説明

熱可塑性樹脂シートの製造方法

【課題】機械的物性、厚さの均一性、表面意匠付与特性に優れる熱可塑性樹脂シートを連続的に製造する方法を提供する。
【解決手段】回転駆動された、離型性のある金属製エンドレスベルト12を有するベルトコンベヤ1の上側搬送面上に熱可塑性樹脂粉末Pを供給して、均一な堆積層を形成し、この堆積層を、前方に搬送しながら、ベルトコンベヤ1前部で加熱し、堆積層における、ベルトコンベヤ1の上側搬送面近傍にある樹脂粉末Pを溶融させて、一体化させることで、熱可塑性樹脂シートSとし、この樹脂シートSをベルトコンベヤ1の上側搬送面から下側搬送面に搬送し、この搬送過程で、樹脂シートS上に残留した未溶融の樹脂粉末MPを回収して、再度、ベルトコンベヤ1の上側搬送面に供給し、ベルトコンベヤ1の下側搬送面に搬送した樹脂シートSを、後方に搬送しながら、ベルトコンベヤ1の後部で冷却固化させた後、樹脂シート巻取装置8により巻き取る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続スラッシュ成形法による熱可塑性樹脂シートの製造方法、製造装置及び熱可塑性樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シームレスの熱可塑性樹脂シートの連続的製造方法としては、(1) スチレン系樹脂等を含む熱可塑性樹脂組成物を溶融混練して、ダイ(ノズル)から押出成形した後、冷却ロールにより冷却して、必要により延伸(特に二軸延伸)、又は、トリミングして、所定寸法に切断した後、巻取ロールや紙管に巻き取る押出成形法(例えば、特許文献1参照)と、(2) 基紙の上に有機溶剤を含むボリ塩化ビニル樹脂組成物を塗布した後、乾燥させて、樹脂層を形成させる塗布法(例えば、特許文献2参照)が挙げられ、後者はボリ塩化ビニル壁紙の製造方法として多用されている。
【0003】
又、熱可塑性樹脂シートのバッチ式製造方法としては、スラッシュ成形法によるものがあり、この成形法による一例としては、インストルメントパネル表皮材等の自動車内装材の製造方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−256125号公報
【特許文献2】特開2000−239996号公報
【特許文献3】特開2006−256068号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の押出成形法による熱可塑性樹脂シートの製造方法では、ダイのリッブ間隔や樹脂流量により樹脂の押出量を制御するので、厚さが均一な外観形状に優れた樹脂シートを製造することが困難であった。又、上記のように、樹脂シートの厚さが均一でないと、樹脂シートの機械的物性が悪化すると共に、樹脂シート表面に模様を刻印転写する際において、深く刻印した場合に、樹脂シートが破れる惧れがあり、樹脂シートへの模様の刻印転写等の意匠性付与特性も悪化するという問題があった。
【0006】
又、上記従来の塗布法による熱可塑性樹脂シートの製造方法では、有機溶剤の使用による作業環境上の問題があった。
【0007】
更に、上記従来のスラッシュ成形法による熱可塑性樹脂シートの製造方法は、バッチ式製造方法であって、連続して製造するものではないため、上記連続的製造方法に比べると、生産性の点で問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。本発明の連続スラッシュ成形法による熱可塑性樹脂シートの製造方法の特徴とするところは、回転駆動された、離型性のある金属製エンドレスベルトを有するベルトコンベヤの上側搬送面上に熱可塑性樹脂粉末を供給し、堆積させて、堆積層を形成すると共に、その堆積厚さを略均一とし、上記堆積層を、ベルトコンベヤにより前方に搬送しながら、ベルトコンベヤの加熱された前部で加熱し、堆積層における、ベルトコンベヤの上側搬送面近傍にある樹脂粉末を溶融させて、一体化させることで、熱可塑性樹脂シートとし、この樹脂シートをベルトコンベヤの上側搬送面から下側搬送面に搬送し、この搬送過程で、樹脂シート上に残留した未溶融の樹脂粉末を回収して、再度、ベルトコンベヤの上側搬送面に供給し、ベルトコンベヤの下側搬送面に搬送した樹脂シートを、ベルトコンベヤにより後方に搬送しながら、ベルトコンベヤの冷却された後部で冷却固化させ、この固化させた樹脂シートを樹脂シート巻取装置により巻き取る点にある。
