説明

熱分析装置

【課題】試料を加熱する際に、ファーナスチューブが温度変化によって位置ずれしてしまうことがなく、常に一定の加熱環境で試料を加熱し、熱分析を行うことが可能な熱分析装置を提供する。
【解決手段】熱分析装置1は、支持台2と、略円筒状で、内部を所定の加熱温度まで昇温可能な加熱炉3と、加熱炉3を支持台2に固定する加熱炉固定部7と、略円筒状で、加熱炉3に隙間3aを有して挿通され、基端部9cで固定部材11によって支持台2に固定されたファーナスチューブ9と、ファーナスチューブ9を、軸方向に膨張、収縮可能に、かつ、半径方向に位置決め固定する固定手段12と、ファーナスチューブ9の加熱炉3によって加熱可能な範囲である加熱部10の内部に、試料S1を保持する試料保持手段16と、試料S1の温度変化を測定する温度測定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を加熱し、温度変化に伴う試料の物理的変化を測定する熱分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、試料の温度特性を評価する手法として、試料を加熱し、温度変化に伴う試料の物理的変化を測定する熱分析といわれる手法が行われている。このような熱分析としては、その目的から様々な手法が提案されているが、例えば、試料と、参照物質とを並べて加熱し、温度の相対的変化を測定する示差熱分析、また、温度変化に伴う試料の重量変化を測定する熱重量分析などがある。
【0003】
例えば、熱重量分析を行う装置としては、円筒状で、内部に試料室を形成するファーナスチューブと、ファーナスチューブの側面に取り巻かれて、ファーナスチューブを介して試料室を加熱する加熱炉と、試料を保持する試料保持部と、試料保持部に設けられ、試料の温度を検出する熱電対と、試料保持部に設けられ、試料の重量変化を測定可能な重量検出器とを備えた熱分析装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このような熱分析装置では、試料保持部に保持された試料をファーナスチューブの内部の試料室に挿入し、加熱炉で加熱するとともに、熱電対で試料の温度を測定し、また、重量検出器で試料の重量を測定することで、温度変化に伴う試料の重量変化を測定することが可能であるとされている。
【0004】
また、近年、このような試料を保持する試料保持部とともに、参照物質を保持する別の試料保持部と、参照物質の温度を測定する別の熱電対をさらに設けて、上記のように熱重量分析を行うとともに、試料と参照物質との温度の相対的変化を測定して、示差熱分析も行うことが可能な熱分析装置なども提案されている。
【特許文献1】特開平11−326249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に示すような熱分析装置においては、ファーナスチューブの内部に試料を挿入して加熱する際に、ファーナスチューブも温度変化に伴って膨張、収縮する。このため、ファーナスチューブの内部に配置された試料は、ファーナスチューブの温度変化に伴って、ファーナスチューブの軸方向及び径方向に相対的位置が変化してしまう。ファーナスチューブの加熱炉で加熱された内部は、軸方向に温度分布が一様である一方、径方向には中心に向って急峻な温度分布を有している。このため、ファーナスチューブが径方向に位置ずれしてしまった場合には、試料の加熱環境が変化してしまい、正確な測定ができなくなってしまう問題があった。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、試料を加熱する際に、ファーナスチューブが温度変化によって位置ずれしてしまうことがなく、常に一定の加熱環境で試料を加熱し、熱分析を行うことが可能な熱分析装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の熱分析装置は、支持台と、略円筒状で、内部を所定の加熱温度まで昇温可能な加熱炉と、該加熱炉を前記支持台に固定する加熱炉固定部と、略円筒状で、前記加熱炉に隙間を有して挿通され、基端部で固定部材によって前記支持台に固定されたファーナスチューブと、該ファーナスチューブを、軸方向に膨張、収縮可能に、かつ、半径方向に位置決め固定する固定手段と、前記ファーナスチューブの前記加熱炉によって加熱可能な範囲である加熱部の内部に、試料を保持する試料保持手段と、前記試料の温度変化を測定する温度測定手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
