説明

熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法

【課題】 Tダイの端側へ中央側とは異なる樹脂を供給できる押出成形用Tダイを用いて、熱可塑性樹脂を溶融押出成形する際に、ネックイン現象およびエッジビード現象を抑制し、製品となるフィルムの幅を拡大する。
【解決手段】 Tダイ10の中央側から押し出される一の熱可塑性樹脂13と、Tダイ10の両端側から押し出される他の熱可塑性樹脂14とが、次の条件式
η≧−40η+53
を満足することを特徴とし、
ここで、
η=ηS,E/ηS,C
η=ηU,E/ηS,E
であり、ηS,Cは一の熱可塑性樹脂のせん断粘度を、ηS,Eは他の熱可塑性樹脂のせん断粘度を、ηU,Eは他の熱可塑性樹脂の一軸伸長粘度を、それぞれ表わすものである、熱可塑性樹脂を溶融押出成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂製フィルムおよびシートを製造する方法として、押出機にて溶融混練した熱可塑性樹脂を、押出機先端に取付けた押出成形用Tダイより押出し、ロールにて巻き取る成形方法が知られている。このような方法で熱可塑性樹脂製フィルムおよびシートを製造する場合、Tダイより押出した溶融状フィルムに、ネックイン現象やエッジビード現象が生じる。「ネックイン現象」とは、Tダイより押出された溶融状フィルムが、その押出速度よりも高速度でロールにより引き取られるため、フィルム幅が狭くなる現象である。「エッジビード現象」とは、ネックイン現象によりフィルムの幅が低下した分、厚さが増加する現象である。このように、ネックイン現象とエッジビード現象は本質的に同一の現象である。
【0003】
フィルムは幅と厚さのアスペクト比が高いため、ネックイン現象とエッジビード現象は、フィルムの端側のみで発生する。エッジビード現象が発生するフィルムの端側は製品として使用できないため、廃棄あるいはリサイクルされる。ネックインが大きい原料や高価な原料の場合、生産コスト面で問題となる。また、端側をトリミングせずに製品を巻き取る場合、エッジビード現象の発生により製品にしわが入り外観が悪化するため問題となる。
【0004】
そこで、エッジビード現象の発生のため製品とならないフィルムの端側に、本来のフィルムとは異なる安価な原料を用いることにより、生産コストを抑制することができる。例えば、Tダイの中央と端側とに、異なる原料の供給口が設置されている押出成形用Tダイを用いて、Tダイの中央側にフィルム本来の原料を流動させ、Tダイの端側に中央側とは異なる原料を流動させる方法が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3459960号公報
【特許文献2】特開2009−297945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載されるTダイを用いてフィルムの端側に安価な原料を供給する方法では、除去されるフィルム端部のコストを抑えることに着目しているだけに過ぎず、ネックイン現象やエッジビード現象は抑制することはできない。このため、製品として利用できるフィルムの幅には制約を受けるという問題があった。
【0007】
かかる状況のもと、本発明が解決しようとする課題は、Tダイの端側へ中央側とは異なる樹脂を供給できる押出成形用Tダイを用いて、熱可塑性樹脂を溶融押出成形する際に、ネックイン現象およびエッジビード現象を抑制し、製品となるフィルムの幅を従来より拡大させることができる、熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、製品時に除去されるフィルムの端側に、ネックイン現象およびエッジビード現象を抑制し、製品となるフィルムの幅を拡大するための機能を持たせることを考え、鋭意研究を重ねた結果、このフィルム端側に用いられる樹脂、すなわちTダイの両端側から押し出される熱可塑性樹脂の粘弾性がこれらの機能に影響していることを見いだした。
【0009】
すなわち、上記課題を解決するため、本発明に係る熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法は、Tダイの中央側から一の熱可塑性樹脂を、また、Tダイの両端側から他の熱可塑性樹脂を押し出して、幅方向に多層構成であるフィルム、シートを成形または押出ラミネート加工する、熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法であって、Tダイの中央側から押し出される一の熱可塑性樹脂と、Tダイの両端側から押し出される他の熱可塑性樹脂とが、次の条件式
η≧−40η+53
を満足することを特徴とし、
ここで、
η=ηS,E/ηS,C
η=ηU,E/ηS,E
であり、ηS,Cは一の熱可塑性樹脂のせん断粘度を、ηS,Eは他の熱可塑性樹脂のせん断粘度を、ηU,Eは他の熱可塑性樹脂の一軸伸長粘度を、それぞれ表わすものである。ここで、各粘度は歪み速度が1×10−1−1以上、1×10−1以下の範囲内で平均化した値である。ただし、ηS,C、ηS,E、ηU,Eは、結晶性樹脂においては、融点+20℃以上、融点+160℃以下における値であり、非結晶性樹脂においては、ガラス転移温度+40℃以上、ガラス転移温度+180℃以下における値である。
【0010】
上記した通り、Tダイの出口から押出された樹脂は、Tダイ出口における速度よりも高速で回転するロールでの引取りにより、ネックイン現象とエッジビード現象が発生する。これらの現象はフィルムの端側のみで発生する。つまり、ネックイン現象は、ロールの引取りによりフィルムの端側が中央側へ引き寄せられることにより発生する。ネックインの抑制には、フィルムの端側の樹脂の粘弾性を改良することが効果的である。本発明に係る熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法によれば、Tダイの中央側および端側から押出す樹脂の溶融粘弾性を調節することにより、Tダイの両端側から押し出される他の熱可塑性樹脂の粘度を大きくしてフィルムの端側が中央側へ引き寄せられるのを抑制する機能と、Tダイの両端側から押し出される他の熱可塑性樹脂が伸長により変形する割合を小さくしてフィルムの端側の変形を抑制する機能とが実現できる。ここで、上記条件式の変数ηは、フィルムの端側が中央側へ引き寄せられるのを抑制する機能に係るパラメータであり、変数ηは、フィルムの端側の変形を抑制する機能に係るパラメータである。そして、上記の条件式を満たすようにこれらの変数η,ηを調整することにより、ダイの端側へ中央側とは異なる樹脂を供給できる押出成形用Tダイを用いて、熱可塑性樹脂を溶融押出成形する際に、ネックイン現象およびエッジビード現象を抑制し、製品となるフィルムの幅を従来より拡大させることができる。