又、本発明の連続スラッシュ成形法による熱可塑性樹脂シートの製造装置の特徴とするところは、A.熱可塑性樹脂粉末の堆積層を、上側搬送面で前方に搬送しながら、加熱された前部で加熱し、堆積層における、上側搬送面近傍にある樹脂粉末を溶融させて、一体化させることで、熱可塑性樹脂シートとし、この樹脂シートを、下側搬送面で後方に搬送しながら、冷却された後部で冷却固化させる、離型性のある金属製エンドレスベルトを有するベルトコンベヤと、B.ベルトコンベヤの上側搬送面に樹脂粉末を供給し、堆積させて、堆積層を形成する樹脂粉末供給装置と、C.ベルトコンベヤの上側搬送面上の樹脂粉末の堆積層の堆積厚さを略均一とする堆積厚さ均一化装置と、D.ベルトコンベヤ前部の下方に位置し、樹脂シートから落下及び/又は掻き落とした未溶融の樹脂粉末を回収する未溶融樹脂粉末回収装置と、E.未溶融樹脂粉末回収装置に回収された樹脂粉末を樹脂粉末供給装置に供給する未溶融樹脂粉末搬送装置と、F.ベルトコンベヤの下側搬送面で後方に搬送された樹脂シートを巻き取る樹脂シート巻取装置を有する点にある。
尚、ベルトコンベヤがa.前部に位置し、加熱されて、樹脂粉末を加熱溶融させる樹脂加熱ローラーと、b.後部に位置し、冷却されて、樹脂シートを冷却固化させる樹脂冷却ローラーと、c.上記両ローラーに捲回された離型性のある金属製エンドレスベルトを有することもある。ここにおいて、離型性のある金属製エンドレスベルトには、金属表面に離型剤を塗布したり、フッ素樹脂をコーティングして離型性を付与したものが含まれる。 又、堆積厚さ均一化装置が、樹脂加熱ローラー及び/又は樹脂冷却ローラーの軸心に備えられた支持軸を振動させることで、エンドレスベルトを振動させる振動装置とされることもある。
更に、エンドレスベルトの上側搬送面における、樹脂粉末供給装置からの樹脂粉末の供給箇所よりも搬送方向後方側箇所に離型剤を塗布する離型剤塗布装置が備えられることもある。
又、未溶融樹脂粉末回収装置により回収された樹脂粉末の内、所定粒径を越える樹脂粉末を除去するための篩装置が備えられることもある。
更に、樹脂シート巻取装置が、樹脂シートを巻き取る樹脂シート巻取ローラーを有することもある。
又、本発明の熱可塑性樹脂シートの特徴とするところは、上記連続スラッシュ成形法による熱可塑性樹脂シートの製造方法で製造された点にある。
尚、熱可塑性樹脂がポリウレタン樹脂であることもある。
又、本発明の建築用内装材の特徴とするところは、上記熱可塑性樹脂シートからなる点にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、下記の効果を奏する。
(1) シームレスの樹脂シートを連続して形成でき、生産性に優れている。
(2) 有機溶剤を使用していないので、作業環境面の問題もない。
(3) ベルトコンベヤ上の樹脂粉末の堆積層の堆積厚さを略均一としているので、堆積層における、溶融される樹脂粉末の厚さも略均一となり、形成される樹脂シートの厚さも略均一となって、樹脂シートの外観形状を優れたものにすることができる。
(4) 樹脂シートの厚さを略均一にできるので、
A.樹脂シートの機械的物性を優れたものにすることができると共に、
B.樹脂シート表面への模様の転写等の意匠性付与特性にも優れる。