この発明に係る熱分析装置によれば、加熱炉が加熱炉固定部によって支持台に固定されている一方、ファーナスチューブも基端部において固定部材によって支持台に固定されていることで、ファーナスチューブは、加熱炉に隙間を有して挿通された状態を保っている。そして、試料保持手段によってファーナスチューブの加熱部の内部に試料を配置して、加熱炉を昇温する。ファーナスチューブの内部で試料は加熱され、これに伴って試料の温度を温度測定手段で測定することで、試料の温度特性を評価することができる。この際、加熱炉を昇温することで、ファーナスチューブも加熱され、ファーナスチューブは軸方向及び径方向に膨張、収縮を生じる。ファーナスチューブは、基端部で固定部材によって固定されているとともに、固定手段によって軸方向に膨張、収縮可能であることで、温度変化したとしても、応力が発生してしまうことなく軸方向に自由に膨張、収縮することができる。一方、径方向には固定手段によって位置決め、固定されていることで、温度変化に伴う径方向の位置ずれを防ぎ、試料のファーナスチューブの内部における径方向の位置を一定とし、試料の加熱環境を常に一定に保つことができる。
【0009】
また、上記の熱分析装置において、前記固定手段は、前記ファーナスチューブの前記加熱部の先端側及び基端側の両側二箇所に設けられていることがより好ましいとされている。
この発明に係る熱分析装置によれば、温度変化によって膨張、収縮が生じるファーナスチューブの加熱部の両側で固定手段によって径方向に位置決め固定されることで、ファーナスチューブの温度変化に伴う径方向への位置ずれをさらに確実に防ぐことができる。
【0010】
また、上記の熱分析装置において、前記固定手段は、前記加熱炉固定部に設けられており、前記ファーナスチューブは、前記固定手段によって、前記加熱炉固定部を介して前記支持台に固定されていることがより好ましいとされている。
この発明に係る熱分析装置によれば、加熱されるファーナスチューブと、ファーナスチューブを加熱する加熱炉がともに、加熱炉固定部を介して支持台に固定、すなわち同じ固定系で固定されている。このため、加熱炉とファーナスチューブとの相対的位置関係を一定に保つことができ、試料の加熱環境をさらに安定させることができる。
【0011】
また、上記の熱分析装置において、前記固定手段は、前記ファーナスチューブに当接する少なくとも3つの当接部材で構成され、前記ファーナスチューブは、前記当接部材によって、円周方向の少なくとも3箇所で当接支持されていることがより好ましいとされている。
この発明に係る熱分析装置によれば、ファーナスチューブが円周方向の少なくとも3箇所で当接部材によって当接支持されていることで、ファーナスチューブは当接部材に対して摺動して軸方向に膨張、収縮可能である一方、径方向には確実に位置決め、固定される。
【0012】
また、上記の熱分析装置において、前記固定手段の前記当接部材は、略円柱状で、固定ボルトによって前記支持台に対して固定されて、周面部が前記ファーナスチューブに当接する円柱ピースであることがより好ましいとされている。
この発明の係る熱分析装置によれば、ファーナスチューブに当接支持する当接部材が略円柱状の円柱ピースであることで、ファーナスチューブとの接触を線接触として、接触する範囲を最小限にして固定することができる。このため、ファーナスチューブから円柱ピースへの熱伝導を抑えることができ、試料を効率良く加熱することができるとともに、当接部材である円柱ピースあるいは固定ボルトが加熱されて膨張、収縮してしまうことを防ぐことができる。
【0013】
また、上記の熱分析装置において、前記円柱ピースは、セラミックスで形成されていることがより好ましいとされている。
この発明に係る熱分析装置によれば、円柱ピースがセラミックスで形成されていることで、円柱ピースへの熱伝導をさらに抑えることができ、試料を効率良く加熱することができるとともに、加熱されることによる円柱ピースの膨張、収縮を抑えることができる。
【0014】
また、上記の熱分析装置において、前記固定手段の前記円柱ピースは、前記固定ボルトに対して偏心して固定されていることがより好ましいとされている。
この発明に係る熱分析装置によれば、固定ボルトに対して円柱ピースが偏心しているので、固定ボルトを中心として、円柱ピースの固定される向きを変えることで、円柱ピースに当接され固定されるファーナスチューブの径方向の位置を微調整することができる。この機構により、試料をファーナスチューブの温度勾配の最も小さい中央位置に調整することができる。
【0015】
また、上記の熱分析装置において、前記試料保持手段によって保持された前記試料の重量を測定する重量測定手段を備えることがより好ましいとされている。
この発明に係る熱分析装置によれば、温度変化に伴ってファーナスチューブが径方向に位置ずれしてしまうことなく、一定の加熱環境で試料を加熱して、試料の温度変化に伴う重量変化を正確に測定することができる。
【0016】
