説明

熱可塑性樹脂含有回収材からの添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造方法

【課題】熱可塑性樹脂含有回収材粉砕物を主原料として所望の物性値を示す樹脂部品の成形に有利に使用できる熱可塑性樹脂部品成形材料の製法を提供する。
【解決手段】成形対象の樹脂部品に必要な物性の項目の決定;各項目の目標物性値の決定;成形対象の樹脂部品中の熱可塑性樹脂成分と添加材成分の含有量の変動と物性値との変動との相関関係を示すデータの作成、あるいは予め作成した当該データの入手;回収材粉砕物の入手;該粉砕物の成分組成の分析;該粉砕物からの成形体試料の作成;該成形体試料の物性値の測定;物性測定値と目標物性値との比較による物性値不足項目の摘出;物性不足値、粉砕物の成分分析値、そして相関関係データとからの、目標物性値達成のために必要な熱可塑性樹脂成分及び/又は添加材成分の推定添加量の算出。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂含有回収材から添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料を製造する方法に関する。本発明は特に、自動車、事務用機器、家庭用あるいは業務用の電気製品などに搭載されている各種の熱可塑性樹脂含有部品からの回収材を有効に利用して添加材含有熱可塑性樹脂部品の製造用の成形材料を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や各種事務用機器そして電気製品の多数の部品は、金属材料のみではなく、熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂材料の成形によっても製造されている。特に自動車では、自動車の軽量化による省燃費を目的として樹脂材料製の部品の採用を進める傾向があり、この傾向は今後もさらに引き続くと考えられている。
【0003】
自動車や各種事務用機器、電気製品は当然、一定の期間使用された後には廃棄される。廃棄された自動車等には、製造時の部品あるいは交換部品の殆どがそのまま搭載されているところから、自動車、事務用機器及び電気製品は、解体後にそれらの金属部品や樹脂材料部品は分離され、回収される。回収された金属部品については、溶融処理などを経て金属材料として、新たな工業部品の製造材料として利用することが以前から一般的となっている。
【0004】
回収された樹脂材料部品についても、その部品から回収された回収材を利用して新たな工業部品の製造材料として利用することの試みは行なわれているが、有機質材料である樹脂材料は、長期間の使用中に発生する各種物性の劣化が金属材料に比べて激しいため、その再利用は容易ではない。従って、これまでは、下記の特許文献や非特許文献に記載されているように、回収材から得られた再生樹脂材料を少量、未使用樹脂材料(バージン材)に配合する方法による再利用が一般的であった。あるいは、サーマルリサイクルとして、回収材を燃料として利用することも一般的であった。
【0005】
非特許文献1の115頁には、商用自動車の樹脂製品の再利用についての説明が記載されている。この説明によると、回収材の再利用に際しては、その回収材の量に対して4〜5倍の量のバージン材の混合使用が一般的であり、従って、回収材の再利用(リサイクル)は決して高くないとされている。
【0006】
特許文献1には、事務用機器や自動車の回収材を利用して再生部品を製造するに際して、長期間使用による回収材の物性劣化を考慮して、バージン材を70〜80%を混合する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−159900号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】自動車技術、61巻(2007)、10号、114〜118頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
これまでに述べたように、従来知られている回収材の再利用では、回収した材料の元の部品と同じ部品の製造のための再利用の場合であっても、その再利用率(新規に成形製造される部品の成形材料中の回収材から再生した再生材料の使用率)は、高くても80%程度であった。
【0010】
しかしながら、自動車等の部品の製造に用いられる樹脂材料の比率は更に高くなる傾向にあるところから、回収材の再利用率を更に高めることは非常に重要である。
