説明

熱分析装置

【課題】天秤ビームの交換を容易且つ安全に行うことができる熱分析装置を提供する。
【解決手段】第1ビーム24bと第2ビーム25bとを接続して成る天秤ビーム23bと、第1ビーム24bを傾斜揺動可能に支持する支点22bと、支点22b及び第1ビーム24bを格納し開口19を有するハウジング18とを有する熱分析装置である。第2ビーム25bは、開口19を通してハウジング18の内部に挿入されて第1ビーム24bに接続されてハウジング18の外部に延在し、接続側の端部と反対側の端部で試料Sを支持する。第1ビーム24bと第2ビーム25bとの接続部を視認可能領域とする透明カバー17がハウジング18の上面に設けられている。ハウジング18の上面側板を取り外すことなく、第2ビーム25bの着脱ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天秤ビームの一部をハウジングに格納した状態で熱分析測定を行う構成の熱分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天秤ビームを用いる熱分析装置としてTG(Thermogravimetry:熱重量測定)装置、TG−DTA(Thermogravimetry−Differential Thermal Analysis:熱重量測定−示差熱分析)装置が知られている。TG装置は、温度変化あるいは時間の経過に対して試料の重量変化を測定する装置である。TG−DTA装置はTG装置の機能以外にDTA装置の機能を併せて有する装置である。DTA装置は、熱的に安定な基準物質と試料とを同時に加熱して試料が熱に反応した際に両者の間に現れた温度差を測定し、その温度差から試料に発生した熱変化を知る装置である。
【0003】
天秤ビームを用いる熱分析装置において、その天秤ビームの試料支持側と反対側の部分は、一般に、支点、傾き検知機構、ビーム駆動機構等といった付帯機器と共にハウジングの中に格納されている。天秤機構は極めて精密な機構であり、天秤ビームの微妙な動きが測定に影響を与えるため、天秤ビームはできるだけ外部雰囲気から隔絶する必要があるからである。
【0004】
また、天秤ビームは、試料を支持する部分と支点によって支持される部分との2つに分割された上で、両部分を互いに接続して1つの天秤ビームとして用いられることが多い(例えば、特許文献1参照)。このように天秤ビームを分割するのは、試料を支持する部分を試料に応じて交換したり、試料を支持する部分が損傷又は消耗した場合にその部分を新しいものと交換したりする必要があるからである。
【0005】
【特許文献1】特開平8−184545号公報(第4頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
天秤ビームの一部分をハウジングに格納する構造の熱分析装置において、分割構造の天秤ビームを用いる場合には、一般に、2つのビーム要素はハウジングの内部において互いに接続されている。そして、2つのビーム要素を接続したり、分離したりする作業は、ハウジングの上蓋をハウジング基体から取り外して、2つのビーム要素の接続部分を視認で切る状態にした上でその接続又は分離の作業を行っていた。
【0007】
しかしながら、天秤ビームの試料支持部分を着脱するたびにハウジングの上蓋を着脱するという作業は非常に面倒であった。また、上蓋の着脱作業の際に上蓋やハウジング基体の内部を損傷するおそれがあった。特に、ハウジングが気密構造に形成されている場合には、上蓋の着脱作業によってその気密構造が損傷するおそれがある。また、上蓋の着脱の際に天秤機構及びその付属機器が損傷するおそれもある。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みて成されたものであって、天秤ビームの交換を容易且つ安全に行うことができる熱分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る第1の熱分析装置は、第1ビームと第2ビームとを接続して成る天秤ビームと、前記第1ビームを傾斜揺動可能に支持する支点と、該支点及び前記第1ビームを格納し開口を有するハウジングとを有し、前記第2ビームは、前記開口を通して前記ハウジングの内部に挿入されて前記第1ビームに接続されて前記ハウジングの外部に延在し、接続側の端部と反対側の端部で試料を支持し、前記第1ビームと前記第2ビームとの接続部を視認可能領域とする透明部を前記ハウジングに設けたことを特徴とする。
【0010】
この熱分析装置によれば、透明部を通して天秤ビームを観察しながら第1ビームと第2ビームとの着脱作業を行うことができるので、第2ビームの交換又は着脱作業の際にハウジングの上蓋をいちいち取り外す必要がない。このため、第2ビームの着脱作業が非常に簡単であり、しかも、ハウジングの内部構造及び天秤機構を損傷することもない。
【0011】
次に、上記第1の熱分析装置において、第1ビーム及び第2ビームのいずれか一方は挿入されるプラグを有し、それらの他方は挿入を受けるソケットを有し、第1ビームと第2ビームはプラグとソケットとの嵌合によって互いに接続されることが望ましい。この構成により、第1ビームと第2ビームとを簡単且つ確実に接続できる。本発明のように上蓋を取り外さない状態で第1ビームと第2ビームとを着脱する構造の場合には、複雑な着脱構造を採用することはできない。従って、上記のような抜き差し構造のプラグとソケットの構造は本発明にとって好適な構造である。
【0012】
次に、上記第1の熱分析装置において、前記第1ビームが具備するプラグ又はソケットは前記透明部の視認可能領域内にマークを有し、前記第2ビームが具備するソケット又はプラグは前記第1ビームのマークに対応するマークを有することが望ましい。試料に関して熱分析測定を行う際には試料の温度を測定する必要がある。これに応えるため、第2ビームの内部に熱電対線が挿通され、プラグ又はソケットの内部にその熱電対線につながる端子が設けられ、プラグとソケットとを嵌合させたときに端子同士が接続して熱電対の電気的な導通がとられる、という構造が採用されることがある。このような構造が採用される場合には、プラグとソケットとの嵌合は両者の相対位置が正しい状態において行わなければならない。このことに関し、プラグとソケットにマークを設けるという本発明態様によれば、作業者は、第1ビーム側のマークと第2ビーム側のマークとを位置合わせすることにより、第1ビームと第2ビームとを常に正しい位置関係で接続することができる。