また、上記の熱分析装置において、前記試料保持手段及び対応する前記温度測定手段は、前記ファーナスチューブの中心軸に対して略線対称に、それぞれに異なる試料を配置可能に2つ設けられていることがより好ましいとされている。
この発明に係る熱分析装置によれば、温度変化に伴ってファーナスチューブが径方向に位置ずれしてしまうことなく、一定で、かつ異なる試料を相対的に等しい加熱環境で加熱することができる。このため、一方の試料を基準として、他方の試料の相対的な温度変化を正確に測定することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の熱分析装置によれば、基端部で固定部材によって固定されたファーナスチューブをさらに固定手段によって位置決め固定することで、ファーナスチューブが温度変化によって径方向に位置ずれしてしまうことなく、常に一定の加熱環境で試料を加熱して、熱分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1から図4は、この発明に係る実施形態を示している。この実施形態の熱分析装置1は、測定試料S1と参照試料S2の異なる試料を一定の加熱環境で加熱し、それぞれの温度変化を測定するとともに、測定試料S1及び参照試料S2の重量を測定する示差熱・熱重量同時測定装置である。以下、その構成について詳細を示す。
【0019】
図1及び図2に示すように、熱分析装置1は、所定の設置位置に固定可能な支持台として機能する外筐2と、外筐2の内部に収容された加熱炉3とを備えている。加熱炉3は、略円筒状の炉心管4と、略円筒状で、炉心管4に外嵌されたヒータ5と、ヒータ5と接続したヒータ駆動部6とを備える。ヒータ駆動部6は、ヒータ5を所定の加熱温度まで昇温させることが可能であり、ヒータ5を昇温させることで、炉心管4を介して、加熱炉3の内部を加熱することが可能である。また、炉心管4はヒータ5に比べて長く形成されており、ヒータ5の両端から突出している。また、外筐2には、下部にL字状の支持部材2aが設けられており、支持部材2aによって床等に固定可能である。外筐2の内部には、加熱炉3を外筐2に固定する加熱炉固定部7が設けられおり、支持部材8によって外筐2に固定されている。なお、図1において、支持部材8は、1箇所しか図示されていないが、複数箇所において、加熱炉固定部7を固定しているものとする。
【0020】
加熱炉固定部7は、中空の略円柱状に形成されており、両側壁部に貫通孔7aが形成されている。貫通孔7aの内径は、加熱炉3の炉心管4の外径と略等しく設定されており、貫通孔7aが炉心管4の両端に嵌合することで、加熱炉3は加熱炉固定部7に固定されている。また、加熱炉3と加熱炉固定部7によって閉空間7bが形成され、加熱炉固定部7は加熱炉3の保温作用を有するとともに、図2に示す調整孔7cによって閉空間7bを換気して、加熱炉3を冷却して温度調整することも可能である。
【0021】
また、外筐2の両側壁部には、外筐2に固定された加熱炉固定部7の貫通孔7aと同軸上に、貫通孔2bが形成されている。そして、加熱炉3及び外筐2の貫通孔2bには、略円筒状のファーナスチューブ9がそれぞれ隙間3a、2cを有して挿通されていて、加熱炉3に挿通されることで、加熱炉3の内部において加熱可能な範囲である加熱部10を形成している。ファーナスチューブ9は、例えばアルミナで形成されており、外筐2から突出する先端部9aには、縮径した排気口9bが形成されている。また、ファーナスチューブ9は、基端部9cで固定部材11によって外筐2に固定されている。固定部材11は、ファーナスチューブ9を嵌合可能な貫通孔11aが形成された略円板状の鍔部材11bと、鍔部材11bを外筐2に固定する固定ボルト11cとを備える。ファーナスチューブ9は、鍔部材11bの貫通孔11aにOリング11dを介して嵌合され、固定されている。
【0022】
また、ファーナスチューブ9は、固定部材11とは別に、加熱部10の両側においても2つの固定手段12によって、位置決め固定されている。図2に示すように、各固定手段12は、ファーナスチューブ9の円周方向の3箇所に配置された当接部材13で構成されている。当接部材13は、ボルト穴14aを有する円柱ピース14と、軸方向に略平行に設けれ、ボルト穴14aに挿通されて、円柱ピース14を加熱炉固定部7の側壁部に固定する固定ボルト15とを備える。円柱ピース14は、セラミックスで形成されており、略円柱状の大小異なる径を有する第一の円柱体14b及び第二の円柱体14cによって段状に形成されている。また、ボルト穴14aは第一の円柱体14b及び第二の円柱体14cに連通して形成されており、ボルト穴14aの中心軸に対して第一の円柱体14bは中心軸が略平衡にかつ偏心して形成されている一方、第二の円柱体14cは中心軸が同軸となるように形成されている。そして、円柱ピース14の第一の円柱体14bは、周面部14dでファーナスチューブ9の外周面9dに当接し、第二の円柱体14cは周面部14eで加熱炉3の炉心管4に当接している。すなわち、図2に示すように、ファーナスチューブ9は、固定手段12を構成する3つの当接部材13によって当接支持され、径方向への位置ずれが無い様に拘束されている一方、当接部材13上を摺動し、軸方向への膨張、収縮を可能とされている。