【0011】
ただし、前述のように、自動車、事務機器、電気製品に部品として組込まれた樹脂材料は長期の使用により物性が徐々に劣化するため、回収材からの再生材料から製造される各種部品の安全性や信頼性を考慮すると、その再生材料の使用割合を単に高めるだけでは上記の問題は解決しない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者は、熱可塑性樹脂製品の回収材からの再生材料を当該熱可塑性樹脂製品と同等の製品の製造に利用する場合に、その製品の機能上において要求される各種の物性の各々について、当該製品の製造のための熱可塑性樹脂組成物(通常は、熱可塑性樹脂成分に、相対的に少ない量のゴム成分(エラストマー)や少量の充填材などの添加材成分が混合されている)に含まれる各種成分の各々についての熱可塑性樹脂組成物中における含有量の変動とそれぞれの物性の変動との相関関係を予め調べておき、この相関関係を利用して目的の製品の製造への再生材料の再利用に必要な各種成分の添加量の予測値を算出し、その予測値の添加量の各種成分を再生材料に添加して、再生材料を主成分とする熱可塑性樹脂組成物を得て、この組成物から成形体試料を製造して、その各種物性を測定確認する方法を利用することにより、所定の要求物性値を示す成形体を得るために再生材料に添加するのが必要な成分の種類と添加量を決定することができ、この決定された添加量の成分を再生材料に添加することにより、所定の物性を有する熱可塑性樹脂製品の製造に利用することができる添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料を製造することができることを見いだし、本発明を完成させた。
【0013】
従って、本発明は、熱可塑性樹脂含有回収材の粉砕物を主原料とする添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料を製造するための下記の工程を含む方法にある。
(1)製造対象の添加材含有熱可塑性成形材料を用いて成形する樹脂部品に必要な二以上の物性の項目を決定する工程;
(2)上記各項目における目標物性値を決定する工程;
(3)成形対象の樹脂部品中の熱可塑性樹脂成分と所定の添加材成分のそれぞれの成分の含有量と、それらの含有量の変動に応じて変動する物性値との相関関係を示すデータを各項目について作成するか、あるいは予め作成した成形対象の樹脂部品中の熱可塑性樹脂成分と所定の添加材成分のそれぞれの成分の含有量と、それらの含有量の変動に応じて変動する物性値との相関関係を示す各項目のデータを入手する工程;
(4)成形対象の樹脂部品に含有させる熱可塑性樹脂を主樹脂成分として含有する回収材の粉砕物を入手する工程;
(5)粉砕物の成分組成を分析する工程;
(6)粉砕物から成形体試料を作成する工程;
(7)成形体試料について、工程(1)で決定した項目についての物性値を測定する工程;
(8)工程(7)で測定された物性値と工程(2)で決定された目標物性値とを各項目毎に比較して、前者の物性値が目標物性値を満足していない項目を摘出する工程;そして、
(9)工程(8)で摘出された項目における測定物性値、工程(5)で得た粉砕物の成分分析値、そして工程(3)で得た相関関係を示すデータとから、前記各項目における目標物性値を示す成形体を得るために前記粉砕物に添加することが必要な熱可塑性樹脂成分及び/又は添加材成分の量を算出する工程。
【0014】
なお、本発明の製造方法の実施に際して必要な上記の各工程の順序は、必然的に前後関係が制約される工程間の順序を除き、任意である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の熱可塑性樹脂含有回収材の粉砕物を主原料とする添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造方法を利用することにより、熱可塑性樹脂含有製品の製造に用いられる再生材料の割合を顕著に高くすることができ、特に、回収材からの再生材料を、その回収材を取り出した熱可塑性樹脂含有製品と同種の熱可塑性樹脂含有製品の製造に利用する場合には、再生材料の再利用率(新規に成形製造される部品の成形材料中の回収材から再生した再生材料の使用率)を90〜95%(質量%)程度にまで高めることが可能になり、再生材料の高度の有効利用が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の熱可塑性樹脂含有回収材からの添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造方法の好ましい実施態様を示すフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造方法の好ましい態様を次に記載する。
