説明

熱可塑性フィルム、熱可塑性樹脂組成物および層状珪酸塩

有機カチオンによってカチオン交換された層状珪酸塩とポリエステルまたはポリカーボネートからなるフィルムである。有機カチオンは下記式(I)


ここで、Rは下記式(I−1)


ここで、Rは炭素数5〜20の2価の炭化水素基でありそしてRは炭素数1〜20の2価の炭化水素基である、で表される基、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、そしてLはアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンまたはヘテロ芳香族イオンでありそしてnは1〜4の整数である、但しLがアンモニウムイオンまたはホスホニウムイオンであるとき、nは4であり且つ4つのRは同一でも異なっていてもよい、
で表される。このフィルムは層状珪酸塩が高度に分散され、機械特性、寸法安定性等種々の特性に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は有機カチオンを含有する層状珪酸塩を含有する熱可塑性樹脂組成物からなるフィルム、該熱可塑性樹脂組成物および該層状珪酸塩に関する。さらに詳しくは該層状珪酸塩が高度に分散されそして機械的特性や寸法安定性等の諸特性に優れたフィルム、それを与える樹脂組成物および層状珪酸塩に関する。
従来技術
ポリエステルをはじめとする熱可塑性樹脂は、その優れた機械特性、成形性、耐熱性、耐侯性、耐光性、耐薬品性等の特性を生かし、様々な用途で使用されている。例えばポリエステルフィルムは、ポリエステルの優れた耐熱性、機械特性、電気特性、耐薬品性、光学特性、耐環境特性等を利用して、磁気記録媒体、電子実装基板、コンデンサをはじめとする電気電子材料用、包装用、医療用、各種工業材料用等、様々な用途に幅広く用いられている。しかしながら、近年の技術の進展に伴い、使用される用途に応じてより高度な特性が要求されるようになってきた。例えば、磁気記録媒体、電子実装基板等の電気電子材料用途においては、弾性率をはじめとする機械特性、寸法安定性、表面特性等の向上が望まれている。
従来、これらの特性を向上させる方策としては、ポリエステルが本来有する特性を最大限に引き出すことを目的として、延伸配向をはじめとするフィルム加工技術が用いられてきた(特開2002−370276号公報 2頁参照)。
しかしながら、従来の方法では、ポリエステルのもつ特性以上のものを実現することは困難である。
一方、最近、熱可塑性樹脂に層状化合物をナノスケールで分散させた組成物、所謂ナノコンポジットが注目されている。ナノコンポジットを形成することにより、高耐熱化、高弾性化、難燃化、ガスバリア性能等、様々な特性において樹脂本来の特性を凌駕するような特性向上が実現している(中条 澄 著「ナノコンポジットの世界」、工業調査会、2000年参照)。
ナノコンポジットフィルムに関しても、ポリアミドフィルム(特開2000−336186号公報 2頁参照)、ポリイミドフィルム(特開2000−7912号公報 2頁参照)、ポリカーボネートフィルム(特開2001−131400号公報 2頁参照)等が知られており、ガスバリア性等の特性向上が開示されている。しかしながら、ポリエステルフィルムに関しては、層状化合物の分散が極めて困難であるために報告例が非常に少ない。例えば、層状化合物としてシラン粘土複合体を用い、樹脂としてポリエステルを用いた層状無機物含有フィルムが開示されている(特開平11−71509号公報 2頁参照)。
しかしながら、ナノコンポジット形成時にしばしば見られる副反応(具体的にはポリエステルの場合、ジアルキレングリコール鎖の生成等(特表2002−514265号公報 14頁参照))に対する記載等がない等、不明な点が多い。WO00/60006号公報 59頁 表4にはシラン粘土複合体を用いたポリエステル組成物の記載があるが、曲げ弾性率等の機械特性が通常のポリエステルと比較して著しく低くなっている。
以上のように、ポリエステルのナノコンポジットフィルムに関しては、開発途上であり、その進展が望まれていた。
他方、ポリマーナノコンポジットに用いられる層状化合物としては、通常有機アンモニウムイオンでカチオン交換されたものが使用されるが、この層状化合物は耐熱性がそれほど高くなく、成形温度の高い樹脂には適用できない(特開平11−1605号公報 2頁参照)。かかる問題点の解決策として、ホスホニウムイオン(特開平11−1605号公報 参照)、ヘテロ芳香族イオン(特開平8−337414号公報 2頁参照)の如き熱分解温度の高いオニウムイオンをカチオン交換剤として使用することも知られている。これらについては熱分解の問題は解決できるものの、これらのカチオン交換剤に含まれる有機基が一般的な長鎖アルキル基や芳香族基であり、樹脂との相溶性は考慮されていない。その結果、層状化合物の樹脂に対する相溶性はそれほど高いものではない。樹脂との相溶性向上を指向した例としては、ポリアルコキシル化アンモニウムイオンを層状化合物のカチオン交換剤として使用した例(特開2002−514265号公報 2頁参照)、長鎖アルキルアンモニウムイオンでカチオン交換した層状化合物、およびポリエステルと相溶性の高いポリイミドを併用した例(例えば、特開2002−105294号公報 2頁参照)、ポリマー単位となり得るユニットをカチオン交換剤に組み込んだ例(Y.Imaiら Chem.Mater.,14巻,477−479頁、2002年 参照)が知られている。
しかしながら、特開2002−514265号公報の場合、ポリアルコキシル基およびアンモニウムイオンの耐熱性に問題がある。また、特開2002−105294号公報の場合には、層状化合物に対してポリイミドをある程度過剰に使用しなければならず、マトリクス樹脂本来の特性を損なう恐れがある。また、Chem.Mater.,14巻,477−479頁、2002年の場合にはポリマーがカチオン交換剤の結集した層状化合物の表面上で架橋したような構造になるため、靭性低下の恐れがある。また、反応の性質上、溶融ブレンドなどの短時間プロセスは適用できず、製造プロセスの適用範囲が狭い等の問題もあった。上記のように、熱可塑性樹脂について層状化合物によるナノコンポジット形成および特性発現はいまだに問題点が多く、その改善が望まれていた。
【発明の開示】
本発明の目的は、カチオン交換された層状珪酸塩が高度に分散しそして機械特性、寸法安定性に優れた熱可塑性ポリエステルフィルムまたは熱可塑性芳香族ポリカーボネートフィルムを提供することにある。
本発明の他の目的は、熱可塑性樹脂中にカチオン交換層状珪酸塩が高度に分散された熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、熱可塑性樹脂中に高度に分散可能な層状珪酸塩を提供することにある。
本発明のさらに他の目的および利点は、以下の説明から明らかになろう。
本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第1に、
(A)熱可塑性ポリエステルおよび芳香族ポリカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂100重量部および
(B)下記式(I)

ここで、Rは下記式(I−1)

ここで、Rは炭素数5〜20の2価の炭化水素基でありそしてRは炭素数1〜20の2価の炭化水素基である、で表される基、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、そしてLはアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンまたはヘテロ芳香族イオンでありそしてnは1〜5の整数である、但しLがアンモニウムイオンまたはホスホニウムイオンであるとき、nは4であり且つ4つのRは同一でも異なっていてもよい、
で表される有機カチオンを、カチオンの少なくとも1部として有する層状珪酸塩灰分として0.1〜10重量部
からなる熱可塑性組成物からなることを特徴とするフィルムによって達成される。
また、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第2に、
(A’)熱可塑性樹脂例えば熱可塑性ポリエステルまたは芳香族ポリカーボネート100重量部および
(B)上記式(I)において、Rの少なくとも1つが上記式(I−1)で表される基である有機カチオンを、カチオンの少なくとも1部として有する層状珪酸塩灰分として0.1〜10重量部
からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物によって達成される。
さらに、本発明によれば、本発明の上記目的および利点は、第3に、
下記式

