説明

熱可塑性樹脂における牧草リグニンの使用

本発明は、熱可塑性樹脂(例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)における牧草リグニンの使用に関する。本発明において、牧草リグニンは、超高分子量ポリエチレン、充填剤、および加工油を含む微多孔性膜を含んでなる鉛酸バッテリセパレータに添加される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂(例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE))における牧草リグニンの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リグニンは、木材パルプまたは非木材パルプ製造操作での副産物である。リグニンの化学構造は極めて複雑である。リグニンは一般に、3つの異なるフェニルプロぺノール部分からなる三次元の架橋ポリマーとして認められている。3つのモノマー化合物、クマリルアルコール、コニフェリルアルコール、およびシナピルアルコールの相対量は、リグニン源によって変化する。リグニンは、その単離方法およびその植物源に従って構造が変化する。Jario H.Lora and W.G.Glasser,「Recent Industrial Application of Lignins:A Sustainable Alternative to Nonrenewable Materials」,Journal of Polymers and Environment,p.39,(2002)。リグニンの非木材源は、これに限定されるわけではないが、バガス、わら、マニラアサ、サイザル、アマ、ジュート、および麻を含む。Jario H.Lora,「Characteristics,Industrial Sources,Utilization of Lignins from Non−Wood Plants」,Chemical Modifications,Properties,and Usage of Lignin,p.267,(Plenum Publisher,2002)。トウヒ、マツ、セコイア、ヒマラヤスギから得られるような針葉樹リグニン。広葉樹リグニンは、オーク、サクラ、カエデ、カバノキ、モミジバフウ、マホガニーなどから得られるか、または実質的に得られる。
【0003】
熱可塑性樹脂は、熱にさらされたときに軟化または溶融し、冷却したときに元の状態に戻るポリマーを指す。超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、100万を超える、そして好ましくは約500万〜約700万の範囲の分子量を有するポリマーを指す。UHMWPEは、多くのユニークな特性を有するが、加工すること、すなわち使用可能な形状に形成することが極めて困難である。従来の押出および成形技法は使用できない。押出技法を使用するとき、押出機によってポリマーに加えられるエネルギーは鎖の切断を引き起こすことがあり(例えば熱劣化)、次いでこれはポリマーに悪影響を及ぼす。Rubin,I.I.,Editor,Handbook of Plastic Materials and Technology,John Wiley & Sons,Inc.,NYC,NY,(1990),p.349−354,Stein,H.L.,「Ultra High Molecular Weight Polyethylene(UHMWPE)」,Engineered Materials Handbook,Vol.2 Engineering Plastics,ASM International, Metals Park,OH,1988,および米国特許4,778,601号。上記は、それぞれ参照により本明細書に組み入れられている。したがってUHMWPEは、押出をしやすくするために油または油および充填剤と混合されることが多い。
【0004】
参照により本明細書に組み入れられている米国特許6,485,867号は、熱可塑性樹脂における木材リグニンの使用を開示している。
【0005】
鉛酸ストレージ・バッテリ(lead acid strage battery)の毒作用は既知である。1つの毒は、バッテリ中で使用される鉛の合金成分であるアンチモン(Sb)である。アンチモン毒作用は、水素過電圧の低下を引き起こす。アンチモン毒作用の複数の解決策が示唆されている。例えば以下の文献を参照のこと。米国特許5,221,587号:未架橋天然または合成ゴムの層を、微多孔性またはガラス繊維セパレータ上に置くか、あるいは前記ゴムが微多孔性またはガラス繊維セパレータに包含されている(さらなる解決策の議論については、2列51行〜3列14行も参照)。米国特許5,759,716号:金属不純物(例えばSb)への親和性を有する有機ポリマーが、例えばセパレータに包含される。欧州公開出願EP 0 910 130 A1号:チオリグニンが繊維状セパレータに包含されている。日本国公開出願(公開)11−191405号:ガラスマットセパレータはリグニンで含浸されているか、またはセパレーター上にリグニンがコーティングされている。
