説明

熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維の製造方法

【課題】 1口金あたり多糸条紡糸を行っても、糸条間および糸条を構成する単繊維間の繊度斑が小さい、また繊維長手方向における太さ斑が小さい、高品質な熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維の製造方法を提供するものである。
【解決手段】 熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を1口金あたり2糸条以上溶融紡糸するに際して、下記要件を満たすことを特徴とする熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維の製造方法。
(1)丸断面吐出孔および/または異形断面吐出孔を有する口金プレート(A)の直上に組成物を供給する計量プレート(B)が設置されていること。
(2)口金プレート(A)に設置された2つ以上の吐出孔(A1)からなる群に対して、吐出孔群の導入孔(A2)があり、該導入孔(A2)に計量プレート(B)の吐出孔(B1)が設置されていること。
(3)計量プレート(B)が口金プレート(A)下面から上方5〜30mmの位置に設置されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの口金で多糸条紡糸する際、糸条間および糸条を構成する単繊維間での繊度差が小さく、また繊維長手方向における太さ斑のない品質の優れた熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維を長時間安定して得ることができる製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル、セルロースエーテルなどのセルロース系材料は、地球上で最も大量に生産されるバイオマス材料として、また自然環境下にて生分解可能な材料として昨今の大きな注目を集めつつある。セルロース系繊維としてはビスコースレーヨン、キュプラなどの再生セルロース繊維、セルロースジアセテート、セルローストリアセテートなどのセルロースアセテート繊維が知られている。これらの繊維はいずれも組成物が熱可塑性を有していない、あるいは熱可塑化が発現する温度が熱分解温度以上であるため、溶融紡糸法によって繊維化することはできず、溶媒を使用する湿式あるいは乾式の製糸方法によって製造されている。一方、近年新規なセルロース系繊維として、溶融紡糸法による環境負荷の低減および生産性向上を目的として、セルロース脂肪酸混合エステルに可塑剤を添加した組成物を用い、該組成物の熱分解温度以下で熱流動性を向上させ溶融紡糸を行う技術が開示されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
溶融紡糸では、通常、紡糸口金から紡出された多数本の単繊維は1本に収束し、1糸条として巻き取るのが普通であるが、生産効率を上げるため、紡糸口金の吐出孔数を増やし、1つの口金から2糸条あるいはそれ以上の糸条数で分割した後、巻き取る方法が採用されている。このような多糸条巻取りを行う場合、各糸条の繊度を正確にしておかないと、これらの糸条を用いて織編物に加工した場合、タテ筋やヨコ斑、光沢斑などを有する低品位な織編物となり好ましくない。1つの紡糸口金から紡出される各糸条間の繊度差および糸条を構成する単繊維間の繊度差、および繊維長手方向の太さ斑を抑制するためには、各吐出孔から吐出されるポリマー量を均一にし、また紡出された単繊維を均一冷却させることが必要となる。
【0004】
特許文献3では、繊維長手方向および糸条を構成する単糸の太さ斑が小さい、均一性に優れた熱可塑性セルロースエステル系マルチフィラメントが提案されている。該文献では、吐出孔中心間距離や口金背面圧を特定範囲とすることで単糸間の太さ斑の小さい繊維が得られているが、該文献では糸条を構成する単繊維の数はたかだか48本であり、これを2糸条取りとする場合、特定の吐出孔間距離を確保することができなくなるため、繊維の長手方向における太さ斑が発生してしまい、また製糸操業性が悪化してしまう。
【0005】
一方、ポリエステルやポリアミド等の熱可塑性重合体を用い、1口金から多糸条巻取りを行う技術について、糸条間および糸条を構成する単繊維間の繊度斑を抑制する技術が開示されている(特許文献4〜6)。
【0006】
特許文献4では、ゲル化抑制により糸切れを減少させ、かつ糸条間の繊度のバラツキを小さくし、1口金あたり2糸条以上の変形断面糸を安定に紡糸する方法が開示されている。該方法を熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物に適用した場合、糸条間の繊度差はある程度抑制できるものの、得られる糸条の長手方向の太さ斑は非常に大きく、また安定した製糸が困難である。
【0007】
また特許文献5では、フィラメント間で繊度斑のないモノフィラメントを効率良く紡糸することができる多糸条紡糸口金が開示されている。該紡糸口金を熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物に適用した場合、糸条間の繊度差は抑制できるものの、多フィラメント化すると繊維の長手方向の太さ斑が大きくなり、安定した製糸が困難である。またノズルプレート1つに対して2つ以上の計量プレートを設置しているため、多糸条化、多フィラメント化への展開には大きな制限がある。
【0008】
更には特許文献6では、単糸繊度が小さい異形断面繊維の溶融紡糸技術に関して、繊維間の太さ斑を発生させることなく、良好な品質の繊維を安定に溶融紡糸できる方法が開示されている。該方法を熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物に適用した場合、糸条間の繊度差はある程度抑制できるものの、やはり得られる繊維の長手方向の太さ斑は非常に大きく、また安定した製糸が困難である。