【0013】
次に、上記第1の熱分析装置において、ハウジングは、上面が開放された箱形状のハウジング基体と、該ハウジング基体の上面に固定された透明カバーとを有し、前記透明部は該透明カバーによって形成されることが望ましい。この構成によれば、透明部材をハウジング基体にネジ止め等によって固定するだけという簡単な作業だけで所望の透明部を形成することができる。なお、例えば、ハウジング基体はアルミニウムによって形成でき、透明カバーはアクリル系樹脂によって形成できる。
【0014】
次に、本発明に係る第2の熱分析装置は、
(1)試料を包囲して該試料の温度を制御する試料温度制御手段と、
(2)該試料温度制御手段に結合する位置と該試料温度制御手段から離れる位置との間を移動する天秤ユニットとを有し、
(3)該天秤ユニットは、
(a)第1ビームと第2ビームとを接続して成る天秤ビームと、
(b)前記第1ビームを傾斜揺動可能に支持する支点と、
(c)該支点及び前記第1ビームを格納し開口を有するハウジングとを有し、
(d)前記第2ビームは、前記開口を通して前記ハウジングの内部に挿入されて前記第1ビームに接続されて前記ハウジングの外部に延在し、接続側の端部と反対側の端部で試料を支持し、
(e)前記第1ビームと前記第2ビームとの接続部を視認可能領域とする透明部が前記ハウジングに設けられ、
(4)前記ハウジングの外部に延在する部分の前記第2ビームは、前記ハウジングが前記試料温度制御手段に結合したときに前記試料温度制御手段の内部に配置される
ことを特徴とする。
【0015】
この第2の熱分析装置は、天秤ユニットに加えて試料温度制御手段を有する熱分析装置である。試料温度制御手段は、例えば、試料が収容される保護管と、該保護管の外周周囲に設けられたヒータとによって構成される。天秤ユニットは試料温度制御手段に結合する位置とそれから離れる位置との間を移動する。このような移動構造を採用するのは、天秤ビームによって支持する試料を交換する際に、天秤ビームの試料支持部を試料温度制御手段の外部へ持ち出すためである。
【0016】
天秤ビームを備えた天秤ユニットを移動させるためには天秤ユニットを適宜の移動機構に載せる必要がある。天秤ユニットが移動機構に載せられている場合、その天秤ユニットに対して何等かの力がかかると、移動機構を損傷するおそれがある。天秤ビームの第2ビームを第1ビームに対して着脱する際に、従来のように、天秤ユニットのハウジングの上蓋をいちいちハウジング基体に対して着脱するとした場合には、その着脱作業を行っている間に移動機構に外力が加わってその移動機構に損傷が生じるおそれがある。これに対し、ハウジングに透明部を設けた本発明によれば、第2ビームの着脱の際にハウジングの上蓋を着脱する必要がないので、移動機構を損傷することがない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、透明部を通して天秤ビームを観察しながら第1ビームと第2ビームとの着脱作業を行うことができるので、第2ビームの交換又は着脱作業の際にハウジングの上蓋をいちいち取り外す必要がない。このため、第2ビームの着脱作業が非常に簡単であり、しかも、ハウジングの内部構造及び天秤機構を損傷することもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明に係る熱分析装置を実施形態に基づいて説明する。なお、本発明がこの実施形態に限定されないことはもちろんである。また、これ以降の説明では図面を参照するが、その図面では特徴的な部分を分かり易く示すために実際のものとは異なった比率で構成要素を示す場合がある。
【0019】
図1は本発明に係る熱分析装置の一例であるTG−DTA装置の全体の構造を示している。図1において、熱分析装置1は、本体カバー2と、その本体カバー2の上に取り付けられた3つのカバー3a、3b、3cと、それらのカバー3a〜3cの前面部であって本体カバー2の上部に取り付けられた操作部カバー4とを有する。熱分析測定を行うための機器はそれらのカバー2,3a〜3c,4によって囲まれた内部空間内に格納されている。各カバーは金属、合成樹脂等によって形成される。各カバーの連結は任意の連結手法、例えば、ネジ止め、係合部と被係合部との係合等によって行われる。
【0020】
図2は、図1に示す熱分析装置1から上カバー3a,3b,3c及び操作部カバー4を取り外した状態を示している。図3は、熱分析装置1の正面断面構造を示している。図4は、熱分析装置1の平面断面構造を示している。図2において、カバー2の内部に、天秤ユニット6、試料移動装置7、試料温度制御装置8が設けられている。
【0021】
試料温度制御装置8は、図3及び図4に示すように、保護管14、ヒータ12、冷却フィン9、送風ダクト10を有している。ヒータ12は試料S及び基準物質Rを加熱する加熱装置として作用する。冷却フィン9及び送風ダクト10は試料温度制御装置8を冷却する冷却装置として作用する。冷却フィン9は試料S等を冷却する作用をも成す。ヒータ12は、例えば、円筒形状のヒータボビンにヒータ線を巻き付けることによって形成されている。ヒータ12のヒータ線には図4に示すように温度制御回路13が接続されている。温度制御回路13は、自身に格納された温度制御プログラム又はホストコンピュータ(図示せず)に格納された温度制御プログラムに従ってヒータ12のヒータ線に供給する電流を制御する。
【0022】
保護管14は、例えばセラミックによって円筒形状に形成され、ヒータ12の内部に設けられている。保護管14は、主に、試料Sから発生するガスからヒータ12を保護する。保護管14の右側部分は大径の円筒部分となっており、その左側部分は小径の円筒部分となっている。ヒータ12の内部の加熱領域には保護管14の大径部分が納められている。保護管14はヒータ12の右側の外部へ延び出ており、その延び出た部分の保護管14の外周に冷却フィン9が設けられている。保護管14の右端面は開口となっている。