(5) 樹脂シート上に残留した未溶融の樹脂粉末を回収して、再利用しているので、樹脂シートの生産効率を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態の一例を図面に基づき説明する。本発明の連続スラッシュ成形法によるシームレスの熱可塑性樹脂シートの製造装置は、熱可塑性樹脂粉末を加熱溶融して、シームレスの熱可塑性樹脂シートを連続的に製造するもので、ベルトコンベヤ1と、樹脂粉末供給装置3と、堆積厚さ均一化装置4と、未溶融樹脂粉末回収装置5と、未溶融樹脂粉末搬送装置6と、樹脂シート巻取装置8等を有し、必要により、離型剤塗布装置2と、篩装置7を有していてもよい。
【0011】
ベルトコンベヤ1は、樹脂粉末の堆積層を、上側搬送面で前方に搬送しながら、加熱された前部で加熱し、堆積層における、上側搬送面近傍にある樹脂粉末を溶融させて、一体化させることで、樹脂シートとし、この樹脂シートを、下側搬送面で後方に搬送しながら、冷却された後部で冷却固化させるもので、前後方向に(略)水平に配設されている。ベルトコンベヤ1は、樹脂加熱ローラー10と、樹脂冷却ローラー11と、両ローラー10,11に捲回された金属製エンドレス(無限循環)ベルト12と、樹脂加熱ローラー10及び/又は樹脂冷却ローラー11を回転駆動する駆動モーター(図示省略)を有する。樹脂加熱ローラー10はベルトコンベヤ1の前部に位置して、樹脂粉末を加熱溶融させるもので、樹脂加熱ローラー10に備えられたヒーター13等により加熱される。樹脂加熱ローラー10の加熱温度は、形成する樹脂シートの厚さの均一性及び生産性の観点から、好ましくは200〜300℃、更に好ましくは230〜270℃である。樹脂冷却ローラー11はベルトコンベヤ1の後部に位置して、形成された樹脂シートを冷却固化するもので、樹脂冷却ローラー11に備えられた冷却装置14により冷却される。樹脂冷却ローラー11の温度は、エネルギー効率及び生産性の観点から、好ましくは10〜100℃、更に好ましくは50〜70℃である。両ローラー10,11の軸心部には、両ローラー10,11を支持するための左右方向の支持軸10A,11Aが一体又は別体で備えられ、これら支持軸10A,11Aの一方又は両方が回転駆動されることにより、ベルトコンベヤ1は循環駆動される。エンドレスベルト12の搬送(循環)速度は、生産性及び樹脂粉末の堆積厚さの均一性の観点から、好ましくは1〜10m/分、更に好ましくは4〜8m/分である。又、エンドレスベルト12の幅は、樹脂シートの後加工の効率及び樹脂粉末の堆積層の堆積厚さの均一性の観点から、好ましくは10〜200cm、更に好ましくは50〜120cmである。
【0012】
離型剤塗布装置2は、ベルトコンベヤ1の上側搬送面に樹脂粉末供給装置3から樹脂粉末を供給、堆積させる直前に、ベルトコンベヤ1の上側搬送面に予め離型剤を塗布して、形成された樹脂シートがエンドレスベルト12から容易に離型するようにするものであり、エンドレスベルト12の上側搬送面における、樹脂粉末供給装置3からの樹脂粉末の供給箇所よりも搬送方向後方側箇所に離型剤を塗布する。
【0013】
樹脂粉末供給装置3は、その吹き出し口13からベルトコンベヤ1の上側搬送面に樹脂粉末を供給して、堆積させるもので、エンドレスベルト12の上側搬送面における、離型剤塗布装置2による離型剤塗布箇所よりも搬送方向前方側箇所に樹脂粉末を供給する。樹脂粉末供給装置3による樹脂粉末の供給量は、エンドレスベルト12の搬送速度に依存するが、樹脂粉末の堆積厚さの均一性及び生産性の観点から、好ましくは200〜2,000g/分、更に好ましくは600〜1,200g/分である。又、樹脂粉末の堆積厚さは、樹脂粉末の堆積厚さの均一性及び生産性の観点から、目的とする樹脂シートの厚さの好ましくは2〜20倍、更に好ましくは2〜10倍である。
【0014】