【0009】
このように熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を用いて1口金で2糸条以上を紡糸し、糸条間および糸条を構成する単繊維間の繊度斑が小さく、かつ繊維長手方向における太さ斑の小さい繊維を操業性良く得られる方法はなかった。
【特許文献1】特開2004−27378号公報
【特許文献2】特開2004−211278号公報
【特許文献3】特開2006−118060号公報
【特許文献4】特開昭59−47414号公報
【特許文献5】特開平9−268419号公報
【特許文献6】特開2005−60883号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来の問題点を解決しようとするものであり、1口金で2糸条以上紡糸する際、糸条間での繊度差および糸条を構成する単繊維間の繊度斑が小さく、更には繊維長手方向における太細斑も小さい、品質の優れた熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維を長時間安定して得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記した課題を解決するために鋭意検討を行った結果、熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を溶融紡糸する際、特定要件を満たす紡糸条件を採用することで、品質の優れた繊維を長時間安定して得られる製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、以下の構成を要旨とするものである。
【0013】
本発明の第1の発明は、熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を1口金あたり2糸条以上溶融紡糸するに際して、下記要件を満たすことを特徴とする熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維の製造方法である。
(1)丸断面吐出孔および/または異形断面吐出孔を有する口金プレート(A)の直上に組成物を供給する計量プレート(B)が設置されていること。
(2)口金プレート(A)に設置された2つ以上の吐出孔(A1)からなる群に対して、吐出孔群の導入孔(A2)があり、該導入孔(A2)に計量プレート(B)の吐出孔(B1)が設置されていること。
(3)計量プレート(B)が口金プレート(A)下面から上方5〜30mmの位置に設置されていること。
【0014】
第2の発明は、熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物がセルロースアセテートプロピオネートあるいはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする上記第1の発明に記載の熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特定の溶融紡糸条件を採用することにより、糸条間の繊度差および糸条を構成する単繊維間の繊度斑が小さく、更には繊維長手方向における太細斑も小さい、品質の優れた熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維を製糸操業性良く得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維の製造方法について詳細に説明する。
【0017】
本発明における熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物とはセルロース脂肪酸混合エステルおよび可塑剤を少なくとも含んでなる組成物である。
【0018】
セルロース脂肪酸混合エステルとは、セルロースのグルコースユニットに存在する3つの水酸基が2種類以上のアシル基により封鎖されたものであり、熱流動特性、製糸操業性、コスト面等からセルロース脂肪酸混合エステルとしては、アセチル基とプロピオニル基を有するセルロースアセテートプロピオネートがおよびアセチル基とブチリル基を有するセルロースアセテートブチレートが好ましい。
【0019】
可塑剤としては、多価アルコール系化合物が好ましく、具体的にはセルロース脂肪酸混合エステルとの相溶性が良好であり、また溶融紡糸可能な熱可塑化効果が顕著に現れるポリアルキレングリコール、グリセリン系化合物、カプロラクトン系化合物などであり、なかでもポリアルキレングリコールが好ましい。
【0020】
本発明における熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物には、その物性を損なわない範囲で艶消し剤、消臭剤、難燃剤、糸摩擦低減剤、着色防止剤、着色顔料、染料、制電剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤等として、無機微粒子や有機化合物を必要に応じて含有することができる。
【0021】
本発明において熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を1口金あたり2糸条以上溶融紡糸するに際して、図1aおよび図1bに示すとおり、丸断面吐出孔および/または異形断面吐出孔を有する口金プレート(A)の直上に計量プレート(B)が設置されていることが重要である。
【0022】