1.さらに下記の工程を含む:
(10)前記粉砕物に工程(9)で算出した量の熱可塑性樹脂成分及び/又は添加材成分を添加して成形体試料を作成する工程;
(11)工程(10)で作成した成形体試料について前記各項目の物性値を測定し、その測定値と目標物性値とを比較する工程;そして、
(12)工程(11)で成形体試料が所定の項目の目標物性値を満足していることが確認された場合には、工程(9)で算出した添加量に基づいて、目的の添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造のために必要な添加成分の添加量を決定し、その決定に基づく量の添加成分を工程(4)で入手した回収材の粉砕物と同一成分の粉砕物に添加して添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料を製造する工程;あるいは
(13)工程(11)で成形体試料が所定の項目の目標物性値を満足していないことが確認された場合には、当該成形体試料について工程(8)〜(11)を繰り返すことにより、最終的に、目的の添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造のために必要な添加成分の添加量を決定し、その決定に基づく量の添加成分を工程(4)で入手した回収材の粉砕物と同一成分の粉砕物に添加して添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料を製造する工程。
【0018】
2.熱可塑性樹脂がポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィンあるいはABS樹脂である。
3.熱可塑性樹脂がポリプロピレンである。
4.利用される熱可塑性樹脂含有回収材が自動車の樹脂成形品からの回収材であって、製造される添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料が自動車の添加材含有熱可塑性樹脂成形部品の製造用である。
【0019】
次に、本発明の熱可塑性樹脂含有回収材からの添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造方法の各工程について、回収材として、乗用車のピラートリムから取り出した回収材(多量成分の熱可塑性樹脂成分として、ポリプロピレン(ホモポリマー)を含み、添加材成分として少量のゴム成分と少量の充填材としてのタルクを含む)を再生材料として、同じく乗用車のピラートリムを製造するための熱可塑性樹脂成形材料を製造するための工程を例にして、図1として添付した製造フローチャートを参照しながら説明する。
【0020】
[工程(1):成形対象の樹脂部品に必要な物性の項目の決定]
この工程は、製造対象の添加材含有熱可塑性成形材料を用いて成形する樹脂部品に必要な二以上の物性の項目を決定する工程である。
乗用車のピラートリムについては、たとえば、MFR(メルトフローインデックス、単位:g/10分)、比重、引張降伏強さ(単位:MPa)、曲げ弾性率(単位:MPa)、シャルピ衝撃強さ(23℃、単位:KJ/m2)、熱変形温度(℃)、成形収縮率(表示:1/1000)などの、成形工程において必要な物性および成形品に必要とされる物性を挙げることができる。本発明の実施に際しては、これらの全ての項目の物性を考慮してもよく、あるいは特に重要な二以上の項目の物性を選んで、考慮項目とすることもできる。
【0021】
[工程(2):各項目の目標物性値の決定]
この工程は、上記各項目における目標物性値を決定する工程である。
すなわち、工程(1)で選択した項目については、成形対象の添加材含有熱可塑性樹脂製品についての規格により目標物性値(要求物性値として規定される場合も有る)が定められているか、あるいは当該技術者にとって、経験的に目標物性値の決定を行なうことができる。従って、所定の各項目の目標物性値を、それぞれについて定めた基準物性値に基づき、基準物性値以下、基準物性値以上、あるいは基準物性値を含む範囲などとして決定することができる。
【0022】