ここで、Rは炭素数5〜20の2価の炭化水素基でありそしてRは炭素数1〜20の2価の炭化水素基であり、R’は下記式(I−1)

ここで、RおよびRの定義は上記に同じである、
で表される基、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、そしてLはアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンまたはヘテロ芳香族イオンでありそしてnは1〜5である、
で表される有機カチオンを、カチオンの少なくとも1部として有する層状珪酸塩によって達成される。
【図面の簡単な説明】
図1はフィルムの断面から観察される層状珪酸塩の形状に関する式(III)における∠ACBを説明する説明図である。
図2はフィルムの断面から観察される層状珪酸塩の形状に関する式(IV)における∠A*B D*Eを説明する説明図である。
図3は実施例3において製造したポリエステルフィルムの断面から観察した写真であり、黒色部がカチオン交換された層状珪酸塩である。
図4は実施例4において製造したポリエステルフィルムの断面から観察した写真であり、黒色部がカチオン交換された層状珪酸塩である。
図5は比較例1の樹脂組成物の電子顕微鏡写真である。
図6は実施例7の樹脂組成物の電子顕微鏡写真である。
発明の好ましい実施形態
以下、本発明について詳述する。先ず、本発明のフィルムについて説明する。
熱可塑性樹脂(A)としては、熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性芳香族ポリカーボネートが用いられる。
熱可塑性ポリエステルとしては、ジカルボン酸成分、ジオール成分および場合によりヒドロキシカルボン酸成分よりなるものが用いられる。
ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸、マレイン酸およびフマル酸の如き脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き環状脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。これらは単独で用いても、また2種類以上組み合わせて用いてもよい。
ジオールとしては例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2,2−ジメチルプロパンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ビフェノール、メチレンビスフェノール、4,4’−エチリデンビスフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−メチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、4,4’−イソプロピリデンビス(2−メチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(1−メチルプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−メチルプロピリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−メチルプロピリデン)ビス(2、6−ジメチルフェノール)、4,4’−シクロペンチリデンビスフェノール、4,4’−シクロペンチリデンビス(2−メチルフェノール)、4,4’−シクロペンチリデンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール、4,4’−シクロヘキシリデンビス(2−メチルフェノール)、4,4’−シクロヘキシリデンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール、4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、ヒドロキノン、レゾルシノールおよび2,2−ビス(2’−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。これらは単独で用いても、また2種類以上組み合わせて用いてもよい。これらのうち、入手性、汎用性の点から、エチレングリコール、1,3−トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、4,4’−イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノールおよび4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビス(2−メチルフェノール)が好ましい。
ヒドロキシカルボン酸としては例えば、p−ヒドロキシ安息香酸、p−ヒドロキシエトキシ安息香酸、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、4’−ヒドロキシ−ビフェニル−4−カルボン酸の如き芳香族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。これらは単独で用いても、また2種類以上組み合わせて用いてもよい。
かかるポリエステルとしては、芳香族ポリエステルが好ましい。その具体例としては、例えばポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(1,3−トリメチレンテレフタレート)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)、ポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンテレフタレート)、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)、ポリ(1,3−トリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)、ポリ(1,4−ブチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)、ポリ(エチレンイソフタレート−テレフタレート)共重合体、ポリ(1,4−ブチレンイソフタレート−テレフタレート)共重合体およびポリ(1,4−シクロヘキシレンジメチレンイソフタレート−テレフタレート)共重合体などが挙げられる。これらのうち、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(1,3−トリメチレンテレフタレート)、ポリ(1,4−ブチレンテレフタレート)およびポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)が好ましい。
上記ポリエステルとしては、ジアルキレングリコール成分をグリコール成分全体に対して5mol%以下で含有するものが好ましい。該成分が5mol%より大きいとポリエステルの結晶性が低下し、弾性率等の機械特性を著しく低下させることがある。ジアルキレングリコール成分は4mol%以下がより好ましく、3mol%以下がさらに好ましく、2mol%以下が特に好ましい。本発明において用いられる後述する層状珪酸塩はポリエステルのジアルキレングリコール成分の生成にはほとんど関与せず、該層状珪酸塩存在下でポリエステルを重合してもジアルキレングリコール成分の生成を低く維持すことができる。
ポリエステルの分子量は、好ましくは、還元粘度(1.2g/dLのフェノール/1,1,2,2−テトラクロロエタン=4/6(重量比)溶液中、35℃で測定した値)で0.1〜20dL/g、より好ましくは0.2〜10dL/g、さらに好ましくは0.3〜5dL/gの範囲である。
ポリカーボネートとしては、ビスフェノール類をカーボネートで結合した構造のポリカーボネートなかでもビスフェノールAに基づくポリカーボネートが好ましい。使用されるビスフェノール類としては、例えばビフェノール、メチレンビスフェノール、4,4’−エチリデンビスフェノール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−メチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、4,4’−イソプロピリデンビス(2−メチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−フェニルエチリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(1−メチルプロピリデン)ビスフェノール、4,4’−(1−メチルプロピリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(1−メチルプロピリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−シクロペンチリデンビスフェノール、4,4’−シクロペンチリデンビス(2−メチルフェノール)、4,4’−シクロペンチリデンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール、4,4’−シクロヘキシリデンビス(2−メチルフェノール)、4,4’−シクロヘキシリデンビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)、4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール、4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビス(2−メチルフェノール)、4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビス(2,6−ジメチルフェノール)を挙げることができる。これらのうち、入手性、汎用性の点から、4,4’−イソプロピリデンビスフェノール(ビスフェノールA)、4,4’−シクロヘキシリデンビスフェノール、4,4’−(3,3,5−トリメチルシクロヘキシリデン)ビスフェノール、4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビスフェノール、4,4’−(9H−フルオレン−9−イリデン)ビス(2−メチルフェノール)が好ましい。
ポリカーボネートの分子量は、好ましくは、還元粘度(1.2g/dLの塩化メチレン中、20℃で測定した値)で、0.1〜20dL/g、より好ましくは0.2〜10dL/g、さらに好ましくは0.3〜5dL/gである。
層状珪酸塩(B)は、上記式(I)で表される有機カチオン、好ましくはRが上記式(I−1)で表される基であるカチオンをカチオンの少なくとも一部として有する。かかる層状珪酸塩(B)は、上記式(I)で表される有機カチオンを有さない層状珪酸塩(以下、カチオン交換前の層状珪酸塩という)の少なくとも一部のカチオンを、上記式(I)で表される有機カチオンでカチオン交換することにより得ることができる。カチオン交換前の層状珪酸塩は陽イオン交換能を有し、さらに層間に水を取り込んで膨潤する性質を示す層状珪酸塩であり、好ましくはスメクタイト系粘土鉱物、バーミキュライト系粘度鉱物、マイカ系粘土鉱物が挙げられる。該スメクタイト系粘土鉱物としてヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、バイデライト、モンモリロナイトまたはこれらの天然または化学的に合成したもの、またこれらの置換体、誘導体、あるいは混合物を挙げることができる。またマイカ系粘土鉱物としては、化学的に合成した層間に例えばLi、Naイオンを持った合成膨潤性マイカまたはこれらの置換体、誘導体あるいは混合物を挙げることができる。これらのうち、熱可塑性樹脂に分散しやすいという点から、スメクタイト系粘土鉱物が好ましく、なかでもモンモリロナイトが特に好ましい。これらは単独で用いてもよいし2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明において、有機カチオンは下記式(I)

式(I)中、Rは下記式(I−1)