【0023】
天秤ユニット6は、金属製又は合成樹脂製で箱形状のハウジング基体16の上面に板形状の透明カバー17をネジ止めその他の任意の固定手法によって固着して成るハウジング18を有している。ハウジング基体16は、例えばアルミニウムによって形成されている。透明カバー17は例えば透光性の合成樹脂、例えばアクリル系樹脂によって形成されている。ハウジング基体16の左側側板の略中央には天秤ビームを挿通させるための開口19が設けられている。ハウジング18の開口19以外の部分は気密構造となっている。ハウジング18の上蓋を透明カバー17によって形成する理由は、後で詳しく説明するが、開口19の所で行われる測定者による天秤ビームの交換作業をハウジング18の上蓋を取り外すことなく行うことを可能にするためである。
【0024】
図5は、天秤ユニット6の平面構造を示している。図6は、天秤ユニット6の内部に設けられた天秤機構の側面構造及びその天秤機構に付随する電気回路を示している。図6において、2つの天秤機構のうちの奥側の一方は本来であれば手前側の天秤機構に隠れて見えないのであるが、図6ではそれらの天秤機構を便宜的に上下に並べて描いている。
【0025】
図5において、ハウジング18の内部に基準側天秤機構21a及び試料側天秤機構21bの2本の天秤機構が設けられている。これらの天秤機構21a,21bは、支点として機能するトーションワイヤ22a,22b(以下、単に支点22a,22bと呼ぶことがある)によって傾斜揺動可能に支持された天秤ビーム23a,23bを有している。これらの天秤ビーム23a,23bはトーションワイヤ22a,22bによって支持された第1ビーム24a,24bに第2ビーム25a,25bを連結することによって形成されている。
【0026】
第1ビーム24a,24bの左端にはL字形状のソケット部26a,26bが設けられ、第2ビーム25a,25bの右端にはプラグ部27a,27bが設けられ、プラグ部27a,27bを補足図(a)及び(b)に示すようにソケット部26a,26bへはめ込むことにより、第1ビーム24a,24bと第2ビーム25a,25bとが連結されて天秤ビーム23a,23bが形成されている。本実施形態では、試料側天秤ビーム23bが試料Sを支持するための試料支持手段を構成している。なお、補足図(a)及び(b)に符号29a,29bで示すマークはプラグ部27a,27bのソケット部26a,26bへの取り付け角度を間違えないようにするための確認用マークである。
【0027】
第2ビーム25a,25bの先端には試料皿(TG−DTAの場合は感熱板であり、以下、感熱板という)30a,30bが固定されている。基準側感熱板30a上には熱的に安定な基準物質Rが載置され、試料側感熱板30bには測定対象の試料Sが載置される。なお、基準物質Rも試料Sも所定形状の容器に入れられた状態で感熱板30a,30b上に載置されるものとする。詳しい図示は省略するが、感熱板30a,30bの底面には熱電対を構成する複数の熱電対線が溶接等によって固着されており、それらの熱電対線は第2ビーム25a,25bの内部を通ってプラグ部27a,27bまで延びて端子となっている。他方、ソケット部26a,26bにはDTA測定回路31が接続されている。DTA測定回路31から延びる入出力線はソケット部26a,26bまで延びて端子となっている。DTA測定回路31は図2においてカバー2によって囲まれる空間内の適所に設けられている。
【0028】
プラグ部27a,27bをソケット部26a,26bへ差し込むことにより、それらの内部の端子同士が電気的に接触し、感熱板30a,30bから延びる熱電対線がDTA測定回路31の入出力ポートに接続される。DTA測定回路31は、試料側感熱板30bの基準側感熱板30aに対する温度差の経時的な変化を検出する。この検出された温度差変化に基づいて試料Sに発生した熱的変化を知ることができる。なお、プラグ部27a,27bとソケット部26a,26bとの接続構造は特開平8−184545号公報に開示された構造を採用することができる。
【0029】
プラグ部27a,27bをソケット部26a,26bに着脱することによって天秤ビーム23a,23bの第1ビーム24a,24bと第2ビーム25a,25bとを連結したり、分離したりするという作業は、主に、第2ビーム25a,25bを交換するために行われる作業である。測定者がこの交換作業を行う際には、測定者はプラグ部及びソケット部を視認しながらその作業を行わなければならない。本実施形態では、ハウジング18の上蓋17を透明部材によって形成したので、測定者はその上蓋17をハウジング基体16から取り外さなくてもプラグ部及びソケット部を視認しながら第2ビーム25a,25bの交換作業を行うことができ、非常に便利である。
【0030】
図6において、基準側天秤ビーム23aの第1ビーム24aの支点22aに近い部分に第1電磁コイル33aが付設されている。この第1電磁コイル33aを貫通して磁石34aが設けられている。試料側天秤ビーム23bの第1ビーム24bの支点22bに近い部分に第2電磁コイル33b及び第3電磁コイル33cが付設されている。第2電磁コイル33bと第3電磁コイル33cは1つのコイルボビンの片側に1つずつ巻かれたり、1つのコイルボビンに互いに重ねて巻かれたりしている。第2電磁コイル33b及び第3電磁コイル33cを貫通して磁石34bが設けられている。磁石34a,34bは図5においてハウジング基体16に固定されている。
【0031】
図6において、第1電磁コイル33aと磁石34aは、支点22aを中心として天秤ビーム23aを傾斜移動させるビーム駆動装置28aとして作用する。また、第2電磁コイル33bと第3電磁コイル33cと磁石34bは、支点22bを中心として天秤ビーム23bを傾斜移動させるビーム駆動装置28bとして作用する。各第1ビーム24a,24bの途中にバランス分銅35a,35bがネジ止めによって位置可変に固定されている。これらのバランス分銅35a,35bのビーム上の位置を適宜に調節することにより、天秤ビーム23a,23bを初期の平衡状態に設定できる。
