説明

熱可塑性エラストマー組成物

【課題】 エチレン−α−オレフィン共重合体が本来有する柔軟性、弾性回復性等を保持し、溶融成形性に優れ、ネッキングや割れ、膠着等を生ずることなく、外観、耐ブロッキング性、強度、伸長後の低残留歪み性等に優れる熱可塑性エラストマー組成物及びそれよりなる成形品の提供。
【解決手段】 エチレン−α−オレフィン共重合体(a)と、下記の要件(i)〜(iv)を有する熱可塑性ポリウレタン(b);
(i)数平均分子量1,500〜5,000のポリエステルジオール、有機ジイソシアネート及び鎖伸長剤の反応により得られる熱可塑性ポリウレタンである;
(ii)窒素原子含有量が2.6重量%以上である;
(iii)DSCによる吸熱ピークが200〜220℃の温度範囲内にある;
(iv)DSCによる200〜220℃の温度範囲内での結晶化エンタルピー(ΔH)が2〜15J/gである;
を、(a):(b)=70:30〜90:10の重量比で含有する熱可塑性エラストマー組成物、及びそれよりなる成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−α−オレフィン共重合体と特定の熱可塑性ポリウレタンから主としてなる熱可塑性エラストマー組成物およびそれよりなる成形品に関する。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、溶融成形性に優れていて、例えばTダイ型押出成形機を使用してフィルムやシートを製造したときに、フィルムやシートの幅が狭くなるネッキング現象や割れなどの発生が防止されて製品を高い歩留りで得ることができ、しかも膠着しにくくて耐ブロッキング性に優れているため、多量の滑剤や離型紙を用いなくても成形品のブロッキングを防止して、例えばフィルムやシートの巻き取りおよび巻き戻しなどを円滑に行うことができる。その上、本発明の熱可塑性エラストマー組成物ではエチレン−α−オレフィン共重合体と該特定の熱可塑性ポリウレタンが均一に分散しているので、それより得られるフィルムやシートなどの成形品は、凹凸やブツ(フィッシュアイ)などのない平滑な優れた外観、適度な強度を有し、しかも弾性回復性に優れていて伸長後の残留歪みが小さく、伸縮性素材などとして有効に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマー組成物は、弾性を有しているにも拘わらず、天然ゴムやジエン系ゴムにおけるような加硫処理が不要であり、しかも熱可塑性樹脂と同様に溶融成形や熱加工が可能で成形加工性に優れていることから、それらの特性を活かして、近年、自動車部品、家電製品用部品、玩具、スポーツ用品、日用品などの広い分野で用いられるようになっている。
熱可塑性エラストマー組成物としては、従来から種々のものが提案されており、そのなかに、例えば熱可塑性ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、スチレン系重合体、ポリオレフィンなどの熱可塑性樹脂に対してエチレン−α−オレフィン共重合体を配合した熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー組成物が知られている。例えば、特許文献1には、低温での耐衝撃性や透明性の改善を目的として、熱可塑性ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、スチレン系重合体、ポリオレフィンなどの熱可塑材に対して、特定のメルトフロー比、分子量分布(Mw/Mn)および臨界剪断温度を有するエチレン−α−オレフィン共重合体を配合した熱可塑性オレフィン系ポリマー組成物が記載されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載されているものをも含めて、前記した従来の熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー組成物では、エチレン−α−オレフィン共重合体が本来有する柔軟性などの特性が損なわれている場合が多い。しかも、従来の熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー組成物を用いてTダイ型押出成形機を使用してフィルムやシートなどを製造した際に、フィルムやシートの幅が狭くなるネッキング現象、フィルムやシートの割れなどを生じ易く、そのために厚み斑のある両端をトリミングして得られるフィルムやシート製品では幅が極めて狭くなったり、割れのある不良品となり、製品の歩留りが低くなるという問題がある。その上、そこで得られる成形品は膠着性が強く、膠着(ブロッキング)を防止するために、多量の滑剤を添加したり、高価な離型紙を併用してフィルムやシートの巻き取りを行う必要があり、滑剤の使用に伴う成形品表面への滑剤の滲み出しの問題、離型紙の併用に伴う繁雑な手間およびコストの上昇などの問題がある。
【特許文献1】特表平8−501343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、エチレン−α−オレフィン共重合体が本来有している優れた特性、特に柔軟性、弾性回復性を有し、しかも溶融成形性に優れていて、ネッキング現象や割れなどを生ずることなく、外観や物性に優れるフィルムやシートなどの成形品を高い歩留りで生産性良く製造することのできる、エチレン−α−オレフィン共重合体をベースとする熱可塑性エラストマー組成物を提供することである。
そして、本発明の目的は、前記した特性と併せて、膠着がなく耐ブロッキング性に優れていて、多量の滑剤を配合しなくても、或いは離型紙を併用しなくても、フィルムやシートなどの成形品を円滑に巻き取ったり巻き戻すことのできる、エチレン−α−オレフィン共重合体をベースとする熱可塑性エラストマー組成物を提供することである。
さらに、本発明の目的は、上記した優れた特性と共に、適度な強度を有し、しかも弾性回復性に優れていて、伸長後の残留歪みの小さい、フィルムやシートなどの成形品を円滑に製造することのできる、エチレン−α−オレフィン共重合体をベースとする熱可塑性エラストマー組成物を提供することである。
そして、本発明は、前記した熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成すべく本発明者が検討を重ねた結果、上記した特許文献1などに記載されているような従来の熱可塑性ポリオレフィン系エラストマー組成物では、エチレン−α−オレフィン共重合体と併用する熱可塑性樹脂として、結晶の融解温度の低い熱可塑性ポリウレタンやポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂が用いられていること、それに起因して、フィルムやシートなどの製造時における上記したネッキング現象や割れの問題、成形品におけるブロッキング(膠着)の問題などが発生し易くなり、しかも得られる成形品の伸長後の回復応力が小さくて伸長後の残留歪みが大きくなることが判明した。
【0006】
そこで、本発明者は、本発明者の見出した上記の知見を踏まえて更に研究を行ってきた。その結果、エチレン−α−オレフィン共重合体に対して、特定の物性を有するポリエステル系熱可塑性ポリウレタン、すなわち特定の窒素原子含有量、結晶融解温度および結晶化エンタルピー(ΔH)を有するポリエステル系熱可塑性ポリウレタンを、特定の割合で配合すると、それにより得られる熱可塑性エラストマー組成物は、Tダイ型押出成形機等を用いてフィルムやシートなどを製造した時に、フィルムやシートの幅が狭くなるネッキング現象や、フィルムやシートの割れが防止されること、しかも凹凸やブツ(フィッシュアイ)などがなくて外観に優れたものになること、さらに該熱可塑性エラストマー組成物およびそれからなる成形品は膠着がなく耐ブロッキング性に優れていて多量の滑剤や離型紙を使用しなくても円滑に巻き取ったり巻き戻せること、その上該熱可塑性エラストマー組成物より得られる成形品は、適度な強度を有し、しかも弾性回復性に優れていて伸長後の残留歪みが小さいことを見出し、それらの種々の知見に基づいて本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、(1) エチレン−α−オレフィン共重合体(a)および熱可塑性ポリウレタン(b)を、エチレン−α−オレフィン共重合体(a):熱可塑性ポリウレタン(b)=70:30〜90:10の重量比で含有する熱可塑性エラストマー組成物であって;且つ