ここで、Rは炭素数5〜20の2価の炭化水素基でありそしてRは炭素数1〜20の2価の炭化水素基である、
で表される基、アルキル基、アリール基またはアラルキル基である。またLはアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンまたはヘテロ芳香族イオンである。nは1〜5の整数である。但しLがアンモニウムイオンまたはホスホニウムイオンであるとき、nは4であり且つ4つのRは同一でも異なっていてもよい。
Rが上記式(I−1)で表される基であるとき、Rとしては、例えば1,2−フェニレン、3−メチル−1,2−フェニレン、4−メチル−1,2−フェニレン、3−エチル−1,2−フェニレン、4−エチル−1,2−フェニレン、3−プロピル−1,2−フェニレン、4−プロピル−1,2−フェニレン、3−フェニル−1,2−フェニレン、4−フェニル−1,2−フェニレン、3−ニトロ−1,2−フェニレン、4−ニトロ−1,2−フェニレン、1,8−ナフタレン、1,2−ナフタレン、2,3−ナフタレン、2−メチル−1,8−ナフタレン、3−メチル−1,8−ナフタレン、4−メチル−1,8−ナフタレン、3−メチル−1,2−ナフタレン、4−メチル−1,2−ナフタレン、5−メチル−1,2−ナフタレン、6−メチル−1,2−ナフタレン、7−メチル−1,2−ナフタレン、8−メチル−1,2−ナフタレン、1−メチル−2,3−ナフタレン、5−メチル−2,3−ナフタレン、6−メチル−2,3−ナフタレンの如き芳香族炭化水素基;1,2−シクロペンチレン、3−メチル−1,2−シクロペンチレン、4−メチル−1,2−シクロペンチレン、1,2−シクロヘキシレン、3−メチル−1,2−シクロヘキシレン、4−メチル−1,2−シクロヘキシレン、3−エチル−1,2−シクロヘキシレン、4−エチル−1,2−シクロヘキシレン、3−プロピル−1,2−シクロヘキシレン、4−プロピル−1,2−シクロヘキシレン、3−フェニル−1,2−シクロヘキシレンおよび4−フェニル−1,2−シクロヘキシレンの如き脂環族炭化水素基などを挙げることができる。これらは単独であるいは2種類以上併用してもよい。
また、Rとしては、例えばメチレン、エチレン、1,3−トリメチレン、1,4−テトラメチレン、1,5−ペンタメチレン、1,2−シクロペンチレン、1,3−シクロペンチレン、1,6−ヘキサメチレン、1,2−シクロヘキシレン、1,3−シクロヘキシレン、1,4−シクロヘキシレン、1,7−ヘプタメチレン、1,8−オクタメチレン、1,9−ノナメチレン、1,10−デカメチレン、1,11−ウンデカメチレン、1,12−ドデカメチレン、1,13−トリデカメチレン、1,14−テトラデカメチレン、1,15−ペンタデカメチレン、1,16−ヘキサデカメチレン、1,17−ヘプタデカメチレン、1,18−オクタデカメチレン、1,19−ノナデカメチレンおよび1,20−デカデカメチレンの如き炭化水素基等を挙げることできる。これらは単独であるいは2種類以上併用してもよい。
また、Rのアルキル基としては、例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシルおよびデカデシルの如き直鎖状アルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシル、ノルボルニルおよびビシクロウンデシルの如き脂環式アルキル基を挙げることができる。
Rのアリール基としては、例えばフェニル、トリル、キシリル等を挙げることができる。
また、Rのアラルキル基としては、例えばベンジル、フェニルエチル、フェニルプロピル、フェニルブチル、フェニルペンチル、フェニルヘキシル、フェニルヘプチル、フェニルオクチル、フェニルノニル、フェニルデシル、フェニルウンデシル、フェニルドデシル、フェニルトリデシル、フェニルテトラデシル、フェニルペンタデシル、フェニルヘキサデシル、フェニルヘプタデシル、フェニルオクタデシル、フェニルノナデシル、フェニルデカデシル等を挙げることができる。
上記アルキル基、アリール基およびアラルキル基は、例えばヒドロキシ基、アルコキシ基、フェノキシ基、エステル基またはカルボン酸基の如き置換基で置換されていてもよい。
かかる置換基で置換されたアルキル基、アリール基およびアラルキル基としては、好適には、下記基およびその異性体を例示することができる。ここで下記式中、aおよびbは1以上30以下の整数であり、この基中の炭素数が30以下になる整数であり、20以下になる整数が好ましく、15以下になる整数がより好ましく、10以下になる整数が特に好ましい。


上記置換基は単独で、あるいは2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
また、Lとしては、n=1のとき、例えばアンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、ジノニルアミン、ジデシルアミン、ジウンデシルアミン、ジドデシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、トリノニルアミン、トリデシルアミン、トリウンデシルアミン、トリドデシルアミンの如きアミン誘導体に由来するカチオン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリヘプチルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリノニルホスフィン、トリデシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリトリルホスフィンの如きホスフィン誘導体に由来するカチオン;ピリジン、メチルピリジン、エチルピリジン、ジメチルピリジン、ヒドロキシピリジン、ジメチルアミノピリジンの如きピリジン誘導体に由来するカチオン;イミダゾール、メチルイミダゾール、ジメチルイミダゾール、エチルイミダゾール、ベンズイミダゾールの如きイミダゾール誘導体に由来するカチオン;ピラゾール、メチルピラゾール、ジメチルピラゾール、エチルピラゾール、ベンズピラゾールの如きピラゾール誘導体に由来するカチオン;トリアゾール、メチルトリアゾール、ジメチルトリアゾール、エチルトリアゾール、ベンズトリアゾールの如きトリアゾール誘導体に由来するカチオン;テトラゾール、メチルテトラゾール、ジメチルテトラゾール、エチルテトラゾール、ベンズテトラゾールの如きテトラゾール誘導体に由来するカチオンを挙げることができる。また、n=2、3、4および5のときは上記誘導体に含まれる水素、アルキル基、フェニル基等の置換基がそれぞれ1、2、3および4減じたものを挙げることができる。具体的にはnに応じて下記構造を挙げることができる。

これらのうち、耐熱性が高く、入手もしやすいことから、ホスフィン誘導体、ピリジン誘導体、イミダゾール誘導体、ピラゾール誘導体、およびアミン誘導体のいずれかに由来する有機カチオンが好ましく、イミダゾール誘導体に由来するカチオンが特に好ましい。これらは単独であるいは2種類以上併用してもよい。
層状珪酸塩を有機カチオンによってカチオン交換する方法は、従来公知の方法を用いることができる。例えば、カチオン交換前の層状珪酸塩を水に分散させた液と有機カチオンと対アニオンからなる化合物の溶液を混合攪拌した後、層状珪酸塩をろ過、遠心分離等の方法により媒体と分離し、洗浄する。この方法により、カチオン交換前の層状珪酸塩に含まれていたナトリウムの如き陽イオンの少なくとも1部は有機カチオンと置換し、有機カチオンによってカチオン交換された層状珪酸塩が得られる。
層状珪酸塩が有機カチオンによってカチオン交換されたことは、層状珪酸塩の層間距離がカチオン交換前に比べて変化することや、カチオン交換前の層状珪酸塩に含まれる陽イオンと有機カチオンとの交換率(カチオン交換率)が変化すること等から明らかにすることができる。
層間距離がカチオン交換前に比べて変化することは、X線散乱などの測定により、層間の回折に由来する散乱角の変化から容易に測定が可能である。層間距離が変化したことを確認した上で、本発明におけるカチオン交換率は、下記式(VI)によって求められる値である。

