説明

熱可塑性エラストマー組成物

【課題】エチレン−ビニルアルコール共重合体の低温耐久性を改善するために、エチレン−ビニルアルコール共重合体マトリックス中に変性ゴムを分散充填した熱可塑性エラストマー組成物において、低温耐久性を悪化させることなく、フィルムに押出成形する際の押出負荷の低減を図る。
【解決手段】エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)に酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)が分散してなる熱可塑性エラストマー組成物(C)であって、酸無水物基またエポキシ基を有する変性ゴム(B)が少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)により動的に架橋されていることを特徴とする。この熱可塑性エラストマー組成物は、空気入りタイヤのインナーライナーの製造に好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体および変性ゴムからなる熱可塑性エラストマー組成物に関する。特に、本発明は、フィルムに押出成形する際の押出負荷が小さい、エチレン−ビニルアルコール共重合体マトリックス中に変性ゴムを分散させた熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン−ビニルアルコール共重合体は、気体、有機液体等を遮断する性質を有するが、低温での衝撃耐性は必ずしも十分ではない。そこで、低温での衝撃耐性を改善するために、エチレン−ビニルアルコール共重合体に、反応性基で変性された架橋性ゴムを混合することが知られている(特許文献1)。
【0003】
また、エチレン−ビニルアルコール系共重合体、エラストマー、および有機過酸化物またはフェノール樹脂系である架橋剤を、動的架橋することにより、架橋されたエラストマーがエチレン−ビニルアルコール系共重合体中に均一に分散して、遮断性と柔軟性を両立した熱可塑性エラストマー組成物が得られることが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−161045号公報
【特許文献2】特開2007−211059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体の低温耐久性を改善するために、エチレン−ビニルアルコール共重合体マトリックス中に低温耐久性に優れる変性ゴムを分散充填した熱可塑性エラストマー組成物において、低温耐久性を悪化させることなく、フィルムに押出成形する際の押出負荷の低減を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)に酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)が分散してなる熱可塑性エラストマー組成物(C)であって、酸無水物基またエポキシ基を有する変性ゴム(B)が少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)により動的に架橋されていることを特徴とする。
【0007】
本発明において、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)は、好ましくは、ジスルフィド結合をも有する。
また、本発明において、好ましくは、酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)が、少なくとも2つのアミノ基と少なくとも1つのジスルフィド結合を有する化合物(D1)およびジスルフィド結合を含まない少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D2)により動的に架橋されている。
【0008】
また、本発明において、酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)を構成するゴムは、好ましくは、エチレン−α−オレフィン共重合体またはエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体である。
【0009】
また、本発明において、酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)は、好ましくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して、90〜180質量部である。
また、本発明において、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)は、好ましくは、変性ゴム(B)100質量部に対して、0.01〜5質量部である。
【0010】
本発明は、また、前記熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、エチレン−ビニルアルコール共重合体に変性ゴムが分散してなる熱可塑性エラストマー組成物において、変性ゴムを少なくとも2つのアミノ基を有する化合物により動的架橋させることにより、低温耐久性を悪化させることなく、フィルムに押出成形する際の押出負荷の低減を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)および酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)からなる。
【0013】