[工程(3):成形対象の樹脂部品中の熱可塑性樹脂成分と添加材成分の含有量の変動と物性値の変動との相関関係を示すデータの作成/入手]
この工程は、(イ)成形対象の樹脂部品中の熱可塑性樹脂成分と所定の添加材成分のそれぞれの成分の含有量と、それらの含有量の変動に応じて変動する物性値との相関関係を示すデータを各項目について作成するか、あるいは(ロ)予め作成した成形対象の樹脂部品中の熱可塑性樹脂成分と所定の添加材成分のそれぞれの成分の含有量と、それらの含有量の変動に応じて変動する物性値との相関関係を示す各項目のデータを入手する工程である。
本願発明者の研究によると、添加材含有熱可塑性樹脂組成物において、ポリプロピレン(ホモ)、ゴム成分、そしてタルクの含有量を変動させた場合、その組成物およびその組成物から成形された成形体の上記各項目の物性について下記の相関関係があることが確認された。
【0023】
(イ)ポリプロピレン(PP)の含有量と各項目の物性値との関係

PPの含有量 少 → 多
MFR 上昇
引張降伏強さ 上昇
熱変形温度 上昇
【0024】
(ロ)ゴム成分の含有量と各項目の物性値との関係

ゴム成分の含有量 少 → 多
MFR 下降
引張降伏強さ 下降
曲げ弾性率 下降
シャルピ衝撃強さ 上昇
熱変形温度 下降
成形収縮率(MD) 下降
【0025】
(ハ)タルクの含有量と各項目の物性値との関係

タルクの含有量 少 → 多
比 重 上昇
曲げ弾性率 上昇
熱変形温度 上昇
成形収縮率(MD) 下降
【0026】
上記の各構成成分の含有量の変動と各項目の物性値の変動との相関関係は、グラフとして表わすことができ、従って関数(y=f(x))の形の近似式で表示することができる。従って、成形対象の添加材含有熱可塑性樹脂製品(成形体)について、上記の相関関係を示すグラフあるいは近似式を作成することができる。なお、このような相関関係を示すグラフあるいは近似式は予め作成しておくこともできる。
【0027】
[工程(4):回収材粉砕物の入手]
この工程は、成形対象の樹脂部品に含有させる熱可塑性樹脂を主樹脂成分として含有する回収材の粉砕物を入手する工程である。
使用済の自動車用品は一般に特定の業者により解体され、その部品は特定のルートを介して回収されることが多いため、同一種類の部品をまとめて回収することが容易である。従って、そのようにして回収した多数の同一種類の部品について公知の任意の手段で粉砕することにより、成形対象の樹脂部品に含有させる熱可塑性樹脂を主樹脂成分として含有する回収材の粉砕物をまとめて入手することができる。
【0028】
[工程(5):粉砕物の成分組成の分析]
この工程は、上記粉砕物の成分組成を分析する工程である。
すなわち、工程(4)で入手した回収材の粉砕物の構成成分(通常は、熱可塑性樹脂成分、ゴム成分、そして充填材)に区分し、それぞれの種類と含有量を分析する。なお、熱可塑性樹脂を主成分とする自動車部品には、通常、その熱可塑性樹脂成分の表示(例、PP、PE)が刻印されているため、その刻印も分析の手掛かりとなる。
【0029】
[工程(6):粉砕物からの成形体試料の作成]
この工程は、粉砕物から成形体試料を作成する工程である。
すなわち、工程(4)で入手した回収材の粉砕物から成形体試料を作成する工程である。通常は、実際の加熱成形工程における成形条件を模した成形条件を利用して、シート状の成形体試料を作成する。
【0030】
[工程(7):成形体試料の物性値の測定]
この工程は、成形体試料について、工程(1)で決定した項目についての物性値を測定する工程である。
すなわち、工程(6)で作成した成形体試料について、工程(1)で決定した各項目についての物性値を測定する。測定条件は通常、工程(3)で採用された測定条件に準じて選ばれる。
【0031】
[工程(8):物性測定値と目標物性値との比較による物性値不足項目の摘出]
この工程は、工程(7)で測定された物性値と工程(2)で決定された目標物性値とを各項目毎に比較して、前者の物性値が目標物性値を満足していない項目を摘出する工程である。
すなわち、以後の工程において、目標物性値が所定の項目の全てについて満足する物性値となるように、添加する熱可塑性樹脂及び/又は添加材の種類と添加量を決定する作業を行なうため、まず、回収材の粉砕物(再生材料)から得た成形体試料の物性値について、不充分な物性値を摘出する。再生材料の成形材料から得た成形体試料が満足すべき物性値を示す項目については、とりあえず、検討項目(改良項目)から除外する。
【0032】