(Wfは20℃/minの昇温速度で120℃から800℃まで測定した層状珪酸塩の示差熱天秤による重量減少率、Morgは該イミダゾリウムイオンの分子量、Msiは層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量を表す。層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量は、層状珪酸塩の陽イオン交換容量(単位:グラム等量またはeq/100g)の逆数で算出される値である。)
カチオン交換率は50%以上200%以下が好ましい。カチオン交換率が低いと熱可塑性樹脂と混合した際に層状珪酸塩の分散性が低くなることがある。また、カチオン交換率が高すぎるとカチオン交換された層状珪酸塩に占める有機オニウムイオンの割合が高くなりすぎ、熱可塑性樹脂の特性がかえって損なわれることがある。なお、用いるカチオン交換率が100%を超える場合は、有機オニウムイオン間に例えば水素結合等の分子間力が働いていると考えられる。カチオン交換率は55%以上170%以下がより好ましく、60%以上150%以下がさらに好ましく、63%以上130%以下がさらに好ましい。
カチオン交換された層状珪酸塩は、その熱分解温度が310℃以上であることが好ましい。熱分解温度とは、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で示差熱天秤によって測定した5重量%重量減少時の温度である。熱分解温度が310℃より低いと、該熱可塑性樹脂と混合する際に分解が起こりやすくなり、組成物の特性を著しく低下させることがある。熱分解温度は、より好ましくは320℃以上、さらに好ましくは330℃以上、特に好ましくは340℃以上である。
本発明のフィルムを製造するための熱可塑性樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂(A)と上記カチオン交換された層状珪酸塩(B)からなり、該熱可塑性樹脂100重量部に対して該カチオン交換された層状珪酸塩が灰分として0.1〜10重量部からなる。該カチオン交換された層状珪酸塩が少なすぎると、層状珪酸塩を添加することによる機械特性向上、寸法安定性向上などの効果が発現せず、多すぎると層状珪酸塩が大きく凝集し、かえって上記物性を低減させてしまったり、あるいは分散したとしても組成物の粘度が高くなりすぎ成形性が低下するため好ましくない。該カチオン交換された層状珪酸塩の量は無機成分の量、すなわち灰分換算量で、該熱可塑性樹脂100重量部に対して好ましくは0.3〜8重量部、より好ましくは0.5〜7重量部、さらに好ましくは0.8から6重量部である。熱可塑性樹脂とカチオン交換された層状珪酸塩の灰分の重量比は、示差熱天秤などによるフィルムの熱分解前後の重量変化から求めることができる。より具体的には、熱可塑性樹脂および層状珪酸塩の有機カチオンは800℃程度の加熱で完全に分解し、分解後には層状珪酸塩の無機成分のみが残留するので、分解前後の重量減少の割合から無機成分、すなわち灰分換算量の重量比を求めることができる。
本発明のフィルムにおいて、カチオン交換された層状珪酸塩の層が剥離した状態にありそしてマトリクスである熱可塑性樹脂に分散していることが好ましい。具体的には、断面方向における層状珪酸塩の厚みは、X線散乱により、層状珪酸塩の層間の散乱に起因する散乱ピークの散乱角と半価幅を使用して、算出することが可能である。
半価幅から厚みを求める方法としては、Scherrerの下記式を利用する。
D=K・λ/βcosθ
D:結晶子の大きさ
λ:測定X線波長
β:半価幅
θ:回折線のブラッグ角
K:Scherrer定数
これにより得られるフィルム断面方向における層状珪酸塩の厚みは、3〜100nmであることが好ましい。層状珪酸塩が単層にまで剥離している場合、本方法では検出されないことになるが、フィルム断面方向における層状珪酸塩の厚みが、上記測定において3〜100nmであることが確認できれば、本発明の目的においては十分である。層状珪酸塩の厚みは、フィルムの成形性、流動性が損なわれない限り、単層のものが組成物中に含まれていても構わない。フィルム断面方向における層状珪酸塩の厚みが、3nmに満たない場合には、層状珪酸塩は、2層以下であり、分散が困難である。また、層状珪酸塩の厚みが、100nmを超える場合には、分散が不十分であるために、層状珪酸塩を分散させることによる物性向上効果が小さくなる。フィルム断面方向における層状珪酸塩の厚みとしては、4〜50nmであることがより好ましく、5〜30nmがさらに好ましく、6〜15nmがさらに好ましい。
本発明のフィルムの製造方法としては特に限定されず、従来公知の方法が用いられる。例えば、カチオン交換された層状珪酸塩の存在下、熱可塑性樹脂を重合して熱可塑性樹脂組成物を製造した後、Tダイから溶融押し出しする方法、カチオン交換された層状珪酸塩と熱可塑性樹脂とを二軸押出し機等を用いて混練した後、Tダイから溶融押し出しする方法等の溶融押し出し法、カチオン交換された層状珪酸塩と熱可塑性樹脂を溶媒などの媒体に溶解させてドープを作成し、該ドープを流延させた後、媒体を除去するといった溶液流延法等を挙げることができる。これらのうち、生産性が高い点から溶融押し出し法が好ましい。溶融押し出し法によってフィルムを製造する際の温度としては、熱可塑性樹脂のガラス転移温度以上350℃以下が好ましく、(該ガラス転移温度+50)℃以上330℃以下がより好ましく、(該ガラス転移温度+80)℃以上320℃以下がさらに好ましい。温度が該ガラス転移温度より低すぎると混練等が困難になるため好ましくなく、また、温度が350℃より高すぎると熱可塑性樹脂の分解が激しくなることがある。また、上記温度での保持時間としては、1分以上10時間以下が好ましく、1分以上8時間以下がより好ましく、1分以上6時間以下がさらに好ましい。保持時間が短すぎると混錬が不十分で層状珪酸塩が分散しにくく、また、長すぎると熱可塑性樹脂の熱劣化が起こりやすくなることがある。本発明で用いられる上記層状珪酸塩は熱可塑性樹脂への高い分散特性を有しており、これによって分散性に優れたフィルムを得ることができる。
本発明のフィルムは一軸または二軸に配向していることが好ましい。配向は、該フィルムのX線回折および透過型電子顕微鏡による観察等により、熱可塑性樹脂および層状珪酸塩について独立に評価することができる。
本発明のフィルムは、フィルムの断面に、垂直方向からX線を照射した際のX線回折において、層状珪酸塩由来の散乱のうち、強度が最大の散乱ピークに関する配向因子fが下記式(II)

ここで、

φは方向角(度)であり、I(φ)は方向角φにおける散乱強度である、
を満足するのが好ましい。
上記式(II)中の配向因子fはポリマーの結晶等の配向の程度を表現するものとして一般的に用いられる指標であり、例えば、Ranら、Polymer、42巻、1601−1612頁(2001年)の中の1604頁に記載されている。層状珪酸塩の配向について上記式(II)を満足しない場合には、層状珪酸塩を添加することによって期待される弾性率等の機械特性向上効果、寸法安定性向上効果等があまり発揮されないことがある。上記式(II)中、fの値は、より好ましくは0.7≦f≦1、さらに好ましくは0.8≦f≦1、さらに好ましくは0.85≦f≦1である。
また、本発明のフィルムは、フィルムの断面に、垂直方向からX線を照射した際のX線回折において、ポリエステルの結晶由来の散乱のうち、強度が最大の散乱ピークに関する配向因子fが下記式(II’)