【0006】
経済的かつ効率的な方式で鉛酸ストレージ・バッテリの毒作用を低減する方法を発見する必要性が、なお継続している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、熱可塑性樹脂(例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE))における牧草リグニンの使用に関するものである。本発明において、牧草リグニンは、超高分子量ポリエチレン、充填剤、および加工油を含む微多孔性膜を含んでなる鉛酸バッテリセパレータに添加される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明において、牧草リグニンは、超高分子量ポリエチレンから作成された、鉛酸バッテリ用微多孔性バッテリセパレータに添加される。牧草リグニンは、バッテリ内でのアンチモン毒作用を低減するアンチモン抑制剤として作用する。牧草リグニンを使用すると、木材リグニンをバッテリセパレータに使用する場合と比較して、セパレータの顕著な変色がより少ない。さらに牧草リグニンを使用すると、木材リグニンをバッテリセパレータに使用する場合と比較して臭気が劇的に減少する。超高分子量ポリエチレンで作成されたバッテリセパレータが既知である。例えば米国特許3,351,495号およびBesenhard,J.O.,Editor,Handbook of Battery Materials,Wiley−VCH,NYC,NY(1999)p.258〜263を参照。どちらも参照により本明細書に組み入れられている。
【0009】
鉛酸バッテリ用セパレータは一般に、UHMWPE、充填剤、加工油およびリグニンから作成された微多孔性膜を含む。微多孔性膜は、約0.1〜約1.0ミクロンの範囲の平均孔径、10%を超える(好ましくは約55%〜約85%、最も好ましくは約55%〜約70%)多孔率を有し、孔構造は連続気泡構造または相互連結孔構造と呼ばれる。膜は一般に、約15〜25重量%のUHMWPE、50〜80重量%の充填剤、0〜25重量%の加工油、および5〜20%の牧草リグニンを含む。加えて、少量の加工助剤を添加してもよい。好ましくは、膜は17〜23重量%のUHMWPE、50〜60%の充填剤、10〜20%の加工油、および5〜10%の牧草リグニンを含む。これらの物質は既知の方法で混合および押出される。例えば米国特許3,351,495号、およびBesenhard,J.O.,Editor,Handbook of Battery Materials,Wiley−VCH,NYC,NY(1999)p.258〜263を参照。どちらも参照により本明細書に組み入れられている。
【0010】
UHMWPEは、100万を超える、好ましくは300万を超える分子量を有するポリエチレンを指す。UHMWPEは、テキサス州ベイポートのTicona LLCから市販されている。
【0011】
充填剤は、加工油への親和性を有する表面積の大きい粒子を指す。好ましい充填剤は、沈降シリカ、オキシド化合物、およびその混合物を含む。そのようなシリカは、ペンシルバニア州ピッツバーグのPPGおよびドイツ、フランクフルトのDegussa−Huls AGから市販されている。さらなる充填剤の提案については、参照により本明細書に組み入れられている、米国特許3,351,495号および4,861,644号も参照。
【0012】
加工油(または可塑剤)は、例えば鉱油、オレフィン油、パラフィン油、ナフテン油、芳香族油、およびその混合物を指す。加工油は2つの機能を果たす。第1に、それはUHMWPEの加工性を改善し、第2に、それは、セパレータの微多孔性構造を作成するために使用される抽出可能な成分である。鉱油が好ましく、テキサス州ヒューストンのEquilonから市販されている。さらなる加工油(または可塑剤)の提案については、参照により本明細書に組み入れられている、米国特許3,351,495号および4,861,644号も参照。
【0013】
牧草リグニンは、非木材パルプ製造操作での副産物を指し、これは、著しい量のクマリルアルコール前駆物質由来p−ヒドロキシフェニルプロパンからなり、極めて複雑な化学構造を有する。リグニンの牧草源は、これに限定されるわけではないが、バガス、わら、マニラアサ、サイザル、アマ、ジュート、および麻を含む。バガスおよびアマからの牧草源が好ましい。牧草リグニンは、スイス、ローザンヌのGranit SAから市販されている。
【0014】
本発明のこの態様のさらなる説明は、以下の実施例に示す。
【実施例】
【0015】
表1に示す処方物を調製した。
【0016】
【表1】

