説明

熱収縮性フィルム

【課題】特定の波長の光を高い選択性で反射させ、発色性に優れ、玉虫色の金属光沢を有し、フィルムに施される絵柄印刷を美麗なものとすることができる熱収縮性フィルムを提供する。
【解決手段】ガラス転移温度が50〜70℃のポリエステルからなる厚み0.05〜0.5μmの第1の層と、第1の層を構成するポリエステルとは組成を異にする熱可塑性樹脂からなる厚み0.05〜0.5μmの第2の層と、を交互に11層以上積層してなり、フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計が50〜95%であり、100℃の熱風中に5分間放置したときの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向の少なくともいずれか一方において30%以上であることを特徴とする熱収縮性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステルからなる熱収縮性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
飲料容器として、ポリエステルフィルムを金属板に貼り合わせて作られた缶や、ポリエステルフィルムをシュリンクラベルとして用いたPET(ポリエチレンテレフタレート)ボトルが用いられている。飲料容器には、近年ますます美麗な意匠が求められている。
【0003】
シュリンクラベル用のフィルムには、熱収縮特性、接着性、ハンドリング性、耐薬品性などの改良が求められる。従来、種々の改良はなされているものの包装材料としての意匠性を向上させるために、印刷柄による差別化が図られてきた。
【0004】
他方、多層積層フィルムは、相対的に低い屈折率の層と高い屈折率の層とを交互に多層積層することで、層間の構造的な光干渉によって特定の波長の光を選択的に反射し、他の波長の光を透過する特性を得ることができる。この多層積層フィルムは、染料を使用しないで発色させることができ、退色することがなく、意匠性に優れたフィルムを得ることができる。
【0005】
【特許文献1】特表平9−506837号公報
【特許文献2】特表平11−511322号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の多層積層フィルムはシュリンクラベルとして満足に使用できる特性ではなかった。本発明の目的は、特定の波長の光を高い選択性で反射させ、発色性に優れ、玉虫色の金属光沢を有し、フィルムに施される絵柄印刷を美麗なものとすることができる熱収縮性フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、ガラス転移温度が50〜70℃のポリエステルからなる厚み0.05〜0.5μmの第1の層と、第1の層を構成するポリエステルとは組成を異にする熱可塑性樹脂からなる厚み0.05〜0.5μmの第2の層と、を交互に11層以上積層してなり、フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計が50〜95%であり、100℃の熱風中に5分間放置したときの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向の少なくともいずれか一方において30%以上であることを特徴とする熱収縮性フィルムである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、特定の波長の光を高い選択性で反射させ、発色性に優れ、玉虫色の金属光沢を有し、フィルムに施される絵柄印刷を美麗なものとすることができる熱収縮性フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
<第1の層>
本発明における第1の層は、ガラス転移温度が50〜70℃のポリエステルからなる。ガラス転移温度が50℃未満ではシュリンクラベルとしての十分な強度が得らず、70℃を超えるとシュリンクラベルとしての十分な収縮特性が得られない。
【0010】
第1の層のポリエステルとしては、結晶化を抑制し熱収縮特性を満足する観点から、ポリエチレンテレフタレートにジカルボン酸成分またはジオール成分を共重合したポリエステルが好ましい。共重合成分のジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸といった芳香族カルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸といった脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を用いることができ、ジオール成分としては、ブタンジオール、ヘキサンジオールといった脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを用いることができる。
【0011】
<第2の層>
第2の層は、第1の層を構成するポリエステルとは組成を異にする熱可塑性樹脂からなる。ここで、「組成を異にする」とは、ポリマーを構成する繰り返し単位の主たる成分が異なるか、少なくとも共重合成分として用いられる従たる成分の種類か量が異なることを意味する。他方、ポリマーを構成する成分の組成が同じであって滑剤等ポリマー物性に影響を与えない成分のみが異なる場合は、ここでは「組成を異にする」とはいわない。
【0012】
熱可塑性樹脂は、第1の層との積層に必要な相溶性を確保する観点からポリエステルが好ましく、良好な収縮特性を得る観点から結晶性ポリエステルにジカルボン酸成分またはジオール成分の共重合成分を共重合した共重合ポリエステルがさらに好ましい。
【0013】
結晶性ポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートを用いることができる。共重合成分としては、ジカルボン酸成分として、イソフタル酸、2,6―ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸といった芳香族カルボン酸;アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸といった脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸の如き脂環族ジカルボン酸を用いることができる。ジオール成分として、ブタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールといった脂肪族ジオール;シクロヘキサンジメタノールの如き脂環族ジオールを用いることができる。