本発明において使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、エチレン単位(−CHCH−)とビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−)とからなる共重合体であるが、エチレン単位およびビニルアルコール単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の構成単位を含有していてもよい。本発明において使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体は、好ましくはエチレン単位の含量が20〜50モル%、より好ましくは20〜40モル%のものを使用する。エチレン−ビニルアルコール共重合体のエチレン単位の含量が20モル%より小さいとエチレン−ビニルアルコール共重合体が熱分解しやすくなり、50モル%より大きいとエチレン−ビニルアルコール共重合体のガスバリヤー性が低下する。エチレン−ビニルアルコール共重合体はエチレン−酢酸ビニル共重合体のけん化物であるが、そのけん化度は、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上である。エチレン−ビニルアルコール共重合体のけん化度が小さすぎるとエチレン−ビニルアルコール共重合体のガスバリヤー性が低下する。エチレン−ビニルアルコール共重合体は、市販されており、たとえば、日本合成化学工業株式会社からソアノール(登録商標)の商品名(たとえばソアノール(登録商標)A4415)で、株式会社クラレからエバール(登録商標)の商品名で入手することができる。エチレン単位の含量が20〜50モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体としては、日本合成化学工業株式会社製ソアノール(登録商標)V2504RB(エチレン単位の含量:25モル%)、株式会社クラレ製エバール(登録商標)G156Bなどがある。
【0014】
本発明に用いる変性ゴム(B)は、酸無水物基またはエポキシ基を有する。エチレン−ビニルアルコール共重合体との相溶性という観点から、好ましくは、変性ゴム(B)は酸無水物基を有する。
【0015】
変性ゴム(B)を構成するゴムとしては、エチレン−α−オレフィン共重合体、またはエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体などが挙げられる。エチレン−α−オレフィン共重合体としては、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体などが挙げられる。エチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体としては、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体などが挙げられる。
【0016】
酸無水物基を有する変性ゴムは、たとえば、酸無水物とペルオキシドをゴムに反応させることにより製造することができる。また、酸無水物基を有する変性ゴムは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(タフマー(登録商標)MP0620)、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(タフマー(登録商標)MP7020)などがある。
【0017】
エポキシ基を有する変性ゴムは、たとえば、グリシジルメタクリレートをゴムに共重合させることにより製造することができる。また、エポキシ基を有する変性ゴムは、市販されており、市販品を用いることができる。市販品としては、住友化学株式会社製エポキシ変性エチレンアクリル酸メチル共重合体(エスプレン(登録商標)EMA2752)などがある。
【0018】
特に好ましい変性ゴム(B)は、酸無水物基でグラフト変性されたエチレン−α−オレフィン共重合体であり、その例としては、前述の三井化学株式会社製無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(タフマー(登録商標)MP0620)がある。
【0019】
熱可塑性エラストマー組成物中のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と変性ゴム(B)の比率は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して、好ましくは、変性ゴム(B)が90〜180質量部であり、より好ましくは95〜160質量部である。変性ゴム(B)の比率が少なすぎると、低温耐久性に劣り、逆に多すぎると、フィルムに押出成形する際の押出負荷が増大する。本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)が連続相を形成し、変性ゴム(B)が分散相を形成している。
【0020】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物においては、変性ゴム(B)は少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)で動的架橋されている。動的架橋することにより、熱可塑性エラストマー組成物中の変性ゴム(B)の分散状態を固定することができる。変性ゴム(B)を、少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)で動的架橋することにより、熱可塑性エラストマー組成物の低温耐久性を悪化させることなく、フィルムに押出成形する際の押出負荷の低減を図ることができる。
【0021】
少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)としては、ジアミノジフェニルジスルフィド、ジアミノジフェニルスルホン、ヘキサメチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、メチレンジアミンカルバメート、N,N′−ジシンナミリデン−1,6−ヘキサジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、低温耐久性と加工性を両立させることが可能であるから、アミノ基とともに、ジスルフィド結合をも有するもの、たとえばジアミノジフェニルジスルフィドが好ましい。
【0022】