【0032】
各第1ビーム24a,24bの右端に傾き検知機構37a,37bが設けられている。傾き検知機構37a,37bは、第1ビーム24a,24bの後端に形成されたスリット38a,38bと、スリット38a,38bの一方の側に配置された光源39a,39bと、スリット38a,38bの他方の側に配置された受光素子40a,40bとを有する。光源39a,39bは例えばLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)によって構成できる。受光素子40a,40bは例えばフォトダイオードによって構成できる。
【0033】
傾き検知機構37a,37bとビーム駆動機構28a,28bとの間にはフィードバック制御回路42が設けられている。フィードバック制御回路42は、天秤ビーム23a.23bを水平状態に維持するための制御を行う。また、試料側のビーム駆動装置28b内の第3電磁コイル33cの通電下流側端子にTG測定回路43が接続されている。TG測定回路43は、第3電磁コイル33cを流れる電流値に基づいて試料Sに発生した重量変化を演算する。フィードバック制御回路42及びTG測定回路43は図2においてカバー2によって囲まれる空間内の適所に設けられている。
【0034】
フィードバック制御回路42及びTG測定回路43は特開平8−292142号公報に開示された回路構成と同じ回路構成とすることにする。以下、これらの回路について簡単に説明する。フィードバック制御回路42は、基準側天秤機構21a内の受光素子40aの出力端子に接続された基準物質側制御回路44を有する。基準物質制御回路44は例えばPID(Proportional Integral Derivative:比例・積分・微分)回路を用いて構成されており、その出力は2方向に並列に取り出され、一方の出力信号は増幅回路45aを介して基準側天秤機構21a側のビーム駆動装置28a内の第1電磁コイル33aの入力端子に伝送される。基準物質制御回路44の他方の出力信号はゲイン設定器46及び増幅回路45bを介して試料側天秤機構21b側のビーム駆動装置28b内の第2電磁コイル33bの入力端子に伝送される。
【0035】
フィードバック制御回路42は、さらに、試料側天秤機構21b内の受光素子40bの出力端子に接続された試料側制御回路47を有する。試料側制御回路47も例えばPID回路を用いて構成されており、その出力信号は増幅回路45cを介して試料側天秤機構21b側のビーム駆動装置28b内の第3電磁コイル33cの入力端子に伝送される。そして、第3電磁コイル33cの出力端子にTG測定回路43が接続されている。TG測定回路43は第3電磁コイル33cに投入された電流値に基づいて試料Sの重量変化を演算によって求める。
【0036】
基準側天秤機構21a内の天秤ビーム23aが何等かの原因によって傾くと、スリット38aの位置が変化するので受光素子40aの受光量が変化してその出力信号が変化する。基準物質側制御回路44はその出力信号の変化に基づいて補償信号を生成して出力し、その出力信号が増幅回路45aを介して基準側ビーム駆動装置28a内の第1電磁コイル33aへ供給される。こうして第1電磁コイル33aに電流が流れ、磁石34aとの相互作用により力が発生し、この力により天秤ビーム23aの傾きと反対方向に回転モーメントが発生してその傾きが補償され、基準側天秤ビーム23aが水平状態に維持される。
【0037】
一方、基準物質側制御回路44から出力された補償信号はゲイン設定器46及び増幅回路45bを介して試料側ビーム駆動装置28b内の第2電磁コイル33bへも供給される。これにより、試料側天秤ビーム23bに基準側天秤ビーム23aと同じ量の補償モーメントが付与される。これに加え、試料側天秤機構21bでは、天秤ビーム23bの傾きに応じて受光素子40bの出力信号に変化が発生し、この変化に応じて試料側制御回路47が補償信号を生成して出力し、その出力信号が増幅回路45cを介して試料側ビーム駆動装置28b内の第3電磁コイル33cへ供給される。以上により、試料側ビーム駆動装置28b内の第2電磁コイル33b及び第3電磁コイル33cに電流が流れ、磁石34bとの相互作用により力が発生し、この力により天秤ビーム23bの傾きと反対方向に回転モーメントが発生してその傾きが補償され、試料側天秤ビーム23bが水平状態に維持される。このとき、第3電磁コイル33cを流れた電流に基づいてTG測定回路43により試料Sの重量変化が演算によって求められる。
【0038】
本実施形態では、基準側天秤ビーム23aの傾きに対する補償信号を基準側天秤ビーム23aそれ自身にフィードバックすることに加え、試料側天秤ビーム23bへもフィードバックすることにしたので、2つの天秤ビームが試料Sの重量変化以外の影響を受けた場合に、その直後の過渡的な制御状態において不要なノイズが発生することを防ぐことができ、信頼性の高いTG測定が可能となっている。
【0039】
なお、図5において、支点22a,22b、傾き検知機構37a,37b、ビーム駆動機構28a,28b、及びそれら各部に対応する部分の天秤ビーム23a,23b(実質的には、第1ビーム24a,24bに相当する部分)は、ハウジング18内に格納されている。そして、天秤ビーム23a,23bのそれ以外の部分(実質的には、第2ビーム25a,25bに相当する部分)はハウジング18の側板に設けた開口19を通して外部へ延び出ている。
【0040】
本実施形態では、試料側天秤機構21bに支持された試料Sを交換する際、天秤ユニット6を移動させることにより試料Sを図4の保護管14の外部へ持ち出した後にその試料Sの交換を行うことにしている。以下、天秤ユニット6をそのように移動させるための構成について説明する。
【0041】
図3において、試料移動装置7がハウジング18の下部に設けられている。試料移動装置7は、フレーム50上に固定されたレール51と、レール51の上をスライド移動するスライダ52と、スライダ52の上に固定されたユニット基板53とを有する。ハウジング18のハウジング基体16は、その後部の歯車部材56の中心を通って上下方向に延びる軸線X0を中心として旋回移動可能にユニット基板53上に設けられている。ハウジング基体16をユニット基板53上にそのように旋回可能に設けるための構成は任意に選定できるが、例えば、ハウジング基体16と基板53とを軸線X0において軸部材によって回転可能に連結したり、ハウジング基体16を適宜のガイド部材によってガイドすることによって基板53上で軸線X0を中心として旋回可能としたりできる。