[工程(9):物性不足値、粉砕物の成分分析値、そして相関関係データとからの、目標物性値達成のために必要な熱可塑性樹脂成分及び/又は添加材成分の推定添加量の算出]
この工程は、工程(8)で摘出された項目における測定物性値、工程(5)で得た粉砕物の成分分析値、そして工程(3)で得た相関関係を示すデータとから、前記各項目における目標物性値を示す成形体を得るために前記粉砕物に添加することが必要な熱可塑性樹脂成分及び/又は添加材成分の量を算出する工程である。
この工程において、粉砕物に添加することが必要な熱可塑性樹脂成分及び/又は添加材成分の量を算出するためには、工程(3)において、たとえば、関数あるいはグラフとして得られた相関関係に、工程(8)で摘出された項目における測定物性値を代入すれば、構成成分の必要な含有量が判明し、この必要含有量と、工程(5)で得た粉砕物の成分分析値から不足する含有量、すなわち、必要な構成成分とその添加量の推定値が算出できる。
【0033】
さらに、本発明の熱可塑性樹脂成形材料の製造方法の実施に際して追加的に実施することが好ましい工程(10)〜工程(13)について説明する。
【0034】
[工程(10):推定添加量の成分が添加された粉砕物からの成形体試料の作成]
この工程は、前記粉砕物に工程(9)で算出した量の熱可塑性樹脂成分及び/又は添加材成分を添加して成形体試料を作成する工程である。
この成形体試料の作成は、上記工程(6)で採用した成形条件と同一あるいはそれに準じた成形条件で行なわれる。
【0035】
[工程(11):成形体試料の物性値の測定と、その測定値と目標物性値との比較]
この工程は、工程(10)で作成した成形体試料について前記各項目の物性値を測定し、その測定値と目標物性値とを比較する工程である。
回収材粉砕物に対して工程(9)で算出した添加量にて添加成分を添加して成形することにより各項目について所望の物性値を示す成形体試料が得られるはずであるが、先の工程(9)の算出は、工程(3)で作成あるいは入手した、成形対象の樹脂部品中の熱可塑性樹脂成分と添加材成分の含有量の変動と各項目毎の物性値の変動との相関関係を示すデータに基づくものであり、その相関関係を示すデータは、おおよその加法性は示すものの、複数の成分の含有量と得られる成形体の物性との関係においては厳密な意味での加法性は成立しないため、必ずしも、予測通りの物性を示すとは言えない。従って、得られた成形体試料について、所定の項目についての物性値の測定による、添加した成分の適否と添加量の適否について検証が必要となる。
【0036】
[工程(12):成形体試料が目標物性値を満足する場合における推定添加量に基づく各成分の添加量の決定と、それに基づく量の成分が添加された前記回収材粉砕物と同一成分の粉砕物からの成形材料の製造]
この工程は、工程(11)で成形体試料が所定の項目の目標物性値を満足していることが確認された場合には、工程(9)で算出した添加量に基づいて、目的の添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造のために必要な添加成分の添加量を決定し、その決定に基づく量の添加成分を工程(4)で入手した回収材の粉砕物と同一成分の粉砕物に添加して添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料を製造する工程である。
仮に、回収材からの粉砕物が示す物性値が殆どの項目について所定の物性値を満足していれば、これまでの工程により決定した添加量による成分の添加(通常は少量)により、不充分であった項目についても容易に、所定の物性値を満たす成形体試料が得られる。従って、成形体試料が目標物性値を満足している場合には、前記推定添加量を、あるいはその推定添加量に経験的な補正を加えた上で、各成分の添加量を決定することができる。そして、それに基づく量の成分が添加された前記回収材粉砕物と同一成分の粉砕物から目的の成形材料を製造することができる。
【0037】
[工程(13):成形体試料が目標物性値を満足しない場合における不足物性値と相関関係データからの推定添加量の算出と成形体試料の製造、そして該成形体試料の物性値の測定と測定値と目標物性値との比較の工程の繰り返しによる成分添加量の決定と、その決定に基づく量の成分が添加された前記回収材粉砕物と同一成分の粉砕物からの成形材料の製造]