少なくとも2つのアミノ基と少なくとも1つのジスルフィド結合を有する化合物(D1)としては、ジアミノジフェニルジスルフィド、ジアミノジベンジルスルフィド、ジチオビスメチルアニリン、ジニトロジアミノジフェニルジスルフィドなどが挙げられるが、なかでもジアミノジフェニルジスルフィドが好ましい。ジアミノジフェニルジスルフィドには、2,2′−ジアミノジフェニルジスルフィド、2,3′−ジアミノジフェニルジスルフィド、2,4′−ジアミノジフェニルジスルフィド、3,3′−ジアミノジフェニルジスルフィド、3,4′−ジアミノジフェニルジスルフィド、4,4′−ジアミノジフェニルジスルフィドがあるが、なかでも2,2′−ジアミノジフェニルジスルフィドが好ましい。2,2′−ジアミノジフェニルジスルフィドは次の化学構造式で表される化合物である。
【0023】
【化1】

【0024】
変性ゴム(B)が、少なくとも2つのアミノ基と少なくとも1つのジスルフィド結合を有する化合物(D1)およびジスルフィド結合を含まない少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D2)で動的架橋すると、熱可塑性エラストマー組成物をフィルムに押出成形する際の押出負荷を低減させつつ、低温耐久性を向上させることができるので、より好ましい。
【0025】
ジスルフィド結合を含まない少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D2)としては、ジアミノジフェニルスルホン、キシレンジアミン、トリメチルへキサメチレンジアミン、メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、ノルボルネンジアミン、ジアミノシク口ヘキサン、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ポリオキシプロピレンジアミンなどが挙げられるが、なかでもジアミノジフェニルスルホンが好ましい。ジアミノジフェニルスルホンには、2,2′−ジアミノジフェニルスルホン、2,3′−ジアミノジフェニルスルホン、2,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノジフェニルスルホン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホンがあるが、なかでも3,3′−ジアミノジフェニルスルホンが好ましい。3,3′−ジアミノジフェニルスルホンは次の化学構造式で表される化合物である。
【0026】
【化2】

【0027】
少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)の量は、変性ゴム(B)100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量部であり、さらに好ましくは0.5〜2.4質量部である。化合物(F)の量が少なすぎると、動的架橋が不足し、変性ゴム(B)の微分散を維持できず、フィルムに押出成形する際の押出負荷が増大する。逆に、多すぎると、低温耐久性が低下するため、好ましくない。
【0028】
少なくとも2つのアミノ基と少なくとも1つのジスルフィド結合を有する化合物(D1)およびジスルフィド結合を含まない少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D2)を併用するときは、化合物(D1)および化合物(D2)の合計量は、変性ゴム(B)100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、より好ましくは0.1〜3質量部であり、さらに好ましくは0.6〜2.4質量部である。
【0029】
少なくとも2つのアミノ基と少なくとも1つのジスルフィド結合を有する化合物(D1)およびジスルフィド結合を含まない少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D2)を併用するときは、化合物(D2)の割合は、化合物(D1)と化合物(D2)の合計量に対して、20〜80質量%が好ましく、より好ましくは50〜60質量%である。化合物(D2)の割合がこの範囲にあると、熱可塑性エラストマー組成物をフィルムに押出成形する際の押出負荷を低減させつつ、低温耐久性を向上させることができる。
【0030】
動的架橋は、変性ゴム(B)を化合物(D)とともに溶融ブレンドすることによって行なうことができる。溶融ブレンドの温度は、通常、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点以上の温度であるが、好ましくはエチレン−ビニルアルコール共重合体の融点より20℃高い温度、たとえば220〜240℃である。溶融ブレンドの時間は、通常、1〜10分、好ましくは2〜5分である。
【0031】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、エチレン−ビニルアルコール共重合体以外の熱可塑性樹脂(たとえばポリアミド樹脂など)を含んでもよい。
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、変性ゴム(B)、および少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)を、溶融ブレンドすることによって製造することができる。
【0033】
少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)の添加の時期は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と変性ゴム(B)の溶融ブレンドと同時でもよいし、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と変性ゴム(B)の溶融ブレンドの後でもよい。すなわち、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)、変性ゴム(B)および化合物(D)を同時に溶融ブレンドしてもよいし、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と変性ゴム(B)を溶融ブレンドし、変性ゴム(B)が十分に分散したところで化合物(D)を加え、さらに溶融ブレンドしてもよい。好ましくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と変性ゴム(B)を溶融ブレンドし、変性ゴム(B)が十分に分散したところで化合物(D)を加え、さらに溶融ブレンドする。