【0011】
また、Tダイの両端側から押し出される他の熱可塑性樹脂が、次の条件式
0.05≦W≦0.6
を満足することが好適である。ここで、Wは、Tダイの端側から押出されたときの前記他の熱可塑性樹脂の幅Wを、エアギャップで除した値を表す。なお、エアギャップとは、Tダイの樹脂の出口と、フィルムとロールの接触線との距離である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法によれば、Tダイの端側へ中央側とは異なる樹脂を供給できる押出成形用Tダイを用いて、熱可塑性樹脂を溶融押出成形する際に、ネックイン現象およびエッジビード現象を抑制し、製品となるフィルムの幅を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法で用いられるTダイの一例を示す図である。
【図2】実施例におけるフィルムの熱流動解析方法を示すフローチャートである。
【図3】実施例においてフィルムの計算に用いる有限要素モデルであり、(a)は解析開始時の図であり、(b)は解析終了時の図である。
【図4】実施例1において図2のステップS11で得られたPE1およびPE2の溶融粘弾性を示す図である。
【図5】実施例2において図2のステップS11で得られたPE1およびPE3の溶融粘弾性を示す図である。
【図6】実施例3において図2のステップS11で得られたPE1およびPE4の溶融粘弾性を示す図である。
【図7】実施例4において図2のステップS11で得られたPE1およびPE5の溶融粘弾性を示す図である。
【図8】比較例2において図2のステップS11で得られたPE1およびPE6の溶融粘弾性を示す図である。
【図9】比較例3において図2のステップS11で得られたPE1およびPE7の溶融粘弾性を示す図である。
【図10】比較例4において図2のステップS11で得られたPE1およびPE8の溶融粘弾性を示す図である。
【図11】比較例5において図2のステップS11で得られたPE1およびPE9の溶融粘弾性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一または同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
本発明は、熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法に関するものであり、製品となるフィルムの幅を拡大させることができる成形方法である。より詳細には、フィルムの中央部にフィルム本来の樹脂原料を配し、フィルムの両端部に中央部とは異なる樹脂原料(好ましくはより安価な原料)を配して、幅方向に多層構成であるフィルム、シートを押出成形又は押出ラミネート加工する方法に関するものである。押出成形方法として、Tダイフィルム成形方法、Tダイシート成形方法、押出ラミネート加工方法が挙げられる。
【0016】
まずは、図1を参照して、この押出成形方法で用いられるTダイについて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法で用いられるTダイの一例を示す図である。
【0017】
図1に示すTダイ10は、単一のマニフォールドを有する構造である。このTダイ10は、樹脂のTダイへの供給口として、中央部への供給口11の他に、Tダイの両端に樹脂の供給口12が設置される。Tダイの中央側へ供給する樹脂(一の熱可塑性樹脂)13と、端側へ供給する樹脂(他の熱可塑性樹脂)14は異なるため、それぞれの樹脂13,14は別々の押出機からTダイの内部へ供給される。Tダイの両端側への樹脂14の供給は、同一の押出機であっても、別々の押出機であっても構わない。また、Tダイの端側への供給口がフィードブロック内に設置されても、フィードブロックを経由せずに押出機から直接Tダイに設置されても構わない。端側への樹脂14の供給口が、ダイの両端側に、ダイの中心線Cを軸として対称に設置されているTダイを用いることが好ましい。
【0018】
ここで、図1に示すように、特に本実施形態に関する変数としては、供給口11からTダイ10の中央側へ供給する熱可塑性樹脂13のせん断粘度ηS,Cと、供給口12からTダイ10の端側へ供給する熱可塑性樹脂14のせん断粘度ηS,E及び一軸伸長粘度ηU,Eと、この樹脂14がTダイ10から押し出される際の幅Wが挙げられる。
【0019】
なお、本発明に用いられるTダイの構造は、図1に示した単一のマニフォールドを有する構造の他にも、複数のマニフォールドを有するマルチマニフォールド式とすることもできるし、また、マルチマニフォールド式Tダイと押出機の間に、フィードブロックを設置することもできる。
【0020】
Tダイの構造がマルチマニフォールド式の場合は、樹脂のTダイへの供給口として、中央への供給口の他に、Tダイの端側への樹脂の供給口が設置される。Tダイの端側への供給口は、各マニフォールドの端側でもよく、Tダイの中央側の樹脂が合流した後にTダイの端側に設置しても構わない。また、Tダイの両端側への樹脂の供給は、同一の押出機であっても、別々の押出機であっても構わない。端側への樹脂の供給口が、ダイの両端側に、ダイの中心線を軸として対称に設置されているTダイを用いることが好ましい。
【0021】