本発明の熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物は、その溶融粘度の剪断速度依存性が非常に大きい特性を有している。剪断速度と溶融粘度の関係は屈曲性ポリマーであるポリエチレンテレフタレート(PET)やナイロン6(N6)とは全く異なっており、液晶ポリエステルのように、低剪断速度領域から直線的に変化する粘度挙動を示し、溶融粘度の剪断速度依存性は、PET対比、1.3〜3.0倍高い。そのため通常の1枚構成の紡糸口金(図3)を用いて、紡糸を行おうとしても、熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物の見かけ溶融粘度が非常に低くなるため、背面圧を十分に確保できない。背面圧を十分に確保するためには、吐出孔(A1)の孔径の小径化や孔長を長くする手法があげられるが、前者の手法では、本組成物は可紡領域が狭く、吐出孔通過時の剪断応力が高くなってしまうため、紡出糸条にシャークスキンやメルトフラクチャー等が発生し安定した製糸が困難となったり、また操業時に吐出孔の詰まりが発生しやすくなる。一方、後者の手法では、使用前後の紡糸口金の洗浄が不十分といった問題が発生してしまう。また異形断面糸を溶融紡糸する場合、吐出孔(スリット幅、長さ、孔長等)(A1)の加工精度を極めて高くしておかないと、吐出孔通過時の剪断速度が吐出孔間で変化してしまい、組成物の溶融粘度が大きく変化してしまう。その結果、吐出孔間でポリマーの吐出量斑が発生してしまい、単繊維間で繊度差が生じてしまう。なお加工精度を高めることには限界があり、また加工精度を高めようとすると、必然的に紡糸口金の製作コストも高くなってしまう。しかしながら前記紡糸口金構成を採用することで、口金プレート(A)に設けられた複数の吐出孔(A1)群に対して、個別に所定の背面圧を設定することが可能となり、また異形孔を用いた溶融紡糸を行っても、計量プレート(B)で精密な計量性を確保でき、各吐出孔での組成物の吐出量斑を抑制できる。その結果、糸条を構成する単繊維の繊度斑を抑制することができ、糸条間の繊度差も抑制することが可能となる。
【0023】
なお口金プレートの吐出孔(A1)の形状は、真円の他に多葉形、扁平形、楕円形、W字形、S字形、X字形、H字形、C字形、田字形、井形、中空などの異形断面孔を採用できる。
【0024】
一方、計量プレートの吐出孔(B1)の形状は、加工性、口金プレートの導入孔(A2)への溶融紡糸組成物の供給量の均整性の観点から丸断面が好ましい。
【0025】
また口金プレートの吐出孔(A1)までは、計量プレートの導入孔(B2)、吐出孔(B1)、およびこれらに引き続く口金プレートの導入孔(A2)、吐出孔(A1)より構成されるが、熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物の通過部における異常滞留を抑制できる観点から、図1bに示す紡糸口金構成を用いることが好ましい。
【0026】
本発明において、計量プレート(B)は口金プレート(A)下面から上方5〜30mmの位置に設置されていることが重要である(図中L1に相当する)。熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物の溶融粘度挙動は、ポリエステルやポリアミドとは大きく異なっており、剪断速度依存性が大きいだけでなく、温度依存性も大きい。すなわちPETやN6の溶融粘度は、温度変化による粘度変化が小さく、溶融粘度の温度依存性が小さい。しかしながら本発明で用いる熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物の溶融粘度は温度変化による粘度変化も大きい。具体的には、PETやN6対比、1.5〜3.0倍程度大きいものである。本組成物の場合、溶融紡糸時に組成物が通過する場所に温度斑があれば、溶融粘度が大きく変化してしまう。そのため組成物が通過する場所において温度斑があれば、各吐出孔への組成物の供給量にバラツキが発生し、それが単繊維間および糸条間の繊度差につながる。
【0027】
紡糸口金はスピンブロックにより加熱されているとはいえ、紡糸口金面は外気と接している。スピンブロックに近い紡糸口金の外側とスピンブロックに遠い紡糸口金中心とでは、当然、同じ温度ではなく、紡糸口金面で温度斑が発生している。したがって通常の1枚で構成されている紡糸口金(図3)では、口金面や吐出孔での温度斑に起因して吐出量斑が大きくなってしまう。しかしながら計量プレート(B)を口金プレート(A)下面から上方5mm以上に設置することで、計量プレート自体が温度斑の小さい場所(紡糸パック内部)に設置されていることとなるため、本組成物の溶融粘度斑も小さくなる。したがって計量プレートの吐出孔(B1)に供給される組成物の量も均一性が高まり、結果的に口金プレート(A)から吐出される組成物量も均一性が高まり、得られる繊維は、糸条間の繊度差が小さく、また糸条を構成する単繊維間の繊度斑も小さくなる。また異形断面糸を紡糸する場合、異形孔より加工精度を高めることができる真円孔を有する計量プレートで各孔への組成物の分配斑を抑制でき、吐出量の斑も抑制できる。
【0028】
なお計量プレート設置位置の上限は30mmであり、この位置以上で設置してももはや糸条間および単繊維間の繊度差の改善効果は見られなくなり、また紡糸口金自体の厚みが大きくなるため、取扱性や紡糸口金の製作コスト等が実用的でなくなってしまう。計量プレートの設置位置は、8mm以上であることがより好ましく、10mm以上であることが更に好ましい。
【0029】