【0014】
この共重合ポリエステルは、良好な延伸性を得る観点から、第1の層のポリエステルのガラス転移温度(Tg1)と第2の層のポリエステルのガラス転移温度(Tg2)との差(Tg1−Tg2)が下記式を満足することが好ましい。
−20℃≦(Tg1−Tg2)≦50℃
上記(Tg1−Tg2)が−20℃未満であると第1の層の延伸に追従して第2の層が配向して屈折率が大きくなるために屈折率差が小さくなり発色が得られにくく好ましくなく、50℃を超えるとガラス転移温度差が大きすぎて均一な延伸が難しく好ましくない。
【0015】
また、第2の層のポリエステルの融点は、第1の層のポリエステルの融点よりも20〜50℃低いことが好ましい。融点の差が20℃未満であると得られる多層延伸フィルムの層間に十分な屈折率差を付与することが困難であり好ましくない。融点の差が50℃を超えると2つの層の密着性を維持することが難しくなり好ましくない。
【0016】
<フィルム特性>
本発明の熱収縮性フィルムは、100℃の熱風中に5分間放置したときの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向の少なくともいずれか一方において30%以上であることが必要である。30%未満であるとシュリンクラベルとして用いたときにボトルへの十分な密着性を示さない。
【0017】
本発明の熱収縮性フィルムは、フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計が50〜95%である。50%未満であると所望の収縮率を得ることができず、95%を超えると積層構造がみだれ発色が十分に発現しない。
【0018】
光の干渉による発色性を効果的に発現するために、各層の厚みは0.05〜0.5μmとし、第1の層と第2の層とを交互に11層以上積層する。各層の厚みをこの範囲とすることにより、可視光での発色を得ることができる。各層の厚みが0.05μm未満では反射波長が紫外線領域になるために発色せず、0.5μmを超えると赤外線領域の反射となるために発色しない。
【0019】
この構成をとる本発明の熱収縮性フィルムは、波長350〜2000nmの光に対する反射率曲線において反射率のベースラインよりも20%以上高い最大反射率ピークが観察される。
なお、光学干渉機能に寄与しない厚膜層を別途設けてもよい。その場合には、厚膜層の厚みは0.5μmを超えてよい。
【0020】
<製造方法>
つぎに、本発明の熱収縮性フィルムの製造方法について、一例を詳述する。
まず、第1の押出し機より供給された第1の層のポリエステルと、第2の押出し機より供給された第1の層の熱可塑性樹脂とを、溶融状態で交互に少なくとも11層を重ね合わせた状態を形成し、ダイを用いてこれを回転するドラム上にキャストすることにより、多層未延伸フィルム(シート状物とする工程)とする。得られた多層未延伸フィルムを、製膜方向またはそれに直交する方向に少なくとも1軸方向(フィルム面に沿った方向)に延伸する。このときの延伸温度は、好ましくは第1の層のポリエステルのガラス転移点の温度(Tg)〜Tg+50℃の範囲とする。面積倍率は好ましくは2〜10倍とする。延伸倍率が大きい程、第1の層と第2の層の個々の層における面方向のバラツキが延伸による薄層化により小さくなり、多層延伸フィルムの光干渉が面方向に均一になるので好ましい。この延伸工程でプライマー層などを塗設してもよい。この場合、例えば縦延伸後にフィルムの片面または両面に水分散性の塗剤を塗布し、横延伸の前に乾燥してフィルムに皮膜を形成させるとよい。塗工方法は、例えばリバースロールコーターによる塗工を用いることができる。
なお、原料に用いるポリエステルのガラス転移温度および融点は、用いる共重合成分の量を変更することによって適宜調整することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例に基づき本発明を説明する。
各特性値ならびに評価法は下記の方法によって測定、評価した。
【0022】
(ア)熱収縮率
幅10mm、長さ250mmのフィルムサンプルに標線間隔を200mmの標線を付して100℃の熱風中に5分間放置した。放置前と放置後での標線間の長さを測定し、寸法変化の原寸法に対する割合としてフィルムの熱収縮率(%)を算出した。そして、MDとTD方向の収縮率の平均が30%以上を○、20%以上30%未満を△、20%未満を×として評価した。
【0023】
(イ)フィルム外観
上記熱処理による収縮後に白化等の外観不良を生じたものを×、良好なものを○として評価した。
【0024】
(ウ)最大反射率波長、最大反射率ピーク高さ
分光光度計(島津製作所製、MPC−3100)を用い、波長350nmから2000nmの範囲にわたり、アルミ蒸着したミラーとの相対鏡面反射率を測定した。波長ごとに測定された反射率の中で最大のものを最大反射率としその波長を最大反射率波長とした。最大反射率とベースラインと差を最大反射率ピーク高さとした。
【0025】
(エ)収縮フィルムとしての評価
フィルムを収縮ラベルとして円筒形にした後、PETボトルに被せ、設定温度75℃のシュリンクトンネルを通過させて収縮させた。トンネル通過後、フィルムがボトルに十分に密着しているかどうかを目視で判定し、密着の良好なものをO.良好でないものを×として評価した。
また、フィルムの収縮斑を目視で判定し、上端部または下端部が収縮後斜めになったり歪んでいないものを○、斜めになったりゆがんでいるものを×として評価した。
総合評価として、上記2項目を満足し、さらに収縮後のフィルムに白化、シワ等が全く見られないものをO、そうでないものを×として評価した。
【0026】
(オ)層間の密着性
サンプルフィルム(10mmx50mm)の両面に24mm幅の粘着テープ(ニチバン社製、商品名:セロテープ(登録商標))を100mm貼り付け、180度の剥離角度で剥がした後、剥離面を観察した。これを各10サンプルについて行い、層間剥離の生じた回数を算出した。
【0027】
(カ)色相の斑