【0023】
また、図1及び図3に示すように、熱分析装置1は、測定試料S1及び参照試料S2のそれぞれをファーナスチューブ9の加熱部10の内部に保持する2つの試料保持手段16を備える。試料保持手段16は、中心軸17aで回転可能に軸着された天秤アーム17と、天秤アーム17の先端部に設けられた試料ホルダ18とを備える。図3に示すように、2つの試料保持手段16は、ファーナスチューブ9の中心軸Lに対して略線対称に配置されている。天秤アーム17及び試料ホルダ18は、例えば白金で形成されている。試料ホルダ18には、白金で形成され、測定試料S1または参照試料S2を収容する試料用容器19を配置可能である。また、試料ホルダ18には、図示しない温度測定手段である熱電対が設けられており、試料ホルダ18に配置された測定試料S1または参照試料S2の温度を測定することが可能である。
【0024】
図1に示すように、天秤アーム17の中心軸17aよりも基端側には位置センサ20が設けられている。位置センサ20は、例えばフォトセンサーであり、天秤アーム17が略水平な状態であるか否かを検出することが可能である。さらに、熱分析装置1は、重量測定手段21として、中心軸17aの位置で天秤アーム17に固定されたコイル22と、コイル22に電流を供給する電源23と、コイル22の両側に配置された磁石24とを備えている。すなわち、コイル22は、電源23から電流が供給されることで、磁石24との作用によって、天秤アーム17の傾斜を調整することが可能である。そして、制御部25による制御のもと、位置センサ20によって天秤アーム17が水平であると検出されるようにコイル22に電流を供給し、その電流を測定することによって、天秤アーム17の試料ホルダ18に配置された試料の重量を測定することが可能である。なお、図1において、省略するが、これら位置センサ20及び重量測定手段21は、2つの試料保持手段16の天秤アーム17のそれぞれに設けられており、制御部25に接続されている。
【0025】
次に、この熱分析装置1の作用について説明する。図1に示すように、まず、2つの試料保持手段16によって、測定試料S1及び参照試料S2のそれぞれを試料用容器19に収容して試料ホルダ18に配置する。そして、まず、制御部25は、各々の天秤アーム17が略水平となるように、位置センサ20の検出結果に従って、電源23によってコイル22に電流を供給させる。次に、制御部25は、ヒータ駆動部6を駆動してヒータ5を所定の昇温速度で昇温させる。そして、ファーナスチューブ9の加熱部10の内部は、加熱炉3が昇温することによって加熱され、測定試料S1及び参照試料S2も昇温する。この際に、測定試料S1及び参照試料S2の温度変化は、それぞれの試料ホルダ18に設けられた温度測定手段である図示しない熱電対によって検出され、制御部25に入力されている。また、測定試料S1及び参照試料S2は、それぞれの物性に従って特定の温度で液化、気化などを起因とした重量変化が見られる。そして、測定試料S1及び参照試料S2の重量変化に伴って、それぞれの天秤アーム17は傾斜するが、その結果が位置センサ20によって検出され、制御部25に入力される。制御部25は、この位置センサ20の検出結果に基づいて、天秤アーム17が略水平となるように電源23によってコイル22に電流を供給させる。そして、この電流を検出することによって、測定試料S1及び参照試料S2の温度変化に伴う重量変化を測定することができる。また、制御部25の制御のもと、天秤アーム17を常に略水平に保たれることで、測定試料S1及び参照試料S2を、側方視して常にファーナスチューブ9の中心軸Lと一致するように配置することができ、一定の加熱環境を保って加熱することができる。
【0026】
以上のようにして、測定試料S1の温度変化に伴う、重量変化を測定することができるとともに、参照試料S2と比較することで、相対的な温度変化を測定することができる。また、参照試料S2に、加熱される温度範囲の中で重量変化が無く安定した物質を選択し、測定試料S1と参照試料S2との重量の差分を測定することで、測定試料S1自体の重量変化以外のノイズを相殺して、正確に測定試料S1の温度変化に伴う重量変化を測定し、測定試料S1の温度特性を評価することができる。
【0027】