堆積厚さ均一化装置4は、ベルトコンベヤ1上の樹脂粉末の堆積厚さを(略)均一とするもので、本例では、振動装置とされ、樹脂加熱ローラー10及び/又は樹脂冷却ローラー11の支持軸10A,11Aを振動させることで、エンドレスベルト12を振動させて、樹脂粉末の堆積厚さを(略)均一とする。
【0015】
未溶融樹脂粉末回収装置5は、ベルトコンベヤ1の前部の下方に位置して、樹脂シート及びベルトコンベヤ1から自然落下(脱落)及び/又は掻き落とした未溶融の樹脂粉末を受け止めて、回収するもので、倒立させた中空状の4角錐台形状とされている。尚、未溶融の樹脂粉末を樹脂シートから掻き落とす場合には、樹脂シート表面を傷つけないように掻き落とされる。
【0016】
未溶融樹脂粉末搬送装置6は、未溶融樹脂粉末回収装置5に回収された樹脂粉末を樹脂粉末供給装置3に供給するもので、未溶融樹脂粉末搬送装置6と樹脂粉末供給装置3を連絡する樹脂粉末用搬送ダクト16と、樹脂粉末を搬送ダクト16で搬送するためのファン装置17を有する。
【0017】
篩装置7は、未溶融樹脂粉末搬送装置6の搬送ダクト16における、未溶融樹脂粉末回収装置5の近傍又は未溶融樹脂粉末回収装置5と搬送ダクト16間に配置されており、所定粒径(粒度)、即ち、原料の樹脂粉末の体積平均粒径を越える未溶融の樹脂粉末を除去して、ベルトコンベヤ1上の樹脂粉末の堆積厚さが容易に均一になるようにしている。篩装置7は、篩19と、篩19を水平方向に往復運動させる駆動装置20を有する。篩19の篩目開きは、篩速度及び樹脂粉末の粒径の均一性の観点から、好ましくは100〜400μm、更に好ましくは130〜200μmである。
【0018】
樹脂シート巻取装置8は、ベルトコンベヤ1の後方斜め下方に配置されて、ベルトコンベヤ1により形成された樹脂シートを巻き取るもので、樹脂シート巻取ローラー22と、該ローラー22を回転駆動する駆動モーター(図示省略)を有する。
【0019】
次に、本発明で使用する熱可塑性樹脂について説明すると、本発明における熱可塑性樹脂は特に限定されず、該樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ボリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂及びポリアミド樹脂等が挙げられる。これらの内、工業上及び地球環境への負荷低減の観点から、好ましいのはポリウレタン樹脂、ホリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂である。
【0020】
本発明における樹脂粉末の形状は、樹脂シートの厚さの均一性及び成形性に影響を及ぼす粉体流動性の観点から、好ましいのは真球状あるいはそれに類する形状である。樹脂粉末の体積平均粒径は、粉体流動性と溶融速度の観点から、好ましくは100〜400μm、更に好ましくは130〜200μmである。樹脂粉末の熱軟化点(測定は、例えば、TMA熱分析装置(SII(株)製)を用いて、昇温速度5℃/分で行う。)は、樹脂シートの耐熱性及び成形性の観点から好ましくは120〜200℃、更に好ましくは130〜160℃である。
【0021】
本発明における熱可塑性樹脂粉末の製造方法は特に限定されることはなく、冷凍粉砕法、氷結粉砕法、有機溶剤分散法(特開平04−255755号公報等に記載の方法)、水中分散法(特開平07−133423号公報、特開平08−120041号公報等に記載の方法)、重合法等、種々の方法が挙げられる。これらの内、エンドレスベルト12上での粉体流動性の観点から、球状で且つ粒径の均一性に優れる樹脂粉末粒子が得られる重合法が好ましい。
【0022】
重合法によるポリウレタン樹脂粉末の製造方法は特に限定されることはないが、特開平2001−192549号公報等に記載の、過剰の脂肪族系ジイソシアネー卜と高分子モノオール、数平均分子量(Mn)が500〜10,000である高分子ジオール及び必要により低分子ジオールとから誘導されるイソシアネート基末端ウレタンブレポリマーと、脂肪族系ジアミンとを反応させて得られる熱可塑性ウレタンエラストマーに可塑剤及び添加剤を混合して作成された樹脂粉末が挙げられる。