(2) 前記の熱可塑性ポリウレタン(b)が、下記の要件(i)〜(iv);
(i)数平均分子量が1,500〜5,000のポリエステルジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の反応により得られる熱可塑性ポリウレタンである;
(ii)窒素原子含有量が2.6重量%以上である;
(iii)示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピークが200〜220℃の温度範囲内にある;並びに、
(iv)示差走査熱量測定(DSC)による200〜220℃の温度範囲内における吸熱ピーク面積より求めた結晶化エンタルピー(ΔH)が2〜15J/gである;
を満足する熱可塑性ポリウレタンである;
ことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物である。
そして、本発明は、上記した熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形品である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は溶融成形性に優れているので、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて押出成形などの成形を行う場合は、ネッキング現象や割れなどを生ずることなく、外観や物性に優れるフィルムやシートなどの成形品を高い歩留りで生産性良く製造することができる。
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、膠着がなく耐ブロッキング性に優れているので、多量の滑剤を配合することなく、更には離型紙を併用することなく、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて、巻き取りや巻き戻しの容易なフィルムやシートなどの成形品を円滑に製造することができる。
そして、本発明の熱可塑性エラストマー組成物およびそれを用いて得られる成形品は、エチレン−α−オレフィン共重合体が本来有している優れた特性、特に柔軟性、弾性回復性を有し、適度な強度を有しており、伸長後の残留歪みが小さく、熱可塑性エラストマーとして優れた機能を有する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記した優れた諸特性を活かして、広範な用途に有効に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物では、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)として、エチレンとα−オレフィンとの共重合体のいずれもが使用でき、特に制限されないが、そのうちでも、エチレンと炭素数が4以上のα−オレフィンの共重合体であって且つ該共重合体におけるエチレンに由来する単位(I):炭素数が4以上のα−オレフィンに由来する単位(II)のモル比が55:45〜99:1であるエチレン−α−オレフィン共重合体が好ましく用いられる。エチレン−α−オレフィン共重合体(a)では、前記した単位(I):単位(II)のモル比が、75:25〜95:5であることがより好ましく、85:15〜95:5であることが更に好ましい。そのようなエチレン−α−オレフィン共重合体は、軟化温度が高く、熱可塑性ポリウレタン(b)との均一混合性に優れている。しかも、そのようなエチレン−α−オレフィン共重合体を含有する本発明の熱可塑性エラストマー組成物を押出成形してフィルムやシートなどの成形品を製造した時に、ネッキング現象や割れなどの発生がなく、さらに耐ブロッキング性、弾性回復性、伸縮性に優れる成形品が得られる。
【0010】
エチレン−α−オレフィン共重合体(a)におけるエチレンに由来する単位の割合が55モル%未満であると、エチレン−α−オレフィン共重合体の軟化点が低くなり、熱可塑性ポリウレタン(b)との均一混合が困難になり易く、また熱可塑性エラストマー組成物からフィルムやシートなどを製造する際にネッキング現象、割れ、外観不良などを生じ易くなり、得られる成形品におけるブロッキング(膠着)などを生じ易くなる。一方、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)におけるエチレンに由来する単位の割合が99モル%を超えると、厚みが薄くて且つ伸縮性に優れるフィルムが得られにくくなる。
【0011】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物においてエチレン−α−オレフィン共重合体(a)として好ましく用いられる、エチレンと炭素数が4以上のα−オレフィンの共重合体では、炭素数が4以上のα−オレフィンに由来する単位(II)として、例えば、1−ブテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−オクタデセンなどのα−オレフィンに由来する単位を挙げることができ、これらのα−オレフィン単位(II)は単独で含有させてもよいし、2種以上を含有させてもよい。そのうちでも、単位(II)は、炭素数が4〜12のα−オレフィンに由来する単位であることが好ましく、炭素数が7〜10のα−オレフィンに由来する単位であることがより好ましく、1−オクテンに由来する単位であることがさらに好ましい。
エチレン−α−オレフィン共重合体(a)が、エチレンと炭素数3以下のオレフィン(プロピレン)との共重合体の場合は、そのようなエチレン−α−オレフィン共重合体を熱可塑性ポリウレタン(b)と混合してなる熱可塑性エラストマー組成物、およびそれから得られる成形品の柔軟性、伸長後の弾性回復性が低くなり易い。
【0012】
また、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)は、上記したα−オレフィン単位と共に、必要に応じて、非共役系のジエン化合物に由来する単位を少量有していてもよい。その場合の非共役のジエン化合物としては、例えば、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、メチレンノルボルネンなどを挙げることができる。
【0013】
エチレン−α−オレフィン共重合体(a)は、190℃、2.16kg荷重下に測定したメルトインデックスが0.1〜12g/10分の範囲内にあることが好ましく、0.2〜7g/10分の範囲内にあることがより好ましく、0.4〜5g/10分の範囲内にあることが更に好ましい。エチレン−α−オレフィン共重合体(a)のメルトインデックスが0.1g/10分未満であると、熱可塑性エラストマー組成物は、硬くて柔軟性に乏しいものになり易く、しかも厚さの薄いフィルムの製造が困難になり易い。一方、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)のメルトインデックスが12g/10分を超えると、熱可塑性エラストマー組成物およびそれから得られる成形品がブロッキングを生じ易くなり、しかも力学的特性が低下し易い。
なお、本明細書でいうエチレン−α−オレフィン共重合体のメルトインデックスは、ASTM D−1238に準拠して測定した値である。
【0014】
エチレン−α−オレフィン共重合体(a)は、そのショアーA硬度が30〜90の範囲内にあることが好ましく、40〜85の範囲内にあることがより好ましい。エチレン−α−オレフィン共重合体(a)のショアーA硬度が30未満であると、それを含有する熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形品の力学的特性が低下する傾向がある。一方、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)のショアーA硬度が90を超えると、それを含有する熱可塑性エラストマー組成物およびそれから得られる成形品の柔軟性が不足する傾向がある。
