説明

熱処理方法

【課題】フラッシュ光照射時の基板の割れを防止することができる熱処理方法を提供する。
【解決手段】保持部7の均熱リング74に支持された半導体ウェハーWの上面にフラッシュランプから第1のフラッシュ光照射を行うことによって、半導体ウェハーWを均熱リング74から跳躍させて浮上させている。そして、半導体ウェハーWが均熱リング74から浮上している間に、フラッシュランプから半導体ウェハーWの上面に第2のフラッシュ光照射を行い、その半導体ウェハーWの上面の温度を処理温度にまで昇温している。半導体ウェハーWが浮上して何らの拘束も受けていない状態で第2のフラッシュ光照射が行われるため、半導体ウェハーWの割れを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハーや液晶表示装置用ガラス基板等の薄板状の精密電子基板(以下、単に「基板」と称する)に対してフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、不純物導入は半導体ウェハー内にpn接合を形成するための必須の工程である。現在、不純物導入は、イオン打ち込み法とその後のアニール法によってなされるのが一般的である。イオン打ち込み法は、ボロン(B)、ヒ素(As)、リン(P)といった不純物の元素をイオン化させて高加速電圧で半導体ウェハーに衝突させて物理的に不純物注入を行う技術である。注入された不純物はアニール処理によって活性化される。この際に、アニール時間が数秒程度以上であると、打ち込まれた不純物が熱によって深く拡散し、その結果接合深さが要求よりも深くなり過ぎて良好なデバイス形成に支障が生じるおそれがある。
【0003】
そこで、極めて短時間で半導体ウェハーを加熱するアニール技術として、近年フラッシュランプアニール(FLA)が注目されている。フラッシュランプアニールは、キセノンフラッシュランプ(以下、単に「フラッシュランプ」とするときにはキセノンフラッシュランプを意味する)を使用して半導体ウェハーの表面にフラッシュ光を照射することにより、不純物が注入された半導体ウェハーの表面のみを極めて短時間(数ミリ秒以下)に昇温させる熱処理技術である。
【0004】
キセノンフラッシュランプの放射分光分布は紫外域から近赤外域であり、従来のハロゲンランプよりも波長が短く、シリコンの半導体ウェハーの基礎吸収帯とほぼ一致している。よって、キセノンフラッシュランプから半導体ウェハーにフラッシュ光を照射したときには、透過光が少なく半導体ウェハーを急速に昇温することが可能である。また、数ミリ秒以下の極めて短時間のフラッシュ光照射であれば、半導体ウェハーの表面近傍のみを選択的に昇温できることも判明している。このため、キセノンフラッシュランプによる極短時間の昇温であれば、不純物を深く拡散させることなく、不純物活性化のみを実行することができるのである。
【0005】
このようなキセノンフラッシュランプを使用した熱処理装置として、特許文献1には、半導体ウェハーの表面側にフラッシュランプを配置するとともに裏面側に熱拡散板と加熱プレートを配置し、それらの組み合わせによって所望の熱処理を行うものが開示されている。特許文献1に開示の熱処理装置においては、熱拡散板上に半導体ウェハーを載置し、加熱プレートによって半導体ウェハーをある程度の温度まで予備加熱し、その後フラッシュランプからのフラッシュ光照射によって所望の処理温度にまで昇温している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−289049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されるようなキセノンフラッシュランプを使用した熱処理装置においては、極めて高いエネルギーを有するフラッシュ光を瞬間的に半導体ウェハーの表面に照射するため、一瞬で半導体ウェハーの表面温度が急速に上昇し、ウェハー表面に急激な熱膨張が生じて半導体ウェハーが変形しようとする。しかしながら、半導体ウェハーが載置されている熱拡散板によってそのような変形が妨げられ、半導体ウェハーに拘束応力が作用する結果として高い確率でウェハー割れが生じるおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、フラッシュ光照射時の基板の割れを防止することができる熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、基板に対してフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法において、支持部材にて基板を支持する支持工程と、前記支持部材に支持された基板の上面に第1のフラッシュ光を照射することによって、前記基板を前記支持部材から跳躍させる跳躍工程と、前記基板が跳躍して前記支持部材から浮上している間に、前記基板の上面に第2のフラッシュ光を照射して加熱処理を行う加熱工程と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明に係る熱処理方法において、前記第1のフラッシュ光の強度は前記第2のフラッシュ光の強度よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、基板が跳躍して支持部材から浮上している間に、当該基板の上面に第2のフラッシュ光を照射して加熱処理を行うため、第2のフラッシュ光によって基板が変形したとしても他の部材との接触が避けられ、基板の割れを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る熱処理装置の構成を示す縦断面図である。
【図2】保持部の全体外観を示す斜視図である。
【図3】保持部を上面から見た平面図である。
【図4】保持部を側方から見た側面図である。
【図5】移載機構の平面図である。
【図6】移載機構の側面図である。
【図7】複数のハロゲンランプの配置を示す平面図である。
【図8】フラッシュランプの駆動回路を示す図である。
【図9】図1の熱処理装置における半導体ウェハーの処理手順を示すフローチャートである。
【図10】半導体ウェハーの表面温度の変化を示す図である。
【図11】パルス信号の波形とフラッシュランプに流れる電流との相関の一例を示す図である。
【図12】半導体ウェハーが均熱リングから跳躍した瞬間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る熱処理装置1の構成を示す縦断面図である。本実施形態の熱処理装置1は、基板としてφ300mmの円板形状の半導体ウェハーWに対してフラッシュ光照射を行うことによってその半導体ウェハーWを加熱するフラッシュランプアニール装置である。熱処理装置1に搬入される前の半導体ウェハーWには不純物が注入されており、熱処理装置1による加熱処理によって注入された不純物の活性化処理が実行される。
【0015】