【0023】
本発明において、形成する樹脂シートの厚さは、樹脂シートの機械的物性及び樹脂粉末の溶融の均一化の観点から、好ましくは0.1〜2mm、更に好ましくは0.3〜1.5mm、特に好ましくは0.5〜1.2mmである。
【0024】
次に、熱可塑性樹脂粉末から熱可塑性樹脂シートを製造する方法例について図1に基づき説明すると、製造時には、樹脂冷却ローラー11及び/又は樹脂加熱ローラー10を回転駆動して、エンドレスベルト12を駆動すると共に、樹脂加熱ローラー10を加熱し、又、樹脂冷却ローラー11を冷却して、樹脂冷却ローラー11及び/又は樹脂加熱ローラー10を堆積厚さ均一化装置4により振動させておく。又、離型剤塗布装置2、樹脂粉末供給装置3、未溶融樹脂粉末回収装置5、未溶融樹脂粉末搬送装置6、篩装置7及び樹脂シート巻取装置8の各装置も駆動しておく。
【0025】
この状態で、ベルトコンベヤ1の上側搬送面に離型剤塗布装置2により離型剤Rを塗布し、その直後に、樹脂粉末供給装置3から樹脂粉末Pをエンドレスベルト12の上側搬送面に落下供給して、堆積させ、樹脂粉末Pの堆積層を形成する。この際、樹脂冷却ローラー11及び/又は樹脂加熱ローラー10が堆積厚さ均一化装置4により振動して、エンドレスベルト12が振動しているので、上記堆積層の堆積厚さは略均一となる。
【0026】
そして、樹脂粉末Pの上記堆積層は前方の樹脂加熱ローラー10上へと搬送されていくのであるが、樹脂加熱ローラー10がヒーター13により加熱されて、ベルトコンベヤ1の前部が加熱されているので、上記堆積層が加熱されて、堆積層における、エンドレスベルト12の上側搬送面の近傍位置にある(換言すれば、エンドレスベルト12の上側搬送面と接触している)樹脂粉末Pが溶融されて、一体化し、樹脂シートSが形成される。
【0027】
この際、上記のように、堆積厚さ均一化装置4により、樹脂粉末Pの堆積層の堆積厚さが略均一とされているので、堆積層における、溶融される樹脂粉末Pの厚さも略均一となり、形成される樹脂シートSの厚さも略均一となって、樹脂シートSの外観形状を優れたものにできる。又、樹脂シートSの厚さを略均一にできるので、樹脂シートSの機械的物性を優れたものにできると共に、樹脂シートS表面への模様の転写等の意匠性付与特性にも優れる。
【0028】
ところで、樹脂粉末Pの堆積層において、エンドレスベルト12の上側搬送面の近傍位置ではなく、遠い位置にある樹脂粉末は溶融されずに、樹脂シートS上に残留するが、この残留した未溶融の樹脂粉末MPは、樹脂シートSと共に、エンドレスベルト12の上側搬送面から樹脂加熱ローラー10の周囲を介してエンドレスベルト12の下側搬送面へと搬送される。この搬送過程で、樹脂シートS上の未溶融の樹脂粉末MPは落下して、未溶融樹脂粉末回収装置5により回収される。尚、未溶融の樹脂粉末MPが上記搬送過程で落下し難い場合には、樹脂シートSを傷付けないようにして、樹脂シートSから未溶融の樹脂粉末MPを掻き落とす場合もある。
【0029】
上記のようにして、回収された未溶融の樹脂粉末MPは篩装置7を通過することで、所定粒径即ち、原料の樹脂粉末Pの体積平均粒径を越える樹脂粉末MPが除去され、所定粒径以下の樹脂粉末MPのみが搬送されて、樹脂粉末供給装置3に供給され、再度利用される。このように、未溶融の樹脂粉末MPを再利用しているので、樹脂シートSの生産効率を向上できる。
【0030】
ところで、回収された樹脂粉末MPの中には、ベルトコンベヤ1の前部で加熱されて、完全には溶融しないが、若干溶融することで、固まりとなるものもあるが、この固まった樹脂粉末MPをそのまま再利用して、ベルトコンベヤ1のエンドレスベルト12の上側搬送面に堆積層として堆積させたのでは、樹脂粉末Pの堆積層の堆積厚さを略均一とできず、これにより、樹脂シートSの厚さを略均一とできないと共に、樹脂シートSを均質とできない惧れがある。