【0034】
溶融ブレンドの温度は、エチレン−ビニルアルコール共重合体の融点以上の温度であるが、好ましくはエチレン−ビニルアルコール共重合体の融点より20℃高い温度、たとえば230〜250℃である。溶融ブレンドの時間は、通常、1〜10分、好ましくは2〜5分である。また、混練時の剪断速度は、好ましくは1000〜8000秒−1、より好ましくは1000〜5000秒−1である。
【0035】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、前記した成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫または架橋剤、加硫又は架橋促進剤、可塑剤、各種オイル、老化防止剤などの、ゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0036】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、T型ダイス付きの押出機や、インフレーション成形機などでフィルムとすることができる。
【0037】
本発明の空気入りタイヤは、前記熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤである。タイヤを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を所定の幅と厚さのフィルム状に押し出し、それをタイヤ成形用ドラム上に円筒に貼りつける。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより、所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【0038】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ホースを作製するのにも用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いてホースを製造する方法としては、慣用の方法を用いることができる。たとえば、次のようにしてホースを製造することができる。まず、本発明の熱可塑性エラストマー組成物のペレットを使用し、予め離型剤を塗布したマンドレル上に、樹脂押出機によりクロスヘッド押出方式で、熱可塑性エラストマー組成物を押し出し、内管を形成する。さらに内管上に他の本発明の熱可塑性エラストマー組成物または一般の熱可塑性ゴム組成物を押し出し内管外層を形成してもよい。次に、内管上に必要に応じ、接着剤を塗布、スプレー等により施す。さらに、内管上に、編組機を使用して、補強糸または補強鋼線を編組する。必要に応じ補強層上に、外管との接着のために接着剤を塗布した後、本発明の熱可塑性エラストマー組成物または他の一般的な熱可塑性ゴム組成物と同様にクロスヘッドの樹脂用押出機により押し出し、外管を形成する。最後にマンドレルを引き抜くと、ホースが得られる。内管上、または補強層上に塗布する接着剤としては、イソシアネート系、ウレタン系、フェノール樹脂系、レゾルシン系、塩化ゴム系、HRH系等が挙げられるが、イソシアネート系、ウレタン系が特に好ましい。
【実施例】
【0039】
(1)原材料
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)として、日本合成化学工業株式会社製ソアノール(登録商標)A4415(エチレン単位の含量:44モル%)を用いた。以下「EVOH」ともいう。
変性ゴム(B)として、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(三井化学株式会社製タフマー(登録商標)MP0620。以下「Mah−EP」ともいう。)を用いた。
少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)として、2,2′−ジアミノジフェニルジスルフィド(東京化成工業株式会社製D1246)および3,3′−ジアミノジフェニルスルホン(三井化学ファイン株式会社製3,3′−DAS)を用いた。
少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)に該当しない架橋剤として、o,o′−ジベンズアミドジフェニルジスルフィド(大内新興化学工業株式会社製ノクタイザーSS)を用いた。
【0040】
(2)熱可塑性エラストマー組成物の調製
エチレン−ビニルアルコール共重合体および無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体を、表1に示す配合比率で、2軸混練機に投入し、混練機温度230℃で溶融ブレンドし、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体が分散したところで、表1に示す量の2,2′−ジアミノジフェニルジスルフィド、および/または3,3′−ジアミノジフェニルスルホン、またはo,o′−ジベンズアミドジフェニルジスルフィドを投入し溶融ブレンドした後、押出機から連続してストランド状に排出し、水冷後カッターで切断することによりペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0041】
(3)熱可塑性エラストマー組成物の評価方法
得られた熱可塑性エラストマー組成物について、溶融粘度、押出負荷、および低温耐久性を次の方法により評価した。
【0042】
[溶融粘度]
溶融粘度とは、混練加工時の任意の温度、成分の溶融粘度をいい、各ポリマー材料の溶融粘度は、温度、剪断速度および剪断応力の依存性があるため、一般に細管中を流れる溶融状態にある任意の温度、特に混練時の温度領域でのポリマー材料の応力と剪断速度を測定し、下記式より溶融粘度を測定する。
η=剪断応力/剪断速度