ここで、上記のように、加熱炉3を昇温させ、測定試料S1及び参照試料S2を加熱するのに伴って、加熱部10において、ファーナスチューブ9も加熱され、軸方向及び径方向に膨張、収縮しようとする。ファーナスチューブ9は、基端部9cで固定部材11によって固定されているとともに、3つの当接部材13で構成された2組の固定手段12によって加熱部10の両側を位置決め固定されている。すなわち、ファーナスチューブ9は、当接部材13に対して摺動することで軸方向に膨張、収縮可能である一方、径方向には確実に位置決め、固定される。このため、温度変化によって軸方向に膨張、収縮が生じたとしても、ファーナスチューブ9に応力が発生してしまうことがない一方、径方向には温度変化に伴う位置ずれを防ぐことができる。
【0028】
ファーナスチューブ9の加熱部10の内部における温度分布は、軸方向に一様である一方、半径方向には中心軸Lに向かって急峻な温度分布を有している。すなわち、測定試料S1及び参照試料S2のファーナスチューブ9の内部における径方向の位置を一定とすることで、測定試料S1及び参照試料S2の加熱環境を常に一定に保つことができる。特に、本実施形態の熱分析装置1のように、測定試料S1と参照試料S2の相対的変化を測定するには両者の加熱環境を一定に保つことが重要であり、固定手段12によって径方向に正確に位置決めすることができることで、正確な示差熱分析を実現することができる。また、固定手段12による固定を加熱部10の両側の2箇所とすることで、ファーナスチューブ9の温度変化に伴う径方向への位置ずれをさらに確実に防ぐことができる。また、加熱されるファーナスチューブ9と、ファーナスチューブ9を加熱する加熱炉3が、ともに、加熱炉固定部7を介して外筐2に固定、すなわち同じ固定系で固定されている。このため、加熱炉3とファーナスチューブ9との相対的位置関係を一定に保つことができ、測定試料S1及び参照試料S2の加熱環境をさらに安定させることができる。
【0029】
また、ファーナスチューブ9を当接支持する当接部材13は、ファーナスチューブ9に直接当接する円柱ピース14が略円柱状であることで、ファーナスチューブ9との接触を線接触とし、接触範囲を最小限としている。このため、ファーナスチューブ9から当接部材13の円柱ピース14への熱伝導を抑えることができ、測定試料S1及び参照試料S2を効率良く加熱することができるとともに、円柱ピース14あるいは固定ボルト15が加熱されて膨張、収縮してしまうことを防ぐことができる。さらに、円柱ピース14がセラミックスで形成されていることで、円柱ピース14への熱伝導をさらに抑えることができ、測定試料S1及び参照試料S2を効率良く加熱することができるとともに、加熱されることによる円柱ピース14の膨張、収縮を抑えることができる。
【0030】
また、図4に示すように、当接部材13の円柱ピース14は、軸方向に略平行に設けられた固定ボルト15に対して、加熱炉3の炉心管4に当接している第二の円柱体14cは中心軸が同軸となるように固定されている一方、ファーナスチューブ9に当接している第一の円柱体14bは中心軸が偏心して固定されている。すなわち、固定ボルト15を中心として、円柱ピース14の固定される向きを変えることで、円柱ピース14に当接され固定されるファーナスチューブ9の径方向の位置を調整することができる。この機構により、測定試料S1及び参照試料S2を、ファ−ナスチューブ9の温度勾配の最も小さい中央位置、すなわち、中心軸Lで略対称となる位置に調整することができる。
【0031】
以上のように、この実施形態の熱分析装置1は、基端部9cで固定部材11によって固定されたファーナスチューブ9をさらに固定手段12によって位置決め固定することで、ファーナスチューブ9が温度変化によって径方向に位置ずれしてしまうことなく、常に一定の加熱環境で測定試料S1及び参照試料S2を加熱して、熱分析を行うことができる。
【0032】
なお、本実施形態の熱分析装置1では、ファーナスチューブ9の内部で試料を保持する2つの試料保持手段16を備え、測定試料S1と参照試料S2との熱分析を行うものとしたがこれに限ることは無い。少なくとも1つの試料保持手段16を有して、測定試料S1の温度変化に伴う重量変化だけを測定する場合においても、一定の加熱環境で測定試料S1を加熱することができ、正確な熱重量分析を行うことができる。また、本実施形態においては、ファーナスチューブ9は略水平に配置されるものとしているが、例えば、垂直に配置されたファーナスチューブの上方あるいは下方から、試料保持手段によって内部に試料を配置して同様の測定を行うものとしても良い。さらには、上記のように示差熱・熱重量分析に限るものでは無く、様々な熱分析に適用可能である。
【0033】
また、固定手段12は、3つの当接部材13で構成されるものとしたが、これに限ることは無く、少なくとも円周方向の3箇所以上でファーナスチューブ9を固定可能であれば、同様の効果を期待することができる。また、固定手段12は、加熱部10の両側2箇所に設けられているものとしたが、これに限るものではなく、少なくとも軸方向の1箇所に設けられていれば、ファーナスチューブ9を軸方向に膨張、収縮可能に、かつ、径方向に位置決め固定することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施形態の熱分析装置の側方視した断面図である。