本発明において、口金プレート(A)と計量プレート(B)の口金背面圧を各々P(A)、P(B)とした場合、P(A)+P(B)は3MPa以上であることが好ましい。3MPa以上とすることで口金背面圧が十分となり組成物の分配性が良好となる。口金背面圧の和は、4MPa以上であることがより好ましく、5MPa以上であることが更に好ましい。一方、口金背面圧の和の上限値は20MPa以下であることが好ましい。20MPa以下とすることで、紡糸パック内に設置されているフィルターや濾過層等に捕捉される異物の影響により、紡糸パック内の圧力が徐々に上昇して耐圧(上限)値に達するまでの期間が十分となり、紡糸パックの交換を頻繁に行う必要がなくなり、生産性が低下しない。口金背面圧の和は18MPa以下であることがより好ましく、16MPa以下であることが更に好ましい。
【0030】
本発明において、口金プレート(A)に設置された2つ以上の吐出孔(A1)からなる吐出孔群(図4)に対して、この吐出孔群の導入孔(A2)に組成物を供給する計量プレート(B)の吐出孔(B1)が設置されていることが重要である。糸条間および糸条を構成する単繊維間の繊度差を抑制できても、口金プレートの吐出孔(A1)から紡出される糸条を構成する単繊維の冷却斑が生じてしまえば、繊維長手方向に太さ斑が発生してしまい、織編物に加工する際、毛羽や糸切れが発生したり、染色を行うと部分的に強い染め斑、染め筋などの欠点となってしまう。本発明の組成物は、前記したとおり、溶融粘度の温度依存性が大きいため、紡糸口金より紡出された糸条の冷却固化も急速に進行する。一般的な紡糸設備は、円形の紡糸口金から吐出されるポリマーを一方向から冷却するシステム(ユニフロータイプ)が採用されており、冷却風吹き出し面に近い側の単繊維は均一冷却されるが、一方、遠い側に位置する単繊維は冷却風が通り抜けにくいため、均一冷却されず太さ斑が発生してしまう。しかしながら口金プレートに設けられている吐出孔(A1)を郡構成とすることで、郡間を冷却風がスムーズに通り抜けることができるため、冷却風吹き出し面から遠い側の単繊維も均一冷却が可能となる。そのため得られる繊維は長手方向における太さ斑がなく、品質の優れたものとなる。
【0031】
本発明の口金プレートに設けられている吐出孔郡(図4)における吐出孔間隔(L2)は0.8mm以上であることが好ましい。なお吐出孔間隔(L2)とはそれぞれの吐出孔から最も近い別の吐出孔までの距離をいう。吐出孔間隔(L2)が0.8mm未満の場合、口金孔から吐出した組成物が冷却、固化される前に別の吐出孔から吐出した組成物と融着してしまい安定した製糸が困難となる。吐出孔間隔(L2)は1.0mm以上がより好ましく、1.2mm以上が更に好ましい。
【0032】
また1つの吐出孔群(図4)に存在する吐出孔(A1)の数は10個以下であることが好ましい。10個以下とすることで吐出孔間隔を0.8mm以上維持でき、単繊維の均一冷却が可能となり、繊維長手方向における太さ斑を抑制できる。吐出孔の個数は9個以下であることがより好ましく、8個以下であることが更に好ましい。なお吐出孔群に含まれる吐出孔(A1)は同心円上に配列されていることが好ましい。
【0033】
本発明の熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を溶融紡糸する際、紡糸温度は280℃以下とすることが好ましい。紡糸温度を高くすれば、本組成物の溶融粘度の剪断速度依存性や温度依存性を小さくすることができるが、紡糸温度を高くすると、組成物中のセルロース脂肪酸混合エステルの熱分解温度に近くなり、熱分解が著しく進行し、得られる繊維が着色したり、機械的特性が低下したり、また製糸操業性が大きく悪化するため、紡糸温度は280℃以下であることが好ましい。なお紡糸温度の下限は、セルロース脂肪酸混合エステルの融点により適宜設定すれば良く、組成物の熱流動特性、製糸操業性の観点から(融点+20)℃以上であることが好ましい。
【0034】
かくして得られる熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維は、以下に示す特性(1)〜(3)を有している。糸条間の繊度差および糸条を構成する単繊維の繊度差が小さく、さらには繊維長手方向における太さ斑も小さい品質の優れた熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル繊維を製織・製編工程に供しても糸切れによる停台や毛羽の発生を抑制できる。更には織物や編物等の布帛形態とした場合にたて筋やヨコ斑が発生せず、また染色を行っても染め斑、染め筋などが発生せず、高品位で均染性に優れた布帛を得ることが可能となる。
(1)糸条間の繊度CV%が1.0%以下である。糸条間の繊度CV%とは、1口金で2糸条以上の多糸条を紡糸した際、その糸条間の繊度斑を表す指標である。糸条間の繊度CV%が1.0%以下の場合、糸条間での繊度差が小さいため、これらの糸条を用いて織編物に加工した場合、タテ筋やヨコ斑、光沢斑などといった欠点が発生しない。
(2)糸条を構成する単繊維の繊度CV%が5%以下である。単繊維の繊度CV%とは、糸条の断面方向における構成繊維の直径斑の指標である。この斑が大きく、言い換えれば平均繊度よりも細い繊度の単繊維が存在すると織編物に加工する際に細繊度の単繊維が切れて毛羽になったり、停台しやすくなるという問題があり、また平均繊度よりも太い繊度の単繊維が存在すると、染色したときに濃染になる傾向となり筋斑が発生しやすい。しかしながら単繊維の繊度CV%を5%以下とするとこのような問題が発生せず、工程通過性や均染性が良好となる。
(3)繊度変動値U%(ハーフイナート)が1.2%以下である。繊度変動値とは、繊維長手方向における太さ斑をあらわす指標であり、この数値が小さいほど繊維の長手方向における太さの均一性が優れていることを示す。U%が1.2%以下であれば、糸条を構成する単繊維が均一冷却されていることになるため紡出糸条の走行性は安定し製糸操業性が良好となり、また織編物に加工する際、毛羽や糸切れが発生せず、さらには染色を行っても、部分的に強い染め斑、染め筋などの欠点が発生せず、高品位な織編物となる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお実施例中の各特性値は次の方法で求めた。