【0042】
図3において、試料移動装置7は回転速度を制御可能な電動モータ54、例えばパルスモータ、ステッピングモータを有している。モータ54の出力軸はスライダ52に駆動連結しており、モータ54が作動してその出力軸が回転するとスライダ52がレール51に沿ってスライド移動する。このようなスライド機構は、例えば、モータ54の出力軸にネジ軸を固定し、そのネジ軸に噛み合う雌ネジをスライダ52に設け、それらのネジを噛み合わせて成る機構によって構成できる。レール51は直線状に延びており、従って、スライダ52は矢印A−A’で示すように図の左右方向へ直線スライド移動する。スライダ52がスライド移動すると、それに固定されたハウジング18も一体にスライド移動する。
【0043】
図3及び図4はハウジング18が最もA’方向(図の左方向)へ移動した状態を示しており、この状態でハウジング18の左端側板が保護管14の右端面に当接している。この状態で保護管14の右側開口とハウジング基体16の左側側板の開口19とが連通している。図4に示すように、ハウジング18内の基準側天秤機構21aの天秤ビーム23aによって支持された基準物質R及び試料側天秤機構21bの天秤ビーム23bによって支持された試料Sは保護管14の内部、従ってヒータ12の内部に置かれている。
【0044】
このようにしてヒータ12の内部に置かれた試料Sの位置が測定位置Psである。また、試料Sをその測定位置Psに置いている試料側天秤ビーム23bの位置が天秤ビームの第1位置である。なお、これ以降の説明では、試料Sが測定位置Psに置かれているときの基準物質Rの位置を測定位置ということがある。また、基準物質Rをその測定位置に置いている基準側天秤ビーム23aの位置を天秤ビームの第1位置ということがある。
【0045】
保護管14の小径部の左端と天秤ユニット6のハウジング基体16の右側側壁との間には配管62が施され、その配管62の途中に排気装置63が設けられている。排気装置63は、例えば排気ポンプによって構成される。試料側天秤機構21b等が上記の第1位置にあるとき、ハウジング基体16の左側側壁と保護管14の右側開口は気密につながっている。この状態で排気装置63を作動することにより、保護管14及びハウジング18の内部を真空状態又は減圧状態に設定できる。保護管14及びハウジング18の内部を真空状態又は減圧状態に設定するのは、真空状態等の下での試料Sの熱特性を測定したい場合、及び目的のガス雰囲気に置換したい場合があるからである。
【0046】
本実施形態の熱分析装置1においては、天秤機構21a及び21bを上記の第1位置に置いた状態で、必要に応じて保護管14の内部を真空状態に設定した上で、基準物質R及び試料Sをヒータ12によって加熱することによって所定の昇温プログラムに従って昇温させながら、基準物質Rに対する試料Sの重量変化を測定する。
【0047】
図3において試料移動装置7が作動してハウジング18が矢印A方向(図の右方向)へ直線スライド移動すると、図7に示すように、ハウジング18が矢印A方向へ直線軌跡L0に沿って直線スライド移動してハウジング基体16の左側側板が保護管14の右端面から離れる。ハウジング18が第2ビーム25a,25bの長さ以上の距離だけ直線スライド移動すると、それらのビーム25a,25bの先端に支持された基準物質R及び試料Sが保護管14の外側、従って試料温度制御装置8の外側へ持ち出される。
【0048】
ハウジング基体16の底板の後端部の側面には歯車部材56が設けられている。この歯車部材56はその一部分がハウジング基体16の外側へ張り出している。また、歯車部材56はハウジング基体16に回転不能に固定されている。カバー2の内部の右隅部分にはラック57が位置不動に設けられている。このラック57の歯面は歯車部材56の歯面の直線移動軌跡上に設けられている。従って、ハウジング18が矢印A方向へ所定距離だけ直線スライド移動すると、歯車部材56の歯面がラック57の歯面に噛み合う。
【0049】
歯車部材56はハウジング基体16に相対回転不能に固定されており、さらにハウジング基体16の底板は軸線X0を中心として基板53に対して旋回可能であるので、歯車部材56とラック57とが噛み合った状態でハウジング18が矢印A方向(右方向)へさらに直線スライド移動すると、ハウジング18は図8に示すように、ユニット基板53に対して軸線X0を中心として矢印B方向(反時計方向)へ旋回スライド移動を行う。
【0050】
ハウジング18が図8の反時計方向へ所定角度だけ旋回スライド移動すると、ハウジング18内の基準側天秤機構21aの天秤ビーム23aによって支持された基準物質R及び試料側天秤機構21bの天秤ビーム23bによって支持された試料Sは保護管14の外部、従って試料温度制御装置8の外部に置かれる。より具体的には、試料Sは、図7に矢印L0で示す直線軌跡から横方向(図の下方向)へ外れた位置に置かれる。このようにして試料温度制御装置8の外部に置かれた試料Sの位置が離隔位置Prであり、試料Sをそのような離隔位置Prに置く試料側天秤ビーム23bの位置が天秤ビームの第2位置である。離隔位置Prは、場合によっては、直線軌跡L0それ自身の上に設定することもできるのであるが、本実施形態では離隔位置Prを直線軌跡L0から横方向へ外れた位置に設定している。
【0051】