熱処理装置1は、半導体ウェハーWを収容するチャンバー6と、複数のフラッシュランプFLを内蔵するフラッシュ加熱部5と、複数のハロゲンランプHLを内蔵するハロゲン加熱部4と、シャッター機構2と、を備える。チャンバー6の上側にフラッシュ加熱部5が設けられるとともに、下側にハロゲン加熱部4が設けられている。また、熱処理装置1は、チャンバー6の内部に、半導体ウェハーWを水平姿勢に保持する保持部7と、保持部7と装置外部との間で半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載機構10と、を備える。さらに、熱処理装置1は、シャッター機構2、ハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6に設けられた各動作機構を制御して半導体ウェハーWの熱処理を実行させる制御部3を備える。
【0016】
チャンバー6は、筒状のチャンバー側部61の上下に石英製のチャンバー窓を装着して構成されている。チャンバー側部61は上下が開口された概略筒形状を有しており、上側開口には上側チャンバー窓63が装着されて閉塞され、下側開口には下側チャンバー窓64が装着されて閉塞されている。チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓63は、石英により形成された円板形状部材であり、フラッシュ加熱部5から出射されたフラッシュ光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。また、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も、石英により形成された円板形状部材であり、ハロゲン加熱部4からの光をチャンバー6内に透過する石英窓として機能する。
【0017】
また、チャンバー側部61の内側の壁面の上部には反射リング68が装着され、下部には反射リング69が装着されている。反射リング68,69は、ともに円環状に形成されている。上側の反射リング68は、チャンバー側部61の上側から嵌め込むことによって装着される。一方、下側の反射リング69は、チャンバー側部61の下側から嵌め込んで図示省略のビスで留めることによって装着される。すなわち、反射リング68,69は、ともに着脱自在にチャンバー側部61に装着されるものである。チャンバー6の内側空間、すなわち上側チャンバー窓63、下側チャンバー窓64、チャンバー側部61および反射リング68,69によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
【0018】
チャンバー側部61に反射リング68,69が装着されることによって、チャンバー6の内壁面に凹部62が形成される。すなわち、チャンバー側部61の内壁面のうち反射リング68,69が装着されていない中央部分と、反射リング68の下端面と、反射リング69の上端面とで囲まれた凹部62が形成される。凹部62は、チャンバー6の内壁面に水平方向に沿って円環状に形成され、半導体ウェハーWを保持する保持部7を囲繞する。
【0019】
チャンバー側部61および反射リング68,69は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール)にて形成されている。また、反射リング68,69の内周面は電解ニッケルメッキによって鏡面とされている。
【0020】
また、チャンバー側部61には、チャンバー6に対して半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部(炉口)66が形設されている。搬送開口部66は、ゲートバルブ185によって開閉可能とされている。搬送開口部66は凹部62の外周面に連通接続されている。このため、ゲートバルブ185が搬送開口部66を開放しているときには、搬送開口部66から凹部62を通過して熱処理空間65への半導体ウェハーWの搬入および熱処理空間65からの半導体ウェハーWの搬出を行うことができる。また、ゲートバルブ185が搬送開口部66を閉鎖するとチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。
【0021】
また、チャンバー6の内壁上部には熱処理空間65に処理ガス(本実施形態では窒素ガス(N2))を供給するガス供給孔81が形設されている。ガス供給孔81は、凹部62よりも上側位置に形設されており、反射リング68に設けられていても良い。ガス供給孔81はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間82を介してガス供給管83に連通接続されている。ガス供給管83は窒素ガス供給源85に接続されている。また、ガス供給管83の経路途中にはバルブ84が介挿されている。バルブ84が開放されると、窒素ガス供給源85から緩衝空間82に窒素ガスが送給される。緩衝空間82に流入した窒素ガスは、ガス供給孔81よりも流体抵抗の小さい緩衝空間82内を拡がるように流れてガス供給孔81から熱処理空間65内へと供給される。
【0022】
一方、チャンバー6の内壁下部には熱処理空間65内の気体を排気するガス排気孔86が形設されている。ガス排気孔86は、凹部62よりも下側位置に形設されており、反射リング69に設けられていても良い。ガス排気孔86はチャンバー6の側壁内部に円環状に形成された緩衝空間87を介してガス排気管88に連通接続されている。ガス排気管88は排気部190に接続されている。また、ガス排気管88の経路途中にはバルブ89が介挿されている。バルブ89が開放されると、熱処理空間65の気体がガス排気孔86から緩衝空間87を経てガス排気管88へと排出される。なお、ガス供給孔81およびガス排気孔86は、チャンバー6の周方向に沿って複数設けられていても良いし、スリット状のものであっても良い。また、窒素ガス供給源85および排気部190は、熱処理装置1に設けられた機構であっても良いし、熱処理装置1が設置される工場のユーティリティであっても良い。
【0023】
また、搬送開口部66の先端にも熱処理空間65内の気体を排出するガス排気管191が接続されている。ガス排気管191はバルブ192を介して排気部190に接続されている。バルブ192を開放することによって、搬送開口部66を介してチャンバー6内の気体が排気される。
【0024】
図2は、保持部7の全体外観を示す斜視図である。また、図3は保持部7を上面から見た平面図であり、図4は保持部7を側方から見た側面図である。保持部7は、基台リング71、連結部72および均熱リング74を備えて構成される。基台リング71、連結部72および均熱リング74はいずれも石英にて形成されている。すなわち、保持部7の全体が石英にて形成されている。
【0025】
