020】
前記熱処理装置の熱処理温度の設定は前記制御装置により自動的に設定されるようになっており、該熱処理装置は、サンプル熱処理モードと製品熱処理モードとを有し、熱処理に際して、該サンプル熱処理モードでは前記熱処理温度の調整が可能であり、該製品熱処理モードでは前記熱処理温度の調整を不可能とすることが好ましい。
【0021】
本発明は、前記金属製品が半導体素子接続用のボンディングワイヤである場合に特に好適に用いることが出来る。この場合、前記製品特性として、常温での伸び率を用いることが望ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、製造品種数に関係なく、処理対象の製品と同一製品もしくは仕様が最も近い製品に対して過去に熱処理を施した際の熱処理情報を、容易に知得することができる。このため、熟練度に関係なく、1回の温度設定作業により、サンプルの製品特性が規格範囲を満足するようにでき、仮に満足しない場合でも規格範囲から大きく外れることを防止できる。すなわち、1回の温度設定作業により、熱処理装置の設定温度を、適正温度に調整することができるか、少なくとも適正温度から大きく外れていない温度に調整することができる。したがって、本発明によれば、製造品種数が多い場合にも、容易に熱処理温度を適正温度に調整することが可能になる。この結果、熱処理条件の調整に要する時間を短縮することが可能となり、装置稼働率および生産性の向上効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施態様に使用するシステムの構成図である。
【図2】本発明の一実施態様に係る作業手順を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施態様に使用するシステムの構成図である。
【図4】本発明の一実施態様に使用するシステムの構成図である。
【図5】本発明による工数削減効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明が適用される金属製品の熱処理システムには、基本的に、温度調整機能を有する熱処理装置、および、熱処理後に所定の製品特性(たとえば、伸び率、破断荷重、硬度、引張強さなど)を測定するための測定装置が備えられている。本発明の生産管理方法は、これらの熱処理システムの他に、製品特性の測定値を登録などするための情報処理システムが備えられる。かかる情報処理システムは、基本的には、入力装置と、表示装置と、制御装置と、記憶装置とにより構成される。
【0025】
入力装置は、処理対象となる製品の製品情報および熱処理装置情報を入力するためのもので、たとえばキーボード、マウスなどのポインティングデバイス、バーコードあるいは2次元コード読取装置などのスキャナなどが該当する。製品情報には、個々の製品の組成、寸法、形状などの品種情報が含まれ、さらにロットごとに製品に付与されるロット番号なども含まれる。また、熱処理装置情報としては、装置番号が挙げられる。
【0026】
記憶装置は、過去に行った熱処理に関する製品ごとの熱処理情報および熱処理装置情報などの履歴情報を記録および蓄積し、かつ、新たな製品情報、熱処理情報などの記憶および蓄積も可能なもので、ハードディスク、USBメモリ、各種メモリカードのような記憶装置、サーバ用の大容量記憶装置などが挙げられる。かかる熱処理情報には、既知の製品の製品情報のほか、当該製品に対する熱処理条件、該熱処理条件による熱処理後の当該製品の所定の特性に関する測定値などが含まれる。熱処理条件には、少なくとも当該製品が熱処理後に所定の規格範囲を満足するための熱処理温度が含まれ、必要に応じて、熱処理時間、加熱速度なども含まれる。
【0027】
表示装置は、当該製品の製品情報と共に、抽出された熱処理情報、具体的には、少なくとも熱処理条件(少なくとも熱処理温度)、さらには処理対象の製品と抽出されたデータの製品が異なる場合には、データ対象の製品情報、その他の必要な情報を表示するためのもので、たとえばモニタが相当する。
【0028】
これら各種装置のうち、少なくとも、前記入力装置と前記表示装置を前記制御装置に接続するとともに、この制御装置と前記記憶装置とをネットワーク接続し、前記情報処理システムを構築している。なお、このうちの制御装置(および入力装置、表示装置)は、作業者の動線をできる限り短くするために、たとえば前記熱処理システムの測定装置の近傍に設置しておくことが好ましい。
【0029】