式中、fの定義は上記式(II)に同じである。
ポリエステルの配向について上記式(II’)を満足しない場合には、層状珪酸塩を添加することによって期待される弾性率等の機械特性向上効果があまり発揮されないことがある。上記式(II’)中、fの値は、より好ましくは0.4≦f≦1、さらに好ましくは0.5≦f≦1、さらに好ましくは0.6≦f≦1である。
上記式(II)または(II)と(II’)を満たす熱可塑性フィルムの製造方法は、上記式(II)または(II)と(II’)を満足させる方法であれば特に限定されないが、本発明のフィルムを延伸することで好適に達成される。延伸方法としては、好適には一軸または二軸方向に逐次または同時に延伸する方法を挙げることができる。より具体的に延伸温度は好ましくは熱可塑性樹脂のガラス転移点以上ガラス転移点+100℃以下、より好ましくは熱可塑性樹脂のガラス転移点以上ガラス転移点+80℃以下、さらに好ましくはガラス転移点以上ガラス転移点+70℃以下である。延伸温度が低すぎても高すぎても均一なフィルムを製造することが困難となることがある。また、延伸倍率としては好ましくは1.1倍以上100倍以下、より好ましくは1.3倍以上90倍以下、さらに好ましくは1.5倍以上80倍以下である。延伸倍率が低すぎると熱可塑性樹脂または層状珪酸塩を配向させることが困難となることがある。また、延伸倍率が高すぎるとフィルムの破断が起こりやすくなることがある。なお本発明における延伸倍率は(延伸後のフィルムの面積)/(延伸前のフィルムの面積)で表される値である。また、延伸速度としては好ましくは0.01/min以上10,000/min以下、より好ましくは0.05/min以上8,000/min以下、さらに好ましくは5000/min以下である。延伸速度が0.01/minより小さいと、延伸中に配向状態が緩和され、配向状態が維持できないことがある。また、10,000/minより大きいとフィルムの破断が起こりやすくなることがある。なお、本発明における延伸速度は(延伸後のフィルムの面積)/(延伸前のフィルムの面積)/時間(分)で表される値である。
また、本発明においては、層状珪酸塩の配向について、フィルムの断面から観察される層状珪酸塩の形状が下記式(III)

ここで、A、BおよびCは一個の層状珪酸塩の中の点であり、AおよびBは層状珪酸塩の長手方向の両末端点、CはAとBを結ぶ直線に対する距離が最大となる点であり、∠ACBは(線ACと線BCのなす角度(°)、(∠ACB)aveは断面積10μm中に含まれる、点AB間の距離が大きい方から10個の層状珪酸塩で求められる∠ACBの平均値である、
を満足することが好ましい。なお断面積10μm中に含まれる上記10個の層状珪酸塩とは、AB間の距離が100nm以上のものであるのが好ましい。
上記式(III)における点A〜C、∠ACBについて例示すると添付の図1のようになる。
上記式(III)の範囲を外れると、層状珪酸塩による弾性率向上効果が発揮しにくくなることがある。(∠ABC)aveは130°≦(∠ABC)ave≦180°であることがより好ましく、140°≦(∠ABC)ave≦180°であることがさらに好ましく、150°≦(∠ABC)ave≦180°であることがさらに好ましい。
また、上記と同様に、フィルムの断面から観察されるカチオン交換された層状珪酸塩の形状が下記式(IV)

ここで、A、Bは一個の層状珪酸塩の中の点であり、層状珪酸塩の長手方向の末端点、A*Bは点AとBを結ぶ直線、D*Eはフィルムの断面上に作成した基準直線、∠A*B D*EはA*BとD*Eのなす鋭角の角度(°)であり、σ(∠A*B D*E)は断面積10μm中に含まれる、点AB間の距離が大きい方から10個の層状珪酸塩について求められる∠A*B D*Eの標準偏差である、
を満足することが好ましい。
上記式(IV)における点A〜E、∠A*B D*Eについて例示すると添付の図2のようになる。
本発明のフィルムの断面に作成する基準直線D*Eは、断面積10μm中の層状珪酸塩に対して1本作成する。D*Eを作成する際は、層状珪酸塩について求められるA*Bとのそれぞれなす角が求められる線であり、A*Bと同一平面(同一フィルム断面)上にあれば特に制限はない。
上記式(IV)の範囲を外れると、層状珪酸塩による弾性率向上効果が発揮しにくいことがある。σ(∠A*B D*E)は0≦σ(∠A*B D*E)≦12であることがより好ましく、0≦σ(∠A*B D*E)≦10であることがさらに好ましく、0≦σ(∠A*B D*E)≦8であることがさらに好ましい。
また、上記式(III)および(IV)の両方を満足することがさらに好ましい。
上記式(III)または(IV)を満たすフィルムの製造方法は、上記式(III)または(IV)を満足させるものであれば特に限定されないが、本発明のフィルムを製膜、延伸することで好適に達成される。延伸方法としては、好適には一軸または二軸方向に逐次または同時に延伸する方法を挙げることができる。より具体的に延伸温度は好ましくは熱可塑性樹脂のガラス転移点以上ガラス転移点+90℃以下、より好ましくは熱可塑性樹脂のガラス転移点以上ガラス転移点+70℃以下、さらに好ましくはガラス転移点以上ガラス転移点+60℃以下である。延伸温度が低すぎても高すぎても均一なフィルムを製造することが困難となることがある。また、延伸倍率としては好ましくは1.2倍以上100倍以下、より好ましくは1.4倍以上90倍以下、さらに好ましくは1.6倍以上80倍以下である。延伸倍率が低すぎると上記式(III)または(IV)の少なくともいずれか一つを満足させるように層状珪酸塩を配向させることが困難であり好ましくなく、また、延伸倍率が高すぎるとフィルムの破断が起こりやすくなることがある。また、延伸速度としては好ましくは0.001/min以上10,000/min以下、より好ましくは0.005/min以上8,000/min以下、さらに好ましくは0.01/min以上5,000/min以下である。延伸速度が0.001/minより小さいと、延伸中に配向状態が緩和され、配向状態が維持できないため好ましくなく、また、10,000/minより大きいとフィルムの破断が起こりやすくなることがある。また、本発明のフィルムがポリエステルフィルムのときには、フィルムの製造または延伸配向後、熱処理により、ポリエステルの結晶を固定することが好ましい。熱処理の温度としてはポリエステルのガラス転移点以上、融点以下が好ましく、(ガラス転移点+20℃)以上、(融点−10℃)以下がより好ましく、(ガラス転移点+30℃)以上、(融点−20℃)以下がさらに好ましい。また、熱処理時間としては1秒以上10分以下が好ましく、5秒以上9分以下が好ましく、10秒以上8分以下が好ましい。また、熱処理の際には、配向緩和等を抑制するため、フィルムを把持することが好ましい。
かくして得られるフィルムは機械特性、寸法安定性等に優れ、磁気記録媒体、電子実装基板、コンデンサをはじめとする電気電子材料用、包装用、医療用、各種工業材料用等、様々な用途に幅広く用いることができる。
本発明のフィルムを製造するための熱可塑性樹脂組成物は、上記のとおり、熱可塑性樹脂として熱可塑性ポリエステルまたは熱可塑性芳香族ポリカーボネートが用いられる。本発明者の研究によれば、上記層状珪酸塩のうちの特定の層状珪酸塩を含む樹脂組成物は上記熱可塑性樹脂に止まらず、その他の種々の熱可塑性樹脂を用いたものでも、耐熱性、ガスバリア性、難燃性、弾性、靭性等に優れ、種々の成形体、繊維、フィルムの製造に用いられることが明らかとなった。
それ故、本発明によれば、前記のとおり、熱可塑性樹脂(A’)100重量部および上記式(I)において、Rの少なくとも1つが上記式(I−1)で表される有機カチオンをカチオンの少なくとも1部として有する層状珪酸塩灰分として0.1〜10重量部からなる熱可塑性樹脂組成物が提供される。
熱可塑性樹脂としては、前記したポリエステルおよび芳香族ポリカーボネートはもちろんその他にポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンの如きポリオレフィン、ポリアリレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテル、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等を挙げることができる。これらのうち、耐熱性の高い層状珪酸塩の特徴を特に発揮できるという観点から、ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテル、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホンが好ましい。
ポリアミドとしては、例えばジアミンとカルボン酸との縮合体またはアミノカルボン酸の縮合体を挙げることができる。
ジアミンの好適な化合物としては、例えばメチレンジアミン、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、トリデカメチレンジアミン、テトラデカメチレンジアミン、ペンタデカメチレンジアミン、ヘキサデカメチレンジアミン、ヘプタデカメチレンジアミン、オクタデカメチレンジアミン、ノナデカメチレンジアミン、デカデカメチレンジアミンの如き脂肪族ジアミン;o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,2’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノビフェニル、3,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ジアミノジフェニルケトン、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタンの如き芳香族ジアミンを挙げることができる。
また、ジカルボン酸の好適なものとしては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、クロルフタル酸、ニトロフタル酸、2,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルフォンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルイソプロピリデンジカルボン酸、1,2−ビス(4−カルボキシフェノキシ)−エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸の如き芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、オクタデカンジカルボン酸、ダイマー酸、マレイン酸およびフマル酸の如き脂肪族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸の如き環状脂肪族ジカルボン酸を挙げることができる。
また、アミノカルボン酸の好適なものとしては、例えばアミノ酢酸、2−アミノプロピオン酸、3−アミノプロピオン酸、2−アミノ酪酸、3−アミノ酪酸、4−アミノ酪酸、5−アミノペンタン酸、6−アミノヘキサン酸、7−アミノヘプタン酸、8−アミノオクタン酸、9−アミノノナン酸、10−アミノデカン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等を挙げることができる。これらは単独で用いても、また2種類以上組み合わせて用いてもよい。
ポリイミドおよびポリエーテルイミドとしては、例えばポリ(エチレンピロメリットイミド)、ポリ(ブチレンピロメリットイミド)、ポリ(ヘキサメチレンピロメリットイミド)、ポリ(オクタメチレンピロメリットイミド)、ポリ(ドデカメチレンピロメリットイミド)、ポリ(トリメチルヘキサメチレンピロメリットイミド)、ポリ(イソホロニレンピロメリットイミド)の如き半芳香族ポリイミド;ポリエーテルイミド(GEプラスチックス社製商品名ULTEM)等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、また、2種以上を混合して使用してもよい。
ポリエーテルとしては、芳香族基がエーテル結合で連結された繰り返し単位を有する従来公知のものを用いることができ、例えば、ポリ(1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−エチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2,6−ジ−n−プロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−n−ブチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−エチル−6−イソプロピル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−クロロエチル−1,4−フェニレン)エーテル、ポリ(2−メチル−6−ヒドロキシエチル−1,4−フェニレン)エーテル等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし、また、2種以上を混合して使用してもよい。
ポリエーテルケトンとしては、米国特許第3953400号明細書、第4320224号明細書および第4709007号明細書に記載の従来公知のものを用いることができる。たとえば下記式で表される繰り返し構造単位の少なくとも1種を有するものを挙げることができる。