基台リング71は円環形状の石英部材である。基台リング71は凹部62の底面に載置されることによって、チャンバー6の壁面に支持されることとなる(図1参照)。円環形状を有する基台リング71の上面に、その周方向に沿って複数の連結部72(本実施形態では4個)が立設される。連結部72も石英の部材であり、溶接によって基台リング71に固着される。なお、基台リング71の形状は、円環形状から一部が欠落した円弧状であっても良い。
【0026】
円環形状の均熱リング74は基台リング71に設けられた4個の連結部72によって支持される。均熱リング74は石英にて形成された円環形状の板状部材である。均熱リング74の外径は半導体ウェハーWの直径(本実施形態では300mm)よりも大きく、内径は半導体ウェハーWの直径よりも小さい。すなわち、均熱リング74は半導体ウェハーWの周縁部を支持することができる。
【0027】
基台リング71に立設された4個の連結部72と均熱リング74の下面とが溶接によって固着される。すなわち、均熱リング74と基台リング71とは連結部72によって固定的に連結されており、保持部7は石英の一体成形部材となる。このような保持部7の基台リング71がチャンバー6の壁面に支持されることによって、保持部7がチャンバー6に装着される。保持部7がチャンバー6に装着された状態においては、円環形状の均熱リング74は水平姿勢(法線が鉛直方向と一致する姿勢)となる。図4に示すように、チャンバー6に搬入された半導体ウェハーWは、チャンバー6に装着された保持部7の均熱リング74によってその下面周縁部が支持されて水平姿勢に保持される。円環形状の均熱リング74に保持された半導体ウェハーWの周縁部を除く下面は開放されている。
【0028】
また、チャンバー6に装着された保持部7の近傍には放射温度計120および熱電対を使用した接触式温度計130が設けられている。図2に示すように、接触式温度計130のプローブ先端部は、円環形状の均熱リング74の円形開口部を通って半導体ウェハーWの下面に接触する。また、放射温度計120は、半導体ウェハーWの下面から均熱リング74の円形開口部を通過して放射される放射光(赤外光)を受光し、その放射光の強度から半導体ウェハーWの温度を測定する。さらに、後述する移載機構10のリフトピン12も半導体ウェハーWの受け渡しのために均熱リング74の円形開口部を上下方向に通過する。
【0029】
図5は、移載機構10の平面図である。また、図6は、移載機構10の側面図である。移載機構10は、2本の移載アーム11を備える。移載アーム11は、概ね円環状の凹部62に沿うような円弧形状とされている。それぞれの移載アーム11には2本のリフトピン12が立設されている。各移載アーム11は水平移動機構13によって水平面内で回動可能とされている。水平移動機構13は、一対の移載アーム11を保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う移載動作位置(図5の実線位置)と保持部7に保持された半導体ウェハーWと平面視で重ならない退避位置(図5の二点鎖線位置)との間で水平移動させる。水平移動機構13としては、個別のモータによって各移載アーム11をそれぞれ回動させるものであっても良いし、リンク機構を用いて1個のモータによって一対の移載アーム11を連動させて回動させるものであっても良い。
【0030】
また、一対の移載アーム11は、昇降機構14によって水平移動機構13とともに昇降移動される。昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて上昇させると、計4本のリフトピン12が均熱リング74の円形開口部を通過し、リフトピン12の上端が均熱リング74の上面から突き出る。一方、昇降機構14が一対の移載アーム11を移載動作位置にて下降させてリフトピン12を均熱リング74よりも下方に引き下げ、水平移動機構13が一対の移載アーム11を開くように移動させると各移載アーム11が退避位置に移動する。一対の移載アーム11の退避位置は、保持部7の基台リング71の直上である。基台リング71は凹部62の底面に載置されているため、移載アーム11の退避位置は凹部62の内側となる。なお、移載機構10の駆動部(水平移動機構13および昇降機構14)が設けられている部位の近傍にも図示省略の排気機構が設けられており、移載機構10の駆動部周辺の雰囲気がチャンバー6の外部に排出されるように構成されている。
【0031】
図1に戻り、チャンバー6の上方に設けられたフラッシュ加熱部5は、筐体51の内側に、複数本(本実施形態では30本)のキセノンフラッシュランプFLからなる光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。また、フラッシュ加熱部5の筐体51の底部にはランプ光放射窓53が装着されている。フラッシュ加熱部5の床部を構成するランプ光放射窓53は、石英により形成された板状の石英窓である。フラッシュ加熱部5がチャンバー6の上方に設置されることにより、ランプ光放射窓53が上側チャンバー窓63と相対向することとなる。フラッシュランプFLはチャンバー6の上方からランプ光放射窓53および上側チャンバー窓63を介して熱処理空間65にフラッシュ光を照射する。
【0032】
複数のフラッシュランプFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。よって、フラッシュランプFLの配列によって形成される平面も水平面である。
【0033】
図8は、フラッシュランプFLの駆動回路を示す図である。同図に示すように、コンデンサ93と、コイル94と、フラッシュランプFLと、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)96とが直列に接続されている。また、図8に示すように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備えるとともに、入力部33に接続されている。入力部33としては、キーボード、マウス、タッチパネル等の種々の公知の入力機器を採用することができる。入力部33からの入力内容に基づいて波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、その波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を発生する。
【0034】
フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部に陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)92と、該ガラス管92の外周面上に付設されたトリガー電極91とを備える。コンデンサ93には、電源ユニット95によって所定の電圧が印加され、その印加電圧(充電電圧)に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極91にはトリガー回路97から高電圧を印加することができる。トリガー回路97がトリガー電極91に電圧を印加するタイミングは制御部3によって制御される。