Tダイにフィードブロックが設置される場合、複数の押出機を用いて多層フィルムを製造することもできる。各押出機には、異なる上記の熱可塑性樹脂を用いることができる。各押出機から供給される樹脂を、フィードブロックにより分流、積層させることにより、押出機の数以上の層数のフィルムを製造できる。Tダイの中央側と端側の樹脂の供給口の上流側に、別々にフィードブロックを設置することもできる。この場合、フィルム全体の幅が多層構成のフィルムとなる。しかしながら、Tダイの中央側と端側から押出されるフィルムは、単層であっても多層であっても構わない。この場合、Tダイの中央側と端側に供給される熱可塑性樹脂が、後述する要件を満たしていればよい。
【0022】
次に、本実施形態の溶融押出成形方法で用いられる熱可塑性樹脂について説明する。本実施形態にかかる熱可塑性樹脂は、Tダイ10の中央側から押し出される熱可塑性樹脂13と、Tダイ10の両端側から押し出される熱可塑性樹脂14とが、下記式(1)を満足することを特徴とする。ここで、ηおよびηは下記式(2)および(3)をそれぞれ満足する。また、ηS,Cは中央側から押出す樹脂13のせん断粘度を、ηS,Eは端側から押出す樹脂14のせん断粘度を、ηU,Eは端側から押出す樹脂14の一軸伸長粘度をそれぞれ表わし、各粘度は歪み速度が1×10−1−1以上、1×10−1以下の範囲内で平均化した値である。ただし、ηS,C、ηS,E、ηU,Eは、結晶性樹脂においては、融点+20℃以上、融点+160℃以下における値であり、非結晶性樹脂においては、ガラス転移温度+40℃以上、ガラス転移温度+180℃以下における値である。
η≧−40η+53 (1)
η=ηS,E/ηS,C (2)
η=ηU,E/ηS,E (3)
【0023】
ηおよびηは、本発明者らにより見出された、熱可塑性樹脂のネックインに影響を与えるパラメータである。ネックインを小さくするためには、上記式(1)に示すようにη≧−40η+53であればよいが、η≧−40η+56であることが好ましく、η≧−40η+59であることがより好ましい。
【0024】
なお、ηは、上述のとおり、端側から押出す樹脂14のせん断粘度ηS,Eと中央側から押出す樹脂13のせん断粘度ηS,Cとの比を示す値であり、Tダイ10の両端側から押し出される熱可塑性樹脂14の粘度を高くしてフィルムの端側が中央側へ引き寄せられるのを抑制する機能に係るパラメータである。この値が高くなるのに応じて、端側から押出す熱可塑性樹脂14のせん断粘度ηS,Eが中央側から押出す樹脂13のせん断粘度ηS,Cより高くなることを示すものである。
【0025】
また、ηは、上述のとおり、端側から押出す樹脂14の一軸伸長粘度ηU,Eと、端側から押出す樹脂14のせん断粘度ηS,Eとの比を示す値である。ここで、「一軸伸長粘度」とは、一軸伸長変形における伸長方向の応力を断面積で除して得られる粘度であり、溶融紡糸、フィルム成形、ブロ−成形、熱成形などのダイを出た以降の押出物の均一変形や成形安定性を評価できる指標である。このηは、Tダイ10の両端側から押し出される熱可塑性樹脂14が伸長により変形する割合を小さくしてフィルムの端側の変形を抑制する機能に関するパラメータである。この値ηが大きくなるのに応じて、端側から押出す熱可塑性樹脂14が伸長により変形する割合が小さくなって、ネックイン現象が生じ難くなることを示すものである。
【0026】
Tダイの出口から押出された樹脂は、Tダイ10の出口における速度よりも高速で回転するロール(図示せず)での引取りにより、ネックイン現象とエッジビード現象が発生する。これらの現象はフィルムの端側のみで発生する。つまり、ネックイン現象は、ロールの引取りによりフィルムの端側が中央側へ引き寄せられることにより発生する。ネックインの抑制には、フィルムの端側の樹脂の粘弾性を改良することが効果的である。
【0027】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法によれば、Tダイ10の中央側および端側から押出す樹脂13,14の溶融粘弾性を調節することにより、Tダイ10の両端側から押し出される熱可塑性樹脂14の粘度を高くしてフィルムの端側が中央側へ引き寄せられるのを抑制する機能と、Tダイ10の両端側から押し出される熱可塑性樹脂14が伸長により変形する割合を小さくしてフィルムの端側の変形を抑制する機能とが実現できる。ここで、上記条件式(1)の変数ηは、フィルムの端側が中央側へ引き寄せられるのを抑制する機能に係るパラメータであり、変数ηは、フィルムの端側の変形を抑制する機能に係るパラメータである。そして、上記の条件式(1)を満たすようにこれらの変数η、ηを調整することにより、ダイの端側へ中央側とは異なる樹脂を供給できる押出成形用Tダイを用いて、熱可塑性樹脂を溶融押出成形する際に、ネックイン現象およびエッジビード現象を抑制し、製品となるフィルムの幅を従来より拡大させることができる。
【0028】
なお、せん断粘度ηおよび一軸伸長粘度ηの測定法としては、例えば、「RHEOLOGY」、C.W.Macosko著、Wiley−VCHInc、181〜336頁(1994年)に記載されている方法を採用することができる。また、測定温度としては、結晶性樹脂においては、融点+20℃以上、融点+160℃以下とすればよく、非結晶性樹脂においては、ガラス転移温度+40℃以上、ガラス転移温度+180℃以下とすればよい。
【0029】
また、本実施形態にかかる熱可塑性樹脂は、さらに、Tダイの端側から押出される樹脂14が、下記式(4)を満足することを特徴とする。
0.05≦W≦0.6 (4)
ここで、Wは、Tダイの端側から押出される樹脂14の幅Wをエアギャップ(Tダイ10の出口から、Tダイ10から押出成形されたフィルムが巻き取られるロール(図示せず)のフィルムとの接触線までの距離)で除した値である。
【0030】
本実施形態では、フィルムのネックインを小さくするためには、上記式(4)に示すように0.05≦W≦0.6であればよいが、0.1≦W≦0.57であることが好ましく、0.2≦W≦0.55であることがより好ましい。Wが0.05に満たないと、フィルム幅の拡大効果は得られない。また、Wが0.6を超えると、端側樹脂のせん断粘度が中央側樹脂のせん断粘度より高い場合、中央側樹脂と端側樹脂との境界で、中央側樹脂は薄く、端側樹脂が厚くなり厚さの変化が大きくなりすぎるため、厚さが均一なフィルムの幅は拡大されない。なお、ネックインはダイ幅に依存しないため、Tダイの端側から押出す樹脂の幅Wのネックインを低減させる効果は、ダイ幅に依存しない。