A.セルロース脂肪酸混合エステルの平均置換度
80℃で8時間の乾燥したセルロース脂肪酸混合エステル0.9gを秤量し、アセトン35mlとジメチルスルホキシド15mlを加え溶解した後、さらにアセトン50mlを加えた。撹拌しながら0.5N−水酸化ナトリウム水溶液30mlを加え、2時間ケン化した。熱水50mlを加え、フラスコ側面を洗浄した後、フェノールフタレインを指示薬として0.5N−硫酸で滴定した。別に試料と同じ方法で空試験を行った。滴定が終了した溶液の上澄み液を100倍に希釈し、イオンクロマトグラフを用いて、有機酸の組成を測定した。測定結果とイオンクロマトグラフによる酸組成分析結果から、下記式により置換度を計算した。
【0036】
TA=(B−A)×F/(1000×W)
DSace=(162.14×TA)/[{1−(Mwace−(16.00+1.01))×TA}+{1−(Mwacy−(16.00+1.01))×TA}×(Acy/Ace)]
DSacy=DSace×(Acy/Ace)
TA:全有機酸量(ml)
A:試料滴定量(ml)
B:空試験滴定量(ml)
F:硫酸の力価
W:試料重量(g)
DSace:アセチル基の平均置換度
DSacy:アシル基の平均置換度
Mwace:酢酸の分子量
Mwacy:他の有機酸の分子量
Acy/Ace:酢酸(Ace)と他の有機酸(Acy)とのモル比
162.14:セルロースの繰り返し単位の分子量
16.00:酸素の原子量
1.01:水素の原子量
B.繊度および糸条間の繊度CV%
温度20℃、湿度65%RHの環境下において、INTEC社製の検尺機を用いて測定した。測定回数は5回であり、その平均値を繊度とした。
【0037】
また同一口金から得られた糸条の繊度より、繊度のバラツキの指標となる繊度CV%を下式により算出した。ただしX1は糸条の平均値であり、σ1は標準偏差である。
【0038】
糸条間の繊度CV%=(σ1/X1)×100
C.糸条を構成する単繊維の繊度CV%
糸条を構成する各単糸間の繊度バラツキの指標として、単糸繊度CV%を用い、下式により算出した。ただしX2は糸条を構成する単繊維の繊度の平均値であり、σ2は標準偏差である。
【0039】
単繊維の繊度CV%=(σ2/X2)×100
なお単繊維の繊度は得られた糸条を繊維軸方向に対して垂直に切断し、その切断面を光学顕微鏡で撮影し、得られた画像から糸条を構成する各単繊維の直径を測定し、その値から各単繊維の繊度を算出した。
D.繊度変動値(U%)
U%測定(ハーフモード)は、ツェルベガーウースター社製ウースターテスター4−CXにより、下記条件にて行った。なお測定回数は5回であり、その平均値をU%とした。
【0040】
測定速度 :200m/分
測定時間 :2.5分
測定繊維長:500m
撚り :S撚り、12000/m
E.口金背面圧
熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を紡糸パックに導入し始めた時から紡糸口金より吐出されるまでの間、圧力値をレコーダーに記録し、得られた圧力チャートから紡糸口金通過時に上昇した圧力値を読み取り、計量プレートおよび口金プレートの背面圧とした。
F.製糸操業性評価
1糸条10kgを採取するにあたり、糸切れした回数により製糸操業性を評価し、○を合格とした。
【0041】
○:糸切れ回数が0〜1回
×:糸切れ回数が2回以上
合成例1
セルロース(コットンリンター)100重量部に、酢酸240重量部とプロピオン酸67重量部を加え、50℃で30分間混合した。混合物を室温まで冷却した後、氷浴中で冷却した無水酢酸172重量部と無水プロピオン酸168重量部をエステル化剤として、硫酸4重量部をエステル化触媒として加えて、150分間撹拌を行い、エステル化反応を行った。エステル化反応において、40℃を越える時は、水浴で冷却した。反応後、反応停止剤として酢酸100重量部と水33重量部の混合溶液を20分間かけて添加して、過剰の無水物を加水分解した。その後、酢酸333重量部と水100重量部を加えて、80℃で1時間加熱撹拌した。反応終了後、炭酸ナトリウム6重量部を含む水溶液を加えて、析出したセルロースアセテートプロピオネート(CAP)を濾別し、続いて水で洗浄した後、60℃で4時間乾燥し、CAP(アセチル基の平均置換度2.0、プロピオニル基の平均置換度0.7、融点228℃)を得た。このCAP80重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)19.8重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.2重量%を二軸エクストルーダーを用いて235℃で混練し、5mm程度にカッティングして熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物ペレットを得た。
【0042】
実施例1
合成例1で製造した熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を255℃で溶融させ、紡糸温度260℃で紡糸パックに導入し、図1bに示す紡糸口金(B1:孔径/孔長=0.25/0.75、A1:孔径/孔長=0.23/0.46、単位:mm)を用い、1口金より2糸条吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度2000m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(設定品種100デシテックス−24フィラメント−丸断面)。
【0043】
