説明

熱分析装置

【課題】熱分析装置の構成及び分析プログラムの構成を複雑にすることなく、高温状態の冷却槽に冷媒が供給されないようにする。
【解決手段】制御部16は、分析プログラムと温度センサ5で検出される加熱炉2内の温度に基づいて、冷却槽10が冷媒供給可能な状態かどうかを判定し、そうでない場合はその工程が分析プログラム上で冷却工程であっても冷媒が冷却槽10に供給されないように冷媒供給部12を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料を加熱炉内に収容して、加熱炉の温度を変化させながら試料の膨張や収縮などの寸法変化を測定する熱機械分析装置(TMA)などの熱分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば引張試験を行なうための熱機械分析装置は、検出部から吊り下げられた検出棒の下端部に試料保持部が設けられている。固形試料の場合は試料保持部に載置された試料上に検出棒の下端が接触させられ、帯状試料の場合は上端が検出棒の下端に保持され、下端が試料保持部内の下端固定部に固定される。このような試料保持部は検出部の下方に設けられている加熱炉内に試料を保持した状態で挿入され、加熱炉内の温度を変化させることにより、温度変化に対する試料の寸法変化が検出される。
【0003】
このような熱分析装置では、高温状態の加熱炉温度を急速に冷却するために、加熱炉の周囲部に冷却槽が設けられており、加熱炉を急速に冷却する際は、例えば液体窒素などの冷媒がその冷却槽に供給されるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2001−183319号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷却槽が空の状態のとき、冷却槽の温度は加熱炉の温度の影響を受け、加熱炉が高温であれば冷却槽も高温である。冷却槽が高温になっている状態で冷媒を冷却槽に供給すると、冷媒の急激な気化が起こり、冷却槽からの冷媒の噴出や冷媒を供給する機器への逆流が発生し、使用者にとって危険が生じたり、冷媒を供給する機器を破損させたりするという問題がある。最近の熱分析装置は冷媒の噴出や逆流が発生しても使用者に危険が及びにくく、かつ装置が破損しにくいような構造になってはいるが、冷媒の急激な気化による危険が全くなくなっているわけではなく、冷媒の急激な気化を防止することがより好ましい。
【0005】
冷媒の急激な気化を防ぐ方法として、加熱炉が高温状態のときには液体窒素が冷却槽に供給されないように分析プログラムを構成することが挙げられるが、そのように分析プログラムを構成すると分析プログラムが複雑化するという問題があった。また、他の方法としては、冷却槽に温度センサを取り付けて冷却槽の温度を観察し、冷却槽の温度により冷媒を供給してもよいかどうかを判断するようにしてもよいが、特別な機器を使用することなく簡単な構成でこの問題を解決できることが好ましく、コスト的にも有利である。
【0006】
そこで本発明は、熱分析装置の構成及び分析プログラムの構成を複雑にすることなく、高温状態の冷却槽に冷媒が供給されないようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、試料を保持するための試料保持部と、試料保持部に保持された試料の寸法変化又は重量変化を検出する検出部と、試料保持部に保持された試料を加熱する加熱炉と、加熱炉周辺に設けられた冷却槽及び冷却槽に冷媒を供給する冷媒供給部を備えて冷却槽に冷媒を供給することで加熱炉を冷却する冷却部と、予め入力された分析プログラムを記憶しておく分析プログラム記憶部と、加熱炉に取り付けられた温度センサの検出温度に基づいて、加熱炉の温度を分析プログラム記憶部に記憶されている分析プログラムに従って制御する制御部と、を備えた熱分析装置であって、制御部は、温度センサの検出温度と分析プログラム記憶部に記憶されている分析プログラムに基づいて冷却槽が冷媒供給可能な状態かどうかを判定し、冷却槽が冷媒供給可能な状態でない場合は、冷却槽が冷媒供給可能な状態になるまで冷媒を供給させないように冷媒供給部を制御することを特徴とするものである。
ここで、冷媒供給可能な状態とは、供給された冷媒が急激に気化して冷却槽から噴出したり逆流したりすることがないと考えられる状態である。