【0035】
IGBT96は、ゲート部にMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor)を組み込んだバイポーラトランジスタであり、大電力を取り扱うのに適したスイッチング素子である。IGBT96のゲートには制御部3のパルス発生器31からパルス信号が印加される。IGBT96のゲートに所定値以上の電圧(Highの電圧)が印加されるとIGBT96がオン状態となり、所定値未満の電圧(Lowの電圧)が印加されるとIGBT96がオフ状態となる。このようにして、フラッシュランプFLを含む駆動回路はIGBT96によってオンオフされる。IGBT96がオンオフすることによってフラッシュランプFLと対応するコンデンサ93との接続が断続される。
【0036】
コンデンサ93が充電された状態でIGBT96がオン状態となってガラス管92の両端電極に高電圧が印加されたとしても、キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態ではガラス管92内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路97がトリガー電極91に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には両端電極間の放電によってガラス管92内に電流が瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
【0037】
また、図1のリフレクタ52は、複数のフラッシュランプFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数のフラッシュランプFLから出射された光を保持部7の側に反射するというものである。リフレクタ52はアルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されて梨地模様を呈する。
【0038】
チャンバー6の下方に設けられたハロゲン加熱部4の内部には複数本(本実施形態では40本)のハロゲンランプHLが内蔵されている。複数のハロゲンランプHLはチャンバー6の下方から下側チャンバー窓64を介して熱処理空間65への光照射を行う。図7は、複数のハロゲンランプHLの配置を示す平面図である。本実施形態では、上下2段に各20本ずつのハロゲンランプHLが配設されている。各ハロゲンランプHLは、長尺の円筒形状を有する棒状ランプである。上段、下段ともに20本のハロゲンランプHLは、それぞれの長手方向が保持部7に保持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように配列されている。よって、上段、下段ともにハロゲンランプHLの配列によって形成される平面は水平面である。
【0039】
また、図7に示すように、上段、下段ともに保持部7に保持される半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域におけるハロゲンランプHLの配設密度が高くなっている。すなわち、上下段ともに、ランプ配列の中央部よりも周縁部の方がハロゲンランプHLの配設ピッチが短い。このため、ハロゲン加熱部4からの光照射による加熱時に温度低下が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部により多い光量の照射を行うことができる。
【0040】
また、上段のハロゲンランプHLからなるランプ群と下段のハロゲンランプHLからなるランプ群とが格子状に交差するように配列されている。すなわち、上段の各ハロゲンランプHLの長手方向と下段の各ハロゲンランプHLの長手方向とが直交するように計40本のハロゲンランプHLが配設されている。
【0041】
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。また、ハロゲンランプHLは棒状ランプであるため長寿命であり、ハロゲンランプHLを水平方向に沿わせて配置することにより上方の半導体ウェハーWへの放射効率が優れたものとなる。
【0042】
また、図1に示すように、熱処理装置1は、ハロゲン加熱部4およびチャンバー6の側方にシャッター機構2を備える。シャッター機構2は、シャッター板21およびスライド駆動機構22を備える。シャッター板21は、ハロゲン光に対して不透明な板であり、例えばチタン(Ti)にて形成されている。スライド駆動機構22は、シャッター板21を水平方向に沿ってスライド移動させ、ハロゲン加熱部4と保持部7との間の遮光位置にシャッター板21を挿脱する。スライド駆動機構22がシャッター板21を前進させると、チャンバー6とハロゲン加熱部4との間の遮光位置(図1の二点鎖線位置)にシャッター板21が挿入され、下側チャンバー窓64と複数のハロゲンランプHLとが遮断される。これによって、複数のハロゲンランプHLから熱処理空間65の保持部7へと向かう光は遮光される。逆に、スライド駆動機構22がシャッター板21を後退させると、チャンバー6とハロゲン加熱部4との間の遮光位置からシャッター板21が退出して下側チャンバー窓64の下方が開放される。
【0043】
また、制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、図8に示したように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備える。上述のように、入力部33からの入力内容に基づいて、波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、それに従ってパルス発生器31がIGBT96のゲートにパルス信号を出力する。
【0044】
上記の構成以外にも熱処理装置1は、半導体ウェハーWの熱処理時にハロゲンランプHLおよびフラッシュランプFLから発生する熱エネルギーによるハロゲン加熱部4、フラッシュ加熱部5およびチャンバー6の過剰な温度上昇を防止するため、様々な冷却用の構造を備えている。例えば、チャンバー6の壁体には水冷管(図示省略)が設けられている。また、ハロゲン加熱部4およびフラッシュ加熱部5は、内部に気体流を形成して排熱する空冷構造とされている。また、上側チャンバー窓63とランプ光放射窓53との間隙にも空気が供給され、フラッシュ加熱部5および上側チャンバー窓63を冷却する。
【0045】
次に、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。ここで処理対象となる半導体ウェハーWはイオン注入法により不純物(イオン)が添加された半導体基板である。その添加された不純物の活性化が熱処理装置1によるフラッシュ光照射加熱処理(アニール)により実行される。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0046】