【0031】
しかしながら、上記のように、回収した未溶融の樹脂粉末MPの内、所定粒径、即ち、原料の樹脂粉末Pの体積平均粒径を越える樹脂粉末MPを篩装置7により除去しているので、未溶融の樹脂粉末MPを再利用しているにもかかわらず、エンドレスベルト12上の樹脂粉末Pの堆積層の堆積厚さを略均一にできて、樹脂シートSの厚さを略均一にできると共に、樹脂シートSを均質にできる。これにより、樹脂シートSの機械的物性及び樹脂シートS表面への模様の転写等の意匠性付与特性も良好に維持できる。
【0032】
又、未溶融の樹脂粉末MPが除去された樹脂シートSはエンドレスベルト12の下側搬送面へ搬送されて、後方へ搬送されていくのであるが、樹脂冷却ローラー11が冷却装置14により冷却されて、ベルトコンベヤ1の後部が冷却されているので、樹脂シートSはベルトコンベヤ1の後部で冷却固化される。この冷却固化された樹脂シートSは、樹脂シート巻取装置8の巻取ローラー22に巻き取られる。
【0033】
上記のように、シームレスの樹脂シートSを連続して形成でき、生産性に優れていると共に、有機溶剤を使用していないので、作業環境面の問題もない。
【実施例】
【0034】
以下に実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。実施例、比較例において使用する原料を以下に示す。
【0035】
樹脂粉末1:ポリウレタン樹脂粉末、体積平均粒径130μm、熱軟化点130℃
樹脂粉末2:ポリウレタン樹脂粉末、体積平均粒径150μm、熱軟化点150℃
樹脂粉末3:ポリウレタン樹脂粉末、体積平均粒径140μm、熱軟化点140℃
樹脂粉末4:ボリ塩化ビニル樹脂粉末、体積平均粒径140μm、熱軟化点140℃
尚、各樹脂粉末のかさ密度は表1に示す通りである。
【0036】
実施例1
離型剤が予め塗布されかつ6m/秒の速度で無限循環するエンドレスベルト12上に、図1で示される樹脂粉末供給装置3の吹き出し口13から、樹脂粉末を、エンドレスベルト12の幅とほぼ同一の幅で900g/分の供給速度で供給し、堆積させて、樹脂粉末の堆積層を形成すると共に、エンドレスベルト12を振動させ、上記堆積層を略均一な厚さにして、その堆積厚さを約2.8mmとした。上記堆積層を、250℃に加熱昇温させた樹脂加熱ローラー10で加熱して、堆積層における、エンドレスベルト12の上側搬送面の近傍位置にある(換言すれば、エンドレスベルト12の上側搬送面と接触している)樹脂粉末分のみを溶融させて、一体化させ、これにより、薄い均一厚さの熱可塑性樹脂シートを得た。エンドレスベルト12が樹脂加熱ローラー10に接触して、エンドレスベルト12の上側搬送面上の樹脂粉末が加熱溶融されるまでの時間は約30秒であった。形成された樹脂シート上に溶け残った未溶融の樹脂粉末は、エンドレスベルト12の上側搬送面から下側搬送面に搬送される過程で、自然落下(脱落)及び/又は掻き落として、除去した。除去した未溶融の樹脂粉求は未溶融樹脂粉末回収装置で回収し、原料の樹脂粉末の体積平均粒径以下となるように篩装置7に掛けた後、樹脂粉末供給装置3に供給した。エンドレスベルト12の下側搬送面上の樹脂シートは、樹脂冷却ローラー11で60℃まで冷却した後、樹脂シート巻取ローラー22で連続的にシートロール状に巻き取って、熱可塑性樹脂シート(S−l)を得た。熱可塑性樹脂シート(S−1)について、後述の方法に従って、性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0037】
実施例2〜4