【0008】
制御部は、冷却槽に冷媒が存在しているかどうかを分析プログラムから判断し、冷却槽に冷媒が存在していない場合でかつ温度センサの検出温度が冷媒供給可能温度を超えている場合に冷却槽が冷媒供給可能な状態ではないと判定することが好ましい。
冷媒供給可能温度とは、冷却槽に冷媒が供給されても冷媒が急激に気化して冷却槽から噴出したり冷媒供給部へ逆流したりすることがないと考えられる温度であり、冷媒として用いられる物質や加熱炉の形状等によって決定されるものである。
【0009】
冷媒として用いることができる物質の一例は液体窒素である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱分析装置においては、制御部は、温度センサの検出温度と分析プログラム記憶部に記憶されている分析プログラムに基づいて冷却槽が冷媒供給可能な状態かどうかを判定し、冷却槽が冷媒供給可能な状態でない場合は、冷却槽が冷媒供給可能な状態になるまで冷媒を供給させないように冷媒供給部を制御するようになっているので、冷却槽が冷媒が供給されると危険な状態のときに冷媒が供給されないようになる。これによって、冷媒の急激な気化を防止でき、冷媒の冷却槽からの噴出や冷媒供給部への逆流を防ぐことができる。
【0011】
制御部は、冷却槽に冷媒が存在しているかどうかを分析プログラムから判断し、冷却槽に冷媒が存在していない場合でかつ温度センサの検出温度が冷媒供給可能温度を超えている場合に冷却槽が冷媒供給可能な状態ではないと判定するようにすれば、熱分析装置の構成や分析プログラムの構成を変えることなく冷媒の供給の可否の判定が行なえるので、コストの増加を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は熱分析装置の一実施例を概略的に示すブロック図である。
加熱炉2内に試料6を保持した試料保持部4が挿脱可能に収容される。加熱炉2は内部温度を昇温させるためのヒータ(図示は省略)と加熱炉2内の温度を検出する温度センサ5を備えている。
高温となった加熱炉2を冷却するための冷却部8が設けられている。冷却部8は加熱炉2の周辺に配置された冷却槽10と、冷却槽10内に例えば液体窒素などの冷媒を供給する冷媒供給部12を備えている。
検出部14は試料6の寸法変化又は重量変化を検出するものであり、試料6の寸法変化又は重量変化を常時検出している。
【0013】
制御部16は加熱炉2のヒータのオン/オフ、及び冷却部8の冷媒供給部12による冷媒供給のオン/オフを制御するものである。制御部16は、予め作成された分析プログラムに従って、加熱炉2に設けられた温度センサ5の検出温度に基づいてヒータや冷媒供給部12を制御する。分析プログラムは分析プログラム記憶部18に記憶されている。制御部16の制御方法は例えばフィードバック制御である。
制御部16はまた、分析プログラムと温度センサ5で検出される加熱炉2内の温度に基づいて、冷却槽10が冷媒供給可能な状態かどうかを判定し、そうでない場合はその工程が分析プログラム上で冷却工程であっても冷媒が冷却槽10に供給されないように冷媒供給部12を制御する。
【0014】
図6は熱分析装置の加熱炉の一例を示す断面図である。
加熱炉2の内部に試料(図示は省略)を保持した試料保持部4が挿脱可能に挿入される。試料保持部4は試料の寸法変化又は重量変化を検出するための検出部を構成する検出棒14aの下端部に設けられている。加熱炉2は中空の円筒形状であり、その内壁の一部に加熱炉2内を昇温するためのヒータ2aが設けられている。加熱炉2内部には温度を検出する温度センサ(図示は省略)が設けられている。
【0015】
加熱炉2の外周に冷却槽10が設けられている。冷却槽10の上部には、冷媒である液体窒素を供給するための液体窒素供給部22が設けられており、液体窒素供給部22の下方に液体窒素が気化した後の窒素ガスを排出するための窒素ガス排出部24が設けられている。冷却槽10はヒータ2aとは断熱層20を介して配置されている。加熱炉2の下部にはヒータ2a及び断熱層20が設けられていない部分があり、冷却槽10に供給された液体窒素と加熱炉2の内部とがその部分で熱交換を行なうようになっている。
【0016】
加熱炉2内部を急激に冷却する工程では、液体窒素供給部22から液体窒素が供給され、加熱炉2下部で加熱炉2の内部と液体窒素との間で熱交換が行なわれて加熱炉2内部が冷却される。熱交換を済ました液体窒素は気化して窒素ガスとなり窒素ガス排出部24から排出される。