なお、本明細書でいうショアーA硬度は、ASTM D−2240に準拠して測定した値である。
【0015】
エチレン−α−オレフィン共重合体(a)は、その密度が0.85〜0.93g/cm3の範囲内にあることが好ましく、0.86〜0.91g/cm3の範囲内にあることがより好ましく、0.86〜0.90g/cm3の範囲内にあることが更に好ましい。前記した密度のエチレン−α−オレフィン共重合体(a)を用いることにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の溶融成形性、耐ブロッキング性、柔軟性、弾性回復性(低残留歪性)が一層良好になる。
なお、本明細書でいう密度は、ASTM D−792に準拠して測定した値である。
【0016】
エチレン−α−オレフィン共重合体(a)は、L形ローターを使用して100℃で測定したムーニー粘度が5〜70ML1+4(100℃)の範囲内にあることが好ましく、10〜55ML1+4(100℃)の範囲内にあることがより好ましい。前記したムーニー粘度を有するエチレン−α−オレフィン共重合体(a)を用いることにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の溶融成形性、耐ブロッキング性、柔軟性、弾性回復性(低残留歪性)が一層優れたものになる。
なお、本明細書でいうムーニー粘度は、ASTM D−1646に準拠して測定した値である。
【0017】
エチレン−α−オレフィン共重合体(a)の製造方法は特に制限されず、従来既知の方法で製造することができる。例えば、エチレンと上記したα−オレフィンを、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法などの公知の方法で、通常0〜250℃の温度下に、常圧〜1000気圧(100MPa)の条件下で重合することにより得ることができる。重合に際しては、重合活性点が均一なシングルサイト触媒を用いることが好ましく、それによって分子量分布が狭く且つ共重合組成分布の狭い、均一性に優れるエチレン−α−オレフィン共重合体を容易に得ることができる。シングルサイト触媒としては、4価の遷移金属を含有するメタロセン化合物が好ましく用いられ、具体例としては、シクロペンタジエニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、メチルシクロペンタジエニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、ビス(シクロペンタジエニル)チタニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニルt−ブチルアミドジルコニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニルt−ブチルアミドハフニウムジクロリド、ジメチルシリルテトラメチルシクロペンタジエニル−p−n−ブチルフェニルアミドジルコニウムジクロリド、メチルフェニルシリルテトラメチルシクロペンタジエニルt−ブチルアミドハフニウムジクロリド、(t−ブチルアミド)(テトラメチル−シクロペンタジエニル)−1,2−エタンジイルチタンジクロリド、インデニルチタニウムトリス(ジメチルアミド)、インデニルチタニウムトリス(ジエチルアミド)、インデニルチタニウム(ジn−プロピルアミド)などを挙げることができる。メタロセン化合物を重合触媒として用いる場合には、それ単独では重合活性を発現しないので、メチルアミノオキサン、非配位性のホウ素系化合物などの助触媒を、メタロセン化合物1モルに対して2〜1,000,000モル、好ましくは50〜5,000モルの割合で併用するのがよい。
【0018】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物で用いる熱可塑性ポリウレタン(b)は、上記したように、下記の要件(i)〜(iv);
(i)数平均分子量が1,500〜5,000のポリエステルジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の反応により得られる熱可塑性ポリウレタンである;
(ii)窒素原子含有量が2.6重量%以上である;
(iii)示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピークが200〜220℃の温度範囲内にある;並びに、
(iv)示差走査熱量測定(DSC)による200〜220℃の温度範囲内における吸熱ピーク面積より求めた結晶化エンタルピー(ΔH)が2〜15J/gである;
を満足するものである。
【0019】
すなわち、まず、本発明で用いる熱可塑性ポリウレタン(b)は、数平均分子量が1,500〜5,000のポリエステルジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の反応により得られる熱可塑性ポリウレタンである[要件(i)]。
熱可塑性ポリウレタンの製造に用いられるポリエステルジオールの数平均分子量が1,500未満であると、熱可塑性エラストマー組成物の耐ブロッキング性が低下し膠着を生じ易くなる。一方、該ポリエステルジオールの数平均分子量が5,000を超えると、熱可塑性ポリウレタンの流動性が低下して、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)中での分散性が悪くなり、得られる熱可塑性エラストマー組成物の溶融成形性が不良となる。熱可塑性ポリウレタン(b)の製造に用いられるポリエステルジオールは、その数平均分子量が1,800〜4,000の範囲内であることが好ましい。
なお、本明細書でいうポリエステルジオールの数平均分子量は、JIS K−1557に準拠して測定した水酸基価に基づいて算出した数平均分子量である。
【0020】
熱可塑性ポリウレタンとしてポリエステルジオール以外の高分子ジオールを用いて得られた熱可塑性ポリウレタン、例えばポリエーテルジオールやポリカーボネートジオールなどの他の高分子ジオールを用いて得られた熱可塑性ポリウレタンを使用した場合は、たとえ該他の高分子ジオールの数平均分子量が1,500〜5,000の範囲内であっても、熱可塑性ポリウレタンとエチレン−α−オレフィン共重合体(a)との親和性などが低下し、目的とする耐ネッキング性、耐割れ性、耐ブロッキング性、伸長後の弾性回復性などの特性に優れる熱可塑性エラストマー組成物が得られない。
【0021】
熱可塑性ポリウレタン(b)の製造に用いるポリエステルジオールは、例えば、常法にしたがってジカルボン酸、そのエステル、無水物などのエステル形成性誘導体などのジカルボン酸成分とジオール成分を直接エステル化反応させるかまたはエステル交換反応させることによって製造することができる。
また、該ポリエステルジオールはラクトンを開環重合することによっても製造することができる。
【0022】
熱可塑性ポリウレタン(b)の製造に用いるポリエステルジオールの製造原料であるジカルボン酸成分としては、ポリエステルジオールの製造において一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、メチルコハク酸、2−メチルグルタル酸、3−メチルグルタル酸、トリメチルアジピン酸、2−メチルオクタン二酸、3,8−ジメチルデカン二酸、3,7−ジメチルデカン二酸などの炭素数4〜12の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環式ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;それらのエステル形成性誘導体などを挙げることができる。ポリエステルジオールは、前記したジカルボン酸成分の1種または2種以上を用いて形成されていることができる。
そのうちでも、ポリエステルジオールは、炭素数が6〜12の脂肪族ジカルボン酸成分を用いて形成されていることが好ましく、アジピン酸、アゼライン酸および/またはセバシン酸成分を用いて形成されていることがより好ましい。