本発明では、所定の金属製品の熱処理工程において、熱処理温度を設定するにあたって、かかる情報処理システムを利用して、過去に行った熱処理に関する製品ごとの熱処理情報を検索する。そして、処理対象の製品と同一製品の熱処理情報を抽出し、少なくともその熱処理温度を作業者が認識可能に表示する。なお、処理対象の製品と同一製品の熱処理情報が存在しない場合には、当該製品と仕様が最も近い製品の熱処理情報を抽出する。
【0030】
前記品種情報は、数字、アルファベットなどの記号を用いて品種データとして体系化されているのが一般的である。したがって、入力装置に、品種情報を品種データ(品種記号)として入力するようにして、最初に、記憶装置に蓄積されている熱処理情報の中から、入力された品種データと一致するものを検索し、存在する場合には、その熱処理情報を抽出する。
【0031】
一方、一致するものが存在しない場合には、製品情報のうち、組成の情報に基づき、組成が一致する品種の熱処理情報を、組成が一致する品種が存在しない場合には、最も近い組成を有するものを検索する。たとえば、金ボンディングワイヤの場合、金の純度(フォーナイン、スリーナインなど)、第1添加元素の種類とその添加率、第2添加元素の種類とのその添加率、第3添加元素の種類とその添加率というように、製品特性に重要なパラメータから順次比較検討し、データを抽出していくことにより、最も近似する組成を有する品種を選択する。
【0032】
さらに、その中から、処理対象の製品と寸法が一致するもの、もしくは、当該製品の寸法と最も近い寸法を有するものの熱処理情報を抽出することがさらに好ましい。
【0033】
このようにして、熱処理温度の初期設定値が出力されると、かかる初期設定値に基づいて熱処理温度を設定し、該熱処理温度にてサンプルに熱処理を施す。熱処理後に、サンプルについて所定の製品特性を測定し、測定値が所定の規格範囲を満足するか否かを評価する。そして、測定値が所定の規格範囲を満足する場合には、該製品自体の熱処理工程を開始する。一方、満足しない場合には、該測定値の前記規格範囲からの乖離程度に応じて熱処理温度を調整し、前記熱処理および測定の工程を再度行うことになる。
【0034】
本発明は、金を主成分として微量の各種添加元素が添加されることで、種々の特性を発揮するようになっているボンディングワイヤの熱処理工程に特に好適に適用される。金ボンディングワイヤでは、熱処理により調整される機械的特性値のうち、ワイヤボンディング時やモールド時に重要になる常温での伸び率が必須のパラメータであり、熱処理温度で調整することにより、その規格範囲を満足させる作業が行われる。特に、この熱処理温度の相違により、組成、線径にも左右されるが、熱処理温度1℃につき伸び率が最大0.5%程度変化することもあるため、熱処理温度は製造品種ごとに細心の注意を払って調整する必要がある。なお、この伸び率の値が規格範囲より小さくなると、ボンディング時のループ形成性が悪くなり、反対に大きくなると、破断荷重が低くなりすぎて破断しやすくなる。
【0035】
本発明の熱処理工程の生産管理方法により、製造品種数および作業者の熟練度に関係なく、過去に処理対象の製品と同一製品もしくは仕様が最も近い製品に対して適正と判断された熱処理温度を、容易に知得することが可能となる。このため、1回の温度設定作業により、サンプルの製品特性が規格範囲を満足するか、仮に満足しなくても規格範囲から大きく外れることがなくなる。したがって、製品に対する熱処理温度の調整工程における段取りがスムーズとなり、その結果、調整工程に要する時間を大幅に短縮することが可能となり、装置稼働率および生産性の向上効果が得られる。
【0036】
[実施の形態の第1例]
以上のようなシステムを利用して、本発明による熱処理工程の生産管理方法を実施する場合について、図面を用いて、より具体的に説明する。
【0037】
図1に、熱処理システムと情報処理システムとからなる、本発明を実施するための生産管理システムの一例を示す。熱処理システムは、製品に対して熱処理を施すための熱処理装置1と、該製品の所定の製品特性を測定するための測定装置としての計測器2とから構成されている。一方、情報処理システムは、処理対象の製品の製品情報および使用される熱処理装置の装置情報としての装置番号を入力するためのキーボード3と、処理対象の製品に関する製品情報および該製品に対して抽出された熱処理温度を含む熱処理情報を表示するためのモニタ4と、各装置との間で信号を送受信し演算処理を行うための制御装置としてのパーソナルコンピュータ5と、このパーソナルコンピュータ5とネットワーク接続し、製品ごとの熱処理情報および装置ごとの熱処理装置情報を含むデータを履歴情報として、記録、蓄積および管理するためのサーバ6とから構成されている。なお、ボンディングワイヤを対象とし、製品特性として常温での伸び率を用いる場合には、前記計測器2は引張試験機である。また、前記熱処理装置1は、たとえば環状の赤外線加熱炉であり、ボンディングワイヤをその内側を所定の速度で通過させることにより熱処理を施すようになっている。