図9は、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。まず、給気のためのバルブ84が開放されるとともに、排気用のバルブ89,192が開放されてチャンバー6内に対する給排気が開始される(ステップS1)。バルブ84が開放されると、ガス供給孔81から熱処理空間65に窒素ガスが供給される。また、バルブ89が開放されると、ガス排気孔86からチャンバー6内の気体が排気される。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65の上部から供給された窒素ガスが下方へと流れ、熱処理空間65の下部から排気される。
【0047】
また、バルブ192が開放されることによって、搬送開口部66からもチャンバー6内の気体が排気される。さらに、図示省略の排気機構によって移載機構10の駆動部周辺の雰囲気も排気される。なお、熱処理装置1における半導体ウェハーWの熱処理時には窒素ガスが熱処理空間65に継続的に供給されており、その供給量は図9の処理ステップに応じて適宜変更される。
【0048】
続いて、ゲートバルブ185が開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して不純物注入後の半導体ウェハーWがチャンバー6内の熱処理空間65に搬入される(ステップS2)。搬送ロボットによって搬入された半導体ウェハーWは保持部7の直上位置まで進出して停止する。そして、移載機構10の一対の移載アーム11が退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が均熱リング74の円形開口部を通って均熱リング74の上面から突き出て半導体ウェハーWを受け取る。
【0049】
半導体ウェハーWがリフトピン12に載置された後、搬送ロボットが熱処理空間65から退出し、ゲートバルブ185によって搬送開口部66が閉鎖される。そして、一対の移載アーム11が下降することにより、半導体ウェハーWは移載機構10から保持部7の均熱リング74に受け渡されて水平姿勢に保持される。半導体ウェハーWは、不純物注入がなされた表面を上面として均熱リング74に保持される。また、図4に示すように、半導体ウェハーWは、その下面周縁部が均熱リング74によって支持されて水平姿勢に保持される。均熱リング74の下方にまで下降した一対の移載アーム11は水平移動機構13によって退避位置、すなわち凹部62の内側に退避する。
【0050】
半導体ウェハーWが保持部7の均熱リング74に保持された後、ハロゲン加熱部4の40本のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱(アシスト加熱)が開始される(ステップS3)。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64を透過して半導体ウェハーWの下面から照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWの温度が上昇する。なお、移載機構10の移載アーム11は凹部62の内側に退避しているため、ハロゲンランプHLによる加熱の障害となることは無い。
【0051】
図10は、半導体ウェハーWの表面温度の変化を示す図である。半導体ウェハーWが搬入されて均熱リング74に保持された後、制御部3が時刻t0に40本のハロゲンランプHLを点灯させてハロゲン光照射によって半導体ウェハーWを予備加熱温度T1にまで昇温している。予備加熱温度T1は300℃以上800℃以下であり、本実施形態では700℃としている。
【0052】
ハロゲンランプHLによる予備加熱を行うときには、半導体ウェハーWの温度が接触式温度計130によって測定されている。すなわち、熱電対を内蔵する接触式温度計130が均熱リング74に保持された半導体ウェハーWの下面に接触して昇温中のウェハー温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。制御部3は、ハロゲンランプHLからの光照射によって昇温する半導体ウェハーWの温度が所定の予備加熱温度T1に到達したか否かを監視しつつ、ハロゲンランプHLの出力を制御する。すなわち、制御部3は、接触式温度計130による測定値に基づいて、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1となるようにハロゲンランプHLの出力をフィードバック制御している。なお、ハロゲンランプHLからの光照射によって半導体ウェハーWを昇温するときには、放射温度計120による温度測定は行わない。これは、ハロゲンランプHLから照射されるハロゲン光が放射温度計120に外乱光として入射し、正確な温度測定ができないためである。
【0053】
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した後、制御部3は半導体ウェハーWをその予備加熱温度T1に暫時維持する。具体的には、接触式温度計130によって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達した時刻t1にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を制御して半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度T1に維持している。
【0054】
このようなハロゲンランプHLによる予備加熱を行うことによって、半導体ウェハーWの全体を予備加熱温度T1に均一に昇温している。ハロゲンランプHLによる予備加熱の段階においては、より放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部の温度が中央部よりも低下する傾向にあるが、ハロゲン加熱部4におけるハロゲンランプHLの配設密度は、半導体ウェハーWの中央部に対向する領域よりも周縁部に対向する領域の方が高くなっている。このため、放熱が生じやすい半導体ウェハーWの周縁部に照射される光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布を均一なものとすることができる。さらに、チャンバー側部61に装着された反射リング69の内周面は鏡面とされているため、この反射リング69の内周面によって半導体ウェハーWの周縁部に向けて反射する光量が多くなり、予備加熱段階における半導体ウェハーWの面内温度分布をより均一なものとすることができる。
【0055】