この工程は、工程(11)で成形体試料が所定の項目の目標物性値を満足していないことが確認された場合には、当該成形体試料について工程(8)〜(11)を繰り返すことにより、最終的に、目的の添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造のために必要な添加成分の添加量を決定し、その決定に基づく量の添加成分を工程(4)で入手した回収材の粉砕物と同一成分の粉砕物に添加して添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料を製造する工程である。
前述のように、回収材粉砕物に対して工程(9)で算出した添加量にて添加成分を添加して成形することにより各項目について所望の物性値を示す成形体試料が得られるはずであるが、実際には、得られた成形体試料について、所定の項目の全てについての目標物性値を示す成形体試料が得られるとは限らない。このため、特に回収材の粉砕物の成形体試料が一もしくはそれ以上の項目について目標物性値から大きく外れている場合には、上記の添加成分(追加成分)の推定添加量の算出と、その算出量の追加成分を添加しての成形体試料の作成を試行錯誤的に繰り返すことにより、各項目について目的物性値を示す成形体を得るために必要な添加成分とその添加量を決定することが必要な場合もある。そして、その場合には、上記の試行錯誤的な工程を繰り返すことにより、最終的に、それに基づく量の成分が添加された前記回収材粉砕物と同一成分の粉砕物から目的の成形材料を製造することができる。
【実施例】
【0038】
(1)廃棄乗用車のピラートリム(材料表示:PP、タルク表示なし)からの回収材を粉砕して、回収材粉砕物(再生材料)を作成し、成分組成の分析を行なった(分析結果とその物性の判定結果は、後に示す)。
(2)乗用車のピラートリムの製造のために必要な物性の項目と目標物性値を下記のように、決定した。
【0039】
────────────────────────────────────
項目 MFR 比重 引張降伏強さ 曲げ弾性率 熱変形温度 成形収縮率
(g/10分) (MPa) (MPa) (℃) MD(1/1000)
────────────────────────────────────
目標 10 1 10 1800 109 8〜14
物性値 以上 以下 以上 以上 以上
────────────────────────────────────
注:物性の測定方法
MFR:JIS K7210(流れ性試験方法)準拠
比重:JIS K7112(密度試験方法)準拠
引張降伏強さ:JIS K7161(引張試験方法)準拠
曲げ弾性率:JIS K7171(曲げ試験方法)準拠
熱変形温度:JIS K7191−1、2(荷重たわみ温度試験方法)準拠
成形収縮率(MD):JIS K7152−4(成形収縮率試験方法)準拠
【0040】
(3)前記の工程(3)の方法によりピラートリム中のPP(ポリプロピレン)、ゴム成分そしてタルクの含有量と、それらの含有量の変動に応じて変動する物性値との相関関係を示すデータを上記の各項目について作成した上で、ピラートリム粉砕物(再生材料)に添加すべき成分と添加量の推定値を算出した。その結果、下記の推定材料と添加量の推定値が算出された。
(4)再生材料:92質量%、添加成分(ゴム成分:0質量%、タルク:5質量%、PP:0質量%、補助添加剤(酸化防止剤、分散剤、光安定剤等):3質量%)
(5)上記(4)の再生材料と添加成分の混合物をスクリュウ回転300rpm、押出量60kg/時の条件にて押出成形して成形体試料を作成した。
(6)得られた成形体試料について、前記の各項目の物性値を測定した。
(7)前記(1)で得た回収材粉砕物の成分組成の分析結果、上記(6)の成形体試料の物性値の測定値、そして目標物性値の到達についての判定結果を下記の表に示す。
【0041】
────────────────────────────────────
項目 MFR 比重 引張降伏強さ 曲げ弾性率 熱変形温度 成形収縮率
(g/10分) (MPa) (MPa) (℃) MD(1/1000)
────────────────────────────────────
再生材料 27.0 0.9 25.0 1620.0 104.0 12.1
判定結果 合格 合格 合格 不合格 不合格 合格
────────────────────────────────────
成形体 27.3 1.0 24.5 2107.3 109.4 10.2
判定結果 合格 合格 合格 合格 合格 合格
────────────────────────────────────
【0042】