【0038】
図2は、上記のシステムを用いて熱処理工程の生産管理方法を実施する場合の手順を示したフローチャートである。
【0039】
(1−1)作業者は、最初に、処理対象となるボンディングワイヤの品種情報およびロット番号と、使用する熱処理装置1の装置番号を、前記キーボード3を用いて入力する。本例では、上記情報のデータは、数字および/またはアルファベットからなる記号の組合せ(コード)により構成されており、これらのコードを入力すればよい。
【0040】
(1−2)入力されたデータに基づき、パーソナルコンピュータ5は、入力された製品情報と装置番号を検索キーとして、前記サーバ6内に蓄積されたデータベースから、過去に同一品種を対象に同一装置を用いて熱処理を行った際の熱処理情報について検索を行う。
【0041】
特に、ボンディングワイヤの熱処理にあっては、複数の熱処理装置の中から選択した1つの熱処理装置を用いて熱処理を行うことが一般的であり、使用する熱処理装置によって適正温度が僅かに異なっている場合がある。上述の通り、ボンディングワイヤでは僅かな温度の相違が製品特性に大きな影響を与えるため、装置番号を含む熱処理装置情報を検索キーとすることが好ましい。これにより、ヒータ部の径年劣化などによる影響をできる限り小さくすることができる。
【0042】
この場合、同じ装置番号と関連づけられた製品ごとの熱処理情報の中から、最初に同一品種についての熱処理情報を検索する。当該データが存在しない場合、全データの中から、同一品種についての熱処理情報を検索する。さらに、同じ装置番号と関連づけられた製品ごとの熱処理情報の中から、仕様が最も近い品種についての熱処理情報を検索し、所定の範囲(たとえば、少なくとも第1添加元素が一致し、その添加量が近似するなどの条件)で当該データが存在しない場合、全データの中から、仕様が最も近い品種についての熱処理情報を検索するといった階層的な検索構造とすればよい。なお、厳密な温度管理が必要とされない製品に対しては、製品情報のみによって検索を行ってもよく、一方、熱処理装置情報についても、製品の種類、使用年数などの情報により階層を設けて検索するようにしてもよい。
【0043】
(1−3)パーソナルコンピュータ5は、最初に入力された品種データに対応する具体的な製品情報と共に、抽出された熱処理温度、さらには、同一品種のデータでない場合には、その熱処理情報に対応する製品情報を、前記モニタ4に表示する。製品情報を併せて表示させることにより、データの入力の適否をこの段階で確認することが可能となる。
【0044】
(2)次に、モニタ4に表示された熱処理温度に基づいて、作業者は、前記熱処理装置1の熱処理温度について初期設定を行う。具体的には、熱処理装置1の温度調節器を調整して、モニタ4に表示された温度を初期設定値として設定する。
【0045】
(3−1)サンプル熱処理工程を開始し、熱処理装置1の炉内の温度が安定した後、製品の一部であるサンプルに設定された熱処理温度で熱処理を施し、熱処理後に得られたサンプルの伸び率を計測器5を用いて測定する。なお、サンプルは、処理対象となるボンディングワイヤの一部(たとえばボビンに巻回された部分のうちの先端部)を熱処理した後、これをカットして得ることができる。
【0046】
(3−2)作業者は、測定により得られた測定値が、当該製品について予め定められている規格範囲内にあるか否かを判定する。
【0047】
(4−A)判定の結果、測定値が規格範囲を満足している場合には、製品熱処理工程に移り、前記熱処理温度の設定のまま、製品自体の熱処理を開始する。この場合、この時点で、当該製品についての、製品情報および熱処理情報をキーボードにより入力し、サーバの記憶装置に当該情報を記録および蓄積させることにより、その後のさらなる適切なデータの抽出に資することが可能となる。
【0048】
(4−B)これに対して、測定値が規格範囲外の場合には、この測定値の規格範囲からの乖離程度に応じて熱処理装置1の温度を再設定し、再度、サンプルの熱処理と測定の工程を再度やり直すことになる。