次に、半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度T1に到達して所定時間が経過した時刻t2にフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射することによる加熱処理を実行する。なお、半導体ウェハーWの温度が室温から予備加熱温度T1に到達するまでの時間(時刻t0から時刻t1までの時間)および予備加熱温度T1に到達してからフラッシュランプFLが発光するまでの時間(時刻t1から時刻t2までの時間)はいずれも数秒程度である。フラッシュランプFLがフラッシュ光照射を行うに際しては、予め電源ユニット95によってコンデンサ93に電荷を蓄積しておく。そして、コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にて、制御部3のパルス発生器31からIGBT96のゲートにパルス信号を出力してIGBT96をオンオフ駆動する。本実施形態においては、IGBT96のオンオフ駆動によってコンデンサ93とフラッシュランプFLとの接続を断続することにより、フラッシュランプFLを2回発光、つまり2回のフラッシュ光照射を行っている。
【0056】
図11は、パルス信号の波形とフラッシュランプFLに流れる電流との相関の一例を示す図である。図11(a)はパルス発生器31から出力されるパルス信号の波形を示し、図11(b)はフラッシュランプFLを含む図8の回路に流れる電流の波形を示す。ここでは、図11(a)に示すような矩形波のパルス信号がパルス発生器31から出力される。パルス信号の波形は、パルス幅の時間(オン時間)とパルス間隔の時間(オフ時間)とをパラメータとして順次設定したレシピを入力部33から入力することによって規定することができる。このようなレシピをオペレータが入力部33から制御部3に入力すると、それに従って制御部3の波形設定部32は図11(a)に示すようなオンオフを繰り返すパルス波形を設定する。図11(a)に示すパルス波形においては、前段に第1のフラッシュ光照射に対応する比較的パルス幅の短いパルスPAが設定され、後段に第2のフラッシュ光照射に対応する比較的パルス幅の長いパルスPBが設定されている。そして、波形設定部32によって設定されたパルス波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を出力する。その結果、IGBT96のゲートには図11(a)のような波形のパルス信号が印加され、IGBT96のオンオフ駆動が制御されることとなる。具体的には、IGBT96のゲートに入力されるパルス信号がオンのときにはIGBT96がオン状態となり、パルス信号がオフのときにはIGBT96がオフ状態となる。
【0057】
また、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになる毎にオンになるタイミングと同期して制御部3がトリガー回路97を制御してトリガー電極91に高電圧(トリガー電圧)を印加する。コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にてIGBT96のゲートに第1のパルスPAが入力され、かつ、それと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されると、フラッシュランプFLのガラス管92内の両端電極間で電流が流れ始め、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出されて第1のフラッシュ光照射が行われる(ステップS4)。そして、第1のパルスPAがオフになると、フラッシュランプFLのガラス管92内に流れる電流値が減少し、一旦フラッシュランプFLが完全に消灯する。
【0058】
次に、IGBT96のゲートに第2のパルスPBが入力され、かつ、それと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されると、ガラス管92内の両端電極間で再び電流が流れ始め、フラッシュランプFLから第2のフラッシュ光照射が行われる(ステップS6)。そして、第2のパルスPBがオフになると、ガラス管92内に流れる電流値が減少してフラッシュランプFLが再び消灯する。このようにして、フラッシュランプFLには図11(b)に示すような波形の電流が流れ、フラッシュランプFLは2回発光する。なお、各パルスに対応する個々の電流波形はコイル94の定数によって規定される。
【0059】
フラッシュランプFLの発光出力は、フラッシュランプFLに流れる電流の1.5乗にほぼ比例する。従って、フラッシュランプFLの発光出力の出力波形(プロファイル)は図11(b)に示した電流波形と同じようなパターンとなる。図11(b)に示すのと同様のフラッシュランプFLからの出力波形にて、保持部7の均熱リング74に保持された半導体ウェハーWの上面に2回のフラッシュ光照射が行われる。本実施形態においては、第1のパルスPAよりも第2のパルスPBの方がパルス幅が長く、フラッシュランプFLに長時間電流が流れることとなるため、第1のフラッシュ光照射における発光出力よりも第2のフラッシュ光照射の発光出力の方が大きくなる。
【0060】
図9のステップS4において、IGBT96のゲートに第1のパルスPAが入力され、かつ、それと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されると、フラッシュランプFLから半導体ウェハーWの上面に第1のフラッシュ光照射が行われる。この第1のフラッシュ光照射によって、半導体ウェハーWの上面温度は瞬間的に上昇する一方、その瞬間の下面温度は予備加熱温度T1からさほどには上昇しない。すなわち、半導体ウェハーWの上面と下面とに瞬間的に温度差が発生するのである。その結果、半導体ウェハーWの上面のみに急激な熱膨張が生じ、下面はほとんど熱膨張しないために、半導体ウェハーWが上面を凸面とするように瞬間的に反る。このような上面を凸面とする瞬間的な反りが発生することによって、半導体ウェハーWの下面周縁部が均熱リング74を蹴ることとなり、その結果図12に示すように、半導体ウェハーWが均熱リング74から跳躍して浮上する(ステップS5)。
【0061】
そして、半導体ウェハーWが均熱リング74から浮上している間に、IGBT96のゲートに第2のパルスPBが入力され、かつ、それと同期してトリガー電極91に高電圧が印加され、フラッシュランプFLから半導体ウェハーWの上面に第2のフラッシュ光照射が行われるのである(ステップS6)。この第2のフラッシュ光照射により半導体ウェハーWの表面温度は瞬間的に1000℃以上の処理温度T2(本実施形態では約1200℃)にまで上昇する。このように半導体ウェハーWの表面温度を瞬間的に1000℃以上に昇温することによって、半導体ウェハーWに添加された不純物の熱による拡散を抑制しつつ不純物の活性化を行うことができる。なお、図10の時刻スケールは秒である一方、第1のフラッシュ光照射と第2のフラッシュ光照射との間隔はミリ秒単位のものであるため、図10では2回のフラッシュ光照射はいずれも時刻t2に実行されるものとみなすことができる。
【0062】