【0017】
冷却槽10が空の状態であり、加熱炉2の内部が例えば500℃程度の高温状態となっている場合、冷却槽10は加熱炉2と接している下部から加熱されて高温状態となる。その状態で液体窒素を液体窒素供給部22から供給すると、液体窒素は冷却槽10の下部に到達する前に急激な気化を起こして冷却槽10内の圧力が上昇し、その後に供給される液体窒素が窒素ガス排出部24から噴出したり液体窒素供給部22側に逆流したりすることがある。
【0018】
図2に分析プログラムの一例を示す。図2において、最左欄の数字は加熱炉2温度の制御工程No.(ナンバー)を示しており、そこから順に右側に、加熱速度(℃/min)、加熱炉の目標温度(℃)、目標温度でのホールド(保温)時間(min)、冷却槽への冷媒の供給/停止、を示している。なお、検出部14は、試料6の寸法変化を常時検出している。
【0019】
この分析プログラムは、10℃/minの加熱速度で加熱炉2内温度が500℃になるまで加熱し、さらに500℃になった状態から10分間その状態を維持し(図2の表の1行目)、加熱炉2の温度が500℃の状態から−50℃/minの加熱速度で加熱炉2内温度が30℃になるまで冷却し(2行目)、その状態で10分間維持した後(3行目)、再び10℃/minの加熱速度で加熱炉2内温度が500℃になるまで加熱してその状態で10分間維持する(4行目)というプログラムである。3行目の工程は2行目の工程において冷却槽10に供給された冷媒を空にするための工程である。
【0020】
図2の分析プログラムにおける各工程(行)での制御部16による冷媒供給部12の制御を図3のフローチャート図を用いて説明する。
指定された工程を実行するにあたり、その工程が冷媒を冷却槽10に供給する工程かどうかを判定する(ステップS1)。
その行が冷媒を冷却槽10に供給する工程でない場合は冷媒の供給を行なうことなくその工程を実行する(ステップS5,S6)。
その工程が冷媒を冷却槽10に供給する工程である場合は、1つ前の工程が冷媒を供給する工程であったか否かを判定する(ステップS2)。
1つ前の工程が冷媒を供給する工程であった場合は冷却槽10に冷媒を供給しながらその工程を実行する(ステップS4,S6)。
1つ前の工程が冷媒を供給する工程でない場合は温度センサ5によって加熱炉2の温度を検出し、加熱炉2の温度が冷媒供給可能温度かを判定する(ステップS3)。加熱炉2の温度が冷媒供給可能温度である場合は冷媒を供給しながらその工程を実行する(ステップS4,S6)。
加熱炉2の温度が冷媒供給可能温度を超えている場合は加熱炉2の温度が冷媒供給可能温度になるまで冷媒を供給せず、加熱炉2の温度が冷媒供給可能温度になってから冷媒を供給しながらその工程を実行する(ステップS4,S6)。
上記の制御を分析プログラムの各工程について行なう。
【0021】
上記の制御では、1つ前の工程が冷媒を供給する工程である場合は、加熱炉2の温度に関係なく冷却槽10に冷媒を供給する。これは、加熱炉2が高温状態であっても冷却槽10は冷媒によって加熱炉2よりも低温になっており、冷却槽10が冷媒供給可能な状態であると判断できるからである。
また、1つ前の工程が冷媒を供給する工程でない場合は、冷却槽10内に冷媒が存在せずに空であると判断しているが、実際には、1つ前の工程が冷媒を供給する工程でなくても冷却槽10が空になっていない場合もあるが、その場合は液体窒素の急激な気化が起こり得ないので問題ない。
【0022】
このようにこの実施例の熱分析装置は、分析プログラム上で冷却槽10に冷媒を供給する工程であっても、冷却槽10内に冷媒が存在しない場合でかつ加熱炉2の温度が冷媒供給可能温度でない場合には冷却槽10が冷媒供給可能な状態でないと判定し、冷却槽10への冷媒の供給を行なわないように制御部16が冷媒供給部12を制御するので、冷却槽10が冷媒供給可能な状態でないときに冷媒が供給されることはない。これにより、冷媒が高温状態である冷却槽10に供給されて急激に気化し、冷却槽10から噴出したり冷媒供給部12へ逆流したりすることがなくなり、作業者にとって安全であり、冷媒供給部12の破損も防止できる。
【0023】