【0049】
(5)なお、図2に示すように、製品に対して熱処理を行う工程の後、さらに、測定器2を用いて、熱処理後の製品の製品特性を測定し、上記のサンプルに対する熱処理工程におけるデータの記録の代わりに、製品本体についてのデータを記録および蓄積するようにしてもよい。
【0050】
[実施の形態の第2例]
図3に示す本例の場合には、製品情報を入力するための入力装置として、キーボード3に代えて、バーコードリーダ7を使用する点に特徴がある。このように、製品情報を、バーコードあるいはQRコードなどの二次元コードに変換し、これらを製品に付帯させた状態で工程を流動させ、それぞれの工程でコード読取装置(リーダ)を用いて読み取るようにすれば、工程の準備に要する時間の短縮を図れると共に、入力ミスを排除することができるため、生産管理の質の向上を図ることができる。なお、具体的には、ボンディングワイヤを巻回したボビンに、コード変換した情報を直接印刷あるいは印刷したシールを貼着することにより付帯させる。また、本例の場合には、熱処理装置1の装置番号、さらには作業者名についても、それぞれコード変換し、バーコードリーダ7にて読み取り可能としている。
【0051】
本例の場合には、作業者は、図2に示したフローチャートのうち、入力のステップにおいて、バーコードリーダ7を利用して、処理対象となるボンディングワイヤの製品情報を読み取り、パーソナルコンピュータ5を介して、データをサーバ6に伝送する。同様に、熱処理装置1の装置番号および作業者名に関する情報に関しても、バーコードリーダ7を利用して読み取り、パーソナルコンピュータ5を介して、データをサーバ6に伝送し、データの記録および蓄積が可能となっている。その他の構成および作用効果については、第1例の場合と同様である。
【0052】
[実施の形態の第3例]
図4に示す本例の場合には、作業者の負荷をさらに軽減すべく、熱処理装置1aの設定温度を、サーバ6内で検索された熱処理温度に自動的に設定できるようにした点に特徴がある。
【0053】
本例の場合、熱処理装置1aとして、サンプル熱処理モードスイッチと製品熱処理モードスイッチとを有するとともに、外部出入力端子が設けられたものを使用する。また、熱処理装置1aはサーバ6に対してネットワーク接続される。これにより、熱処理装置1aの設定温度は、パーソナルコンピュータ5からの指令に基づいて、サーバ6内で抽出された処理対象の製品についての過去の熱処理温度もしくは最も仕様が近い製品についての過去の熱処理温度によって、自動的に設定される。
【0054】
この場合、熱処理装置1aは、サンプル熱処理開始スイッチが操作された後のサンプル熱処理モードにおいては、手動での温度調整が可能であり、一方、製品熱処理開始スイッチが操作された後の製品熱処理モードにおいては、手動での温度調整ができなくなるとともに、今回設定した熱処理温度をサーバ6に対して外部出力するようにしている。さらに、熱処理装置1aは、製品熱処理終了後には、パーソナルコンピュータ5による熱処理温度の自動設定待ち状態となるようになっている。
【0055】
また、計測器2とサーバ6とについても、パーソナルコンピュータ5を介してネットワーク接続している。これにより、計測器2により測定される測定値を、サーバ6内に自動的に記録および蓄積するようにしている。
【0056】
本例の場合、まず、熱処理装置1aの立上げ直後、もしくは、製品の熱処理終了後は、熱処理装置1aに設けられた温度調整器の設定温度は、外部入力待機状態となる。作業者は、最初に、サンプル熱処理モードスイッチを操作して、熱処理装置1aをサンプル熱処理モードとする。
【0057】
第2例の場合と同様に、バーコードリーダ7を利用して、処理対象となるボンディングワイヤの製品情報、熱処理装置1aの装置番号などの入力が行われ、サーバ6内から過去に熱処理を施した際の熱処理温度など必要な情報が抽出される。なお、この際、製品情報および抽出された熱処理情報は確認のためにモニタ4に表示される。
【0058】
次に、パーソナルコンピュータ5からの指令に基づいてサーバ6からネットワークを介して出力されたデータに基づき、熱処理装置1aの設定温度が、サーバ6内で抽出された熱処理温度に自動的に設定され、その後、サンプルに対する熱処理を開始する。このサンプル熱処理モードでは、温度調節器は作業者による手動温度調節が可能である。よって、作業者が、モニタ4に表示されたデータに基づいて、より適切な熱処理温度に調整変更することが可能である。
【0059】