【0031】
本発明にかかる熱可塑性樹脂の種類としては、結晶性樹脂としては、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、アイオノマー樹脂等を例示でき、非結晶性樹脂としては、ポリスチレン、アクリロニトリル・スチレン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、メチルメタクリレート・スチレン共重合体、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エチレン・ノルボルネン共重合体、エチレン−ドモン共重合体等を例示することができる。
【0032】
中でもポリエチレンとポリプロピレンが好ましい。ポリエチレンとは、エチレンを重合して得られる樹脂であってポリエチレン結晶構造を有する熱可塑性樹脂を意味し、好ましくは、エチレンの単独重合体、エチレンの誘導体を繰り返し単位として50重量%以上含有するエチレンと炭素原子数3〜18のα−オレフィンとの共重合体、又はエチレンと少なくとも1種の他のモノマーとの共重合体である。該α−オレフィンとしては、プロピレン、ブテン−1,4−メチルペンテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、デセン−1を例示することができる。該他のモノマーとしては、例えば、共役ジエン(例えばブタジエン、イソプレン)、非共役ジエン(例えば1,4ペンタジエン)、アクリル酸、アクリル酸エステル(例えばアクリル酸メチル、アクリル酸エチル)、メタクリル酸、メタクリル酸エステル(例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル)及び酢酸ビニルが挙げられる。
【0033】
ポリエチレンとしては、例えば超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−4−メチルペンテン−1共重合体、エチレン−ヘキセン−1共重合体、エチレン−オクテン−1共重合体、エチレン−デセン−1共重合体等のエチレンと炭素原子数3〜18のα−オレフィンとの共重合体、エチレンと共役ジエン(例えばブタジエン又はイソプレン)との共重合体、エチレンと非共役ジエン(例えば1,4ペンタジエン)との共重合体、エチレンとアクリル酸、メタクリル酸又は酢酸ビニル等との共重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂を、例えばα、β−不飽和カルボン酸、その誘導体(例えばアクリル酸、アクリル酸メチル)、脂環族カルボン酸又はその誘導体(例えば無水マレイン酸)等によって変性(例えばグラフト変性)させた樹脂等が挙げられる。
【0034】
ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレンが好ましい。低密度ポリエチレンとしては、例えば、有機過酸化物、酸素等の遊離基発生剤を使用してエチレンを高圧下でラジカル重合することによって得られる低密度ポリエチレンが挙げられる。低密度ポリエチレンの剛性を向上するために、高密度ポリエチレンを配合することも好ましい。低密度ポリエチレ100重両部に対する、高密度ポリエチレンの好ましい配合比は、0〜90重量部であり、さらに好ましい配合比は10〜60重量部である。
【0035】
本発明で溶融押出成形する低密度ポリエチレンのMFRは1〜30g/10分であり、好ましくは2〜20g/10分であり、特に好ましくは4〜15g/10分である。MFRは、JIS K7210−1995に規定された方法において、温度190℃および荷重21.18Nの条件で測定される。
【0036】
本発明で溶融押出成形する低密度ポリエチレンの密度は、910〜930kg/m3であり、好ましくは912〜928kg/m3である。密度は、JIS K6760−1995に記載のアニーリングを行った後、JIS K7112−1980のうち、A法に規定された方法に従って測定される。
【0037】
本発明で溶融押出しする低密度ポリエチレンの分子量分布は3〜10であり、好ましくは5〜8である。分子量分布(M/M)は、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法を用いて、以下の条件により、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)を測定することで求められる。
<測定条件>
・装置:Water製Waters150C
・分離カラム:TOSOH TSKgelGMH−HT
・測定温度:145℃
・キャリア:オルトジクロロベンゼン
・流量:1.0mL/分
・注入量:500μL
・検出器:示差屈折
【0038】
本発明で低密度ポリエチレンに配合して用いられる高密度ポリエチレンのMFRは、1〜50g/10分であり、好ましくは2〜20g/10分である。また、高密度ポリエチレンの密度は、935〜965kg/m3であり、好ましくは945〜960kg/m3である。
【0039】
ポリプロピレンとは、プロピレンを重合して得られる樹脂であって、アイソタクチックポリプロピレン結晶構造を有する熱可塑性樹脂を意味し、プロピレンの単独重合体、またはプロピレンと結晶性を失わない程度の量のエチレンおよび/または炭素原子数4〜12のα−オレフィン等のコモノマーとの共重合体が好ましい。α−オレフィンとしては、例えば、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン等が挙げられる。結晶性を失わない程度の量とはコモノマーの種類により異なるが、例えばエチレンの場合、共重合体中のエチレンから誘導される繰り返し単位の量は通常10重量%以下、1−ブテン等の他のα−オレフィンの場合、共重合体中のα−オレフィンから誘導される繰り返し単位の量は通常30重量%以下である。
【0040】