これらは、単独で使用してもよいし、また、2種以上を混合して使用してもよい。
ポリスルフィドとしては、芳香族基がスルフィド結合で連結された繰り返し単位を有する従来公知のものを用いることができ、例えばポリ(1,4−フェニレン)スルフィド等を挙げることができる。ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンとしては、ジフェニルスルホンユニットが重合体の主鎖の一部を形成している従来公知のものを用いることができ、例えば下記式で表される繰り返し構造単位の少なくとも1種を有するものを挙げることができる。

これらは、単独で使用してもよいし、また、2種以上を混合して使用してもよい。
また、上記式(I)において、Rの少なくとも1つが上記式(I−1)で表される有機カチオンをカチオンの少なくとも1部として有する層状珪酸塩は上記したとおりである。さらに、ここに記載のない事項は前記した記述がそのまま適用されると理解されるべきである。
本発明の熱可塑性樹脂組成物において、層状珪酸塩が、有機カチオンを、下記式(VI)

(Wfは20℃/minの昇温速度で120℃から800℃まで測定した層状珪酸塩の示差熱天秤による重量減少率、Morgは該イミダゾリウムイオンの分子量、Msiは層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量を表す。層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量は、層状珪酸塩の陽イオン交換容量(単位:グラム等量またはeq/100g)の逆数で算出される値である。)
で表されるカチオン交換率(%)が50〜200となるように有するものが好ましい。また、修飾後の層状珪酸塩として310℃以上の熱分解温度を有するものが好ましく用いられる。具体的に、層状珪酸塩がスメクタイト、バーミキュライトまたはマイカのカチオンの少なくとも1部が上記有機カチオンで置換されたものが好ましい。
また、上記熱可塑性樹脂組成物に用いられる上記層状珪酸塩は、下記式

ここで、Rは炭素数5〜20の2価の炭化水素基でありそしてRは炭素数1〜20の2価の炭化水素基であり、R’は下記式(I−1)

ここで、RおよびRの定義は上記に同じである、
で表される基、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、そしてLはアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンまたはヘテロ芳香族イオンでありそしてnは1〜5である、
で表される有機カチオンを、カチオンの少なくとも1部として有する。かかる層状珪酸塩は新規化合物であり、本発明により提供される。
かかる層状珪酸塩は、前記式(I)で表される層状珪酸塩の一部であり、ここに記載のない事項は前記記載がそのまま適用されると理解されるべきである。
この層状珪酸塩のうち、有機カチオンを、下記式(VI)

(Wfは20℃/minの昇温速度で120℃から800℃まで測定した層状珪酸塩の示差熱天秤による重量減少率、Morgは該イミダゾリウムイオンの分子量、Msiは層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量を表す。層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量は、層状珪酸塩の陽イオン交換容量(単位:グラム等量またはeq/100g)の逆数で算出される値である。)
で表されるカチオン交換率(%)が50〜200となるように有するものが好ましい。また、熱分解温度は310℃以上であるのが好ましく、スメクタイト、バーミキュライトまたはマイカのカチオンの少なくとも1部が上記有機カチオンで置換されたものが好ましい。
【実施例】
以下に実施例により本発明を詳述する。但し、本発明はこれら実施例に何ら制限されるものではない。
(1)層状珪酸塩:モンモリロナイト(クニミネ工業(株)製 クニピアF(陽イオン交換容量0.109eq/100g)を使用した。層間距離は12.6Åだった。この層状珪酸塩の陽イオン部分におけるf1電荷あたりの分子量は、917である。
(2)カチオン交換率:(株)リガク製示差熱天秤TG8120を用いて窒素雰囲気下20℃/minで800℃まで加熱した際の120℃〜800℃までの重量減少率から次式(VI)を用いて求めた。