試料側天秤ビーム23bが第2位置にあるとき、その試料側天秤ビーム23bによって支持されて離隔位置Prにある試料S、及び基準側天秤ビーム23aによって支持された基準物質Rは、操作部カバー4の中に入り込むようになっている。そして、操作部カバー4の上面であって基準物質R及び試料Sに対応する面に開口部59が設けられている。開口部59は単なる開口であっても構わないが、本実施形態では、開口部59に開閉シャッタ60が備え付けられている。この開閉シャッタ60は操作部カバー4の前面に設けられたスライドツマミ61に連動しており、ツマミ61を右側の閉位置に置くとシャッタ60が閉じ、ツマミ61を補足図(a)に示す左側の開位置に置くとシャッタ60が開く。試料側天秤ビーム23bが第2位置にあるときにシャッタ60を開くと、開口部59の下に基準物質R及び試料Sを視認することができる。この状態で、測定者はピンセット等といった交換器具を用いて試料Sを交換することができる。また、必要に応じて、基準物質Rを交換することもできる。
【0052】
以上の説明から、図3の試料移動装置7の働きにより、図4の基準側天秤機構21a及び試料側天秤機構21bを図4に示す第1位置から図8に示す第2位置までスライド移動できることが理解された。この後、試料側天秤機構21b等が図8の第2位置にある状態からユニット基板53を矢印A’方向へ直線スライド移動させると、歯車部材56とラック57の働きにより天秤ユニット6は矢印B’方向へ旋回スライド移動する。そして、試料Sが図7に示すように直線軌跡L0上に達すると、その後は、基板53の直線スライド移動に追従して天秤ユニット6が矢印A’方向へ直線スライド移動し、最終的に図4に示す第1位置へ到達する。この状態で、試料Sに対してTG−DTA測定を行うことができる。
【0053】
図3において、カバー2の内部空間の左端部領域に送風ファン64が設置されており、この送風ファン64の送気口が送風ダクト10につながっている。送風ファン64が作動すると、送風ダクト10からヒータ12へ送風が成され、ヒータ12が強制的に冷却される。冷却フィン9はその冷却を補助する。この冷却処理は、熱分析測定中に行われるものではなく、測定後に試料温度制御装置8を早く冷却するために行われるものである。ハウジング基体16の側面に対向して設けられたガイド部材65は、ハウジング18の矢印A−A’方向への直線スライド移動を案内するガイド部材である。
【0054】
以下、上記構成より成る熱分析装置1の動作を説明する。
まず、図8において、天秤ユニット6を図示の第2位置にセットする。この状態で試料側天秤ビーム23bの先端の感熱板30bは試料温度制御装置8の外部の位置である離隔位置Pr、すなわち操作部カバー4の開口部59の下方に置かれている。このとき、基準側天秤ビーム23aの先端の感熱板30aも開口部59の下方に置かれている。開口部59のシャッタ60をツマミ61を操作して開くと(補足図(a)参照)、その開口部59から感熱板30a,30bが視認できるので、測定者はそれらの感熱板30a,30bのそれぞれに基準物質R及び試料Sをピンセット等を用いて載置する。
【0055】
次に、シャッタ60を閉じて、所定のスタートボタンを押すと、図3の試料移動装置7のモータ54が作動して図8のユニット基板53が矢印A’方向へ直線スライド移動する。このとき、歯車部材56とラック57との噛み合いの働きにより、天秤ユニット6が基板53上で矢印B’方向へ旋回スライド移動して、図7に示すように試料Sが直線軌跡L0上に載る所まで移動する。
【0056】
その後、ユニット基板53の矢印A’方向への直線スライド移動が継続して行われ、天秤ユニット6が追従して矢印A’方向へ移動する。この移動により、基準側天秤ビーム23aに支持された基準物質R及び試料側天秤ビーム23bに支持された試料Sは保護管14の内部へ挿入される。そして、最終的に天秤ユニット6内の基準側天秤ビーム23a及び試料側天秤ビーム23bが図4に示す第1位置まで移動して停止する。この状態で、基準物質R及び試料Sが試料温度制御装置8のヒータ12の内部の測定位置Psに置かれる。
【0057】
次に、温度制御回路13によって所定の昇温プログラムに従ってヒータ12を発熱させて基準物質R及び試料Sを加熱する。この加熱時に試料Sの物性に変化が生じてその重量が変化すると、図6において、試料Sを支持する試料側天秤ビーム23bと、物性変化を生じない基準物質Rを支持する基準側天秤ビーム23aとの間で傾き角度に相違が生じ、この相違に基づいてフィードバック制御回路42及びTG測定回路43によって重量変化が測定される。また、同時に、図5のDTA測定回路31によって基準物質Rに対する試料Sの温度変化が測定される。これにより、TG−DTA線図の元になる測定データが得られる。
【0058】
測定が終了すると、図1の熱分析装置1の適所に設けた表示装置(図示せず)にその旨が表示され、それを見た測定者は試料Sを回収するための処理を指示するボタン(図示せず)を操作する。これにより、図3のモータ54が作動して天秤ユニット6が矢印A方向へ直線スライド移動する。天秤ユニット6が所定距離だけ移動すると、図7に示すように、基準物質R及び試料Sが保護管14の外部へ持ち出される。天秤ユニット6の直線スライド移動がさらに継続して行われると、図8に示すように歯車部材56とラック57との係合により天秤ユニット6が矢印B方向へ旋回スライド移動し、この移動により天秤ユニット6内の基準側天秤ビーム23a及び試料側天秤ビーム23bが図示の第2位置まで移動する。
【0059】
天秤ビーム23a,23bが第2位置に置かれると、それらによって支持された基準物質R及び試料Sは操作部カバー4の開口部59の下方位置、すなわち離隔位置Prに置かれる。このとき、熱分析装置1の所定位置に設けられた表示装置(図示せず)にその旨が表示され、その表示を見た測定者が試料Sの取り出し又は試料Sの交換を希望する場合には、ツマミ61を補足図(a)に矢印Cで示すように操作してシャッタ60を開く。測定者は開いたシャッタ60を通して試料Sを取り出したり、別の試料Sに交換する。
【0060】
図1に示すように操作部カバー4の下部に引出しテーブル67が設けられている。この引出しテーブル67は補足図(a)に示すように外部へ引き出すことができる。図8においてシャッタ60が開いている開口部59を通して試料Sや基準物質Rを出し入れする際、誤って試料S等を落下させてしまうことが考えられる。この場合、落下した試料S等は操作部カバー4の内部でテーブル67に受け取られるので、補足図(a)のようにテーブル67を外部へ引き出せば、落下した試料S等を簡単に回収できる。
【0061】