得られた各糸条の繊度は99.5dtex、100.8dtexであり、繊度CV%は0.65%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。また各糸条の単繊維の繊度CV%は3.5%、3.7%であり、単繊維間の繊度斑も小さく繊度の均斉性に優れたものであった。
【0044】
さらには得られた各糸条の繊度変動値(U%)は各々0.6、0.7であり、繊維長手方向における太さ斑も小さいものであった。
【0045】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは0回であり、製糸操業性は良好であった。
【0046】
実施例2
合成例1で製造した熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を255℃で溶融させ、紡糸温度260℃で紡糸パックに導入し、図1aの構成で吐出孔数(A1)が4つである紡糸口金(B1:孔径/孔長=0.25/0.75、A1:孔径/孔長=0.20/0.60、単位:mm)を用い、1口金より2糸条吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1800m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(設定品種100デシテックス−48フィラメント−丸断面)。
【0047】
得られた各糸条の繊度は100.5dtex、101.3dtexであり、繊度CV%は0.40%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。また各糸条の単繊維の繊度CV%は3.1%、3.3%であり、単繊維間の繊度斑も小さく繊度の均斉性に優れたものであった。
【0048】
また得られた各糸条の繊度変動値(U%)は各々0.8、0.8であり、繊維長手方向における太さ斑も小さいものであった。
【0049】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは1回であり、製糸操業性は良好であった。
【0050】
実施例3
合成例1で製造した熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を260℃で溶融させ、紡糸温度260℃で紡糸パックに導入し、図1bの構成で吐出孔数(A1)が5つである紡糸口金(B1:孔径/孔長=0.4/1.0、A1:スリット幅/スリット長=0.08/0.2、単位:mm)を用い、1口金より3糸条吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1500m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(設定品種80デシテックス−20フィラメント−三葉断面)。
【0051】
得られた各糸条の繊度は80.1dtex、79.5dtex、81.0dtexであり、繊度CV%は0.77%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。また単繊維の繊度CV%は3.4%、4.0%、3.5%であり、単繊維間の繊度斑も小さく繊度の均斉性に優れたものであった。
【0052】
また得られた各糸条の繊度変動値(U%)は各々0.9、0.8、0.9であり、繊維長手方向における太さ斑も小さいものであった。
【0053】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは0回であり、製糸操業性は良好であった。
【0054】
合成例2
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートプロピオネート(CAP482−20、アセチル基置換度0.1、プロピオニル基置換度2.5、融点195℃)90重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)10重量%を二軸エクストルーダーを用いて210℃で混練し、5mm程度にカッティングして熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物ペレットを得た。
【0055】
実施例4
合成例2で製造した熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を240℃で溶融させ、紡糸温度245℃で紡糸パックに導入し、図1bの構成で吐出孔(A1)数が3つである紡糸口金(B1:孔径/孔長=0.35/0.7、A1:孔径/孔長=0.08/0.72、単位:mm)を用い、1口金より2糸条吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度2000m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(設定品種150デシテックス−36フィラメント−八葉断面)。
【0056】
得られた各糸条の繊度は150.3dtex、150.9dtexであり、繊度CV%は0.2%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。また単繊維の繊度CV%は2.4%、2.7%であり、単繊維間の繊度斑も小さく繊度の均斉性に優れたものであった。
【0057】
また得られた各糸条の繊度変動値(U%)は0.7、0.8であり、繊維長手方向における太さ斑も小さいものであった。
【0058】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは0回であり、製糸操業性は良好であった。
【0059】
実施例5