フラッシュランプFLによる2回のフラッシュ光照射が終了すると、IGBT96がオフ状態となってフラッシュランプFLの発光が停止し、半導体ウェハーWの表面温度は処理温度T2から急速に降温する。図9,10に戻り、2回のフラッシュ光照射が終了した後、所定時間が経過した時刻t3にハロゲンランプHLが消灯する(ステップS7)。これにより、半導体ウェハーWが予備加熱温度T1からの降温を開始する。また、ハロゲンランプHLが消灯するのと同時に、シャッター機構2がシャッター板21をハロゲン加熱部4とチャンバー6との間の遮光位置に挿入する(ステップS8)。ハロゲンランプHLが消灯しても、すぐにフィラメントや管壁の温度が低下するものではなく、暫時高温のフィラメントおよび管壁から輻射熱が放射され続け、これが半導体ウェハーWの降温を妨げる。シャッター板21が挿入されることによって、消灯直後のハロゲンランプHLから熱処理空間65に放射される輻射熱が遮断されることとなり、半導体ウェハーWの降温速度を高めることができる。
【0063】
また、シャッター板21が遮光位置に挿入された時点で放射温度計120による温度測定を開始する。すなわち、保持部7に保持された半導体ウェハーWの下面から均熱リング74の円形開口部を介して放射された赤外光の強度を放射温度計120が測定して降温中の半導体ウェハーWの温度を測定する。測定された半導体ウェハーWの温度は制御部3に伝達される。
【0064】
消灯直後の高温のハロゲンランプHLからは多少の放射光が放射され続けるのであるが、放射温度計120はシャッター板21が遮光位置に挿入されているときに半導体ウェハーWの温度測定を行うため、ハロゲンランプHLからチャンバー6内の熱処理空間65へと向かう放射光は遮光される。従って、放射温度計120は外乱光の影響を受けることなく、均熱リング74に保持された半導体ウェハーWの温度を正確に測定することができる。
【0065】
制御部3は、放射温度計120によって測定される半導体ウェハーWの温度が所定温度まで降温したか否かを監視する。そして、半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載機構10の一対の移載アーム11が再び退避位置から移載動作位置に水平移動して上昇することにより、リフトピン12が均熱リング74の上面から突き出て熱処理後の半導体ウェハーWを均熱リング74から受け取る。続いて、ゲートバルブ185により閉鎖されていた搬送開口部66が開放され、リフトピン12上に載置された半導体ウェハーWが装置外部の搬送ロボットにより搬出され(ステップS9)、熱処理装置1における半導体ウェハーWの加熱処理が完了する。
【0066】
本実施形態においては、保持部7の均熱リング74に支持された半導体ウェハーWの上面にフラッシュランプFLから第1のフラッシュ光照射を行うことによって、半導体ウェハーWを均熱リング74から跳躍させて熱処理空間65中に浮上させている。そして、半導体ウェハーWが均熱リング74から浮上している間に、フラッシュランプFLから半導体ウェハーWの上面に第2のフラッシュ光照射を行い、その半導体ウェハーWの上面の温度を処理温度T2にまで昇温している。
【0067】
第1のフラッシュ光照射によって半導体ウェハーWが浮上して均熱リング74から離隔している間は、半導体ウェハーWはいかなる拘束をも受けていないために自由に変形することができる。従って、第2のフラッシュ光照射が行われたときにも、半導体ウェハーWの上下面に生じた温度差によって上面のみが急激に熱膨張して上面を凸面とするような反りが生じるのであるが、そのときに半導体ウェハーWには拘束応力は全く作用しない。このため、第2のフラッシュ光照射が行われたときに半導体ウェハーWが変形を拘束されることに起因したウェハー割れを防止することができる。また、半導体ウェハーWが均熱リング74から浮上している間に第2のフラッシュ光照射を行うと、瞬間的に変形した半導体ウェハーWが均熱リング74と衝突することが回避され、それに起因した割れも防止することができる。さらに、半導体ウェハーWが均熱リング74から浮上している間にいかに変形したとしても、その浮上位置からさらに跳躍することは無いため、半導体ウェハーWが上側チャンバー窓63と衝突することによる割れも防止することができる。また、半導体ウェハーWが均熱リング74と衝突することによる均熱リング74の損傷をも防止することができる。
【0068】
第1のフラッシュ光照射の目的は、第2のフラッシュ光照射時に変形する半導体ウェハーWが均熱リング74に接触しない程度に半導体ウェハーWを浮上させることである。また、第1のフラッシュ光照射時に、過度に大きく半導体ウェハーWが均熱リング74から跳躍すると、半導体ウェハーWが上側チャンバー窓63と衝突するおそれが生じる。このため、第1のフラッシュ光照射時におけるフラッシュ光の強度は、跳躍した半導体ウェハーWが上側チャンバー窓63と接触しない程度、かつ、第2のフラッシュ光照射時に半導体ウェハーWが均熱リング74に接触しない程度のものとする。
【0069】
一方、第2のフラッシュ光照射の目的は、半導体ウェハーWの表面を目標とする処理温度T2にまで昇温することである。このため、第2のフラッシュ光照射時におけるフラッシュ光の強度は、半導体ウェハーWの表面温度を処理温度T2に昇温できる程度のものとする。
【0070】
第1のフラッシュ光照射を行うことなく、半導体ウェハーWの表面温度を処理温度T2に昇温するための第2のフラッシュ光照射を実行すると、半導体ウェハーWが瞬間的に大きく変形し、その変形時に均熱リング74から受ける応力によって割れが生じたり、或いは半導体ウェハーWが均熱リング74から大きく跳躍することによって上側チャンバー窓63と衝突して割れるおそれがある。本実施形態においては、まず第1のフラッシュ光照射を行うことによって半導体ウェハーWを均熱リング74から小さく跳躍させ、次いで半導体ウェハーWが浮上している間に第2のフラッシュ光照射を行うことによって半導体ウェハーWの表面温度を処理温度T2にまで昇温しているのである。このような2回のフラッシュ光照射により、第2のフラッシュ光照射のみのときと比較して半導体ウェハーWの全体跳躍量は小さくなり、半導体ウェハーWが上側チャンバー窓63と衝突するおそれも無くなってウェハー割れを防止することができる。また、半導体ウェハーWと均熱リング74との間に生じる応力も第2のフラッシュ光照射のみのときと比較して小さくなり、均熱リング74の損傷および半導体ウェハーWの割れを防止することができる。
【0071】
第1のフラッシュ光照射による半導体ウェハーWの跳躍量は第2のフラッシュ光照射のみのときよりも小さくしなければならないため、第1のフラッシュ光照射におけるフラッシュ光の強度は第2のフラッシュ光照射時おけるフラッシュ光の強度よりも小さい。なお、フラッシュ光の強度はパルスPA,PBのパルス幅を調整することによって制御することができる。
【0072】