サンプル熱処理終了後、サンプルの伸び率を計測器2によって測定する。この場合、測定値は、計測器2からパーソナルコンピュータ5へと自動的に転送される。本例では、パーソナルコンピュータ2は、得られた測定値が、定められた仕様規格範囲内にあるか否かを判定し、測定値が規格範囲を満足していれば、モニタ4にその旨を表示し、熱処理装置1aのモードの変更を可能とする。作業者は、熱処理装置1aの製品熱処理モードスイッチを操作し、製品熱処理モードとすると共に、製品に対する熱処理を開始する。
【0060】
製品熱処理モードに入った後は、温度調節器は機能しなくなり、作業者による手動温度調節ができない状態となる。これにより、製品自体の熱処理工程における温度設定に対する誤入力を避けることができる。同時に、今回設定した熱処理温度がサーバ6に対して伝送され、その他の情報と共に、サーバ6の記録装置に記録および蓄積される。
【0061】
なお、規格範囲を満足していない場合は、サンプル熱処理モードは解除されず、作業者は、熱処理温度の再設定を行い、サンプルの熱処理および測定を再度行う。なお、この場合、測定値が規格範囲を満足するまで、製品熱処理モードスイッチが作動せずに、製品熱処理モードに移行できないようにしてもよい。これらのモードの入力および変更の自動化は対象となる製品の種類により、種々の設計が可能であり、たとえば、測定値が規格範囲を満足した場合には、自動的に製品熱処理モードに移行させ、手動による温度調節をできなくして、熱処理の開始スイッチにより製品の熱処理を開始させるようにしてもよい。
【0062】
本例の場合、熱処理後の製品の伸び率を計測器2を用いて測定し、この測定値をサーバ6に対して伝送し、サーバ6の記録装置に記録および蓄積する。また、最後に、すでに入力され、パーソナルコンピュータ5のフラッシュメモリに記録されている、ボンディングワイヤの製品情報、熱処理日時、および、作業者名など、その他必要な情報を、同時にサーバ6の記録装置に記録および蓄積する。
【0063】
以上に説明したような本例の場合には、熱処理装置や計測器とパーソナルコンピュータやサーバとネットワーク接続することにより、これら装置間で双方向のデータ通信を行わせ、必要なデータを自動転送可能としたため、作業者による熱処理装置1aの温度設定作業や、熱処理装置1aの熱処理温度の設定、測定値の入力作業、その他の作業に必要な手間が大幅に軽減され、調整に要する時間の短縮を図れると共に、入力ミス、判断ミスや装置の誤動作などの人為的なミスを可能な限り防止でき、さらなる生産管理の質の向上を図ることができる。
【実施例】
【0064】
実施の形態の第1例に基づいて構成されたシステムを用いて、ボンディングワイヤに熱処理を施した場合の効果を確認した。本実施例により熱処理を施した場合の工数と、作業者の記憶や勘を頼りに熱処理温度を決定する従来の方法により熱処理を施した場合の工数とをそれぞれ測定した。なお、この場合の工数とは、熱処理作業に要した正味の時間を意味する。この結果を図5に示す。なお、本例の方法と従来の方法とで、作業者は非熟練の同一人物とした。図5からも分かるように、実施例の場合には、従来の方法にて熱処理を施した場合に比べて、工数を削減できている。また、この工数削減効果は、生産量の増加に伴って大きくなることも確認できた。
【符号の説明】
【0065】
1、1a 熱処理装置
2 計測器(引張試験機)
3 キーボード
4 モニタ
5 パーソナルコンピュータ
6 サーバ
7 バーコードリーダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製品に適用され、熱処理後の製品特性に規格範囲があり、該規格範囲を満足させるべく熱処理温度を調整する必要がある熱処理工程の生産管理方法であって、
熱処理温度を設定するにあたり、情報処理システムを利用して、過去に行った熱処理に関する製品ごとの熱処理情報を検索し、処理対象の製品と同一製品もしくは仕様が最も近い製品の熱処理温度を初期設定値とし、該熱処理温度にてサンプルに熱処理を施し、該熱処理後のサンプルに関して所定の製品特性を測定し、測定値が所定の規格範囲を満足する場合には、該製品の熱処理を開始し、満足しない場合には、該測定値の前記規格範囲からの乖離程度に応じて熱処理温度を調整し、前記熱処理および測定の工程を再度行うことを特徴とする熱処理工程の生産管理方法。
【請求項2】
金属製品に適用され、熱処理後の製品特性に規格範囲があり、該規格範囲を満足させるべく熱処理温度を調整する必要がある熱処理工程の生産管理方法であって、
製品に対して熱処理を施すための熱処理装置と、