好ましいポリプロピレンとしては、エチレンから誘導される繰り返し単位の量が0〜10重量%であるプロピレンとエチレンとのブロック共重合体が用いられる。また、好ましいポリプロピレンとしては、エチレンから誘導される繰り返し単位の量が0〜10重量%、1−ブテンから誘導される繰り返し単位の量が0〜30重量%であるであるプロピレンとエチレンおよび1−ブテンとのランダム共重合体である。
【0041】
上記プロピレンとエチレンとのブロック共重合体とは、下記の第一工程と第二工程とで得られる共重合体を意味する。
・第一工程:エチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が0〜3重量%である重合体部分(a)が全共重合体量の70〜90重量%となるまで、プロピレンを単独重合、またはプロピレンとエチレンとを共重合させる工程。
・第二工程:第一工程で得られた重合体部分(a)の存在下に、エチレンから誘導される繰り返し単位の含有量が10〜50重量%である重合体部分(b)を、プロピレンとエチレンとを共重合させて製造する工程。
【0042】
上記ポリプロピレンは、公知の種々の触媒を使用して製造されるが、かかる触媒としてはチタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られるマルチサイト触媒や、メタロセン錯体等を用いて得られるシングルサイト触媒が挙げられる。上記ポリプロピレンは好ましくはチタン原子、マグネシウム原子およびハロゲン原子を含有する固体触媒成分を用いて得られるマルチサイト触媒を使用して製造される。
【0043】
本発明で用いられるポリプロピレンの230℃におけるMFRは0.3〜100g/10分であり、好ましくは、1〜50g/10分であり、さらに好ましくは2〜30g/10分であり、特に好ましくは5〜15g/10分である。MFRは、JIS K7210−1995に規定された方法において、温度230℃および荷重21.18Nの条件で測定される。
【0044】
本発明にかかる熱可塑性樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で必要に応じて、例えば、中和剤、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、核剤、可塑剤、防曇剤、気泡防止剤、分散剤、難燃剤、抗菌剤、蛍光増白剤、塩酸吸収剤等の公知の添加剤、染料、顔料等の着色剤、酸化チタン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム等の他の成分と組み合わせて用いてもよい。
【0045】
本発明にかかる熱可塑性樹脂を製造する方法としては、例えば、各成分を公知の混練機で溶融混練して樹脂組成物を製造する方法が挙げられる。混練機としては、例えば単軸混練押出機、多軸混練押出機、バンバリーミキサー、ニーダー等が挙げられる。溶融混練条件は、混練時に発生する応力、加熱温度、流動による発熱等によって樹脂の劣化が起こらない限り、特に制限されない。
【0046】
本発明の製造方法によって得られるフィルムは、食品、医薬・医療品、化粧品、農業資材、産業資材、工業資材等の包装用途に用いられ得る。また、光学用品や電子情報の表示部品等にも用いられ得る。さらに、例えばアルミニウム箔、蒸着フィルム、コーティングフィルム、チューブ、パイプ等への押出ラミネートにも用いられ得る。本発明の製造方法によって得られるフィルムは、そのまま種々の用途に使用してもよいし、他のフィルムや部材と積層、または貼合して使用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【0048】
物性は、次の方法に従って測定した。
(1)密度(単位:kg/m3
JIS K7112−1980のうち、A法に規定された方法に従って測定した。なお、試料には、JIS K6760−1995に記載のアニーリングを行った。
(2)メルトフローレート(MFR、単位:g/10min)
JIS K7210−1995に規定された方法に従い、荷重21.18N、温度190℃の条件で、A法により測定した。
(3)分子量分布(M/M
【0049】
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフ(GPC)法を用いて、下記の条件により、重量平均分子量(M)と数平均分子量(M)を測定し、分子量分布(M/M)を求めた。
<測定条件>
・装置:Water製Waters150C
・分離カラム:TOSOH TSKgelGMH−HT
・測定温度:145℃
・キャリア:オルトジクロロベンゼン
・流量:1.0mL/min
・注入量:500μL
・検出器:示差屈折
【0050】
(4)Tダイ10の端側の樹脂14のせん断粘度の平均値と、中央側の樹脂13のせん断粘度の平均値との比(ηS,E/ηS,C=η
Tダイの端側の樹脂14のせん断粘度の平均値ηS,Eと、中央側の樹脂13のせん断粘度の平均値ηS,Cとの比を算出した。粘度はPTTモデルから得られる値を用いた。エアギャップではフィルムは低歪み速度から高歪み速度まで変化するため、歪み速度が1×10−1−1以上、1×10−1以下の範囲内で平均化してηS,E/ηS,C(−)を得た。なお、エアギャップとは、Tダイ10の出口と、フィルムとロールの接触線との距離である。
【0051】
(5)Tダイの端側の樹脂14の一軸伸長粘度の平均値と、せん断粘度の平均値との比(ηU,E/ηS,E=η
Tダイの端側の樹脂14の一軸伸長粘度の平均値ηU,Eとせん断粘度の平均値ηS,Eとの比を算出した。粘度はPTTモデルから得られる値を用いた。各粘度は歪み速度が1×10−1−1以上、1×10−1以下の範囲内で平均化してηS,E/ηS,C(−)を得た。
【0052】
(6)無次元有効フィルム幅(W
計算により、フィルムと引取ロールとの接触線におけるフィルムの厚さ分布を得た。フィルムの中央における厚さthを基準として、フィルムの厚さが0.97th以上、1.03th以下であるフィルム幅WFを求めた。このフィルム幅WFが、製品として利用可能なフィルムの幅である。次にフィルム幅WFをエアギャップで除して、無次元有効フィルム幅Wを得た。
[実施例1]
【0053】
フィルム成形のエアギャップにおける熱流動状態を計算し、エアギャップで無次元化した、製品として有効なフィルム幅Wを得た。