【図2】この発明の実施形態の熱分析装置の正面視した断面図である。
【図3】この発明の実施形態の熱分析装置のファーナスチューブの上方視した拡大断面図である。
【図4】この発明の実施形態の熱分析装置のファーナスチューブの正面視した拡大断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 熱分析装置
2 外筐(支持台)
3 加熱炉
3a 隙間
7 加熱路固定部
9 ファーナスチューブ
9c 基端部
10 加熱部
11 固定部材
12 固定手段
13 当接部材
14 円柱ピース
15 固定ボルト
16 試料保持手段
21 重量測定手段
S1 測定試料(試料)
S2 参照試料(試料)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持台と、
略円筒状で、内部を所定の加熱温度まで昇温可能な加熱炉と、
該加熱炉を前記支持台に固定する加熱炉固定部と、
略円筒状で、前記加熱炉に隙間を有して挿通され、基端部で固定部材によって前記支持台に固定されたファーナスチューブと、
該ファーナスチューブを、軸方向に膨張、収縮可能に、かつ、半径方向に位置決め固定する固定手段と、
前記ファーナスチューブの前記加熱炉によって加熱可能な範囲である加熱部の内部に、試料を保持する試料保持手段と、
前記試料の温度変化を測定する温度測定手段とを備えることを特徴とする熱分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の熱分析装置において、
前記固定手段は、前記ファーナスチューブの前記加熱部の先端側及び基端側の両側二箇所に設けられていることを特徴とする熱分析装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の熱分析装置において、
前記固定手段は、前記加熱炉固定部に設けられており、
前記ファーナスチューブは、前記固定手段によって、前記加熱炉固定部を介して前記支持台に固定されていることを特徴とする熱分析装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱分析装置において、
前記固定手段は、前記ファーナスチューブに当接する少なくとも3つの当接部材で構成され、
前記ファーナスチューブは、前記当接部材によって、円周方向の少なくとも3箇所で当接支持されていることを特徴とする熱分析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の熱分析装置において、
前記固定手段の前記当接部材は、略円柱状で、固定ボルトによって前記支持台に対して固定されて、周面部が前記ファーナスチューブに当接する円柱ピースであることを特徴とする熱分析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の熱分析装置において、
前記円柱ピースは、セラミックスで形成されていることを特徴とする熱分析装置。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の熱分析装置において、
前記固定手段の前記円柱ピースは、前記固定ボルトに対して偏心して固定されていることを特徴とする熱分析装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の熱分析装置において、
前記試料保持手段によって保持された前記試料の重量を測定する重量測定手段を備えることを特徴とする熱分析装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれかに記載の熱分析装置において、
前記試料保持手段及び対応する前記温度測定手段は、前記ファーナスチューブの中心軸に対して略線対称に、それぞれに異なる試料を配置可能に2つ設けられていることを特徴とする熱分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−232479(P2007−232479A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−52602(P2006−52602)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(503460323)エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社 (330)
【Fターム(参考)】