(Wfは20℃/minの昇温速度で120℃から800℃まで測定した層状珪酸塩の示差熱天秤による重量減少率、Morgは該イミダゾリウムイオンの分子量、Msiは層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量を表す。層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量は、層状珪酸塩の陽イオン交換容量(単位:グラム等量またはeq/100g)の逆数で算出される値である。)
(3)樹脂組成物中の熱可塑性樹脂と層状珪酸塩の灰分換算量との重量比:(株)リガク製示差熱天秤TG8120を用いて空気雰囲気下20℃/minで800℃まで加熱した際の重量減少率から求めた。
(4)熱分解温度:(株)リガク製示差熱天秤TG8120を用いて窒素雰囲気下20℃/minで800℃まで加熱した際の5重量%重量減少した温度を求めた。
(5)断面方向における層状珪酸塩の厚み:(株)リガク製粉末X線回折装置RAD−Bを用いて、X線散乱により層状珪酸塩の層間の散乱に起因する散乱ピークの散乱角と半価幅を使用して下記のScherrerの式より算出した。
D=K・λ/βcosθ
D:結晶子の大きさ
λ:測定X線波長
β:半価幅
θ:回折線のブラッグ角
K:Scherrer定数 (0.9として計算)
(6)還元粘度(ηsp/C):還元粘度はフェノール/テトラクロロエタン(重量比4:6)の溶液を使用し、濃度 1.2g/dL 温度35℃で測定した。
(7)引張弾性率:(株)オリエンテック製UCT−1Tを用い、測定した。
(8)線膨脹係数:TA instruments製 TMA2940を用い、30℃〜150℃における線膨張係数の値を測定した。
(9)配向因子f:(株)リガク製粉末X線回折装置RAD−Bを用い、フィルムの断面方向と垂直な方向からX線(Cu−kα線)を照射した。層状珪酸塩由来の散乱ピークについて配向因子fを求めた。
(10)層状珪酸塩の層間距離および平均層数:(株)リガク製粉末X線回折装置RAD−Bを用いて(5)と同様に回折ピーク位置から算出した。
(11)層状珪酸塩の形状評価:日立製作所製H−800透過型電子顕微鏡を用い、フィルムの断面方向から層状珪酸塩の形状を観察した。
参考例1 フタルイミドデカメチレンイミダゾリウムブロミド(下記式)の合成

フラスコにフタルイミドカリウム85重量部、1,10−ジブロモデカン1008重量部、ジメチルホルムアミド(十分脱水したもの)430重量部を入れ、攪拌し、100℃で20時間加熱した。加熱後、揮発性成分を全て除去し、残渣をキシレンで抽出した。抽出した溶液から揮発性成分を留去し、残渣を室温で放置することで10−ブロモデカメチルフタルイミドの結晶を得た。フラスコに10−ブロモデカメチルフタルイミド3.5重量部、イミダゾール0.7重量部を入れ、100℃で10時間加熱し、フタルイミドデカメチレンイミダゾリウムブロミドを得た。
実施例1:カチオン交換された層状珪酸塩の合成
フラスコにモンモリロナイト5.0重量部、水400重量部を入れ、50℃で加熱攪拌した。ここにフタルイミドデカメチレンイミダゾリウムブロミド3.7重量部をメタノール50重量部で溶解させた溶液を加え、さらに50℃で3時間攪拌した。混合物から固体を濾別し、水、メタノールで交互に3回ずつ洗浄したのち、乾燥することによりカチオン交換された層状珪酸塩(IC10I−Mと略す)を得た。IC10I−Mのカチオン交換率は127%、熱分解温度は338℃、層間距離は26.8Åだった。
実施例2:組成物の重合
フラスコに2,6−ビス(ヒドロキシエチル)ナフタレンジカルボキシレート250重量部、実施例1で得た層状珪酸塩IC10I―M 22重量部、三酸化アンチモン0.04重量部を入れ、攪拌しながら常圧で230℃から290℃まで2時間かけて昇温した。さらに290℃で1時間かけて常圧から0.5Torrまで減圧にし、そのまま1時間重合し、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)と層状珪酸塩の組成物を得た。この組成物中のポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)と層状珪酸塩の灰分換算量の重量比は100:7だった。この組成物の融点は265℃、還元粘度は0.56dL/gであった。
【実施例3】
ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)(還元粘度0.78g/dL)2240重量部と実施例2により得られた組成物860重量部を混合し、170℃で6時間乾燥させた。これを押出機に供給し、溶融温度300℃で溶融混練し、開度1mmのスリット状ダイから80℃の冷却ドラム上に押出し、フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、該フィルムの断面方向から観察した写真を図3に示す。
【実施例4】
実施例3において得られたフィルムを150℃で縦方向に3.6倍、横方向に3.6倍(延伸倍率13倍)に同時に45/minの延伸速度で延伸した。その後、205℃で1分間熱固定を行い、二軸配向させたフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。また、該フィルムの断面方向から観察した写真を図4に示す。
【実施例5】
実施例3において得られたフィルムを130℃で縦方向に3.0倍、横方向に3.0倍(延伸倍率9.0倍)に同時に38/minの延伸速度で延伸した。その後、205℃で1分間熱固定を行い、二軸配向させたフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
参考例2:N−デカメチルイミダゾリウムによってカチオン交換された層状珪酸塩の合成
N−デカメチルイミダゾリウムブロミド(下記式)

10重量部を有機オニウムイオンとして用いた以外は実施例1と同様な操作を行い、N−デカメチルイミダゾリウムによってカチオン交換された層状珪酸塩(C10I−Mと略す)を得た。C10I−Mのカチオン交換率は130%、熱分解温度は344℃だった。
比較例1
層状珪酸塩として参考例2で合成したC10I−M3.0重量部を使用した以外は実施例1と同様の操作を行い、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)と層状珪酸塩の組成物を得た。この組成物中のポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)と層状珪酸塩の灰分換算量の重量比は100:2だった。この組成物の融点は263℃、還元粘度は0.72dL/gであった。また、透過型電子顕微鏡で観察した組成物における層状珪酸塩の分散状況は図5に示す通り大きな凝集体が見られ、分散性は低かった。
比較例2
ポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)(還元粘度0.78g/dL)を用いて実施例3と同様な方法で製膜を行い、未延伸フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
比較例3
比較例2で得られたフィルムを実施例4と同様に処理し、二軸配向させたフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
比較例4
比較例2で得られたフィルムを実施例5と同様に処理し、二軸配向させたフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表2に示す。
【実施例6】
フラスコにモンモリロナイト5.0重量部、水500重量部を入れ、100℃で加熱攪拌した。ここに参考例1で得られたフタルイミドデカメチレンイミダゾリウムブロミド2.5重量部、デシルイミダゾリウムブロミド1.7重量部をメタノール50重量部で溶解させた溶液を加え、さらに100℃で3時間攪拌した。混合物から固体を濾別し、水、メタノールで交互に3回ずつ洗浄したのち、乾燥することによりカチオン交換された層状珪酸塩(IC10I/C10I−Mと略す)を得た。洗浄液から揮発性成分を除去したところ、フタルイミドデカメチレンイミダゾリウムブロミドとデシルイミダゾリウムブロミドが4.5:5.5のモル比で回収された。この結果から、IC10I/C10I−Mに含まれるフタルイミドデカメチレンイミダゾリウムとデシルイミダゾリウムのモル比は5.5:4.5と見積もられた。IC10I/C10I−Mのカチオン交換率は119%、熱分解温度は342℃、層間距離は25.8Åだった。
【実施例7】
フラスコに2,6−ビス(ヒドロキシエチル)ナフタレンジカルボキシレート150g、実施例6で得た層状珪酸塩IC10I/C10I−M3.2g、三酸化アンチモン40mgを入れ、攪拌しながら常圧で230℃から290℃まで2時間かけて昇温した。さらに290℃で1時間かけて常圧から0.5Torrまで減圧にし、そのまま1時間重合し、ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)と層状珪酸塩の組成物を得た。この組成物中のポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)と層状珪酸塩の灰分換算量の重量比は100:2だった。この組成物の融点は265℃、還元粘度は0.81dL/gであった。透過型電子顕微鏡で樹脂組成物を観察した(図6)。これに示すとおり、層状珪酸塩の分散状況は非常に高かった。
参考例3
フラスコにフタルイミドカリウム85重量部、1,10−ジブロモデカン1008重量部、ジメチルホルムアミド(十分脱水したもの)430重量部を入れ、攪拌し、100℃で20時間加熱した。加熱後、揮発性成分を全て除去し、残渣をキシレンで抽出した。抽出した溶液から揮発性成分を留去し、残渣を室温で放置することで10−ブロモデカメチレンフタルイミドの結晶を得た。
フラスコにトリオクチルホスフィン20重量部、フタルイミドデカメチレンイミダゾリウムブロミド20重量部を入れ攪拌し、約100℃で8−10時間攪拌反応し、N−フタルイミドデカメチレン−トリオクチルホスホニウムブロミドを得た。(下記式)