【0054】
図2を用いて本実施例における計算の手順について説明する。図2は本実施例にて行った計算のフローを示す図である。本発明にかかる、熱可塑性樹脂のTダイを用いた溶融押出成形方法に関して、エアギャップにおけるフィルムの熱流動解析を行った。計算には有限要素法に基づいた熱流動解析ソフトウェアPOLYFLOW バージョン3.12.2(販売元:アンシス・ジャパン株式会社)を用いた。具体的には、エアギャップにおけるフィルムの有限要素モデルおよび計算用データを作成し、フィルムの熱流動状態をPOLYFLOWにより計算し、フィルムの厚さ分布を得た。この厚さ分布から、エアギャップにより無次元化した有効フィルム幅Wを得た。
【0055】
図2を用いてフィルムの熱流動解析処理における計算の詳細について説明する。まず、フィルムの有限要素モデルを作成した(ステップS10)。モデルの作成には、例えば、モデリングソフトウェアGambit バージョン2.4.6(販売元:アンシス・ジャパン株式会社)が用いられる。フィルムの厚さ方向への物理量の変化を平均化した擬3次元モデルが用いられる。また、幅方向への対称性を考慮して、幅方向における構成が半分となった1/2モデルを用いる。以上の有限要素モデルを後述の境界条件とともに図3(a)に示す。Tダイの出口幅は600mm、Tダイのギャップは0.8mm、エアギャップは160mmに設定した。Tダイの中央側の樹脂の幅は480mm、端側の樹脂の幅は60mmとした。これより、WE=0.375となる。解析方法は後述するが、有限要素モデルは繰り返し計算を行い、図3(b)に示すモデルへと変形させる。なお、図3(a)には、計算初期状態の有限要素モデルが示され、図3(b)には、変形後の有限要素モデルが示されており、両図における原点(x=0,y=0)Aは、Tダイの出口の中央に相当する。
【0056】
続いて、フィルムの熱流動解析用のデータファイルを作成した(ステップS11)。計算には、有限要素法に基づいた熱流動解析ソフトウェアPOLYFLOW バージョン3.12.2(販売元:アンシス・ジャパン株式会社)を用いた。フィルムの熱流動解析用のデータファイルには、以下の境界条件を設定した。なお、図3(a)に計算初期状態の有限要素モデルを境界条件とともに示した。
・境界1(線分AB):ダイの出口に相当する。初期の引取方向速度Vとして0.05m/sを、幅方向速度Vとして0m/sを、ダイ出口厚さとして0.8mmを、樹脂温度として320℃をそれぞれ与えた。
・境界2(線分BC):フィルムの端側に相当する。自由表面として扱い、法線方向速度Vとして0m/sを、法線方向応力τnとして0Paを、また、断熱条件をそれぞれ与えた。
・境界3(線分CD):フィルムをチルロールで引取る位置に相当する。引取方向速度Vとして2m/sを、幅方向応力τとして0Paを、また、断熱条件をそれぞれ与えた。
・境界4(線分DA):フィルムの幅方向の対称線に相当する。幅方向速度Vとして0m/sを、引取方向応力τとして0Paを、また、断熱条件をそれぞれ与えた。また、フィルム表面全体において、熱流速f=20W/(m・K)を与えた。
【0057】
本発明の溶融押出成形方法の計算において、Tダイの端側に供給する樹脂として、高圧法低密度ポリエチレン(住友化学(株)製スミカセンCE3526、MFR=4.1g/10min、密度=918kg/m3、分子量分布=6.6、以下「PE2」という)を用いた。また、Tダイの中央側に供給する樹脂として、PE1を用いた。PE1の粘弾性データに関しては後述する。
【0058】
PE1の粘弾性の測定には、回転型レオメータ(TA Instruments社、ARES)を用いて、複素粘度η*、貯蔵弾性率G’、損失弾性率G’’を測定した。試料のフィクスチャーとして直径が25mmの平行円盤を用いた。粘弾性は温度が130〜190℃、角周波数が0.01〜100rad/sの範囲で測定した。得られた粘弾性は、Cox−Merzの経験則に従い、角周波数をせん断速度に単位換算して用いた。一軸伸長粘度の測定には回転型レオメータ(TA Instruments社、ARES)およびキャピラリー型レオメータ(Bohlin社、Flowmaster RH7)を用いた。一軸伸長速度が0.1〜3s−1の範囲は回転型レオメータにより、4〜270s−1の範囲はキャピラリー型レオメータにより測定した。図4には上記した測定によって求められた、PE1の130℃における粘弾性データをシンボルで示した。
【0059】
ステップS12における計算では、樹脂を粘弾性流体として扱った。粘弾性モデルとして、Phan−Thien/Tannerモデル(以下、「PTTモデル」という。)を用いた。PTTモデルは、例えば、Phan−Thien、JournalofRheology、22巻、259〜283頁(1978年)に記載されている。PTTモデルを式(5)に示す。
【数1】


ここで、ηは粘度を、τは異方性応力テンソルを、Dは変形速度テンソルを、λは緩和時間を、ξ及びεは非線形パラメータを表す。△はlower−convected時間微分を、▽はupper−convected時間微分をそれぞれ表す。本実施形態で用いたPE1のPTTモデルのパラメータを表1に、PE2のパラメータを表2にそれぞれ示す。
【表1】


【表2】


また、PTTモデルの温度依存性モデルとして、式(6)に示すArrheniusモデルを用いた。
【数2】


ここで、Tは温度を、T0は摂氏温度の絶対温度への換算値を、Tαは基準温度を、αは温度依存パラメータをそれぞれ表す。本実施形態では、PE1、PE2ともに、Tαとして130℃を、αとして6000をそれぞれ与えた。本ステップS11で得た、130℃におけるPE1およびPE2のPTTモデルの粘弾性データを図4に示す。細い線がPE1のPTTモデルを、太い線がPE2のPTTモデルを、シンボルがPE2の測定値を表す。PE1およびPE2の物性値として、密度d=735kg/m、熱伝導度k=0.18W/m・K、比熱Cp=3000J/(kg・℃)を与えた。
【0060】