合成例2で製造した熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を240℃で溶融させ、紡糸温度240℃で紡糸パックに導入し、図1bの構成で吐出孔(A1)数が9つである紡糸口金(B1:孔径/孔長=0.3/0.75、A1:孔径/孔長=0.18/0.54、単位:mm)を用い、1口金より4糸条吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1500m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(設定品種84デシテックス−36フィラメント−丸断面)。
【0060】
得られた各糸条の繊度は84.4dtex、83.7dtex、83.9dtex、84.8dtexであり、繊度CV%は0.51%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。また単繊維の繊度CV%は3.8%、4.0%、3.9%、4.1%であり、単繊維間の繊度斑も小さく繊度の均斉性に優れたものであった。
【0061】
また得られた各糸条のU%は繊度変動値(U%)0.9、1.0、1.1、1.0であり、繊維長手方向における太さ斑も小さいものであった。
【0062】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは0回であり、製糸操業性は良好であった。
合成例3
イーストマンケミカル社製セルロースアセテートブチレート(CAB171−15、アセチル基平均置換度2.0、ブチリル基平均置換度0.7、融点=232℃)85重量%と平均分子量600のポリエチレングリコール(PEG600)14.8重量%およびリン系酸化防止剤としてビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト0.2重量%を二軸エクストルーダーを用いて240℃で混練し、5mm程度にカッティングしてCAB組成物ペレットを得た。
【0063】
実施例6
合成例3で製造した熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を260℃で溶融させ、紡糸温度260℃で紡糸パックに導入し、図1bの構成で吐出孔(A1)数が6つである紡糸口金(B1:孔径/孔長=0.25/0.75、A1:孔径/孔長=0.16/0.48、単位:mm)を用い、1口金より2糸条吐出させた。この紡出糸条を冷却長1mの冷却装置(ユニフロータイプ)を用いて風温20℃、風速0.5m/秒の冷却風によって冷却・固化させ、紡糸口金下1800mmに位置にて給油装置を用いて油剤を付与して収束させ、第1ゴデットローラー(速度1500m/分)にて引き取り、第1ゴデットローラーと同じ速度で回転する第2ゴデットローラーを介して巻取機にて巻き取った(設定品種150デシテックス−72フィラメント−丸断面)。
【0064】
得られた各糸条の繊度は151.1dtex、148.5dtex、繊度CV%は0.87%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。また単繊維の繊度CV%は4.8%、4.5%であり、単繊維間の繊度斑も小さく繊度の均斉性に優れたものであった。
【0065】
また得られた各糸条のU%は繊度変動値(U%)1.0、1.1であり、繊維長手方向における太さ斑も小さいものであった。
【0066】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは0回であり、製糸操業性は良好であった。
【0067】
【表1】

【0068】
比較例1
実施例1で用いた口金プレート(A1:孔径/孔長=0.23/0.46、単位:mm)のみを用い、それ以外は実施例1と同様に紡糸を行った。
【0069】
得られた各糸条の繊度は98.5dtex、101.6dtex、繊度CV%は1.55%であり、糸条間の繊度差は大きいものであった。また各糸条を構成する単繊維の繊度CV%は8.4%、9.3%であり、単繊維間の繊度斑も大きいものであった。一方、各糸条の繊度変動値(U%)は各々0.9、0.8であり、繊維長手方向における太さ斑は小さいものであった。
【0070】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは1回であり、製糸操業性は良好であった。
【0071】
比較例2
口金プレートの厚みを4mmに変更する以外は、実施例1と同様に紡糸を行った。得られた糸条の繊度は98.7dtex、101.2dtex、繊度CV%は1.25%であり、糸条間の繊度差は大きいものであった。また各糸条を構成する単繊維の繊度CV%は8.0%、8.7%であり、単繊維間の繊度斑も大きいものであった。一方、各糸条の繊度変動値(U%)は各々0.7、0.8であり、繊維長手方向における太さ斑は小さいものであった。
【0072】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは0回であり、製糸操業性は良好であった。
【0073】
比較例3
紡糸口金の構成を図2(B1:孔径/孔長=0.25/0.75、A1:孔径/孔長=0.23/0.46、単位:mm)に変更する以外は、実施例1と同様に紡糸を行った。得られた糸条の繊度は、99.1dtex、101.0dtexであり、繊度CV%は0.95%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。また各糸条を構成する単繊維の繊度CV%は4.8%、4.9%であり、単繊維間の繊度斑も小さいものであった。
【0074】
しかしながら得られた各糸条の繊度変動値(U%)は各々3.8、4.2%であり、繊維長手方向における太さ斑は非常に大きいものであった。
【0075】
製糸操業性評価を行ったところ、走行糸条の糸揺れが大きく糸切れは3回発生し、製糸操業性は不良であった。