冷媒が高温状態である冷却槽10に供給されるのを防止する方法としては、例えば図4に示されるように、冷媒を冷却槽10に供給する工程の行の前に冷却槽10を空の状態で冷媒供給可能温度まで冷却する工程の行を追加するなど、作業者が冷媒供給のタイミングを考慮して分析プログラムを構成することが考えられるが、分析プログラムの構成が複雑化して分析プログラムを組むのに時間がかかるという問題がある。また、他の方法として、例えば図5に示されるように、全ての工程の行で冷媒を供給するように設定し、冷却槽10が加熱炉2の昇温とともに高温化するのを防ぐ方法もあるが、大量の冷媒を消費してしまうという問題があった。これに対し、この実施例では、冷却槽10が冷媒供給可能な状態であるかどうかを自動で判定して、冷却槽10が冷媒供給可能な状態のときのみ冷媒を冷却槽10に供給するようになっているので、作業者が冷媒供給のタイミングを考慮して分析プログラムを構成する必要がないし、冷媒消費量を増大させることもない。
【0024】
この実施例の熱分析装置では、冷却槽10が空の状態で、加熱炉2内部の温度が例えば500℃と高温の状態になっている場合は液体窒素を供給せず、加熱炉2内部の温度が、液体窒素を供給しても液体窒素の急激な気化が起きないような温度、例えば200℃程度になるまで自然冷却を行ない、その後で液体窒素を冷却槽10に供給するようになっている。これにより、液体窒素が窒素ガス排出部24から噴出したり、液体窒素供給部22側に逆流したりすることがなくなるので、熱分析装置の安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】熱分析装置の一実施例を示すブロック図である。
【図2】分析プログラムの一例を示すパラメータ表である。
【図3】分析プログラムの各工程における冷媒供給部の制御を示すフローチャート図である。
【図4】本発明とは異なる分析プログラムの構成の一例を示すパラメータ表である。
【図5】本発明とは異なる分析プログラムの構成の他の例を示すパラメータ表である。
【図6】熱分析装置の加熱炉の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0026】
2 加熱炉
2a ヒータ
4 試料保持部
5 温度センサ
6 試料
8 冷却部
10 冷却槽
12 冷媒供給部
14 検出部
14a 検出棒
16 制御部
18 分析プログラム記憶部
20 断熱層
22 液体窒素供給部
24 窒素ガス排出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を保持するための試料保持部と、前記試料保持部に保持された試料の寸法変化又は重量変化を検出する検出部と、前記試料保持部に保持された試料を加熱する加熱炉と、加熱炉周辺に設けられた冷却槽及び前記冷却槽に冷媒を供給する冷媒供給部を備えて前記冷却槽に冷媒を供給することで前記加熱炉を冷却する冷却部と、予め入力された分析プログラムを記憶しておく分析プログラム記憶部と、前記加熱炉に取り付けられた温度センサの検出温度に基づいて、前記加熱炉の温度を前記分析プログラム記憶部に記憶されている分析プログラムに従って制御する制御部と、を備えた熱分析装置において、
前記制御部は、前記温度センサの検出温度と前記分析プログラム記憶部に記憶されている分析プログラムに基づいて前記冷却槽が冷媒供給可能な状態かどうかを判定し、冷却槽が冷媒供給可能な状態でない場合は、前記冷却槽が冷媒供給可能な状態になるまで冷媒を供給させないように前記冷媒供給部を制御することを特徴とする熱分析装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記冷却槽に冷媒が存在しているかどうかを前記分析プログラムから判断し、前記冷却槽に冷媒が存在していない場合でかつ前記温度センサの検出温度が冷媒供給可能温度を超えている場合に前記冷却槽が冷媒供給可能な状態ではないと判定する請求項1に記載の熱分析装置。
【請求項3】
前記冷媒は液体窒素である請求項1又は2に記載の熱分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−14807(P2008−14807A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186463(P2006−186463)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】