本発明においては、東洋精機社製キャピラリーレオメーターキャピログラフ1Cを用いて、250℃、剪断速度250秒−1において、熱可塑性エラストマー組成物の溶融粘度(Pa・s)を測定した。溶融粘度が1800Pa・s以下であることが、フィルム成形性の観点から好ましい。
【0043】
[押出負荷]
ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を、200mm幅T型ダイス付40mmφ押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、熱可塑性エラストマーの融点より20℃高い温度設定とした一定の条件で押出したときに、先端の樹脂圧計で測定した。数値は、比較例1の樹脂圧力を100として指数で表す。指数が小さいほど、押出負荷が小さく、優れている。
【0044】
[低温耐久性]
ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を、200mm幅T型ダイス付40mmφ押出機(株式会社プラ技研製)を用いて、熱可塑性エラストマーの融点より20℃高い温度設定とした一定の条件で押出し、平均厚み1mmのシートに成形した。次いで、JIS 3号ダンベルで切断し、−35℃下で40%の繰り返し変形を与えた。5回の測定を行い、破断した回数の平均値を算出し、平均破断回数とする。実施例については、比較例1の平均破断回数を100として指数で表す。指数が大きいほど、低温耐久性に優れる。
【0045】
(4)熱可塑性エラストマー組成物の評価結果
評価結果を表1および表2に示す。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
比較例1は、変性ゴム(B)が動的に架橋されていないものである。
実施例1〜3は、変性ゴム(B)が少なくとも2つのアミノ基と少なくとも1つのジスルフィド結合を有する化合物(D1)により動的に架橋されているものであり、比較例1に比べ、押出負荷およびキャピラリー粘度を低減しつつ、低温耐久性を維持していることが分かる。
実施例4〜6は、変性ゴム(B)がジスルフィド結合を含まない少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D2)により動的に架橋されているものであり、比較例1に比べ、押出負荷およびキャピラリー粘度を維持しつつ、低温耐久性の向上が見られることが分かる。
実施例7〜9は、変性ゴム(B)が少なくとも2つのアミノ基と少なくとも1つのジスルフィド結合を有する化合物(D1)およびジスルフィド結合を含まない少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D2)により動的に架橋されているものであり、比較例1に比べ、押出負荷およびキャピラリー粘度を低減させつつ、低温耐久性の向上が図れることが分かる。
比較例2および3は、変性ゴム(B)が少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)に該当しない架橋剤により動的に架橋されているものであるが、この場合は、押出負荷およびキャピラリー粘度、低温耐久性に大きな変化が見られないことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、タイヤ、特に空気入りタイヤを製造するのに用いることができる。特に空気入りタイヤのインナーライナーを作製するのに好適に用いられる。その他、ホースなど、ガスバリヤー性が求められる用途に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)に酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)が分散してなる熱可塑性エラストマー組成物(C)であって、酸無水物基またエポキシ基を有する変性ゴム(B)が少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)により動的に架橋されていることを特徴とする熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)がジスルフィド結合をも有することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)が、少なくとも2つのアミノ基と少なくとも1つのジスルフィド結合を有する化合物(D1)およびジスルフィド結合を含まない少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D2)により動的に架橋されていることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)を構成するゴムが、エチレン−α−オレフィン共重合体またはエチレン−不飽和カルボン酸共重合体もしくはその誘導体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
酸無水物基またはエポキシ基を有する変性ゴム(B)が、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して、90〜180質量部であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
少なくとも2つのアミノ基を有する化合物(D)が、変性ゴム(B)100質量部に対して、0.01〜5質量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルムをインナーライナーに用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2011−32391(P2011−32391A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−180918(P2009−180918)
【出願日】平成21年8月3日(2009.8.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】