【0076】
【表2】

【0077】
参考例1
極限粘度[η]0.63(オルソクロロフェノール中で25℃で測定)のポリエチレンテレフタレートを用い、溶融温度および紡糸温度を290℃に変更する以外は比較例1と同様に紡糸を行った。得られた糸条の繊度は100.3dtex、100.7dtexであり、繊度CV%は0.2%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。各糸条を構成する単繊維の繊度CV%は2.0%、1.9%であり、単繊維間の繊度斑も小さく繊度の均斉性に優れたものであった。
【0078】
また得られた各糸条の繊度変動値(U%)は各々0.4、0.4であり、繊維長手方向における太さ斑は小さいものであった
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは0回であり、製糸操業性は良好であった。
【0079】
参考例2
極限粘度[η]0.63(オルソクロロフェノール中で25℃で測定)のポリエチレンテレフタレートを用い、溶融温度および紡糸温度を290℃に変更する以外は比較例2と同様に紡糸を行った。得られた糸条の繊度は100.4dtex、100.7dtexであり、繊度CV%は0.15%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。各糸条を構成する単繊維の繊度CV%は2.2%、2.0%であり、単繊維間の繊度斑も小さく繊度の均斉性に優れたものであった。
【0080】
また得られた各糸条の繊度変動値(U%)は各々0.5、0.4であり、繊維長手方向における太さ斑は小さいものであった。
【0081】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは0回であり、製糸操業性は良好であった。
【0082】
参考例3
極限粘度[η]0.63(オルソクロロフェノール中で25℃で測定)のポリエチレンテレフタレートを用い、溶融温度および紡糸温度を290℃に変更する以外は比較例3と同様に紡糸を行った。得られた糸条の繊度は100.6dtex、100.8dtexであり、繊度CV%は0.10%であり、糸条間の繊度差は小さいものであった。各糸条を構成する単繊維の繊度CV%は1.8%、2.1%であり、単繊維間の繊度斑も小さく繊度の均斉性に優れたものであった。
【0083】
また得られた各糸条の繊度変動値(U%)は各々0.4、0.3であり、繊維長手方向における太さ斑は小さいものであった。
【0084】
製糸操業性評価を行ったところ、糸切れは0回であり、製糸操業性は良好であった。
【0085】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0086】
熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を1口金あたり2糸条以上溶融紡糸する際、糸条間および糸条を構成する単繊維間の繊度斑が小さく、また繊維長手方向における太さ斑のない品質に優れた繊維を安定して得ることができ、特にセルロースアセテートプロピオネート組成物およびセルロースアセテートブチレート組成物からなる繊維に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明の計量プレートと口金プレートを組み合わせた紡糸口金の例の縦断面図である。
【図2】計量プレートと口金プレートを組み合わせた通常の紡糸口金の例の縦断面図である。
【図3】口金プレートのみからなる紡糸口金の例の縦断面図である。
【図4】本発明の吐出孔郡における吐出孔の配置の一例を示した平面図である。
【符号の説明】
【0088】
A :口金プレート
A1:口金プレートの吐出孔
A2:口金プレートの導入孔
B :計量プレート
B1:計量プレートの吐出孔
B2:計量プレートの導入孔
L1:口金プレート下面からの距離(計量プレート設置位置)
L2:吐出孔郡における吐出孔間隔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物を1口金あたり2糸条以上溶融紡糸するに際して、下記要件を満たすことを特徴とする熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維の製造方法。
(1)丸断面吐出孔および/または異形断面吐出孔を有する口金プレート(A)の直上に組成物を供給する計量プレート(B)が設置されていること。
(2)口金プレート(A)に設置された2つ以上の吐出孔(A1)からなる群に対して、吐出孔群の導入孔(A2)があり、該導入孔(A2)に計量プレート(B)の吐出孔(B1)が設置されていること。
(3)計量プレート(B)が口金プレート(A)下面から上方5〜30mmの位置に設置されていること。
【請求項2】
熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物がセルロースアセテートプロピオネートあるいはセルロースアセテートブチレートであることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性セルロース脂肪酸混合エステル組成物からなる繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−215670(P2009−215670A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−59299(P2008−59299)
【出願日】平成20年3月10日(2008.3.10)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】