続いて、ステップS10で作成した有限要素モデルと、ステップS11で作成したデータを用いて、有限要素法を用いて計算し、該計算によってエアギャップにより無次元化した有効フィルム幅Wを算出した(ステップS12)。具体的には、上述したPOLYFLOW バージョン3.12.2により、図3(a)に示す有限要素モデルを用いて計算を行った。境界条件としては、ステップS11における境界1〜4の条件を与えた。また、流体モデルとしては、式(5)に示すPTTモデルを用いた。PTTモデルのパラメータとして、表1および表2に示す値を与えた。PE1およびPE2の温度依存性モデルとしては、式(6)に示すArrheniusモデルを用いた。また、PE1およびPE2の物性値として、上記物性値を与えた。これらの有限要素モデル、流体モデル、温度依存性モデルおよび物性値を用いて、与えられた境界条件の下に、有限要素計算を行った。計算初期は、境界3における引取速度Vとして、境界1と同一の値を与え、境界3の引取速度Vの値を順次大きくしながら繰り返し計算を行った。有限要素モデルは、計算を繰り返すごとに境界条件を満足するように変形させ、図3(b)に示した最終のフィルムの形状を得た。このような計算の実行により、フィルムの速度、応力、温度、厚さの分布を得た。また、エアギャップにより無次元化した有効フィルム幅Wを算出した。以上の計算で得られた実施例1の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0061】
以上、本実施形態によれば、式(1)を満たすような樹脂をTダイの中央側および端側へ用い、端側の樹脂の幅を式(4)を満足させることにより、製品となるフィルム幅を拡大することが可能である。Tダイの端側の樹脂が中央側の樹脂と同一である通常のフィルムの層構成が、比較例1に相当する。
【0062】
〔実施例2〕
実施例1におけるTダイの端側へ用いる樹脂を、PE3に変えた以外は実施例1と同様に計算した。PE3のPTTモデルのパラメータを表3に示す。PE3のArrheniusモデルのパラメータおよび物性値は、PE1と同一である。PE1およびPE3の粘弾性データを図5に示す。以上の計算で得られた実施例2の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【表3】

【0063】
〔実施例3〕
実施例1におけるTダイの端側へ用いる樹脂を、PE4に変えた以外は実施例1と同様に計算した。PE4のPTTモデルのパラメータを表4に示す。PE4のArrheniusモデルのパラメータおよび物性値は、PE1と同一である。PE1およびPE4の粘弾性データを図6に示す。以上の計算で得られた実施例3の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【表4】

【0064】
〔実施例4〕
実施例1におけるTダイの端側へ用いる樹脂を、PE5に変えた以外は実施例1と同様に計算した。PE5のPTTモデルのパラメータを表5に示す。PE5のArrheniusモデルのパラメータおよび物性値は、PE1と同一である。PE1およびPE5の粘弾性データを図7に示す。以上の計算で得られた実施例4の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【表5】

【0065】
〔実施例5〕
実施例2におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW=0.188に変えた以外は実施例2と同様に計算した。以上の計算で得られた実施例5の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0066】
〔実施例6〕
実施例2におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW=0.563に変えた以外は実施例2と同様に計算した。以上の計算で得られた実施例6の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0067】
〔実施例7〕
実施例3におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW=0.188に変えた以外は実施例3と同様に計算した。以上の計算で得られた実施例7の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0068】
〔実施例8〕
実施例3におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW=0.563に変えた以外は実施例3と同様に計算した。以上の計算で得られた実施例8の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0069】
〔比較例1〕
実施例1におけるTダイの端側へ用いる樹脂を、PE1に変えた以外は実施例1と同様に計算した。以上の計算で得られた比較例1の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0070】
〔比較例2〕
実施例1におけるTダイの端側へ用いる樹脂を、PE6に変えた以外は実施例1と同様に計算した。PE6のPTTモデルのパラメータを表6に示す。PE6のArrheniusモデルのパラメータおよび物性値は、PE1と同一である。PE1およびPE6の粘弾性データを図8に示す。以上の計算で得られた比較例2の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【表6】

【0071】
〔比較例3〕
実施例1におけるTダイの端側へ用いる樹脂を、PE7に変えた以外は実施例1と同様に計算した。PE7のPTTモデルのパラメータを表7に示す。PE7のArrheniusモデルのパラメータおよび物性値は、PE1と同一である。PE1およびPE7の粘弾性データを図9に示す。以上の計算で得られた比較例3の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【表7】

【0072】
〔比較例4〕