以上のように、本実施形態の熱分析装置1によれば、図4に示す試料Sを試料温度制御装置8の外部へ持ち出す際には、試料温度制御装置8を動かすのではなく、ハウジング18をスライド移動させることにより試料側天秤ビーム23bをスライド移動させ、この天秤ビーム23bのスライド移動により試料Sを試料温度制御装置8の外部位置である離隔位置Prへ搬送することにした。このため、試料温度制御装置8が重くなったり、試料温度制御装置8にガス搬送用チューブ等といった付帯機器が設けられる場合でも、試料Sの交換を行うための構造、本実施形態の場合は図3の試料移動装置7を非常に小型で且つ簡単に構築できる。
【0062】
図4において天秤ビーム23a,23bが図示の第1位置から矢印A方向への直線スライド移動を開始する際、又は図8において天秤ビーム23a,23bが図示の第2位置から矢印B’方向へ旋回スライド移動を開始する際、天秤ビーム23a,23bの移動速度は所定速度に向けて徐々に上げることが望ましい。つまり、いわゆるスロースタートを行うことが望ましい。また、天秤ビーム23a,23bをそれらの第1位置(図4)又は第2位置(図8)で停止させる際には、天秤ビーム23a,23bの移動速度は徐々に下げることが望ましい。つまり、いわゆるスローストップを行うことが望ましい。これらの速度制御により、天秤ビームの損傷及び変形や、天秤ビームからの試料等の落下を防止できる。これらの速度制御は、例えばモータの回転速度の制御によって行うことができる。
【0063】
図7において、矢印A方向への直線スライド移動を終えた天秤ビーム23a,23bが図8において矢印B方向へ旋回スライド移動を開始するとき、及び矢印B’方向への旋回スライド移動を終えた天秤ビーム23a,23bが矢印A’方向への直線スライド移動を開始するとき、天秤ビーム23a,23bの移動速度は所定の速度に向けて徐々に上げることが望ましい。これらの速度制御により、天秤ビームの損傷及び変形や、天秤ビームからの試料等の落下を防止できる。これらの速度制御も、例えばモータの回転速度の制御によって行うことができる。また、歯車部材56とラック57の歯形形状に変化を持たせることによってそれらの速度制御を行うこともできる。
【0064】
図1に示すように、熱分析測定を行うための機構の全ては、カバー2,カバー3a〜3c,及び操作部カバー4によって囲まれる空間内に設置されるので、天秤ビーム等が大気雰囲気に曝されることがなく、正確な重量測定を行うことができる。また、図8に示したように試料Sの離隔位置Prに対応して操作部カバー4に開口部59を設けたので、この開口部59を通して試料S等の出し入れを容易に行うことができる。
【0065】
本実施形態では、図8に示すように、試料Sの直線軌跡L0から横方向(図の下方向)へ外れた位置を試料Sの離隔位置Prとした。この構成により、仮に試料Sを天秤ビーム23bから落とした場合でも、その試料Sが熱分析装置1内の主要な機構部分に当たってその機構部分に損傷を与えることを防止できる。また、試料Sの直線軌跡L0から横方向へ外れた位置を試料Sの離隔位置Prとすることにより、試料Sを測定者の近くまで持ち運ぶことが可能となり、試料交換を簡単に行うことが可能となった。
【0066】
図5において、天秤ビーム23a,23bを構成する第2ビーム25a,25bは第1ビーム24a,24bに対して着脱可能である。この着脱は補足図(b)に示すように、第2ビーム25a,25b側のプラグ部27a,27bを第1ビーム24a,24b側のソケット部267a,26bへ装着したり、取り外したりすることによって行われる。従来の熱分析装置においては、ハウジング18が不透明な金属材料又は不透明な樹脂材料によって形成されていたため、上記のようなプラグ部とソケット部の着脱を行う際には、ハウジング18の上蓋を取り外してハウジング18の内部を視認できるように開放した状態でその着脱を行っていた。この上蓋の着脱作業は非常に面倒であった。これに対し、本実施形態では、ハウジング18の上蓋17を透明な材料によって形成したので、天秤ビーム23a,23bの接続部分を上蓋17を通して視認できるようになった。このため、第1ビーム24a,24bと第2ビーム25a,25bの着脱を上蓋17を取り外すことなく行うことができるようになり、第2ビーム25a,25bの着脱を非常に容易に行うことができるようになった。
【0067】
本実施形態によれば、図5において、透明カバー17を通して天秤ビーム23a,23bを観察しながら第1ビーム24a,24bと第2ビーム25s,25bとの着脱作業を行うことができるので、第2ビーム25a,25bの交換又は着脱作業の際にハウジング18の上蓋をいちいち取り外す必要がない。このため、第2ビーム25a,25bの着脱作業が非常に簡単であり、しかも、ハウジング18の内部構造及び天秤機構21a,21bを損傷することもない。
【0068】
(その他の実施形態)
上記の実施形態では、図5に示したように、ハウジング18の上面に透明カバー17を固着することにより、ハウジング18の上面の全面を透明部とした。これに代えて、ハウジング18の上面側板の一部分を透明部とすることもできる。もちろん、この場合の透明部は天秤ビーム23a,23bにおける第1ビーム24a,24bと第2ビーム25a,25bとの接続部分を視認可能領域とする透明部である。
【0069】
なお、透明カバー17をアクリル系樹脂によって形成する場合には、視認角度(作業者が見る角度)によっては反射光が発生してハウジング18の内部の視認が損なわれるおそれがある。この光反射現象を回避するため、天秤ビームの接続部分の近傍に対応する部分の透明カバー17の表面又は裏面にAR(Anti-Reflection:反射防止)フィルムを貼ったり、ARコートを施したりすることが望ましい。
【0070】
また、必要があれば、天秤ビームの接続部分に対応する部分の透明カバー17をレンズ形状に成形加工したり、当該部分にレンズ(例えば、フレネルレンズ)を貼付することができる。こうすれば、天秤ビームの接続部分を拡大状態で視認できるようになり、天秤ビームの着脱作業をより正確に行うことができる。
【0071】