【0023】
熱可塑性ポリウレタン(b)の製造に用いるポリエステルジオールの製造原料であるジオール成分としては、ポリエステルジオールの製造において一般的に用いられているものを使用することができ、具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール,1,3−ブチレングリコール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオールなどの炭素数2〜15の脂肪族ジオール;1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、シクロオクタンジメタノール、ジメチルシクロオクタンジメタノールなどの脂環式ジオール;1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどの芳香族二価アルコールなどを挙げることができる。これらのジオールは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、2−メチル−1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、2−メチル−1,9−ノナンジオール、2,7−ジメチル−1,8−オクタンジオール、2,8−ジメチル−1,9−ノナンジオールなどのメチル基を側鎖として有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールの1種または2種以上を用いることが好ましい。特に、ポリエステルジオールを形成するジオール成分の全量に対して、前記したメチル基を側鎖として有する炭素数5〜12の脂肪族ジオールを30モル%以上の割合で用いることがより好ましく、50モル%以上の割合で用いることがさらに好ましい。
【0024】
上記したジカルボン酸成分とジオール成分を用いてポリエステルジオールを製造するに当たっては、チタン系および/またはスズ系の重縮合触媒を用いてもよい。チタン系触媒を用いた場合には、重縮合反応の終了後にポリエステルジオールに含まれるチタン触媒を失活させておくことが、溶融成形性、耐割れ性などの特性に優れる熱可塑性エラストマー組成物が得られる点から好ましい。
【0025】
ポリエステルジオールの製造時にチタン系重縮合触媒を用いる場合は、ポリエステルの製造に従来から使用されているチタン系重縮合触媒のいずれもが使用でき、例えば、チタン酸、テトラアルコキシチタン化合物、チタンアシレート化合物、チタンキレート化合物などを挙げることができる。より具体的には、テトライソプロピルチタネート、テトラn−ブチルチタネート、テトラ−2−エチルヘキシルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのテトラアルコキシチタン化合物、ポリヒドロキシチタンステアレート、ポリイソプロポキシチタンステアレートなどのチタンアシレート化合物、チタンアセチルアセトナート、トリエタノールアミンチタネート、チタンアンモニウムラクテート、チタンエチルラクテート、チタンオクチレングリコールなどのチタンキレート化合物を挙げることができる。
チタン系重縮合触媒の使用量は特に制限されないが、一般にポリエステルジオールを形成するための反応成分の全量に対して、約0.1〜50ppmの範囲内であることが好ましく、約1〜30ppmの範囲内であることがより好ましい。
【0026】
生成したポリエステルジオール中に含まれるチタン系重縮合触媒の失活方法としては、例えば、エステル化反応により得られたポリエステルジオールを加熱下に水と接触させて失活する方法、該ポリエステルジオールをリン酸、リン酸エステル、亜リン酸、亜リン酸エステルなどのリン化合物で処理する方法などを挙げることができる。水と接触させてチタン系重縮合触媒を失活させる場合は、エステル化反応により得られたポリエステルジオールに水を1重量%以上添加し、70〜150℃、好ましくは90〜130℃の温度で1〜3時間加熱するとよい。チタン系重縮合触媒の失活は常圧下で行ってもまたは加圧下で行ってもよい。添加した水は、チタン系重縮合触媒を失活させた後に系を減圧にすることにより除去することができる。
【0027】
また、熱可塑性ポリウレタン(b)の製造に用いるポリエステルジオールの製造原料として用いることのできるラクトンとしては、例えば、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンなどを挙げることができる。これらのラクトンを用いてジオールなどを開始剤として用いて開環重合を行うことにより、ポリエステルジオールを得ることができる。
【0028】
熱可塑性ポリウレタン(b)の製造に用いるポリエステルジオールの製造に当たっては、本発明の目的を損なわない範囲内で、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ヘキサントリオール、トリメチロールブタン、ペンタエリスリトールなどのポリオール、3官能以上のポリカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を少量用いてもよい。
【0029】
熱可塑性ポリウレタン(b)の製造に用いられる有機ジイソシアネートの種類は特に制限されず、熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から使用されている脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネートのいずれを使用してもよく、例えば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネートなどの脂肪族または脂環式ジイソシアネートなどを挙げることができる。これらの有機ジイソシアネートは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
そのうちでも、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが好ましく用いられる。
【0030】
熱可塑性ポリウレタン(b)の製造に用いられる鎖伸長剤としては特に制限はなく、熱可塑性ポリウレタンの製造に従来から使用されている鎖伸長剤のいずれを使用してもよく、そのうちでもイソシアネート基と反応し得る活性水素原子を分子中に2個有する低分子化合物が好ましく用いられる。
そのような鎖伸長剤の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオール、ビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート、キシリレングリコールなどのジオール類;ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類などを挙げることができる。これらの低分子化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。そのうちでも、炭素数2〜10の脂肪族ジオールが好ましく用いられ、1,4−ブタンジオールがより好ましく用いられる。
【0031】
熱可塑性ポリウレタン(b)の製造に当たっては、[ポリエステルジオールおよび鎖伸長剤が有している活性水素原子の合計モル数]:[有機ジイソシアネートに基づくイソシアネート基のモル数]の比が、1:0.9〜1.2の範囲になるような量で前記したポリエステルジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を用いて反応を行うことが好ましい。そのようにして製造された熱可塑性ポリウレタン(b)を用いることによって、溶融成形性および耐ブロッキング性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0032】