実施例1におけるTダイの端側へ用いる樹脂を、PE8に変えた以外は実施例1と同様に計算した。PE8のPTTモデルのパラメータを表8に示す。PE8のArrheniusモデルのパラメータおよび物性値は、PE1と同一である。PE1およびPE8の粘弾性データを図10に示す。以上の計算で得られた比較例4の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【表8】

【0073】
〔比較例5〕
実施例1におけるTダイの端側へ用いる樹脂を、PE9に変えた以外は実施例1と同様に計算した。PE9のPTTモデルのパラメータを表9に示す。PE9のArrheniusモデルのパラメータおよび物性値は、PE1と同一である。PE1およびPE9の粘弾性データを図11に示す。以上の計算で得られた比較例5の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【表9】

【0074】
〔比較例6〕
比較例2におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW=0.188に変えた以外は比較例2と同様に計算した。以上の計算で得られた比較例6の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0075】
〔比較例7〕
比較例2におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW=0.563に変えた以外は比較例2と同様に計算した。以上の計算で得られた比較例7の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0076】
〔比較例8〕
比較例2におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW*=0.75に変えた以外は比較例2と同様に計算した。以上の計算で得られた比較例8の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0077】
〔比較例9〕
比較例3におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW=0.188に変えた以外は比較例3と同様に計算した。以上の計算で得られた比較例9の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0078】
〔比較例10〕
比較例3におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW=0.563に変えた以外は比較例3と同様に計算した。以上の計算で得られた比較例10の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0079】
〔比較例11〕
比較例3におけるTダイの端側へ用いる樹脂の幅をW=0.75に変えた以外は比較例3と同様に計算した。以上の計算で得られた比較例11の無次元有効フィルム幅Wを表10に示す。
【0080】
表10に、上述の実施例1〜8及び比較例1〜11のそれぞれの、フィルム中央側の樹脂原料、フィルム両端側の樹脂原料、η、η、−40η+53(式(1)右辺の計算値)、W、Wを示す。
【表10】

【0081】
表10に示すように、実施例1〜8は、条件式(1)を満足しており、無次元有効フィルム幅Wが1.094〜1.470となることが確認された。これに対し、比較例1〜11は、条件式(1)を満足せず、無次元有効フィルム幅Wが実施例よりも小さく、0.446〜1.018となることが確認された。このように、本発明によれば、製品となるフィルムの幅を拡大できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明にかかる熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法は、製品となり得るフィルム幅を拡大することができるため、Tダイフィルム成形、Tダイシート成形や押出ラミネート加工等に好適に適用できる。
【符号の説明】
【0083】
10…Tダイ、13…Tダイの中央側から押し出される熱可塑性樹脂、14…Tダイの両端側から押し出される前記他の熱可塑性樹脂。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Tダイの中央側から一の熱可塑性樹脂を、また、Tダイの両端側から他の熱可塑性樹脂を押し出して、幅方向に多層構成であるフィルム、シートを成形または押出ラミネート加工する、熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法であって、
Tダイの中央側から押し出される前記一の熱可塑性樹脂と、Tダイの両端側から押し出される前記他の熱可塑性樹脂とが、次の条件式
η≧−40η+53
を満足することを特徴とし、
ここで、
η=ηS,E/ηS,C
η=ηU,E/ηS,E
であり、ηS,Cは前記一の熱可塑性樹脂のせん断粘度を、ηS,Eは前記他の熱可塑性樹脂のせん断粘度を、ηU,Eは前記他の熱可塑性樹脂の一軸伸長粘度を、それぞれ表わす、熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法。
【請求項2】
Tダイの両端側から押し出される前記他の熱可塑性樹脂が、次の条件式
0.05≦W≦0.6
を満足することを特徴とし、
ここで、Wは、Tダイの端側から押出されたときの前記他の熱可塑性樹脂の幅Wを、エアギャップで除した値を表すことを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性樹脂の溶融押出成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−6383(P2012−6383A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−111516(P2011−111516)
【出願日】平成23年5月18日(2011.5.18)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】