また、必要があれば、ハウジング18の内部又は外部の適所に照明装置を設けることができる。これにより、熱分析装置が置かれた場所が暗い状態であっても、照明装置を点灯することにより天秤ビームの着脱作業を正確に行うことができる。特に、ハウジング18の上面の一部分に透明部を設けた場合には、この照明方法が有利である。
【0072】
上記実施形態では、図8に示したように、試料Sの直線軌跡L0から横方向へ外れた位置を試料Sの離隔位置Prとした。これに代えて、直線軌跡L0上の適宜の位置を試料Sの隔離位置Prとすることもできる。この場合でも、試料温度制御装置8を動かすことなく、天秤ビーム23bの方を動かすことによって試料交換を可能にする、という本発明の目的を達成できる。
【0073】
上記実施形態では、図5に示すように、試料Sのための天秤機構21bに加えて基準物質Rのための天秤機構21aを用いることにした。しかしながら、本発明は、基準物質Rのための天秤機構21aを用いることなく、試料Sのための1つの天秤機構21bだけを用いる構成のTG装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明に係る熱分析装置の一実施形態の全体の外観を示す斜視図である。
【図2】図1に示す熱分析装置の上カバーを外した状態を示す斜視図である。
【図3】図2に示す熱分析装置の正面断面図である。
【図4】図2に示す熱分析装置の平面断面図である。
【図5】図4に示す熱分析装置の要部である天秤ユニットを示す平面断面図である。
【図6】図5に示す天秤ユニットの側面構造及び付随する電気回路を示す図である。
【図7】図4に示す構造の動作状態を示す図である。
【図8】図4に示す構造の他の動作状態を示す図である。
【符号の説明】
【0075】
1.熱分析装置、 2.本体カバー、 3a〜3c.上カバー、 4.操作部カバー、
6.天秤ユニット、 7.試料移動装置、 8.試料温度制御装置、 9.冷却フィン、
10.送風ダクト、 12.ヒータ、 14.保護管、 16.ハウジング基体、
17.透明カバー、 18.ハウジング、 19.開口、 21a.基準側天秤機構、
21b.試料側天秤機構、 22a,22b.トーションワイヤ(支点)、
23a.基準側天秤ビーム、 23b.試料側天秤ビーム、
24a,24b.第1ビーム、 25a,25b.第2ビーム、
26a,26b.ソケット部、 27a.27b.プラグ部、
28a,28b.ビーム駆動装置、 29a,29b.マーク、
30a,30b.感熱板、 33a.第1電磁コイル、 33b.第2電磁コイル、
33c.第3電磁コイル、 34a,34b.磁石、 35a,35b.バランス分銅、
37a,37b.傾き検知機構、 38a,38b.スリット、
39a,39b.光源、 40a,40b.受光素子、
42.フィードバック制御回路、 50.フレーム、 51.レール、
52.スライダ、 53.ユニット基板、 54.電動モータ、 56.歯車部材、
57.ラック、 59.開口部、 60.開閉シャッタ、 61.スライドツマミ、
62.配管、 63.排気装置、 64.送風ファン、 65.ガイド部材、
67.引出しテーブル、 R.基準物質、 S.試料、 L0.直線軌跡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ビームと第2ビームとを接続して成る天秤ビームと、
前記第1ビームを傾斜揺動可能に支持する支点と、
該支点及び前記第1ビームを格納し開口を有するハウジングとを有し、
前記第2ビームは、前記開口を通して前記ハウジングの内部に挿入されて前記第1ビームに接続されて前記ハウジングの外部に延在し、接続側の端部と反対側の端部で試料を支持し、
前記第1ビームと前記第2ビームとの接続部を視認可能領域とする透明部を前記ハウジングに設けた
ことを特徴とする熱分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の熱分析装置において、前記第1ビーム及び前記第2ビームのいずれか一方は挿入されるプラグを有し、それらの他方は挿入を受けるソケットを有し、前記第1ビームと前記第2ビームはプラグとソケットとの嵌合によって互いに接続されることを特徴とする熱分析装置。
【請求項3】
請求項2記載の熱分析装置において、前記第1ビームが具備するプラグ又はソケットは前記透明部の視認可能領域内にマークを有し、前記第2ビームが具備するソケット又はプラグは前記第1ビームのマークに対応するマークを有することを特徴とする熱分析装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の熱分析装置において、前記ハウジングは上面が開放された箱形状のハウジング基体と、該ハウジング基体の上面に固定された透明カバーとを有し、前記透明部は該透明カバーによって形成されることを特徴とする熱分析装置。
【請求項5】
試料を包囲して該試料の温度を制御する試料温度制御手段と、
該試料温度制御手段に結合する位置と該試料温度制御手段から離れる位置との間を移動する天秤ユニットとを有し、
前記天秤ユニットは、
第1ビームと第2ビームとを接続して成る天秤ビームと、
前記第1ビームを傾斜揺動可能に支持する支点と、
該支点及び前記第1ビームを格納し開口を有するハウジングとを有し、
前記第2ビームは、前記開口を通して前記ハウジングの内部に挿入されて前記第1ビームに接続されて前記ハウジングの外部に延在し、接続側の端部と反対側の端部で試料を支持し、
前記第1ビームと前記第2ビームとの接続部を視認可能領域とする透明部が前記ハウジングに設けられ、
前記ハウジングの外部に延在する部分の前記第2ビームは、前記ハウジングが前記試料温度制御手段に結合したときに前記試料温度制御手段の内部に配置される
ことを特徴とする熱分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−82861(P2008−82861A)
【公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−262643(P2006−262643)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】