また、第1のフラッシュ光照射と第2のフラッシュ光照射との間隔は、第1のフラッシュ光照射によって半導体ウェハーWが均熱リング74から浮上している間に第2のフラッシュ光照射が実行されるように設定される。具体的には、第1のフラッシュ光照射と第2のフラッシュ光照射との間隔は、1ミリ秒から500ミリ秒の間に設定される。
【0073】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記実施形態においては、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになる毎にそのタイミングと同期してトリガー電極91に高電圧を印加するようにしていたが、これに限定されるものではなく、最初にパルス信号がオンになるときのみトリガー電極91に高電圧を印加するようにしても良い。このようにする場合、フラッシュ光照射の間に小刻みにIGBT96をオンオフ駆動させて小さなフラッシュを繰り返し発生させることにより、フラッシュランプFLに弱い電流を流し続けるようにしておいた方が、次のフラッシュ光照射時にフラッシュランプFLを確実に発光させることができる。もっとも、フラッシュ光照射の間隔(第1のフラッシュ光照射と第2のフラッシュ光照射との間隔)が15ミリ秒以内程度であれば、微弱電流を流し続けなくても次にIGBT96がオン状態となってコンデンサ93とフラッシュランプFLとを接続するだけでフラッシュランプFLを再発光させることが可能な場合もある。
【0074】
また、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになる毎にトリガー電極91に高電圧を印加する場合には、フラッシュランプFLの放電を確実なものとすべくパルス信号がオンになってから所定時間後にトリガー電圧を印加するようにしても良い。このようにした場合、フラッシュランプFLの照射時間は、トリガー電極91に高電圧が印加されてからパルス信号がオフとなるまでの時間となり、上記実施形態(照射時間=パルス幅の時間)とは異なる。また、フラッシュランプFLの照射間隔(非照射時間)はパルス信号がオフとなってから次のパルスに対応するトリガー電圧が印加されるまでの時間となる。
【0075】
また、均熱リング74の材質は石英に限定されるものではなく、炭化ケイ素(SiC)または窒化ホウ素(BN)であっても良い。さらに、上記実施形態においては、円環形状の均熱リング74によって半導体ウェハーWを保持するようにしていたが、これに代えて、平板状のプレート部材によって半導体ウェハーWを保持するようにしても良い。そのプレート部材はハロゲンランプHLからのハロゲン光を透過する材質、例えば石英にて形成するのが好ましい。
【0076】
また、上記実施形態においては、第1のフラッシュ光照射によって半導体ウェハーWを均熱リング74から跳躍させ、半導体ウェハーWが均熱リング74から浮上している間に第2のフラッシュ光照射を行うようにしていたが、第2のフラッシュ光照射時に必ずしも半導体ウェハーWの全体が均熱リング74から完全に浮上していなくても良い。半導体ウェハーWの少なくとも一部が均熱リング74から浮上していれば、第2のフラッシュ光照射を行ったときに、半導体ウェハーWが大きく跳躍して上側チャンバー窓63と衝突することは避けられる。すなわち、本明細書における「浮上」は、半導体ウェハーWの少なくとも一部が均熱リング74から浮上している概念を含む。
【0077】
また、パルス信号の波形の設定は、入力部33から逐一パルス幅等のパラメータを入力することに限定されるものではなく、例えば、オペレータが入力部33から波形を直接グラフィカルに入力するようにしても良いし、以前に設定されて磁気ディスク等の記憶部に記憶されていた波形を読み出すようにしても良いし、或いは熱処理装置1の外部からダウンロードするようにしても良い。
【0078】
また、上記各実施形態においては、スイッチング素子としてIGBT96を用いていたが、これに代えてゲートに入力された信号レベルに応じて回路をオンオフできる他のトランジスタを用いるようにしても良い。もっとも、フラッシュランプFLの発光には相当に大きな電力が消費されるため、大電力の取り扱いに適したIGBTやGTO(Gate Turn Off)サイリスタをスイッチング素子として採用するのが好ましい。
【0079】
また、上記各実施形態においては、フラッシュ加熱部5に30本のフラッシュランプFLを備えるようにしていたが、これに限定されるものではなく、フラッシュランプFLの本数は任意の数とすることができる。また、フラッシュランプFLはキセノンフラッシュランプに限定されるものではなく、クリプトンフラッシュランプであっても良い。また、ハロゲン加熱部4に備えるハロゲンランプHLの本数も40本に限定されるものではなく、任意の数とすることができる。
【0080】
また、上記各実施形態においては、ハロゲンランプHLからのハロゲン光照射によって半導体ウェハーWを予備加熱するようにしていたが、予備加熱の手法はこれに限定されるものではなく、ホットプレートに載置することによって半導体ウェハーWを予備加熱するようにしても良い。
【0081】
また、本発明に係る熱処理装置によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。また、本発明に係る技術は、金属とシリコンとの接合、或いはポリシリコンの結晶化に適用するようにしても良い。
【符号の説明】
【0082】
1 熱処理装置
2 シャッター機構
3 制御部
4 ハロゲン加熱部
5 フラッシュ加熱部
6 チャンバー
7 保持部
10 移載機構
21 シャッター板
22 スライド駆動機構
31 パルス発生器
32 波形設定部
33 入力部
61 チャンバー側部
62 凹部
63 上側チャンバー窓
64 下側チャンバー窓
65 熱処理空間
74 均熱リング
91 トリガー電極
92 ガラス管
93 コンデンサ
94 コイル
96 IGBT
97 トリガー回路
FL フラッシュランプ
HL ハロゲンランプ
W 半導体ウェハー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に対してフラッシュ光を照射することによって該基板を加熱する熱処理方法であって、
支持部材にて基板を支持する支持工程と、
前記支持部材に支持された基板の上面に第1のフラッシュ光を照射することによって、前記基板を前記支持部材から跳躍させる跳躍工程と、
前記基板が跳躍して前記支持部材から浮上している間に、前記基板の上面に第2のフラッシュ光を照射して加熱処理を行う加熱工程と、
を備えることを特徴とする熱処理方法。
【請求項2】
請求項1記載の熱処理方法において、
前記第1のフラッシュ光の強度は前記第2のフラッシュ光の強度よりも小さいことを特徴とする熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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