熱可塑性ポリウレタン(b)の製造方法は特に制限されず、上記したポリエステルジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤を使用して、公知のウレタン化反応技術を利用して、溶剤の不存在下または存在下に、プレポリマー法およびワンショット法のいずれで製造してもよい。
そのうちでも、実質的に溶剤の存在しない状態で溶融重合を行って熱可塑性ポリウレタン(b)を製造する方法が好ましく採用される。特に、溶剤の不存在下に多軸スクリュー型押出機を用いる連続溶融重合法、またはベルト方式のプレポリマー法を採用して熱可塑性ポリウレタン(b)を製造することがより好ましい。そのようにして得られた熱可塑性ポリウレタン(b)を用いることによって、耐ブロッキング性に優れる熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。
【0033】
本発明で用いる熱可塑性ポリウレタン(b)は、上記した要件(i)と共に、更に「窒素原子含有量が2.6重量%以上である」という要件(ii)を満足することが必要である。熱可塑性ポリウレタンの窒素原子含有量が2.6重量%未満であると、そのような熱可塑性ポリウレタンをエチレン−α−オレフィン共重合体(a)に配合して得られる熱可塑性エラストマー組成物の耐ブロッキング性が劣ったものとなる。熱可塑性ポリウレタン(b)は、その窒素原子含有量が2.6〜6.0重量%の範囲内であることが好ましく、2.8〜5.0重量%の範囲内であることがより好ましく、3.0〜4.0重量%の範囲内であることがさらに好ましい。
なお、本明細書でいう熱可塑性ポリウレタンの窒素原子含有量は、熱可塑性ポリウレタンの元素分析から求められる窒素原子の含有量である。
窒素原子含有量が2.6重量%以上である熱可塑性ポリウレタン(b)は、熱可塑性ポリウレタン(b)の製造原料であるポリエステルジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の分子量の調節、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の種類や使用量の調節などを行うことによって得ることができる。
【0034】
さらに、本発明で用いる熱可塑性ポリウレタン(b)は、示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピークが200〜220℃の温度範囲内にあること[要件(iii)]、および示差走査熱量測定(DSC)による200〜220℃の温度範囲内における吸熱ピーク面積より求めた結晶化エンタルピー(ΔH)が2〜15J/gの範囲内であること[要件(iv)]が必要である。
熱可塑性ポリウレタンの前記吸熱ピークが200℃未満であるか、および/または前記結晶化エンタルピー(ΔH)が2J/g未満であると、そのような熱可塑性ポリウレタンを配合して得られる熱可塑性エラストマー組成物では、溶融成形性および耐ブロッキング性が不良となる。一方、熱可塑性ポリウレタンの前記吸熱ピークが220℃を超えるか、および/または前記結晶化エンタルピー(ΔH)が15J/gを超えると、そのような熱可塑性ポリウレタンを配合して得られる熱可塑性エラストマー組成物は、溶融したときに未溶融物が発生し易くなり、それから得られるフィルムやシートなどの成形品にブツ(フィッシュアイ)を発生し、表面の平滑性が失われて、外観、力学的特性などが不良になり、しかも耐ブロッキング性が低下する。
【0035】
本発明で用いる熱可塑性ポリウレタン(b)は、示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピークが200〜220℃の温度範囲内にあり、且つ示差走査熱量測定(DSC)による200〜220℃の温度範囲内における吸熱ピーク面積より求めた結晶化エンタルピー(ΔH)が3〜10J/gの範囲内であることがより好ましい。
なお、本明細書における示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピークの温度の具体的な測定法および前記結晶化エンタルピー(ΔH)の求め方については以下の実施例の項で説明するとおりである。
要件(iii)および要件(iv)を満足する熱可塑性ポリウレタン(b)は、限定されるものではないが、例えば、熱可塑性ポリウレタン(b)の製造原料であるポリエステルジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の分子量調節、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の種類や使用量の調節などを行うことによって得ることができる。
【0036】
また、熱可塑性ポリウレタン(b)の粘度は、その製造に用いるポリエステルジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の種類や、熱可塑性ポリウレタン(b)における窒素原子含有量などに応じて異なり得るが、一般的には、熱可塑性ポリウレタン(b)をN,N−ジメチルホルムアミドに溶解して得た濃度が0.5g/dlの溶液を30℃で測定した時に、その対数粘度が0.2〜1.2dl/gの範囲内にあることが好ましく、0.3〜1.1dl/gの範囲内にあることがより好ましく、0.5〜1.1dl/gの範囲内にあることがさらに好ましい。前記した対数粘度を有する熱可塑性ポリウレタン(b)を用いることによって、本発明の熱可塑性エラストマー組成物の溶融成形性および耐ブロッキング性がより優れたものとなる。
【0037】
そして、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記したエチレン−α−オレフィン共重合体(a)、および上記の要件(i)〜(iv)を満足する熱可塑性ポリウレタン(b)を、エチレン−α−オレフィン共重合体(a):熱可塑性ポリウレタン(b)の重量比が70:30〜90:10の範囲内になるようにして含有していることが必要であり、75:25〜85:15の範囲内で含有していることが好ましい。
【0038】
エチレン−α−オレフィン共重合体(a)と熱可塑性ポリウレタン(b)の合計重量に基づいて、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)の含有量が70重量%未満である[熱可塑性ポリウレタン(b)の含有量が30重量%を超える]ような熱可塑性エラストマー組成物の場合は、厚さが薄くて、表面状態の良好なフィルムなどの成形品が得られなくなり、しかも耐ブロッキング性が劣ったものとなる。
一方、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)と熱可塑性ポリウレタン(b)の合計重量に基づいて、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)の含有量が90重量%を超える[熱可塑性ポリウレタン(b)の含有量が10重量%未満である]ような熱可塑性エラストマー組成物の場合は、Tダイ型押出成形機などを使用してフィルムやシート状に押出成形する際に、ネッキング現象が激しくなって、フィルムやシートの幅が狭くなり、その結果フィルムやシートの両端部に生じる厚み斑の範囲が広くなり、その厚い部分をトリミングして得られる製品の幅が極めて狭くなり、歩留りの大幅な低下を生ずる。しかも、熱可塑性エラストマー組成物や成形品の耐ブロッキング性が劣ったものになる。
【0039】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)と、上記の要件(i)〜(iv)を満足する熱可塑性ポリウレタン(b)を、エチレン−α−オレフィン共重合体(a):熱可塑性ポリウレタン(b)の重量比が上記した70:30〜90:10の範囲内になるようにして含有する熱可塑性エラストマー組成物である限りは、必要に応じて、他の熱可塑性重合体を少量、好ましくはエチレン−α−オレフィン共重合体(a)と熱可塑性ポリウレタン(b)の合計重量に基づいて10重量%以下の割合で含有していてもよい。