実施例1において、樹脂粉末1を樹脂粉末2〜4に代えたこと以外は実施例1と同様にして、それぞれ熱可塑性樹脂シート(S−2)〜(S−4)を得た。熱可塑性樹脂シート(S−2)〜(S−4)について実施例1と同様に性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0038】
比較例l
直径65mmの一軸押出機(L/D=32)に樹脂粉末1を仕込み、シリンダー温度を210℃として、Tダイキャスト法によりダイ温度250℃でシート状に押出した後、冷却ロールにより冷却して、熱可塑性樹脂シート(比S−1)を得た。熱可塑性樹脂シート(比S−1)について実施例1と同様に性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
<性能評価方法>
(1)樹脂シートの厚さの均一性
ロール状の樹脂シートから1m×1mのサイズで評価用シートを切り出し、評価用シート外周の厚さをJIS1級ノギスを用いて10cm間隔で合計39点測定して、標準偏差と平均シート厚さを求め、下記の式に従ってシート厚さのばらつきを評価した。
シート厚さのばらつき(%)=標準偏差×100/平均シート厚さ
【0040】
(2)機械的物性
上記(1)における評価用シートから、「JIS K 6251」(引張特性)及び「JIS K 6252」(引裂強さ)に準拠して、試験片を切り出し、引張強度、引張伸び及び引裂き強度を評価した。
【0041】
(3)表面意匠性評価
樹脂シートの表面意匠性の評価を行う際には、1mm厚さの樹脂シート表面に、平面視「1cm角の正方形」を凹設して、凹型模様を形成し、下記のように、凹型模様の深さの限界値(mm)で評価した。
【0042】
まず、実施例1〜4の樹脂シート(S−1)〜(S−4)の表面意匠性を評価する際には、エンドレスベルト12上面に、該面から凸設された平面視「1cm角の正方形」の突起を搬送方向に5cm間隔で20個並設すると共に、これら突起の高さを、1〜20mmの範囲で、1mm刻みで順次高くして、エンドレスベルト12に、高さの異なる凸型模様を形成し、この凸型模様を樹脂シートに転写した。樹脂シートに形成される凹型模様の深さの限界値は、模様を転写した部分の樹脂シートが初めて破れた深さ、即ち、破れた凹型模様の内の最も浅い深さとした。尚、樹脂粉末の堆積厚さを、上記凸型模様の高さの最大値(20mm)の2倍とした。
【0043】
又、比較例の樹脂シート(比S−1)の表面意匠性評価を行うために、比較例1における冷却ロールの前工程に、上記凸型模様を実施例と同様に高さを変えて設けた転写ロールを設置して、樹脂シートに押し当て(押圧:10MPa)、模様を刻印転写した。樹脂シートに形成される凹型模様の深さの限界値は、模様を刻印転写した部分の樹脂シートが初めて破れた深さとした。
【0044】
【表1】

【0045】
表1を見れば、本発明の樹脂シートは、比較例よりも、厚さの均一性、機械的物性及び表面意匠付与特性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明で得られる熱可塑性樹脂シートは、建築用内装材(壁紙、天井シート等)、自動車用内装材、及び表皮付きソファー等に幅広く好適に適用することができ、極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0048】
1 ベルトコンベヤ
2 離型剤塗布装置
3 樹脂粉末供給装置
4 堆積厚さ均一化装置
5 未溶融樹脂粉末回収装置
6 未溶融樹脂粉末搬送装置
7 篩装置
8 樹脂シート巻取装置
10 樹脂加熱ローラー
11 樹脂冷却ローラー
12 エンドレスベルト
22 樹脂シート巻取ローラー
P 樹脂粉末
R 離型剤
S 樹脂シート
MP 未溶融の樹脂粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動された、離型性のある金属製エンドレスベルトを有するベルトコンベヤの上側搬送面上に熱可塑性樹脂粉末を供給し、堆積させて、堆積層を形成すると共に、その堆積厚さを略均一とし、