A4サイズのサンプルフィルムを10枚用意し、それぞれのサンプルフィルムを白色の普通紙に重ね、30ルクスの照明の下、目視にてサンプルフィルム内の透過色の色相の斑を評価した。また、A4サイズのサンプルフィルムを10枚用意し、それぞれのサンプルフィルムの裏面を黒色のスプレーにて着色した後、30ルクスの照明の下、目視にてサンプルフィルム内の反射色の色相の斑を評価した。
【0028】
[実施例1]
第1の層のポリエステルとして、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.65のポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体(イソフタル酸成分含有量15モル%、「IA15PET」という)を用意し、第2の層のポリエステルとして、0.65のポリエチレンテレフタレート−セバシン酸共重合体(セバシン酸成分含有量15モル%、「SA15PET」という)を用意し、このポリエステルのペレットを攪拌しながら110℃で10時間加熱し表面を結晶化させたものを用意した。
【0029】
そして、第1の層のポリエステルおよび第2の層のポリエステルを、それぞれ170℃で3時間乾燥後、第1、2の押出し機に供給し、290℃まで加熱して溶融状態とし、第1の層のポリエステルを201層、第2の層のポリエステルを200層に分岐させた後、第1の層と第2の層が交互に積層するような多層フィードブロック装置を使用して、積層状態の溶融体とし、その積層状態を保持したまま、キャスティングドラム上にキャストして、押出量の比を第1の層のポリエステルを80%、第2の層のポリエステルを20%に調整し、第1の層と第2の層が交互に積層された総数401層の未延伸多層積層フィルムを作成した。この多層未延伸フィルムを85℃の温度で製膜方向に4.0倍延伸し、70℃で3秒間熱固定処理を行い、熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムの特性を前述の方法で評価した。結果を表1および表2にまとめる。
【0030】
[実施例2]
第1の層のポリエステルを、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.65のポリエチレンテレフタレート−シクロヘキンジメタノール共重合体(シクロヘキンジメタノール成分含有量20モル%、「CHDM20PET」という)とした以外は実施例1と同様にして、熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムの特性を前述の方法で評価した。結果を表1および表2にまとめる。
【0031】
[実施例3]
第1の層のポリエステルを、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.65のポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体(イソフタル酸成分含有量20モル%、「IA20PET」という)とした以外は実施例1と同様にして熱収縮性フィルムを得た。得られたフィルムの特性を前述の方法で評価した。結果を表1および表2にまとめる。
【0032】
[比較例1]
押出量の比を第1の層用ポリエステルを99%、第2の層のポリエステルを1%に調整した以外は実施例1と同様にして熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムの特性を前述の方法で評価した。結果を表1および表2にまとめる。
【0033】
[比較例2]
第1の層のポリエステルを、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.65のポリエチレン−2,6−ナフタレート(「PEN」という)とし、第2の層のポリエステルを、固有粘度(オルソクロロフェノール、35℃)0.65のポリエチレンテレフタレート−イソフタレート共重合体(イソフタル酸成分含有量15モル%、「IA15PET」という)とし、縦方向延伸時の予熱温度を115℃とした以外は実施例1と同様にして熱収縮性フィルムを得た。得られた熱収縮性フィルムの特性を前述の方法で評価した。結果を表1および表2にまとめる。
【0034】
【表1】

【0035】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の熱収縮性フィルムは、屈折率の高い層と低い層を規則的に配置させ、層間の構造的な干渉によって、光を選択的に反射させることにより、フィルムに施される絵柄印刷を美麗なものとすることができる。そのため、PETボトルなどの容器の外面を覆う包装用フィルムとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の熱収縮性フィルムの一例についての光の波長に対する反射率のグラフである。
【符号の説明】
【0038】
1 最大反射率と反射率のベースラインの差
2 反射率のベースライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が50〜70℃のポリエステルからなる厚み0.05〜0.5μmの第1の層と、第1の層を構成するポリエステルとは組成を異にする熱可塑性樹脂からなる厚み0.05〜0.5μmの第2の層と、を交互に11層以上積層してなり、フィルム厚みに対する第1の層の層厚みの総計が50〜95%であり、100℃の熱風中に5分間放置したときの熱収縮率がフィルム長手方向および幅方向の少なくともいずれか一方において30%以上であることを特徴とする熱収縮性フィルム。
【請求項2】
第2の層の熱可塑性樹脂がポリエステルであり、第1の層のポリエステルのガラス転移温度(Tg1)と第2の層のポリエステルのガラス転移温度(Tg2)との差(Tg1−Tg2)が下記式を満足する、請求項1記載の熱収縮性フィルム。
−20℃≦(Tg1−Tg2)≦50℃
【請求項3】
波長350〜2000nmの光に対する反射率曲線において反射率のベースラインよりも20%以上高い最大反射率ピークが観察される、請求項1記載の熱収縮性フィルム。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−237434(P2007−237434A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−59389(P2006−59389)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】