該製品の所定の製品特性を測定するための測定装置と、
少なくとも該製品の製品情報および該熱処理装置の装置情報を入力するための入力装置と、
少なくとも過去に行った熱処理に関する製品ごとの熱処理情報と熱処理装置ごとの装置情報を含む履歴情報を記憶した記憶装置と、
少なくとも前記製品情報および前記熱処理情報を表示するための表示装置と、
これら装置との間で信号を送受信して演算処理を行う制御装置と、
を備える生産管理システムを用い、
(1)該入力装置を用いて、処理対象の製品に関する製品情報と使用する熱処理装置に関する装置情報を入力し、前記製品情報と前記熱処理装置情報とのうち、少なくとも該製品情報に基づいて、前記記憶装置内から過去に行った熱処理に関する製品ごとの熱処理情報を検索し、処理対象の製品と同一製品もしくは仕様が最も近い製品の熱処理情報を出力または前記表示装置に表示させ、
(2)該出力または表示された熱処理情報に基づいて、前記熱処理装置の熱処理温度の設定を行い、
(3)該製品のサンプルに対して熱処理を行い、前記測定装置を用いて熱処理後のサンプルの製品特性を測定し、該サンプルの製品特性の測定値が、規格範囲を満足するか否かを判定し、
(4)該測定値が規格範囲を満足している場合には、該製品に対して熱処理を行い、該測定値が規格範囲を満足していない場合には、測定値の規格範囲からの乖離程度に応じて熱処理温度を再設定し、前記サンプルの熱処理および測定の工程を再度行う、
ことを特徴とする熱処理工程の生産管理方法。
【請求項3】
前記製品に対して熱処理を行う工程の後、さらに、前記測定装置を用いて該熱処理後の製品の製品特性を測定し、該熱処理後の製品の製品特性の測定値を含む製品情報、該製品の熱処理情報、該熱処理に用いた熱処理装置の装置情報を、前記記憶装置に記憶および蓄積する、請求項2に記載の熱処理工程の生産管理方法。
【請求項4】
前記製品情報には、少なくとも該製品の品種記号、組成、寸法が含まれ、前記製品ごとの熱処理情報の検索に際して、該製品情報のうち、前記品種記号を用いて検索を行い、前記記憶装置の蓄積データに該品種記号と一致するものがある場合には、その熱処理情報を抽出し、一致しない場合には、前記組成により検索を行い、該組成と一致するもの、もしくは、該組成と最も近い組成を有するものを検索し、さらにその中から、前記寸法と一致するもの、もしくは、該寸法と最も近い寸法を有するものの熱処理情報を抽出する、請求項2〜3のいずれかに記載の熱処理工程の生産管理方法。
【請求項5】
前記製品ごとの熱処理情報の検索に際して、前記製品情報と前記熱処理装置情報との両方を検索キーとして用い、前記使用される熱処理装置に関する前記製品ごとの熱処理情報の検索を優先して行う、請求項2〜4のいずれかに記載の熱処理工程の生産管理方法。
【請求項6】
前記入力装置は、バーコードあるいは2次元コード読取装置を有し、少なくとも前記処理対象の製品に関する製品情報の入力を該読取装置により行う、請求項2〜5のいずれかに記載の熱処理工程の生産管理方法。
【請求項7】
前記測定装置と前記記憶装置とを前記制御装置を介して接続し、前記測定装置により測定された測定値を、自動的に前記記憶装置に記憶および蓄積させる、請求項2〜6のいずれかに記載の熱処理工程の生産管理方法。
【請求項8】
前記熱処理装置の熱処理温度の設定は前記制御装置により自動的に設定されるようになっており、該熱処理装置は、サンプル熱処理モードと製品熱処理モードとを有し、熱処理に際して、該サンプル熱処理モードでは前記熱処理温度の調整が可能であり、該製品熱処理モードでは前記熱処理温度の調整を不可能とする、請求項2〜7のいずれかに記載の熱処理工程の生産管理方法。
【請求項9】
金属製品として半導体素子接続用のボンディングワイヤに適用される、請求項1〜8のいずれかに記載の熱処理工程の生産管理方法。
【請求項10】
製品特性として常温での伸び率を用いる、請求項9に記載の熱処理工程の生産管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−164906(P2011−164906A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26656(P2010−26656)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.QRコード
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】