そのような、他の熱可塑性重合体としては、例えば、上記の要件(i)〜(iv)のうちの1つまたは2つ以上の要件を満たしていない熱可塑性ポリウレタン[すなわち熱可塑性ポリウレタン(b)以外の熱可塑性ポリウレタン]、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類などを挙げることができる。
【0040】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、補強剤、着色剤、滑剤、粘着剤、難燃剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐加水分解性向上剤、防かび剤、抗菌剤、安定剤などの各種添加剤;ガラス繊維、ポリエステル繊維などの各種繊維;タルク、シリカなどの無機物;各種カップリング剤などの任意の成分を含有していてもよい。
これらの成分は、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)の製造過程もしくは製造後、熱可塑性ポリウレタン(b)の製造過程もしくは製造後、および/または熱可塑性エラストマー組成物の調製時に添加することができる。
【0041】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の調製方法は特に制限されず、熱可塑性重合体組成物の調製に当たって従来から採用されているいずれの方法を用いてもよい。例えば、樹脂材料の混合に通常用いられているような縦型または水平型の混合機を用いて、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)、熱可塑性ポリウレタン(b)および必要に応じて他の熱可塑性重合体や他の成分を所定の割合で予備混合した後、単軸または二軸の押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどを使用して、回分式または連続式で加熱下に溶融混練することにより本発明の熱可塑性エラストマー組成物を得ることができる。その場合の溶融混練温度は、使用するエチレン−α−オレフィン共重合体(a)や熱可塑性ポリウレタン(b)の種類などに応じて異なり得るが、一般に120〜270℃の温度が好ましく採用される。
他の方法としては、熱可塑性ポリウレタン(b)を製造する際の重合後期に、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)、および必要に応じて他の熱可塑性重合体や他の成分を配合して熱可塑性エラストマー組成物を調製してもよい。
【0042】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、溶融成形および加熱加工が可能であり、熱可塑性重合体に対して一般に採用されている種々の成形加工方法、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、カレンダー成形、プレス成形、真空成形、注入成形、溶融紡糸などによって、フィルム、シート、板、管状物、棒状物、各種ブロック状成形品、中空成形品、トレー状成形品、繊維などの種々の成形品や製品を円滑に製造することができる。
限定されるものではないが、例えば押出成形、射出成形、ブロー成形、溶融紡糸などのような溶融を伴う成形や紡糸技術の場合には、一般に、150〜200℃の溶融温度が好ましく採用される。
【0043】
特に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は溶融成形性に優れており、例えば、Tダイ型押出成形機を用いてフィルムやシートなどを製造する場合は、押し出されたフィルムやシートにおけるネッキングが大幅に低減され、割れなども生じず、その結果フィルムやシートの両端部における厚み斑部分の割合も減少するので、厚み斑のある両端部をトリミングして得られる製品の幅が大きく、目的とするフィルムやシートなどの製品を、高い歩留りで、生産性よく製造することができる。しかも、それにより得られるフィルムやシートなどの成形品は、膠着がなくて耐ブロッキング性に優れていて、そのまま巻き取っても互いに貼着せず、後で容易に巻き戻すことができ、高価な離型紙を使用する必要がなく、また滲み出しの恐れのある多量の滑剤を使用する必要がない。
その上、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて得られるフィルム、シート、その他の成形品は、平滑で良好な表面状態を有し、柔軟性、伸縮性、弾性回復性に優れ、伸長後の残留歪みが少なく、引張破断強度や引張破断伸度などに代表される力学的特性に優れ、適度な強度を有している。
【0044】
そのため、本発明の熱可塑性エラストマー組成物から得られる成形品、特にシートやフィルムは、上記した優れた特性を活かして、生理ナプキン、紙おむつ、目止め材、防塵材などに用いられる伸縮性フィルム(シート)としての用途などに有効に用いることができる。
さらに、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、前記した用途に限られず、例えば各種コンベアベルト、キーボードシート、各種容器などの用途にも有効に使用できる。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、不織布やその他の繊維質基材との積層体、他の重合体フィルムやシートなどの基材との積層体などの製造にも適しており、それらの積層体は、例えば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を繊維質基材や他の基材上にフィルム状またはシート状に溶融押出することによって容易に得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下に本発明を実施例等により具体的に説明するが、本発明はそれにより何ら限定されるものではない。
以下の実施例および比較例において、熱可塑性ポリウレタンの窒素原子含有量、対数粘度、示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピーク温度、示差走査熱量測定(DSC)による200〜220℃の温度範囲における吸熱ピーク面積より求めた結晶化エンタルピー(ΔH)、熱可塑性エラストマー組成物の溶融成形性、押出成形時のフィルムの状態(巻き取り容易性)、フィルムの外観、耐ブロッキング性、100%のモジュラス(M100)および残留歪みは、以下の方法により測定または評価した。
【0046】
(1)熱可塑性ポリウレタンの窒素原子含有量:
元素分析装置(パーキンエルマー社製「240−2型」)を使用して、熱可塑性ポリウレタンの元素分析を行ってその窒素原子含有量(重量%)を求めた。
【0047】
(2)熱可塑性ポリウレタンの対数粘度:
N,N−ジメチルホルムアミドに熱可塑性ポリウレタンを溶解して濃度0.5g/dlの熱可塑性ポリウレタン溶液を調製し、ウベローデ型粘度計を用いて、前記で調製した熱可塑性ポリウレタン溶液の30℃における流下時間を測定し、下記の数式により熱可塑性ポリウレタンの対数粘度を求めた。
【0048】
熱可塑性ポリウレタンの対数粘度(dl/g)={ln(t/t0)}/c

[式中、tは熱可塑性ポリウレタン溶液の流下時間(秒)、t0は溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド)の流下時間(秒)、cは熱可塑性ポリウレタンの濃度(0.5g/dl)を示す。]
【0049】
(3)熱可塑性ポリウレタンの示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピーク温度および結晶化エンタルピー(ΔH):
(3−1) 示差走査熱量計(メトラー社製「DSC30」)を使用し、熱可塑性ポリウレタン約10mgを用いて、窒素ガス雰囲気下に、10℃/分の昇温速度で加熱してその融解エンタルピーを測定して、吸熱ピーク(℃)を求めた。
(3−2) 上記(3−1)における熱可塑性ポリウレタンの融解エンタルピーの測定において、その200〜220℃の温度範囲における吸熱ピーク面積より結晶化エンタルピー(ΔH)(J/g)求めた。
【0050】
(4)熱可塑性エラストマー組成物(熱可塑性エラストマー)の溶融成形性:
以下の実施例および比較例の熱可塑性エラストマー組成物(熱可塑性エラストマー)を用いて、Tダイ型単軸押出成形機(25mmφ;ダイの有効幅350mm、リップ間隙0.3mm)を使用して、以下の実施例および比較例に記載する条件下に押出成形を行ってフィルムを製造し、Tダイ出口より10cm下流におけるフィルム幅(W2)(mm)を測定し、Tダイの有効幅(W1)(mm)との関係から、下記の数式により押し出されたフィルムのネッキング率(%)を求めて、溶融成形性の指標とした。
【0051】

フィルムのネッキング率(%)={(W1−W2)/W1}×100
【0052】
(5)押出成形時のフィルムの状態(巻き取り容易性):
Tダイ型押出成形機から押し出した膜状物を表面温度30℃の冷却ロールに接触させて冷却した後、離型紙を用いずにそのまま約3m/分の巻き取り速度で巻き取ってフィルムを製造した。
巻き取りの最中に、フィルムの状態を目視により観察して、下記の表1に示す基準にしたがって評価した。
【0053】
【表1】

【0054】
(6)フィルムの外観:
上記(5)において、巻き取ったフィルム、また巻き取りが不可能なフィルムにおいては巻き取り機の直前のフィルムの表面状態を目視により観察して、表面が平滑なものを良好(○)、ポリマー間の分散不良などにより表面に凹凸があるものを不良(×)として評価した。
【0055】
(7)フィルムの耐ブロッキング性:
Tダイ型押出成形機から押し出した膜状物を表面温度30℃の冷却ロールに接触させて冷却した後、離型紙を用いずにそのまま約3m/分の巻き取り速度で巻き取ってフィルムを製造した。巻き取ったフィルムを室温で24時間放置した後、手で巻き戻し、その時の抵抗の大小に基づいて下記の表2に示す基準に従って耐ブロッキング性の評価を行った。
【0056】
【表2】

【0057】
(8)フィルムの100%モジュラス(M100):
Tダイ型押出成形機を用いて製造した厚さ30μmのフィルムから試験片(長さ×幅=20cm×5cm)を採取し、この試験片を用いて、オートグラフ測定装置(島津製作所製「IS−500D」)を使用して、室温下に引張速度300mm/分で伸長して、100%伸長したときのモジュラス(M100)(kgf/cm2)を測定した。
【0058】
(9)フィルムの残留歪み:
Tダイ型押出成形機を用いて製造した厚さ30μmのフィルムから試験片(長さ×幅=20cm×5cm)を採取し、この試験片を用いて、オートグラフ測定装置(島津製作所製「IS−500D」)を使用して、室温下に引張速度300mm/分で100%伸長し、次に300mm/分の速度で伸長前の位置まで戻し(1サイクル目)、続けて同じ速度で再度100%伸長した後、同じ速度で伸長前の位置まで戻し(2サイクル目)、この時点(2サイクル目)での試験片の長さを測定して、下記の数式からフィルムの残留歪み(%)を求めた。
【0059】
フィルムの残留歪み(%)={(L2−L1)/L1}×100
[式中、L1は伸長する前の試験片の長さ(20cm)、L2は上記2サイクル目の終了後の試験片の長さ(cm)を示す。]
【0060】
また、以下の実施例および比較例で使用した重合体に対する略号とその内容は以下に示すとおりである。
[エチレン−α−オレフィン共重合体(a)]
・POE−A:
エチレン−1−オクテン共重合体[デュポンダウエラストマー(株)製「ENGAGE EG8100」、エチレン単位/1−オクテン単位のモル比=92.7/7.3、メルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)=1.0g/10分、ショアーA硬度=75、ムーニー粘度=35.6ML1+4(100℃)]。
・POE−B:
エチレン−1−オクテン共重合体[デュポンダウエラストマー(株)製「ENGAGE EG8150」、エチレン単位/1−オクテン単位のモル比=92.5/7.5、メルトインデックス(190℃、2.16kg荷重)=0.4g/10分、ショアーA硬度=75、ムーニー粘度=52.1ML1+4(100℃)]。
【0061】
[熱可塑性ポリウレタン]
・TPU−A:
3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール(数平均分子量=3,500)/4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート/1,4−ブタンジオールの反応により得た熱可塑性ポリウレタン[窒素原子含有量=3.2重量%、示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピーク温度=204℃、結晶化エンタルピー(ΔH)=3.5J/g、対数粘度=0.75dl/g]。
・TPU−B:
1,4−ブタンジオールと1,6−ヘキサンジオールの混合物(モル比=60:40)とアジピン酸からなるポリエステルジオール(数平均分子量=2,000)/4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート/1,4−ブタンジオールの反応により得た熱可塑性ポリウレタン[窒素原子含有量=3.1重量%、示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピーク温度=206℃、結晶化エンタルピー(ΔH)=5.3J/g、対数粘度=1.01dl/g]。
【0062】
・TPU−C:
3−メチル−1,5−ペンタンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール(数平均分子量=3,500)/4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート/1,4−ブタンジオールの反応により得た熱可塑性ポリウレタン[窒素原子含有量=2.4重量%、示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピーク温度=171℃、結晶化エンタルピー(ΔH)=8.8J/g、対数粘度=1.38dl/g]。
・TPU−D:
1,4−ブタンジオールとアジピン酸からなるポリエステルジオール(数平均分子量=1,000)/4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート/1,4−ブタンジオールの反応により得た熱可塑性ポリウレタン[窒素原子含有量=4.4重量%、示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピーク温度=175℃、結晶化エンタルピー(ΔH)=0J/g、対数粘度=0.90dl/g]。
・TPU−E:
1,9−ノナンジオールと2−メチル−1,8−オクタンジオールの混合物(モル比=65:35)とアジピン酸からなるポリエステルジオール(数平均分子量=2,000)/4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート/1,4−ブタンジオールの反応により得た熱可塑性ポリウレタン[窒素原子含有量=4.3重量%、示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピーク温度=228℃、結晶化エンタルピー(ΔH)=20.5J/g、対数粘度=0.70dl/g]。
【0063】
《実施例1》
(1) 下記の表3に示すように、POE−AとTPU−Aを80重量部:20重量部の割合で予備混合した後、その混合物を単軸押出機に供給して200℃で溶融混練し、ストランド状に押し出し、切断して熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを単軸式のTダイ型押出成形機(25mmφ、シリンダー温度180〜200℃、ダイス温度200℃)に供給して溶融混練した後、そのTダイより膜状に押し出し、表面温度30℃の冷却ロールに接触させて冷却した後、離型紙を用いずにそのまま約3m/分の巻き取り速度で巻き取ってフィルムを製造した。