【実施例8】
フラスコにクニピアF100重量部、水3000重量部、メタノール500重量部を入れ、80℃で加熱攪拌した。ここに参考例3で得られたN−フタルイミドデカメチレン−トリオクチルホスホニウムブロミド120重量部をメタノール300重量部で溶解させた溶液を加え、さらに80℃で3時間攪拌した。混合物から固体を濾別し、メタノールで3回、水で3回洗浄したのち、カチオン交換された層状珪酸塩を得た。カチオン交換率は65%、熱分解温度は374℃、層間距離は24.7Åであった。
【実施例9】
実施例2と同様にして、実施例8で得た層状珪酸塩を用いてポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)と層状珪酸塩の組成物(ポリ(エチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート)と灰分換算量の重量比 100:7)を得た。この組成物の融点は265℃、還元粘度は0.54dL/gであった。
【実施例10】
実施例9の組成物860重量部とポリ(エチレン−2,6−ナフタレート)(還元粘度0.78g/dL)2240重量部を2軸押し出し機を使用して、溶融温度300℃で溶融混練した。得られた組成物を、実施例3と同様にして、溶融温度300℃で、開度1mmのスリット状ダイから80℃の冷却ドラム上に押出し、フィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。
【実施例11】
実施例10において得られたフィルムを、150℃で縦方向に3.6倍、横方向に3.6倍(延伸倍率13倍)に同時に45/minの延伸速度で延伸した。その後、205℃で1分間熱固定を行い、二軸配向させたフィルムを得た。得られたフィルムの特性を表1に示す。


【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱可塑性ポリエステルおよび芳香族ポリカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂100重量部および
(B)下記式(I)

ここで、Rは下記式(I−1)

ここで、Rは炭素数5〜20の2価の炭化水素基でありそしてRは炭素数1〜20の2価の炭化水素基である、で表される基、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、そしてLはアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンまたはヘテロ芳香族イオンでありそしてnは1〜5の整数である、但しLがアンモニウムイオンまたはホスホニウムイオンであるとき、nは4であり且つ4つのRは同一でも異なっていてもよい、
で表される有機カチオンを、カチオンの少なくとも1部として有する層状珪酸塩灰分として0.1〜10重量部
からなる熱可塑性組成物からなることを特徴とするフィルム。
【請求項2】
一軸配向または二軸配向フィルムである請求項1のフィルム。
【請求項3】
フィルムの断面に、垂直方向からX線を照射した際のX線回折において、層状珪酸塩由来の散乱のうち、強度が最大の散乱ピークに関する配向因子fが下記式(II)

ここで、

φは方向角(度)であり、I(φ)は方向角φにおける散乱強度である、
を満足する請求項2に記載のフィルム。
【請求項4】
フィルムの断面から観察されるカチオン交換された層状珪酸塩の形状が下記式(III)

ここで、A、BおよびCは一個の層状珪酸塩の中の点であって、AおよびBは層状珪酸塩の長手方向の両末端点、CはAとBを結ぶ直線に対する距離が最大となる点であり、∠ACBは線ACと線BCのなす角度(°)、(∠ACB)aveは断面積10μmに含まれる点AB間の距離が大きい方から10個の層状珪酸塩で求められる∠ACBの平均値である、
を満足する請求項2または3に記載のフィルム。
【請求項5】
フィルムの断面から観察されるカチオン交換された層状珪酸塩の形状が下記式(IV)

ここで、A、Bは一個の層状珪酸塩の中の点であって、層状珪酸塩の長手方向の末端点、A*Bは点AとBを結ぶ直線、D*Eはフィルムの断面に作成した基準直線、∠A*B D*EはA*BとD*Eのなす鋭角の角度(°)であり、σ(∠A*B D*E)は任意の断面積10μmに含まれる点AB間の距離が大きい方から10個の層状珪酸塩について求められる∠A*B D*Eの標準偏差である、
を満足する請求項2または3に記載のフィルム。
【請求項6】
熱可塑性ポリエステルが芳香族ポリエステルである請求項1に記載のフィルム。
【請求項7】
芳香族ポリエステルがポリ(エチレンテレフタレート)、ポリ(トリメチレン)テレフタレート、ポリ(ブチレンテレフタレート)およびポリ(エチレン−2,6−ナフタレンカルボキシレート)よりなる群から選ばれる請求項6に記載のフィルム。
【請求項8】
芳香族ポリカーボネートがビスフェノールAに基づくポリカーボネートである請求項1に記載のフィルム。
【請求項9】
上記層状珪酸塩が上記式(I)において、Rの少なくとも1つが上記式(I−1)で表される基である有機カチオンを、カチオンの少なくとも1部として有する請求項1に記載のフィルム。
【請求項10】
フィルムの断面における、層状珪酸塩の厚みが3〜100nmの範囲にある請求項1に記載のフィルム。
【請求項11】
(A’)熱可塑性樹脂100重量部および
(B)上記式(I)において、Rの少なくとも1つが上記式(I−1)で表される基である有機カチオンを、カチオンの少なくとも1部として有する層状珪酸塩灰分として0.1〜10重量部
からなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項12】
層状珪酸塩が、有機カチオンを、下記式

(Wfは20℃/minの昇温速度で120℃から800℃まで測定した層状珪酸塩の示差熱天秤による重量減少率、Morgは該イミダゾリウムイオンの分子量、Msiは層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量を表す。層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量は、層状珪酸塩の陽イオン交換容量(単位:グラム等量またはeq/100g)の逆数で算出される値である。)
で表されるカチオン交換率(%)が50以上200以下となるように有する、請求項11に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項13】
層状珪酸塩が310℃以上の熱分解温度を有する、請求項11に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項14】
層状珪酸塩がスメクタイト、バーミキュライトまたはマイカのカチオンの少なくとも1部が上記有機カチオンで置換されたものである、請求項11に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項15】
下記式

ここで、Rは炭素数5〜20の2価の炭化水素基でありそしてRは炭素数1〜20の2価の炭化水素基であり、R’は下記式(I−1)

ここで、RおよびRの定義は上記に同じである、
で表される基、アルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、そしてLはアンモニウムイオン、ホスホニウムイオンまたはヘテロ芳香族イオンでありそしてnは1〜5である、
で表される有機カチオンを、カチオンの少なくとも1部として有する層状珪酸塩。
【請求項16】
有機カチオンを、下記式

(Wfは20℃/minの昇温速度で120℃から800℃まで測定した層状珪酸塩の示差熱天秤による重量減少率、Morgは該イミダゾリウムイオンの分子量、Msiは層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量を表す。層状珪酸塩の陽イオン部分における1電荷あたりの分子量は、層状珪酸塩の陽イオン交換容量(単位:グラム等量またはeq/100g)の逆数で算出される値である。)で表されるカチオン交換率(%)が50以上200以下となるように有する、請求項15に記載の層状珪酸塩。
【請求項17】
310℃以上の熱分解温度を有する、請求項15に記載の層状珪酸塩。
【請求項18】
スメクタイト、バーミキュライトまたはマイカのカチオンの少なくとも1部が上記有機カチオンで置換されたものである、請求項15に記載の層状珪酸塩。

【国際公開番号】WO2004/024820
【国際公開日】平成16年3月25日(2004.3.25)
【発行日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−535936(P2004−535936)
【国際出願番号】PCT/JP2003/011584
【国際出願日】平成15年9月10日(2003.9.10)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】