【0017】
表2に示す表1の処方物は、Sb抑制について試験を行った。以下の結果は、サイクリックボルタンメトリー技法によって得た。サイクリックボルタンメトリー技法は既知である。参照により本明細書に組み入れられている、Dietz,H.,et al,「Influence of substituted benzaldehydes and their derivatives as inhibitors for hydrogen evolution in lead/acid batteries,」53 Journal of Power Sources 359−365(1995)。
【0018】
【表2】

【0019】
表3に示す処方物を調製した。
【0020】
【表3】

【0021】
表4に示す表3の処方物は、6Vゴルフカートバッテリにおいて、充電電流(charge current)ライフサイクルの終了に関して試験を行った。以下の結果を得た。
【0022】
【表4】

【0023】
本発明は、その精神または本質的な特性から逸脱することなく、他の特定の形態で具現でき、したがって上述の明細書よりもむしろ、本発明の範囲を示す添付請求項を参照すべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超高分子量ポリエチレンと、
充填剤と、
加工油と、
牧草リグニンと、
を含む微多孔性膜を含んでなる、鉛酸バッテリ用のバッテリセパレータ。
【請求項2】
前記牧草リグニンが前記膜の約5〜20重量%を占める、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項3】
前記牧草リグニンが前記膜の約5〜10重量%を占める、請求項2に記載のセパレータ。
【請求項4】
前記牧草リグニンがバガス、わら、マニラアサ、サイザル、アマ、ジュート、麻、およびその組合せから供給される、請求項1に記載のセパレータ。
【請求項5】
請求項1のセパレータを含む、鉛酸バッテリ。
【請求項6】
鉛酸バッテリ用バッテリセパレータであって、
約0.1〜約1ミクロンの範囲の孔径および10%を超える多孔率を有する連続気泡構造を有し、さらに、
前記セパレータの約15〜25重量%である、超高分子量ポリエチレンと、
前記セパレータの約50〜80重量%である、充填剤と、
前記セパレータの約25重量%未満である、加工油と、
前記セパレータの約5〜20重量%である、牧草リグニンと、
を有する微多孔性膜を含んでなる、鉛酸バッテリ用バッテリセパレータ。
【請求項7】
前記充填剤が沈降シリカ、オキシド化合物、およびその混合物からなる群より選択される、請求項6に記載のセパレータ。
【請求項8】
前記油が、鉱油、オレフィン油、パラフィン油、ナフテン油、芳香族油、およびその混合物からなる群より選択される、請求項6に記載のセパレータ。
【請求項9】
前記牧草リグニンがバガス、わら、マニラアサ、サイザル、アマ、ジュート、麻、およびその組合せから供給される、請求項6に記載のセパレータ。
【請求項10】
処方物の約80重量%までの熱可塑性ポリマーと、
処方物の約20重量%までの加工油と、
処方物の約10重量%までの牧草リグニンと、
を含んでなる、熱可塑性ポリマー処方物。
【請求項11】
前記ポリマーがポリオレフィンである、請求項10に記載の処方物。
【請求項12】
前記ポリマーが超高分子量ポリエチレンである、請求項10に記載の処方物。
【請求項13】
前記ポリマーが充填剤を含む、請求項10に記載の処方物。
【請求項14】
前記牧草リグニンがバガス、わら、マニラアサ、サイザル、アマ、ジュート、麻、およびその組合せから供給される、請求項10に記載のセパレータ。

【公表番号】特表2007−506247(P2007−506247A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−526910(P2006−526910)
【出願日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/027833
【国際公開番号】WO2005/034264
【国際公開日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(504325025)ダラミック・インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】