(3) 上記(2)における押出成形時の熱可塑性エラストマー組成物の溶融成形性、フィルムの状態(巻き取り容易性)、得られたフィルムの外観、耐ブロッキング性、100%のモジュラス(M100)および残留歪みを上記した方法により測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0064】
《実施例2〜5》
(1) 下記の表3に示すエチレン−α−オレフィン共重合体(a)と熱可塑性ポリウレタンを表3に示す割合で予備混合した後、その混合物を単軸押出機に供給して200℃で溶融混練し、ストランド状に押し出し、切断して熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレットを用いて、実施例1の(2)と同様にして、Tダイ型押出成形機を使用してフィルムを製造した。
(3) 上記(2)における押出成形時の熱可塑性エラストマー組成物の溶融成形性、フィルムの状態(巻き取り容易性)、得られたフィルムの外観、耐ブロッキング性、100%のモジュラス(M100)および残留歪みを上記した方法により測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0065】
《比較例1〜6》
(1) 下記の表3に示すエチレン−α−オレフィン共重合体(a)と熱可塑性ポリウレタンを表3に示す割合で予備混合した後、単軸押出機に供給して200℃で溶融混練し、ストランド状に押し出し、切断して熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した(比較例1〜5)(比較例6はPOE−Aのみを使用)。
(2) 上記(1)で得られた熱可塑性エラストマー組成物のペレット(比較例1〜5)またはエチレン−α−オレフィン共重合体(POE−A)(比較例6)を、単軸式のTダイ型押出成形機(25mmφ、シリンダー温度180〜200℃、ダイス温度200℃)に供給して溶融混練した後、そのTダイより膜状に押し出し、表面温度30℃の冷却ロールに接触させて冷却した後、離型紙を用いずにそのまま約3m/分の巻き取り速度で巻き取ってフィルムを製造した。
(3) 上記(2)における押出成形時の熱可塑性エラストマー組成物の溶融成形性、フィルムの状態(巻き取り容易性)、得られたフィルムの外観、耐ブロッキング性、100%のモジュラス(M100)および残留歪みを上記した方法により測定または評価したところ、下記の表3に示すとおりであった。
【0066】
【表3】

【0067】
上記の表3の結果から、実施例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物、すなわち、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)および上記の要件(i)〜(iv)を満足する熱可塑性ポリウレタン(b)(TPU−AまたはTPU−B)を、本発明で規定する70:30〜90:10の重量比で含有する熱可塑性エラストマー組成物は、フィルムの押出成形時におけるネッキング率が小さくて溶融成形性に優れており、さらに押出成形時のフィルムの状態(巻き取り容易性)に優れていることがわかる。しかも、実施例1〜5で得られたフィルムは、表面が平滑で外観に優れていること、膠着が無く耐ブロッキング性に優れていて巻き取りや巻き戻しを円滑に行えること、さらに100%のモジュラス(M100)の値が適当な範囲にあって適度な柔軟性を有すること、そして弾性回復性に優れていて伸長後も残留歪みが小さいことがわかる。
そして、実施例5の結果は、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)と上記の要件(i)〜(iv)を満足する熱可塑性ポリウレタン(b)を70:30〜90:10の重量比で含有する本発明の熱可塑性エラストマー組成物では、熱可塑性ポリウレタン(b)以外の熱可塑性ポリウレタン(実施例5ではTPU−C)を多少含有していても、その優れた特性は何ら損なわれないことを示している。
【0068】
一方、本発明における各種要件を満たしていない比較例1〜5の熱可塑性エラストマー組成物および比較例6の重合体、すなわち、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)に対して上記した要件(i)〜(iv)のいずれかを満足していない熱可塑性ポリウレタン(TPU−C、TPU−D、TPU−E)のみを配合した比較例1〜3の熱可塑性エラストマー組成物、エチレン−α−オレフィン共重合体(a)に対して上記の要件(i)〜(iv)を満足する熱可塑性ポリウレタン(TPU−A、TPU−B)を配合していても、その配合量が本発明で規定する上記した70:30〜90:10の重量比の範囲から外れている比較例4と比較例5の熱可塑性エラストマー組成物、およびエチレン−α−オレフィン共重合体(a)単独よりなる比較例6では、フィルムの押出成形時におけるネッキング率が大きくて溶融成形性に劣っているか、押出成形時のフィルムの状態(巻き取り容易性)が劣っているか、得られるフィルムは表面に凹凸があり外観に劣っているか、膠着が強くて耐ブロッキング性に劣っていて巻き戻しが困難または不可能であるか、100%のモジュラス(M100)の値が適当でなく適度な柔軟性を有していないか、および/または弾性回復性に劣っていて伸長後の残留歪みが大きいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、溶融成形性に優れ、膠着がなく耐ブロッキング性に優れているため、押出成形などの成形によって、ネッキング現象や割れなどを生ずることなく、外観や物性に優れ、巻き取りや巻き戻しの容易なフィルムやシートなどの成形品を高い歩留りで生産性良く製造することができる。
しかも、本発明の熱可塑性エラストマー組成物およびそれを用いて得られる成形品は、エチレン−α−オレフィン共重合体が本来有している優れた特性、特に柔軟性、弾性回復性を有し、適度な強度を有しており、伸長後の残留歪みが小さく、熱可塑性エラストマーとして優れた機能を有するので、それらの優れた諸特性を活かして、広範な用途に有効に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1) エチレン−α−オレフィン共重合体(a)および熱可塑性ポリウレタン(b)を、エチレン−α−オレフィン共重合体(a):熱可塑性ポリウレタン(b)=70:30〜90:10の重量比で含有する熱可塑性エラストマー組成物であって;且つ
(2) 前記の熱可塑性ポリウレタン(b)が、下記の要件(i)〜(iv);
(i)数平均分子量が1,500〜5,000のポリエステルジオール、有機ジイソシアネートおよび鎖伸長剤の反応により得られる熱可塑性ポリウレタンである;
(ii)窒素原子含有量が2.6重量%以上である;
(iii)示差走査熱量測定(DSC)による吸熱ピークが200〜220℃の温度範囲内にある;並びに、
(iv)示差走査熱量測定(DSC)による200〜220℃の温度範囲内における吸熱ピーク面積より求めた結晶化エンタルピー(ΔH)が2〜15J/gである;
を満足する熱可塑性ポリウレタンである;
ことを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
エチレン−α−オレフィン共重合体(a)が、エチレンと炭素数が4以上のα−オレフィンの共重合体であって、該共重合体におけるエチレンに由来する単位:該α−オレフィンに由来する単位のモル比が、55:45〜99:1である請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形品。
【請求項4】
フィルムまたはシートである請求項3に記載の成形品。

【公開番号】特開2007−23299(P2007−23299A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−295378(P2006−295378)
【出願日】平成18年10月31日(2006.10.31)
【分割の表示】特願平10−216508の分割
【原出願日】平成10年7月15日(1998.7.15)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】