上記の表に示す結果から、上記のピラートリムの回収材から得た粉砕物(再生材料)については、その成形体試料の物性値は、曲げ弾性率と熱変形温度については目標物性値に到達せずに不合格であったが、その再生材料に本発明の方法により決定した添加量の添加成分を加えることによって、想定した全ての項目において目標物性値を満たす成形体が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂含有回収材の粉砕物を主原料とする熱可塑性樹脂部品成形材料を製造するための下記の工程を含む方法:
(1)製造対象の添加材含有熱可塑性成形材料を用いて成形する樹脂部品に必要な二以上の物性の項目を決定する工程;
(2)上記各項目における目標物性値を決定する工程;
(3)成形対象の樹脂部品中の熱可塑性樹脂成分と所定の添加材成分のそれぞれの成分の含有量と、それらの含有量の変動に応じて変動する物性値との相関関係を示すデータを各項目について作成するか、あるいは予め作成した成形対象の樹脂部品中の熱可塑性樹脂成分と所定の添加材成分のそれぞれの成分の含有量と、それらの含有量の変動に応じて変動する物性値との相関関係を示す各項目のデータを入手する工程;
(4)成形対象の樹脂部品に含有させる熱可塑性樹脂を主樹脂成分として含有する回収材の粉砕物を入手する工程;
(5)粉砕物の成分組成を分析する工程;
(6)粉砕物から成形体試料を作成する工程;
(7)成形体試料について、工程(1)で決定した項目についての物性値を測定する工程;
(8)工程(7)で測定された物性値と工程(2)で決定された目標物性値とを各項目毎に比較して、前者の物性値が目標物性値を満足していない項目を摘出する工程;そして、
(9)工程(8)で摘出された項目における測定物性値、工程(5)で得た粉砕物の成分分析値、そして工程(3)で得た相関関係を示すデータとから、前記各項目における目標物性値を示す成形体を得るために前記粉砕物に添加することが必要な熱可塑性樹脂成分及び/又は添加材成分の量を算出する工程。
【請求項2】
さらに下記の工程を含む請求項1に記載の熱可塑性樹脂部品成形材料の製造方法:
(10)前記粉砕物に工程(9)で算出した量の熱可塑性樹脂成分及び/又は添加材成分を添加して成形体試料を作成する工程;
(11)工程(10)で作成した成形体試料について前記各項目の物性値を測定し、その測定値と目標物性値とを比較する工程;そして、
(12)工程(11)で成形体試料が所定の項目の目標物性値を満足していることが確認された場合には、工程(9)で算出した添加量に基づいて、目的の添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造のために必要な添加成分の添加量を決定し、その決定に基づく量の添加成分を工程(4)で入手した回収材の粉砕物と同一成分の粉砕物に添加して添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料を製造する工程;あるいは
(13)工程(11)で成形体試料が所定の項目の目標物性値を満足していないことが確認された場合には、当該成形体試料について工程(8)〜(11)を繰り返すことにより、最終的に、目的の添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料の製造のために必要な添加成分の添加量を決定し、その決定に基づく量の添加成分を工程(4)で入手した回収材の粉砕物と同一成分の粉砕物に添加して添加材含有熱可塑性樹脂部品成形材料を製造する工程。
【請求項3】
熱可塑性樹脂がポリオレフィンである請求項1もしくは2に記載の熱可塑性樹脂部品成形材料の製造方法。
【請求項4】
ポリオレフィンがポリプロピレンである請求項3に記載の熱可塑性樹脂部品成形材料の製造方法。
【請求項5】
利用される熱可塑性樹脂含有回収材が自動車の樹脂成形品からの回収材であって、製造される熱可塑性樹脂部品成形材料が自動車の添加材含有熱可塑性樹脂成形部品の製造用である請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の熱可塑性樹脂部品成形材料の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−6637(P2011−6637A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153856(P2009−153856)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】