上記堆積層を、ベルトコンベヤにより前方に搬送しながら、ベルトコンベヤの加熱された前部で加熱し、堆積層における、ベルトコンベヤの上側搬送面近傍にある樹脂粉末を溶融させて、一体化させることで、熱可塑性樹脂シートとし、
この樹脂シートをベルトコンベヤの上側搬送面から下側搬送面に搬送し、
この搬送過程で、樹脂シート上に残留した未溶融の樹脂粉末を回収して、再度、ベルトコンベヤの上側搬送面に供給し、
ベルトコンベヤの下側搬送面に搬送した樹脂シートを、ベルトコンベヤにより後方に搬送しながら、ベルトコンベヤの冷却された後部で冷却固化させ、
この固化させた樹脂シートを樹脂シート巻取装置により巻き取る連続スラッシュ成形法による熱可塑性樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
A.熱可塑性樹脂粉末の堆積層を、上側搬送面で前方に搬送しながら、加熱された前部 で加熱し、堆積層における、上側搬送面近傍にある樹脂粉末を溶融させて、一体化さ せることで、熱可塑性樹脂シートとし、この樹脂シートを、下側搬送面で後方に搬送 しながら、冷却された後部で冷却固化させる、離型性のある金属製エンドレスベルト を有するベルトコンベヤと、
B.ベルトコンベヤの上側搬送面に樹脂粉末を供給し、堆積させて、堆積層を形成する 樹脂粉末供給装置と、
C.ベルトコンベヤの上側搬送面上の樹脂粉末の堆積層の堆積厚さを略均一とする堆積 厚さ均一化装置と、
D.ベルトコンベヤ前部の下方に位置し、樹脂シートから落下及び/又は掻き落とした 未溶融の樹脂粉末を回収する未溶融樹脂粉末回収装置と、
E.未溶融樹脂粉末回収装置に回収された樹脂粉末を樹脂粉末供給装置に供給する未溶 融樹脂粉末搬送装置と、
F.ベルトコンベヤの下側搬送面で後方に搬送された樹脂シートを巻き取る樹脂シート 巻取装置
を有する連続スラッシュ成形法による熱可塑性樹脂シートの製造装置。
【請求項3】
ベルトコンベヤが
a.前部に位置し、加熱されて、樹脂粉末を加熱溶融させる樹脂加熱ローラーと、
b.後部に位置し、冷却されて、樹脂シートを冷却固化させる樹脂冷却ローラーと、
c.上記両ローラーに捲回された離型性のある金属製エンドレスベルト
を有する請求項2記載の製造装置。
【請求項4】
堆積厚さ均一化装置が、
樹脂加熱ローラー及び/又は樹脂冷却ローラーの軸心に備えられた支持軸を振動さ せることで、エンドレスベルトを振動させる振動装置
とされた請求項2又は3記載の製造装置。
【請求項5】
エンドレスベルトの上側搬送面における、樹脂粉末供給装置からの樹脂粉末の供給箇所よりも搬送方向後方側箇所に離型剤を塗布する離型剤塗布装置が備えられた請求項2〜4の何れかに記載の製造装置。
【請求項6】
未溶融樹脂粉末回収装置により回収された樹脂粉末の内、所定粒径を越える樹脂粉末を除去するための篩装置が備えられた請求項2〜5の何れかに記載の製造装置。
【請求項7】
樹脂シート巻取装置が、樹脂シートを巻き取る樹脂シート巻取ローラーを有する請求項2〜6の何れかに記載の製造装置。
【請求項8】
請求項1記載の製造方法で製造された熱可塑性樹脂シート。
【請求項9】
熱可塑性樹脂がポリウレタン樹脂である請求項8記載の熱可塑性樹脂シート。
【請求項10】
請求項8又は9記載の熱可塑性樹脂シートからなる建築用内装材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−262430(P2009−262430A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−115541(P2008−115541)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】